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児童館における ソーシャルワーク実践

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児童館における ソーシャルワーク実践
児童館における
ソーシャルワーク実践
児童館におけるソーシャルワーク実践
財団法人 児童健全育成推進財団
財団法人 児童健全育成推進財団
森林認証紙を使用しています。
この冊子は環境にやさしい FSC
まえがき
児童館は児童福祉施設として、子ども
自身や子育ての課題を抱えた利用者に
対して、適切な援助を展開することが
求められています。
本書は各地の児童館で取り組まれてい
るソーシャルワーク実践を紐解きまし
た。児童福祉施設としての価値を高め
ることの一助になればと思います。
財団法人 児童健全育成推進財団
監修者紹介
大竹 智(おおたけ さとる)
立正大学社会福祉学部 子ども教育福祉
学科 教授
駒澤大学大学院人文科学研究科修了。
社会福祉法人二葉保育園 二葉乳児院養
育家庭センター勤務から研究者の道に。
日本子ども家庭福祉学会理事、埼玉県子
どもの権利擁護委員会調査専門員、熊谷
市児童福祉審議会会長、東京都児童福祉
審議会臨時委員。
本誌について
第 2 章に掲載している事例は全て、各地の児童館のソーシャルワーク実践を基にして制作しています。
ただし、利用者のプライバシー保護を目的に、一部脚色しています。また、登場人物は全て仮名です。
1
C O N T E N T S
第
1章
児童館におけるソーシャルワーク �������� 3
児童館におけるソーシャルワークとは������� 4
第
2章
事例から学ぶ������������������� 9
事例① 障がいのある児童の支援��������� 10
解説………………………………………………………… 14
事例② 児童虐待���������������� 16
解説………………………………………………………… 20
事例③ 母親の子育て不安への支援�������� 22
解説………………………………………………………… 26
[コラム]学校との連携・協力のとり方 「学校となかよくなるヒント」
������ 28
事例④ 発達障がいのある子どもをもつ保護者支援� 30
解説………………………………………………………… 34
事例⑤ いじめを心配する保護者支援������� 36
解説………………………………………………………… 40
事例⑥ 不登校����������������� 42
解説………………………………………………………… 46
[コラム]ソーシャルワーカーのケア��������� 48
第
3章
事例を記録する ����������������� 49
記録のすすめ������������������ 50
日々の記録について��������������� 51
● ケース記録 経過記録用紙(参考) ���������
● ケース記録 フェイスシート(参考) ��������
● プロセスレコード����������������
● ジェノグラム �����������������
52
53
54
55
● エコマップ ������������������ 56
児童厚生員・放課後児童指導員の倫理綱領������ 57
関係機関……………………………………………………… 58
利用者が活用できる相談先������������ 61
2
第
1
章
児童館に お け る
ソーシャ ル ワ ー ク
3
児童館における
ソーシャルワークとは
ソーシャルワークとは、社会生活を送るうえで起こりうるさまざま
な問題を解決するための、社会福祉における専門的な援助技術のこと
です。児童館においては、子どもたちの健全な育成を目指し、さまざ
まな活動が行われていますが、これらの実施に際しては、それぞれの
地域の実情を見極めつつ、社会資源を活用し、または新たに作り出す
ことなども含め、ソーシャルワークを駆使することが必要となります。
■ ソーシャルワーク、主な 6 つの実践方法
ソーシャルワークには、専門的アプローチとして、以下の6つの実践方
法があります。
①ケースワーク
個人とその家族員を対象とした個別援助技術。
②グループワーク
個人とその家族員を取り巻く小集団や組織を対象とした集団援助技術。
③コミュニティワーク
個人に係わる小地域 ( 地域社会 ) を対象とした地域援助技術。
④ソーシャルワーク・リサーチ
人々や地域社会にある問題やニーズを調査し、福祉活動の根拠となる社
会福祉調査技術。
⑤ソーシャル・アドミニストレーション
社会福祉サービスをより効果的に実施するための社会福祉施設運営管理
技術。
⑥ソーシャル・アクション
社会福祉や政策の改善を求める住民運動など、社会活動援助技術。
■ 児童館におけるソーシャルワークの実践
児童館においては、子どもとその保護者、一人ひとりが抱える問題に寄
り添い、社会資源を活用し解決を図る「ケースワーク」、子ども集団が持つ
力を活用し、意図した子ども集団づくりとプログラムによって参加した一
人ひとりの子どもの力を伸ばす、または課題解決を図る「グループワーク」、
子どもの生活を脅かす地域社会の問題を地域住民が主体となって課題解決
4
第 章 ◎児童館におけるソーシャルワーク
が図れるようにする「コミュニティワーク」、これらの援助技術を駆使し、
1
子どもとその家族や地域社会に生じた生活問題の解決および子ども一人ひ
とりの自己実現を支援するために、ソーシャルワーカーとしての機能を発
揮することが大切です。さらに問題や状況に応じて、他のソーシャルワー
クの諸方法を併用することが望まれます。
ケースワーク
ケースワークとは、
「個人」を対象に行う援助技術のことです。例えば、
児童館の基本機能のひとつである「子育て家庭の支援」における相談活動
では、相談相手と1対1の関係を保ちつつ、子どもや親の意識、生活態度の
変容を探り、必要に応じて社会資源を活用して問題解決を図ります。この相
談活動の中ではケースワークの援助技術に支えられた実践が求められます。
■ ケースワーク、7 つの原則(
「バイスティックの 7 原則」
)
子どもや対象者たちと信頼関係を築くために、ケースワーカーとしての
児童厚生員は、どんな態度で取り組めばいいのでしょう。以下にその 7 つ
の原則をあげてみました。
(1)個別化
子どもや対象者それぞれの特性を認め、大切な唯一の人として、個性
を尊重しながら対応します。
(2)意図的な感情の表出
子どもや対象者に、自分の感情を自由に表現させます。必要に応じて
憎しみや敵意などの否定的な感情も表出させます。
(3)統制された情緒的関与
子どもや対象者の感情表現に適切に応答します。その際、ケースワー
カー個人の感情は持ち込まないようにします。
(4)受容的態度
子どもや対象者のあるがままを受け入れます。
(5)非審判的態度
是非を問わず、まっさらな気持ちで、子どもや対象者を受け入れます。
(6)自己決定
子どもや対象者が物事を自らの意志で選択、決定できるように援助します。
(7)秘密保持
子どもや対象者に関する情報は、他の誰にも漏らしてはいけません。
漏らさないこと(秘密を守ること)を子どもや対象者にも伝えます。
5
児童館の活動においては、グループワークが主体となりますが、グループ
ワークを円滑に実施するためにも、ソーシャルワークの基本となるケース
ワークは重要です。「一人ひとりが大切」 というケースワークの基本を十分
に理解したうえで、グループワークの中に取り入れていくことが必要です。
グループワーク
グループワークとは、
「集団」を対象とした援助技術のことです。児童館
の基本機能に掲げられている 「遊びを通じた子どもの育成」、「子育て家庭
の支援」には、子どもの成長段階に合わせて、一人遊びから集団遊びへと
移行していく過程を重視したアプローチが必要とされます。つまりグルー
プワークの理論に支えられた実践が求められているのです。
■ 児童館活動にグループワークが必要なわけ
児童厚生員は、グループワーカーとしてグループワークを実践し、子ど
もたちの集団に関与しながら、集団が持つ力を活用しそれぞれの子どもが
持つ本来の能力を伸ばそうとします。児童館活動の中心となるのが、これ
らのグループワークです。
ではなぜ、児童館活動にグループワークが必要なのでしょう。その理由
は 3 つあります。
第一に、人間の成長の過程で、対人関係を経験するために最も必要な時
期が、小学校から中学、高校までのいわゆる児童館世代であり、仲間と遊び、
協力し合う経験を積むことが、その後の人生に大きな影響を与えることに
なります。
第二に、少子化傾向にある現代の家族や地域では、人間関係が希薄にな
りがちです。その点、児童館活動は、さまざまな人間関係を経験する貴重
な機会になります。
第三に、学校の友だちとは違う、年齢や居住区が異なる友だちとの交流
を通して、社会参加の原型を学ぶことができるからです。
■ グループワーク成立の基本条件
グループワークが成り立つための基本条件は、4 つあります。
第一は、1 グループ 5 ~ 8 人の小集団であること。人数が多くなると活
動の中で相互に影響することが難しくなります。
第二は、実際に同じ時間と場所を共有すること。全人格的な関わりが不
可欠です。
6
第 章 ◎児童館におけるソーシャルワーク
第三は、継続的活動が確保されていること。例えば 2 時間程度の活動で
1
あれば、日をおいて連続企画にするなどの工夫が必要です。
第四は、グループワーカーがいること。一緒に参加して、全体の状況を
冷静に見て、必要に応じてリーダーを支援するなど、活動を促進していく
役割と、集団の力がマイナスの方向に働いている時には軌道修正する役割
を持ちます。
■ グループワーク、6 つの原則 子どもたちの集団活動がグループワークとなるための 6 つの原則をあげ
てみました。
(1)受容
子どもたち一人ひとりを、人格をもった人として尊重したうえで、そ
の存在を「集団の中の個」として受け止めます。
(2)個人差の尊重
子どもの成長過程は、個人差が激しいことを配慮し、集団の中での個
別化を図ります。
(3)成就の経験と喜び
子どもたちが集団活動を展開することで、物事を成し遂げた時の達成
感や、喜びを実感できるように支援します。
(4)制限
さまざまな配慮をしなくてはならない場面を用意するなど、あえて制
限を設けることで、多様な経験ができるように集団活動を計画します。
(5)段階的取組み
それぞれが年齢や経験相応の役割を担うことで、自分が周囲の役に立
つ経験や責任をもつ大切さを感じる機会を提供します。
(6)メンバーの相互作用の効果
自発的行動を尊重するとともに、他
のメンバーとの協力の必要性、チー
ムワークも体得できるようにバラン
スをとります。
こうしたグループワークの原則に則っ
た援助をもって、個を尊重しつつ、集団
活動をバランス良く育むことが、児童館
自体の和を成し、子どもたち一人ひとり
の健全育成につながっていきます。
7
コミュニティワーク
コミュニティワークとは、
「地域社会」を対象にした援助技術のことです。
地域を舞台として児童館の機能を発揮していくために、児童厚生員には、
関係する団体や組織、近隣の地域・住民へのコミュニティワークの実践が
求められます。
■ コミュニティワーク、5 つの原則
児童館の行事の際には地域の住民に参加してもらったり、地域全体の生
活の営みをレベルアップする働きかけを行ったりするなど、コミュニティ
ワークの内容は実に多彩です。援助を円滑に実践するための 5 つの原則を
あげてみました。
(1)個別化
地域住民の主体性を尊重し、地域の特性に合わせて個別化した対応を
実践します。
(2)プロセス重視
問題の把握から計画、実行、評価へと移行する一連のプロセスを、住
民と共に進め、主体的に活動する方法を地域住民自身が身につけられ
るように配慮しながら、住民と協働します。
(3)社会資源への関与
地域の福祉問題解決に向けて、人材、施設、制度、資金など、さまざ
