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水辺都市の整備方策 ~日蘭比較の視点から

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水辺都市の整備方策 ~日蘭比較の視点から
水辺都市の整備方策~日蘭比較の視点から~
R05055
指導教員
プラン策定時の基盤
Bm
各市町村へ方針伝達
審査
1. 研究背景
1.1 オランダの水管理と土地利用の特色
オランダの水管理において治水と環境が早くから同時
に意識され、治水/環境/土地利用(都市計画)施策が一つの
国土空間戦略によって束ねられている。また、
「国土空間
戦略」と「21 世紀の水管理施策」で都市環境の向上と雨
水の保水/貯留・オープンスペースの確保を推進している。
土地利用においては国土空間戦略のみが、市町村計画の
Strategy)
基盤である。コンパク 国土空間戦略(National区域Spatial
(線引き)・拠点指定
•国の方針が集約
治水:氾濫原の範囲
トな都市が大原則であ
環境:グリーンハート(緑地保全) について
•土地利用施策の根幹
農業:拠点・振興地域の指定
り、国や州は下位計画
州計画(Streeksplan)
に差し替え案を出すこ
•策定は任意
とができる。また、土 •Bmプラン審査の基準
地利用管理施策は Bm
市町村計画‐Bmプラン(Bestermmingsplan)
ソーニング
プラン一つに集約され、 土地に関する規制は、
住宅・緑地・開発可能地、など
これに全て記載
※国土空間戦略・地域計画・Bmプランの根拠法は、空間計画法
開発行為は既成市街地
図
1-1
オランダ土地利用施策体系
内が原則である。
1.2 オランダ水辺都市の歴史的な形態変化
11 世紀まで居住地は、低地内の丘陵や河川沿いの自然
堤防などの小高い場所に造られた。それ以降の都市にお
いては、岸壁や土塁が都市の外郭に築造されていた。19
世紀から徐々に人口増加により都市が拡大し、氾濫原が
失われた。その後、それまでの方針に反省が見られ、都
市化と治水の整合・両立を図り、都市において水辺空間
を取り入れるようになった。
2. 研究目的
オランダは治水と環境が早くから一体的に行われてき
た。日本でも近年、越谷レイクタウンのように治水と環
境が一体的に開発される事例を見ることができる。
また、
首都圏地域の集中豪雨による河川の氾濫や洪水・浸水は
今後も重要視すべき問題である。本研究ではオランダの
水辺都市の整備の仕方や仕組みを調べ、日本で行われて
ほしい方策を見つけ、導入を検討するものである。
松下 潤
3. 研究方法
3.1 対象地域と分析の視点
研究の対象都市はオランダの四大都市であるロッテル
ダムとハーグの中間に位置する南ホラント州デルフト市
及び隣接するハーグ市の一部イッペンバーグである。
デルフト市の調査は市街地を成立年から旧市街地、戦
後 1960 年代以降につくられた市街地、新市街地に区分
し、都市形態の移り変わりを調べ、①水辺の用地確保・
②水辺および周辺の自然の管理・③水辺の活用の三つの
視点で調査する。またデルフト市の新市街地と比較して
越谷レイクタウンについても同じ三つの視点で整理する。
3.1.1 デルフト市に隣接するイッペンバーグ
第 4 次国土計画(VINEX)の住宅ストック確保に基づく
デルフト郊外の大規模な水面を含む新規住宅開発地域で
ある。ハーグ、ノートドルプ、パイナクケル、レイスウ
ェイクの 4 市町村と水管理委員会が開発事業者となって
いる。各街区が「水」
、
「シングル」などコンセプトを持
ち設計されているため、多様な住まい方が可能である。
イッペンバーグ中心にはスーパーなど商業地区があり、
駐車場や駐輪場、
トラムなど交通機関が整備されている。
デルフト市
イッペンバーグ
図 3-1 デルフト市及び周辺地域
図 1-2 オランダ都市歴史的変遷
竹内 香央里
水
水
街
区
水街
街区
区
図 3-2 イッペンバーグ
3.1.2 越谷レイクタウン
東京都心から北方に約 22km、埼玉県越谷市南東部、
中川中流域に位置するニュータウンである。治水対策の
調節池の整備と都市開発を共同で行う国土交通省(旧建
設省)河川局のレイクタウン事業として採択されたこと
に始まる。東京外かく環状道路へつながる東埼玉道路の
開通や JR 武蔵野線越谷レイクタウン駅の開業など交通
網の整備が行われている。
越谷レイクタウン
図 3-3 中川綾瀬川流域
図 3-4 越谷レイクタウンイメージ
4. 分析・比較
4.1 水辺の用地確保
図 4-1 はオランダの水管理施
策の考え方を表すものである。
旧市街地、デルフト市街地のタ
ントホフでは水辺面積の割合に
図 4-1 保水、貯留、排水
