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4-3 ガイドつきツアー

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4-3 ガイドつきツアー
4-3
ガイドつきツアー
4-3-1 ガイドつきツアープログラムの企画
(1)楽しむ
人が楽しみながら何かを行う時は、心がおおらかで吸収力が向上し、
そのことで、より印象深い想い出となることが多い。ガイドつきツア
ーの参加者は、旅行先での楽しみとしてツアーに参加している場合が
∼POINT∼
ガイドつきツアーとは、ガイドが同行して自然や文化のガイダンスを行
うツアーのことである。
ガイドによるガイダンスでは、資源の説明に加えて、資源の価値を五感
を通して体感してもらうように旅行者に促すことが重要である。
多い。自然のことや環境のことなど、堅苦しく「これをしてはいけな
い」などと頭ごなしにうるさくいうことはできるだけ避け、同じこと
を伝える際にも、楽しませることを意識しながらメッセージを伝える
ようにする。
(2)感じる
ガ
ガイ
イド
ドつ
つき
きツ
ツア
アー
ーと
とは
は
ガイドが同行して自然や文化の
見るだけでなく、さわる、聞く、臭いをかぐ、などの五感を使うこ
ガイダンスを行うツアーのことを、
とが、見ることだけでは知りえない価値を体感させてくれる手段とな
ガイドつきツアーという。ガイドつ
る。普段人工的なものに囲まれた生活の中で忘れてしまった「自然の
きツアーは、旅行者の消費を誘発する高付加価値な観光商品として、
臭い」に気づくような感性を、参加者への働きかけによって呼び覚ま
エコツーリズムのシステム中でも最も重要な役割を果たすものである。
せるようにする。人間が本来持っている自然の中で感じる素直な感性
ガイドつきツアーの特色は、
をひきだすことが重要である。
・ 人が言葉によって伝える。
・ ガイドとツアー参加者の双方向のコミュニケーションがあ
(3)考える
一方的に知識を伝える
る。
・ ツアー参加者を見ながらガイダンスの内容や伝え方を替え
ることができる。
・ ガイドの働きかけによってツアー参加者の興味や感覚を引
き出すことができる。
だけでなく、ツアー参加者
に「どうして」と働きかけ、
考えてもらうことが重要
である。問いかけなどを行
などがある。この点において、セルフガイダンスと比べてガイドつき
いながら、その魅力へ興味
ツアーでは、ガイダンスの内容をより効果的にツアー参加者に伝える
をもってもらい、次にそこ
ことができる。
で謎解をすれば解説対象
ガイドによるガイダンスの実施は、資源の価値を単に説明すること
ではなく、その価値を五感を通して体感してもらうよう促すことが重
要となる。ガイドつきツアーでは、次の点に留意して魅力を伝えると
よい。
171
第4章.ガイダンス
への理解が一層深まると
いう効果がある。
「これ、なんだと思います?」鳥の羽を拾って
よく観察してみる。どうしてここに落ちている
のだろうか、参加者が考えることができるよう
誘導する。(北海道霧多布湿原)
第4章.ガイダンス
172
(4)想い出づくり
旅先での想い出が、日常生活に活力をもたらし、さらに環境への意
識を高めることにもつながる。ツアー中の驚きや楽しく快適な時間が
印象深い想い出につながる。これらはすべてガイダンスの内容やガイ
ドの演出にかかっている。
BOX4-6 ガイドつきツアー参加者の声
これまでは街中を歩いていても「あ、樹がある」程度にしか思っていません
でしたが、それら全てがそれぞれ意志をもって一生懸命に生きているという、
当たり前のことを初めて実感し、その生命力に感動しました。
(富士山エコツ
アー参加者:女性)
生徒たちが、教室で授業を受けるときよりも、何倍も活き活きとしたすてき
な顔をしておりました。(学校団体向けエコツアー引率教諭:男性)
「お母さん、こうやって風が吹くこの瞬間ってさ、本当に一瞬なんだね。も
う 2 度とないんだよ」キャンプから帰ってきた我が子の感じる心に、思わず
目頭が熱くなりました。自然の中にどっぷり浸かったおかげです。
(エコツー
リズム型キャンプ参加者の保護者)
(資料:ホールアース参加者のアンケートより)
173
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
174
ような演出が必要である。
特に長時間のプログラムでは、ストーリー性がないと飽きられてし
∼POINT∼
エコツアーのプログラムとは、シナリオにそって個々のガイダンスが配
置された一連の行程である。
まう。
②オリジナル性
エコツアーのシナリオは、他の場所で同じことが楽しめてしまうよう
ガイドつきエコツアーの
なものであってはならない。もし、資源が固有なものでない場合ならな
プログラムとは、シナリオ
おさら、オリジナルなプログラムでツアーを差別化する必要がある。例
にそって個々のガイダン
えば、具体的にその地域で生きたAさんの生き方を解説したり、今いる
スが配置された一連の行程である。より印象深いプログラムとするた
場所がどのように変遷してきたのかを伝えるなどする。その地域ならで
めには、プログラムの骨格として、プログラムを通じて貫かれるテー
はのオリジナルをプログラムを通してどのように見せるかが重要とな
マが重要である。
る。
エ
エコ
コツ
ツア
アー
ーの
のプ
プロ
ログ
グラ
ラム
ムと
とは
は
(3)プログラムの構成
(1)テーマ
テーマ設定はまず、プログラムを通じて伝えたいメッセージが何か
を考える。貴重な資源を対象としたプログラムであれば、その生態系
のすばらしさでもよいし、1 つの動物のおもしろい生態でも良い。テー
プログラムの基本的な構成は次の通りである。
①導入(つかみ)
プログラムの始まりの部分である。今から何がはじまるのだろうと
ツアー参加者の興味を刺激し、これから始まることに期待をみもたせ、
マを表現するためには、
・ メッセージを 1 つに限定する
集中力を高める。プログラムのテーマを紹介し、参加者に見通しを持
・ 短く、簡単な一文で表現する
たせたりする。
・ プログラム実施の目標を明らかにする
②プログラム本体
などを念頭において決めるとよい。
シナリオにそって個々のガイダンスを行う部分である。効果的なテ
クニックをもちいて、印象深くメッセージを伝えるように心がける。
③まとめ(ふりかえり)
(2)シナリオ
テーマに沿って展開されるプログラムの台本がシナリオである。1 つ
のストーリーに基づいて話題が進み、起承転結のような構成にも配慮
プログラムを振り返りながら、自分の伝えたかったメッセージが伝
わったかを確認したり、テーマを要約して再度説明する部分である。
するとよい。
①ストーリー性
シナリオは、ツアー参加者に飽きられないようにメリハリのある内
容構成とする。プログラムの中心となるメッセージを伝える部分は、
場所やタイミング、そこにいたるまでの過程を含めて最も盛り上がる
175
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
176
177
(導入)
普段使ったことのない双眼鏡を渡され、これからスタートす
る自然観察へのワクワク感をふくらませる。未知の世界へ
の入り口の流出もつかみである。
(北海道霧多布湿原)
(まとめ)
地図を見ながら、たどってきた行程を確認し、そこでの
出来事を振りかえる。まとめによって伝えたかったメッセ
ージがうまく伝わったかを確認する。
(長野県軽井沢)
(導入)
ガイドが声をはりあげて行う自己紹介が、最も一般的な
プログラムの導入である。(長野県軽井沢)
(まとめ)
パーティーを開催して、プログラム全体を振りかえる。
演出効果によって、より想い出深いツアーとなるだろ
う。
(長野県軽井沢)
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
178
(2)体験
解説を一方的に聞くだけでなく、自らさわってみたり、匂いをかい
∼POINT∼
魅力を伝えるテクニックには、「コミュニケーション」、「体験」、「道具の
活用」などの方法がある。
でみたり、五感を使い実体験を行なうことで、より実感がわき、解説
の理解促進が強まる。ガイドは、ツアー参加者を積極的に実体験させ
るよう促すことが重要である。
解説対象の魅力や、ガイドが
魅
魅力
力を
を伝
伝え
える
るテ
テク
クニ
ニッ
ック
ク
伝えたいメッセージを効果的
「ちょっと臭いをかいでください。」参
加者は、興味しんしんにくまの糞の
なかを覗き込んで匂いをかいだりつ
ついたりする。(長野県軽井沢)
に参加者に伝え、印象を深める
ためには、数々のテクニックを駆使することが大切である。
(1)コミュニケーション
コミュニケーションには、言葉によるコミュニケーションと言葉以
外によるコミュニケーションがある。言葉によるコミュニケーション
は、会話を楽しむだけでなく、トーンや速さなど声の調子をかえるこ