まな社会資源に関する情報を収集し、住民と情報交換しながら調整し
ます。必要な社会資源がない場合には、新たに作りだすこともあります。
(4)総合的把握
問題を地域という環境の中で把握し、総合的にとらえます。
(5)住民全体
住民の持つ力を信じながら、主体性を尊重し、必要に応じて専門的な
知識や技術を提供します。
「個別化」の原則など、ケースワークと共通するものもありますが、コミュニ
ティワークで核となるのは「住民主体」ということです。地域の問題解決の方
法を住民自身が手に入れ、自立するまでのプロセスの支援を重視しています。
また、地域住民との協力体制を得るためには、地域のニーズにきめ細かく
応える柔軟な活動を、日頃から積極的に心がけることが大切です。
8
第
2
章
事例か ら 学 ぶ
事例①
障がいのある児童の支援
ソーシャルワーク実践課題
さまざまな課題を抱える、障がいのある子どもたち。児童館は、
こうした子どもたちをどう支えるべきでしょうか。保護者への対
応も含めた、長期的な支援について考えます。
A 児童館の取組み例
複雑な障がい像を持つ子どもを
「児童館らしい」支援で支えていく
注意すればするほど、叫び、暴れる子ども
A児童館に着任したばかりの館長の杉原さんはある日、入り口の方から
大きな物音がするのに気づきました。誰かけんかでもしているのかしら、
そう思って席を立とうとした瞬間、小学 6 年生ぐらいの女の子が奇声を上
げながら事務室に駆け込んできました。
「ギャー!」
杉原さんは、室内が何ともいえず嫌な雰囲気になったのに気がつきました。
いつも快活なスタッフたちが、誰も女の子の相手をしようとしないのです。
「どうしてそんな大きな声を出すの?」
杉原さんが声をかけると、女の子はいっそう大きな声で叫び、暴れます。
まるで、叱られたのを喜んでいるみたい。
「いつもこうなんです。いったいどうすればいいか……」
スタッフの一人が、そうつぶやきました。
女の子の名前は、たか子さん。自閉傾向に加え知的障がいがあり、うま
くコミュニケーションができません。意味不明の単語を並べたり、汚い言
10
葉を連発したり。注意すると「構ってくれている」「遊んでくれている」と
勘違いし、ますます騒いでしまうのです。
小学 3 年生だったたか子さんが来館するようになった3年前から、ずっ
とこの状態が続いているとのこと。これにより、スタッフも大勢辞めてい
ると知り、驚いた杉原さんは本格的に対応を考えることにしました。
学校との意識の差、そして家庭における課題
第
たか子さんへの対応策を探り始めた杉原さんが知ったのは、学校と児童
章 ◎事例から学ぶ 事例
2
館との問題意識の違いでした。特別支援学校では、たか子さんの障がいは
比較的軽度なものにあたり、先生方もとても楽観的なのです。さまざまな
年齢の子どもが、障がいの有無にかかわらず一緒に遊ぶ児童館ならではの
問題を理解してもらうのは、難しいことでした。
「自閉の子どもには、課題を与えればおとなしくなる」……こんなアド
バイスを受けた杉原さんは、考え込んでしまいました。確かに、たか子さ
1
んがおとなしくなれば、スタッフも他の子どもたちも楽になる。でも、そ
れは正しい対応なのでしょうか? 児童館は、子どもたちが交流し、成長
する場所。たか子さんも、みんなと過ごしたいから来館しているはずです。
実際、スタッフに飛びかかってくることはあっても、同年代の子どもには
決して暴力をふるいません。小さな子どもには、とても優しく接します。
「たか子さんは、本当に自閉なのだろうか?」
こんな疑問を感じた杉原さんは、市の臨床心理士に相談しました。あえ
て本人には会わせず、客観的なアドバイスをお願いしたのです。「自閉とい
うより精神疾患傾向の特徴があるようだ」という回答は、杉原さんやスタッ
フが感じていた印象と一致していました。そこで、「診断名にとらわれず対
応をしていこう」というのが、A児童館の指針になりました。
学校と連絡をとる中で「保護者と面談ができない」という報告がありま
した。たか子さんはお母さんと二人暮らし。児童館ではかろうじて連絡が
とれていたため、自宅を訪問したところ、お母さん自身も軽度ですがさま
11
事例① 障がいのある児童の支援
ざまな障がいがあることがわかりました。自身も障がいがあるお母さんは、
たか子さんが泣いたり暴れたりするとどうしたらいいかわからず、ネグレ
クト(育児放棄)の状態にあったこともわかりました。
「だから、叱られると『構ってもらえて嬉しい』と思うようになったのね」
児童館として、たか子さんがみんなと遊べるよう支援するのと同時に、
お母さんも支えていくことになりました。
行動を観察することで、対応の糸口が
「たか子さんの行動を観察しよう。今まであったことも書き出してみよう。
絶対にヒントがあるはず」
スタッフの一人が思い出したのは、
たか子さんが「誕生日」に関心を示し、
何百人もの誕生日を記憶していることでした。そこで、新しく知った誕生
日とその人の名前を紙に書いて貼り出し、
「お友達ができた」喜びを感じて
もらうようにしました。
「
(電車やバスで)騒いでしまうから」と見合わせていた遠足などの行事
にも参加させました。騒いでもいいように、徒歩で行ける場所に行き先を
変更。案の定、たか子さんは大暴れするのですが、一度経験してしまえば
次からは騒がず参加できるようになるのです。試行錯誤しながらも、「でき
ること」を一つひとつ増やしていきました。
たか子さんは独特のこだわりから、あるおもちゃを肌身離さず持ってお
り、児童館でも黙認していました。中学卒業を機に「おもちゃは卒業しよ
うね」と話しかけると、たか子さんはカレンダーのところに行き、3 月の
欄に「おもちゃの卒業式」と書きました。
「潜在能力を秘めた、知恵のある子だ」
そう感じた杉原さんは、臨床心理士のアドバイスを参考に、たか子さん
の暴力をやめさせるためのある「作戦」を考えました。
いよいよ当日。杉原さんとスタッフは、危険なものをできるだけ片づけ、
いつも通りに仕事を始めました。やがて来館したたか子さんは、全員の席
12
を回って肩を揺さぶり、
耳元で怒鳴ります。事前に打ち合わせていたとおり、
スタッフは誰もたか子さんと目を合わせず、黙々と仕事を続けました。
構ってもらえないことに苛立ち、ひとしきり荒れ狂った後、たか子さん
はぴたりと動くのをやめました。そして、こう言いました。
「もう、こんなことはやめる」
それは、杉原さんが初めて聞いた、たか子さんの言葉らしい言葉でした。
“荒療治”だったかもしれません。しかしこの日を境に、たか子さんは少し
ずつ周囲との意思疎通ができるようになっていったのです。
第
学校と児童館、それぞれの役割に応じた支援
章 ◎事例から学ぶ 事例
2
それからのたか子さんは、まるで幼い子どもの発達の過程をそのまま見
るようでした。他の子どもたちやスタッフと遊べるようになり、「人との関
わり」を学び直すことで、大きな成長を遂げたのです。ヘルパーさんが必
要な時には自ら電話をかけて依頼したり、家庭への連絡メモを自分で書け
1
るようになりました。メモによって連絡事項がきちんと伝わるようになり、
児童館とお母さんとの関係も良好になりました。
杉原さんがたか子さんと出会ってから6年。現在、18 歳になったたか
子さんは特別支援学校の高等部に通学しながら、児童館にも通っています。
学校の姿勢も、児童館から粘り強く働きかける中で、少しずつ変化してき
ました。とくに高等部になってからは、さまざまな作業訓練や、買い物な
ど日常生活に関する訓練を学校で受けるようになり、たか子さんにも「社
会に出る」自覚が生まれているようです。学校と児童館、それぞれの役割
に合った支援ができるようになった、と杉原さんは感じています。
児童館には、いろいろな問題を抱えた子どもたちが訪れます。小学生、
そして中高生と成長するにつれ、思春期ならではの問題を含め、さまざま
な課題が浮かび上がってきます。そのため、専門機関や専門職と連携しな
がら、一人ひとりの子どもの個性に寄り添い、児童館らしい支援をしてい
きたい……杉原さんの、そしてA児童館のこれからも変わらない目標です。
13
事例① 障がいのある児童の支援
解 説
A
「障がいのある児童の支援」の事例
について
障がいのある子どもと真摯に向き合うことが、周
囲の人々の心を動かし、最終的には母子の成長にも
つながった事例です。問題を抱えた子どもを「放置
(排除)する」のではなく、
「どうしたらいいか考える」
解説:大竹先生
できる
視点を持つことが、すべての出発点になるのだと思
います。
この事例では、杉原さんは市の臨床心理士に相談し、
客観的な視点からのアドバイスを受けていますね。発達
障がいといってもその障がい像はさまざまですから、子
B
どもがどのような状態にあるのか専門家に判断してもら
うのは大切です。しかし、診断名はあくまでヒント。目
児童館だから
できることが
あります。
の前の子どもにはどのような支援が必要か、診断に振り
回されることなくアイディアを練っていきましょう。
誰か一人の職員に丸投げするのではなく、児童館全体
の問題としてとらえ、他の利用者も含めたみんなで共有
していく、という姿勢も大事です。その上で、一人ひと
りの職員がアイディアを出し合い、何ができるかを模索
していけば良いのです。
乳幼児期にはじまり、小学校から中学、そして高校
……長期にわたり子どもと関わっていく中で、何かしら
の「ポイント」が見つかるはずです。その子が持つ癖、
こだわり、小さな事件、などなど。それらを糸口に、自
分なりの仮説を立てて子どもに関わりましょう。そうし
た関わりを続けることで、子どもは「この人は自分を理
解してくれる」と感じるようになり、児童館職員も「こ
れでよかったんだ」と実感します。お互いが成長してい
けることが、この仕事の醍醐味ではないでしょうか。
14
決めてもらう
この事例で、たか子さんは成長するにつれヘルパーさ
んを自分で手配したり、行事に参加したい時はメモを作っ
てお母さんに渡しています。子どもやその保護者も巻き
込み、役割を与えるこのようなやり方は、ソーシャルワー
クにおいてとても重要です。児童館がすべて援助してし
ケースワークの
原則の一つです。
まうのではなく、
「できること」を引き出し成功体験をし
てもらうのです。一つひとつは小さな成功ですが、積み
重ねれば大きな自信になります。こうした取組みを続け
ることで、児童館と子ども、保護者が同じ目標に向かっ
第
て進んでいくことができるようになります。
実は、たか子さんがヘルパーさんを手配する時は、杉
2
章 ◎事例から学ぶ 事例
A
原さんが先回りしてヘルパーステーションに連絡し、た
か子さんが暴れても動揺せず対応できる方を依頼してい
たそうです。このような細やかな配慮も、スムーズな自
己決定のためには大切だと思います。
実践の
B
ヒント
長期的な支援を実施していくにあたり、心がけておき
1
たいことを挙げておきます。
●特別扱いしすぎない。柔軟な対応はもちろん必要です
が、その子がどうしたら成長できるかを考えることが
大切です。育ちのペースは人それぞれです。
●大人の来館者への周知を徹底する。児童館へは、乳幼
児を連れた保護者など、大人の利用者も訪れます。課
題を抱えた子どもが来館している場合、子ども同士な
ら理解されることでも、大人には理解しがたいことが
あるかもしれません。その子どもの置かれた状況や変
化の様子を折りにふれて伝え、あたたかく見守ってい
ただける雰囲気を作りましょう。また、障がいのある
人が生活しやすい地域社会を作るために研修会や勉強
会(講演会)などを企画し、地域住民に障がいの理解
を広める活動も大切です。
15
事例②
児童虐待
ソーシャルワーク実践課題
虐待によって与えられた傷は深いトラウマとなり、友だちや保護
者にまで暴力をふるってしまう被虐待児。児童館として、どこま
で関わり、どのような支援・援助をしていけばよいのでしょう。
課題は多いと言いますが、何度も来館してくる背景には一体何が
あるのでしょうか?
M児童館の取組み例
虐待の連鎖をどこかで断ち切るために
学校と家庭をつなぐ児童館の役割は大きい
複雑な家庭で虐待発覚!
