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指定管理者制度の導入による 公共スポーツ施設経営 The Management

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指定管理者制度の導入による 公共スポーツ施設経営 The Management
早稲田大学審査学位論文
博士(スポーツ科学)
指定管理者制度の導入による
公共スポーツ施設経営
The Management of Public Sport Facilities
introduced Compulsory Competitive Tendering
2010年7月
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科
間野 義之
MANO, Yoshiyuki
目 次
本論文の構成
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
第1章.序論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
第2章.問題の所在ならびに研究目的 ・・・・・・・・・・・・・・・
13
第3章.指定管理者制度による公費負担ならびに利用者数の変化 ・・・
15
第4章.指定管理者制度によるスポーツ実施者の満足度の変化 ・・・・
20
第5章.指定管理者制度によるスポーツ観戦者の満足度の変化 ・・・・
29
第6章.指定管理者制度による雇用者数の変化 ・・・・・・・・・・・
38
第7章.総合論議 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
44
第8章.まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
52
巻末註 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
補論1:スポーツ政策研究の潮流と課題 ・・・・・・・・・・・・・・
67
補論2:スポーツファシリティマネジャーの役割と育成 ・・・・・・・
75
補論3:指定管理者制度公募2巡目の現状 ・・・・・・・・・・・・・
90
調査票 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
96
1
本論文の構成
本論文は,各章を下表の論文・著書によって構成している.各章の記述にすいては,論文
全体の論旨と文脈を考慮し,必要に応じて加筆修正している.
章
第1章.序論
使用した論文・著書
間野義之(2007)公共スポーツ施設のマネジメント,
pp12-56.体育施設出版.
―
第2章.問題の所在と研究目的
間野義之,庄子博人,本目えみ(2010)公共スポーツ施
第3章.指定管理者制度による公費
設の指定管理者制度による公費負担ならびに利用者数の
負担ならびに利用者数の変化
変化, 日本体育・スポーツ経営学研究. (投稿済)
間野義之,庄子博人,本目えみ(2009)公共スポーツ施
第4章.指定管理者制度の導入によ 設の指定管理者制度導入前後の利用者満足度の変化―A
体育館を対象とした事例研究―,スポーツ産業学研究,
るスポーツ実施者の満足度の変化
Vol.19, pp223-229.
間野義之,庄子博人(2010)指定管理者制度導入による
第5章.指定管理者制度の導入によ スタジアムのサービス・クオリティの変化」―A スタジ
るスポーツ観戦者の満足度の変化
アムの観戦者を対象とした事例研究―,スポーツ産業学
研究, Vol.20, pp73-79.
間野義之,庄子博人,飯島沙織,本目えみ(2010)指定
第6章.指定管理者制度による雇用
管理者制度の導入が公共スポーツ施設の常勤雇用者数に
者数の変化
与える影響, スポーツ産業学研究.(印刷中)
―
第7章.総合論議
第8章.まとめ
間野義之(2007)公共スポーツ施設のマネジメント,
pp182-183.体育施設出版.
補論1
間野義之(2010)スポーツ政策研究の潮流と課題−指定
管理者制度の実証研究に向けて−,日本体育・スポーツ
政策研究,Vol.19, pp81-86.
補論2
間野義之(2008)スポーツファシリティマネジャーの役
割と育成,日本体育・スポーツ経営学研究,pp.25-33.
補論3
間野義之(2010)公共スポーツ施設における指定管理者
制度公募2巡目の現状, スポーツ科学研究.
2
第1章.序論
1.1 公共スポーツ施設の定義
わが国のスポーツ施設は,文部科学省(2006)の「社会教育調査」によって 50 の種別に分
類・定義されている.表1のとおり,陸上競技場や体育館から,ゴルフ場・ボウリング場の
ような民間事業者による設置割合が高い施設,キャンプ場・サイクリングコース・スカイス
ポーツ施設などの野外スポーツ施設まで幅広く定義されている.
この調査には,いわゆる公共施設である「社会体育施設調査」と民間施設である「民間体
育施設調査」との 2 つの調査が含まれるが,50 の施設種別は共通である.したがって,設置
主体に限らず,わが国のスポーツ施設を公式に定義しているといえる.
しかし,50 種別以外の「その他」と回答した施設数が,社会体育施設調査では 2,003 カ所,
民間体育施設調査では 1,104 カ所あった.「その他」の具体的な内容は公表されていないた
め不明であるが,分類・定義された 50 種別を超えるスポーツ施設が存在することになる.
SSF 笹川スポーツ財団(2006)では,スポーツをする人の立場から,「道路」「公園」「河
川敷」「自宅(庭・室内)」をスポーツ施設としてあげている.
また,都道府県の公共スポーツ施設管理団体などが会員である(財)日本体育施設協会
(2004)の名簿には,「人工敷芝アリーナ」「アスレチック場」などもあり,文部科学省の
定義にはあてはまらない施設もあることがわかる.
国民のスポーツ活動状況についての唯一の指定統計調査である「社会生活基本調査」(総
務省統計局,2002)では,スポーツ種目として「釣り」を含めていることから,「つり堀
り」などもスポーツ施設に含めることが可能となる.このようにスポーツ施設の定義は,
「スポーツ」の定義とも密接に関連するため,新たなスポーツ種別が加われば,施設の種別
が増えることが想定され,それらの施設が「その他」を構成しており,スポーツ施設の種別
はスポーツ種別の広がりとともに拡大していく.
上記のことを勘案し,本研究の対象とする公共スポーツ施設は,地方自治体が設置し管理
運営に責任を有する「社会体育施設」とした.
3
表 1.スポーツ施設の種別
調査の種類
社会教育調査
50
種別数
種別
(一部)
スポーツライフ・データ(2006)
22
日本体育施設協会名簿
−
陸上競技場
体育館
陸上競技場
多目的運動広場
陸上競技場
野球場
水泳プール(屋内・屋外)
プール(屋内・屋外)
運動広場
体育館
グラウンド
屋外プール
柔道場
武道場
バスケットボールコート
庭球場(屋内・屋外)
ダンススタジオ
人工敷芝グランド
すもう場
トレーニングルーム
サブグラウンド
卓球場
ゴルフ場(コース・練習場)
体育館
アイススケート場
ボウリング場
庭球場
山の家
スキー場
柔道場
ボウリング場
ゲートボール場
キャンプ場
漕艇場
道路
アステチック場
ヨット場
公園
会議室
オリエンテーリングコース
自宅
研修室
スカイスポーツ施設
海・海岸
和室
種別数に「その他」は含まず
出所)SSF(2006)
1.2 公共スポーツ施設数の推移
平成 17 年度(2005 年度)時点で,地方自治体が設置した社会体育施設数は 48,055 箇所で
あり,調査を開始した昭和 30(1955)年の 29.4 倍であった(表2).およそ 25 年前の昭和
56(1981)年と比べても 2.5 倍に増加している.
表2.公共スポーツ施設数と民間スポーツ施設数の推移
社会体育施設
年度
計
昭和30年度
35
38
43
46
53
56
59
62
平成 5
8
11
14
17
民間体育施設
計のうち種類別施設数
1,634
1,848
2,524
4,659
7,146
13,662
19,391
24,605
34,409
40,663
48,141
46,554
47,321
48,055
多目的
野球場
庭球場
運動広 体育館 ソフトボール (
球技場
屋外)
場
場
150
60
364
246
35
71
91
402
311
41
116
163
468
321
38
419
420
703
482
75
715
585
934
639
115
1,587 1,537 2,396 1,471
245
2,444 2,172 3,154 2,193
325
3,324 3,186 3,759 3,161
395
4,660 4,203 5,014 4,185
533
5,124 5,098 5,083 4,865
684
6,088 5,877 6,089 5,208
843
6,488 6,203 6,055 5,212
944
6,700 6,391 6,180 5,235 1,113
6,917 6,674 6,449 5,121 1,177
計
13,447
16,088
18,146
17,738
16,814
16,780
ゴルフ場
1,310
1,850
2,257
2,319
2,256
2,268
計のうち種類別施設数
水泳プー
庭球場 トレーニング
ゴルフ練
ル(屋
(屋外) 場
習場
内)
1,825
2,662
2,690
2,446
2,170
1,972
1,079
1,546
1,817
1,762
1,655
1,678
2,322
1,812
1,859
1,591
1,385
1,169
563
1,135
1,298
1,236
1,245
1,320
注:「計のうちの種類別施設数」は、平成17年度の施設数が社会体育施設については5,000箇所以上とし、民間体育施設数について
は1,000箇所以上を掲示した。
出所)各年社会教育調査報告書(文部科学省)をもとに作成
これら社会体育施設のうち,多目的運動広場,体育館,野球場・ソフトボール場,庭球場
4
(屋外)が半数以上を占める.
一方,民間体育施設数は 16,780 箇所であり,社会体育施設の 1/3 程度に過ぎない.このう
ち,ゴルフ場,ゴルフ練習場,水泳プール(屋内),庭球場(屋外),トレーニング場で半
数となる.
このように,わが国のスポーツ施設全体の 4 分の 3 を公共スポーツ施設が占めており,多
目的運動広場・体育館・野球場・ソフトボール場など,民間の営利事業に適さない施設種別
が多くを占めている.
1.3 公共スポーツ施設の利用状況
成人が1年間に公共スポーツ施設を利用したことがある割合は 38.1%(2004 年)であり,
民間スポーツ施設の利用率 29.3%よりも高い(表3).
表3.過去 1 年間のスポーツ施設利用率の公民比較(%)
年
n
公共スポーツ施設
民間スポーツ施設
1998
2,322
31.4
35.6
2000
2,232
24.5
32.3
2002
2,267
29.0
28.7
2004
2,288
38.1
29.3
出所)SSF笹川スポーツ財団
しかし,1998 年は民間スポーツ施設 35.5%に対して公共スポーツ施設 31.4%と低く,また
2000 年も民間 32.3%に対して公共 24.5%と低い.2002 年になり民間施設 28.7%に対して公
共施設 29.0%とほぼ同率となった.つまり,公共スポーツ施設数は民間スポーツ施設数の約
3倍にもかかわらず,これまで相対的に国民の利用率は低く,施設あたりの年間利用人数で
は民間施設が公共施設を上回っていた.
このことは,公共施設は民間施設との,施設種別の相違が影響していることは当然ながら,
公共施設の施設数が大きく上回るにもかかわらず利用者数に大きな相違がないことは,公共
施設の立地,利用条件,管理運営方法などに何か問題があることを示唆している.
1.4 公共スポーツ施設の指導系職員配置状況
公共スポーツ施設と民間スポーツ施設の1施設当たりの年間利用者数を比較すると,施設
数がほぼ等しい水泳プール(屋内)でみた場合,公共の 39.2 千人に対して民間は 68.7 千人
5
と多い(表4).施設数の差はあるが,陸上競技場,野球場・ソフトボール場,多目的運動
広場,水泳プール(屋外)のいずれも民間施設が多い.民間施設に比べて公共施設の利用者
が多い施設は,レジャープールと体育館のみであった.
また,公共施設では指導系職員の配置割合は低く,また1施設当たり公共施設の専属指導
系職員数は陸上競技場を除きすべての施設で民間より少ない.すなわち,公共施設では,ス
ポーツ指導者の配置率が低いため,スポーツ指導サービスは少なく,「場所貸し」を中心に
行われていることがわかる.
このことは,八代・柳沢(1991)が指摘するように,公共スポーツ施設は「安かろう,悪
かろう」「管理あって運営なし」であり,指導系職員配置の少なさを原因としたサービスク
オリティが低いことがうかがえる.
表4.指導系職員配置の公民比較
年間利用者数
(千人/施設)
施設数
施設種別
指導系職員配置施設
(%)
専属指導系職員数
(人/施設)
公共
953
民間
31
公共
30.5
民間
52.0
公共
9.4%
民間
53.8%
公共
0.6
民間
0.6
野球場・ソフトボール場
6,449
216
10.4
79.1
3.1%
2.8%
0.4
0.8
多目的運動広場
6,917
274
10.9
11.9
4.6%
22.6%
0.4
1.6
水泳プール(屋内)
1,533
1,678
39.2
68.7
32.5%
89.2%
2.8
3.7
水泳プール(屋外)
2,498
149
6.5
19.9
5.9%
32.2%
1.1
8.8
陸上競技場
レジャープール
375
160
42.2
40.2
―
―
体育館
庭球場(屋外)
6,674
451
30.4
24.3
14.0%
43.9%
5,121
1,169
―
―
6.9%
40.1%
0.3
3.9
庭球場(屋内)
145
296
―
―
11.7%
73.3%
1.5
5.9
1,616
1,320
―
―
28.7%
75.1%
2.0
4.6
トレーニングルーム
―
1.0
―
4.4
出所)文部科学省( 2006)より作成
1.5 公共スポーツ施設の管理運営方式
公共スポーツ施設の管理運営方式は地方自治法によって定められている.1947年に施行さ
れた地方自治法では,地方公共団体は住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供する
ための施設(公の施設)を設けるものとし,公(おおやけ)の施設の運営委託は,すべて自
治体直営に限ることとした.
しかし,1963年の同法改正により,公共スポーツ施設の管理運営は,自治体直営に加えて,
公共団体と公共的団体への委託を可能とする「管理委託制度」へと移行した.これにより,
6
それまでの自治体直営から自治体が設立した財団法人などへの委託が可能となった.
その後,1991年には「公の施設」の「管理受託者」の範囲に,自治体の出資法人も追加さ
れるとともに,管理受託者が利用者から使用料を直接に自身の収入にできる「利用料金制
度」の導入が認められ,全額を自治体が損出補填する必要がなくなった.これにより利用者
数の増加やコスト削減など管理受託者の経営努力を促進させる条件が整った.
さらに1997年には自治大臣指定法人を廃止し,「管理受託者」に主要な役職員派遣法人も
追加し,2002年には総務省「制度・政策改革ビジョン」において「管理受託者」に株式会社
が例示され,民間事業者の公共施設管理運営ビジネスについての規制が大きく緩和される道
筋がつけられた.
このような流れのなか,2003年9月に地方自治法244条が改正され,民間事業者を含めて受
託者を公募によって選定する「指定管理者制度」の導入が決定し,3年間の移行期間を踏ま
え,2006年9月の完全実施に至っている.
この2003年に地方自治法が改正される以前では,公共スポーツ施設の1.4%は都道府県が直
営し,70.1%は市区町村が直営であり,あわせて71.5%が直営施設であった(表5).
表5.公共スポーツ施設の管理運営者の割合
都道府県
市区町村
組合
民法第34条法人
その他の法人
計
677
33,159
269
9,915
3,301
47,321
施設数
割合
1.4
70.1
0.6
21.0
7.0
100.0
出所)文部科学省( 2003)より作成
管理委託制度を利用した割合は残りの28.5%であり,民法第34条法人(財団法人・社団法
人)が21.0%と多く,その他法人(自治体出資法人を含む)が7.0%,組合が0.6%であった.
つまり,約7割の公共スポーツ施設は自治体が直営し,残りの3割は自治体の外郭団体が管
理運営を行う状況にあり,管理運営の効率化に向けた競争原理や経営努力が働きにくい制度
下にあった.
1.6 指定管理者制度の導入に至った背景
上述のように公共スポーツ施設は,2003年以前は,直営または管理委託により,指導系職
7
員の配置が少ない状況で管理運営されてきた.それが一因となって施設あたりの利用者数も
少なく,民間施設に比べて,必ずしも経営効率が高いといえる状況にはなかった.
このような状況は,公共施設の費用対効果の面から行財政改革が進むなか,運営者である
自治体にとって大きな課題であった.すなわち,公共スポーツ施設も量から質への転換を余
儀なくされており,単なる場所貸しの「安かろう悪かろう」(八代・柳沢,1991)から「適切
な価格で魅力あるサービス」へとNPM(New Public Management)注1)の導入が求められて
いた.
イギリスをはじめとする諸外国では,公共スポーツ施設の経営改善に向けて,民間活力の
導入を含めたNPMが進められ,一定の成果をあげていた註2).
わが国でも,民間活力の導入を含めた公共スポーツ施設の管理運営の見直しの必要に迫ら
れており,自治体直営や管理委託方式以外の新しい方策が模索されていた註3).
1999年には,イギリスが1992年に採用したNPMの一手法であるPFI(Private Finance
Initiative)をわが国でも導入し,公共スポーツ施設の設計・建設・管理運営までを一貫し
て民間事業者に委ねることができるよう規制緩和が図られた註4).
しかし,PFIは施設建設・改修をともなう場合のみに適用されることからスポーツ施設
では20事例に過ぎず(間野,2007),48,055箇所ある公共スポーツ施設の0.1%にも満たない
状況にあった.
このため,大多数の既存の公共スポーツ施設の管理運営の改善には,別途,民間活力を導
入するための制度が必要とされていた註5).
1.7 指定管理者制度の導入
上記の経緯を経て,2003年9月の地方自治法第244条の改正により,「公(おおやけ)の施
設」の管理運営の規制が緩和され,民間事業者が「指定管理者」として公共スポーツ施設の
管理運営を行うことができることとなった(図1).
8
期間
改正前(∼2003年9月)
改正後(2003年9月∼)
制度
管理委託制度
指定管理者制度
概要
公の施設の管理は、地方公共団体の直営もし 従前のように直営または特定の法人等に限る
くは出資している法人で政令で定めるもの又は ことなく、株式会社等の民間事業者に委託する
公共団体もしくは公共的団体に委託することが ことができる。
できる。
自治体
自治体
出資している法人
(事業団・公社等)
出資している法人
(事業団・公社等)
使用権
施設の管理権限及び責任は地方公共団体
民間事業者
(株式会社・NPO等)
受託者が利用許可を行える
図1.管理委託制度と指定管理者制度
総務省は,都道府県知事に対して「地方自治法の一部を改正する法律の公布について」
(総行行第 87 号, 2003 年)を通知し,そのなかで,指定管理者制度の目的を,「多様化する
住民ニーズにより効果的・効率的に対応するため,公の施設の管理に民間の能力を活用しつ
つ,住民サービスの向上を図るとともに,経費の節減等を図ること」とした.
一方,地方自治体側も,指定管理者制度の導入に際して,90%の自治体は財政支出削減を,
80%はサービス水準の向上を期待していた(三菱総合研究所,2006).
この指定管理者制度は,地方自治体が所有する公共スポーツ施設について,フィットネス
クラブをはじめとする,スポーツ施設メンテナンス会社,ビルメンテナンス会社などにも管
理運営を開放する仕組みであり,多くの民間事業者が新たなパブリック・ビジネスについて
強い関心を示した.これは,公共スポーツ施設の管理運営を外部事業者に委託するのであり,
自治体が行うべき業務を代行する側面があるため,基本的には自治体が委託費を支払うこと
になる.したがって,自治体によっては管理運営に必要となる経費全額を支払う場合もあれ
ば,必要経費の一部のみを支払い,残りについては「利用料金制度」として,指定管理者み
ずからが経営努力により,施設使用料収入で賄う場合もある.利用料金制度の場合は,必要
経費を超えた分については指定管理者の収入となるため,それがインセンティブとなる.こ
のように,民間事業者のノウハウを,公共スポーツ施設の管理運営に導入し,利用者数の増
大,利用者満足度の向上さらには自治体経費の削減を目指したのが「指定管理者制度」であ
9
った.つまり,公共スポーツ施設の民営化政策とも捉えることができる.
指定管理者制度を所掌する総務省の調査によると,同制度を完全施行した2006年9月2日現
在で,全国で61,565の「公の施設」が指定管理者制度を導入した.全国の指定管理者制度の
導入率は59.2%であり,最高は愛知県(97.1%),最低は新潟県(14.0%)であった.
公共スポーツ施設である「レクリエーション・スポーツ施設(以下,レク・スポーツ施
設)」の導入率は全国で86.9%であり,「公の施設」のなかでは最も高く,導入率が最も低
い文化施設(41.2%)の2倍以上であった.その理由として,公共スポーツ施設には水泳プー
ル(屋内)やトレーニングルームなど民間との同種の施設があり,事業者にとって参入が容
易であったということが推察される.
その結果,指定管理者制度を導入した,全国のレク・スポーツ施設数は11,260であり,市
区町村では10,135施設で全体の90.0%を占めていた(表6).
