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療養病床における看護職と介護職の恊働

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療養病床における看護職と介護職の恊働
PROCEEDINGS 16 53-62
July 2011
療養病床における看護職と介護職の恊働
― 当事者の認識と評価―
吉 岡 なみ子
(人間発達科学専攻)
1 問題の所在と課題
遅れが生じ、その資源整備が「協働」の問題より優先され
てきた。また、福祉は行政の措置制度の下で行われてきた
高齢者の生活施設における医療職と福祉職の協働は、
ため、大半が民間施設である医療機関にとっては、利益が
1963(S 38)年に施行された老人福祉法を基本法とする高
上がりにくい福祉部門との協働は望ましい選択肢とはみな
齢者の生活施設の創設にはじまる。以降、とりわけ看護職
されなかった(田村・山本 2000: 170)。しかし、1990 年
と介護職の協働については、それぞれの職種の専門性の問
以降の高齢者保健福祉推進 10 か年戦略によって施設基盤
題とも重なりつつ、ケアの質や方向性を左右するものとし
の整備が進み、併せて、介護保険法の施行によりサービス
て議論されるようになる。そして、1990 年以降の高齢者
事業者に対する規制緩和が図られ、福祉領域にも次第に経
保健福祉推進 10 か年戦略、2000 年の介護保険法の施行な
営の視点が導入されつつある。その結果、かつてに比べれ
どの一連の改革を契機に、要介護高齢者への保健医療及び
ば医療と福祉のサービスが一体的に提供されるための整備
福祉サービスは一元的に提供されるようになり、両領域の
は進んだが、それでもなお、医療職と福祉職の協働の問題
分業や連携は一層重要な課題とみなされるようになった。
は解消されていない。
社会的ケアの分業や協働への関心が高まる背景には、効
「協働」を妨げる 2 つ目の要因である「アプローチの問題」
率的な資源配分や疾病構造の変化などの社会経済的な側面
(田村・山本 2000: 172-3)は、医療・福祉制度の原理的な
からの要請がある。この内疾病構造の変化は、医療技術の
違い、概念モデルの相違から生じる問題とも言いかえられ
進展とともに集中的な加療は必要ないものの、さまざまな
る。医療は、機能・能力障害の排除・軽減によって「生活
障害を抱える要介護高齢者の増加をもたらしている。これ
の質」を向上させようとするが、福祉は機能障害や能力障
ら要介護高齢者の「生活の質」を改善するには、限られた
害はそのままにして、それらの障害が「社会的不利」に結
人員配置のなかでそれぞれが役割を果たしつつも、共有す
びつかないよう、生活環境や職場環境の整備によって「生
る目標の下で協力しあう必要がある。しかしながら、保健
活の質」を維持・向上させようとする 1。つまり、医療職
医療及び福祉領域の「ケア」に対する考え方や資格制度の
と福祉職は目標を共有する場合でも、そのアプローチの違
違いなどもあって、両領域の協働は必ずしもうまくいって
いから必然的に対立が生じやすい。また、「生活の質」と
いるとはいえない。
いう概念は、ケアを受ける対象者の価値観に密接に関連す
本稿では高齢者施設における看護職と介護職の協働に焦
るものであるため、どちらのアプローチを採用するかは、
点をあてるが、ここでいう「協働」とは、施設の人員配置
さらに複雑で解決困難なものとなりやすい(田村・山本
基準などによって制度化された分業を前提としつつ、高齢
2000: 172)。
者へのケアという共通の目標の下で行われる異職種間の共
ただし、疾病や障害を得た高齢者のケアの場面では、看
同活動を意味している。福祉政策研究の立場から田村・山
護職と介護職の職務は重なり合う部分が多いため、これら
本(2000)は、医療職と福祉職の「協働」が必ずしもうま
両職種の相互作用をより詳細にみていく必要がある。介護
くいかない要因として、「組織・制度の問題」と「アプロー
老人福祉施設で働く看護職・介護職、生活相談職へのイン
チの問題」の 2 つをあげている。
タビュー調査から分業関係を明らかにした中村(2003)は、
まず、「組織・制度の問題」とは、川上ら(1992: 28-9)
「制度と実態の乖離」が「協働」の困難をもたらしている
が指摘する「福祉の医療化」政策から生じた問題である。
と指摘している。彼がいう「制度と実態の乖離」とは、①
日本では長らく、医療制度が老人福祉の肩代わりをしてき
施設ケアサービスは医学的・保護的指向(事故防止の観点)
たため、福祉施設の整備やマンパワーの養成などに著しい
が優位なため、個々の利用者の意向を尊重しにくいこと、
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PROCEEDINGS 16
July 2011
②利用者一人一人に対して個別性の高い働きかけをすると
務アシスタントとして日常業務に同行するなかで実施し
介護業務にしわ寄せが生じやすいこと、③職員間に状況に
た 4。インタビュー調査は半構造化質問紙を用いた個別面
応じた複線的な階層制が存在し、チームとして対等な関係
接により、職歴・教育歴、自らの職務の役割と協働につい
を維持することが難しいこと、④要介護高齢者は社会資源
ての認識と評価、療養病床における処遇方針などへの認識
を用いても単身で在宅生活を維持することが難しく施設退
と評価、ケア観などについて聞きとりを行った。インタ
所が望めないこと、などを意味する。これらの多様な乖離
ビューは調査対象施設の面接室や休憩室で行い、要した時
が存在するために、施設ケアに携わる職種のそれぞれが、
間は短いもので 45 分、長いもので 1 時間 40 分であった。
既存制度の理念や目標を共有することができず、有機的な
