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金環日食 2012 解析ガイド

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金環日食 2012 解析ガイド
Astro-HS 2012
金環日食 解析ガイド – 1 -
金環日食 2012 解析ガイド
-
観測結果からわかること
~(Astro-HS 編)
ここでは、日食グラスなどを使った肉眼での観察からわかることや、望遠鏡を使ってよ
り正確に観測したときに何がわかるか、さらに全国のいろいろなデータを集めてみるとど
のようなことがわかるか、簡単に紹介します。日食の観測をしたら、「見えた」「欠けた」
だけで終わらせず、一歩踏み込んで、結果からいろいろなことを見いだしてみましょう。
(1)肉眼の観察からわかること
ここでは、日食グラスなどを用いた肉眼による観察からどのようなことがわかるか紹介
します。
① 太陽を隠す影
日食グラスなどを通して直接見る太陽像は、思
ったより小さく見えます。実際、太陽の見かけの
大きさは、5円玉を持って腕を伸ばしたとき、5
円玉の穴の大きさくらいです。ですから、肉眼に
よる観察では、太陽の欠け具合を示す食分を正確
に記録することは、難しいでしょう。
図1
日食のときの太陽,月,地球
ここでは、欠けている太陽ではなく太陽を隠している影の部分に注目してみましょう。
日食がおこるしくみからわかるように、その影は実は地球のまわりをまわる月です。太陽
と同じ方向にある月は新月の状態で、ふつうなら見ることができないのですが、太陽を隠
すことによって、その姿を私たちに見せているのです(図 1)。
② 月の公転
月は地球のまわりを約 30 日で 1 周しています(月の公
転)*1。これを 1 日あたりにすると約 12 度となります(360
度÷30 日)。月を 1 日おいて同じ時刻に観察すると、見え
る位置が前日とは約 12 度ほどずれていることに気づくこ
とでしょう(図 2)*2。この動きを 1 時間あたりにしてみ
ると、角度で 0.5 度になります(12 度÷24 時間)。月の見
かけの大きさ(視直径)は角度で表すと約 0.5 度ですから、
月は 1 時間でだいたい月自身の視直径と同じくらい天球上
図2
公転による月の動き
を西から東へ移動します*3。この動きはとてもゆっくりしたものですから、ふつうは気づ
くことはありません。日食はこの月の公転を「実感」する絶好のチャンスになります。
③ 月の動きを実感しよう
日食グラスや投影板で観察した日食のスケッチを、時刻の経過とともに並べてみましょ
う。すると、影が西から東へ移動していることがわかります*4。それが太陽の前を横切っ
ていく月の姿です。
Astro-HS 2012
金環日食 解析ガイド – 2 太陽や月の見かけの大きさ(視直径)は、だいたい 0.5 度です。影の輪郭をもとに月の
形を描き、その移動量を太陽の直径を基準にして測って、月が公転する速さ(1 時間あた
り何度移動しているか)を求めてみましょう。また、日食後の数日間、夕方の西の空を観
察しましょう。太陽の前を通りすぎた月が見えます。
*1 月は地球の周りを約 27.3 日で公転しています。しかし、地球は太陽の周りを 1 年で 1
回公転していますので、太陽の回りを 1 か月間で約 30 度公転します。そこで、太陽-地
球を軸とした月の公転(月の満ち欠けの周期=朔望月)は約 29.5 日となります。
*2 月の公転による移動は、太陽に対して西から東へ、1 日あたり約 12 度で動いています。
*3 太陽-地球中心を軸として見れば、月の動きは 1 時間あたり約 0.5 度で移動していま
すが、地上から見ると地球の自転の影響で月の位置により移動速度が変わって見えます。
*4 太陽像の東西の方向に注意しましょう。望遠鏡で太陽を追尾せず固定して観察したと
き、太陽の像がずれていく向きが西です。
(2)望遠鏡による観測からわかること
ここでは、望遠鏡を用いた観測で、投影板でのスケッチやカメラで撮影された画像から、
どのようなことがわかるかを記します。
望遠鏡によって拡大された像があると、食分が正確に求められます。この食分のデータ
を元にして、食の開始(第 1 接触)、終了(第 4 接触)や食の最大の時刻などを求めてみ
ましょう。目で見ているだけでは、それらを直接知ることはとても難しいのですが、食分
の値を求めると、それらの時刻を推定することができます。
① 皆さんの観測地における日食の予報値
日食の進行は、観測する場所によって異なります。そこで、まず皆さんの観測地におけ
る正確な予報値を調べておきましょう。
国立天文台暦計算室の web(http://www.nao.ac.jp/koyomi/)で、「日食各地予報」とい
