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No.141 ダウンロード - 日本ビルヂング経営センター

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No.141 ダウンロード - 日本ビルヂング経営センター
ISHIZUE
141
No.
http://www.bmi.or.jp
10
2009 OCTOBER
財団法人 日本ビルヂング経営センター[BMI]│日本ビル経営管理士会[JBMS]
JAPAN BUILDING MANAGEMENT INSTITUTE/ JAPAN BUILDING MANAGERS SOCIETY
特集
環境配慮設計について
─三菱地所設計の環境への取り組み
株式会社三菱地所設計 設備設計部
機械設備設計室 副室長
佐藤茂
ビル経営管理士試験
平成 21年度「ビル経営管理士試験」は12 月13日(日)に実施
申込受付は10月31日まで
平成21年度「ビル経営管理士試験」
試験科目は①企画・立案業務、②賃
合格発表は平成22年1月下旬。登
の申込受付期間は10月1日㈭から31
貸営業業務、③管理・運営業務、④総
録要件を満たした試験合格者は登録す
日㈯。試験は12月13日㈰午前11時か
合記述の4科目で、試験時間は各科目
ることにより、ビル経営管理士の称号
ら午後5時まで、札幌、仙台、東京、
共60分間。平成19 ∼ 21年度のビル
が与えられる。
名古屋、大阪、福岡の全国6都市で実
経営管理講座修了者は、④総合記述が
施される。
免除される。
【過去5年間の試験実施結果及び合格基準】
■ 試 験
【時間割】
平成
16 年度
平成
17 年度
平成
18 年度
平成
19 年度
平成
20 年度
受験申込者
平均年齢
女性
受験者
名
歳
名
名
360
39.3
11
365
39.1
26
397
38.6
17
770
39.8
53
715
38.2
66
321
323
342
698
641
出席率
%
89.2
88.5
86.1
90.6
89.7
名
205
229
225
482
488
合格率
%
平均年齢 歳
女性
名
63.9
38.7
8
70.9
38.3
13
65.8
37.6
8
69.1
40.1
27
69.9
38.2
36
試験合格者
■ 合 否 基 準
3 科目合計
企画・立案
賃貸営業
管理・運営
(点以上)
点
点
点
点
180
48
58
52
180
51
50
56
180
46.5
61
54
197
58
68
67.5
180
46
64
64
試験日 平成 21 年 12 月 13 日(日曜日)
10:50 ~ 11:00
注意事項説明
11:00 ~ 12:00
1 時限:企画・立案業務 (60 分・90 点)
12:00 ~ 13:00
昼食 13:00 ~ 13:10
注意事項説明 13:10 ~ 14:10
2時限:賃貸営業業務 (60 分・90 点)
14:10 ~ 14:20
休憩 14:20 ~ 14:30
注意事項説明 14:30 ~ 15:30
3時限:管理・運営業務 (60 分・90 点)
15:30 ~ 15:40
休憩 15:40 ~ 15:50
注意事項説明 15:50 ~ 16:50
4時限:総合記述※(60 分・30 点)
≪ ※科目免除制度があります。≫
ビル経営管理講座
平成 21年度「ビル経営管理講座」が終了、前年比 9人増の 539 名が受講
平成21年度「ビル経営管理講座」は、 リングには、447名が出席した(他に
本年6月から9月末までの4カ月間に
CD代替受講75名、合計522名)
。添
わたって実施され、
無事終了した。
「ビ
削指導も順調に終了し、10月上旬に
ル経営管理士」の認知度が高まってい
は、修了証、ビル経営管理主任資格証
ることを背景に、昨年を上回る539名
が発行された。なお、今年度の修了者
が受講した。
は517名で、修了者総数は6,103名と
9月9 ∼ 11日にシェーンバッハ・サ
なった。
ボー(砂防会館)で実施されたスクー
2
I SH I ZU E
October 2009
ISHIZUE NEWS
日本ビル経営管理士会
スキルアップセミナー開催の報告と開催予定のご案内
日本ビル経営管理士会では、会員を対象に、会員の資質の向上を図る目的でスキルアップセミナーを実施している。
このほどスキルアップセミナーが仙台、東京、九州、名古屋で開催された。
なお、今後、西日本でも開催を予定している。
《スキルアップセミナー・仙台》
《スキルアップセミナー・東京》
ビルマネジメント実務に関する
法律問題のQ&A
オフィスマーケット
調査報告他
7月3日㈮ 13:30 ∼ 15:30、仙台ホテルで開催された
7月16日㈭ 13:30 ∼ 15:30、コンファレンススクエ
このセミナーは、49名が受講。講師は、弁護士の渡辺晋氏。
ア エムプラスで開催されたこのセミナーは、106名が受
日常における法律問題について、出席者が講師に質問し、
講。講師は、森ビル㈱のマーケティング室部長の松本栄
講師がそれに答える、Q&A方式で行われた。
二氏。東京23区のオフィスビルの需給動向につき、最新
の調査を基に解説された。
《スキルアップセミナー・九州》
《スキルアップセミナー・名古屋》
ビル賃貸借関係者の倒産と
ビルオーナーの対応
ビル賃貸借関係者の倒産と
ビルオーナーの対応
7月29日㈬ 13:30 ∼ 16:30、電気ビル本館で開催さ
10月8日㈭ 13:30 ∼ 16:30、栄・宝第一ビル会議室で
れたこのセミナーは、140名が受講。講師は、弁護士の佐
開催されたこのセミナーは、30名が受講。講師は、弁護
藤貴美氏。テナント、サブリース業者、管理会社、保証
士の佐藤貴美氏。テナント、サブリース業者、管理会社、
会社等、ビル賃貸借関係者が倒産した場合のビルオーナー
保証会社等、ビル賃貸借関係者が倒産した場合のビルオー
の実務的な対応方法について、具体策が解説された。
ナーの実務的な対応方法について、具体策が解説された。
ビル経営管理士会
スキルアップセミナー
のご案内
右記の通り、ビル経営管理士会
スキルアップセミナーを開催しま
すので、奮ってご参加下さい。
◆西日本スキルアップセミナー
日 時:12 月18 日㈮ 13:30 ~ 16:30
場 所:全日大阪会館 4 階
テーマ:ビル賃貸借関係者の倒産とビルオーナーの対応
講 師:佐藤貴美法律事務所 弁護士 佐藤貴美氏
詳細は、センターホームページ(http://www.bmi.or.jp)をご覧下さい。
No.141
IS H IZ U E
3
環 境 配 慮 設 計 に ついて
─ 三菱地所設計の環境へ の取り組み─
株式会社三菱地所設計 設備設計部 機械設備設計室 副室長
佐藤 茂
三菱地所設計では、これからの環境
配慮型社会において、持続可能なま
ちづくりを進めて行くべく設計事務所
として、大丸有地区をはじめ、多く
の建物の設計にかかわる中で、常々
環境に配慮した建物の設計を目指し
写真1
二番町ガーデン壁面緑化
ている。また、環境に関わる情報の収集・提案を行うことを主たる目的に、「環境技術検討委員会」を立ち上げ、
各種環境負荷低減技術および手法について、メニューの抽出、技術的課題の整理、予想される効果の算出等を行っ
ている。
この他にも省エネに関するいくつかのグループが検討を行っており、
これら成果と、既存ビルの豊富な実測デー
タを踏まえ、新築ビル・リニューアルビルへの省エネ提案を積極的に行い、より多くの建物に環境負荷低減技術を
導入して環境配慮型社会の一助となるべく継続的な努力を行っている。本稿では、建物におけるCO2 排出量削減
に有効な代表的3項目(①熱負荷の低減、②自然エネルギー利用、③設備システムの効率化)の環境配慮技術
について、弊社が設計にかかわった事例を交えながら紹介する。
Ⅰ
熱 負 荷の 低 減
外皮負荷低減事例 1. 壁面緑化
建築的手法による熱負荷の低減について
壁面緑化を行っている。壁面緑化は各
階2mの帯状に行われていて、0.9m
×0.9mのユニットにより構成、植物
千代田区に建つ二番町ガーデンでは、 はヘデラカナリエンシスとし、点滴式
低層部にオフィス、高層部に住宅を持
潅水ホースによる自動潅水システムを
つ14階建ての建物である(事務所・
備えている。壁面緑化を行うことによ
店舗、 10階以上共同住宅)
。落ち着い
り、日射を適度にさえぎる遮蔽効果と
た緑豊かな立地にあり、住宅と小規模
植物の蒸散作用による外壁面の温度低
な商業・業務施設が共存する土地に
下効果が得られる。外壁面の温度低下
建っている。建物建設にあたっては地
は、二番町ガーデン自体の熱負荷低減
域の環境を阻害することなく大型業務
並びにヒートアイランド防止にも寄与
施設を町並みに作ることが求められた。 している。また、周辺低層建物と二番
二番町ガーデンは、低層部2階から6
町ガーデン執務者間の視線を遮る効果
階までの外壁(北西面)に約680㎡の
もある。
4
I SH I ZU E
October 2009
図1
二番町ガーデン壁面緑化部分断面
外皮負荷低減事例 2. ダブルスキンファサード
ブリーゼタワーは、大阪市梅田に建
つ170m超のオフィス・商業・ホール・
レストランの用途が複合する超高層タ
ワーである。基準階プランは、熱負荷
に有利な東西コアとし、眺望を確保し
たガラスファサードでありながら日射
写真2
熱負荷を低減するダブルスキンファ
サードを採用している。ホールカン
ファレンスや店舗ゾーンとなる低層に
図2
基準階ダブルスキン内観(ブリーゼタワー)
概念図
写真3 建物外観
(丸の内パークビル)
おいても白色のダブルスキンとしファ
