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第 2 編 日韓特許審査比較

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第 2 編 日韓特許審査比較
第2編
日韓特許審査比較
【特許請求の範囲の記載要件】
1.特許請求の範囲の記載要件に関する条文
日本特許法
韓国特許法
日法第 36 条第 5,6 項
5
第二項の特許請求の範囲には、請求項に
区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を
受けようとする発明を特定するために必要と
認める事項のすべてを記載しなければならな
い。この場合において、一の請求項に係る発明
と他の請求項に係る発明とが同一である記載
となることを妨げない。
6
第二項の特許請求の範囲の記載は、次の
各号に適合するものでなければならない。
一
特許を受けようとする発明が発明の詳細
な説明に記載したものであること。
二
特許を受けようとする発明が明確である
こと。
三
請求項ごとの記載が簡潔であること。
四
その他経済産業省令で定めるところによ
り記載されていること。
韓法第 42 条第 2 項第 4 号、第 4~8 項
②第 1 項の規定による特許出願書には、次の各
号の事項を記載した明細書と必要な図面及び
要約書を添付しなければならない。
4.特許請求の範囲
日規第 24 条の 3
特許法第三十六条第六項第四号の経済産業省
令で定めるところによる特許請求の範囲の記
載は、次の各号に定めるとおりとする。
一
請求項ごとに行を改め、一の番号を付し
て記載しなければならない。
二
請求項に付す番号は、記載する順序によ
り連続番号としなければならない。
三
請求項の記載における他の請求項の記載
の引用は、その請求項に付した番号によりしな
ければならない。
四
他の請求項の記載を引用して請求項を記
載するときは、その請求項は、引用する請求項
より前に記載してはならない。
④第 2 項第 4 号の規定による特許請求の範囲に
は、保護を受けようとする事項を記載した項
(以下、“請求項”という。)が一又は二以上な
ければならず、その請求項は、次の各号に該当
しなければならない。
1.発明の詳細な説明により裏付けられること
2.発明が明瞭かつ簡潔に記載されること
3.<削除>
⑤特許出願人は、第 2 項の規定にかかわらず特
許出願当時に第 2 項第 4 号の特許請求の範囲を
記載しない明細書を特許出願書に添付するこ
とができる。この場合、次の各号の区分による
期限までに特許請求の範囲が記載されるよう
に明細書を補正しなければならない。
1.第 64 条第 1 項各号のいずれか 1 つに該当す
る日から 1 年 6 月になる日まで
2.第 1 号の期限以内に第 60 条第 3 項の規定に
よる出願審査請求の趣旨の通知を受けた日か
ら 3 月になる日まで(第 64 条第 1 項各号のいず
れか 1 つに該当する日から 1 年 3 月になる日以
後に通知を受けた場合には、同項各号のいずれ
か 1 つに該当する日から 1 年 6 月になる日ま
で)
⑥第 2 項第 4 号の規定による特許請求の範囲を
記載するときには、保護を受けようとする事項
を明確にできるように、発明を特定するのに必
要であると認められる構造・方法・機能・物質
又はこれらの結合関係等を記載しなければな
らない。
⑦特許出願人が特許出願後に第 5 項各号の規
定による期限までに明細書を補正しなかった
場合には、その期限となる日の翌日に該当特許
出願は取下げられたものとみなす。
⑧第 2 項第 4 項の規定による特許請求の範囲の
記載方法に関し必要な事項は、大統領令で定め
る。
韓令 5 条
特許請求範囲の記載方法
①法第 42 条第 8 項による特許請求の範囲の請
1
求項(以下“請求項”という。)を記載するとき
には、独立請求項(以下“独立項”という。)
を記載しなければならず、その独立項を限定す
るか付加して具体化する従属請求項(以下“従
属項”という。)を記載することができる。こ
の場合、必要なときにはその従属項を限定する
か付加して具体化する他の従属項を記載する
ことができる。
②請求項は、発明の性質に応じて適正な数で記
載しなければならない。
③削除
④他の請求項を引用する請求項は、引用される
項の番号を書かなければならない。
⑤2 以上の項を引用する請求項は、引用される
項の番号を択一的に記載しなければならない。
⑥2 以上の項を引用する請求項でその請求項の
引用された項は、再び2以上の項を引用する方
式を使用してはならない。2以上の項を引用し
た請求項でその請求項の引用された項が再び
一つの項を引用した後に、その一つの項が結果
的に2以上の項を引用する方式についてもま
た同じである。
⑦引用される請求項は、引用する請求項より先
に記載しなければならない。
⑧各請求項は、項ごとに行を変えて記載して、
その記載する順序によってアラビア数字で一
連番号を付けなければならない。
解説;
特許請求の範囲の記載要件については、日韓とも類似する点が多いが、異なる点も散
見される。まず、類似する点であるが、双方とも①サポート要件、②明確性要件、③簡
潔性要件、④引用請求項等の記載要件を規定しており、全体な構造は、よく類似してい
る。
一方、日韓大きく異なる点として、韓国では、多数引用請求項を更に多数引用するい
わゆるマルチ・マルチクレームの記載が認められていない点に注意を要する。
その他、特許請求の範囲の記載要件に関連する情報として、以下の点をあげておく。
①日本では、特許請求の範囲が明細書から分離されているが、韓国では、明細書から分
離しておらず、特許請求の範囲は明細書の一項目となっている。
②韓国には、日本にはない制度として、特許請求の範囲の提出猶予制度が設けられてい
る(韓法第第 42 条第 5 項条)
。これは、出願当初、明細書に特許請求の範囲を記載す
ることを猶予し、出願公開前(出願日または優先権主張日より 1 年 6 月になる日まで)
等に手続補正を行い、特許請求の範囲を追加することを許容する制度である。また、
本報告書執筆時点において、特許法条約の精神を反映し、いわゆる論文出願などを受
2
け付ける出願日認定要件の緩和(ただし、後に記載要件に合致した明細書、特許請求
の範囲の提出が必要となるため、後に新規事項追加等が生じないよう、当初提出する
出願書類等の記載内容には注意を要する。)
、英語による出願の許容の法改正が予定さ
れており、当該法改正により、外国語(ただし、当面は英語のみ)による特許出願も
許容される予定である。
3
2.発明特定事項の記載
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 1 章 2. 1 第 36 条第 5 項
(1) 本項前段は、特許出願人が特許を受けよう
とする発明を特定する際に、まったく不要な事
項を記載したり、逆に、必要な事項を記載しな
いことがないようにするために、特許請求の範
囲には、特許を受けようとする発明を特定する
ための事項を過不足なく記載すべきことを示
したものである。
なお、どのような発明について特許を受けよ
うとするかは特許出願人が判断すべきことで
あるので、特許を受けようとする発明を特定す
るために必要と出願人自らが認める事項のす
べてを記載することとされている。
韓審第 2 部第 4 章 2.発明の認定
・・・特許を受けようとする発明の認定は、出
願人が自分の意志により選択した請求の範囲
の記載内容を尊重して、各請求項に記載された
事項に基づいて行われなければならず、請求項
の記載が不明りょうであるか、あるいは技術用
語の意味、内容が不明確な場合に限り発明の詳
細な説明又は図面の記載を参酌しなければな
らず、請求の範囲の記載を逸脱して発明の詳細
な説明に開示された発明の内容から請求項に
記載された発明を認定してはならない。・・・
韓審第 2 部第 4 章 5.発明を特定するために必
要であると認められる事項を記載すること
特許法第 42 条第 6 項は、特許請求の範囲に
保護を受けようとする事項を明確にするのに
(2) また、本規定は請求項の性格を明らかにし 必要であると認められる構造・方法・機能・物
たものでもある。すなわち、出願人が特許を受 質又はこれらの結合関係等を記載するように
けようとする発明を特定するために必要と認 規定している。これは技術が多様化されること
める事項(以下、「発明を特定するための事項」 により物(装置)の発明に対して物理的な構造
ということがある。)を記載するのが請求項で 及び具体的な手段よりは、その装置の作用又は
あることを明示することにより、各請求項の記 動作方法等により発明を表現することが好ま
載に基づいて特許発明の技術的範囲が定めら しい場合があるため、発明が明確に特定され得
れるべきこと、各請求項の記載に基づいて認定 るのであれば、出願人の選択により自由に発明
した発明が審査の対象とされるべきこと等が を記載することができるという点を明確にし
明らかにされている。
たものである。
本項の後段は、一の発明については、一の請
求項でしか記載できないとの誤解が生じない
ように確認的に規定されたものである。
韓審第 2 部第 4 章 6.3 特許法施行令第 5 条第
2項
(1)・・・請求項が適正な数で記載されていな
い場合としては、・・・③同一の請求項を重複
して記載(文言的に同一な場合をいい、実質的
に同一であるだけで表現を異にした場合は除
く)する場合・・・等がある。
解説;
特許請求の範囲に記載すべき事項は、日韓とも同様であり、出願人が特許を受けよう
とする事項を自らの責任において記載することが規定されている。また、韓法第 42 条
第 6 項では、特許請求の範囲には保護を受けようとする事項を明確にするのに必要であ
ると認められる事項を記載することとされているが、これ自体は拒絶理由の対象とされ
ていない。
また、同項では、構造、方法、機能、物質、又はこれらの結合関係等多様な表現方法
を認めることを明文化しているところ、詳細にみると日韓で温度差があるようである
(4.(3)請求項が機能、特性、製造方法(プロダクトバイプロセス)等の表現を含
4
む場合の項を参照のこと。)。
さらに、日本では、複数の請求項に係る発明同士が同一の記載となることを妨げない
としているが、韓国では、複数の請求項に係る発明において文言的に同一の記載がなさ
れている場合、拒絶理由とされている。
5
3.サポート要件
(1)サポート要件の趣旨
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 1 章 2.2.1.1 第 36 条第 6 項第 1
号の趣旨
特請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に
記載した範囲を超えるものであってはならな
い。発明の詳細な説明に記載していない発明に
ついて特許請求の範囲に記載することになれ
ば、公開していない発明について権利を請求す
ることになるからである。本号の規定は、これ
を防止するためのものである。
韓審第 2 部第 4 章 3.発明の詳細な説明によっ
て裏付けられること
発明の詳細な説明は、技術公開書としての役
割を果たすところ、詳細な説明に記載し公開し
ていない発明を請求の範囲に請求項として記
載して特許を受けた場合、公開していない発明
に対して特許権が付与される結果となるため、
これを防止するために特許法第 42 条第 4 項第
1 号を規定した。
解説;
サポート要件の趣旨については、日韓とも同様であり、いずれも、発明の詳細な説明
に記載されておらず、公開していない発明に対して権利付与を防止することを趣旨とし
ている。
6
(2)サポート要件の審査における基本的な考え方
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 1 章 2.2.1.2 第 36 条第 6 項第 1
号の審査における基本的な考え方
(1) 特許請求の範囲の記載が第 36 条第 6 項
第 1 号に適合するかの判断は、請求項に係る
発明と、発明の詳細な説明に発明として記載し
たものとを対比・検討することにより行う。
この対比・検討は、請求項に係る発明を基準に
して、発明の詳細な説明の記載を検討すること
により、進める。この際、発明の詳細な説明に
記載された特定の具体例にとらわれて、必要以
上に特許請求の範囲の減縮を求めることがな
いようにする。
(2) 対比・検討にあたっては、請求項に係る発
明と、発明の詳細な説明に発明として記載した
ものとの表現上の整合性にとらわれることな
く、実質的な対応関係について審査する。
・・・
(3) 実質的な対応関係についての審査は、請求
韓審第 2 部第 4 章 3.発明の詳細な説明によっ
て裏付けられること
(1)特許請求の範囲が発明の詳細な説明により
裏付けられているか否かは、その発明が属する
技術の分野において通常の知識を有する者の
立場で請求項に記載された発明と対応する事
項が発明の詳細な説明に記載されているか否
かによって判断する。
対応する事項が発明の詳細な説明に記載さ
れているか否かは、請求項と発明の詳細な説明
が文言上同一であるか否かよりは、第 42 条第
4 項第 1 号の趣旨を考慮して、当該の技術分野
において通常の知識を有する者が発明の詳細
な説明から把握することができる範囲を逸脱
した発明を請求項で請求しているものではな
いかを重点的に検討して判断する。
項に係る発明が、発明の詳細な説明において発
明の課題が解決できることを当業者・・・が認
識できるように記載された範囲を超えるもの
であるか否かを調べることにより行う。発明の
課題が解決できることを当業者が認識できる
ように記載された範囲を超えていると判断さ
れた場合は、請求項に係る発明と、発明の詳細
な説明に発明として記載したものとが、実質的
に対応しているとはいえず、第 36 条第 6 項第
1 号の規定に違反する。
・・・
解説;
サポート要件の審査における基本的な考え方は、日韓とも同様であり、①請求項に係
る発明と、発明の詳細な説明の記載とを対比、検討すること、②対比・検討にあたっては、請求
項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載したものとの表現上の整合性ではなく、実
質的な対応関係について検討することとされている。
また、日本では、「実質的な対応関係についての審査は、請求項に係る発明が、発明の詳細な
説明において発明の課題が解決できることを当業者・・・が認識できるように記載された範囲を
超えるものであるか否かを調べることにより行う。
」とする一方、韓国では、当業者において「発
明の詳細な説明から把握することができる範囲を逸脱した発明を請求項で請求しているもので
はないかを重点的に検討」するとしており、請求項に係る発明と課題との関係について明確に言
及していないが、その趣旨からみて実質的な違いはないものと思われる。
7
(3)サポート要件違反の類型
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 1 章 2.2.1.3 第 36 条第 6 項第 1
号違反の類型
以下に、特許請求の範囲の記載が第 36 条第
6 項第 1 号に適合しないと判断される類型を
示す。
(1) 発明の詳細な説明中に記載も示唆もされ
ていない事項が、請求項に記載されている場
合。
(2) 請求項及び発明の詳細な説明に記載され
た用語が不統一であり、その結果、両者の対応
関係が不明瞭となる場合。
(3) 出願時の技術常識に照らしても、請求項に
係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示
された内容を拡張ないし一般化できるとはい
えない場合。
(4) 請求項において、発明の詳細な説明に記載
された、発明の課題を解決するための手段が反
映されていないため、発明の詳細な説明に記載
した範囲を超えて特許を請求することとなる
場合。
韓審第 2 部第 4 章 3.発明の詳細な説明によっ
て裏付けられること
(2)請求項に記載された発明が発明の詳細な説
明によって裏付けられない類型には、以下のよ
うなもの等がある。
①請求項に記載された事項と対応する事項が、
発明の詳細な説明に直接的に記載されておら
ず、暗示もされていない場合
②発明の詳細な説明と請求項に記載された発
明との相互間に用語が統一されておらず、両者
の対応関係が不明りょうな場合
③請求項に記載された事項が特定機能を遂行
するための「手段(means)」又は「工程(step)」
で記載されているが、これらの手段又は工程に
対応する具体的な構成が発明の詳細な説明に
記載されていない場合
④出願時の当該技術の分野の技術常識にかん
がみて発明の詳細な説明に記載された内容を
請求された発明の範囲まで拡張するか、あるい
は一般化することができない場合
⑤発明の詳細な説明には、発明の課題を解決す
るために必ず必要な構成として説明されてい
る事項が請求項には記載されておらず、当該技
術の分野の通常の知識を有する者が発明の詳
細な説明から認識できる範囲を逸脱した発明
を請求するものと認められる場合
解説;
日韓とも、①発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていない事項が請求項に記載さ
れている場合、②請求項と発明の詳細な説明の用語が統一されておらず、相互の対応が
不明りょうな場合、③発明の詳細な説明の内容を請求項に係る発明まで拡張又は一般化
できない場合、④発明の課題解決手段が請求項に係る発明に反映されておらず、発明の
詳細な説明に記載の範囲を超える場合について、共通した類型としてあげられている。
一方、韓国では、特許請求の範囲に「「手段(means)」又は「工程(step)」で記載されてい
るが、これらの手段又は工程に対応する具体的な構成が発明の詳細な説明に記載されていない場
合」をサポート要件違反の類型としてあげているが、このような場合は、通常、発明の詳細な説
明の内容を請求項に係る発明まで拡張又は一般化できないため、日本においてもサポート要件違
反となると思われる。
8
4.明確性・簡潔性要件
(1)明確性・簡潔性の審査における基本的な考え方及び留意事項
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 1 章 2.2.2.1 第 36 条第 6 項第 2
号の審査における基本的な考え方
(1) 特許請求の範囲の記載は、これに基づいて
新規性・進歩性等の特許要件の判断がなされ、
これに基づいて特許発明の技術的範囲が定め
られるという点において重要な意義を有する
ものであり、一の請求項から発明が明確に把握
されることが必要である。
本号は、こうした特許請求の範囲の機能を担
保する上で重要な規定であり、特許を受けよう
とする発明が明確に把握できるように記載し
なければならない旨を規定したものである。特
許を受けようとする発明が明確に把握されな
ければ、的確に新規性・進歩性等の特許要件の
判断ができず、特許発明の技術的範囲も理解し
難い。
発明が明確に把握されるためには、発明の範
囲が明確であること、すなわち、ある具体的な
物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか
否かを理解できるように記載されていること
が必要であり、その前提として、発明を特定す
るための事項の記載が明確である必要がある。
(2) また、請求項の制度の趣旨に照らせば、一
の請求項に記載された事項に基づいて、一の発
明が把握されることも必要である・・・。
(3) 第 36 条第 6 項第 2 号の審査は、
・・・請
求項に記載された、特許出願人が特許を受けよ
うとする発明を特定するために必要と認める
事項に基づいて行う。ただし、発明を特定する
ための事項の意味内容や技術的意味・・・の解
釈にあたっては、請求項の記載のみでなく、明
細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識
をも考慮する。
なお、発明の把握に際して、請求項に記載の
ない事項は考慮の対象とはならない。反対に、
請求項に存在する事項は、必ず考慮の対象とす
る必要がある。
(4) ・・・
韓審第 2 部第 4 章 4.発明が明確かつ簡潔に記
載されること
請求項の記載が不明確であるか、あるいはそ
の記載内容が簡潔ではない発明に対して特許
権が付与されると、発明の保護範囲が不明確と
なるため、特許発明の保護範囲を定める権利書
としての役割を果たすことができないだけで
なく、特許要件の判断等も不可能になるとこ
ろ、特許法第 42 条第 4 項第 2 号は、このよう
な問題を防止するための規定といえる。
(1)請求項に記載された発明が明確かつ簡潔に
記載されているか否かは、原則的に発明の詳細
な説明又は図面の記載及び出願時の技術常識
等を考慮して、その発明が属する技術の分野に
おいて通常の知識を有する者の立場で請求項
の記載を基準に判断し、請求項の記載を無視し
て他の部分のみに基づいて判断してはならな
い。
(2)発明が簡潔に記載されなければならないと
いう旨は、請求項の記載そのものが簡潔でなけ
ればならないということであり、その発明の概
念が簡潔でなければならないということでは
ない。
日審第Ⅰ部第 1 章 2.2.3.1 第 36 条第 6 項第
3 号の趣旨
請求項の記載は、新規性・進歩性等の特許要
件や記載要件の判断対象である請求項に係る
発明を認定し、特許発明の技術的範囲を明示す
る権利書としての使命を担保するものである
から、第 36 条第 6 項第 2 号の要件を満たす
9
ものであることに加え、第三者がより理解しや
すいように簡潔な記載とすることが適切であ
る。こうした趣旨から本号が規定されている。
第 36 条第 6 項第 3 号は、請求項の記載自
体が簡潔でなければならない旨を定めるもの
であって、その記載によって特定される発明の
概念について問題とするものではない。また、
複数の請求項がある場合もこれらの請求項全
体としての記載の簡潔性ではなく請求項ごと
に記載の簡潔性を求めるものである。
解説;
韓国においては、請求項の明確性及び簡潔性が韓法 42 条 4 項 2 号にまとめられてい
るが、その趣旨及び要件は、日韓とも同様である。
10
(2)明確性・簡潔性違反の類型
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 1 章 2.2.2.3 第 36 条第 6 項第
2 号違反の類型
特許請求の範囲の記載が第 36 条第 6 項第 2
号に適合しない場合の例として、以下に類型を
示す。
(1) 請求項の記載自体が不明確である結果、発
明が不明確となる場合。
①請求項に日本語として不適切な表現がある
結果、発明が不明確となる場合。
例えば、請求項の記載中の誤記や不明確な記載
等のように、日本語として表現が不適切であ
り、発明が不明確となる場合。ただし、軽微な
記載の瑕疵であって、それによって当業者にと
って発明が不明確にならないようなものは除
く。
韓審第 2 部第 4 章 4.発明が明確かつ簡潔に記
載されること
(3)~(5)
(3)発明が明確かつ簡潔に記載されていない類
型には、以下のようなもの等がある。
①請求項の記載内容が不明確な場合。ただし、
不明確な部分が軽微な記載上の欠陥であり、そ
の欠陥よってはその発明が属する技術の分野
において通常の知識を有する者が発明が不明
確であると理解しないか、あるいは発明の詳細
な説明及び図面、出願時の技術常識等によって
発明が明確に把握できる場合は、発明が不明確
なものと取り扱わない。
②発明の各構成要素が単純に羅列されている
だけであり、構成要素間の結合関係が記載され
ず発明が不明確な場合
③請求項に記載された発明のカテゴリーが不
明確な場合
④同一の内容が重複で記載されている等、請求
項の記載があまりにも冗長で保護を受けよう
とする事項が不明確であるか、又は簡潔ではな
い場合
⑤ 請求項に発明の構成を不明確にする表現を
含んでいる場合。ただし、このような表現を用
いてもその意味が発明の詳細な説明により明
確に裏付けられ、発明の特定に問題がないと認
められる場合は、不明確なものと取り扱わな
い。
(例 1)「所望により」、
「必要に応じて」、
「特に」
、
「例えば」、「及び/又は」等の字句とともに任
意付加的事項又は選択的事項が記載された場
合
☞「A 及び/又は B」は「A 及び B」である場合
②明細書及び図面の記載並びに出願時の技術
常識を考慮しても、請求項中の用語の意味内容
を理解できない結果、発明が不明確となる場
合。
(2) 発明を特定するための事項に技術的な不
備がある結果、発明が不明確となる場合。
①発明を特定するための事項の内容に技術的
な欠陥がある場合。
②発明を特定するための事項の技術的意味が
理解できず、さらに、出願時の技術常識を考慮
すると発明を特定するための事項が不足して
いることが明らかである場合。
③発明を特定するための事項どうしの関係が
整合していない場合。
④発明を特定するための事項どうしの技術的
な関連がない場合。
⑤請求項に販売地域、販売元等についての記載
がある結果、全体として技術的でない事項が記
載されていることとなる場合。
(3) 特許を受けようとする発明の属するカテ
ゴリー(物の発明、方法の発明、物を生産する
方法の発明)が不明確であるため、又は、いず
れのカテゴリーともいえないものが記載され
ているために、発明が不明確となる場合。
(4) 発明を特定するための事項が選択肢で表
現されており、その選択肢どうしが類似の性質
又は機能を有しないために発明が不明確とな
る場合。
①本号の趣旨からみれば、一の請求項から発明
が明確に把握されることが必要である。また、
請求項の制度の趣旨に照らせば、一の請求項に
記載された事項に基づいて、一の発明が把握さ
と「A 又は B」である場合とを共に記載したも
のであるため、発明が「A 及び B」である場合
と「A 又は B」の場合の両方に対してそれぞれ
特許法第 42 条第 4 項第 1 号及び第 2 号を違背
しているか否かを判断する。このとき、
「及び/
又は」の記載で一の請求項で異質的な複数の発
明を請求するものであるか否か(請求項が発明
の性質により適切な数で記載されたか否か)に
ついても判断する。
(例 2)「主に」
、
「主成分として」、
「主工程とし
て」、「適した」、「適量の」、「多い」、「高い」、
「大部分の」、
「ほとんど」、
「ほぼ」
、「約」等、
比較の基準や程度が不明確な表現が用いられ
た場合
11
れることが必要である。
②したがって、特許を受けようとする発明を特
定するための事項に関して二以上の選択肢が
あり、その選択肢どうしが類似の性質又は機能
を有しない場合には、第 36 条第 6 項第 2 号
違反となる。以下の例は本号の違反となる。
③特に、マーカッシュ形式などの択一形式によ
る記載が化学物質に関するものである場合、そ
れらは以下の要件が満たされれば、類似の性質
又は機能を有するものであるので、一の発明を
明確に把握することができる。
(ⅰ)すべての選択肢が共通の性質又は活性を
有しており、かつ、
(ⅱ)(a)共通の化学構造が存在する、すなわち
すべての選択肢が重要な化学構造要素を共有
している、又は(b)共通の化学構造が判断基準
にならない場合、すべての選択肢が、その発明
が属する技術分野において一群のものとして
認識される化学物質群に属する。
上記(ⅱ)(a)の「すべての選択肢が重要な化
学構造要素を共有している」とは、複数の化学
物質が、その化学構造の大きな部分を占める共
通した化学構造を有しているような場合をい
い、また化学物質がその化学構造のわずかな部
分しか共有しない場合においては、その共有さ
れている化学構造が従来の技術からみて構造
的に顕著な部分を構成する場合をいう。化学構
造要素は一つの部分のことも、互いに連関した
個々の部分の組合せのこともある。
上記(ⅱ)(b)の「一群のものとして認識され
る化学物質群」とは、請求項に記載された発明
の下で同じように作用するであろうことが、そ
の技術分野における知識から予想される化学
物質群をいう。言い換えると、この化学物質群
に属する各化学物質を互いに入れ換えても同
等の結果が得られる、ということである。
(5) 範囲を曖昧にする表現がある結果、発明の
(例 3)「…を除いて」
、
「…ではない」のような
否定的な表現が用いられ、不明確になった場合
(例 4)数値限定発明において、「…以上」、「…
以下」、「0~10」のように上限又は下限の記載
がない数値限定及び 0 を含む数値限定(0 を含
む成分が必須成分ではなく任意成分である場
合は除く。)をした場合。あるいは、
「120-200℃、
好ましくは 150-180℃」のように一の請求項内
で二重に数値限定をした場合・・・
⑥指示の対象が不明確であり、発明の構成が不
明確な場合
果、発明の範囲が不明確となる場合。
④「所望により」、
「必要により」などの字句と
共に任意付加的事項又は選択的事項が記載さ
上記のような i)、ii)、iii)の 3 種の類型の
記載は、明らかな誤記と認められるため、これ
に対して第 42 条第 4 項第 2 号違背で拒絶決定
⑦請求項に互いに異なる機能を遂行する複数
の同一の表現の技術用語がある場合に、それぞ
れの機能を限定して記載するか、又は図面に使
用された符号によって明確に区別されるよう
に記載されておらず、保護を受けようとする発
明の構成が不明確な場合
⑧請求項に商業上の利点及び販売地域、販売処
等の発明の技術的構成と関係ない事項を記載
したため、発明が明確かつ簡潔ではない場合
⑨発明の構成を記載せずに発明の詳細な説明
又は図面の記載を代用している場合。ただし、
発明の詳細な説明又は図面の記載を代用しな
いと適切に記載することができない場合は、こ
れらの代用による記載を認める。
(4)前の類型⑥に関し、指示の対象が文言上で
一致しなくてもそれが明らかな誤記にすぎず、
その技術の分野において、通常の知識を有する
者が発明の構成を正確に理解して再現するこ
とができる程度であれば、これは第 42 条第 4
項第 2 号による適法な記載であるとみなす。
このように明らかな誤記に該当し、第 42 条第
4 項第 2 号違反とみなさない類型として、次の
ようなもの等がある。
ⅰ) 請求項に「前記○○○」と記載されており、
該当請求項の先行部分や引用される請求項に
「○○○」が全く記載されていないが、発明の
範囲が不明確な場合。
詳細な説明及び図面を斟酌して「前記」を除い
①否定的表現(「~を除く」、「~でない」等) て解釈すれば発明が明確に把握される場合
がある結果、発明の範囲が不明確となる場合。 ⅱ) 指示する文言とその指示対象の文言とが
②上限又は下限だけを示すような数値範囲限 完全に一致しなくてもその意味上互いに対応
定(「~以上」、
「~以下」)がある結果、発明の する表現と認めることができ、指示対象である
範囲が不明確となる場合。
ことを明確に分かる場合
③比較の基準又は程度が不明確な表現(「やや ⅲ)2 以上の項を引用する請求項であって、そ
比重の大なる」、「はるかに大きい」、「高温」、 の引用される請求項のうち一部が削除されて
「低温」、「滑りにくい」、「滑りやすい」等)が いるが、削除された項の引用を除いて解釈すれ
あるか、あるいは、用語の意味が曖昧である結 ば請求項の発明が明確に把握される場合
12
れた表現がある結果、発明の範囲が不明確とな
る場合。「特に」、「例えば」、「など」、「好まし
くは」、
「適宜」のような字句を含む記載もこれ
に準ずる。
⑤請求項に 0 を含む数値範囲限定(「0~10%」
等)がある結果、発明の範囲が不明確となる場
合。
⑥請求項の記載が、発明の詳細な説明又は図面
の記載で代用されている結果、発明の範囲が不
明確となる場合。
日審第Ⅰ部第 1 章 2.2.3.2 第 36 条第 6 項第
3 号違反の類型
特許請求の範囲の記載が第 36 条第 6 項第 3
号に適合しない場合の例として、以下に類型を
示す。
(1) 請求項に同一内容の事項が重複して記載
してあって、記載が必要以上に冗長すぎる場
合。
ただし、・・・同一内容の事項が重複して記
載してある場合であっても、その重複が過度で
あるときに限り、必要以上に冗長すぎる記載と
する。・・・
(2) マーカッシュ形式で記載された化学物質
の発明などのような択一形式による記載にお
いて、選択肢の数が大量である結果、請求項の
記載の簡潔性が著しく損なわれているとき。
請求項の記載の簡潔性が著しく損なわれてい
るか否かを判断するに際しては、以下に留意す
る。
①選択肢どうしが重要な化学構造要素を共有
しない場合には、重要な化学構造要素を共有す
る場合よりも、より少ない選択肢の数で選択肢
が大量とされる。
②選択肢の表現形式が条件付き選択形式のよ
うな複雑なものである場合には、そうでない場
合よりも少ない選択肢の数で選択肢が大量と
される。
・・・
をしてはいけない。審査段階において、このよ
うな記載がある場合、他の拒絶理由がなければ
特許決定するとともに職権補正をし(第 5 部第
5 章「3.職権補正における注意事項」参照)、
他の拒絶理由があれば意見提出通知の際に「参
照事項」に記載して補正を勧告する。
ただし、上記 3 種の類型に該当するか否かが
不明な場合には、先ず出願人に通知をし、意見
提出及び補正の機会を付与するために、職権補
正及び「参照事項」ではなく、拒絶理由により
通知した方が好ましい。しかし、このような拒
絶理由通知に対して提出された意見書/補正書
を考慮して再び審査をしたとき、そのような記
載が上記 3 種の類型に該当するものと判断さ
れれば、これを理由に拒絶決定をしてはならず
(他の拒絶理由がなければ)、職権補正で処理す
るようにする。
なお、第 51 条による補正却下の判断(新たな
拒絶理由が発生したが否かの判断)の際に、補
正によって上記 3 種の類型のいずれかに該当
する記載が新たに生じた場合にも新たな拒絶
理由が発生したものとは認めないため、これを
理由で補正却下してはならない。
(5)特許を受けようとする事項も相互類似の性
質又は機能を有する 2 以上の構成要素がある
場合は、これら構成要素をマーカッシュ
(Markush)形式等、択一形式にして一の請求項
に記載することができる。
択一形式による記載が化学物質に関するも
のである場合、以下の要件をすべて満たすと、
その構成要素は、類似の性質又は機能を有する
ものと認められる。
①すべての構成要素が共通する性質又は活性
を有すること
②すべての構成要素が重要な化学構造要素を
共有しているか、あるいはすべての構成要素が
その発明が属する技術の分野において一群で
あると認識される化学物質群に属すること
ここで「すべての構成要素が重要な化学構造
要素を共有する」とは、複数の化学物質がその
化学構造の大部分を占有する共通の化学構造
を有している場合、又は複数の化学物質がその
化学構造の一部分のみを共有しても、その共有
している化学構造が構造的に顕著な部分を構
成していることを意味する。また、「一群のも
のであると認識される化学物質群」とは、構成
要素で記載された化学物質群のそれぞれが請
求項に記載された発明では同様に作用すると
いうことがその技術の分野の知識により予想
される化学物質群をいう。すなわち、この化学
13
物質群に属する化学物質のうちいずれを選択
しても同等な結果が得られることを意味する。
解説;
明確性・簡潔性違反となる類型は、日韓で表現や例示等が多少異なるものの、同様な
点が多く、例えば、請求項の記載自体が不明確である場合、発明特定事項同士の関係が
ない場合、技術的でない事項が記載される場合、カテゴリーが不明確な場合、曖昧な表
現がある場合、記載が冗長すぎる場合、発明の詳細な説明又は図面の記載を代用する場
合等、概ね共通する事項をあげている。
ただし、日本で「範囲を曖昧にする表現」に当たる例は、韓国では「発明の構成を不
明確にする表現」の例とされているところ、その考え方はほぼ同様ではあるが、韓国で
は任意付加的事項又は選択的事項の例として「及び/又は」が構成を不明確にする表現
として例示されており、実務上、当該記載をもって直ちに発明の構成が不明確であると
の指摘を受ける場合が散見される。一方、日本には「及び/又は」に対する明記はなく、
実質的な判断により、発明の範囲をあいまいにする表現に当たるか否かが判断されてい
るため、日韓の判断に際が生じる可能性がある。
また、日本では、発明が不明確となる場合の類型として、①内容に技術的な欠陥があ
る場合、②特定事項が不足している場合が例示されているが、韓国においては、これら
は明示的に述べられていない。しかし、実務上、このような例は、韓国においても発明
が不明確であるとして判断されるものと考えられる。
さらに、韓国では明らかに誤記と思われる場合(前記に該当する用語がない場合、指
示する文言と指示される文言が不一致である場合、引用請求項が削除されている場合)
は、これを理由に拒絶決定(査定)をしてはならない旨明記されている。一方、日本に
おいては、同様の規定は記載されていないが、これらの記載は、それ自体で直ちに発明
が不明確となるものではい場合が多いと考えられるため、実務上、日本でもこのような
誤記を理由に拒絶査定がなされることはないと考えられ、結局のところ、日韓で特段の
差異はないといえよう。
加えて、マーカッシュ形式のような択一形式において、選択肢が共通の性質、活性、
又は共通の化学構造を有することを要求するのは日韓共通であるが、選択肢の数が大量
となった場合、日本では請求項の記載の簡潔性違反となる可能性がある一方、韓国では、
このような扱いについては明記がない。
14
(3)請求項が機能、特性、製造方法(プロダクトバイプロセス)等の表現を含む場合
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 1 章 2.2.2.4 請求項が機能・特
性等による表現又は製造方法によって生産物
を特定しようとする表現を含む場合
本項では、請求項が機能・特性等・・・によ
る表現又は製造方法によって生産物を特定し
ようとする表現を含む場合に、特に留意が必要
となる点や、第 36 条第 6 項第 2 号違反とな
る典型的な例について説明する。
(1) 請求項が機能・特性等による表現を含む場
合。
①留意が必要な点
(ⅰ)出願人は、発明を特定するための事項とし
て、作用・機能・性質又は特性による表現形式
を用いることができる・・・。しかしながら、
特許請求の範囲を明確に記載することが容易
にできるにもかかわらず、ことさらに不明確あ
るいは不明瞭な用語を使用して記載すべきで
はない・・・。
(ⅱ)機能・特性等による表現形式を用いること
により、発明の詳細な説明に記載された一又は
複数の具体例を拡張ないし一般化したものを
請求項に記載することも可能であるが、その結
果、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明に
おいて発明の課題が解決できることを当業者
が認識できるように記載された範囲を超える
ものになる場合には、第 36 条第 6 項第 1 号
違反となる・・・。
韓審第 2 部第 4 章 4. 発明が明確かつ簡潔に
記載されること
(6)~(8)
また、機能・特性等による表現を含む請求項
であって、引用発明との対比が困難となる場合
において、引用発明の物との厳密な一致点及び
相違点の対比を行わずに、審査官が、両者が同
じ物であるとの一応の合理的な疑いを抱いた
場合には、その他の部分に相違がない限り、新
規性が欠如する旨の拒絶理由が通知され
る・・・。同様に、審査官が、両者が類似の物
であり本願発明の進歩性が否定されるとの一
応の合理的な疑いを抱いた場合には、進歩性が
欠如する旨の拒絶理由が通知される・・・。
②発明が不明確となる類型
(ⅰ)明細書及び図面の記載並びに出願時の技
術常識を考慮しても、請求項に記載された機
能・特性等(注)の意味内容(定義、試験・測定
方法等)を理解できない結果、発明が不明確と
なる場合・・・。
(ⅱ)出願時の技術常識を考慮すると、機能・
特性等によって規定された事項が技術的に十
分に特定されていないことが明らかであり、明
(6)請求項に発明の機能及び効果を記載した機
能的表現が含まれている場合、そのような記載
によっても発明の構成が全体として明りょう
であると認められる場合でなければ許容され
ることができない(大法院、1998.10.18.宣告
97 フ 1344 参照)。ここにおいて、機能的表現
によっても発明の構成が全体として明りょう
であると認められる場合とは、①従来の技術的
構成のみでは発明の技術的な思想を明確に示
すことが困難な事情があり、請求項を機能的に
表現することが必要な場合(BM 発明又はコンピ
ュータ関連発明等、技術の分野により発明の特
性上の特許請求の範囲を具体的な構造の記載
のみで表現し難い場合がある)、②発明の詳細
な説明及び図面の記載により、機能的表現の意
味内容を明確に確定することができる場合等
をいう・・・。
請求項が機能的表現を含む場合、審査官は、そ
の発明が属する技術の分野において通常の知
識を有する者の立場で発明の詳細な説明及び
図面等の記載及び出願当時の技術常識を考慮
して特許請求の範囲に記載された事項から特
許を受けようとする事項を明確に把握するこ
とができるか否かを判断し、そうではないと認
められる場合、特許法第 42 条第 4 項第 2 号違
反で拒絶理由を通知する(大法院 2007.9.6.宣
告 2005 フ 1486 参照)。
(7)「.....方法で製造された物」、
「....装置で
製造された物」等の形式で物に関する請求項を
記載する方式は、特許を受けようとする物の構
成を適切に記載し難い場合(新規な物質、食品、
飲食物等)に限って例外的に認め、このような
請求項は、方法、装置、物で記載された請求項
と 1 群の発明として 1 出願にすることも許容さ
れる。
審査官は、このような形式で請求した物の構成
が容易に記載され得るにもかかわらず、物の構
成を記載せず発明が不明確であると認められ
る場合、特許法第 42 条第 4 項第 2 号違反で拒
絶理由を通知する。
(8)パラメータ発明は、物理的・化学的特性値
に対して当該技術の分野において標準的なも
のではないか、又は慣用されないパラメータを
出願人が任意で創出するか、あるいはこれら複
15
細書及び図面の記載を考慮しても、請求項の記
載から発明を明確に把握できない場合。
請求項に係る発明の範囲・・・が明確である
場合には、通常、請求項の記載から発明を明確
に把握できる。
しかしながら、機能・特性等による表現を含
む請求項においては、発明の範囲が明確であっ
ても、出願時の技術常識を考慮すると、機能・
特性等によって規定された事項が技術的に十
分に特定されていないことが明らかであり、明
細書及び図面の記載を考慮しても、請求項の記
載に基づいて、的確に新規性・進歩性等の特許
要件の判断ができない場合がある。このような
場合には、一の請求項から発明が明確に把握さ
れることが必要であるという特許請求の範囲
の機能・・・を担保しているといえないから、
第 36 条第 6 項第 2 号違反となる。
機能・特性等によって規定された事項が技術
的に十分に特定されていないことが明らかで
あるとの判断は、発明の属する技術分野におけ
る出願時の技術常識に基づいて行うため、その
判断の根拠となる技術常識の内容を示せない
場合には、本類型を適用しない。
また、明細書及び図面の記載並びに出願時の
技術常識を考慮すれば請求項の記載から発明
を明確に把握できる場合には、本類型には該当
しない・・・。
(2) 請求項が製造方法によって生産物を特定
しようとする表現を含む場合。
①留意が必要な点
数の変数間の相関関係を利用して演算式でパ
ラメータ化した後、発明の構成要素の一部とす
る発明をいう。パラメータ発明は、その記載だ
けではパラメータが示す特性値を有する技術
的構成を明確に把握することができない場合
が多いため、詳細な説明、図面及び技術常識を
参酌して①パラメータの定義又はその技術的
意味を明確に理解することができ、②該当パラ
メータを用いるしかない理由が明確に示され、
③また、出願時の技術水準との関係を理解する
ことができる場合以外には、発明が明確かつ簡
潔に記載されていないものと取り扱う。
パラメータを用いるしかない理由が明確に示
されるためには、パラメータを満たす場合とそ
うではない場合とが比較例として提示され、パ
ラメータと効果との因果関係及び技術的課題
と解決手段としてのパラメータの相関関係が
明確に理解されるべきである。また、出願時の
技術水準との関係を理解するためには、詳細な
説明に類似の構造又は効果を有する公知物と
の比較実験例が示されているか、あるいは論理
的な説明が提示される等、公知物が出願発明に
含まれないという事実が明確に理解されるべ
きである。
パラメータの技術的意味、該当パラメータを用
いるしかない理由及び技術水準との関係が詳
細な説明と図面に明示的に記載されていなく
ても出願時の技術常識にかんがみると明確に
理解され得る場合は、これを理由にして発明が
不明確なものであると取り扱わない。
(ⅰ)発明の対象となる物の構成を、製造方法と
無関係に、物性等により直接的に特定すること
が、不可能、困難、あるいは何らかの意味で不
適切(例えば、不可能でも困難でもないものの、
理解しにくくなる度合が大きい場合などが考
えられる。)であるときは、その物の製造方法
によって物自体を特定することができる(プロ
ダクト・バイ・プロセス・クレーム)。
(ⅱ)請求項が製造方法によって生産物を特定
しようとする表現を含む場合には、通常、その
表現は、最終的に得られた生産物自体を意味し
ているものと解する・・・。そして、製造方法
によって生産物を特定しようとする表現を含
む請求項であって、その生産物自体が構造的に
どのようなものかを決定することが極めて困
難な場合において、当該生産物と引用発明の物
との厳密な一致点及び相違点の対比を行わず
に、審査官が、両者が同じ物であるとの一応の
合理的な疑いを抱いた場合には、その他の部分
に相違がない限り、新規性が欠如する旨の拒絶
16
理由が通知される・・・。同様に、審査官が、
両者が類似の物であり本願発明の進歩性が否
定されるとの一応の合理的な疑いを抱いた場
合には、進歩性が欠如する旨の拒絶理由が通知
される・・・。
②発明が不明確となる類型
(ⅰ)明細書及び図面の記載並びに出願時の技
術常識を考慮しても、請求項に記載された事項
に基づいて、製造方法(出発物や製造工程等)
を理解できない結果、発明が不明確となる場合
出発物や各製造工程における条件等が請求
項に記載されていなくても、明細書及び図面の
記載並びに出願時の技術常識を考慮すればそ
れらを理解できる場合には、本類型には該当し
ない。
(ⅱ)明細書及び図面の記載並びに出願時の技
術常識を考慮しても、生産物の特徴(構造や性
質等)を理解できない結果、発明が不明確とな
る場合
請求項が製造方法によって生産物を特定し
ようとする表現を含む場合には、通常、その表
現は、最終的に得られた生産物自体を意味して
いるものと解して、請求項に係る発明の新規
性・進歩性等の特許要件の判断を行うため、当
該生産物の構造や性質等を理解できない結果、
的確に新規性・進歩性等の特許要件の判断がで
きない場合がある。このような場合には、一の
請求項から発明が明確に把握されることが必
要であるという特許請求の範囲の機能・・・を
担保しているといえないから、第 36 条第 6 項
第 2 号違反となる。
解説;
まず、機能的表現について、韓国では「そのような記載によっても発明の構成が全体
として明りょうであると認められる場合でなければ許容されることができない」とし、
具体的には、「①従来の技術的構成のみでは発明の技術的な思想を明確に示すことが困
難な事情があって、請求項を機能的に表現することが必要な場合」、に加え「②発明の
詳細な説明及び図面の記載により、機能的表現の意味内容を明確に確定することができ
る場合」等を例示しており、実務上、結果として日本と大きな差は生じないだろう。
次に、製造方法による表現について、韓国では、特許を受けようとする物の構成を適
切に記載し難い場合(新規な物質、食品、飲食物等)に限って例外的に認めるとしている
一方、日本では発明の対象となる物の構成を、製造方法と無関係に物性等により直接的
に特定することが、不可能、困難、あるいは何らかの意味で不適切であるときは、その
物の製造方法によって物自体を特定することができるとしており、双方とも制限を課し
ているが、韓国の方がより制限的となっている。また、韓国ではパラメータ発明につい
17
ても制限規定がある。
また、これとは別に、日本の審査基準では、機能・特性等による表現を含む請求項及
び、製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む請求項において、その生産
物自体の構造的がどのようなものかを決定することが極めて困難な場合、引用発明の物
との厳密な一致点及び相違点の対比を行わずそれらが同じ物又は類似のものであると
の一応の合理的な疑いを抱いた場合には、新規性又は進歩性が欠如する旨の拒絶理由を
通知することとしているが、このような扱いは、韓国では定められていない。
18
5.請求項の引用その他の要件
(1)請求項の引用その他の要件の趣旨
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 1 章 2.2.4
請求項はその記載形式によって、独立形式請
求項と引用形式請求項とに大別される。独立形
式請求項とは、他の請求項の記載を引用しない
で記載した請求項のことであり、引用形式請求
項とは、先行する他の請求項の記載を引用して
記載した請求項のことである。そして両者は、
記載表現が異なるのみで、同等の扱いを受ける
ものである。
韓審第 2 部第 4 章 6. 請求の範囲の記載方法
明細書に記載される請求の範囲は、特許発明
の保護範囲を定める権利書としての役割を果
たすように、その記載方法が法定化されてい
る。特に、韓国特許法は、請求の範囲に保護を
受けようとする事項を記載した請求項を 1 又
は 2 以上記載することができるようにし、
「多
項制」を採択しているところ、特許法施行令第
5 条で多項制による請求の範囲の記載方法を明
確に規定している。
解説;
日韓共に多項制であり、独立形式の請求項と引用形式の請求項で記載することができ
る。ただし、韓国では、いわゆるマルチのマルチクレームが禁止されているため、注意
を要する(後述(2)請求項の引用その他の要件違反の類型を参照のこと。)
19
(2)請求項の引用その他の要件違反の類型
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 1 章 2.2.4.1 第 36 条第 6 項第
4 号違反の類型
(1) 引用形式請求項が後に記載されている請
求項を引用している場合。
(2) 引用形式請求項が、他の請求項をその請求
項に付された番号により引用していない場合。
韓審第 2 部第 4 章 6.1-6.8
6. 請求の範囲の記載方法
6.1 独立項と従属項との区別基準
請求の範囲に記載された請求項(以下、「請求
項」という。)は、独立請求項(以下、
「独立項」
という)と、独立項を限定又は付加して具体化
する従属請求項(以下、「従属項」という)とに
日審第Ⅰ部第 1 章 2.2.4.2 請求項の記載形式 区分することができる。
―独立形式と引用形式―
ここで「独立項を限定又は付加して具体化」
(1) 独立形式請求項
するという意味は、技術構成を付加するか、又
独立形式請求項の記載は、その独立形式請求項 は上位概念を下位概念で限定することにより
に係る発明が他の請求項に係る発明と同一か 発明を具体化することをいい、従属請求項と
否かに係わりなく可能である。
は、発明の内容が他の項に従属して他の項の内
(2) 引用形式請求項
容変更により該当請求項の発明の内容が変更
①典型的な引用形式請求項
される請求項をいう。
引用形式請求項は、特許請求の範囲における文
発明の内容の側面からは独立項を付加又は
言の重複記載を避けて請求項の記載を簡明に 限定しているとしても形式的に引用していな
するものとして利用されるが、引用形式請求項 いのであれば、従属項ということができず、独
による記載は、引用形式請求項に係る発明が引 立項を形式的には引用しているとしても独立
用される請求項に係る発明と同一か否かに係 項を限定又は付加しない場合(例:請求項○に
わりなく可能である。
おいて A の構成要素を B に置き換える物)は従
請求項を引用形式で記載できる典型的な例 属項とはいえない。
は、先行する他の一の請求項のすべての特徴を 6.2 特許法施行令第 5 条第 1 項
含む請求項を記載する場合である。
(1)独立項は、他の請求項を引用しない形式つ
このような場合に引用形式で請求項を記載 まり、独立形式で記載する。ただし、独立項で
すると、文言の繰り返し記載が省略できるとと あっても同一の事項の重複記載を避けるため
もに、引用される請求項とその記載を引用して に発明が明確に把握できる範囲内で他の請求
記載する請求項との相違をより明確にして記 項を引用する形式で記載することができる。
載できるので、出願人の手間が軽減されるとと (2)従属項は、独立項又は他の従属項を引用す
もに、第三者の理解が容易になるといった利点 る形式で記載する。従属項は、引用される請求
がある。
項の特徴をすべて含む。
②上記以外の引用形式請求項
以下のような請求項は、従属項と認めず独立項
先行する他の請求項の発明を特定するための として取り扱う。
事項の一部を置換する請求項を記載する場合、 ①引用される項の構成要素を減少させる形式
先行する他の請求項とはカテゴリー表現の異 で記載する場合
なる請求項を記載する場合などにも、請求項の ②引用される項に記載された構成を他の構成
記載が不明瞭とならない限り他の請求項の記 に置き換える形式で記載する場合
載を引用して引用形式請求項として記載し、請 (3)特許法施行令第 5 条第 1 項は「法第 42 条第
求項の記載を簡明にすることができる。
8 項による… (中略) …従属請求項を記載する
③多数項引用形式請求項
ことができる」として任意事項で規定してお
多数項引用形式請求項とは、他の二以上の請求 り、この項を理由で拒絶理由を通知しないこと
項(独立形式、引用形式を問わない。)の記載を にする。
引用して記載した請求項のことであり、特許請 6.3 特許法施行令第 5 条第 2 項
求の範囲全体の記載を簡明にするものとして (1)請求項は、発明の性質により適正な数で記
利用される。
載しなければならない。この規定は、特許法第
この形式による請求項は、通常の引用形式で 45 条の 1 特許出願の範囲規定とは別途に取り
複数の請求項に別々に記載する場合と比較し 扱うべきである。
20
て、記載面、料金面でのメリットがあるとして
も、放棄、無効審判の単位としては一つである
ため、まとめて放棄、無効の対象となる等のデ
メリットをも内包しているといえる。このた
め、通常の引用形式請求項とするか多数項引用
形式請求項とするかは、このような点を十分比
較考慮の上なされるべきものであり、その選択
は出願人の判断に委ねられる。
多数項引用形式で請求項を記載するときに
は、他の二以上の請求項の記載を択一的に引用
し、かつ、これらに同一の技術的限定を付して
記載することが、簡潔性及び明確性の観点から
望ましい。
他の二以上の請求項の記載の引用が択一的
でなく、同一の技術的限定を付していない場合
であっても、次のような場合は、特許請求の範
囲の記載が簡明となり、請求項の記載が不明瞭
とならないので、その記載が認められる。
(3) 請求項の記載形式に関する施行規則様式
備考と拒絶理由との関係
多数項引用形式で記載する場合において、他
の二以上の請求項の記載の引用が択一的でな
かったり、同一の技術的限定を付していないと
きは、特許法施行規則の様式備考中の請求項の
記載形式に関する指示に合致しないこととな
るが、この指示は法律上求められる要件ではな
いから、ただちに第 36 条第 6 項違反とはなら
ない・・・。
請求項が適正な数で記載されていない場合
としては、①一の請求項にカテゴリーが異なる
2 以上の発明が記載された場合、②請求する対
象が 2 以上である場合、③同一の請求項を重複
して記載(文言的に同一な場合をいい、実質的
に同一であるだけで表現を異にした場合は除
く)する場合、④一の請求項において多数の請
求項を多重で引用する場合等がある。
6.4 特許法施行令第 5 条第 4 項
他の請求項を引用する請求項は、引用される
項の番号を記載しなければならず、引用される
項の番号を記載する例は以下のとおりである。
6.5 特許法施行令第 5 条第 5 項
2 以上の項を引用する項は、一の項が選択され
るように項の番号を記載しなければならない。
6.6 特許法施行令第 5 条第 6 項
2 以上の項を引用する請求項は、2 以上の項
を引用した他の請求項を引用することができ
ない。この規定の趣旨は、一の請求項を解釈す
ることにおいて多数の他の請求項を参照しな
ければならない困難性を防止するためである。
①2 以上の項を引用する請求項が 2 以上の項を
引用した他の請求項を引用した場合
②2 以上の項を引用した請求項において、その
請求項の引用された項が再び一の項を引用し
た後にその一の項が結果的に 2 以上の項を引
用した場合
一方、特許法施行令第 5 条第 6 項は、「2 以
上の項を引用する請求項」を対象にしており、
一の請求項のみを引用する請求項については
適用することができないという点に注意しな
ければならない。上記②の例において、請求項
6 は、特許法施行令第 5 条第 6 項を違背する請
求項 5 を引用しており、実質的に多数の他の請
求項を参照して解釈しなければならないため
困難であるが、2 以上の項を引用する請求項で
はないため、特許法施行令第 5 条第 6 項の違背
にならない。
6.7 特許法施行令第 5 条第 7 項
引用される請求項を引用する請求項より先
に記載しなければならず、これは、より容易に
請求項に記載された発明を把握するためであ
る。
請求の範囲に記載された請求項が、その請求
項と同一の番号の請求項を引用する場合は、引
用される請求項を先に記載していないもので
あるため、特許法第 42 条第 8 項及び特許法施
行令第 5 条第 7 項違背の拒絶理由を通知する
か、あるいは請求項の記載が明確でないもので
あるため、特許法第 42 条第 4 項第 2 号違背の
21
拒絶理由を通知する。
6.8 特許法施行令第 5 条第 8 項
各請求項は、項ごとに改行して記載し、その
記載する順序によりアラビア数字で一連番号
を付けなければならない。・・・
解説;
日本の特許法では「一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記
載となることを妨げない」としているが、韓国では同一の請求項を重複して記載(文言
的に同一な場合をいい、実質的に同一であるだけで表現を異にした場合は除く)する場
合、拒絶理由となる。
また、日本では、多重項引用形式の請求項(マルチ・マルチクレーム)を、全体の記載
を簡明にするものとして認めているが、韓国では、1 の請求項を解釈するにおいて多数
の他の請求項を参照すべき困難を防止するため、2 以上の項を引用する請求項は 2 以上
の項を引用した他の請求項を引用することはできないとしており、マルチ・マルチクレ
ームを禁止している。これは、形式的なものだけでなく、実質的にマルチ・マルチクレ
ームとなる場合も含まれる。本規定は、実務上大きな違いとなるため、特に注意が必要
であろう。
22
【発明の詳細な説明の記載要件】
1.発明の詳細な記載の記載要件に関する条文
日本特許法
韓国特許法
日法第 36 条第 3 項第 3 号、第 4 項
3
前項の明細書には、次に掲げる事項を記
載しなければならない。
三
発明の詳細な説明
4
前項第三号の発明の詳細な説明の記載
は、次の各号に適合するものでなければならな
い。
一
経済産業省令で定めるところにより、そ
の発明の属する技術の分野における通常の知
識を有する者がその実施をすることができる
程度に明確かつ十分に記載したものであるこ
と。
韓法第 42 条第 2 項 3 号、第 3 項
②第 1 項の規定による特許出願書には、次の各
号の事項を記載した明細書と必要な図面及び
要約書を添付しなければならない。
3.発明の詳細な説明
③第 2 項第 3 号による発明の詳細な説明の記載
は、次の各号の要件を満たさなければならな
い。
1.その発明が属する技術分野で通常の知識を
有した者が、その発明を容易に実施することが
できるように産業通商資源部令で定める記載
方法によって明確かつ詳細に記載すること
二 その発明に関連する文献公知発明・・・
のうち、特許を受けようとする者が特許出願の
時に知つているものがあるときは、その文献公
知発明が記載された刊行物の名称その他のそ
の文献公知発明に関する情報の所在を記載し
たものであること。
2.その発明の背景となる技術を記載すること
日規第 24 条の 2
特許法第三十六条第四項第一号 の経済産業省
令で定めるところによる記載は、発明が解決し
ようとする課題及びその解決手段その他のそ
の発明の属する技術の分野における通常の知
識を有する者が発明の技術上の意義を理解す
るために必要な事項を記載することによりし
なければならない。
韓規 21 条 3、4 項
③法第 42 条第 3 項第 1 号による発明の詳細な
説明には、次の各号の事項が含まれなければな
らない。
1. 技術分野
2. 解決しようとする課題
3. 課題の解決手段
4. その他その発明が属する技術分野で通常の
知識を有した者がその発明の内容を容易に理
解するために必要な事項
④第 3 項各号の事項は該当する事項がない場
合にはその事項を省略することができる。
解説;
背景技術の記載要件について、日本と韓国の扱いが大きく異なる。すなわち、日本で