表6.指定管理者制度の導入当初の現状
導入施設数
(%)
都道府県
政令指定都市
市町村
計
516
609
10,135
11,260
4.6
5.4
90.0
100.0
出所)総務省( 2007)
レク・スポーツ施設の指定管理者は,財団法人・社団法人が45.1%と多く,株式会社・有
限会社が25.3%が続いている.福祉施設や社会教育施設などを含めた全施設では,財団法
人・社団法人は36.2%で,株式会社・有限会社は11.0%に過ぎない.NPO法人については,
レク・スポーツ施設は3.2%に対して全施設では1.7%であった.全施設では公共的団体が
45.0%と半数近くをしめていた.このことから,レク・スポーツ施設の指定管理者には,公
の施設全体と比べて,株式会社・有限会社の割合が高いのが特徴であり,また,財団法人・
社団法人あるいはNPO法人も全体的に多いことが特徴といえる..
10
表7.レクリエーション・スポーツ施設の指定管理者制度導入施設の法人・団体の種別割合
都道府県
(全施設)
指定都市
(全施設)
市区町村
(全施設)
全体
(全施設)
株式会社・ 財団法人・
その他の団
公共団体 公共的団体 NPO法人
有限会社
社団法人
体
15.3
43.2
21.1
6.8
1.6
12.0
合計
100
4.5
78.0
3.7
6.7
0.9
6.3
100
18.1
59.6
0.0
7.2
2.4
12.7
100
7.7
53.2
0.0
33.0
1.2
4.8
100
26.3
44.3
0.1
20.0
3.3
5.9
100
12.3
28.2
0.1
51.9
1.9
5.6
100
25.3
45.1
1.1
18.7
3.2
6.6
100
11.0
36.2
0.5
45.0
1.7
5.6
100
出所)総務省(2007)より作成
このように,公共スポーツ施設は,他の公の施設に比べて,営利・非営利を問わず管理運
営を担える事業者が多いのが特徴であり,競争が激しいともいえる.このため,一般的な公
の施設に比べて,公募ならびに民営化がいち早く進んでいる.
1.8 公共スポーツ施設における指定管理者制度の課題
前述のような背景のもと,全国でも公共スポーツ施設の指定管理者制度は,他の施設に比
べて早期に導入が進められているものの,すでにいくつかの問題点が生じている.
例えば,自治体および指定管理者がコスト削減を相互に進めるために,設備の修理が遅れた
ため,死亡事故が発生した.2009年4月に静岡県立草薙体育館にて,移動式バスケットボール
ゴールを折りたたむ際にゴールに挟まれ1名が死亡した.ゴールの不具合がメーカーから指摘
されていたにもかかわらず,経費削減のため修理を先送りしたことにより事故がおきた.
また,指定管理者が取り消され,住民に対するサービス水準が低下した例もある(表8).
上越市では,キャンプ場を含む観光総合施設の指定管理者に民間事業者を指定したが,本業
のスキー場が倒産したことにより,わずか3か月間で指定管理者業務を継続できなくなった.
あるいは,山梨市では家族連れで遊べる公園の指定管理者であったNPO法人が,当初の
売り上げ見込みが達成できずに,理事長が個人的に損失補填をしていたが,理事長の体調不
良により損失補填が不可能となり指定管理業務を市に返還した例もある.
11
表8.指定管理者の指定取り消しの事例
自治体名
上越市
(新潟県)
山梨市
(山梨県)
野迫村
(奈良県)
蒲郡市
(愛知県)
群馬県
港区
(東京都)
対象施設
指定管理者
取り消しの背景
・指定後3ヵ月後に指定管理者の会社が解散。
新井リゾートマネジメント ・選定委員会では同社の財務体質を不安視する声もあった。
観光総合施設
(株)
(資本金3億円の3倍の借入れがあった)
・応募者が他になく、実績から選定。
NPO法人牧丘芸術の丘 ・指定後2年(残り1年)で理事長の体調不良と赤字などを理由に撤退。
保養施設
・集客が厳しく、年間1,500∼1,800万円の赤字。
・指定後10ヶ月(3年間の指定期間)で撤退。
宿泊施設
大新東(株)
・撤退後、村の観光開発公社が指定。
・指定後7ヶ月で辞退し、取り消し。当面は直営。
・同施設の舞台装置の管理業者なので選定された。
市民会館
(有)イマジン
・業者への支払いと公共料金の未納。破産手続き中。
・指定後7ヶ月で辞退し、取り消し。現在は直営。
ヘリポート
上毛航空(株)
・天候不順で業績が悪く、事業縮小を理由に基本協定解除の申し入れ。
・エレベータの事故により住民が死亡。
・事故責任が問われている。
区立住宅
港区住宅供給公社
・指定取り消しの結論はまだ出ていない。
出所)三菱総合研究所(2007)より作成
上記以外にも,北九州市では,球場・弓道場・体育館の指定管理者が従前の半分以下の
で受託したが,経費の見積もりが甘すぎ,毎年1割の赤字となり,期間を1年残して指定管
理者を返上した例もある.この事例では,従業員の大半がパートタイマーで,1年更新の
使い捨てとなり,雇用問題にも発展した.
これらに共通した点は,事業収支計画が甘く楽観的であった点があげられる.また,公共
性に対する認識が不十分であったことも想定される.指定管理者業務は,公の施設の管理運
営代行の側面を有するため,不採算であるからといって簡単に撤退してしまうのでは,利用
者である地域住民が損害を被ることになり,結果としてサービス水準の低下を招くことにな
った.
指定管理者の指定取り消しのように,サービス低下や雇用喪失などが顕在化した例以外
にも,指定管理者が継続している場合でも,潜在化した問題も数多くあることが推察され
る.
すなわち,指定管理者制度には,財政支出の削減とサービス水準の向上を期待し,民間
事業者に管理運営を委ねているが,すべてが首尾よく行われているわけでなく,多くの問
題が内在している可能性がある.
12
第 2 章.研究上の問題の所在と研究目的
2.1 研究上の問題の所在
「第 1 章.緒言」では,わが国の公共スポーツ施設の指定管理者制度の経緯と現状につい
て記述し,また制度に関連した財政支出・サービス水準低下・雇用喪失などの諸問題を明示
した.
すでに 11,000 箇所を超える公共スポーツ施設が指定管理者制度を導入しているが,導入目
的である,財政支出は縮減しつつ,サービスの質を向上させ,かつ雇用が維持されているの
かについては,まだ明らかにされていない.
これまでのスポーツ政策研究では,理論研究が中心であり,実証的な研究は少ない.とり
わけ,スポーツ政策の定量的な評価は十分に行われていない(補論1を参照).指定管理者
制度に焦点をあてた,公共スポーツ施設経営の定量評価に関する研究は,制度自体が新しい
こともあり,現時点ではまだみられない.
このため,本論文では公共スポーツ施設政策,特に指定管理者制度の導入効果に関する研
究上の問題として以下を設定した.
1)指定管理者制度の導入により,従前の管理委託制度または直営に比べて,自治体から
の支出額は削減されたのか,あるいは同等または増加したのか.また,仮に自治体から
の支出額が削減されたとして,それは指定管理者がコスト削減を急激に進めたことによ
って,結果として地域住民の利用を阻害していないか.具体的には,利用者数の減少と
引き換えに,自治体の財政支出削減が行われていないか.
2)指定管理者はコスト削減を重視するあまり,開館時間の縮小やプログラム数の削減,
指導者や受付などの人員を減らし,サービス水準を低下させることが考えられる.それ
によりスポーツ実施者の満足度は低下していないか.
3)観戦スポーツ施設の場合,観戦者は試合内容に満足度を求め,施設サービスには関心
が低いことが考えられる.そうだとすると,指定管理者であってもスポーツ観戦者の施
設利用の満足度は変化しないのではないか.つまり,観戦スポーツ施設については,指
13
定管理者制度の導入効果はコスト削減のみであって,サービス水準の向上には寄与しな
いのではないか.
4)指定管理者制度では,管理運営者は自治体からの受託費の削減とサービス水準の向上
を同時にもたらさなければならない.一般的には自治体からの委託費が削減されたなら
ば,管理運営者は人件費削減のため常勤雇用者数を削減するのではないか.つまり,指
定管理者制度の導入によって常勤雇用が縮減するのではないか.
2.2 研究目的
前述の研究上の問題の所在を踏まえ,公共スポーツ施設への指定管理者制度の導入効果に
ついて検討することを本論文の研究目的とした.
14
第 3 章.指定管理者制度による公費負担ならびに利用者数の変化
3.1 研究目的
2006 年より民間企業やNPO法人などが管理運営可能な「指定管理者制度」(以下,指定
管理と略す)が完全施行された.1947 年に施行された地方自治法では,公(おおやけ)の施
設の管理運営は地方自治体による「直営」しか認められていなかった.その後,1963 年の同
法改正により公共団体による管理運営を認めた「管理委託制度」(以下,管理委託と略す)
が導入され,1991 年には管理委託が地方自治体の出資法人にも拡大された.このような経緯
のもと,指定管理の導入は,自治体の財政支出の削減とサービスの質の向上を目指したもの
である(三菱総合研究所,2006).
サービスの質の向上については,体育館,屋内プール・スタジオ・ジムの複合施設におい
て,指定管理の導入により延利用者数が増加し,また総合的な利用者満足度の向上がもたら
されたとの報告がある(間野ら,2009).また,J リーグで使用しているスタジアムでも,指
定管理によって,観戦者に対するサービス・クオリティが上昇との報告がある(間野・庄子,
2010).
一方,指定管理の導入による財政支出の縮減効果については,「大阪府立臨海スポーツセ
ンター」の事例報告では,指定管理の導入により大阪府の財政負担が年間 1 億 2100 万円ほど
削減され,新設の「浜北温水プール」では,指定管理により自治体が想定した当初の管理コ
ストを年間 1089 万円ほど下回ったとの個別の報告はある(上山ら,2008).
しかし,指定管理の導入により,利用者数がどのように変化し,財政支出がどれだけ削減
されたかについて,ひとつの自治体単位でまとまった結果は報告されていない.
このため,本研究では,特定の自治体の下で,複数の施設において指定管理の導入が公共ス
ポーツ施設の公費負担に与えた影響を明らかにすることを目的とする.
3.2 対象施設の概要
本研究ではA市スポーツセンター16 施設を対象とした.その理由は,公共スポーツ施設の
管理運営に対する財政支出は,当該自治体の管理運営方針や施設種別によって異なることか
15
ら,同一自治体内での施設種別が同じで,開館時間や利用料金が同一である A 市のスポーツ
センターであれば,その影響を最小限にできると考えたからである.
表9のとおり,A市スポーツセンターは 16 施設すべてが同種の施設構成であり,体育室
(球技ほか),研修室(ダンス,ヨガなど),トレーニング室を備えている.施設全体の延
床面積は平均 3,856 ㎡で,築年数は平均 21.8 年である.
原則として休館日は,毎週第 4 月曜日(祝日の場合は翌日)と年末年始 12 月 28 日∼1 月 4
日 であり, 開館時間は 9:00∼21:00 である.個人利用は,当日受付とし,体育室の団体申
し込みは,原則として「A市市民利用施設予約システム」に登録して行う.利用条件はA市
在住・在勤・在学の者である.利用料金は,体育室の団体利用は,時間帯ごとに 1,000∼
5,000 円で,個人利用の場合は子供 30∼100 円,大人 120∼300 円である.
これら 16 箇所のスポーツセンターの管理運営は,2005 年度までA市が設立した財団法人
(以下,B財団)が行っていた.A市は 2005 年 9 月に 16 箇所のスポーツセンターの指定管
理者を公募し,複数の応募者のなかから,15 箇所のスポーツセンターについてはB財団を,
残りの 1 箇所のスポーツセンターについては民間企業C社を指定管理者として選定した.協
定期間は 2006 年 4 月から 2011 年 3 月末までの 5 年間であった.
表9.A市スポーツセンターの施設概要(2010 年 3 月末時点)
施設
Aスポーツセンター
Bスポーツセンター
Cスポーツセンター
Dスポーツセンター
Eスポーツセンター
Fスポーツセンター
Gスポーツセンター
Hスポーツセンター
Iスポーツセンター
Jスポーツセンター
Kスポーツセンター
Lスポーツセンター
Mスポーツセンター
Nスポーツセンター
Oスポーツセンター
Pスポーツセンター
築年数(年) 延床面積(㎡)
21
3,579
16
4,795
18
3,440
17
3,949
30
3,646
21
5,990
27
3,567
23
3,510
25
3,559
25
3,628
24
3,500
15
3,709
26
3,975
19
3,600
18
3,754
23
3,498
21.8
3,856
平均
30
5,990
最大
15
3,440
最小
第一体育室 第二体育室 第三体育室 研修室 トレーニング室
1,058
553
225
93
210
1,069
534
206
111
151
1,094
539
115
82
200
1,087
547
324
73
186
1,039
585
269
83
54
1,305
507
207
372
1,121
540
225
68
189
1,068
549
193
74
227
1,080
550
239
69
160
1,080
535
211
74
173
1,080
540
237
78
170
1,106
536
230
101
155
1,080
476
190
69
252
1,072
549
82
315
1,060
527
250
84
170
1,113
561
245
73
179
1,094.5
539.3
224.4
80.9
197.7
1,305
585
324
111
372
1,039
476
115
68
54
16
3.3 研究方法
研究方法は,A市 16 箇所のスポーツセンターの管理運営に対する財政支出額,延利用者数,
事業収入,事業支出を調べ,指定管理者制度の導入前後の変化を分析した.データは各施設
の指定管理者が保有しているものを,A市スポーツ課を通じて入手した.未公表である指定
管理者以前のデータ(2005 年度)と常勤雇用者数については,A市スポーツ課の担当者にイ
ンタビュー調査を行ない,各種資料をもとに得た.
財政支出は,指定管理者制度導入の前年である 2005 年度はA市から当該施設への「管理委
託料」とし,導入後の 2006 年度から 2009 年度はA市から当該施設への「指定管理料」とし
た.延利用者数は,個人利用者数と利用団体の利用者人数の合計とし,各スポーツセンター
が集計した値を用いた.
データの分析は,最初に財政支出額(管理委託料と指定管理料)と延利用者数について,
各年度の平均値を求め,時系列の変化について,分散分析を用い,その後年度間の比較検定
を行うために多重比較を行った. 統計ソフトは,IBM SPSS Statistics 18 を使用した.
3.4 結果
3.4.1 財政支出の変化
財政支出の経年変化は,分散分析の結果,F=32.103,p<.001 となり,年度間で有意な変化
があった(図2).2005 年度のA市によるスポーツセンターの管理運営に対する財政支出
(管理委託料)は,1施設あたり平均 56,063 千円であった.多重比較により,その後の年度
での有意差を検定したところ,翌年 2006 年度の財政支出(指定管理料)は 44,987 千円へと
指定管理導入後に有意に減少した(p<.001).2007 年度は 2006 年度に対して有意に減少しな
かったが,2008 年度は 41,644 千円と前年度より有意に減少し(p<.01),さらに 2009 年度は
40,811 千円と前年度に比べて有意に減少した(p<.05).これら 16 施設に対する 4 年間の財
政支出は総額で 242,489 千円が削減されたことがわかった.
17
(人・年)
300,000
56,036
(千円・年)
256,579*** 260,521
276,043
277,859
250,000
60,000
50,000
44,987***
200,000
43,649
41,644**
40,000
40,881*
190,715
150,000
30,000
延利用者数
財政支出
100,000
20,000
対前年度との比較
50,000
10,000
0
*** p<.001
** p<.01
0
2005
2006
2007
2008
2009
図2.財政支出と延利用者数の指定管理者制度導入前後の変化(n=16)
3.4.2 延利用者数の変化
延利用者数の経年変化は,分散分析の結果,F=6.426,p<.05 となり,年度間で有意な変化
があった.2005 年度のA市スポーツセンターの延利用者数は,1施設あたり平均 190,715 人
であったが,指定管理導入後の 2006 年度は 256,579 人へと,多重比較の結果,有意に増加し
た(p<.001).しかし,2007 年度(60,521 人),2008 年度(276,043 人),2009 年度
(277,859 人)は,それぞれ前年度に対して延利用者数は有意に増加していなかった.ただし,
2009 年度の延利用者数は,2005 年度,2006 年度,2007 年度それぞれに対しては 5%水準で有
意に多く,指定管理者導入後も延利用者数が増加していることがわかった.2009 年度の延利
用者数を指定管理者導入前の 2005 年度と比較すると,1施設あたり 87,144 人が増加し,16
施設では 139 万人ほど多かった.
3.5 考察
指定管理の導入により,16 箇所のスポーツセンターに対する A 市の財政支出が有意に削減
されたことがわかった.このことから,上山ら(2008)が個別の施設事例で報告していた財
政支出の削減効果が,自治体全体としてもあることを明らかとなった.指定管理料は協定締
18
結当初に事業者が提案した金額となるが,協定には年度毎に見直すことが規定されているこ
とから,前年度の利用料収入が多く剰余金が生じた場合には,その金額をもとに,翌年の指
定管理料をさらに縮減することができる.本調査結果で示したように,2008 年度は 2007 年度
より,2009 年度は 2008 年度よりさらに指定管理料が削減されていた.これは,2009 年度の
延利用者数が導入当初よりも有意に増加したことが影響していると考えられる.
延利用者数は,指定管理者導入後に有意に増加した.間野ら(2009)は施設単体の延利用
者数の増加を報告したが,本調査結果により指定管理導入により自治体全体としても延利用
者数が増加したことが明らかとなった.一方,導入直後は増加したものの,二年目以降は必
ずしも有意に増加していなかった.これは,指定管理直後はサービス水準の向上により利用
者数が増加するが,それにより混雑状況が発生し,一時的に利用者満足度が低下することと
も関連があろう(間野ら,2009).しかし,その後は混雑状況にも慣れることで,徐々に利
用者数が増え,四年目には導入当初よりも延利用者数が有意に増加したと考えられる.
3.6 まとめ
A市の 16 箇所のスポーツセンターへの指定管理の導入により,A市からの財政支出が有意
に削減された.また,延利用者数は指定管理導入後に有意に増加した.これは延利用者数の
増加が管理運営者の事業収入を増加させ剰余金が生じたことが指定管理料の削減につながっ
たことが考えられるが,今後はこの機序を明らかにすることが課題といえる.
19
第4章.指定管理者制度によるスポーツ実施者の満足度の変化
4.1 はじめに
1989 年に法制化されたイギリスの強制競争入札(Compulsory Competitive Tendering,以
下 CCT)は,財政支出の縮減とサービス向上を目的とし,公共スポーツ政策の民営化を推進し
た.Nichols(1996)は,CCT 導入当初は,入札により財政支出の縮減効果はみられるが,施
設管理運営の計画が不十分であり,サービス低下が発生していることを指摘した.また,
Coalter(1995)は,CCT 導入により利用者層が偏り,多様な人々が施設を利用する機会の喪
失を示唆した.このように CCT の導入当初は財政支出の削減のみが達成され,利用者満足度
の低下が指摘された.このため,1997 年以降は入札金額だけでなくサービス水準も含めて管
理運営者を選定する Best Value 制度が導入された.さらに,1999 年にスポーツ・イング
ランドは,公共スポーツ施設の経営評価システムである National Benchmarking
Services (以下,NBS)を導入し,公共スポーツ施設の一層の経営改善を促している.
以後このNBSによって,同種・同規模の公共スポーツ施設の利用者満足度と事業収支など
の相対評価がなされている.
わが国でも,財政支出の縮減と利用者サービスの向上を目的に,2003 年 9 月に地方自治法
が改正された.同法改正により 2006 年 9 月までに地方自治体が設置したすべての公共スポー
ツ施設について,民間企業を含む管理運営者の公募・選定が指定管理者制度(以下,「指定
管理」)として義務付けられた.三菱総合研究所(2006)は,「指定管理」の導入によって
85%の地方自治体は公共施設への財政支出の削減を期待し,80%の地方自治体はサービス水
準の向上を期待していると報告した.
しかし,わが国では「指定管理」導入直後の公共スポーツ施設の経営状況の改善は,必ず
しも十分に検証されていない.間野(2007)は「指定管理」のフェーズを「胎動期」「過渡
期」「安定期」「再生期」の4つと想定し,「指定管理」導入直後の「過渡期」には,一時
的に利用者満足度が低下し,自治体と指定管理者の間に利用者満足度をめぐる混乱が生じる
と予想した.ただし,それはあくまでも指定管理者の完全施行を控えた段階での予想であり,
20
検証された言説ではない.