サードに変化を与えつつ日射熱に配慮
している。
高層部ダブルスキンファサードは、
概念図に示す通り、アウターガラスと
インナーガラスの間(キャビティ)に
自動制御されるブラインドがあり、日
図3
概念図サーモカメラ画像
射がある時はこの熱を自然対流にてア
ウターガラスの外部に排出する 図2 。
キャビティ内の通気は1層ごとに行わ
れるとの考え方で、キャビティの寸法
を小さくしたコンパクトでシンプルな
ダブルスキンとなっている。
高層部分のダブルスキンファサード
の熱的性能については、2007年8月
に実測を行った。日射量が多く、外気
温度が高い日であったが、サーモカメ
ラ画像では室内側のガラス表面温度は
図4
概念図エアフローウィンドウ断面図
写真4
基準階窓廻り(丸の内パークビル)
低く抑えられていることがわかる 図3 。
本建物のPAL値は200.9MJ/㎡ ・年*1
基準階オフィスの外装は、全方位エ
ドラフトを防止するため、室内空気を
で、基準値に対して33%低減されて
アフローウィンドウを採用しており、
ペリメーター幅木部分から吸い込み、
いる。
室内への直射日光の侵入を軽減するた
ペリメータゾーンの快適性を高めてい
*1:実測した数値を用いた再試算値は
180.8 MJ/㎡ ・ 年
め、
窓上軒部分(水平ルーバー、
PC庇)
る。また、ブラインドボックスからの
及び窓両サイド袖壁部分(縦ルーバ、
吸い込み空気の温度により熱回収・排
外皮負荷低減事例 3. エアフローウィンドウ
PC柱)を各所約50㎝突出させている。 気の切替えを自動制御にて行い、高温
高度に制御された電動ブラインドを実
排気の効果的な利用を行っている。実
装し、確実な日射遮蔽制御と、昼光利
大実験にて実測した値では、日射熱取
千代田区に建つ丸の内パークビルは
用や眺望などの快適性確保を同時に実
得率は0.12、熱貫流率はガラス部で
三菱地所の丸の内再構築における「第
現している 図4
0.75を発揮し、極めて熱的性能が高い
。
2ステージ」の第一弾プロジェクトと
空調の余剰排気をアウターガラス
ことが確認された(PAL値は193.3)
。
して位置付けられた建物であり、環境
(Low─eペアガラス)とインナーガラ
高性能・高機能な窓システム採用によ
配慮に重点をおきCO2 削減、ヒート
ス内を経由させ、ブラインドで受けた
り、空調システムにおいてはペリメー
アイランド抑制対策を徹底した、地上
日射熱を除去し、上部ブラインドボッ
タレス化を実現し、メンテナンス性と
34階、地下4階、塔屋3階の事務所・
クスから排出する仕組みとなっている。 あわせて有効率向上にも寄与している。
店舗ビルである。
冬期におけるガラス面からのコールド
No.141
IS H IZ U E
5
Ⅱ
自 然 エ ネ ル ギ ー利 用
恐れがある風圧やドラフトに対する対
小扉の開閉を居住者に委ねる上で重
超高層ビルにおける
1. 自然換気システム
策を行った。
要なことは、居住者が省エネルギー上
一般に室内外圧力差が大きいときや
有効に開閉を行えるかどうかというこ
外部風速が大きいときは自然換気量は
とであり、これに対して本建物では、
Ⅰ─2.で紹介したブリーゼタワーで
大きくなる。超高層ビルであるため外
空調の設定温度や運転予約などを行う
は10階から32階のオフィス階におけ
部風速が大きくなる状況が考えられ、
Web上のサイトに自然換気に関する
るダブルスキンファサードで自然換気
この状況においても有効に自然換気が
情報を掲載している。ビルの屋上で計
が可能となっている。自然換気は、居
行える工夫を実施した。今回採用した
測している外気温度や湿度、風速及び
住者が直接操作できる縦に細長い自然
サッシは換気流路の途中に調整弁機構
降雨などの情報を中央監視装置にて演
換気用小扉を開閉することによって行
を備えた定風量装置によって、外部風
算処理し、自然換気が有効であるかど
われる 図5 。また、管理者のみの操作
速が大きいときでも一定以上の風量が
うかをお知らせする 図6 。開閉は居住
となるが、ダブルスキンの内側ガラス
室内に入らないようになっている 図5 。 者の判断によるが、一般居住者の環境
の清掃や電動自動ブラインドのメンテ
採用にあたって、開発メーカーの工
に関する意識の高まりを見せる昨今で
ナンス用に大きく開くことができる。
場にて耐風圧や水密試験のほか、自然
あるからこそ、啓発装置としての役割
小扉の開閉は基本的に居住者に委ね
換気特性についても性能確認のための
を少しでも担えることを期待している。
られるため、気象条件によって生じる
実験が行われた。
、
自然換気窓の秋期(2008年11 ~ 12
自然エネルギー利用事例
月)における運用状況を 図7 に示す。
気温が低くなる11月下旬~ 12月にか
けては、窓の開放行為は減少するが、
11月初旬~中旬においては外気温と
窓開放に相関があり、外気冷房に適し
た気温となると積極的に窓を開放して
いることが確認された。
満足
やや満足
中立
やや不満足
不満足
眺望性が確保されている
開放感がある
室内が明るい
眩しさを感じる
窓から熱を感じる
図5
室内が暗い
ダブルスキンサッシ自然換気
画面への映り込みがある
閉塞感がある
動作音が気になる
自動で動くことが気になる
気象に追従していないときがある
その他
0
2
4
6
8
[人]
( N=39)
10
図10 明治安田生命ビルブラインド制御に関する
アンケート調査結果
図6
WEBサーバー上のお知らせ
図8
ブラインド自動制御概念図
図7
窓の運用実態
図9
日本テレビタワー30階照明電力(実測値)
6
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October 2009
写真5
日本テレビタワーの日射測定装置
12
環境配慮設計について
自然エネルギー利用事例
スラット角度を計算から割
インド自動制御と照明調光
2. ブラ
制御による昼光利用システム
り出し、最大限スラットを
「Ⅰ.熱負荷の抑制」では、ガラスの
ブラインドの制御上、要
性能向上や、
ダブルスキン・エアフロー
となるのは晴曇りの判定で
ウィンドウなどの普及により比較的大
ある。従来は日射計により
きな開口を持ちながら、省エネルギー
判定を行っていたが、晴天
と良好な眺望を両立した建物について
時と明るい曇天時の区別が
紹介した。高性能な窓はブラインドに
正確に判定できないため、
よる適切な日射遮蔽が行われることで
本来は昼光利用に適した明
より一層の効果が発揮される。ブライ
るい曇天時にもブラインドを閉めざる
ンドの適切な制御は、日射遮蔽・温熱
を得ないなど、制御が消極的にならざ
環境向上のみでなく、昼光を室内に導
るを得なかった。日本テレビタワーで
入し、照明制御システムとの組み合わ
は、晴天と曇天を正確に判定できる装
せで、照明電力の大幅な削減がはかれ
置(太陽追尾型直射照度検出装置
Ⅰ─4.で紹介した丸の内パークビル
る。また、日射の無い時間帯は眺望を
写真5
特許第4216130号)を開発する
では屋上塔屋3階に大規模な太陽光発
確保し、開放感等の快適性を向上する
ことで、気象状況に追従した適切な日
電パネルを設置している。多結晶シリ
ことも可能である。
射遮蔽と適切な昼光導入が行えるよう
コンタイプの太陽光発電パネルは総数
東京都港区に建つ日本テレビタワー
になった。 図9 は、ある1日の照明電
681枚、容量63kWと、超高層ビルの
では北西及び南東面に大きな開口があ
力使用量であるが、昼間の照明電力で
屋上設置としては都内でも最大クラス
るため、エアフローウィンドウを採用
30%以上の削減となっている(水色部
となっている。超高層ビルの屋上設置
するとともに全自動ブラインド制御シ
分)
。照明電力量削減は、照明発熱負
の場合、風圧荷重が大きく、10度の
ステムを導入している。ブラインドの
荷削減になっており、冷房負荷の削減
傾斜設置としている。この太陽電池で
日射遮蔽制御は、屋外センサーにより
にもつながる。
発電した電力は、低圧動力と系統連系
晴曇り(直射日光の有無)を判定し、
同様のブラインド制御を行っている
しており、容量的にはオフィス基準階
曇りの場合はスラット(ブラインドの
千代田区の明治安田生命ビルにおける
の全トイレの照明を賄える容量となっ
羽)を水平とし、もしくは巻き上げ、
アンケート調査 図10 では、8割以上
ている。年間発電量の試算によると建
晴れの場合は当該季節と時刻から太陽
の執務者に制御が受け入れられている
物で消費する年間電力量の0.8%程度
位置を計算し、その日射を遮蔽可能な
ことが確認された。
となり、CO2 削減に寄与している。
Ⅲ
開放しながら日射を遮蔽す
る。
写真6
太陽光発電パネル(丸の内パークビル)
自然エネルギー利用事例
超高層ビルにおける
3. 太陽光発電パネル
設 備 シ ス テ ム の効率化
Ⅰ─4.で紹介した丸の内パークビル
い。この場合、
最大照度が設計照度
(設
超高効率照明器具
・各種
1. センサーによる調光制御
の照明計画は、本建物で採用された環
定照度)を大きく超え、調光により減
境配慮技術の中でも最重要項目のひと
光することになる。安定器は特性的に
つ で あ る。3.6m×3.6mを 基 本 モ
100%に近づくにつれ効率が上がるた
照明用消費電力は、一般オフィスビ
ジュールとした600mmのグリットシ
め、最大照度と設計照度の乖離が大き
ルの全エネルギー消費量の20%以上
ステム天井用照明器具を採用している
くなるほどエネルギーロスが大きくな
を占め、その削減は環境配慮上極めて
が、 一 般 的 に はFHP45W×2灯 用
る。丸の内パークビルでは、反射板の
(ルーバー付き)を採用する事例が多
形状、塗装色、塗装方法を見直すこと
