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道路のメンテナンスにおける 顧客中心のベンチマーキング

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道路のメンテナンスにおける 顧客中心のベンチマーキング
道路のメンテナンスにおける
顧客中心のベンチマーキング(仮訳)
2008年3月
吉田 武
独立行政法人土木研究所上席研究員 道路技術研究グループ(〒305-8516 つくば市南原1-6)
E-mail:[email protected]
ベンチマーキングとは、
「ベストのやり方に学ぶ」ということです。ベスト・プラクティス(業務にお
いて最も優れた実践)を探し出して、自社のやり方とのギャップを分析してそのギャップを埋めていく
ためにプロセス変革を進めるというものです。現行の業務を測定し、それをパフォーマンスの良い他社
の業務と比較する継続的プロセスです。
測定する尺度は顧客による企業のパフォーマンスの評価に直接、間接的に影響を与えるものでなけれ
ばなりません。また、数値評価を行うことで、判断に客観性をもたせ、社員に具体的な目標を与えるこ
とができます。
維持管理分野に導入可能な手法としてのベンチマーキングについては米国で研究が進められ、その報
告書はインターネットで公開されています。
Transportation Research Board: Guide for Customer-Driven Benchmarking of Maintenance Activities, NCHRP
Report 511, 2004.
http://www.trb.org/news/blurb_detail.asp?id=3256
NCHRP Web-Only Document #58
Research for Customer-Driven Benchmarking of Maintenance Activities
http://www.trb.org/news/blurb_detail.asp?id=2058
この二つの報告書の他に、手法の奨励を目的として、上級管理職向け入門書"A Primer: Customer-Driven
Benchmarking for Highway Maintenance"が出版されています。customer-driven とは「顧客中心の」と訳さ
れますが、user-oriented「利用者志向(優先)の」と同じ意味で使われます。
本資料は、当該入門書を仮訳したものです。
1
1990 年代末までに、組織のサービス提供と製品生産における評価の仕方には重大な変化があった。かつ
て維持管理機関は内部パフォーマンス指標-アウトプット、インプット、業務プロセスの外観-に着目
しがちであった。今や彼らは顧客アウトカム、満足、価値に着目しつつある。
維持管理の成否を評価することと維持管理従事者は関連している。利用者にとって重要な道路特性は彼
らの仕事と直接リンクしているからである。
維持管理従事者が最前線で直面している道路利用者の要求は;
・路面から雪氷と障害物を排除し安全性と機動性を提供する
・路面を再仕上げし走行する者にとって快適かつ安全に保つ
・標識標示の設置と移設により良好な運転案内を提供する
・花を植えゴミを拾い魅力的な路側を提供する
・道路と橋梁への投資を保全する活動を行う
Customer Outcomes(顧客アウトカム)
:
顧客アウトカムとは、結果、効果、あるいは製品やサービスの提供・作業の実施・業務プロセスの実行
により起こる変化。例えば、舗装の表面処理のアウトカムは平坦な舗装。路面標示設置のアウトカムは
夜間におけろ路端視認性の向上。
Outcome Measures(アウトカム指標)
:
顧客アウトカムの測定には少なくとも 2 通りの方法がある。一つは顧客満足の度合いを知るための調査
を行うこと。二つめは顧客にとって重要なアウトカムを測定し評価すること。一例として、舗装の平坦
性を知るためにプロフィロメータを使う。もう一例として、路側線の視認性を評価するために夜間に逸
脱する車両台数を数える。
<どうすれば維持管理は継続的に顧客の満足度を向上させ道路インフラを保全することができるか?>
顧客中心のベンチマーキングは政府においても民間においても通用することが証明された解決策の重要
な要素である。それは自社に関連する組織のしかも投入した資源に比して最高レベルの顧客志向アウト