インタビュー内容は対象者の同意を得て録音し、後日、筆
2
協業は機能不全に陥っているという(中村 2003: 153-55)。
者が逐語記録を作成した。
社会的介護(施設ケア)の制度と実態が乖離するなかで、
参与観察にあたっては、職員への調査の周知を看護職と
対象者の「生活の質」の維持・改善は職種を超えた共通の
介護職を統括する看護部長に依頼し、承諾を得た。インタ
優先課題と位置づけられにくく、看護職と介護職の間にあ
ビューについては、参与観察中に筆者が直接個別に依頼を
る「アプローチの問題」はさらに複雑さを増している。
行った。この際、書面に基づいて調査目的と質問内容、調
看護と介護の「協働」に関する老年看護学領域の研究と
査は強制ではないこと、プライバシーが厳守されることな
しては、介護施設や病院、訪問看護ステーションや在宅介
どを再度説明し同意を確認した。なお、本調査は、お茶の
護事業所などを対象にした「地域における看護と介護の連
水女子大学グローバル COE プログラムの研究助成を受け、
携に関する全国実態調査」(全国高齢者ケア協会)がある。
同倫理委員会において調査の認可を得ている。
そこでは、他職種との立場の違いや分業関係に生じる階層
制などが協働の困難要因として指摘されており、「看護職
2 − 2 調査対象者の属性
と介護職の話し合いをすすめる」「謙虚に意見を受け止め
調査対象者 26 名の基本属性は表 1、表 2 に示した通り
る」といった解決策が提示されている(井上 2006, 鎌田ら
である。対象者の性別は、看護職員は男性 1 名、女性 10 名、
2006)。また、療養病床・介護老人保健施設・特別養護老
介護職員は男性 2 名、女性 11 名であった。調査対象者の
人ホームの主任クラスの職員に対してインタビュー調査を
年齢の平均は、看護職の場合が 52.1 才で、介護職は 39.8
行った柴田ら(2003)は、看護職と介護職の連携・協働に
才であった。また、職歴の平均は看護職 15.3 年、介護職 7.3
対する認識を整理し、職種ごとの認識の違いを明らかにし
年であった。資格状況については、看護職の場合は准看護
ている。それによると、「情報の伝達」「業務分担」「個人
師が多数派で、看護師資格者は 3 名であった。看護師資格
の職業意識」の 3 つのカテゴリーで連携・協働が語られ、
者はすべてが非常勤職員で日勤シフトのみを担っていた。
その認識は看護職と介護職では異なる事が明らかにされて
介護職員は、2 級ヘルパー資格者が多数派で、介護福祉士
いる。ただし、そこでは、「介護職が本音を言える環境体
は 4 名であった。介護福祉士資格取得者は、実務経験を積
制を整える」「介護職員との心理的距離を縮める機会を確
んで同資格を取得しており、養成校などを経たものはいな
保していく」
「相互に成熟した連携・協働関係を創り上げる」
かった。無資格の介護職も 1 名いるが、現在、ヘルパー 2
など、両職種が認識する問題点の指摘に留まり、分業の構
級講習を受講中であった。
造それ自体の相互作用過程は考察されていない。
そこで、本稿では、医療を基本としながらも介護の機能
2 − 3 調査対象施設の概要
3
を併せ持つ療養病床 での看護職と介護職の「協働」に着
医療社団法人 A 病院は、一般病棟 30 床・療養病棟 56
目して、参与観察とインタビュー調査により現状を把握す
床(このうち 16 床が介護保険法による介護療養病床)を
るとともに、これを方向づける要因について考察すること
有する入院医療施設である。診療科は内科・外科・脳外科・
を目的とする。
整形外科・リハビリテーション科があり、内科外来には、
糖尿病専門外来も開設されている。急性期の治療は一般病
2 方法と対象
床で行われるが、長期に療養が必要な場合は療養病床に転
室することができるため、地域医療を支える在宅療養の
2 − 1 調査の概要
バックアップ施設、あるいは、高度医療を経たのちの慢性
東京都下に所在する A 病院の療養病床にて、2010 年 10
期・回復期の加療を行う後方病院としての機能を果たして
月 22 日~ 2011 年 3 月 31 日のあいだの 65 日間に参与観察
いる。地域において「健康と豊かな生き方を支える」こと
を行うと共に、看護職・介護職に対するインタビュー調査
を病院の理念とし、「医療安全に力をいれ、充実した医療
を実施した。参与観察は、あらかじめ同意を得た職員の業
提供をする」という目標達成のために施設整備と職員教育
54
療養病床における看護職と介護職の恊働
が行われている 5。
毒、④病室の環境整備など、介護業務に加えて看護職の補
経営という側面では、2006 年度の診療報酬改定などに
助的業務も担っている。また、看護職には看護計画と看護
よって厳しい状況に立たされている。既に述べたように、
記録の作成が課されているが、介護職に日々の記録は課さ
厚生労働省は、2011 年度末までに 38 万床ある療養病床を
れてはいない(ケアマネジャーによるケアプランの作成と
15 万床に減じる方針を打ち出し、療養病床における診療
モニタリングは実施されている)。日常業務においては看
報酬の引き下げによって転換を促そうとしている(いわゆ
護職がチームリーダーとなり、介護職がメンバーとして患
る社会的入院を受け入れることによって病院経営が困難に
者の直接ケアを行うチームケア体制が敷かれている。ただ
なるようなしくみが確立している)。これにより療養病床
し、介護職と看護職の分業のあり方は看護職個々人によっ
をもつ病院は「一般病床の差額ベッド代などを高く設定す
て異なり、看護職と介護職が全くの別行動で自らの職種の
ることで療養病床の赤字を埋める」など、「病院全体の収
業務にあたるものもいれば、おむつ交換やシーツ交換など
支で赤字にならない工夫がなされることで(療養病床は)
を介護職と一緒に行いながら、医療業務との関連でその都
維持されている」という 6。