愛情を注いでくれる保護者は祖母
伸樹くんがまだ幼い頃に両親が離婚し、伸樹くんは父親の元へ。父親は、
その後再婚し、継母と一緒に暮らすようになりました。
「ぐず! ほんと、この子は言うことを聞かないんだから!」
すぐに継母の折檻が始まりました。伸樹くんには、発達障がいの可能性も
あることから、言いたいことがすぐに言えず、継母をイライラさせていた
のかもしれません。父親までもが、伸樹くんに手を出すようになりました。
「なんだ、その態度は! 鍛え直してやる!」
ほぼ 1 年、毎日くりかえされていた暴力。そんな異常な状態に、偶然訪
ねてきた祖母が気づき、すぐに警察に通報しました。まもなく警察・児童
相談所から指導が入り、伸樹くんは、祖母のところに引き取られることに
なりました。
16
新しい家は、祖母、曾祖母と伸樹くんとの 3 人暮らし。祖母はパートを
しながら曾祖母を介護しています。虐待を受けていた伸樹くんが不憫で、
祖母は何度も伸樹くんに言い聞かせたそうです。
「ここはあなたの家、安心して暮らせるところだからね」
怖い父と継母が住む家を出ることができたとわかった時の、なんともホッ
としたような伸樹くんの表情が忘れられず、祖母にとっては精いっぱいに
愛情を込めた声掛けのつもりでした。
伸樹くんにとっては、初めて訪れた安堵の日々。もう二度と同じ思いは
したくありません。病院に通って治療、カウンセリングを受け、情緒を安
第
定させる服薬も始めました。転校し、児童館も利用するようになっていま
章 ◎事例から学ぶ 事例
2
した。
「思えば、この頃が一番穏やかで、精神的に安定しているようでした」と
当時を振り返る M 児童館の児童厚生員の田村さん。伸樹くん、小学校 4
年生の時です。
どうしても子どもの気持ちがつかめない
焦りの日々の中で……
2
伸樹くんの育った環境は聞いていたので、特に注意深く見守っていたと
いう田村さん。なんか変だなと最初に気づいたのは、伸樹くんが春休みや
5 月の連休など長い休みが明けると、学校に行かず、まっすぐ児童館にき
てしまうことでした。不登校が始まったのです。
「今日は学校だろ、どうしたの ?」
「つまらないから休んだ」
この日は朝から機嫌が悪かったので、よくよく話を聞いてみると、「ババ
がうるさくってさ。宿題やったか、学校へ行けって、小言ばっかりだよ」。
どうも伸樹くんを思いやる祖母の気持ちが空回りしているようです。何と
か仲良くできないものだろうかと頭を悩ます田村さん。保護者の祖母に「話
は聞いてあげるように」
「たまには黙って見守るだけに」など、いろいろ助
言はしましたが、伸樹くんはまったく祖母の話は聞いていないようでした。
17
事例② 児童虐待
その後も、伸樹くんは気持ちが安定せず、次第にトラブルを起こすこと
が多くなってきました。服用していた薬は、「効かないから」ととうに辞め
ていました。児童館内で、カードゲームの紛失、ゲーム機の貸し借りのケ
ンカと、立て続けにトラブルがあったので、注意すると、今度は職員にも
「やってねえよ」「うっせーんだよ」 と暴言を吐いて、反抗的な態度を取る
ようになってしまいました。
「児童館には友達がたくさん来てるんだ。仲良くできないんだったら、明
日は児童館禁止だぞ!」
伸樹くんに少しでも館内での過ごし方を改めて欲しいという願いから、
“1 日来館禁止”制限を行いました。しかし、翌日になると、いつものよう
に来館。
「昨日は昨日、今日は今日」 などと言い、まったく反省の色が伺えません。
伸樹くんの心に、職員たちの気持ちが届かない。援助の方向がわからず、
困り果てることもありました。でも、伸樹くんは、児童館にはよく来ます。
「居心地がいいんじゃないか。ここに来れば、パソコンもあるし、遊んで
もらえる。児童館はだれでも受け入れるのが基本だからね」
「でも、このまま居心地がいいだけじゃ……」
結局、児童館は居心地のいい“お助け処 ?!”ではないという考えから、
学校と家庭と児童館の三者が集まって、改めて伸樹くんの近況を話し合い、
今後の支援などについて話し合う機会をもつことにしました。
ますますエスカレートする暴力・暴言、
まるで自分がされたことを反復するように
話し合いの結果、保護者である祖母の希望で、学校で行き詰っている伸
樹くんを転校させました。新しい学校では、サッカークラブに入り、新し
い友達もできたようで、しばらくは児童館に来なくなりました。
しかし、またもや夏休み中に祖母とトラブルがあったようで、不登校に
なり、毎日、児童館に通ってきます。しかも今度は、「学校に行かせたかっ
たら、金くれよ」 とお金をせびったそうで、祖母は仕方なくお金を渡した
18
こともあったそうです。児童館でも、悪びれることなく一緒に遊んでいる
友だちに 「ゲーム機を貸してやるから、金くれよ」 と、すごんだとか。次
第に「伸樹くん、怖い!」
「伸樹くんがいるから児童館に行きたくない」と
いう声があちこちから聞こえるようになり、再三、注意や指導を行いました。
その都度、伸樹くんは、
「うざい、だまれ!」などと暴言を吐きながら、ふ
てぶてしい態度を取ります。その姿は、まるで、自分が父親からされたこ
とを、そのままやり返しているようでした。
他の利用者には迷惑をかけられないので、今後、伸樹くんによる迷惑行
為があった場合には、児童館の利用を制限する旨の通知を行いました。田
第
村さんや職員さんたちにとっては、
“虐待の反復行為”という事の背景を知っ
章 ◎事例から学ぶ 事例
2
ているだけに、苦渋の決断だったと言います。
本人がいつ児童館に来ても対応できるように
学校、児童相談所との連携を継続
その後、児童館には姿を見せなくなってしまった伸樹くん。不登校も続
2
いているようです。でも児童館も、学校、児童相談所も、継続して彼を見守っ
ていくことを申し合わせています。
保護者の祖母は、ご自分の年齢や体調、そして曾祖母の介護もあり、手
におえなくなりつつある伸樹くんの将来を案じ、児童養護施設への入所も
視野に入れているとか。田村さんは、これは個人的な意見ですが、と前置
きして言います。
「伸樹くんのような被虐待児へのケアには、大きなエネルギーと時間が必
要です。家庭が安定して初めて、
虐待からの回復を考えることができるので、
保護者の方には、なるべく一緒に暮らして、支えて欲しいと思います」
引き続き学校や児童相談所、児童館のスタッフもみんなで伸樹くんと保
護者を支援していくこと、安心して取り組んでほしいことを保護者に伝え、
伸樹くんが、再び、学校へ行き、児童館に来る日をみんなで待っているそ
うです。
19
事例② 児童虐待
解 説
A
「児童虐待」の事例について
これは、児童館の限界を試されているような事例
ですね。虐待を受けた体験から暴力をエスカレート
させ、保護者も学校も手に負えなくなりつつある子
どもを、児童館はどこまで受け止め、支援すればい
解説:大竹先生
ジレンマ
いのか。難しい問題ですが、できることはあるはず
です。
虐待を受けた子どもがそのトラウマから抜け出すには、
過去の被虐待体験によって生じた心の傷を専門職の力(心
理治療やカウンセリングなど)を借りて、これまでされ
B
てきた経験を受けとめられ、虐待していた親を「あの時
は私にそうしなければならない理由があったんだな」と
個と集団の間で迷
うこともあります。
赦せるようになることと、信頼できる大人との出会いに
よって過去を断ち切ることができるようになること、が
必要だと言われます。
この事例の伸樹くんにとって、児童館は逃げ場所。そ
こでの職員との関係が「信頼できる大人との出会い」に
なるかもしれません。けれども、実際はそんなに簡単に
A
はいきませんよね。伸樹くんとそうした関係を結ぶには、
たくさんの時間とエネルギーが必要で、多くの子どもた
ちが集まる児童館では、彼だけに支援を傾けられません。
また、他の子への影響もあり、
「迷惑行為を繰り返す場合
実践の
B
ヒント
には利用制限をする」と通知したとありますが、事例の
中の言葉にもあるように、児童館としては、まさに「苦
渋の選択」だったでしょう。
児童館には、伸樹くんのように、虐待を受けていると
思われる子どもも来ます。ここでは児童厚生員としてど
う接すればいいかをお話しておきましょう。
20
被虐待児はわざと職員を怒らせたり、否定的な行動を
とったりします。これは、
「注目してほしい」という気持
ちのあらわれ。子どもの言動は SOS であり、表現行動で
あり、心の叫びであるととらえることが大切です。
「自分
だけを大事にしてくれるだろうか」という試しの行為で
す。これに乗ってしまうと、ますます行動はエスカレー
ト。挑発には乗らない、巻き込まれないという態度が必
要です。
そのうえで、「自分だけの職員」と思える場所をつくっ
第
てあげること。集団生活の場の中で、1対1の個別的な
関わりをもつことも必要でしょう。
章 ◎事例から学ぶ 事例
2
また、虐待の体験は「捨てられるのではないかという
不安」「自己否定」につながっています。そこで、人にほ
められる、認められる、必要とされる、感謝される、といっ
た場面をつくるようにします。たとえば、職員ができる
ことでも、あえてその子にお願いする。終わった後に職
員からかけられる「ありがとう」のひと言が、
「自己肯定
2
感」につながります。
できること
この事例では、児童館に来なくなった伸樹くんを、児
童館も、学校も、児童相談所も、継続して見守っていく
とのこと。この姿勢は大事です。虐待を受けた子どもは、
学校でも、社会の中でも生きづらいことが多いはずです。
相談できる人もなかなかいないでしょう。そんなとき、
待つことも
できることの一つ。
よりどころとするのが児童館かもしれません。子どもや
保護者にとって、
「地域に児童館がある」ことは、安心感
につながっているのです。
児童館は、いつでも受け入れる気持ちで、半年後、1
年後にひょっこり彼があらわれたら、笑顔で迎えてやっ
てほしいですね。0歳から 18 歳までを受け入れる児童
館です。社会に出る準備の一歩として児童館に来るのだ、
というとらえ方もあります。
21
事例③
母親の子育て不安への支援
ソーシャルワーク実践課題
子育てに一所懸命なのに、子どもとの関係がうまくいかず、いつ
も不安を抱えている。相談できる相手もいない……。そんな母親
に対し、児童館だからこそできる支援の仕方とは?
T児童館の取組み例
母親の気持ちに寄り添い、
親子のパイプ役となりながら、
家族関係の修復を手助けする
子育ての不安・悩みを察知する
小学校5年生の俊輔くんは、こだわりが強く、相手の気持ちを理解するこ
とが不得意な男の子。T児童館へは2年生のときから来ています。児童厚生
員の野口さんが、その俊輔くんのお母さんとはじめて会ったのは3年前のこ
と。俊輔くんが児童館に来るようになって数ヵ月が経った頃です。
お母さんが児童館を訪れたのは、俊輔くんのズボンのポケットから見慣
れないボードゲームのコマを見つけたからでした。問いただしたところ、
俊輔くんは、それは児童館のもので、知らないうちに誰かに入れられたの
だと言います。お母さんは、俊輔くんの説明は嘘で、勝手に児童館から持
ち帰ったのだと判断しました。それで謝罪のために児童館を訪れたのです。
野口さんを前に、お母さんは家での俊輔くんの様子を話し始めました。
言うことを聞かず反抗的な態度をとること、母子が衝突することがよくあ
ること……。野口さんは、我が子への怒りに次第に感情的になるお母さん
の話を聞きながら、子育ての悩みが根深いのを感じ取りました。
その後、児童館で遊ぶ俊輔くんに家でのことを聞くと、母親によく怒ら
22
れる、叩かれた、といった家庭でのトラブルを話すようになりました。職
員の間では、複雑な問題をかかえた家庭環境かもしれないということで、
注意深く状況を見るケースとして記録をとり始めました。お母さんに対し
ては、
「お話したいことがあれば、いつでもいらしてくださいね」と声をか
けたものの、来館することはありませんでした。
母親が心を許して話せる場をつくる
第
それから数ヵ月。T児童館に市の子ども家庭支援センターから連絡があ
らでの様子は?」と照会があったというわけです。野口さんは子ども家庭
章 ◎事例から学ぶ 事例
2
支援センターに事情を聞きました。それによると、センターでは以前、お
3
りました。俊輔くんについての問い合わせです。実は、俊輔くん自ら児童
相談所に電話をし、母親とうまくいっていないこと、しょっちゅう怒られ
ることなどを相談したというのです。児童相談所から市の子ども家庭支援
センターにフォローアップの依頼があり、センターから児童館にも「そち
母さんの子育てについての悩み相談があり、その後も連絡をとっていたの
ですが、
「担当者と気が合わない」という理由で母親のほうから連絡を絶っ
てしまったとのこと。児童相談所とも同じような理由で関係が薄れていっ
たようです。
そんなとき、当のお母さんから電話がありました。児童館での俊輔くん
の様子を知りたいというのです。何度か電話でのやりとりがあったあと、
野口さんはお母さんに、