設備システムの効率化事例
有効な手段といえる。
No.141
IS H IZ U E
7
写真7
図11
丸の内パークビル基準階
明治安田生命ビル
明治生命館
写真8
氷蓄熱システム概念図
図12
氷蓄熱システムからの特徴的な冷水供給
で従来の照明器具よりも、より効率の
生命保険会社の本社機能を含む大規模
本計画では通常大気に放熱されてしま
高 い 超 高 効 率 照 明 器 具 を 採 用 し、
複合施設である。
最新技術を備えた
「超
うこの冷水を基準階事務所の躯体蓄熱
FHP45W×1灯用(白色ルーバー付
高層建築物」と「歴史的建造物」の共
用の熱源として活用し、氷と躯体両蓄
き)で最大照度700ルクスを確保して
存を目指し計画された。
熱システムの高効率化をはかっている。
いる。これにより最大照度≒設計照度
本街区の空調システムの要となるの
基準階では外側を複層ガラスとしたエ
となり、FHP45W×2灯用に対し約
が、新建物に設けられた大規模氷蓄熱
アフローウィンドウを採用し、躯体蓄
30%の省エネを実現している。
シ ス テ ム( 約10,000RTh)で あ る。
熱時の放熱ロスを抑える対応も行って
照明制御については、基準オフィス
大規模化へのさまざまな課題や、過冷
いる。高効率化への様々な取り組みと、
*2
エリア全てに照度センサーを設置し、
却方式 のもつ固有の問題を解決し、
竣工後のコミッショニングにより、
初期照度補正・昼光利用照明制御を
丸の内という立地において高いスペー
2007年度夏期ピーク時における実測
行っている。その他、機械室や廊下、
ス効率を確保しつつ、信頼性、環境性、 ではシステムCOPは目標の0.95を達
バック諸室に加え、客用便所や客用階
経済性の高いシステムを構築した
段など各所に人感センサーを設け、可
図11
能な限り無駄な点灯を避けるよう配慮
種類の特徴的な冷水が取り出される。
している。
その1つが氷蓄熱システムの特徴を生
設備システムの効率化事例
2. 大規模氷蓄熱システムの高効
率運用と重要文化財の再生
。本氷蓄熱システムからは、2
かした低温冷水(4℃以下)であり、
これは保存建物(明治生命館)の冷媒
自然循環システム*3 に供給され、 重
要文化財の持つ意匠性や歴史性を保ち
明治安田生命ビルは、昭和の建造物
つつ最新の事務所ビルに要求される機
で初めて重要文化財に指定された明治
能性・省エネ性に対応した空調システ
生命館(1934年竣工)を保存再生の上、 ムを実現した。もう一つが夜間製氷運
都心街区を一体で再開発し、重要文化
転時、
凍結防止の工程で製造される
「氷
*4
財特別型特定街区制度の適用をうけた、 核融解熱」
と呼ばれる冷水である。
8
I SH I ZU E
October 2009
成した。
*2 過冷却方式:水を零下 2 度程度まで
過冷却して外へ放出し、蓄熱槽入り
口附近でこれを撹乱して過冷却を解
消(結氷)すると共に 2%程度の氷
を晶出させ、これをくり返して氷を
作る方式。
*3 冷媒自然循環システム:冷媒を、気
体時と液体時の比重差によって自然
循環させることで搬送動力を不要と
した水を使用しない空調システム
*4 氷核融解熱:製氷器の凍結防止のた
め、汲み上げ冷水に含まれる氷核を
融解させる際に得られる冷水
環境配慮設計について
図13 冷暖フリービル用
マルチエアコン
図14
高顕熱冷房制御の概念図
設備システムの効率化事例
コンの高顕熱
3. ビル用マルチエア
比冷房制御による動力の削減
図15
高顕熱冷房制御の有無による絶対湿度の違い
図16
高顕熱冷房制御の有無による消費電力の違い
してしまうだけでなく、本来必要とさ
の8.47kwに対し「 あり 」は6.56kw
れる以上の加湿量が必要となる事例が
となり、高顕熱冷房制御実施により
見られる。
20%以上も省エネルギーになっている
東京都中央区に建つKSKビル本館
ことがわかる。
冷暖フリービル用マルチエアコンは、 (地上10階 事務所ビル)では、この
設備システムの効率化事例
個別制御性、室内機毎に冷房・暖房を
課題に対応するため、冬期冷房負荷が
自由に選択できる機能性により、建物
発生した場合、室内機冷媒の蒸発温度
内の空調負荷特性にフレキシブルに対
を従来の冷房運転時よりも高く(コイ
応できるシステムとして広く普及して
ル表面温度を高く)制御することで除
地域冷暖房施設は、冷熱・温熱の供
いる。また、「建築物における衛生的
湿されにくい運転を行う制御(高顕熱
給が広範囲に及び、その効率は、地域
環境の確保に関する法律」(ビル管理
冷房制御)の開発をメーカーに依頼、
のCO2 削減に大きく影響する。一方、
衛生法)の改正により空気環境のより
製品化しこれを導入した 図14 。
施設を構成する大型冷熱源システムに
厳密な調整が要求されており、これに
図15 は、2006年2月における同一
おいては、中間期、冬期などの低負荷
対応するため、
換気のための外気導入・
条件で運転した場合の高顕熱冷房制御
時に、供給先からの冷水返り温度の低
加湿機能を合わせ持った外気処理機と、 「なし」と「あり」の時刻別室内絶対
下により温度差が設計通り確保されて
冷暖房負荷処理用の室内機による冷暖
湿度である。10:40に加湿制御を開
ないという課題が実測データより明ら
フリーシステムを構築している事例が
始してから、
「あり」のグラフは絶対
かになっている 図17 。冷水温度差の
多い。一方、近年の事務所ビルは、
湿度が徐々に上昇し高い絶対湿度が維
減少により、単位熱量あたりの冷水流
熱媒過流量制御システムに
4. よる冷凍機の高効率運転
OA機器の増加、建物の気密性の向上
持されているが、
「なし」は絶対湿度
量が増加することから、過剰な冷水流
などにより冬期でも冷房負荷が発生す
は逆に下がり除湿されてしまっている
量が需要家側から要求され、本来必要
る傾向にある。結果、外気処理機で加
ことが確認できる。この時の消費電力
な台数以上の冷凍機を運転せざるを得
湿をしながらも、室内機の冷房運転に
を見ると 図16「あり」の場合は「なし」
ない状況となる。この結果冷凍機の負
より除湿を行ってしまうことになり、
に比べ常時低い値を示しており、10:
荷率が低下し、大きな効率低下をまね
除湿のための余計なエネルギーを消費
40~16:00の平均消費電力は「なし」
いている。この現象は主として需要家
No.141
IS H IZ U E
9
側の設備システムに起因するものであ
システム(灰色)では4台運転する必
という事例も見られる。エネルギー多
るが、低負荷時には温度差を確保する
要があったが、本システム(緑色・赤
消費型となる一因として厨房の換気設
ことが困難である事実も確認されてい
色)では2台で対応できており、これ
備があげられる。厨房換気は、①調理
る。
に伴いシステムCOPが大幅に改善さ
に伴う油脂、煙、蒸気、臭気(以降、
そこで、熱源システム側の対応とし
れている。中間期冬期の180日間にお
調理ガス)の排出、②熱の排出、③人
て冷凍機の熱媒(冷水)の流量を、シ
ける電力消費量は、従来システムの試
員用換気、を目的として設けられるが、
ステム定格以上に通過させ、冷凍機の
算に対して期間中の電力消費量の約
風量割合的には①が大半を占める。
運転台数を抑制することで1台当たり
30%が削減されることが確認された。
一般の厨房フードはその捕集効率の
の負荷率を上げ、結果としてシステム
悪さから、調理過程で発生する高温高
設備システムの効率化事例
5. 高捕集効率
厨房フード
湿の調理ガスをフードでは捕集しきれ
アル工事に当たり、本システムが導入
商業施設、とりわけ飲食店舗はエネ
人の上部にパンカールーバがある場合
された。 図19 は、年間の時間別シス
ルギー多消費型施設である。都内某所
などは、その強い風速ゆえ、調理器具
テムCOPの分布について、実績と従
の大規模複合用途の実測では、飲食店
からフードに向かう上昇気流(調理ガ
来システムの比較を示したものである。 舗の面積比率7%でありながら、エネ
ス)を乱し、さらに捕集効率を悪化さ
のCOPを大幅に向上させることを可
能とする技術を開発した。
都内のDHCプラントではリニュー
2700RT以下の時間帯において、従来
ず、燃焼機器の輻射熱と共に厨房全体
の環境を悪化させる傾向にある。調理
ルギー消費量は全体の30%を超える
せる要因となる。これを補うために、
図17 運転実態の分析
/ 冷 水 往 き・ 返 り 温
度差の変動(減少)
図20
高捕集効率厨房フード―(DRV)概念図
DRV未稼働時(一般排気フードを想定)
図18 熱媒過流量制御
システムの概念
排気風量 1,800CMH
DRV稼動時
排気風量 1,400CMH
図19 時刻別システム
COPの年間分布
10
I SH I ZU E
October 2009
図21
スモークマシンによる煙フード漏出実験
環境配慮設計について
フード下面の風速を上げ
(0.4 ~ 0.5m/
ドに似た構造をもつが、最大の特徴は
sec)排気風量を増やすのが一般的で
フードの渕に設られた回転ノズルにあ
あるが、結果として膨大な換気量が必
り、ここから吹き出される厨房給気の
要となり厨房用ファン動力とあわせて
一部が、フード内側に向かうエアカー
外気処理に伴う熱エネルギーを大量に
テン状の気流を発生させ、調理ガスの
消費することになる。
フード外への漏れを最小限に抑えるこ
千代田区に建つ大規模複合用途の飲
とを可能としている。さらに、フード
食店舗では、上記問題を解決するため、 側面(前面)には大きな面積を持つ吹
写真9
高捕集効率厨房フード―(DRV)
捕集効率の高いフードの開発をW社
出口を設け、厨房給気を低速で吹き出