このため,本研究では,「指定管理」の導入前後における利用者満足度の変化を調査し,
導入直後に利用者満足度が一時的に低下することの検証を目的とした.
4.2 対象施設の概要
本研究の対象施設であるD体育館は,観客席付きアリーナ,屋内水泳プール(以下プー
ル),ジム,スタジオ,会議室等を備えた総合体育館であり,公共交通機関や道路アクセス
など利便性の良い都市部に立地している.1990 年に竣工し,設置者である地方自治体は,同
自治体が設立した財団法人(以下,E財団)に管理運営を委託した.
同自治体は 2005 年 9 月に指定管理者を公募し,複数の応募者から,E財団と民間企業 2 社
(F社,G社)とによるコンソーシアムを指定管理者として選定した.協定期間は 2006 年 4
月から 2011 年 3 月末までの 5 年間とした.
コンソーシアムの代表団体はB財団であり,B財団は施設全体を統括するとともに,観客
席付きアリーナや会議室などの管理運営を担当している.プール・スタジオ・ジムはF社が
管理運営を担当し,G社は施設全体の設備の保守点検管理を行っている.このうち本研究で
はF社が管理運営しているプール・スタジオ・ジムを対象とした.
4.3 研究方法
本研究では以下の2つの調査を実施した.第一はD体育館の「指定管理」導入前後の管理
運営に詳しいE財団の管理職へのインタビュー調査であり,「指定管理」導入前後のD体育
館の管理運営の実態を調べた.第二はD体育館のプール・スタジオ・ジムの利用者を対象と
した質問紙調査であり,利用者満足度の変化を検証した.
4.3.1 施設関係者へのインタビュー調査
4.3.1.1 調査期間
「指定管理」導入後の 2006 年度,2007 年度のD体育館の管理運営の実態についてインタビ
ュー調査を実施した.2006 年度の実態については 2007 年 6 月に,2007 年度については 2008
年 5 月に実施した.また,必要に応じて電話での確認を行った.
4.3.1.2 調査対象
21
B 財団の管理運営担当の管理職を対象とした.E財団はコンソーシアムの代表であり,D体
育館全体の管理運営についての責任を有する.また,プール・スタジオ・ジムの管理運営を
直接担当するF社の管理職についても補完的にインタビューを実施した.
4.3.1.3 調査項目
プール・スタジオ・ジムの施設設備,料金,スタッフ,プログラムなどの変更点ならびに
利用者数について聞き取りを行った.
4.3.1.4 分析方法
構造的インタビュー法によって前記の項目について聞き取り,その内容を調査者が項目別
に整理した.
4.3.2 施設利用者へのアンケート調査
4.3.2.1 調査期間
D体育館の「指定管理」導入が始まる 2006 年 4 月の直前となる同年 2 月に最初の調査を実
施した.「指定管理」導入後は,2007 年 2 月,2008 年 2 月に調査した.調査日は平日 1 日と
週末 1 日の計 2 日間とし,各年月の水曜日と土曜日とした.
4.3.2.2 調査対象者
調査対象者は,プール・スタジオ・ジムのいずれかを利用した中学生以上を無作為に抽出
した.その結果,2006 年は 377 名,2007 年は 587 名,2008 年は 457 名から有効回答を得るこ
とができ,有効回収率は 2006 年 45.9%,2007 年 35.4%,そして 2008 年は 25.4%であった.
4.3.2.3 配布・回収方法
調査票の配布・回収はプール・スタジオ・ジムの利用者が必ず通る出口付近で実施した.
調査員がまず調査対象者に調査概要の説明を行い,同意を得られた場合に調査票を配布した.
調査対象者が記入したのち,調査員がその場で回収した.
4.3.2.4 調査項目
調査項目はNBSで使用している調査項目をもとに,日本の実情に合わせて削除・修正し
た(表 10).NBSでは利用者満足度の調査項目として全 20 項目を用いているが,このうち
3 項目を削除し,2 項目を追加した.利用者満足度は,NBSにもとづき「総合満足度」1 項
22
目,2 項目,「施設の使いやすさ」3 項目,「施設の質」10 項目,「清潔さ」3 項目,「スタ
ッフの対応」,2 項目,「料金の適切さ」1 項目に類型化した.加えて「総合満足度」を別項
目として調査した.
「総合満足度」については7段階のリッカート尺度を,その他の項目については 5 段階の
リッカート尺度を用いた.
表 10.調査項目一覧
NBSでの調査項目の分類
本調査で使用した項目
Overall Satisfaction
総合満足度
Accessibility
開館日・休館日の設定の適切さ
利用手続きの簡単さ
開館時間の適切さ
Quality of facility
プール内の快適さ(混雑していないか)
トレーニングルームの快適さ(混雑していないか)
トレーニングルームの器具の質
プールの水質
運動のための用具・器具の数
駐車場スペース
ロッカーの数
売店コーナーの品揃え
自動販売機の品揃え
Cleanliness
運動のためのスペースの清潔さ
更衣室の清潔さ
入口ホールの清潔さ
Staff
受付スタッフの応対の適切さ
受付スタッフの接客態度
Value for money
料金に見合ったサービス内容である
総合満足度:7段階尺度、その他の項目: 5段階尺度
4.3.2.5 分析方法
3 年間のデータの比較分析には,まず一元配置分散分析を行い,その後,多重比較
(multiple comparison)を用いた.本調査の有効回収数は調査年により異なるため,複数ある
多重比較の検定方法のうち最小有意差法を用いた.統計パッケージは SPSS Ver.16 を使用し
た.
4.4 結果
4.4.1 インタビュー調査結果
23
4.4.1.1 「指定管理」導入直後(2006 年度)
施設設備については,2006 年 4 月に,スタジオ・ジムならびに受付の配置を変更し,同時
にリフォームを行った.リフォーム内容はスタジオの面積を拡充するとともに,ジムのマシ
ンを全面的に入れ替え,数・種類ともに充実させた.また更衣室はロッカーの数を増やした.
プールは 8 コース中2コースの水深を浅くし水中ウォーキングができるようにし,25mプー
ルではアクア・プログラム数を増大させた.売店は廃止し,代わりに自動販売機の台数を増
やした.
利用料金は,都度利用の金額自体は変更しなかったが,プール利用は 600 円/日を,600 円
/2 時間に変更した.また導入前は都度利用のみだったが,7800 円/月でプール・スタジオ・
ジムの使える「月額固定券」制度を導入した.
営業日数は,休業日を削減し開館日数を増加させた.平日の閉館時刻を 21:00 から 23:00
まで延長することで開業時間を延ばした.
受付スタッフは C 社が配置しており,導入前とは全面的にスタッフが入れ替わった.
4.4.1.2 「指定管理」導入 2 年目(2007 年度)
前年と比べて大きな変更はない.受付スタッフ,清掃回数・清掃担当事業者,プールの利
用形態(ウォーキングコース,水泳プログラムなど),料金体系・料金設定,営業日数,開
館時間,ロッカー数,駐車場,売店コーナー,自動販売機については 2006 年度と同じであっ
た.ただし,トレーニングマシンについては,人気のあるマシン(例:乗馬マシン)を追加
した.
4.4.1.3 利用者数
2005 年度の総利用者数は 382,815 人で,うちプール利用者が 264,413 人,スタジオ・ジム
の利用者は 118,402 人であった(表 11).「指定管理」導入初年度である 2006 年度の総利用
者数は 505,460 人で,前年度から 232,220 人増加した.2006 年度の利用者の内訳は,都度利
用ではプールが 273,240 人,スタジオ・ジムは 131,151 人,「月額固定券」利用者は
101,069 人であった.2007 年度の総利用者数は 516,214 人であり,前年度から 10,754 人が増
加した.2007 年度の利用者の内訳は,都度利用者ではプールが 278,781 人,スタジオ・ジム
24
は 160,628 人,「月額固定券」76,805 人であった.「月額固定券」による利用者数の減少は,
トレーニングルーム利用者が費用対効果を考慮した結果,都度利用を選択する割合が増えた
ことによると考えられる.
表 11.利用者数の変化
プール
利用者数
2005年度 264,413
2006年度 273,240
2007年度 278,781
トレーニングルーム
公開日数 利用者数
339
118,402
339
131,151
337
160,628
月額固定券
公開日数 利用者数
346
310
101,069
342
76,805
計
382,815
505,460
516,214
4.4.2 利用者満足度調査結果
4.4.2.1 回答者の属性
回答者の属性は表 12 のとおりである.回答者の年齢・性別・職業・収入は,調査年による
有意差はなかった.
表 12.回答者の属性
性別
年代
職業
年収
(万円)
男性
女性
-29
30-39
40-49
50-59
60販売・サービス・保安の仕事
事務的な仕事
管理的な仕事
専門的・技術的な仕事
自営業
学生・生徒
主婦・主夫
その他
<300
300≦ <500
500≦ <700
700≦ <1000
1000≦
2006
n=377
80.6
19.4
26.0
36.3
20.2
13.3
4.2
13.9
21.3
14.1
20.5
5.9
11.5
6.7
6.1
25.5
26.3
19.3
15.6
13.3
4.4.2.2 利用者満足度の変化
25
2007
n=587
75.0
25.0
27.1
36.5
22.3
9.4
4.8
10.4
26.2
12.3
21.1
8.2
8.7
6.3
6.7
23.2
28.4
21.2
16.0
11.3
2008
n=457
77.2
22.8
26.0
36.5
21.2
10.3
5.9
9.2
27.4
13.8
19.0
9.6
9.6
4.4
7.0
24.1
27.1
22.0
15.8
11.0
χ2
4.21
n.s.
5.27
n.s.
16.88
n.s.
2.63
n.s.
一元配置分散分析の結果,「総合満足度」「利用手続きの簡単さ」「開館時間の適切さ」
「プール内の快適さ(混雑していないか)」「トレーニングルームの快適さ(混雑していな
いか)」「駐車場スペース」「更衣室の清潔さ」「入口ホールの清潔さ」「料金に見合った
サービス内容である」の 9 項目で有意差が見られた(表 13).
さらに多重比較の結果,利用者満足度が「指定管理」導入後(2007 年,2008 年)に有意に
上昇した項目は,「利用手続きの簡便さ」「開館時間の適切さ」「駐車場スペース」「更衣
室の清潔さ」「入口ホールの清潔さ」「料金に見合ったサービス」の6項目であり,反対に
「総合満足度」「プール内の快適さ」「トレーニングルームの快適さ」の 3 項目は有意に低
下した.なお,「総合満足度」は,その後,2008 年には前年に比べて有意に上昇した.
表 13.利用者満足度の変化
2006
平均値
2007
2008
分散分析
多重比較
注
総合満足度
アクセス
5.31
5.13
5.30
F=3.329*
2006 >2007 ,2007 <2008
D
開館日・休館日の設定の適切さ
4.17
4.01
3.84
4.15
4.27
4.35
4.26
4.38
4.31
n.s
F=16.853***
F=32.769***
2006 <2007 , 2006 <2008
B
B
3.46
3.13
3.67
3.93
3.55
3.05
3.79
3.17
3.41
3.19
2.83
3.55
3.75
3.53
3.18
3.80
3.25
3.40
3.29
3.02
3.62
3.84
3.64
3.25
3.78
3.22
3.44
F=4.374*
F=4.279*
n.s
n.s
n.s
F=5.148**
n.s
n.s
n.s
3.95
3.79
3.96
3.88
4.08
4.31
3.96
4.17
4.35
n.s.
F=15.685***
F=26.425***
4.13
4.15
4.10
4.19
4.18
4.19
n.s.
n.s.
3.56
3.92
4.11
F=27.621***
利用手続きの簡単さ
開館時間の適切さ
2006 <2007 , 2006 <2008
施設の質
プール内の快適さ(混雑していないか)
トレーニングルームの快適さ(混雑していないか)
トレーニングルームの器具の質
プールの水質
運動のための用具・器具の数
駐車場スペース
ロッカーの数
売店コーナーの品揃え
自動販売機の品揃え
2006 >2007
C
C
2006 <2007 , 2006 <2008
B
2006 <2007 ,2006 <2008
2006 <2007 ,2006 <2008
B
B
2006 <2007 <2008
A
2006 >2007
清潔さ
運動のためのスペースの清潔さ
更衣室の清潔さ
入口ホールの清潔さ
スタッ フ
受付スタッフの応対の適切さ
受付スタッフの接客態度
バリュ ー ・ フォ ー ・ マネー
料金に見合ったサービス内容である
*<0.05;**<0.01;***<0.001
総合満足度:7段階尺度、その他の項目: 5段階尺度
注:経年変化のパターン
4.4.2.3 満足度の変化のパターン
表 13 のとおり,満足度の変化には4つのパターンがみられた.2006 年<2007 年<2008 年
と 2 年間連続で有意に満足度が上昇している場合をパターンαとした.2006 年<2007 年かつ
26
2006 年<2008 年であり,2007 年と 2008 年では満足度に有意差はない場合をパターンβとし
た.2006 年>2007 年であり「指定管理」導入後に満足度が有意に低下したが,2007 年と
2008 年では有意差がない場合をパターンγとした.2006 年>2007 年であったが,2007 年<
2008 年となり,指定管理直後に満足度が低下するが,その後上昇した場合をパターンδとし
た.
これらのパターンに該当する項目は次のとおりであった.パターンαとして連続して満足
度が向上したのは,「料金に見合ったサービス」の1項目のみであった.パターンβは「利
用手続きの簡単さ」「開館時間の適切さ」「更衣室の清潔さ」「入口ホールの清潔さ」「駐
車スペースの質」の 5 項目であった.これらの項目はいずれも「指定管理」導入により,満
足度が有意に上昇しているが,その翌年には変化がなかった
一方,「指定管理」導入後に満足度が下回ったパターンγは「プール内の快適さ(混雑し
ていないか)」「トレーニングルームの快適さ(混雑していないか)」の2項目であった.
同様に「指定管理」導入後に満足度が低下したが,その翌年には満足度が有意に上昇した,
パターンδは,「総合満足度」のみ1項目であった.
4.5 考察
すでに記したとおり,D体育館のプール・スタジオ・ジムでは,「指定管理」の導入によ
り,E財団から,コンソーシアムの一員であるF社に管理運営が変更となった.F社は,
2006 年前半に受付,スタジオ,ジムなどの改修を行い,またプログラムの質・量の向上,清
掃の徹底,プロモーション活動の促進などを行った.その結果,「指定管理」導入後に 9 項
目について利用者満足度の変化がみられた.このように「指定管理」にともなう設備・プロ
グラム・スタッフなどの変更は利用者満足度の変化に影響を与えることが明らかとなった.
しかし,その一方で満足度の変化には4つのパターンがあることも明らかとなった.一般
的には施設設備とサービスの改善は直後に満足度の上昇に寄与することが考えられ,プログ
ラムや人的サービスは 2 年目以降も改善を行えば継続的に満足度は上昇すると考えられる.
実際に「料金に見合ったサービス内容」に対する満足度は経年的に上昇した.
一方,施設・設備については,改善直後の初年度の満足度は有意に上昇するが,その後,
27
特にリフォーム等を施さなければ,2 年度目には変化はないと考えられる.このため「更衣室
の清潔さ」「入口ホールの清潔さ」は,このような傾向を示した.また,予約システムや開
館時間の頻繁な変更は利用者を混乱させるため,一般には数年に一度の更新であることから
「施設利用の簡単さ」「開館時間の適切さ」も同様の傾向を示した.
他方で,全面的な更新をしたにもかかわらず,人的サービスである「受付スタッフの適切
な支援」や「受付スタッフのホスピタリティ」は変化がみられなかった.このことは,2006
年時点で満足度が高かったことに起因するかも知れない.このようにすでに利用者満足度が
高い場合には変化が起こらない可能性を示唆している.
そして,指定管理者がサービス水準の向上を企図した仕組みであるにもかかわらず,「指
定管理」導入後に,「水泳プールの快適さ(混雑していないか)」「トレーニングルームの
快適さ(混雑していないか)」の満足度が低下した理由は,利用者増大にともなう混雑が影
響したと考えられる.2005 年度の総利用者数は 382,815 人であったが,「指定管理」導入初
年度である 2006 年度の総利用者数は 505,460 人で,前年度から 232,220 人増加した.このよ
うな急激な利用者数の増大は,プール・スタジオ・ジムの面積が限られるなか,利用者 1 人
当たりのスペースが減少し,また待ち時間の発生などにより満足度が低下したと考えられる.
上記のことから利用者の「総合満足度」は「指定管理」導入直後には,急激な利用者増大
にともなう混雑により一時的に低下するが,その後は利用者も混雑状況に馴化し,バリュ
ー・フォー・マネーの観点から「総合満足度」が上昇したと推察される.
4.6 まとめ
本研究で得られた知見は以下のとおりである.
1)「指定管理」導入後は,「料金に見合ったサービス」をはじめとして複数の項目で,満
足度の向上を示し,利用者数の増大がもたらされた.
2)一方で,利用者数の増加が混雑の増大をもたらすことによって,快適さの要素に関して
満足度低下をもたらす可能性が示された.
3)「総合満足度」は,「指定管理」導入直後には,一時的に低下し,その後上昇すること
が示唆された.
28
第 5 章 指定管理者制度の導入によるスポーツ観戦者の満足度の変化
5.1 はじめに
2003 年 9 月の地方自治法改正により,民間営利企業でも地方自治体が設置した公共施設の
管理運営を可能とした指定管理者制度が導入された.改正法では旧制度から指定管理者制度
への移行期間を 3 年間と定め,遅くとも 2006 年 9 月までにすべての公の施設に指定管理者制
度の導入または直営の選択・実施を義務付けた.
総務省は,都道府県知事に対して 2003 年に「地方自治法の一部を改正する法律の公布につ
いて」(総行行第 87 号)を通知し,そのなかで,指定管理者制度の目的を,「多様化する住
民ニーズにより効果的・効率的に対応するため,公の施設の管理に民間の能力を活用しつつ,
住民サービスの向上を図るとともに,経費の節減等を図ること」とした.一方,地方自治体
側も,指定管理者制度の導入に際して,90%の自治体は財政支出削減を,80%はサービス水
準の向上を期待していた(三菱総合研究所,2006).
上山ら(2008)による「大阪府立臨海スポーツセンター」の事例報告では,指定管理者制
度の導入により大阪府の財政負担が年間 1 億 2100 万円ほど削減され,開館時間の延長や各種
スポーツ教室がリーズナブルな価格で提供されるなど,サービス改善がなされたとしている.
同様に,新設の「浜北温水プール」では,指定管理者制度の導入により自治体が想定した当
初の管理コストを 1089 万円ほど下回り,健康測定プログラムなどの導入ならびに接客・清
掃・維持管理でも市民からの評価が高かったとしている.
間野ら(2009)は,指定管理者制度の導入前後の顧客満足度を客観的に測定・評価したと
ころ,水泳プール・スタジオ・ジムの利用者について,「料金に見合ったサービス」をはじ
めとする複数の項目で満足度が向上し,利用者数の増大がもたらされたことを報告している.
すなわち,いわゆる「する」スポーツ施設については,指定管理者制度の導入によるサービ
ス・クオリティの改善が,客観的なデータとしてわかってきている.
ところで,公共スポーツ施設には「する」ための施設に加えて,トップレベルのスポーツ
を観戦するための,いわゆる「みる」スポーツ施設もふくまれる.プロ野球が開催される野
29
球場や J リーグが開催されるサッカースタジアムにも,指定管理者制度が導入されてきてい
る.それでは,これらの「みる」スポーツ施設については,指定管理者制度の導入は,サー
ビス・クオリティの改善にどのような影響を与えることが予想されるであろうか.一般論と
しては,指定管理者制度を導入することで,施設・設備やスタッフの対応が改善され,観戦
者からみたサービス・クオリティが高まることが期待されるが,必ずしも実証されていない.
そこで,本研究は,指定管理者制度を導入したサッカースタジアムの施設サービスの変更
にともない,観戦者に対するサービス・クオリティが改善することを明らかにすることを目
的とした.