「顔を見てお話ししたいから、児童館にいらっしゃ
いませんか」と誘ってみました。このとき、お茶を飲みながら、じっくり
話をしたことがお母さんの気を楽にさせたのか、以後、俊輔くんとのあい
だでトラブルが起きたり、何かあるたびに、電話だけでなく、実際に児童
館に来て、相談したり、悩みを打ち明けたりするようになりました。それ
まで細いつながりだけだったお母さんと児童館とのつながりが、これ以後、
密で太いものへと変わっていくのです。
回を重ねて話を聞くうちに、お母さんの育った家庭環境もわかってきま
23
事例③ 母親の子育て不安への支援
した。幼い時期に親から虐待に近い厳しい躾をされたことが今でもトラウ
マになっているようです。お母さん自身はとても真面目な人で、子育ても
一所懸命。親との関係がよくなかった自分の経験から、我が子には同じ思
いをしてほしくないという気持ちがあるのですが、どうすればいいのかが
わからない。子どもに関するさまざまな本を読み、インターネットのサイ
トを検索しながら、自分に合った子育ての情報や手段を常に求めています。
ところが、見つけて試す→うまくいかない→悩む→落ち込む→俊輔くんを
追い込む→また本やインターネットで探す──といった具合で、自分が描
く子育て像と現実とのギャップ、思うようにいかない俊輔くんとの関係に、
ますます悩みをつのらせてしまうのです。
3年生に上がったとき、俊輔くんは教育相談で「コミュニケーション能
力が低い」という診断を受けました。お母さんはそれを認めたくなく、教
育相談への嫌悪感をつのらせ、その後は足を運ばなくなりました。児童相
談所や子ども家庭支援センターの例も同様なのですが、さまざまな機関に
アドバイスを求めながらも、返ってくる答えや、相手が気に入らないと拒絶、
というパターンなのです。
批判や批評はせずに「聴く」
俊輔くんのお母さんは、電話をかけてきたときは1時間くらい、児童館
に来たときは、お茶を飲みながら2時間くらい話していくこともあります。
担当窓口は野口さんと同僚のOさんの2人。担当者を固定しているのは、
お母さんが安心して何でも相談できるようにとの配慮から。また2人なら、
お母さんからアクセスがあったとき、どちらかが会議や用事で留守でも、
必ずもう1人が対応することができます。
野口さんたちが心がけたのは、お母さんの気持ちに心を寄せて話を聴く
ことです。批判や批評は口にしません。答えも出しません。「わかる、わか
る」
「ああ、そうよね」……。夫は仕事で忙しく相談もできない。グチをこ
ぼせる友人もいない。そんなお母さんにとって、最後まで話をじっくり聴
いてもらえる相手、気分転換の場が必要だと野口さんたちは考えます。
24
母と子の気持ちを汲み取り、互いの代弁者となる
俊輔くんは相手の気持ちを推し量ったり、自分を表現することが不得意。
お母さんも愛情を上手に伝えられない。そんな気持ちのすれ違いが親子の
摩擦につながります。そこで野口さんたちは、お母さんには俊輔くんの、
俊輔くんにはお母さんの思いを代弁することがあります。俊輔くんを何年
もずっと見てきていて、野口さんは俊輔くんの交友関係、遊び方や性格、
成長の過程など、よく知っています。一方で、お母さんの性格も、悩みの
第
内容も充分に把握しています。互いの気持ちを汲み取って、相手に伝える
んは俊輔くんに言いました、
「お母さん、さっきは怒ってたかもしれないけど、
章 ◎事例から学ぶ 事例
2
今頃は悲しい気持ちになってるよ」
。いつもは「どうせお母さんは僕の気持
3
役目ができるのです。
親子げんかになり、
「うちにいなくていい。児童館にでも行きなさい!」と
お母さんが俊輔くんを追い出したときのこと。すぐにお母さんから児童館に
電話がありました。
「ひどいことを言ってしまった」と泣き声です。野口さ
ちをわかってくれない」と言う俊輔くんも、野口さんの言葉に耳を傾けてい
ました。
お母さんはお母さんで、第三者が入ることで、「そうか、自分の子はこう
思ってるんだ」
「こんなことを考えているんだ」と違った視点でものを見た
り、考えたりできます。親と子の中間に立ち、両者が理解しあえるパイプ
役になったり、手助けをしたり。子育ての不安に悩むお母さんの心の負担
を軽くできるのも、子どものことも親のこともよく知っている児童館だか
らこそ。当初、悩み抜いて自分を追い込むことの多かった俊輔くんのお母
さんも、野口さんたちに悩みをどんどん話すうちに、「くよくよ悩んでいて
もしょうがない」と気持ちを切り替えたり、「子どもも成長とともに変わっ
ていくものよね」と前向きに考えられるようになっているとのこと。
「いつも身近にあり、気軽に足を運べる環境を活かしながら、シンパシー
のある寄り添い方でお母さんたちを支援していきたい」と、野口さん。こ
れからも“児童館だからできること”を追求し、「どんなときでも頼りにで
きる」施設を目指したいそうです。
25
事例③ 母親の子育て不安への支援
解 説
A
「母親の子育て不安への支援」の
事例について
悩むお母さんの話を1時間でも2時間でもじっく
り聴く──。なかなか大変なことです。この事例の
児童厚生員の野口さんは、本当に一所懸命、対応さ
れていますね。他に相談できる人もおらず、行き場
解説:大竹先生
できる
のないこのお母さんにとって、児童館は子どもだけ
ではなく、
自分
(親)
にとっても必要な場所のようです。
子どもの育ちは保護者や家庭環境と切り離して考える
ことはできません。これからの児童館は、子どもだけを
みるのではなく、保護者や家庭に働きかけをする視点が
B
求められてくるでしょう。
この事例の児童厚生員の野口さんは、俊輔くんの行動、
児童館だから
できることが
あります。
お母さんとの何度かのやりとりから、お母さんが抱える
問題を察知し、児童館へ話をしに来るようにと「働きかけ」
をしました。それをきっかけに生まれた児童館との関係
が、お母さんにいい影響をもたらしています。
子どもたちが日々遊びに通う児童館は、お母さんたち
にとっても地域の身近な施設です。その児童館が親とも
関わりをもち、話をちゃんと聞いてくれることを知れば、
子育てに悩むお母さんたちには心強いはずです。児童館
側は、お母さんたちの話を聞く中から問題点が見えてく
ると、その問題に応じて専門機関につなげることもでき
ます。児童館は、そのとっかかり、きっかけになればい
いと思います。
児童館には通知表はないし評価もしませんから、子ど
もたちは学校の先生や親に見せない面を見せたりします。
一方で、悩み相談を通じて親との関わりが生まれると、
お母さんの気持ちや性格も知ることになります。そうな
ればこの事例のように、児童厚生員は、関係がうまくいっ
26
ていない親と子、それぞれの気持ちを伝える代弁者となっ
たり、すれ違う言葉の真意を伝える翻訳者となって、互
いの理解を促す役割も果たせます。親子関係の修復に力
を貸すことができるんですね。
上手に聴く
保護者との関わりを築き、深めるためにも、今後は、
お母さんたちが気軽に悩みを相談でき、話がしやすい児
童館であることが求められます。それにともない児童厚
A
生員には、相手の話を上手に聴く技術も必要になってく
第
るでしょう。
求められる
スキルです。
B
ヒント
章 ◎事例から学ぶ 事例
実践の
2
児童館でお母さんたちの相談にのったり、話を聞くと
きに心がけておきたいことを挙げておきます。
●話したいことを充分に語ってもらい、批判しないで聴
く。相手は「聴いてほしい」のです。
3
●アドバイスを求められたら、
「こうしなさい」
「ああし
なさい」と指示しない。選択肢をその結果とともに伝
え、自分で決めてもらうようにします。
●忙しくて時間がないときは、あらかじめ話を聞く時間
を告げておく。話の途中で、
「実は時間が……」と中断
させると相手もイヤな気分。「話してよかった」 と気持
ちよく終わらせるためにも、
「きょうは○時まで話をう
かがいますね」と伝えておきましょう。
●相談者の悩みを一人で抱え込まない。自分だけで受け
止めていると、精神的な負担が大きくなります。話を
聞く担当者は固定していても、情報は常に職員全員で
共有。対応の仕方をみんなで話し合うなど、職員の精
神的ストレスを緩和できる体制づくりも大事です。
27
学校との連携・協力のとり方
「学校となかよくなるヒント」
栃木県上三川町立北小学校長 柳澤
邦夫(児童健全育成指導士)
すぐ近くに学校があり、多くの子どもたちが遊びに来ています。
学校に行って「児童館の行事を広報したい」
「企画行事の参加者
募集をしたい」
「気になる子どもの様子について相談したい」
「児
童館の出前プログラムを提供したい」そのようなとき、どのよう
にしたらスムースに学校と連絡がとれるのでしょうか。ここで、
学校と上手に連携・協力の関係が築けるようなヒントを提供いた
します。
1 突然の「連絡・お願い」はうまく伝わらないことがあります
児童館が、初めて学校との関係をもつ時は、いきなり電話でお願いした
りするのではなく、事前に電話で「ご挨拶に伺いたいのですが」と日時の
調整をしましょう。その電話は学校の「教頭先生・副校長先生
るようにするとよいと思います。
※1
」にかけ
2 児童館が「学校支援ボランティア」になりましょう
学校では、授業に、地域の様々な方をゲストティーチャーとして協力を
お願いしていることがあります。学校に協力してくださる方々を「学校支
援ボランティア」と言いますが、児童館として、どんな協力ができるのか、
積極的にアピール・情報提供することも大切です。学校の職員や子どもた
ちとの理解が深まり、連携や協力がとてもしやすくなります。
3 学校オープンデー・授業参観等に行ってみましょう
学校では、年間をとおして何回か、授業や行事を地域の人や保護者等に
公開する日を設けています。教頭先生・副校長先生に事前に連絡をして、
日頃児童館でみている子どもたちの様子や学校施設を見てきましょう。職
員や地域の人たちとも挨拶ができるよい機会にもなります。
4 いろいろな情報がほしいときは
気になる児童のことや地域・保護者のことで情報が欲しい・相談したい、
という場合は、事前の連絡を入れておくことと、最初に訪問した際に、
28
①きちんと名刺を渡して児童館と児童厚生員についての説明を必ずする ②
国の児童館ガイドラインのコピーを提出し、守秘義務があることや学校と
の連携を積極的に行うことが仕事であることをきちんと説明する ③相談す
るという手順が大切です。
5 学校のあれこれ
◎毎週水曜日は「各学校の職員研修日」としていて、会議や研修の出張の
ない日になっています。各学校で、授業終了後に職員会議や研修、指導
教材の作成等の時間にしています。このような日でしたら、校長・教頭・
副校長先生をはじめ多くの職員が居ることになります。(市町村ごとに、
こうした日を設けていることが多いと思います。)
第
◎朝の時間(授業開始前の 10 分~ 15 分位)、業間の時間(2 校時と 3 校
読書や運動等、様々な学校独自の活動を位置づけて実施していることが
あります。
◎職員に電話で連絡をとる場合は、業間や昼休み・放課後の時間をおすす
めいたします。(学校から日課表をいただき、そうした時間を確認して
おくとよいでしょう。
)
◎学校からいただいておくと便利なものとして、日課表(連絡をとる時刻
や児童の下校時刻等が分かります)や年間学校暦(年間の行事の日時が
分かります)があります。
◎学校には「学社連携係」
「地域教育係」「地域連携教諭」といった係や担
当になっている職員がいます。このような担当・係の方の中には、「社会
教育主事有資格者
※2
」という人がいて、学校と地域の人材・施設を上手
に連携させるための専門的知識やスキルをもった人がおりますので、お
願いをすると喜んで児童館との連携窓口になってくださるはずです。
※ 1「副校長」は、平成 19 年の学校教育法改正により、学校に置くことができるとされ、
各自治体により教頭の代わりに副校長を置いたり、その両方を置いたりできるよう
になりました。
※ 2「社会教育主事有資格者」は「社会教育主事」という資格をもっている人であり、
地域における社会教育・生涯学習の充実・振興を図る専門的職員です。
プロフィール
柳澤 邦夫
(やなぎさわ くにお)
公立小学校教諭、大型児童館「栃木県立子ども総合科学館」勤
務を経て、厚生労働省で児童健全育成専門官として、児童館活
動の推進に携わる。平成 23 年から現職。
29
2
章 ◎事例から学ぶ 事例
時の間の休み時間 10 分~ 30 分位)、昼休みの時間(20 分~ 40 分位)に、
事例④
発達障がいのある子どもをもつ保護者支援
ソーシャルワーク実践課題
発達障がいのある子どもをもつ保護者は、わが子の障がいとどう
つきあうか、常に悩みながら過し、子どもの今後の成長への不安
もあります。そうした保護者に対し、児童館はどのような支援が
できるでしょうか。
M児童館の取組み例
集い、悩みを共有し、何でも語り
合える場づくりで、保護者を支援
「自分たちにできることは何か」からスタート
「はじめくんが、ゆうきくんを突き飛ばした」