度分業のあり方を調整するものも見られた。
A 病院は、1990 年に医療法人社団へと経営陣が変わっ
3 語りの分析
たが、病院のあり方の変容とともに入院患者の様相も大き
く変化したという。かつては日常生活動作には問題がない
高齢者の入院がほとんどであったが、現在は、中心静脈栄
語りの内容の共通点や差異に着目して整理を行ったとこ
養(高カロリー輸液の施行)や痰の吸引、経管栄養、胃瘻
ろ、看護職と介護職の「協働」の現状を否定的に評価した
などへの処置が必要な要介護状態の患者が大部分を占めて
ものと肯定的に評価したものに分けることができた。この
いる。そのため、かつて行っていた、病院内のお祭りイベ
分析過程では、介護保健施設の実務者や調査対象施設の異
ントや散歩、様々なレクリエーションなどの療養生活の部
なる病棟の看護主任、質的研究を行っている複数の研究者
分への支援は、現在ではほとんど行なわれていない。 A
にアドバイスを受け、分析の妥当性を高めるように努めた。
病院の看護職と介護職の業務分担は次の通りである。看護
本節では看護職、介護職それぞれの評価を 「否定」 「肯定」
職は①患者の身体状態の把握と医療処置、②業務内容の決
に分けて分析を加える。なお、以下の引用部分は原文を用
定と分業の割り振り、③看護記録の作成、④次の勤務者へ
いるが、説明を要する部分には筆者が( )内に言葉を補っ
の申し送りなどで、介護職は、①患者への日常的ケア、②
ている。
経管栄養の準備や片付け・消毒、③痰の吸引器の準備・消
55
PROCEEDINGS 16
July 2011
3 − 1 看護職 職の主要な業務である医療的な業務では看護師に「負けた
1)否定的な評価
くない」と考えている。また、管理職でもある医師から、
既に述べたとおり、A 病院では、日常的ケアは介護職、
医療的業務の質を高めることを期待されることも、D さん
医療については看護職という分業がなりたっている。以下
に医療モデル的な視点のケアを重要なものと認識させてい
の F さんは、このような分業は、経営効率の観点で病院
る。
組織が決めたことを強調している。看護職と介護職が独立
して業務をこなすサービス提供体制は業務の遂行という点
本音を言えば、連携とか協働なんてこと、全然考え
で問題を感じることはないものの、分業に際して生じる職
てないですよ。自分の仕事を無事に終わらせるだけで
員間の軋轢は少なからず職員のストレスになっている。
精一杯。院長に(入院患者の容態を)報告に行くのが
夜勤の看護の仕事なんですけど、医者が欲しい情報が
ケアさん(介護職)はケアさんで連携なんかしなく
ないとか、間違った判断を報告すると「そうじゃない
ても仕事は回ってますよ。上(管理職)が看護とケア
だろ!」って怒られる。だけど、准看を育てようとし
さんの仕事を決めていて、一緒にやるように、なんて
てるのがわかるから、期待に応えたいんだよね。それ
言われていませんし。そもそも、管理職になるような
に、いつも(看護師と)比べられるから、負けたくな
エリート看護師さんは、ケアさんを(看護)助手とし
いっていうのかなー。患者さんも寝たきりで話ができ
か見てないし、そういう人の気持ちを分かってないと
ない人ばっかりだし医療の目は大事。看護師の人より
思う。(F 女性准看護師 職歴 20 年)
も余計に医療の目を磨かないと。だから、ケアさん(介
護職)にかかわってる余裕なんてない。(D 女性准
看護師 職歴 15 年)
分業のあり方などをトップダウンで決定する病院組織自
体に協働を妨げる要因を見出す語りには、以下の H さん
の様なものもある。
これに対して、分業によって生じる職種間の関係の薄さ
も協働を難しくする要因の一つとなっている。
私、一般病床に勤務してた時に、突然、療養病床に
異動だって言われて。ちゃんと働いてきたのに突然。
具合が悪い患者さんがいるのに、ケアさん(介護職)
でも、新しく看護師の人が一般病床に入るのを知って
は、おしゃべりしながらチンタラおむつ交換してる。
ぴんと来た。ああ、准看はいらないんだって。(略)
おかげでこっちはバイタル(サイン)もとれないし、
ここは看護師の資格もっていれば、始末書を書いたっ
処置もできない。あと、おむつかぶれがある患者さん
て大目に見てもらえるけど、准看は違う。資格とらな
の観察をしようと思って、夕方のおむつ交換の時間に
い自分の問題だって言われればそれまでだけど、プラ
いくわけですよ、ベッドサイドに。そしたら、「もう
イドはもうズタズタ。なんで、こんな仕打ちを受ける
終わっちゃいました」って。人が少ないと早めにおむ
んだろうって泣けましたよ。人を資格でランク付けす
つ交換をするらしいんだけど、午後 2 時とか 3 時に
るような会社(A 病院)だから、ヘルパーさんとか
やっちゃうみたいなの。夕方のおむつ交換を。そうい
無資格のケアさんは、私以上に悔しい思いをしてると
う感覚の人と、うまくやれるわけがない。(I 女性准
思うの。そもそも気持ち的に、うまくいくはずがない
看護師 職歴 6 年)
ですよ。(H 女性准看護師 職歴 10 年)
看護と介護の業務はまったく独立したものではなく、重
人員配置は経営上の効率性という点でなされるものだ
なりあう業務だからこそ協働に際してそれぞれのケアをめ
が、同一業務を担いながらも資格によって待遇が異なる看
ぐって批判が生じやすい。筆者は、1 フロアのおむつ交換
護職の場合は、その配置にさえ様々な意味づけがなされ状
を一人の介護職が行なっている現場に何度となく遭遇して
況が解釈されている。結局准看護師の H さんは、人員配
いる。介護職が、勤務終了時間までに一人でおむつ交換を
置のあり方に納得のいかなさを感じ、調査期間中に退職を
終わらせようとすると、早い時間から作業を開始しなけれ
した。分業と資格の序列が複雑に重なる現場での体験は、
ばならず、一概に介護職の感覚に問題があるとはいえない。