5.2 対象施設の概要
本研究の対象施設であるHスタジアムは,Jリーグの公式戦が開催可能なスタジアムであ
り,公共交通機関と道路アクセスなど利便性の良い都市部に立地している.1998 年の竣工後,
設置者である地方自治体(I市)は,同自治体が設立した財団法人(以下,J財団)に管理
運営を委託した.
I市は 2005 年 9 月に指定管理者を公募し,複数の応募者から,J財団と民間企業 2 社(K
社,L社)とによるコンソーシアムを指定管理者として選定した.協定期間は 2006 年 4 月か
ら 2010 年 3 月末までの4年間とした.
コンソーシアムの代表団体はJ財団であり,J財団は施設全体を統括するとともに,スタ
ジアムの管理運営を担当している.K社はJリーグ開催などの際の運営の一部を担当し,L
社は施設全体の設備の保守点検管理を行っている.
J リーグの公式戦に際しては,J財団が施設サービスを統括し,委託先である警備会社,清
掃会社,飲食サービス会社やボランティアとともに,J財団職員もまた接客などの施設サー
ビス業務を担当している.
5.3 研究方法
本研究では以下の2つの調査を実施した.第一は観戦者によるサービス・クオリティの評
価項目を探るため,Hスタジアムでの観戦者を対象に質問紙調査を行い,探索的因子分析を
用いてサービス・クオリティ因子を抽出した[調査1].
30
第二は,Hスタジアムの観戦者を対象に質問紙調査を行い,[調査 1]で抽出されたサービ
ス・クオリティ因子を確認的因子分析を用いて検証するとともに,[調査 1]の結果と比較する
ことで,サービスの変更前後のサービス・クオリティの変化を調べた[調査2].
5.3.1 サービス・クオリティ因子の抽出のための調査[調査1]
5.3.1.1 調査日時
2006 年 5 月 6 日(土) J リーグ公式戦の開門(12:30)から試合終了までとした.すでに 4
月 1 日に指定管理者制度に切り替わっているが,5 月 6 日時点では指定管理者となったコンソ
ーシアムは施設サービス改善の準備をしている段階であり,施設サービスの変更はまだ行わ
れていなかった.
5.3.1.2 調査対象
3.1.1 のJリーグ公式戦の観戦者を調査対象とした.当日の入場者数 30,000 人と想定し,
標本誤差を±3%以内とするには 1,034 人の回答が必要となる.回収率を 25%程度として必要
配布数を 3,950 部とした.回収数は 1,385 部,回収率は 35.1%であった.このうち,本調査
で対象とするホームチームを応援している者(中学生以上)で,かつ調査票に完全回答した
のは,758 部であった.なお,当日の入場者数 32,073 人(小学生以下を含む)であった.
5.3.1.3 配布・回収方法
調査票の配布・回収方法は配票留置自記式とした.配布はまず前記の配布数にもとづき座
席を事前に抽出し,開門前に質問紙を該当座席のカップホルダーに入れた.回収は調査員が
ハーフタイムならびに試合終了後にスタンドを巡回して行った.
5.3.1.4 調査項目
調査項目は,観戦者の属性項目 3 項目,Hスタジアムの施設サービスに関するサービス・
クオリティ 24 項目とした.調査項目の設定に際しては,National Benchmarking Services
(以下,NBS)で使用している調査項目をもとに,日本ならびにスタジアムの実情に合わ
せて削除・修正した.NBSとは,1999 年にスポーツ・イングランドが,公共スポーツ施設
の一層の経営改善を促すために公共スポーツ施設の経営評価システムとして導入したもので
ある(Sport England,2002).このNBSによって,同種・同規模の公共スポーツ施設の利
31
用者満足度と事業収支などの相対評価がなされている.NBSでは調査項目として全 20 項目
を用いているが,これをもとに,
Accessibility 3 項目, Quality of facility 15 項
目, Cleanliness 4 項目, Staff 2 項目の計 24 項目とした.サービス・クオリティ項
目は,リッカート式の 5 段階尺度を用い,「1.不満である」から「5.満足である」とした.
5.3.1.5 分析方法
分析方法は探索的因子分析とし,因子抽出は最尤法,回転は Kaiser の正規化を伴うバリマ
ックス法とした.分析に際しては因子得点が 0.4 を下回る項目を削除した.統計解析パッケ
ージは SPSS Ver.17 を使用した.
5.3.2 サービス・クオリティの変化に関する調査[調査2]
5.3.2.1 調査日時
2008 年 11 月 8 日(土)J リーグ公式戦の開門(11:00)から試合終了までとした.2006 年
4 月 1 日の指定管理者制度の導入から数えて,施設サービスが安定した 2 年 6 カ月後の 11 月
8 日とした.これまでJ財団を中心にコンソーシアムとして,段階的に施設サービスの改善を
実施してきたところであり,すでに J リーグを2シーズン経験していた.
5.3.2.2 調査対象者
3.2.1 の観戦者(中学生以上)を調査対象者とした.当日の入場者数 15,000 人と想定し,
標本誤差を±3%以内とするために 994 人の回答が必要となる.2006 年時の調査を参考に回収
率を 50%程度として配布数を 1,800 部とした.回収数は 550 部,回収率は 29.2%であった.
このうち,本調査で対象とするホームチームを応援している者(中学生以上)で,かつ調査
票に完全回答したのは 292 部であった.なお,当日の入場者数は 18,823 人(小学生以下含
む)であった.
5.3.2.3 配布・回収方法
調査票の配布・回収方法は配票留置自記式とした.配布は,前記の配布数にもとづき座席
を事前に系統抽出し,開門前に質問紙を該当座席のカップホルダーに入れた.回収は,調査
員がスタンドを巡回しハーフタイムと試合終了後に行った.
5.3.2.4 調査項目
32
サービス・クオリティ項目の設定に際しては,2006 年の調査結果と同じ 24 項目とした.サ
ービス・クオリティ項目は,リッカート式の 5 段階尺度を用い,「1.不満である」から「5.
満足である」とした.
5.3.2.5 分析方法
分析方法は,2006 年の調査結果にもとづき得られたサービス・クオリティの各因子につい
て,共分散構造分析による確認的因子分析を行った.その後,各因子を構成する各項目の平
均値について,施設サービスを変更する以前の 2006 年のデータと変更後の 2008 年のデータ
とで比較分析を行った.統計解析パッケージは SPSS Ver.17 を使用した.
5.4 結果
5.4.1 サービス・クオリティ因子の抽出結果[調査1]
スタジアムのサービス・クオリティ項目 24 項目について探索的因子分析を行った.「リユ
ースカップの導入」「会場の雨よけ設備」の 2 項目については因子得点が 0.4 以下であった
ため,それらを削除した結果,6 因子・22 項目が抽出された(表 14).6 因子の因子負荷量
は 3.34∼1.30 であり,6 因子の累積寄与率は 55.8%であった.Cronbach のα係数はいずれの
因子も 0.7 以上であり,信頼性は高いと判断した.
第 1 因子は,10 項目で構成されており,「入口付近の清潔さ」,「座席やその周辺の清潔
さ」,「通路から座席への入りやすさ」,「座席の座り心地」,「トイレの清潔さ」,「売
店などのコンコース付近の清潔さ」,「会場内の案内表示板」,「照明の明るさ」,「大型
映像の情報サービスの内容」,「会場までの交通の便」であった.この因子を「清潔・快適
さ因子」とした.第 2 因子は 4 項目で,「売店の品揃え」,「販売されている飲食物の品
質」,「売店の配置」,「自動販売機の品揃え」であり,「飲食因子」とした.第 3 因子は 2
項目で,「ゴミ箱の数」と「ゴミ箱の配置」であり,これを「ゴミ箱因子」とした.第 4 因
子は 2 項目で,「トイレブース・便器の数」,「トイレの配置」であり,これを「トイレ因
子」とした.第 5 因子は「スタッフの対応の適切さ」,「スタッフの接客態度」の 2 項目で
あり,これを「スタッフ因子」とした.そして最後の第 6 因子は,「スタンドからピッチま
での距離」,「自分の座席からの試合の見やすさ」の 2 項目であり,「見やすさ因子」とし
33
た.
表 14.施設サービス・クオリティの探索的因子分析結果(n=758)
項目
入り口付近の清潔さ
座席やその周辺の清潔さ
通路から座席への入りやすさ
座席の座り心地
トイレの清潔さ
売店などのコンコース付近の清潔さ
会場内の案内表示板
照明の明るさ
大型映像の情報サービスの内容
会場までの交通の便
売店の品揃え
販売されている飲食物の品質
売店の配置
自動販売機の品揃え
ゴミ箱の数
ゴミ箱の配置
トイレブース・便器の数
トイレの配置
スタッフの対応の適切さ
スタッフの接客態度
スタンドからピッチまでの距離
自分の座席からの試合の見やすさ
因子負荷量
0.585
0.580
0.573
0.560
0.536
0.514
0.489
0.461
0.425
0.409
0.813
0.729
0.620
0.533
0.926
0.782
0.927
0.687
0.928
0.770
0.806
0.634
固有値
累積寄与率(%)
α係数
3.34
15.2
0.865
2.45
26.3
0.864
1.81
34.5
0.930
1.69
42.2
0.903
1.68
49.8
0.927
1.30
55.8
0.718
5.4.2 サービス・クオリティ因子の確認的因子分析結果[調査2]
前記 4.1 で抽出したサービス・クオリティ因子について,2008 年度データを用いて確認的
因子分析を行った.それにより,2006 年度データの探索的因子分析で得られたのと同じ6つ
の因子構造となることを確認された.適合度指標は,χ2df=429.44 (p<.001),GFI=.878,
AGFI=.841,CFI=.919,RMSEA=.065 となり,妥当性と信頼性は十分であった.その結果,
「清潔・快適さ因子」「飲食因子」「ゴミ箱因子」「スタッフ因子」「トイレ因子」「見や
すさ因子」の6因子が抽出され,[調査 1]と同じ結果が得られた(表 15).
34
表 15.施設サービス・クオリティの確認的因子分析結果(n=292)
清潔・快適さ飲食・売店
入口付近の清潔さ
.361
座席やその周辺の清潔さ
.516
通路から座席への入りやすさ
.539
座席の座り心地
.587
トイレの清潔さ
.811
売店などのコンコース付近の清潔さ
.693
会場内の案内表示版
.559
照明の明るさ
.564
大型映像の情報サービスの内容
.553
会場までの交通の便
.648
売店の品揃え
.493
販売されている飲食物の品質
.722
売店の配置
.772
自動販売機の品揃え
.897
ゴミ箱の数
ゴミ箱の配置
トイレブース・便器の数
トイレの配置
スタッフの対応の適切さ
スタッフの接客態度
スタンドからピッチまでの距離
自分の座席からの試合の見やすさ
標準化係数
ゴミ箱
トイレ
スタッフ
見やすさ
.881
.945
.899
.814
.954
.891
.994
.553
有意確率
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***p<.001
5.4.3 サービス変更前後のサービス・クオリティ因子の比較[調査2]
前述のとおり 2006 年と 2008 年のデータを用いて分析した結果,「みる」スポーツ施設の
サービス・クオリティの6因子の妥当性が確認された.この 6 因子を用いて,施設サービス
の変更前(2006 年)と変更後(2008 年)のサービス・クオリティを比較した.比較に際して
は両年のサンプル数が同数となるよう,2006 年の 758 サンプルから 292 サンプルを無作為に
抽出した.両年の回答者属性については,性別・年齢ともに有意差はなかった.
6 因子を構成する項目の平均値を算出し,両年を比較した結果,6 因子のうち 5 因子につい
て 2008 年が 2006 年を有意に上回った.上回った 5 つの因子は「清潔・快適さ」,「飲食」,
「ゴミ箱」,「トイレ」,「スタッフ」であった(表 16).
「清潔・快適さ」は 3.84 から 4.05 に,「飲食」は 3.07 から 3.34 に,「ゴミ箱」は 3.34
から 3.67 に,「トイレ」は 3.61 から 4.06 に,そして「スタッフ」は 3.58 から 3.87 に有意
に上昇した.一方で,「見やすさ」については,有意差はみられなかった.
35
表 16.施設サービス・クオリティの平均値の変化
清潔・快適さ
2006
n=758
3.84
2008
n=292
4.05
-5.04
0.00
***
飲食
3.07
3.34
-4.80
0.00
***
ゴミ箱
3.34
3.67
-4.71
0.00
***
トイレ
3.61
4.06
-6.46
0.00
***
スタッフ
3.58
3.87
-4.22
0.00
***
2.74
見やすさ
***:P<.001
2.59
1.92
0.06
n.s.
年度
t値
有意差
5.5 考察
本研究で得られた知見は以下のとおりである.1)スタジアムのサービス・クオリティ因
子として 6 因子(「清潔・快適さ」,「飲食」,「ゴミ箱」,「トイレ」,「スタッフ」,
「見やすさ」)が抽出された.2)指定管理者制度の導入にともなう,施設サービスの改良
により,「清潔・快適さ」,「飲食」,「ゴミ箱」,「トイレ」,「スタッフ」の 5 因子の
サービス・クオリティが有意に向上した.3)一方で,「見やすさ」については,有意な変
化は見られなかった.
「する」スポーツ施設である公共体育館のサービス・クオリティの構造について調べた中
西6)は,7 つの因子を抽出し,それぞれ「保証性」「可視性」「適格性」「信頼性」「応答
性」「利便性」「感情移入性」とした.各因子の項目をみると「保証性」は施設やスタッフ
のイメージについての項目が多く,「可視性」は清潔さや快適さを表す項目が多い.「適格
性」はプログラムを示し,「信頼性」と「応答性」は事務局機能を,「利便性」はアクセス
を,「感情移入性」はスタッフの対人能力に関する項目となっている.本研究結果とは「ス
タッフ」「清潔さ・快適さ」については共通した因子であった.その他の因子については
「する」と「みる」の相違に起因しているとも考えられる.
ところで,指定管理者制度は,サービスの向上を図って経費の節減に努めることが目標で
あるとしているが,本調査結果が示したように,必ずしもすべてのサービス項目で改善が得
36
られるわけではない.
笹山(2006)によると「指定管理者制度は比較的幅のある制度であり,公の施設としての
公共性や公益性を確保しながら,利用者サービスの向上や管理コストの削減が可能となるよ
う,各施設に応じたきめ細かな運用をいかに適切に行っていくかが,今後の課題となる.」
としている.
例えば,運用方法との整合で考えると,尾林(2006)は「体育館は働いている人が安い費
用でスポーツをするための社会教育施設であるなど,本来の設置の目的が必ずあり,地方自
治体の設置条例の冒頭に目的に関する規定がおかれている.」としており,設置目的のため
には,コストを優先し,それによりサービス水準が低いままでとどまる場合があることを示
唆している.
したがって,本調査が対象とした「みる」スポーツのための観戦施設への指定管理者制度
の導入についても,項目によっては施設サービス・クオリティが改善しないことは予想できる.
実際,本研究結果でも「見やすさ」因子については改善がみられなかった.この因子の改
善には,「スタンドからピッチまでの距離」や「自分の座席からのみやすさ」を改善する必
要があり,そのためには,施設の大規模な改修などを伴うことになる.指定管理者制度を導
入したプロ野球のスタジアムでは,民間事業者が大規模改修を実施した例もあるが,サッカ
ースタジアムでは,指定管理者による観客席の大規模改修はまだなく,また本研究対象施設
も改修は行っていなかった.
しかし,大規模改修を必要としない人的・物的なサービスを中心に,「清潔・快適さ」,
「飲食」,「ゴミ箱」,「トイレ」,「スタッフ」の5因子が有意に改善されることが明ら
かになったことは,指定管理者制度の導入効果のひとつといえるであろう.
上述のように,指定管理者制度を導入したサッカースタジアムでは,施設改修を行わなく
ても,各種施設サービスの変更にともない,観戦者に対するサービス・クオリティが改善さ
れることが示唆された.
37
第 6 章 指定管理者制度による雇用者数の変化
6.1 緒言
1947 年に施行された地方自治法では,公(おおやけ)の施設の管理運営は地方自治体によ
る「直営」しか認められていなかった.その後,1963 年の同法改正により公共団体による管
理運営を認めた「管理委託制度(以下,管理委託)」が導入され,1991 年には管理委託が地
方自治体の出資法人にも拡大された.さらに,2006 年より民間企業やNPO法人などが管理
運営可能な「指定管理者制度((以下,指定管理)」が完全施行された.これらの一連の法
改正は,自治体の財政支出の縮減とサービス向上を目指したものであるが,同時に新規雇用
の創出も期待されている(間野,2007).
指定管理の導入による財政支出の縮減効果については,全国的にはまだ明らかにされてい
ないが,「大阪府立臨海スポーツセンター」の事例報告では,指定管理の導入により大阪府
の財政負担が年間 1 億 2100 万円ほど削減され,同様に,新設の「浜北温水プール」では,指
定管理により自治体が想定した当初の管理コストを年間 1089 万円ほど下回ったとの報告があ
る(上山ら,2008).
サービス向上については,体育館,屋内プール・スタジオ・ジムの複合施設において,指
定管理の導入により利用者満足度の向上がもたらされ(間野ら,2009),J リーグで使用して
いるスタジアムでも,指定管理によって,観戦者に対するサービス・クオリティが上昇した
ことが報告されている(間野・庄子,2010).
このように財政支出が縮減され,サービス・クオリティが向上し,利用者の満足度が増大
するためには,それを支えるマンパワーが必要となる.しかし,現段階では,サービス提供
者である指定管理者の雇用者数の変化については明らかにされていない.一般には利用者数
が増え,サービスを手厚くすれば,それだけ雇用が求められることが想定されることから,
指定管理の導入にともなうサービスの質・量の増大にともない,施設での雇用者数の増大が
想定される.
スポーツ施設の雇用者数に関する研究は少ないが,McVicar ら(2001)は,営利・非営利と
38
もに雇用者の多様化が進んでおり,公共施設においては非常勤の職員が,民間施設について
は常勤職員が多く採用されていると報告していることからも,民営化の一方策である指定管
理により常勤雇用者数の増大が示唆される.
6.2 研究目的
本研究の目的は,指定管理の導入が公共スポーツ施設の常勤雇用者数に与える影響を明ら
かにすることである.このため,管理運営形態が「直営」または「管理委託」であった施設
が,「指定管理」に移行した場合と移行せずに「直営」のままであった場合との常勤雇用者
数を比較することで,指定管理の導入による常勤雇用者数への影響を明らかにする.
6.3 研究方法
研究方法は,全国の公共スポーツ施設を対象とし,ウェブサイト上に専用のアンケートペ
ージを作成し,指定管理導入前(2004 年度,以下「導入前」)と導入後(2006 年度,以下
「導入後」)の施設経営内容について,それぞれ翌年度に調査を行った.
第 1 回目の調査は,(財)日本体育施設協会会員名簿(平成 16 年度版)をもとに行った.同
協会には多種多様なスポーツ施設のうち約 16,000 施設が会員となっているが,それらのなか
から常勤雇用者の配置が想定される体育館・プール・グラウンド・球技場・テニスコートな
どの施設を対象とし,サイクリングロードや多目的広場などを除いた.その結果 6,953 施設
を研究対象とした.2005 年 2 月末に調査用ウェブサイトの URL とアクセスのための ID とパス
ワードを記したハガキを対象施設に郵送し,導入前(2004 年度)の施設経営内容について,
2005 年 3 月 8 日∼4 月 28 日に専用サイトから入力できるようにした.
第 2 回目の調査は,2007 年 8 月末に第 1 回目と同様に調査用ウェブサイトの URL とアクセ
ス用の ID とパスワードを記したハガキを対象施設に郵送した.2007 年 9 月 1 日∼10 月 31 日
に 2006 年度の施設経営内容について,専用サイトに入力できるようにした.
調査項目は,施設概要,施設設備,営業時間,利用者,職員についての 56 項目であり,こ
のうち,本研究では「管理運営形態」,「常駐職員数」の2項目を用いた.管理運営形態は
「自治体直営」「管理委託」「指定管理」「管理許可使用」「PFI」「その他」とした.
また「常勤職員」とは,当該施設に正規職員(社員)として辞令が交付された者とし,他の
39
施設等との兼務者は含まないこととした.
調査結果の分析は,まず3つの管理運営形態(直営,管理委託,指定管理)による常勤雇
用者数の差異を検証するため,年度ごとに3群間に対して Mann-Whitney の U 検定を行った.