は、日法 36 条 4 項 2 号において、出願人がすでに知っている関連公知文献があればそ
の記載を求めるにとどまり、また、この違反は、日法 48 条の 2 による通知の対象とは
なるが、直接の拒絶理由とはされていないのに対し、韓国における背景技術の記載要件
は、拒絶理由の対象(韓法 62 条 4 号)となっている。韓国においても、背景技術の記載
要件違反は、情報提供の趣旨や無効理由とはならないものの、後述の審査指針書の記載
から見ても、その扱いは、日本より厳しいため、注意を要する。
23
2.実施可能要件
(1)実施可能要件の趣旨
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 1 章 3.2 実施可能要件
(1)~(4)
(1) この条文は、その発明の属する技術分野に
おいて研究開発・・・のための通常の技術的手
段を用い、通常の創作能力を発揮できる者(当
業者)が、明細書及び図面に記載した事項と出
願時の技術常識とに基づき、請求項に係る発明
を実施することができる程度に、発明の詳細な
説明を記載しなければならない旨を意味する
(「実施可能要件」という)。
(2) したがって、明細書及び図面に記載された
発明の実施についての教示と出願時の技術常
識とに基づいて、当業者が発明を実施しようと
した場合に、どのように実施するかが理解でき
ないとき・・・には、当業者が実施することが
できる程度に発明の詳細な説明が記載されて
いないこととなる。
(3) 条文中の「その実施」とは、請求項に係る
発明の実施のことであると解される。したがっ
て、発明の詳細な説明は、当業者が請求項に係
る発明・・・を実施できる程度に明確かつ十分
に記載されていなければならない。
しかし、請求項に係る発明以外の発明につい
て実施可能に発明の詳細な説明が記載されて
いないことや、請求項に係る発明を実施するた
めに必要な事項以外の余分な記載があること
のみでは、第 36 条第 4 項第 1 号違反とはな
らない。
なお、二以上の請求項に対応する記載が同一
となる部分については、各請求項との対応が明
瞭であれば、あえて重複して記載されていなく
てもよい。
(4) 条文中の「その(発明の)実施をすることが
できる」とは、請求項に記載の発明が物の発明
にあってはその物を作ることができ、かつ、そ
の物を使用できることであり、方法の発明にあ
ってはその方法を使用できることであり、さら
に物を生産する方法の発明にあってはその方
法により物を作ることができることである。
韓審第 2 部第 3 章 2.~2.2
2. 実施可能要件
発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の
分野において通常の知識を有する者が その発
明を容易に実施することができるように、明確
かつ詳細に記載されなければならない。これ
は、当該技術の分野の平均的な技術者が出願時
にその発明の属する技術の分野の技術常識と
明細書及び図面に記載された事項とにより、そ
の発明を容易に実施することができる程度に
明確かつ詳細に記載しなければならないとい
うことを意味する。
2.1 実施の主体
・・・「その発明の属する技術の分野において
通常の知識を有する者」とは、その出願の属す
る技術の分野において普通程度の技術的理解
力を有する平均的な技術者・・・を意味するも
のと認める。
2.2 「容易に実施」の意味
(1)「実施」とは、物の発明ではその物を生産
することができ、その物を使用することができ
ることをいい、方法の発明においては、その方
法を用いることができるということを意味す
る。また、物を生産する方法の発明においては、
その方法によりその物を製造することができ
ることを要求する。
(2)実施の対象となる発明は、請求項に記載さ
れた発明により解釈される。したがって、発明
の詳細な説明にのみ記載され、請求項に記載さ
れていない発明が実施可能に記載されていな
い場合は、特許法第 42 条第 3 項第 1 号の違反
にならない。
(3)「容易に実施」とは、その発明の属する技
術の分野の平均的な技術者が該当発明を明細
書の記載により、出願時の技術水準から判断し
て特殊な知識を付加しなくても過度な試行錯
誤や繰り返し実験等を経ずにその発明を正確
に理解して再現することをいう。
解説;
実施可能要件については、日韓共に、当業者が発明を実施できる程度に記載すること
を要求しているところ、韓国では発明を「容易に」実施できるように記載を規定してい
るが、実務上、日韓で大きな差は見られない。
24
また、実施の定義については、物の発明ではその物の生産と使用、方法の発明ではそ
の方法の使用、物を生産する方法の発明ではその方法による生産の3つであり、基本的
に日韓で同様である。
25
(2)実施可能要件の具体的運用
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 1 章 3.2.1
実施可能要件の具体的運用
(1) 発明の実施の形態
発明の詳細な説明には、・・・、請求項に係る
発明をどのように実施するかを示す「発明の実
施の形態」のうち特許出願人が最良と思うもの
を少なくとも一つ記載することが必要である。
(2) 物の発明についての「発明の実施の形態」
物の発明について実施をすることができると
は、上記のように、その物を作ることができ、
かつ、その物を使用できることであるから、
「発
明の実施の形態」も、これらが可能となるよう
に記載する必要がある。
①当該「物の発明」について明確に説明されて
いること
この要件を満たすためには、当業者にとって
一の請求項から発明が把握でき(すなわち、請
求項に係る発明が認定でき)、その発明が発明
の詳細な説明の記載から読み取れる必要があ
る。
また、請求項に係る物の発明を特定するため
の事項の各々は、相互に矛盾せず、全体として
請求項に係る発明を理解しうるように発明の
詳細な説明に記載されていなければならない。
②「作ることができること」
物の発明については、当業者がその物を製造
することができるように記載しなければなら
ない。このためには、どのように作るかについ
ての具体的な記載がなくても明細書及び図面
の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業
者がその物を製造できる場合を除き、製造方法
を具体的に記載しなければならない。
機能・特性等によって物を特定しようとする
記載を含む請求項において、その機能・特性等
が標準的なものでなく、しかも当業者に慣用さ
れているものでもない場合は、当該請求項に係
る発明について実施可能に発明の詳細な説明
を記載するためには、その機能・特性等の定義
又はその機能・特性等を定量的に決定するため
の試験・測定方法を示す必要がある。
なお、物の有する機能・特性等からその物の
構造等を予測することが困難な技術分野(例:
化学物質)において、機能・特性等で特定され
た物のうち、発明の詳細な説明に具体的に製造
方法が記載された物(及びその具体的な物から
技術常識を考慮すると製造できる物)以外の物
について、当業者が、技術常識を考慮してもど
韓審第 2 部第 3 章 2~2.4
2.3 審査方法
2.3.1 基本的な考慮事項
(1)物の発明の場合
①物の発明が請求項に記載された場合、詳細な
説明には、平均的な技術者がその物を生産する
ことが可能なように必要な事項を明確かつ詳
細に記載しなければならない。物を製造するこ
とが可能になるためには、通常その製造方法を
具体的に記載する必要がある(製造方法に関す
る記載がなくても出願時の技術常識にかんが
みて明細書及び図面からその物を製造するこ
とができる場合は除く。)。また、その物が詳
細な説明の全体の記載から明確に把握される
必要があり、このために物を特定するための技
術事項がそれぞれいかなる役割及び作用をす
るのか共に記載する必要がある。
②平均的な技術者が請求項に記載された物を
使用可能なように詳細に記載しなければなら
ない。物が使用可能になるためには、いかなる
使用が可能であるかについて技術的に意味の
ある特定の用途を具体的に記載する必要があ
る。ただし、用途に関する記載がなくても、出
願時の技術常識にかんがみて明細書及び図面
からその物を使用することができる場合は除
く。
(2)方法の発明の場合
方法の発明が請求項に記載された場合、詳細
な説明には、平均的な技術者がその方法を用い
ることが可能なように必要な事項を明確かつ
詳細に記載しなければならない。方法を用いる
ことが可能になるためには、通常その方法が詳
細な説明の全体の記載から明確に把握される
必要があり、このためにその方法を構成する各
段階がそれぞれいかなる順序でいかなる役割
を果たすのか共に記載する必要がある。
(3)物を生産する方法の発明の場合
物を生産する方法の発明が請求項に記載さ
れた場合、詳細な説明には、平均的な技術者が
その方法により物を生産することが可能なよ
うに必要な事項を明確かつ詳細に記載しなけ
ればならない。物の生産方法により物の製造が
可能になるためには、通常、方法そのものが詳
細な説明の全体の記載から明確に把握される
必要があり、このためにその製造方法を構成す
る各段階がそれぞれいかなる順序でいかなる
役割を果たして物の製造に寄与するのか共に
26
のように作るか理解できない場合(例えば、そ
のような物を作るために、当業者に期待しうる
程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を
行う必要があるとき)は、実施可能要件違反と
なる。
また、当業者が発明の物を製造するために必
要であるときは、物の発明を特定するための事
項の各々がどのような働き(役割)をするか(す
なわち、その作用)をともに記載する必要があ
る。
他方、実施例として示された構造などについ
ての記載や出願時の技術常識から当業者がそ
の物を製造できる場合には、製造方法の記載が
なくても本号違反とはしない。
③「使用できること」
物の発明については、当業者がその物を使用
できるように記載しなければならない。これは
発明の詳細な説明において示されていること
が必要であるから、どのように使用できるかに
ついて具体的な記載がなくても明細書及び図
面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当
業者がその物を使用できる場合を除き、どのよ
うな使用ができるかについて具体的に記載し
なければならない。
また、当業者が発明の物を使用するために必
要であるときは、物の発明を特定するための事
項の各々がどのような働き(役割)をするか(す
なわち、その作用)をともに記載する。
他方、実施例として示された構造などについ
ての記載や出願時の技術常識から当業者がそ
の物を使用できる場合には、これらについての
明示的な記載がなくても本号違反とはしない。
(3) 方法の発明についての「発明の実施の形
態」
方法の発明について実施をすることができ
るとは、その方法を使用できることであるか
ら、「発明の実施の形態」も、これが可能とな
るように記載する必要がある。
①当該「方法の発明」について明確に説明され
ていること
この要件を満たすためには、一の請求項から
発明が把握でき(すなわち、請求項に係る発明
が認定でき)、その発明が発明の詳細な説明の
記載から読み取れることが必要である。
②「その方法を使用できること」
物を生産する方法以外の方法(いわゆる単純
方法)の発明には、物の使用方法、測定方法、
制御方法等、様々なものがある。そして、いず
れの方法の発明についても、明細書及び図面の
記載並びに出願時の技術常識に基づき、当業者
記載する必要がある。
物の製造方法は、原材料を使う複数の細部段
階が時系列的に構成されることが一般的であ
るところ、物の製造のための原材料、その複数
の細部段階が詳細に説明されるべきであり、特
に記載しなくてもこれより製造される物が原
材料及び細部工程から容易に理解できる場合
を除いては、生産物を明確に記載しなければな
らない。
2.3.2 特殊な場合の取り扱い
(1)化学分野の物質発明の場合
化学分野の物質発明に関する詳細な説明の
記載は、物質そのものを化学物質名又は化学構
造式により示すことのみでは不足している場
合が多い。その理由は、化学物質が当然に誘導
されると判断される化学反応であっても、実際
には予想外の反応により進められない場合が
あり、直接的な実験と確認及び分析を通さずに
は、その発明の実体を把握し難く、それによる
効果も予測することが困難であるためである。
したがって、化学分野の物質発明について
は、平均的な技術者が出願時の技術常識により
明細書に開示された化学反応を容易に理解す
ることができる場合を除いては、物質そのもの
を示すこと以外にもその化学物質を容易に再
現するための具体的な製造方法が必須的に記
載されなければならない。
化学分野の物質発明の場合、容易に実施する
ことができるためには、詳細な説明に特定の出
発物質、温度、圧力、流入及び流出量等、その
物質発明を製造するために必要な具体的な反
応条件と、その条件下で直接実施した結果とを
実施例として記載する。
(2)用途(医薬)発明の場合
化学分野発明の場合、当該発明の内容及び技
術水準により差異があり得るが、発明の構成か
らその効果を比較的に容易に理解して再現す
ることができる機械装置等とは異なり、予測可
能性及び実現可能性が顕著に不足しており、実
験データが提示された実験例が記載されなけ
れば、平均的な技術者がその発明の効果を明確
に理解して容易に再現することができると認
め難い。
したがって、化学物質の用途発明は、詳細な
説明に発明の効果を記載してはじめて発明が
完成したと認めることができるとともに、明細
書の記載要件を満たしているといえる。特に、
医薬の用途発明においては、その出願前に明細
書に記載された薬理効果を示す薬理機序が明
らかになっている等、特別な事情がない限り、
27
がその方法を使用できるように記載しなけれ
ばならない。
(4) 物を生産する方法の発明についての「発明
の実施の形態」
方法の発明が「物を生産する方法」に該当す
る場合は、「その方法を使用できる」というの
は、その方法により物を作ることができること
であるから、これが可能となるように「発明の
実施の形態」を記載する必要がある。
①当該「物を生産する方法の発明」について明
確に説明されていること
この要件を満たすためには、一の請求項から
発明が把握でき(すなわち、請求項に係る発明
が認定でき)、その発明が発明の詳細な説明の
記載から読み取れることが必要である。
②「その方法により物を作ることができるこ
と」
物を生産する方法の発明には、物の製造方
法、物の組立方法、物の加工方法などがあるが、
いずれの場合も、(ⅰ)原材料、(ⅱ)その処理工
程、及び(ⅲ)生産物の三つから成る。そして、
物を生産する方法の発明については、当業者が
その方法により物を製造することができなけ
ればならないから、明細書及び図面の記載並び
に出願時の技術常識に基づき当業者がその物
を製造できるように、原則としてこれら三つを
記載しなければならない。
ただし、この三つのうち生産物については、
原材料及びその処理工程についての記載から
当業者がその生産物を理解できる場合・・・に
は、生産物についての記載はなくてもよい。
(5) 説明の具体化の程度について
「発明の実施の形態」の記載は、当業者が発
明を実施できるように発明を説明するために
必要である場合は、実施例を用いて行う(特許
法施行規則第 24 条様式第 29 参照)。また、図
面があるときにはその図面を引用して行う。実
施例とは、発明の実施の形態を具体的に示した
もの(例えば物の発明の場合は、どのように作
り、どのような構造を有し、どのように使用す
るか等を具体的に示したもの)である。
実施例を用いなくても当業者が明細書及び
図面の記載並びに出願時の技術常識に基づい
て発明を実施できるように発明を説明できる
ときは、実施例の記載は必要ではない。
物の発明を特定するための事項として、物の
構造等の具体的な手段を用いるのではなく、そ
の物が有する機能・特性等を用いる場合は、当
業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の
技術常識に基づいて当該機能・特性等を有する
当該発明に関する物質にそのような薬理効果
があるということを薬理データ等が示された
試験例で記載するか、あるいはそれに代わる程
度に具体的に記載しなければならない。
(3)パラメータ発明の場合
①パラメータ発明は、物理的・化学的特性値に
対して当該技術の分野において標準的なもの
ではないか、慣用のものではないパラメータを
出願人が任意で創出するか、又はこれら複数の
変数間の相関関係を利用して演算式によりパ
ラメータ化した後、発明の構成要素の一部とす
る発明をいう。パラメータで特定される発明が
容易に実施されるためには、その技術の分野に
おいて通常の知識を有する者が発明を具現す
るための具体的な手段、発明の技術的課題及び
その解決手段等が明確に理解されるように、パ
ラメータに関する具体的な技術内容を記載し
なければならない。
②発明が容易に実施されるためのパラメータ
に関する具体的な技術内容としては、(i)パラ
メータの定義又はその技術的意味に関する説
明、(ii)パラメータの数値限定事項が含まれて
いる場合、数値範囲及び数値範囲を限定した理
由、(iii)パラメータの測定のための方法、条
件、器具に関する説明、(iv)パラメータを満た
す物を製造するための方法に関する説明、(v)
パラメータを満たす実施例、(vi)パラメータを
満たしていない比較例及び(vii)パラメータと
効果との関係に関する説明等がある。
③パラメータに関する具体的な技術内容が詳
細な説明又は図面に明示的に記載されていな
くても、出願時の技術常識にかんがみて明確に
理解できる場合は、これを理由として発明が容
易に実施できないとは判断しない。
2.4 請求の範囲の記載不備との関係
実施可能要件と発明とが詳細な説明により
裏付けられなければならないという要件は、互
いに密接な関係にあるため、審査の効率性及び
一貫性の維持のために、以下のような基準によ
り関連規定を適用する。
特許法第 42 条第 3 項第 1 号は、当該技術の
分野において通常の知識を有する者、すなわ
ち、平均的な技術者が請求項に関する発明を発
明の詳細な説明の記載から容易に実施するこ
とができない場合に適用し、同法第 42 条第 4
項第 1 号は、請求項に記載された発明が詳細な
説明に記載されていないか、あるいは詳細な説
明に記載された内容から当該技術の分野の平
均的な技術者が認識できる範囲から逸脱した
場合に適用する。
28
具体的な手段を理解できるときを除き、具体的
な手段を記載する。
一般に物の構造や名称からその物をどのよ
うに作り、どのように使用するかを理解するこ
とが比較的困難な技術分野(例:化学物質)に属
する発明については、当業者がその発明の実施
をすることができるように発明の詳細な説明
を記載するためには、通常、一つ以上の代表的
な実施例が必要である。また、物の性質等を利
用した用途発明(例:医薬等)においては、通常、
用途を裏付ける実施例が必要である。
(6) 請求項の記載と発明の詳細な説明との関
係
①・・・「請求項に係る発明」についてその実
施の形態を少なくとも一つ記載することが必
要であるが、請求項に係る発明に含まれるすべ
ての下位概念又はすべての選択肢について実
施の形態を示す必要はない。
しかし、請求項に係る発明に含まれる他の具
体例が想定され、当業者がその実施をすること
は、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術
常識をもってしてもできないとする十分な理
由がある場合は、請求項に係る発明は当業者が
実施できる程度に明確かつ十分に説明されて
いないといえる。
②例えば、請求項に係る発明が上位概念のもの
であり、発明の詳細な説明には当該上位概念に
含まれる一部の下位概念についての実施の形
態のみが記載されている場合において、当該実
施の形態の記載に基づくのみでは、当業者が明
細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識
に基づいて、上位概念に含まれる他の下位概念
(出願時に当業者が認識できるものに限る。以
下、実施可能要件の項において同じ。)につい
ての実施をすることができないという具体的
な理由があるときは、そのような実施の形態の
記載のみでは、請求項に係る発明を、当業者が
実施できる程度に明確かつ十分に説明したこ
とにはならない。
③また、請求項がマーカッシュ形式のものであ
り、発明の詳細な説明には当該選択肢に含まれ
る一部の選択肢についての実施の形態のみが
記載されている場合において、当該実施の形態
の記載に基づくのみでは、当業者が明細書及び
図面の記載並びに出願時の技術常識に基づい
て、他の選択肢についての実施をすることがで
きないという具体的な理由があるときは、その
ような実施の形態の記載のみでは、請求項に係
る発明を、当業者が実施できる程度に明確かつ
十分に説明したことにはならない。
(参考)特許請求の範囲が、発明の詳細な説明に
より裏付けられているか否かは、その発明が属
する技術の分野において通常の知識を有する
者の立場で特許請求の範囲に記載された発明
と対応する事項が発明の詳細な説明に記載さ
れているか否かにより判断しなければならな
いところ、出願時の技術常識に照らしみても発
明の詳細な説明に開示された内容を特許請求
の範囲に記載された発明の範囲まで拡張又は
一般化することができない場合は、その特許請
求の範囲は、発明の詳細な説明により裏付けら
れると認めることができない。
(1)請求項に上位概念の発明が記載されてお
り、発明の詳細な説明には上位概念に関する発
明の記載はなく、下位概念の発明についての記
載のみがあって、上位概念に関する発明が発明
の詳細な説明に記載された下位概念の発明か
ら明確に把握されない場合は、特許法第 42 条
第 4 項第 1 号を適用する。
発明の詳細な説明に下位概念の実施例が一部
のみ記載されており、請求項の上位概念に含ま
れる他の下位概念に関しては、容易に実施でき
ないと認めるに足りる具体的な理由がある場
合は、特許法第 42 条第 3 項第 1 号を共に適用
する。
一方、請求項に下位概念の発明が記載され、
詳細な説明に上位概念の発明が記載された場
合にも請求項に記載された下位概念の発明が
詳細な説明の記載から明確に把握されない場
合は、特許法第 42 条第 4 項第 1 号を適用し、
詳細な説明の記載から請求項に記載された下
位概念に関する発明を容易に実施することが
できない場合は、特許法第 42 条第 3 項第 1 号
を共に適用する。
(2)請求項がマーカッシュ(Markush)形式で記
載されており、発明の詳細な説明には、請求項
に記載された構成要素のうち一部の構成要素
に関する実施例のみが記載されているだけで
あり、他の構成要素については言及のみであっ
て実施例が記載されていないため、平均的な技
術者が容易に実施できる程度に記載されてい
ないときは、特許法第 42 条第 3 項第 1 号違反
で拒絶理由を通知する。
(3)発明の詳細な説明には、特定の実施形態の
みが実施可能な程度に記載されており、請求項
に関する発明の実施形態が発明の詳細な説明
に記載されている特定の実施形態と差異があ
ると認められる場合は、発明の詳細な説明に記
載された実施例のみでは、請求項に関する発明
を実施することができないという理由により
29
④なお、請求項が達成すべき結果による物の特
定を含む場合においては、発明の詳細な説明に
記載された特定の実施の形態の記載に基づく
のみでは、請求項に係る発明に含まれる他の部
分について、当業者がその実施をすることがで
きるといえない程度に発明の概念が広くなる
ことがある。
特許法第 42 条第 3 項第 1 号違反で拒絶理由を
通知する。
(4)発明の詳細な説明と請求項に記載された発
明の相互間に用語が統一されておらず、両者の
対応関係が不明りょうな場合、請求項に記載さ
れた発明が詳細な説明によって裏付けられな
いものと認め、特許法第 42 条第 4 項第 1 号違
反で拒絶理由を通知する。
解説;
実施可能要件の具体的な運用については、表現上の違いはあるものの、日韓とも物の
発明、方法の発明、物を生産する方法の発明の3つについてそれぞれ規定を定めており、
基本的に日韓で同じである。
ただし、韓国では「特殊な場合の取り扱い」として、物質発明・用途(医薬)発明・パラ
メータ発明についての規定があり、例えば、化学分野の物質発明の場合、物質そのもの
を化学物質名又は化学構造式により示すだけでは足らない場合が多く、平均的な技術者
が化学反応を容易に理解できる場合を除き、その化学物質を容易に再現するための具体
的な製造方法の記載が必須であるとし、具体的に、「特定の出発物質、温度、圧力、流
入及び流出量等、その物質発明を製造するために必要な具体的な反応条件と、その条件
下で直接実施した結果とを実施例として記載する」とされている。もっとも、日本にお
いても、物の発明については、製造可能要件を課しており、「明細書及び図面なの記載
並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造できる場合を除き、製造方法を
具体的に記載しなければならない」とし、そらに、それが機能・特性等で特定されてお
り、物の構造を予測することが困難な化学物質等の技術分野において、発明の詳細な説
明に具体的に製造方法が記載された物以外の物について、当業者が技術常識を考慮して
もどのように作るか理解できない場合、実施可能要件違反としており、日韓とも基本的
な考え方は共通しているが、韓国の例の方がより制限的、具体的な要求を例示している。
同様に、韓国では、用途(医薬)発明の場合、実験データが提示された実験例がなけれ
ば、その発明の効果の理解と再現は容易でなく、特に医薬の用途発明では、特別な事情
がない限り、当該発明に関する物質に薬理効果があることを薬理データ等が示された実
験例等で具体的に記載しなければならないとしているところ、日本においても医薬等用
と発明については、通常、用途を裏付ける実施例が必要であるとし、基本的な考え方は
共通しているが、やはり韓国の例の方が具体的な要求が例示されている。
さらに、パラメータ発明についても、韓国では、パラメータの定義、数値範囲及び数
値範囲を限定した理由、測定のための方法、条件、器具に関する説明、パラメータを満
たす物を製造するための方法に関する説明、実施例、比較例、パラメータと効果との関
係に関する説明等を具体的に要求している。
結局、これらについては、日韓とも基本的な考え方を共通にしているため、概ね判断
30
基準に大きな差はないと考えられるが、韓国においては総じてより具体的な要求が求め
られる可能性がある点、留意すべきであろう。
31
3.記載方法の要件(委任省令要件)
(1)記載方法の要件の趣旨
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 1 章 3.3.2 委任省令の趣旨
発明をすることは新しい技術的思想を創作
することであるから、出願時の技術水準に照ら
して当該発明がどのような技術上の意義を有
するか(どのような技術的貢献をもたらした
か)を理解できるように記載することが重要で
ある。そして、発明の技術上の意義を理解する
ためには、どのような技術分野において、どの
ような未解決の課題があり、それをどのように
して解決したかという観点からの記載が発明
の詳細な説明中においてなされることが有用
であり、通常採られている記載方法でもある。
また、技術開発のヒントを得ることや有用な特
許発明を利用することを目的として特許文献
を調査する場合には、解決しようとしている課
題に着目すれば容易に調査を行うことができ
る。
さらには、発明の進歩性(第 29 条第 2 項)
の有無を判断する場合においては、解決しよう
とする課題が共通する先行技術文献が公知で
あればその発明の進歩性が否定される根拠と
なりうるが、判断対象の出願の明細書等にも先
行技術文献にもこのような課題が記載されて
いれば、その判断が出願人や第三者にも容易に
なる。
こうした理由から、委任省令では発明がどの
ような技術的貢献をもたらすものかが理解で
き、また審査や調査に役立つように、「当業者
が発明の技術上の意義を理解するために必要
な事項」を記載すべきものとし、記載事項の例
として課題及びその解決手段を掲げている。
韓審第 2 部第 3 章 3.1
3. 記載方法の要件 3.1 導入の趣旨
(1)発明をすることは、新たな技術的な思想を
創作するものであるため、発明を説明すること
においては、出願時の技術水準にかんがみて当
該発明がいかなる技術的な意義を有するのか、
あるいはいかなる技術的な進歩を有している
かを理解できるように記載することが重要で
ある。発明の内容を理解するためには、いかな
る技術の分野においていかなる未解決課題が
あり、いかなる手段を用いてそれを解決したの
かに関する説明が発明の詳細な説明中に記載
されている必要があり、これは、明細書の作成
において、世界各国が一般的に採択している記
載方法でもある。
記載方法の要件は、特許出願された発明の内
容を第三者が明細書のみにより容易に分かる
ように公開することによって、特許権で保護を
受けようとする技術的内容及び範囲を明確に
するために導入された。
(2)特許法施行規則第 21 条は、発明がいかなる
技術的な進歩を有しているかを審査官及び第
三者が容易に理解できるようにする記載方法
として、技術の分野、解決しようとする課題、
課題の解決手段及びその他にその発明が属す
る技術の分野の平均的な技術者が、その発明の
内容を容易に理解するために必要な事項を提
示している。
ただし、上記事項は、必ず形式的に区分して
記載しなければならないものではなく、詳細な
説明の全体の記載からその事項を把握して発
明の内容を理解できれば十分なものと認める。
(3)特許を受けようとする発明が特許法施行規
則第 21 条第 3 項に提示された事項のうち該当
する事項がない発明である場合は、その事項を
省略することができる。
解説;
日韓とも当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載すべきも
のとし、記載事項の例として課題及びその解決手段等を掲げており、基本的に同じ考え
方である。
32
(2)記載要件の具体的運用
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 1 章 3.3.3
(1) ・・・委任省令で求められる事項とは以下
のものをいうものとする。
①発明の属する技術の分野発明の属する技術
の分野として、請求項に係る発明が属する技術
の分野を少なくとも一つ記載する。
ただし、発明の属する技術分野についての明
示的な記載がなくても明細書及び図面の記載
や出願時の技術常識に基づいて当業者が発明
の属する技術分野を理解することができる場
合には、発明の属する技術分野の記載を求めな
いこととする。
また、従来の技術と全く異なる新規な発想に
基づき開発された発明のように、既存の技術分
野が想定されていないと認められる場合には、
その発明により開拓された新しい技術分野を
記載すれば足り、既存の技術分野についての記
載は必要ない。
②発明が解決しようとする課題及びその解決
手段
(ⅰ)「発明が解決しようとする課題」としては、
請求項に係る発明が解決しようとする技術上
の課題を少なくとも一つ記載する。
「その解決手段」としては、請求項に係る発
明によってどのように当該課題が解決された
かについて説明する。
(ⅱ)ただし、発明が解決しようとする課題につ
いての明示的な記載がなくても、従来の技術や
発明の有利な効果等についての説明を含む明
細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識
に基づいて、当業者が、発明が解決しようとす
る課題を理解することができる場合について
は、課題の記載を求めないこととする(技術常
識に属する従来技術から課題が理解できる場
合もある点に留意する)。また、そのようにし
て理解した課題から、実施例等の記載を参酌し
つつ請求項に係る発明を見た結果、その発明が
どのように課題を解決したかを理解すること
ができる場合は、課題とその解決手段という形
式の記載を求めないこととする。
(ⅲ)また、従来技術と全く異なる新規な発想に
基づき開発された発明、又は試行錯誤の結果の
発見に基づく発明・・・等のように、もともと
解決しようとする課題が想定されていないと
認められる場合には、課題の記載を求めないこ
ととする。
なお、
「その解決手段」は、
「発明が解決しよ
韓審第 2 部第 3 章 3.2-3.2.4
3.2 具体的な記載方法
【発明の詳細な説明】は、原則的に【技術の分
野】、
【発明の背景となる技術】
、(【先行技術文
献】)、
【発明の内容】
、
【発明の実施のための具
体的な内容】、(【産業上の利用可能性】)、(【受
託番号】)及び(【序列目録自由テキスト】)欄
に区分して記載し、その内容は、当該技術の分
野の平均的な技術者がその発明を容易に理解
して容易に繰り返し再現することができるよ
うに明確かつ詳細に記載しなければならない。
3.2.1 技術の分野
特許を受けようとする発明の技術の分野を
明確かつ簡潔に記載すべきであり、できるだけ
関連する技術の分野も記載する。技術の分野を
少なくとも 1 つ以上記載しなければならない
が、明示的な記載がなくても平均的な技術者が
技術常識でその発明が属する技術の分野-を理
解できるときには、記載しなくても構わない。
出願人が本発明の属する国際特許分類(IPC)を
知っている場合は、参照として記載することが
できる。
3.2.2 発明の内容
発明の内容は、原則的に【解決しようとする
課題】、
【課題の解決手段】、
【効果】欄に区分し
て以下のとおり記載する。
(1)【解決しようとする課題】には、特許を受
けようとする発明が技術上の課題としている
従来の技術の問題点等を記載する。
ただし、明示的な記載がなくても平均的な技術
者が明細書の他の記載と技術常識から発明が
解決しようとする課題を理解することができ
るときには、記載しなくても構わない。また、
従来の技術と全く異なる新規な発想により開
発された発明等のように、最初から解決しよう
とする課題が想定されていなかった場合にも、
課題の記載を省略することができる。
(2)【課題の解決手段】には、いかなる解決手
段により該当課題が解決されたかを記載する。
一般的には、特許を受けようとする発明が解決
手段そのものになるが、明示的な記載がなくて
も平均的な技術者が解決しようとする課題、実
施例等の明細書の他の記載から課題の解決過
程が十分に理解できる場合は、記載しなくても
よい。
従来の技術と全く異なる新規な発想により
開発された発明等のように、当初より解決しよ
33
うとする課題」との関連において初めて意義を
有するものである。すなわち、課題が認識され
なければ、その課題を発明がどのように解決し
たかは認識されない。(逆に、課題が認識され
れば、請求項に係る発明がどのように当該課題
を解決したかを認識できることがある。)した
がって、上記のように、そもそも解決しようと
する課題が想定されていない場合には、その課
題を発明がどのように解決したか(解決手段)
の記載も求めないこととする。(ただし、実施
可能要件を満たす開示がなければならないこ
とはいうまでもない。)
(留意事項)
二以上の請求項がある場合において、一の請求
項に対応する発明の属する技術分野、課題及び
その解決手段の記載が他の請求項のそれらと
同一となるときは、それらの記載と各請求項と
の対応関係が明瞭であれば、あえて各請求項に
対応して重複する記載をしなくてもよい。
(2) 実施可能要件は、特許の付与の代償として
社会に対し発明がどのように実施されるかを
公開することを保証する要件であるから、この
要件を欠いた出願について特許が付与された
場合には、権利者と第三者との間で著しく公平
を欠くことになる。
一方、委任省令要件の趣旨は、発明の技術上
の意義を明らかにし、審査や調査等に役立てる
というものである。
したがって、本要件は以下のように扱う。
①上記(1)に述べたように、あえて記載を求め
ると発明の技術上の意義についての正確な理
解をむしろ妨げることとなるような発明と認
められる場合には、課題及びその解決手段を記
載しなくても差し支えない。
また、発明の属する技術分野については、既
存の技術分野が想定されていない場合には、請
求項に係る発明の属する新規な技術分野を記
載すれば足りる。
②これ以外の発明の場合には、当業者が明細書
及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基
づいて、請求項に係る発明の属する技術分野、
又は課題及びその解決手段を理解することが
できない出願については委任省令要件違反と
する。
(3) 従来技術及び有利な効果について
①従来の技術
従来の技術を記載することは委任省令要件と
して扱わないが、従来技術の記載から発明が解
決しようとする課題が理解できる場合には、課
題の記載に代わるものとなりうるため、出願人
うとする課題が想定されていない場合は、解決
手段の記載は省略することができる。
(3)【効果】には、特許を受けようとする発明
が従来の技術と対比して優れていると認めら
れる特有の効果を記載する。出願発明の有利な
効果が明細書に記載される場合、その発明の進
歩性の存在を追認する一つの要素になり得る
ため、出願人が分かる限度内で十分に記載する
必要がある。
3.2.3 発明を実施するための具体的な内容
(1)【発明を実施するための具体的な内容】に
は、その発明の平均的な技術者がその発明がど
のように実施されるかを容易に分かるように、
その発明の実施のための具体的な内容を少な
くとも一つ以上、できるだけ多様な形態で記載
する。
発明がどのように実施されるかを示すため
には、課題を解決するための技術的手段を記載
する必要があり、技術的手段が複数である場合
は、これらの間に互いにいかなる有機的な結合
関係があり、それにより有利な効果を与えるの
かを記載する必要がある。技術的手段は、単純
にその手段が有する機能又は作用のみを表現
するものではなく具体的な手段そのものを記
載しなければならない。
(2)発明を実施するための具体的内容として、
発明の構成そのものだけでなく、その機能につ
いても記載する必要がある。実際に、技術の分
野により、機能を記載することが構成を詳細に
記載することより更に適切であり得る。例え
ば、コンピュータ分野の場合、個々の技術的手
段がいかなる機能をするか、及びこれらが互い
にいかなる関連性をもって作用し、その課題を
解決するのか等を記載することが有利なもの
となり得る。
(3)必要な場合は、
【実施例】欄を作り、その発
明が実際にどのように具体化するかを示す実
施例を記載する。実施例は、できるだけ多様に
記載する。
①・・・
②・・・
③実施例を図面を利用して説明する場合は、対
応個所の図面の符号を技術用語の横に( )をし
て記載する。
(4)ある技術的手段について数値を限定してい
るときは、その限定の理由を記載する。
また、特許を受けようとする発明を実験デー
タを利用して説明する場合は、平均的な技術者
が容易にその実験結果を再現することができ
る程度に試験方法、試験・測定器具、試験条件
34
が知る限りにおいて、請求項に係る発明の技術
上の意義の理解及び特許性の審査に役立つと
考えられる背景技術を記載すべきである。
また、従来の技術に関する文献は、請求項に
係る発明の特許性を評価する際の重要な手段
の一つである。したがって、特許を受けようと
する発明と関連の深い文献が存在するときは、
できる限りその文献名を記載すべきである。
②従来技術と比較した場合の有利な効果
請求項に係る発明が従来技術との関連にお
いて有する有利な効果を記載することは委任
省令要件として扱わないが、請求項に係る発明
が引用発明と比較して有利な効果がある場合
には、請求項に係る発明の進歩性の存在を肯定
的に推認するのに役立つ事実として、これが参
酌される(第Ⅱ部第 2 章 2.5(3)参照)から、有
利な効果を記載することが、進歩性の判断の点
で出願人に有利である。また、有利な効果の記
載から課題が理解できる場合には課題の記載
に代わるものとなりうる。したがって、請求項
に係る発明が有利な効果を有する場合には、出
願人が知る限りにおいて、その有利な効果を記
載すべきである。
(4) 産業上の利用可能性について
産業上の利用可能性を記載することは委任省
令要件として扱わない。産業上の利用可能性
は、発明の性質、明細書等から、それが明らか
でない場合のみに記載する。産業の利用可能性
は発明の性質、明細書等から明らかな場合が多
く、その場合は、明示的に産業上の利用可能性
を記載する必要はない。
等を具体的に記載しなければならない。
発明を実施するために入手が困難な材料や
素子等を用いる場合は、その製造方法又は入手
処を記載しなければならない。
技術用語は、当該技術の分野において一般的
に認められている標準用語又は学術用語を使
用しなければならず、化学記号、数学記号、分
子式等は一般的に広く用いられているものを
使用しなければならない。
(5)図面がある場合、その図面についての説明
を記載する。
3.2.4 産業上の利用可能性
【産業上の利用可能性】は、特許を受けようと
する発明が産業上利用できるものであるか否
かが不明であるとき、その発明の産業上利用方
法、生産方法又は使用方法等を記載する。産業
上の利用可能性は、明細書の他の記載から十分
に類推可能であるため、別途の記載が必要では
ない場合が多い。
解説;
日韓とも、表現上の差はあるものの、原則として技術の分野、解決しようとする課題、
解決手段等について明細書に記載を求めた上で、必要以上にこれに拘泥する必要はない
としており、双方の間に特段の差はない(ただし、韓国においては、上述のように発明
の背景となる技術の記載が義務化されており、違反した場合は拒絶理由となる点に注意
を要する。
)
。
ただし、韓国では、実施例を図面を利用して説明する場合は、対応個所の図面の符号
を技術用語の横に( )をして記載することを審査指針書で明文化している。
35
4.先行技術文献・背景技術の記載要件
(1)先行技術文献・背景技術の要件の趣旨
日本審査基準
(日審第Ⅰ部第 3 章)
先行技術文献情報開示要件
韓国審査指針書
韓審第 2 部第 3 章 4.1-4.5
4. 背景技術の記載要件
4.1 発明の背景となる技術の意味
発明の背景となる技術(背景技術)とは、発明の
技術上の意義を理解するに役に立ち、先行技術
の調査及び審査に有用であると考えられる従
来の技術をいう。
4.2 背景技術の記載要件
(1)背景技術は、特許を受けようとする発明に
関するものでなければならない。
特許を受けようとする発明とは、特許請求の範
囲に記載された事項によって定められる発明
をいう。背景技術が特許を受けようとする発明
に関するものであるか否かは、発明が属する技
術の分野、発明の解決しようとする課題、課題
の解決手段を重点的に考慮して判断する。
(2)出願人は、発明の詳細な説明の【発明の背
景となる技術】の項目に背景技術の具体的な説
明を記載しなければならず、できるだけそのよ
うな背景技術が開示された先行技術の文献情
報も記載しなければならない。先行技術の文献
情報は、特許文献の場合は、発行国、公報名、
公開番号、公開日等を記載し、非特許文献の場
合は、著者、刊行物名(論文名)、発行処、発行
年月日等を記載し、基本的に審査官が拒絶理由
通知の際に先行技術文献を引用するときの記
載要領と同一に記載すればよい(第 5 部第 3 章
「5.5 先行技術文献の記載要領」参照)。
ただし、背景技術の具体的な説明を記載せず
に先行技術の文献情報のみを記載したとして
も、その先行技術の文献が発明に関する適切な
背景技術を開示しているものであれば発明の
背景技術を記載したものと認める。
先行技術文献が複数の場合、できるだけ発明
に最も近い文献について記載しなければなら
ない。
(3)既存の技術と全く異なる新規な発想により
開発された発明であるため、背景技術が特別に
分からない場合は、隣接した技術の分野の従来
の技術を記載するか、あるいは適切な背景技術
が分からないという旨を記載することによっ
て、該当発明の背景技術の記載に代えることが
できる。
4.3 背景技術の記載が不適法な類型
特許法第 42 条第 3 項第 2 号を満たしていない
ものとして拒絶理由の通知の対象となる類型
36
は、以下のとおりである。
4.3.1 背景技術を全く記載していない場合
【発明の背景となる技術】の項目だけでなく発
明の詳細な説明の全体を検討しても発明の解
決しようとする課題、解決手段及び発明の効果
のみ記載しているだけであり、発明の背景とな
る技術を発見することができない場合をいう。
4.3.2 特許を受けようとする発明に関する背
景技術ではない場合
発明の詳細な説明に背景技術として記載し
ているが、それが特許を受けようとする発明で
はなく他の発明の背景技術である場合は、特許
法第 42 条第 3 項第 2 号を満たしていないもの
である。次のような場合がこれに該当する。
①特許を受けようとする発明と関連性のない
背景技術のみを記載した場合
②特許請求の範囲には記載されず、発明の詳細
な説明にのみ記載された発明の背景技術を記
載した場合
③1 群の発明違反で分割出願したが、分割出願
の発明の詳細な説明に記載されている背景技
術が、分割出願の特許請求の範囲で請求する発
明に関するものではない場合
4.3.3 基礎的な技術にすぎず、発明の背景技術
を記載したものと認めることができない場合
背景技術として、特許を受けようとする発明に
関する技術分野等の従来技術を記載したが、基
礎的な技術にすぎないため、発明の背景となる
技術であると認めることができない場合であ
る。
このような基礎的な技術の記載を背景技術
と認めるか否かは、明細書に記載された発明の
解決しようとする課題及び課題の解決手段を
考慮して、その記載された技術が特許を受けよ
うとする発明の理解、先行技術調査及び審査に
有用なものであるか否かで判断する。
ただし、この場合に特許法第 42 条第 3 項第
2 号違反の拒絶理由を通知するためには、背景
技術として適合した先行技術や関連文献が当
該技術の分野において知られているか、あるい
は容易に入手することができると認められな
ければならない。審査官が適切な背景技術が開
示された先行技術文献を認知した場合は、でき
るだけ拒絶理由の通知の際にそのような先行
技術文献を提示するようにする。
4.4 背景技術の記載が不適法な場合の拒絶理
由の通知
背景技術の記載が不適法なものと認められ
37
る場合、審査官は、特許法第 42 条第 3 項第 2
号違反の拒絶理由を通知する。
第 42 条第 3 項第 2 号要件を満たしているか
否かは、一律的に判断するものではなく、該当
発明の技術の分野の状況(開拓発明であるか否
か等)、従来の技術の蓄積程度、出願人/発明者
の当該技術の分野における研究開発活動の程
度等を考慮しなければならない。
特許法第 42 条第 3 項第 2 号の要件は、特許
法第 62 条による拒絶理由になるが、情報提供
の 事 由 ( 特 §63 条 の 2) 及 び 無 効 事 由 ( 特
§133①)とはならない。
4.5 特許法第 42 条第 3 項第 2 号違反の拒絶理
由の通知に対する出願人の対応方法
発明の背景技術が記載されていないという
拒絶理由を受けた場合、出願人は、明細書の【発
明の背景となる技術】の項目及びその【先行技
術文献】の項目に適切な背景技術が開示された
先行技術文献の情報を追加する補正をするこ
とにより対応することができる。この場合は、
特許を受けようとする発明の背景技術がその
先行技術文献に開示されているという点を説
明した意見書とともに提出することが好まし
い。
既存の技術と全く異なる新規な発想により
開発された発明であるため、適切な背景技術が
分からない場合は、拒絶理由通知に対する意見
書にそのような旨を説明して対応することが
できる。
一方、出願人が拒絶理由通知を受け、発明の
詳細な説明に背景技術に関する説明を追加す
るか、あるいは先行技術文献の情報とともにそ
の文献に開示された背景技術の説明を追加す
る補正をする場合は、そのような背景技術の説
明が最初に提出された明細書等の記載から自
明なものとして導き出せる事項でなければ、新
規事項の追加に該当するため、注意しなければ
ならない(第 4 部第 2 章 1.2 新規事項追加禁止
の具体的な判断方法参照)。
解説;
日本の審査基準第Ⅰ部第 3 章において、先行技術文献情報開示要件を記載しているが、
基本的に出願人が特許出願時に知っている場合、その文献公知発明に関する情報の所在
を発明の詳細な説明に記載するよう求める規定であり、韓国の背景技術の記載要件とは
異なる。特に、韓国の背景技術の記載要件は、出願人は【発明の背景となる技術】の項
目に背景技術の具体的な説明を記載しなければならず・・・とされており、記載が不適
法な場合は、拒絶理由となるため、日本の文献公知発明の開示要件よりも厳しい。
38
【発明の単一性】
1.発明の単一性に関する条文
日本特許法
韓国特許法
日法第 37 条
二以上の発明については、経済産業省令で定め
る技術的関係を有することにより発明の単一
性の要件を満たす一群の発明に該当するとき
は、一の願書で特許出願をすることができる。
韓法第 45 条(1 特許出願の範囲)
①特許出願は 1 発明を 1 特許出願とする。ただ
し、一つの総括的発明の概念を形成する 1 群の
発明に対して 1 特許出願とすることができる。
②第 1 項の規定による 1 特許出願の要件は、大
統領令で定める。
日規第 25 条の 8
第二十五条の八 特許法第三十七条の経済産業
省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が
同一の又は対応する特別な技術的特徴を有し
ていることにより、これらの発明が単一の一般
的発明概念を形成するように連関している技
術的関係をいう。
2 前項に規定する特別な技術的特徴とは、発
明の 先行技術に対する貢献を明示する技術的
特徴をいう。
3
第一項に規定する技術的関係については、
二以上の発明が別個の請求項に記載されてい
るか単一の請求項に択一的な形式によって記
載されているかどうかにかかわらず、その有無
を判断するものとする。
韓令第 6 条
第 6 条(1 群の発明に対する 1 特許出願の要件)
法第 45 条第 1 項ただし書の規定による 1 群の
発明に対して 1 特許出願をするためには、次の
各号の要件を備えなければならない。
1.請求された発明間に技術的相互関連性があ
ること
2.請求された発明が同一、または相応する技術
的特徴を有していること。この場合、技術的特
徴は発明全体からみて先行技術に比べて改善
されたものでなければならない。
解説;
日韓共に、一定の要件の下、二以上の発明を一つの願書で出願することが可能である
ことを規定しており、表現上の差はあるが、その最大の要件として、二以上の発明の間
に同一の又は対応する「(特別な)技術的特徴」を有することによって、一つの一般的
(総括的)発明の概念を形成するものと規定している。
また、「特別な技術的特徴」に対して、日本では「発明の先行技術に対する貢献を明
示する技術的特徴」と定義している一方、韓国では「発明全体からみて先行技術に比べ
て改善されたもの」と定義している点において差異がある。これは、先行技術と比較さ
れる部分という点では共通した概念であるが、後述するとおり、先行技術との対比判断
のための具体的な審査の進め方や判断の程度において差異を見せている。
また、日本では、その判断対象となる発明が別個の請求項に記載されているか単一の
請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらないと記載されて
いる一方、韓国ではこの点記載がなされていないが、審査指針書において記載されてお
り、この点については日韓の実務上、特段の差異はない。
39
2.発明の単一性の趣旨
日本審査基準
日審第Ⅰ部第 2 章 1.1 特許法第 37 条の規定
の趣旨
相互に技術的に密接に関連した発明について、
それらを一つの願書で出願できるものとすれ
ば、出願人による出願手続の簡素化・合理化、
第三者にとっての特許情報の利用や権利の取
引の容易化が図られるとともに、特許庁にとっ
てはまとめて効率的に審査を行うことが可能
となる。こうした観点を踏まえ、第37 条は、
別出願ともなし得る異なる二以上の発明につ
いて、一の願書で出願できる範囲を規定したも
のである。
韓国審査指針書
韓審第 2 部第 5 章 2.制度の趣旨
特許出願の範囲に関する特許法第 45 条の規
定は、相互技術的に密接な関係を有する発明に
ついて一つの出願書で出願することができる
ようにすることにより、出願人、第三者及び特
許庁の便宜を図ろうとする制度である。
出願人の立場からは、可能な限り多数の発明
を一つの出願書に含ませて出願することが出
願料や特許管理の側面において有利であるが、
第三者の立場からは、出願手続の衡平性、権利
に対する監視と先行技術資料としての利用等
の側面から可能な限り 1 出願の範囲を狭める
ことが有利である。一方、特許庁の立場からは、
出願の分類、検索等、審査負担の側面から 1 出
願の範囲は狭いことが望ましい。したがって、
この規定は、互いに異なる複数の発明を一つの
出願書に複数含めようとする出願人と、これを
許容する場合に不利益を受けることとなる第
三者及び特許庁との間に均衡を図ろうと導入
された規定といえる。
解説;
技術的に密接に関連する一群の発明に対して、1 つの出願とすることを許容すること
が出願人、第三者、そして特許庁の便宜のためであるとの認識は、日韓共に共通である。
しかし、韓国では、1 出願の範囲を広く認めた場合、第三者と特許庁に不利な側面が生
じることも明確にし、出願人、第三者、特許庁間の均衡を図ることが必要であるという
認識下に、
1 出願の範囲を制限することもまた本制度の趣旨であることを示唆している。
この点については、日本側においても同様であることは当然であるものの、韓国にお
ける 1 出願の範囲についての判断は、実際、実務的に多少厳格な面がある印象を受ける。
40
3.発明の単一性の説明・一般事項
日本審査基準
日審第Ⅰ部第 2 章 1.2 関係条文の説明
(1) 特許法第 37 条
第 37 条は、二以上の発明が発明の単一性の要
件を満たす場合には、これらの発明を一の願書
で特許出願できる旨を規定したものであり、そ
の要件としては、二以上の発明が一定の「技術
的関係」を有すべきことを規定し、「技術的関
係」の具体的要件については、経済産業省令(施
行規則第 25 条の 8)に委任している。
(2) 特許法施行規則第 25 条の 8 第 1 項
施行規則第 25 条の 8 第 1 項は、「技術的関係」
を、二以上の発明が「単一の一般的発明概念を
形成するように連関している」技術的関係と規
定している。
ここで、「単一の一般的発明概念」とは、特許
協力条約に基づく規則の第 13 規則で規定され
た「a single general inventive concept」に
対応するものである。
この項は、さらに、「単一の一般的発明概念を
形成するように連関している」技術的関係につ
いて、「二以上の発明が同一の又は対応する特
別な技術的特徴を有している」ことにより形成
されると規定している。これは、二以上の発明
が単一の一般的発明概念を形成するように連
関している技術的関係にあるかどうかは、これ
らの発明が同一の又は対応する特別な技術的
特徴を有しているかどうかで判断することを
示すものである。
(3) 特許法施行規則第 25 条の 8 第 2 項施行規
則第 25 条の 8 第 2 項では、同条第 1 項の「特
別な技術的特徴」とは「発明の先行技術に対す
る貢献を明示する技術的特徴をいう」と規定し
ている。これは、「技術的特徴」が「特別」で
あるためには、この「技術的特徴」によって発
明の「先行技術に対する貢献」がもたらされる
ものでなければならないことを意味する。
ここで、「技術的特徴」は、出願人が発明を特
定するために必要な事項として請求項に記載
した事項(発明特定事項)のうち、発明を技術
的に特定する事項に基づいて把握する。
また、発明の「先行技術に対する貢献」とは、
韓国審査指針書
韓審第 2 部第 5 章 3.一般的な考慮事項
(1)特許法第 45 条第 1 項で規定している「一つ
の総括的発明の概念を形成する 1 群の発明(以
下、
‘単一性’という。)」に該当するかの可否
は、同法施行令第 6 条により、一つ又は二つ以
上の同一であるか相応する「特別な技術的特
徴」を含むことにより、各請求項に記載された
発明が技術的に相互関連性があるかにかかっ
ている。
「特別な技術的な特徴」は、
‘各発明で
全体としてみて先行技術と区別される改善さ
れた部分’をいう。
ここで、各発明の「特別な技術的な特徴」は、
同一でなくとも相応しさえすればよい。例え
ば、ある請求項で弾性を与えるための「特別な
技術的な特徴」がスプリングであったなら、他
の請求項では弾性を与える「特別な技術的な特
徴」がゴムブロックであり得る。
(2)「特別な技術的な特徴」は、発明の単一性
を判断するために特別に提示された概念であ
り、当該出願前に公知等になった先行技術に比
べて新規性と進歩性を備えることとなる技術
的特徴をいい、発明を全体として考慮した後に
決定されなければならない。
「特別な技術的な特徴」は、先行技術に比べて
改善されたの部分を意味するため、発明の単一
性を充足するか否かの判断は、場合により先行
技術を検索する前にも可能であるが、先行技術
を考慮した後に判断するのが一般的である。
先行技術との対比において発明が有する技術
上の意義をいう。
(4) 特許法施行規則第 25 条の 8 第 3 項施行規
則第 25 条の 8 第 3 項は、上記の発明の単一性
の判断を、発明が個別の請求項に記載されてい
るか単一の請求項内に択一的な形式で記載さ
れているかに関係なく行うことを明確にする
41
ものである。
2.2 基本的な考え方(事例 1~13)
(1)略
(2) 発明の「特別な技術的特徴」は、明細書、
特許請求の範囲及び図面(以下「明細書等」と
いう。)の記載並びに出願時の技術常識に基づ
いて把握する。
ただし、
「特別な技術的特徴」とされたものが、
発明の先行技術に対する貢献をもたらすもの
でないことが明らかとなった場合には、当該技
術的特徴が「特別な技術的特徴」であることが
事後的に否定される(注 1)。
ここで、「発明の先行技術に対する貢献をもた
らすものでないことが明らかとなった場合」と
は、次の(i)~(iii)のいずれかに該当する場合
である。
(i) 「特別な技術的特徴」とされたものが先行
技術(注 2)の中に発見された場合。
(ii) 「特別な技術的特徴」とされたものが一
の先行技術に対する周知技術、慣用技術の付
加、削除、転換等であって、新たな効果を奏す
るものではない場合。
(iii) 「特別な技術的特徴」とされたものが一
の先行技術に対する単なる設計変更であった
場合。
(以下略)
解説;
日本では特許協力条約の規定に対応させて、「単一の一般的発明概念」という表現を
用いている一方、、韓国では「一つの総括的発明の概念」という表現を用いているが、
実務上、その意味に差異はなかろう。
また、日韓共に二以上の発明間において、同一の又は対応する「特別な技術的特徴」
の有無を主な判断基準としているが、その定義には若干の差異がある。即ち、「特別な
技術的特徴」について、日本では発明の「先行技術に対する貢献」がもたらされるもの
と定義し、まずは明細書等からそれを把握したうえで、それがⅰ)先行技術文献に記載
されていた場合、ⅱ)一つの先行技術に対する周知・慣用技術の付加、削除、転換等で
あって新たな効果を奏するものではない場合、ⅲ)一つの先行技術に対する単なる設計
変更であった場合、すなわち、一つの先行技術との関係において、いわゆる実質同一の
範疇の技術であったことが明らかとなった場合については、事後的に「特別な技術的特
徴」であることを否定するとしている。これに対し、韓国では「先行技術に比べて区別
される改善された部分」と定義し、それが「先行技術に比べて新規性と進歩性を具備す
ることになる技術的特徴」であるとし、かつ、一般的に単一性の判断を先行技術の調査
後に行うこととしている。
42
このように、日韓において、先行技術との間で「特別な技術的特徴」とするか否かの
判断基準、及びそもそも「特別な技術的特徴」であるか否かを判断するプロセスをまず
先行技術調査の前に行うか、あるいは後に行うかについて、温度差が見られる。ただし、
実務上、日本においても「特別な技術的特徴」の判断を先行技術の調査後において行う
ことも少なくないため、この点は大きな差異とはならないだろう。
43
4.発明の単一性の判断手法
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 2 章 2.1-3.1.2.2
2.1 発明の単一性の判断対象
発明の単一性は、特許請求の範囲に記載された
発明間で判断する。
通常は、
「請求項に係る発明」間で判断するが、
一の請求項において発明特定事項が形式上又
は事実上の選択肢(以下「選択肢」という。)
で表現されている場合には、各選択肢間につい
ても発明の単一性を判断する。
2.2 基本的な考え方(事例 1~13)
(事例 1~13)省略
(1) 発明の単一性は、二以上の発明が同一の又
は対応する特別な技術的特徴を有しているか
どうかで判断する。すなわち、一の発明の一の
特別な技術的特徴に対し、その他の全ての発明
のそれぞれの特別な技術的特徴が同一の又は
対応するものであるかどうかで判断する。同一
の又は対応する特別な技術的特徴が存在しな
いときは、発明の単一性の要件を満たさない。