時に比べ27%の削減となった。また、
に打診、同問題を認識し既に開発途上
すことにより厨房内に緩やかな空気の
作業環境改善の目的で設置されるス
にあった製品に改良を加え、
「超高効
流れをつくり、作業環境を改善してい
ポットクーラー(FCU)も不要となり、
率排気フード(DRV)
」を完成、複数
る。捕集効率が高いため、フードの面
テナント負担となるイニシャルコスト
店舗に納入した。超高効率排気フード
速は低く抑えた(0.3m以下)設計が
並びにランニングコストの削減にも寄
(以下、DRV)は、給排気一体型フー
可能となり、換気量は一般フード採用
与している。
Ⅳ
おわりに
環境負荷低減技術は、大別すると①
フードを除き、全てが①の手法である。 以下に例を示す。
ビルオーナーが取り組むべき(取り組
一方、事務所ビルの用途別延べ床面積
める)手法と、②ビルオーナーのみで
割合を見ると 図22 テナントビルは全
は取り組みが困難な手法に分けられる。 体の約70%近くを占め(自社兼テナ
ここで紹介した事例はⅢ─5.の厨房
ントビル含む)
、さらにテナントビル
内のエネルギー消費量(電力量)に着
目すると、テナント専有部で消費して
いるエネルギーは40%にのぼり、空
その他
2%
官公庁舎
11%
認できる。つまり、建物全体のエネル
自社ビル
19%
自社兼
テナントビル
9%
テナントビル
59%
図22
調分も含める70%を超えることが確
事務所ビルの用途別延床面積割合
(母数801等)
ガレージ
2.7%
エレベーター
等共用部
17.8%
1. テナント(ユーザー)に省エネ意識を
植え付ける仕組みの導入
→エネルギー消費の見える化など
2. テナントが積極的に省エネを行える装
置の導入 →自然換気、温度設定を緩和できる仕
組み(デシカント空調・タスク&ア
ンビエント空調等)
3. テナントの省エネ努力が反映される契
約(共益費→従量制、等)
ギー消費は、ビルオーナーの取り組み
今後求められる、さらなるCO2 削減
だけではさらなる省エネの推進には限
のためにはメーカーからユーザーまで、
界があり、テナント(ユーザー)の参
建設から運用に携わる全ての関係者の
加も必要であることがわかる。そのた
参加が必要不可欠となる。三菱地所設
めにはユーザー側に省エネへのインセ
計では、これからの環境配慮型社会を
ンティブを与える技術や仕組みの導入
構築する一員として、また環境配慮建
が、今後の環境配慮型建物には重要な
築の先導役として、持続可能なまちづ
要素になると考えられる。
くりに貢献していきたいと考えている。
メーカー
事業主
ビル管理者
省エネ製品・機器の製造
省エネシステムの導入
省エネシステムの最適運用
今後求められる
更なる省エネ
CO2削減
テナント分
空調用
(テナント分含む)
40.9%
38.6%
図23
2005年度電気使用量の用途別内訳
設計事務所
施工者
ユーザー
省エネシステムの構築・提案
省エネシステムの施工
省エネの為の努力
図24 今後求められる更なる省エネに必要な取り組み
出典:賃貸収益不動産(テナントビル)における複数事業者(ビルオーナー、テナント)
連携省エネルギーモデル事業(FS事業)成果報告書平成19年10月
ユーザーの
参加が必要
No.141
IS H IZ U E
11
難 局 の 時 代 ─
今PMに何が
求められるか
東京海上日動ファシリティーズ株式会社
名古屋支店/大阪支店
部長(営業開発担当)
犬塚 哲史
vol.2
PMrの生産性:
報酬と担当延べ床面積
プ
ロパティマネジャー(以下「PMr」
と記す。)のビル賃貸事業での役
割はより重く広範になってきている。 一
方で PM 業者間の競争は激化しており、
賃料収入が減少傾向にあることもあり業
務を通じて得られるPM 報酬は減少の傾
向にあると考えられる。
今回は東京ビジネス地区の賃貸事務所
PM 報酬
以下、報酬と業務量の関係を簡素化しモデルとして説
明するために、次の式で表される「単位報酬」を使用する。
単位報酬は、PMr が物件を受託としたときに得られる賃
貸面積 1㎡あたりの報酬の期待値と捉えることができる。
「単位報酬」
=
「得られる報酬」
÷
「賃貸可能面積」
を例にとりPM 業者が得る報酬について
整理した上で、この報酬をベースに一人
現
在、一般的なPM報酬は、不動産収入比例報酬と
NOI比例報酬(ネットオペレーティングインカム
の PMr が担 当 する延 べ 床 面 積をシミュ
比例報酬)から成っている場合が多い。
レーションすることで PMr の生産性につ
不動産収入比例報酬は不動産収入(水道光熱費等の別途
いて考察する。
徴収金を比例報酬対象に含まない)に報酬料率を乗じて算
定されることから当然にPMrのパフォーマンス及び賃貸
市場の変動に影響されると考えられるが、不動産収入が立
地・グレード・機能等対象不動産が固有に持つ商品力によっ
て主に決定されるため、不動産収入比例報酬には報酬基本
料的な性格があると考えられる。PMrの業務負荷は対象
不動産の規模に比例するが、不動産収入比例報酬はPMr
の基本報酬に充てられる。
12
I SH I ZU E
October 2009
vol.2
図1
PMrの生産性:報酬と担当延べ床面積
不動産収入比例報酬
NOI 比例報酬
図2
44∼65
54∼71
39∼63
49∼67
33∼60
30
40
44∼63
50
60
70
80
30
単位:円/㎡・月
40
PM 報酬
図3
50
60
70
80
単位:円/㎡・月
大型ビル
中型ビル
小型ビル
98∼136
大型・中型・小型
ビルが重なる範囲
88∼130
※基準階賃貸面積が100坪
以上を大型ビル、50坪以上
100坪未満を中型ビル、50
坪未満を小型ビルと設定
して表記。
77∼126
70
図1
80
90
100
110
120
130
不動産収入比例報酬の報酬料率は1%弱∼ 2%程度
が一般的と考えられ、東京ビジネス地区の平均賃
140
150
単位:円/㎡・月
図2
PM報酬を構成するもう一つの要素であるNOI比
例報酬は賃貸事業運営収支(運営費用控除後、減
料の分布(大型ビルは小型ビルの平均でほぼ2倍)に呼応
価償却費控除前)に報酬料率を乗じて算定されることから、
するレートとなっている。
PMrのパフォーマンスによって決定されるといえる。
適用される報酬料率は大型・好立地の物件ほど低く押さ
NOI比例報酬の報酬料率は1%∼ 2%強程度が一般的と
えられる実態にあり、現在の賃貸水準及び空室率を基に単
考えられが、不動産収入比例報酬と同様に大型・好立地の
位報酬を推定すると図1の内容となる。
物件ほど低く押さえられる傾向にある。現在の賃貸水準及
現在PM契約が締結されている物件の不動産収入比例報
び空室率を基に単位報酬を推定すると図2の内容となる。
酬の中心価格帯は50円/㎡・月前後と推定されるが、厳
NOI比例報酬の中心価格帯は60円/㎡・月前後と推定さ
しい賃貸市場の中でビル収支を改善したいとの所有者サイ
れるが、不動産収入比例報酬と同様にPMrは報酬を1 ∼
ドの要望に応えるかたちで、PMrは報酬を1 ∼ 2割(場
2割(場合によってはそれ以上)減額せざるを得ない状況
合によってはそれ以上)減額せざるを得ない状況になると
になると考えられる。
考えられる。
PMrはその能力を中心に評価されて選ばれるが、所有
者サイドにとってPMrが業務遂行に必要な能力を有して
図3
不動産収支比例報酬とNOI比例報酬を統合し、
PM報酬全体をしめしたものが図3である。
いることは必要最低条件であり、
「コストパフォーマンス
PM報酬の中心価格帯は110円/㎡・月前後と推定され
向上のためのPMr再選定」
「PM会社間の受託競争の激化」
るが、当然に2つの比例報酬の減額に伴い低下の傾向にあ
「利益相反的な要素を排除するための系列外PM会社の採
ると考えられる。
用」等の動きの中、報酬額の低下は今後しばらく続くもの
と考えられる。
No.141
IS H IZ U E
13
難局の時代─
今PMに何が求められるか
CM 報酬(コンストラクションマネジメント報酬)
PM 周辺ビジネスから得られる報酬
所有者サイドからPMrが得られる報酬の主なものは
オーナーサイドはPM報酬を押さえる一方で、入居者へ
PM報酬とCM報酬である。一般的に機能維持を目的とす
提供されるサービスが維持向上することを前提にPMrが
る軽微な修繕以外の実施に伴うCM報酬は、PM報酬とは
受託物件に関わる周辺ビジネスで商売をすることを容認し
別途に出来高に応じてPM会社に支払われる。
ている。
PMrの行うCMはCM専門業者の行う内容とは異なる
周辺ビジネスの主なものとしては管理請負、工事請負等
場合も多いと考えられる。CM専門業者が査定・バリュー
が挙げられるが、管理請負により得られる報酬(粗利相当
エンジニアリング等の活動を通じて得られた結果(コスト
額)は、清掃請負を中心として㎡当たり月額10 ∼ 23円程
削減や機能品質向上)に基づき成功報酬を得るのとは異な
度(市場価格に従い受託した場合)と推定される。
り、PMrの行うCMは申請から完了支払までの工事に関
工事請負の多くはテナントの入居関連工事及び原状回復
する事務処理を中心とするものとなっており、CM報酬は
工事であり、ビル毎の入退去の発生頻度等に左右されるも
工事金額に報酬料率を乗じて算定されるのが一般的である。
のではあるが、平均的に捉えた場合㎡当たり月額8 ∼ 15
利益相反を起こさないために別途査定のための専門の
円程度と推定される。
(図4)
CMを採用したり、大型工事について専門のCM業者を採
PM事業者としてこれらPM周辺ビジネスを行うかどう
用したりする場合も多く、PMrが所有者サイドから得ら
かについては、個々 PMの事業者の判断に任せられてい
