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「八重山地方の気候変動」本文(pdf形式)
八重山地方の気候変動
平成 23 年3月
石垣島地方気象台
目 次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
第1章
1
気象・海象の長期変化傾向
気温
(1)年平均気温の変化傾向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
(2)年平均気温の季節別変化傾向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2~3
①春(3~5月)、②夏(6~8月)、③秋(9~11 月)、④冬(12 月~2月)
(3)真夏日・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
①真夏日の変化傾向、②真夏日の変化傾向分布図
(4)熱帯夜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
①熱帯夜の変化傾向、②熱帯夜の変化傾向分布図
(5)猛暑日の変化傾向分布図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5~6
(6)真夏日と熱帯夜の長期変化傾向比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(7)平均気温が1℃、2℃高くなることについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(8)熱中症について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
2
降水量
(1)年降水量の変化傾向(平年比)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(2)年降水量の季節別変化傾向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7~8
①春(3~5月)、②夏(6~8月)、③秋(9~11 月)、④冬(12 月~2月)
(3)日降水量 100 ㎜・200 ㎜以上の経年変化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
3
海洋
(1)海面水温の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(2)海面水位の変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10~11
(3)異常潮位・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
第2章
台風について
1
台風の発生数と沖縄県への接近数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
2
八重山地方に影響した主な台風
(1)1977 年(昭和 52 年)台風第5号ベラ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12~13
(2)1994 年(平成6年) 台風第 13 号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13~14
(3)2006 年(平成 18 年)台風第 13 号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
(4)2008 年(平成 20 年)台風第 13 号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
(5)2008 年(平成 20 年)台風第 15 号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
3
八重山地方の高潮について
(1)高潮について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
(2)高潮・高波被害の2パターン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
(3)西表島白浜地区の高潮被害
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
(4)与那国島比川地区の高潮被害・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
(5)台風の強度予測・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
第3章
高温現象と 集中豪雨など
1
1998 年(平成 10 年)と 2007 年(平成 19 年)の高温現象 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
2
集中豪雨と局地的大雨への備えと対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
はじめに
気象庁では、異常気象や気候変動に関する観測・監視や将来予測を推進し、1974年(昭和49年)以来
5年ごとに、異常気象、地球温暖化などの気候変動、そのほかの地球環境の変化の現状や見通しについ
てのレポートを刊行している。2005年(平成17年)10月には、「近年における世界の異常気象と気候変
動-その実態と見通し-」(異常気象レポート2005)として最新の見解を公表した。このレポートの中
では、日本において異常高温の出現数が1990年代以降、過去100年になかった頻度で季節を問わず出現
していることや、大雨の出現数の長期的な増加傾向には、地球温暖化の影響が現れている可能性がある
ことが指摘されている。また、今後もこの傾向が持続する可能性があるとみられている。
2009年(平成21年)9月、福岡管区気象台・沖縄気象台・長崎海洋気象台の共同で、九州・山口県・