みかちゃんが職員室に飛び込んできました。
M児童館の児童厚生員の吉沢さんがプレイルームに駆けつけると、ゆう
きくんは床に突っ伏して泣きじゃくり、一方、はじめくんは何事もなかっ
たかのように部屋のすみに座り込んで本を読んでいます。どうやら、ゆう
きくんの読んでいた本を、はじめくんが強引に取り上げたようです。小学
3年生のはじめくんには発達障がいがあり、自分がしたいことを上手に言
葉にして伝えることができません。そのために、いきなり乱暴な行動に出
てしまうことがあるのでした。
集団生活が不得手で、みんなと仲よく遊べない子は他にもいます。児童
30
館のスタッフは頭を悩ませていました。はじめくんのような子たちにとっ
て、児童館が心地よい居場所になるにはどうすればいいか……。発達障が
いのある子をあたたかく見守る地域の人たちの理解も必要です。何より、
保護者自身も、どうしていいかわからずに不安を抱えています。吉沢さん
たちスタッフは、子どもたちが周囲からの理解を得られずに孤立し、引き
こもりや非行に走ることや、親の虐待につながることも心配します。
「私たちにできることって何だろう」
吉沢さんたちは、
「親の会」が必要だと考えました。当事者である親自身
が集い、語れる場。そこから地域の人々に、自分たちの声を届けることも
第
できます。
章 ◎事例から学ぶ 事例
2
保護者が集い、情報交換できる場をつくる
児童館が全面的に支援するとして、「親の会」には、代表となって会を運
営してくれる人が必要です。吉沢さんはやってくれる人を探しました。M
4
児童館にはファミリーサポートセンターが入っています。吉沢さんが「こ
の人だ」と思い、相談をもちかけたのは、サポーターとして活動している
林よしみさんでした。林さんには発達障がいのある子どもがいて、子ども
の通う学校で学習支援活動も行っています。
「“親の会”をつくりたい。林さんなら同じ親の立場で保護者のみなさん
と話せるし、会を上手に運営していけるんじゃないかと思う」
実は林さんも以前から、発達障がいの子をもつ親たちが何でも話し合え
る場がほしいと思っていたのでした。ただ、自分一人でやる自信はなかった。
そこに吉沢さんからの申し出です。児童館が支援してくれるのなら心強い
限りです。意見は一致し、会の代表は林さん、児童館側の担当者は吉沢さ
んということで、
「親の会」の発足が決定。林さんが時間の空いたときに児
童館を訪れ、二人の間で立ち上げのための打合せが重ねられました。毎回、
1時間から 1 時間半。
「こんな会にしたい」「会の開催日は?」など、お互
いに意見を交わしながら、方向性や運営方法を決めていきます。話し合い
31
事例④ 発達障がいのある子どもをもつ保護者支援
の後に疑問がわくと、そのつど電話で確認しました。
そうして決定したのは、親が笑顔で帰れるように悩みや思いを語り合う
場であること。情報交換の場とすること。発達障がいに限らず、子育て中
のどの親も参加できること──などです。ゆったりくつろげる雰囲気の中
でおしゃべりできるよう、お茶やコーヒーを提供。参加費 100 円も決めま
した。そして、最初の打合せから約1ヵ月。月に一度の親の会「おしゃべ
り広場たんぽぽ」はスタートしたのです。
第1回の会の参加者は 10 人。はじめくんのお母さんの顔もありました。
進行役は会の代表でもある林さんです。最初は何を話していいかとまどっ
ていたお母さんたちも、子どものこと、学校のこと、さらには料理の話題
や近所のお店の評判など、会話をはずませ、気がつけば予定の2時間はあっ
という間でした。
親も子も孤立させない
「楽しくて、
気分もスカッとする」
。親の会「おしゃべり広場たんぽぽ」は、
参加するお母さんたちにとても好評でした。スタートして半年が過ぎた頃
です。年配のご婦人が自分の娘だという 30 代の女性を伴ってやってきま
した。児童館の吉沢さんが事情を聞くと、娘さんには発達障がいの子ども
がいるとのこと。そのことでふさぎ込んでいるのを見かねたお母さんが、
娘さんを引っ張ってきたのだそうです。
「どうぞ、
大歓迎ですよ」と吉沢さん。会の雰囲気を体験した娘さんは、
「み
なさん、いつもこんなに明るいのですか?」と驚いた様子。このとき以来、
毎回参加です。
「この頃、勉強にもついていけるようになったと先生に言われたの」
「よかったね。うちの子もそうなるかな。あせらないでいよう」
「A小学校には発達障がいの子どもたちに学習支援があるのよ」
発達障がいのある子をもつ親は、子どもの将来に対し、先の見えない不
安をかかえています。会のメンバーは、子どもの年齢も学年もさまざま。
32
そして先輩ママの体験談は後輩ママにとって貴重な情報となります。「その
うち、
こうなるから心配しないで」……。発達の経過を話してもらうことで、
今後のわが子の成長の見通しがつきやすくもなります。
会には、
「子どもをたたいてしまう。どうしたらいいの」とせっぱ詰まっ
た様子で来る人もいます。
「私もそういうこと、あった」と、先輩ママたち
の言葉。
解決策が見つかったり、共感があったり。話すことにより、不安や悩み
の堂々めぐりからも解放されます。子育てのことばかりではありません。
姑のこと、夫のこと、グチ……。自由に言い合える場があることは親の心
第
のゆとりにつながり、それは子どもにも影響します。
章 ◎事例から学ぶ 事例
2
その後、はじめくんの乱暴な言動も少し減ってきたようです。お母さん
にも笑顔が増えてきました。
「見守り」
「支援」を地域に根づかせる
4
会が2年目を迎える頃、林さんが市に申請していた活動助成金が認めら
れました。会の活動をさらに充実させることができます。資金は、講師の
方を招いて発達障がいについての悩みや疑問を語り合う講座の開催などに
活用することにしました。
そして会がスタートして5年。現在、市内に5つある児童館のうち、3
館にまで「親の会」が広がりました。M児童館のおしゃべり広場に来てい
たお母さんたちの「ここに来ると笑顔になれる。うちの近くにもあるとい
いのに」といった声もあり、会の代表の林さんやM児童館の吉沢さんの働
きかけもあって、新たに2つの児童館に親の会ができたのです。会には、
子育て中の人に限らず、課題をかかえる子どもたちを支援したいという一
般の方々も参加しています。
会を立ち上げたとき、子どもたちをあたたかく見守り、その保護者も含
めて支援できるよう、活動を地域全体に広げたいと願っていた林さんと吉
沢さん。着実に実を結んでいるようです。
33
事例④ 発達障がいのある子どもをもつ保護者支援
解 説
A
「発達障がいのある子どもをもつ
保護者支援」の事例について
この事例からは、児童館が行うグループ支援の一
つの実践の仕方が見えてきますね。「親の会」があれ
ばいいのにと思っている保護者は多い。けれど、何
をどうすればいいかわからない。それを手助けでき
解説:大竹先生
できる
るのが児童館です。「まず、やってみよう」。M児童
館の成功例は、そう思わせてくれます。
発達障がいのある子どもをもつ保護者を孤立させず、
地域全体で子どもたちの成長を見守るためにも、親たち
が集う場をつくることはとても意義があります。この事例
B
では、
児童館側から 「やりましょう」 と保護者に声をかけ、
親の会を実現させました。必要だと思うことを考え出し、
児童館だから
できることが
あります。
自分たちから提案していく姿勢はとても大事です。
M児童館は、親の会の立ち上げから運営まで全面的に
支援しています。場所を提供し、会のリーダーとともに
ルールづくりをし、広報・告知をして人を集める。そし
て児童館のつながりを通して、会の活動を必要に応じ各
機関や施設とつなげる。ただし、
親の会の主体となるのは、
当事者であるお母さんたち。毎回の集まりに児童館の職
員は参加しますが、みなさんの話を聞くことに徹してい
るのだそうです。
こんなルール
M児童館の親の会が成功している背景には、いくつか
のポイントがあります。
一つは、月に一度の集まりを勉強会ではなく、どんな
ことでも話せる、「おしゃべり広場」としたこと。発達障
がいについて情報交換できるのはもちろんですが、夫の
簡単で守れるルー
ルづくりがカギ。
34
グチでも何でもOKという気軽さが、お母さんたちを集
まりやすくしています。ただし、会員同士が必ず守らな
ければならないルールがあります。
・相手の話すことを否定しない。
・ここで話したことは外に出たら忘れ、口外しない。
だから、どんなことでも安心して話せ、
「しゃべってスッ
キリ」「また次回も来よう」となるのでしょう。
集まりの開催日は、スタート時から曜日・時間を一度
も変えていないそうです。このことも大事なポイントで
す。変えないことで、少し足が遠のいていた人も、
「また、
あの時間にあそこに行けば話を聞いてもらえる」となっ
2
章 ◎事例から学ぶ 事例
つながる、広がる
第
て、人が集まるのです。
M児童館の親の会では、市の助成金で、いろいろな活
動をしています。発達障がいのある子どもとの関わり方
を学ぶペアレントトレーニングや、子どもたちを集めた
キッズフェスタの開催など。そこに集まったお母さんた
ちに声をかけ、親の会のメンバーはさらに増えていくの
親の主体的活動を
支援する。
です。ちなみに、毎月の「おしゃべり広場」には、必ず
4
1人か2人、新しい人の参加があるそうですよ。
また、会のメンバーが行政の委員に手を挙げ、選ばれ
たことで、行政にも働きかけやすくなったとのことです。
一方、児童館側も、開催する地域の行事やイベントを
通じて親の会を紹介。障がいを理解している職員がいる
ということで、子どもを児童館に通わせ始めたケースも
あります。
これからも
一人で悶々と悩んでいたお母さんたちが、つながって、
さらに活動を広げて、また新たにつながって。親の会と
いう“グループ”になったことのメリットですね。個人で
はできないことも、集団になれば実現できる。児童館は
こうしたグループ支援にも力を注いでいきたいものです。
児童館も保護者も
いっしょに成長。
M児童館の担当者、吉沢さんはこう話してくれました。
「私自身、親の会を通じ、発達障がいをはじめ、たくさ
んのことをお母さん方から勉強させていただいてます」
35
事例⑤
いじめを心配する保護者支援
ソーシャルワーク実践課題
遊びの悪ふざけと区別がつきにくい「いじめ」
。そのいじめの芽
を察知したとき、児童館はどうすればいいでしょう。また、いじ
めの背景に見え隠れする家庭の問題や養育不安を抱える保護者に
対し、児童館ができることは?
R児童館の取組み例
子どもや親の言動の背景にある
SOS を受け止め、早めに対応を
子どもたちの行動を注意深く観察
夏休みに入り、R町の児童館は、いつも以上に子どもたちの出入りが多
くなりました。そんな中、興奮した様子で児童館にやってきたのは小学3
年生の圭くんの両親です。圭くんがいじめにあっている、と訴えてきたの
です。対応した児童厚生員の安田さんに、圭くんのお母さんは言いました。
「今、わが家は大変。圭がいじめの鬱憤ばらしで妹を叩いたり蹴ったりして
いる」
。お父さんも続けます。
「いじめを見て見ぬふりなのか。職員は何を
してる」
。児童館への非難を次々と口にするのでした。
両親が帰ったあと、安田さんたちはこの件について話し合いました。
児童館内の放課後児童クラブで圭くんは、同学年の同じ顔ぶれの男の子
たちといつも一緒にいます。7人のグループで、いわゆる“つるんでいる”
といった関係です。そして、互いにちょっかいを出したりしては、へらへ
36
らと笑いあったりしています。そうした7人の子どもたちの行動に幼稚さ
は感じられるものの、それがいじめなのかどうか、職員たちには判断でき
ませんでした。
ともあれ、今後はこれまでにも増して子どもたちの行動を注意深く観察
すること。と同時に、夏休みの長い期間、職員たちの時差勤務もあり、子
どもたちのことで見えていないことはないか、職員同士、常に意見を交換し、
情報を共有することを確認し合いました。
第
危険な兆候を見逃さない
つかまえたクモを襟元から入れる。スボンを下げる……。7人の男子た
ちは、そんないたずらや悪さを仲間の誰かにしては、はしゃいでいます。
彼らの関係は、いつも決まった一人をターゲットにするというわけではな
く、やったり、やられたり。圭くんの両親が訴えてきたように、圭くんが
いじめを受けている様子はとくにありません。逆に、圭くんがいたずらを
章 ◎事例から学ぶ 事例
2
5
しかけることも多いのです。7人が絡みあって悪ふざけをし、そしてまた、
やる側もやられている側も、楽しんでいるようにも見えます。けれど、日々
観察するうちに職員たちは、こうした関係に“危なさ”を感じました。メ
ンバーの中には発達障がいのある子もいます。その子が嫌がることをして
興奮させ、それを面白がっているのもよくない兆候です。今は遊びの感覚
かもしれない。けれど、このままエスカレートしていけばどうなるのか。
やがて深刻ないじめに発展するのでは……。
また、安田さんが気になったのは、時として、彼らがわざと悪ふざけを