れる報酬は、専門のCM業者が得られるほど大きくない。
るが、PM報酬が減少する中でPM事業を継続発展させて
オーナーサイドからのより高度な工事関連事務処理が求
いくためには周辺ビジネスに取り組んでいき、且つビル所
められ、また建築業法、下請業報等への確実な対応が社会
有者サイドが期待するサービスのレベル向上を実現するこ
的に求められている状況下で、PMrにとってCMは非常
とが必要不可欠な対応と考えられる。
に手間がかかる業務ではあるが、得られる報酬は他の報酬
に比べて大きいとはいえず、単位報酬は㎡当たり月額数円
PMr 一人当たりの担当延べ床面積
程度と推定される。
(※複数物件を長期に捉えた場合の平
均値。当然に、築年数・劣化度・所有者の投資方針等で大
PMrが得られる報酬について整理してきたが、すべて
きく変動する。
)
の報酬を取り纏めてPMrが得られる報酬は㎡当たり月額
とはいえ、工事に関するオペレーションは「計画∼完了
100 ∼ 175円程度と算出される。報酬についての価格競争
のプロセスに関する説明責任を果たすこと」
「建物価値を
がPM業者間で激化し、賃貸収入が減少傾向にある現状に
左右する重要情報としての工事関連データを保管するこ
おいては、PM事業者は130円/㎡・月以下の報酬を前提
と」の重要性が増すと共に、今後より高度な対応が求めら
として事業展開をしていかなければならないと考えられる。
れるものと考えられる。
一方で業務を実施するPMrの人件費(会社経費等含む)
については年額10,000 ∼ 16,000千円程度が一般的なPM
会社の水準と想定される。この人件費を賄うために、一人
図4
周辺ビジネスから得られる報酬
のPMrはトータルで9,000㎡以上(賃貸可能面積)を担当
しなければならない。
担当面積9,000㎡(レンタブル比70%前後として延べ床
テナント管理請負
テナント工事請負
0
13,000㎡相当)はPM会社として事業を継続していくため
10∼23
の損益分岐点の目安ともいえるが、PM会社は事業を通じ
て利益を得ることを当然に目的としており、会社側は一人
8∼15
10
のPMrが人件費の1.5 ∼ 2倍(またはそれ以上)の報酬を
20
30
単位:円/㎡・月
稼ぎ出すことを期待している。
したがって、PM会社は一人のPMrが賃貸可能面積
18,000㎡(延べ床面積26,000㎡相当)以上を担当して業務
遂行できる生産性を確保することを目標とする必要がある
と考えられる。
(図5)
14
I SH I ZU E
October 2009
vol.2
PMrの生産性:報酬と担当延べ床面積
図5
設定単位報酬
人件費・一人当り報酬
千円/年
175円/㎡・月
130円/㎡・月
100円/㎡・月
30000
25000
20000
15000
現在
一般的な
PM会社の
人件費
生産性改善目標
10000
5000
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
14000
16000
損益分岐ゾーン
PM会社の目線で生産性について考察したが、この程度
18000
20000
22000
事業目標ゾーン
24000
担当総面積
㎡
く、PM実務に即した効率化のためのシステムづくり)
の生産性を確保できなければ、所有者サイドの運営費削減
生産性向上はPM会社が今後も事業を継続していくため
の要望に応え、且つ、賃貸収入縮小に伴う報酬の減少に適
に不可欠な課題と考えられるが、この課題への取り組みが
応して業務を安定的に提供していくことは難しいと考えら
結果として業務品質の向上に寄与するものと考える。
れる。
生産性維持向上のために
<補足>
●記載した数値は、統計的な手法により求められたもので
はなく、入手可能な賃貸市場データ、開示されたファン
遵法性確保、省エネ対応等PMrにはより広範な対応が
ドの関連データ、積算資料及び筆者の経験則を基に机上
求められるようになってきており、PMrの業務負荷は増
でシミュレーションし算出したものです。
大する傾向にある。これに対応し生産性を維持向上してい
●東京ビジネス地区の賃貸市場データは平均的なビルを想
くためには、再度原点にたち返り次の対応(見直し)をす
定し次のとおり設定しました。したがって、際立って賃
ることが求められる。
料設定が高いビル、新築ビル、古く劣化したビル等につ
①プロとしての PMr を育成すること(個々の PMr の
いては考慮していません。
能力向上)
②マネジャー個人に頼り過ぎない機能的分業体制を
確立すること
③協力業者(特に管理会社)を育成しマネジメント
業務の機能的分業体制に組み入れること
④安定的且つ効率的に運営するために業務手順書を
整備すること
⑤ネットワークシステムを活用し業務効率を高める
(賃料設定)大型ビル:@20.0千円
中型ビル:@15.5千円
小型ビル:@11.0千円
(空 室 率)8 ∼ 10%
●用途、入居テナント数、築年数、アクセスの容易さ等に
よりPMrの業務負荷は変動し、報酬料率は実際にはこ
れらを考慮した上で設定されますが、今回の考察ではこ
れらを考慮していません。
こと(アセットマネジャーのためのシステムだけでな
No.141
IS H IZ U E
15
vol.
10
未だ不 透 明 感 続くオフィスビル市況
新政権の都市政策も不透明感に拍車
「週刊住宅新聞」編集統括
渋井 篤敬
マイナスのセンチメント一色だった国内経済に、ようやく下げ止まりの兆しが広がってきた。今年 4 ∼ 6月
期の国民所得統計 1次速報によると、実質国内総生産(GDP)は前期比プラス0.9%で、年率換算ではプラ
ス 3.7%。5 四半期ぶりにプラスに転じた。日銀による9月の企業短観も6月に続いて大幅改善。実体経済に
遅行すると言われる不動産業界でも「少なくとも東京に関しては最悪期を脱した」という声が聞かれるように
なっている。今年 7月時点の基準地価(都道府県地価調査)では 1975 年の調査開始以来、初めて全都道府
県の下落率が拡大したものの、首都圏に限ると下落スピードは弱まり、地価公示との共通調査地点のうち約
4 割強で今年に入ってからの下落率が縮小した。とりあえず当面の底は見え始めてきたと言われる不動産市場
だが、未だ二番底に対する懸念を払拭しきれないのも事実。一進一退を繰り返す市場とともに、民主党が主
導する新政権の政策が読みきれないことも不透明感を拭えない背景だ。
潮目が変わったか
東京のビル市場
い」と断言。感覚値と断りながらも、
なっている。東京ビルヂング協会が会
オフィスに関する問い合わせ件数は
員社を対象に実施している経営動向調
「ほぼ1.5倍に増えた」と話す。
査によると、悪化の一途を辿っていた
リーマンショックを境に、急激に悪
ある大手ビルオーナーでも「今年に
3カ月後の見通しを聞く先行き指数が
化した東京のオフィスビル市場にも、
入ってからの問い合せ件数は、昨年に
今年4月の調査で空室率は8期(2年)
回復をうかがう気配がじわり広がって
比べておよそ2倍に増えた」
。問い合
ぶりに、賃料水準は7期ぶりに改善し
いる。仲介会社や調査機関が発表する
せ件数の増加に比例して実際の成約面
た。続く7月の調査でも先行きの見通
空室率や賃料は未だ反転していないも
積も月を追うごとに増加。リストラに
しを示す景況感指数は改善。指数自体
のの、賃貸営業の現場からは「昨年9
よる解約予告が続出した昨年から今年
は未だ空室率の上昇や賃料の下落を予
月のリーマンショック以降パニック的
5月までの平均的な月間成約面積を
想する「マイナス」の水面下に沈んだ
に広がったテナント企業のリストラの
100と し た 場 合、6月 は200、7月 は
ままだが、一昨年後半からビルオー
動きに、ようやく歯止めが感じられる
300へと大きく回復し、8月は比較す
ナーを支配していた極端な悲観的見通
ようになってきた」という声が上がり
る基準が低いとはいえ600と、最近で
しは少しずつ薄らぎつつあることが分
始めてきた。
は驚異的な成約面積を記録したという。 かる。
「面積は現在の半分、賃料は3分の2
しかも、コスト削減を優先するリスト
ようやく動き始めたテナント企業の
で収まるビルに移転して、とにかくオ
ラ型ニーズがようやく減り始め、移転
オフィス需要。背景にあるのは、萎縮
フィスコストを緊急に引き下げたいと
による立地改善や、ビルスペックの向
する一方だった企業が新しい事業年度
いうニーズ一辺倒だった」と昨年末か
上を目的とする積極的な拡張型ニーズ
に入って打ち出した事業戦略に基づい
ら今年初頭を振り返るあるビル仲介会
が多くを占めるようになった。こうし
てオフィス再配置の検討を始めたとこ
社の営業は、事業年度が改まった4月
た動きは秋に入っても継続していると
ろに、賃料の高さが敬遠されて解約が
以降になってビル市場も潮目が変わっ
いい、同社も「ビル市場は確実に回復
相次いでいたSAクラスビルの賃料調
たと感じている。同氏は「東京のテナ
している」と強気な姿勢を示す。
整の進展が重なり、需要サイドの目線
ント企業と接する限り、直近のビル市
ビルオーナーの景況感も、わずかだ
と実際の賃料相場とが折り合うように
場は活発化しているといって間違いな
が改善の兆しが見受けられるように
なってきたことだ。
16
I SH I ZU E
October 2009
未だ不透明感続くオフィスビル市況
新政権の都市政策も不透明感に拍車
に底固めの時期に入ったと見る業界関
時点でまとめた東京を除く全国13都
係者も少なくない。先の不動産系シン
市の平均空室率は前期(3月末)を1.2
クタンクでは「優良ビルに関して言え
ポ イ ン ト 上 回 る12.5 % で、空 室 率
実際、新築大型ビルを中心に上昇一