沖縄地方における気候変動の実態などをまとめた「異常気象レポート九州・山口県・沖縄版2009」を公
表した。
この中で用いている沖縄地方各地の観測データの統計年数は、気温が那覇(1891 年~2007 年:117
年)、石垣島(1897 年~2007 年:111 年)、宮古島(1938 年~2007 年:70 年)、南大東島(1943 年
~2007 年:65 年)、与那国島(1957 年~2007 年:51 年)である。降水量は、那覇(1891 年~2007 年:
117 年)、石垣島(1897 年~2007 年:111 年)、宮古島(1938 年~2007 年:70 年)、南大東島(1947
年~2007 年:61 年)、与那国島(1957 年~2007 年:51 年)である。
石垣島地方気象台では、「異常気象レポート九州・山口県・沖縄版2009」に沿って地域における地球
環境問題対策への支援強化のために県や市町、その他の関係機関や観光客に対して知識の普及を図り、
各機関の対策に寄与するための啓発資料として「八重山地方の気候変動」を作成した。
ここでは、100年程度の長い統計期間を有する那覇(117年)と石垣島(111年)の資料を用いて比較
を行った。なお、統計期間の短い宮古島(70年)、南大東島(61年)、与那国島(51年)については、
沖縄気象台ホームページに掲載している「異常気象レポート九州・山口県・沖縄版2009」をご覧頂きた
い。
また、「八重山地方の気候変動」については、石垣島地方気象台のホームページに掲載したので利活
用して頂きたい。
1
第1章
気象・海象の長期変化傾向
1 気温
(1)年平均気温の変化傾向
図1 に年平均気温平年差*の経年変化を示す。ここでは、観測データの統計期間が長い石垣島(1897
年~2007年:111年)と那覇(1891年~2007年:117年)を比較する。
石垣島と那覇の100年あたりの変化傾向は、石垣島で+1.16℃、那覇で+1.09℃の昇温となっている。
直近の10 年あたりの変化傾向をみると、石垣島で+0.12℃、那覇で+0.11℃、与那国島で+0.14℃の昇温
となっている。統計期間の短い与那国島では、1970 年頃からの昇温傾向が反映されている。
2.5
2.5
石垣島(年)
那覇(年)
1.5
1.5
気
温
平 0.5
年
差
-0.5
(
℃
気
温
平 0.5
年
差
-0.5
(
℃
) -1.5
) -1.5
-2.5
-2.5
1890
1910
1930
1950
1970
1990
2010
1890
1910
1930
1950
1970
1990
2010
那覇の1 8 9 1 年から 1 9 2 7 年ま では気候解析平均気温を使用していま す 。
図1
石垣島と那覇の気温平年差経年変化(年平均)
棒グラフは各年の値、折れ線グラフ(青)は 11 年移動平均値、直線(赤)は長期変化傾向。
*
平年差は平年値との差、平年値は 1971~2000 年の平均値
(2)年平均気温の季節別変化傾向
① 春(3~5月)
図2に春の平均気温平年差を示す。1940 年以前の低温傾向は他季節より春が大きい。年毎の値をみ
ると、1950年以降から平年を上回る年が増えている。
100年あたりの変化傾向を見ると、石垣島で+1.17℃、那覇で+1.29℃の昇温となっている。直近の10
年あたりの変化傾向を見ると、石垣島で+0.12℃、那覇で+0.13℃の昇温となっているが、与那国島では
+0.09℃となっており明瞭な変化傾向はみられなかった。
2.5
2.5
那覇(春)
石垣島(春)
1.5
1.5
気
温
平 0.5
年
差
-0.5
(
℃
気
温
平 0.5
年
差
-0.5
(
℃
) -1.5
) -1.5
-2.5
-2.5
1890
1910
1930
1950
1970
1990
2010
1890
1910
1930
1950
那覇の1891年から 1927年ま では気候解析平均気温を使用していま す 。
図2
石垣島と那覇の気温平年差経年変化(春)
2
1970
1990
2010
②
夏(6~8月)
図3に夏の年平均気温平年差の経年変化を示す。
100年あたりの変化傾向を見ると、石垣島で+1.16℃、那覇で+1.15℃の昇温となっている。直近10年
あたりの変化傾向を見ると、石垣島で+0.12℃、那覇で+0.11℃、与那国島で+0.10℃となっている。
2.5
2.5
石垣島(夏)
那覇(夏)
1.5
1.5
気
温
平 0.5
年
差
-0.5
(
℃
気
温
平 0.5
年
差
-0.5
(
℃
) -1.5
) -1.5
-2.5
-2.5
1890
1910
1930
1950
1970
1990
2010
1890
③
1910
1930
1950
1970
1990
2010
那覇の1891年から 1927年ま では気候解析平均気温を使用していま す 。
図3 石垣島と那覇の気温平年差経年変化(夏)
秋(9~11 月)
図4に秋の年平均気温平年差の経年変化を示す。
100年あたりの変化傾向を見ると、石垣島で+1.30℃、那覇で+1.09℃の昇温となっている。直近10年
あたりの変化傾向を見ると、石垣島で+0.13℃、那覇で+0.11℃、与那国島で+0.12℃の昇温となってい
る。
2.5
2.5
那覇(秋)
石垣島(秋)
1.5
1.5
気
温
平 0.5
年
差
-0.5
(
℃
気
温
平 0.5
年
差
-0.5
(
℃
) -1.5
) -1.5
-2.5
-2.5
1890
1910
1930
1950
1970
1990
2010
1890
1910
1930
1950
1970
1990
2010
那覇の1891年から 1927年ま では気候解析平均気温を使用していま す 。
図4
④
石垣島と那覇の気温平年差経年変化(秋)
冬(12~2月)
図5に冬の年平均気温平年差の経年変化を示す。100年あたりの変化傾向を見ると、石垣島+0.91℃、
那覇+0.74℃の昇温となっている。直近10年あたりの変化傾向を見ると、石垣島で+0.09℃、那覇で
+0.07℃、与那国島で+0.22℃の昇温となっており、与那国島では年の昇温傾向を上回っている。
2.5
2.5
那覇(冬)
石垣島(冬)
1.5