し、職員がその対応に追われるのを喜んで見ているように思えることでし
た。職員の気を引こうとしてやっているのか。職員に関わってもらうことで、
甘えようとしているのか。これは子どもたちだけの問題ではない。安田さ
んたちは、子どもたちと親との関係にも目を向けました。
7人の家庭環境は、両親が揃っている子が圭くんを含め2人。あとは、
母子家庭で父親ではない男性が同居中だったり。また、両親はいるものの、
37
事例⑤ いじめを心配する保護者支援
養育は親せきにまかせ、週末だけ親が家に帰ってくるという子もいます。
そして、発達障がいのある子は、親がそのことを認めようとしません。
子どもと、親と、根気よく話し合う
安田さんたちが心がけたのは、根気よく子どもたちに声をかけ、話し合
うことでした。仲間との遊びについて。やっていいこと悪いこと。相手の
気持ちになって物事を考えることの大切さ。さらに、家でのことなど。そ
うして話をするうち、ぽろぽろと涙を流しながら、いつも家に一人ぽっち
でいることや、母親に殴られたことなどを打ち明ける子も出てきました。
家庭の状況、親との関係──そうしたものを紐解いていくうちに、それ
ぞれの子どもたちが抱えた複雑な家庭環境による不安定な心理や、親に甘
えられない実情が少しずつ見えてきました。そこで、親に対しても、安田
さんたちは積極的に声をかけ、話をするようにしました。子どもを迎えに
来たとき、子どもたちの様子を伝えたり、迎えに来ても車の中で待ってい
るだけで、児童館の敷地内に一歩も入ろうとしないお母さんには、「館内で
お待ちになりませんか」と声をかけ、話す機会をつくりました。そうした
ことが度重なるうち、
保護者から「先生!」と呼びかけてくれるようになり、
家での子どもの様子、自分の思いを話すようになりました。親自身が養育
に不安を感じていることなども少しずつ見えてきたのです。
そんなある日、児童館にやってきた圭くんのお母さんが、安田さんの前
でいきなり、
「私、あの子のことを愛せないの!」と言って泣き出しました。
あとは堰を切ったように、自分の生い立ち、圭くんが生まれても抱けなかっ
たこと、下の子はかわいいと感じられ、一緒に寝たりするのに、圭くんに
は添い寝もしたことがないことを、オイオイ泣きながら話すのです。
お母さんの告白に、安田さんたちは、圭くんが家で妹に暴力をふるった
りすることや、両親の苛立ちの原因の一端が理解できた気がしました。ひ
と通り話し終えたお母さんの表情は、どこか晴れ晴れとしているようでし
た。心に抱えていた思いを吐き出したことで、親子関係がいい方向に一歩
進んでくれればいいなあと、安田さんは心ひそか期待したのです。
38
学校との連携で、いじめの芽を摘む
夏休みが終わっても、7人の3年生男子の絡み合うような関係は相変わ
らずでした。小学校からの下校中も、相手が嫌がることを互いにし合って
いると他の子から聞いた安田さんは、「自分たちの目が行き届かないところ
もある。児童館だけの問題じゃない」と小学校にも連絡をし、協力を得る
ことにしました。悪ふざけがいじめになり、深刻化する前に、その芽を摘
第
んでおかなければと考えたのです。
章 ◎事例から学ぶ 事例
2
児童館からの要請に、小学校側からは子どもたちのクラス担任の先生が
児童館を訪れ、職員たちと話し合いの場をもってくれました。そして、小
学校内でも子どもたちに注意の目を向けること、児童館と情報のやりとり
をすることを決めました。母親と個々に面接し、それぞれが抱える養育の
悩みに応じて相談機関につなげることも約束してくれました。
児童館でも、お母さん同士が話し合いをする機会をつくりました。とい
5
うのも、圭くんの両親が、圭くんがいじめにあっていると思い込んでいた
ように、他のお母さんの間でも、
「うちの子は無理に仲間に入れられている」
「あの子が悪い」といった誤解が生じていたのです。そこで、子どもたちは
本当は仲がいいこと、ただ、悪ふざけが過ぎることもあるなど、状況を理
解してもらいたかったのです。
話し合いの場は、子どものお迎えが重なったとき、時間をとってもらいま
した。7人の子どもたちの母親全員が一度に集まることは難しいので、その
つど、居合わせたお母さんたちに声をかけ、それを何度か繰り返しました。
話す機会を重ねたおかげか、その後、お母さんたち同士が親しげに会話
を交わすことも多くなりました。子どもを気にかける態度が見え始めた頃
になると、子どもたちも少しずつですが、落ち着いてきたようです。安田
さんは、子どもたちの問題行動も、圭くんのお母さんのような児童館への
非難も、助けを求める SOS だと考えています。そして、これからも児童館
の職員として、子どもや保護者が無意識に発する SOS を、大事に受け止め
たいと思うのでした。 39
事例⑤ いじめを心配する保護者支援
解 説
A
「いじめを心配する保護者支援」
の事例について
いじめと保護者の問題、2つの課題が密接にから
んでいる事例です。危うい子どもたちの行動、誤解
をもとに理不尽な怒りをぶつけてくる保護者……。
それを「SOS」の発信と受け止め、児童館全体でケー
解説:大竹先生
できる
スワークの原則やグループワークの原則に従い取り
組んだ姿勢は素晴らしいと思います。
「児童館弁慶」という言葉があります。家や学校ではお
となしくていい子が、児童館では、仲間と騒いだり、乱
暴な行動をする。安心しているから「地」を出している
B
わけで、その分、児童館ではその子の本来の姿や抱えて
いる問題を見つけやすい、とも言えます。
児童館だから
できることが
あります。
この事例では、職員は子どもたちの言動を注意深く観
察し、背景にあるものを探ろうとします。ストレスの原因
になっているものは子ども集団か、学校か、家庭か。こ
の視点は、いじめの芽を摘むために欠かせません。子ど
もたちがわざと職員の前で悪ふざけをするのも、事例の
中で指摘があるように、親に甘えられないことの反映で
しょう。
「聴く」
ということ
この事例から感じたのは、職員たちが、本当によく「話
を聴いている」こと。子どもと話をし、お母さんたちに
積極的に声をかけて話を聞き……。相手の話を聞くこと
は、問題解決の第一歩です。この事例では、それがいい
結果につながっているようですが、注意しておかなくて
時に、注意も
必要です。
ないけないこともあります。
心の傷が深い場合、話すことで心のフタを開けたとた
ん、これまで閉じ込めていた痛みや苦しみがあふれだし、
自分の感情をコントロールできなくなることがあります。
もしも時間がなかったりで中途半端にしか聴いてあげら
40
れなかったり、しっかりと受け止められず、次を見守る
覚悟がない場合には、なかなか難しいことになりますが
「フタを開けない」という選択肢もあることも、知ってお
いてくださいね。しかし、心の問題を解決するためには
フタを開ける作業は必要となります。その作業は専門家
の領域になりますので時機をみて、つなげることも考え
ておく必要があります。
とは言うものの、児童館は誰しもが安心できる場だか
らこそ、こちらが迷う間もなく相手が多くを語り始め、
をつくっておくかも重要かもしれません。
2
聴くにしても、
「話を聴けば終わり」ではありません。
心の傷の深さ、病的なものかどうかに応じて、カウンセ
リングや治療が必要な場合もあるでしょう。児童厚生員
は子どもの遊びや育ちに関するスペシャリストですが、
カウンセラーや医師ではありません。自分たちができる
アセスメントとも
言います。
5
こと、できないことを知り、見極め、自分たちの領域外
のものは信頼できる専門家にまかせ、見守りましょう。
まずは、話を聞いて相手を受け止め、そこから課題を
明らかにする。そして課題に応じて、次のステップであ
る専門機関につなげる。それも、児童館の役割です。
協力しあう
いじめについては、クラス担任や校長にも話をして学
校につなぎ、児童館と学校、両方で注意深く見守る体制
ができたのはよいことでした。情報のやりとりをすること
で、お互いに、見えない部分を補いあえます。
いじめの芽をつむには早期の対応がとても大事です。
関係機関との
連携を視野に。
章 ◎事例から学ぶ 事例
評価する
第
全て語りつくすこともあるでしょう。いかに「聴く態勢」
ですが、先にもお話ししましたが、児童館だけで解決し
ようと思っても難しい。いじめの場合、学校との連携は
不可欠です。日頃から学校との関係づくり(お互いが名
前で呼びあえる関係)をし、スムーズに連絡をとれるよ
うにしておきたいものです。
41
事例⑥
不登校
ソーシャルワーク実践課題
さまざまな理由で学校に行きたくない、行けない状態になる「不
登校」。こうした問題を抱えた子どもたちが来館した時、児童館
ではどんな援助をすべきでしょうか。地域も巻き込んだ、包括的
な支援のあり方を探ります。
S児童館の取組み例
「児童館だからできることがある」
そう信じて援助を続けたい
環境の変化や孤独感が
不登校につながる
S児童館の館長の吉田さんには、何年たっても忘れられない事例があり
ます。それは、今は社会人になっている一樹くんとそのお母さんを支え、
奔走した日々のこと。子どもたちの生い立ちや性格を把握し、学校の垣根
を超え、地域ぐるみで成長を見守る……そんな児童館の役割について、改
めて考えさせられた事例だったからです。
一樹くんとそのお母さんは、一樹くんの小学校入学と同時にこの地に転
入してきました。人なつこく優しい性格の一樹くんでしたが、知的発達遅
滞がみられ、小学校の途中から特別支援学級に移ることになりました。普
通学級に通えないこと、せっかくできたお友達と疎遠になったこと、どち
らも一樹くんにとって受け入れがたいことでした。近くに親戚がいないこ
42
ともあり、お母さんも不安を抱えるようになりました。S児童館では、そ
んな一樹くん母子を何かと支援していました。
「学校がつらい」気持ちを抱えたまま特別支援学校の中等部に進学した
一樹くんは、マンガやアニメに熱中するように。次第に、昼夜が逆転した
ような生活を送るようになりました。もともと対人関係が不得手なことも
あり、学校にはうまくなじめないままのようでした。児童館でもそんな一
樹くんをできる限りサポートしていましたが、3年生の夏休み明けにとう
とう「登校できない」状態に陥ってしまったのです。
第
児童館への「登校」を、
学校への復帰の足掛かりに
章 ◎事例から学ぶ 事例
2
しばらくは家からも出られなかった一樹くんでしたが、児童館には時々
姿を見せるようになりました。小さな子どもの遊び相手になっている一樹
くんに、吉田さんは「児童館の手伝いをしてみないか」と声をかけました。
それまで中学校と連絡をとる中で、「完全にひきこもった状態よりも、児
6
童館だけでも外出できるのは進歩だ」という意見をもらっていたからです。
「学校の代わりだから、毎日来ないといけないよ。できる?」
「……うん。できると思う。
」
一樹くんが真剣な顔でうなずいたのを見て、吉田さんは改めて中学校に
連絡をとり、ひとまず児童館で預かりたいことを説明しました。そして、
特別支援学校の高等部進学を控えた一
樹くんが一日も早く学校に戻れるよう、
学校と児童館が協力して対応していく
ことになりました。
一樹くんは児童館に毎日「登校」し、
事務作業などを手伝うようになりまし
た。吉田さんは、そんな一樹くんを「本
当は学校に行くべきだよ」と励まし続
けました。学校の先生も、授業のプリ
43
事例⑥ 不登校
ントを届けに児童館を訪れるなど熱心に対応してくださり、やがて「プリ
ントの提出」などの名目で少しずつ通学できるようになりました。
地域ぐるみで支えながら、
自分の問題として考えさせる
吉田さんをはじめスタッフが安堵しかけていた頃、「事件」が起こりまし
た。児童館で、一樹くんが暴力をふるってしまったのです。相手は、一樹
くんと同じようにマンガやアニメが好きで、仲良くしていた小学生。学校
に行けないことをからかわれ、つい手を上げてしまったと聞いて、吉田さ
んはそれまでよかれと思ってしていた援助が表面的なものだったと気づき
ました。
「
『学校がいやだ』
『友達とうまくいかない』……不登校の原因は解決して
いない。それなのに私たちは、一樹くんを無理に登校させるよう仕向けて
いた。これでは、つらさを倍増させるばかりではないか?」
吉田さんは、一樹くんの通う学校、そして被害を受けた子が通う小学校
に連絡をとりました。そして、双方からの要請を受けて合同の保護者会を
開催。2つの学校の保護者が一堂に会する中で、一樹くんの行為を振り返
るとともに、背景についての理解を求めました。また、再び学校に行けな
くなった一樹くんのために、本人とお母さん、そして大学生ボランティア
をまじえて話し合いの場を設けました。
「一樹くんが周りの人からの信頼を
取り戻すには、どう行動すべきか」
「自分の将来について、一樹くん自身は
どう考えるか」などみんなで一緒に考えてもらいました。
「子育てが間違っていたのではないか」……そんな責任を抱え込んでいた
お母さんのケアも、児童館が受け持ちました。日々の相談にのり、中学校