離職をするほどにネガティブな感情を高めてしまうことも
双方の職種が、お互いの状況を知らないことが様々な誤解
ある。
につながり、協働を困難なものにしている。
一方、教育課程が短いことなどを理由に、准看護師が劣
位にあると感じている D さんは、療養病床において看護
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療養病床における看護職と介護職の恊働
2)肯定的な評価 いケアしてるの。それを間近で見ていて、一緒にやっても
このカテゴリーに分類された語りは、集中的な加療がな
らえばいいんだって。看護の資格を背負って立つような人
い患者に対する看護に意味を見出すなど、介護職と看護職
間じゃないのに、介護さんの仕事がわからなかったという
を全くの異なるアプローチを用いる職種とは捉えない点に
のかな」(K)。彼女たちは、体力の衰えと向き合うことで
特徴がある。
資格への拘泥から解放され(介護職に手伝ってもらおうと
たとえば、非常勤の職歴 15 年の女性看護師 A さんは、
思えたことで)、介護職との協働がスムーズになったと振
「私、ケアの部分にやりがいを感じるタイプなんだと思う
り返っている。
んです。長くお付き合いしていると難しい事じゃないかも
この他に、男性であるがゆえに感じた連携の困難と、そ
しれないけど、意味がある仕事だなーって思えてきて」
れを乗り越えた経験を語ってくれたものもいた。
(A)。「だから、療養病床の仕事をしたいと思ってここに
就職をした」
(A)。介護職と一緒におむつ交換などを行い、
僕の場合、職種の違いだけじゃなくって、性別って
医療的な業務との兼ね合いを考慮しつつ日常的ケア業務も
いうのもありましたね。僕、自衛隊出身で、途中から
できる限り行っているという。現在も、もっともやりがい
自衛隊の准看学校に入って資格とったわけです。その
感を得られるのは、患者さんとの日常的なやりとりだとい
後、除隊して病院に就職してびっくり。やっぱり女の
う。また、非常勤の職歴 10 年の女性看護師 B さんは、週
社会だなって。医者の下で、使われるというか、媚び
二回の入浴日は必ず介護職と一緒に入浴介助を行ってい
るみたいなのに抵抗がありまして。ニコニコしなさい、
る。
医者のいい右腕であることを目指しなさいっていうの
に、ものすごく抵抗がありまして。でも、ちょっと前
ケアさんと一緒にお風呂介助をすると、ケアの部分
から、ナースが主役のテレビドラマなんかで、お局様
が広がります。(略)自然とケアの方向性とかを確認
みたいな威張ったナースというか、医者にとって使い
できるというか。療養(病床)は、病院の一部なんだ
勝手のいいナースが時代遅れみたに描かれるように
けど、ケア、私たちのケアが大事。腕の見せ所ってい
なった。ああ、やっぱり看護業界って変だよって、確
うのかな。それに、
(略)みんなで一緒に(入浴介助を)
信したというか。(略)ドクターやナースステーショ
やってると、ああ、いい仕事だな〜って思えるし、い
ンの雰囲気に媚びることなく、患者さんにとって必要
い表情を見せてもらえる。そういうのが単純に好きな
というか、自分で判断したことを主張していいんだっ
の。(B 女性看護師 職歴 10 年)
て思えて。なんというか、距離を置いたりできるよう
になった。僕らにとって、かなり、やりやすい時代に
なってきましたよ。(E 男性准看護師 職歴 15 年)
また、介護職として就業した後に准看護師や看護師の資
格を取得した C さんと G さんは「ケア(ワーカー)の仕
事をしてきたから、ケアさん(介護職)の気持ちがよく分
施設ケアの場には協働を難しくする要因が重層的に存在
かる」という。「ケアの子には、最初はなんでも一緒にやっ
しているが、利用者との関係の深まりによって集中的な加
て、極力疾患などについても説明します。病気のことが分
療をしない看護に積極的な意味づけがなされること、資格
からないから、看護(職)が怖いというか、何も言えないっ
への拘泥から解放されること、テレビドラマに登場する看
て思っちゃうんです。それに、ケアさんの仕事の内容もわ
護職のモデルを参照し、あるべき看護師像から自由になれ
かるから、極力、おむつ交換も手伝って、一緒にケアをす
たことなどが困難を乗り越える要因として語られていた。
るんだっていう感じをだす」ことで、「一人一人のケアを
一緒にやるっていう感じになる」(G)という。
3 − 2 介護職 一方、非常勤の職歴 30 年の女性准看護師 J さんは、「も
1)否定的な評価 う、退職の歳をだいぶ超えちゃって。体力がないからケア
介護職はおむつ交換や食事介助であれば自律的に行うこ
さんに助けてもらうんです。そういう意味で、連携はばっ
とができるものの、療養病床での看護職との協働では、自
ちり」(J)と述べる。非常勤の職歴 22 年の女性准看護師
らの専門性を発揮できないとして協働を否定的に評価する
K さんも「体力がなくなって分かったんですけど、療養(病
ものもいる。このカテゴリーのインフォーマントの多くが
床)は、医療とか注射じゃないの。看護の仕事の一番大事
介護保健施設や有料老人ホームなどで介護職員としての職
なところを、私はケアさんに助けてもらっています。そう
務経験をもっており、複数回の転職を経て、本施設で介護
なってみて初めて、資格にこだわって、患者さんのことを
職員として就業している。
抱えすぎていたって感じたんですよ。実際、ケアさん、い
57
PROCEEDINGS 16
July 2011
病院に就職したい子(介護職)は多いですよ。特養
疲れる仕事、汚い仕事はみんなケア(ワーカー)の仕
だと、看護師さんが当直しないから、医療は全部介護。
事だと思ってる。
(G 女性ヘルパー資格者 職歴 7 年)
夜中の急変や痰の吸引なんて、学校に行って勉強もし
てないんだから、とにかく不安で。私はどうしても不
看護さんが「○○さんのオムツ(排便)どうだっ