1.5
気
温
平 0.5
年
差
-0.5
(
℃
気
温
平 0.5
年
差
-0.5
(
℃
) -1.5
) -1.5
-2.5
-2.5
1890
図5
1910
1930
1950
1970
1990
2010
1890
1910
1930
1950
那覇の1891年から 1927年ま では気候解析平均気温を使用していま す 。
石垣島と那覇の気温平年差経年変化(冬)
3
1970
1990
2010
(3)真夏日
①真夏日の変化傾向
図6 に石垣島と那覇における1931年~2007年(77年間)の真夏日(日最高気温30℃以上の日)出現
日数の経年変化を示す。
石垣島では、ほとんどの年で100日以上出現しており、120日を超える年もあるが、那覇では、年間100
日以上出現する年は数年程度である。
11年移動平均で見ると、石垣島は、1940年~1960年頃にかけて120日程度の出現が多くなり、その後
1970年にかけて減少傾向になるが、1990年頃から緩やかに増加傾向となっている。
那覇は1970年頃までは出現日数80日前後を推移しており、1970年代はやや出現日数が減少したものの
1990年にかけて再び増加し、その後は100日前後を推移している。
真夏日(日最高気温30℃以上)の日数
(那覇):1931~2007年
各年の日数
11年移動平均
160
160
140
140
120
120
100
100
80
80
日数
日数
真夏日(日最高気温30℃以上)の日数
(石垣島):1931~2007年
60
60
40
40
20
20
0
1930
図6
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000 年
各年の日数
11年移動平均
0
1930
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000 年
石垣島と那覇の真夏日の経年変化
②真夏日の変化傾向分布図
図7 は、30年前(1968年~1977年の10年平均)と最近(1998年~2007年の10年平均)の真夏日日数
の増加を比較した分布図である。
石垣島と与那国島が約14日、那覇は約27日増加しており、那覇の増加が顕著である。
30 年前:1968~1977 年の 10 年平均
図7
真夏日
真夏日
真夏日
最近:1998~2007 年の 10 年平均
真夏日日数の平均出現数と変化の分布図
30 年前(1968~1977 年の 10 年平均)と最近(1998~2007 年の 10 年平均)との比較
4
30 年前と最近との差
(4)熱帯夜
①熱帯夜の変化傾向
図8 に石垣島と那覇における1931年~2007年(77年間)の熱帯夜(ここでは最低気温が25℃以上の
日を便宜的に「熱帯夜」と呼ぶ)出現日数の経年変化示す。
石垣島では、1970年頃から増加傾向にある。1950年代半ばから年間100日以上の年が多くなっており、
最近では年間120日を超える年も出現してきた。
那覇では、1980年頃から増加傾向にあり、2000年以降では年間100日以上の年が多くなっている。
熱帯夜(日最低気温25℃以上)の日数
(那覇):1931~2007年
各年の日数
11年移動平均
160
160
140
140
120
120
100
100
80
80
日数
日数
熱帯夜(日最低気温25℃以上)の日数
(石垣島):1931~2007年
60
60
40
40
20
20
0
1930
1940
図8
1950
1960
1970
1980
1990
0
1930
2000 年
各年の日数
11年移動平均
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000 年
石垣島と那覇の熱帯夜の経年変化
②熱帯夜の変化傾向分布図
図9 は、最近(1998年~2007年の10 年平均)と30 年前(1968年~1977年の10年平均)との熱帯夜
日数の比較を行った分布図である。石垣島は約22日、那覇は約30日、与那国島は約24日増加した。那覇
の増加が顕著である。
熱帯夜
30 年前:1968~1977 年の 10 年平均
図9
熱帯夜
熱帯夜
最近:1998~2007 年の 10 年平均
30 年前と最近との差
熱帯夜日数の平均出現数と変化の分布図
30 年前(1968~1977 年の 10 年平均)と最近(1998~2007 年の 10 年平均)の比較
(5)猛暑日の変化傾向分布図
図10は、最近(1998年~2007年の10年平均)と30 年前(1968年~1977年の10年平均)の猛暑日(日
最高気温が35℃以上の日)日数の比較を行った分布図である。
石垣島は 0.1 日、那覇は 0.3 日、与那国島は 0.1 日増加しているが、近年も含めて猛暑日(日最高気
温 35℃以上の日)の出現はほとんどない。
5
30 年前:1968~1977 年の 10 年平均
図 10
猛暑日
猛暑日
猛暑日
最近:1998~2007 年の 10 年平均
30 年前と最近との差
猛暑日日数の平均出現数と変化の分布図
30 年前(1968~1977 年の 10 年平均)と最近(1998~2007 年の 10 年平均)の比較
(6) 真夏日と熱帯夜の長期変化傾向比較
(日)
図 11 は、真夏日と熱帯夜の出現日数を重ね合わ
160
せたグラフである。
140
1931 年~2007 年の 77 年間で石垣島地方の真夏日
120
は約3日増加、熱帯夜が約 41 日増加している。真
夏日の増加は明瞭ではないが、熱帯夜は顕著に増加
している。
100
80
2007 年は、真夏日 133 日、熱帯夜 134 日である。
真夏日(約3日増加)= 0.0334x77年間
60
熱帯夜(約41日増加) = 0.5343x77年間
真夏日
熱帯夜
線形 (熱帯夜)
線形 (真夏日)
40
1930
1940
図 11
(7)
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010年
石垣島の真夏日・熱帯夜の経年変化比較図
平均気温が1℃、2℃高くなることについて
私たちは、普段生活している中で、気温が昨日に比べて1℃高くな
ったからといって、気にする人は少ないであろう。