とによって、話しにメリハリがつきツアー参加者の集中力を高めるこ
(3)小道具
とができる。わかりやすい平易な言葉づかいに気をつける。身振り手
口頭の説明だけではなかなかイメージがわかない事象の説明をする
振りなどのジェスチャー、表情の変化を交えた言葉以外のコミュニケ
際、小道具を使って理解の促進を図ることができる。遠くからしか見
ーションもうまくからませて、ツアー参加者に効果的にメッセージを
えない、どこかで鳥の鳴き声がする、季節をかえればここで遭遇する
伝える。
動物がいる、今はなくなってしまったが昔はここに建物があった、な
どは、あらかじめ用意した図鑑や写真などを見せながら説明するとよ
い。小道具には、例えば図鑑、地図、写真、紙芝居、音声テープ、サ
ンプル等がある。
「この森にはこんな動物が住んでい
るんですよ」カラー写真を見せイメー
ジをふくらませる。(長野県軽井沢)
身振り手振りをまじえながらガイダ
ンスを行なっているガイドの話を、
真剣にツアー参加者は聞いてい
る。(北海道霧多布湿原)
179
ガイドが体を使ってオオワシの動きを
真似てみせる。遠くにしか見えないオ
オワシの動きをわかりやすく理解さ
せる工夫をしている。(北海道風連
湖)
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
180
事例4-5 効果的な小道具の使用例―東大雪
開拓の時期、橋の上に通っていた列車の説明をする際、参加者には目をとじ
させ、音声テープでその場を通る列車の音を流し、その当時の様子をイメー
ジさせる。参加者は開拓の時期にタイムスリップし、森のなかを走る列車に
思いをはせることができる。
BOX4-7
プログラムの作り方
<その 1>「プログラム」を作る
プログラムつくりには「思いを形にする」までの一連のセオリーがあり、
種々の研修会ではその要件を押さえて実施するように講義し、実際にプログ
ラムつくりの実技研修も行われる。しかし、そうした研修会を企画し、講習
する立場からあえて言えば、プログラムというものはそうしたセオリーをい
くら学んでもいいものは出来ない。
マニュアルをいくらよく読んでも車は運転できないのと同じで、とどのつ
まり、実施者がどれだけ熱意を持ってプログラムの舞台を歩き、そこに隠さ
れているあらゆる情報について発見し、自分で咀嚼できるかにかかっている
といっても過言ではない。
ここで注意しなければならないのは、
「地元住民」であればそうしたフィー
ルドについて熟知しているという勘違いだ。そこに生まれ育ったがゆえに見
えないことは多い。
そこを初めて歩く子どもの目、ようやくやってくることが出来た旅人の目
で見ることだ。
何気ない小道や看板、家々のたたずまい、風、天蓋の樹木、動物や人間の
痕跡、あらゆるものが魅力を持って心に響くようになれば、そこから見えて
くるメッセージがおのずから「何を伝えたいのか」という形になってくる。
ホールアース自然学校がよく知られるように『年間 200 日フィールドに出
る』というトレーニングを実施しているのは、徹底して歩くことで見えてく
るものがあることを実感しているからだ。好奇心と疑問は科学の出発点だが、
それはまさにフィールドにある。
私自身、好奇心と冒険心に押されて幾十年も歩き続け、それが後年、湯水
のようにプログラムとなって湧いて出てきた経験を持つ。
181
第4章.ガイダンス
そうして生まれたプログラムでも、完成ではなく、じつは永遠に未完成な
ものだ。プログラムは現場と参加者の評価に晒されることで価値を持つ。プ
ログラムは生きものでその場の空気や参加者など対象に応じ、そして実施者
自身の成長にも応じて変化する。だから固定化されたプログラムは生き物の
ダイナミズムを失う。ホールアース自然学校では毎日、プログラム実施後に
自己評価を行い、昨日上手くいかずにしょげていたスタッフが今日は晴れや
かな顔で帰ってきたりする。これがプログラム実施者の喜びであり、プログ
ラムはまたこの日に新しくなったのだと実感する瞬間だ。
<その 2>「採取型プログラム」について
中山間地域や島嶼などであらたにエコツーリズムを導入しようとする場合
に、地域の資源や楽しみ方などを発掘する「宝探し」と呼ばれるワークショッ
プを実施することが多い。
そこでは、地元のお年寄りや「名人」がそろって同じ傾向を示すことがよく
ある。それが「採取型プログラム」の提案である。
日本の伝統的な暮らしが残る中山間地域や島嶼では、つい最近まで山野草、
木の実などや、イノシシ、魚介類の採取などが暮らしに直結していた。これ
らはお客への「ご馳走」であったり、内輪だけで食べるために「粗食」と言わ
れかねないという心配もあわせ持つ食文化だったといえる。ところがすでに
そうした食文化を持っていた住民自身がそれを捨て、全国どこでも共通の食
事を摂ることが可能になった今、かつての伝統的な採取型の食文化が「郷土
食」「珍味」として受け入れられるようになった。
エコツーリズムのプログラム提案で多く出される「採取型」のプログラムは
こうした自然界の動植物を獲るところからプログラムにしようという企画だ。
これは確かに外部社会からの訪問者にとってはある意味ダイナミックであり、
魅力的である。
「ここでしか得られない」という点でもツーリズムの優れた要件である。で
も、もうひとつの重要な要件である「持続可能であるか」という点ではどうだ
ろう。かつて地域の限られた口数だけを賄っていた自然界の恵みも、プログ
ラムとして過剰な採取が行われてしまうことで資源が絶えてしまう危険を見
なければならないだろう。安易な採取型プログラムで資源の枯渇を誘うこと
なく、地域の伝統的な食文化の習慣、行事を維持し、その範囲で訪問者が食
文化の主役になることなく体験できる仕組みをつくることが必要だ。(広瀬
敏通)
第4章.ガイダンス
182
(2)不便性
利用の仕方に制約があるようなもの(歩かなければいけない場所、
∼POINT∼
プログラムの魅力は、「意外性」「不便性」「とっておきのサービス」を加
えることでより高まる。
この時期でないと入れない場所など)を逆に楽しむという発想がある。
「不便」がエコツアーでは逆に意味があるものとなる。
「特別」が付加
価値を生み、不便が環境行動につながるのである。
プ
プロ
ログ
グラ
ラム
ムの
の魅
魅力
力ア
アッ
ップ
プ
明確なテーマと優れたシナリ
道路を通さず、自然の保全と
観光利用で楽しむシステム作
りができている。ガイドと一緒
にカヤックとトレッキングを手
段にエコツアーを楽しむ。
(ニュージーランド・アベル・タ
スマン国立公園)
オにさらにスパイスとして意外
性やとっておきのサービスなど
を加えることによってプログラムの商品価値は高まる。
(1)意外性
「まさか」
「えっ」という参加者にとって意外なもの(こと)が楽し
みにかわる。意外性を与えることができれば魅力はさらに付加価値を
(3)とっておきのサービス
増す。
長時間歩き回ることにより、参加者の集中力は低下する。例えばコ
ースの折り返し地点や、ガイドのお気に入りの場所での休憩時、暖か
寝転がってオオワシを観察中。
冬の期間、凍った湖の上だから
こそできる環境を満喫できる。
「寝転がって観察する」という意
外性が参加者には非常に受け
る。(北海道風連湖)
い甘い飲み物などのサービスがあると、疲れた体にしみ、後半へのよ
いきりかえとなる。また、リラックスしながらガイドと参加者とのコ
ミュニケーションの時間ともなる。このようなちょっとしたサービス
は、タイミングや場所等の演出で参加者にとってはとっておきのサー
ビスとなる。
暖かい甘い飲み物のサービ
スが、参加者の疲れた体を癒
す。(北海道白金温泉)
183
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
184
<ガイドに求められる力>
∼POINT∼
ガイドは、参加者のニーズに応え満足度を高める、危険回避、環境へ
の影響を軽減するための誘導などの役割をもつ。
ガ
ガイ
イド
ドの
の役
役割
割
ガイドにとって最も重要なことは、参加者のニ
ーズに応え、いかに満足度を高めるかである。一
方で、ガイドは、自然の中での活動で発生しうる
基礎的な力
(プロのガイドと
して最低限備え
ておくべき力)
高度な力
(プロのガイドと
して商品力の向
上につながる
力)
技術
知識
意識
安全管理力
基礎的なコミュニ
ケーション力
解説素材に関する基
礎知識
フィールド保全のた
めのルールの理解
解説素材に関する専
門的な深い知識
対象地域の社会文
化や自然に関する深
い知識
参加者 満足 に 気を
配る基礎的なホスピ
タリティ
参加者の気付きや
発見、深い興味を
引き出す力
思慮深さや哲学(オ
リジナリティ)
危険を回避し、また自然環境などへの影響を軽減するようにツアー参
加者を誘導しなければならない。
さらにツアー参加者が自然や地域文化などへの興味をもち、自然を
見る力をつけて最終的に環境行動へつなげていくようなきっかけづく