安だったから、病院ならばケアに集中できると思って
た?」って聞いてくる。見てもいないのに、さも自分
特養を辞めてここに来た。でも、最近は自分が死んじゃ
がみたように申し送りしてるみたい。そうかと思うと、
うって感じてます。こういうことはね、病院に移った
私たちが、患者さんの様子がおかしいっていうと「い
介護の子がよく言ってることなんです。散歩に行こう
つものことだから」って、見に行こうともしない。私
と思っても、やっぱり病院だから、ベッド柵やドアノ
たちは患者さん全体をみて、何とかして欲しいから報
ブの消毒をしたり、吸引瓶の痰を捨てる事の方が重要
告してるんだけど。一緒に働いていると悲しくなるこ
な仕事。そんな仕事に追われて介護ができない。介護
とばっかりですよ。
(J 女性ヘルパー資格 職歴 7 年)
の仕事が好きだからこの仕事してるのに。やっぱり施
設の方がいいのかなって思い始めてる。(M 女性ヘ
介護保健施設や有料老人ホームでの職歴がある介護職の
ルパー資格 職歴 5 年)
場合、療養病床においても介護職としての専門性を発揮し
たいと考えている。しかし、看護職との協働では看護助手
彼女たちは看護職とのアプローチの違いを見出すもの
的な業務に時間を割かなければならず、専門的なケアがで
の、「 こ こ は 病 院 だ か ら 」(M) 医 療 が 優 先 さ れ る の は
きないとして現状の協働を否定的に評価する傾向がある。
「しょうがない」とあきらめる傾向がある。彼女たちが介
ただし、ここでのインフォーマントの多くが 2 〜 3 年ごと
護職としてのアプローチを諦める要因は、以下の語りに見
に勤務先を変えており、また、実務経験で介護福祉士の資
出すことができる。
格を取得したものでも、「国家試験の合格は過去問を覚え
たっていう感覚で、就職の時には有利だろうけど、実際の
試験勉強をしていて、最近になって自立支援ってい
ケアの場面ではほとんど役立たない」(A)し、「自信にも
う言葉を知ったんです。介護のことでも知らないこと
つながらない」(E)、「資格をとってからは、介護福祉士
だらけで、資格があっても自信が持てない。ここは病
なのにこの程度のことも分からないの、っていわれそうな
院だし、ケア(ワーカー)の分際で偉そうなこと言う
プレッシャーを感じ、余計に萎縮している」(D)などの
なっていわれそうだし、返す言葉がないですもん。そ
ように、介護福祉士の資格を取得してもなお利用者へのケ
んなことは言えないですよー。(D 女性介護福祉士
アに対して自信を持てない介護職は多い。このような自信
職歴 7 年)
のなさに加えて頻回の転職なども重なり、協働の現状を否
定的に捉える介護職員の多くが看護助手的な仕事を受け入
彼女たちは、実務経験で国家試験の受験資格を得ており、
れている。
介護施設での就業経験があるとはいえ専門教育を受けては
いない。加えて、2~3 年程度で職場を離れる傾向があり、
2)肯定的な評価 研修に参加した場合でも体系的に学ぶことが難しく、学校
協働を肯定的に評価するグループは、さらに 2 つに分け
での教育課程を終えた看護職との協働の際には「資格が
られる。一つは、本施設で初めて介護職員としてのオリエ
あっても自信がもてない」という状況に陥りがちである。
ンテーションを受けた職員、もしくは、介護職として仕事
このような背景が、看護職との協働の困難をのりこえよう
をしながら看護学校の入学をめざしている経験が浅い職員
とする力を削いでいるのかもしれない。しかも、利用者と
の語りで、自らの業務を看護助手的なものと捉えて現状を
の関係の中で必要だと感じたケアを諦める中で、以下の語
肯定的に評価したものである。これに対して、もう一つは、
りのように、看護職との分業に対して強く不満を感じるよ
「協働」に関する成功体験を語るベテラン介護職員である。
うになっていく。
まずは、自らの業務を看護助手的なものと認識し、協働を
肯定的に評価した介護職の語りである。
私、離婚をしてこの仕事を始めたんです。老人ホー
ムよりも、ここの方が給料がよかったから常勤で。だ
私の仕事は、いかに看護師さんが仕事しやすい環境
けど、看護師さんでもできるオムツ交換とか、ちょっ
をつくるかです。こっちから看護さんたちに積極的に
としたコールでも、「ケアさん、○○号室お願い」っ
関わって、一緒に患者さんのケアをしようって。注入
て言うだけで、自分は詰め所から出ようともしない。
とか吸引とか、できるだけ看護師さんの手を患わせな
58
療養病床における看護職と介護職の恊働
いようにするとか、様子が変な方の観察を良くして報
私、在宅介護支援センターでヘルパーのサービス提
告するとか。私、看護学校に行く予定でここに勤めて
供責任者をしてたんですけど、痰の吸引とかでいろい
お金を貯めているんですけど、とっても勉強になって
ろと指示しなくちゃならなくなったこともあって、思
います。(L 女性ヘルパー資格者 職歴 6 年)
い切って病院に就職してみたの。ここに来てもう 8 年
もたっちゃった。(略)私、ウチの子どもには私の仕
看護師さんにいろいろと教わるし、長く入院してた
事の全部をみせてきたんです。こういう仕事は人が生
患者さんが退院するときはすごく良かったなって、嬉
きていく時には必ず必要なんだよ、すごい仕事なんだ
しくなります。でも私、ここしか知らないから。ケア
よって。(略)それもあって、うちの子は、他人のじ
(ワーカー)がどんなことをするのか、本当はよく知
いちゃんのトイレの介助なんかも自然にやれた。そう
らないから、他のところのケアの仕事、教えてもらい
いう子になってくれたのがすごく嬉しくてね。男で土
たいぐらい。まあでも、結局、ここは病院ですからね。
木の仕事してるけど、必ず役に立つからってヘルパー
看護助手さんみたいな感じかなって。(F 女性ヘル
の資格も持ってて。だから、私もしっかり仕事しなく
パー資格者 職歴 1 年)
ちゃって。(略)病院っていうなかで、点滴やるため