うボタンがありますから、これをクリックします。リンク先の「各地予報」のページで、
任意の地点における日食の時刻を調べることができます。また、本ガイドの「日食の予報
計算」に従って計算することによっても導くことができます。
いずれの方法でも構いませんが、観測当日までに、食の開始・終了・そして食の最大の
時刻とそのときの食分を調べておきましょう。
② 食分の測定
望遠鏡で撮影した画像や投影板を利用したスケッチから、食分を
求めましょう。食分は図 3 のように、太陽の直径に対する欠けた部
分の長さの比で表されます。
まず、皆さんの観測によって得られた写真やスケッチから食分の
値を求めましょう。たとえばプリントされた画像であれば、直接定
規を用いて、
図の AB の長さと BC の長さを測ってもよいでしょう。
デジタル画像であれば、画像処理ソフトを使ってもよいですね*5。
図3
食分
Astro-HS 2012
金環日食 解析ガイド – 3 時刻と食分の値が得られたら、それをグラフにします。
横軸に時刻、縦軸に食分の値をとって、点をプロットし
てなめらかな線で結びます(図 4)
。食分がゼロになる点
が、食の開始と終了の時刻、そして最大になる点が食の
最大の時刻とそのときの食分の値を表します。
③ 予報値との比較
あらかじめ調べた予報値と皆さんが観測から求めた実
図4
食分のグラフ
測値を比較してみましょう。もし大きな違いがあるよう
でしたら、その違いが生じた原因も探ってみましょう。
④ 月の公転をより正確に調べる
前項に記したように、影の動きから月の公転を知ることができます。望遠鏡による画像
からは、より正確にその動きを測定できます。月が動いた距離(角度)とそれにかかった
時間から、月の公転による見かけの動きの速さを求めてみましょう*6。
*5 円の中心を正確に求めるには、次の方法が便利で
す。図 5 のように円に 2 本の直線を引きます。円と直
線の交点、pq、uv を 2 等分する線を引くと、その交
点が円の中心です。作図では簡単ですが、デジタル画
像でも、pq(uv)の傾きと直交し、pq(uv)の中点を通る
直線をそれぞれ求め、それぞれの直線の交点を求めれ
ば円の中心座標と半径が求まります。
*6 観測者は地球と共に自転しています。その速度は
赤道付近で 500m/s くらいです。このため、測定でき
図5
円の中心を求める方法
る月の公転速度は、月の実公転速度から観測者の自転速度を引いた相対速度です。
(3)各地のデータとの比較からわかること
Astro-HS の最大の特徴は、全国規模のネットワーク観測であることといってよいでし
ょう。個々のグループで観測しているだけでは、自分たちのデータしか得られません。
Astro-HS 参加グループは、互いのデータを共有できるので、悪天候の時でも他のグルー
プのデータが使えますし、もっと積極的に全国のデータを活用しての研究活動もできます。
ここでは、各地のデータを集めて、どのようなことがわかるか、簡単に説明します。
はじめに、食の開始・最大・終わりの時刻が等しい観測地を結んで、地球に落ちる月の影
を描き出してみましょう。
① 食の同時刻線から月の影を追ってみよう
図 6 は太陽から見た地球と月の影を表したものです。月の影が地球の上を横切っていく
様子が描かれています。この影が動いていく様子を地上にいながら捉えてみましょう。
Astro-HS 2012
金環日食 解析ガイド – 4 -
図6
地球に対する影の移動
各地の観測データから、食の開始時刻を取り出して、同じ時刻に食が開始となる点を地
図上にとってみます。たとえば食の開始が 6 時 4 0 分になる点をとって、結んでみましょ
う。(ちょうどその時刻の地点がない場合は、その前後の時刻の点から推定してみます。)
こうして描かれた線は、その時刻における月の影(正確には半影)の外縁の位置を示して
います。
同様に、7 時 00 分に食が開始になる同時刻線を描いてみると、その線が西から東へ移動
していることがわかります。このようにして、地上からでも月の影が移動している様子を
描くことができます。最後に、食の終わりの時刻でも同様に線を描くと、日本列島を過ぎ
去っていく月の影を描くことができます。
② 月の公転速度から月までの距離を求めよう
月の影の動く様子は、太陽までの距離は十分に遠いので、月の実際の運動が「地球とい
うスクリーン」に平行投影されて見えています。そこで、もし、宇宙から月の影が地球の
上を横切ってゆく様子を見たとすると、月の影の移動速度は月の実公転速度で見えます。
しかし、地上にいる私たちは、地球の自転のために、影を追いかけながら観測します。図
6 を見てわかるように、日食開始から終了までの時間の間に日本列島が自転している様子