りの役割も期待されている。そのためには、
「楽しく安全に」を基本と
し、
①自然や文化を解説する「ガイダンス」
②野外活動技術を指導する「インストラクション」
③参加者の活動への参加意欲を高めたり、活動を促進させたりする
「ファシリテーション」
④交渉・調整する「コーディネーション」
という役割が必要となる。
エコツーリズムにおけるガイドとは、ガイダンスを行う者全般を指す。
自然解説員や自然ガイド、またはインタープリターと呼ばれることも
一般にはバスガイドは、文字から得た限られた情報を、マニュアルに従って、
一方的に発表し、旅行者は聞く側に位置づけられている。旅行者の質問はバ
スガイドのシナリオ内にとどまり、双方向コミュニケーションは成立してい
ない。また、バスガイドはその状況によって内容を変えたり、臨機応変に対
応したりすることはほとんどない。さらに、通常広範囲に移動する従来型の
観光では、バスガイドは訪問地の住民であることは少ないため、リアルタイ
ムの情報は得にくい。
それに対し、エコツアーのガイドは、まず参加者を楽しませるエンターテ
イナーの役割をもち、地域の様々な魅力について深い知識と豊かな経験をも
っており、その日の天候や参加者の顔ぶれに応じて、その場で話す内容やル
ートを最適なものに組む立てなおすことができる。地元で生活しているため、
地域レベルの最新情報をもっている。加えて実際に現場を何度も歩き、納得
いくまで調べ、フィールド内の細かな情報までも自らのものにしているため、
参加者からの質問などその場に応じて臨機応変に対応することができる。
参考:
「インタープリテーションプログラムによる地域の誘客戦略づくりに関
する調査報告書」国土交通省総合政策局観光部(平成 13 年)
ある。
185
BOX4-8 エコツアーにおけるガイドとバスガイドの違い
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
186
BOX4-9 プロガイドとアマチュアガイド
高いレベル
アマチュアのベクトル
プロのベクトル
ガイドは、あの手この手でツアー参加
者を楽しませる。自然学者でもあり、
エンターテイナーでもある。
非専業
専業
公的施設のベクトル
低いレベル
(広瀬
農村での生活ぶりを語る農家の主も
立派なガイドとなる。
敏通 2004)
◆プロとアマチュア、公的施設の品質レベルのベクトル
エコツーリズムを担うガイドの主体は、ビギナーで片手間のかかわりから、
熟練した専業へと向かう。ボランティアガイド団体でもコーディネーターや
事務局は専業化していく。
専業化しないボランティアも引きつづき重要な層を占めるが、その質は高い
ものが求められるようになり、自己目的化したボランティアは役割を狭めて
いく。
行政、公的施設担当者も役割に応じた専門的な調整実務能力を必要とされる。
(広瀬 敏通)
地域の歴史を身振り手振りで伝える、
いわゆる「語り部」もまた、ガイドとい
える。
187
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
188
BOX4-10 プロガイドとアマチュアガイド
BOX4-11 ガイドに期待すること
ユーモアをまじえた楽しい語り口
48.3
普段知ることのできないような専門的で深み
のある、おもしろい情報
42.4
プロガイド
幅広く、豊富な知識と情報
アマチュアガイド
37.3
自然との接し方など、参加者の興味を引き出
すテクニック
34.4
安全への配慮
プロアマの富士山モデル
(CONE1999)
プロは比較的高い質を持つものが多いが、初級のプロもいる。
アマチュアは広い裾野を持つが、専門的技能の高みを持つ人もいる。
◆エコツーリズムを担うガイド、リーダーには、ボランティア的に関わるア
マチュアと専業ないしは専業を目指すプロとがおり、さらに行政担当者や公
的施設職員がエコツーリズムのコーディネーター、仕掛け人機能を持つこと
も多い。
ガイドの品質から見ると、ボランティア的かかわりのアマチュアにもガイド
として求められる専門的な知見や配慮があり、行政担当者、施設職員も幅広
い調整能力や実務能力が必要であり、総じて高品質に向かうベクトルが働い
ている。
「自分はボランティアだから(何も知らないが)。」「あて役だから(顔を出して
いるだけ)」という意識では役割を担うことは出来ない。
一方、プロにも切磋琢磨して自分の品質を磨き高める意識が薄い人や、看板
だけのプロもおり、市場淘汰されざるを得ない。
◆エコツーリズムには事業性と社会性とがあり、社会性のみで捉えると、「ボ
ランティア」であることを優位性のように思う人も出てくる。この場合、「ガ
イドして金を稼ぐのは邪道」と短絡的に考える傾向が見られる。一方の事業性
のみで考えると、自然や地域社会への配慮が足らなくなり、長期的には上手
くいかない。
事業性と社会性とを両立させる新しい事業観がエコツーリズムには不可欠だ。
(広瀬 敏通)
189
第4章.ガイダンス
33.0
ツアー途中の食事や休憩などにも趣向を凝ら
したエンターテイメント性
26.7
ガイドとしての経験の豊富さ
24.8
参加者の心の安らぎを導くような解説
24.3
参加者の知的な興味を刺激するような解説
23.9
その解説分野における専門的能力の高さ
14.3
小道具を上手く活用した分かりやすい解説
8.2
ガイド個人の哲学や人生経験
4.4
0
10
20
30
(%)
40
50
(データ:(財)日本交通公社(2001 年調査))
第4章.ガイダンス
190
60
(2)食材
4-3-2 エコツアーのマーケティング
ツアーで使用する食材は、地元から調達するよう心がけるようにす
る。また、食べ残しがないように食事のメニューや量に配慮する。食
∼POINT∼
プログラムを販売するために、価格、食事の有無、募集人数、保険加
入の有無などの諸条件を加えてツアーとして商品化する。
事は、旅行の中でも、最も楽しみにしている要素の 1 つである。食事
場所の環境に気を配りながら、驚きや楽しむ演出があるとよい。
(3)備品
プ
プロ
ログ
グラ
ラム
ムの
の商
商品
品化
化
エコツアーはガイダンスが配置された
ツアーで使用する備品は、地元から調達するよう心がけるようにす
プログラムに加えて、移動、食事、休憩、
る。自然素材を用いるなど、環境にも配慮するとよい。紙コップや紙
宿泊などの一般的な旅行を構成する要素
皿など使い捨てのものを利用しないようにする。
が加わり、さらに募集人数、保険加入の有無、そして価格が明示されて
商品となる。それぞれの要素の組み合わせにおいても、参加者満足度の
向上を目指した演出意識と、環境への負荷に配慮することが望まれる。
(4)休憩(トイレ)
ツアー実施前に、必ずトイレを済ますよう説明する。また、エコツ
アーのルート上はトイレの設備があるところで休憩をとるようにする。
長時間トイレの設備がないコースでは、携帯トイレを持参するよう心
(1)移動
がける。
交通手段を使った移動を
ともなう場合は、エネルギ
ーを最小限に抑えるように
BOX4-12 ツアー商品とプログラム
配慮する。車を利用した移
動の場合は、車でしか行け
ないのか、距離を短くする
ことはできないか、低燃費
な車へ切換えられないか、
などを考慮する。また、車
以外の他の代替手段がない
か考え、きりかえてみるの
もよい。マウンテンバイク
マウンテンバイクを移動手段としながらでツ
アーが展開される。(北海道霧多布湿原)
例えば東京発屋久島へのエコツアー(3 泊 4 日、白谷雲水峡ウォークへの参
加が組み込まれた主催旅行)の場合、3 泊 4 日の旅行はツアー商品であり、
白谷雲水峡ウォークは、参加者にとってはあくまでも交通、宿泊や食事と並
んだ旅行の1部構成要素に過ぎず1つのプログラムである。一方で、白谷雲
水峡ウォークは、現地発着の主催型商品としても販売されており、この場合
はツアー商品であるといえる。外部から見て誰が主催者なのか、によってと
らえられる 1 つの形がツアー商品ともいえるし、プログラムをどんな形であ
ろうと販売した側がすべてをツアー商品と呼ぶ場合もある。
や馬など、それに乗ること
が、ツアー参加者にとってかっこよく、それ自体が楽しいものである
となおよい。
191
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
192
②季節性
∼POINT∼
エコツアーには、「自然を対象としている」、「ガイダンスが商品力に直
結する」、「商品内容が事前に伝わりにくい」、「間際申し込みが多い」、
「形のないサービス商品である」などの特性がある。
季節によって解説の素材が異なるので、季節性に応じた複数のプロ
グラムを販売する。また、一般に観光地への入り込み客数は、季節変
動が大きいのでオフ期対策として閑散期の魅力的なプログラムの開発、
会員組織を作るといった、リピーター作りの販売促進手法の導入など
を考えるとよい。季節による利用客数の変動の問題は、エコツアーだ