一般に公共スポーツ施設の常勤雇用者数は少なく,施設によっては無人の場合もあることか
ら,ノンパラメトリック検定である Mann-Whitney の U 検定を用いることが適切であると判断
した.
次に年度による変化を検証するため,管理運営形態別に Wilcoxon の符号付き順位検定を行
った.こちらもデータの特性からノンパラメトリックの検定を用いるのが適切だと判断した.
両分析ともに統計ソフトは,IBM SPSS Statistics 18 を使用した.
6.4 結果
6.4.1 回答結果
第 1 回目(2004 年度)と 2 回目(2006 年度)の両調査に必要な項目を回答した施設は 455
施設であった.そこから,直営と指定管理以外の管理運営形態(例えば管理許可使用やPF
Iなど)を採用している 122 施設を除いたところ 333 施設となった.
管理運営形態が直営を継続している施設(以下,「直営−直営」)は 168 施設,直営から
指定管理に移行した施設(以下,「直営−指定管理」)は 32 施設,管理委託から指定管理に
移行した施設(以下,「管理委託−指定管理」)は 133 施設であった(図3).
(導入前)
直営
(導入後)
n=168
直営
n=32
管理委託
n=133
指定管理
図3.管理運営形態の移行パターン
施設種別の割合は表 17 のとおりであった.3つの管理運営形態による施設種別割合に有意
な差はみられなかった.
40
表 17.管理運営形態別の施設種別割合(%)
直営-直営
施設種別
n
直営ー指定管理
168
28.6
14.3
7.1
1.8
9.5
6.5
16.1
2.4
0.6
13.1
体育館
グラウンド
プール
球技場
テニスコート
野球場
運動公園・広場
武道館
スケート場
スポーツセンター等複合施設
管理委託ー指定管理
32
28.1
18.8
12.5
3.1
6.3
6.3
9.4
3.1
0.0
12.5
133
37.6
9.8
9.8
0.8
6.0
6.8
12.0
1.5
0.0
15.8
χ2=11.039
n.s.
6.4.2 管理運営形態による常勤雇用者数の相違
管理運営形態別の導入前後の管理運営形態別の平均常勤雇用者数を表 18 に示す.
表 18.指定管理者制度導入前後における管理運営形態別の常勤雇用者数
2004年度(導入前)
2006年度(導入後)
有意確率(年度間)
平均値 最小値 最大値 平均値 最小値 最大値
直営-直営(a)
1.47
0
15
1.50
0
26
0.325
n.s.
直営-指定管理(b)
1.09
0
10
2.28
0
10
0.021
P<.05
管理委託-指定管理(c)
3.58
0
45
4.37
0
33
0.069
n.s.
有意確率(群間)
a<b: n.s.
a<b: p<.001
b<c: p<.001
b<c: p<.05
a<c: p<.001
a<c: p<.001
2004 年度(導入前)の平均常勤雇用者数は「直営−直営」は 1.47 人,「直営−指定管理」
は 1.09 人,「管理委託−指定管理」では 3.58 人であった.これら 3 群について MannWhitney の U 検定を行ったところ,「直営−直営(a)」と「直営−指定管理(b)」には有意差
はないが,「管理委託−指定管理(c)」は他の2つより有意に常勤雇用者数が多かった.つま
り,導入前の時点で管理委託は直営よりも有意に常勤雇用者数が多いことが明らかとなった.
2006 年度(導入後)の平均常勤雇用者数は,「直営−直営」は 1.50 人,「直営−指定管理」
は 2.28 人であり,「管理委託−指定管理」は 4.37 人であった.Mann-Whitney の U 検定の結
果,3群間に有意な差があり「直営−直営(a)」が最も少なく,次いで「直営−指定管理
41
(b)」が,そして「管理委託−指定管理(c)」常勤雇用者数が最も多いことが明らかとなった.
6.4.3 指定管理者制度導入前後の常勤雇用者数の変化
次に常勤雇用者数の指定管理導入前後の変化についてみた(表 18).Wilcoxon の符号付き
順位検定を行ったところ,「直営−直営」の平均常勤雇用者数は 2004 年度の 1.47 人が 2006
年度は 1.50 人であり有意な増加はなかった.一方,「直営−指定管理」では導入前の 2004
年度は 1.09 人であったが,導入後の 2006 年度は 2.28 人へと有意に増加した(p<.05).し
かし,「管理委託−指定管理」では導入前 3.58 人から導入後 4.37 人へと増加しているよう
にみえるが統計的には有意ではなかった.これらのことから,「直営−指定管理」の常勤雇
用者数のみが有意に増加したことが明らかとなった.
6.5 考察
第1に管理運営形態の相違による常勤雇用者数についての結果では,「直営−直営」と
「直営−指定管理」に比較して,「管理委託−指定管理」は指定管理導入の前後ともに常勤
雇用者数が有意に多いことが明らかとなった.このことは「管理委託」が行われている施設
の特性に依拠していると考えられる.地方自治法改正により 1963 年に導入された「管理委
託」は,自治体が第 3 セクターであるスポーツ振興事業団などを設立し,それらの外郭団体
が施設管理を行う仕組みである.この制度ができた背景として,利用者の多様なニーズへの
対応が求められたことがあり,直営による公務員体制では勤務規則による制限が多く,対応
が困難であったことがあげられる.また,高度経済成長に伴い施設の大型化が進み,管理運
営により多くの人材が必要となったこともあげられる.つまりサービスの充実が求められた
大型な施設を「管理委託」とする場合が多かったため,そもそも直営施設よりも常勤雇用者
数が多いと考えられる.一方,導入後は「直営−直営」よりも「直営−指定管理」の常勤雇
用者数が有意に多いことは,サービスの充実が影響を与えた可能性がある.「管理委託」に
倣って考えれば,施設の大型化も推察できるが,「指定管理」の導入が自治体の財政支出の
削減が目的であることから,財政支出による施設改修をし,大型化を進めた結果,常勤雇用
者数が増大したとは考えにくい.
次に,指定管理導入前後の常勤雇用者数の変化についてみると,「直営−直営」と「管理
42
委託−指定管理」には有意な増減はなかった.一方,「直営−指定管理」のみが有意に増加
した.これは「直営−直営」はサービスや施設規模などの変更がないため,そのままの人員
配置を継続していることが理由と考えられる.また「管理委託−指定管理」は従前より管理
委託を受けていたスポーツ振興事業団などが,そのまま指定管理となった可能性が高く,そ
の場合も人員配置の変更をしていないと考えられる.一般に,指定管理は公募が原則である
が,管理委託者の雇用の確保の観点などから,指定管理の導入初回に限り,特例的に公募を
行わないことも認められていたことが影響したとも考えられる.
他方,「直営−指定管理」では,管理運営主体が自治体から民間事業者等に確実に交代し
ていることから人員体制が変更となったと推察される.さらにサービスの充実を図る必要か
ら,それにともなって常勤雇用者数が増大したと考えられる.このことは McVicar ら
(2001)が,民間施設では常勤職員の採用が多いとの報告にも通じる.実際,「直営−指定
管理」では,常勤雇用者数は 1.09 人から 2.28 人へと 2.1 倍となり,3 群のなかで最大の増加
率である.「直営−指定管理」では,指定管理者の選定に際して公募となることから,公募
の場合には民間事業者など応募者間による競争が激しく,競争で勝つためには開館時間の延
長や自主事業などのプログラム充実の提案が必要となる.そのためには,一層のマンパワー
が必要となることから,常勤雇用者数の増大がもたらされたと考えられる.
6.6 まとめ
全国調査にもとづき,自治体直営施設に指定管理を導入した場合,サービス向上と利用者
満足度の増大の基盤となる,常勤雇用者数が有意に増加していることが示唆された.しかし,
この研究では常勤雇用者数増大の機序を詳らかにするには至っていない.今後は事例調査や
インタビュー調査などで,その機序を明らかにすることが課題といえる.また,公共スポー
ツ施設における雇用研究を発展させるためには,非常勤職員や再委託先(清掃・警備等)の
雇用者にまで研究対象を広げていくことも課題といえよう.
43
第 7 章 総合論議
本論文では,指定管理者制度の導入にともなう公共スポーツ施設の経営に関する研究上の
問題として,以下の4つを設定した.
1)指定管理者制度によって,公費負担は減少したのか,コスト削減によって利用者数は
減少していないか.
2)指定管理者制度によるコスト削減に伴い,公共スポーツ施設におけるスポーツ実施者
の利用満足度は低下していないか.
3)指定管理者制度によるコスト削減に伴い,スポーツ観戦者の満足度は低下していない
か.
4)指定管理者制度による自治体からの委託料の削減によって,指定管理者における雇用
者数は減少していないか.
上記の各々のリサーチ・クエスチョンに対して,事例調査等を実施した結果をもとに,以
下のとおり検討した.
7.1 指定管理者制度による公費負担ならびに利用者数の変化
指定管理者制度による公費負担ならびに利用者数の変化について,従前の管理委託制度ま
たは直営に比べて,制度を導入したことによって自治体からの支出額は削減されたのか,あ
るいは同等または増加したのかどうか,仮に自治体からの支出額が削減されたとして,それ
は指定管理者がコスト削減を急激に進めたことで,結果として地域住民の利用阻害を引き起
こしていないか,具体的には,利用者数の減少と引き換えに,自治体の財政支出削減が行わ
れていないか,といった問題を設定した.
これらの問題を明らかにするために,指定管理者制度による公費負担ならびに利用者数の
変化を明らかにすることを目的として調査研究を行った.
その結果,「第 3 章.指定管理者制度による公費負担ならびに利用者数の変化」において,
大都市圏の政令指定都市である A 市を事例として調査した.その結果,スポーツセンター16
施設に対する,A 市からの財政支出の変化を分析したところ,指定管理者制度の導入により有
意に支出が削減されたことが明らかとなった.すなわち,指定管理者の導入によって公費負
44
担が削減されたことがわかった.
このことは,上山ら(2008)の「大阪府立臨海スポーツセンター」では,大阪府の財政負
担が年間 1 億 2100 万円ほど削減されたとの事例報告と一致する.イギリスにおいても,
Nichols(1996)が報告したように CCT の導入により自治体の支出が削減されたことが明らか
にされている.
自治体からの財政支出とは指定管理料のことであり,指定管理料は公募の際,管理運営者
が自治体に提案する金額である.この提案金額の計算は,当該施設の利用料収入とその他収
入との合計金額を,管理運営に係る総支出から差し引いた金額となる.(式1)
指定管理料=総支出−(利用料収入+その他収入)・・・・・式(1)
総支出は光熱推費・修繕費・清掃費・警備費・人件費などで構成されており,サービス水
準を維持・向上させるためには,総支出を下げることは難しいと考えられる.したがって,
指定管理料を下げるには,利用料収入とその他収入を上げることがポイントとなる.利用料
収入を増加させるには,利用者数の増加が必要となる.このため,指定管理料の削減は,利
用者数の増大によってもたらされることになる.
それでは,A市において利用者数は増大したのだろうか.「第 3 章.指定管理者制度によ
る公費負担ならびに利用者数の変化」において,A市のスポーツセンター16 施設では,指定
管理者制度の導入により延利用者数が有意に増大したことが明らかとなった.このことは,
間野ら(2009)が都市部の体育館(プール・スタジオ・ジム)の事例研究で示した結果と一
致している.A市では,制度を導入した初年度に前年度より有意に延利用者数が増加したが,
二年目・三年目は前年度に比べて有意な増加はみられなかった.しかし,四年目は初年度・
二年目に比べて有意に増加しており,制度導入後も着実に延利用者数が増加したことがわか
った.このことは制度の導入により,サービス水準が改善され,利用者の満足度が向上した
たため,リピーターが増え,また評判を聞き新規の利用者が増大したことが考えれる.
このように,延利用者数が増加し,利用料収入が増大したことにより,ほぼ毎年度に指定
管理料を縮減していくことができたと考えられる.すなわち,本研究によって,指定管理者
制度の導入によって公費負担の削減と延利用者数の増加が,同時に実現することが明らかと
45
なった.
7.2 指定管理者制度によるスポーツ実施者の満足度の変化
指定管理者はコスト削減を重視するあまり,開館時間の縮小やプログラム数の削減,指導
者や受付などの人員を減らし,サービス水準を低下させることが考えられる.それによりス
ポーツ実施者の満足度は低下していないか.これに対して,都市部のプール・スタジオ・ジ
ムを備えたひとつの体育館を事例として,その利用者を対象に,指定管理者制度の導入前後
の満足度を測定した.
その結果,「第 4 章.指定管理者制度導入による公共スポーツ施設のスポーツ実施者の利
用者満足度の変化」において,指定管理導入後は「料金に見合ったサービス」をはじめに,
「利用手続きの簡単さ」「開館時間の適切さ」「更衣室の清潔さ」「入口ホールの清潔さ」
「駐車スペースの質」など複数の項目で,満足度が向上し,利用者数の増大がもたらされた
ことがわかった.その一方で,利用者数の増加が混雑の増大をもたらすことによって,快適
さの要素に関して満足度低下をもたらす可能性が示された.そして「総合満足度」は,「指
定管理」導入直後には,一時的に低下し,その後上昇することが確認された.
Nichols(1996)は,CCT 導入当初は,施設管理運営の計画が不十分であり,サービス低下
が発生していることを指摘した.また,Coalter(1995)は,CCT 導入により利用者層が偏り,
多様な人々が施設を利用する機会の喪失を示唆した.このように CCT の導入当初は財政支出
の削減のみが達成され,利用者満足度の低下が指摘された.
本研究でも,導入当初は一時的に利用者の総合満足度の低下をもたらすことは,同様であ
った.しかし,二年目に総合満足度は,いわゆる「V字回復」したことがわかった.利用者
の「総合満足度」は「指定管理」導入直後には,急激な利用者数の増大にともなう混雑によ
り一時的に低下するが,その後は利用者も混雑状況に馴化し,バリュー・フォー・マネーの
観点から「総合満足度」が上昇したと推察される.
都市部の一施設のケーススタディに過ぎないが,このように,指定管理者制度によるスポ
ーツ実施者の満足度は導入直後に一時的に低下するが,その後は満足度が上昇する事例があ
ることがわかった.
46
7.3 指定管理者制度によるスポーツ観戦者の満足度の変化
観戦スポーツ施設の場合,観戦者は試合内容に満足度を求め,施設サービスには関心が低
いことが考えられる.そうだとすると,指定管理者であってもスポーツ観戦者の施設利用の
満足度は変化しないのではないか.つまり,観戦スポーツ施設については,指定管理者制度
の導入効果はコスト削減のみであって,サービス水準の向上には寄与しないのではないか,
といった問題を設定した.この問に応えるべく,都市部の1つのスタジアムの利用者を対象
に,指定管理者制度の導入前後のスポーツ観戦者の満足度を調査した.
その結果,「第 5 章.指定管理者制度導入による公共スポーツ施設の観戦者満足度の変
化」において,スタジアムのサービス・クオリティ因子として 6 因子(「清潔・快適さ」,
「飲食」,「ゴミ箱」,「トイレ」,「スタッフ」,「見やすさ」)が抽出され,施設サー
ビスの改良により,「清潔・快適さ」,「飲食」,「ゴミ箱」,「トイレ」,「スタッフ」
の 5 因子のサービス・クオリティが有意に向上したが,「見やすさ」については,有意な変
化は見られないことが明らかとなった.
指定管理者制度は,サービスの向上を図って経費の節減に努めることが目標であるとして
いるが,本調査結果が示したように,必ずしもすべてのサービス項目で改善が得られるわけ
ではない. 実際,本研究結果でも「見やすさ」因子については改善がみられなかった.この
因子の改善には,「スタンドからピッチまでの距離」や「自分の座席からのみやすさ」を改
善する必要があり,そのためには,施設の大規模な改修などを伴うことになる.指定管理者
制度を導入したプロ野球のスタジアムでは,民間事業者が大規模改修を実施した例もあるが,
サッカースタジアムでは,指定管理者による観客席の大規模改修はまだなく,また本研究対
象施設も改修は行っていなかった.
しかし,大規模改修を必要としない人的・物的なサービスを中心に,「清潔・快適さ」,
「飲食」,「ゴミ箱」,「トイレ」,「スタッフ」の5因子が有意に改善されることが明ら
かになったことは,指定管理者制度の導入効果のひとつといえるであろう.
上述のように,指定管理者制度を導入したサッカースタジアムでは,施設改修を行わなく
ても,各種施設サービスの変更にともない,観戦者に対するサービス・クオリティが改善さ
47
れる事例があることがわかった.
7.4 指定管理者制度による雇用者数の変化
指定管理者制度による雇用者数の変化について,指定管理者制度では,管理運営者は自治
体からの受託費の削減とサービス水準の向上を同時にもたらさなければならないが,それは
公共スポーツ施設での雇用にどのように影響するのであろうか.財政支出を減らし,結果と
してそれが人件費削減となり,雇用機会の喪失につながることも懸念される.反対に,財政
支出を削減したにもかかわらず,雇用が創出されるのであれば,それは指定管理者制度の大
きな副産物ともいえよう.この問題を調べるため,指定管理者制度による雇用者数の変化を
明らかにすることを目的に全国の公共スポーツ施設を対象に調査研究を行った.
その結果,「第 6 章.指定管理者制度の導入が公共スポーツ施設の常勤雇用者数に与える
影響」において,管理運営形態の相違による常勤雇用者数については,「直営−直営」と
「管理委託−指定管理」には有意な増減はなかったが,「直営−指定管理」のみが有意に増
加した.これは「直営−直営」はサービスや施設規模などの変更がないため,そのままの人
員配置を継続していることが理由と考えられる.また「管理委託−指定管理」は従前より管
理委託を受けていたスポーツ振興事業団などが,そのまま指定管理となった可能性が高く,
その場合も人員配置の変更をしていないと考えられる.一般に,指定管理は公募が原則であ
るが,管理委託者の雇用の確保の観点などから,指定管理の導入初回に限り,特例的に公募
を行わないことも認められていたことが影響したとも考えられる.
他方,「直営−指定管理」では,管理運営主体が自治体から民間事業者等に確実に交代し
ていることから人員体制が変更となったと推察される.さらにサービスの充実を図る必要か
ら,それにともなって常勤雇用者数が増大したと考えられる.
このことは McVicar ら(2001)が,民間施設では常勤職員の採用が多いとの報告にも通じ
る.実際,「直営−指定管理」では,常勤雇用者数は 1.09 人から 2.28 人へと 2.1 倍となり,
3 群のなかで最大の増加率である.「直営−指定管理」では,指定管理者の選定に際して公募
となることから,公募の場合には民間事業者など応募者間による競争が激しく,競争で勝つ
ためには開館時間の延長や自主事業などのプログラム充実の提案が必要となる.そのために
48
は,一層のマンパワーが必要となることから,常勤雇用者数の増大がもたらされたと考えら
れる.この研究によって,指定管理者制度による常勤雇用者数が増大することが明らかとな
った.
7.5 指定管理者制度による公共スポーツ施設経営の効果についての総合的な検討
総務省は,「地方自治法の一部を改正する法律の公布について」(総行行第 87 号)を通知
し,そのなかで,指定管理者制度の目的を,「多様化する住民ニーズにより効果的・効率的
.........
に対応するため,公の施設の管理に民間の能力を活用しつつ,住民サービスの向上を図ると
.....
ともに,経費の節減等を図ること」(傍点筆者)とした.また,指定管理者制度の導入に際
して,90%の自治体は財政支出削減を,80%はサービス水準の向上を期待していた(三菱総
合研究所,2006).
.........
住民サービスの向上については,「第 4 章.指定管理者制度導入による公共スポーツ施設
のスポーツ実施者の利用者満足度の変化」において,指定管理導入後は「料金に見合ったサ
ービス」をはじめとする複数の項目で満足度が向上し,その一方で,利用者数の増加が混雑
の増大をもたらすことによって快適さの要素に関して満足度は低下したが,「総合満足度」
は導入直後には一時的に低下し,その後上昇することが確認された.また,「第 5 章.指定
管理者制度導入による公共スポーツ施設の観戦者満足度の変化」において,スタジアムのサ
ービス・クオリティ因子として 6 因子が抽出され,「見やすさ」については有意な変化は見
られなかったが,制度の導入にともなう施設サービスの改善により,「清潔・快適さ」,
「飲食」,「ゴミ箱」,「トイレ」,「スタッフ」の 5 因子のサービス・クオリティが有意
に向上し,満足度が向上したことが明らかとなった.