に縛られるご老人がいたりするんですけど、「今日は
まだ働き始めたばかりですけど看護師さんとは、
見てるから縛らなくていいよ」とか、その都度ナース
とってもうまくいっていると思います。教えてもらう
さんに言っていくんですよ。もうね、どんどん。「お
ばっかりじゃ悪いから、その分、力仕事をやっていま
散歩も行きますから」って言ってみると「案外、う
す。男ですから、そこを期待されますんでね。(H わー!ありがとう。私も連れて行きたかったの」なん
男性ヘルパー資格者 職歴 1 年)
てナースさんが言ってくる。(略)こういう風に言え
るようになったのは、子どもを育てたのと親の介護か
看護職が介護職に業務オリエンテーションをするなか
な。仕事で向き合ってると、患者さんにだって情が移
で、介護職は看護職的なケアのアプローチを身につける傾
るじゃない。なんか家族と一緒。家族にやられて嫌な
向がある。ただし、全員が白紙の状態で看護職的なケアの
ことは嫌っていうとか、普通のことを普通にやってる
アプローチ(医療的な観察や医療モデルに立脚したケア)
だけよ。(K 女性ヘルパー資格者 職歴 15 年)
を受け入れているわけではなく、職歴 1 年の I さんのよう
に、介護職を主人公としたマンガから介護職のモデルを見
療養病床では、持続的な高カロリー輸液(中心静脈栄養)
出し、自分の介護観をもつなかで連携の現状を評価するも
や点滴治療、胃瘻からの栄養剤の注入などの医療が提供さ
のもいる。
れるため、生活への支援は後景化する傾向にある。しかし、
そのような環境の中でもマンガなどのメディアで取り上げ
看護師さんには良く教えてもらって、いい関係で仕
られる介護職のあり方がケアモデルとして参照されるほ
事ができてると思います。(略)僕、『任侠ヘルパー』
か、職業経験や生活経験などを通してケア対象者の個別の
とか『ヘルプマン』とか、介護のマンガの影響でこの
生活支援の側面に意味を見出すことで、看護職との「協働」
仕 事 選 び ま し た。 思 い の 外、 男 が 少 な か っ た し、
を通して「生活の質」にかかわるケアを提供できる場合も
ちょっとイメージとは違って、看護助手みたいだけど、
ある。かれらが看護職とケアの目標を共有できたのは、実
『任侠ヘルパー』では、元ヤクザでも、最後には真っ
親への介護体験や職業キャリアから、要介護高齢者への日
当なハートっていうか、そういうのを理解してもらえ
常的ケアの側面に労働という概念以上の意味を見出してい
るんです。看護の先輩は病気の面だから、ぶつかりそ
たこと、ケアの対象者との相互作用過程が裏付けるケアへ
うな気もするけど、マンガみたいに利用者さんの味方
の自信、社会的に承認されているケアモデルの参照など、
になるっていうか。そういうのが僕のやりたい仕事で
介護職が、自らが指向するケア行為の裏付けを持ち、それ
す。(I 男性無資格者 職歴 1 年)
を看護職との相互作用において表明できていたからではな
いだろうか。
これに対して職歴 15 年の K さんは、実親への介護体験
4 考察
や職業キャリアから、要介護高齢者への日常的ケアの側面
に労働という概念以上の意味を見出していた。このような
ケアへの意味づけが、協働の困難を乗り越える原動力と
本稿では、医療を基本としながらも介護の機能を併せ持
なっていた。
つ療養病床における調査に基づき、看護職と介護職の協働
59
PROCEEDINGS 16
July 2011
に対する認識と評価を明らかにしてきた。両職種の語りの
療を基本としながらも介護(生活支援)の機能も併せ持つ
共通性と差異に着目して整理をしたところ、協働の現状を
ことでケアの目標設定の困難が必然的に生じるが、A 病
否定的に評価したものと肯定的に評価したものに分けるこ
院においては、職種や資格の違いに生じる感情的な隔たり
とができた。
によって「アプローチの問題」は解決されないまま棚上げ
今回の調査では、大部分の看護職(准看護師)が、自ら
の状態になっている。大規模病院における 7 対 1 看護 7 の
の仕事のやりがい観や待遇に関するネガティブな評価をも
実施により市中病院においては看護師不足に拍車がかかっ
とに「協働」についての評価をしており、一方、介護職員
ており、大規模病院には看護師、市中病院には准看護師、
の多くは、看護職との相互作用のなかで発言できないと感
あるいは、一般病床には看護師、療養病床には准看護師と
じるなど、日々の実践のなかで対象者の「生活の質」と医
いった配置が今後はますます明確になっていくのかもしれ
療の最適バランスを保つことが困難だと捉えていた。同じ
ない。一方、看護職の人員配置が少ない介護施設における
ケアを担う職員であっても、職務内容が生活か医療かの、
介護職への医療的負担の増加は、介護職の病院への転職意
どちらか一方に比重がかかる介護職と看護職だからこそ、
向を高めている。施設ニーズが相変わらず高いなか、東京
たとえチームとして共にケアに関わっていても、「協働」
都では医療療養病床が大幅に増床される予定である。要介
に対する評価が異なるのは当然だろう。
護高齢者の長期的な入院やショートステイの利用で在宅療
協働を否定的に評価する語りでは、准看護師であるがゆ
養を継続する要介護高齢者が増加することが予測される。
えに、影響力の強い管理職である医師の求めに応えようと
今回の調査では、看護職と介護職がケアの目標を共有する
することで、医療モデル的なケアを重要なものと意味づけ
可能性とその要因についても見出すことができたが、現状
る傾向がみられた。このような傾向は介護職の業務との差
では、個人の素養や努力による部分が大きいといわざるを
別化を鮮明にする方向に作用し、双方の職種が独立して機
得ない。ただし、看護職と介護職の関係の緊密化が共通の
能する分業のあり方も加わって、協働の困難を深める悪循
視点をもたらしていたことなど、今後の分業のあり方や資