ば、部分的に下げ止まったビルを見受
10%台の都市が前年同期の7都市から
辺倒だったオフィス賃料が、昨年を境
けるようになった。都内平均のビル稼
11都市へと急増した。
に急ピッチな下落に転じたことは、大
働率は来春ごろまで上昇を続けるが、
地方都市のなかでも市場規模が比較
手・中小を問わずほとんどのオーナー
来年後半には緩やかに改善に向かうの
的大きく、2006年∼ 2007年にかけて
が実感している。
ではないか」と見る。
大量の投資資金が流れ込んだ名古屋が
ある大手不動産会社の幹部は「バブ
シービー・リチャードエリスの調査
11.2%に、仙台は15.4%に、ともに最
ル経済以降の大底だった2003年から
によると、東京Sクラスビルの8月の
悪を更新。福岡も12.4%と、従来の最
2004年にかけての賃料水準に限りな
空室率は前月より1.1ポイント低い
高空室率を塗り替えるなど、東京に比
く近づいた」と話す。不動産系シンク
5.6%に改善した。Aクラスビルも7月
べてマーケットの悪化スピードの速さ
タンクの1社は、
「空室率の急上昇と
の5.1%から4.9%に下がり、需給均衡
が際立っている。6月時点では8.3%
高止まりに悩んだ『2003年問題』の
の目安と言われる5%を切った。賃料
と1ケタにとどまっている横浜も、こ
教訓を今回は多くのオーナーが生かし、 調整の余地が大きいSAクラスビルか
のままの悪化ペースが続けば年末には
空室率が上昇に転じたとたんに過去に
ら先行して市況が改善している様子が
最悪の10%台まで需給が緩む可能性
経験したことのないような猛スピード
うかがえるところだ。
が高い。いずれも新築ビルの竣工ラッ
で、雪崩を打って賃料の引き下げに動
ただ、問題はSAクラスビルの次位
シュというオーバーサプライが市況悪
いたのが2008年後半から2009年前半
に位置する既存ビルの視界が晴れない
化の要因。増え続ける一方のオフィス
にかけてのビル市場の特徴だ」と分析
こと。もともとこうした中小型ビルに
床に対してテナント需要が追いつかず、
する。Jリートが登場したことで賃料
は、国内企業の大半を占める中堅・中
金融危機以降は縮小や撤退の動きに
情報の透明化が進み、テナント企業が
小企業の底堅い需要が期待できるもの
よって逆に需要減少が加速しているこ
相場の動きを把握しやすくなったこと
の、上位ビルの賃料調整によって賃料
とが痛い。
も賃料下落を加速させた要因の一つ。
格差が縮まれば、オフィス需要の絶対
シービー・リチャードエリス総合研
ある中小ビルのオーナーは、
「これほ
量が増えない限り苦戦を免れない構造
究所の分析によると、2007年から今
どテナント企業が強気な姿勢で交渉し
になっている。冒頭に登場したビル仲
年まで3年間の累計供給率(ビルス
てくるのは初めての経験だ」と嘆く。
介会社の営業も、中小型ビルの市況改
トックに対する新規供給量の割合)は
賃料調整が進んだ東京のオフィス市
善は遅れると予想する。
「賃料調整の
名古屋が12%、仙台が17%、福岡が
場は、移転を考えるテナント企業に
余地が少ない中小型ビルは、最小限の
10%。東京の5 ∼ 6%に比べて各都市
とって千載一遇のチャンスであること
投資で済む一方でテナントの目に付き
とも突出して高く、横浜も12%に達
は間違いない。今年初頭までは少な
やすい水回りやエントランスの化粧直
して供給圧力が極めて強いことが分か
かった移転の受け皿となる大型ビルが
しをしたり、テナント企業との接触を
る。いずれも既存ストックを1割以上
徐々に市場に出回るようになったこと
より高めるといった地道な作業で解約
押し上げる計算で、同量の需要が新た
も、潜在化していた需要の再出動を促
を食い止めるのが最善にして唯一の対
に発生しない限り、空室率の上昇は避
している。ある業界関係者によると、
策だ」と話す。
けられない。
東京のSAクラスは
市況改善
ある地方都市の地元不動産会社によ
来年に竣工する新築ビルも思い切った
賃料を設定し始めたことで引き合いが
苦況続く地方都市の
ビル市場
ると、東京と同様にテナント企業のコ
稼働率が上昇すれば、いずれは賃料
一方、地方都市のオフィスビル市場
ナーが多いものの、東京に比べて賃料
も底を打つ。テナントニーズの高い
は、未だ改善の兆しが見受けられない。 水準が低い地方都市では引き下げの余
SAビルの賃料に限れば、賃料はすで
シービー・リチャードエリスが6月末
活発化。すでに入居が内定する新築ビ
ルも多数出ているもようだ。
スト削減ニーズに訴えようと新築ビル
の賃料を引き下げて誘致を図るオー
地は限定的。限られた賃料調整にとど
No.141
IS H IZ U E
17
未だ不透明感続くオフィスビル市況
新政権の都市政策も不透明感に拍車
まるためにテナント企業には移転によ
年間で福岡の3物件を売却したほか、
ことが難しくなる。
るコストメリットが働かず、引っ越し
開発事業者と取得契約を結んでいた名
一方、民主党が国民との公約と言い
費用をかけて移転するよりも移転費用
古屋のビルは価格を2割引き下げるこ
切るマニフェストの中には、
「リフォー
のかからない同一ビル内での縮小を選
とで合意した。オリックス不動産投資
ムの最重点化による耐震改修や省エネ
択する企業が多いことも空室消化が手
法人は今年3月に名古屋の大型ビルを
改修の促進」
「建築基準法の抜本的見
間取る一因になっているという。
売却して名古屋の投資比率を10%か
直しによる住宅建設許認可の簡素化」
同社の社長は「オフィス需要がなく
ら6%に引き下げている。
なることはないが、あっても地方都市
リファイナンスを迫られた私募ファ
の育成」
「多様な賃貸住宅の整備」
「定
の需要はせいぜい1案件当たり30 ∼
ンドによる不動産売却ニーズも強いと
期借家の普及促進及びノンリコース型
50坪程度にしか過ぎない。それでも
言われるが、今のところ売買双方の価
の住宅ローンやリバースモーゲージの
景気回復が鮮明だった2007年までは、
格目線が折り合わず、取引は停滞して
普及」といった住宅政策の方向性が並
東京から新たに進出してくる企業の営
いる様子だ。売買案件があっても、信
ぶ。ただ、オフィスや店舗といった商
業所の新設や、既存オフィスの拡張に
託受益権の売買になるため金融商品取
業用不動産にかかわる政策や都市づく
よって需要の絶対量が伸びていたが、
引業者ではない多くの地元不動産会社
りの方向性にはほとんど言及がないの
こうした需要が途絶えた金融危機以降
には恩恵は及ばず、取引は東京の大手
が実情だ。
は、限られた需要を取り合うゼロサム
不動産会社が主導するという。仙台に
マニフェストの前提となる政策集
ゲームになっている」と自嘲気味に話
本拠を構えるある地元不動産会社の社
「INDEX2009」には、中心市街地・
す。
長は、
「東京発の資金によって地方都
商店街の活性化支援を打ち出し、
「商
シービー・リチャードエリス総合研
市の不動産市場は大きな痛手を受けた。 住一体のまちづくり」やSOHOなど
究所では、各都市で過去に生じた新規
現在、わずかに残った不動産ビジネス
を活用した空き店舗や空地の利用促進
需要量をもとに、こうした都市では新
も東京に持っていかれるようでは地元
などに言及しているものの、都市づく
たに竣工したビルの空室消化には5 ∼
不動産会社としてたまらない」と憤り
りは「都市景観の向上」や「防災施設、
6年程度の期間がかかると分析する。
を隠さない。
情報通信基盤の整備」
「電線の地中化」
2007年から3年間の供給率が東京と
同程度の5%にとどまっていた大阪も
今年から新築ビルの竣工ラッシュが続
く予定だ。悪化する市況を背景に、開
発プロジェクトを先送りする動きが広
「ホームインスペクター(建物調査)
といった、あまり代わり映えのしない
不透明な新政権の
都市政策に
不動産業界は懸念
抽象的な物言いにとどまっている。
こうしたマニフェストや、政権誕生
後の閣僚の言動に関する報道に触れた
ある住宅会社の幹部は「公共工事依存
がっているが、それでも年末から来年
さらに、市場回復の読みを難しくし
のゼネコンには非常に厳しいが、少な
にかけて空室率は10%台に上昇する
たのが新政権の誕生だ。発足しておよ
くとも民間住宅に関係する業界には、
可能性が高いと見られている。
そ1カ月が経過したばかりで不動産や
より厳しくなる規制も予想される一方
こうした回復見込みの低い地方都市
関連業界への影響は読み切れないが、
で、政策や予算面の後押しが大いに期
マーケットに懸念を抱くJリートのな
明確になりつつあるのは、マニフェス
待できるのではないか」と歓迎ムード
かには、損失覚悟で保有物件の売却に
トの着実な実行と、脱官僚を貫く政治
を示す。
動くケースも続いている。
主導のスタンスである。これまでの不
10月6日に専門紙との共同会見に臨
日本プライムリアルティ投資法人は
動産業界は、多くの業界と同じように
んだ馬淵澄夫国土交通副大臣は「住宅
仙台と大阪の2物件に加え、名古屋の
永田町と霞が関と適度な距離感を保ち
政策は日本経済のリード役になり得る
ビルの優先出資証券を売却する一方、
つつも同じ船に乗ることで業界要望を
重要な課題だという認識を政務三役で
東京の大型ビルを取得する資産の入れ
実現させてきた。霞が関と新政権との
共有している。今後の成長戦略として
替えをこの6月に実施し、東京圏以外
パイプがうまくつながらなければ、
「す
住宅は極めて重要だ」と住宅市場の活
の投資比率を27%から21%に引き下
べてをゼロベースで見直す」という政
性化によって内需拡大を図るべきだと
げた。ケネディクス投資法人もこの1
策転換の過程に業界の声を反映させる
述べ、さらに1965年レベルまで落ち
18
I SH I ZU E
October 2009
vol.