「特別な技術的特徴が同一の又は対応するも
の」であるかどうかは単なる表現上の差異にと
らわれず、実質的に判断する。また、特別な技
術的特徴が「同一の」場合と「対応する」場合
とを峻別する必要はなく、いずれともいえる場
合がある。
韓審第 2 部第 5 章 4. 単一性の判断方法
単一性の判断は、基本的に(1)~(6)のような順
序で行う。
(1)第 1 発明を定め、その発明と関連した先行
技術と比較して、先行技術に比べて改善される
のに実質的な作用をする第 1 発明の「特別な技
術的な特徴」を確定する。発明の技術内容によ
って、一つの発明にも複数の「特別な技術的な
特徴」が含まれることがあることに留意する。
ここで第 1 発明は主たる発明を意味し、請求
項の順序とは関連がない。
(2)第 2 発明を定め、その発明と関連した先行
技術と比較して、先行技術に比べて改善される
のに実質的な作用をする第 2 発明の「特別な技
術的な特徴」を確定する。発明の技術内容によ
って、一つの発明にも複数の「特別な技術的な
特徴」が含まれることがあることに留意する。
(3)第 1 発明の「特別な技術的な特徴」と第 2
発明の「特別な技術的な特徴」が相互同一か相
応するか否かを判断して、両発明間に技術的な
相互関連性があるか確認する。もし、2 つの発
明間に同一であるか相応する「特別な技術的な
特徴」を含む技術的相互関連性が存在するな
ら、それらは一つの総括的発明概念に属すると
(2) 発明の「特別な技術的特徴」は、明細書、 いう結論を得ることができる。
特許請求の範囲及び図面(以下「明細書等」と (4) (2)~(3)の過程によって、請求の範囲に記
いう。)の記載並びに出願時の技術常識に基づ 載された発明を対象として、特許法施行令第 6
いて把握する。
条で定める技術的相互関連性があって一つの
ただし、
「特別な技術的特徴」とされたものが、 総括的発明の概念を形成するか判断する。
発明の先行技術に対する貢献をもたらすもの (5)第 1 発明を土台として「審査対象発明」を
でないことが明らかとなった場合には、当該技 選定する。
「審査対象発明」としては、第 1 発
術的特徴が「特別な技術的特徴」であることが 明及び第 1 発明と一つの総括的発明の概念を
事後的に否定される(注 1)。
形成する技術群(第 1 技術群)に属している発
・・・
(注 1) 発明のある技術的特徴が「特別 明を優先的に考慮するが、先行技術に比べて改
な技術的特徴」であることが否定されたとして 善された「特別な技術的な特徴」を有さず、ど
も、他の技術的特徴が「特別な技術的特徴」と の技術群にも属しなくなった発明であるが単
なる場合があることに留意する。
一性判断過程で審査が実質的に終了した発明
(注 2) 「先行技術」とは、第 29 条第 1 項各 は含む。
号に該当する発明を意味し、本願の出願時に公 また、審査対象発明には、第 1 技術群に属して
開されていないものは含まない。
いる発明とカテゴリーのみ異なる発明等、表現
(3)略
上の差のみがあって追加的な努力なく審査が
(4) 二以上の発明が対応する特別な技術的特 可能な発明は含むことができる。
徴を有している場合とは、それぞれの発明の間 (6)審査対象発明について、単一性を除いた特
で先行技術との対比において発明が有する技 許要件に関する審査を進める。
術上の意義が共通若しくは密接に関連してい 単一性要件に違反するという拒絶理由を通知
る場合又は特別な技術的特徴が相補的に関連 するときには、請求項全体について単一性要件
44
している場合をいう。
なお、二以上の発明において、先行技術に対し
て解決した課題(本願出願時に未解決である課
題に限る。)が一致又は重複している場合は、
先行技術との対比において発明が有する技術
上の意義が共通又は密接に関連している場合
に該当し、これらの発明は対応する特別な技術
的特徴を有する関係にあるといえる。
3. 審査の進め方
発明の単一性の要件(第 37 条)は、
拒絶理由(第
49 条)ではあるが、無効理由(第 123 条)とはさ
れていない。これは、第 37 条が出願人、第三
者及び特許庁の便宜のための規定であり、他の
拒絶理由と比較すると、発明に実質的に瑕疵が
あるわけではなく、二以上の特許出願とすべき
であったという手続上の瑕疵があるのみであ
るので、そのまま特許されたとしても直接的に
第三者の利益を著しく害することにはならな
いからである。このような事情に鑑み、発明の
単一性の要件の判断や、発明の単一性の要件以
外の要件についての審査対象(以下本章におい
て「発明の単一性の要件以外の要件についての
審査対象」を単に「審査対象」という。)の決
定を必要以上に厳格に行うことがないように
する。
3.1 審査対象の決定(事例 14~28)
3.1.1 基本的な考え方
発明の単一性の要件を満たすかどうかは、特許
請求の範囲の最初に記載された発明(注)と他
の発明との間で判断する。特許請求の範囲の最
初に記載された発明が特別な技術的特徴を有
する場合、当該特別な技術的特徴と同一の又は
対応する特別な技術的特徴を有する発明は、発
明の単一性の要件を満たす。一方、特許請求の
範囲の最初に記載された発明が特別な技術的
特徴を有しない場合、その他の全ての発明は、
発明の単一性の要件を満たすとはいえない。
ただし、第 37 条が出願人等の便宜を図る趣旨
の規定であることに鑑み、上記の発明の単一性
の要件を満たす発明のほか、一定の要件を満た
す発明については、審査対象とする。審査対象
の決定は、後述する「3.1.2 具体的な手順」に
従う。
3.1.2 具体的な手順
審査対象は、「特別な技術的特徴」と「審査の
効率性」に基づいて決定する。
3.1.2.1 特別な技術的特徴に基づく審査対象
に違反すると拒絶理由を通知する。単一性の拒
絶理由を通知するときは、その発明が第 1 技術
群を特徴づける「特別な技術的な特徴」と同一
であるか相応する技術的特徴を共有しないこ
とを明確にして通知する。
ただし、前記(1)段階で第 1 発明の「特別な技
術的な特徴」を確定した後に、(2)~(3)段階で
追加的な先行技術の調査なしに第 2 発明を特
定した後、第 1 発明の「特別な技術的な特徴」
と同一であるか相応する「特別な技術的な特
徴」が第 2 発明に含まれているか否かによって
も単一性を判断することもできる。また、審査
実務の便宜上、各発明間の共通する特徴をまず
見つけ、この共通する特徴が先行技術に比べて
改善されたものであるかを判断した後、共通す
る特徴が先行技術に比べて改善されていない
としたら単一性がないものと判断することも
できる。
一方、審査するにおいて、単一性の欠如は拒絶
理由に該当するだけで無効理由にならないと
いう点に留意しなければならない。すなわち、
単一性が欠如したことが明白な場合ならば、拒
絶理由を通知して補正することができるよう
に誘導しなければならないが、文言的なアプロ
ーチをして無理に単一性の拒絶理由を通知し
て、補正や分割出願を強要する必要はない。特
に、単一性が欠如しているとしても、それ以上
の検索が必要ではなく、付加的な審査の努力な
しにも審査 を終結できるようになっ た場合
(例: 検索された先行技術から請求の範囲全体
の新規性・進歩性を否定することができる場
合)には、単一性の拒絶理由を通知しないこと
ができる。
韓審第 2 部第 5 章 4、8. 単一性の審査の留意
事項
(1)発明の単一性は、まず、独立項について判
断する。独立項間の発明が単一性についての要
件を満たす場合には、これらの独立項を引用す
る従属項は、単一性が満たされる。
(2)特許法第 45 条の単一性に関する要件は、特
許法第 62 条による拒絶理由とはなるが、情報
提供事由や無効事由(特§133①)とはならな
い。
(3)特許法第 45 条を理由として拒絶理由を通
知する場合、出願人が拒絶理由に対してより容
易に対応することができ、迅速かつ正確な審査
に役立つと認められるときには、出願の分割に
関する示唆をすることができる。
45
の決定
以下の(1)~(4)の手順により、「特別な技術的
特徴」に基づいて審査対象とする発明を決定す
る。
(1) 特許請求の範囲の最初に記載された発明
について、特別な技術的特徴の有無を判断す
る。
(2) 特許請求の範囲の最初に記載された発明
が特別な技術的特徴を有しない場合には、特許
請求の範囲の最初に記載された発明の発明特
定事項を全て含む(注 1)同一カテゴリーの請
求項に係る発明のうち、請求項に付した番号が
最も小さい請求項に係る発明について、特別な
技術的特徴の有無を判断する。
(3) 既に特別な技術的特徴の有無を判断した
請求項に係る発明が特別な技術的特徴を有し
ない場合には、直前に特別な技術的特徴の有無
を判断した請求項に係る発明の発明特定事項
を全て含む同一カテゴリーの請求項に係る発
明のうち、請求項に付した番号の最も小さい請
求項に係る発明を選択して、特別な技術的特徴
の有無を判断する(注 2)。この手順を、特別
な技術的特徴が発見されるか、又は直前に特別
な技術的特徴の有無を判断した請求項に係る
発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリ
ーの請求項に係る発明が存在しなくなるまで
繰り返す。
(4) 手順(1)~(3)において、特別な技術的特徴
が発見された場合には、それまでに特別な技術
的特徴の有無を判断した発明(a)及び発見され
た特別な技術的特徴と同一の又は対応する特
別な技術的特徴を有する発明(b)を審査対象と
する。手順(1)~(3)において、特別な技術的特
徴が発見されなかった場合には、それまでに特
別な技術的特徴の有無を判断した発明を審査
対象とする。
(4)ある特定の独立項を基準として単一性を判
断した結果、単一性の要件が満たされている場
合であっても、補正によりその基準となった独
立項が削除されたり、又は発明の内容が変更さ
れた結果、単一性の要件が満たされなくなるこ
とがあり得ることに留意しなければならない。
(5) 一つの請求項内に 1 群の発明の範囲を超
える発明が含まれている場合等のように特別
な事情のある場合でなければ、ある請求項とそ
の請求項を引用する他の請求項の間には単一
性が満たさるものとみる。したがって、独立項
とその独立項を引用する従属項の間では、原則
的に発明の単一性を判断する必要がない。他の
請求項に記載された事項をすべて含んでおり、
事実上引用関係にあるとみることができる場
合もまた同様である。
ただし、引用される請求項が、先行技術により
新規性又は進歩性を欠如して 「特別な技術的
な特徴」を有しない場合には、該当請求項を引
用する請求項の間に発明の単一性違反の問題
が生じることがあり得るため、引用する請求項
の間に先行技術に比べて区別される同一であ
るか相応する「特別な技術的な特徴」が共有さ
れているかを追加で検討する必要がある。
解説;
単一性の判断手法において、日韓の最大の相違は、単一性判断の基準となる第 1 発明
の選定にあろう。すなわち、単一性の範囲ないし審査対象を決定するに際し、日本では、
特許法の規定に関係なく請求項 1 に係る発明を第 1 発明として判断を始めるのに対して、
韓国では、どの請求項に係る発明を基本にするか詳細に定めておらず、いずれを第 1 発
明としてもよい。その結果、日本では、基本的に、請求項 1 に係る発明に存在する特別
な技術的特徴を有する請求項の範囲において単一性が満たされることとされ、また、請
求項 1 に係る発明に特別な技術的特徴がない場合、同一カテゴリーの範囲において、請
46
求項 1 から請求項の番号順に特別な技術的特徴の有無を判断し、特別な技術的特徴を発
見した場合、それまで特別な技術的特徴の有無を判断した請求項、及び当該発見した特
別な技術的特徴と同一または対応する特徴を有する請求項の範囲を基本的な審査対象
として定めることとされる。一方、韓国では、このように請求項 1 に係る発明を第 1 発
明とする必要はなく、また、引用・被引用の関係にある請求項は、特段の事情がない限
り単一性を満たすものと扱っており、これにより、両国における単一性の範囲ないし審
査対象の決定に関し、差異が生じる得る。
また、日韓で異なる点として、特別な技術的特徴が「対応する」場合の考え方につい
ても、温度差が見られる。すなわち、日本では、それぞれの発明の間で、先行技術との
対比において発明が有する技術上の意義が共通若しくは密接に関連している場合又は
特別な技術的特徴が相補的に関連している場合、これらの請求項に係る発明においては、
「対応する」特別な技術的特徴を有するものと判断され、例えば、先行技術に対して解
決した課題(本願出願時に未解決である課題に限る。)が一致又は重複している場合、
これに当たるとしている。しかし、、韓国ではこのような「対応する」特別な技術的特
徴に関する判断基準がなく、それにより、二以上の発明間で特別な技術的特徴を共有す
るか否かの判断に際し、日本に比べて韓国の判断基準は、より厳格となる可能性があり、
例えば、上述のような課題の重複について、単一性を認めていない。
47
5.発明の単一性における特定の場合の判断類型
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅰ部第 2 章 4.1.1-4.3
4.1.1 物とその物を生産する方法、物とその物
を生産する機械、器具、装置、その他の物(事
例 29~33)
「物を生産する方法や、物を生産する機械、器
具、装置、その他の物」(以下「生産方法又は
生産装置等」という。)が、
「物」の生産に適し
ている場合は、両者は同一の又は対応する特別
な技術的特徴を有する関係にある。
「生産方法又は生産装置等」により、その「物」
以外の物も生産される場合であっても、その
「物」の生産に適しているものであれば、両者
は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有
する関係にある。
ここで、「物を生産する機械、器具、装置、そ
の他の物」における「その他の物」には、触媒、
微生物など、他の原料、被加工体などに作用し
てそれに変化を生じさせ生産物を得るもの全
てが含まれ、機械、器具、装置に限定されない。
(説明)
「生産方法又は生産装置等」が「物」の生産に
「適している」とは、例えば、「生産方法又は
生産装置等」の特別な技術的特徴により、原材
料から「物」の特別な技術的特徴(その「物」
自体の場合を含む。)への変化が必然的にもた
らされることをいう。この場合、「生産方法又
は生産装置等」の特別な技術的特徴のもたら
す、発明の先行技術に対する貢献は、その「物」
の特別な技術的特徴をもたらすことであるか
ら、それぞれの特別な技術的特徴のもたらす、
発明の先行技術に対する貢献は密接に関連し
ており、両者は同一の又は対応する特別な技術
的特徴を有する関係にある。
4.1.2 物とその物を使用する方法、物とその物
の特定の性質を専ら利用する物(事例 34)
(1) 「物を使用する方法」が「物」の使用に適
している場合、両者は同一の又は対応する特別
な技術的特徴を有する関係にある。
(説明)
「物を使用する方法」が「物」の使用に「適し
ている」とは、例えば、「物を使用する方法」
の特別な技術的特徴が、「物」の特別な技術的
特徴の特有な性質・機能を使用していることを
いう。
この場合、「物を使用する方法」の特別な技術
的特徴のもたらす、発明の先行技術に対する貢
献は、その「物」の特別な技術的特徴の特有な
韓審第 2 部第 5 章 6.1-7.2
6. 特別な関係がある場合の単一性の判断
6.1 物とその物を生産する方法
(1)特定の請求項に記載された物の発明と、そ
の物を生産する方法の発明の間の単一性は、そ
の生産方法がその物の生産に「適しているか」
の適否で判断する。
ここで「適しているか」とは、その生産方法を
実施すれば本質的にその物が生産されるとい
うことを意味する。しかし「適しているか」と
いう意味が、その物が他の方法によっては生産
できないとか、その生産方法が他の物の生産に
は使用できないということを意味するもので
はない。
(2)生産方法は、それ自体でその物を生産でき
る方法でなければならない。したがって、その
物の生産に間接的又は補助的に使用される方
法(例:分析方法等)は、他の事情がない限り一
つの出願とすることができない。
6.2 物とその物を使用する方法
物を使用する方法の発明は、物が有している性
質、機能等を利用する方法の発明をいう。物の
発明には、化学物質や組成物以外にも、機械、
器具、装置、部品、回路等が含まれる。例えば、
装置の発明でその装置の運転方法の発明や使
用方法の発明を考えることができる。
6.3 物とその物を取り扱う方法
‘物を取り扱う’の意味は、その物に対して外
的な作用を加えて、その物に機能を維持又は発
揮させることであり、物を本質的には変化させ
ないことをいう。例えば、物の移送、保存等が
該当する。
6.4 物とその物を生産する機械、器具、装置、
その他の物
(1)物を生産する機械、器具、装置、その他の
物(以下、‘装置類’という)がその物の生産に
「適しているか」の適否が判断基準となる。
「適
しているか」とは、その物を生産する装置類に
かかわる発明を実施すれば、本質的にその物が
生産されるということを意味する。しかし「適
しているか」という意味が、その物が他の装置
類によって生産されないとか、その物を生産す
る装置類と同一の装置類が他の物の生産には
使用することができないということを意味す
るものではない。
(2)装置類は、それ自体によりその物を生産す
ることができる装置類をいう。したがって、そ
48
性質・機能を使用することであるから、それぞ
れの特別な技術的特徴のもたらす、発明の先行
技術に対する貢献は密接に関連しており、両者
は同一の又は対応する特別な技術的特徴を有
する関係にある。
(2) 「物の特定の性質を専ら利用する物」の特
別な技術的特徴が「物」の特別な技術的特徴の
特定の性質を専ら利用している場合、両者は同
一の又は対応する特別な技術的特徴を有する
関係にある。
(説明)
「物の特定の性質を専ら利用する物」の特別な
技術的特徴が「物」の特別な技術的特徴の特定
の性質を専ら利用している場合、「物の特定の
性質を専ら利用する物」の特別な技術的特徴の
もたらす、発明の先行技術に対する貢献は、そ
の「物」の特別な技術的特徴の特定の性質を専
ら利用することであるから、それぞれの特別な
技術的特徴のもたらす、発明の先行技術に対す
る貢献は密接に関連しており、両者は同一の又
は対応する特別な技術的特徴を有する関係に
ある。
4.1.3 物とその物を取り扱う方法、物とその物
を取り扱う物(事例 35、36)
「物を取り扱う方法や、物を取り扱う物」(以
下「取扱い方法又は取り扱う物」という。)が
「物」の取扱いに適している場合、両者は同一
の又は対応する特別な技術的特徴を有する関
係にある。その「物」以外の物の取扱いにも適
用可能な場合であっても、その「物」の取扱い
に適しているものであれば、両者は同一の又は
対応する特別な技術的特徴を有する関係にあ
る。
(説明)
「取扱い方法又は取り扱う物」が「物」の取扱
いに「適している」とは、例えば、「取扱い方
法又は取り扱う物」の特別な技術的特徴が、
「物」の特別な技術的特徴に対して外的な作用
を施すことにより機能を必然的に維持又は発
揮させ、基本的にはその「物」を本質的に変化
させないことをいう。
この場合、「取扱い方法又は取り扱う物」の特
別な技術的特徴のもたらす、発明の先行技術に
対する貢献は、その「物」の特別な技術的特徴
の機能を必然的に維持又は発揮させることで
あるから、それぞれの特別な技術的特徴のもた
らす、発明の先行技術に対する貢献は密接に関
連しており、両者は同一の又は対応する特別な
技術的特徴を有する関係にある。
4.1.4 方法とその方法の実施に直接使用する
の物を生産するための間接的、補助的な装置類
(例:その物の生産に使用される測定装置や分
析装置等)は一つの出願とすることができな
い。
(3)「その他の物」には装置類以外に化学物質
や微生物等が含まれる。
6.5 物とその物の特定の性質のみを利用する
物
物の特定の性質のみを利用する物の発明は、そ
の発明の目的がその物が有している特定の属
性を利用してこそ達成され、さらに、このよう
な特定属性を利用することが発明の構成に明
確に表現されている物の発明をいう。したがっ
て、通常、このような物の発明は化学物質等に
限定される。
6.6 物とその物を取り扱う物
その物に外的な作用を加えてその物の機能を
維持又は発揮させるものであって、その物を本
質的に変化させない場合をいう。
6.7 方法とその方法の実施に直接使用する機
械、器具、その他の物
「方法の実施に直接使用する機械、器具、その
他の物」が特定の方法の実施に直接使用される
のに適した場合には、発明の単一性が満たされ
る。ここで「適しているか」の適否は、「方法
の実施に直接使用する機械、器具、その他の物」
の特別な技術的特徴が、「方法」が有する特別
な技術的特徴の発現に直接的に使用されるか
否かで判断する。
7. 特殊な場合の取扱い
7.1 マーカッシュ(Markush)方式の請求項
(1)一つの請求項に択一的要素がマーカッシュ
方式で記載されている場合において、択一的事
項が「類似の性質又は機能」を有する場合には、
単一性の要件は満たされる。
マーカッシュグループ(Markush Grouping)が
化合物の択一的事項に関するものであるとき
には、第 4 章 4.(4)の要件を満たす場合には、
類似の性質又は機能を有するものとみなす。
(2)発明の単一性の判断において、二つ以上の
択一的事項を複数の独立項で記載するにせよ、
一つの請求項内にマーカッシュ方式で記載す
るにせよ、判断基準が変わるものではない。
(3)マーカッシュグループの択一的要素のう
ち、少なくとも一つが先行技術と関連して新規
でないものと判断されれば、審査官は、発明の
単一性に関する問題を再検討しなければなら
ない。
7.2 中間体と最終生成物
(1)「中間体」という用語は、中間物質又は出
49
機械、器具、装置、その他の物(事例 37~39)
「方法の実施に直接使用する機械、器具、装置、
その他の物」(以下「実施に使用する装置等」
という。)が「方法」の実施に直接使用するこ
とに適している場合、両者は同一の又は対応す
る特別な技術的特徴を有する関係にある。その
「方法」以外の方法の実施に直接使用できる場
合であっても、その「方法」の実施に直接使用
することに適しているものであれば、両者は同
一の又は対応する特別な技術的特徴を有する
関係にある。また、「方法の実施に直接使用す
る機械、器具、装置、その他の物」における「そ
の他の物」は、装置類に限定されず、それ以外
の触媒、微生物、原料、被加工体など、方法の
実施に直接使用するものは全て含まれる。
(説明)
「実施に使用する装置等」が「方法」の実施に
直接使用することに適しているとは、例えば、
「実施に使用する装置等」の特別な技術的特徴
が「方法」の特別な技術的特徴の実施に直接使
用されることをいう。
この場合、「実施に使用する装置等」の特別な
技術的特徴がもたらす、発明の先行技術に対す
る貢献は、その「方法」の発明の特別な技術的
特徴を実施することであるから、それぞれの特
別な技術的特徴のもたらす、発明の先行技術に
対する貢献は密接に関連しており、両者は同一
の又は対応する特別な技術的特徴を有する関
係にある。
4.2 マーカッシュ形式(事例 40)
請求項がマーカッシュ形式で記載されている
場合、各選択肢間で、同一の又は対応する特別
な技術的特徴を有しているか否かで、請求項内
の発明の単一性が判断される。
特に、マーカッシュ形式で記載された請求項が
化合物の択一的記載である場合、以下の要件
(1)及び(2)が満たされれば、各選択肢は同一の
又は対応する特別な技術的特徴を有する関係
にある。
(1) 全ての選択肢が共通の性質又は活性を有
しており、かつ、
(2) (i) 共通の化学構造が存在する、すなわち
全ての選択肢が重要な化学構造要素を共有し
ている、又は、(ii) 共通の化学構造が判断基
準にならない場合、全ての選択肢が、その発明
の属する技術分野において一群のものとして
認識される化学物質群に属する。
上記 (2)(i)の「全ての選択肢が重要な化学構
造要素を共有している」とは、複数の化学物質
が、その化学構造の大きな部分を占める共通し
発物質を意味する。このような中間物質又は出
発物質は、物理的又は化学的変化により、本来
の特性を失い最終生成物を生産することに使
用されることができる能力を有している。
次の①及び②が充足たされる場合、中間体と最
終生成物間には発明の単一性があるものとみ
る。
①中間体と最終生成物の間で主要な構造的要
素が同一であること。すなわち、
(ⅰ)中間体と最終生成物の基本化学構造が同
一であるか、
(ⅱ)中間体と最終生成物の化学的構造が技術
的に密接な相関関係にあり、中間体が最終生成
物に主要な構造的要素を提供すること
②中間体及び最終生成物が技術的に密接な相
関関係にあること。すなわち、最終生成物が中
間体から直接生産されるか、又は、重要な構造
的要素が同一の少数の中間体を経て製造され
ること。
(2)中間体の主な構造的要素が同一であるなら
ば、一つの最終生成物を生産するために互いに
異なる工程に使用される一つ以上の互いに異
なる中間体を 1 出願とすることができる。しか
し、最終生成物の異なる構造の部分に用いられ
る互いに異なる二以上の中間体は、1 出願とす
ることができない。
(3)中間体及び最終生成物が中間体から最終生
成物を製造する過程で、新規でない中間体によ
って分離される場合は、1 出願として許容され
ない。
(4)中間体と最終生成物が化合物群である場
合、各中間体化合物は、最終生成物化合物群の
中で請求された一つの化合物と対応しなけれ
ばならない。しかし、最終生成物のうちの一部
は、中間体化合物群に対応する化合物がないこ
とがあり得るため、二つの化合物群の間が完全
に 1 対 1 で対応する必要はない。
50
た化学構造を有しているような場合をいい、ま
た化学物質がその化学構造のわずかな部分し
か共有しない場合においては、その共有されて
いる化学構造が従来の技術からみて構造的に
顕
著な部分を構成する場合をいう。化学構造要素
は一つの部分のことも、互いに連関した個々の
部分の組合せのこともある。
なお、マーカッシュ形式の選択肢の場合におい
て、マーカッシュ選択肢の少なくとも一つが先
行技術の中に発見された場合などは、発明の単
一性の要件を満たすかどうか再考する。
上記(2)(ii)の「一群のものとして認識される
化学物質群」とは、請求項に係る発明の下で同
じように作用するであろうことが、その技術分
野における知識から予想される化学物質群を
いう。言い換えると、この化学物質群に属する
各化学物質を互いに入れ換えても同等の結果
が得られる、ということである。
4.3 中間体と最終生成物(事例 41)
中間体に関する発明と最終生成物に関する発
明とが同一の又は対応する特別な技術的特徴
を有する関係にあるといえるためには、以下の
要件(1)及び(2)が満たされなければならない。
(1) 中間体と最終生成物が同一又は技術的に
密接に関連している新規な構造要素を有する、
すなわち、
(i) 中間体と最終生成物の化学構造において
先行技術の中には発見されないような基本骨
格が共通している、又は、
(ii) 両物質の化学構造が技術的に相互に密接
に関連している。
(2) 中間体と最終生成物の間に技術的な相互
関連性がある、すなわち、最終生成物が、中間
体から直接製造される、又は、同一の主要な構
造要素を含む少数の別の先行技術の中には発
見されないような中間体を経て製造される。
構造が不明な場合でも、中間体と最終生成物が
同一の又は対応する特別な技術的特徴を有す
る関係にあるといえる場合がある。例えば、構
造が明らかな中間体と構造が不明な最終生成
物、又は、構造が不明な中間体と構造が不明な
最終生成物が同一の又は対応する特別な技術
的特徴を有する関係にあるといえる場合があ
る。
このような場合に同一の又は対応する特別な
技術的特徴を有する関係にあるといえるため
には、例えば、中間体が最終生成物と同一の主
要な構造要素を含んでいる、又は、中間体が最
終生成物に主要な構造要素を組み込むという
51
ように、中間体と最終生成物の構造が技術的に
相互に密接に関連していることを示す十分な
証拠がなければならない。
一つの最終生成物の製造のための異なるプロ
セスで使用される別々の中間体に同一の主要
な構造要素がある場合には、最終生成物及び
別々の中間体に関する発明は、主要な構造要素
が同一の又は対応する特別な技術的特徴であ
るため、同一の又は対応する特別な技術的特徴
を有する関係にある。
中間体及び最終生成物が共に化合物の群を成
すように請求項に記載されている場合、各中間
体化合物は請求項に係る最終生成物のうちの
一つの化合物に対応していなければならない。
ただし、最終生成物のいくつかは中間体の群の
中に対応する化合物がない場合もあるので、二
つの群は完全に一致する必要はない。
最終生成物を製造するために使用されること
に加えて、中間体が他の効果を有する又は他の
活性を示すことは、発明の単一性の判断に影響
を及ぼすものではない。
解説;
物とその物を生産する方法などの特別な関係、マーカッシュ、中間体と完成体などに
関して、日韓共に単一性の判断基準を提示しており、その基準は、実質的に同様である。
ただし、あえて言えば、日本は、特別な関係について「特別な技術的特徴」の概念の枠
内で解釈している一方、韓国は、「特別な技術的特徴」の例外的な場合として広く取扱
う姿勢となっている。
52
【先行技術開示要件】
1.先行技術開示要件に関する条文
日本特許法
日法第 36 条第 4 項第 2 号
その発明に関連する文献公知発明(第二十九条
第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号
において同じ。)のうち、特許を受けようとす
る者が特許出願の時に知つているものがある
ときは、その文献公知発明が記載された刊行物
の名称その他のその文献公知発明に関する情
報の所在を記載したものであること。
第 48 条の 7
審査官は、特許出願が第三十六条第四項第二号
に規定する要件を満たしていないと認めると
きは、特許出願人に対し、その旨を通知し、相
当の期間を指定して、意見書を提出する機会を
与えることができる。
韓国特許法
韓法第 42 条第 3 項第 2 号
その発明の背景になる技術を記載すること
韓法第 62 条
審査官は、特許出願が次の各号のいずれか(以
下、
「拒絶理由」という。)に該当する場合には、
その特許出願について特許拒絶決定をしなけ
ればならない。
1~3 省略
4.第 42 条第 3 項・第 4 項・第 8 項又は第 45 条
に規定された要件を満たしていない場合
(以下略)
第 49 条
審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該
当するときは、その特許出願について拒絶すべ
き旨の査定をしなければならない。
一~四 省略五 前条の規定による通知をし
た場合であつて、その特許出願が明細書につい
ての補正又は意見書の提出によつてもなお第
三十六条第四項第二号に規定する要件を満た
すこととならないとき。
(以下略)
解説;
日本では出願の時に知っている文献公知発明に対して、刊行物の名称等を明細書に記
載するようにしているが、韓国では文献公知発明に限定せず、その発明の背景技術を広
く記載することを要求している。ただし、韓国においては、請求発明の背景となる技術
の記載で十分であり、刊行物等を記載しなければならない義務は、付与していない。
また、韓国における背景技術の記載要件違反は、直接拒絶査定の対象とされ、拒絶理
由が通知されることとなる、日本における先行技術開示要件違反は、拒絶理由の通知と
は異なる手続となり、強行規定ともされていない。
53
【産業上利用できる発明】
1.産業上利用できる発明に関する条文
日本特許法
韓国特許法
日法第 29 条 1 項柱書
産業上利用することができる発明をした者は、
次に掲げる発明を除き、その発明について特許
を受けることができる。
韓法第 29 条柱書
産業上利用することができる発明であって、次
の各号のいずれか一に該当するものと除き、そ
の発明に対して特許を受けることができる。
解説;
日韓共に実質的に同様に規定している。特許法の目的が産業発展に寄与するところに
あるため、産業上利用可能性の要件を当然要求している。
54
2.産業上利用できる発明に関する趣旨
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 1 章本文
特許法第 29 条第 1 項柱書
産業上利用することができる発明をした者は、
……その発明について特許を受けることがで
きる。
第 29 条第 1 項柱書に規定されている「産業
上利用することができる発明」の要件は、「発
明」であることの要件と「産業上利用すること
ができる発明」であることの要件(いわゆる「産
業上の利用性」)とに分けられるとするのが通
説であり、審査実務の慣行でもあるので、本審
査基準では、第 1 項柱書の要件を、
「発明」で
あることの要件と「産業上利用することができ
る発明」であることの要件とに区分する。
韓審第 3 部第 1 章 2.特許法第 29 条第 1 項本
文の趣旨
特許法の目的が産業発展に寄与するところに
あるため(特§1)、すべての発明は、産業上の
利用可能性があることは当然である。これによ
り、特許法第 29 条第 1 項本文では、産業上利
用することができる発明に限り特許を受ける
ことができるように規定した。
特許法第 29 条第 1 項本文の「産業」は、最も
広い意味の産業と解釈すべきである。すなわ
ち、産業は、有用かつ実用的な技術に属するす
べての活動を含む最広義の概念と解釈される。
解説;
日法第1条でも産業の発達に寄与することを特許法の目的と規定しており、日韓共に
産業上利用可能性の要件を置く趣旨は同様である。後述するように、韓国審査指針書で
も産業上利用可能性に対して「発明の成立要件」及び「産業上利用することができない
発明」に区分しており、これは日本審査基準における「発明であること」と「産業上利
用することができる発明であること」との区分に対応する。
55
3.「発明」に該当しないものの類型
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 1 章 1、1.1
1. 「発明」であること
「発明」については、第 2 条第 1 項において
定義されている。つまり、「発明とは自然法則
を利用した技術的思想の創作のうち高度のも
の」をいう。ただし、この定義中の「高度のも
の」は、主として実用新案法における考案と区
別するためのものであるので、「発明」に該当
するか否かの判断においては、考慮する必要は
ない。
下記に、「発明」に該当しないものの類型を示
す。
1.1 「発明」に該当しないものの類型
以下の類型のものは、「自然法則を利用した技
術的思想の創作」ではないから、「発明」に該
当しない。
(1) 自然法則自体
「発明」は、自然法則を利用したものでなけれ
ばならないから、エネルギー保存の法則、万有
引力の法則などの自然法則自体は、「発明」に
該当しない。
(2) 単なる発見であって創作でないもの
「発明」の要件の一つである創作は、作り出す
ことであるから、発明者が意識して何らの技術
的思想を案出していない天然物(例:鉱石)、自
然現象等の単なる発見は「発明」に該当しない。
しかし、天然物から人為的に単離した化学物
質、微生物などは、創作したものであり、「発
明」に該当する。
(3) 自然法則に反するもの
発明を特定するための事項の少なくとも一部
に、熱力学第二法則などの自然法則に反する手
段
(4) 自然法則を利用していないもの
請求項に係る発明が、自然法則以外の法則(例
えば、経済法則)、人為的な取決め(例えば、ゲ
ームのルールそれ自体)、数学上の公式、人間
の精神活動に当たるとき、あるいはこれらのみ
を利用しているとき
(5) 技術的思想でないもの
(a) 技能(個人の熟練によって到達しうるもの
であって、知識として第三者に伝達できる客観
性が欠如しているもの)
例:ボールを指に挟む持ち方とボールの投げ方
に特徴を有するフォークボールの投球方法。
(b) 情報の単なる提示(提示される情報の内容
にのみ特徴を有するものであって、情報の提示
韓審第 3 部第 1 章 4-4.2
4.1 発明に該当しない類型
特許法第 2 条第 1 号の発明に該当するか否かに
ついての判断が容易でないため、本指針書で
は、発明に該当しない類型を例示して、発明に
該当するか否かについての判断の助けとする。
4.1.1 自然法則自体
発明は、自然系に存在する法則すなわち自然法
則を利用して与えられた課題を解決するため
の技術的な思想の創作であるため、自然法則自
体は発明に該当しない。
したがって、熱力学第 2 法則、エネルギー保存
の法則のような自然法則自体は、発明ではな
い。
4.1.2 単純な発見であって創作でないもの
発見とは、自然系に既に存在する物や法則を単
純に見つけ出すことであって創作ではないた
め、天然物(例:鉱石)、自然現象等の発見自体
のみでは発明に該当しない。
しかし、物質自体の発見ではなく、天然物から
ある物質を人為的に分離する方法を開発した
場合、その方法は発明に該当し、また、その分
離された化学物質又は微生物等も発明に該当
する。
自然界に存在する物の属性を発見し、その属性
により新たな用途に使用することにより起因
する用途発明も、単純な発見とは区分されるも
のであり特許法上異なって取り扱われる。原則
的に、新たな用途の単純な発見のみでは発明と
して成立しないが、新たな属性の発見とそれと
結びついた新たな用途の提示行為が、通常の技
術者にとっては自明でない発明的努力を加え
た場合であるなら、発明として認められ得る。
4.1.3 自然法則に違反するもの
発明は、自然法則を利用したものでなければな
らないため、自然法則に反するもの
4.1.4 自然法則を利用していないもの
請求項に記載された発明が、自然法則以外の法
則(経済法則、数学の公式、論理学的な法則、
作図法、等)、人為的な約束(ゲームの規則それ
自体等)、又は人間の精神活動(営業計画それ自
体、教授方法それ自体、金融保険制度それ自体、
課税制度それ自体等)を利用している場合に
は、発明に該当しない。
論理的な法則や数学的な原理それ自体や、これ
を直接的に利用する方法、原理自体についての
特許を請求するのではなく、数学的な演算によ
56
を主たる目的とするもの)
(c) 単なる美的創造物
(6) 発明の課題を解決するための手段は示さ
れているものの、その手段によっては、課題を
解決することが明らかに不可能なもの。
って変換されるデータを利用して特定の技術
手段の性能を高めるたり制御することによっ
て、有用かつ具体的で実用的な結果を得ること
ができる技術的な装置や方法として請求する
場合には、そのような装置や方法が特定の目的
を達成するための合理的な手段として普遍性、
日法第 2 条第 3 項
反復性及び客観性を持つものであれば、発明と
この法律で発明について「実施」とは、次に掲 して取り扱われる。
げる行為をいう。
特許法上の発明に該当するための自然法則利
一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の 用の適否は、請求項全体として判断しなくては
発明にあっては、その生産、使用、譲渡等(譲 ならない。したがって、請求項に記載された発
渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等で 明の一部に自然法則を利用している部分があ
ある場合には、電気通信回線を通じた提供を含 っても、請求項全体として自然法則を利用して
む。以下同じ。
)・・・をする行為
いないと判断されるときは、特許法上の発明に
(以下略)
相当せず、反対に請求項に記載された発明の一
部に自然法則を利用していない部分(例:数学
日審第Ⅶ部第 1 章 2.2.1
公式等)があっても、請求項を全体として把握
ソフトウエア関連発明が「自然法則を利用した したとき自然法則を利用していると判断され
技術的思想の創作」となる基本的考え方は以下 るときは、特許法上の発明に該当する。
のとおり。
4.1.5 技能
(1)「ソフトウエアによる情報処理が、ハード 技能は、個人の熟練により達成することができ
ウエア資源を用いて具体的に実現されている」 るものであり、知識として第三者に伝達するこ
場合、当該ソフトウエアは「自然法則を利用し とができる客観性が欠如している。したがっ
た技術的思想の創作」である。・・・
て、技能は発明に該当しない。
4.1.6 単純な情報の提示
単純に提示される情報の内容にのみ特徴があ
るものであって、情報の提示を主たる目的とす
る場合には、発明に該当しない。
しかし、情報の提示が新規な技術的特徴を有し
ていれば、そのような情報の提示それ自体、情
報の提示手段、情報を提示する方法は、発明に
該当することがあり得る。
4.1.7 美的創造物
美的創造物は、技術的な面以外の視覚的な面を
有し、その評価も主観的になされるものであ
る。したがって、美的効果それ自体(例:絵画、
彫刻それ自体等)は、発明に該当しない。しか
し、美的効果が技術的構成あるいは他の技術的
手段によって得られる場合、美的な効果を得る
ための手段は発明に該当することがあり得る。
4.1.8 コンピュータプログラム言語自体、コン
ピュータプログラム自体
コンピュータプログラムは、コンピュータを実
行する命令に過ぎないものであり、コンピュー
タプログラム自体は発明となることはできな
い。
ただし、コンピュータプログラムによる情報処
理がハードウェアを利用して具体的に実現さ
れる場合には、当該プログラムと連動して動作
する情報処理装置(機械)、その動作方法、及び
57
当該プログラムを記録したコンピュータで読
むことができる媒体は、自然法則を利用した技
術的な思想の創作として発明に該当する。
4.1.9 反復して同一の効果を得ることができ
ないもの
発明の目的を達成するための手段が形式的に
提示されているが、その提示した手段により発
明者が得た成果と客観的に同一の結果を得る
ことができない場合、すなわち反復して実施す
ることができないものは、発明に該当しない。
ここで、出願発明の反復再現性は必ずしも 100%
の確率で効果を得ることができることのみを
意味するものではなく、100%より少ない確率で
あっても効果を得ることができることが確実
であるならば、反復再現性があるとみる。
4.1.10 未完成発明
特許を受けることができる発明は、完成したも
のでなければならない。ここで、完成した発明
とは、その発明が属する分野で通常の知識を有
する者が反復実施して目的とする技術的効果
を得ることができる程度にまで具体的、客観的
に構成されている発明であり、その判断は、特
許出願の明細書に記載された発明の目的、構成
及び作用効果等を全体的に考慮して、出願当時
の技術常識に立脚して判断する(大法院
1994.12.27.宣告 93 フ 1810 判決参考)。
解説;
発明の成立要件について、日韓共に発明に該当しない類型を提示している。その類型
のうち、「自然法則自体」
、「単なる発見であって創作ではないもの」、「自然法則に反す
るもの」、
「自然法則を利用していないもの」、
「技能」、
「情報の単なる提示」、
「美的創作
物」が共通に含まれており、これらについては、両国において特段の差異はない。
一方、日韓で扱いが異なる点は、コンピュータプログラム(ソフトウエア)関連発明
である。すなわち、両国においてコンピュータープログラム(ソフトウエア)関連発明
が産業上利用可能な発明に該当するか否かの基本的な考え方については、共通しており、
ハードウエア資源を用いるものであることが要求されているものの、日本では、コンピ
ュータプログラムを物としてカテゴライズし、直接特許法での保護対象としているのに
対し、韓国では、そもそもコンピュータープログラム自体を発明に該当しない類型とし
ており、当該プログラムを記録した記録媒体として請求しなければならず、プログラム
自体については、直接の保護が受けられないという点で、明確な差異を見せている。
また、日本では、発明の課題を解決するための手段として提示された手段が、課題を
解決することが明らかに不可能な場合も発明に該当しない類型として分類している。こ
れに対し、韓国では、反復して同一の効果を得ることができないもの、即ち、反復再現
58
性がない発明及び未完成発明を発明に該当しない類型として列挙しており、両国で若干
の違いがみられる。しかし、反復再現性がない発明及び未完成発明は、共に課題を解決
するための手段を充分に提示することができないものであるという点において、実務上
は、日本と大きな差異はないといえるだろう。
59
4.
「産業上利用することができる発明」に該当しないものの類型
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 1 章 2-2.1.3
2. 「産業上利用することができる発明」であ
ること
ここでいう「産業」は、広義に解釈する。この
「産業」には、製造業以外の、鉱業、農業、漁
業、運輸業、通信業なども含まれる。
なお、下記「2.1 「産業上利用することができ
る発明」に該当しないものの類型」のいずれに
も当たらないものは、原則として、「産業上利
用することができる発明」に該当する。
2.1 「産業上利用することができる発明」に該
当しないものの類型
2.1.1 人間を手術、治療又は診断する方法
人間を手術、治療又は診断する方法は、通常、
医師(医師の指示を受けた者を含む。以下同
じ。)が人間に対して手術、治療又は診断を実
施する方法であって、いわゆる「医療行為」と
言われているものである。
人間に対する避妊、分娩等の処置方法は、上記
「人間を手術、治療又は診断する方法」に含ま
れる。
なお、手術、治療又は診断する方法の対象が動
物一般であっても、人間が対象に含まれないこ
とが明らかでなければ、「人間を手術、治療又
は診断する方法」として取り扱う。
2.1.1.1 「人間を手術、治療又は診断する方法」
に該当するものの類型
(1) 人間を手術する方法(事例 8-1, 9-1, 10-1,
11-1, 12-1 参照)
人間を手術する方法には、以下のものが含まれ
る。
(a) 人体に対して外科的処置を施す方法(切
開、切除、穿刺(せんし)、注射、埋込を行う方
法等が含まれる。)
(b) 人体内(口内、外鼻孔内、外耳道内は除く。)
で装置(カテーテル、内視鏡等)を使用する方法
(装置を挿入する、移動させる、維持する、操
作する、取り出す方法等が含まれる。)
(c) 手術のための予備的処置方法(手術のため
の麻酔方法、注射部位の消毒方法等が含まれ
る。)
なお、人間を手術する方法には、美容・整形の
韓審第 3 部第 1 章 5-5.3
5. 産業上利用することができない発明
「産業上利用することができる発明」に該当し
ないものの代表的な類型は、次のとおりであ
る。
請求項に記載された発明がこの要件を充足さ
せていないとして拒絶理由を通知するときに
は、可能な限り具体的理由をあげて詳細に指摘
する。
5.1 医療行為
(1)産業上利用することができる発明に該当し
ない類型
①人間を手術したり、治療したり、又は診断す
る方法の発明、すなわち医療行為については、
産業上利用することができる発明に該当しな
いものとする。
医師(漢方医師を含む)又は医師の指示を受け
た者の行為でなくても、医療機器(例:メス等)
を利用して人間を手術したり、医薬品を使用し
て人間を治療する方法は、医療行為に該当する
ものとみる。
②請求項に医療行為を少なくとも一つの段階
又は不可分の構成要素として含んでいる方法
の発明は、産業上利用可能なものと認めない。
ための手術方法のように、治療や診断を目的と
しないものも含まれる。
(2) 人間を治療する方法(事例 13-1, 14-1,
15-1, 16-1, 17-1, 18-1, 22-1 参照)
人間を治療する方法には、以下のものが含まれ
③人体を処置する方法が治療効果と非治療効
果(例:美容効果)を同時に有する場合、治療効
果と非治療効果を区別及び分離することがで
きない方法は、治療方法とみなされ、産業上利
用可能なものと認めない。
(2)産業上利用することができる発明に該当す
る類型
①人間を手術したり、治療したり、又は診断に
使用するための医療機器それ自体、医薬品それ
自体等は、産業上利用することができる発明に
該当する。
②新規の医療機器の発明に並行する医療機器
の作動方法、又は医療機器を利用した測定方法
の発明は、その構成に人体と医療機器間の相互
作用又は実質的な医療行為を含む場合を除き、
産業上利用可能なものとして取り扱う。
③人間から自然に排出されたもの(例:尿、便、
胎盤、毛髪、爪)又は採取されたもの(例:血液、
皮膚、細胞、腫瘍、組織)を処理する方法は、
医療行為と分離可能な別個の段階からなるも
の、又は単純にデータを収集する方法である場
合、産業上利用可能なものとして取り扱う。
(3)医療行為が含まれた発明の審査の際の留意
60
る。
(a) 病気の軽減及び抑制のために、患者に投
薬、物理療法等の手段を施す方法
(b) 人工臓器、義手等の代替器官を取り付ける
方法
(c) 病気の予防方法(例:虫歯の予防方法、風
邪の予防方法)
なお、健康状態を維持するために処置する方法
(d) 治療のための予備的処置方法(例:電気治
療のための電極の配置方法)、治療の効果を上
げるための補助的処置方法(例:機能回復訓練
方法)、又は看護のための処置方法(例:床ずれ
防止方法)
(3) 人間を診断する方法
人間を診断する方法は、医療目的で人間の病状
や健康状態等の身体状態若しくは精神状態に
ついて、又は、それらに基づく処方や治療・手
術計画について、判断する工程を含む方法をい
う。
2.1.1.2 「人間を手術、治療又は診断する方法」
に該当しないものの類型
(1) 医療機器、医薬自体は、物であり、「人間
を手術、治療又は診断する方法」に該当しない。
複数の物を組み合わせた物も、「人間を手術、
治療又は診断する方法」に該当しない。(事例
13-2, 14-2, 15-2 参照)
(2) 医療機器の作動方法は、医療機器自体に備
わる機能を方法として表現したものであり、
「人間を手術、治療又は診断する方法」に該当
しない。ここでいう医療機器の作動方法には、
医療機器内部の制御方法に限らず、医療機器自
体に備わる機能的・システム的な作動、例えば、
操作信号に従った切開手段の移動や開閉作動
あるいは放射線、電磁波、音波等の発信や受信
が含まれる。(事例 8-2, 9-2, 10-2,11-2, 12-2,
16-2~16-4, 17-2, 18-2, 19-2, 20-2, 24-2,
25-3 参照)
一方、請求項に係る発明の発明特定事項とし
て、医師が行う工程(例:医師が症状に応じて
処置するために機器を操作する工程)や機器に
よる人体に対する作用工程(例:機器による患
者の特定部位の切開・切除、あるいは、機器に
よる患者の特定部位への放射線、電磁波、音波
等の照射)を含む方法は、ここでいう医療機器
の作動方法には該当しない。
(3) 人間の身体の各器官の構造・機能を計測す
るなどして人体から各種の資料を収集するた
めの以下の方法は、医療目的で人間の病状や健
康状態等の身体状態若しくは精神状態につい
て、又は、それらに基づく処方や治療・手術計
事項
一般的に、人間を手術、治療、診断する方法に
利用することができる発明の場合には、産業上
の利用可能性がないものとみるが、それが人間
以外の動物にのみ限定するという事実が特許
請求の範囲に明示されていれば、産業上利用す
ることができる発明として取り扱う(大法院
1991.3.12.宣告 90 フ 250 判決参照)。
5.2 業として利用することができない発明
個人的又は実験的、学術的にのみ利用すること
ができ、業として利用される可能性がない発明
は、産業上利用することができる発明に該当し
ないものとして取り扱う。しかし、個人的又は
実験的、学術的に利用されることができるもの
であっても、市販又は営業の可能性があるもの
は、産業上利用することができる発明に該当す
る。
5.3 現実的に明らかに実施できない発明
理論的にはその発明を実施することができる
としても、その実施が現実的にまったく不可能
であるという事実が明らかな発明は、産業上利
用することができる発明に該当しないものと
して取り扱う。
(例)オゾン層の減少に伴う紫外線の増加を防
止するために、地球の表面全体を紫外線吸収プ
ラスチックフイルムで覆う方法 等
ただし、その発明が実際に又は直ちに産業上利
用されることが必要ではなく、将来に利用され
る可能性があれば、産業上利用することができ
る発明であると判断する。ここで、特許出願さ
れた発明が出願日当時でなく将来に産業的に
利用される可能性があるとしても、特許法が要
求する産業上の利用可能性の要件を満たすと
いう法理は、当該発明の産業的実施化が将来に
あってもよいという意味であるだけで、将来、
関連技術の発展に伴い技術的に補完されて、将
来に初めて産業上の利用可能性が生じる場合
まで含むものではない(大法院 2003.3.14.宣告
2001 フ 2801 判決参照)。
61
画について、判断する工程を含まない限り、人
間を診断する方法に該当しない。(事例 19-1,
20-1, 21 参照)
(a) 人体から試料又はデータを収集する方法、
人体から収集された試料又はデータを用いて
基準と比較するなどの分析を行う方法。
(b) 人間の各器官の構造・機能の計測のための
予備的処置方法。
2.1.1.3 人間から採取したものを処理する方
法について
人間から採取したもの(例:血液、尿、皮膚、
髪の毛、細胞、組織)を処理する方法、又はこ
れを分析するなどして各種データを収集する
方法は、
「人間を手術、治療又は診断する方法」
に該当しない。(事例 25-2 参照)
ただし、採取したものを採取した者と同一人に
治療のために戻すことを前提にして、採取した
ものを処理する方法(例:血液透析方法)又は採
取したものを処理中に分析する方法は、「人間
を手術、治療又は診断する方法」に該当する。
(事例 24-1, 25-1 参照)
人間から採取したものを採取した者と同一人
に治療のために戻すことを前提にして処理す
る方法であっても、以下のものは、「人間を手
術、治療又は診断する方法」に該当しない。(事
例 22-2, 23-1, 23-2, 23-3 参照)
(1) 人間から採取したものを原材料として医
薬品(例:血液製剤、ワクチン、遺伝子組換製
剤、細胞医薬)を製造するための方法。
(2) 人間から採取したものを原材料として医
療材料(例:人工骨、培養皮膚シート等の、身
体の各部分のための人工的代用品又は代替物)
を製造するための方法。
(3) 人間から採取したものを原材料として、医
薬品又は医療材料の中間段階の生産物を製造
するための方法(例:細胞の分化誘導方法、細
胞の分離・純化方法)。
(4) 人間から採取したものを原材料として製
造された医薬品又は医療材料、又はその中間段
階の生産物を分析するための方法。
2.1.2 その発明が業として利用できない発明
市販又は営業の可能性のあるものについての
発明は業として利用できる発明に当たる。これ
に対し、次の(ⅰ)、(ⅱ)は、その発明が業とし
て利用できない発明であって、「産業上利用す
ることができる発明」に該当しない。
(ⅰ) 喫煙方法のように、個人的にのみ利用さ
れる発明
(ⅱ) 学術的、実験的にのみ利用される発明
ただし、「髪にウエイブをかける方法」のよう
62
に、個人的に利用されうるものであっても、業
として利用できる発明であれば、「個人的にの
み利用される発明」に当たらない。また、学校
において使用される「理科の実験セット」のよ
うに、実験に利用されるものであっても、市販
又は営業の可能性があるものは、「学術的、実
験的にのみ利用される発明」に該当しない。
2.1.3 実際上、明らかに実施できない発明
理論的にはその発明を実施することは可能で
あっても、その実施が実際上考えられない場合
は、「産業上利用することができる発明」に該
当しない。
例:オゾン層の減少に伴う紫外線の増加を防ぐ
ために、地球表面全体を紫外線吸収プラスチッ
クフイルムで覆う方法。
解説;
産業上の利用可能性について、日韓共に基本的な考え方は、同様である。両国とも、
医療行為、業として利用することができない発明、現実的に明らかに実施することがで
きない発明を、産業上利用可能性がない発明として例示している。
ところで、医療行為に関して、韓国審査指針書では詳細な説明をしていないが、「医
薬化粧品分野審査実務ガイド」で細部指針を定めている。ヒトの手術、治療及び診断す
る方法を産業上利用可能性がない発明として定義していることは、日韓共に同様である
が、美容のための処置について、日本では美容・整形のための手術方法のように治療や
診断を目的としないことも産業上利用可能性がない手術方法に含まれると明示してい
る一方、韓国では美容効果と治療効果を区分することができないときに、産業上利用可
能性がないものとみなすと定めている。韓国では美容効果のみを有する手術方法は、産
業上利用可能な発明として取り扱われることが原則であるが、「医薬化粧品分野審査実
務ガイド」では、医療行為ではないとしても、身体を損傷する等の行為が含まれる方法
であって、韓法第 32 条の「公共の秩序若しくは善良な風俗を乱す、または公衆の衛生
を害するおそれがある発明」に該当する場合には、特許を付与することができないと記
載している。
また、日本では、人体から採取したものを同一人に戻すことを前提とする処理方法を
産業上利用可能性がない発明として明示しており、韓国でも同一の記載があったが削除
された。ただし、このような処理方法を産業上利用可能性のある発明として判断するか
否かは、結局、その行為が医療行為に該当するのか否による。
63
【新規性】
1.新規性に関する条文
日本特許法
韓国特許法
特許法第 29 条第 1 項(注)
産業上利用することができる発明をした者は、
次に掲げる発明を除き、その発明について特許
を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内において公然知られ
た発明
二 特許出願前に日本国内において公然実施を
された発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において頒
布された刊行物に記載された発明
韓法第 29 条第 1 項
①産業上利用できる発明であって、次の各号の
いずれか一に該当するものを除き、その発明に
ついて特許を受けることができる。
1. 特許出願前に、国内又は国外において公知
となり、又は公然実施をされた発明
2. 特許出願前に、国内又は国外において頒布
された刊行物に掲載され、又は電気通信回線を
通じて公衆に利用可能となった発明
(注)平成 12 年 1 月 1 日以降の出願に適用され
る条文は以下のとおり。
特許法第 29 条第 1 項
産業上利用することができる発明をした者は、
次に掲げる発明を除き、その発明について特許
を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公
然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公
然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、
頒布された刊行物に記載された発明又は電気
通信回線を通じて公衆に利用可能となった発
明
解説;
日韓とも、新規性及び進歩性に関する条文は、きわめて類似している。すなわち、①
特許出願前に国内又は外国で公知となった発明でないこと、 ②特許出願前に国内又は
外国で公然実施された発明でないこと、③特許出願前に国内又は外国で頒布された刊行
物に記載又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明ではないことを新規
性の要件としており、上述1~3の発明から当業者が容易に発明をすることができたも
のでないことが進歩性の要件となっている。ただし、新規性の判断については、日本で
はいわゆる完全同一であるのに対して、韓国では実質同一の範疇としており、両国大き
な差異がある(後述)
電気通信回線による先行技術に関し、日本では審査基準『第Ⅱ部第5章 インターネ
ット等の情報の先行技術としての取扱い』の部分に別途に記述されているが、韓国の審
査指針書では新規性の項目中に記述されている。電子的技術情報が公衆に利用可能な情
報であるものと、それを引用する際の引用文献等についての記載要領は、両国ともほと
64
んど類似する(【インターネット等の情報の先行技術としての取扱い】の項を参照のこ
と。)。
なお、2006 年 3 月 3 日付の韓国特許法法改正により、「国内において公知となり、又
は公然実施をされた発明」が「国内又は国外において公知となり、又は公然実施をされた
発明」に改正され、公知、公然実施が国際主義に拡大された。改正された規定は、2006
年 10 月 1 日以降の出願に適用される。
また、同様に 2013 年 7 月の韓国特許法改正により、電気通信回線を通じて公衆に利
用となった発明に関し、従前、電気通信回線の種類を大統領令に委任していたものを削
除し、電気通信回線の制限がなくなった。
65
2.新規性に関する趣旨
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 1.1
1.1 第 29 条第 1 項の規定の趣旨
特許制度の趣旨は発明の公開の代償として独
占権を付与するものであるから、特許権が付与
される発明は新規な発明でなければならない。
第 29 条第 1 項各号の規定は、新規性を有しな
い発明の範囲を明確にすべく、それらを類型化
して規定したものである。
韓審第 3 部第 2 章 2.