サービスが向上した理由として,指定管理者の選定に「公募方式」が導入されたことが考
えられる.指定管理者制度では,公募による民間企業の参入を認め,既存の公益法人等を含
めて競争させ,サービス向上・経費節減のための創意工夫を生みだすことをねらいとしてい
る.つまり,公募方式によって,複数の事業者が企画提案を競い合っていることがサービス
水準の向上をもたらしていると考える.企画提案では,開業時間の延長・休館日数の削減・
清掃回数の増加・施設設備の改修など既存事業の改善項目の提案に加え,自主事業について
49
も提案が可能である.審査は総合評価方式であり,価格入札とは異なり企画提案書の内容を
重視している.また,企画提案書の内容の履行確認を自治体が行うため,提案した内容は確
実に実施しなければならない.これらの一連の仕組が,サービス水準の向上をもたらしたと
考える.
.....
次に,経費の節減については,「第 3 章.指定管理者制度による公費負担ならびに利用者
数の変化」において,指定管理者制度の導入により有意に公費負担が削減されたことがわか
った.
自治体の経費である指定管理料を下げるには,指定管理者が施設の利用料収入とその他収
入を上げる必要がある.施設の支出を下げることも考えられるが,光熱推費・修繕費・清掃
費・警備費・人件費などで構成されており,サービス水準を維持・向上させるには,支出を
大幅に下げることは難しいと考えられる.利用料収入の増加には,利用者数の増加が必要と
なる.したがって,指定管理料の削減は,利用者数の増大によってもたらされと考えられる.
実際に指定管理者制度の導入により有意に延利用者数が増大したことが明らかとなっている.
このように,延利用者数が増加し,利用料収入が増大したことにより,ほぼ毎年度に指定管
理料を縮減していくことができたと考えられる.
このように,総務省が当初に指定管理者制度の目的とした,住民サービスの向上と経費節
減の効果がもたらされるであろうことが,複数の事例から明らかとなった.
さらに,指定管理者制度には雇用創出効果があることも示唆された.「第 6 章.指定管理
者制度の導入が公共スポーツ施設の常勤雇用者数に与える影響」では,管理運営形態の相違
による常勤雇用者数については,「直営−直営」と「管理委託−指定管理」には有意な増減
はなかったが,「直営−指定管理」のみが有意に増加したことを明らかとした.
この理由は,「直営−直営」はサービスや施設規模などの変更がないため,そのままの人
員配置を継続し,「管理委託−指定管理」は従前より管理委託を受けていたスポーツ振興事
業団などが,そのまま指定管理となった可能性が高く,人員配置の変更をしていないと考え
られる.一方,「直営−指定管理」では,管理運営主体が自治体から民間事業者等に確実に
交代していることから人員体制が変更となったと考えられる. 「直営−指定管理」では,指
50
定管理者の選定に際して公募となることから,公募の場合には民間事業者など応募者間によ
る競争が激しく,競争で勝つためには開館時間の延長や自主事業などのプログラム充実の提
案が必要となる.そのためには,一層のマンパワーが必要となることから,常勤雇用者数の
増大がもたらされたと考えられる.
これらのことから,指定管理者制度では,事業者間での競争原理が働く公募方式を用いた
場合,サービス水準の向上をもたらし, 利用者が増大し,それにより収入全体が増加するこ
とにより,自治体からの委託費の削減効果が生じる可能性があると考えられる.また,副次
的な効果として,直営から指定管理者に変更となった場合,サービス水準を向上させるため
のマンパワーが必要となり,その結果,常勤雇用者数が増えるといった雇用創出効果も生じ
ると考えられる.
他方,コスト削減のために,設備の修理が遅れ発生した死亡事故を引き起こした事例や,
事業収支計画が甘く楽観的な経営により,事業継続が困難となり,指定管理者が取り消され
たキャンプ場や,あるいは指定管理を返上せざるを得なくなった体育館などの例もあり,ま
た,安上がりなパートタイマーの大量採用と使い捨てなどの雇用問題も発生している.
以上のように,指定管理者制度の導入によって,都市部の特定の施設においては公共スポ
ーツ施設の経営が改善されることが実証的に明らかとなった一方で,依然として全国各地で
指定管理者にともなう様々な問題が存在していることから,指定管理者制度の政策評価に際
しては,地域の立地特性や施設種別,指定管理者の選考方法などにも配慮したうえで慎重の
行う必要があろう.
51
第 8 章 まとめ
本研究により,公共スポーツ施設経営への指定管理者制度の導入効果について,都市部の
自治体ならびに特定施設において,自治体の財政支出が削減されるとともに,利用者数が増
大し,また利用者の満足度も向上し,さらに常勤雇用者数が増大するなど,指定管理者制度
の目的が達成できることが明らかとなった.
しかし,これらの結果はひとつの自治体のみの事例としていたり,1施設の個別事例研究
であったり,または全国調査とはいえ十分な回答数を得られていないことから,指定管理者
制度の導入よって公共スポーツ施設経営が改善されることについては,完全に一般化するに
は至らないことに配慮しなければならない.
また,この研究成果をもって公共スポーツ施設の民営化の促進を唱えることの問題にも十
分に配慮する必要があろう.
1990 年代に入り,「官から民へ」の規制緩和の潮流のなか,公共スポーツ施設の民営化が
急速に進んでいる.1999 年のPFI法施行により,民間企業でも一定の条件を満たせば公共
施設の設計・建設・運営が行うことができるようになった.すでに全国で 20 件,総額 1,000
億円を超える公共スポーツ施設のPFI事業が 10∼25 年契約で成立している.国体会場とな
る水泳プールや総合体育館,清掃工場併設の屋内温水プール,ゴルフ場のリニューアルなど,
民間企業のノウハウを活用した新規事業に大きな期待が寄せられている.
また,2003 年の地方自治法の改正にともない,自治体が出資した法人以外でも公共施設の
運営を可能とした指定管理者制度が全国各地で導入されている.Jリーグで使用するビッグ
スタジアムから地域のグラウンド・体育館・水泳プールまで,地方自治体が所有する全ての
公共施設が対象となり,1万箇所を超えるスポーツ施設で指定管理者制度を導入している.
この制度は原則として公募であり,これまで管理運営をしてきた第3セクターや出資団体
と,民間企業やNPO法人とが競争し,最も優れた企画提案をした事業者を選定している.
これにより,より良いサービスを低コストで提供することをねらっている.一方,シンクタ
ンクの調査によると,地方自治体の8割が財政支出の削減を第一目標としており,サービス
向上よりも経費削減に主眼が置かれている.厳しい財政事情のなか,まずは事業者への指定
52
管理料(委託費)を縮減したいとの意向が働くのはわかる.また,公募審査の段階でも,委
託費は明確であるが,サービスの質を定量化し,甲乙をつけるのは難しく,そのため委託費
が審査結果に強く影響していることも推察できる.
民営化先進国のイギリスでは,サービスの質を定量的に評価できるよう,同種・同規模施
設での利用者満足度を比較するためのベンチマーキングが導入されているが,わが国ではま
だ質的な評価が定まっていないことも遠因であろう.
このようななか,2006 年に埼玉県ふじみ野市の屋外プールで児童の死亡事故が発生した.
このプールは指定管理者制度ではなく,市が直営していたが,実際には民間企業に業務を委
託し,その企業はさらに他社に孫請けさせていた.制度上は自治体直営であるが,事故現場
では民間企業が監視・管理していたことから,民間企業が利益を求めた結果,ずさんな管理
となったとする論調もある.このことから,「民間企業=悪玉」といった構図も生まれつつ
あり,指定管理者制度は改悪であり,民営化には大きな陥穽があるといった論理もでてきて
いるようだ.
しかし,文部科学省の緊急調査によると,吸水口や排水口に安全対策の不備があったプー
ルは,全国に 1,901 箇所もあることがわかった.従前から安全対策に関する通知が出されて
おり,指定管理者制度より以前に,自治体の対応に不備があったことがうかがえる.新規に
指定管理者になった企業が,施設・設備の瑕疵や点検方法を熟知しているわけではなく,設
置者である自治体が仕様書で示さなければ,民間企業だからといって,わかるわけではない.
指定管理者制度においても「官か民か」という二項対立的に,「誰が」管理運営するのか
についての議論には意味がなく,「何をどのように」から出発し,そのうえで VFM(Value
for Money)を最大とする者が管理運営をすれば良いのである.
公共スポーツ施設の民営化は,自治体と民間事業者とのパートナーシップが成功の鍵を握
るわけであり,民営化の結果として自治体に新たな業務が増えることもあるかも知れない.
民営化は単なる安上がり行政ではないし,民間企業にとっての新たな草刈場でもないことを,
スポーツ関係者は正しく理解する必要があるだろう.
これらのことを理解した,公共スポーツ施設の管理運営者の育成と配置が,今後の公共ス
53
ポーツ施設政策にとって重要であり(補論2を参照),さらに,指定管理者の二巡目に向け
て,公募方式の完全導入や事業評価など指定管理者制度についての改善も求められている
(補論3を参照).
54
■巻末註
註1)New Public Management(以下,NPM)とは,大住(1999)によると,1980 年代半ば以降,イギリス,
ニュージーランド,カナダなどを中心に,行政実務の現場主導によって構築されたマネジメント理論で,おお
よそ3つのポイントに集約される.
①行政サービス部門をより分権化,分散化した単位の活動を調整することで,市場分野であろうとなかろう
と「競争原理」の導入を図ること,②施策の企画・立案部門と執行部門とを分離し,前者は集権的に全体の整
合性に配慮しつつ決定し,後者は分権化した業務単位に権限を移譲すること,③業績/成果に基づく管理手法
を可能な限り広げることであり,これまでの伝統的な官僚システムと比較するとNPMの特徴は,さらに際立
つ(表19).
表19
New Public Managementによるシステムと伝統的完了システム
伝統的官僚システム
NPMによるシステム
法令規則による管理
業績と成果による管理
単一の職務に特化した分業
柔軟な組織運営
明確なヒエラルキー
小規模な組織間でのマネジメント
競争的な手段の限定的な活用
民間委託や内部市場システム活用
戦略マネジメントの欠如
顧客(住民あるいは利用者)のニーズの反映
出所)大住( 1999)より作成
NPMの特徴としては,評価手法の確立があげられる.これまで行政目標は施設数,整備率などの供給サイ
ドを中心としたアウトプット(結果)をもとに行われてきた.しかし,NPMでは国民を顧客に見立てること
から,利用率,満足度などの需要サイドに立ったアウトカム(成果)を目標とし,それにもとづき「行政評
価」を行う点が特徴である.これは,まさに経営学にもとづき,顧客満足度を重視した行政のマネジメントで
あり,この観点から民間活力の導入が各国で行われている.
NPMは行政サービスの民営化にも特徴がある.硬直化する行財政の改革を目的に,公共サービスの民営化
論が改めて議論の俎上に上っている.特に最近では,郵政事業の民営化が注目されている.民営化論は新しい
ようで古くからある.明治維新を経た日本の近代化の過程でのいわゆる払い下げに始まり,戦後のGHQ占領政
策の一環として国営企業の公社化につながり,近年では1980年代の第二臨調にもとづく国鉄の民営化など,い
わゆる3公社(国鉄,電電公社,専売公社)の株式会社化のように,民営化論は絶えず議論されてきた.つま
り,政府の役割は時代とともに変化し,それに応じた民営化が行われてきたといえる.民営化とは
Privatizationの訳語であるが,この意味は公企業の株式会社化といった狭い範囲ではなく,「Privatization
は,経済全体の効率をあげるために市場メカニズムを重視し,国家の経済・社会に対する関与を縮減するこ
と」(松原,1991)であり,民間委託や経済的規制緩和,独占禁止法の強化などを幅広く含む(図4).すな
わち,民営化論の本質は「小さな政府」であり,1970年代のケインズ的政策としての「政府の失敗」を踏まえ
た,1980年代のイギリス・米国を中心とした「新保守主義」がその基礎にある.1980年代の民営化論は「厚生
経済学」「公共選択の理論」「エージェンシー理論」であるが,1990年代以降は「ニュー・パブリック・マネ
ジメント理論」の流れのなかに位置付けられる.「とりわけNPM理論は,公的セクターも私企業と同じよう
に合理的なマネジメントを行うかという課題を追求したもの」(白川他,1999)であることから,最近の民営
化論は,行政サービスの民間への移管・委託といった事業主体の変更にとどまらず,それによるサービス向上,
55
業務効率化など「行政評価」を現実に求める点に特徴がある.つまり,官僚機構の制度疲労を認め,ディスク
ロージャーを強化し,広く民間企業や国民の行政参画を促す方向にあるといえる.イギリスでも,「政府の失
敗」が他の公共サービスと同様に公共スポーツ政策の改良を促進しており,それは福祉政策からの脱却という
よりはむしろ,政策の効率性の観点を見据えた新しい評価方法の導入が進められている
(Gratton,Taylor,2000).わが国の公共スポーツ施設行政についてもNPMの導入が着実に広まりつつある.
図4.Privatizationの政策体系
註2)イギリスでは1979年のサッチャー政権から,公共スポーツ施設へのNPMの導入が進められている(表
20).
表20.結果とアカウンタビリティ志向の行政改革
国
イギリス
ニュージーランド
カナダ
アメリカ
年
1982
行財政改革
Financial Management Initiative
1988
Next Steps
1989
Compulsory Competetive Tendering
1991
Citizen`s Charter
1992
Private Finance Initiative
1997
Best Value
2002
Coprehensive Performance Assesment
1984
Comprehensive Spending Review
1989
Public Service 2000
1994
Program Review
1996
Getting Government Right
1993
National Performance Review GRPA
出所)白川( 1998)に加筆
国有企業の民営化にはじまり,に示したように,1982年の行財政管理制度の改革である Financial
Management Initiative ,民営化や民間委託の可能性を探った上でのエージェンシー化を進める Next
Steps を踏まえ,行政サービス基準を定めた市民憲章である1988年の Citizen,s Charter を経て,1989
年には公共サービスへの民間企業も含めた競争入札方式である Compulsory Competitive Tendering を導入
し,さらに設計から建設・運営までを民間企業とのパートナーシップによって進める新たな公共施設整備手法
56
である Private Finace Initiative へと進展した.これら一連の政策は保守党によって進められたが,
1997年の労働党への政権交代後も Best Value として継承され,その後は,金額だけでなくサービス・クオ
リティも含めて包括的に公共サービスの評価を行う Comprehensive Perfomance Assesment へと展開し,広
く公共施設の経営改善が進められている.同様に,ニュージーランド,カナダ,アメリカでも,結果とアカウ
ンタビリティを明示化した行財政改革が進められている.このような傾向は,公共セクターを取り巻く環境で
の,様々な要因が相互に作用・関連し,その結果として生じている(Robinson,2004).具体的には,法制度
の改正は当然ながら,消費者意識の変化,スポーツ施設の競争激化,施設経営者のプロフェッショナリズムの
向上などが相互に作用し,今日に至っている.以下にイギリスの公共スポーツ施設に関する主な改革について
説明する.
①CCT(Compulsory Competitive Tendering):1980年にサッチャー政権の下で,CCTは法制化された.
それまで自治体が直営で行っていた事業の効率性を見直すために,一定の業務については民間事業者との競争
入札を義務づけた.公共スポーツ施設についてもCCTが適用された.しかし,CCTでは入札金額による選定であ
るため,必ずしもサービスの質を担保することができず,「安かろう悪かろう」といった悪循環に陥った施設
もある.Compulsory(強制)という言葉のニュアンスから反発も多く,自己評価・報告の仕組がなかったこと
もあり,制度としてのCCTは改善を余儀なくされた.
②BV(Best Value):1997年に労働党が保守党を総選挙で破り,金額だけでなくサービスの質も評価に入
れた Best Value政策 が導入された.BVでは,施設サービスの結果を重視し,利用者志向(Customer
Oriented)を特徴としている.CCTとの相違点は,中央政府が強制するのではなく,職員にシステムの効率的
な運用を考えさせることで,モチベーションを高めたところである.公共スポーツ施設にも適用されており,
管理運営費とサービスの質のバランスを重視した経営が行われている.
③CPA(Comprehensive Performance Assessment):CPAはBVから派生したパフォーマンス・マネー
ジメント・フレームワークであり,2002年に労働党政権により導入された評価システムである.2005年からC
PAの新しいセクションとして,スポーツを含む「文化」の項目が設立された.CCTやBVでは課すことがで
きなかったカウンティー・カウンシルの公共サービスのパフォーマンスの質を統一の基準で評価し,地域住民
に対してその結果を公表している.評価基準は,1)スポーツ/フィジカル・アクティヴィティーとスポーツ・
ボランティアへの参加,2)Value for Money,3)平等(Equity− スポーツ・レクリエーション施設にアクセ
スの拡大),4)選択と機会があり,さらに詳細な項目として,7つの指標があるが,そのうちの2つのみが
財政的指標である,という点がCCTやBVとの違いであり,ある意味で費用対効果を検証する方法でもある.公
共スポーツ施設については,Sport Englandが文化・メディア・スポーツ省(Department for Culture, Media
and Sport; 以下DCMS)の公共サービス契約(Public Service Agreement; 以下PSA)に基づき,評価値を設定
している.地方自治体が公共スポーツ施設への最大の投資者であり,運営者であることから,費用対効果を最
大化した運営ができるよう,Sport Englandは上記の評価値に従い,「根拠(Evidence)」により裏付けされた
「知識の共有」を地方自治体に対して行っている.しかし,NPM発祥の地であるイギリスでも1980年代当初か
らの段階的な行政改革の試行錯誤の結果ようやくCPAに行き着いたのが実情であり,費用対効果の重要性を理
解していたとしても,その実際には,実に多様なオプションとステップがあることがわかる.したがって,
CPA自身も行政改革の最終解とは限らず,今後さらに次の段階に発展する可能性も考えられる.
註3) 自治体の財政支出が逼迫し,公共スポーツ施設の経営改善が求められるなか,1990年後半からは公共
57
スポーツ施設の効率を高めるために,一部の自治体では新しい運営手法の導入が進められてきた(図5).こ
れらの新しい方式は,公共スポーツ施設のマネジメントの方向性を示唆している.従来の自治体直営または事
業団委託による「損出補填方式」は大多数の公共スポーツ施設で採用されいたが,図5に示したように様々な
民営化方策が展開してきている.民間事業者にとっては,「損出補填方式」や「利用料金制度方式」から「P
FI方式」へと向かうにつれ,ハイリスク・ハイリターンとなるといえる.したがって,どの方式が優れてい
るかということではなく,マーケットのリスクに応じて方式を選択するのが適切である.