の面談に付き添う一方で、地域とのつながり作りをサポート。こうした活
動を通じて、今回の事件が単なる「加害者と被害者」で割り切れないこと、
そして「頼ったり頼られたりはお互いさま、当たり前」といった共通認識が、
人々のあいだに育っていきました。
周囲の空気が変化するにつれて、一樹くんの表情も明るくなりました。学
44
校の先生も、自宅まで迎えに出向くなど、登校しやすい雰囲気づくりに尽力。
そして2月の終わり、一樹くんは再び学校に通えるようになったのです。
「どこまで」
「いつまで」
が児童館の役割なのだろう
一樹くんの援助をする中で、吉田さんは葛藤に苛まれました。「一体どこ
からどこまでが児童館の職域なのだろう?」
「一樹くんやお母さんにとって、
児童館は都合のいい逃げ場所になっていないだろうか?」。
意味では近い場所にいるはずなのに、互いの役割についての理解が足りな
い」
。大きな問題意識を感じました。
周囲の人々の理解を得るのも大変なプロセスでした。とくに気を遣った
のは、
「本来なら学校にいるはずの中学生が児童館に終日いる」ことに対し、
疑問を寄せてくる他の利用者への対応でした。丁寧に事情を説明すること
2
章 ◎事例から学ぶ 事例
学校に一から説明しなければならないことでした。「子どもに関わるという
第
また、吉田さんが最も苦労したのは、児童館の役割や施設の特性について、
6
で納得してもらえるケースも多く、さまざまな立場の人がさまざまな理由
で利用する児童館ならではの課題を考えさせられました。
その後、一樹くんは無事に高校を卒業し、社会人として活躍しています。
進学や卒業など、人生の節目には必ず来館し、近況報告をしてくれる一樹
くんを頼もしく眺めながら、吉田さんは複雑な想いにかられることがあり
ます。すでに 18 歳になり、
児童館が援助すべき年齢を過ぎている一樹くん。
しかし今後、恋愛や結婚、育児、最愛なる母との死別など、一樹くんが人
生のつらさに向き合う時、それを支えるのは自分たちだという自負もある
のです。
「児童館だから、垣根を超えた支援ができた」「児童館だから、成長を長
期的に見守れる」……貴重な示唆を与えてくれた、一樹くん母子との関わり。
吉田さんは、これからも「児童館だからこそ」の活動を続けていこうと考
えています。
45
事例⑥ 不登校
解 説
A
「不登校」の事例について
不登校に陥った子どもの支援は、大変デリケート
な問題です。一人ひとり抱えている問題も課題も背
景も異なりますので、ケースによってはこの事例の
ように「受け皿」として児童館が機能しているケー
解説:大竹先生
スも多く、その判断は現場の裁量に委ねられている
のが実情です。どう学校や地域に働きかけ、どんな
方向に導いていくべきか……。こうしたソーシャル
ワークの視点からの取組みは、とても参考になる事
例だと思います。
B
できる
ひと口に不登校といっても、その原因は色々あるはず
です。
「友達関係がうまくいかない」
「やる気が出ない」
「勉
強についていけない」……。一概に決めつけず、子ども
の話に耳を傾けることが必要ですね。単に「学校に行き
なさい」
「家に帰りなさい」では、問題は解決しません。
児童館だから
できることが
あります。
その上で、学校と連絡を取り合い、お互いがどんな役
割を分担していくかを話し合いましょう。こうしたケース
では、多くは現場の裁量で対応策が決まるため、
「こうす
るべき」という決まりごとはありません。
「通学する代わ
りの場所を提供する」
「相談タイムを設ける」など、ニー
ズに合わせた対応を考えてみてください。
子どもたちが乳幼児の頃(時には胎児の時、
家族も含め)
から、小学校、中学校、高校と継続して見守っていける
のは、児童館が地域において果たしている重要な機能で
す。だからこそ、子どもたちも「あそこに行けば、自分の
ことを知っている人がいる」という気持ちで児童館を訪
れています。このような状況において、児童館の職員に
求められるのは、良い意味での「近所の親切な人」的な
感覚。子どもが気楽に立ち寄れる居場所を作りながらも、
専門職としての視点を忘れず、その先の支援につなげて
46
いきましょう。
「見える」
化
非行や虐待など、問題を隠せば隠すほど深刻化する例
は枚挙にいとまがありません。問題を抱えた子どもをク
ローズドな存在にするのではなく、人々につなぎ理解さ
れ、「見える」存在にすることが大切です。まずは、周囲
の人々にその子の置かれた状況を説明することから始め
ソーシャルワーク
の大切な視点です。
ましょう。その上で、本人には「小さな子どもの世話を
する」「係や委員を担当する」などの役割を与えます。大
人扱いされること、成功体験を得ることで子ども自身が
A
大きく変わりますし、周囲の人々の目も変わります。排
第
除ではなく「受容」
、まわりを巻き込みながらの支援。こ
のような試みを続けることで、状況は改善することがあ
章 ◎事例から学ぶ 事例
2
るでしょう。
実践の
B
ヒント
不登校の子どもを支援するにあたり、実践のヒントと
なる考え方を挙げておきます。
●身近なお手本(ロールモデル)との出会い。大学生や
社会人など、目標にできる存在との出会いが、子ども
6
に大きな影響を与えることがあります。それまで周囲
の環境に恵まれず、夢や目標を持ちにくかった子ども
が、
「自分もこんな人になりたい」
「学校に行って、勉強
をしなければ」と思うきっかけになるのです。そうして
成長した子どもが、今度は次の世代の子どもたちのリー
ダーやロールモデルとして、児童館をサポートしてく
れる存在になるかもしれません。
●「地域親」という考え方。
「親はなくとも子は育つ」と
いうことわざがあります。これは、日本では民俗の知
恵として実の親以外に「取り上げ親」
「乳つけ親」
「名
付け親」など数多くの文化的な「親」
(仮親)が存在し
ていたことによって子どもたちは育つことができまし
た。地域ぐるみで子どもを育てていたことを意味しま
す。現代社会においても、子どもが育つ上で地域との
結びつきはとても大切です。これまでの日本の文化・
地域の文化に学びつつ、一人ひとりの子どもに合わせ
た支援のあり方を見つけていきましょう。
47
ソーシャルワーカーのケア
児童館(放課後児童クラブ)でのソーシャルワークはまさに対人援助の
極みです。対人援助で重要とされるのは、
「信頼関係」と言われます。信頼
関係を構築するためには、支援する側とされる側双方が感情をやりとりし、
互いが安全な存在であることを理解することが大切です。また、その関係
性を維持するためには、支援される側の感情の揺れなどを機微に触れ、自
分の感情を時にコントロールしながら関わることがあるでしょう。
このような感情への関わりの行為は、目に見えず、また職員個人の行為
として限定的に捉えられがちで、評価の対象になりにくいようです。
このように感情を意識的に使いこなすことを要求される労働を概念化し
たのが「感情労働」というものです。医療や心理、福祉の対人援助職以外
にも、近年では苦情等に対応することもある窓口業務などもその範囲にあ
ると考えられています。ネガティブな面だけではなく、感情が相手に伝わっ
た時や相手からかえってきた時には「やりがい」として感じる機会にもな
るようです。
しかしながら感情労働の多くは、心のストレスとなります。特に困難な
ケースに向き合えば向き合うほど、エネルギーを消耗し、結果的に自分自
身を傷つけることもあります。エネルギーが枯渇するといわゆる「バーン
アウト」
(燃え尽き)という状態になりかねません。
子どもや保護者に関わる仕事の、ある一定程度は自発的(ボランタリー)
な働きによって支えられているという側面もあります。自発性は素晴らし
いことなのですが、支援される側が過剰に要求をしたり、周囲から孤立し
たりすることにより、自身がプレッシャーに感じることがあります。
ストレスやプレッシャーを少しでも軽減し、よりよいソーシャルワーク
を展開し続けるためにも、自分自身のケアにも相当の力を注ぐことは重要
なことです。自分ならではのセルフケアの方法を探すことや、関係者によ
る適切なスーパービジョンを受けることも必要です。
48
第
3
章
事例を記 録 す る
記録のすすめ
児童館で実施されるソーシャルワークには記録が必要不可欠です。それ
は、①子ども・家庭へのよりよい援助を行うためには、対象者の特性や状
況を正確に理解し、必要な援助を見極めるために客観的なデータが必要と
なるからです。また、記録を読むことによって、児童館や職員が行ってき
た援助そのものを振り返るきっかけになり、さらなる援助方針を組み立て
る一助にもなるでしょう。
また、②児童館が児童福祉施設として責任ある援助を行った証拠として、
記録を残し、説明責任を果たす役割もあります。近年、個人情報保護を理
由にして記録がとれない、残せないという声を耳にしますが、児童福祉施設・
事業として情報を適切に管理することは勿論求められますが、社会福祉援
助者としての記録は、対象となる子ども・家庭のためにあるもので、記録
がとれないということはありません。
児童館職員は異動することもあります。また、対応していたケースが中
断したり(来所しなくなったり)
、再開されることもあります。③援助の継
続性を確保するためにも、記録を残し、引き継ぐことが大切です。
ケースによっては、児童館だけではなく他機関と連携し対応することが
あります。④他職種に対しての情報提供時、⑤ケース会議にも記録が必要
とされます。
そのほか、⑥館内や自治体内研修やスーパーバイズを受ける際にも学び
を深めるために活用できるでしょう。また、⑦統計や調査研究、ソーシャル・
アクションのためにもいかされると考えます。
以上のように、記録は、児童館がエビデンスに基づいた援助を行う上で
も重要になります。エビデンスとは根拠・証拠を表す言葉です。近年、医
療や心理臨床、社会福祉の分野でエビデンスに基づいた治療や援助に関す
る議論が行われています。
50
日々の記録について
児童館では、日々の記録をどのようにしていますか。日常的には業務日
誌等をつけていることが多いかと思います。しかし、記入する欄が限定さ
れていたり、子どもの行動等について細かな記載ができないことが多いよ
うです。気がかりなケースや継続して相談に応じる必要がある場合は、ケー
ス記録をとるようにしましょう。
フェイスシートの案を P53 に示します。対象者に関する事実が一目でわ
かるように 1 枚に集約するとよいでしょう。主訴(課題・問題のうち、主
要なもの)は統計(分類)や記載の簡略化のために、○をつける方式を取
り入れることもあります。たとえば、発達・養育・非行・障がい・不登校・
性格や行動・友人・性などがあります。
主となる記録は、随時記入される経過記録です。案を P52 に示していま
す。この記録時に留意しておかなければならない事柄としては次のような
ものがあります。
❶ 正確であること
電話、来所がいつだったのか、資料などが、いつ、どこで、だれから入
手したものなのか、などが記録されなくてはなりません。いつ、どこで会い、
何を話したのか、何をしたのかといった事実が正確に記録される必要があ
第
ります。
❷ 客観的に書くこと
事実をありのまま客観的に書き、職員の解釈と混同させてはなりません。
たとえば「A は大変怒った」よりも「A は大声でバカヤローと叫んだ」と
書く方が客観的です。また「みんな思い思いに過ごしていた」よりも「B
と C はブロックで遊び、D は一人マンガを読んでいた」と書いた方が客観
的で事実をありのままに表現しています。
❸ 職員の言動を書くこと
職員の対象者(子どもや保護者等)に対してどのように関わったのか、
言語的表現および非言語的な表現が記録されていなければなりません。特
51
章 ◎事例を記録する
3
に職員の言動によってもたらされた対象者の言動(応答)を明確にするこ
とが援助を評価する際に必要となります。感想等の所感は別に記すように
しましょう。
❹ 簡潔明瞭であること
誰にでも読みやすく、記録内容が容易に理解してもらえることを目指し
ましょう。なおかつ、必要な情報を漏らさないようにします。
子ども・家庭の援助において経過を追うことは大切なことです。そのた
めにも記録を積み重ねることが求められるでしょう。記録の管理には次の
ようなことが求められます。
記録はあくまでも援助のための必要情報を記載したものですが、個人情
報を含んだ重要な書類です。また、記録の使途について、保護者の同意を
得ることも必要な場合もあるでしょう。また、記録したものは、保護者か
ら開示を求められる場合もあります。利用する子どもや家庭に不利益が及
ばないよう、子どもや家庭の状況等に配慮した記述と厳正な管理が求めら
れます。
管理については、職員の専有スペース(職員室)であったとしても、個
人情報の保管場所には施錠などの措置をとってください。また、記録の保
管期間と処分の方法についても規定を設けて、適切に管理するようにしま
しょう。
ケース記録 経過記録用紙(参考)
P.