エ
エコ
コツ
ツア
アー
ーの
の特
特性
性
エコツアーには、一般の観光商品とは異な
る以下のような特性があるので、
ツアー商品
化の際には留意が必要である。
けではなく、四季の特徴が明確な観光地であれば抱えている悩みは同
じである。地域内で連携した対策づくりを考えるとよい。
③自然環境対策
人間がだしたごみに熊が近づくようになった、登山道の侵食が激し
(1)自然を対象としている
く幅が広がってきた、といった不適切な利用にともなう自然環境改変
①悪天候
への対応が重要である。野生生物には餌をあげない、ごみは持ち帰る、
雨が降ってしまった、台風が通過予定である、といった悪天候への
植物は採取しない、といった基本マナーに関する説明の実施や、少人
対応策が必要である。代替プログラムの準備や、どのくらいの雨だっ
数でツアーを実施する、同じ場所を歩かないようにし分散を図る、と
たら催行するのか、という催行基準をあらかじめ用意する。特に旅行
いった自然への負荷を最小限に抑える行動などが考えられる。
会社を通じた委託販売の場合、催行判断を誰が行うのかをあらかじめ
契約事項にいれておく必要がある。
(2)ガイダンスが商品力に直結する
①ガイドの力
エコツアーへのクレームの中で最も多いのは、ガイドの説明がおも
雪まじりの悪天候の中でのツアーの実
施は、自然そのものを逆に楽しむという
発想も大切であるが、常に危険ととなり
あわせであることを肝にめいじなければ
ならない。(北海道ニセコ)
しろくなかった、違う参加者とばかり話しをして花の名前を聞いても
答えてもらえなかった、といったガイドへのクレームである。ガイド
の資質向上には常に留意する。
②ガイダンスの内容
内容がつまらなかった、などガイダンスの内容に関するクレームも
多い。対応としては、ガイダンスの内容を定期的に見直し、魅力の伝
え方や季節ごとの素材の選定、シナリオの変更などを行う。また、間
違った情報を伝えないよう専門家との連携も欠かせない。
193
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
194
(3)商品内容が事前に伝わりにくい
こんなに長く歩くとは思わなかった、双眼鏡をもっていればもっと
おもしろかったはずだ、といった不満に代表されるレベル設定や備品
などの情報不足が原因のミスマッチへの対策が必要である。そのため
には、販売ツールへの必要情報の記載漏れ防止、申し込みを受ける接
客サービスの見直しや事前情報提供システムの構築などにより、服装
や装備、レベル設定などのツアー内容に関する事前インフォメーショ
ンの徹底を図る。
(4)間際申し込みが多い
天候や体調、その日の気分に応じて、現地に着いてから時間の過ご
し方を決めるという旅行スタイルが定着しつつある。突然の申し込み
に対しても対応が可能なように、ガイドを常に確保しなければならな
いなど、間際対応は手間もコストもかかる。そこで、周辺観光事業者
などとの連携による間際予約システム(キャンセルポリシーなどのル
ール作りなども含む)の構築を検討するとよい。滞在客の増加をめざ
す観光地であれば、そのためのソフト作りが欠かせないが、エコツア
ーはそういった地域ニーズにマッチしたものといえる。
(5)形のないサービス商品である
エコツアーを含めツアー商品に共通する特性として、人が提供する
サービスなので利用前に見たり試すことができない、在庫として保管
できない、再販できない、同じ体験を提供できないといった点があげ
られる。
195
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
196
(1)観光客を調べる
∼POINT∼
ターゲットのニーズに応じた商品展開やガイダンスを実施することが重
要である。
エコツアーのターゲットは、解説の対象となる自然と文化に対する興味
の度合い、によって区分するとよい。
・ 観光客はどのくらいの人数が、どこから来ているのか
・ 通過客、宿泊客はどの程度か
・ 観光客は増えているか
・ オンシーズン(繁忙期)
、オフシーズン(閑散期)はいつか、
またその客数は
・ どのような観光客がきているのか、個人客か団体客か、修
タ
ター
ーゲ
ゲッ
ット
トの
の設
設定
定
エコツアーの継続的な実施のためには、
学旅行などの学生か、旅行会社経由なのか個人手配なのか
喜ばれる商品とはどのようなものか、どの
・ 誰と一緒に来ているのか
ような「お客様」に、どのような方法で販
・ 旅行の目的と移動手段はなにか
売すると効果的か、ということを調べて、それに対する有効な戦略を
うつことが、他の観光商品と同様に必要となる。
「自信をもって作った
・ どのくらいのお金を使っているか
(2)宿泊施設関連情報を調べる
エコツアーなのに、なぜか喜んでもらえない」、「なかなか参加者が集
・ 宿泊収容人員はどの程度か
まらない」といった悩みをよく耳にするのは、参加者が望むサービス
・ どのようなタイプの宿泊施設があるのか
や体験を提供する、という基本的な視点を、エコツアー実施者が軽視
・ エコツアー実施場所からは距離はどのくらいか、その交通
しがちであることに起因する場合が多い。エコツアーは、あくまでも
「人」を相手に行うビジネスであることを忘れてはならない。
ターゲットを決めるにあたって、まずはどのような観光客が、いつ、
どのくらい訪れているのかを調べる。地域の観光統計(各市町村などの
観光課、観光協会など)や、観光ブックなどの文献調査を行うとともに、
既に多くの観光客が利用しているホテルや観光施設などへのヒアリン
グ調査を行うとよい。データではみえない観光客の行動や意識などに関
する考察がえられることもある。調査の項目としては次のようなものが
ある。
機関は、所要時間は
(3)観光施設関連情報を調べる
・ どのような観光施設があるのか
・ エコツアー実施場所からは距離はどのくらいか、その交通
機関は、所要時間は
(4)エコツアー関連情報を調べる
・ どこでどのような(ライバル)エコツアーが実施されてい
るか
・ どのようなエコツアーガイドがいるか
・ どのような人が参加しているか
197
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
198
旅行者は、様々な切り口でタイプ分類される。そのタイプごとの特
性をつかみ、基本情報の収集と分析で発見した地域を訪ねる観光客特
性や自分が提供するエコツアーの強みや弱みを活かしながら、ターゲ
ットを設定する。旅行マーケットは、性別や年齢、子供の有無といっ
たライフステージによって区分され、それぞれ同じマーケットとして
特徴づけることができるので、既存のマーケットデータなど参考にし
て、主なターゲット、補完するターゲットを季節に応じて設定すると
よい。
しかし、エコツアーは一般に、目的が明確に設定された旅行であり、
ターゲットのニーズに応じた商品展開やガイダンスを実施することが
ターゲットの設定では重要である。この点においてはエコツアーのタ
ーゲットの区分は解説の対象となる自然と文化に対する興味の度合い
によって、対象となる旅行者を区分するとよい。自然に対する興味水
準の似かよった参加者を 1 つのグループとしてエコツアーを実施する
ことによって満足度を高めることにもつながる。
BOX4-13 旅行行動(エコツアー体験の志向)による旅行者の分類
旅行行動(エコツアー体験の志向)によって、旅行者は 3 タイプにわけられ
る。これは、場所を管理する側からみると、場所とリクリエーションパター
ンを同時にコントロールすることができる可能性があり、
「この場所では、こ
のような使い方がしたい、だからこのようなタイプをターゲットにする」な
どエコツーリズムを実践していく上でとても有益なタイプ分類である。アメ
リカの国立公園は、体験の質に重きをおき、これと比較的近い考え方をもと
にした管理方法が基本となっている。
①エコツーリスト
持続性を最優先し強い環境保全への行動をとる。少人数で、比較的長期の、
体力的にハードな体験を好み、自分個人の体験に重きをおく。過剰なサービ
スは期待しない。しかし、原生の自然を好み、型どおりのものは嫌い奥地ま
で入り込むため、結果自然に与える影響は大きく、このタイプの割合が増え
ることは避けなければならない。ただし、ストーリー性のある、このタイプ
を満足させるような質が高く体験としても充実できるようなエコツアーが増
えれば問題は減る。
②マス・エコツーリスト
現状維持派で環境保全への行動は穏やかである。団体グループでの自然解説
プログラムのような、半日程度の受身の体験を好む。そのため、利用マナー
が良い。快適なホテル、便利な移動手段を使って旅行を楽しみ、買い物をす
るのと同じように、1 つの素材として気軽にエコツアーに参加する。この場
合、個人客のレンタカー客のような、特に団体という形式をとらないものも
含まれる。このタイプは、有名な花の咲く時期や紅葉などに、希望時期や場