方式
損出補填方式
利用料金制度方式
(指定管理者制度)
管理許可方式
(テナント方式)
建設経営委託方式
PFI方式
(Private Finance
Initiative)
根拠法
地方自治法
地方自治法
都市公園法
地方自治法
PFI法
概要
運営ノウハウを有す
る事業者に運営を委
託し、収支差額を補填
する方式。
利用料収入を事業
者の収入とすることを
前提に、高度な運営ノ
ウハウを有する事業
者に運営委託する方
式。
施設管理・運営ノウ
ハウを有する事業者
に有料で施設管理運
営を許可する方式。
比較的簡単な契約
にもとづき、施設の設
計、建設、管理運営ま
ですべてを事業者に
委ねる方式。
契約にもとづき、施
設の設計、建設、管理
運営まですべてを事
業者に委ねる方式。
長所
直営よりも事業者の
ノウハウを活用でき
る。定額方式よりも、
自治体の負担が小さく
なる可能性が大きい。
利用料収入が事業
者の売上げに反映さ
れるため、事業者とし
てもノウハウをフルに
活用することから、利
用者数の増加が期待
できる。
行政は賃料収入(管
理許可使用料)が得ら
れ、事業者は裁量も
大きく経営の自由度
が増し、集客のインセ
ンティブも高い。改築
も自由にできる。
施設設計から運営
まで事業者の創意工
夫を最大限に発揮で
きる。長期的に行政負
担が軽減される。PFI
法の制約を受けない。
施設設計から運営
まで事業者の創意工
夫を最大限に発揮で
きる。長期的に行政負
担が軽減される。
短所
受託事業者のインセ
ンティブがないため、
自治体からの出向職
員によるコントロール
が必要。
利用者減により事業
者収入が大きく減少
するリスクがある。ま
た、収入増加分の支
払い方法について行
政との微妙な調整が
必要。
都市公園法により適 PFIに比べリスク管
用施設が限定される。 理や破綻時の責任管
使用料が定額のため 理等が曖昧。
事業者のリスクは大き
い。
事業者としての建設
費調達、設計業務の
実施など資金リスク、
設計リスクが発生す
る。事業者選定、契約
等の一連の手続きが
複雑。
自治体が施設建設
民間が施設建設(増改築を含む)
図5.公共スポーツ施設の管理運営方式
①損出補填方式:事業団等を通じたいわゆる「民間事業者委託」では,これまで「損出補填方式」が主流で
あった.事業者にとっては,仕様通りの業務をこなせば確実に委託費をもらえることからローリスクの事業で
あり,また自治体にとっても積算がしやすく予算化も容易であり,民間事業者委託といえば,すなわち損出補
填によるほぼ定額の方式であった.ところが,公共スポーツ施設の費用対効果や住民の利用率・満足度の向上
が求められるにつれ,この方式のデメリットが指摘されるようになってきた.この方式では,受託事業者にと
って利用者数の増大やサービス向上への動機付けが少なく,事業者のリスク回避の観点からは,むしろ利用者
が少なく,仕様通りの業務を無事にこなす方向に誘導されてしまうことになる.しかし,集客を行う仕組みも
ある.それがNPOへの定額委託方式である.地域住民がNPO法人(特定非営利活動法人)を取得し,そこ
に運営を委託する方式である.半田市では,総合型地域スポーツクラブである「ソシオ成岩スポーツクラブ」
がNPO法人を取得し,成岩中学校の新設体育館の運営を受託した.NPOは会員数すなわち同志を増やすイ
ンセンティブがそもそも内在するため,委託費が定額であっても,利用者を増やそうとする組織動機が働く.
このため結果として集客が行われている.
58
②利用料金制度方式:自治体からの委託費は定額であり,仮に年間支出額が委託費を下回れば赤字となるが,
委託費を上回る収入があれば,それは事業者の収入となる.このため,受託事業者は利益最大化に向けてノウ
ハウをフルに発揮することになる.当然,利用者数の減少リスクを負うことになるが,マーケティングが成功
すれば利益も大きい.「たくまシーマックス」では,町人口1万5,500人かつ海岸立地のため商圏としては極め
て厳しい条件ながら,設立初年度で平均月会費4,500円で周辺町村を含めて総会員数約5,000人を集めた実績が
ある.この施設の採算分岐点ともいえる当初の見込み会員数は2,500人であったので,「出来高方式」が受託
事業者にとって,いかに大きな利益をもたらしているかが想像できる.これが仮に損出補填による「定額方
式」であったならば,ここまで会員数を確保することはできなかったと推察される.
③管理許可方式:自治体は当該施設を民間事業者に有償で管理許可使用を許可し,民間事業者はいわゆるテ
ナントとして,そのスペースを経営し利益の最大化を図る.自治体は入札を行い,テナント料が最も高い事業
者を選定することになる.このため,自治体にとっては「コスト施設」と考えられていたものが「プロフィッ
ト施設」へと転換することになる.受託した民間事業者は人件費などに加え,さらにテナント料が上乗せされ
るため,前述の「出来高方式」よりも,さらにリスクが高まるが,一方で,テナントとして事業の自由度は高
まる.神戸市では,都市公園法第5条の解釈により,市営「グリーンスタジアム神戸」を「オリックス野球ク
ラブ(株)」に年間1.3億円で管理許可使用を許可した.これにより,従前の年間5,000万円の赤字(施設使用
料等収入3.1億円に対して人件費,光熱水費等が3.6億円)が,2,000万円の黒字(1.3億円の使用料収入に対し
て管理費1.1億円)に転換した.使用許可を受けたオリックス野球クラブ(株)も,座席の増設,飲食テナン
トの充実などにより観客料収入の増大に工夫を凝らすとともに,自社オフィスの球場下事務所への移転などに
より,相応の経済的なメリットを得ている.都市公園ではないが,類似事例として「はびきのコロセアム」の
トレーニングルームがあげられる.ここでは体育館内のトレーニングルームを,売店と同様に主たる施設では
ないと解釈し,民間事業者に経営委託している.受託事業者はトレーニングルームとあわせて館内の温浴施設
を利用できる条件で,初年度に月会費6,000円で会員2,000人を集めた実績がある.受託事業者からすると,賃
料200万円/月は必ずしも安くはないが,好立地かつ公共施設としての信用度を考慮すると,リスクをとって
も十分にメリットがある.
④建設経営委託方式:前記①∼③の方式では,すべて自治体が施設を建設し,その後の運営を民間事業者に
委ねている.しかし,これらの施設は民間事業者にとっては必ずしも面積,配置,動線など経営効率の良い施
設ではない場合もあり,経営ノウハウが十分に発揮できないといった問題も生じている.そこで,設計,施工,
運営を担う事業者をひとつのグループとして公募・審査し,その後,個別に発注する「建設経営委託方式」を
採用した自治体がある.石川県かほく市(旧高松町)のケースでは,自治体が施設整備を当初に一括して支払
うかわりに,その後の運営については極めて定額しか支払わないことを条件としている.民間事業者グループ
は,運営を中心に施設設計を行うことができ,それぞれが担当部分のリスクを負うだけで済む.なお,本方式
の条件として自治体が初期投資(建設費)を一括して支払うことがPFI方式とは異なる.
⑤PFI方式:施設の設計・建設・運営を一括して民間事業者に委ねるPFI方式(Private Finance
Initiative)の導入が公共スポーツ施設についても進められている.厳しい財政事情のなか,補助金,起債を
含めて自治体単独での施設建設費の確保が難しいこともあり,PFIは,公共スポーツ施設の新たな整備手法
として注目され始めている.PFI方式は,民間事業者が設立したSPC(特定目的会社)に建設コストの調達
も含めて,設計・施工・運営を一括発注する方式である.民間事業者によるファイナンスが大きな特徴であり,
住民の施設需要は高いが,自治体として建設費の一括支払が困難であり,分割払いであれば可能な場合に適し
59
ている方式といえる.加古川市立総合体育館(兵庫県),尼崎の森中央緑地スポーツ健康増進施設(兵庫県),
県立長岡屋内総合プール(新潟県)など国民体育大会の会場施設にPFIが導入されている.
註4)PFIについてみると,イギリスでは,鉄道・道路,病院,防衛施設などあらゆる公共施設にPFIが
導入されているが,スポーツに関しては1%以下と推察される.スポーツ施設のPFIの導入事例が少ない理
由として,スポーツ施設には宝くじが財源として充当されることがあげられる.また,スポーツの歴史が長い
イギリスでは主たるスポーツ施設はすでに整備されており,新規整備の件数が少ないこともあげられる.イギ
リスのスポーツ施設関連のPFIとしては,昨今の健康志向も反映し,Leisure Centreとよばれる,地域の水
泳プール・スタジオ・ジムなどへの導入が進められている.施設規模が大きくないこともあり,整備費も日本
円にして,15∼30億円程度である(表21).しかし,PFI先進国であっても,わが国のPFIと同様にリス
ク分担などの契約は複雑であることから,4Ps(The Public Private Partnership Programme Ltd.)とよばれ
る専門家集団がコンサルティングを行っている.4Psは,1996年4月,イングランド・ウェールズの地方自治体
協会により設立され,PFIを実施する過程における地方政府の支援・アドバイスをしている.450の地方自
治体を対象に,職員は弁護士,会計士,設計士,関係サービス分野の専門家などで構成されている.マンパワ
ーに限界があることもあり,一時点におけるアドバイス件数は約50件に制限しており,詳細なアドバイスまで
実施した件数は約15件(2002年)であった.関係省庁と定期的な会合を行い,地方公共団体の意見を伝えたり,
政府統計(Spending Review)の際に,分野別配分額などについて大蔵省に提案するなど,地方公共団体の行
うコンペの標準化に主導的な役割を果たしている.PFIの初期段階などにどのようなアドバイザーを雇う必
要があるかといったアドバイスを行うことも4Psの役割であるが,4Ps自体が民間アドバイザーに代替するわけ
ではなく,あくまでも中立的な機関として存在している.
表21.イギリスにおけるスポーツレジャーのPFIの事例
施設/プログラム
自治体名
PPP/PFI
現状
資本価値
(百万ポンド)
Amber Valley Borough Council Leisure Facilities
PFI
告知済み
Bexley Council
Sporting & Recreational Services
PPP
告知済み
11
-
Breckland Council
Leisure Facilities
PFI
告知前
10
Breckland Council
Leisure Facilities
PFI
告知済み
7
Kerrier DC
New Leisure Centre
非公式
-
LB of Brent
Willesden Sports Centre
未定
PFI
告知済み
-
LB of Croydon
Leisure Project
PPP
告知前
-
LB of Lewisham
Leisure Facilities
PFI
告知済み
12
6
Sefton MBC
Leisure Centre
PFI
契約済み
Penwith District Council
Leisure Facilities
PFI
告知済み
6
University of Brighton
Leisure Centre
PFI
契約済み
14
Uttlesford District Council
Leisure Centre
PFI
契約済み
10.5
Wolverhampton City
Leisure Services
PFI
非公式
-
th
th
出所:Leisure & Hospitality Business (2002.19 September- 20 October)
わが国についてみると,初のスポーツ施設系のPFIである「タラソ福岡」が2004年11月に事業停止した.
福岡市PFI事業推進委員会(2005)によると,①事業リスクに対する認識の低さ,②管理者(福岡市)のP
FI事業に対する認識不足,③民間事業者のリスク意識の欠如,④融資者のPFI事業における機能不全,⑤
相互監視牽制システムの未構築を破綻の原因としている.また,建設業者による営業実績づくりのためのダン
ピングや不動産を担保とした借入れ,あるいは構成員間の利益相及なども指摘されている(図6).PFIの
導入期に自治体,事業者,金融機関の3者が互いに手探りで始めたため情状酌量の余地はあるものの,大きな
60
課題を残した.現在は,福岡市が施設を買い取り,他の民間事業者に委託することで一応の決着をみたが,そ
の間,市民利用は中断されてしまった. このことは,現在,わが国で進められている公共スポーツ施設の民
営化に対して重要な示唆を与える.NPMとしての単純な民営化や民間委託の推進だけでは問題があり,自治
体と民間事業者との信頼関係の構築が不可欠であり,そのために相互での情報開示と対等な意見交換が求めら
れる.このようなPFIの破綻は,民営化を含めた公共スポーツ施設へのNPMの見通しの厳しさ,特に公共
スポーツ施設の「指定管理者」に対して細心の注意と緻密な計画とを促す契機となることと思われる.
図6.福岡市でのPFI破綻の構造
註5)わが国に広く整備されている公共スポーツ施設は,その集客性の観点から自治体にとっても大きな問題
を抱えている.民間施設数の3倍近くあり,一方で潜在的なスポーツ実施者は身近な施設の利用を希望してい
るにもかかわらず,公共施設の利用率は低いといった矛盾が生じている.他方で民間施設事業者が集客を成功
させていることを考慮すると,公共の体育館,トレーニングルーム,プールさらにはグラウンドなどの民営化
は,民間事業者にとっての新しいビジネスチャンスとも考えられる.実際,公共スポーツ施設の運営受託に,
自らもリスクを取りつつ積極的にチャレンジする民間事業者が出てきている.地価の高いわが国において,用
地取得・施設建設を含めたスポーツビジネスが成立するケースは極めて限られている.したがって,自治体と
のパートナーシップに新たなビジネスチャンスを見つけることは当然の成り行きと考える. 公共スポーツ施
設については,これまでマーケティングの導入が遅れているため,立地・施設設備などからみても,十分にビ
ジネスが成立する施設が見過ごされてきている.駅前,密集住宅街,役所周辺などの好立地や民間をも凌ぐ素
晴らしい設備などを有する施設が数多く存在する.このためこれらの公共スポーツ施設については,民営事業
者と自治体とのパートナーシップによる,新しい公共スポーツ施設ビジネスが,NPMの潮流となりつつある.
これまで公共スポーツ施設は行政責任の一環として公的な関与が当然とされてきたが,むしろ公共スポーツ施
設にこそ民間事業者とのパートナーシップが求められている.フィットネスクラブやテニスクラブのように条
件が整えば市場が成立し,プロフィット施設として経営している実例が存在するなか,単純な公民役割分担論
による行政サービスでは,地域住民へのアカウンタビリティは乏しい.小泉内閣においては「聖域なき構造改
革」といわれる時代に,公営のスポーツ施設を維持し発展させるには,自治体自らの存在意義をデータで示す
とともに,成果(アウトカム)をあげるために産官学民による新しい民営化の仕組みづくりが不可欠といえよ
う.一方,公共スポーツ施設は,そもそも採算性が低いことから,歴史的にも自治体が整備してきており,単
純に民営化すれば,それで成功するものでもない.公共スポーツ施設へのNPM導入の成功は,運営を成功さ
61
せることに尽きる.一般に,総事業費の70%以上が「運営・維持・管理」であり,建設費は30%以下に過ぎな
い.このことからも,運営を担当する事業者の採算性は,NPMの成立の鍵を握る.しかし,一般には公共ス
ポーツ施設事業は,当初に発生する20∼30%の設計・建設費に目が向き,建設会社や金融機関の役割が過大評
価される傾向が少なくない.建設事業者に比べて運営事業者の資本は小さく,建設費を十分に調達する能力が
低いことにも起因しているであろう.このため,公共スポーツ施設のNPMでも運営事業者よりも建設事業者
や金融機関が前面に出ることは少なくない.公共スポーツ施設のマネジメントの生命線は運営・維持・管理で
あり,それを担う事業者のノウハウが最大限に発揮されるべく,施設設計・建設が実施されなければならない.
住民サービスを直接しかも長期間に担う運営事業者が事業全体の中核とならなければ,NPMは成功し得ない
と考える.公共スポーツ施設の価値は運営によって決まる.既存施設でも「指定管理者制度」(後述)の導入
が始まるなか,新設・既存に限らず,施設ごとにベスト・バリューを発揮できる最適な事業方式の検討が求め
られている.
62
■文献
引用参考文献は,各章別にアルファベット順に掲載した.補論については各論の末尾に同
様に掲載した.
第1章.序論
間野義之,庄子博人,本目えみ(2009)公共スポーツ施設の指定管理者制度導入前後の利用
者満足度の変化―A 体育館を対象とした事例研究―,スポーツ産業学研究, Vol.19, 223-229.
間野義之,庄子博人(2010)指定管理者制度導入によるスタジアムのサービス・クオリティ
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間野義之(2007)公共スポーツ施設のマネジメント,体育施設出版, 東京,48-56.
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SSF 笹川スポーツ財団(2006)スポーツ白書−スポーツの新たな価値の発見−.
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第2章.研究上の問題の所在ならびに研究目的
八代勉,柳沢和雄 (1991)公共スポ-ツ施設の経営と課題,体育の科学 41(5), 362-365.
第3章.指定管理者制度による公費負担ならびに利用者数の変化
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63
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第4章.指定管理者制度によるスポーツ実施者の満足度の変化
Coalter, F.(1995)Compulsory Competitive Tendering for Sport and Leisure: a Lost
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間野義之(2007)公共スポーツ施設のマネジメント,体育施設出版, pp103-105,.
三菱総合研究所(2006)地方自治体における PPP に関する調査.
Nichols, G.(1996) The Impact of Compulsory Competitive Tendering on Planning in
Leisure Departments, Managing Leisure, 1, pp105-114.
第5章.指定管理者制度によるスポーツ観戦者の満足度の変化
間野義之,庄子博人,本目えみ(2009)公共スポーツ施設の指定管理者制度導入前後の利用
者満足度の変化―A 体育館を対象とした事例研究―,スポーツ産業学研究,,Vol.19, No.2,
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尾林芳匡(2006)第 2 章公の施設の指定管理者制度の仕組みと対応,「自治体問題研究所編;
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総務省(2003)地方自治法の一部を改正する法律の公布について(通知,総行行第 87 号).
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第6章.指定管理者制度による雇用者数の変化
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間野義之, 庄子博人, 本目えみ(2009)公共スポーツ施設の指定管理者制度導入前後の利用
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間野義之,庄子博人(2010)指定管理者制度導入によるスタジアムのサービス・クオリティの
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上山信一・桧森隆一(2008)行政の解体と再生, 東洋経済新報社, pp.106−110, pp.124-126,
第7章.総合論議
Coalter, F.(1995) Compulsory Competitive Tendering for Sport and Leisure
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McVicar,A., Ogden,M.S.(2001)Flexible Working in Sport and Recreation: Current
Practices in Scottish Public, Not-for-profit and Private Leisure Facilities,
Managing Leisure, Vol.6, pp.125-140.
間野義之(2007) 公共スポーツ施設のマネジメント,体育施設出版, pp103-105.
間野義之,庄子博人,本目えみ(2009)公共スポーツ施設の指定管理者制度導入前後の利用
者満足度の変化―A 体育館を対象とした事例研究―,スポーツ産業学研究,,Vol.19, No.2,
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間野義之,庄子博人(2010)指定管理者制度導入によるスタジアムのサービス・クオリティの
65
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上山信一・桧森隆一(2008)行政の解体と再生, 東洋経済新報社, pp106−110,pp124-126.
第 8 章.まとめ
間野義之(2007)公共スポーツ施設のマネジメント, pp182-183.体育施設出版.
巻末註
福岡市PFI事業推進委員会(2005)タラソ福岡の経営破綻に関する調査検討報告書
Gratton,C.& Taylor,P.(2000)Economics of sport and revreation, E&FN SPON.
松原聡(1991)民営化と規制緩和,日本評論社.
大住莊四郎(1999 )ニュー・パブリックマネジメント―理念・ビジョン・戦略,日本評論社.
Robinson,L.(2004)Managing public sport and leisure services, Routledge.
白川一郎(1999)行政改革をどう進めるか,日本放送出版会.
66
補論1.スポーツ政策研究の潮流と課題―指定管理者制度の実証研究に向けて―
1.スポーツ政策研究の定義と研究領域
スポーツ振興基本計画の改定,スポーツ基本法の制定やスポーツ庁の設立などが取りざた
されるなか,これらの動きに対して科学的根拠の提供につながるスポーツ政策研究の重要性
が増大してきている.
スポーツ政策研究の学問領域について,諏訪(2008)は「体育・スポーツ政策に関係ある
学問領域として,政治,行政,財政,経済,法規,制度,経営管理および国際比較等が挙げ
られる」としている.
政策研究の学問的方法論は政策科学といわれるが,宮川(1997)は 「政策科学は,政策
問題の解明と合理的解決のための政策プロセスおよび政策決定の方法とシステムを研究する
科学」としている.
さらに研究対象については,スポーツ政策に特化した初の国際的学術誌である
International Journal of Sport Policy の巻頭言において編集長である Houlihan ら
(2009)は,「第一に,スポーツの発展を形づくる際に,現代の世界においてそれがどのよ
うに経験されているかについて,政府と国家の役割の分析に関する学術論文の提示が求めら
れている.第二に,より重要なことは,スポーツにおいて国家による介入の本質や影響への
批判的反応を刺激する必要性を議論することである.」としており,政府・国家が行うスポ
ーツ施策を研究対象としている.
上記のことから,筆者はスポーツ政策研究を「国家・中央政府・地方政府などによる,ス
ポーツに対する様々な施策を対象とし,そのプロセス・決定方法や評価に関して行う研究.
国際機関が行うスポーツに対する施策も含む.」と定義した.
Houlihan ら(2009)は,スポーツ政策研究について,5つの研究領域を提示している.
「A: マクロ・メゾレベルの理論と分析フレームを用いたスポーツ政策形成過程を分析した理
論研究(以下,A 政策理論研究)」,「B: スポーツ政策のインパクトに関する実証研究(以
下,B 政策評価)」,「C: スポーツ政策に関する政府・地方自治体の役割・影響に関する研
67
究.経済,社会,文化,外交などへのスポーツの有用性を含む(以下,C スポーツ以外への波
及効果)」,「D: スポーツクラブ,スポーツ団体,民間営利事業者等の活動に与える,規制
や資源配分などの政府の役割に関する研究(以下,D 政府の介入方法に関する研究)」,そし
て,「E: 国際的な機関(EU, UNESCO, WADA, IOC, IF など)がスポーツの発展や規制に及ぼ
す影響の研究(以下,E 国際機関の研究)」としている.