特許制度は、発明を公開する代償として特許権
を付与する制度であるので、既に一般的に知ら
れた発明については排他的独占権を付与しな
い。そのため、特許法第 29 条第 1 項では、特
許出願前に、国内又は国外において①公知とな
った発明、②公然実施をされた発明、③刊行物
に掲載された発明、④大統領令で定める電気通
信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
は新規性がない発明として特許を受けること
ができないようにしている。
解説;
韓国の審査指針書では、一般的に知られている発明に対して排他的独占権を与えない
と規定しているが、必ずしも一般的に知られている発明である必要はなく、どのような
形態でも新規ではない発明に対しては特許権を与えないという点では日本と同一であ
る。
66
3.条文の説明
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 1.2.1-1.2.4
1.2.1 特許出願前
「特許出願前」とは、「特許出願の日前」とは
異なり、出願の時分までも考慮したものであ
る。
したがって、例えば、午前中に日本国内にお
いて公知になった発明についてその日の午後
に特許出願がされたときは、その発明は特許出
願前に日本国内において公然知られた発明で
ある。また、ある発明が記載された刊行物が外
国において頒布された時間が、日本時間に換算
して午前中のとき、その発明についてその日の
午後に特許出願がされたときは、その発明は特
許出願前に外国において頒布された刊行物に
記載された発明である。
1.2.2 公然知られた発明
「公然知られた発明」とは、不特定の者に秘
密でないものとしてその内容が知られた発明
を意味する。
守秘義務を負う者から秘密でないものとし
て他の者に知られた発明は「公然知られた発
明」である。発明者又は出願人の秘密にする意
思の有無は関係しない。
学会誌などの原稿の場合、一般に、原稿が受
付けられても不特定の者に知られる状態に置
かれるものではないから、その原稿の内容が公
表されるまでは、その原稿に記載された発明は
公然知られた発明とはならない。
韓審第 3 部第 2 章 3. 規定の理解
3.1 公知となった発明
「公知となった発明」とは、特許出願前で、国
内又は国外においてその内容が秘密の状態と
して維持されず、不特定の者に知られたり知ら
れ得る状態にある発明を意味する。ここで、「特
許出願前」とは、特許出願日という概念ではな
く、特許出願の時・分・秒までをも考慮した自
然時(外国で通知された場合、韓国時間で換算
した時間)の概念である。また、「不特定の者」
とは、その発明に対する秘密遵守の義務がない
一般公衆をいう。
3.2 公然実施をされた発明
「公然実施をされた発明」は、国内や国外にお
いて、その発明の公然と知られた状態又は公然
と知られ得る状態で実施(実施の定義について
は、特許法第2条第3号参照 照)されているこ
とを意味する。
(例) 不特定の者に工場を見学させた場合に
は、その製造状況を見ればその技術分野におけ
る通常の知識を有する者がその技術内容を知
り得る状態であるときには「公然実施」をされ
たものとする。
また、その製造状況を見た場合において、製
造工程の一部については装置の外部を見ても
その製造工程の内容を知ることができないも
のであって、その内容を知ることができなけれ
ばその技術全体を知り得ない場合であっても、
見学者がその装置の内部を見ること、又はその
1.2.3 公然実施をされた発明
内部について工場の従業員から説明を聞くこ
「公然実施をされた発明」とは、その内容が公 とができる状況(工場側で説明を拒否しない)
然知られる状況(注 1)又は公然知られるおそ にあってその内容を知り得るときには、その技
れのある状況(注 2)で実施をされた発明を意 術は、公然実施をされたものとする。
味する(注 3)
。
3.3 頒布された刊行物に掲載された発明
(注 1)「公然知られる状況」とは、例えば、工 3.3.1 刊行物
場であるものの製造状況を不特定の者に見学
「刊行物」とは、「一般公衆に公開する目的で
させた場合において、その製造状況を見れば当 印刷その他の機械的、化学的方法により複製さ
業者がその発明の内容を容易に知ることがで れた文書、図面、その他これと類似する情報伝
きるような状況をいう。
達媒体」をいう。ここで、一般公衆に対し頒布
(注 2)「公然知られるおそれのある状況」とは、 により公開することを目的として複製された
例えば、工場であるものの製造状況を不特定の ものとは、必ずしも公衆の閲覧のためにあらか
者に見学させた場合において、その製造状況を じめ公衆の要求を満たすことができる程度の
見た場合に製造工程の一部については装置の 部数が原本から複製され一般公衆に提供され
外部を見てもその内容を知ることができない ていなければならないことではなく、原本が公
ものであり、しかも、その部分を知らなければ 開されてその複写物が公衆の要求に即応して
その発明全体を知ることはできない状況で、見 交付される状態にあれば、刊行物と認めること
学者がその装置の内部を見ること、又は内部に ができる。
67
ついて工場の人に説明してもらうことが可能
な状況(工場で拒否しない)をいう。
(注 3)その発明が実施をされたことにより公然
知られた事実がある場合は、第 29 条第 1 項第
1 号の「公然知られた発明」に該当するから、
同第 2 号の規定は発明が実施をされたことに
より公然知られた事実が認められない場合で
も、その実施が公然なされた場合を規定してい
ると解される。
1.2.4 頒布された刊行物に記載された発明
(1)頒布された刊行物
「刊行物」とは、公衆に対し頒布により公開
することを目的として複製された文書、図面そ
の他これに類する情報伝達媒体をいう。
「頒布」とは、上記のような刊行物が不特定
の者が見得るような状態におかれることをい
う。現実に誰かがその刊行物を見たという事実
を必要としない。
(2)頒布された時期の取扱い
①刊行物に発行時期が記載されている場合は
次のように推定する。
(ⅰ)発行の年のみが記載されているときは、そ
の年の末日
(ⅱ)発行の年月が記載されているときは、その
年月の末日
(ⅲ)発行の年月日まで記載されているときは、
その年月日
②刊行物に発行時期が記載されていない場合
(ⅰ)外国刊行物で国内受入れの時期が判明し
ているときは、その受入れの時期から発行国か
ら国内受入れまでに要する通常の期間さかの
ぼった時期に、頒布されたものと推定する。
(ⅱ)当該刊行物につき、書評、抜粋、カタログ
などを掲載した刊行物があるときは、その発行
時期から、当該刊行物の頒布時期を推定する。
(ⅲ)当該刊行物につき、重版又は再版などがあ
り、これに初版の発行時期が記載されていると
きは、それを頒布時期と推定する。
(ⅳ)その他適当な手掛かりがあるときは、それ
から頒布時期を推定又は認定する。
③特許出願の日と刊行物の発行日とが同日の
場合の取扱い
特許出願の日と刊行物の発行日とが同日の
場合は、特許出願の時が刊行物の発行の時より
も後であることが明らかな場合のほかは、頒布
時期は特許出願前であるとはしない。
(3)刊行物に記載された発明
「刊行物に記載された発明」とは、刊行物に
記載されている事項及び記載されているに等
しい事項から把握される発明をいう。
3.3.2 頒布
「頒布」とは、上記刊行物が不特定の者が見る
ことのできる状態におかれることをいう。した
がって、不特定の者がその刊行物を現実に見た
という事実を必要とするものではない。
3.3.3 刊行物の頒布時期
刊行物の頒布時期については、次のように取
り扱う。
①刊行物に発行時期が記載されている場合
(a) 発行の年度のみが記載されているときに
は、その年度の末日
(b) 発行の年月が記載されているときには、そ
の年月の末日
(c) 発行の年月日まで記載されているときに
は、その年月日
②刊行物に発行時期が記載されていない場合
(a) 外国刊行物であって国内での入手時期が
明らかであるときは、その入手時期から発行国
から国内入手までに要する通常の期間を遡っ
た時期を立証することができる場合には、その
時に頒布されたものと推定することができる。
(b) 当該刊行物についての書評、抜粋、カタロ
グ等を掲載した刊行物があるときには、その発
行時期から当該刊行物の頒布時期を推定する。
(c) 当該刊行物についての重版、又は再版等を
利用する場合は、その刊行物の頒布時期は、初
版が発行された時期に発行されたものと推定
する。ただし、再版又は重版において追加され
た内容や変更された内容がある場合には、引用
する部分の内容が初版と一致することを前提
とする。
(d) その他、適当な根拠があるときには、それ
らから頒布時期を推定又は認定する。
3.3.4 刊行物に掲載された発明
「刊行物に掲載された発明」とは、その文献に直
接的かつ明確に記載されている事項、及び文献
に明示的には記載されていないが、事実上記載
されていると認められる事項により把握され
る発明をいう。
ここで「事実上記載されていると認められる
事項」とは、その発明が属する技術の分野にお
いて通常の知識を有する者がその刊行物の頒
布時に刊行物に記載された事項から把握して
導き出すことができる事項を含む。この場合に
は、刊行物頒布時における技術常識を参酌す
る。
韓審第 3 部第 2 章 4. 新規性の判断
(1)新規性の判断とは、請求項に記載された発
明が特許法第 29 条第 1 項各号のいずれか一に
68
「記載されているに等しい事項」とは、記載
されている事項から本願出願時における技術
常識(注)を参酌することにより導き出せるも
のをいう。
(注)技術常識とは、当業者に一般的に知られて
いる技術(周知技術、慣用技術を含む)又は経
験則から明らかな事項をいう。
なお、「周知技術」とは、その技術分野におい
て一般的に知られている技術であって、例え
ば、これに関し、相当多数の公知文献が存在し、
又は業界に知れわたり、あるいは、例示する必
要がない程よく知られている技術をいい、ま
た、「慣用技術」とは、周知技術であって、か
つ、よく用いられている技術をいう。
1.3 新規性判断の対象となる発明
新規性の判断の対象となる発明は、「請求項に
係る発明」である。
1.4 新規性の判断の基本的な考え方
新規性の有無は、請求項に係る発明が第 29 条
第 1 項各号に掲げる発明であるかどうかによ
って判断する。
特許請求の範囲に二以上の請求項がある場合
は、請求項ごとに判断する。
該当するか否かについての判断である。すなわ
ち、請求項に記載された発明が特許法第 29 条
第 1 項各号の一の発明と同一であれば新規性
がない発明であり、同一でなければ新規性があ
る発明である。
(2)請求項は、保護を受けようとする事項を記
載した項であるので(特§42④)、発明の同一性
は、原則として請求項に記載された事項から特
定される発明の同一性の有無によって判断す
る。
(3)特許請求の範囲に請求項が二以上ある場合
には、請求項ごとに新規性を判断する。
4.2.1 公知となった発明
(参考)技術常識とは、通常の技術者に一般的
に知られている技術(例えば、周知技術、慣用
技術)又は経験則から明白な事項をいう。
「周知
技術」とはその技術に関し相当多数の文献が存
在し、又は業界に知れわたり、あるいは例示す
る必要がない程よく知られた技術のように、そ
の技術分野において一般的に知られている技
術をいい、「慣用技術」とは、周知技術のうち
よく用いられている技術をいう。
4.2.4 引用発明の特定時の留意事項
(1)学会誌等の原稿の場合、一般に、原稿が受
け付けられてもその原稿の公表時までは不特
定の者が見得る状態におかれたものではない
ため、公知となった発明と認定しない。
(2)カタログとは、企業が自社の宣伝又は自社
製品の紹介・宣伝のために製作するものである
から、当該カタログが頒布されなかった特別な
事情がある場合を除き、製作されれば頒布され
たものと推定することができる。
(3)出願日と刊行物の発行日が同日の場合に
は、特許出願時点が刊行物の発行時点以降であ
るという事実が明白な場合を除き、その出願発
明は新規性が喪失されず、特許法第 29 条第 1
項第2号を適用しない。
(4)学位論文の頒布時点は、その内容が論文審
査の前後に公開された場所で発表された等の
特別な事情がない限り、最終審査を経て公共の
図書館若しくは大学の図書館等に入庫され、又
は不特定の者に配布された時点を頒布時期と
認定する。
解説;
新規性判断に関する時点、重要な概念である「公知」、「公用」、「頒布」、「刊行物」
等について日韓とも定義しており、両国ともその定義において特段の差異はない。
69
4.請求項に係る発明の認定
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 1.5.1
1.5 新規性の判断の手法
1.5.1 請求項に係る発明の認定
韓審第 3 部第 2 章 4.1.請求項に記載された発
明の特定
4.1.1 発明の特定の一般原則
請求項に係る発明の認定は、請求項の記載に
基づいて行う。この場合においては、明細書及
び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮
して請求項に記載された発明を特定するため
の事項(用語)の意義を解釈する。
(1)請求項の記載が明確である場合には、請求
項に記載されたとおりに発明を特定する。
請求項に係る発明の認定の具体的な運用は
以下のとおり。
請求項に記載された用語は、用語の意味が発
明の詳細な説明に明示的に定義され特定の意
味を有する場合を除き、その用語について当該
技術分野において通常受け入れられる意味及
び範囲を有するものと解釈する。文言の一般的
(1) 請求項の記載が明確である場合は、請求項
の記載どおりに請求項に係る発明を認定する。
この場合、請求項の用語の意味は、その用語が
有する通常の意味と解釈する。
な意味を基礎とし、出願時の技術常識を考慮し
てその文言によって表現しようとする技術的
意義を考察することにより、客観的・合理的に
解釈しなければならない。
(2) ただし、請求項の記載が明確であっても、
請求項に記載された用語(発明特定事項)の意
味内容が明細書及び図面において定義又は説
明されている場合は、その用語を解釈するにあ
たってその定義又は説明を考慮する。なお、請
求項の用語の概念に含まれる下位概念を単に
例示した記載が発明の詳細な説明又は図面中
にあるだけでは、ここでいう定義又は説明には
該当しない。
また、請求項の記載が明確でなく理解が困難
であるが、明細書及び図面の記載並びに出願時
の技術常識を考慮して請求項中の用語を解釈
すれば請求項の記載が明確にされる場合は、そ
の用語を解釈するにあたってこれらを考慮す
る。
(3) 明細書及び図面の記載並びに出願時の技
術常識を考慮しても請求項に係る発明が明確
でない場合 第Ⅱ部 第 2 章 新規性・進歩性
は、請求項に係る発明の認定は行わない。
(4) 請求項の記載に基づき認定した発明と明
細書又は図面に記載された発明とが対応しな
いことがあっても、請求項の記載を無視して明
細書又は図面の記載のみから請求項に係る発
明を認定してそれを審査の対象とはしない。
また、明細書又は図面に記載があっても、請
求項には記載されていない事項(用語)は、請求
項には記載がないものとして請求項に係る発
明の認定を行う。反対に、請求項に記載されて
いる事項(用語)については必ず考慮の対象と
し、記載がないものとして扱ってはならない。
(2)請求項に記載された発明の技術構成が明確
に理解できる場合には、発明の技術内容を特定
するにあたって、請求項の記載を基礎とすべき
であるばかりでなく、発明の詳細な説明や図面
の記載によって制限解釈してはならない。
発明の詳細な説明又は図面に記載されてい
るが請求項に記載されていない事項は、請求項
には記載されていないものとして発明を特定
し、反対に、請求項に記載されている事項につ
いては必ず考慮して発明を特定しなければな
らない。
・・・
(3)出願人が、ある用語を当該技術分野におけ
る通常の意味でなく特定の意味を持たせるた
めに、詳細な説明において、その用語の意味が
当該技術分野において理解される通常の意味
と異なるということを通常の技術者が明確に
理解できるように明示的に定義した場合には、
その用語はその特定の意味を有すると解釈す
る。
・・・
(4)請求項に記載された用語の意味が不明確で
ある場合には、発明の詳細な説明又は図面及び
出願時の技術常識を参酌して発明が把握が可
能であるのかを検討し、詳細な説明又は図面及
び出願時の技術常識を参酌したときに発明の
把握が可能である場合には、明細書等の記載不
備と新規性についての拒絶理由を一括して通
知することができる。
(5)発明の詳細な説明又は図面及び出願時の技
術常識を参酌して解釈しても、請求項に記載さ
れた用語の意味・内容が不明確で発明を特定す
ることができない場合には、新規性に対する審
査を行わず、明細書等の記載不備を理由に拒絶
理由を通知する。
70
解説;
請求項に係る発明の認定は、日韓とも、明細書等において特定の意味を有するものとし
て定義等がなされていない限り、技術常識を考慮しつつ請求項に記載されたとおりのも
のとして認定することとしており、両国の間で特段の差異はない。ただし、日本の場合
は、「明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して請求項に記載された発
明を特定するための事項(用語)の意義を解釈する」とする一方、韓国の場合、「その用
語について当該技術分野において通常受け入れられる意味及び範囲を有するものと解
釈する。文言の一般的な意味を基礎とし、出願時の技術常識を考慮してその文言によっ
て表現しようとする技術的意義を考察することにより、客観的・合理的に解釈しなけれ
ばならない」としており、明細書等の記載を可能な限り排除するように規定している。
このような点で、請求項の解釈は請求項の記載に基づいて行うという原則は日韓で共通
しているものの、韓国ではより請求項の記載に厳格な立場であることが伺える。
その他、請求項の記載が明確でない場合、日韓とも明細書等の記載を参酌する点でも
原則的に共通しているところ韓国では記載不備を理由とする拒絶理由を通知すること
としている。その際、記載不備の理由として、請求項に係る発明の明確性要件が通知さ
れるのか、あるいはサポート要件、実施可能要件が通知されるのかなどについては、両
国で多少の温度差が生じるものと考えられる。
71
5.機能・作用等特定の表現を有する請求項に係る発明の認定
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 1.5.2
1.5.2 特定の表現を有する請求項における発
明の認定の具体的手法
(1) 作用、機能、性質又は特性(以下、
「機能・
特性等」という。)を用いて物を特定しようと
する記載がある場合
①請求項中に機能・特性等を用いて物を特定し
ようとする記載がある場合には、1.5.1⑵にし
たがって異なる意味内容と解すべき場合(注)
を除き、原則として、その記載は、そのような
機能・特性等を有するすべての物を意味してい
ると解釈する。例えば、「熱を遮断する層を備
えた壁材」は「断熱という作用ないしは機能を
有する層」という「物」を備えた壁材と解する。
②ただし、その機能・特性等が、その物が固有
韓審第 3 部第 2 章 4.1.2 特殊な表現を含む場
合の発明の特定の原則
(1)作用、機能、性質又は特性(以下、「機能・
特性等」という)を用いて物を特定する場合
請求項を記載するときには、保護を受けよう
とする事項を明確にすることができるように、
発明を特定するのに必要であると認められる
構造、方法、機能、物質又はこれらの結合関係
等を記載することができるので、請求項に記載
に有しているものである場合は、その記載は物
を特定するのに役に立っておらず、その物自体
を意味しているものと解する。
③また、出願時の技術常識を考慮すると、その
ような機能・特性等を有するすべての物のうち
特定の物を意味しているとは解釈すべきでな
い場合がある。
例えば「木製の第一部材と合成樹脂製の第二部
材を固定する手段」という請求項の記載におい
ては、「固定する手段」は、すべての固定手段
のうち溶接等のような金属に使用される固定
手段は意味していないことは明らかである。
(2) 物の用途を用いてその物を特定しようと
する記載(用途限定)がある場合
請求項中に、「~用」といった、物の用途を
用いてその物を特定しようとする記載(用途限
定)がある場合には、明細書及び図面の記載並
びに出願時の技術常識をも考慮して、その用途
限定が請求項に係る発明を特定するための事
項としてどのような意味を有するかを把握す
る。(請求項に係る発明を特定するための事項
としての意味が理解できない場合は、第 36 条
第 6 項第 2 号違反となり得ることに留意する。)
ただし、「~用」といった用途限定が付された
化合物(例えば、用途Y用化合物Z)について
は、このような用途限定は、一般に、化合物の
有用性を示しているに過ぎないため、以下の
①、②に示される考え方を適用するまでもな
く、用途限定のない化合物(例えば、化合物Z)
そのものであると解される。この考え方は、化
合物の他、微生物にも同様に適用される。
① 用途限定がある場合の一般的な考え方
された機能・特性等が発明の内容を限定する事
項として含まれている以上、これを発明の構成
から除外して解釈することはできない。
請求項に機能・特性等を用いて物を特定しよ
うとする記載がある場合には、詳細な説明にお
いて特定の意味を有するよう明示的に定義し
ている場合を除き、原則としてその記載はその
ような機能・特性等を有するすべての物を意味
していると解釈する。
ただし、出願時の技術常識を参酌したとき
に、そのような機能・特性等を有するすべての
物のうち特定の物を意味しているものと解釈
すると困難な場合があり得るという事実に留
意すべきである。
(2)用途を限定して物を特定する場合
請求項に用途を限定する記載が含まれてい
る場合には、詳細な説明及び図面の記載並びに
当該技術分野の出願時の技術常識を参酌して、
その用途で使用するのに特に適した物のみを
意味していると解釈する。
請求項に記載されたすべての技術的特徴を
含む物であっても、当該用途で使用するのに不
適当であったり、又はその用途で使用するため
に変更が必要であると認められる場合には、そ
の物に該当しないものと取り扱う。例えば「~
の形状を有するクレ-ン用フック」とは、クレ
-ンに用いるのに特に適した大きさや強さ等
を持つ構造のフックを意味すると解釈し、同様
の形状の「釣り用フック」とは構造の点で相異
なる物を意味すると解釈するのが適切である。
もし、明細書及び図面の記載と出願時の技術
常識とを参酌したときに、用途を限定して特定
しようとする物がその用途にのみ特に適した
ものではないと認められる場合には、用途限定
事項が発明の特定にいかなる意味も有してい
ないものと解釈し、新規性等の判断に影響は及
ぼさないものとして取り扱う。
(3)製造方法により物を特定する場合
72
用途限定が、明細書及び図面の記載並びに出願
時の技術常識をも考慮して、その用途に特に適
した形状、構造、組成等(以下、単に「構造等」
という。)を意味すると解することができる場
合のように、用途限定が付された物が、その用
途に特に適した物を意味すると解される場合
は、その物は用途限定が意味する構造等を有す
る物であると解する。
したがって、請求項に係る発明の発明特定事
項と引用発明特定事項とが、用途限定以外の点
で相違しない場合であっても、用途限定が意味
する構造等が相違すると解されるときは、両者
は別異の発明である。
一方、用途限定が付された物が、明細書及び
図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮
しても、その用途に特に適した物を意味してい
ると解することができない場合には、その用途
限定は、下記②の用途発明と解すべき場合に該
当する場合を除き、物を特定するための意味を
有しているとはいえない。
したがって、この場合、請求項に係る発明の
発明特定事項と引用発明特定事項とが、用途限
定以外の点で相違しない場合は、両者は別異の
発明であるとすることはできない。
② 用途限定が付された物の発明を用途発明と
解すべき場合の考え方
一般に、用途発明は、ある物の未知の属性を
発見し、この属性により、当該物が新たな用途
への使用に適することを見いだしたことに基
づく発明と解される。
物の発明の特許請求の範囲は、特別な事情が
ない限り、発明の対象である物の構成を直接特
定する方式で記載しなければならないので、物
の発明の特許請求の範囲にその物を製造する
方法が記載されているとしても、その製造方法
により物を特定せざるを得ない等の特別な事
情がない以上、当該出願発明の新規性・進歩性
等を判断するにあたっては、その製造方法自体
は考慮する必要はなく、その特許請求の範囲の
記載により物として特定される発明のみをそ
の出願前に公知となった発明等と比較する。こ
こでいう特別な事情とは、物の構造や物性等、
出願時に当該技術分野において通常の方法に
よって物を特定することが困難である場合な
どを意味するものであって、きわめて例外的に
認められるものである。
請求項中に製造方法によって生産物を特定
しようとする記載がある場合には、詳細な説明
において特別な意味を有するよう明示的に定
義した場合を除き、その記載は最終的に得られ
た生産物自体を意味しているものと解釈する。
したがって、請求項に記載された製造方法とは
異なる方法によって同一の物を製造すること
ができ、その物が公知である場合には、当該請
求項に記載された発明の新規性は否定される。
出願人が「専らAの方法によって製造された
Z」のように記載して、特定の方法によって製
造された物のみに請求の範囲を限定しようと
していることが明白な場合であっても同様に
取り扱う。
そして、請求項中に用途限定がある場合であ (4)請求項を前提部と特徴部とに分けて記載し
って、請求項に係る発明が、ある物の未知の属 た場合
性を発見し、その属性により、その物が新たな
請求項の記載形式により請求項の技術的範
用途に適することを見いだしたことに基づく 囲に差異が生じるものではないので、請求項を
発明といえる場合には、当該用途限定が請求項 前提部と特徴部とに分けて記載した、いわゆる
に係る発明を特定するための事項という意味 ジェプソン形式(Jepson type)の請求項の場合
を有するものとして、請求項に係る発明を、用 であっても、前提部を含めた全体から発明を特
途限定の観点も含めて解することが適切であ 定する。
る。したがって、この場合は、たとえその物自
このとき、前提部に記載があるという事実の
体が既知であったとしても、請求項に係る発明 みをもって、前提部に記載された構成要素が公
は、用途発明として新規性を有し得る(例 4)。 知となったものと判断すべきではない。なぜな
ただし、未知の属性を発見したとしても、その ら、請求項に記載された構成要素が出願前に公
技術分野の出願時の技術常識を考慮し、その物 知となったものであるか否かは事実関係の問
の用途として新たな用途を提供したといえな 題であり、請求の範囲の記載形式により歴史的
ければ、請求項に係る発明の新規性は否定され 事実関係が確定するものではないためである。
る。また、請求項に係る発明と引用発明とが、 また、前提部に記載されたすべての構成要素が
表現上の用途限定の点で相違する物の発明で 公知となったものであるとしても、公知となっ
あっても、その技術分野の出願時の技術常識を た構成要素を含めた有機的一体としての発明
考慮して、両者の用途を区別することができな 全体の技術思想が判断の対象となるのである
い場合は、請求項に係る発明の新規性は否定さ から、そのうち公知となった前提部を除く残り
73
れる。
(3) 製造方法によって生産物を特定しようと
する記載がある場合(プロダクト・バイ・プロ
セス・クレーム)
の特徴部の構成要素のみをもって先行技術と
対比してはならない。
請求項中に製造方法によって生産物を特定
しようとする記載がある場合には、1.5.1⑵に
したがって異なる意味内容と解すべき場合を
除き、その記載は最終的に得られた生産物自体
を意味しているものと解する。したがって、請
求項に記載された製造方法とは異なる方法に
よっても同一の生産物が製造でき、その生産物
が公知である場合は、当該請求項に係る発明は
新規性が否定される。
解説;
日韓ともに請求項に機能・特性等を用いて物を特定しようとする記載がある場合には、
原則としてその記載はそのような機能・特性等を有するすべての物を意味していると解
釈しており、特段の相違は見られない。また、韓国では、これを発明の構成から除外し
て解釈することはできないと厳格に規定する一方、日本はその機能・特性等が、その物
が固有に有しているものである場合は、その記載は物を特定するのに役に立っておらず、
その物自体を意味しているものと解するとしているが、このような場合は、機能・特性
等を除外しようがしまいが、結局その物自体に帰着すると思われるため、結果として両
国の発明の認定に際はないものと思われる。
次に、用途限定発明については、日本が非常に詳細に規定しているものの、日韓と
もに用途限定が付された物がその用途に特に適した物を意味すると解される場合は、そ
の物は用途限定が意味する構造等を有する物であると解し、逆に、その用途に特に適し
た物を意味していると解することができない場合には、その用途限定は原則その物を特
定するための意味をなさないとしており、やはり両国で特段の差異は見られない。ただ
し、日本の場合、「請求項に係る発明が、ある物の未知の属性を発見し、その属性によ
り、その物が新たな用途に適することを見いだしたことに基づく発明といえる場合には、
当該用途限定が請求項に係る発明を特定するための事項という意味を有するものとし
て、請求項に係る発明を、用途限定の観点も含めて解することが適切である」としてい
る。そのため、両国間で若干の温度差が生じる可能性は残る。また、いわゆるプロダク
トバイプロセスクレームについてであるが、日韓ともに、特段の事情がない限り、まず
は最終的に得られた物として発明を認定し、製造方法自体は考慮しないという点で原則
は共通している。ただし、日本の場合、明細書等の定義により特定の意味を持つものと
して解釈される場合は、明細書等に記載された製造方法も考慮するとしているのに対し、
韓国では、「詳細な説明において特別な意味を有するよう明示的に定義した場合」には
これを考慮する旨規定しつつも、プロダクトバイプロセスクレームは、「通常の方法に
74
よって物を特定することが困難」であるなど場合に限り、
「極めて例外的に認められる」
としており、やはり両国間で若干の温度差が生じる可能性はぬぐえない
さらに、韓国では、いわゆるジェプソン形式について特別に言及しているが、ここで
述べられている事項は、発明の認定の原則どおりであるため、日韓間に特に差はない。
このように、請求項に係る発明の認定は、日韓でほぼ同じであるといえるが、個別事
案によっては異なる認定がなされる可能性が残されている。
75
6.引用発明の認定
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 1.5.3
1.5.3 第 29 条第 1 項各号に掲げる発明として
引用する発明(引用発明)の認定
(1) 公然知られた発明
公然知られた発明は、人を媒体として不特定
の者により現実に知られた発明であり、通常、
講演、説明会等を介して知られることが多い。
その場合は、講演、説明会等の内容において説
明されている事実から発明を認定する。
説明されている事実の解釈にあたっては、技
術常識を参酌することができ、講演、説明会等
の時における技術常識を参酌することにより、
そのような事実から導き出される事項も、公然
知られた発明の認定の基礎とすることができ
る。
(2) 公然実施をされた発明
公然実施をされた発明は、機械装置、システ
ムなどを媒体として、不特定の者に公然知られ
る状況又は公然知られるおそれのある状況に
おいて実施された発明であるから、媒体となっ
た機械装置、システムなどに化体されている事
実から発明を認定する。機械装置、システムな
どに化体されている事実の解釈にあたっては、
技術常識を参酌することができ、そのような事
実から実施された時における技術常識を参酌
することにより導き出される事項も、公然実施
された発明の認定の基礎とすることができる。
(3) 刊行物に記載された発明
①「刊行物に記載された発明」は、「刊行物に
記載されている事項」から認定する。記載事項
の解釈にあたっては、技術常識を参酌すること
ができ、本願出願時における技術常識を参酌す
ることにより当業者が当該刊行物に記載され
ている事項から導き出せる事項(「刊行物に記
載されているに等しい事項」という。) も、刊
行物に記載された発明の認定の基礎とするこ
とができる。すなわち、「刊行物に記載された
発明」とは、刊行物に記載されている事項及び
記載されているに等しい事項から当業者が把
握できる発明をいう。
したがって、刊行物に記載されている事項及
び記載されているに等しい事項から当業者が
把握することができない発明は「刊行物に記載
された発明」とはいえず、「引用発明」とする
ことができない。例えば、ある「刊行物に記載
されている事項」がマーカッシュ形式で記載さ
れた選択肢の一部であるときは、当該選択肢中
韓審第 3 部第 2 章 4.2-4.2.4
4.2 引用発明の特定
特許法第 29 条第 1 項各号のいずれか一に規
定する発明として新規性判断の際に対比され
る発明(以下、「引用発明」という)の特定は、次
のように行う。
4.2.1 公知となった発明
公知となった発明は、その内容が秘密状態に
維持されずに、不特定の者に知らされ、又は知
らされる状態にある発明を意味すると共に、そ
の公知となった内容に基づいて発明を特定す
る。この場合、発明の公知時の技術常識を参酌
して、その公知となった内容から通常の技術者
が自明であるように把握できる事項も公知と
なったとみなし、これに基づいて発明を特定す
る。
4.2.2 公然実施をされた発明
公然実施された発明とは、その発明が実施さ
れることによって不特定の者に知られるよう
になった場合をいうので、その発明が公知であ
るかについては判断する必要はなく、その発明
の公然実施の有無についてのみ判断すれば充
分である。
公然実施をされた発明は、通常、機械装置、
システム等を媒体として不特定の者に公然と
知られた、又は公然と知られるおそれのある状
況において実施された発明であるから、媒体と
なる機械装置、システム等に化体されている事
実にから発明を特定する。この場合において
も、実施当時の技術常識を参酌して、通常の技
術者が自明に把握できる事項は公然実施をさ
れたとものとし、これに基づいて発明を特定す
る。
4.2.3 頒布された刊行物に掲載された発明
刊行物に掲載された発明は、その文献に直接
的かつ明確に記載されている事項から特定す
ることが原則であるが、その文献に明示的には
記載されていなくても、事実上記載されている
と認められる事項であれば、発明の特定に利用
することができる。ここで、事実上記載されて
いると認められる事項とは、刊行物頒布時の技
術常識を参酌して、通常の技術者が自明に把握
できる事項をいう。
4.4 新規性の判断時の留意事項
(1)請求項に記載された発明と引用発明が各々
上位概念及び下位概念で表現された場合には、
76
のいずれか一のみを発明を特定するための事
項とした発明を当業者が把握することができ
るか検討する必要がある。
②また、ある発明が、当業者が当該刊行物の記
載及び本願出願時の技術常識に基づいて、物の
発明の場合はその物を作れ、また方法の発明の
場合はその方法を使用できるものであること
が明らかであるように刊行物に記載されてい
ないときは、その発明を「引用発明」とするこ
とができない。
したがって、例えば、刊行物に化学物質名又
は化学構造式によりその化学物質が示されて
いる場合において、当業者が本願出願時の技術
常識を参酌しても、当該化学物質を製造できる
ことが明らかであるように記載されていない
ときは、当該化学物質は「引用発明」とはなら
ない(なお、これは、当該刊行物が当該化学物
質を選択肢の一部とするマーカッシュ形式の
請求項を有する特許文献であるとした場合に、
その請求項が第 36 条第 4 項第 1 号の実施可能
要件を満たさないことを意味しない)。
(4) 引用発明の認定における上位概念及び下
位概念で表現された発明の取扱い
①引用発明が下位概念で表現されている場合
は、発明を特定するための事項として「同族的
若しくは同類的事項、又は、ある共通する性質」
を用いた発明を引用発明が既に示しているこ
とになるから、上位概念(注 1)で表現された発
明を認定できる。なお、新規性の判断の手法と
して、引用発明が下位概念で表現されている場
合でも、上位概念で表現された発明を認定せず
に、対比、判断の際に、上位概念で表現された
請求項に係る発明の新規性を判断することが
できる。
②引用発明が上位概念で表現されている場合
は、下位概念で表現された発明が示されている
ことにならないから、下位概念で表現された発
明は認定できない(ただし、技術常識を参酌す
ることにより、下位概念で表現された発明が導
き出せる場合(注 2)は認定できる)。
(注 1)「上位概念」とは、同族的若しくは同類
的事項を集めて総括した概念、又は、ある共通
する性質に基づいて複数の事項を総括した概
念をいう。
(注 2)概念上、
下位概念が上位概念に含まれる、
あるいは上位概念の用語から下位概念の用語
を列挙することができることのみでは、下位概
念で表現された発明が導き出せる(記載されて
いる)とはしない。
次のように取り扱う。
①請求項に記載された発明が上位概念で表現
され、引用発明が下位概念で表現されている場
合、請求項に記載された発明は、新規性がない
発明である。ここで「上位概念」とは、同族的又
は同類的事項を集めて総括した概念、又はある
共通の性質に基づいて複数の事項を総括した
概念を意味する。
②請求項に記載された発明が下位概念で表現
され、引用発明が上位概念で表現されている場
合、通常、請求項に記載された発明は、新規性
がある。ただし、出願時の技術常識を参酌して
判断した結果、上位概念で表現された引用発明
から下位概念で表現された発明を自明に導き
出すことができる場合には、下位概念で表現さ
れた発明を引用発明と特定して、請求項に記載
された発明の新規性を否定することができる。
このとき、単に、概念上において下位概念が
上位概念に含まれる、又は、上位概念の用語か
ら下位概念の要素を列挙できるという事実の
みでは、下位概念で表現された発明が自明に導
き出すことができるとはいえない。
77
解説;
日韓とも、引用発明の認定において、技術常識を参酌することにより導き出される事
項も含まれる点において、特段の差異はない。いわゆる、暗示的/内在的な事項を認定
するという点で両国同一である。
78
7.対比、判断
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 1.5.4、1.5.5(1)(2)
1.5.4 請求項に係る発明と引用発明との対比
(1) 請求項に係る発明と引用発明との対比は、
請求項に係る発明の発明特定事項と引用発明
を文言で表現する場合に必要と認められる事
項(以下、「引用発明特定事項」という。)との
一致点及び相違点を認定して行う。
(2) また、上記⑴の対比の手法に代えて、請求
項に係る発明の下位概念と引用発明との対比
を行い、両者の一致点及び相違点を認定するこ
とができる。
請求項に係る発明の下位概念には、発明の詳
細な説明又は図面中に請求項に係る発明の実
施の形態として記載された事項などがあるが、
この実施の形態とは異なるものも、請求項に係
る発明の下位概念である限り、対比の対象とす
ることができる。
この手法は、例えば、機能・特性等によって
物を特定しようとする記載や数値範囲による
限定を含む請求項における新規性の判断に有
効である。
(3) なお、上記⑴及び 1.5.3⑶の手法に代えて
引用刊行物に記載された事項と請求項に係る
発明の発明特定事項とを比較する場合には、刊
行物に記載されている事項と請求項に係る発
明の発明特定事項との対比の際に、本願出願時
の技術常識を参酌して記載されている事項の
解釈を行いながら、一致点と相違点とを認定す
ることができる。ただし、上記⑴及び 1.5.3⑶
の手法による場合と判断結果が異なるもので
あってはならない。
韓審第 3 部第 2 章 4.3、4.4
4.3 新規性の判断方法
新規性の判断は、請求項に記載された発明と
引用発明の構成とを対比して、両者の構成の一
致点と差異点を抽出して判断する。請求項に記
載された発明と引用発明の構成に差異点があ
る場合には、請求項に記載された発明は新規性
がある発明であり、差異点がなければ新規性が
ない発明である。
(4) 独立した二以上の引用発明を組合わせて
請求項に係る発明と対比してはならない。
1.5.5 新規性の判断
(1) 対比した結果、請求項に係る発明の発明特
定事項と引用発明特定事項とに相違点がない
場合は、請求項に係る発明は新規性を有しな
い。相違点がある場合は、新規性を有する。
請求項に記載された発明と引用発明が全面
的に一致する場合はもちろん、実質的に同一で
ある場合にも新規性がない発明である。
ここで、発明が実質的に同一である場合と
は、課題解決のための具体的手段における周知
慣用技術の単なる付加、転換、削除等であって
新たな効果が生じず、発明間の差異が発明の思
想に実質的な影響を及ぼさない非本質的事項
に過ぎない場合をいう(大法院 2003.2.26.宣告
2001 フ 1624 判決参照)。
4.4 新規性の判断時の留意事項
(4)一の引用文献に二以上の実施例が開示され
ている場合、二以上の実施例を引用発明により
各々特定し、相互結合して請求項に記載された
発明の新規性を判断してはならない。引用発明
の結合による特許性の判断は、新規性の問題で
はなく進歩性の問題であるためである。
ただし、当該技術分野の出願時の技術常識か
ら考慮したときに、二以上の実施例から一の引
用発明が自明に導き出される場合には、この限
りではない。
(5)審査の対象となる出願の明細書中に従来の
技術として記載された発明の場合に、出願人が
その明細書又は意見書等において当該従来の
技術が出願前に公知となっていることを認め
ているときには、これを引用発明として請求項
に記載された発明の新規性を判断することが
できる。
(2) 特許を受けようとする発明を特定するた
めの事項に関して形式上又は事実上の選択肢
を有する請求項に係る発明については、当該選
択肢中のいずれか一の選択肢のみを発明を特
定するための事項と仮定したときの発明と引
用発明との対比を行った場合に両者に相違点
がないときは、新規性を有しないものとする。
79
解説;
まず、請求項に係る発明と引用発明との対比方法であるが、この点では、日韓とも差
異がみられない。すなわち、双方の発明を比較し、一致点・相違点を抽出することとし
ている。また、その際、二以上の引用発明の組合せを禁じていることも共通している。
また、韓国の場合、当該技術分野の出願時の技術常識から考慮したときに、一つの引用
文献に二以上の実施例が記載されており、そこから一の引用発明が自明に導き出される
場合には、新規性判断の資料として使用することができる旨明示されているが、日本の
場合も、実務上、このように一つの引用発明が自明に導き出せるのであれば、同様であ
ろう。
一方、新規性の判断の原則については、日本と韓国で大きく異なるため、注意が必要
である。すなわち、日本が完全同一、韓国が実質同一である点で両国の基準が大きく異
なる。韓国は、請求項に係る発明と引用発明との間の差異が課題解決のための具体的手
段における周知慣用技術の単なる付加、転換、削除等であって新たな効果が生じず、発
明間の差異が発明の思想に実質的な影響を及ぼさない非本質的事項に過ぎない場合に
は、新規性を否定している。
なお、韓国では、このような周知慣用技術の単なる付加等について、進歩性に対する
判断基準においても「通常の創作能力の発揮」に該当する一つの例として挙げており、進
歩性判断の要件と一部重複が見られ、審査官の判断の自由度が高い。
また、日本の審査基準にはいわゆる先行技術の自認についての規定はないが、進歩性
においては先行技術として認めている 。(10.進歩性の判断における留意事項 2 の
項を参照のこと。)。
さらに、日本の場合、請求項に係る発明の下位概念(例えば詳細な説明または図面の
記載事項と異なるものでも)と引用発明との対比を行い、両者の一致点及び相違点を認
定する等の手法をあげており、韓国にはこのような規定は無いものの、この点では日韓
とも実務上の相違はないものと思われる。
80
8.特定の表現を有する請求項に対する判断の取扱い
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 1.5.5(3)、(4)
(3) 機能・特性等による物の特定を含む請求項
についての取扱い
①機能・特性等により物を特定しようとする記
載を含む請求項であって、下記(ⅰ)又は(ⅱ)
に該当するものは、引用発明との対比が困難と
なる場合がある。そのような場合において、引
用発明の物との厳密な一致点及び相違点の対
比を行わずに、審査官が、両者が同じ物である
との一応の合理的な疑いを抱いた場合には、そ
の他の部分に相違がない限り、新規性が欠如す
る旨の拒絶理由を通知する。出願人が意見書・
実験成績証明書等により、両者が同じ物である
との一応の合理的な疑いについて反論、釈明
し、審査官の心証を真偽不明となる程度に否定
することができた場合には、拒絶理由が解消さ
れる。出願人の反論、釈明が抽象的あるいは一
般的なものである等、審査官の心証が変わらな
い場合には、新規性否定の拒絶査定を行う。
ただし、引用発明特定事項が下記(ⅰ)又は(ⅱ)
に該当するものであるような発明を引用発明
としてこの取扱いを適用してはならない。
(ⅰ)当該機能・特性等が、標準的なもの、当該
技術分野において当業者に慣用されているも
の、又は慣用されていないにしても慣用されて
いるものとの関係が当業者に理解できるもの
のいずれにも該当しない場合
(ⅱ)当該機能・特性等が、標準的なもの、当該
技術分野において当業者に慣用されているも
の、又は慣用されていないにしても慣用されて
いるものとの関係が当業者に理解できるもの
のいずれかに該当するが、これらの機能・特性
等が複数組合わされたものが、全体として(ⅰ)
に該当するものとなる場合
②以下に、一応の合理的な疑いを抱くべき場合
の例を示す。
・請求項に係る発明の機能・特性等が他の定義
又は試験・測定方法によるものに換算可能であ
って、その換算結果からみて同一と認められる
引用発明の物が発見された場合
・請求項に係る発明と引用発明が同一又は類似
の機能・特性等により特定されたものである
が、その測定条件や評価方法が異なる場合であ
って、両者の間に一定の関係があり、引用発明
の機能・特性等を請求項に係る発明の測定条件
又は評価方法により測定又は評価すれば、請求
項に係る発明の機能・特性等に含まれる蓋然性
韓審第 3 部第 2 章 4.3.1 数値限定発明の新規
性の判断
数値限定発明とは、請求項に記載された発明
の構成の一部が数量的に表現されている発明
を意味する。
請求項に記載された発明が数値限定を含ん
でいる場合、数値限定事項を除いた他技術的特
徴のみを引用発明と対比したときに、同一でな
ければ新規性がある発明である。数値限定事項
を除いた他の技術的特徴のみにおいて引用発
明と同一である場合には、次のように新規性を
判断する。
(1)引用発明に数値限定がなく、請求項に記載
された発明が新たに数値限定を含めたもので
ある場合には、原則として新規性が認められる
が、出願時の技術常識を参酌したときに、数値
限定事項が通常の技術者にとって任意的に選
択可能な水準に過ぎない場合、又は引用発明中
に暗示されていると考えられる場合には、新規
性が否定されることがある。
(2)請求項に記載された発明の数値範囲が引用
発明が記載されている数値範囲に含まれる場
合には、その事実のみをもって直ちに新規性が
否定されるのではなく、数値限定の臨界的意義
によっては新規性が認められ得る。
数値限定の臨界的意義が認められるために
は、数値限定事項を境界として、特性、すなわ
ち発明の作用・効果において顕著な変化がなけ
ればならないのであって、①数値限定の技術的
意味が詳細な説明に記載されていなければな
らず、②上限値及び下限分が臨界値であるとい
うことが詳細な説明中の実施例又は補助資料
等により立証されなければならない。臨界値で
あるという事実が立証されるためには、通常、
数値範囲の内と外をすべて含む実験結果が提
示されて、臨界値であることが客観的に確認可
能でなければならない。
(3)請求項に記載された発明の数値範囲が引用
発明の数値範囲を含んでいる場合には直ちに
新規性を否定することができる。
(4)請求項に記載された発明と引用発明の数値
範囲が互いに異なる場合には、通常、新規性が
認められる。
4.3.2 パラメータ発明の新規性の判断
(1)パラメータ発明は、物理的・化学的特性値
について当該技術分野において標準的なもの
81
が高い場合
・出願後に請求項に係る発明の物と同一と認め
られる物の構造が判明し、それが出願前に公知
であることが発見された場合
・本願の明細書若しくは図面に実施の形態とし
て記載されたものと同一又は類似の引用発明
が発見された場合(例えば、実施の形態として
記載された製造工程と同一の製造工程及び類
似の出発物質を有する引用発明を発見したと
き、又は実施の形態として記載された製造工程
と類似の製造工程及び同一の出発物質を有す
る引用発明を発見したときなど)
・引用発明と請求項に係る発明との間で、機
能・特性等により表現された発明特定事項以外
の発明特定事項が共通しており、しかも当該機
能・特性等により表現された発明特定事項の有
する課題若しくは有利な効果と同一又は類似
の課題若しくは効果を引用発明が有しており、
引用発明の機能・特性等が請求項に係る発明の
機能・特性等に含まれる蓋然性が高い場合
なお、この特例の手法によらずに新規性の判断
を行うことができる場合には、通常の手法によ
ることとする。
(4) 製造方法による生産物の特定を含む請求
項についての取扱い
①製造方法による生産物の特定を含む請求項
においては、その生産物自体が構造的にどのよ
うなものかを決定することが極めて困難な場
合がある。そのような場合において、上記⑶と
同様に、当該生産物と引用発明の物との厳密な
一致点及び相違点の対比を行わずに、審査官
が、両者が同じ物であるとの一応の合理的な疑
いを抱いた場合には、その他の部分に相違がな
い限り、新規性が欠如する旨の拒絶理由を通知
する。
ただし、引用発明特定事項が製造方法によっ
て物を特定しようとするものであるような発
明を引用発明としてこの取扱いを適用しては
ならない。
②以下に、一応の合理的な疑いを抱くべき場合
の例を示す。
・請求項に係る発明と出発物質が類似で同一の
製造工程により製造された物の引用発明を発
見した場合
・請求項に係る発明と出発物質が同一で類似の
製造工程により製造された物の引用発明を発
見した場合
・出願後に請求項に係る発明の物と同一と認め
られる物の構造が判明し、それが出願前に公知
であることが発見された場合
ではない、又は慣用されていないパラメータを
出願人が任意に創り出し、又はこれら複数の変
数間の相関関係を利用して演算式によりパラ
メータ化した後、発明の構成要素の一部とする
発明をいう。パラメータ発明は、請求項の記載
自体のみでは技術的構成を明確に理解するこ
とができない場合があるため、パラメータ発明
の新規性は、発明の詳細な説明又は図面及び出
願時の技術常識を参酌して、発明が明確に把握
される場合に限り判断する。
(2)パラメータ発明は、パラメータ自体を請求
項の一部として新規性を判断した場合、請求項
に記載されたパラメータが新規であったとし
てもその発明の新規性が直ちに認められるも
のではない点に注意しなければならない。パラ
メータによる限定が公知となった物に内在さ
れた本来の性質又は特性等を試験的に確認し
たに過ぎない、又はパラメータを使って表現方
式だけ別にしたものであれば、請求項に記載さ
れた発明の新規性は否定される。
(3)パラメータ発明は、一般に、先行技術と新
規性判断のための構成の対比が困難であるた
め、両者が同一の発明であるとの「合理的な疑
い」がある場合には、先行技術と厳密な対比を
行わずに、新規性が欠如する旨の拒絶理由を通
知した後、出願人の意見書及び実験成績書等の
提出を待つことができる。出願人の反論によっ
て拒絶理由を維持できない場合には拒絶理由
が解消されるが、合理的な疑いが解消されない
場合には新規性がないという理由で拒絶決定
する。
(4)新規性の判断において、同一の発明である
との合理的な疑いが生じる場合としては、①請
求項に記載された発明に含まれたパラメータ
を異なる定義又は試験・測定方法で換算したと
ころ、引用発明と同一となる場合、②引用発明
のパラメー タを詳細な説明に記載さ れた測
定・評価方法により評価したところ、請求項に
記載された発明が限定するものと同じ事項が
得られるものと予想される場合、及び、③詳細
な説明に記載された出願発明の実施形態と引
用発明の実施形態が同一である場合、等があ
る。
(5)パラメータ発明について拒絶理由を通知す
るときは、一応の合理的な疑いを抱くこととな
った理由を具体的に記載しなければならず、必
要な場合、審査官は、自身の合理的な疑いを解
消するための反論方法を出願人に提示するこ
とができる。
(6)請求項に記載されたパラメータが当該技術
82
・本願の明細書若しくは図面に実施の形態とし
て記載されたものと同一又は類似の引用発明
が発見された場合
なお、この特例の手法によらずに新規性の判断
を行うことができる場合には、通常の手法によ
ることとする。
分野において標準的なもの、慣用されているも
の、又は当該技術分野における通常の知識を有
する者が容易に理解できるものと認められる
ときには、上記(1)~(5)の審査基準は適用しな
い。
解説;
上述のとおり、日韓で新規性の判断基準が大きく異なるため、機能・特性により特定
された発明や、数値範囲に関する発明、パラメータ発明、プロダクトバイプロセスクレ
ームなど特定の表現により特定される発明に対する判断も、おのずと異なることとなる
が、その上で、韓国では、数値発明、及びプロダクトバイプロセスクレームに対する扱
いについて、特段の規定を置いている。
まず、数値発明であるが、韓国では、引用発明との間に数値範囲に関する相違点があ
ったとしても、直ちに新規性は肯定されず、例えば、請求項に係る発明の数値範囲が引
用発明の数値範囲に含まれる場合、いわゆる「数値限定の臨界的意義」が認められる場
合に限り新規性が肯定されることとなる。ただし、新規性判断において数値限定の臨界
的意義があるものと認められる要件(前記 4.3.1(2)の①及び②)が進歩性判断におけ
るものと同一であるため、多少の混乱もあり得る(韓審第 3 部第 3 章 6.4.2 数値限定発
明の進歩性の判断(2)参照)。
一方、韓国では、パラメータ発明において、請求項に記載された発明と引用発明が同
一であるという合理的な疑いがある場合には、厳密に対比することなしに一旦拒絶し、
出願人の意見書及び実験成績書等による反論を待って判断するとしており、日本の、機
能・特性により特定された発明の扱い、ないしプロダクトバイプロセスクレームの扱い
と似た規定を置いている。
83
【進歩性】
1.進歩性に関する条文
日本特許法
韓国特許法
日法第 29 条第 2 項
産業上利用することができる発明をした者は、
次に掲げる発明を除き、その発明について特許
を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内において公然知られ
た発明
二 特許出願前に日本国内において公然実施を
された発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、
頒布された刊行物に記載された発明又は電気
通信回線を通じて公衆に利用可能となった発
明
特許法第 29 条第 2 項特許出願前にその発明の
属する技術の分野における通常の知識を有す
る者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に
発明をすることができたときは、その発明につ
いては、同項の規定にかかわらず、特許を受け
ることができない。
韓法第 29 条第 2 項
①産業上利用できる発明であって、次の各号の
いずれか一に該当するものを除き、その発明に
ついて特許を受けることができる。
1. 特許出願前に、国内又は国外において公知
となり、又は公然実施をされた発明
2. 特許出願前に、国内又は国外において頒布
された刊行物に掲載され、又は電気通信回線を
通じて公衆に利用可能となった発明
②特許出願前にその発明が属する技術分野に
おいて通常の知識を有する者が第 1 項各号の
いずれか一に規定する発明に基づいて容易に
発明をすることができるものであるときには、
その発明については、第 1 項の規定にもかかわ
らず、特許を受けることができない。
解説;
韓国と日本の進歩性に関する条文は条文番号も等しいが、内容も事実上同一である。
なお、電気通信回線通じて公衆に利用可能となった発明等に関する法改正が行われたこ
とは、上述1.新規性に関する条文のとおりである。
84
2.進歩に関する趣旨
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 2.1
2.1 第 29 条第 2 項の規定の趣旨
第 29 条第 2 項の規定の趣旨は、通常の技術
者が容易に発明をすることができたものにつ
いて特許権を付与することは、技術進歩に役立
たないばかりでなく、かえってその妨げになる
ので、そのような発明を特許付与の対象から排
除しようというものである。
韓審第 3 部第 3 章 2.