表1 各地の年平均気温平年値(℃)
東京
15.9
宮崎
17.5
鹿児島
18.3
那覇
22.7
は 24.0℃、高雄(台湾)は 24.7℃である。那覇は1℃高くなると石
石垣島
24.0
垣島、2℃高くなると台湾南部の気候となり、東京が2℃高くなると
高雄(台湾)
24.7
では、人間の体温で考えてみたい。
通常、人間の体温は 36.5℃前後で平熱、1℃上がって 37℃以上に
なると微熱、2℃上がって 38℃以上になると熱発と言われている。
表3の各地の年平均気温平年値で見てみると那覇は 22.7℃、石垣島
九州南部の気候となってしまう。
地球全体の平均気温は、1900 年~2000 年までの 100 年間で 0.74℃、日本の年平均気温は1℃も上昇
した。地球の気候は、この 100 年間でこのように変わってきていることから、今後の気温上昇による動
植物への様々な影響が心配される。
6
(8)熱中症ついて
気象台では、天気予報と併せて天気概況を1日3回(5
時、11 時、17 時)発表している。熱中症は、気温と密接
な関係があることから、日最高気温が 33℃以上を観測し
た場合や予想される場合には、天気概況の中で熱中症に
対する注意を呼びかけている(図 12)。天気概況は、県
内の報道機関により毎日の天気予報番組の中で読み上げ
られているので利用してほしい。
図 12
2 降水量
(1)年降水量の変化傾向(平年比)
天気概況(熱中症を記述)
図13に年降水量平年比の経年変化を示す。統計期間は、石垣島(1897年~2007年:111年)、那覇(1891
年~2007年:117年)である。
11年移動平均をみると、石垣島では1910年代と1930年代に多雨期があり、それ以降は平年程度で推
移している。那覇では、1930年代に多雨期があるが、その他の年は明瞭な変化は見られない。
降
水
量
平
年
比
(
%
)
200
降
水
量
平
年
比
石垣島(年)
150
100
50
(
%
0
1890
図 13
)
1910
1930
1950
1970
1990
2010
200
那覇(年)
150
100
50
0
1890
1910
1930
1950
1970
1990
2010
年の石垣島と那覇の降水量平年比の経年変化
細い実線は各年の値、太い実線は 11 年移動平均値。平年値は 1971~2000 年の値。
(2)年降水量の季節別変化傾向
① 春(3~5月)
図14 の11年移動平均をみると、石垣島では、1940年頃に平年を大きく上回る多雨期があり、約40年程
度の周期変動がみえるが、明瞭な変化傾向はない。那覇は平年に近い値を中心に変動している。
石垣島は、那覇に比べて変動幅が大きい。
降
水
量
平
年
比
(
%
)
200
降
水
量
平
年
比
石垣島(春)
150
100
50
(
%
0
1890
図 14
)
1910
1930
1950
1970
1990
2010
石垣島と那覇の降水量平年比の経年変化(春)
7
200
那覇(春)
150
100
50
0
1890
1910
1930
1950
1970
1990
2010
②
夏(6~8月)
図15 の11年移動平均をみると、石垣島では平年程度で推移しており、明瞭な変化傾向はみられない。
那覇は、1980年までは多雨期であるが、その後2000年にかけては少雨傾向がみられる。2000年以降は再
び多雨傾向となっている。
降
水
量
平
年
比
(
%
)
200
200
降
水
量
平
年
比
石垣島(夏)
150
100
100
50
(
%
50
0
1890
)
1910
1930
1950
1970
1990
那覇(夏)
150
0
1890
2010
1910
1930
1950
1970
1990
2010
図 15 石垣島と那覇の降水量平年比の経年変化(夏)
③
秋(9~11 月)
図16 の11年移動平均をみると、石垣島で、1990年代半ば頃から多雨期になっており、変動幅も1980
年代と比較して大きくなっている。那覇は、1930年代後半と、1960年代と1980年頃から1990年頃にかけ
て少雨期であるが、1990年代半ば以降は多雨期になっている。
降
水
量
平
年
比
200
降
水
量
平
年
比
石垣島(秋)
150
100
50
(
%
)
(
%
0
1890
200
100
50
)
1910
1930
1950
1970
1990
那覇(秋)
150
0
1890
2010
1910
1930
1950
1970
1990
2010
図 16 石垣島と那覇の降水量平年比の経年変化(秋)
④
冬(12~2月)
図17 の11年移動平均をみると、石垣島は、1905年頃から1920年代半ば頃に多雨期、1960年頃から1980
年代半ば頃に少雨時期がみられる。那覇は、1900年頃から1920年頃と1970年頃に多雨期となっているが、
1980年頃からは平年程度を僅かに変動しながら推移している。
降
水
量
平
年
比
(
%
)
200
降
水
量
平
年
比
石垣島(冬)
150
100
50
(
%
0
1890
図 17
)
1910
1930
1950
1970
1990
2010
石垣島と那覇の降水量平年比の経年変化(冬)
8
200
那覇(冬)
150
100
50
0
1890
1910
1930
1950
1970
1990
2010
(3)日降水量100 ㎜・200 ㎜以上の経年変化
図18 に、石垣島における1901~2007年(107年間)の日降水量100 ㎜以上および200 ㎜以上の出現日
数を示す。日降水量100㎜以上は、11年移動平均で見ると石垣島と那覇(図省略)ともに長期的な変動
傾向は明瞭ではない。また、石垣島の変動幅は、2日から3日であるが、那覇の変動幅は、1日から3
日となっており石垣島に比べて変動幅が大きくなっている。
日降水量200㎜以上は、石垣島と那覇の傾向は似ており、1日程度の変動幅である。
日降水量100㎜以上の日数:石垣島(1901年~2007年)
日降水量200㎜以上の日数:石垣島(1901年~2007年)
10
10
9
9
日数
11年移動平均
8
日数
11年移動平均
8
7
7
6
日
数 5
6
日
数 5
4
4
3
3
2