所が集中するのが特徴である。稀少な生態系をもつ国立公園などを含むエコ
ツアーには、限られた場所で型どおりの利用をするため、このタイプの客は
メリットをもたらすことが考えられる。利用時期の分散が課題である。
③マスツーリスト
快適なホテルと便利な移動手段で、効率的に多くの観光地を少しの見学時間
で移動しながら旅行を楽しむ。自然の景観は好きではあるが、単純に見るだ
けである。このタイプは、同行者によってマス・エコツーリストにもなる。
199
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
200
BOX4-14 ニーズとフェーズ
参加者の特徴を的確に把握しそれに応じたプログラムを提供することは、エ
コツアーを商品とする場合に非常に重要である。参加者の特徴づけは、年齢、
性別、家族か友人か、職業、居住地、参加の目的、興味、過去の体験、参加
の目的など、様々な観点で行うことができる。
ツアー参加者のニーズを探り、それに応じたプログラムを提供しなくては、
伝えたいメッセージも伝わらないし、参加者の満足を得ることもできない。
ニーズも様々な観点から特徴付けや分類することができる。自然環境や野生
動植物を対象にしたツアーの場合、自然に対する興味の度合いを基準に分類
することができる。以下の紹介は、小河原孝生(1998)*の分類を参考にし
て、少し表現を変えたものである。(南 正人)
<フェーズ 1> :自然に対す
る興味はあまりない。時に
は、自然の中でのんびりと
過ごしたいと思う。
<フェーズ 2>:どちらかと
いうと自然に対する興味は
あると思う。自然の中で過
ごすことは好きなので、そ
こで楽しい体験をしてみた
い。
<フェーズ 3>:自然に対する
興味はあると思う。自然の中
で生き物と出会ったり、これ
まで以上に自然とのかかわ
りをもちたい。
<フェーズ 4>:自然に関心が
ある。自然についての深い知
識を知ったり、日頃できない
自然の中での体験をしてみ
たい。
<フェーズ 5>:自然や環境に
強い関心がある。自然に関す
る調査や、保全活動にも参加
したいと思う。
*小河原孝生 1998 環境教育プログラムと施設、人材の重要性. 公園の管
理 NO.13 公園緑地管理財団
201
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
202
∼POINT∼
エコツアー商品の形態は、主催型と手配型にわけられる。
販売の方法は、直接販売と委託販売の 2 つの方法がある。
<直接販売と委託販売の特徴>
広告・宣伝
販
販売
売の
の方
方法
法
エコツアー商品の形態は、主催型と手配型にわけ
られる。主催型は、エコツアーの内容に諸条件を加
え、条件を提示して不特定多数を対象として広く募
集を行う方法である。販売手法としては、パンフレットやチラシ、ホ
ームページ等による直接的な募集告知や、旅行業者との契約により、
募集・予約手続き
予約コントロール
事前情報
直接販売
自箇所で行うので費用がか
かり、広く告知できない
手間がかかり、非効率であ
る
取り消しがあった場合キャ
ンセル料の徴収が難しい
直接伝えることができ、参
加者ニーズも把握しやすい
委託販売
旅行会社が行うため、広く宣伝
し、募集することが可能である
手数料は支払うがあまり手間
がかからない
集客人数を常時把握すること
は難しい
参加者にツアー情報が伝わり
にくく現地でトラブルが発生し
やすい
「現地発着ツアー」
「オプショナルツアー」としてそのままの商品内容
を委託販売してもらう、などがある。
手配型は、旅行業者、学校や職場、地域などの団体や個人旅行者な
どからの依頼により、エコツアーの商品内容をその要望にあわせて企
画・提案し申し込みを受け付け販売する方法である。販売手法として、
「ご要望にお答えできます。気軽にご相談ください。
」などと手配が対
応可能なことや、モデルプランなどを記したパンフレットなどを事前
に作成して関係各所へ配る、などが考えられる。
また、エコツアー商品には、目的地に着いてから参加する現地発着
ツアーと、目的地までの往復旅程を含むツアーがあることにも留意す
る。
販売の方法は、直接販売と委託販売の 2 つの方法がある。直接販売
とは、ツアーの催行者が参加希望者から直接申し込みを受ける方法で
ある。委託販売とは、旅行会社や宿泊施設などの関連事業者などに広
くツアー販売をお願いする方法であり、その際契約をしてツアー代金
の一部を販売手数料として支払うのが通例である。エコツアーだから、
この方法でなくてはならない、ということはなく、この 2 つの方法の
船を降りた場所に、現地で参加できる主催型の商品チ
ラシが所狭しと全面に貼られている。「どれにしようか
な」旅行者はたくさんのエコツアーから好きなツアーを
選択ができる。(東京都小笠原)
特徴を理解したうえで、エコツアーの特性を加味しながら、ターゲッ
ト、プログラムの内容にあわせて様々な販売経路を効果的に使い分け
るとよい。
203
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
204
BOX4-15 旅行会社との連携
旅行業者への委託販売は、不特定多数のマーケットに対し組織的に働きかけ
を行っていくということにつながる。実際、直接販売だけで行ってきたエコ
ツアーを、旅行会社への委託で販売をはじめたとたん安定的な送客を得て、
経営が安定したという例もある。自分の弱みをカバーできる、または強みを
いかす付き合いかたをするため、旅行業(旅行業者)の概要を知った上で、
販売戦略をたてる必要がある。
(1)旅行業の概要
旅行業を営むためには、旅行業法で定められた旅行業の登録が必要となる。
旅行業者は、旅行者と交通や宿泊などのサービスを、報酬を得て結びつける
機能を果たす。そしてこの旅行業者が扱う商品が旅行商品である。現在、旅
行業者の数は 1 万件以上あり、扱う営業範囲(主催旅行が扱えるかどうか、
海外も扱えるかどうか)から業法では 4 つに分類がなされている。旅行会社
がエコツアーを扱う際、それが主催旅行であれば、第 1 種旅行業か第 2 種旅
行業の免許がないと扱えない。
往復旅程を含むツアー行程を自ら主催実施する場合は、エコツアー実施者は
旅行業の登録が必要となる。最近、エコツアー事業者が扱い範囲を拡大する
ために、このような旅行業登録を行う例が増加している。
(2)タイプ別旅行業者の特徴
①大手の旅行業者
不特定多数から特定マーケットまで幅広い対象の主催商品をそれぞれ造成し、
全国的な販売ネットワークで販売する。また、修学旅行・職場旅行などの手
配旅行も多く実施する。特定マーケットを対象とした商品展開に弱みがある。
②中小の旅行業者
地場の旅行者や特定マーケットを扱う専門旅行会社などがある。エコツアー
やアウトドアなど自然に特化した旅行を扱う旅行会社も含まれ、特定の志向
をもった参加者からの満足度が高く、リピーターも多い。
③メディア系旅行会社
新聞などで募集を図ることを得意とする旅行会社である。多くは会員制シ
ステムをとり、参加者同士の交流も目的となっている。会員の多くは中高年
で、趣味を活かした文化センター的旅行の場合が多い。
(4)旅行会社経由でエコツアーを販売する際の留意点
①ツアーに関する注意情報と参加者情報
委託販売の場合、参加者への必要情報の伝達をどのように確実に行うこと
ができるのかが最大の課題となっている。エコツアーは、その特性から、参
加者への事前の情報提供が必ず必要となる。服装に関すること、持ち物、体
力的なこと、保険、参加にあたっての注意事項などが案内されるべき事前情
報である。旅行会社の基本スタンスは、効率よく手離れのよい商品を数多く
販売するというシステム販売であり、申し込みの現場では、一人一人のニー
ズや個々コースに関する現地情報などに細心の注意を払うことができるほど
の余力はない。そういうことから考えると、旅行業者への委託販売は、でき
るだけ体力的にハードでない、装備もあまり求めないような参加者が受身で
よいやさしいエコツアーに限定することである。対象は自ずと、エコツアー
初心者や中高年が中心となってくる。また、必要事項はパンフレットに必ず
掲載し、また最終案内時に渡す情報を定型化するなど楽に情報が伝わるシス
テムをお互いで構築するとよい。最近は、事前に健康状態やその人の嗜好を
知って行われるエコツアーも増加している。逆に参加者の情報を旅行会社か
ら事前にどこまでつかむことができるか、が委託販売の成功の鍵を握ってい
るともいえる。
②旅行商品の受付締め切り日(手仕舞い日)
主催旅行の場合、最少催行人員に達したら催行される。受付締切日が設定さ
れ、それまでは、満員になるまで受付される。締切日を過ぎたあと、商品と
して仕入れていた素材(プログラム)は一旦返却する。しかし受付締切日が
過ぎたあとでも、希望があった場合、発生手配といった方法で可能であれば
受付ることもある。このように独特の商習慣があるため、販売状況を途中で