特許法第 29 条第 2 項で進歩性がない発明に
ついて特許を付与しないこととした理由は、従
来の技術と同一でないだけであって、技術的効
果において改善されたところがない、又は改善
の程度が微々たる技術について特許権を付与
することは、技術の発達に貢献した者に対しそ
の公開の代償として排他的独占権を付与する
特許制度の趣旨とも合致しないだけでなく、こ
うした特許権によって第三者による技術の実
施が制限されることにより、産業の発展に寄与
しようとする特許制度の目的にむしろ反する
ためである。
解説;
特許法の立法趣旨は、発明を公開し技術の発達に貢献に寄与したことに対し、独占排
他的な特許権を付与するところにあるが、通常の技術者が容易に発明でき、技術発展に
寄与するところが少ないか、むしろ妨げとなる発明に対しては、特許権を付与する必要
はなく、この原則は、両国で同一である。
85
3.条文の説明
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 2.2
(1) 「前項各号に掲げる発明」とは、特許出願
前に、日本国内において公然知られた発明及び
公然実施をされた発明、並びに日本国内又は外
国において頒布された刊行物に記載された発
明すべてを指す。
(2) 「その発明の属する技術分野における通常
の知識を有する者」(以下、
「当業者」という。)
とは、本願発明の属する技術分野の出願時の技
術常識を有し、研究、開発のための通常の技術
的手段を用いることができ、材料の選択や設計
変更などの通常の創作能力を発揮でき、かつ、
本願発明の属する技術分野の出願時の技術水
準にあるもの全てを自らの知識とすることが
できる者、を想定したものである。
なお、当業者は、発明が解決しようとする課
題に関連した技術分野の技術を自らの知識と
することができる。
韓審第 3 部第 3 章 3.2 通常の技術者
進歩性有無の判断にあって基準となる者は、
「その発明が属する技術分野における通常の知
識を有する者(以下「通常の技術者」という)」で
ある。
通常の技術者とは、出願前の当該技術分野の
技術常識を有し、出願発明の課題に関連した出
願前の技術水準にあるものすべてを入手して
自らの知識とすることができる 者であり、実
験、分析、製造等を含む研究又は開発のために
通常の手段を用いることができ、公知の材料中
から適した材料を選択したり、数値範囲を最適
化したり、均等物で置き換える等、通常の創作
能力を発揮することができる特許法上の想像
の人物である。
ここで「技術水準」とは、特許法第 29 条第 1
項各号のいずれか一に規定する発明のほか、当
該発明が属する技術分野における技術常識等
また、個人よりも、複数の技術分野からの「専 を含む技術的知識によって構成される技術の
門家からなるチーム」として考えた方が適切な 水準をいう。また、日常的な業務、実験のため
場合もある。
の通常の手段等、請求項に記載された発明の技
(3) 「特許出願前にその発明の属する技術の分 術分野と係わるあらゆる種類の情報に関する
野における通常の知識を有する者が前項各号 ものである。
に掲げる発明に基づいて容易に発明をするこ 3.3 容易に発明をすることができること
とができた」とは、特許出願前に、当業者が、
「通常の技術者が特許法第 29 条第 1 項各号の
第 29 条第 1 項各号に掲げる発明(引用発明) いずれか一に規定する発明に基づいて容易に
に基づいて、通常の創作能力を発揮することに 発明をすることができること」とは、 通常の技
より、請求項に係る発明に容易に想到できたこ
とを意味する。
術者が特許出願前に公知等となった発明(又は
複数の発明)から動機の誘発により、又は通常
の創作能力の発揮を通じて、請求の範囲に記載
された発明を容易に考え出すことができるこ
とをいう。
解説;
進歩性判断の主体としての仮想の人物として、その発明の属する技術分野における
「通常の知識を有する者」を置き、当該者が容易に発明をすることができた場合、進歩
性を否定するという判断手法の原則は、日韓とも差異がない。もっとも、日本の場合、
個人よりも複数の技術分野からの「専門家からなるチーム」としており、韓国ではこれ
に該当する記載はないが、実務上の差異はまず生じないであろう。
また、発明の容易想到性について、日本は「引用発明に基づいて、通常の創作能力を
発揮することにより、請求項に係る発明に容易に想到できたこと」と説明しているのに
対し、韓国の場合は「引用発明から動機の誘発により、又は通常の創作能力の発揮を通
じて、請求の範囲に記載された発明を容易に考え出すことができること」と説明してお
86
り、表現上の差異はあるが、後述するように、実務においては、事実上の違いは無い。
87
4.進歩性判断の基本的な考え方
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 2.4
(1) 進歩性の判断は、本願発明の属する技術分
野における出願時の技術水準を的確に把握し
た上で、当業者であればどのようにするかを常
に考慮して、引用発明に基づいて当業者が請求
項に係る発明に容易に想到できたことの論理
づけができるか否かにより行う。
(2) 具体的には、請求項に係る発明及び引用発
明(一又は複数)を認定した後、論理づけに最も
適した一の引用発明を選び、請求項に係る発明
と引用発明を対比して、請求項に係る発明の発
明特定事項と引用発明を特定するための事項
との一致点・相違点を明らかにした上で、この
引用発明や他の引用発明(周知・慣用技術も含
む)の内容及び技術常識から、請求項に係る発
明に対して進歩性の存在を否定し得る論理の
構築を試みる。
論理づけは、種々の観点、広範な観点から行
うことが可能である。例えば、請求項に係る発
明が、引用発明からの最適材料の選択あるいは
設計変更や単なる寄せ集めに該当するかどう
か検討したり、あるいは、引用発明の内容に動
機づけとなり得るものがあるかどうかを検討
する。また、引用発明と比較した有利な効果が
明細書等の記載から明確に把握される場合に
は、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立
つ事実として、これを参酌する。
その結果、論理づけができた場合は請求項に
係る発明の進歩性は否定され、論理づけができ
ない場合は進歩性は否定されない。
(3) なお、請求項に係る発明及び引用発明の認
定、並びに請求項に係る発明と引用発明との対
比の手法は「新規性の判断の手法」と共通であ
る(1.5.1~1.5.4 参照)。
韓審第 3 部第 3 章 4-5.1
4. 進歩性の判断の基本原則
(1)進歩性の審査は、特許出願前に通常の技術
者が「請求項に記載された発明」を特許法第 29
条第 1 項各号のいずれか一に規定する発明(以
下「引用発明」という)により容易に発明するこ
とができたか否かについての判断である。特許
出願前に通常の技術者が「請求項に記載された
発明」を引用発明により容易に発明することが
できる場合には、その発明は進歩性がない。
・・・
5. 進歩性の判断方法
審査官は、出願当時に通常の技術者が直面して
いた技術水準全体を考慮するように努めると
ともに、発明の詳細な説明及び図面を勘案し、
出願人が提出した意見を参酌して、出願発明の
目的、技術的構成、作用効果を総合的に検討す
るが、技術的構成の困難性を中心に目的の特異
性及び効果の顕著性を参酌して、総合的に進歩
性が否定されるか否かを判断する。
進歩性が否定されるか否かは、通常の技術者の
立場に立って、①引用発明の内容に、請求項に
記載された発明に至り得る動機があるか、又は
②引用発明と請求項に記載された発明の差異
が、通常の技術者が有する通常の創作能力の発
揮に該当するか否かを主な観点として、③引用
発明に比べて改善された効果があるかを参酌
して判断する。
5.1 進歩性の判断手順
発明の進歩性は次の手順により判断する。
(1)請求項に記載された発明を特定する。この
場合、請求項に記載された発明の特定方法は、
「第 2 章の新規性判断」で説明した方法と同一
である。
(2)引用発明を特定する。この場合、引用発明
の特定方法は、「第 2 章の新規性判断」 と同一
であり、複数の引用発明を特定することも可能
である。引用発明を特定するときには、請求項
に記載された発明と共通する技術分野及び技
術的課題を前提に、通常の技術者の見解で特定
しなければならない。
(3)請求項に記載された発明と「最も近い引用
発明」を選択し、両者を比較してその差異点を
明確にする。差異点を確認するときには、発明
の構成要素間の有機的結合性を勘案しなけれ
ばならない。より具体的には、発明を達成する
88
構成要素のうち有機的に結合しているものど
うしは、構成要素を分解せずに結合した一体の
ものとして引用発明の対応する構成要素と対
比する。
(4)請求項に記載された発明が最も近い引用発
明と差異があるにもかかわらず、最も近い引用
発明から請求項に記載された発明に至ること
が通常の技術者にとって容易であるのか、又は
容易でないのかを、他の引用発明や出願前の技
術常識及び経験則等に照らして判断する。
解説;
まず、進歩性判断の手法ないし流れであるが、日韓とも①請求項に係る発明の確定、
②引用発明の確定、③一致点及び相違点の抽出、④進歩性の存否判断の順で進行され、
この点で差異はない。
次に、請求項に係る発明と引用発明との相違点に関し、進歩性の存否を判断するファ
クターであるが、①いわゆる設計的事項等であるか否か、及び②引用発明を組み合わせ
る動機付与の事項があるか否かを判断した上で、③引用発明と比較して有利な効果があ
るか否かを考慮して進歩性の存否を判断することとしており、このような進歩性テスト
の判断基準に関しても、表現上の違いはあるものの、日韓ともほぼ一致する。
89
5.論理づけ
(1)最適材料の選択、設計変更、単なる寄せ集め等
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 2.5(1)
(1) 最適材料の選択・設計変更、単なる寄せ集
め
①最適材料の選択・設計変更など
一定の課題を解決するために公知材料の中か
らの最適材料の選択、数値範囲の最適化又は好
適化、均等物による置換、技術の具体的適用に
伴う設計変更などは、当業者の通常の創作能力
の発揮であり、相違点がこれらの点にのみある
場合は、他に進歩性の存在を推認できる根拠が
ない限り、通常は、その発明は当業者が容易に
想到することができたものと考えられる。
②単なる寄せ集め
発明を特定するための事項の各々が機能的又
は作用的に関連しておらず、発明が各事項の単
なる組み合わせ(単なる寄せ集め)である場合
も、他に進歩性を推認できる根拠がない限り、
その発明は当業者の通常の創作能力の発揮の
範囲内である。
韓審第 3 部第 3 章 6.2-6.2.5
6.2 通常の技術者の通常の創作能力の発揮に
該当すること
公知技術の一般的な応用、よく知られた物理的
性質からの推論、よく知られた課題の解決のた
めの他の技術分野の参照等により日常的な改
善を達成することは、通常の技術者が有する通
常の創作能力の発揮に該当する。「通常の創作
能力の発揮」に該当する具体的な類型として、
一定の目的達成のための、公知の材料中からの
最適材料の選択、数値範囲の最適化又は好適
化、均等物による置換、技術の具体的適用に伴
う単なる設計変更、一部の構成要素の省略、単
なる用途の変更等がある。請求項に記載された
発明と引用発明との差異点がこのような点に
のみある場合には、他に進歩性を認めるべき根
拠がない限り、通常、その発明の進歩性は否定
される。
6.2.1 均等物による置換
発明の構成の一部を、同一の機能を果たして互
換性のある公知の構成に置き換えることは、よ
り良い効果を有する等の特別な事情がない限
り、通常の技術者が有する通常の創作能力の発
揮に該当し、進歩性が認められない。
ここで、均等物による置換が通常の技術者が有
する通常の創作能力の発揮に該当するといえ
るためには、置換された公知の構成要素が均等
物として機能するという事実のみでは充分で
なく、その置換が出願時に通常の技術者にとっ
て自明でなければならない。このとき、置換さ
れた構成要素が均等物として機能するという
事実が出願前に知られている等、その均等性が
当該技術分野において既に知られている場合
には、その置換が通常の技術者に自明であると
いう証拠となり得る。
6.2.2 技術の具体的適用に伴う単なる設計変
更請求項に記載された発明が引用発明の技術
思想をそのまま利用しつつ、単に適用上の具体
的環境変化に応じて設計変更したものであり、
それによるより良い効果があるものと認めら
れないときには、特別な事情がない限り、通常
の技術者の通常の創作能力の発揮に該当し、進
歩性が認められない。
例えば、請求項に記載された発明と引用発明と
の差異が、公知となった技術構成の具体的適用
により発生したものであって、単に構成要素の
90
大きさ、比率(proportion)、相対寸法(relative
dimension)又は量にのみある場合には、通常の
技術者が有する通常の創作能力の発揮に該当
すると認定して進歩性を否定する。ただし、そ
のような差異により動作や機能等に異なる効
果があり、そのような効果が、通常の技術者が
有する通常の予測可能範囲を超えたより良い
効果であると認められる場合には、進歩性が認
められる。
6.2.3 一部の構成要素の省略
先行技術に開示された公知の発明の構成要素
の一部を省略した結果、関連した機能が失われ
たり、品質(発明の効果を含む)が劣化したりす
る場合、そうした省略は、通常の技術者にとっ
て自明なものとみなして進歩性が否定される。
しかし、出願時の技術常識を参酌したときに、
通常の技術者の通常予測可能な範囲を超えて、
一部構成要素の省略にもかかわらずその機能
が維持され、又はむしろ向上する場合には、進
歩性を認めることができる。
6.2.4 単なる用途の変更や限定
先行技術に開示された公知の発明の用途を単
に変えたり、用途を単に追加的に限定する場合
には進歩性が認められない。すなわち、請求項
に記載された発明が用途の変更又は用途の追
加的限定によってのみ先行技術と区別される
場合、出願時の技術常識を参酌したときに当該
用途の変更又は追加的限定によるより良い効
果がないならば、進歩性は認められない。
6.2.5 公知技術の一般的な適用
先行技術に記載され、その構成及び機能が既に
知られている公知の技術を出願発明の技術的
課題解決のために必要に応じて付加し、その機
能どおりに使用することによって予測可能な
効果のみを得た場合には、進歩性が認められな
い。ただし、出願時の技術常識を参酌したとき
に、公知の技術が適用されて他の構成要素と有
機的結合関係が形成されることにより、先行技
術に比べてより良い効果が得られる場合には、
進歩性を認めることができる。
7.結合発明の進歩性の判断
(1) ・・・請求項に記載された発明は、全体と
して考慮されなければならないため、結合発明
の進歩性を判断するにあたり、請求項に記載さ
れた発明の構成要素各々が公知又は引用発明
から自明であるからといって、請求項に記載さ
れた発明の進歩性を否定してはならない。
すなわち、請求項が複数の構成要素からなる場
合には、各構成要素が有機的に結合した全体と
しての技術思想が進歩性の判断の対象となる
91
のであって、各構成要素が独立して進歩性の判
断の対象となるのではないので、その結合発明
の進歩性の有無を判断するにあたって、請求項
に記載された複数の構成を分解した後に分解
された個別の構成要素が公知となったものか
否かのみを検討してはならず、特有の課題解決
原理に基づいて有機的に結び付いた全体とし
ての構成の困難性を検討してみなければなら
ないのであり、このとき、結合された全体構成
としての発明が有する特有の効果も併せて考
慮しなければならない。
解説;
最適材料の選択、設計変更、均等物による置換など、いわゆる設計的事項の範疇に関
する判断基準は、日韓とも特段の差異はない。ただし、韓国の審査指針書では、一部の
構成要素の省略に関し、「通常の技術者にとって自明なものとみなして進歩性が否定さ
れる」とし、このような発明は、まずは直ちに進歩性がないものとしており、日本とは
若干温度差があるようにも思われる。もっとも、日韓とも結局は効果を参酌して進歩性
判断を行うわけであるから、実務上、結論においては大差ないと思われる。また、韓国
では、単なる用途の変更等も通常の創作能力の発揮に該当するものと例示しているとこ
ろ、これも同様である。
また、いわゆる単なる寄せ集めに関する判断基準であるが、韓国では「結合発明」とし
て別項目に分けて説明しているが、これも結局のところ、日韓ともに、請求項に関する
発明が公開された技術(引用発明)を単に列挙したものに該当し、結合した特徴が算術的
合算以上の新たな効果を創出できない場合、進歩性が無いと判断する点で同一である。
92
(2)動機づけとなり得るもの
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 2.5(2)
(2) 動機づけとなり得るもの
①技術分野の関連性
発明の課題解決のために、関連する技術分野
の技術手段の適用を試みることは、当業者の通
常の創作能力の発揮である。例えば、関連する
技術分野に置換可能なあるいは付加可能な技
術手段があるときは、当業者が請求項に係る発
明に導かれたことの有力な根拠となる。
②課題の共通性
課題が共通することは、当業者が引用発明を
適用したり結び付けて請求項に係る発明に導
かれたことの有力な根拠となる。
引用発明が、請求項に係る発明と共通する課
題を意識したものといえない場合は、その課題
が自明な課題であるか、容易に着想しうる課題
であるかどうかについて、さらに技術水準に基
づく検討を要する。
なお、別の課題を有する引用発明に基づいた
場合であっても、別の思考過程により、当業者
が請求項に係る発明の発明特定事項に至るこ
とが容易であったことが論理づけられたとき
は、課題の相違にかかわらず、請求項に係る発
明の進歩性を否定することができる。
試行錯誤の結果の発見に基づく発明など、課題
が把握できない場合も同様とする。
③作用、機能の共通性
請求項に係る発明の発明特定事項と引用発
明特定事項との間で、作用、機能が共通するこ
とや、引用発明特定事項どうしの作用、機能が
共通することは、当業者が引用発明を適用した
り結び付けたりして請求項に係る発明に導か
れたことの有力な根拠となる。
④引用発明の内容中の示唆
引用発明の内容に請求項に係る発明に対す
る示唆があれば、当業者が請求項に係る発明に
導かれたことの有力な根拠となる。
韓審第 3 部第 3 章 5.2 引用発明の選択
(1) ・・・引用発明が請求項に記載された発明
と異なる技術分野に属しているとしても、引用
発明自体が、通常他の技術分野でも使用される
可能性があったり、通常の技術者が特定の技術
的課題を解決するために参考にする可能性が
あると認められる場合には、引用発明として選
定することができる。もし、請求項に記載され
た発明と相違する分野の先行技術を引用発明
として引用する場合には、両技術分野の関連
性、課題解決の同一性、機能の同一性等、引用
の妥当性を充分に検討しなければならない。
韓審第 3 部第 3 章 6.容易性の判断の根拠
6.1 発明に至り得る動機があること
引用発明の内容中に請求項に記載された発
明についての示唆がある場合、引用発明と請求
項に記載された発明の課題が共通する場合、機
能・作用が共通する場合、技術分野の関連性が
ある場合等は、通常の技術者が引用発明に基づ
いて請求項に記載された発明を容易に発明す
ることができるという有力な根拠となる。
6.1.1 引用発明の内容中の示唆
引用発明の内容中に請求項に記載された発
明についての示唆があれば、通常の技術者が引
用発明に基づいて請求項に記載された発明を
容易に発明することができるという有力な根
拠となる。
6.1.2 課題の共通性
(1)引用発明と請求項に記載された発明の課題
が共通する場合、そのことは、通常の技術者が
引用発明に基づいて請求項に記載された発明
を容易に発明することができるという有力な
根拠となる。
もし、引用発明と請求項に記載された発明と
技術的課題が共通しない場合には、出願発明の
課題が当該技術分野において自明な課題であ
るのか、技術常識に照らして容易に考えられる
課題であるかについてより綿密に検討し、進歩
性を否定し得る根拠とすることができないか
どうかを判断する。
(2)引用発明が請求項に記載された発明とその
課題が互いに異にする場合にも、通常の技術者
が引用発明から通常の創作能力を発揮して、請
求項に記載された発明と同一の構成を導き出
すことができたという事実が自明である場合
には、進歩性を否定できる。
93
6.1.3 機能・作用の共通性
引用発明と請求項に記載された発明の機能又
は作用が共通する場合、その事実は、通常の技
術者が引用発明に基づいて請求項に記載され
た発明を容易に発明することができるという
有力な根拠となる。
6.1.4 技術分野の関連性
出願発明と関連する技術分野の公知技術中に、
技術的課題の解決と関係する技術手段が存在
するという事実は、通常の技術者が引用発明に
基づいて請求項に記載された発明を容易に発
明することができるという有力な根拠となる。
解説;
この動機づけに関する判断基準も、日韓で特段の差異はなく、いずれも課題や機能・作
用の関連性、技術分野の関連性を手がかりに、当業者が請求項に係る発明を得ることが
できたか否かが判断基準となる。ただし、韓国の審査基準は、引用発明が請求項に記載
された発明と異なる技術分野に属しているとしても、引用発明自体が、通常他の技術分
野でも使用される可能性があったり、通常の技術者が特定の技術的課題を解決するため
に参考にする可能性があると認められる場合には、引用発明として選定することができ
ると規定している。もちろん、これは日本も同様であると思われるが、韓国では当該規
定が明確化されていることもあって、実務上、韓国審査官の引用発明を引用する幅が広
くなる傾向となる可能性があると思われる。
94
6.効果の参酌
(1)効果の参酌の原則
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 2.5(3)①、②
(3) 引用発明と比較した有利な効果
引用発明と比較した有利な効果が明細書等
の記載から明確に把握される場合には、進歩性
の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実と
して、これを参酌する。ここで、引用発明と比
較した有利な効果とは、発明を特定するための
事項によって奏される効果(特有の効果)のう
ち、引用発明の効果と比較して有利なものをい
う。
①引用発明と比較した有利な効果の参酌
請求項に係る発明が引用発明と比較した有
利な効果を有している場合には、これを参酌し
て、当業者が請求項に係る発明に容易に想到で
きたことの論理づけを試みる。そして、請求項
に係る発明が引用発明と比較した有利な効果
を有していても、当業者が請求項に係る発明に
容易に想到できたことが、十分に論理づけられ
たときは、進歩性は否定される。
しかし、引用発明と比較した有利な効果が、
技術水準から予測される範囲を超えた顕著な
ものであることにより、進歩性が否定されない
こともある。
例えば、引用発明特定事項と請求項に係る発
明の発明特定事項とが類似していたり、複数の
引用発明の組み合わせにより、一見、当業者が
容易に想到できたとされる場合であっても、請
求項に係る発明が、引用発明と比較した有利な
効果であって引用発明が有するものとは異質
な効果を有する場合、あるいは同質の効果であ
るが際だって優れた効果を有し、これらが技術
水準から当業者が予測することができたもの
ではない場合には、この事実により進歩性の存
在が推認される。
特に、後述する選択発明のように、物の構造
に基づく効果の予測が困難な技術分野に属す
るものについては、引用発明と比較した有利な
効果を有することが進歩性の存在を推認する
ための重要な事実になる。
②意見書等で主張された効果の参酌
明細書に引用発明と比較した有利な効果が
記載されているとき、及び引用発明と比較した
有利な効果は明記されていないが明細書又は
図面の記載から当業者がその引用発明と比較
した有利な効果を推論できるときは、意見書等
において主張・立証(例えば実験結果)された効
韓審第 3 部第 3 章 6.3 より良い効果の考慮
(1)請求項に記載された発明の技術的構成によ
って発生する効果が引用発明の効果に比べて
より良い効果を奏する場合、その効果は進歩性
の認定において肯定的に参酌することができ
る。
(2)引用発明の特定事項と請求項に記載された
発明の特定事項が類似していたり、複数の引用
発明の結合により一見、通常の技術者が容易に
考え出し得る場合であっても、請求項に記載さ
れた発明が、引用発明が奏するものとは異質の
効果を有する、又は同質であっても際立った効
果を有し、こうした効果が当該技術水準から通
常の技術者が予測することができない場合に
は、進歩性を認めることができる。
特に、選択発明がや化学分野の発明等のよう
に、物の構成による効果の予測が容易ではない
技術分野の場合には、引用発明と比較されるよ
り良い効果を奏するということが進歩性の存
在を認定するための重要な事実となる。
(3)詳細な説明に引用発明と比較されるより良
い効果が記載されていたり、引用発明と比較さ
れるより良い効果が明細書の詳細な説明に直
接記載されていなくても、通常の技術者が詳細
な説明や図面に記載された発明の客観的構成
から容易に認識できる場合には、意見書等によ
り主張・立証(例えば、実験結果)されたより良
い効果を参酌して進歩性を判断する。しかし、
詳細な説明に記載されておらず、かつ、詳細な
説明又は図面の記載から通常の技術者が推論
することができない場合には、意見書等により
主張・立証する効果を参酌してはならない。
95
果を参酌する。しかし、明細書に記載されてな
く、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が
推論できない意見書等で主張・立証された効果
は参酌すべきでない。
解説;
日韓いずれも、請求項に係る発明が構成上容易想到であると判断された場合であって
も、発明の効果を参酌し、それが引用発明に比べ予想外の効果を発揮する場合、たとえ
ば引用発明と異なる効果を発揮する場合、または同質の効果でも程度がはなはだしく顕
著な場合等には、進歩性が肯定される。
特に、選択発明の場合、効果の顕著性は進歩性判断において必須的要素とされている
点でも両国は一致している。
また、両国とも、意見書や実験結果等による効果の主張を参酌しつつ、明細書等の記
載から当業者が推論できないものについてはこれを参酌しないとしている点でも同様
である。
96
(2)選択発明、数値限定発明における効果の参酌
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 2.5(3)③、④
③選択発明における考え方
(ⅰ)選択発明とは、物の構造に基づく効果の予
測が困難な技術分野に属する発明で、刊行物に
おいて上位概念で表現された発明又は事実上
若しくは形式上の選択肢で表現された発明か
ら、その上位概念に包含される下位概念で表現
された発明又は当該選択肢の一部を発明を特
定するための事項と仮定したときの発明を選
択したものであって、前者の発明により新規性
が否定されない発明をいう。したがって、刊行
物に記載された発明(1.5.3⑶参照)とはいえな
いものは選択発明になりうる。
(ⅱ)刊行物に記載されていない有利な効果で
あって、刊行物において上位概念で示された発
明が有する効果とは異質な効果、又は同質であ
るが際立って優れた効果を有し、これらが技術
水準から当業者が予測できたものでないとき
は、進歩性を有する。
④数値限定を伴った発明における考え方
発明を特定するための事項を、数値範囲によ
り数量的に表現した、いわゆる数値限定の発明
については、
(ⅰ)実験的に数値範囲を最適化又は好適化す
ることは、当業者の通常の創作能力の発揮であ
って、通常はここに進歩性はないものと考えら
れる。しかし、(ⅱ)請求項に係る発明が、限定
された数値の範囲内で、刊行物に記載されてい
ない有利な効果であって、刊行物に記載された
発明が有する効果とは異質なもの、又は同質で
あるが際だって優れた効果を有し、これらが技
術水準から当業者が予測できたものでないと
きは、進歩性を有する。なお、有利な効果の顕
著性は、数値範囲内のすべての部分で満たされ
る必要がある。さらに、いわゆる数値限定の臨
界的意義について、次の点に留意する。
請求項に係る発明が引用発明の延長線上に
あるとき、すなわち、両者の相違が数値限定の
有無のみで、課題が共通する場合は、有利な効
果について、その数値限定の内と外で量的に顕
著な差異があることが要求される。
しかし、課題が異なり、有利な効果が異質で
ある場合は、数値限定を除いて両者が同じ発明
を特定するための事項を有していたとしても、
数値限定に臨界的意義を要しない。
韓審第 3 部第 3 章 6.4 発明の類型による進歩
性の判断
6.4.1 選択発明の進歩性の判断
選択発明は、引用発明には上位概念として表
現されているが、請求項に記載された発明には
下位概念として表現されている発明で、引用発
明には直接的に開示されていない事項を発明
の必須構成要素の一部として選択した発明を
意味する。
公知技術から実験的に最適又は好適なもの
を選択することは、一般に、通常の技術者が有
する通常の創作能力の発揮に該当し、進歩性が
認められない。ただし、選択発明が引用発明に
比べてより良い効果を有する場合には、その選
択発明は進歩性が認められ得る。このとき、選
択発明に含まれる下位概念のすべてが引用発
明が有する効果と質的に異なる効果を有して
いるか、又は質的な差異がないとしても量的に
顕著な差異がなければならない。
一方、選択発明の詳細な説明には、引用発明
に比べて上記のような効果があるということ
が明確に記載されていれば充分であり、その効
果の顕著さを具体的に確認できる比較実験資
料まで記載しなければならないわけではない。
もし、その効果が疑わしく進歩性が認められな
いという理由により拒絶理由が通知されたと
きには、出願人が比較実験資料を提出する等の
方法により、その効果を具体的に主張・立証す
ることができる。
6.4.2 数値限定発明の進歩性の判断
数値限定発明とは、請求項に記載された発明
の構成の一部が数量的に表現された発明を意
味する。
公知の技術から実験的に最適又は好適の数
値範囲を選択することは、一般的には、通常の
技術者が有する通常の創作能力の発揮に該当
し、進歩性が認められない。しかし、請求項に
記載された発明が限定された数値範囲内にお
いて引用発明の効果に比べてより良い効果を
有するときには、進歩性を認めることができ
る。この場合における効果は、数値限定範囲全
体で満たされる顕著に向上した効果をいい、数
値限定の臨界的意義の必要性については、次の
ように判断する。
(1)請求項に記載された発明の課題が引用発明
と共通し、効果が同質である場合には、その数
値限定の臨界的意義が要求される。
97
(2)請求項に記載された発明の課題が引用発明
と相違し、その効果も異質である場合には、数
値限定を除いた両発明の構成が同一であって
も、数値限定の臨界的意義を要しない。
数値限定の臨界的意義が認められるためには、
数値限定事項を境界として特性、すなわち、発
明の作用・効果に顕著な変化がなければなら
ず、①数値限定の技術的意味が詳細な説明に記
載されており、②上限値及び下限値が臨界値で
あるということが詳細な説明中の実施例又は
補助資料等から立証されなければならない。臨
界値であるという事実が立証されるためには、
通常、数値範囲の内と外をすべて含む実験結果
が提示され、臨界値であることが客観的に確認
可能でなければならない。
解説;
選択発明及び数値限定発明は、物質の効能が予測し難い化学分野等に非常に頻繁に登
場する概念であり、その進歩性が認められるためには、選択発明に含まれる下位概念全
てが先行発明の有する効果と質的に異なる効果を有するか、質的な違いがなかったとし
ても量的に顕著な差異がなければならないという要件については、日韓とも一致してい
る。
数値限定発明に関しては、請求項に係る発明が引用発明に対し、いわゆる臨界的意義、
又は異質な効果を有していることが求められ、この点でも両国共通であるが、韓国では、
臨界値であるという事実が立証されるために、数値範囲の内と外をすべて含む実験結果
が提示され、臨界値であることが客観的に確認可能でなければならないと厳しく規定さ
れており、日韓で若干の温度差が生じる可能性がある。
選択発明、数値限定発明のいずれも、既存先行特許が存在している状況で先行特許の
一部を出願したものであるので、一般発明に比べより厳格な基準により判断し、疑われ
る効果については出願人が比較実験資料を提出する等の方法により、その効果を具体的
に主張・立証するようにしている。
98
7.機能・特性等特定の表現を有する請求項についての取扱い
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 2.6、2.7
2.6 機能・特性等による物の特定を含む請求項
についての取扱い
(1) 機能・特性等により物を特定しようとする
記載を含む請求項であって、下記①又は②に該
当するものは、引用発明との対比が困難となる
場合がある。そのような場合において、引用発
明の対応する物との厳密な一致点及び相違点
の対比を行わずに、審査官が、両者が類似の物
であり本願発明の進歩性が否定されるとの一
応の合理的な疑いを抱いた場合には、進歩性が
否定される旨の拒絶理由を通知する。出願人が
意見書・実験成績証明書等により、両者が類似
の物であり本願発明の進歩性が否定されると
の一応の合理的な疑いについて反論、釈明し、
審査官の心証を真偽不明となる程度に否定す
ることができた場合には、拒絶理由が解消され
る。出願人の反論、釈明が抽象的あるいは一般
的なものである等、審査官の心証が変わらない
場合には、進歩性否定の拒絶査定を行う。
ただし、引用発明特定事項が下記①又は②に
該当するものであるような発明を引用発明と
してこの取扱いを適用してはならない。
①当該機能・特性等が、標準的なもの、当該技
術分野において当業者に慣用されているもの、
又は慣用されていないにしても慣用されてい
るものとの関係が当業者に理解できるものの
いずれにも該当しない場合
②当該機能・特性等が、標準的なもの、当該技
術分野において当業者に慣用されているもの、
又は慣用されていないにしても慣用されてい
るものとの関係が当業者に理解できるものの
いずれかに該当するが、これらの機能・特性等
が複数組合わされたものが、全体として①に該
当するものとなる場合
(2) 以下に、一応の合理的な疑いを抱くべき場
合の例を示す。
・請求項に係る発明の機能・特性等が他の定義
又は試験・測定方法によるものに換算可能であ
って、その換算結果からみて請求項に係る発明
の進歩性否定の根拠になると認められる引用
発明の物が発見された場合
・請求項に係る発明と引用発明が同一又は類似
の機能・特性等により特定されたものである
が、その測定条件や評価方法が異なる場合であ
って、両者の間に一定の関係があり、引用発明
の機能・特性等を請求項に係る発明の測定条件
韓審第 3 部第 3 章 6.4.3.パラメータ発明の進
歩性の判断
(1)パラメータ発明は、物理的・化学的特性値
について当該技術分野において標準的なもの
ではない、又は慣用されていないパラメータを
出願人が任意に創り出し、又はこれら複数の変
数間の相関関係を利用して演算式によりパラ
メータ化した後、発明の構成要素の一部とする
発明をいう。パラメータ発明は、請求項の記載
自体のみでは技術的構成を明確に理解するこ
とができない場合があるため、パラメータ発明
の進歩性は、発明の詳細な説明又は図面及び出
願時の技術常識を参酌して、発明が明確に把握
される場合に限り判断する。
(2)請求項に記載された性質又は特性本発明の
内容を限定する事項である以上、これを発明の
構成から除外して先行技術と対比することは
できないので、パラメータ発明の場合、パラメ
ータから起因する性質又は特性等を勘案して
容易に発明することができるか否かを判断す
る。パラメータ発明の進歩性の判断は、まず、
パラメータの導入に技術的意味があるか否か
を検討しなければならない。請求項に記載され
たパラメータが、出願前に公知となった物性を
表現の方式のみを変えて表現したものに過ぎ
ない場合や、公知となった物に内在した本来の
性質又は特性を試験的に確認したものに過ぎ
ない場合、又はパラメータとより良い効果との
因果関係が不足している場合には、技術的意義
を認めることができないので進歩性を否定す
る。ただし、パラメータ発明が数値限定発明の
形態をとっている場合には、数値限定発明の進
歩性の判断基準をそのまま適用することがで
きるので、仮にパラメータ自体のみでは技術的
意義がないとしても、数値の限定によって異質
であるか、又は同質であっても顕著な作用効果
が認められるならば、進歩性を認めることがで
きる。
(3)請求項に含まれているパラメータを理解す
ることが困難であったり、試験測定及び換算が
難しく引用発明において対応するものと対比
することが困難であっても、当該パラメータ発
明が引用発明から容易に発明することができ
ると合理的に疑う程度の事情があれば、その構
成を厳密に対比することなく進歩性が否定さ
れる旨の拒絶理由を通知した後に、出願人の立
証資料(意見書及び実験成績書等)の提出を待
99
又は評価方法により測定又は評価すれば、請求
項に係る発明の機能・特性等と類似のものとな
る蓋然性が高く、進歩性否定の根拠となる場合
・出願後に請求項に係る発明の物と同一と認め
られる物の構造が判明し、それが出願前に公知
の発明から容易に発明できたものであること
が発見された場合
・本願の明細書若しくは図面に実施の形態とし
て記載されたものと同一又は類似の引用発明
であって進歩性否定の根拠となるものが発見
された場合(例えば、実施の形態として記載さ
れた製造工程と同一の製造工程及び類似の出
発物質を有する引用発明を発見したとき、又は
実施の形態として記載された製造工程と類似
の製造工程及び同一の出発物質を有する引用
発明を発見したときなど)
・請求項に係る発明の、機能・特性等により表
現された発明特定事項以外の発明特定事項が、
引用発明と共通しているか、又は進歩性が欠如
するものであり、しかも当該機能・特性等によ
り表現された発明特定事項の有する課題若し
くは有利な効果と同一又は類似の課題若しく
は効果を引用発明が有しており、進歩性否定の
根拠となる場合
なお、この特例の手法によらずに進歩性の判
断を行うことができる場合には、通常の手法に
よることとする。
2.7 製造方法による生産物の特定を含む請求
項についての取扱い
(1) 製造方法による生産物の特定を含む請求
項においては、その生産物自体が構造的にどの
ようなものかを決定することが極めて困難な
場合がある。そのような場合において、上記
2.6 と同様に、当該生産物と引用発明の対応す
る物との厳密な一致点及び相違点の対比を行
わずに、審査官が、両者が類似の物であり本願
発明の進歩性が否定されるとの一応の合理的
な疑いを抱いた場合には、進歩性が欠如する旨
の拒絶理由を通知する。
ただし、引用発明特定事項が製造方法によっ
て物を特定しようとするものであるような発
明を引用発明としてこの取扱いを適用しては
ならない。
(2) 以下に、一応の合理的な疑いを抱くべき場
合の例を示す。
・請求項に係る発明と出発物質が類似で同一の
製造工程により製造された物の引用発明を発
見した場合
・請求項に係る発明と出発物質が同一で類似の
製造工程により製造された物の引用発明を発
つことができる。出願人の反論によって拒絶理
由を維持できない場合には拒絶理由が解消さ
れるが、合理的な疑いが解消されなかった場合
には進歩性がないという理由により拒絶決定
する。
(4)進歩性の判断において容易に発明すること
ができるという合理的な疑いが生じる場合と
しては、①請求項に記載された発明のパラメー
タを異なる定義又は試験・測定方法で換算した
ところ、請求項に記載された発明が引用発明か
ら容易に発明することができる場合、②引用発
明のパラメータを詳細な説明に記載された測
定・評価方法により評価したところ、請求項に
記載された発明が限定するものと類似するこ
ととなり、進歩性を否定することができる場
合、及び③詳細な説明に記載された出願発明の
実施形態と引用発明の実施形態が類似してお
り、進歩性を否定することができる場合等があ
る。
(5)パラメータ発明について拒絶理由を通知
するときは、一応の合理的な疑いを抱くことと
なった理由を具体的に記載しなければならず、
必要な場合、審査官は自身の合理的な疑いを解
消するための反論方法を出願人に提示するこ
とができる。
(6)請求項に記載されたパラメータが当該技術
分野で標準的若しくは慣用されること、又は当
該技術分野で通常の知識を有する者が簡単に
理解できることとして認められるときには、前
記(1)~(5)の審査基準は適用しないこととす
る。
6.4.4. 製造方法により特定された物の発明の
進歩性の判断
物の発明の特許請求の範囲は、特別な事情が
ない限り、発明の対象である物の構成を直接特
定する方式で記載しなければならないので、物
の発明の特許請求の範囲にその物を製造する
方法が記載されているとしても、その製造方法
により物を特定せざるを得ない等の特別な事
情がない以上、当該出願発明の進歩性の有無を
判断するにあたっては、その製造方法自体は考
慮する必要はなく、その特許請求の範囲の記載
により物として特定される発明のみを、その出
願前に公知となった発明等と比較すればよい。
方法的形式で記載した物に関する請求項にお
いて、保護を受けようとする対象は方法や製造
装置でなく物自体として解釈されるので、進歩
性等についての判断対象は物である。したがっ
て、審査官は、新規性や進歩性の判断等におい
て、その方法や製造装置が特許性を有するのか
100
見した場合
・出願後に請求項に係る発明の物と同一と認め
られる物の構造が判明し、それが出願前に公知
の発明から容易に発明できたものであること
が発見された場合
・本願の明細書若しくは図面に実施の形態とし
て記載されたもの又はこれと類似のものにつ
いての進歩性を否定する引用発明が発見され
た場合
なお、この特例の手法によらずに進歩性の判
断を行うことができる場合には、通常の手法に
よることとする。
否かを判断するのではなく、そのような方法で
製造された「物自体」の構成が公知となった物
の構成と比較して進歩性等が有するのか否か
を判断して特許の可否を決定する。この場合、
方法的記載により物性・特性・構造等を含めて
特定される物が判断の対象となる。
解説;
日韓で規定している事項は異なるものの、機能・特性により特定された発明、パラメ
ータ発明、プロダクトバイプロセスクレーム等、特定の表現を有する請求項に係る発明
に関し、引用発明と対比するにおいて困難がある場合、引用発明との厳密な一致点・相
違点の抽出をせず、進歩性を否定する「合理的な疑いのある場合」、一旦拒絶理由を通
知し、出願人によって疎明する運用としている点で、同様な態度を取っている。
101
8.進歩性の判断における留意事項
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 2 章 2.8
2.8 進歩性の判断における留意事項
(1) 刊行物中に請求項に係る発明に容易に想
到することを妨げるほどの記載があれば、引用
発明としての適格性を欠く。しかし、課題が異
なる等、一見論理づけを妨げるような記載があ
っても、技術分野の関連性や作用、機能の共通
性等、他の観点から論理づけが可能な場合に
は、引用発明としての適格性を有している。
韓審第 3 部第 3 章 5.2 引用発明の選択
(3)刊行物に、請求項に記載された発明から遠
ざかったり、反対の方向に導いたりする記載が
ある場合、当該刊行物を引用発明として選定す
ることに注意を払わなければならない。ただ
し、請求項に記載された発明を容易に導き出す
ことに適切でない記載があるとしても、技術分
野の関連性と機能の共通性等、他の観点からみ
て発明に至り得る動機がある場合には、引用発
明として使用することができる。
(4)審査の対象となる出願の詳細な説明中に従
来技術として記載されている技術の場合、出願
人がその詳細な説明の中でその従来の技術が
出願前に公知となったことを認めているとき
は、引用発明と特定して請求項に記載された発
明の進歩性を審査することができる。
(2) 周知・慣用技術は拒絶理由の根拠となる技
術水準の内容を構成する重要な資料であるの
で、引用するときは、それを引用発明の認定の
基礎として用いるか、当業者の知識(技術常識
等を含む技術水準)又は能力(研究開発のため
の通常の技術的手段を用いる能力や通常の創
作能力)の認定の基礎として用いるかにかかわ
らず、例示するまでもないときを除いて可能な
限り文献を示す。
(3) 本願の明細書中に本願出願前の従来技術
として記載されている技術は、出願人がその明
細書の中で従来技術の公知性を認めている場
合は、出願当時の技術水準を構成するものとし
てこれを引用して請求項に係る発明の進歩性
判断の基礎とすることができる。
(4) 特許を受けようとする発明を特定するた
めの事項に関して形式上又は事実上の選択肢
(注)を有する請求項に係る発明については、当
該選択肢中のいずれか一の選択肢のみを発明
を特定するための事項と仮定したときの発明
と引用発明との対比及び論理づけを行い、論理
づけができた場合は、当該請求項に係る発明の
進歩性は否定されるものとする。
なお、この取扱いは、どのような場合に先行
技術調査を終了することができるかとは関係
しない。この点については「第Ⅸ部 審査の進
め方」を参照。
(注)「形式上又は事実上の選択肢」については、
1.5.5(注 1)を参照。
(5) 物自体の発明が進歩性を有するときは、そ
の物の製造方法及びその物の用途の発明は、原
則として進歩性を有する。
(6) 商業的成功又はこれに準じる事実は、進歩
性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実
として参酌することができる。ただし、出願人
の主張・立証により、この事実が請求項に係る
発明の特徴に基づくものであり、販売技術や宣
伝等、それ以外の原因によるものでないとの心
8. 進歩性の判断時に考慮すべきその他の要素
(1)先行技術文献がその先行技術を参酌しない
よう教示しているならば、すなわち、通常の技
術者をして出願発明に至ることができないよ
う阻害しているならば、その先行技術が出願発
明と類似しているとしても、その先行技術文献
によって当該出願発明の進歩性は否定されな
い。このとき、先行技術文献において、その先
行技術が劣るものに表現されているという事
実のみでは、阻害要因と言うことはできない。
(2)発明の製品が商業的に成功し、若しくは業
界で好評を受けているという事情、又は出願前
に久しく実施した者がなかった点等の事情は、
進歩性を認める1つの補助的資料として参考
にすることができる。ただし、このような事情
のみをもって進歩性が認められるとは限らな
い。進歩性は、明細書に記載された内容、すな
わち発明の目的、構成及び効果を基に、優先的
に判断されなければならないので、商業的成功
が本発明の技術的特徴に起因したものでなく、
他の要因、例えば販売技術の改善や広告・宣伝
等によって得られたものであるならば、進歩性
の判断の参考資料とすることはできない。
(3)出願発明が長期間、通常の技術者が解決し
ようとしてきた技術的課題を解決し、又は長期
間、要望されていた必要性を充足させたという
事実は、出願発明が進歩性を有するという証拠
となり得る。こうした技術的課題の解決や必要
性は、通常の技術者に認識され続けてきたが、
出願発明によって初めに満たされたものでな
102
証が得られた場合に限る。
ければならず、これを認めるためには客観的な
証拠資料が要求される。
(4)発明が当該技術分野で特定技術課題につい
ての研究及び開発を阻害する技術的偏見によ
って通常の技術者が放棄した技術的手段を採
用することにより創出されたものであって、こ
れによりその技術課題を解決したならば、進歩
性の判断の指標の一つとして考慮することが
できる。
(5)出願発明が、他の者が解決しようとして失
敗した技術的困難を克服する方案を提示し、又
は課題を解決する方案を提示したものであれ
ば、発明の進歩性を認定する有利な証拠となり
得る。
(6)出願発明が新たな先端技術分野(brand-new
technology)に属していて関連する先行技術が
まったくない場合、又は最も近い先行技術と出
願発明との差異が顕著である場合、進歩性が存
在する可能性が高い。
9. 進歩性の判断時の留意事項
(1)審査の対象となる出願の明細書に記載され
た事項により得た知識を前提として進歩性を
判断する場合、通常の技術者が引用発明から請
求項に記載された発明を容易に発明すること
ができるものと認めやすい傾向があるので、注
意を要する。また、ある原因の解明による発明
において、一旦その原因が解明されれば解決が
容易な発明である場合には、その原因の解明過
程を重視して進歩性を判断するべきでおり、単
にその解決手段が自明であるという理由のみ
をもって進歩性を否定してはならない。
(2)独立項の進歩性が認められる場合には、そ
の独立項を引用する従属項についても進歩性
が認められる。しかし独立項の進歩性が認めら
れない場合は、その独立項に従属する従属項に
ついては別途に進歩性を判断しなければなら
ない。
(3)物に係る発明の進歩性が認められる場合に
は、その物の製造方法に係る発明及びその物の
用途の発明は原則として進歩性が認められる。
(4)請求項に記載された発明がマーカッシュ形
式(Markush Type)又は構成要素が選択的に記
載された場合等において、その選択要素のいず
れか一を選択して引用発明と対比した結果、進
歩性が認められなければ、その請求項について
進歩性がないものと認められる。
この場合、出願人は進歩性がないものと指摘
した選択要素を削除して拒絶理由を解消する
ことができる。一方、マーカッシュ形式又は構
103
成要素が選択的に記載された請求項の進歩性
を判断するにあたって、選択要素のうちいずれ
か一についての効果を出願発明全体の効果に
拡大して認めないように注意しなければなら
ない。
(5)退歩発明は進歩性がない。退歩発明につい
て特許を付与することは、技術的進歩の誘導を
通じて産業の発展を図る特許法の目的に沿わ
ないだけでなく、仮に特許を付与して独占権を
付与するとしても実施されることもなく、実施
をする者はむしろ実施に伴う無駄に努力によ
る弊害のみがもたらされるからである。
(6)審査官は周知・慣用技術に該当すると認め
られる場合、証拠資料を添付せずに拒絶理由を
通知することができる。ただし、証拠資料によ
る裏付をせずに、周知・慣用技術を「最も近い
引用発明」とすることは適切でない。
証拠資料が添付されないまま周知・慣用技術に
基づいて通知された拒絶理由に対し、出願人が
意見書で周知・慣用技術ではないと主張する場
合、審査官は、原則としてその拒絶理由につい
ての証拠資料を提示しなければならない。ただ
し、文献等による証拠資料の提示が困難な場
合、審査官は、周知・慣用技術であるという点
について充分に説明し、又は周知・慣用技術で
ないという出願人の主張が適切でない理由を
指摘して拒絶することができる。
周知・慣用技術が記載されている資料として
は、幅広く使用されている教科書、初学者を対
象とする書籍、技術標準辞典、当該技術分野の
国家標準(KS)規格等がある。ただし情報通信等
の技術開発が活発な技術分野では、技術標準辞
典や国家標準(KS)規格に収録された内容を周
知・慣用技術として認められない場合があるの
で注意しなければならない。
(7)発明の進歩性は、特許出願された具体的発
明により個別に判断されるものであって、他の
発明の審査例に拘束われるものではないので、
法制と慣習を異にする他の国の審査例は、参考
事項とすることはできるが、特許性判断に直接
的な影響を及ぼすものではない。
(8)国内外法律上の制限によりその技術内容の
実現が禁止されるとしても、技術の困難性を判
断するにあたって、そうした法律上の制限は考
慮しない。
解説;
この部分は、進歩性判断のための 2 次的な方法を提示したものであり、審査官の主観
が介入しない客観的な証拠を通じた考慮事項に関するものである。日本の場合、進歩性
104
の判断における留意事項として規定しており、韓国は進歩性判断時の留意事項及びその
他に考慮すべき要素の部分に分けて規定しているが、多くの点で共通しており、運用上、
特段の差異は見られない。
一方で、周知技術文献の取り扱いにおいては、両国の間に大きな隔たりがある。日本
の場合には、例示するまでもないときを除いて可能な限り文献を定時するよう規定して
いるのに対し、韓国の場合は、周知・慣用技術に該当すると認められる場合、証拠資料
を添付せずに拒絶理由を通知することができるとされている。もちろん、出願人が意見
書で周知・慣用技術ではないと主張する場合、審査官は、証拠資料を提示しなければな
らないと規定しているが、この場合であっても、証拠資料の提示が困難であれば、その
提示をすることなく最終的に拒絶することができるとされている。
その他、日本では規定が見られず、韓国の審査指針書のみで進歩性の判断時に考慮すべ
き要素として規定している主な事項は、以下のとおりである。。
(1) 長期間の技術的課題を解決し、又は要望されていた必要性を充足させたという事実
は、出願発明が進歩性を有するという証拠となり得る。ただし、認めるためには客観的
な証拠資料が要求される。
(2) 特定技術課題についての研究及び開発を阻害する技術的偏見によって通常の技術
者が放棄した技術的手段を採用することにより技術課題を解決したならば、進歩性の判
断に考慮することができる。
(3) 他の者が解決しようとして失敗した技術的困難を克服する方案を提示し、又は課題
を解決する方案を提示したものであれば、進歩性を認定する有利な証拠となり得る。
(4) あらたな先端技術分野に属していて関連する先行技術がまったくない場合、又は最
も近い先行技術と出願発明との差異が顕著である場合、進歩性が存在する可能性が高い。
(5) 国内外法律上の制限によりその技術内容の実現が禁止されるとしても、技術の困難
性を判断するにあたって、そうした法律上の制限は考慮しない。
105
【拡大先願】
1.拡大先願に関する条文
日本特許法
日法第 29 条の 2
特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の
他の特許出願又は実用新案登録出願であつて
当該特許出願後に第66条第3項の規定によ
り同項各号に掲げる事項を掲載した特許公報
(以下「特許掲載公報」という。)の発行若
しくは出願公開又は実用新案法(昭和34年
法律第123号)第14条第3項の規定によ
り同項各号に掲げる事項を掲載した実用新案
公報(以下「実用新案掲載公報」という。)
の発行がされたものの願書に最初に添付した
明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登
録請求の範囲又は図面(第36条の2第2項
の外国語書面出願にあつては、同条第1項の
外国語書面)に記載された発明又は考案(そ
韓国特許法
韓法第 29 条第 3 項、4 項
3.特許出願に係る発明が当該特許出願の日
前の他の特許出願又は実用新案登録出願であ
つて当該特許出願をした後に出願公開され、
若しくは登録公告された他の特許出願又は実
用新案登録出願の願書に最初に添付した明細
書又は図面に記載された発明若しくは考案と
同一であるときは、その発明については、第
1項の規定にかかわらず、特許を受けること
ができない。ただし、当該特許出願の発明者
と他の特許出願の発明者若しくは実用新案登
録出願の考案者が同一であるとき又は当該特
許出願の時にその特許出願人と他の特許出願
若しくは実用新案登録出願の出願人が同一で
あるときは、この限りでない。
の発明又は考案をした者が当該特許出願に係
る発明の発明者と同一の者である場合におけ
るその発明又は考案を除く。)と同一である
ときは、その発明については、前条第1項の
規定にかかわらず、特許を受けることができ
ない。ただし、当該特許出願の時にその出願
人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願
の出願人とが同一の者であるときは、この限
りでない。
解説;
拡大先願に関する条文については、日韓とも非常に類似しており、その効果も同じで
ある。また、双方とも、当該特許出願の発明者と他の特許出願の発明者若しくは実用新案登
録出願の考案者が同一であるとき又は当該特許出願のときにその特許出願人と他の特許出願若
しくは実用新案登録出願の出願人が同一であるときは、この規定の適用を排除している。
ただ、 ①韓国特許法においては、PCT国際出願の場合、いわゆる翻訳文主義を採択し
ているため、「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明若しくは考案」とある
のは、外国語によって出願した場合、「国際出願日に提出した国際出願の明細書、請求の範囲又
は図面及びその出願の翻訳文にともに記載された発明若しくは考案」とするが、日本の場合には、
原文主義を採択しているため、「国際出願に提出した国際出願の明細書、請求の範囲又は図面」
とされる点、および ②韓国においては、日本と異なり、外国語書面出願制度がないため、これ
に対する規定がない点、において差がある。
しかし、本コメント執筆時点において、韓国も PCT 国際出願の原文主義を採択し、ま
た、外国語書面出願制度を導入する方向で法改正が予定されており、当該法改正によ
り、日本特許法と事実上同一内容で改正される予定である。
106
2.拡大先願に関する趣旨
日本審査基準
韓国審査指針書
1. 第29 条の2 の規定の趣旨
明細書又は図面に記載されている発明は、特
許請求の範囲以外に記載されていても、特許掲
載公報の発行又は出願公開により一般にその
内容は公表される。したがって、たとえ先願の
特許掲載公報の発行又は出願公開前に出願さ
れた後願であっても、その発明が先願の明細書
又は図面に記載された発明と同一である場合
には、特許掲載公報の発行又は出願公開をして
も新しい技術を何ら公開するものではない。こ
のような発明に特許を付与することは、新しい
発明の公表の代償として発明を保護しようと
する特許制度の趣旨からみて妥当ではないの
で、後願を拒絶すべきものとした。
韓審第 3 部第 4 章 2.
明細書又は図面に記載されている発明は、出
願公開又は登録公告によって公開されるため、
特許請求の範囲に含まれていなくても、その発
明は、出願人の立場から見れば代価なしに社会
に供与した発明であるとみることができる。
したがって、特許法第 29 条第 3 項及び第 4
項は、このように供与された発明を後に出願し
た第三者の専有物とすることは不合理なだけ
でなく、新たな発明に対する公開の代価として
一定の期間独占排他権を付与する特許制度の
趣旨にも合わないため、特許を許与しないとす
る趣旨である。
また、明細書又は図面に記載された発明を補
正によって特許請求の範囲に記載する場合、特
許法第 36 条規定による先出願となる可能性が
あり、後出願の審査を先出願の審査終結時まで
先送りしなければならない問題が生じるため、
これを防止するための側面もある。
解説;
日韓両国の特許制度の趣旨は、‘新しい発明の公開の代価として公開した発明を保護
する’ものであり、先願の出願公開(又は特許掲載公報の発行)前に出願された後願は、
新しい発明を公開したものとみることができず、特許を付与することができない旨の拡
大された先願に関連した規定もまた日韓両国において、同一である。
107
3.他の特許出願等
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 3 章 2.2
2.2 当該特許出願の日前の他の特許出願又は
実用新案登録出願であって当該特許出願後に
特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実
用新案掲載公報の発行がされたもの
(1)他の特許出願又は実用新案登録出願(以下、
「他の出願」という。)は、当該特許出願の出
願日(優先権主張を伴う出願の場合は、優先権
主張日)の前日以前に出願された特許出願又は
実用新案登録出願であって、当該特許出願後に
特許掲載公報の発行若しくは出願公開又は実
用新案掲載公報の発行がされたものでなけれ
ばならない。
(2)他の出願が分割出願、変更出願又は実用新
案登録に基づく特許出願の場合には、他の出願
の出願日は遡及せず、現実の出願日である。
(3)他の出願がパリ条約による優先権の主張を
伴う出願である場合、その出願が優先期間内の
出願であって優先権証明書を提出したもので
あれば、第一国出願の明細書等と我が国への出
願時の願書に最初に添付した明細書、特許請求
の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)
とに共通して記載されている発明に関しては、
第一国出願日に我が国へ出願があったものと
して扱う。
(4)国内優先権の主張の基礎とされた「先の出
願」(第 41 条第 1 項)の当初明細書等に記載
された発明又は当該優先権の主張を伴う出願
(以下「後の出願」という。)の当初明細書等
に記載された発明について、先の出願又は後の
出願を他の出願とする場合の取扱いは、以下の
とおりとする。
①後の出願と先の出願の双方の当初明細書等
に記載された発明については、先の出願の出願
日により先の出願を他の出願として第 29 条の
2 の規定を適用する(第 41 条第 2 項及び第 3
項)。ただし、先の出願が優先権の主張を伴う
出願(パリ条約によるものを含む)である場合
には、上記双方の当初明細書などに記載された
発明のうち、当該先の出願の優先権の主張の基
礎とされた出願の当初明細書等に記載された
発明については、先の出願を他の出願として第
29 条の 2 の規定は適用されない(第 41 条第 2
項及び第 3 項)。
②後の出願の当初明細書等にのみ記載され、先
の出願の当初明細書等に記載されていない発
明については、後の出願の出願日により後の出
韓審第 3 部第 4 章 3(1)(2)、5
(1)当該特許出願(以下、
“当該出願”という。)
の出願日(条約優先権主張を伴う出願は第 1 国
出願日、国内優先権主張出願は先出願日)前に、
他の特許出願又は実用新案登録出願(以下、
“他
の出願”という。)が出願されていること
①他の出願が分割出願又は変更出願(2006 年
10 月 1 日前の出願の場合は二重出願)である場
合には、特許法第 29 条第 3 項及び第 4 項の適
用において、出願日は、分割又は変更出願日で
ある。
②他の出願がパリ条約による優先権主張を伴
う出願である場合には、第 1 国出願の明細書又
は図面(以下、出願の最初の明細書又は図面は
“当初明細書等”という。)と優先権主張を伴
う出願の当初明細書等に共通して記載された
発明については、第 1 国出願日を他の出願の出
願日と認める。
③国内優先権主張の基礎となった先出願の当
初明細書に記載された発明、又は当該優先権の
主張を伴う出願(以下「後出願」という。)の当
初明細書等に記載された発明を、特許法第 29
条第 3 項、4 項の他の出願とする場合には、次
のように取り扱う。
(a)後出願と先出願両方の当初明細書等に記載
された発明に関しては、先出願の出願日を他の
出願の出願日として特許法第 29 条第 3、4 項の
規定を適用する。後出願の当初明細書等にのみ
記載され、先出願の当初明細書等には記載され
ていない発明については、後出願の出願日を他
の出願の出願日として特許法第 29 条第 3 項、4
項の規定を適用する。先出願の当初明細書等に
のみ記載され、後出願の当初明細書等には記載
されていない発明については、特許法第 29 条
第 3 項及び第 4 項の規定を適用することができ
ない。
先出願は、その出願日から 1 年 3 月(2001 年
7 月 1 日以降に出願された実用新案登録出願の
場合は、即時)を経過した時に取り下げられた
ものとみなされ、出願公開されないため、後出
願が出願公開又は登録公告された際に後出願
の当初明細書等に記載された発明のうち先出
願の当初明細書等に記載された発明は、前記登
録公告又は公開された時に出願公開されたも
のとみなされる。
また、後出願と先出願の当初明細書等には記
載されていないが補正によって新たに記載さ
108
願を他の出願として第 29 条の 2 の規定を適用
する(第 41 条第 2 項及び第 3 項)。
(5)国内優先権の主張の基礎とされた先の出願
又は後の出願を他の出願とする場合において、
先の出願の当初明細書等にのみ記載され、後の
出願の当初明細書等には記載されていない発
明については、出願公開がされたものとみなさ
れない(第 41 条第 3 項)。したがって、第 29
条の 2 の規定は適用されない。
れた発明については、同規定が適用されず、先
出願の当初明細書等には記載されているが後
出願の当初明細書等には記載されていない発
明については、出願公開されたものとみない。
したがって、このような発明についても特許法
第 29 条第 3 項、4 項の規定は、適用されない。
解説;
他の特許出願の出願日等にの扱いついては、日韓とも同様である。すなわち、他の出
願が分割・変更出願である場合の扱い、パリ優先権主張出願である場合、国内優先出願
である場合の扱いについては、日韓違いがない。
109
4.発明者等・出願人が同一
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 3 章 2.5、2.6
2.5 その発明又は考案をした者が当該特許
出願に係る発明の発明者と同一
(1)当該特許出願の請求項に係る発明の発
明者、及び他の出願の明細書等に記載され
た発明の発明者は、
「特別の事情」がない限
り、願書に記載された発明者であると認定
する。
「特別の事情」とは、例えば、明細書
中に別の発明者が記載されているような場
合をいう。
(2)発明者の同一は、各々の願書に記載され
た発明者の全員が表示上完全に一致してい
ることを要するが、一致していない場合は
実質的に判断し、その結果完全同一である
ことを要する。
(3)なお、発明者が同一でないとの認定を覆
すためには、出願人の主張のみでは不十分
であり、その主張を裏付ける証拠(他の出
願の発明者の宣誓書等)が必要である。
(4)共同発明者といえるためには、発明完成
までの過程の少なくとも一部分において、
共同発明者の各々が技術的創作活動を相互
補完的に行い、発明を完成するために有益
な貢献をなしたことが必要である。
2.6 当該特許出願の時にその出願人と当該
他の特許出願又は実用新案登録出願の出願
人とが同一
(1)出願人同一の判断は当該特許出願の現
実の出願時点で、他の出願と当該特許出願
との出願人の異同によって行う。
(2)出願人が複数である場合には、全員が完
全に一致するとき出願人同一に該当する。
(3)他の出願と当該出願との間に出願人の
改称・相続・合併があって出願人が記載上
一致しなくなった場合でも同一と認定す
る。
(4)当該出願が分割出願又は変更出願であ
るときは、当該出願の出願日の遡及時点の
もとの出願人を当該出願の出願人とする。
韓審第 3 部第 4 章 4
4. 特許法第 29 条第 3 項のただし書きの適用基
準
次の場合には、特許法第 29 条第 3、4 項の他
の出願の地位を有しない出願とする。
(1)当該出願の発明者と他の出願の発明者が同
一である場合
当該出願の発明者と他の出願の発明者は、原
則的に出願書に記載された発明者をいう。発明
者が共同発明者である場合は、当該出願及び他
の出願の発明者全員が表示上完全に一致する
ことを要する。しかし、表示上完全に一致しな
い場合でも、実質的に同一の発明者と判断され
れば、発明者が同一であるものと認める。発明
者が表示上完全に同一でない場合、出願人は、
発明者が同一であるという事実を立証しなけ
ればならない。
審査官が、当該出願と他の出願の発明者が相
異していて他の出願を先行技術として拒絶理
由を通知した結果、これを解消するために出願
人が発明者を追加したり訂正を申請した場合、
審査官は、出願人が追加や訂正を要請した発明
者が真の発明者であるか否かを立証すること
ができる書類を出願人に要求することができ
る。
(2)当該出願の出願人と他の出願の出願人が同
一である場合
出願人が同一か否かは、当該出願の実際の出
願時点を基準として他の出願と当該出願の出
願書に記載された出願人の同異によって判断
する。もし、出願人が 2 人以上である場合には、
全員が完全に一致しなければならない。
他の出願日と当該出願日の間に、出願人の改
称・相続・合弁等によって出願人の記載が外形
上完全に一致しない場合でも、実質的に同一で
ある場合には一致するものと認める。
解説;
上述のとおり、拡大された先願規定の趣旨上、当該出願の発明者と他の出願の発明者
又は当該出願の出願人と他の出願の出願人が同一である場合、当該他の出願は、拡大さ
れた先願規定における他の出願の地位を有さない点は日韓両国において同一である。そ
して、当該出願と他の出願の発明者又は出願人が同一であるか否かの判断は、まずは願
110
書の記載で判断した上で、両者が一致していない場合には“実質的同一”であるか否か
によって判断することとしており、この点もまた両国、同一である。加えて、発明者が
同一であるか否かの証明責任を出願人に負わせている点でも日韓共通している。
また、日本の審査指針書においては、当該出願が分割出願ではない変更出願である場
合、当該出願の出願日の遡及時点の出願人を当該出願の出願人とする点を記載している
が、韓国の審査指針書ではこれを明確にしていないが、実務においては日本の審査指針
書と同一の実務を行っている。
111
5.請求項に係る発明の認定、引用発明の認定
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 3 章 3.1、3.2(1)
3.1 請求項に係る発明の認定
請求項に係る発明の認定の仕方は、「第 2 章
1.5 新規性の判断の手法」と共通である。
3.2 他の出願の当初明細書等に記載された発
明又は考案の認定
(1)「他の出願の当初明細書等に記載された発
明又は考案」とは、「他の出願の当初明細書等
に記載されている事項(注 1)」及び「他の出
願の当初明細書等に記載されているに等しい
事項」(他の出願の出願時における技術常識を
参酌することにより当業者が他の出願の当初
明細書等に記載されている事項から導き出せ
る事項)から当業者が把握できる発明又は考案
をいう。
したがって、他の出願の当初明細書等に記載
されている事項及び記載されているに等しい
事項から当業者が把握することができない発
明又は考案は「他の出願の当初明細書等に記載
された発明又は考案」とはいえず、
「引用発明」
とすることができない。例えば、ある記載事項
が他の出願の当初明細書等にマーカッシュ形
式で記載された選択肢の一部であるときは、当
該選択肢中のいずれか一のみを発明を特定す
るための事項とした発明を当業者が把握する
ことができるか検討する必要がある。
韓審第 3 部第 4 章 6.1(1)(2)
6.1 同一性の判断手順
(1)当該出願の請求項に記載された発明を特定
する。この場合に、請求項に記載された発明の
特定方法は「第 2 章 新規性の判断」と同一で
ある。
(2)引用発明を特定する。引用発明は、引用さ
れた他の出願の明細書等に記載されている事
項によって特定するが、記載された事項による
特定の際に他の出願の出願時の技術常識を参
酌して明白に導き出すことができる事項も引
用発明として特定することができる。
解説;
請求項に係る発明の認定、引用発明の認定については、日韓、同一である。すなわち
日韓とも新規性判断における請求項に係る発明の認定と同様とされているが、当該請求
項に係る発明の認定は、双方差がない。
112
6.対比
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 3 章 3.3
3.3 請求項に係る発明と引用発明との対比
(1)請求項に係る発明と引用発明との対比は、
請求項に係る発明の発明特定事項と引用発明
の発明を特定するための事項との一致点及び
相違点を認定して行う。
(2)また、上記(1)の対比の手法に代えて、請求
項に係る発明の下位概念と引用発明との対比
を行い、両者の一致点及び相違点を認定するこ
とができる。
請求項に係る発明の下位概念には、発明の詳
細な説明又は図面中に請求項に係る発明の実
施の形態として記載された事項などがあるが、
この実施の形態とは異なるものも、請求項に係
る発明の下位概念である限り、対比の対象とす
ることができる。
この手法は、例えば、機能・特性等によって
物を特定しようとする記載や数値範囲による
限定を含む請求項における第 29 条の 2 の判断
に有効である。
(3)なお、上記(1)及び第 2 章 1.5.3(3)の手法
に代えて他の出願の当初明細書等に記載され
た事項と請求項に係る発明の発明特定事項と
を比較する場合には、他の出願の当初明細書等
に記載されている事項と請求項に係る発明の
発明特定事項とを対比する際に、他の出願の出
願時の技術常識を参酌して記載されている事
項の解釈を行いながら、一致点と相違点とを認
定することができる。ただし、上記(1)及び第
2 章 1.5.3(3)の手法による場合と判断結果が
異なるものであってはならない。
(4)独立した二以上の引用発明を組み合わせて
請求項に係る発明と対比してはならない。
韓審第 3 部第 4 章 6.1(3)(4)
(3)請求項に記載された発明と引用発明を対比
して構成の一致点と差異点を明確にする。この
場合に、2 以上の引用発明を結合して請求項に
記載された発明と対比してはならない。
(4)対比の結果、請求項に記載された発明と引
用発明間に構成の差異がなければ、請求項に記
載された発明と引用発明は同一である。この場
合の同一は、実質的同一を含む。
解説;
当該出願の請求項に記載された発明と引用発明の対比方法は、基本的に日韓、同一で
ある。また、日本の審査指針書は、当該出願の請求項に記載された発明の下位概念を利
用した対比方法を具体的に記載している一方、韓国の審査指針書は、これに対して明確
に記載してはしていないが、具体的な事案によって下位概念を利用して対比する場合が
あり、実務上は日韓とも大差ないといえる。
さらに、日本の審査指針書には、他の出願の出願時に技術常識を参酌して記載されて
いる事項の解釈を行うことが記載されている一方、韓国の審査指針書にはこれを明確にし
ていないが、この点に関しても、実務においては、日本の審査指針書と同一である。
113
7.判断
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 3 章 3.4(1)(2)
3.4 請求項に係る発明が引用発明と同一か否
かの判断
(1)対比した結果、請求項に係る発明の発明特
定事項と引用発明特定事項とに相違点がない
場合は、請求項に係る発明と引用発明とは同一
である。
請求項に係る発明の発明特定事項と引用発
明特定事項とに相違がある場合であっても、そ
れが課題解決のための具体化手段における微
差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等
であって、新たな効果を奏するものではないも
の)である場合(実質同一)は同一とする。
(2)特許を受けようとする発明を特定するため
の事項に関 して形式上又は事実上の 選択肢
(注)を有する請求項に係る発明については、
当該選択肢中のいずれか一の選択肢のみを発
明を特定するための事項と仮定したときの発
明と引用発明との対比を行った場合に両者に
相違点がないとき又は相違点はあるが実質同
一であるときは、同一であるものとする。
韓審第 3 部第 4 章 6.2-6.3.6
6.2 同一性の判断の実体的方法
発明の同一性の問題は、発明の新規性(特法§
29①)の問題のみでなく、進歩性(特法§29②)、
公知例外主張出願(特法§30)、拡大された先願
(特法§29③、④)、正当な権利者の保護(特法
§33、34)、先願(特法§36)、特許を受けるこ
とができる権利の継承(特法§38②、③、④)、
分割出願(特法§52)、変更出願(特法§53)、及
び優先権主張出願(特法§54、55)等の適合性を
判断する際にも発生する問題であり、本章の同
一性の判断基準は、前記各部分において準用す
る。
(1)同一性の判断は、請求項に記載された発明
と引用発明を、発明の構成を対比して両者の構
成の一致点と差異点を抽出して判断する。
(2)請求項に記載された発明と引用発明の構成
に差異点がある場合には同一の発明でなく、差
異点がなければ請求項に記載された発明と引
用発明は同一の発明である。
(3)請求項に記載された発明と引用発明が全面
的に一致する場合はもちろん、実質的に同一で
ある場合にも同一の発明である。
解説;
拡大された先願規定における本願発明と引用発明との同一性判断においては、基本的
に日韓とも同じであり、いわゆる‘実質的同一’である。
114
8.機能・特性等特定の表現を有する請求項についての取扱い
日本審査基準
日審第Ⅱ部第 3 章 3.4(3)(4)
韓国審査指針書
(なし)
(3)機能・特性等による物の特定を含む請求項
についての取扱い
①機能・特性等により物を特定しようとする記
載を含む請求項であって、下記(ⅰ)又は(ⅱ)
に該当するものは、引用発明との対比が困難と
なる場合がある。そのような場合において、引
用発明の物との厳密な一致点及び相違点の対
比を行わずに、審査官が、両者が同じ物である
との一応の合理的な疑いを抱いた場合には、第
29 条の 2 に基づく拒絶理由を通知する。出願
人が意見書・実験報告書等により、両者が同じ
物であるとの一応の合理的な疑いについて反
論、釈明し、審査官の心証を真偽不明となる程
度に否定することができた場合には、拒絶理由
が解消される。出願人の反論、釈明が抽象的あ
るいは一般的なものである等、審査官の心証が
変わらない場合には、第 29 条の 2 に基づく拒
絶査定を行う。
ただし、引用発明特定事項が下記(ⅰ)又は
(ⅱ)に該当するものであるような発明を引用
発明としてこの取扱いを適用してはならない。
なお、この特例の手法によらずに第 29 条の 2
の判断を行うことができる場合には、通常の手
法によることとする。
(4)製造方法による生産物の特定を含む請求項
についての取扱い
①製造方法による生産物の特定を含む請求項
においては、その生産物自体が構造的にどのよ
うなものかを決定することは極めて困難な場
合がある。そのような場合において、上記(3)
と同様に、当該生産物と引用発明の物との厳密
な一致点及び相違点の対比を行わずに、審査官
が、両者が同じ物であるとの一応の合理的な疑
いを抱いた場合には、第 29 条の 2 に基づく拒
絶理由を通知する。
ただし、引用発明特定事項が製造方法によっ
て物を特定しようとするものであるような発
明を引用発明としてこの取扱いを適用しては
ならない。
解説;
日本では、機能、特性、製造方法による特定を含む発明の取り扱いに関し、引用発明
との対比・判断が困難である場合、本願発明と引用発明との厳密な一致点、相違点の対
115
比を行わず、双方が同じであるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合、拒絶理由を通知
することとなっているが、韓国では、このような扱いは規定されていない。
ところで、物の発明を機能的表現で記載した機能式請求項及び物の発明を方法により
特定した プロダクトバイプロセス請求項について、旧韓国特許法は、請求範囲の記載
に関連して、“請求範囲が発明の 構成に欠かせない事項のみで記載すること”を要求
し、当該出願の請求範囲が機能及び方法等により表現された場合、上記規定に違背して
いる旨の拒絶理由が発生する素地があった。しかし、現在は、特許法改正を通じて、請
求範囲は、発明を特定するのに必要と認定される構造、機能、物質又はこれらの結合等
を通じて記載することとされ(韓国特許法 42 条 6 項)、いわゆる機能クレームやプロダ
クトバイプロセスクレームであっても、発明の特定に問題がなければ、請求範囲の記載
として適法なものとなる(なお、機能クレーム、プロダクトバイプロセスクレームの記
載要件については、
【特許請求の範囲の記載要件】4.