込んだ現在の住宅着工に触れながら、
「足元の不景気による影響で良質な住
宅ストックの形成が滞る状況にあり、
政治主導でなんとかして解決していか
なければならない課題だ」と、現在の
住宅不況を深く憂慮した。
首相の女房役と言われる平野博文官
房長官も、かつては民主党で住宅政策
の勉強会を主催していた経歴を持つ。
その著書『平成ニューディール』の中
でも住宅政策の重要性に触れ、高齢化
に対応した良質な住宅の供給を促して
内需拡大による日本経済化の活性化を
図るべきだと提言している。
実際、マニフェストの目玉である子
ども手当ての財源捻出のために補正予
算の見直しに取り組んだ国交省は10
月9日に方針を固め、民間都市開発推
進機構への貸付金2000億円のうち交
付先が決まっていない1325億円や、
中断した開発プロジェクト用地を買い
の推進は、内需拡大を通して経済成長
を一蹴して見せた。
取る都市再生機構への出資金1000億
を促すものであり、民主党の政策とも
馬淵副大臣は専門紙との会見のなか
円のうち724億円を返納させるなど都
合致する」と、今後の施策に期待感を
で、
「足元の経済はすでに資産デフレ
市開発支援は一時凍結する一方、住宅
示している。
状態にあると認識している」と述べ、
の耐震改修緊急促進や長期優良住宅関
10月7日に大型再開発事業の起工式
さらに資産デフレを進行させることが
連などは必要性を認め、補正予算通り
後のパーティーで挨拶した森ビルの森
ないような施策の必要性も強調した。
執行することとした。
稔社長は、
「都市づくりに対する政府
具体策には言及しなかったものの、
「不
新政権に対する期待を上回って強い不
の支援が今後どうなるのか、デベロッ
動産市況全体の問題にとどまらず、マ
安が支配している不動産業界の懸念は
パーとして大いに危惧している」と笑
クロ経済全体の話であるという理解を
強まるばかりである。
いながらも半ば本音の思いを吐露した
もって市場の活性化策を検討してい
のに対して、来賓として挨拶した民主
く」と、不動産不況の克服に強い意欲
党の海江田万里衆院議員は「公共工事
を示している。
は見直すが、民間資金を使った都市開
藤井財務相の円高容認発言が示すよ
発を支援していく方針は民主党もいさ
うに、新政権が内需拡大を通した経済
さかも変わりはない」と述べ、会場か
成長策に舵を切るのはほぼ確実だと考
もちろん、悲観するばかりでは不動
らこの日一番の拍手を受けた。海江田
えられる。だとすれば、住宅も都市開
産業界の展望は開けない。新政権発足
氏は20年前に大不況に陥ったイギリ
発も、そして不動産業全体も、息が長
直後に定例会見に臨んだ不動産証券化
スを例に挙げながら、
「回復の原動力
く力強い内需を創出するような事業を
協会の岩沙弘道理事長は「都市や地方
となったのは、金融ビッグバンと、ロ
継続していけば、新政権の政策の要と
の再生は内需拡大の強力な推進力。と
ンドンのテムズ川を中心とした都市再
しての注目度がより高まっていくもの
くに証券化をはじめ公共工事に依存す
開発。このことは鳩山首相との間でも
と期待したい。
ることなく民間資金を使って行う事業
話題にのぼる」と、不動産業界の不安
不動産業界に望まれる
“息長く力強い”
内需の事業創出
No.141
IS H IZ U E
19
10
判 例 百 選
連載 ◇
第
23 回
Susumu Watanabe
山下・渡辺法律事務所
弁護士
昭和 55 年 3月一橋大学卒業。同年 4月に三菱地所㈱入社。
平成 2 年 3月三菱地所㈱退社。平成元年 11月司法試験合
渡辺晋
判 例
089
格、平成 4 年 4月弁護士登録(第一東京弁護士会)
、平成
14 年 4月山下・渡辺法律事務所開設、現在に至る
定期建物賃貸借の 契 約 条 項
東京地裁平成20年6月20日判決、ウエストロー・ジャパン
借地借家法 38 条が改正され、定期建物賃貸借の制度が導入されたのが平成 12 年 3 月1日であり、その
解説
後、10 年近く経過した。この制度も、相当広い範囲で利用されるに至っており、最近では、裁判例も集積
されつつある。
判例 089 は、契約書に更新がないことが一義的に明示されていなかったとして、借地借家法 38 条の適用
がないとされた事案、判例 090 は通知期間経過後の通知が問題となった事案である。
定期建物賃貸借は、借地借家法上、厳格な要件を満たした場合の例外的な契約と扱われている。契約
書の中で再契約の条項が定められることは通常であるが(定期賃貸住宅標準契約書(平成 12 年 3 月 建
設省住宅局長・建設経済局長)14 条参照)、再契約と更新とはその法律構成において本質的に異なって
いる。定期建物賃貸借を利用する場合には、書面による契約と事前説明の要件を満たすとともに、契約書
において更新がないものとする定めが明確になっていなければならないことに、十分に留意しなければならない。
事案の概要
裁判所の判断
賃貸人Xと賃借人Yは、平成15年7月
本件賃貸借契約が定期建物賃貸借に
あり、したがって、契約書面上、契約
ころ、従前からの賃貸借契約について、
当たるか否かについて
の更新がない旨が一義的に明示されて
期間を平成15年8月1日から平成18年7
借地借家法38条1項は、書面によっ
いることを要すると解すべきである。
月31日までとして、契約を継続する旨の
て契約するときに限り、契約の更新が
しかるに、本件賃貸借契約の契約書
合意をした。
ないこととする旨を定めることができ
には、22条3項に「本契約は平成12
このときの賃貸借契約書には、
「本契
ることを規定し、同条2項は、かかる
年3月1日制定の定期借家制度に基づ
約は平成12年3月1日制定の定期借家制
賃貸借をしようとするときは、賃貸人
くものとする。
」との条項が存在する
度に基づくものとする。
」との条項(本
は、賃借人に対し、あらかじめ、当該
一方、同時に、17条に契約更新に関
件特約)が定められると同時に、契約更
賃貸借は契約の更新がない旨を書面に
する条項が存在し、契約書面上、契約
新に関する条項も存在していた。
より説明しなければならないことを規
の更新がない旨が一義的に明示されて
Xは、平成18年7月31日の期間満了
定するところ、その趣旨は、同条所定
いるとはいえないから、本件賃貸借契
に際し、この契約は、定期建物賃貸借契
の定期建物賃貸借が建物賃借人の権利
約について、借地借家法38条1項は
約であるから更新がない、と主張したが、
を大きく制約するものであることに鑑
適用されないというべきである。
裁判所は、Xの主張を認めなかった。
み、事前にその旨を明示すべきことに
よって、Xの主張は理由がない。
20
I SH I ZU E
October 2009
判 例
090
定期建物賃貸借における通 知 期 間 経 過 後 の 通 知
東京地裁平成20年12月24日判決、LL
I
解説
定期建物賃貸借では、契約成立に関して、更新がないことの書面による説明、および、書面による契約
締結を必要とするのに加え、契約終了に関しては、通知期間内の通知が求められる(借地借家法 38 条 4
項本文)。ただし、もし賃貸人が通知期間内に通知をしなくとも、通知期間の経過後建物の賃借人に対しそ
の旨の通知をした場合は、その通知の日から6 月を経過した後は、契約終了を賃借人に対抗することができる
とされている(同項ただし書)。
本裁判例は、通知期間経過後に通知があったケースであり、通知から6 月後の解約終了が認定された事
案である。
定期建物賃貸借が普及し、契約数が多くなると、通知期間内の通知を失念する可能性も高くなる。定期
建物賃貸借を利用するには、通知期間の通知を業務のフローに組み入れておくことは、不可欠である。
なお、賃貸借契約書には、一般に、契約終了に明渡が完了していないときは、建物明渡まで賃料の倍
額相当額を支払うという条項が定められるが、本裁判例では、この規定が、消費者契約法に違反するかどう
かが争いとなり、裁判所は、消費者契約法に違反するものではないと判断している。
事案の概要
裁判所の判断
約は、同日から6か月を経過する同年
(ⅰ)賃貸人Aと賃借人Yは、平成17年
(1)本件契約は、本件建物についての
6月10日、次の約定の下に、定期建物賃
定期建物賃貸借契約であり、その期間
貸借契約を締結した。
は平成20年6月9日に満了するもので
契約期間:平成17年6月10日から
あった。
終了と同時に本件建物を明け渡さない
平成20年6月9日まで
定期建物賃貸借においては、賃貸人
場合に、終了の翌日から明渡しに至る
使用損害金:Yが本件契約終了と同時
が賃借人に対し、通知期間(期間満了
まで賃料の倍額及び管理費に相当する
に本件建物を明け渡さない場合に、
の1年前から6月前までの間)経過後
額の使用料を支払わなければならない
終了の翌日から明渡しに至るまで賃
に賃貸借が期間の満了により終了する
とする規定(本件規定)があるが、こ
料の倍額及び管理費に相当する額の
旨の通知(終了通知)をした場合は、
れはYの本件建物の明渡(返還)義
使用料を支払わなければならない
12月12日をもって終了する。
(4)本件契約には、賃借人が本件契約
その通知の日から6月を経過した後
務の適時の履行の誘引として定められ
(ⅱ)Xは、平成17年7月1日にAから賃
は、その終了を賃借人に対抗すること
たものであることはその規定自体から
貸人の地位を承継した。Yは、同年6月
ができる(借地借家法38条4項ただ
明らかである。また、これによってY
10日にこれをあらかじめ承諾していた。
し書)ところ、本件契約における通知
が受ける不利益は、賃料相当額の負担
(ⅲ)Xは平成19年12月19日、契約の
期間は、平成19年6月9日から同年
増だけであり、しかもそれはYが上
12月9日である。
記義務を履行すれば発生しないので
終了を通知する配達記録郵便物(甲4通
知書)差し出したが、Yが受領せず、同
(2)甲4通知書に基づく本件契約の終
あって、Xが暴利を得るために本件規
了の有無
定が定められたものでないことも明ら
(ⅳ)Xは、Yに対し、あらためて、平成
Xは、本件契約の終了通知である甲
かである。なお、Yが本件建物を居所
20年6月3日付で、契約の終了通知(甲
4通知書が平成20年1月7日に到達し
としていたとしても、本件契約が終了
8通知書)を郵送した。Yは、その受取
た旨主張するが、その主張は採用する
すればその使用収益ができなくなるの
ことができない。
は当然であって、そのこと自体がY
月28日に返却された。
を拒み、同月12日には郵便局での保管期
間が経過した。
(3)甲8通知書に基づく本件契約の終
の不利益であるとはいえない。
了の有無
以上のとおり、本件規定は、信義誠
ず、甲8通知書については、保管期間が
平成20年6月3日付けの甲8通知書
実の原則に反し、Yの利益を一方的に
経過した平成20年6月12日から6月経
は本件契約の終了通知であって、平成
害するものといえないから、消費者契
過した同年12月12日をもって終了する
20年6月12日に終了通知を了知する
約法10条によって無効とすべきもの
と判断した。
ことが可能であったのだから、本件契
ではない。
(ⅴ)裁判所は、甲4通知書の到達を認め
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21
判 例
091
民事再生法 49 条に基づき契約解除された場合の違約金特約
大阪地裁平成 21 年 1 月29日判決、判例時報 2037 号 74 頁
賃借人からの期間内解約を無条件に認めていたかつての賃貸借と異なり、 最近では、 賃借人からの解