2
1
1
0
0
1900
1910
図 18
1920
1930
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010年
1900
1910
1920
1930
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010年
石垣島の日降水量 100 ㎜以上(左図)および 200 ㎜以上(右図)の出現日数
3 海洋
(1)海面水温の変化
沖縄周辺海域の年平均海面水温の100年あたりの上昇
率は、先島諸島周辺では+0.69℃、東シナ海南部は+1.13℃、
写真1
その他の日本の海域でも世界全体の海面水温の上昇率
(0.50℃)より大きくなっている(図19・20)。
海面水温が上昇しサンゴの白化現象が起ると、サンゴ
が死滅し魚介類が生息できなくなることから八重山地方
の観光業者や漁業関係者にとっては大きな痛手となるこ
とが考えられる(写真1)。
沖縄県の報告によると、沖縄県の近海魚漁獲高の5割
強はまぐろ類とのことである。沖縄県水産試験場の調査
沿岸域の観光業(グラスボート、川平公園)
では、沖縄海域はクロマグロの産卵場であり、それへの海水温の上昇による影響が心配される。
図 19
年平均海面水温平年偏差(1901 年~2007 年)
図 20
九州沖縄海域における海域区分と
海面水温上昇率(℃/100 年)
9
(2)海面水位の変化
日本沿岸の海面水位は、1906 年~2007 年までのここ 100 年では明瞭な上昇傾向は見られない(図 21)。
1950 年頃に極大が見られ、約 20 年周期の変動が顕著である。
石垣島の海面水位は 1968 年~2007 年までの 40 年間で 12 ㎝上昇(図 23)、那覇は8㎝上昇(図 24)
しているが、統計期間が短いために、日本沿岸のようなここ 100 年程度の長期変化傾向は不明である。
観光客が水牛車観光を目当てに年間 20 万人訪れるという西表島の由布島は、標高 150 ㎝と低い島(次
ページ、写真 19)で、過去に高潮の被害を度々受けて島民が西表島に移住するという辛い歴史がある。
また、西表島の白浜地区は標高 130 ㎝と八重山地方の中では最も低い地域である。今後、更に海面水
位が上昇すると、これらの地域では台風による高潮や高波による被害を受けやすくなることから、台風
の接近時には早めの台風対策が重要となってくる。
また、八重山地方の港の岸壁や護岸などの海岸施設は、岸壁を高くするなど近年かなり整備されてき
た。しかし、岸壁を高くしたことによって小型の漁船などは浮き桟橋、橋げた、はしごなどを設置して
荷物の積み下ろしを行っているなど対応も変わってきた(次ページ、写真2~5)。
日本沿岸の海面水位平年偏差(1906年~2007年)
20
1906年~1959年(4地点平均)
1960年~2007年(4海域平均)
15
10
平
年
偏
差
(
㎝
)
5
0
-5
4地点平年偏差
5年移動平均
-10
地域平年偏差
5年移動平均
-15
-20
1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 年
年
図 21
図 22
4海域(1960 年以降)右図
日本沿岸の海面水位偏差(1906 年~2007 年)
20
20
15
15
10
10
平
年 5
偏
差 0
(
㎝ -5
)
平
平 5
年
年
偏
偏
差 0
差
(
(
㎝
㎝ -5
)
)
平年偏差
5年移動平均
-10
4地点(1906 年~1959 年)左図
平年編差
-10
5年移動平均
-15
-15
-20
1960
図 23
1970
1980
1990
2000
2010年
-20
1960
石垣島の海面水位偏差(1968 年~2007 年)
1970
図 24
10
1980
1990
2000
2010年
那覇の海面水位偏差(1968 年~2007 年)
写真3
写真2
由布島の水牛車観光
写真5
写真4
図 35
浮き桟橋
石垣港
浮き桟橋
日本沿岸の海面水位偏差
石積みの岸壁(2段設置)
はしご
通常の岸壁
新川漁港
新川漁港
(3)異常潮位
異常潮位は、様々な要因が複合的に関与して発生し、その原因は気象と海洋によるものに大別できる。
特に夏から秋に発生し、観測した潮位と平常潮位との潮位偏差が数 10 ㎝程度の状態が1週間~3か月
程度継続する異常潮位は、沿岸の低地などで浸水することがある。八重山地方でも、これまでに暖水渦
(図 25)の影響で岸壁の冠水や浸水被害(写真6~8)などが発生している。
人工衛星による観測から海面高度(図 26)が分かるようになり、八重山地方で発生した異常潮位は、
その未知の部分がはっきり映し出されるようになった。
図 25 暖水渦:周囲よりも水位が高く時計回りの流れ
図 26
海面高度偏差分布図(2003 年 8 月 31 日)
図 27
暖水渦断面模式図
図 28
冷水渦断面模式図
※渦の中は周囲より暖かい水で盛り上がっている(図 27)。逆に渦の流れが反時計回りの場合は冷水渦(図 28)
写真6
伊野田漁港岸壁冠水(2009 年7月 23 日)
写真7
写真8
西表島白浜地区浸水(2009 年7月 24 日)
11
海水が排水溝から逆流している
第2章 台風について
1 台風の発生数と沖縄県への接近数
台風は、一般的に沖縄地方に近づくころ勢力が最
も強くなり、移動する速度も遅くなることから、沖
縄地方では長い間、台風の影響を受けることになる。
台風が接近すると災害が発生する反面、恵みの雨
をもたらしてくれることや、熱くなった海水をかき
混ぜてサンゴの白化現象などを最小限に抑えてく
れるなどのメリットも大きい。
台風の発生数と沖縄地方への接近数の経年変化
を図 29 に示す。1971 年~2000 年における台風の発
図 29
台風の発生数と沖縄県への接近数
(1951 年~2007 年)
生数の平年値は 26.7 個、沖縄地方への接近数は 7.0 個である。
発生数は、1960 年代半ばと 1990 年代はじめにかけてピークがある。(数十年スケ-ルの周期性がみ
られる)1990 年代後半以降は、25 個程度で推移しており発生数の少ない傾向が続いている。