(3)請求項が機能、特性、製造
方法(プロダクトバイプロセス)等の表現を含む場合を参照のこと。)
また、このような発明の認定は、大法院 2009・7・23 言渡 2007 フ 4977 判決において、
“特許請求の範囲の要旨認定は特別な事情がない限り、特許請求の範囲に記載された事
項に基づいて行わなければならず、発明の詳細な説明又は図面等の記載に基づいて特許
請求の範囲を限定して解釈することは、認められないのであって、このような法理は機
能的クレームの要旨認定に際しても同様である”と判示しているところ、現行の韓国特
許庁の審査実務もこれと同様であり、日韓において特段の差異はない。
さらに、プロダクトバイプロセスクレーム発明の認定に関連して、韓国は、製造方法
によってのみ物を特定するしかないなどの特別な事情のない限り、製造方法自体は、考
慮する必要なく、特許請求範囲の記載によって、物と特定される発明のみを当該発明と
して認定することとされている。一方、日本においても、先般、プロダクトバイプロセ
スクレームの権利範囲の解釈について知的高等裁判所大合議判決(平成 22 年(ネ)第
10043 号)において判示されたが、審査においては従前の基準を踏襲しており、この点
についても日韓とも差がない。
116
【先願】
1.先願に関する条文
日本特許法
韓国特許法
日法第 39 条
同一の発明について異なつた日に二以上の特
許出願があつたときは、最先の特許出願人のみ
がその発明について特許を受けることができ
る。
2.同一の発明について同日に二以上の特許出
願があつたときは、特許出願人の協議により定
めた一の特許出願人のみがその発明について
特許を受けることができる。協議が成立せず、
又は協議をすることができないときは、いずれ
も、その発明について特許を受けることができ
ない。
3.特許出願に係る発明と実用新案登録出願に
係る考案とが同一である場合において、その特
許出願及び実用新案登録出願が異なつた日に
されたものであるときは、特許出願人は、実用
新案登録出願人より先に出願をした場合にの
みその発明について特許を受けることができ
る。
4.特許出願に係る発明と実用新案登録出願に
係る考案とが同一である場合(第46条の2第
1項の規定による実用新案登録に基づく特許
出願(第44条第2項(第46条第5項におい
て準用する場合を含む。)の規定により当該特
許出願の時にしたものとみなされるものを含
む。)に係る発明とその実用新案登録に係る考
案とが同一である場合を除く。)において、そ
の特許出願及び実用新案登録出願が同日にさ
れたものであるときには、出願人の協議により
定めた一の出願人のみが特許又は実用新案登
録を受けることができる。協議が成立せず、又
は協議をすることができないときは、特許出願
人は、その発明について特許を受けることがで
きない。
5.特許出願若しくは実用新案登録出願が放棄
され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、
又は特許出願について拒絶をすべき旨の査定
若しくは審決が確定したときは、その特許出願
又は実用新案登録出願は、第1項から前項まで
の規定の適用については、初めからなかつたも
のとみなす。ただし、その特許出願について第
2項後段又は前項後段の規定に該当すること
により拒絶をすべき旨の査定又は審決が確定
したときは、この限りでない。
6.特許庁長官は、第2項又は第4項の場合は、
相当の期間を指定して、第2項又は第4項の協
韓法第 36 条
同一の発明について異なつた日に二以上の特
許出願があつたときは、最先の特許出願人のみ
がその発明について特許を受けることができ
る。
2.同一の発明について同日に二以上の特許出
願があつたときは、特許出願人の協議により定
めた一の特許出願人のみがその発明について
特許を受けることができる。協議が成立せず、
又は協議をすることができないときは、いずれ
の特許出願人も、その発明について特許を受け
ることができない。
3.特許出願に係る発明と実用新案登録出願に
係る考案が同一である場合において、その特許
出願及び実用新案登録出願が異なつた日にさ
れたものであるときは、第1項の規定を準用
し、その特許出願及び実用新案登録出願が同日
にされたものであるときは、第2項の規定を準
用する。
4.特許出願又は実用新案登録出願が無効、取
下げ若しくは放棄され、又は拒絶査定若しくは
拒絶すべき旨の審決が確定したときは、その特
許出願又は実用新案登録出願は、第1項から第
3項までの規定の適用については、初めからな
かつたものもとみなす。ただし、第2項後段(第
3項の規定により準用する場合を含む。)の規
定に該当し、その特許出願又は実用新案登録出
願に対して拒絶査定又は拒絶すべき旨の審決
が確定したときは、この限りでない。
5.発明者又は考案者でない者であつて特許を
受ける権利又は実用新案登録を受ける権利を
承継しない者がした特許出願又は実用新案登
録出願は、第1項から第3項までの規定の適用
については、初めからなかつたものとみなす。
6.特許庁長官は、第2項の場合には、特許出
願人に期間を指定して、協議の結果を申告すべ
き旨を命じ、その期間内に申告がないときは、
第2項の規定による協議は成立しなつたもの
とみなす。
117
議をしてその結果を届け出るべき旨を出願人
に命じなければならない。
7.特許庁長官は、前項の規定により指定した
期間内に同項の規定による届出がないときは、
第2項又は第4項の協議が成立しなかつたも
のとみなすことができる。
解説;
同一の発明については、最先の出願人のみが特許を受けることができるという重複特
許排除の考え方は、日韓とも同様であり、また、同一出願日の場合は、協議により特許
を受ける権利を有する者を決めること、取下・放棄・拒絶確定の場合は、先願の地位が
失われなくなることなどについても、日韓とも特段の差異がない。
また、韓国においては、冒認出願について先願の地位がないことが法律で規定されて
いるところ、日本においても旧特許法では同様の規定が置かれていたが、冒認出願に関
する特許権の移転請求制度が導入されたことにより、当該移転を受けた特許権と同一の
権利が発生することのないよう(グレースピリオドの期間内に真の権利者が出願し特許
を受けた場合、当該特許を受けた権利と移転を受けた権利が重複する。)、冒認出願につ
いても先願の地位を与えることとしたため、現在では、日韓において差異が生じること
となった。
118
2.先願規定の趣旨
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 4 章 1.
1. 第 39 条の規定の趣旨
特許制度は技術的思想の創作である発明の
公開に対し、その代償として特許権者に一定期
間独占権を付与するものである。したがって、
一発明について二以上の権利を認めるべきで
はない。第 39 条はそのような重複特許を排除
する趣旨から、一発明一特許の原則を明らかに
するとともに、一の発明について複数の出願が
あったときには、最先の出願人のみが特許を受
けることができることを明らかにした規定で
ある。
韓審第 3 部第 5 章 2.
2. 特許法第 36 条の趣旨
特許法第 36 条は、先出願主義を規定してい
るものであり、同一の技術思想については最も
先に出願した者に権利を付与するようにする
規定である。特許制度は、公開の対価として一
定期間独占権を付与する制度であり、一つの技
術思想に二重に独占権を付与することは、特許
制度の本質に反するため、重複特許排除の原則
を実現するために導入された。
解説;
日韓とも先願主義を採用するものとして、重複特許を排除することを趣旨としており、
これに関する日韓の審査指針は、特段の差異がない。
119
3.先願の判断の対象
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 4 章 2.1.1
2.1.1 第 39 条の判断の対象
(1)第 39 条により発明が同一か否かの判断の
対象となる発明は「請求項に係る発明」である。
第 2 条によれば、発明は、自然法則を利用し
た技術的思想の創作のうち高度のものとされ
ているから、発明が同一であるか否かの判断は
技術的思想の同一性を判断することにより行
う。たとえ実施の態様が一部重複しうるとして
も、技術的思想が異なれば同一の発明とはしな
い。
(2)許請求の範囲に二以上の請求項がある場合
は、請求項ごとに第 39 条の要件の判断をする
韓審第 3 部第 5 章 3.1
3.1 同一発明
(1)先出願主義は、互いに異なる出願に記載さ
れた同一性がある発明間に適用される。発明が
同一であるか否かは、請求項に記載された発明
(発明と考案の同一当否判断を含む。以下同
じ。)間の技術的な思想が同一であるかによっ
て定められる。
(2)請求項が 2 以上である場合には、各請求項
ごとに発明が同一であるかを判断する。
解説;
日韓両国において、先願主義の判断は、特許出願の請求項に記載された発明の同一性
如何をもって判断することとされ、この点で両国に特段の差異はない。
120
4.出願日の認定
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 4 章 2.1.2
2.1.2 異なった日の特許出願、最先の特許出願
異なった日の出願であるのか、同日の出願であ
るのかの判断、又は最先の出願であるかの判断
は、以下のように行う。
(1)優先権主張を伴わない出願については、そ
の出願日(注)により行う。
(2)パリ条約による優先権の主張を伴う出願に
おいて、優先権主張の基礎とされた出願の出願
書類の全体(明細書、特許請求の範囲及び図面)
に記載された発明については、同盟国に最初に
出願した日(複数の優先権を主張している場合
には、優先権主張の基礎となる出願のうち、判
断の対象となる請求項に係る発明が記載され
ている出願の出願日)により行う。
(3)国内優先権の主張を伴う出願において、国
内優先権の主張の基礎とされた先の出願の願
書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又
は図面に記載された発明については、先の出願
の出願日(複数の優先権を主張している場合に
は、優先権主張の基礎となる出願のうち、判断
の対象となる請求項に係る発明が記載されて
いる出願の出願日)により行う。
韓審第 3 部第 5 章 4.1
4.1 判断基準日の認定
(1)出願日の同一当否、又は最先出願であるか
否かを判断するための判断基準日は、次のよう
に認める。
①優先権主張を伴わない出願については、実際
の出願日を判断基準日とする。
②パリ条約による優先権主張を伴う出願であ
って優先権主張の基礎となる出願の明細書又
は図面に記載された発明については、優先権主
張の基礎となる出願の出願日を判断基準日と
する。複数の優先権を主張する出願について
は、発明別に判断して最先日を判断基準日を決
定する。
③国内優先権主張を伴う出願であってその優
先権主張の基礎となる先出願の出願書に最初
に添付された明細書又は図面に記載された発
明については、その優先権主張の基礎となる先
出願の出願日を判断基準日とする。複数の優先
権を主張する出願については、発明別に判断し
て最先日を判断基準日と決定する。マーカッシ
ュ形式の請求項等は、同一請求項内でも判断基
準日が異なり得ることに注意する。
解説;
先願主義の下に、 出願日及び判断基準日を確定する基準は、日韓とも同様である。
ただし、韓国では、国内優先を伴う出願において、マーカッシュ形式の請求項の場合、
判断基準日が異なり得ることが明文化されているが、結局のところ、優先権主張の基礎
となる先願の願書に最初に添付されていた明細書等に記載されていたか否かが論点と
なるため、実務上、日韓で特段の差異はないだろう。
121
5.同日に二以上の特許出願があった場合
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 4 章 2.2.1、2.2.2
2.2.1 特許出願人の協議により定めた一の出
願人
同一の発明について同日に二以上の特許出
願があった場合には、各出願の出願人に長官名
で協議を指令する。
出願人が同一であるときも、出願人が異なる
場合に準じて協議を指令する。
なお、協議の詳細については 2.7.1 参照。
2.2.2 協議が成立せず、又は協議をすることが
できないとき
同一の発明について同日に二以上の特許出
願があった場合であって、協議が成立せず、又
は協議をすることができないときは、いずれ
も、その発明について特許を受けることができ
ない。
協議をすることができないときとは、相手が
協議に応じない等の理由で協議をすることが
できない場合、又はいずれかの出願が既に特許
されている場合である。
いずれかの出願が既に特許されており、協議
をすることができなくなっている場合には協
議は指令せず、それ以外の出願に第 39 条第 2
項の規定に基づく拒絶理由を通知する。
韓審第 3 部第 5 章 4.3
4.3 同じ日に 2 以上の出願がある場合
(1)同一の発明について同じ日に 2 以上の特許
出願があるときには、特許出願人の協議により
定められた一人の特許出願人のみがその発明
について特許を受けることができ、協議が成立
しなかったり協議をすることができないとき
には、いずれの出願人も特許を受けることがで
きない。
(2)協議をすることができないときとは、①相
手方が協議に応じない等の理由により協議を
することができない場合、及び、②同一の発明
についての 2 以上の出願のうち、いずれか一つ
の出願が特許(実用新案登録)されたり、特許法
第 36 条第 2 項後段(第 3 項の規定により準用さ
れる場合を含む。)の規定に該当して、これを
理由として拒絶決定か拒絶するという趣旨の
審決が確定した場合をいう。
(3)協議が成立したら、特許法施行規則別紙第
20 号書式の権利関係変更申告書を提出しなけ
ればならず、協議結果に従って競合する出願の
取下げ等の関連手続を同時に取られなければ
ならない。権利関係変更申告書のみが提出さ
れ、協議結果に従った手続を履行しない場合に
は、協議が成立しなかった場合と同様に処理す
る。
解説;
同一の発明について同日に二以上の出願がある場合、当事者に協議を命令し、協議が
成立しないときや、協議をすることができないときは、いずれの出願人も特許を受ける
ことができなくなる点において、日韓とも特段の差異はない。
ここで、出願人が同一である場合において、日本の審査実務は、出願人が異なる場合
と同様、協議を命じるが、韓国の場合は、別途の協議を命じない。 すなわち、韓国大
法院は、特段の事情がない限り、同一出願人の間では協議があり得ないため、同一出願
人が同一考案を二以上出願したときには、協議が成立しないか、協議ができないときに
該当するものと判示している(大法院 1985. 5. 28. 言渡し 84 フ 14 判決)。
ただ、実際の実務において、日本の実務は、出願人が同一である場合、後述6.のと
おり、協議指令と拒絶理由通知を同時に出すこととされているので、拒絶理由通知のみ
を行う韓国の実務との差異は、事実上、協議命令の有無のみとなるため、両国の実務に
実質的に大きな差はない。
122
6.協議の詳細
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 4 章 2.7.1
2.7.1 協議
(1)各出願が特許庁に係属している場合
①出願人が異なる場合
(ⅰ)各出願が審査請求されている場合
各出願人に長官名で協議を指令する。
(a)指定期間内に協議の結果の届出があった場
合には、協議により定めた出願人の出願につい
て、他に拒絶理由がなければ特許査定する。他
の出願が取下げ又は放棄されていなければ、そ
の出願について第 39 条第 2 項又は第 4 項の規
定に基づく拒絶理由を通知する。
(b)指定期間内に協議の結果の届出がなかった
場合には、協議が成立しなかったものとみなし
(第 39 条第 7 項)
、各出願人に第 39 条第 2 項
又は第 4 項の規定に基づく拒絶理由を通知す
る。
(ⅱ)一部の出願が審査請求されている場合
協議を指令することができないので、審査請求
されている出願の出願人に、他の出願について
審査請求がされていないので審査を進めるこ
とができない旨を通知する。
その通知後は、他の出願について審査請求が
され協議を指令することができるようになる
まで、又は他の出願について取下げ(審査請求
期間の経過を含む)若しくは放棄がされるま
で、審査を進めないこととする。
②出願人が同一である場合
出願人が同一であるときも、出願人が異なる場
合に準じて第 39 条第 2 項又は第 4 項の規定を
適用して①(ⅰ)(ⅱ)のように取り扱う。
ただし、①(ⅰ)の取扱いをするときは、長官
名の協議の指令と拒絶理由の通知を同時に行
うこととする。
(説明) 第 39 条第 2 項の規定は、一の発明に一
の権利を設ける趣旨であるので、出願人が同一
であるときもこの規定が適用される。
また、出願人が同一であるときは、協議のた
めの時間は必要でないので、上記のように取り
扱うこととする。
(2)一の出願が特許又は実用新案登録されてい
る場合
一の出願が特許又は実用新案登録されてい
る場合には、特許出願人と特許権者又は実用新
案権者が異なる場合に限り、特許出願人に特許
法第 39 条第 2 項又は第 4 項の規定に基づく拒
絶理由を通知する際に、特許権者又は実用新案
韓審第 3 部第 5 章 4.4
4.4 競合出願審査の具体的な内容
(1)競合出願の有無の確認
同一の発明について同じ日に 2 以上の出願
があるか検索して、競合出願がある場合には、
当該出願と競合出願の間に協議可能が否かを
確認する。
競合出願が無効、取下げ、放棄されたり、特
許法第 36 条第 2 項若しくは第 3 項でない拒絶
理由により拒絶決定が確定した場合、又は無権
利者の出願に該当する場合には、当該競合出願
の先出願の地位が排除されるため、当該出願に
ついて競合出願が最初からなかったものとみ
て審査手続を進行する。
(2)協議可能であるか否かの確認
競合出願が特許される等、協議できない場合
には、当該出願に関する審査を進行する。競合
出願が特許された場合であって、当該出願と競
合出願の出願人が相互一致しない場合には、出
願人の間の実質的な協議のために競合出願人
に対して競合事実をオンナラシステム(‘政府
業務処理システム’をいう。)を利用して通知
する。当該出願の出願人には、拒絶理由を通知
する際に競合事実を記載して通知する。
競合出願と協議することができる場合には、
競合出願の審査請求の有無を確認する。
(3)競合出願が公開され審査請求されている場
合
競合出願が審査請求されている場合には、期
間を指定して特許庁長の名義で協議要求をす
る。この場合、審査官は、競合出願と当該出願
の両方について協議要求と共に特許法第 36 条
第 2 項又は第 3 項の拒絶理由(他の拒絶理由が
ある場合には、その拒絶理由を含めることがで
きる。)を通知する。協議要求と拒絶理由通知
は、各々の通知書で通知することを原則とする
が、審査能率を考慮して(協議要求の際に競合
が容易に解消できる場合等)協議要求のみを優
先することも可能である。
協議要求を受けた後、出願人が指定期間に協
議結果についての申告及び協議結果について
の措置をして、特許法第 36 条第 2 項又は第 3
項の拒絶理由を解消し、他の拒絶理由がない場
合には特許決定し、拒絶理由がありその拒絶理
由が既に通知した拒絶理由である場合には拒
絶決定する。
(4)競合出願が公開されていないか審査請求さ
123
権者にその事実を通知する。
なお、特許出願人と特許権者又は実用新案権
者が同一である場合には、拒絶理由の通知を受
けた段階で適切に対応することが可能である
ことから、上記のような取扱いはしない。
(説明)一の出願が特許又は実用新案登録され
ている場合には、協議をすることはできない
(2.2.2 及び 2.4.1 参照)が、特許出願人と特
許権者又は実用新案権者との間で実質的な協
議の機会を持つことは、拒絶理由又は無効理由
を回避し適切な保護を得るために有用と考え
られるので、上記のように取り扱う。
以 下、先願又は同日の他の出願が特許出願の
場合について説明するが、先願又は同日の他の
出願が実用新案登録出願である場合も同様で
ある。
れていない場合
①競合出願と当該出願の出願人が異なる場合
には、競合出願が審査請求されるか又は取下げ
もしくは放棄されるまで審査を保留するとい
う趣旨を当該出願の出願人に通知する。
②競合出願と当該出願の出願人が同じ場合に
は、当該出願及び競合出願について協議要求と
共に特許法第 36 条第 2 項又は第 3 項の拒絶理
由(他の拒絶理由がある場合には、その拒絶理
由を含めることができる)を通知する。協議要
求と拒絶理由通知は、各々の通知書で通知する
ことを原則とするが、審査能率を考慮して(協
議要求の際に競合が容易に解消できる場合等)
協議要求のみを優先することも可能である。
協議要求の後、指定期間以内に協議結果につ
いての申告及び協議結果に従った措置をして、
特許法第 36 条第 2 項又は第 3 項の拒絶理由を
解消し、他の拒絶理由がない場合には特許決定
し、拒絶理由がありその拒絶理由が既に通知し
た拒絶理由であって特許法第 36 条第 2 項又は
第 3 項の拒絶理由でない場合には拒絶決定す
る。
協議要求の後、協議結果についての措置を指
定期間以内にしなかった場合には、競合出願が
審査請求されるか又は取下げもしくは放棄さ
れるときまで審査を保留するという趣旨を当
該出願の出願人に通知する。
(5)協議要求後の指定期間の延長
協議要求と拒絶理由通知を同時にした場合、
指定期間を延長しようとする出願人は、意見書
提出に関する指定期間延長のみでなく協議要
求の際に指定した期間も延長申請をすること
ができる。
解説;
同日付の競合出願に対する協議指令の方法には、日韓で相違がみられる。すなわち、日
本の場合、各出願が審査請求されていれば、出願公開には関係なく協議指令を行うこと
しているが、韓国の場合、双方の出願が同一出願人である場合を除き、各出願が審査請
求され、かつ出願公開がされるまで、協議指令を行わないこととしている。これは、出
願公開となる前に、第三者である競合出願の相手に協議命令を行うことにより、結果と
して当該出願を相手に知らせないようにするための措置であると判断される。
124
7.特許出願等の放棄、取下、却下、冒認等
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 4 章 2.5.1、2.6.1
2.5.1 特許出願若しくは実用新案登録出願が
放棄され、取り下げられ、若しくは却下された
とき、又は特許出願について拒絶をすべき旨の
査定若しくは審決が確定したとき
特許出願若しくは実用新案登録出願が放棄
され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、
又は特許出願について拒絶をすべき旨の査定
若しくは審決が確定したときは、その特許出願
又は実用新案登録出願は、第 39 条第 1 項から
第 4 項までの規定の適用については、初めから
なかつたものとみなされる。ただし、その特許
出願について第 39 条第 2 項後段又は第 4 項後
段の規定に該当することにより拒絶をすべき
旨の査定又は審決が確定したときは、この限り
でない。
2.6.1 発明者又は考案者でない者であって特
許を受ける権利又は実用新案登録を受ける権
利を承継しないもの (平成 24 年 3 月 31 日ま
での出願にのみ適用する。
)
いわゆる冒認の特許出願又は実用新案登録
出願は、第 39 条第 1 項から第 4 項までの規定
の適用については特許出願又は実用新案登録
出願でないものとみなされる。
韓審第 3 部第 5 章 3.2
3.2 先出願の地位を有しない出願
(1)特許出願又は実用新案登録出願が無効、取
下げ又は放棄されたり、拒絶決定又は拒絶する
という趣旨の審決が確定した場合、その特許出
願又は実用新案登録出願は、先出願の地位を有
しない。
ただし、拒絶決定か拒絶するという趣旨の審
決が確定した出願であっても、特許法第 36 条
第 2 項後段(第 3 項の規定により準用される場
合を含む。)の規定に該当し、その理由により
拒絶決定又は拒絶するという趣旨の審決が確
定した場合には、先願の地位を有する。
(2)発明者又は考案者ではない者であって、特
許又は実用新案登録を受けることができる権
利を継承しない者の特許出願又は実用新案登
録出願もまた、特許法第 36 条所定の先出願の
地位を有しない。
解説;
先出願の地位に関連して、特許出願又は実用新案登録出願が無効、取下、放棄、拒絶
が確定した場合、先願の地位を失うという点において、日韓、同一である。
ただ、韓国では、冒認出願に対する先願の地位について、法律で明確にこれを認めない
こととしているが(韓法第 36 条第 5 項)、 日本においては、平成 24 年 4 月 1 日以後の
出願から冒認出願に対しても先願の地位を認定しているという点において、両国の差が
ある(この点については、上述1.先願に関する条文の項を参照のこと。
)
。
125
8.同一か否かの判断手法
日本審査基準
日審第Ⅱ部第 4 章 3.3、3.4
3.3 出願日が異なる場合における請求項に係
る発明どうしが同一か否かの判断手法
(1)後願の請求項に係る発明(以下「後願発明」
という。)の発明特定事項と先願の請求項に係
る発明(以下「先願発明」という。)の発明特
定事項に相違点がない場合は、両者は同一であ
る。
(2)両者の発明特定事項に相違点がある場合で
あっても、以下の①~③に該当する場合(実質
同一)は同一とする。
① 後願発明の発明特定事項が、先願発明の発
明特定事項に対して周知技術、慣用技術の付
加、削除、転換等を施したものに相当し、かつ、
新たな効果を奏するものではない場合
② 後願発明において下位概念である先願発明
の発明特定事項を上位概念として表現したこ
とによる差異である場合
③ 後願発明と先願発明とが単なるカテゴリー
表現上の差異である場合
(3)先願発明又は後願発明の発明を特定するた
めの事項が二以上の選択肢を有する場合
① 先願発明の請求項が、発明を特定するため
の事項に関して形式上又は事実上の選択肢を
有するものである場合には、当該選択肢中のい
ずれか一のみを発明を特定するための事項と
仮定したときの発明と、後願発明との対比を行
ったときに、発明を特定するための事項に相違
点がないか、又は相違点があっても実質同一で
あれば(上記(1)(2))、両者は同一であるものと
する。
ただし、先願の明細書及び図面並びに先願の
出願時の技術常識に基づき、当該仮定したとき
の発明を当業者が請求項から把握できなけれ
ばならない。したがって、例えばマーカッシュ
形式の請求項の場合、選択肢の一部が単独で当
業者にとって把握することができる発明とい
えるかどうかを検討する必要がある。
② 後願発明の請求項が、発明を特定するため
の事項に関して形式上又は事実上の選択肢を
有するものである場合には、当該選択肢中のい
ずれか一の選択肢のみを発明を特定するため
の事項と仮定したときの発明と先願発明との
対比を行ったときに、両者に相違点がないか、
又は相違点はあるが実質同一であれば、同一で
あるものとする。
韓国審査指針書
韓審第 3 部第 5 章 3.1(4)
(4)請求項の発明間の技術的な思想の同一の当
否は、発明をなす構成を相互対比して判断する
が、次のような手順による。
①請求項に記載された発明を特定する。請求項
に記載された発明の特定方法は、
「第 2 章 新規
性」と同一である。
②請求項に記載された発明を相互対比して、両
者の構成の一致点と差異点を明確にする。
③両者の構成に差異点がなければ同一である。
両者の構成に差異がある場合にも「第 4 章 拡
大された先願 6.」の場合には、同一性がある
もの(実質的同一を含む。)とする。
126
解説;
先願発明と後願発明の発明の同一性判断に関連して、実質的同一まで含むという点にお
いては、日韓、同一である。また、同日に出願された 二つの出願のそれぞれの請求項
に関連した発明の同一性判断方法も、日韓、同一である。
一方、先願又は後願が二以上の選択事項を有する場合の判断方法に関連して、日本の
審査基準には、先願又は後願に記載された選択事項のうち、いずれか一つのみを、発明
を特定するための事項と仮定し、同一ないし実質同一を判断する旨の記載があり、これ
に関して韓国の審査指針書には、明示的に記載されていないが、日本の実務と判断が異
なるところはない。
127
9.審査の進め方
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 4 章 4.1-5.2
4.1 同一発明の先願が存在する場合の後願の
審査の進め方
4.1.1 出願人が異なる場合
出願人及び発明者が異なる場合には第 29 条
の 2 の規定を適用する。
出願人が異なり、発明者が同一の場合には第
39 条の規定を適用するが、同一発明の後願で
あるという拒絶理由によって拒絶査定をする
場合には、先願の確定を待つこととする。
4.1.2 出願人が同一である場合
出願人が同一である場合には、先願の確定を
待たずに後願に拒絶理由を通知し審査を進め
る。
韓審第 3 部第 5 章 4.2、5
4.2 異なる日に 2 以上の出願がある場合
(1)同一の発明について異なる日に 2 以上の特
許出願があるときには、先に出願した者のみが
その発明について特許を受けることができる。
特許出願についての発明と実用新案登録出願
についての考案が同一である場合にも、先に出
願した者のみがその発明又は考案に対して特
許又は実用新案登録を受けることができる。
(2)同一発明について異なる日に 2 以上の出願
がある場合には、次のとおり審査する。
①出願人と発明者が全て相異し、先願が出願公
開又は登録公告された場合には、後願について
特許法第 29 条第 3・4 項の規定を優先的に適用
する。拡大された先出願規定は、先願の請求の
範囲が確定する前であっても出願公開等がさ
れていれば、他の出願の明細書又は図面の範囲
内で柔軟に適用することができるためである。
未確定の先願(出願審査未請求のものを含
む)に基づき後願に第 39 条の規定に基づく拒
絶理由を通知する場合には、拒絶理由が解消し
ないときは先願が未確定であっても拒絶査定
をする旨を拒絶理由通知に付記する。指定期間
経過後、拒絶理由が解消していない場合には、
拒絶査定をする。
ただし、後願の拒絶理由通知に対する応答時
に先願が審査請求されているが審査に着手さ
れていない場合であって、後願の拒絶理由通知
に対する応答において、先願について補正の意
思がある旨の申し出があった場合には、以下の
ように取り扱う。
①先願に拒絶理由がある場合には、先願に拒絶
理由を通知し、指定期間の経過後、先願の補正
の有無及び補正の内容を確認した上で後願の
審査を進める。
②先願に拒絶理由がない場合には、先願の特許
査定の後に、後願の審査を進める。
4.2 同一発明の同日出願の審査の進め方
4.2.1 出願人が異なる場合
(1)第 39 条第 2 項以外の拒絶理由がない場合に
は、各出願人に協議を指令する。
(2)少なくとも一の出願に第 39 条第 2 項以外の
拒絶理由がある場合には、協議を指令する際
に、その出願にその拒絶理由を併せて通知す
る。
4.2.2 出願人が同一である場合
出願人が同一である場合には、協議の指令と
すべての拒絶理由の通知は同時に行う。
5. 留意事項
5.1 新規事項を含む場合
もし、先願が公開されていない場合、先願が出
願公開又は登録公告される時まで後願の審査
を保留する。
②後願の出願時の出願人と先願の出願人が同
一であるか、先願と後願の発明者が同一である
場合には、特許法第 29 条第 3 項又は第 4 項を
適用できないため、特許法第 36 条の規定を適
用しなければならない。このとき、同一発明に
ついての後願であるという拒絶決定をする場
合には、先願の請求の範囲が確定した以降にし
なければならない。
5. 審査の留意事項
(1)競合出願が設定登録されて協議することが
できない場合、その特許権又は実用新案権を放
棄するとしても、協議できる状態に変わった
り、競合状態が解消されるわけではない。これ
を認める明文の規定がないのみならず、特許権
等の放棄は出願の放棄とは異なり遡及効がな
く、特許権を放棄するからといって競合状態の
出願がなかったものとはならないためである。
(2)競合出願があっても、これを拒絶理由とし
て通知したり論ずることなく、他の拒絶理由を
あげて拒絶決定することができる。韓国の特許
法では、拒絶理由があれば意見書提出の機会を
付与した後に拒絶決定することができること
を規定しているだけで、すべての拒絶理由をあ
げて拒絶するように強制してはいないためで
ある。
128
先願又は同日の他の出願の請求項に係る発
明が補正により願書に最初に添付した明細書、
特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範
囲内でないものを含むこととなった場合には、
その請求項に係る発明には第 39 条第 1 項から
第 4 項までの規定が適用されない。
5.2 出願の変更があった場合
出願の変更があったときは、もとの出願は取
り下げられたものとみなされる(特許法第 46
条第 4 項、実用新案法第 10 条第 5 項)ので、も
との出願は、第 39 条第 1 項から第 4 項までの
規定の適用については初めからなかったもの
とみなされる。変更された出願が適法なもので
あれば、その出願はもとの出願の時にしたもの
とみなされるので、その出願には、もとの出願
の出願日に出願したものとして、第 39 条第 1
項から第 4 項までの規定が適用される。
(3)先願の下位概念発明を、後願で上位概念発
明として表現したことによる差異である場合
には、両者が同一のものとして取り扱う。
(4)発明 A 及び B の出願日が同じ場合において、
発明 A を先願とし、発明 B を後願と仮定して両
者を対比したとき、後願発明 B が先願発明 A と
実質的に同一であるとしても、発明 B を先願と
し、発明 A を後願と仮定して両者を対比したと
ころ、発明 A が発明 B と実質的に同一でなくな
った場合には、両者が同一でないものとして取
り扱う。
解説;
同一発明の先願が存在する場合、後願の審査進行方式に関連して、日韓とも、大部分
類似しているが、一部において相違する点がある。すなわち、まず、韓国においては、
先願の公開等を待って審査を行うこととされている。次に、異なる日に二以上の出願が
ある場合において、出願人が同一である場合、日本においては、先願に関する拒絶理由
であっても、先願の確定を待たず、後願に当該拒絶理由を通知して審査し、拒絶理由が
解消されない場合、拒絶査定をするが、韓国においては、同一発明に対する後願という
特許拒絶決定(査定)をする場合、先願の請求範囲が確定した後にしなければならない
点に差がある。
その他、日本では、新規事項を含む場合、及び出願の変更がある場合について取扱い
が規定されている一方、 韓国の審査指針書にはこの点が明示的に記載されていないが、
韓国の実務は日本と同一である。
129
【インターネット等の情報の先行技術としての取扱い】
1.関連条文
日本特許法
韓国特許法
日法第 29 条第 1 項第 3 号
三.特許出願前に日本国内又は外国において、
頒布された刊行物に記載された発明又は電気
通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発
明
韓法第 29 条第 1 項第 2 号
二.特許出願前に韓国国内又は外国において、
頒布された刊行物に掲載された発明又は電気
通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発
明
解説;
インターネット等の情報の先行技術としての取扱いに関連した韓国特許法第 29 条第
1 項第 2 号の規定は、日本特許法第 29 条第 1 項第 3 号の規定と同一である。
130
2.用語の意味
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 5 章<用語の解説>
(1)-(4)
<用語の解説>
(1)「回線」とは、一般に往復の通信路で構成
された、双方向に通信可能な伝送路を意味す
る。一方向にしか情報を送信できない放送(双
方向からの通信を伝送するケーブルテレビ等
は除く)は、回線には含まれない。
(2)「公衆」とは、社会一般の不特定の者を示
す。
(3)「公衆に利用可能」とは、不特定の者が見
得るような状態におかれることを指し、現実に
誰かがアクセスしたという事実は必要としな
い。具体的には、インターネットにおいて、リ
ンクが張られ、検索(サーチ)エンジンに登録
され、又はアドレス(URL)が公衆への情報
伝達手段(例えば広く一般に知られている新
聞、雑誌等)に載っており、かつ公衆からのア
クセス制限がなされていない場合には、公衆に
利用可能である。
(4)本章中で「インターネット等」とは、電気
通信回線を通じて技術情報を提供するインタ
ーネット、商用データベース、メーリングリス
ト等全てを示す。また、「ホームページ等」と
は、インターネット等において情報を載せるも
のを示す。
韓審第 3 部第 2 章 3.4.3(1)
3.4.3 電気通信回線を通じた公開が 特許法第
29 条第 1 項第 2 号(2013 年 6 月 30 日以前の出
願の場合、旧特許法第 29 条第 1 項第 2 号又は
第 29 条第 1 項第 1 号)の先行技術の地位を得
るための要件
(1)電気通信回線を通じて公開された発明であ
ること
電気通信回線 (telecommunication line)に
は、インターネットはもちろん電気通信回線を
通じた公衆掲示板(public bulletin board)、
電子メールグループ等が含まれ、今後の技術の
発達により新たに現れ得る電気・磁気的な通信
方法も含まれるであろう。
電気通信回線であるといって、必ずしも物理
的な回線(line)を必要とするわけではない。
有線はもちろん無線、光線及びその他の電気・
磁気的方式によって符号・文言・音響又は映像
を送信又は受信できるものであれば、ここでい
う電気通信回線に含まれる(電気通信基本法第
2条第1号参照)。
CD-ROM又はディスクを通じての技術の
公開は、電気通信回線を通じての技術の公開で
なく、刊行物による技術の公開に該当する。
解説;
用語の意味に関連して、日韓両国は、表現上の差はあるが、意味において実質的に同
一である。
131
3.電子情報技術の改変問題への対応
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 5 章 1.1
1.1 出願前において、引用する電子的技術情報
がその内容のとおりに掲載されていたこと
(1)引用する電子的技術情報の掲載日時及びそ
の内容の改変の問題
インターネット等にのせられた情報は改変
が容易であることから、引用しようとする電子
的技術情報が、表示されている掲載日時にその
内容のとおりに掲載されていたかどうかが常
に問われることとなる。
①審査官が電子的技術情報を発見した時点で
は、引用しようとする電子的技術情報の掲載日
時の表示が特許出願の出願前であったとして
も(注)、その表示自体が改変されている可能
性を完全に排除することはできない。
②審査官が電子的技術情報を発見した時点で
は、引用することができる電子的技術情報がの
せられていたとしても、その内容が改変されて
いる可能性を完全に排除することはできない。
(注)掲載日時については、インターネット等の
情報がそのホームページ等にのせられた国又
は地域の時間を、日本時間に換算して判断す
る。
(2)引用する電子的技術情報の掲載日時及びそ
の内容の改変の問題への対応
①引用しようとする電子的技術情報が、表示さ
れている掲載日時にその内容のとおりに掲載
されていたことについての疑義が極めて低い
と考えられるホームページ等については、審査
官がアクセスした時にのせられている内容が、
ホームページ等で示されている掲載日時の表
示の時点にのせられていたものと推認して引
用する。
②引用しようとする電子的技術情報が、表示さ
れている掲載日時にその内容のとおりに掲載
されていたことについての疑義がある場合は、
引用することができるか否かを調査する。
③引用しようとする電子的技術情報が、表示さ
れている掲載日時にその内容のとおりに掲載
されていたことについての疑義を解消する可
能性が少ないホームページ等にのせられてい
る情報は引用しない。
(3)引用しようとする電子的技術情報が、表示
されている掲載日時にその内容のとおりに掲
載されていたことについての疑義が極めて低
いと考えられるホームページ等
以下のようなホームページに掲載されてい
韓審第 3 部第 2 章 3.4.3(3)①-④、(4)、
3.4.5(1)
① 政府・地方自治体、外国の政府・地方自治
体又は国際機構
特許法施行令第 1 条の 2 第 1 号で規定する政
府・地方自治体であるか否かは、政府組織法、
地方自治法が定めるところにより決定し、外国
の政府又は地方自治体であるか否かは、各国の
関連法令の定めるところによる。第 1 号に規定
する電気通信回線の代表的な例としては、特許
庁が運営する電気通信回線、特にサイバー公示
制度(cyber bulletin)が挙げられる。
特許庁で運営するインターネット ホームペ
ージに掲示された発明について刊行物に掲載
された発明と同一の先行技術の地位を付与す
ることにより、出願の公開を書面又はCD-R
OMではなくインターネットにより迅速かつ
経済的に公開できるようになった。旧特許法の
下では必ず書面又はCD-ROMで公開しなけ
ればならなかったが、現行法の下では特許庁が
運営するインターネット上に公開された先行
技術について刊行物に公開された先行技術と
同じ地位を付与しているためである。
また、 「国際機構 」とは、政府間国際 機構
(Intergovernmental Organization)を意味し、
これにはアジア弁理士会等の非政府機構
(Nongovernmental Organization) は 含 ま れ な
い。政府間国際機構には、国連、世界知識財産
権機構(WIPO)、世界貿易機構(WTO)及び
ヨーロッパ連合(EU)等はもちろん、政府間の
合意により設立された地域特許庁(ヨーロッパ
特許庁(EPO)、アフリカ知識財産権機構
(African
Intellectual
Property
Organization、OAPⅰ)、ユーラシア特許庁
(Eurasian Patent Organization、EAPO)、
ア フ リ カ 地 域 産 業 財 産 権 機 構 (African
Regional Industrial Property Organization、
ARIPO)等を含む。
② 高等教育法第 3 条による国・公立学校又は
外国の国・公立大学
特許法施行令第 1 条の 2 第 2 号の「高等教育
法第 3 条による国・公立学校」とは、高等教育
法第 2 条に規定する高等教育を実施するため
の学校(大学、産業大学、教育大学、専門大学、
放送大学、通信大学、放送通信大学、技術大学、
各種学校)のうち、国が設立・経営する国立学
校、地方自治体が設立・経営する公立学校をい
う。外国の大学が同条第 2 号にいう「外国の
132
る情報は、通常、問い合わせ先が明らかであり、
当該疑義も極めて低いと考えられる。
・刊行物等を長年出版している出版社のホーム
ページ(新聞、雑誌等の電子情報をのせている
ホームページ:学術雑誌の電子出版物等をのせ
ている)
・学術機関のホームページ(学会、大学等のホ
ームページ:学会、大学等の電子情報(研究論
文等)をのせている)
・国際機関のホームページ(標準化機関等の団
体のホームページ:標準規格等についての情報
をのせている)
・公的機関のホームページ(省庁のホームペー
ジ:特に研究所のホームページにおいて、研究
活動の内容や研究成果の概要等をのせている)
このようなホームページ等であっても、掲載日
時の表示がない場合は原則的には引用しない
が、掲載された情報に関してその掲載、保全等
に権限及び責任を有する者によって、ホームペ
ージ等への掲載日時及び内容についての証明
が得られれば引用することができる。
(4)引用しようとする電子的技術情報が、表示
されている掲載日時にその内容のとおりに掲
載されていたことについての疑義がある場合
の対応
審査官は、引用しようとする電子的技術情報
について当該疑義があると判断した場合には、
問い合わせ先等として表示されている連絡先
に、改変されているか否か照会して、当該疑義
について検討する。
検討の結果、疑義が解消したものに関しては
引用することができる。疑義が解消しないもの
に関しては引用しない。
(5)引用しようとする電子的技術情報が、表示
されている掲載日時にその内容のとおりに掲
載されていたことについての疑義を解消する
可能性が少ないホームページ等
問い合わせ先が明らかでないもので、かつ、
掲載日時の表示が示されていないホームペー
ジ等は、当該疑義を解消する可能性が少ないの
で引用しない。
国・公立大学」であるか否かは、各国の関連法
令が定めるところに従う。
③ 我が国又は外国の国・公立研究機関
我が国の国・公立研究機関とは、国又は地方
自治体所属の研究機関(検査所、試験所等含む)
と政府の外郭研究機関を含む。外国の国・公立
研究機関であるか否かについても、各国の関連
法令で定めるところに従う。
④ 特許庁長が指定して告示する法人
特許法施行令第 1 条の 2 第 4 号の「特許情報
と関連した業務を遂行することを目的として
設立された法人」として、「特許情報関連電気通
信回線運営法人に関する告示(特許庁訓令第
2011-21 号)」により、韓国発明振興会、韓国特
許情報院が告示された。韓国発明振興会又は韓
国特許情報院は、特許庁が委任又は依頼する業
務を遂行し、特許庁の管理・監督を受けている
ため、これらが運営する電気通信回線の信頼性
を認めることができるためである。
(4) 公開内容及び公開時点の認定
インターネットのウェブサイト等に掲載さ
れた情報は、一般的にアップデートが容易であ
り、内容・日付の追後変更が理論上可能である
点で、審査官がウェブサイト等を検索したとき
の掲載内容にその表示された掲載日に公開さ
れたことが認められるかが問題となる。
新規性、進歩性等の拒絶理由通知のために先
行技術を引用するためには、原則として審査官
がその先行技術が公知されたという事実につ
いての証拠を提示しなければならない。これ
は、電気通信回線を通じて公知された先行技術
の場合も同様であり、電気通信回線に示される
内容にその表示された時点で公開されたこと
を認めるために審査官が検討する事項は、次の
ようにその情報が掲載された電気通信回線の
種類によって異なってくる。
ⅰ)まず、旧特許法施行令第 1 条の 2 が規定す
る電気通信回線については、一定の公信力が認
められるので、その電気通信回線のウェブサイ
ト等で発明の公開内容と公開時点を把握する
ことができるならば、審査官は別途の確認手続
きなしにこれを基にその発明を先行技術とし
て使用することができる。
ⅱ)旧特許法施行令第 1 条の 2 が規定する電気
通信回線でなくとも、我が国又は外国の学術団
体、非政府国際機構、公共機関、私立大学、新
聞・雑誌等の定期刊行物の発行会社、テレビ又
はラジオ放送局が自身の本来の業務上運営す
る電気通信回線であって、一般公衆の認知度と
運営期間等を考慮したときに、特別に公開内容
133
と公開時点に疑問が生じるほどの事情がない
場合は、審査官は、別途の確認なしにその電気
通信回線のウェブサイトで把握される発明の
公開内容と公開時点を認めることができる。
ⅲ)上記ⅰ)、ⅱ)以外の電気通信回線を通じ
た公開の場合に、審査官はまず、該当電気通信
回線の認知度、一般公衆の利用頻度、運営主体
の信頼度、運営期間等を考慮し、その公開内
容・公開時点の信頼性を検討する。検討した結
果、公開事実の信頼性があると判断されれば先
行技術として引用することができるが、この場
合、審査官は意見提出通知書にその公開事実が
信頼性があると認める論理的根拠を提示しな
ければならない。そうではなく、検討した結果、
信頼性に疑問が生じたならば、そのウェブサイ
トに実際に掲載された日を確認する過程等を
通じて公開内容・公開時点に関する疑問を解消
することができる場合にのみ、先行技術として
使用することができる。実際の掲載日を確認す
るためには、該当電気通信回線の情報掲載に関
する権限や責任を有する者に対して掲載の事
実を問い合わせるか、米国の非営利団体である
インターネットアーカイブが運営する
www.archive.org に保存された内容及び掲載日
の資料を活用することができる。
電気通信回線における公開時点は、電気通信
回線に該当発明を掲載した時点である。よっ
て、既に頒布された刊行物を電気通信回線を通
じて公開した場合でも、電気通信回線に公開さ
れた発明を引用する場合には、発明が電気通信
回線に公開された時点を公開日としなければ
ならない。
解説;
引用しようとする電子的技術情報の掲載日付及び内容の認定如何に関連して、日韓と
も、電子的技術情報の信頼性に関連した疑問が解消された場合にのみ、引用文献として
認定されるという点において同一である。
ただ、韓国の審査指針においては、審査官が検討する事項を、その情報が記載された
電気通信回線の種類によって、より具体的に規定しているという点において一部相違点
がある。
134
4.引用の手法
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 5 章 2.
2. 引用の手法
インターネット等によって検索した電子的
技術情報を引用する場合、その取扱いは以下の
ように行う。
(1)電子的技術情報と同一内容の刊行物が存在
し、該電子的技術情報と該刊行物がどちらも引
用可能な場合は、刊行物を優先して引用する。
(2)引用した電子的技術情報の取扱い
インターネット等の情報は、審査官が先行技
術調査を行ったときには存在していても、その
後、出願人又は第三者がアクセスした時には、
該情報が改変、削除されている可能性がある。
このような場合、出願人又は第三者は充分な対
応をとることが困難であることから、拒絶理由
通知等に引用したインターネット等の電子的
技術情報を特許関連文献データベースに蓄積
するために、審査官は以下のような手続きを行
う。
①引用したホームページ等の情報をプリント
アウトする。
②①のプリントアウトに、アクセスした日時、
アクセスした審査官名、その情報を引用した出
願の出願番号及びその情報を取得したアドレ
ス等を記入する。
③以降、引用非特許文献の電子化と同様に取り
扱う。
(3)電子的技術情報を引用する際の引用文献等
としての記載要領
インターネット等によって検索した電子的
技術情報を引用する場合、その引用形式はWI
PO標準ST.14に準拠して、該電子的技術
情報について判明している書誌的事項を次の
順に記載する。
①著者の氏名
②表題
③関連箇所
頁、欄、行、項番、図面番号、データベース内
のインデックス又は最初と最後の語句で表示
する。
④媒体のタイプ[online]
⑤掲載年月日(発行年月日)
、掲載者(発行者)
、
掲載場所(発行場所)及び関連する箇所が開示
されている頁
⑥検索日
電子的技術情報が電子媒体から検索された日
を括弧内に記載する。
韓審第 3 部第 2 章 3.4.4
3.4.4 引用方法
審査官が電気通信回線を通じて公開された
技術を審査過程で引用する場合、世界知的所有
権機関標準(WIPO Standard) ST.14 に準拠
して、著者の氏名(author)、表題(title)、刊
行物の名称、該当頁(又は図面、図表等)、公開
日、検索日、ホームページ アドレス(URL)
等を記載しなければならない。
ただし、引用文献が特許文献であって特許文
献の公開がインターネットを通じてなされて
いる場合には、便宜上、検索日やホームページ
アドレスを記載せずに、通常の書面やCD-R
OM形態で公開された特許公報類と同一の方
法により引用文献を記載する。
135
⑦情報の情報源及びアドレス
電子的技術情報の情報源及びそのアドレス、又
は識別番号(Accession no.)を記載する。
解説;
電子的技術情報を引用する場合、文献等の記載要領は、日韓とも WIPO 標準 ST. 14
に基づくという点において同一である。
ただ、韓国の審査指針においては、引用文献が特許文献であり、特許文献の公開がイ
ンターネットを通じて行われた場合には、便宜上、検索日や、ホームページ住所を記載
せず、通常の書面や CD-ROM 形態にて公開された特許公報類と同一の方法により引用文
献を記載するものと規定しているが、日本の審査基準には、これについて明確に記載し
ていない。しかし、特許文献であれば、当然それ自体を刊行物として引用することにな
るため、審査の結果としては、両国とも差異はない。
136
5.出願人からの反論
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅱ部第 5 章4.