確認するなどして対応しなければならない。
(3)旅行業者との契約の際、一般的にエコツアー実施者に求められること
旅行業者は契約時に、消費者契約法、旅行者保護の観点、自社の選定責任、
安全管理義務などの観点から法人格、安全管理能力、賠償責任能力、事業継
続能力又それに必要と思われる保有資格(ガイドの資格含む)を確認する。
205
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
206
(2)主なリピーター対策
∼POINT∼
エコツアー事業では、商品品質の向上以上に販売促進が事業成功の
カギを握る
販
販売
売促
促進
進の
の方
方法
法
・ 会員組織
・ メールマガジン、情報誌の発行
販売促進とは、市場に情報を与え、購買を
促す活動のことである。ターゲットやツアー
内容、販売経路によって、効果的な販売促進
手法はかわる。ここでも様々な販売促進手法を組み合わせて使うとよ
い。
・ 業界団体や同じ地域での協力
(1)直接販売の主な販売促進手法
・ インターネットのホームページ作成
・ 募集パンフレットの作成
地域の魅力情報が満載の情報誌が
定期的に会員へ配信される。会員は
違う季節などにまた訪れたくなる。
(鹿児島県屋久島 YNAC)
・ 地域観光情報(イベント情報)誌の活用
・ 新聞やテレビなどのパブリシティの利用
・ 旅行雑誌の活用
・ 口コミ
(3)モニターツアーでの販売促進
観光の PR によく使われる手法にモニターツアーの実施がある。新し
いツアーを実施する際は、販売促進手法として以外にも、導入のテス
トとしてモニターツアーを実施することは有益であると考えられてい
る。実施後、不具合などを修正して本番へとつなげる。対象としては、
旅行会社の企画担当者や販売担当者、メディア関係者、一般の消費者、
魅力的な写真で興味をひきつける募集パンフ
レット。中には、ツアーの内容が一覧になって
紹介されている。
207
第4章.ガイダンス
地元住民などが考えられる。
第4章.ガイダンス
208
BOX4-16 誇大広告の禁止
旅行業者については、誇大広告について厳しく禁止事項が定められている。
エコツアー事業者も同じである。業務について広告するときは、広告された
旅行に関するサービスの内容について著しく事実に相違する表示をし、又は
実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると誤認させるよう
な表示はしてはいけない。
<誇大広告の禁止事項>
・サービスの品質
・景観、環境
・参加者が支払うべき対価
・ツアー実施中の旅行者の負担
・参加者に対する損害の補償 など
BOX4-17 消費者契約法への対応
エコツアーを実践する際、利用客(消費者)との間で、直接又は間接の取引
を行うことになる。平成 13 年 4 月 1 日より、消費者保護を目的とした消費
者契約法という法律が施行されているため、事業者は、まず苦情となる原因
を知り、その対応策を講じる必要がある。
消費者契約法とは、消費者と事業者とが対等の立場で契約をかわすことがで
きるよう、消費者に
・契約の取消権
・不利な契約条項の無効
という、2 つの武器を与えるということが主な内容となっている。
1.トラブル解消のための事前対策
・パンフレット又は取引条件説明書面には、デメリット情報を記載する
・変更などの重要事項は関係者に周知徹底する
2.してはいけない事例
・プログラムの所要時間は 2 時間であるのにかかわらず、3 時間のプログラ
ムであると説明し申し込みをさせる
・ホエールウォッチングツアーを募集する際、
「必ず見ることができます」な
どと確証もないのに断定的な説明をする
209
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
210
∼POINT∼
価格の設定は、ツアー参加者あたり一人いくらという設定にするとよ
い。
価
価格
格の
の設
設定
定方
方法
法
エコツアーの販売価格には、
「ガイド料」と
いう考え方と「ツアー価格」という次の二通
りの考え方がある。それぞれに利点はあるが、
今後エコツアーを市場に浸透させていくためには、
「ツアー価格」という
考え方が適当である。
(1)ガイド料
ガイド一人あたりの人件費という考え方で、ツアー参加者が負担する
料金は、ガイド一人の日当をツアー参加者で割った額となる。分かりや
すく、一面では納得しやすいが、ガイドにとって集客人数拡大へのイン
センティブがなく、個人事業ならともかくビジネスとしての発展的発想
になりにくい点がマイナスである。
(2)ツアー価格
ガイドが案内する人数がある程度の範囲内であれば、各ツアー参加者
が受けるサービス内容は、参加者数にかかわらず誰もが同じであるので、
そのツアーに何人参加しても一人の支払うツアー参加費は一律であると
いう考え方である。一人あたりのツアー価格としてあらかじめ設定でき
BOX4-18 ツアープログラム価格の決め方
ようやく日本でも定着し始めたエコツアーだが、まだまだこうしたプログラ
ムに金を払う素地が行き渡ったとは言えない状況だ。
「自然はタダ」と日本人
は考えがちで、タダのものを使って金を稼ぐなんてとんでもない、といった
心情的な反発も自然学校やエコツアー事業者に対して抱きやすい。
北海道のあるエコツアーガイドは、終日ガイドをして終了時に代金の清算を
しようとしたら、参加者(客)から「今日は面白かった。でも、歩いたのは私の
足だからそれでこの費用は高いのじゃないか。ちょっと払えないね」と言われ
たという。食べものや教材がついたもの、カヌーやラフティング、シュノー
ケルのような特定の道具を使うものや特殊技能の提供に代金を支払うのには
抵抗感が無いが、目に見える土産も無い、歩いただけのガイドには確かに抵
抗感がのこるようだ。
しかし、自然界はタダどころか、気の遠くなるような時間の蓄積が背景とな
っており、里人、山人の幾世代もの取り組みによって森林地帯(国土の 67%)
だけでも 47,370 兆円もの環境、公益的原資があると試算されている。
(立正
大学 福岡勝也教授)その価値を伝え、ガイドする者は、自然の価値に見合
った知識と技術の獲得に相応のコストをかけている。どのような職業の始ま
りも「それで食ってるの?」と言われるものだが、次第に市場の評価を得て価
値が発生してくる。タダとされた自然のかけがえの無い価値に気づくために
ツアープログラムの役割がある。エコツアーが森林や遺跡の保存に効果的な
役割を果たした事例は世界にいくらでもある。だが、価格はこうした目的が
あろうと世間が求めなければ成り立たない。そのために、ガイド、事業者は
必死になってプログラムとその対象である自然や希少な文化に価値を生み出
さなければならない。まさに『価値創造産業』だ。
富士山のエコツアーは 20 年前に 300 円から始まった。次第に価値が高まり、
倍々となり、今では半日で 4,000 円になった。これは価値創造のプロセスで
あり、市場がそれを支持した結果である。(広瀬 敏通)
るので商品として販売しやすい。また、参加人数によってツアー価格が
変わらないので、複数の異なるグループが相乗りでツアーに参加するこ
とも容易にできる。参加人数が多すぎると参加者によって受ける情報量
に大きな格差が生じるので、ツアーとしての催行する最大参加者数は前
もって決めておくことが望ましい。
211
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
212
ここで受けた評価については、改めるべきところは改め、できない
∼POINT∼
ものは、きちんとその理由を説明し、理解を求める
品質管理のために、継続してツアー評価をおこない、商品改善につと
めることが必須である。
<アンケートシートの例>
エコツアー名:
ツ
ツア
アー
ーの
の評
評価
価
日付:
場所:
人気の高いエコツアーを長期にわたり継続的
ガイド氏名:
評価者氏名:
に実施するためには、お客様の目に自分達のツ
天候/状態:
アーがどのように映っているか、テーマはねら
グループ構成(年齢、性別、出身地等):
いどおりに伝わっているかなどに関する「評価」は不可欠である。
また、エコツアーが、将来に渡って基盤とするフィールドの状態を
ガイダンスの原則
劣
注意深くモニターする必要がある。さらに、エコツアーを息長く、地
・情報ではなくインタープリテーションを提供
1 2 3
4 5
元で愛される事業として育て、続けていくためには、フィールドとす
・明確で十分吟味されたテーマ又はメッセージ
1 2 3
4 5
る地元から良い評価を得ることが重要である。地元での評判が良いツ
・聞き手を参加させた
1 2 3
4 5
アーは、地域の自慢にもなり、情報の伝播力や地域ぐるみで歓迎する
・聞き手に関係があった
1 2 3
4 5
雰囲気からツアー参加者の満足を一層高めることにもなる。
・ストーリー性
1 2 3
4 5
内容
劣
・知識の深さ
1 2 3