接近数は、5~10 個程度の幅で変動しており、その周期は明瞭ではない。発生数および接近数とも長
期的な変化傾向はみられない。
接近数の最も多かった年が 2004 年の 15 個で、本土への上陸数も 10 個と過去最多となった。最も少
なかった年が 1973 年、1977 年、1995 年の 3 個である。
2
八重山地方に影響した主な台風
表1は、日本における最大瞬間風速の上位 10 位までを記録
した国内最大級の台風である。
八重山地方では、1977 年の台風第5号ベラと 1994 年の台風
表2
日本における最大瞬間風速の上位記録
順位
気象官署
最大瞬間風速
(m/s)
台風
期日
1
宮古島
85.3
第2宮古島台風:コラ
(台風第18号)
1966.9.5
2
室戸岬
84.5
第2室戸台風
(台風第18号)
1961.9.16
1968.9.22
3
宮古島
79.8
第3宮古島台風:デラ
(台風第16号)
4
名瀬
78.9
台風第9号
1970.8.13
5
宮古島
78.0
第3宮古島台風:デラ
(第16号)
1968.9.23
6
室戸岬
77.1
台風第23号
1965.9.10
7
宮古島
74.1
台風第14号
1940.9.11
8
那覇
73.6
台風第12号
1956.9.8
年の台風第 13 号と 2008 年の台風第 13 号と台風第 15 号を参
9
宇和島
72.3
台風第20号
1964.9.25
考資料として追加した。これらの台風を今後の防災活動の教
10
1977.7.31
第 13 号が最大瞬間風速 70.2 m/s を記録して第 10 位に入った。
八重山地方に甚大な被害をもたらした2つの台風の特徴と
被害状況などについて検証する。また、最近記憶に新しい 2006
訓とする必要がある。
参考資料
石垣島
70.2
ベラ(第5号)
与那国島
70.2
台風第13号
1994.8.7
石垣島
67.0
台風第13号
2006.9.16
与那国島
62.8
台風第13号
与那国島
49.2
台風第15号
2008.9.13 2008.9.28 (1)1977 年(昭和 52 年)台風第5号ベラ
7月 25 日硫黄島の西方海上で発生した熱帯低気圧は、27 日には南大東島の南西約 90 ㎞の海上で台
風となった。31 日には、石垣島の南南西約 15 ㎞まで接近し、西表島を北西に横断した。
石垣島地方で中心の気圧 931.75hPa、最大風速 53.0m/s、最大瞬間風速 70.2 m/s を観測した。
車両が横転したり高潮が発生するなどの被害があった。
<台風の特徴>
①石垣島地方気象台で最大瞬間風速 70.2 m/s を観測し、八重山地方の観測史上最も強い台風である。
②石垣港において高極潮位が標高 189.7 ㎝を記録し、西表島では高潮害が発生した。
白浜地区と星立地区では、合わせて 115 戸の床上浸水や床下浸水があった。
③西表島船浮港では、高波によって船舶の転覆や座礁によって6名の死者が出た。
④石垣島では、暴風によって石垣空港管制塔の窓ガラスが粉々に割れ、無線機器も水浸しで使用不能
となった。また、400 台前後の車両が横転するなど甚大な被害となった。
12
図30
台風第5号経路図
新聞記事:八重山毎日新聞社提供(1977年8月2日)
(2)1994 年(平成6年)台風第 13 号
8月3日 09 時、マリアナ諸島付近で発生した台風第 13 号は、
西よりに進み6日 09 時にフィリピン付近の海上で中心気圧
925hPa、中心付近の最大風速 50m/s の大型で非常に強い台風とな
った。7日には非常に強い勢力のまま与那国島の西約 55km の海
上を最接近して北寄りに進んだ(図 31)。与那国島では、7日
22 時 37 分に最大瞬間風速 70.2 m/s を観測し極値(観測史上1
位の値)を更新した。与那国島測候所では、7日 22 時 51 分に暴
風雨のため風速計が故障して、以後、風の観測が不能となった。
台風第 13 号は、与那国島を中心に強風害をもたらし、国と県は
図31
台風第13号経路図
与那国島に「災害救助法」を適用した。
<台風の特徴>
① 最大瞬間風速 70.2 m/s を観測し 1977 年の台風第 5 号ベラと並んで八重山地方での観測史上最
も強い台風である。
② 台風接近と満潮時が重なったため、高波及び高潮によってラワン材などが高さ 10mの護岸を越
えて比川小学校に流れ込むなどの被害が発生した(次ページ、写真9~11)。
新聞記事:八重山毎日新聞社提供(1994年8月9日)
新聞記事:八重山毎日新聞社提供(1994年8月10日)
13
写真9
比川小学校へ打ち上げれたラワン材
(気象台撮影)
写真 10
写真 11
南牧場に打ち上げられた海底岩石
(気象台撮影)
久部良漁港での漁船被害
(気象台撮影)
(3)2006 年(平成 18 年)台風第 13 号
台風第 13 号は、9 月 10 日 21 時にフィリピンの東海上で発生し、
発達しながら北西へ進んだ。14 日には、進路を徐々に北寄りに変えて
15 日には石垣島地方の南海上に達する。
中心付近の最大風速が 50m/s か
ら 55m/s へ、
中心気圧が 930hPa から 925hPa へとさらに発達した。16 日
には中心気圧が 919hPa となり、勢力を維持したまま石垣島地方を通過
後、久米島の西の海上を通って九州地方へ向かって進んだ(図 32)。
<台風の特徴> (写真12~17)
①石垣島地方気象台で 9 月 16 日に最大瞬間風速 67.0m/s を観測した。
②石垣島地方では電柱の折損倒壊が 221 本に達し、全世帯の約 8 割にあ
たる 19,000 世帯が停電した。
図32
台風第13号経路図
図
③猛烈な風による車両の横転被害や樹木の倒木や家屋被害も相次いだ。
④ガラス破損によって、重傷者 4 名、軽傷者 51 名などケガ人も続出した。
⑤沖縄本島の本部港では、高潮と高波によってターミナルビルの壁や管理事務所のブロック壁が破壊さ
れたり、重さ3トンの消波ブロック約 30 個が打ち上げられるなど壊滅的な被害を受けた。
写真 12
川平地区の電柱倒壊:気象台撮影
写真 15
本部港管理事務所壁崩壊:気象台撮影
写真 14
写真 13
石垣市街地の車両横転:気象台撮影