環を生み出している。一方、介護職は教育課程の短さなど
格のあり方(看護職と介護職のカリキュラムの共通化)な
から自らの専門性を主張できないと捉える傾向にあり、自
どを考える際の検討材料を提供してくれていると思われ
律的に業務を遂行できないという点で「協働」を否定的に
る。しかしながら、現状としては「協働」にかかわる「ア
評価している。また、介護職員の多くが 2 〜 3 年ごとに転
プローチの問題」が棚あげされる中、ケア対象者へのケア
職を繰り返す傾向にあることも、介護職が自らのケアのあ
は、単なる分業の寄せ集めという様相が色濃くなることが
り方への自信という点で、異職種との間で目標を共有でき
推測される。経営効率の重視が今後も重要な課題となるな
ない要因となっていた。
かで、今回の知見は医療の場に限られた問題と考えるべき
これに対して、介護職と看護職がケアの目標を共有でき
ではないだろう。
た場合には、両職種の「協働」は肯定的に評価されていた。
今回の調査では、看護職のすべてが准看護師であったた
「単純にみんなでやるのが好き」「退職間際で体力的にきつ
め、取得資格による階層制が強調されていたと思われる。
くなった」「看護師資格を取る前に無資格でケアワーカー
資格取得の問題は、個々人の指向や自己責任の下に付され
をしていた」など、評価に際する語りは様々であったが、
ることが多いが、多くの准看護師やヘルパー資格者は、看
両職種が同一の対象者の処置や日常的ケアを相互に調整し
護や介護のサービスが制度化されるなかで半ば場当たり的
つつ分担するなど、共通の視点のなかで問題を拾い上げる
に創設された資格制度に翻弄される存在でもある。医療や
ような共同活動がなされているという特徴がみられてい
介護の財源不足が叫ばれ経営効率が重視される現状におい
た。また、医療モデル的なケアが支配的な状況のなかでも、
ては、自らの資格を「劣位」にあるなどと認識せざるを得
ケアの対象者との相互作用過程が裏付けるケアへの自信、
ないケアの担い手の状況を、あらためて見直す必要がある
社会的に承認されているケアモデルの参照など、介護職が、
のではないだろうか。
自らが指向するケア行為の裏付けを持ち、看護職との相互
(注)
作用において自らの立場を明確に意識できる裏付けをもつ
1
ことは、「協働」を促進させ、肯定的に評価することにつ
1980 年に WHO が発表した「国際障害構造分類試案」によ
ると、「機能障害」とは、さまざまな生物体レベルの構造的・
ながっていた。
帰納的な喪失や異常のことであり、「能力障害」とは、人間
個人レベルの障害で、コミュニケーション能力や対人関係能
個人病院から出発した A 病院のような規模の病院では、
力、作業や職業上必要な能力などの障害のことである。「社
病院を経営していく上で行われる合理的な人員配置に基づ
会的不利」とは、「機能障害」や「能力障害」により生じる
く分業は、現場の担い手の解釈を経ることによって様々に
不利益や問題のことである。この試案以降、いくつかの試案
意味づけられ、感情的な対立を生じさせる傾向がある。医
60
療養病床における看護職と介護職の恊働
2
が出されているが、本稿では、田村・山本(2000)の議論に
床が見込み通りに減少した場合を想定し、現在、東京都は独
あわせて、WHO の 3 分類のみを提示した。
自の保健福祉施策として医療療養病床の整備・強化を図って
中村(2003)は、看護職と介護職の力関係は場面によって複
いる(施設整備費の補助と医療スタッフを対象とした療養病
線的であるが、介護老人福祉施設においては介護職が優位に
床強化研修事業の展開)。しかし、入院先が確保できても療
立つ傾向にあると指摘している。生活相談職の場合は、利用
養病床の診療報酬の低さは変わらないため、同協会は、東京
者の日常生活には関与できないため、看護職や介護職の下位
都に対して医療療養病床への補助金制度の創設を求めてい
に位置するほかはない。ただし、家族からの情報を独占的に
る。
7
有することで時には両職種の上位に位置するという。
3
療養病床とは、慢性期の疾患を対象とした病床で、1992 年
医療保険から病院に支払われる診療報酬は看護態勢が手厚い
ほど多い。一般病床では、看護師 1 人が対応する患者数に応
の医療法改正時に「療養型病床群」としてスタートしたもの
じ、「15 対 1」「13 対 1」「10 対 1」「7 対 1」の 4 区分がある。
である。当時、「療養型病床群」は「病院または診療所の病
「7 対 1」は 2006 年の診療報酬改定で新たに設けられたもの
床のうち、主として長期にわたり療養を必要とする患者を収
である。最も多くの看護師が必要になる分、診療報酬は最優
容するための病床で、人的・物的に長期療養患者にふさわし
遇される。これにより看護師争奪戦が激化し、待遇などの条
い療養環境を有する病床群」と定義された。その後、2001
件が良い大病院に看護師が集中している。待遇改善などが不
年の医療法改正で、病床の区分を通じて病院機能が整理され、
可能な中小病院では、病棟閉鎖などの事態が生じている(
病院の入院ベッドは「結核病床」、
「精神病床」、
「感染症病床」
2010-06-11 朝日新聞 朝刊)。
のほかに、主に急性期の疾患を扱う「一般病床」と主に慢性
(文献)
期の疾患を扱う「療養病床」に分類されることになった。こ
の時点で、「療養型病床群」は「療養病床」に名称変更され
井上千津子,2006,「看護と介護の連携」『老年社会科学』28(1):
ている。一方、いわゆる社会的入院が社会問題化するなかで、
29-34.
2000 年の介護保険法施行の際に、介護保険の対象となる介
鎌田ケイ子・今磯純子・小西美智子・井上千津子,2006,「看護と
護療養病床と医療保険の対象となる医療療養病床に区分され
介護の連携に関する調査結果」『老人ケア研究』24,1-17.
た。さらに、厚生労働省は社会的入院の解消を目指し、2011
