...

世界を変えるCSV戦略(12) CSV/シェアード・バリューの進化

by user

on
Category: Documents
5

views

Report

Comments

Transcript

世界を変えるCSV戦略(12) CSV/シェアード・バリューの進化
世界を変える CSV 戦略⑫
CSR 担当者と CSR 経営者のためのニュースレター
水上 武彦(株式会社クレアン)
CSV/ シェアード・バリューの進化
私も CSV(クリエーティング・シェアード・バリュー)
そして、2011 年の CSV 論文で、3 つのアプローチと事
について 5 年以上考えてきていますが、海外においても
例が紹介されています。ここで、「製品・サービスの CSV」
CSV は、10 年以上かけて進化しています。
が加わっています。
CSV と言えば、マイケル・ポーターとマーク・クラマー
実際に企業において CSV 活動を推進する上でも、
「クラ
のコンビが元祖ですが、2 人の共著による CSV 関連論文
スター / 競争基盤の CSV」→「バリューチェーンの CSV」
と し て は、2002 年 の「 競 争 優 位 の フ ィ ラ ン ソ ロ ピ ー」、
→「製品・サービスの CSV」の順番で検討するのが、取り
2006 年の「競争優位の CSR 戦略」
、2011 年の「共通価
組みやすいかも知れません。
値の戦略(CSV)
」がそれぞれハーバード・ビジネス・レビュー
誌に掲載されていて、CSV の 3 部作と言えます。
日本企業が持つ CSV のポテンシャル
タイトルも「フィランソロピー」→「CSR」→「CSV」
企業の現在の社会貢献活動は、戦略的に実施されていると
と変化しているのですが、内容も「①クラスター / 競争基盤
は言えません。大企業になると数億、数十億を社会貢献活動
の CSV」→「①+②バリューチェーンの CSV」→「①+②
に支出していますが、これをクラスター / 競争基盤強化のた
+製品・サービスの CSV」と進化しています。
めの活動に活用することは、かなりインパクトがあると思い
最初の「競争優位のフィランソロピー」では、企業の社会
ます。すぐにでも検討すべきものでしょう。
貢献活動は、もっと戦略的コンテクストを重視して実施する
バリューチェーンの CSV についても資源利用の効率化、
ことが可能であるとし、ポーターのダイヤモンド・モデルを
廃棄物の有効活用、従業員の生産性向上など、すぐに取り組
応用して、自社事業に価値を生み出す戦略的社会貢献活動の
めるものもありますので実施しやすいでしょう。製品・サー
考え方を提示しています。そして、シスコ・ネットワーキン
ビスの CSV は、新規事業創出と同様な取り組みが求められ
グアカデミーといった自社事業に必要な人材を育成する社会
ますが、一番成果を出すためのハードルが高いと思います。
貢献活動などを紹介しています。これは、CSV の 3 つのア
私のコンサルタントの仕事でも、社会貢献活動の見直し
プローチで言えば「クラスター / 競争基盤の CSV」に該当
についての依頼は増えています。CSV の取り組みとしては、
します。
ここが一番社内でも通りやすいのではないかと思います。
次の「競争優位の CSR 戦略」では、CSR の現状につい
なお、最近海外では、
「CSV」よりも「シェアード・バリュー」
ての課題を示した上で、
「内から外への影響」
、すなわち企業
という呼び方のほうが、一般的になってきていますが、こ
のバリューチェーン内の活動が社会に及ぼす影響と、「外か
れも一つの進化なのかも知れません。個人的には、CSV を
ら内への影響」
、すなわち外部の社会状況が企業に及ぼす影
CSR と対比させて説明するよりも、まったく別のものと説
響の視点から、戦略的に CSR を推進する考え方を示してい
明したほうが、理解しやすいのではないかと思っていますが、
ます。大まかに言って、
「内から外への影響」に戦略的に対
そのためには、「シェアード・バリュー」のほうが、CSR と
応するのが、
「バリューチェーンの CSV」であり、
「外から
は全く違う語感を持っているため、適当なのかも知れません。
内への影響」に戦略的に対応するのが「クラスター / 競争基
CSV/ シェアード・バリューは、今でも十分価値を創出す
盤の CSV」です。ここで、ネスレのサプライヤー育成の事
ることのできるフレームワークですが、今後、まだまだ進化
例などを紹介しながら、
「バリューチェーンの CSV」が加わっ
していくでしょう。日本企業は、その進化を先導して世界に
ています。
先んじるポテンシャルを十分持っていると思います。
【みずかみ・たけひこ】東京工業大学・大学院、ハーバード大学ケネディースクール卒業。旧運輸省航空局で、日米航空交渉、航空規制緩和などを担当した後、
アーサー・D・リトルを経てクレアンに参画。CSR/ サステナビリティのコンサルティングを主業務とする。
第 12 号 P.14
本ページの無断複製やデータ転送は社内外を問わず固くお断りいたします。
Fly UP