新川漁港の船舶沈没:気象台撮影
写真 17
写真 16
本部港ターミナル壁崩壊:気象台撮影
14
重さ3トンの消波ブロック打上げ:気象台撮影
(4)2008 年(平成 20 年)台風第 13 号
台風第13 号は、9月9日03 時にフィリピンの東海上
で発生、発達しながら時速約10km で北上し、10 日03 時
には、沖縄の南海上で中心気圧970hPa、最大風速35m/s の
強い勢力になった。台風は、その後もゆっくりとした速
度で八重山地方の南海上を北西へ進み、14 日の03 時に
与那国島の西約110km の海上で中心気圧960hPa、最大風
速40m/s の強い勢力を維持しながら台湾北部に上陸した
(図33)。
図33
<台風の特徴>(写真18~19)
台風第13号経路図
① 八重山地方では所によって1時間80.0mm以上の猛烈な雨が降り、降水量に関する記録更新が相次い
だ。それに伴って、与那国島では床上浸水や道路陥没など被害が大きかった。
② 9月10日00時~9月16日24時までの降水量は、石垣島で541.0mm、与那国島で1072.0mmに達した。
③ 石垣市川平では、9月12 日の日降水量が444.5mm(従来の極値:261.0mm、2006年9月6日)に達
し、観測史上(統計開始:1978年9月)最も多い量となった。また、石垣島で最大1 時間降水量84.5mm
(従来の極値:80.5mm、2001年9月5日)、石垣市真栄里で89.0mm(従来の極値:38.0mm、2007月
9月18日)、石垣市川平で99.5mm(従来の極値:88.0mm、1995年9月22日)の猛烈な雨が降り、と
もに9月の歴代一位となった。与那国島では9月13日の日降水量が765.0mm(従来の極値:493.1mm、
1967年11月18日)、日最大1 時間降水量110.0mm(従来の極値:109.5mm、1988年4月6日)に達し、
観測史上(統計開始:1956 年11 月)最も多い降水量となった。
新聞記事:八重山毎日新聞社提供(2008年9月13日・14日・16日)
写真 18
新聞記事:八重山毎日新聞社提供(9月16日)
写真 19
祖納地区の道路決壊(左)と橋の陥没写真(右):気象台撮影
15
(5)2008 年(平成 20 年)台風第 15 号
台風第15号は、9月24 日21 時にフィリピンの東海上で発生
し、発達しながら西北西へ進み9月26日03時には、中心気圧
965hPa、中心付近の最大風速35m/s の強い勢力となった。その
後も発達しながら西北西へ進み、9月27日21時には、中心気圧
910hPa、中心付近の最大風速60m/s、最大瞬間風速85m/s の猛烈
な勢力となり、その勢力を維持したまま、八重山地方の南海上
を北西へ進み台湾北部に上陸した(図34)。
図34
<台風の特徴>
台風第15号経路図
①台風はフィリピンの東海上で発生し、29℃前後の海水温の高い海域を進んだため、急速に発達した。
②台風は猛烈な勢力を継続しながら、28日08時頃には石垣島の西南西約180km、28日15時頃には与那
国島地方の南西約80km まで接近した。このため、八重山地方を中心に暴風となった。
③八重山地方への接近時には猛烈な勢力であったこと、比較的ゆっくりとした速さで進んだことから、
八重山地方では28日は10 時間前後の暴風が吹き荒れた。
④台風の最盛期には明瞭な眼を持ち、28日07時~08時のレーダーエコーでは直径約50kmの眼が観測さ
れた。
⑤与那国町の比川海岸では離岸提が崩壊。、離岸提は二つあり、沖側にあった100mのものは、形
がなくなるほど崩壊し、海岸側の200mある離岸提も両端が崩れた(写真20)。
⑥航行中の米国船籍ヨット「JADE PRINCESS」(全長約20m)が遭難し、米国人4人が不明となっ
た。
写真 20
比川海岸の離岸堤崩壊:気象台撮影
新聞記事:八重山毎日新聞社提供(2008年9月30日)
16
3
八重山地方の高潮について
八重山地方で、高潮の被害を受けやすい地域は、西表島の白
浜地区・大原港・由布島、与那国島の比川地区である。
(1) 高潮について
高潮は、次の①~③の影響によって発生する(図 35)。
①気圧低下による吸い上げ効果
台風の中心気圧が低い為、大気海面を押さえる力が弱くなり、
海面が上昇する。
②風による吹き寄せ効果
強風が海岸に向かって吹くと、海水が海岸に吹き寄せられて
海面が上昇する。
図35
③波浪の影響
高潮の模式図
八重山地方を含む沖縄地方は、周りを囲むリーフの縁で波浪が砕け、リーフ内の海面が上昇すること
がある。
(2)高潮・高波被害のパターン
①高潮や高波によって護岸を越えて海水が流れ込
むケース(図 36 の左図)
与那国島比川地区など
②海水が排水溝から逆流するケース(同右図)
西表島祖納地区など
図36
高潮・高波の被害模式図
(3)西表島白浜地区の高潮被害
西表島の白浜地区や大原港は、石垣島地方で最も高潮の被害を受けやすい地域である。
2003 年台風第 15 号の通過の際に西表島の白浜地区で高潮が発生した。白浜地区は、埋め立て地で標
高 130 ㎝と低いために排水溝から海水が逆流(図 38)して、床上浸水や道路冠水などの被害が発生し
た(写真 21)。排水溝からの海水の逆流は護岸をいくら高くしても防ぐことはできない。台風が島の
東側や北側を進む場合には白浜地区、島の南側を進む場合は大原港で警戒が必要である。
写真 21
白浜地区
大原港
校庭冠水(白浜小中学校):気象台撮影
電子ポータル地図より引用
図37
西表島地形図
図38
17
排水溝の模式図
(4)与那国島比川地区の高潮被害
沖縄は、周りがリーフに囲まれているため、台風などに伴う吸い上げ効果や吹き寄せ効果の他に、波
浪の影響を大きく受けることがある。
与那国島の「比川地区」、八重瀬町の「港川漁港」や「奥武島」(図 41)、国頭村の「楚洲地区」
では、過去に高潮に高波が重なって起きたと思われる大きな高潮害が発生しており、これらの地域は、
リーフがあって入り江になっているなどの共通点がある。
沖合から寄せてきた大波がリーフ先端のさんご礁にぶつかって砕ける際、大波のもっているエネルギ
ーがリーフ内の水位を盛り上げ、津波のように沿岸に押し寄せるという研究者の研究成果もある(図