4 5
・情報の正確さ
1 2 3
4 5
・ひきつける導入部
1 2 3
4 5
・効果的な場面展開
1 2 3
4 5
・印象的、効果的な締めくくり
1 2 3
4 5
・現実に即した期待
1 2 3
4 5
・影響の最小化を促した
1 2 3
4 5
・適した行動のガイダンス
1 2 3
4 5
AV機器又は小道具の使用等
劣
・環境に適していた
1 2 3
4 5
・グループサイズに適していた
1 2 3
4 5
(1)ツアーの評価
①自己評価
ガイドが自らのプログラムを評価する。自分やツアー参加者の行動
を録音テープ又はビデオテープにとることもある。
②第三者の評価
同僚や同業者などの「第三者」が、目立たないようにツアーに参加
して、ガイドの行動、参加者の反応や態度などを観察する。
③ツアー参加者の評価
ツアー参加者にアンケートを依頼し、記入してもらう。
(2)地元からの評価
①評価の方法
地元の人向けのツアーを割引価格で行い、その評価をヒアリングす
優
優
優
・能率よく行われた
1 2 3
4 5
る。
・コミュニケーションテクニック
1 2 3
4 5
②説明責任
・プロの振る舞いと外見
1 2 3
4 5
213
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
214
・自信と熱意の裏付け
1 2 3
4 5
・拍手
1 2 3
4 5
・型にはまっていた
1 2 3
4 5
・質問
1 2 3
4 5
・賛辞
1 2 3
4 5
・注目
1 2 3
4 5
コミュニケーション戦略の多様性
劣
優
・ほかの感覚を使うよう参加者に促した
1 2 3
4 5
・参加とかかわり
1 2 3
4 5
・聞き取れた
1 2 3
4 5
・顧客の環境とのふれあい
1 2 3
4 5
・適したスピード
1 2 3
4 5
・周囲への関心
1 2 3
4 5
・声の抑揚と発音を効果的に使った
1 2 3
4 5
(悪い反応)
・間を効果的に使った
1 2 3
4 5
・無関心
1 2 3
4 5
・アイコンタクト
1 2 3
4 5
・私語
1 2 3
4 5
・効果的な身振り(ボディランゲージ)
1 2 3
4 5
・アイコンタクトなし
1 2 3
4 5
・適当なユーモアの使用
1 2 3
4 5
・離れている
1 2 3
4 5
・適当な語彙の使用
1 2 3
4 5
・苦情
1 2 3
4 5
・適当な技術的レベル
1 2 3
4 5
・聞き手を参加させた
1 2 3
4 5
参加者の管理/グループリーダーシップ
劣
・参加者のニーズに応えた
1 2 3
4 5
・グループコントロール
1 2 3
4 5
1 2 3
4 5
・グループ内のやり取りを促した
1 2 3
4 5
・グループ内の摩擦を解消した
1 2 3
4 5
・答えを与えた
1 2 3
4 5
・予期せぬ状況に対応した
1 2 3
4 5
影響の最小化/環境上の持続性
劣
・グループの行動に注意していた
1 2 3
4 5
・影響を最小化するやり方を実演した
1 2 3
4 5
聞き手の反応
劣
追加コメント/メモ――改善/変化のための助言を含む。
(自由記述)
・個人とグループのニーズのバランスが取れてい
た
優
(「Plan and develop interpretive activities」 A. Crabtree, 2000,
SOUTH WEST INSTITUTE OF TAFE をもとに(財)日本交通公社
作成)
優
優
(良い反応)
1 2 3
・笑顔、笑い声
215
第4章.ガイダンス
4 5
第4章.ガイダンス
216
4-3-3 エコツアー事業の進め方
∼POINT∼
なぜエコツアー事業をはじめようと考えたのか、その「思い」を書き記す。
事業成功のためには事業計画の立案と見直しが必須である。
事
事業
業の
の運
運営
営と
とは
は
高い理想を掲げてエコツアーの実践に
とりくむ事業者も多いが、利益を生み出
していかなければ、継続的な運営はでき
ない。商品と利潤のバランスをとり、持続的に適正な事業運営を行っ
ていくためには、先を見通した全体の事業運営計画をたてる必要があ
る。目先のことにとらわれず、将来に渡ってエコツアーが地域でどの
ような役割を担っていくのか、といった長期的なビジョンも重要とな
る。運営計画にもとづき着実に事業を進めることが、エコツアー実施
目的の「思い」を果たすことにつながる。
エコツアー事業を実施していくにあたっての柱となるもの、それが
事業理念である。なぜエコツアーを実施しようと思ったのか、まさに
その背後にある思いを言葉にしたものが理念である。
事業理念は、事業運営計画をたてる前にまず考えなければならない
重要なものである。最近、企業の姿勢が問われるような社会的信用問
題が多発し、企業理念の重要性があらためて問われている。自分たち
の存在意義は何であるのか、また、何を大切にしたいのかを決めてお
かなければならない。
また、事業計画の中でも最も大切なことは資金に関することである。
事業の継続のためには志とともに現実に即した資金計画の立案が必要
である。
なお、事業の運営は、
「Plan」→「Do」→「See」の繰り返
しを強く意識しながら進めるとよい。
217
第4章.ガイダンス
<事業計画書の構成例>
A.環境分析
1.外部環境分析
2.内部環境分析
B.基本理念の策定
1.基本理念
1.基本理念
2.社会的責任の明確化
2.開発プロジェクトの目標
C.推進体制
1.役割分担と連携
2.組織デザイン
3.支援体制と地域のメリット
4.自立に向けた運営目標
D.資金計画
1.収入
2.支出
E.ツアーの基本コンセプト
1.基本コンセプト
2.使用エリア
3.想定ツアー人数
4.料金
5.設定量
F.人員計画
1.人材の確保
2.人材育成
G.プログラム開発
1.開発手法
2.スケジュール
H.マーケティング
1.ターゲットの設定
2.プロモーション
マーケットの現状、見通しなどを概観する
フィールドの可能性、想定するインタープリテーションプロ
グラムのテーマや商品力を検討する。
自然ガイドツアーの開発と実施における全ての行動のよ
りどころとなる基本的な考え方
プロジェクトの地域社会に対する貢献
プロジェクトの到達目標。年間目標、3 年程度の中期目標
など段階的な目標。
事業主体、行政、観光関連団体、地域住民等との役割分
担と連携のあり方
組織構造及び各部門の責任と権限の明確化
事業の立ち上げ期における地域の支援体制と地域が得
られるメリット
上記の支援を得た状態から自立した事業経営に移行する
ためのステップの整理及び具体的な目標設定
資金源の検討、収入概算
支出概算
催行するツアーの基本的な考え方
ツアーに使用するエリア
1 ツアーの参加人数及び年間目標人数
原価及び料金設定の考え方
実施日を概算したおおよそのツアーの実施スケジュール
必要となる人材、人数、確保方法
人材育成のシステム、能力目標
プログラム開発に採用する手法の検討
開発、実施、評価を含んだ全体スケジュール
ターゲット設定の考え方
プロモーションの考え方
第4章.ガイダンス
218
ープリターの現実的な就業状況を考えると type-2 にも多くの利点があ
∼POINT∼
る。type-3 は、この両者の利点をあわせた複合形である。ツアー実施
エコツアー事業の継続的な運営のためには法人化を視野に入れた組
織づくりが大切である
の責任主体は、法人格のある団体(例えば、観光協会など)だが、そ
こがガイドが集まってできる団体(ガイド連絡協議会)に、ガイド業
務を委託するものである。ツアー実施主体は、ツアー実施の責任者と
して、このガイド組織に対して指導的な立場にあるので、各ガイドの
活
活動
動の
のた
ため
めの
の組
組織
織づ
づく
くり
り
エコツアー事業の実施は免許
育成状況にも関与することが必要である。
制ではなく、多額の設備投資も
不要なので、参入障壁は低く、誰もが比較的容易に事業をはじめるこ
とができる。しかし、現段階では社会的に十分に認知された業である
とはいえないため、事業進展の様々な段階で、
「信用」の壁に直面する
ことが想定される。
Type-1:実施主体が法人格をもち、ガイドと直接雇用契約を結ぶケース
実施主体
はガイド
(法人)
開業に向けた資金調達においても、ガイド個人に対する理解が得られ
は嘱託・臨時雇用契約
ず融資が困難となるケースも考えられる。また、保険加入においても
個人での事業展開では不利になるケースもみられる。
このような社会的信用の確保という面においても、エコツアー事業を
すすめる核となる組織を十分に検討する必要がある。
理想的には、法人格を取得し、株式会社や有限会社としての事業展開
Type-2:実施主体が、ガイドを会員とする任意団体のケース
任意団体
は組織と会員の関係
が望ましいが、初期の段階では他の仕事との兼業でエコツアー事業を
行うケースなども多くみられ、当初から法人化が難しい場合は、関係
者との連携による組織作りによって、事業運営を安定化させることも