カムを提供したとされる組織のベスト・プラクティスを特定し、評価し、実行するプロセスである。顧
客中心のベンチマーキングは 5 つのステップを含む:
1.業績と仕事のやり方を比較するために他機関とパートナーシップを形成する。
2.維持管理の産物あるいはサービスに関する顧客志向指標を確立する。
3.合意済みの指標で業績を測定し結果を共有する。
4.気候、地形、交通のような要因を勘案しつつベスト・プラクティスを抽出する。最高の業績をもた
らした仕事のやり方を特定する。
5.自社の業績の改善に適したベスト・プラクティスを実行する。
「絶対のやり方は存在しない:顧客中心のベンチマーキングが特定するベスト・プラクティスはある地
域条件の下でしか成立しない。
」
2
<維持管理機関はどう得をするのか?>
維持管理機関は顧客が欲するものを学び、顧客の希望と期待を充足させる方法を学ぶ。維持管理機関に
とってのその他の利益は以下の通り:
・いろいろな改善が顧客に及ぼす影響を知ること
・財源を有効に使い税金を節約すること
・維持管理している道路の状態の改善に気付くこと
・遅れ、事故、汚染を評価し、それらを軽減するために行動すること
顧客中心のベンチマーキングに参加した者は国内外の官民の道路維持管理を実施している無数の機関の
知識に触れることができる。結果として、参加者は:
・自身の業績を向上させる方法についてのアイデアを得る
・より良い仕事のやり方に至るまでの時間を節約する
・他者の成功から継続的に学ぶ
・他者の失敗を繰り返さない
顧客中心のベンチマーキングにより維持管理機関はどのレベルまで業績を改善することが可能かつ現実
的であるか知る:
・維持管理機関は現在の業績レベルと業績レベルを向上させるために必要な資源について市民と政府機
関に対し伝えるためのより良い手段を得る
・維持管理機関は現実的な改善目標を設定するための準備ができる
顧客中心のベンチマーキングに参加した維持管理機関は以下のことにより容易に職員を巻き込んで事業
を改善できる:
・継続的にベスト・プラクティスを実行し、仕事のやり方の改善に着目し続けること
・ベスト・プラクティスを詳細に記録し、それを誰もが利用できるようにすること
<見方を変える>
維持管理には、特に現在及び将来の道路利用者そしてインフラの保全にどう貢献するかという点で、新
しい見方が必要である。過去において、ほとんどの維持管理機関は生産量と使った資源によって業績を
測定していた。典型的な指標はなされた仕事の量であり、投入された労働力・機器・資材の量であり、
費用あたりの生産量あるいは原単位(すなわち、車線あたり延長あたりの費用)であった。新しい見方
においてはこれらの指標は部分でしかない。顧客にとって重要な維持管理の価値とアウトカムに新たに
着目した業績指標の階層がある。
成果が認められて維持管理と維持管理財源の増加に対する顧客の支持が増すことも大きな利益である。
維持管理機関が使った税金が顧客の望む条件と体験を生み出していることを顧客は確信するようになる。
3
<顧客とは重要な努力目標であるという理解>
維持管理機関は公共の種々雑多な時には相容れない多くの希望を叶えようと努力している。顧客にはい
くつもの顔-運転者、納税者そして隣接地主-があり、それぞれが種々雑多な要求と希望を抱えている。
道路利用者は通勤、商業、娯楽等運転目的により多くのグループに区分できる。
維持管理機関は種々の顧客の要求を知り、資源利用を調節し、種々雑多な時には相容れない異なる顧客
グループの希望を最適化する必要がある。
「顧客にはいくつもの顔があり、市場はたくさんの区分からなる」
<市場調査は顧客を理解するための鍵であり顧客中心のベンチマーキングの絶対必要な部分でもある>
グループが異なれば使っている道路に関する満足や期待も異なる。利用者グループを区別するものは移
動のタイプ(物流か人流か、余暇か業務か)
、人口統計要因(年齢、性別、収入)
、道路の管轄である。
市場調査が必須の役割を演じることは 3 つの理由による:
1.顧客満足レベルを評価する
2.彼らの期待を知る
3.顧客グループが異なるとその満足と期待がどのように異なるかを知る
異なる顧客グループの要求に合致し期待を充足させる方法に関する洞察を得るための focus groups*と所
要の精度と信頼度を得るに十分なサイズのサンプルによる統計的に有効な調査も市場調査の有用な形態
である。
*フォーカスグループ 《番組・コマーシャル・製品などの開発に有用な情報を得るため, 司会者のもとに
集団で討議 (group interview) してもらう数人の消費者グループ》.