解説
約を認めるとしても、 賃貸借期間内に解約をする場合には、 残存期間の賃料相当額を違約金として支払
うとする特約が付されることが多い。 残存期間が1年程度であれば、このような特約も効力が肯定されると
みられていたが(東京地裁平成 8 年 8 月22日判決)、残存期間が長期間にわたる場合に、特約の効力が
そのまま認められるかどうかは必ずしも明らかではなかった。
本裁判例は、 Y が従来使用していた所有ビルをX に 27 億 7500 万円で売却し、 同時に X が Y に賃貸す
る、いわゆるリースバックの性格をもつ賃貸借において、 5 年契約のうち、 約 6 か月経過した時点で賃借
人から解除された事案である。
この賃貸借契約には、 Y は、 賃貸借期間中は、 本件賃貸借契約を解除することができない、ただし、
Y が残りの期間の賃料相当額を支払った場合はこの限りでないという約定(本件約定 1)、 および、 Y に
つき債務不履行その他一定の事由が発生した場合には、X は、催告その他の手続を行うことなく本件賃貸
借契約を解除することができ、この場合、 Y は、 残期間分の賃料相当額をX に支払わなければならないと
する約定(本件約定 2)が定められており、これらの約定の効力が争われたが、 裁判所は、 残存期間約
4 年 6 か月の賃料相当額の全部の違約金支払請求を認めた。 賃貸借期間満了までの収入確保の観点か
ら、 本裁判例における判断は、 極めて大きな意味をもっている。
なお、 民事再生法は、 双務契約について再生債務者及びその相手方が再生手続開始の時において共
にまだその履行を完了していないときは、 再生債務者等は、 契約の解除をすることができるとして双方未履
行債務の契約解除権を定めており(同法 49 条 1 項)、 本裁判例における賃借人の解除が、 同項に基づ
く契約解除であったところ、 同項に基づき解除された場合にも、 違約金の特約に関する条項が適用される
という判断がなされた点も、 重要である。
事案の概要
裁判所の判断
(ⅰ)賃貸人Xと賃借人Yは、平成17年
本件約定1の趣旨は、本件賃貸借契
もこれに拘束されることはやむを得
3月16日、賃料月額190万5283円、賃
約において約定の賃貸借期間を通じて
ず、法49条1項に基づく解除である
貸借期間17年3月28日から平成22年3
賃借人から賃貸人に対して約定の賃料
からといって当然にこれと異なる解釈
月27日として、定期建物賃貸借契約(本
が継続的に支払われることが前提とさ
をすることはできないというべきであ
件賃貸借契約)を締結した。
れていることを受け、同期間内に賃借
る。
(ⅱ)Yは、平成17年5月9日、大阪地
人からする解約は、事由のいかんを問
本件約定1及び本件約定2のいずれ
方裁判所において民事再生手続開始の決
わず賃借人の債務不履行を構成し、賃
についても、その内容が不合理で法の
定を受けた。
貸人の損害賠償請求権を発生させるも
趣旨を没却させるとまではいえない
(ⅲ)Yは、Xに対し、平成17年9月22
のとした上、その場合の損害賠償の内
し、とりわけ本件約定1については、
日付け通知書をもって、民事再生法49条
容を逸失賃料相当額とすることをあら
本件賃貸借契約の期間が5年間にとど
1項に基づき本件賃貸借契約を解除する
かじめ定めたものであると解するのが
まること、当該期間のうち6か月も経
旨の意思表示をした。
相当であり、
このように解することは、
過しないうちに本件解除が行われたも
(ⅳ)Xは、本件約定1および本件約定2
契約の文言に合致し、両当事者の合理
のであること(Yが明渡しを行うまで
に基づく残存期間分の賃料相当額を再生
的な意思解釈にも沿う上、契約内容と
の賃料又は損害金を支払った期間を含
債権として届け出たが、これが認められ
して不合理であるともいえない。
めても、その期間は1年に満たないも
なかったために、再生債権の査定を求め
そして、本件約定1が契約当事者間
のであること)を踏まえると、信義則
て、訴えを提起した。
の自由な意思に基づいて合意され、そ
上、違約金の範囲を制限すべき事情も
の内容にも不合理な点がない以上、民
見当たらないというべきである。
事再生法2条2号の「再生債務者等」
22
I SH I ZU E
October 2009
判 例
092
破産法 5 3 条に基づき契 約 解 除された場 合 の 違 約 金 特約
東京地裁平成 20 年 8 月18日判決、判例タイムズ 1293 号 299 頁
解説
破産法にも、民事再生法と同じく、 双務契約における双方未履行の場合の契約解除権が定められてい
る(同法 53 条 1 項)。 本裁判例は、 破産法に基づく契約解除権が行使されたケースであり、民事再生法
に基づく契約解除権が行使された判例 091と同様に、 違約金特約の効力が肯定されている。
また、 従来、 破産管財人から貸室の明渡しを受ける際し、 原状回復費用が財団債権か否かが争われる
こともあったが、この問題について、 本裁判例が、 財団債権と判断したことも、 理解が必要である。
なお、これらに加えて、 賃料の前払特約があり、 履行期が到来していれば、 破産手続開始決定後の使
用に相当する部分についても、 破産債権になると判断された点も、 注目される。
事案の概要
裁判所の判断
(ⅰ)賃借人Aと賃貸人Bは、平成17年
(1)本件賃貸借契約は、10年間の定
約)として過大であるとはいえない。
3月23日、本件建物について、期間を10
期建物賃貸借契約であり、原則として
(2)破産法148条1項4号及び8号は、
年間、賃料月額2100万円とする定期建
中途解約ができない旨を定めているか
破産管財人が破産手続の遂行過程でし
物賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結
ら、10年間の契約期間満了まで賃貸
た行為によって発生した債権を財団債
し、保証金として2億円を支払った。こ
借契約を継続し、賃貸人は賃料収入を
権としているが、これは、破産手続上、
の契約においては、原則として中途解約
得ることを、賃借人は本件建物を使用
発生することが避けられず、債権者全
できない、賃借人のやむを得ない事由に
収益することができることを、それぞ
体の利益となる債権、又は破産管財人
より中途解約する場合は、保証金は違約
れ期待していたと解される。
が債権者全体のためにした行為から生
金として全額返還されない、原状回復に
他方、本件賃貸借契約においては、
じた債権であるから、財団債権として
優遇することにあると解される。
ついて、賃借人は、本件賃貸借契約終了
「賃借人の債務不履行、破産申立等を
後1か月以内に、本件建物を原状に回復
理由に賃貸人が解除する場合」等、賃
本件においては、賃借人は、本件賃
して賃貸人に明け渡さなければならない
借人側の事情により期間中に契約が終
貸借契約が終了した場合、本件建物を
との条項が付されている。
了した場合には、
「保証金は違約金と
原状回復して賃貸人に明け渡さなけれ
して全額返還しない」旨が定められて
ばならないという原状回復義務を負っ
地位は、BからYに移転し、平成19年6
いる。
ているところ、Xは、破産手続開始決
月4日、Aは、この賃貸人の地位の移転
以上からして、本件違約金条項は、
定後、本件建物を約1か月間使用した
を承諾した。
(ⅱ)本件賃貸借契約における賃貸人の
賃借人側の事情により期間中に契約が
後、破産法53条1項に基づき平成19
(ⅲ)Aは、同年9月7日、破産手続開始
終了した場合に、新たな賃借人に賃貸
年10月23日をもって本件賃貸借契約
決定を受け、Xが破産管財人に選任され
するまでの損害等を賃借人が預託した
を解除し、同日、原状回復義務を履行
た。
保証金によって担保する趣旨で定めら
しないまま本件建物を明け渡したので
れたものと解するのが相当である。
あるから、このような場合、Xは、本
破産法53条1項に基づき、本件賃貸借契
賃貸借契約の締結に付随して、この
件建物を明け渡した時点で、原状回復
約を同月23日をもって解除する旨の意
ような定めを合意することは原則とし
義務の履行に代えて、賃貸人に対し原
思表示を行い、同月23日、原状回復を行
て当事者の自由であり、Aも本件違約
状回復費用債務を負担したものと解す
わずに本件建物を明け渡した。
金条項の存在を前提として自由な意思
るのが相当である。その結果、賃貸人
Xの違約金の支払義務の存否およびY
に基づき本件賃貸借契約を締結してい
であるYがXに対して取得した原状
の原状回復費用請求権が財団債権か否か
る。
回復費用請求権は、Xが破産管財人と
等が争いとなった。
そして、保証金2億円は、賃料の約
して、破産手続の遂行過程で、破産財
9か月半分に相当するところ、賃貸人
団の利益を考慮した上で行った行為の
及び賃借人は、本件賃貸借契約を10
結果生じた債権といえるから、破産法
年間継続し、賃貸人は賃料収入を得る
148条1項4号及び8号の適用又は類
ことを期待していたことに照らせば、
推適用により、
財団債権と認められる。
(ⅳ)Xは、同年10月11日、Yに対し、
その金額が、違約金(損害賠償額の予
No.141
IS H IZ U E
23
I S H I ZU E
NO.1 4 1
COVER PHOTO
ブリーゼタワー
DATA
ブリーゼタワーは、
大阪市北区梅田二丁目に本年7月に竣工した、
オフィス・商業・
ホール・レストラン等の複合用途からなる、高さ170m超の超高層タワーです。
建築家インゲンフォーヘンとのコラボレーションにより、構想段階から環境に配慮
すると共に、そこに集う人々にもやさしい
“ジェントルビルディング”という理念のも
とに計画されました。
CO NTE NT S
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いしずえニュース
ビル経営管理士試験
平成21年度
「ビル経営管理士試験」
は12月13日
(日)
に実施、
申込受付は10月31日まで
ビル経営管理講座
平成21年度
「ビル経営管理講座」
が終了、
前年比9人増の539名が受講
日本ビル経営管理士会
スキルアップセミナー開催の報告と開催予定のご案内
6
特集
環境配慮設計について
三菱地所設計の環境への取り組み
佐藤 茂
12
株式会社三菱地所設計 設備設計部 機械設備設計室 副室長
新連載
難局の時代─今PMに何が求められるか│Vol.2
PMrの生産性:報酬と担当延べ床面積
犬塚 哲史
16
記者の眼│Vol.10
未だ不透明感続くオフィスビル市況─新政権の都市政策も不透明感に拍車
渋井 篤敬
20
東京海上日動ファシリティーズ株式会社 名古屋支店/大阪支店 部長
週刊住宅新聞 編集統括
ビルマネジメント判例百選│第23回
渡辺 晋
弁護士
いしずえ│ No.141 │ 2009年10月31日発行
発行
財団法人 日本ビルヂング経営センター
日本ビル経営管理士会
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〒100-0004 東京都千代田区大手町1-6-1(大手町ビル837区)
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※本誌は、日本ビル経営管理士会の機関誌の役割を兼ねて、
財団法人日本ビルヂング経営センターが発行する機関誌です。
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