変化は見られないが、これらと
(21 世紀の水管理施策)
比べイッペンバーグの
「水街区」
では 30%と水辺面積の割合が多く、新規住宅開発におい
て水辺のために確保される土地は以前の市街地より確実
に増加している。イッペンバーグは軍用空港跡地だが、
国有地と税収による資金から用地確保は容易に行える。
一方、越谷レイクタウンは各個人所有の土地を区画整
理事業により公共減歩(公共減歩率 24%)として用地が創
出され、結果として調節池は全体の 17%を占める。
4.2 水辺の管理
イッペンバーグでは草刈りや公園
整備が行われていた。定期的な自然
や施設の維持管理は行政が行ってお
り、市民や住人がこれらの作業に参
図 4-2 草刈り(蘭)
加する様子は見られなかった。
越谷レイクタウンでは調節池周辺の自然やビオトープ
の活用・維持・管理に市民参加が行われる。(調節池は原
則、河川法により河川管理者の所有)
地域住民や市民団体、公募市民から
構成される組織が計画段階から利活
用の具体的内容の検討を行った。
図 4-3 浮島づくり(日)
4.3 水辺の活用
水面に接した住宅は小型ボートの所有が確認できた。
イッペンバーグに限らず、デルフト
の水路でもボートはいたる所に係留
しており、こうした水辺のレクレー
ションは人々に広く利用されている。
自然・生態系に関して、水路護岸は草地の斜面になって
おり、水の流れの小さい場所には背の高い水草が生え、
水鳥の姿が見られる。建物周辺は街路樹が植えられるな
ど草木は多種多様で、緑地が多い印象を受ける。
越谷レイクタウンの調節池はカヌーなどの利用ができ、
池の周囲は歩道や野外ステージが多目的に使えるよう整
備されている。ショッピングセンタ
ーや住宅・マンションは太陽光利用
設備やコージェネレーションシステ
ム、電気自動車用のスタンド等、国
内でも進んだ環境配備が整えられて
図 4-5 ヨット利用
いる。
5. まとめ
今後、レイクタウンのような新規
住宅開発は人口減少社会の状況では
必要性は少ないだろう。亀戸・大島
で川の日に行われた水辺を安全に楽
図 5-1 北十間川
しむ
「E ボートイベント」
を通じて、
(E ボートイベント)
都心の水面と街・人の活動空間の隔
たりや、私たちが川に近付けるよう
な親水性整備不足による利用頻度の
低さを感じた。既に護岸が整備され
た既存の住宅地でも、デザインによ
図 5-2
って親水性と住宅の質の向上を伴う
越谷レイクタウン
親水性デザイン
水防災対策を行うべきであろう。水
辺の価値を改めて見直し、今まで水から隔てることで守
ってきた生活空間に水辺を自然に取り入れることによっ
て、水辺の活用に関する工夫を取り入れるとともに人々
の水辺に対する意識を改善することが必要である。
参考文献
Fransje hooimeijer and Wout van der torn vrijthoff 「MORE URBAN WATER:
DESIGN AND MANAGEMENT OF DUTCH WATER CITUES」
荒井宏介 修士論文 2007 年 「日蘭の首都圏域における氾濫原管理に関する研究」
図 4-4 ボート(蘭)
表 4-1 日蘭新規住宅開発の比較
イッペン バー グ
越谷 レイク タウン
開発地区の様子
・1993年第4次国土計画(VINEX)
計画関連事項 ・1993~1994年地区の計画草案
・開発者:市町村、水管理委員会(Waterboard)
・総面積600ha、総敷地面積340ha
土地利用
・水量195,000㎥以上(総面積の約10%前後)
・11,000世帯/85ha(計画戸数11,937戸)
考察・評価
・1996年都市計画決定
・事業名「越谷レイクタウン特定土地区画整理事業」
・施行者:都市基盤整備機構
・面積約225.6ha
・調節池面積約460,000㎥(総面積の17%)
・計画人口22,400人(計画戸数7,000戸)
①水 辺用地確 保:オランダは土地利用と治水を一つに束ねた計画体制と、開発・管理を行うための財源が安定している。
一方、日本は開発コストにおいて区画整理事業など資金を回収する工夫がみられる。
②水 辺維持管 理:越谷レイクタウンにおける調整池の維持管理への市民参加も同様にコスト削減の仕組みとなっている。
③水 辺活用:水辺活用の評価ではどちらも充実している。しかし、オランダ、イッペンバーグの開発に分かるように、オラン
ダの住宅と水辺は大変近く、各住宅の前に水辺空間が広がり、親水性の景観が優れているといえる。越谷レイクタウンの
住宅は環境共生住宅としての設備機能は非常に高いといえるが、住宅と水辺の親水デザインはまだ改善の余地がある。
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