月 日
対応記録
所感・担当者名
◎時系列に記入し、複数ページにわたる場合は右上にページ番号をふる
◎所感は別枠に記載し、担当者が感じたことなどを記入。必ず、担当者名を記録する
52
ケース記録 フェイスシート(参考)
No. 氏名 年 月 日生
さん(男・女)
歳
住所
連絡先1
連絡先2
保護者の情報(名前・職業等)
家族構成
学校名
担任ほか
主訴(課題・問題)
第
紹介経路
章 ◎事例を記録する
3
来所 ・ 電話 ・ 学校 ・ 児童委員 ・ その他( )
生育歴・利用歴等
主担当
副担当
53
プロセスレコード
援助場面を詳細に記録することで、対応のあり方を振り返るきっかけになりま
す。また、課題の背景をみつけることもできるでしょう。
日時
平成 ×× 年 × 月 × 日(×) 15 時 45 分頃
場所
放課後児童クラブ室
周囲の状況
スケジュール
30 人ほどの来所。職員は 2 名。おやつの時間だった。
私が見たこと
聞いたこと
私が考えたこと
感じたこと
私が言ったこと
行ったこと
①×くんが
花瓶を投げた
②けんかと思った
③「やめなさい」
周りの対応
④ Y 先生が×君を
押さえた
⑤×くんが何かに
こだわっている
対応の流れを番号順にして、書いていきます。一人で書くだけでなく、職員全
体で場面を振り返るために使うこともできます。
プロセスレコードを書きためておくことで、その子どもの傾向(時間によるの
か、場所によるのか、人との関係によるのか、状況によるのか)などをつかむこ
ともできます。
54
援助に活用する図
援助方針を記録だけから追って検討するのは大変なことです。視覚的に
理解しやすくするためにも、図を活用することをおすすめします。
ジェノグラム
家族関係を整理するために書くツールです。同居・別居を問わず対象の子ども
の家族関係、その家族に影響を与えたエピソード(離婚、死去など)を書き込ん
でいきます。
祖母、
61 歳/パート
1 年前に死去
母、36 歳/会社員
3 年前に離婚
A、小 1 女児/ 9 歳
第
女性
結婚
性別不明
離婚
同居(内縁)
子どもは左が兄姉
9歳
7歳
3
死亡
双生児
9歳
ひも と
家族関係を紐解いていくことで、課題の背景を探ることができるかもしれません。
兄弟関係についても着目することが必要です。
55
章 ◎事例を記録する
男性
エコマップ
エコマップは、1970 年代アメリカの A・ハートマンによって開発されたもの
です。対象者を中心において、その関わりのある「人」
「組織」などの資源を「関
係性を示す線」によって結びつけることにより、対象者と社会との関係を視覚的
に把握する手法です。
ストレスのある関係
肯定的関係
(太いほど関係は密)
小学校
希薄な関係
祖父母
エネルギーが向かう方向
拒否
A さん
小 3 男児
ADHD
好きなのか
わからない
放課後
児童クラブ
父 38 歳
同居
母 35 歳
支援センター
今は接点がない
中心の○に対象の子どもを置き、周りの○の中に関係がある資源を
思いつくだけ書いてみましょう。今、関わりのある資源から始めて、
今後関わることが必要な資源も書きましょう。資源と対象の子ども
の関係を線で結んでみましょう。
同居関係なども囲み、環境を整理してみていくことも可能です。これを元にし
て、対象の子どもがもっている資源や周りの状況を整理することで、アプローチ
する相手を検討することも可能になります。このように図化した後の使い方が重
要で、
○児童館や放課後児童クラブでは直接出会ったことがない人・組織が、その子
どもに重要な影響を与えている可能性はないか
○保護者同士の関係性はどうなのか
○足りない資源はないだろうか
などの視点をもって、今後の援助方針を立てるために生かすことも可能です。
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(児童厚生員・放課後児童指導員の倫理に関する福島宣言)
児童厚生員・放課後児童指導員の倫理綱領
私たちは、児童館・放課後児童クラブが、児童福祉法の理念を地域社
会の中で具現化する児童福祉施設・事業であることを明言する。
私たちは、児童館・放課後児童クラブの仕事が、地域における子ども
の最善の利益を守る援助者として専門的資質を要する職業となることを
強く希求する。
そのため、私たちはここに倫理綱領を定め、豊かな人間性と専門性を
保持・向上することに努め、専門職者の自覚と誇りをもってその職責を
まっとうすることを宣言する。
1.私たちは、子どもの安心・安全を守って、その最善の利益を図り、
児童福祉の増進に努めます。
2.私たちは、子どもの人権を尊重し個性に配慮して、一人ひとりの支
援を行います。
3.私たちは、身体的・精神的苦痛を与える行為から子どもを守ります。
4.私たちは、保護者に子どもの様子を客観的かつ継続的に伝え、保護
者の気持ちに寄り添って、信頼関係を築くように努めます。
5.私たちは、地域の健全育成に携わる人々・関係機関と連携を図り、
信頼関係を築くように努めます。
第
6.私たちは、事業にかかわる個人情報を適切に保護(管理)し、守秘
義務を果たします。
章 ◎事例を記録する
3
7.私たちは、子どもの福祉増進のために必要な情報を公開し、説明責
任を果たします。
8.私たちは、互いの資質を向上させるために協力して研さんに努め、
建設的に職務を進めます。
9.私たちは、地域において子育ての支援に携わる大人として人間性と
専門性の向上に努め、子どもたちの見本となることを目指します。
平成 25 年 12 月 15 日
全国児童厚生員研究協議会
(第 13 回全国児童館・児童クラブ大会・東北復興支援フォーラムにて採択)
57
関係機関
●福祉事務所(家庭児童相談室)
その管轄する地域の住民の福祉を図る行政機関であり、福祉六法(生活保護法、母子
及び寡婦福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、児童福祉法)に
基づく事務を行います。福祉事務所は都道府県及び市が設置義務を負い、町村は任意設
置となっています。
福祉事務所には、児童家庭の福祉に関する相談や指導業務の充実強化を図るため、全
国約 980 ヵ所に家庭児童相談室が設置され、専門の相談員を配置しています。
●教育相談室
多くの教育委員会が設置しています。設置先により異なりますが、教員経験者、スクー
ルカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどを配置して、相談に応じています。
・性格や行動について(不登校、集団不適応、友人関係、非行など)
・精神・身体問題について(チック、夜尿、拒食、過食など)
・発達上の問題について(言葉の遅れ、知的発達の遅れなど)
・しつけ・育て方について
・進路適性について
体罰等および学校でのセクシュアル・ハラスメントに関する相談に対応する窓口もあ
ります。
●児童相談所
児童家庭に関する相談について子どもの家庭、地域状況、生活歴や発達、性格、行動
等について専門的な角度から総合的に調査、診断、判定(総合診断)し、子どもの援助
を行います。
必要に応じて子どもを家庭から離す一時保護、児童福祉施設入所、里親等委託等の措
置を行います。
そのほか、民法上の権限として、親権者の親権喪失宣告の請求、未成年後見人選任及
び解任の請求を行うことができます。
児童相談所はその任務、性格に鑑み、都道府県(指定都市を含む)に設置義務が課さ
れています。また、平成 16 年児童福祉法改正法により、平成 18 年4月からは、中核市
程度の人口規模(30 万人以上)を有する市を念頭に、政令で指定する市(児童相談所設
置市)も、児童相談所を設置することができることとされました。
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児童相談所全国共通ダイヤルの概要
育児や子育てに悩んだ時、虐待を受けたと思われる子どもを見つけた
時などに、ためらわずに児童相談所に電話していただけるよう、全国共
通の番号によって近くの児童相談所に電話が繋がる仕組みを導入し、平
成 21 年 10 月 1 日より運用を開始しました。
0570-064-000
全国共通ダイヤルに電話をかけると、発信された電話の市内局番等か
ら当該地域を特定し、管轄する児童相談所に電話を転送します。
【主な転送パターン】
(1)固定電話から発信した場合で、発信された電話の市内局番等から
◦児童相談所の管轄が特定できる場合
→そのまま管轄児童相談所へ転送します
◦児童相談所の管轄が特定できない場合
第
→ガイダンスに沿って、お住まいの地域を番号で入力してもらう
章 ◎事例を記録する
3
ことにより、管轄児童相談所へ転送します。
(2)携帯電話から発信
→ガイダンスに沿って、お住まいの地域の郵便番号(7桁)を入
力してもらうことにより、管轄児童相談所へ転送します。
・PHSや一部のIP電話からはつながりません。
・プッシュ信号が出せない電話からは郵便番号等の入力ができません。
・一部、本システムに未加入の地域があります。(未加入の場合は、児童
相談所の電話番号がアナウンスされます。)
59
●保健所・保健センター
保健所は地域保健法に基づき都道府県、政令指定都市、中核市その他指定された市又
は特別区が設置する地域の保健活動を展開する機関です。
市町村に設置される保健センターでは対人保健サービスを実施しています。母子保健
等を担当する保健師が配置されています。
●児童家庭支援センター
児童家庭支援センターは、児童相談所等の関係機関と連携しつつ、地域に密着したよ
りきめ細かな相談支援を行う児童福祉施設です。多くは児童養護施設等に付置されていま
す。
関係機関と連携し、地域の子どもの福祉に関する各般の問題に関する相談、必要な助
言を行っています。児童家庭支援センターは、24 時間 365 日体制で相談業務を行って
いることから、夜間や休日における対応が可能です。2008 年の児童福祉法改正により、
市町村の求めに応じた支援活動も展開できるようになりました。(一部の自治体で設置さ
れている「子ども(児童)家庭支援センター」は市区町村の窓口を指す場合もあります。)
▶ http://www.zenjikasen.org/centerlink.html 全国児童家庭支援センター協議会にリストがあります。
●発達障害者支援センター
発達障害児(者)への支援を総合的に行うことを目的とした専門的機関です。相談支
援や研修等を実施しています。都道府県・指定都市自ら、または、都道府県知事等が指
定した社会福祉法人、特定非営利活動法人等が運営しています。
▶ http://www.rehab.go.jp/ddis/ 国立障害者リハビリテーションセンター(発達障害情報・支援センター)に各地のセンター
の一覧があります。
60
利用者が活用できる相談先
●全国統一の「24 時間いじめ相談ダイヤル」
子どもたちが全国どこからでも、夜間・休日を含めて、いつでもいじめ等の悩みをよ
り簡単に相談することができるように、平成 19 年 2 月より、全都道府県及び指定都市
教育委員会で実施しています。専用番号に電話すれば、原則として電話をかけた所在地
の教育委員会の相談機関に接続します。
24 時間いじめ相談ダイヤル
0570-0-78310(なやみ言おう)
●子どもの人権 110 番
「いじめ」や体罰、不登校や親による虐待といった、子どもをめぐる人権問題「子ども
の人権 110 番」は、このような子どもの発する信号をいち早くキャッチし、その解決に
導くための相談を受け付ける専用相談電話であり、子どもだけでなく、大人もご利用可
能です。
電話は、最寄りの法務局・地方法務局につながり、相談は、法務局職員又は人権擁護
委員がお受けします。相談は無料、秘密は厳守します。
0120-007-110
平日 8 時 30 分から 17 時 15 分まで
第
インターネットでの相談
章 ◎事例を記録する
3
▶ http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken113.html
●ヤング・テレホン・コーナー (警察)
各都道府県警察においては、お子さんのことで悩みを抱えているご家族やいじめ、犯
罪等の被害に遭い、悩んでいる子ども自身のために、少年相談窓口を開設しています。
▶ http://www.npa.go.jp/higaisya/shien/torikumi/madoguchi.htm 警察庁ホームページに一覧があります。
61
●チャイルドライン
「チャイルドライン」は、18 歳までの子どもがかける子ども専用電話です。北ヨーロッ
パで始まった活動で、1998 年から日本でも開設されています。子どもたちの「きもち」
や「思い」を受け止める民間の活動として、広がりをみせています。2013 年 6 月 1 日現在、
全国 44 都道府県 75 の実施団体がチャイルドラインの活動を行っています。
0120-99-7777(18 歳までの子ども専用)
毎週月~土 16 時~ 21 時(12 月 29 日~ 1 月 3 日は休止)
栃木・埼玉・東京・山梨・愛知では日曜日もつながります。
特定非営利活動法人チャイルドライン支援センターのホームページに各地のチャイル
ドラインの連絡先が掲載されています。
▶ http://www.childline.or.jp/childline/
●ママパパライン
子育ての不安や疑問、悩みなどを誰かに聴いてもらうことで、気持ちが安定し、自ら
の力で前進する力が湧いてくることが多くあります。専門機関に相談するほどではない
が、「ちょっと」聞いて欲しいという声を聴く民間の活動です。
ママパパラインほっかいどう(北海道) 080-6062-4735 毎週月曜(祝日以外)
13 時 -16 時
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ママパパラインいわて(岩手県)
0120-147-445 毎週木曜と土曜 10 時 -14 時
ママパパライン仙台(宮城県)
022-773-9140 毎週金曜 10 時 -16 時
ママパパラインふくしま(福島県)
0242-85-7878 毎月第 1・3 木曜 10 時 -16 時
ママパパライン東京川の手
03-3633-0415 毎月第1と第 3 金曜日 午後1時~4時
ママパパラインちば(千葉県)
043-204-9390 毎週金曜 10 時 -16 時
ママパパラインわかやま(和歌山県)
073-432-3690 毎週火曜 13 時 -16 時
ママパパラインあいち(愛知県)
052-203-8655 毎月第 1・3 水曜 10 時 -16 時
ママパパラインひょうご(兵庫県)
078-945-8333 毎月第 1 水曜 10 時 -16 時
よりよい児童館実践に
つながりますように
子ども・子育てを取り巻く状況が変化し、
「しんどさ」を抱える人が増えています。
児童館職員はその「しんどさ」だけでは
なく「人」に寄り添い続けています。
ソーシャルワークを意識することによ
り、人に寄り添うことの意味や価値を見
いだしていただけたら幸いです。
文末となりましたが、本書の制作にあた
り監修いただいた大竹智先生、コラムに
ご寄稿くださった柳澤邦夫先生、事例や
資料をご提供いただいた全国の児童館の
皆さまに心から御礼申し上げます。
児童館におけるソーシャルワーク実践
平成 26 年 3 月
制作:財団法人 児童健全育成推進財団/株式会社 第一印刷所
発行:財団法人 児童健全育成推進財団
〒 150-0002
東京都渋谷区渋谷 2-12-15
日本薬学会ビル 7 階
TEL:03-3486-5141
*この冊子は国庫補助金により制作したものです。
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