がわかるでしょう。このため、地上からみた月の見かけの移動速度は、実際の速度より小
さくなります。これが、日食の継続時間を長くしています。
いま、食の同時刻線の移動速度 V1 が求まったとしましょう。一方、各地の自転速度 V2
は、地球の角速度をω、地球半径を R、緯度をθ とすれば、V2 = Rωcosθです。ただし、
自転方向と月影の方向の成す角をφとすれば、月の実公転速度 V は、V = V1 +V2 cosφ と
求まります。
これより、ニュートンの万有引力の公式を使うと月までの距離 r と地球の半径 R の比は、
r / R = gR / V2
として求められます*7。ただし、g は重力加速度 9.8m/s2 です。V は約 1000m/s で、距離
は地球半径の 60 倍程度になります。
Astro-HS 2012
金環日食 解析ガイド – 5 *7 月の円運動の速さ V より、向心力の大きさは mV2 / r です。ここで、m は月の質量。
一方、この向心力の原因が万有引力( GMm/r2 ) = ( gR2 m/r2 )であることから導出できます。
次に、月の視差から月までの距離を求める方法を紹介します。
③ 「視差」とは
目の前に人差し指を立てて、左右の目で交互に指を見てみましょう。背景に対して指の
位置がずれて見えるはずです。これが視差です。目の前の指は左右の目で見ると大きくず
れて見えますが、遠くにあるもの、たとえば送電線の鉄塔などは、ほとんどずれません。
つまり、視差の大きさは対象物までの距離によります。このことを利用して、視差から対
象物までの距離を求めることができます。
④ 月の視差を見つけよう
月は遠くにあるので、私たちの左右の目で見ても、その視差はわかりませんが、遠く離
れた2つの地点から観測すると、背景(日食の場合は太陽)に対して月がずれて見えます。
Astro-HS では、日食のデータを皆さんから集めて整理し、web 上で皆さんに公開しま
す。その中から、同時刻に離れた 2 つの観測地で撮影(スケッチ)された日食の画像を見
つけ出して、並べて見てみましょう。2 つの観測地が近いとわからないかも知れませんが、
観測地が離れていると、2 枚の画像で太陽の欠け方が少し異なっているはずです。これが
月の視差です。
⑤ 月の視差を測ろう
2つの画像を、太陽を基準に重ね合わせ
てみましょう。このとき、画像の大きさと
方向をあわせる必要があります。大きさは
太陽の大きさであわせられますが、方向を
あわせるには注意が必要です。黒点があれ
ばそれを基準にあわせられますが、最近の
太陽は黒点が期待できません。画像を記録
するときに東西の方向が記録されていれば、
それを基準にあわせましょう。)
トレーシングペーパーや画像処理ソフト
などを利用して、2 つの画像を重ねます。
太陽を基準にして重ねると、月の位置がず
図7
月の視差を求める
れます(図 7)。このずれの量が月の視差 p
です。太陽の視直径 D は角度で表すとおよそ 0.53 度です。これを基準にして、月の視差 p
の大きさを角度で求めましょう。(画像上での D と p の長さの比が、そのまま角度の比に
なります。)
Astro-HS 2012
金環日食 解析ガイド – 6 ⑥ 視差から距離へ
月の視差が測れたら、その値を使って月までの距
離を求めてみましょう。
図 8 を見てください。2 つの観測地の間の距離を
L[km]、月までの距離を d[km]とします。おおざっ
ぱですが、2 地点間の距離 L が月までの距離 d を半
径とする円の円周の一部とみなすと、
図8
2πd : L = 360 : p
視差から月の距離を求める
より、
d = (180/πp ) L
となります。2 地点間の距離は地図などを利用して求めておきます。この式に得られた数
値を入れて、月までの距離 d[km]を計算してみましょう。
(こうして求めた距離は、地球の中心からの距離ではないことに注意しましょう。)
⑦ 1地点観測データから月の距離を測る。
皆さんの観測地点のデータから、視差を求めて月までの距離を求めることが出来ます。
(3)の②で示したように、月が実速度で公転している間に、観測者は自転しています。
そのため、太陽-観測者を軸とする
と、月は見かけの影の移動速度で動
いているように見えます。すなわち、
影の見かけの移動速度が判ると、t
秒後の月の相対移動量 V1 t がわかり
ます。そこで、観測者の見かけの視
差 p を測定すれば、
d = (180 /πp ) V1 t
となり、観測者から月までの距離が
わかります。
図9
1観測点での視差から月の距離を求める
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