39)。
高潮の災害は、風向によって警戒する地域が変わっ
てくるので台風の動きには厳重な警戒が必要である。
リーフ(サンゴ礁海岸)
東~南風の場合は、
「与那国島の比川海岸(図 40)、
図39
沖縄本島の東~南海岸、本部港」、北風の場合は、「西
さんご礁海岸模式
図
表島の白浜地区、沖縄本島地方の西海岸」などのように風向方向に開いている湾が危険になる。
奥武島
島
比川海岸
港川漁港
リーフ
リーフ
電子ポータル地図より引用
図40
電子ポータル地図より引用
与那国島の比川海岸
図41
八重瀬町の「港川漁港」・「奥武島」
(5) 台風の強度予測
文部科学省「人・自然・地球教生プロ
強度別に示した台風(熱帯低気圧)
-気象庁の地球シミュレータ結果-
ジェクト」のもと気象研究所で行われた
10
には強い台風が増加する可能性が高いと
いうシミュレーション結果が出ている。
過去の事例から、強い台風が接近する
と車を横転させたり家屋や電柱を損壊し
たり甚大な災害が発生している。
年平均出現数(個)
の強度別年出現数(図 42)は、21 世紀末
8.9
9
予測研究によると、台風(熱帯低気圧)
8.1
8
7.0
7
6.7
6
6.4
5
4.8
5.0
4
4.5
3
4.1
4.2
現 在
21世紀末頃
2
3.6
2.3
1.2
1
0.9
0.1
0.6
0
2025
2530
これらのことを教訓に、今後、強い台風
3035
3540
4045
4550
5055
5560
6065
0.1
6570
7075
最大風速(m/s)
が接近するような場合は、雨戸の設置や
図 42
ガラス窓にテープを貼って補強するなど
徹底した台風対策を早めに行うことが重要となる。
18
強度別に示した台風(熱帯低気圧)の年出現数
第3章 高温現象と集中豪雨など
1 1998 年(平成 10 年)と 2007 年(平成 19 年)の高温現象
沖縄は、1998 年が近年では最も暑い年で年平均気温平年偏差は、石垣島+1.4℃、那覇+1.7℃で沖
縄地方の5地点平均は+1.5℃であった(表2)。この影響で、サンゴが白化現象をおこして、各地で
サンゴが死滅するなど社会的に大きく取り上げられた。
また、那覇では、1997年12 月から1999 年1 月までの月平均気温が14 か月連続して(1998年6月を
除く)+1℃以上の正偏差(図44)が続いた。石垣島では、11か月正偏差となった(図43)。
次に暑い年は 2007 年で平年偏差は、石垣島+0.8℃、那覇+0.8℃で沖縄地方の5地点平均は+0.7℃
であった。那覇と石垣島では、2006 年 10 月から 2007 年3月まで+1℃以上の正偏差(図 45~図 46)
が続いた。この年は、全国の観測地点の約半分に当たる 71 地点で過去1~3位の高温を観測した。
気象庁はこの年、新たに「猛暑日(日最高気温 35℃以上の日)」という用語を予報用語に追加した。
表3
日本と沖縄地方の高温順位(気温平年編差)
日本
順位
白化前(真栄田岬)
白化中(真栄田岬)
白化後(真栄田岬)
沖縄地方
年 平年差(℃) 順位
年 平年差(℃)
1
1990
+1.04
1
1998
+1.5
2
2004
+1.00
2
2007
+0.7
3
1998
+0.98
3
2006
+0.6
4
2007
+0.85
2001
+0.6
5
1994
+0.82
1999
+0.6
6
1999
+0.76
2003
+0.5
7
2002
+0.53
2002
+0.5
2000
+0.53
1991
+0.5
9
1979
+0.51
2004
+0.4
10
1991
+0.50
2000
+0.4
6
9
1998 年 6 月 14 日
1998 年 9 月 15 日
1998 年 11 月 15 日
(真栄田岬)
全国地球温暖化防止活動推進センターホームページより引用
図 43
図 45
石垣島の月平均気温平年偏差(1997 年~1999 年)
石垣島の月平均気温平年偏差(2006 年~2008 年)
19
図 44
那覇の月平均気温平年偏差(1997 年~1999 年)
図 46
那覇の月平均気温平年偏差(2006 年~2008 年)
2
集中豪雨と局地的大雨への備えと対応
2010 年(平成 22 年)2月 22 日に石垣島では、気圧の谷の影響で猛烈な雨が降り、日最大 1 時間降
水量 94.0mm、日降水量 213.5mm を観測し、両観測とも2月の観測値としては統計開始以降、第 1 位の
記録を更新した。このため、石垣市内の各地で道路冠水(写真 22)や浸水害が発生した。
石垣島の2月の気温平年偏差は+2.5℃、
旬別(図 47)では、2月上旬+4.7℃、中旬
-1.1℃、下旬+4.4℃で上旬と下旬はかなり
の高温であった。また、2007 年(平成 19 年)
12 月 21 日に本島南部では、急激に発達した
積乱雲の影響で局地的に猛烈な雨が降り、
各地で浸水害や土砂災害が発生した。八重
瀬町では川の氾濫により浸水した車から避
難しようとした女児が流されて亡くなると
いう痛ましい被害があった。
災害事例から分かるように、このような
図 47
石垣島の旬別平均気温平年偏差(2010 年)
被害をもたらす集中豪雨や局地的大雨は夏
場だけに起こることではなく、冬場でも高温になり暖かく湿った空気が流入して、大気の状態が不安定
になれば、夏場と同じような大雨が降って被害が発生することを教訓とする必要がある。
道路冠水を解消するために、大雨時に排水溝の清掃を行うことは、水が濁っている事などもあり困難
を伴う場合もある(写真 23)。日頃から、地域で排水溝の清掃(新聞記事)を行うなど、地域の安全
は地域で守ることが重要である。
気象災害は、防災気象情報を適切に利用することにより、未然に防いだり、軽減したりすることが可
能なので、防災気象情報を活用しつつ、前兆現象を見たり感じたりした場合には、速やかに自主避難す
ることが重要である。そのような心がけが自らの命を守ることに繋がるものである。
写真 22
道路冠水
写真 23
冠水対応で排水溝を探す作業員(白保地区道路)
新聞記事:八重山毎日新聞社提供
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