「顧客中心のベンチマーキングにおいて市場調査は継続的な改善プロセスの一部である」
4
<維持管理機関は顧客中心のベンチマーキングを行うために何をするか?>
STEP-1:パートナーを選ぶ
・内部でベンチマークするのか外部とベンチマークするのかを決める。内部でのベンチマーキングは比
較的容易だが、外部のベンチマーキングではより新しい考え方に触れることができる。
・外部とベンチマークするのであれば、最低 2 年間は共同作業をする確約をできるかどうか組織のやる
気を確認する。先導する部局を決める。
・ベンチマーキングパートナーとの取り決めを結ぶ。文書による取り決めが望ましい。ベンチマークを
計画しているもの、用いる指標のタイプ、ベンチマークをする組織のレベルについて仮取り決めを結ぶ。
STEP-2:指標を定める
・道路資産あるいは顧客が認知できるもしくは評価できる維持管理行為の属性を特定する。
・機関が社会のために提供しているもしくは行っている維持管理産物、サービス、行為のうち主要なも
のを 3 つから 7 つ特定する。
・顧客の欲するものを最もよく表している属性の指標を特定する。その指標に必要なデータを特定する。
STEP-3:パフォーマンスを測定する
・測定作業を計画し予定する。
・データベースを開発する。
・測定し結果を記録する。
STEP-4:ベスト・パフォーマンスとベスト・プラクティスを特定する
・パフォーマンス情報をベンチマーキングパートナーと共有する。
・いくつかのアウトカム、資源、制御不能要因に基づいてベスト・パフォーマンスを特定する。
「各組織のパフォーマンスをグラフ化することでベスト・パフォーマンスと改善機会を特定できる」
・パフォーマンスの相違に基づいて改善機会を特定する。
・ベスト・パフォーマーのやり方(プラクティス)を記録し、その情報を共有する。
・自身のパフォーマンスとベスト・パフォーマンスとの違いを分析し、ベスト・パフォーマンス機関の
仕事のやり方と自身の仕事のやり方との違いを特定する。
「フローチャート化はベスト・プラクティスの記録に重要である」
STEP-5:実施し継続的に改善する
・パフォーマンスを向上させ自機関のパフォーマンスとベスト・パフォーマンス機関のパフォーマンス
との隔たりを縮めると信じられるやり方を実施する。
・次期の結果測定を始める。
5
<決定的な成功要因>
顧客中心のベンチマーキングにおいて成功するためには以下の決定的な成功要因に注意を払う必要があ
る;
・トップマネジメントのリーダーシップ
・やり方を心得ているところからの仕入れ
・第一人者(第一人者が去ったときに備えて代替要員も)
・パフォーマンス評価のための共通の指標
・ベンチマーキングパートナーの間での信頼と向上心
・平衡感覚と常識
<時間的要件>
顧客中心のベンチマーキングは時間、職員、エネルギーの投入を覚悟しなければならない。
ベンチマークしたことがなくベンチマーキングパートナーシップの経験もない場合は、以下の時間的責
任で計画する:
・2 ヶ月でベンチマーキングパートナーシップの形成
・3-12 ヶ月で指標と測定規約の確立
・3-6 ヶ月で測定
・3 ヶ月でベスト・パフォーマンスとベスト・プラクティスを特定
・2 ヶ月で仕事のやり方を記録
・3 ヶ月で自部局へのベスト・プラクティスの適合性を決定
既にベンチマーキングパートナーシップが形成され用いるべき産物・サービス・指標が確立しているの
であれば、12-18 ヶ月で実行できる。
しかしながら、顧客中心のベンチマーキングは連続する過程でありその後も繰り返されるべきであるこ
とを忘れてはならない。
6
<要約>
維持管理機関がパフォーマンスの測定をしていなければベンチマーキングをしていないということは明
らかである。さらに、ベンチマーキングとは他人がやっていることを眺めるというだけではなく、現地
視察をするというだけでもない。
顧客中心のベンチマーキングとは最終的に顧客を喜ばせるための継続的な改善を達成するマネジメント
過程である。特定の環境のもとで適用でき、より高いレベルのパフォーマンス-最少の資源で達成され
た顧客への最高の産物とサービス-に導くと信じられるベスト・プラクティスの評価と適合がベンチマ
ーキングには含まれる。
顧客により奉仕したいと願い常により良いやり方を見つけたいと願う人々が顧客中心のベンチマーキン
グを動かす。ベスト・パフォーマンス機関の職員はできうる限り最高の機関でありたいと考える。
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