川上武・小坂冨美子,1992,『戦後医療史序説 -- 都市計画とメディ
年度末までに 38 万床ある療養病床を 15 万床に減らすという
コ・ポリス構想』勁草書房.
構想を打ち出している。なお、介護療養病床は 2011 年度末
中村義哉,2003,「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)にお
までに廃止されることが決定していたが、療養病床の再編に
けるケア労働の現状と課題—分業構造からみた施設ケア関係の
よって行き場を失う「介護難民」が発生することが懸念され、
実 態 」 社 会 政 策 学 会 編『 現 代 の 日 本 の 失 業 』 法 律 文 化 社,
厚生労働省は本年 2 月に、廃止期限を 2017 年度末まで 6 年
139-61.
間先延ばしする方針を打ち出している。
4
筆者は看護師資格を取得している。
5
調査対象病院の施設方針(「病院案内」パンフレットからの
柴田明日香・西田真寿美・浅井さおり・沼本教子・原祥子・中根薫,
2003,高齢者介護施設における看護職・介護職の連携・協働に
関する認識『老年看護学』7(2),116-26.
抜粋)。
6
田村誠・山本武志,2000,「保健、医療、福祉の連携と統合」三
筆者が行った東京都保険医協会へのインタビュー調査に基づ
重野卓・平岡公一編『福祉政策の理論と実際—福祉社会学研究
く。東京都はもともと療養病床が少なく、近隣県の療養病床
入門』東信堂,163-86.
に都民である要介護高齢者が入院(入所)している。療養病
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PROCEEDINGS 16
July 2011
Contemporary Inter-professional Collaboration between
Nurses and Care-workers :
Through Subjective Evaluation by Nurses and
Care-workers about Inter-profesional Collaboration
at a Long-term Care Medical Facility for the Elderly
Namiko YOSHIOKA
(Human Developmental Sciences)
Giving and receiving care is one of the primary functions of any society. In caring for those who are
vulnerable and dependent, societies express responsibility for toward their members when they are
unable to sustain themselves without help. In Japan, the long-term care insurance system was established
in 2005, and as partners, nurses and care workers were expected to increase cooperation of labor.
Subsequently, the problems of inter-professional collaboration have received heightened attention from
society. Although it is widely acknowledged that a team approach is important for social care-services, the
inter-professional collaboration of nurses and careworkers has not been very effective despite the
exteusive efforts. Previous studies about the inter-professional collaboration of nurses and care-workers
have revealed that there are two structural bottlenecks in team care performance: the difference in legal
systems and the difference in the care staff’s specialies(medical approach or the welfare approaches). In
this paper, these factors are discussed to through the fieldwork date, especially focused on the structural
bottlenecks of care staffʼs specialties. Through analyses, the problems of care staffʼs specialties related to
maeket rationality and/or hierarchized relations between nurses and care workers.
Keywords: Long-term care medical facility for the elderly, Nurse, Care worker,
Inter-professional colla boration, care
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