考えるとよい。
(1)事業運営組織の検討
ツアー実施主体の性格とガイドとの関係から、次の 3 つの事業運営
の組織構造を検討する。ツアー実施の責任を明確にするという面では、
type-1 が望ましい。地域で新たにエコツアー事業を開始する際の資金
や準備のための労力を考えると、一般的には法人格をもった既存の団
体をベースに、その団体が行う一事業としてエコツアーを位置づけ、
エコツアーを実施する専門の事業部を設けるなどによって事業をスタ
Type-3:法人格をもつ実施主体がツアーの案内をガイドによる任意団体に
委託するケース
実施主体
任意団体
(法人)
ツアー催行の責任者
ートさせ、事業の見通しがたった時点で法人化への移行を検討すると
いう手順が比較的容易である。一方で、経費面でのリスクや、インタ
219
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
220
(2)エコツアー実施運営組織の形態
①法人
株式会社や有限会社、NPO 法人などが多くみられる。社会的な信用
を得ることができ、資金調達がしやすくなるのが最大のメリットであ
る。そのため、事業拡大もしやすく、旅行業者との契約や、ガイドの
採用に有利になる。
②個人
ガイド 1 人で屋号を作り、活動を行う。旅行会社から、ガイドの依
頼を受けるという形でエコツアー実施者となる場合が多い(契約ガイ
ド)。そのため、プロガイドとしてある程度経験がないと厳しい。また、
ペンションなどの経営と兼業で行われるエコツアーもこの個人経営と
なる。保険加入に、無限責任を負うという問題がある。リスクが大き
くわりにあわない場合が多いが、自分の思いを実現するのはこの方法
が早い。
③任意団体
事例4-6 地元ホテルとの連携(裏磐梯)
地元裏磐梯のホテル、旅館などの宿泊施設で、オリジナルのガイドツアーを
企画しているところはまだ少なく、ガイド組織との連携についても十分にと
れているとは言いがたい。しかし一部の施設では、春から初夏にかけての花
の時期とか紅葉の美しい時期など、ごく限られた期間にガイドツアーを企画
しているので、エコガイドの会はこうした施設に対してはその依頼に応じて
ガイドを派遣している。
しかし、ここで問題になるのがガイド料の負担である。現在エコガイドの会
が設定しているガイド料は、ガイド 1 名当たり一回 10,000 円から 15,000
円程度で、参加者数も 10 名前後に制限している。収容能力の大きな施設は、
一回のツアーでガイド料をカバーできるだけの参加者数を確保できるが、中
小の施設ではそれができないケースの方が多い。それゆえ、その軽減策とし
て観光協会加盟の施設に対しては、ガイド料のうちの事務費に相当する分を
割引く措置をとっているが、この問題以外にも中小の施設では企画力不足な
どもあって、なかなか良い企画をつくれないでいる。
今後は、エコガイドの会との連携がとれているホテルなどに対しては、単な
るガイド派遣にとどまらず、さらに一歩踏み込んだ企画段階からの連携を図
っていきたい。一方、中小の施設に対しては、エコガイドの会がツアーを企
画し提供できるようにしていきたい。(伊藤延廣)
法人格をもたない団体で、有志があつまった団体である。ガイドの
団体や観光協会などが多い。旅行業者や観光客などからの窓口になり、
ガイド派遣の依頼をうけたり、ツアーの募集を行なう窓口になったり
する。任意団体は法律上、個人と同じであり、無限責任を負う。また、
成功はリーダーの資質が鍵となる。団体としては組織化されていない
ため、提供エコツアーの品質にガイドによって差がでる可能性があり、
ガイドの教育の機会を作るなどしてレベルアップや、目指す方向性の
共有を図る必要がある。
221
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
222
(2)リスクの対象
∼POINT∼
エコツアー事業の継続の阻害要因となるリスクをかきだし、あらかじ
エコツアー事業におけるリスクの対象には次のようなものが考えら
れる。
め対応策を講じておく
・ エコツアー参加者:賠償事故
リスクマネジメントとは、エコツア
リ
リス
スク
クマ
マネ
ネジ
ジメ
メン
ント
ト
・ ガイド・従業員:労働災害
ー事業を継続的に実施するために、起
・ フィールド:植生の破壊など
こりうるリスクを事前に回避する方策、
・ その他:財物の破損・盗難や費用損失
起こった事故に対処するための考え方や具体的な方法を身につけ、そ
の能力を維持し高めることを実践することである。
(3)リスクへの対応
リスクへの対策には、損害の発生頻度や規模を小さくする方法と、予
想される損害に対して保険を利用する方法がある。エコツアー実施に
(1)リスクの原因
エコツアー事業におけるリスクは、原因別には次のようものが考え
ともない特に次のような対応策が必要である。これを実施するには、
段階(プログラムの企画、ツアー準備、ツアー実施(出発前、フィー
られる。
ルド、ツアー終了後))別・フィールド別のチェックリストや、安全管
①自然環境の危険
・ 気象:気温・大雨・吹雪・強風・落雷など、
理マニュアルを作成し、常にガイド等に周知徹底できるようにする。
・ 大規模な自然現象:地震・津波など、
・ 地形:山崩れ・落石・急斜面など、
・ 動植物:ハチ・毒ヘビ・ケムシ・ウルシ・クマなど、
①危険の告知
エコツアー実施中におこる可能性がある危険について、参加者に事
・ 水:激流・水深・水温・潮流など、
前に十分に説明して注意をあたえる。季節や実施する場所によって危
・ その他:洪水・雪崩など、
険はかわるので、その場に応じた危険の告知も必要となる。例えばウ
ルシがあれば、
「これにさわると手があれるのでさわらないように」と
②身体的な危険
・ 病気:伝染性病原体や寄生性病原体による疾病・食中毒・
の注意説明を行う。また、服装や持ち物などの注意も欠かせない。
その他の疾病、
・ 怪我:すべる・ころぶ・ぶつかる・落ちるなど
②安全の確保
危険な場所はどこか、行程が無理でないか、天候やフィールドの状
③人為的な危険
・ 人間関係:人間関係のこじれなどによる精神や身体的な危
況はどうかについて常に確認をする。この天候の場合は催行しない、
などの催行中止基準を作成する。ツアー実施前に参加者の健康状態を
険、
・ もの:刃物や火・道具の使い方のミス・交通事故、
チェックする。状況によっては参加させないなどの措置をとる。ツア
・ 主催者・指導者の過失:無理な計画・技術不足な指導者に
ー実施前に、使用する機材・装備の点検、準備を行う。
よる事故
③緊急時の対策
223
第4章.ガイダンス
第4章.ガイダンス
224
万一の事故に備えて緊急連絡体制を構築し、緊急連絡表を作り、関係
者に配布しておく。また、現場で応急措置ができるよう、ガイドは救
参考4-1 ツアー参加者の申し込み方法
急法についての知識をつけ常に訓練を行う。緊急連絡は通信機器を使
って行われるが、携帯電話がつながらない場所の把握をしておくこと
も非常に重要である。
アウトドア体験者 アウトドア体験の
申し込み方法
電話
9%
④保険への加入
不測の事態に備えて、必ず損害賠償責任保険への加入を行う。損害
賠償責任保険とは、過失(ミス、不注意)に対して保険金が支払われ
るものである。この他、実施者が傷害保険を参加者に対してかけると
その他
45%
インター
ネット
14%
直接来店
17%
いうこともできるが、ツアー参加者には、危険があることを十分説明
し、傷害保険への加入をすすめることが重要である。
旅行会社
15%
(4)地域からの理解
エコツアーはビジネスを長く続けるためには、事業者として、地域住
北海道でのアウトドア体験者 ツアー申し込み方法
(北海道総合企画部地域政策課、2004)
民の一人として地域の人たちから理解され続けることが重要である。
そのためには、話し合える場を作り、連携の仕組みを作ることが重要
である。消防、警察、地元行政、医療機関などととの連携や、同業者
間のネットワークの構築が必要である。次のような活動によって理解
の促進が図られる。
・ 地域の農林漁業関係者や、住民などとトラブルや苦情が発
生しないように常に配慮を行う
・ トラブルや苦情が発生したら、会合を設けて対応する
・ 使用フィールドの清掃活動に参加する
・ 地域の人々を一般の参加者より割引でツアーに参加しても
らう
・ 地域内の学校や、障害者団体などの教育の場面で協力する。
また、エコツアーの実施では、環境への配慮が極めて重要である。環境
対策として、ツアー参加者にルールとマナーを伝えるとともに、自然環
境への影響を最小限にとどめるような行動を常に心掛けるようにする。
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第4章.ガイダンス
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