4. 出願人からの反論
(1)出願人からの表示された掲載日時及び情報
内容についての反論が、証拠に裏付けられてお
らず、単にインターネット等による開示である
から疑わしいという内容のみの場合には、具体
的根拠が示されていないので採用しない。
(2)出願人からの反論によって、出願前におい
て、電子的技術情報がその内容のとおりに掲載
されていたこと又は、出願前において、電子的
技術情報が公衆に利用可能な情報であったこ
とについて疑義が生じた場合には、その掲載、
保全等に権限又は責任を有する者に問い合わ
せて確認を求める。その際、ホームページ等へ
の掲載日時及び情報内容についての証明書の
発行を依頼する。
(3)出願人からの反論等を検討した結果、審査
官の心証を当該電子的技術情報が出願前にそ
の内容で発行された可能性は真偽不明とした
場合には、先行技術情報として引用しない。
韓審第 3 部第 2 章 3.4.5(3)
(3)電気通信回線を通じた公知か否かに関し
て出願人の反論がある場合の審査処理
審査官が電気通信回線を通じて公知された
発明を先行技術として引用したのに対して、出
願人が公衆のアクセスの可能性、公開内容、公
開時点等に関して疑問があるという根拠や証
拠を提示した場合、審査官はこれを考慮しなけ
ればならない。
出願人が提示した証拠等によって公開内容、
公開時点において該当電気通信回線の信頼性
や電気通信回線の実際の掲載日の認定等に関
する疑問が生じた場合、審査官はその公知の事
実を確認することができる追加の証拠を探さ
なければならず、追加の証拠が見つからなけれ
ば、電気通信回線に掲載された発明は先行技術
として使用することができない。ただし、出願
人が具体的な証拠を提示できず単に信憑性が
ないという一般的な反論をするのに留まるな
らば、審査官はこれを考慮する必要はない。
解説;
表示した掲載日付及び情報内容に対する出願人からの反論は、具体的な根拠を通じて
行われる場合、採用するという点において日韓とも同一である。
また、このように出願人から反論があった場合、審査官は追加の証拠(日本では、ホ
ームページなどに掲載日付及び情報内容に対する確認及び証明書の発行)を確保しなけ
ればならず、このような証拠を見つけることができない場合、先行技術として活用する
ことができないという点においても、日韓とも同一である。
137
【新規事項】
1.新規事項に関する条文
日本特許法
韓国特許法
日法第 17 条の 2 第 3 項
第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又
は図面について補正をするときは、誤訳訂正書
を提出してする場合を除き、願書に最初に添付
した明細書、特許請求の範囲又は図面・・・に
記載した事項の範囲内においてしなければな
らない。
韓法第 47 条第 2 項
第 1 項の規定による明細書又は図面の補正は、
特許出願書に最初に添付した明細書又は図面
に記載した事項の範囲内においてこれをする
ことができる。
解説;
日韓とも、新規事項の判断は、当初明細書等が基礎となっている。ただし、韓国では、
日本のいわゆる誤訳訂正制度が設けられておらず、国際特許出願であっても、日本の誤
訳訂正のように原文に記載された内容に基づく補正ができず、翻訳文が基準となる(後
述「3.留意事項」参照)ため、注意を要する。
138
2.基本的な考え方及び判断手法
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅲ部第Ⅰ節 3.基本的な考え方
・・・「当初明細書等に記載した事項」とは、
技術的思想の高度の創作である発明について、
特許権による独占を得る前提として、第三者に
対して開示されるものであるから、ここでいう
「事項」とは明細書等によって開示された発明
に関する技術的事項であることが前提となる
ところ、
「当初明細書等に記載した事項」とは、
当業者によって、当初明細書等のすべての記載
を総合することにより導かれる技術的事項で
ある。したがって、補正が、このようにして導
かれる技術的事項との関係において、新たな技
術的事項を導入しないものであるときは、当該
補正は、「当初明細書等に記載した事項」の範
囲内においてするものということができる。
韓審第 4 部第 2 章 1.1 新規事項の追加禁止
(1)出願書に最初に添付された明細書又は図面
に記載された事項の範囲を超える事項を‘新規
事項’という。ここで最初に添付された明細書
又は図面(以下‘当初明細書等’という。)に記
載された事項とは、当初明細書等に明示的に記
載されている事項又は明示的な記載がなくて
も通常の技術者であれば出願時の技術常識に
照らして当初明細書等に記載されているもの
と同じであると理解することができる事項を
いう。
すなわち、通常の技術者が当初明細書等に記
載された事項によって判断した結果、直接的に
表現する記載はなくとも、記載されていると明
らかに理解することができる事項は、新規事項
ではない。
3.1 新規事項を含む補正か否かの具体的な判 (2)新規事項であるか否の判断の対象は、補正
断手法
された明細書又は図面であり、このうちいずれ
(1) 「当初明細書等に明示的に記載された事 の一にも新規事項を追加する補正は許されな
項」だけではなく、明示的な記載がなくても、 い。
「当初明細書等の記載から自明な事項」に補正 (3)明細書等の補正によって追加された事項が
することは、新たな技術的事項を導入するもの 新規事項であるか否かを判断するための比較
ではないから、許される。
対象は、出願書に最初に添付された明細書又は
(a) 補正された事項が、「当初明細書等の記載 図面である。ここで最初に添付されたとは、出
から自明な事項」といえるためには、当初明細 願日までに出願書とともに提出されたものを
書等に記載がなくても、これに接した当業者で 意味し、出願日以降の補正によって追加された
あれば、出願時の技術常識に照らして、その意 事項は、最初に添付された明細書等に記載され
味であることが明らかであって、その事項がそ た事項ではない。
こに記載されているのと同然であると理解す ・・・
る事項でなければならない・・・。
(4)明細書又は図面を補正した事項に新規事項
(b) 周知・慣用技術についても、その技術自体 が追加されているか否については、補正された
が周知・慣用技術であるということだけでは、 明細書又は図面に記載された事項(判断対象)
当初明細書等の記載から自明な事項とはいえ が当初明細書等に記載された事項(比較対象)
ない。
の範囲内にあるか否かを判断して決定する。
(c) 当業者からみて、当初明細書等の複数の記 ここで‘記載された事項の範囲内’とは、出願
載(例えば、発明が解決しようとする課題につ 書に最初に添付された明細書又は図面に記載
いての記載と発明の具体例の記載、明細書の記 された事項の範囲内において、外形上の完全な
載と図面の記載)から自明な事項といえる場合 同一をいうのではなく、通常の技術者が当初明
もある。
・・・
細書等の記載からみて自明な事項も、記載され
た事項の範囲内とみなす。
韓審第 4 部第 2 章 1.2 新規事項の追加禁止規
定の具体的な判断方法
(10)補正によって追加された事項が、周知・慣
用技術でも、それが通常の技術者が当初明細書
等に記載されているのと同一のものと理解す
ることができる事項でなければ、これを追加す
139
る補正は、当初明細書等に記載された事項の範
囲を逸脱した新規事項の追加に該当する。
解説;
新規事項追加の判断に関し、日本では、過去、いわゆる「直接的かつ一義的に導き出
せる事項」の範囲内であるか否かに基づく、非常に厳しい判断を行っていたが、知財高
裁大合議による「ソルダージレジスト」事件(平成 18(行ケ)第 10563 号、知財高判平
20.5.30)により、
「当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事
項」により判断することが示され、現在ではこれが審査基準として定着している。
また、韓国でも、当初明細書等に記載された事項であるか否かについて、「通常の技
術者が当初明細書等に記載された事項によって判断した結果、直接的に表現する記載は
なくとも、記載されていると明らかに理解することができる事項は、新規事項ではない。
」
としており、現在、日韓で大きな差は見られない。
その他、周知慣用技術の追加の扱いに関しても同様に、日韓で特段の差は見られない。
140
3.留意事項
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅲ部第Ⅰ節 3.2 留意事項
(1) 優先権証明書(第 43 条第 2 項及び第 43 条
の 2 に規定するパリ条約優先権等の場合の優
先権証明書及び第 41 条に規定する国内優先権
の場合の先の出願の出願書類をいう。)は、明
細書等に含まれないので、新規事項が追加され
ているか否かの判断の基礎とすることはでき
ない。
(2) 分割・変更出願の明細書等が、原出願の出
願当初の明細書等に記載した事項の範囲内で
あるか否かの判断についても、この基準が適用
される。
韓審第 4 部第 2 章 1.1 新規事項の追加禁止
(3)・・・国際特許出願の場合、
‘特許出願書に
最初に添付された明細書又は図面に記載され
た事項’とは、‘国際出願日に提出した国際出
願の明細書、請求の範囲又は図面(図面中の説
明部分に限る。)の翻訳文、又は国際出願日に
提出した国際出願の図面(図面中の説明部分を
除く。)に記載された事項’となる。
分割出願又は変更出願の場合において‘特許
出願書に最初に添付された明細書又は図面に
記載された事項’とは、分割出願をした日又は
変更出願をした日に当該分割出願書や変更出
願書に添付された明細書又は図面に記載され
た事項をいい、分割出願又は変更出願の基礎と
なった原出願の明細書又は図面に記載された
事項ではない。
韓審第 4 部第 2 章 1.2 新規事項の追加規定の
具体的な判断方法
(1)優先権主張の基礎となった第一国出願又は
先の出願は、特許出願書に最初に添付された明
細書又は図面に該当しないので、新規事項の追
加であるかの否かの判断の基礎として用いる
ことができない。
(2)要約書は、明細書又は図面に該当しないの
で、新規事項の追加を判断する基準となる当初
明細書等に含まれない。
解説;
韓国の場合、日本のいわゆる外国語書面出願制度が設けられておらず、国際特許出願
であっても、新規事項の判断は、韓国出願時の韓国語翻訳文の範囲とされており、日本
の誤訳訂正のように原文に記載された内容に基づく補正ができないため、注意を要する
(法改正により、英語による外国語書面出願制度及び原文に基づく誤訳訂正制度の導入
を検討しているが、本稿執筆時点で施行時期は未定である)。ただし、実務的には、国
際特許出願の韓国語翻訳文に誤訳がある場合、当初翻訳文の他記載等から誤記であるこ
とが自明である場合のみ、すなわち新規事項でない誤記の訂正の範囲であれば、誤訳の
訂正が一応可能である。
一方、日韓とも、優先権主張の基礎出願は、新規事項判断の基礎に含まれず、この点
で差異はない。
141
4.特許請求の範囲の補正
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅲ部第Ⅰ節 4. 特許請求の範囲の補正
4.1 一般原則
補正後の特許請求の範囲に記載された発明
特定事項が、当初明細書等に記載した事項の範
囲を超える内容を含む場合は、補正は許されな
い。
4.2 各論
(1) 上位概念化、下位概念化等
(a) 請求項の発明特定事項を概念的に上位の
事項に補正する(発明特定事項を削除する場合
を含む)場合であって当初明細書等に記載した
事項以外のものが追加されることになる場合
や、概念的に下位の事項に補正する(発明特定
事項を付加する場合を含む)場合であって当初
明細書等に記載した事項以外のものが個別化
されることになる場合は、当初明細書等に記載
した事項の範囲内でする補正とはいえず、補正
は許されない。
(b),(c)・・・
(2) マーカッシュ形式のクレーム
(a) マーカッシュ形式などの択一形式で記載
された請求項において、一部の選択肢を削除す
る補正は、残った発明特定事項で特定されるも
のが、当初明細書等に記載した事項の範囲内の
ものである場合は、許される。
(b)、(c)・・・
(3) 数値限定
数値限定を追加する補正は、その数値限定
が、当初明細書等に記載した事項の範囲内のも
のである場合は、許される。・・・
(4) 除くクレーム
・・・補正前の請求項に記載した事項の記載表
現を残したままで、補正により当初明細書等に
記載した事項を除外する「除くクレーム」は、
除外した後の「除くクレーム」が当初明細書等
に記載した事項の範囲内のものである場合に
は、許される。
韓審第 4 部第 2 章 1.2 新規事項の追加規定の
具体的な判断方法
(7)いわゆる‘除くクレーム’による補正は、
新規事項の追加ではない場合がほとんどであ
る。医療方法に関する発明の対象がヒトである
のか動物であるのかが明示されていない場合
に、その発明が特定動物のみを対象とするので
はないことが自明であるとき、ヒトに該当する
部分を削除するために限定する補正は、新規事
項が追加されたものとみなさない。
(8)数値限定の範囲を変更する補正、発明の構
成要素を上位概念又は下位概念に変更する補
正・・・等であって、その補正された事項が当
初明細書等の記載から自明でない場合には、新
規事項の追加に該当する。
解説;
韓国の審査指針書では、上位概念化、下位概念化、マーカッシュクレーム、数値限定
等について、細かい類型は示されておらず、審査基準・審査指針の記載上、日韓の運用
の相違は判然としないが、双方とも、いずれにしても新規事項の判断の原則に基づき判
断されることとなるため、日韓で特段の差異はない。また、いわゆる「除くクレーム」
についても同様であり、日韓で特段の差異は見られない。
142
5.発明の詳細な説明、図面の補正
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅲ部第Ⅰ節 5. 発明の詳細な説明の補正
5.1 一般原則
補正後の発明の詳細な説明に記載された事
項が、当初明細書等に記載した事項の範囲を超
える内容を含む場合は、補正は許されない。
5.2 各論
(1) 先行技術文献の内容の追加
特許法第 36 条 4 項 2 号の規定により、先行
技術文献情報(その関連する発明が記載されて
いた刊行物の名称、その他のその文献公知発明
に関する情報の所在)の記載が求められるとこ
ろ、先行技術文献情報を発明の詳細な説明に追
加する補正及び当該文献に記載された内容を
発明の詳細な説明の【背景技術】の欄に追加す
る補正は新たな技術的事項を導入するもので
はないので許される。しかし、出願に係る発明
との対比等、発明の評価に関する情報や発明の
実施に関する情報を追加する補正や、先行技術
文献に記載された内容を追加して特許法第 36
条第 4 項第 1 号の不備を解消する補正は新たな
技術的事項を導入するものであるので許され
ない。
(2) 具体例の追加
一般に、発明の具体例を追加したり、材料を追
加したりすることは、当初明細書等に記載した
事項の範囲を超えた補正となる。・・・
(3) 発明の効果の追加
一般に、発明の効果を追加する補正は、当初
明細書等に記載した事項の範囲を超えた補正
となる。しかしながら、当初明細書等に発明の
構造や作用・機能が明示的に記載されており、
この記載から当該効果が自明な事項である場
合は、補正は許される。
(4) 無関係・矛盾する事項の追加
当初明細書等に記載した事項と関係のない
事項や矛盾する事項を追加する補正が許され
ないことはいうまでもない。
(5) 不整合記載の解消/明りょうでない記載
の補正
明細書等の中に矛盾する二以上の記載があ
る場合であって、そのうちのいずれが正しいか
が、当初明細書等の記載から、当業者にとって
明らかな場合は、当該正しい記載に整合させる
補正が許される。
また、それ自体では明りょうでない記載であ
っても、その本来の意味が、当初明細書等の記
載から、当業者にとって明らかな場合は、これ
韓審第 4 部第 2 章 1.2 新規事項の追加規定の
具体的な判断方法
(3)未完成発明を完成させる補正をした場合、
その補正は新規事項を追加したものとする。
(4)誤った記載を訂正する場合又は明らかでな
い記載を明確にする場合、当初明細書等に記載
された事項の範囲内のものと認められる程度
の補正は、新規事項の追加ではない。
(5)明細書及び図面の中に相反する二以上の記
載のうちいずれが正しいかが当初明細書等の
記載から通常の技術者にとって自明である場
合、正しい記載に一致させる補正は新規事項の
追加ではない。
(6)図面や請求の範囲に記載された事項を根拠
に、発明の詳細な説明を補正した事項が通常の
技術者にとって自明な事項である場合、その補
正は新規事項の追加ではない。
・・・
(8)・・・図面の補正、実施例を追加する補正、
発明の目的や効果を追加又は変更する補正等
であって、その補正された事項が当初明細書等
の記載から自明でない場合には、新規事項の追
加に該当する。
(9)先行技術の文献名を明細書に単に追加する
補正は、新規事項の追加とみなさない。
ただし、その先行技術の文献に含まれている
事項を根拠とした補正や、当初から引用されて
いるが、その文献中にのみ記載されていて当初
明細書には記載されていなかった事項を追加
する補正は、その補正された事項が当初明細書
等の記載から自明に導き出すことができない
事項である場合には、新規事項の追加に該当す
る。
143
を明りょう化する補正が許される。
6. 図面の補正
図面の補正であっても、当初明細書等に記載し
た事項の範囲内においてするものであれば許
される。しかし、補正後の図面は、一般に、当
初明細書等に記載した事項の範囲を超えた内
容を含むことが多いことに留意すべきである。
特に、図面に代えて願書等に添付した写真を、
出願後に差し替える場合には留意が必要であ
る。また、図面の記載は必ずしも現実の寸法を
反映するものとは限らない。
解説;
先行技術文献の追加、具体例(実施例)の追加、発明の効果の追加、不整合・不明り
ょうな記載の補正等については、日韓とも特段の差異は見られず、いずれにしても新規
事項の追加であるか否か、原則に照らして判断される。
また、韓国では、無関係・矛盾する事項の追加及び図面の補正についての詳細な規定
は特に設けられていないが、新規事項の判断の原則からみて、日本と同様、当該補正は
認められないこととなる。
144
6.出願人による説明
日本審査基準
日審第Ⅲ部第Ⅰ節 7. 出願人による説明
韓国審査指針書
(該当なし)
(1) 出願人は、補正をしようとするときは、下
線を施すことより補正箇所を明示し、自発補正
の場合にあっては上申書において、拒絶の理由
の通知に対応するための補正の場合にあって
は意見書において、補正の根拠となった当初明
細書等の記載箇所を示した上で、補正が当初明
細書等に記載した事項の範囲内のものである
ことを説明することが求められる。・・・
(2)・・・
(3) 出願人による説明がなく、補正内容と当初
明細書等に記載した事項との対応関係が分か
らない場合は、審査官は、当該補正が当初明細
書等に記載した事項の範囲を超えた内容を含
むものとして拒絶理由通知等をすることがで
きる。・・・
解説;
日本では、補正の箇所に下線を引くこと、及び上申書又は意見書において、補正の根
拠を示し、新規事項の追加に該当しないことを説明することが求められているが、韓国
では、韓国特許庁独自の文書作成ソフトにより補正箇所のみを抽出して、補正書が自動
的に作成されるため、出願人が補正箇所に下線等を施すことはできない。ただし、出願
人は、意見書において当該補正の箇所に下線を引いて、補正の根拠等を説明することが
できる。
なお、韓国では、上申書という概念がなく、自発補正については、通常、補正書のみ
を提出しており、特に補正の根拠等を示す必要がある場合は、補正書と共に意見書を提
出することもできる。
145
【発明の特別な技術的特徴を変更する補正】
1.発明の特別な技術的特徴を変更する補正に関する条文
日本特許法
日法第 17 条の 2 第 4 項
前項に規定するもののほか、第一項各号に掲げ
る場合において特許請求の範囲について補正
をするときは、その補正前に受けた拒絶理由通
知において特許をすることができないものか
否かについての判断が示された発明と、その補
正後の特許請求の範囲に記載される事項によ
り特定される発明とが、第 37 条の発明の単一
性の要件を満たす一群の発明に該当するもの
となるようにしなければならない。
韓国特許法
(該当なし)
日法第 37 条
二以上の発明については、経済産業省令で定め
る技術的関係を有することにより発明の単一
性の要件を満たす一群の発明に該当するとき
は、一の願書で特許出願をすることができる。
特許法施行規則第 25 条の 8
特許法第 37 条の経済産業省令で定める技術的
関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する
特別な技術的特徴を有していることにより、こ
れらの発明が単一の一般的発明概念を形成す
るように連関している技術的関係をいう。
2 前項に規定する特別な技術的特徴とは、発
明の先行技術に対する貢献を明示する技術的
特徴をいう。
3 第一項に規定する技術的関係については、
二以上の発明が別個の請求項に記載されてい
るか単一の請求項に択一的な形式によって記
載されているかどうかにかかわらず、その有無
を判断するものとする。
解説;
日本では、発明の特別な技術的特徴を変更する補正、いわゆるシフト補正が禁止され
ているが、韓国において、これに相当する補正制限の規定は特段設けられていない。
146
【最後の拒絶理由通知後の特許請求の範囲についての補正】
1.新規事項に関する条文
日本特許法
韓国特許法
日法第 17 条の 2
特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の
送達前においては、願書に添付した明細書、特
許請求の範囲又は図面について補正をするこ
とができる。ただし、第五十条の規定による通
知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正
をすることができる。
・・・
三 拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通
知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理
由通知に係る第五十条の規定により指定され
た期間内にするとき。
5 ・・・第 3 号・・・において特許請求の範
囲についてする補正は、次に掲げる事項を目的
とするものに限る。
一 第 36 条第 5 項に規定する請求項の削除
二 特許請求の範囲の減縮(第 36 条第 5 項の
韓法第 47 条第 1 項
①特許出願人は、第 42 条第 5 項各号の規定に
よる期限までに、又は第 66 条の規定による特
許決定の謄本を送達するまでに特許出願書に
添付された明細書又は図面を補正することが
できる。ただし、第 63 条第 1 項の規定による
拒絶理由の通知(以下「拒絶理由の通知」とい
う)を受けた後には次の各号に定める期間(第 3
号の場合にはその時)にのみ補正することがで
きる。
1.・・・
2.拒絶理由の通知についての補正により発生
した拒絶理由に対して拒絶理由の通知を受け
た場合、当該拒絶理由の通知による意見書提出
期間
3.・・・
②前項の規定による明細書又は図面の補正は、
特許出願書に最初に添付した明細書又は図面
に記載された事項の範囲内において、これを行
うことができる。
③第 1 項第 2 号及び第 3 号の規定による補正の
うち、特許請求の範囲についての補正は次の各
号のいずれか一に該当する場合にのみするこ
とができる。
規定により請求項に記載した発明を特定する
ために必要な事項を限定するものであつて、そ
の補正前の当該請求項に記載された発明とそ
の補正後の当該請求項に記載される発明の産
業上の利用分野及び解決しようとする課題が
同一であるものに限る。)
三 誤記の訂正
四 明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知
に係る拒絶の理由に示す事項についてするも
のに限る。
)
6 第 126 条第 7 項の規定は、前項第 2 号の場
合に準用する。
日法第 126 条第 7 項
7 ・・・訂正後における特許請求の範囲に記
載されている事項により特定される発明が特
許出願の際独立して特許を受けることができ
るものでなければならない。
1.請求項を限定若しくは削除し、又は請求項
に付加して特許請求の範囲を減縮する場合
2.誤記を訂正する場合
3.不明瞭な記載を明確にする場合
4.第 2 項に規定する要件を満たしていない補
正について、その補正前の特許請求の範囲に戻
り、又は戻りつつ特許請求の範囲を第 1 号乃至
第 3 号の規定により補正する場合
解説;
日韓とも、最初の拒絶理由通知を受けた後、更に拒絶理由通知を受けた場合、いわゆ
る最後の拒絶理由通知に対して行う補正は、新規事項の追加の禁止に加え、さらに特許
請求の範囲の補正について制限が設けられており、所定の目的に合致したもののみ認め
られることとなる。
ここで、韓法第 47 条第 1 項第 2 号は、
「拒絶理由通知についての補正により生じた拒
絶理由について拒絶理由通知を受けた場合」と規定しているが、これは、日本において
147
も、最初の拒絶理由通知に対する補正によって通知することが必要になった拒絶理由を
最後の拒絶理由として解するとしていることから(審査基準第Ⅸ部 4.3.3)、実質的に
差異はないものと考えられる。
一方、特許請求の範囲の減縮について、日本では、いわゆる限定的減縮のみが認めら
れているが、韓国では、特許請求の範囲を減縮するものであればよく、新たな構成要件
を追加する、いわゆる外的付加による減縮も認められている(2009 年 7 月 1 日施行の
法改正で可能となった)
。
その他にも、韓国では、明りょうでない記載の釈明において拒絶理由に示した事項に
限定されないこと、新規事項を追加した補正を削除する補正が明文として認められるこ
と、特許請求の範囲の補正に対するいわゆる独立特許要件が課せられていないこと(も
っとも、韓国においても、最後の拒絶理由に対する補正が補正要件を満たしていない場
合に加え、新たな拒絶理由が生じた場合(請求項の削除を除く)は、補正却下の対象と
なる。ただし、新たな拒絶理由が生じた場合に限られるため、日本の独立特許要件とは
結果が異なる場合がある。詳細は後述6.
(4)独立して特許可能、
【審査の進め方】3.
(6)独立特許要件違反で補正却下する際の留意事項を参照のこと。)等、日韓で差異
があるため、注意を要する。
148
2.基本的な考え方
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅲ部第Ⅲ節1.
第 17 条の 2 第 5 項の規定は、発明の保護を
十全に図るという特許制度の基本目的を考慮
しつつ、迅速・的確な権利付与を確保する審査
手続を確立するために、最後の拒絶理由通知に
対する補正は、既に行った審査結果を有効に活
用できる範囲内で行うこととする趣旨で設け
られたものである。そして、この規定に違反す
る補正は、新規事項を追加するものとは異な
り、発明の内容に関して実体的な瑕疵をもたら
すものではないことから、それが看過されて拒
絶査定又は特許査定がされた後は、遡って補正
を却下することはしないこととされており、第
17 条の 2 第 5 項の規定は第 3 項の規定とは性
格を異にすると解される。したがって、第 5 項
の規定の適用にあたっては、その立法趣旨を十
分に考慮し、本来保護されるべきものと認めら
れる発明について、既に行った審査結果を有効
に活用して最後の拒絶理由通知後の審査を迅
速に行うことができると認められる場合につ
いてまでも、必要以上に厳格に運用することが
ないようにする。
韓審第 4 部第 2 章 2.1 請求の範囲の補正の制限
特許法第 47 条第 3 項により、最後の拒絶理
由通知に対応した補正、又は再審査の請求時に
行う補正のうち、請求の範囲についての補正
は、請求項を限定する等により請求の範囲を減
縮すること、誤記を訂正すること、不明りょう
な記載を明確にすること、又は新規事項を削除
するためにする補正することのうち、いずれか
に該当しなければならない。
特許法第 47 条第 3 項の補正要件は、補正し
た請求項についてのみ適用する。この場合、独
立項が補正されたならば、その独立項を引用す
る従属項も補正されたものと取り扱う。
また、請求の範囲を補正した事項が上記に羅列
した場合のいずれに該当するか否かは、最後の
拒絶理由通知の際に審査の対象となった請求
項と同じ番号の請求項を比較して判断する。た
だし、番号が異なっていても、補正後の請求項
が異なる番号の請求項を補正したという状況
が自明であった場合に限り、番号が異なる請求
項と比較をし、補正の適合性を判断することが
できる。
出願人が一の請求項を一の語句のみを補正
したのか、それとも請求項を全般的に補正した
のかにかかわらず、その請求項に関する補正が
第 47 条第 3 項各号のいずれか一に該当する場
合、その補正は特許法第 47 条第 3 項の補正に
適合しているものとする。ただし、この場合に
おいても、一の請求項に二以上の発明がある場
合(マーカッシュタイプや複数の項を引用した
請求項)には、各発明ごとに判断するようにす
る。
(参考)・・・特許法第 47 条第 3 項の規定は、
補正の内容を実質的に制限するためのもので
はなく、過度な補正による審査の困難を防止す
るためのものであるためである。
解説;
日韓とも、最後の拒絶理由通知に対する補正について、特許請求の範囲の減縮等に制
限する理由は、既に行った審査結果を有効に活用して最後の拒絶理由通知後の審査を迅
速に行うためであり、日韓で実質的に差異はないものと考えられる。また、韓国の審査
指針書では、独立項が補正された場合、従属項も補正されたものと扱うこと、請求項の
番号が異なっていても、補正後の請求項が異なる番号の請求項を補正したという状況が
自明である場合、これらの請求項を比較し、補正の適否を判断すること、補正要件を満
149
たしているか否かの判断は、単に補正箇所の字句のみの比較ではなく、補正後の発明の
内容全体から判断すること等が明文化されているが、これらの扱いは、日本も同様であ
る、特段の差異はない。
また、日韓とも複数の補正箇所のうち、一部の補正が補正要件を満たしていない場合
には、当該補正は認められず、補正全体が却下される。
150
3.新規事項の追加禁止
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅲ部第Ⅲ節 2.1 新規事項の追加禁止(第
17 条の 2 第 3 項)
「…明細書、特許請求の範囲又は図面について
補正をするときは、…願書に最初に添付した明
細書、特許請求の範囲又は図面(…)に記載し
た事項の範囲内においてしなければならない」
補正が第 17 条の 2 第 3 項の規定を満たすもの
であるか否かは、
「第Ⅰ節 新規事項」に従って
判断する。
韓審第 4 部第 2 章 1.1 新規事項の追加禁止
(1)出願書に最初に添付された明細書又は図面
に記載された事項の範囲を超える事項を「新規
事項」という。ここで最初に添付された明細書
又は図面(以下「当初明細書等」という)に記載
された事項とは、当初明細書等に明示的に記載
されている事項又は明示的な記載がなくても
通常の技術者であれば出願時の技術常識に照
らして当初明細書等に記載されているものと
同じであると理解することができる事項をい
う。
すなわち、通常の技術者が当初明細書等に記
載された事項によって判断した結果、直接的に
表現する記載はなくとも、記載されていると明
らかに理解することができる事項は、新規事項
ではない。
・・・
(2)新規事項であるか否の判断の対象は、補正
された明細書又は図面であり、このうちいずれ
の一にも新規事項を追加する補正は許されな
い。
・・・
(3)明細書等の補正によって追加された事項が
新規事項であるか否かを判断するための比較
対象は、出願書に最初に添付された明細書又は
図面である。ここで最初に添付されたとは、出
願日までに出願書とともに提出されたものを
意味し、出願日以降の補正によって追加された
事項は、最初に添付された明細書等に記載され
た事項ではない。
・・・
(4)明細書又は図面を補正した事項に新規事項
が追加されているか否については、補正された
明細書又は図面に記載された事項(判断対象)
が当初明細書等に記載された事項(比較対象)
の範囲内にあるか否かを判断して決定する。
ここで「記載された事項の範囲内」とは、出
願書に最初に添付された明細書又は図面に記
載された事項の範囲内において、外形上の完全
な同一をいうのではなく、通常の技術者が当初
明細書等の記載からみて自明な事項も、記載さ
れた事項の範囲内とみなす。
解説;
前述の【新規事項】にかかる解説を参照のこと。
151
4.発明の特別な技術的特徴を変更する補正の禁止
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅲ部第Ⅲ節 2.2 発明の特別な技術的特 (該当なし)
徴を変更する補正の禁止(第 17 条の 2 第 4 項)
「…第一項各号に掲げる場合において特許請
求の範囲について補正をするときは、その補正
前に受けた拒絶理由通知において特許をする
ことができないものか否かについての判断が
示された発明と、その補正後の特許請求の範囲
に記載される事項により特定される発明とが、
第三十七条の発明の単一性の要件を満たす一
群の発明に該当するものとなるようにしなけ
ればならない。」
補正が第 17 条の 2 第 4 項の規定を満たすもの
であるか否かは、
「第Ⅱ節 発明の特別な技術的
特徴を変更する補正」に従って判断する。
解説;
前述の【発明の特別な技術的特徴を変更する補正】にかかる解説を参照のこと。
152
5.請求項の削除
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅲ部第Ⅲ節 3-3.2
請求項を削除する補正のみならず、請求項を
削除する補正に伴い、他の請求項を形式的に補
正することも、請求項の削除を目的とする補正
韓審第 4 部第 2 章 2.2(2)
請求項を削除することは、請求の範囲の減縮に
該当するので、適法な補正と認める。一方、請
求項を削除した後、削除された請求項を引用す
る他の請求項の引用番号を変更する、又は引用
内容を追加する補正は、誤った記載を訂正する
として扱う。
具体例:
請求項の削除に伴って必然的に生じる、
①削除された請求項を引用する他の請求項の
引用番号の変更
②従属形式から独立形式への変更
補正とみなす。
解説;
請求項の削除によって生じる引用請求項の番号変更等について、日本では請求項の削
除に該当する補正として扱うのに対して、韓国では誤記の訂正として扱っているが、実
務上の結論において実質的な差異は認められない。
153
6.請求項の限定的減
(1)限定的減縮に適合する要件
日本審査基準
日審第Ⅲ部第Ⅲ節 4.2 限定的減縮に適合する
要件
特許請求の範囲の補正が第 17 条の 2 第 5 項
第 2 号に該当するためには、次の要件を満たさ
なければならない。
(1) 特許請求の範囲の減縮であること。
(2) 補正前の請求項に記載された発明(以下
「補正前発明」という)の発明特定事項の限定
であること。
(3) 補正前と補正後の発明の産業上の利用分
野及び解決しようとする課題が同一であるこ
と。
韓国審査指針書
(該当なし)
(説明)
第 2 号の括弧書きは、補正前発明と産業上の
利用分野及び解決しようとする課題が同一で
ある発明となるように補正前発明の発明特定
事項を限定する補正でなければならない、すな
わち、補正前後の発明の利用分野及び課題が同
一でなければならないことを規定するもので
ある。
解説;
日本では、特許請求の範囲の減縮であっても、補正前後の発明の利用分野及び課題が
同一でなければならない(いわゆる限定的減縮)が、韓国では、特許請求の範囲を減縮
するものであればよく、限定的減縮のみならず、新たな構成要件を追加する、いわゆる
外的付加による減縮も認められる。
154
(2)特許請求の範囲の減縮
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅲ部第Ⅲ節
4.3.1 特許請求の範囲の減縮であること
特許請求の範囲の拡張に該当するものは、特
許請求の範囲の減縮に当たらないとして、括弧
書きの要件を満たすか否かを判断することな
く第 17 条の 2 第 5 項第 2 号に該当しないもの
とする。
なお、特許請求の範囲は、特許を受けようと
する発明について記載した請求項の集合した
ものであることから、
「特許請求の範囲の減縮」
についての判断は、基本的には、各請求項につ
いて行うものとする。
韓審第 4 部第 2 章 2.2
(1)請求項を限定する場合は、請求項に記載さ
れた発明の範囲を内的に制限することであっ
て、数値範囲の縮小、上位概念から下位概念記
載への変更等がある。
①数値範囲の縮小
当初の請求項に記載された範囲内において
数値限定の範囲を縮小する場合である。この
時、数値範囲が 10~20℃となっていたものを
15~30℃にするように、数値範囲を縮小すると
同時に、一方の数値範囲を拡張することは、数
値範囲の縮小に該当しない。
4.3.2 発明を特定するための事項の限定であ ②上位概念から下位概念への変更
ること
同族的又は同類的事項を集めて総括した概
(1)「発明を特定するための事項」の解釈
念で表現した事項を、これに含まれる一の下位
第 2 号で規定する「発明を特定するための事 概念に変更することをいう。例えば、筆記具を
項」は、補正前の請求項に記載された事項であ 万年筆に補正する場合である。
るから、その把握は、補正前の請求項の記載に ③択一的に記載された要素の削除
基づいて行う必要がある。また、第 36 条第 4
多数の構成要素が択一的に記載されている
項第 1 号の運用においては、発明の実施に必要 場合、そのうち一部を削除する補正は、請求の
な場合には、発明の詳細な説明中に発明を特定 範囲の減縮に該当して適法な補正と認められ
するための事項の作用(働き/役割)を記載す る。例えば、
「A 又は B」という択一的記載要素
べきこととされている。したがって、第 17 条 のうち、A 又は B を削除する場合である。
の 2 第 5 項第 2 号における「発明を特定するた ④多数の項を引用する請求項における引用項
めの事項」は、補正前の請求項の記載に基づき、 の数を減少
明細書及び図面の記載を考慮して、その作用と 多数の異なる項を引用する請求項から引用項
対応して把握する。
の一部を削除することは、選択的構成要素を削
(2)「限定する」の解釈
除する場合と同様、請求項を限定して減縮する
「発明を特定するための事項」を「限定する」 補正とみなす。
補正とは、以下のことをいう。
(2)・・・
①補正前の請求項における「発明を特定するた
めの事項」の一つ以上を、概念的により下位の
「発明を特定するための事項」とする補正。な
お、作用で物を特定しようとする記載を用いた
発明特定事項(機能実現手段等)に対し、その
作用とは別個の作用を有する発明特定事項は、
通常、概念的に下位のものとは認められない。
②マーカッシュクレーム等、発明を特定するた
めの事項が選択肢として表現されている請求
項においては、その選択肢の一部を削除する補
正。
(3) 判断手法
発明を特定するための事項の限定であるか
どうかの判断は、補正前の請求項に係る発明と
補正後の請求項に係る発明のそれぞれの発明
特定事項を把握し、両者を対比することにより
行う。
(3)明細書の詳細な説明又は請求の範囲に記載
されていた新たな技術的事項を直列的に付加
することによって、発明の範囲が縮小される場
合がある。例えば、「A に B を取り付けた栓抜
き」という記載を、「A に B を取り付け、さら
に B に C を取り付けた栓抜き」にするような場
合である。
(4)次のような場合は、特許法第 47 条第 3 項第
1 号に該当しない補正として取り扱う。
①請求項を新設したり、又は択一的に記載され
た構成要素の追加、又は引用項を追加して請求
の範囲に発明を追加する場合
ただし、請求項を新設したとしても、請求項を
整理しながら発生する不可避な場合であって、
意見書等で明白にした場合には除く。
②次のような補正で請求の範囲が当初の範囲
を逸脱した場合
155
-下位概念の記載から上位概念の記載への変更
-直列的構成要素の削除
-直列的構成要素の加減
-数値範囲の拡張
-構成要素の置換
-数値範囲の変更
解説;
既に述べたとおり、韓国では、限定的減縮の要件がないため、限定的減縮のみならず、
新たな構成要件の追加、いわゆる外的付加も認められていることから、日本に比べて韓
国では、補正の選択肢が広いと解されている。
一方、日韓とも、特許請求の範囲の減縮に該当するか否かの判断は、補正前後の請求
項を比較して行う点で同じであるが、後述の補正可能期間において複数回補正がされた
場合、韓法の改正により、最後の補正以外はみなし取り下げとなることとされたため、
日韓間には大きな相違がある(詳しくは、後述の(5)最後の拒絶理由通知に対する応
答期間内に複数回補正がされた場合を参照のこと)。
156
(3)補正前後における課題と産業上の利用分野の同一
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅲ部第Ⅲ節 4.3.3
(該当なし)
(1)「解決しようとする課題」および「産業上
の利用分野」の認定
発明の解決しようとする課題および産業上
の利用分野の認定にあたっては、発明の詳細な
説明中の課題および発明の属する技術分野に
ついての記載を勘案しつつ、請求項の記載に基
づいて把握した「発明を特定するための事項」
に基づいて、課題・利用分野を具体的に特定す
る。なお、発明の課題は、未解決のものである
必要はない。
(2)解決しようとする課題の同一について
補正前後の発明の課題が一致する場合のほ
か、補正後の発明の課題が補正前発明の課題と
技術的に密接に関連している場合(課題の同一
性の判断においては、「技術的に密接に関連す
る」とは、補正後の発明の課題が補正前発明の
課題をより概念的に下位にしたものであると
き、又は補正前後の発明の課題が同種のもので
あるとき等をいうものとする。)にも、発明の
課題は同一であるとする。(例えば、
「強度向上」
と「引っ張り強度向上」、
「コンパクト化」と「軽
量化」)そして、補正前発明の一以上の発明特
定事項の補正によって発明の課題が同一でな
い発明となった場合には、本要件を満たす補正
ではないとする。なお、第 36 条第 4 項第 1 号
の委任省令の運用では、従来の技術と全く異な
る新規な発想に基づき開発された発明又は試
行錯誤の結果の発見に基づく発明等のように、
もともと解決すべき課題が想定されていない
と認められる場合には、課題の記載は求めな
い。この場合には、解決しようとする課題にか
かわらずそれまでの審査がなされていると考
えられることから、本要件は満たされているも
のとする。
(3)産業上の利用分野の同一について
補正前後の発明の産業上の利用分野が同一
であるとは、補正前後の発明の技術分野が一致
する場合及び補正前発明の技術分野と補正後
の発明の技術分野とが技術的に密接に関連す
る場合をいう。
(説明)
上記(2)及び(3)において、補正前後の発明の
課題及び産業上の利用分野が同一であること
を要件とした理由は、補正前発明と上記のよう
な関係にある補正後の発明については、最後の
157
拒絶理由通知以前の審査の結果を有効に活用
して、更なる審査に大きな負担を要することな
く手続きを進めることができると考えられる
ためである。
解説;
前述したとおり、韓国では特許請求の範囲の減縮において、補正前後における発明の
解決しようとする課題及び産業上の利用分野における同一性は、特に求められていない。
ただし、韓国でも、補正により当初明細書等に記載の解決しようとする課題及び/又は
産業上の利用分野から大きく変更がなされる場合には、別途、新規事項の追加に該当す
る可能性があるため、注意を要する。
158
(4)独立して特許可能
日本審査基準
日審第Ⅲ部第Ⅲ節 4.3.4
第 17 条の 2 第 5 項第 2 号に該当する補正と
認められても、補正後の請求項に記載されてい
る事項により特定される発明が特許可能なも
のでなければならない。
この要件が課されるのは限定的減縮に相当
する補正がなされた請求項のみであり、これに
相当しない「誤記の訂正」又は「明りょうでな
い記載の釈明」のみの補正がなされた請求項及
び補正されていない請求項については、独立し
て特許を受けることができない理由が存在す
る場合において、それを理由として補正を却下
してはならない。
韓国審査指針書
(該当なし)
解説;
韓国では、2009 年 7 月 1 日施行の法改正により、特許請求の範囲を減縮する補正に
ついては、補正後の発明に対する独立特許要件が課せられていない。改正前は、日本の
現行法同様、補正後の発明が独立特許要件を満たしていない場合、補正自体が認められ
ず補正却下となったため、拒絶決定不服審判で当該補正却下に対しても反論しなければ
ならず、出願人にも審判部にも大きな負担が生じるとの指摘等がなされていた。
そこで、法改正により、最後の拒絶理由通知に対する補正が独立特許要件を満たして
いない場合でも、新たな拒絶理由が生じる場合(請求項を削除する補正を除く)でなけ
れば、補正自体は認められることとなった。すなわち、改正後においては、最後の拒絶
理由通知後に拒絶決定をするに際し、請求項に対する補正が独立特許要件を満たしてい
ない場合であっても当該補正は認められ、補正却下はなされない(後述、【審査の進め
方】3.(6)独立特許要件違反で補正却下する際の留意事項を参照のこと)。
なお、拒絶決定に対する再審査請求時(韓国では、日本の前置審査制度が廃止され、
再審査請求制度が導入されている。)には、補正された拒絶決定時の請求項を基準に、
より減縮した補正が可能であり、原審審査官がそれを再度審査することになるため、出
願人に有利な制度となった旨評価されている(後述【審査の進め方】5.前置審査を参
照のこと)
。
159
(5)最後の拒絶理由通知に対する応答期間内に複数回補正がされた場合
日本審査基準
日審第Ⅲ部第Ⅲ節 4.4
最後の拒絶理由通知に対する応答期間内に
数回にわたり明細書、特許請求の範囲又は図面
の補正がされる場合、第 2 回目以降の補正が第
17 条の 2 第 5 項及び第 6 項に規定する要件を
満たしているかどうかを判断するときの基準
となる明細書、特許請求の範囲又は図面は、当
該第 2 回目以降の補正の直前に適法に補正が
なされた明細書、特許請求の範囲又は図面とす
る。ただし、第 17 条の 2 第 3 項については、
当初明細書、特許請求の範囲又は図面である。
韓国審査指針書
韓審第 5 部第 3 章 6.3.1 補正された明細書の
確定方法
(1)拒絶理由通知がある前に、自発補正として
複数の補正書が提出された場合、各補正書が累
積的に審査対象の明細書には反映されるため、
審査官が使用する審査システムである特許ネ
ット上において自動的に補正識別項目別に最
後の補正部分の組合せと補正を申請しなかっ
た補正識別項目の組合せとして、審査対象最の
最終本が決定される。
しかし、一つの拒絶理由通知による指定期間
内に複数の補正書が提出された場合の処理は、
旧特許法(2013. 3. 22. 法律第 11654 号により
改正される以前のもの)が適用される出願と改
正特許法(法律第 11654 号、 2013. 3. 22. 公
布、 2013. 7. 1. 施行)が適用される出願にお
いて差異がある。
ⅰ)旧特許法が適用される 2013. 6. 30. 以前
の出願に対して、最初拒絶理由通知による指定
期間内に復数の補正書提出がある場合には、各
補正書が累積的に反映されて審査対象の最終
本明細書が決定され、最後拒絶理由通知による
指定期間内に復数の補正書提出がある場合に
は、それらの補正書のうち、審査官によって承
認された補正書のみが累積的に反映されて審
査対象の最終本明細書が決定される。
ⅱ)改正特許法が適用される 2013. 7. 1. 以降
の出願に対して、拒絶理由通知による指定期間
内に復数の補正書提出がある場合には、改正特
許法第 47 条第 4 項により、最後補正書の以前
に提出された補正書によるすべての補正は、取
り下げられたものとみなされるため、審査対象
の最終本明細書には、その最後に提出された補
正書のみが反映される。
解説;
韓国では、2013 年 7 月 1 日施行の法改正により、
「最初の拒絶理由通知及び最後の拒
絶理由通知に対する意見書提出期間内に補正を行う場合には、それぞれの補正手続きに
おいて一番最後の補正以前に行った全ての補正は取り下げられたものとみなす」(韓法
第 47 条第 4 項新設)
と新たに規定されたため、2013 年 7 月 1 日以降の出願については、
拒絶理由通知に対する意見書提出期間内において補正を複数回行った場合、改正前のよ
うに複数回の補正が累積的に反映されるものではなく、最後に提出した補正書による補
正のみが認められることに注意を要する。
160
7.明りょうでない記載の釈明
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅲ部第Ⅲ節
5.2「明りょうでない記載の釈明」の意味
「明りょうでない記載」とは、文理上は、それ
自体意味の明らかでない記載など、記載上の不
備を生じている記載である。
特許請求の範囲について「明りょうでない記
載」とは、請求項の記載そのものが、文理上、
意味が不明りょうであること、請求項自体の記
載内容が他の記載との関係において不合理を
生じていること、又は、請求項自体の記載は明
りょうであるが請求項に記載した発明が技術
的に正確に特定されず不明りょうであること
等をいう。「釈明」とは、それらの不明りょう
さを正して、「その記載本来の意味内容」を明
らかにすることである。
したがって、請求項の記載自体が明確であ
り、発明も技術的に明りょうに特定されている
場合に、新規性・進歩性欠如等の拒絶理由通知
を受け、新規性・進歩性等を明らかにする補正
は、「明りょうでない記載の釈明」に該当しな
い。
たとえば、新規性・進歩性欠如等に係る拒絶
理由を解消するための補正であって、課題を変
更せずに請求項に記載された発明特定事項を
限定するもの、又は新たな課題を解決するため
の新たな技術的事項を請求項に記載するもの
等と認められる場合には、当該補正は「明りょ
うでない記載の釈明」に該当しない。
こうした補正は、「請求項の限定的減縮」等の
第 5 項各号のいずれか他のものに該当するか
どうか等を更に審査すべきこととなる。
韓審第 4 部第 2 章 2.4 明確でない記載を明確
にする場合
明確でない記載とは、文理上それ自体の意味
が明確でない記載であり、請求項の記載それ自
体が文言的に意味が不明りょうなもの、請求項
自体の記載内容が他の記載との関係において
不合理なもの、又は請求項自体の記載は明りょ
うであるが請求項に記載した発明が技術的に
正確に特定されず不明りょうなもの等をいう。
実体的に変わることなく請求項を全般的に再
記載する補正は、他の事情がない限り、明確で
ない記載を明確にする場合と認め、特許法第
47 条第 3 項第 3 号に該当する補正として取り
扱う。
5.3 拒絶の理由に示した事項との関係
拒絶理由通知で指摘していなかった事項に
ついての補正によって、既に審査・審理した部
分が補正され、新たな拒絶理由が生じることを
防止するため、「明りょうでない記載の釈明」
は、拒絶理由通知で指摘された拒絶の理由に示
す事項についてするものに限られている。
第 36 条に基づく最後の拒絶理由通知で指摘
された特定個所の記載不備の拒絶理由を解消
するための補正は、第 4 号括弧書きの「拒絶の
理由に示す事項についてするもの」に該当す
る。
これに対し、最後の拒絶理由通知で指摘され
た特定個所の記載不備とは無関係に、請求項に
記載された発明特定事項を限定する補正や、新
161
たな課題を解決するための新たな技術的事項
を請求項に記載する補正等は、「拒絶の理由に
示す事項についてするもの」に該当しない。
解説;
明瞭でない記載の釈明に関する補正について、日本では、拒絶理由通知で指摘された
拒絶の理由に示す事項についてするものに限られているが、韓国では、拒絶理由に示す
事項に限定されない点で、差異が見られる。すなわち、韓国の場合、新規事項の追加等
他の補正要件に違反しない限り、明確でない記載を明確にする補正が幅広く認められる。
162
8.新規事項を追加する補正の却下
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第Ⅱ節
6.2.1 却下の対象となる補正
(1) 新規事項を追加する補正(第 17 条の 2 第 3
項違反)
「最後の拒絶理由通知」に応答する補正であっ
て、
①新たに新規事項を追加する補正。
②「最後の拒絶理由通知」で指摘した新規事項
が含まれている補正。
(留意事項)
「最後の拒絶理由通知」をする際に新規事項が
存在していたが、それについて拒絶理由を通知
していなかった場合は、補正がその新規事項を
含んでいたとしても、当該補正を却下すること
なく受け入れ、新規事項が追加されている旨の
拒絶理由を通知する。
・・・
韓審第 4 部第 3 章 2 補正却下の要件
(1)最後の拒絶理由通知に対する意見書提出期
間内の補正又は再審査を請求の時にする補正
が特許法第 47 条第 2 項及び第 3 項の規定に違
反し、又はその補正によって新たな拒絶理由が
発生したものと認められるときは、特許法第
51 条第 1 項によって補正を却下しなければな
らない。
ここで、‘その補正によって新たな拒絶理由
が発生した場合’とは、当該補正書の提出によ
り、以前にはなかった拒絶理由が発生した場合
(当該補正により、記載不備が新たに発生した
場合や、新規性又は進歩性拒絶理由が新たに発
生した場合等)を意味するものであり、当該補
正の前に拒絶理由通知された拒絶理由はもち
ろん、補正前の明細書等にあったが通知されて
いなかった拒絶理由は、新たな拒絶理由ではな
い。
解説;
日韓とも、最後の拒絶理由通知に対する補正が新規事項の追加に該当する場合、補正
却下の対象となる点で、差異は見られない。
163
9.新規事項を削除するための補正
日本審査基準
(該当なし)
韓国審査指針書
韓審第 4 部第 2 章 2.5
特定の補正段階において新規事項が追加さ
れた場合に、これを新規事項が追加される以前
の請求の範囲の内容に戻す補正は許容する。こ
れを許容しない場合、拒絶理由を解消するため
に新規事項を削除する補正をしても特許法第
47 条第 3 項に違反して補正却下され、それに
よって拒絶決定へと続くこととなり、出願人に
とってあまりに酷なためである。
新規事項が追加される以前の請求の範囲内
容に戻す補正ばかりでなく、戻しながら特許請
求の範囲を特許法第 47 条第 3 項第 1 号ないし
第 3 号の規定によって補正する場合も許容す
る。審査官は、新規事項が追加される以前の請
求の範囲と、補正された請求の範囲とを相互に
比べて補正の適法性を判断しなければならな
い。
解説;
前述したとおり、韓国では、補正により追加された新規事項を削除して元に戻す補正
が明文として認められている点で、日韓で差異が見られる。
164
【審査の進め方】
1.先行技術調査
(1)調査対象
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節
2. 先行技術調査
新規性・進歩性及び先後願(第 29 条、第 29 条
の 2、第 39 条)の審査基準・・・に留意しつつ
調査を行い、関連する先行技術をもれなく発見
するように努める。
2.1 調査対象
(1) 調査対象の決定
特許請求の範囲に記載された発明のうち、「第
Ⅰ部第 2 章 発明の単一性の要件」の「3.1 審
査対象の決定」に示したところに照らして審査
対象となる範囲を調査対象とする・・・。
(2) 調査対象を決定する際に考慮すべき事項
①請求項に係る発明の実施例も、調査対象とし
て考慮に入れる。
②迅速・的確な審査に資すると認められる場合
は、補正により請求項に繰り入れられる蓋然性
が高いと判断される開示事項も、過度に負担を
増大させない限り、調査対象とすることができ
る。
韓審第 5 部第 2 章
1.先行技術調査の概要
先行技術調査は、出願された発明の新規性や進
歩性等の特許要件を審査するために、関連する
先行技術を検索することである。先行技術調査
には、特許法第 36 条の先出願及び同法第 29 条
第 3 項の拡大された先出願の検索も含まれる。
審査官は、必要な場合、審査業務の一部の先行
技術調査業務を外部専門機関に依頼すること
ができる。
2. 調査前の手続
(1)先行技術の検索の前に、出願された技術内
容を分析する。先行技術調査は、明細書の請求
の範囲に記載された発明を対象に行わなけれ
ばならないため、発明の把握は、請求の範囲に
記載された事項を基準とするが、発明の詳細な
説明及び図面を参照する。
3. 調査手続
・・・
3.5 調査する際の留意事項
(1)先行技術調査は、発明の詳細な説明に記載
されている技術内容を参照し、請求の範囲に記
載された技術内容に対する均等物と認められ
るすべての技術内容を含む。この場合、均等物
と認められる技術内容は、発明の詳細な説明に
記載されている内容とは多少異なる技術内容
をも含めるようにする。
(2)独立項に対する先行技術調査を行うととも
に、同一の分類範囲に属する従属項についても
先行技術調査を同時に進める。ただし、従属項
は独立項の特徴をすべて含むものであるため、
独立項と関連のある先行技術が存在しないと
きには、従属項について別途の先行技術調査は
不要である。
(3)カテゴリーが互いに異なる二以上の請求項
がある場合には、請求の範囲のすべてのカテゴ
リーの請求項について先行技術調査を行わな
ければならない。しかし、物に関する請求項が
新規かつ進歩性を有する場合、その物の製造方
法や用途に関する請求項については先行技術
調査を行う必要がない。ただし、出願発明が一
のカテゴリーに属する請求項のみがある場合
にも、他のカテゴリーについての先行技術調査
が必要な場合がある。
(4)先行技術調査は、請求項に記載された発明
165
を基準に実施し、先行技術調査に過度な更なる
努力を要しない場合、補正書の提出に備えて、
請求の範囲には記載されておらず詳細な説明
にのみ記載されている発明について先行技術
調査を行うことができる。
解説;
日韓とも、特許請求の範囲に記載された発明にかかる新規性、進歩性、先後願等を判
断するために、関連する先行技術の調査を行う点で、特段の差異は認められない。将来、
補正により請求項に繰り入れられる蓋然性が高い事項についても、調査対象となる点で
も、日韓は共通する。
166
(2)調査対象から除外してもよい発明
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 2.1(1) 調査対象の決定
特許請求の範囲に記載された発明のうち、「第
Ⅰ部第 2 章 発明の単一性の要件」の「3.1 審
査対象の決定」に示したところに照らして審査
対象となる範囲を調査対象とする・・・。
(2)略
(3) 調査対象から除外してもよい発明
以下に示すような発明については、調査対象か
ら除外してもよい。
①新規事項が追加されていることが明らかな
発明(第 17 条の 2 第 3 項違反)
②不特許事由があることが明らかな発明(第 32
条違反)
③第 2 条に規定する発明に該当しないことが
明らかなもの、産業上利用することができる発
明に該当しないことが明らかである発明(第 29
条第 1 項柱書違反)
④発明の詳細な説明及び図面を参酌しても発
明を把握することができない程度に請求項の
記載が明確でない発明(第 36 条第 6 項第 2 号違
反)
⑤請求項に係る発明について、発明の詳細な説
明が当業者がその実施をすることができる程
度に明確かつ十分に記載されていない場合に
おいて、当業者がその実施をすることができる
程度に明確かつ十分に記載されていない部分
(第 36 条第 4 項第 1 号違反)
⑥請求項に係る発明が、発明の詳細な説明にお
いて発明の課題が解決できることを当業者が
認識できる程度に記載された範囲を超えてい
る場合において、その「記載された範囲を超え
ている」部分(第 36 条第 6 項第 1 号違反)
韓審第 5 部第 2 章 3.2 調査から除外される場
合
次の場合には、先行技術調査を行わない、又は
必要な範囲内でのみ先行技術調査を行うこと
ができる。審査官は先行技術調査をしない場
合、その旨を意見提出通知書の参考事項として
記載する。
①特許法第 47 条の規定による新規事項が追加
されている発明
②特許法第 32 条の規定により特許を受けるこ
とができない発明
③未完成発明、又は産業上利用することができ
ない発明
④特許法第 45 条による発明の一特許出願の範
囲を満たしていない出願の場合、審査を行った
群に属しない発明
この場合、優先して特許法第 45 条違反による
拒絶理由を通知し、出願人の対応を待つことが
できる。
⑤明細書の記載が著しく不備であって、発明の
内容を把握することができない場合
明細書の記載不備の程度が軽微であって発明
の内容を把握することができるときには、発明
の内容の把握が可能な範囲内で先行技術調査
を行う。
解説;
日韓とも、新規事項の追加、不特許事由、産業上の利用可能性の欠如、明細書等の記
載不備等が明らかな場合は、先行技術調査対象から除外される点で差異は認められない。
また、単一性の不備についても、韓国審査指針書には、当該出願が発明の単一性を満
たしていない場合、その旨の拒絶理由を通知しつつ、審査を行っていない発明について
は先行技術調査を行わない旨が記載されているが、日本審査基準「第Ⅰ部第 2 章 発明
の単一性の要件」の「3.1 審査対象の決定」等の記載に鑑みると、日本でも同様の扱い
となる。
167
(3)調査の手順
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 2.2 調査の手順
(1) 調査に入る前の留意事項
①発明の詳細な説明に関連する先行技術文献
情報が開示されている場合には、調査に先立っ
て、その先行技術文献の内容を検討する。
・・・
②当該出願に関連して、調査機関(外国特許庁
を含む。)によって事前に先行技術調査が行わ
れている場合には、その調査結果の内容を検討
し、有効活用を図ることとする。
韓審第 5 部第 2 章
2. 調査前の手続
(1)・・・
(2)出願の詳細な説明において文献を引用して
いる場合、その引用文献をまず検討して、その
文献が発明の出発点として引用されたもので
あるのか、技術の現況を示すものであるのか、
発明が解決しようとする課題の他の解決方法
であるのか、又は発明の正しい理解を助けるた
めに記載されたものであるのか等を分析し、必
要であればその文献を参照して検索の出発点
としなければならない。
その引用文献が、請求された発明と直接関係が
ない詳細な説明にのみ関連していることが明
らかな場合には、その文献を無視することがで
きる。請求された発明の特許要件の判断に必要
な文献として、通常の方法により入手すること
ができない場合には、出願人に書類提出の要求
を行い、当該文献が提出される時まで審査を保
留することができる。
(3)当該出願と関連して外国特許庁又は調査機
関に事前に行われた調査結果がある場合には、
その調査結果を検討して活用することができ
るか否かを確認しなければならない。
(2) 調査手法
①各々の請求項に係る発明が関連する技術分
野のすべての文献のうち、調査の経済上の理由
から、審査官自らの知識・経験に基づき、関連
する先行技術文献が発見される蓋然性が高い
と判断される範囲の文献を調査することとす
る。
②調査機関(外国特許庁を含む。)の調査結果を
活用する場合であって、審査官自らの知識・経
験に基づき、調査機関による調査結果に基づい
て審査を的確かつ効率的に行うことができる
と判断される場合には、自ら先行技術調査を行
うことを要しない。審査官が追加的に先行技術
調査を行う場合には、当該調査機関が調査を行
った範囲においてより有意義な先行技術文献
が発見される蓋然性が高いと判断される場合
を除き、当該調査機関が調査を行った範囲を調
査範囲から除外することとする・・・。
③関連する先行技術文献等が発見される蓋然
性が最も高い技術分野を優先して調査する。通
常は、発明の詳細な説明に記載された実施例に
最も密接に関連する技術分野から調査を開始
して、漸次、関連性のより低い分野へと調査を
拡大することが適切である。
④関連性の高い技術分野から、関連性のより低
い分野に調査を拡大するべきか否かは、既に得
られた調査結果を考慮しつつ決定する。すなわ
ち、関連性の高い分野を調査した結果、新規
性・進歩性を合理的に否定するのに十分な先行
技術文献が発見できなかった場合において、関
連性の低い分野の調査によって、新規性・進歩
性を否定し得る先行技術文献が発見される蓋
然性が高いときには、当該分野に調査を拡大す
る。
⑤調査結果については、随時に評価し、必要で
あれば、調査対象の見直しをする。特に、調査
を開始する時点において「特別な技術的特徴」
3. 調査手続
3.1 調査の範囲
(1)先行技術調査は、技術内容別に、体系的に
整理された文献を用いた調査を基本とする。
こうした文献の蓄積物は、韓国特許庁の検索シ
ステムデータベースに保管中である公報文献
をはじめとして、各国の公報資料を基礎とし、
定期刊行物等に掲載された論文や、その他各種
刊行物と図書、紙資料の他、マイクロフィッシ
ュ(microfiche)及び CD-ROM、DVD-ROM 等を含
む。
(2)先行技術調査は、審査の対象となる発明と
直接的に関連する分類の先行技術をすべて含
まなければならない。
また、先行技術調査を進める中で、審査官の判
断に従って類似分野の関連分類へと拡大して
いかなければならず、どの範囲まで先行技術調
査を行うべきかについては、審査官が技術分野
の特性等を勘案して合理的に決定する。
3.2 ・・・
3.3 調査の時間基準
(1)先行技術の調査は、原則として当該出願の
168
であると判断されたものが、先行技術調査の途
中で、先行技術に対する貢献を明示するもので
ないことが明らかになり、事後的に発明の単一
性を満たさなくなることがある。このような場
合においては、
「第Ⅰ部第 2 章 発明の単一性の
要件」の「3.1 審査対象の決定」に示したとこ
ろに照らして、審査対象とならない発明につい
ては、調査対象から除外する。
出願日以前の先行技術について行わなければ
ならない。
しかし、特別な場合には、出願の日以降の先行
技術についても先行技術調査を行わなければ
ならない。ここで特別な場合とは、特許法第
29 条第 3、4 項若しくは同法第 36 条と関連し
た文献の場合、又は条約優先権主張出願、国内
優先権主張出願において特許要件の判断の日
を遡及することができない出願等がある。
(2)出願の日以降に頒布された文献であって
も、出願発明の原理や理論が誤ったものである
ことが確認され、又は出願発明が未完成発明で
あることを立証する資料として用いることが
できる。
(3)条約による優先権主張又は国内優先権主張
出願の場合には、請求項に記載されたすべての
発明について、後の出願の日(又はわが国への
出願の日)を基準に先行技術の調査を実施した
後、先の出願の日と後の出願の日の間に先行技
術が発見された場合には、各請求項に記載され
た発明について各々の特許要件の判断の日を
決定して、調査された先行技術の適用可否を判
断する。
ただし、請求項ごとに特許要件の判断の日の決
定が容易な場合には、各請求項ごとにまず優先
日を決定した後、請求項に記載された発明ごと
に先行技術調査をすることができる。
解説;
日韓とも、外部調査機関(外国特許庁を含む)の調査結果を活用することができ、明
細書に記載の先行技術文献等を含めて、発明の技術分野を考慮して請求項にかかる発明
の新規性・進歩性等を否定し得る先行技術文献を調査対象とする点で、特段の差異は見
られない。
169
(4)調査の終了
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 2.2(3) 調査の終了
①請求項に係る発明及び発明の詳細な説明に
記載された当該発明の実施例について、単独で
新規性・進歩性を否定し得る文献を発見したと
きは、その請求項に関する限り、調査を終了す
ることができる。ただし、過度の負担なく他の
実施例についても調査を行うことができる場
合は、更に調査を続行することが望ましい。
②関連性の高い先行技術文献等が充分に得ら
れたとき、又は、調査範囲において、より有意
義な関連先行技術文献等を発見する可能性が
非常に小さくなったときは、調査を終了するこ
とができる。
韓審第 5 部第 2 章 3.4 調査の中断
(1)先行技術調査の途中で、当該請求項につい
て新規性や進歩性を十分に否定し得る先行技
術が発見された場合には、その時点でその請求
項に対する先行技術調査を中断することがで
きる。
(2)特定の出願の場合、完璧な先行技術調査の
ためには過度な時間と労力が所要され得るた
め、審査官は、用い得る時間と費用の限度内で
より完璧な先行技術調査を行うことができる
よう、最大限効率的な方法を講じた後、合理的
な判断により有効な先行技術が発見されなか
った場合でも調査を中断することができる。
解説;
日韓とも、請求項にかかる発明の新規性・進歩性等を否定し得る先行技術文献を発見
したとき、調査を終了することができるとされている。また、当該先行技術文献を発見
しない場合についても、表現上の差異はあるものの、調査の負担からして有効な先行技
術文献を発見する可能性が非常に低いときには、調査を終了することができるという点
で、特段の差異は認められない。
170
(5)先行技術文献等の検討
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 3. 先行技術文献等の検討
先行技術文献等の内容が、請求項に係る発明に
対し、新規性・進歩性等に関する拒絶理由を構
成するものであるか否かについて、以下の要領
で検討する。
(1)先行技術文献等の書誌的事項の確認
先行技術文献等の公知日は、拒絶理由を構成す
る上できわめて重要であるので、それぞれの先
行技術文献等について、出願日(又は優先日)
との関係を必ず確認する・・・。また、第 29
条の 2、第 39 条の適用を検討する場合には、
出願日、発明者及び出願人を確認する。
(2) 先行技術文献等の内容の理解
先行技術文献等を精読し、記載されている先行
技術を十分に理解する。その際、以下の点に留
意する。
①請求項に係る発明にとらわれて、請求項に係
る発明に近づけるよう無理な解釈をして先行
技術文献等の内容を理解してはならない。
②先行技術文献等の一部の記載から、その全体
を判断してはならない。また、合理的な根拠が
ないにもかかわらず、推定をして判断してはな
らない。
③先行技術文献等に記載されている発明の内
容は、その構成のみによって判断せず、解決す
べき課題、技術分野等の観点についても考慮す
る。
韓審第 5 部第 3 章 3. 先行技術文献の検討
検索された先行技術文献が新規性、進歩性、拡
大された先出願および先出願の拒絶理由の根
拠となるか否かについては、次のとおり検討す
る。
(1)先行技術文献が刊行された日付は、新規性、
進歩性などの拒絶理由を構成する上で重要で
あるため、先行技術文献の書誌事項を確認し、
出願日(優先権主張がある場合には、優先日)
より先であるか検討する。また、拡大された先
出願の場合には、当該特許出願又は実用新案登
録出願の出願人及び発明者も追加的に確認す
る。
・・・
(2)先行技術文献を精読し、当該文献において
記載している技術的事項を明確に理解する。こ
のとき、審査の対象となる出願から得た知識に
基づいて記載されていない事項を認定し易い
傾向があるため、注意しなければならない。ま
た、合理的な根拠なしに一部の記載から推定し
て拡大解釈しないよう注意を要する。
解説;
日韓とも、新規性、進歩性、先後願等の判断において、先行技術文献の出願日、優先
日、出願人、発明者等の情報を確認すること、及び先行技術文献の内容を十分に理解す
ることなどを記載している点で、特段の差異は見られない。また、韓国審査指針書では、
後知恵による先行技術文献の誤った認定についても明文で注意を促しているが、日本で
も当然後知恵による認定等は当然禁止されており、この点でも差異はない。
171
2.拒絶理由通知
(1)拒絶理由通知に関する条文
日本特許法
韓国特許法
日法第 49 条
審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該
当するときは、その特許出願について拒絶をす
べき旨の査定をしなければならない。
一 その特許出願の願書に添付した明細書、特
許請求の範囲又は図面についてした補正が第
十七条の二第三項又は 第四項 に規定する要件
を満たしていないとき。
二 その特許出願に係る発明が第二十五条、第
二十九条、第二十九条の二、第三十二条、第三
十八条又は第三十九条第一項から第四項まで
の規定により特許をすることができないもの
であるとき。
三 その特許出願に係る発明が条約の規定によ
り特許をすることができないものであるとき。
四 その特許出願が第三十六条第四項第一号若
しくは第六項又は第三十七条に規定する要件
を満たしていないとき。
韓法第 62 条
審査官は、特許出願が次の各号のいずれか一
(以下、「拒絶理由」という。)に該当するときは、
その特許出願について特許拒絶決定をしなけ
ればならない。
1.第 25 条、第 29 条、第 32 条、第 36 条第 1
項乃至第 3 項又は第 44 条の規定により特許を
することができないものである場合
2.第 33 条第 1 項本文の規定による特許を受け
る権利を有さず、又は同条同項但書の規定によ
り特許を受けることができない場合
3.条約の規定に違反した場合
4.第 42 条第 3 項、第 4 項、第 8 項又は第 45
条に規定する要件を満たしていない場合
5.第 47 条第 2 項に規定する要件を満たしてい
ない補正をした場合
五 前条の規定による通知をした場合であっ
て、その特許出願が明細書についての補正又は
意見書の提出によってもなお第三十六条第四
項第二号に規定する要件を満たすこととなら
ないとき。
六 その特許出願が外国語書面出願である場合
において、当該特許出願の願書に添付した明細
書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が
外国語書面に記載した事項の範囲内にないと
き。
七 その特許出願人がその発明について特許を
受ける権利を有していないとき。
日法第 50 条
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとす
るときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通
知し、相当の期間を指定して、意見書を提出す
る機会を与えなければならない。ただし、第十
七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場
合(同項第一号に掲げる場合にあっては、拒絶
の理由の通知と併せて次条の規定による通知
をした場合に限る。)において、第五十三条第
一項の規定による却下の決定をするときは、こ
の限りでない。
6.第 52 条第 1 項に規定する要件を満たしてい
ない分割出願である場合
7.第 53 条第 1 項に規定する要件を満たしてい
ない変更出願である場合
韓法第 63 条
①審査官は、前条の規定により特許拒絶決定を
しようとするときは、その特許出願人に拒絶理
由を通知し、期間を定めて意見書を提出するこ
とができる機会を与えなければならない。ただ
し、第 51 条第 1 項により却下の決定をしよう
とするときは、この限りでない。
②審査官は、特許請求の範囲に 2 以上の請求項
がある特許出願について前項本文の規定によ
り拒絶理由を通知するときは、その通知書に拒
絶された請求項を明示し、その請求項に関する
拒絶理由を具体的に記載しなければならない。
解説;
日韓とも、拒絶査定(決定)すべき理由を列記している点、拒絶査定(決定)をすると
172
きは、拒絶の理由を通知することとされている点において、差異はない。また、当該拒
絶査定(決定)すべき理由として挙げられている事項も、多くは日韓で共通している。
ただし、いくつかの差異がみられ、例えば、韓国では、分割出願及び変更出願が所定
の要件を満たしていない場合、それ自体が拒絶理由通知の対象となるが、日本では、拒
絶理由通知の対象ではなく、単に分割出願として遡及効を認めないとしている点で異な
る。また、制度上の違いとして、韓国では、日本のような、いわゆるシフト補正の禁止、
文献公知発明に係る情報の記載義務、外国語書面出願に関する規定が設けられていない
ため、これらが拒絶理由通知の対象ではない点で注意を要する。
さらに、韓国では、請求項ごとに拒絶理由を通知することが法定化されているが、日
本の場合は審査基準において請求項ごとに拒絶理由を通知することが求められており、
その位置づけが異なっている。
173
(2)拒絶理由通知の種類
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 4.1 拒絶理由通知の種類
拒絶理由通知は、手続上、二種類に分けられる。
一つは、出願人が最初に受ける拒絶理由通知
(以下「最初の拒絶理由通知」という。第 17 条
の 2 第 1 項第 1 号)であり、もう一つは、出願
人が拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通
知を受けた場合において最後に受けた拒絶理
由通知(以下「最後の拒絶理由通知」という。
第 17 条の 2 第 1 項第 3 号)である。
そして、
「最後の拒絶理由通知」を受けた後は、
特許請求の範囲について補正できる範囲は制
限を受けることとなる(第 17 条の 2 第 5 項、第
6 項)。なお、拒絶理由通知と併せて第 50 条の
韓審第 5 部第 3 章 5.3 拒絶理由通知の種類
審査官が出す拒絶理由通知は、2 種類に区分さ
れ、その種類によって出願人がすることができ
る明細書又は図面の補正範囲が異なって制限
される。
一つは、拒絶理由通知に対する補正により発生
した拒絶理由のみを通知する拒絶理由通知(以
下、
「最後拒絶理由通知」という)と、他の一つ
は、出願人が初めて受けるか最後拒絶理由通知
でない拒絶理由通知(以下、「最初拒絶理由通
知」という)をいう。
2 の通知が行われた場合にも、特許請求の範囲
について同様の補正の制限が課されることと
なる。
(1) 「最初の拒絶理由通知」
一回目の拒絶理由通知は「最初の拒絶理由通
知」である。また、二回目以降であっても、拒
絶理由通知に対する応答時の補正によって通
知することが必要となったものでない拒絶理
由を通知する場合は、「最初の拒絶理由通知」
とする。
(2) 「最後の拒絶理由通知」
「最後の拒絶理由通知」とは、原則として「最
初の拒絶理由通知」に対する応答時の補正によ
って通知することが必要になった拒絶理由の
みを通知するものをいう。
二回目以降の拒絶理由通知が「最後の拒絶理由
通知」となるかどうかは、形式的な通知の回数
によってではなく、実質的に判断する。
解説;
既に述べたとおり、日韓とも、拒絶理由通知は、最初の拒絶理由通知及び最後の拒絶
理由通知の二種類に分けられており、また、最後の拒絶理由通知とは、単に拒絶理由の
順番ではなく、最初の拒絶理由通知に対する補正により生じた拒絶理由のみを通知する
ものを指す点においても日韓同一である。
また、これもすでに述べたとおり、最後の拒絶理由通知に対しては補正が制限される
(ただし、詳細な補正制限内容には若干差がある。)などの点で同じであるが、韓国で
は、日法第 50 条の 2 のような規定がないため、分割出願についても原出願と同一の拒
絶理由が最初の拒絶理由通知として通知される点に注意を要する。
174
(3)拒絶理由通知の留意事項
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 4.2 拒絶理由通知を行う際
の留意事項
拒絶理由通知には、拒絶の理由を、出願人がそ
の趣旨を明確に理解できるように具体的に指
摘しなければならない。また、拒絶の理由とそ
れに対する出願人の応答は、特許庁における手
続においてのみならず、後に特許発明の技術的
範囲を確定する際にも重要な資料となるから、
拒絶の理由は、第三者からみても明確でなけれ
ばならない。
具体的には、以下の点に留意して拒絶理由を通
知する。
(1) 拒絶理由は、出願人が理解しやすいように
できるだけ簡潔かつ平明な文章で、要点をわか
りやすく記載する。
(2) 請求項ごとに判断できない拒絶理由(明細
書全体の記載不備、新規事項の追加等)を除き、
新規性・進歩性等の拒絶理由は請求項ごとに示
すこととし、拒絶理由を発見した請求項と拒絶
理由を発見しない請求項とが識別できるよう
にする。その際、拒絶理由における対比・判断
等の説明が共通する請求項については、まとめ
て記載することができる。
(3) ・・・発明の単一性の要件以外の要件につ
いての審査対象とならない発明(第 37 条違反)
や、
・・・第 17 条の 2 第 4 項以外の要件につい
ての審査対象とならない補正後の発明(第 17
条の 2 第 4 項違反)に関しては、第 37 条又は第
17 条の 2 第 4 項以外の要件についての審査を
していないことを明記した上で、それぞれの拒
絶理由のみを通知する。
(4) 以下の場合にも、新規性・進歩性等の特許
要件についての審査をしていないことを明記
して、それぞれの拒絶理由のみを通知すること
ができる。
①新規事項が追加されていることが明らかな
発明(第 17 条の 2 第 3 項違反)
②不特許事由があることが明らかな発明(第 32
条違反)
③第 2 条に規定する発明に該当しないことが
明らかなもの、産業上利用することができる発
明に該当しないことが明らかである発明(第 29
条第 1 項柱書違反)
④発明の詳細な説明及び図面を参酌しても発
明を把握することができない程度に請求項の
記載が明確でない発明(第 36 条第 6 項第 2 号違
反)
韓審第 5 部第 3 章 5.1
(1)審査官は、特別な場合を除いては、審査過
程において発見された全ての拒絶理由を一括
して通知しなければならない。また、出願人の
補正に関する手続的利益及び審査進行を促進
するため、互いに矛盾する拒絶理由も共に通知
する。
ただし、次の場合には、一括して通知しないこ
とができる。
①明細書の記載不備が著しく発明の内容を把
握することができない場合には、先行技術調査
及び特許要件に対する判断をせずに、特許法第
42 条第 3 項第 1 号又は第 4 項違反に対する拒
絶理由のみを通知する。
ただし、明細書の記載不備の程度が軽微であ
り、発明の内容を把握することができるときに
は、発明の内容把握が可能な範囲内において先
行技術調査および特許要件に対する判断をし
なければならならず、その結果発見された拒絶
理由及び特許法第 42 条第 3 項第 1 号又は第 4
項違反の拒絶理由を同時に通知する。
②請求項に新規事項が追加されていることが
明らかな場合、特許法第 32 条の不特許事由が
あることが明らかな場合、発明に該当しないこ
とが明らかな場合、若しくは産業上利用できな
い発明であることが明らかな場合には、その請
求項に対しては、新規性、進歩性などの特許要
件に対する審査をせずに前記拒絶理由のみを
通知することとする。
③特許法第 45 条の規定による一特許出願の範
囲を満たさない出願の場合、一特許出願の範囲
に属するある一群の発明については、すべての
特許要件に対する審査をし、その結果発見され
た拒絶理由及び特許法第 45 条違反の拒絶理由
を同時に通知する。
ただし、審査官が審査の効率的進行のために必
要であると認定する場合、特許要件の審査に先
立ち、特許法第 45 条違反の拒絶理由を優先し
て通知することができる。
(2)拒絶理由を通知するときは、拒絶の根拠と
なる法条文を明示しなければならない。また請
求項が二以上ある場合には、拒絶理由がある請
求項を明示し、当該請求項の具体的な拒絶理由
を記載する。詳しい記載方法は、「5.4 請求項
別審査方法」を参照する。
(3)拒絶理由は、出願人が理解し易いように明
確かつ簡潔に記載する。特に、次の事項に留意
175
⑤請求項に係る発明について、発明の詳細な説
明が当業者がその実施をすることができる程
度に明確かつ十分に記載されていない場合に
おいて、当業者がその実施をすることができる
程度に明確かつ十分に記載されていない部分
(第 36 条第 4 項第 1 号違反)
⑥請求項に係る発明が、発明の詳細な説明にお
いて発明の課題が解決できることを当業者が
認識できる程度に記載された範囲を超えてい
る場合において、その「記載された範囲を超え
ている」部分(第 36 条第 6 項第 1 号違反)
(5) 明細書、特許請求の範囲又は図面の記載
が、第 36 条第 4 項第 1 号又は第 6 項の規定に
違反する場合には、不備の箇所及びその理由を
具体的に示す。
(6) 先行技術文献等の引用に際しては、以下の
点に留意する。
①引用文献等を特定するとともに、請求項に係
る発明と対比・判断をするのに必要な引用箇所
がわかるようにする。
②引用文献等の記載から認定される技術的内
容を、明確に示す。
③拒絶理由の構成に必要かつ十分なもののみ
を引用し、不必要に多くの先行技術文献等を引
用すべきではない。
しなければならない。
①進歩性判断に関連した先行技術は、拒絶理由
の論理構成に必要な最少の引用文献のみを引
用し、引用文献中に拒絶の根拠となる部分を明
示する。
②発明が出願前に公知となるか、公然実施され
たという点を挙げ、新規性又は進歩性を否定し
ようとする場合には、公知又は公然実施された
事実を具体的に指摘する。
③発明の詳細な説明の記載が不備である旨を
理由に、拒絶理由を通知する場合には、その不
備の部分及びその具体的な理由を指摘する。
(4)進歩性がない旨の拒絶理由を通知するとき
には、請求項に記載された発明にもっとも近い
引用発明との相違点を明確に記載しなければ
ならない(第 3 部第 3 章 5.1 進歩性判断の手続
参照)。ただし、新規性がない旨の拒絶理由と
進歩性がない旨の拒絶理由と共に通知する場
合に限り、引用発明との差異を記載しないこと
ができる。このように二つの拒絶理由を共に通
知する場合、新規性がない理由を新規性の判断
方法(第 3 部第 2 章 4.新規性判断参照)に従っ
て説明し、進歩性がない理由については、第○
項発明は引用発明と同一であるため、当然、発
明が属する技術分野において通常の知識を有
する者が引用発明から容易に発明できる旨の
論理により拒絶理由を通知することができる。
(5)拒絶理由に対する出願人の対応の便宜を図
り、迅速かつ正確な審査に役立つと認定される
場合には、拒絶理由を通知するとき、補正又は
分割などに対する示唆をすることができる。
ただし、このような示唆が法律的な効果を発生
させるものではなく、補正又は分割如何は、出
願人の意思により決定されるという点を共に
記載する。
(6)すでに通知した意見提出通知書に誤記があ
る場合、次のような場合を除き、意見書提出の
有無に関係なく、再び正しい拒絶理由通知をし
なければならない。
①出願人がその誤記に対して誤記であること
を知り、正しく解釈して意見書を提出したもの
と認定される場合
②出願人からその誤記に対していかなる意見
提示もなく、その誤記が、審査官が意図した拒
絶理由にいかなる影響も与えない単純な誤字
脱字である場合
(7)明細書中の明白な誤記は、他の拒絶理由が
ある場合、「参考事項」として記載して共に通
知し、他の拒絶理由がない場合、電話等通信手
段を利用して自発補正を誘導するか、職権によ
176
る補正をすることができる。通信手段等を利用
して案内をした場合には、案内した事項を「審
査報告書」の「出願人/代理人面談」の項目に
記録する。
解説;
日韓とも、新規事項の追加が明らかな場合などを除き、審査時点において発見される
拒絶理由のすべてを通知することを原則とし、また、迅速かつ的確な審査のためには、
補正又は分割等を示唆することもできるなど、特段の差異は見られない。
ただし、韓国では、一つの請求項について、新規性及び進歩性の拒絶理由を同時に通
知する場合の扱いが明文化されている。
177
(4)最初の拒絶理由通知
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 4.3.1 一回目の拒絶理由通
知
(1) 一回目の拒絶理由通知は、「最初の拒絶理
由通知」となる。
(2) 一回目の拒絶理由通知においては、原則と
して、発見された拒絶理由のすべてを通知す
る。ただし、一方の拒絶理由が解消されれば、
他の拒絶理由も解消されることが明らかであ
る場合においては、必ずしも複数の拒絶理由を
重畳的に通知する必要はない。
(3) 一回目の拒絶理由通知の起案にあたって
は、些事にとらわれすぎることなく、出願人が
特許取得に向けた補正をするのに必要な拒絶
の理由を盛り込むことを心がける。
(4) その他、4.2 に示した事項に留意して拒絶
理由を通知する。
韓審第 5 部第 3 章 5.3.1 「最初拒絶理由通知」
としなければならない場合
(1)審査が着手された後、最初拒絶理由通知は、
自発補正があったか否かに関係なく最初拒絶
理由通知をする。
(2)補正されない補正識別項目(特許法施行規
則別紙第 9 号書式記載要領の識別項目であり、
識別番号などをいう。以下、同じ)に拒絶理由
がある場合には、最初拒絶理由通知をする。
解説;
最初の拒絶理由通知に発見された拒絶理由のすべてを通知することを原則としてい
る点で、特段の差異は見られない。また、韓国の場合、日本と同様、拒絶理由通知に特
許可能な請求項が示されるため、当該請求項に基づく減縮補正等を行って早期権利化を
図ることも可能である。
178
(5)最後の拒絶理由通知
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 4.3.3.1「最後の拒絶理由通
知」とすべき場合
(1)
補正によって通知することが必要になった拒
絶理由通知の類型
①明細書、特許請求の範囲又は図面について、
「最初の拒絶理由通知」に対する応答時に出願
人が補正をしたことによって通知することが
必要になった拒絶理由
②「最初の拒絶理由通知」に対する応答時の補
正により、新規性・進歩性等の特許要件につい
ての審査をすることが必要になった請求項に
対する拒絶理由
(2) 「最後の拒絶理由通知」とすべき特別の場
合
①新規性・進歩性等の特許要件を満たさない旨
の拒絶理由の他に、軽微な記載上の不備(第 17
条の 2 第 5 項第 3 号乃至第 4 号の
「誤記の訂正」
又は「明りょうでない記載の釈明」に相当する
と認められる程度のもの)が存在していたが、
新規性・進歩性等に関する拒絶理由のみを通知
し、記載要件に関する拒絶理由を通知しなかっ
た結果、依然として軽微な記載不備が残ってい
る場合、その記載不備について通知する拒絶理
由は、「最後の拒絶理由通知」とする。
②2.2(3)②(注)に従い調査を終了した請求項
について、補正により先の拒絶理由は解消した
が、新たな先行技術文献等に基づく拒絶理由を
発見した場合は、原則として「最後の拒絶理由
通知」とする。
韓審第 5 部第 3 章 5.3.2 「最後拒絶理由通知」
としなければならない場合
拒絶理由が拒絶理由通知に対する補正により
発生したものであるときには、最後拒絶理由通
知をする。すなわち、拒絶理由通知に対する補
正前は存在しなかったか、審査する必要がない
拒絶理由だったが補正によって新たに発生し
たか、審査する必要が生じた拒絶理由に対して
は、最後拒絶理由を通知する。
最後拒絶理由通知は、補正が前提とならなけれ
ばならないため、拒絶理由通知後に補正書が提
出され、補正識別項目に新たな拒絶理由が発生
した場合に限る。
最後拒絶理由通知をしなければならない具体
的な例は、次のとおりである。
(1)明細書又は図面を補正して新規事項が追加
された場合、記載不備が新しく発生した場合、
分割出願又は変更出願の範囲を逸脱するよう
になった場合
(2)審査が行われた請求項を補正して新たに新
規性、進歩性などに関する拒絶理由を通知する
ようになった場合。ただし、補正された請求項
の発明がその請求項以外の他の請求項に初め
から記載されていた発明であったにもかかわ
らず、当該拒絶理由を通知しなかった場合に
は、最初拒絶理由を通知する。
(3)新設されるか、実質的に新設に準ずる程度
に変わった請求項に新規性、進歩性などの拒絶
理由がある場合。ただし、当該請求項が拒絶理
由通知を受けない請求項の発明として補正さ
れた場合には、最初拒絶理由を通知する。
(4)請求項の記載の顕著な記載不備又は新規事
項の追加などにより、新規性又は進歩性などに
関連した審査が不可能であった請求項を補正
した後、再度審査した結果、新規性又は進歩性
に関する拒絶理由を発見した場合
解説;
日韓とも、最初の拒絶理由通知に対する補正により拒絶理由が発生した場合、最後の
拒絶理由通知が通知される点で、特段の差異は見られない。また、韓国でも、通常、最
後の拒絶理由通知である場合、拒絶理由通知書にその旨が示される。
179
(6)2 回目以降であっても最初の拒絶理由通知とすべき場合
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 4.3.3.2 二回目以降であっ
ても「最初の拒絶理由通知」とすべき場合
二回目以降の拒絶理由通知であっても、一回目
の拒絶理由通知の時点で審査官が指摘しなけ
ればならなかったものを通知する場合には、補
正によって審査をしなおす必要が生じたわけ
ではないから、
「最初の拒絶理由通知」とする。
したがって、以下の(1)又は(2)に該当する場合
は、
「最初の拒絶理由通知」とする。
(1) 一回目の拒絶理由通知をするときに審査
官が指摘しなければならないものであったが、
その時点では発見できなかった拒絶理由を通
知する場合
(2) 一回目の拒絶理由通知において示した拒
絶理由が適切でなかったために、再度、適切な
拒絶理由を通知しなおす場合
韓審第 5 部第 3 章 5.3.1 「最初拒絶理由通知」
としなければならない場合
(3)拒絶理由通知後に補正された詳細な説明又
は請求範囲に存在する拒絶理由であっても、そ
の拒絶理由が補正により発生したものではな
く、最初拒絶理由通知時にも詳細な説明又は請
求範囲に存在していた拒絶理由である場合、最
初拒絶理由として通知しなければならない。
(例 1)下記事例において、審査官が最初拒絶理
由を通知した後、軽微な記載不備(詳細な説明
等を参考にするとき、A'は A とならなければな
らないものと認定)を補正した請求項に対し
て、再度審査した結果、構成要素 A+C となった
装置に関する先行技術を発見して拒絶理由を
通知しようとする場合、これは補正前請求項に
記載された発明にも存在していた新規性又は
進歩性の拒絶理由であるため、最初拒絶理由を
通知しなければならない。
(補正前)
【請求項 1】
:構成要素 A‘又は B に C を付加し
た装置
(補正後)
【請求項 1】
:構成要素 A 又は B に C を付加し
た装置
(例 2)一つの請求項に記載された二以上の発明
中、一部に対してのみ拒絶理由を通知し、残り
の発明に対して拒絶理由を通知する場合、その
請求項が拒絶理由通知に従って補正されたと
しても最初拒絶理由を通知しなければならな
い。
(4)補正の外的要因により拒絶理由が発生した
場合には、最初拒絶理由通知としなければなら
ない。たとえば、審査に着手して最初拒絶理由
を通知するときには、外国人として権利能力に
関する瑕疵がなかったが、補正後、特許法第
25 条の規定により特許に関する権利を享有で
きなくなった場合、当該拒絶理由は、拒絶理由
通知に対する補正により発生した拒絶理由で
はないため、最初拒絶理由として通知しなけれ
ばならない。
解説;
日韓とも、二回目以降の拒絶理由通知であっても、一回目の拒絶理由通知の時点で既
に存在する拒絶理由(通知すべきであった拒絶理由)について通知する場合は、最初の
180
拒絶理由として通知するとしている点で、特段の差異は見られない。
181
(7)最後の拒絶理由通知における留意事項
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 4.3.3.3 「最後の拒絶理由
通知」における留意事項
(1) 拒絶理由通知に応答する補正によって通
知することが必要となった拒絶理由と、そうで
ない拒絶理由とを同時に通知する場合は、「最
初の拒絶理由通知」となる。
(2) 上記 4.3.3.1 から 4.3.3.2 の具体例に該当
せず、
「最初の拒絶理由通知」とすべきか、
「最
後の拒絶理由通知」とすべきか直ちに明らかで
ない場合は、出願人に対して、補正の機会を不
当に制限することのないよう、制度の趣旨に立
ちかえって判断する。
(3) 拒絶理由通知に、「最後の拒絶理由通知」
である旨とその理由を記載する。最後である旨
を記載しなかった場合には、たとえそれが最後
のものとすることができる場合であっても、
「最後の拒絶理由通知」として取り扱ってはな
らない。
韓審第 5 部第 3 章 5.3.3 拒絶理由通知の選択
方法
(1)再度審査した結果、発見された拒絶理由す
べてが最後拒絶理由通知の対象である場合に
のみ、最後拒絶理由通知とし、それ以外には最
初拒絶理由として通知する。
(2)拒絶理由通知の種類が不明確な場合には、
出願人の補正機会を保障するために、最初拒絶
理由として通知する。
解説;
最後の拒絶理由通知とすべき事項と、最初の拒絶理由通知とすべき事項とが混在する
場合等において、出願人に補正の機会を与えるために、最初の拒絶理由として通知する
点で、日韓で差異は認められない。
182
(8)請求項別の審査
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 4.2(2)
請求項ごとに判断できない拒絶理由(明細書全
体の記載不備、新規事項の追加等)を除き、新
規性・進歩性等の拒絶理由は請求項ごとに示す
こととし、拒絶理由を発見した請求項と拒絶理
由を発見しない請求項とが識別できるように
する。その際、拒絶理由における対比・判断等
の説明が共通する請求項については、まとめて
記載することができる。
韓審第 5 部第 3 章 5.4.1(後半のパラのみ)
、
5.4.2(1)~(4)(それぞれ最初の文のみ)
5.4.1 制度の趣旨
・・・請求項別審査制度とは、請求範囲に二以
上の請求項がある出願に対する拒絶理由を通
知するときに、拒絶される請求項を明示し、そ
の請求項に関する拒絶理由を具体的に記載す
るようにすることにより、出願人が、拒絶理由
がある請求項に対する削除又は補正などの対
応を容易にすることができるようにするため
に導入された制度である。
5.4.2 意見提出通知書の作成方法
(1)「審査対象請求項」の項目には、意見提出
通知書の作成時に、審査対象となる請求項番号
を記載する。
(2)「この出願の拒絶理由がある部分と関連法
条項」の項目には、拒絶理由がある請求項を明
示し、その拒絶理由の根拠となる関連法条項を
記載し、請求項に直接関連しない拒絶理由につ
いては、当 該拒絶理由がある部分を 記載す
る。
・・・
(3)「特許可能な請求項」の項目には、拒絶理
由の通知時に、拒絶理由がある部分として指摘
されない全請求項を記載する。
・・・
(4)「具体的な拒絶理由」の項目には、当該出
願に存在する拒絶理由が何であるかを容易に
知ることができるように、拒絶理由がある部分
に対して具体的な理由を記載する。
・・・
解説;
日韓とも、請求項ごとに具体的な拒絶理由が示されるが、韓国の場合、法定で請求項
ごとに拒絶理由を通知することが定められていることもあって、従属する請求項につい
ても拒絶理由の記載を省略せず、同じ内容を繰り返して記載するなど、拒絶理由にかか
る通知内容が比較的長い。また、韓国の意見提出通知書(拒絶理由通知書)には、必ず審
査対象請求項及び特許可能な請求項にかかる項目が設けられている。
183
3.最後の拒絶理由通知後の審査
(1)補正却下に関する条文
日本特許法
韓国特許法
日法第 53 条
1 第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲
げる場合(同項第一号に掲げる場合にあって
は、拒絶の理由の通知と併せて第五十条の二の
規定による通知をした場合に限る。
)において、
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図
面についてした補正が 第十七条の二第三項か
ら第六項までの規定 に違反しているものと特
許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認めら
れたときは、審査官は、決定をもってその補正
を却下しなければならない。
2 前項の規定による却下の決定は、文書をも
って行い、かつ、理由を付さなければならない。
3 第一項の規定による却下の決定に対して
は、不服を申し立てることができない。ただし、
拒絶査定不服審判を請求した場合における審
判においては、この限りでない。
韓法第 51 条
①審査官は、第 47 条第 1 項第 2 号及び第 3 号
の規定による補正が同条第 2 項及び第 3 項の規
定に違反し、又はその補正(同条第 3 項第 1 号
及び第 4 号の規定による補正のうち請求項を
削除する補正は除く)により新たな拒絶理由が
発生したものと認めるときは、決定をもってそ
の補正を却下しなければならない。ただし、第
67 条の 2 の規定による再審査の請求がある場
合、その請求前にした補正であるときは、この
限りでない。
②前項の規定による却下の決定は書面をもっ
てしなければならず、その理由を付さなければ
ならない。
③第 1 項の規定による却下決定に対しては不
服することができない。ただし、第 132 条の 3
の規定による特許拒絶決定に対する審判にお
いて、その却下の決定(第 67 条の 2 の規定によ
る再審査の請求がある場合、その請求前にした
却下の決定は除く)について不服を申し立てる
場合には、この限りでない。
解説;
既に述べたとおり、新規事項の追加及び特許請求の範囲に対する補正目的に反する補
正については、日韓とも補正却下の対象となるが、韓国の場合、いわゆるシフト補正に
関する規定がないため、当該シフト補正については、日本のみ補正却下となる。また、
韓国では、新規事項を削除して元に戻す補正については、補正目的の一つとして法定化
されており、補正却下とはされず認められる。
その他にも、韓国では、請求項に対する補正について独立特許要件が課せられておら
ず、代わりに、請求項の削除を除く減縮補正等により、新たな拒絶理由が生じたときに
は補正却下とされる。すなわち、韓国の場合、「新たな拒絶理由」が生じたときに補正
却下がなされることから、日本の「独立特許要件」の場合とは異なる結果になることが
ある(例えば、最後の拒絶理由通知について、補正によっても当該拒絶理由が解消され
ていない場合、日本では補正却下とした上で拒絶査定となるが、韓国では補正却下とせ
ずに当該補正を許可した上で拒絶決定となる。)ため、注意を要する。具体例について
は、後述の(6)にかかる解説を参照のこと。
184
(2)最後の拒絶理由通知に対して補正がされた時の審査
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 6 「最後の拒絶理由通知」
に対して補正がされたときの審査
「最後の拒絶理由通知」に対して補正がされた
ときは、「最後の拒絶理由通知」とすることが
適当であったことを確認した後、第 17 条の 2
第 3 項から第 6 項の規定に基づいて、補正が適
法になされているか否かを検討する。適法にな
されていない補正は却下の対象となる(第 53
条)。
・・・
韓審第 5 部第 3 章 11 最後拒絶理由通知に応
じた補正の取扱い
最初の拒絶理由通知とは異なり、最後の拒絶理
由通知後に、補正書が提出された場合は、特許
可否の決定に先立ち、補正却下の要否をまず判
断し、審査対象の明細書を確定しなければなら
ない。
出願人は、意見書を提出するとともに、審査官
が通知した最後の拒絶理由通知が最後の通知
として正当でない旨の主張をすることができ
る。審査官は、最後の拒絶理由通知とすること
が不適法である旨の主張があった場合、最終処
分に先立ち、最後の拒絶理由により通知するこ
とが適法であったか否かを、まず判断する。
解説;
日韓とも、最後の拒絶理由通知に対する補正について、まず「最後の拒絶理由通知」
としての適法性を判断した上で、補正却下の対象であるか否かを判断する点で、差異は
見られない。
185
(3)最後の拒絶理由通知の適法性の検討
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 6.1 「最後の拒絶理由通知」
とすることが適当であったかどうかの検討
まず、意見書等における出願人の主張も勘案し
て、「最後の拒絶理由通知」とすることが適当
であったかどうかを再検討する。
(1) 「最後の拒絶理由通知」とすることが適当
であった場合
「最後の拒絶理由通知」とすることが適当であ
った場合は、補正が適法になされているかどう
かを検討する。
(2) 「最後の拒絶理由通知」とすることが不適
当であった場合
「最後の拒絶理由通知」とすることが不適当で
あったときには、第 53 条を適用することがで
きない。したがって、補正却下の決定を行うこ
となく、補正を受け入れることとなる。そして、
補正後の出願に対し、先に通知した拒絶理由が
解消していない場合であっても、ただちに拒絶
査定をすることなく、再度「最初の拒絶理由通
知」を行う。また、補正によって通知すること
が必要となった拒絶理由のみを通知する場合
であっても、
「最後の拒絶理由通知」とせずに、
再度「最初の拒絶理由通知」とする。
(留意事項)
ただし、「最初の拒絶理由通知」とすべきであ
ったことを出願人が主張し、それを前提に補正
をしていると認められるものについては、当該
拒絶理由は「最初の拒絶理由通知」であったも
のとして取り扱う。すなわち、拒絶理由が解消
していない場合には、拒絶査定をし、補正によ
って通知することが必要となった拒絶理由の
みを通知する場合には、
「最後の拒絶理由通知」
とする。
韓審第 5 部第 3 章 11.1 最後の拒絶理由により
通知することが適法だったか否かの検討
(1)最後の拒絶理由通知の適法如何は、
「5.3 拒
絶理由通知の種類」を参照して判断する。最後
の拒絶理由通知とすることが適法だった場合
には、補正要件の充足如何を検討する。
(2)審査官は、最後の拒絶理由通知とすること
が不適法だった場合には、補正を却下してはな
らず、原則的に補正を承認しなければならな
い。最後の拒絶理由通知において指摘した拒絶
理由が解消されない場合には、補正形態によ
り、次のとおりする。
①補正をしないか、最後の拒絶理由通知に対応
した補正のみをした場合
審査官が最初の拒絶理由により通知しなけれ
ばならない拒絶理由を最後の拒絶理由により
通知したが、最後の拒絶理由に対応した補正書
(請求項を新設せずに減縮する補正のみをした
場合など)のみ提出するか、補正をしない場合
は、たとえ最後の拒絶理由通知において指摘し
た拒絶理由が解消されていなくとも、拒絶決定
をせずに再度拒絶理由を通知する。このときす
る拒絶理由通知の種類は「5.3 拒絶理由通知の
種類」を参照して決定する。
②出願人が最初の拒絶理由通知とみなして補
正した場合
審査官が通知した最後の拒絶理由通知が不当
であることを主張するとともに、最初の拒絶理
由通知とみて、最初の拒絶理由通知に対応した
補正と認定される範囲の補正書を提出した場
合は、拒絶決定する。
たとえば、最初拒絶理由により通知しなければ
ならなかった請求項の記載不備に関連する拒
絶理由を最後の拒絶理由により通知したが、最
初出願された請求項にもあった記載不備であ
る旨を主張するとともに、請求項を新設する補
正書(最初の拒絶理由に対応した補正であると
認定される補正)を提出した場合、その記載不
備が当該補正書を反映しても依然として解消
されないのであれば、補正を承認した後、拒絶
決定する。
解説;
日韓とも、最後の拒絶理由通知とすることが適当であった場合には、次に補正の適否
を判断するとともに、最後の拒絶理由通知とすること不適当であった場合には、原則、
これに対する補正を却下せず当該補正を受け入れるとともに、直ちに拒絶査定(決定)
186
をせず、再度拒絶理由を通知することとしており、これらの点で日韓で特段の差異は見
られない。
また、最後の拒絶理由通知とすることが不適当であった場合であっても、出願人がそ
れを主張し、最初の拒絶理由通知として対応し補正を行った場合、それによって拒絶理
由が解消していなければ、拒絶査定(決定)をすることとしており、この点でも日韓同様
である。
187
(4)補正却下の対象となる補正
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 6.2.1 却下の対象となる補
正
(1) 新規事項を追加する補正(第 17 条の 2 第 3
項違反)
韓審第 5 部第 3 章 11.2 補正要件の充足如何の
判断
(1)最後の拒絶理由通知に対応して意見書提出
期間に補正書が複数提出された場合には、補正
書が提出された逆の順により補正却下如何を
決定する。
(2)審査官は、最後の拒絶理由通知に対応した
補正が特許法第 47 条第 2 項及び第 3 項の補正
要件を満たすことができないか、 その補正(同
(2) 発明の特別な技術的特徴を変更する補正
(第 17 条の 2 第 4 項違反)
(3) 目的外の補正(第 17 条の 2 第 5 項違反)
(4) 独立特許要件を満たさない補正(第 17 条
の 2 第 6 項違反)
条第 3 項第 1 号及び第 4 号の規定による補正
中、請求項を削除する補正を除く)により新た
な拒絶理由が発生した場合には、当該補正を却
下しなければならない。
ここで「その補正により新たな拒絶理由が発生
した場合」とは、当該補正の提出により、以前
にはなかった拒絶理由が発生した場合(当該補
正により記載不備が新たに発生するか、新規性
又は進歩性に関連した拒絶理由が新たに発生
した場合など)を意味するものであり、当該補
正前に拒絶理由通知された拒絶理由であるこ
とはいうまでもなく、補正以前の明細書にあっ
たが通知されなかった拒絶理由は、新たな拒絶
理由ではない。
・・・
解説;
前述の(1)にかかる解説を参照のこと。
188
(5)補正の適否の検討手順
日本審査基準
日審第Ⅸ部第 2 節 6.2.2 補正の適否の検討手
順
(1) 「最後の拒絶理由通知」に対する補正によ
り、明細書、特許請求の範囲又は図面に新規事
項が追加されているかどうかを判断する。特許
請求の範囲については、請求項ごとに新規事項
の有無を判断する。この結果、新規事項が追加
された請求項については、第 17 条の 2 第 5 項
各号及び第 6 項に該当するかどうかの判断は
行わない。
(2) 新規事項が追加されていないその他の請
求項に係る発明について、続いて「特別な技術
的特徴が変更された発明」に該当するか否か
(第 17 条の 2 第 4 項)を判断する。この結果、
「特別な技術的特徴が変更された発明」につい
ては、第 17 条の 2 第 5 項各号及び第 6 項に該
当するかどうかの判断は行わない。
(3) 新規事項が追加されておらず、かつ、「発
明の特別な技術的特徴が変更された発明」に該
当しないその他の請求項について、更に、各請
求項の補正が、第 17 条の 2 第 5 項第 1 号から
第 4 号に規定する事項を目的とするものかど
うかを判断する。
(4) 上記(3)の第 17 条の 2 第 5 項第 1 号から第
4 号についての判断の結果、同条第 5 項第 2 号
(限定的減縮)に該当する補正がされた請求項
がある場合には、更に同条第 6 項の要件(独立
特許要件)を満たすものかどうかを判断する。
(5) 上記(1)から(4)に従って判断した結果、補
正の制限に違反していると判断された補正事
項があれば、そのすべてについて理由を示して
補正却下の決定をする。
韓国審査指針書
韓審第 5 部第 3 章 11.2 補正要件の充足如何の
判断
(3)審査官は、補正要件の充足如何に関して、
法条項の順序又は補正箇所の先後に関係なく
審査進行の便宜に従って判断することができ
る。補正の制限要件に違反するか否かに関して
詳しい事項は、第 4 部第 2 章を参照する。
(4)当該補正が請求項を削除する補正であり、
それにより新たな拒絶理由(請求項の削除によ
り、その削除された請求項のみを引用していた
請求項に記載不備が発生した場合等)が発生し
た場合、これを理由に補正却下してはならず、
他の補正却下事由がない限り、補正を認定した
後、最後の拒絶理由を通知しなければならない
ことに留意する。
ただし、当該補正が請求項を削除する補正であ
る場合に、その削除された項以外に他の削除さ
れない項も引用している請求項については、
削除された項の引用を除いて解釈し、請求項の
発明が明確に把握された場合、 これは第 42 条
第 4 項第 2 号の拒絶理由ではなく、明白な誤記
に過ぎないため、 補正却下の対象である新た
な拒絶理由でないことはいうまでもなく、補正
承認した後にも、最後拒絶理由通知対象ではな
く、職権補正等の対象となる。
解説;
最後の拒絶理由通知に対する補正の適否について、日本では、条文の順序に従って、
まず新規事項を追加する補正(第 17 条の 2 第 3 項違反)であるか否かを判断し、次に発
明の特別な技術的特徴を変更する補正(第 17 条の 2 第 4 項違反)であるか否かを判断す
ることとされており、さらにこれらに当たらない場合、目的外の補正(第 17 条の 2 第 5
項違反)、及び独立特許要件を満たさない補正(第 17 条の 2 第 6 項違反)であるか否かを
判断することとされており、要件ごとに順に判断することが規定されているが、韓国で
は、このような判断の順序は規定されておらず、補正要件の充足如何について、審査進
行の便宜に応じて判断することとされており、運用に差異が見られる。
189
(6)独立特許要件違反で補正却下する際の留意事項
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 6.2.3 独立特許要件違反で (該当なし)
補正を却下する際の留意事項
(1) 限定的減縮の補正がなされた請求項に係
る発明が、第 29 条、第 29 条の 2 又は第 39 条
の規定により特許を受けることができないと
き
①補正却下に際しては、
「最後の拒絶理由通知」
で引用した先行技術を引用することを原則と
する。ただし、補正により請求項が限定された
ために新たな先行技術を引用することは差し
支えない。
②「最後の拒絶理由通知」で引用しなかった先
行技術のみを引用して、特許を受けることがで
きない理由を示して補正を却下する場合には、
「最後の拒絶理由通知」で引用した先行技術が
適切でないこともあるので、再度、「最後の拒
絶理由通知」の内容が妥当であって維持できる
ものであるかどうかを検討する。
③補正却下の決定にあたっては、限定的減縮の
補正がなされ、かつ、独立特許要件を満たさな
いと判断された請求項のすべてについて、却下
すべき理由を示す。
(2) 限定的減縮の補正がなされた発明につい
て、第 36 条に規定する要件を満たしていない
とき
限定的減縮の補正がなされた発明に関し、明細
書、特許請求の範囲又は図面に依然として記載
不備がある場合、又は補正により新たな記載不
備が生じた場合は、第 36 条の規定の違反を理
由に、第 17 条の 2 第 6 項及び第 53 条を適用し、
補正を却下する(ただし、補正前から第 36 条違
反の拒絶理由が存在していたにもかかわらず、
それを通知していなかった場合は、第 36 条違
反を理由に補正を却下してはならない。)。
なお、その不備が軽微であって、簡単な補正で
記載不備を是正することにより、特許を受ける
ことができると認められるときには、補正を受
け入れた上で記載不備に関する拒絶理由を「最
後の拒絶理由通知」として通知し、出願人に対
して再補正の機会を認めることとする。
(3) 第 17 条の 2 第 6 項の適用について
第 17 条の 2 第 6 項は、第 126 条第 7 項(訂正後
における特許請求の範囲に記載された発明が、
特許出願の際、独立して特許を受けることがで
きるものでなければならないとの規定)を準用
190
する規定であり、第 17 条の 2 第 5 項第 2 号に
該当する補正(請求項の限定的減縮に相当する
補正)がされた場合にのみ適用される。
したがって、補正がされていない請求項に係る
発明、又は、誤記の訂正(第 3 号)もしくは明り
ょうでない記載の釈明(第 4 号)に相当する補
正のみがされた請求項に係る発明に対しては
第 17 条の 2 第 6 項は適用してはならない。
解説;
前述したとおり、韓国では、特許請求の範囲を減縮する補正について独立特許要件が
課せられていないものの、当該補正により新たな拒絶理由が生じた場合には、補正却下
となる。一方、当該補正により新たな拒絶理由が生じていなければ、たとえ通知されい
た最後の拒絶理由が解消されていないとしても、補正は認められる。
具体的には、以下の例(韓審第 5 部第 3 章 11.2(2)(例 1))において、韓国では、当
該補正について補正却下せずに補正が認められた上で拒絶決定となるが、日本では、独
立特許要件を満たしていないことから補正却下となった上で拒絶査定となる。
(例)
請求項 1:A+B からなる装置
[最後の拒絶理由通知]請求項 1 は引用発明 1 に基づいて進歩性なし
[最後の補正後の明細書]
請求項 1:A+b からなる装置
(引用発明 1 に基づいて依然として進歩性なし)
[補正認定]請求項 1 に対する補正により新たな拒絶理由が発生したものではないた
め、補正を許容
[拒絶決定]請求項 1(A+b)は、引用発明 1 に基づいて進歩性がないとして拒絶決定
191
(7)補正を却下する場合の出願の取扱い
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 6.3 補正を却下する場合の
出願の取扱い
補正を却下すると、出願は補正がされる前の状
態に戻るので、補正前の出願に対してなされた
「最後の拒絶理由通知」で指摘した拒絶理由が
適切なものであったか、再度検討する。
「最後の拒絶理由通知」で指摘した拒絶理由の
当否の再検討にあたっては、出願人が提出した
意見書の内容を考慮しなければならない。
韓審第 5 部第 3 章 11.4 補正を却下した後の審
査
(1)補正を却下した後には、そのまま補正前明
細書を審査対象として、審査を継続して進行す
る。
(2)最後の拒絶理由通知をした拒絶理由を再検
討しても、拒絶理由が解消されない場合には、
拒絶決定する。最後の拒絶理由を通知した拒絶
理由が不適切で他の拒絶理由を発見できない
場合には、特許決定する。
(3)最後の拒絶理由通知をした拒絶理由が不適
切であり、他の拒絶理由を発見した場合には、
拒絶理由を再度通知する。
・・・
(1)「最後の拒絶理由通知」で指摘した拒絶理
由が適切であって、当該拒絶理由が解消しない
と認められる場合は、補正却下の決定と同時に
拒絶査定をする。
(2)「最後の拒絶理由通知」で指摘した拒絶理
由が適切でなく、他に拒絶理由も発見されない
場合は、補正却下の決定と同時に、特許査定を
する。
(3)「最後の拒絶理由通知」で指摘した拒絶理
由が適切でなかったが、他に拒絶理由を発見し
た場合は、補正前の出願に対し、補正却下の決
定と同時に、改めて拒絶理由を通知する。
この場合、新たな拒絶理由が「最初の拒絶理由
通知」に対する補正によって通知することが必
要になったものかどうか等を含め、
・・・
「最後
の拒絶理由通知」とするか「最初の拒絶理由通
知」とするかを決定する。また、補正の却下の
決定とともに拒絶理由を通知することになる
ので、拒絶理由の起案にあたっては、補正前の
出願についての拒絶理由であることを明確に
しなければならない。
解説;
日韓とも、補正を却下する場合の出願の取扱いについて特段の差異は見られない。
192
(8)補正を受け入れた場合の出願の取扱い
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 6.4 補正を却下せず受け入れ
た場合の出願の取扱い
(1) 補正後の出願について、拒絶理由が解消さ
れていないときは、拒絶査定をする。
韓審第 5 部第 3 章 11.3 補正を承認した後の審
査
(1)補正が適法な場合には、その補正を認定し、
補正事項を反映して審査対象の明細書を確定
した後、拒絶理由の有無、それによる拒絶理由
(2) 補正後の出願について、拒絶理由が解消さ 通知の如何、特許決定又は拒絶決定如何を判断
れており、他に拒絶理由を発見しないときは、 する。
特許査定をする。
(2)補正によっても拒絶理由が解消されない場
合には、拒絶決定し、拒絶理由が全て解消され
(3) 補正により拒絶理由は解消されたが、他に た場合、特許決定する。
拒絶理由を発見したときは、改めて拒絶理由を (3)補正によって通知された拒絶理由は解消し
通知する。
たが、他の拒絶理由を発見した場合には、拒絶
①「最初の拒絶理由通知」とするか、「最後の 理由を再度通知する。拒絶理由の種類について
拒絶理由通知」とするかは、4.3.3 に示したと は「5.3 拒絶理由通知の種類」を参照する。
ころに従って判断する。
(注意)最後の拒絶理由通知以後、不適法な補正
②「最後の拒絶理由通知」に対する補正を一旦 があったが、これを見過ごして最初の拒絶理由
受け入れた上で新たな拒絶理由を通知した場 通知若しくは最後の拒絶理由通知をし又は特
合には、先の「最後の拒絶理由通知」に対する 許決定をした場合は、その後に、補正が不適法
補正が不適法なものであったことがその後に な事実を発見したとしても、戻って補正却下し
発見されたとしても、その補正を遡って却下す ない。
ることはしない
解説;
日韓とも、補正を受け入れた場合の出願の取扱いについて特段の差異は見られない。
193
4.査定
(1)査定に関する条文
日本特許法
韓国特許法
日法第 49 条
審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該
当するときは、その特許出願について拒絶をす
べき旨の査定をしなければならない。
一 その特許出願の願書に添付した明細書、特
許請求の範囲又は図面についてした補正が第
十七条の二第三項又は 第四項 に規定する要件
を満たしていないとき。
二 その特許出願に係る発明が第二十五条、第
二十九条、第二十九条の二、第三十二条、第三
十八条又は第三十九条第一項から第四項まで
の規定により特許をすることができないもの
であるとき。
三 その特許出願に係る発明が条約の規定によ
り特許をすることができないものであるとき。
四 その特許出願が第三十六条第四項第一号若
しくは第六項又は第三十七条に規定する要件
を満たしていないとき。
韓法第 62 条
審査官は、特許出願が次の各号のいずれか一
(以下、「拒絶理由」という)に該当するときは、
その特許出願について特許拒絶決定をしなけ
ればならない。
1.第 25 条、第 29 条、第 32 条、第 36 条第 1
項乃至第 3 項又は第 44 条の規定により特許を
することができないものである場合
2.第 33 条第 1 項本文の規定による特許を受け
る権利を有さず、又は同条同項但書の規定によ
り特許を受けることができない場合
3.条約の規定に違反した場合
4.第 42 条第 3 項、第 4 項、第 8 項又は第 45
条に規定する要件を満たしていない場合
5.第 47 条第 2 項に規定する要件を満たしてい
ない補正をした場合
五 前条の規定による通知をした場合であっ
て、その特許出願が明細書についての補正又は
意見書の提出によってもなお第三十六条第四
項第二号に規定する要件を満たすこととなら
ないとき。
六 その特許出願が外国語書面出願である場合
において、当該特許出願の願書に添付した明細
書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が
外国語書面に記載した事項の範囲内にないと
き。
6.第 52 条第 1 項に規定する要件を満たしてい
ない分割出願である場合
7.第 53 条第 1 項に規定する要件を満たしてい
ない変更出願である場合
韓法第 66 条
審査官は、特許出願について拒絶理由を発見す
ることができないときは、特許決定をしなけれ
ばならない。
七 その特許出願人がその発明について特許を
受ける権利を有していないとき
日法第 51 条
審査官は、特許出願について拒絶の理由を発見
しないときは、特許をすべき旨の査定をしなけ
ればならない。
解説;
【審査の進め方】2.
(1)拒絶理由通知に関する条文の解説を参照のこと。
194
(2)特許査定
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 7.1 特許査定
審査官は、特許出願について拒絶の理由を発見
しないとき、又は、拒絶理由通知に対する応答
により拒絶の理由が解消されたときは、すみや
かに特許査定をする(第 51 条)。
韓審第 5 部第 3 章 12 特許可否の決定
審査官は、出願に関する審査を完了した後に
は、迅速に特許可否を決定しなければならな
い。
出願手続(出願に伴う主張、申請手続などを含
む)に対する方式審査の結果、瑕疵がある場合、
その方式上、瑕疵が治癒した後に、特許可否の
決定をすることを原則とする。
12.1 特許決定
(1)審査官は、審査の結果、拒絶理由を発見で
きないときには、その理由を付して書面により
特許決定しなければならない。
特許決定書には、出願番号、発明の名称、出願
人の氏名及び住所、代理人の氏名及び住所、特
許可否決定の主文及びその理由、特許査定年月
日、職権補正事項などを記載して記名捺印す
る。
(2)特許決定があった場合、特許庁長官は、そ
の特許決定の謄本を出願人に送達しなければ
ならない。特許決定は、その決定謄本が送達さ
れたときに確定する。
解説;
日韓とも、拒絶理由を発見しないとき、又は、拒絶理由通知に対する応答により拒絶
理由が解消されたときには、特許査定(特許決定)をする点で、特段の差異はない。
195
(3)拒絶査定
日本審査基準
韓国審査指針書
日審第Ⅸ部第 2 節 7.2 拒絶査定
拒絶理由通知に対する応答によっても、通知し
た拒絶理由が解消されていないときは、拒絶理
由通知が「最初」のものであるか「最後」のも
のであるかにかかわらず、拒絶査定をする(第
49 条)。なお、補正が却下すべきものであると
きは、却下の決定とともに拒絶査定をする。
具体的には、以下の点に留意する。
(1) 解消されていないすべての拒絶理由を示
す。その際、拒絶理由がどの請求項に対して解
消されていないのかがわかるように、簡潔かつ
平明な文章で記載する。なお、対比・判断等の
説明が共通する請求項については、まとめて記
載することができる。
(2) 意見書において争点とされている事項に
ついては、それに対する審査官の判断を明確に
記載する。
(3) 通知した拒絶理由にとらわれて、新たな先
行技術文献を追加的に引用するなど、無理な拒
絶の査定をしてはならない。拒絶査定において
は、周知技術又は慣用技術を除き、新たな先行
技術文献を引用してはならない。
韓審第 5 部第 3 章 12.2 拒絶決定
(1)審査官は、拒絶理由が発見されて拒絶理由
通知を通じて意見書提出の機会を与えたが、そ
の拒絶理由が解消されない場合には、その特許
出願に対して、その理由を付して書面により拒
絶決定をしなければならない。
拒絶決定書には、出願番号、発明の名称、出願
人の氏名及び住所、代理人の氏名及び住所、拒
絶理由通知年月日、拒絶決定の主文及び理由
(請求項が二以上であったときには、当該請求
項及びその拒絶決定の理由)、拒絶決定年月日
などを記載して記名捺印する。
(2)拒絶決定があった場合、特許庁長官は、そ
の拒絶決定の謄本を出願人に送達しなければ
ならない。拒絶決定は、特許法において規定す
る不服申立ての方法により、これを取り消すこ
とができない状態となったときに確定する。た
とえば、法定期間内に拒絶決定不服審判が請求
されないか、審判請求があったとしても拒絶決
定を支持する旨の審決、審判請求を却下する旨
の審決又は審判請求書を却下する旨の決定が
確定したときには、拒絶決定が確定する。
(3)拒絶決定をするときには、解消されないす
べての拒絶理由に対して意見書において主張
した出願人の意見、補正内容に対する審査官の
判断および解消されないすべての拒絶理由を
明確に指摘する。
(4) 二以上の請求項がある特許出願において、
一つの項でも拒絶理由がある場合には、その特
許出願に対して拒絶決定をしなければならな
い。
(5)すでに通知した拒絶理由以外に、新たな先
行技術文献を追加するなど無理な理由により
拒絶決定をしてはならず、新たな先行技術を引
用しようとするときには、再度、拒絶理由通知
をしなければならない。
解説;
日韓とも、拒絶査定(拒絶決定)の取扱いについて特段の差異は見られない。
196
5.前置審査
(1)前置審査に関する条文
日本特許法
日法第 162 条
特許庁長官は、拒絶査定不服審判の請求があつ
た場合において、その請求と同時にその請求に
係る特許出願の願書に添付した明細書、特許請
求の範囲又は図面について補正があつたとき
は、審査官にその請求を審査させなければなら
ない。
韓国特許法
(該当なし)
解説;
韓国では、従前、日本と同様の前置審査制度を有していたが、2009 年 7 月 1 日施行
の法改正により廃止され、再審査制度が導入されている。改正後においては、拒絶決定
について補正と同時に再審査を請求した場合、原審審査官が補正後の明細書等に基づい
て再審査を行うこととなる。これにより、審判請求を行うことなく、原審審査官による
再度の審査を受けることが可能となっている。
また、再審査によっても拒絶理由が解消されないときには、再拒絶決定が通知される
こととなり、この場合については、拒絶決定不服審判のみ請求が可能である。
なお、本制度導入により、審判請求時の明細書等の補正は禁止されることとなった。
197
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