本稿では,上記の定義ならびに A から E までの5つの研究領域をもとに,スポーツ政策研
究に関する国内外の学術誌から,スポーツ政策研究についての潮流を概観することを目的と
する.また,加えて我が国のスポーツ政策のひとつである公共スポーツ施設への「指定管理
者制度」の導入に対して,筆者による実証研究の取り組みとそこから得られた課題を示すこ
ととする.
2.スポーツ政策研究の諸外国の動向
諸外国におけるスポーツ政策の研究状況についてみると,2001 年から 2003 年の 9 つの主要
な英文学術誌に掲載されたスポーツ政策研究は 16%であった(Houlihan,2005).また,2003
年 9 月から 2008 年中頃では,18%とわずかながら上昇したと報告している(Houlihan et
al.,2009).
筆者が 2000 年∼2009 年 4 月までの英文のスポーツマネジメント研究学術誌 5 誌についてス
ポーツ政策研究の定義ならびに 5 つの領域に該当する論文数を調べたところ,スポーツ政策
に関する学術論文は 92 編であり,全体(631 編)の 14.6%であった(表 22).これは前述の
Houlihan の調査結果を下回った.その理由は,スポーツ政策に関する研究は,スポーツ社会
学のなかで取り扱われてきた経緯があり,前述 5 誌にスポーツ社会学関係の学術誌を含んで
いないためと考えられる.
68
表 22.スポーツマネジメント研究学術誌(英文)におけるスポーツ政策の研究動向
(2000-2009)
スポーツ政策研究
その他
合計
A
B
C
D
E
International Journal of Sport Policy*
計
10
4
2
0
2
2
0
10
Journal of Sport Management
9
3
5
0
0
1
186
195
Sport Marketing Review
6
2
2
1
0
1
112
118
European Sport Management Quarterly
31
9
13
0
3
6
113
144
Managing Leisure
36
4
26
3
2
1
128
164
Total
92
22
48
4
7
11
539
14.6%
3.5%
7.6%
0.6% 1.1%
1.7%
631
100.0%
100.0% 23.9% 52.2% 4.3% 7.6% 12.0%
*: 2009年創刊
これら 92 編のうち 67 編(72.8%)が,ヨーロッパの研究者による論文が多く掲載されて
いる Managing Leisure と European Sport Management Quarterly であった.北米の研
究者を中心とした Journal Sport Management と Sport Marketing Review でのスポー
ツ政策研究の割合は低く,ヨーロッパの研究者にスポーツ政策研究の関心が高いことがうか
がえる.
また,研究領域では,「B 政策評価」が 48 編(52.2%)と半数以上をしめ,「A 政策理論
研究」(22 編,23.9%),「E 国際機関の研究」(11 編,12.0%)と続く.「D 政府による
介入方法の研究」(7 編,7.6%),「C スポーツ以外への波及効果」(4 編,4.3%)は少な
い.
なお,最近の研究トピックスとしては, New Public Management
, Social Impact
,
Subsidy , Decision Making , Elite Sport or Sport for All などが目につく.
3.わが国のスポーツ政策研究の動向と課題
わが国のスポーツ政策研究については,関(1975)によると,初期のスポーツ政策研究は,
当初は政府・自治体の機能と役割に着目したスポーツ行政の研究で,宮畑虎彦『体育行政』
(1958)に始まる.その後,景山健「体育行政」(1965), 長谷川純三「社会体育の行政」
(1966),粂野豊「社会体育の行政」(1972)そして浜口陽吉「新体育の行政」(1974)と
行政研究が続いている.わが国でも欧州と同様にスポーツ社会学の分野で政策研究が展開さ
れてきていることがわかる.
先のスポーツマネジメント関係の英文 5 誌と同様に,筆者が 2000 年∼2008 年までのスポー
69
ツマネジメント関連の学術誌 3 誌について調べたところ,スポーツ政策に関する学術論文は
48 編であり,全体(631 編)の 32.0%であった(表 23).この割合は前述の英文誌の調査結
果を上回った.その理由は,英文誌ではスポーツ政策に特化した学術誌は 2009 年に創刊され
たが,わが国ではスポーツ政策に関する研究を掲載した「体育・スポーツ政策研究」がすで
に刊行されていたことの違いによる.ちなみに,これを除く 2 誌のみでは,スポーツ政策研
究の割合は 13.6%であり,英文誌の調査結果とほぼ等しい.
表 23.スポーツマネジメント研究学術誌(和文)におけるスポーツ政策の研究動向
(2000-2008)
スポーツ政策研究
その他
合計
1
0
32
0
22
30
A
B
C
D
E
体育・スポーツ政策研究
計
32
25
5
0
1
体育・スポーツ経営学研究
8
6
2
0
0
スポーツ産業学研究
Total
8
3
3
0
1
1
80
88
48
34
10
0
2
2
102
150
32.0%
22.7%
6.7%
0.0% 1.3%
1.3%
100.0% 70.8% 20.8% 0.0% 4.2%
4.2%
100.0%
研究領域では,「A 政策理論研究」が 34 編(70.8%)と多くを占め,次いで「B 政策評
価」(10 編,20.8%)であり,「D 政府による介入方法の研究」(2 編,4.2%),「E 国際
機関の研究」(2 編,4.2%)はわずかであり,「C スポーツ以外への波及効果」は全くみら
れなかった.
なお,最近の研究トピックスとしては,「総合型地域スポーツクラブ」「地域経済効果」
「スポーツ振興基本計画」などが目につく.
わが国のスポーツ政策研究の動向を英文誌と比較してみると,その特徴として,「A 政策理
論研究」の割合がきわめて高いことがわかる.他方,ソーシャルキャピタルなどの「C スポー
ツ以外への波及効果」の研究が少ないともいえる.
近年になり,政府の医療政策や健康政策では,科学的根拠にもとづく(Evidence Based)
ことを重要視しており,政策の立案や評価に対する定量的な研究が求められる傾向にあるこ
とから,スポーツ政策についても「B 政策評価」研究の充実・推進が課題といえよう.
筆者はスポーツ政策研究をわが国で今後推進する上での課題として,研究領域別に表 3 の
70
ように考えた.「A 政策理論研究」では,政治思想にとらわれない脱イデオロギー,あたらし
い公共政策の考え方である New Public Management の理論研究が課題といえよう.また,「B
政策評価」では,定量評価は当然のことながら,その時系列評価や類似政策との相対評価が
求められると考える.「C スポーツ以外への波及効果」ではスポーツがソーシャルキャピタル
に及ぼす影響や,医療費や介護負担などを含めた健康・福祉 への波及効果が,今後の少子高
齢社会における重要な研究課題といえる.「D 政府の介入方法に関する研究」では,新たなス
ポーツ財源としてのサッカーくじの効果的な方策,補助金のあり方は,厳しい財政事情のな
か,今後のスポーツ政策の展開にとって切実な課題といえよう.「E 国際機関の研究」につい
ては, 国際オリンピック委員会,国際競技団体,スポーツ仲裁裁判所,世界アンチドーピン
グ機構など全世界的なスポーツ機関の研究も重要であろうが,アジア地域や東アジア地域を
包括するスポーツ機関の機能や意思決定の研究も,わが国のおかれた国際状況のなかでは重
要と考える.
すなわち,今後のスポーツ政策研究は,「政策の分析」から「政策のための分析」へ,
evidence ‒ based の実証研究,論文数・発表件数の増大,研究者数の増大,研究組織のイ
ノベーションがスポーツ政策研究全体の発展に向けて求められてきている.
4.政策評価研究(実証研究)の課題
筆者が考える課題は以下のとおりである.今後の政策評価研究の実行に対して,これらの
課題を念頭においた取り組みが必要となろう.
表 24.わが国のスポーツ政策研究のトピック
研究領域
A(政策理論研究)
研究を推進する上での課題
脱イデオロギー、NPM
B(政策評価)
定量評価、時系列評価、相対評価
C(スポーツ以外への波及効果)
ソーシャルキャピタル、健康・福祉
D(政府の介入方法に関する研究)
サッカーくじ、補助金
E(国際機関の研究)
アジア地域、東アジア地域
1)ロジックツリーの作成とそれにもとづく調査設計が重要である.ロジックツリーとは,
ある政策が,アウトプット(結果)を生み,それがアウトカム(成果)にどのようにつなが
るのか論理的なつながりを明示するものである.どの関連を明らかにすべきかを明確にし,
71
そのための調査設計をする必要がある.
2)研究フィールドの設定と実際の交渉が実務的であることが求められる.研究フィール
ドは実社会のなかに存在するため,研究者の一方的な研究関心のみでは協力を得ることはで
きない.先方にとってのメリットを提示し納得したうえで,できれば共同研究あるいは委託
研究として行うことが望ましい.
3)大規模な調査の場合,多くの調査員が必要となることから,調査体制づくりが重要と
なる.調査員の確保・教育をはじめ,調査時間帯・場所別のシフトづくり,配置計画などを
綿密に行う必要がある.
4)調査費の確保は重要な課題である.調査員の謝金・交通費,調査票の印刷,回収デー
タの検票・入力などに費用が発生する.調査フィールド側の負担も含めて調査費の確保を図
る必要がある.
5)政策の結果・成果がでるまでには一定の期間が必要となる.その場合,時系列分析と
しての研究期間の設定が課題である.最低でも1年間から場合によっては数年間・十数年間
に及ぶ可能性があることから,数年後でも実行可能なような調査設計を組むことが重要とな
る.
6)調査フィールドや政府・自治体に対する政策評価のフィードバックとそれにもとづく
政策の変更・改善が重要となろう.「政策の分析」から「政策のための分析」へといわれる
ように,調査結果が政策現場に活用できるように,配慮することが課題といえる.
7)政策立案・実施機関と研究者との連携は,調査研究の実施,研究結果の政策への反映
を考慮した場合,きわめて重要となる.ただし,その際,研究者は中立・公平を保つ必要が
あり,政策機関にとって好ましくない調査結果が得られた場合でも,正しく伝えることが不
可欠である.
8)少数事例の結果からの一般化が課題である.実証研究の場合,政策全体を取り扱うこ
とは困難であり,事例研究となる場合が多い.その際,限られた事例研究から政策全体を評
価するには,一般化のための方法論が課題といえる.その政策にとって代表性の高い事例を
研究フィールドとして設定するとともに,可能な限り複数のフィールドを用意することが重
72
要といえよう.
【文献】
Coalter, F.(1995) Compulsory Competitive Tendering for Sport and Leisure
Management: a Lost Opportunity? Managing Leisure.1, pp3-15.
Houlihan,B.(2005) Public Sector Sport Policy, International Review for the
Sociology of Sport, Vol.40, No.2, pp163-185.
Houlihan,B.,et.al.,(2009) Developing the research agenda in sport policy,
International Journal of Sport Policy, Vol.1, No.1, pp1-12.
Houlihan,B.(1997) Sport, Policy and Politics: A Comparative Analysis,
Routledge,
Henry,I.(2001) The Politics of Leisure Policy, 2nd edition, Palgrave,
間野義之,庄子博人,本目えみ(2009) 公共スポーツ施設の指定管理者制度導入前後の
利用者満足度の変化―A 体育館を対象とした事例研究―,スポーツ産業学研究, Vol.19,
pp223-229.
間野義之,庄子博人(2010) 指定管理者制度導入によるスタジアムのサービス・クオリ
ティの変化」―A スタジアムの観戦者を対象とした事例研究―,スポーツ産業学研究,
Vol.20, pp73-79.
間野義之(2007)公共スポーツ施設のマネジメント,体育施設出版.
間野義之(1999)第 10 章政治環境の変化とスポーツ政策の課題, 「スポーツの政治学」
池田勝・守能信次編著, 杏林書院.
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倉書店.
三菱総合研究所(2006)地方自治体における PPP に関する調査.
宮川公男(1997)政策科学の新展開』, 東洋経済新報社.
Nichols, G.(1996) The Impact of Compulsory Competitive Tendering on Planning
in Leisure Departments, Managing Leisure, 1, pp105-114.
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University Press.
関春南(1997)戦後スポーツ政策の課題』, 大修館書店.
73
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SSF 笹川スポーツ財団(2006)スポーツ白書.
諏訪伸夫他(2008)スポーツ政策の現代的課題』, 日本評論社.
74
補論2.スポーツファシリティマネジャーの役割と育成
1.スポーツファシリティマネジメントの現状と課題
1.1 わが国のスポーツファシリティの現状
わが国の体育・スポーツ施設数は 239,660 箇所である(文部科学省,2004).そのうち
「体育館」,「多目的運動広場」,「水泳プール(屋外)」が半数を超え,以下 50 種類以上
の施設が続く(表 25).
表 25.わが国の体育・スポーツ施設数
上段:実数、下段:割合
総数
総数(下記合計とは異なる)
体育館
多目的運動広場
水泳プール(屋外)
庭球場(屋外)
野球場・ソフトボール場
柔剣道場(武道場)
トレーニング場
水泳プール(屋内)
その他
ゲートボール・クロッケー場
ゴルフ練習場
ゴルフ場
239,660
100.0
52,151
21.8
49,524
20.7
33,769
14.1
22,248
9.3
10,870
4.5
7,845
3.3
6,073
2.5
4,896
2.0
4,276
1.8
3,891
1.6
2,395
1.0
2,356
1.0
学校体育・ス 大学・高専 公共スポー 職場スポー 民間スポー
ポーツ施設 体育施設
ツ施設
ツ施設
ツ施設
149,063
62.2
40,198
16.8
38,725
16.2
29,953
12.5
11,032
4.6
2,256
0.9
6,172
2.6
1,758
0.7
1,336
0.6
335
0.1
10
0.0
19
0.0
9,022
3.8
1,676
0.7
1,117
0.5
387
0.2
1,452
0.6
490
0.2
276
0.1
590
0.2
104
0.0
98
0.0
2
0.0
83
0.0
0.0
0.0
56,475
23.6
8,628
3.6
8,508
3.6
3,102
1.3
6,140
2.6
6,829
2.8
1,220
0.5
1,775
0.7
1,662
0.7
2,494
1.0
3,456
1.4
28
0.0
70
0.0
8,286
3.5
1,048
0.4
907
0.4
147
0.1
2,239
0.9
1,081
0.5
111
0.0
705
0.3
139
0.1
245
0.1
54
0.0
95
0.0
30
0.0
16,814
7.0
601
0.3
267
0.1
180
0.1
1,385
0.6
214
0.1
66
0.0
1,245
0.5
1,655
0.7
1,104
0.5
369
0.2
2,170
0.9
2,256
0.9
出所)文部科学省(2004)より作成
全数の 66.0%は学校施設であり,小・中・高・大学などの体育館・グランド・水泳プール
(屋外)ならびに庭球場(屋外)が全スポーツ施設の 2/3 を占めるのは,わが国の特徴とも
75
いえる.したがって,スポーツファシリティマネジメントを考えるうえでは,学校体育・ス
ポーツ施設を含めて言及する必要がある.
一方,地方自治体が設置する公共スポーツ施設は 56,475 箇所(23.6%)であり,前述の学
校施設をあわせると,わが国のスポーツ施設の約 9 割は公共施設である.つまり,箇所数だ
けを考慮するならば,スポーツファシリティマネジメントは公共の体育・スポーツ施設のマ
ネジメントが中心となる.
他方で民間スポーツ施設は 25,100 箇所(10.5%)であり,その割合は低い.しかしながら,
SSF 笹川スポーツ財団の調査(2004)によると,成人の年間利用者率は 29.3%であり,公共
施設の 38.1%と比較した場合,公民の施設数の割合(9:1)からみても,施設数が少ない割
には国民にとっては利用頻度の高い施設であることがわかる.したがって,国民利用の観点
からは,民間スポーツ施設のファシリティマネジメントにも言及する必要がある.
また,スポーツへの参与形態から考えた場合,スポーツ振興基本計画での「する」「み
る」「ささえる」の観点からファシリティマネジメントも重要となろう.例えば,「みる」
ための観戦スポーツ施設は,競技日程・会場を参考に推計すると,200∼300 施設となる.そ
の内訳は野球場(プロ野球)が約 30 施設,球技場(Jリーグ)が約 50 施設,体育館(Vリ
ーグ)が約 80 施設,アイスアリーナ(アイスホッケーアジアリーグ)が国内約 10 施設など
であり,その他にも,水泳プールやテニスコートなどを加え,種目間での重複利用などを差
し引くと,200∼300 程度になろう.このように施設数だけをみれば,スポーツを自ら「す
る」ための施設が大半を占めることになるものの,表 26 に示したようにスポーツ観戦者数は
推計で年間 3 千万人を超え,多くの国民が観戦のためにスポーツ施設へ足を運んでいる.ま
た,「ささえる」スポーツボランティアについても,地域スポーツクラブや競技団体のみな
らず,観戦スポーツ施設でも活動していることから,国民の視点にたってスポーツファシリ
ティを考える場合には,観戦スポーツ施設のマネジメントについても検討する必要がある.
このように,わが国のスポーツ施設は,施設種別,施設規模,設置者(自治体・民間企
業),目的(教育・遊戯),用途(する・みる・ささえる)など,多種多様であることがわ
かる.本稿ではスポーツファシリティマネジメントを,これらすべての施設のマネジメント
76
と定義し,これらに共通な経営課題を検討し,その課題解決に向けて,マネジメントを担う
べき人材のあり方について検討していきたい.
表 26.スポーツ観戦者数とスポーツ実施者数の推計値
スポーツ観戦者数
プロ野球
単位:万人
スポーツを自らする・した者
1,560 体育館
1,308
高校野球など
Jリーグ
595 ボウリング場
472 グラウンド
大相撲
153 ゴルフ場(コース)
143 屋内プール
143
バレーボール
プロゴルフ
1,236
764
758
670
出所) SSF笹川スポーツ財団( 2006)から同財団の推計
1.2 スポーツファシリティマネジメントの課題
これまでは,学校施設は教育,公共施設は住民福祉の増大,民間施設は営利と性格が異な
ることから,それぞれの目的に応じた管理運営がなされてきた.学校施設では児童・生徒・
学生の学習を優先し,公共施設は住民の利用機会の平等を,民間施設は収益増大を目指し,
管理運営がなされてきた.
しかし,社会経済情勢の変化に応じて,近年では公民や設置目的を問わず経営課題が共通
化しつつある.それは事業収支の改善とサービス向上を同時に達成すること,つまり Value
for Money(VFM)の向上である.とりわけ,規制緩和の流れのなか,公設民営化が進むにつ
れ,その傾向は顕著となりつつある.
八代ら(1991)によると,公共スポーツ施設に対する共通認識は「管理あって経営なし」
「安かろう,悪かろう」であるが,スポーツファシリティマネジメントを考える上で,学校
体育施設も含めて公共スポーツ施設の経営改善はもっとも重要な課題といえる.
民間施設では営利を目的とするため,競争環境にあれば利用者満足度を高めなければ収入
が減少することから,VFM 向上のためのマネジメントが必然化している.民間施設は必要に応
じて追加投資(Money)も行い,資本効率を最大化するためのマネジメントが常に求められて
いる.
一方,これまでの公共施設では,設置目的の多くが抽象化されており,数値目標や具体目
77
標は曖昧であった.経済成長が著しい時期には,公共事業では平等性と公平性が担保されれ
ばそれでよかったが,現在のように住民ニーズが多様化・高度化し,低成長かつ高福祉の時
代には,目標が曖昧なまま大きな財政支出をともなう事業は無駄だと指摘される.
このため,非営利目的の施設であっても,事業収支の改善とサービス向上が明確に求めら
れはじめた.この傾向は 2003 年の改正地方自治法でさらに明確となった.
三菱総合研究所(2006)によると,制度導入に対する地方自治体の期待は,「財政支出の
削減」が 90.5%,「サービス水準の向上」が 86.5%であり,公共スポーツ施設であっても,
事業収支を改善し,利用者満足度を高めるといった,民間企業的な経営が期待されている.
このため,1980 年代にイギリスで導入された CCT(Compulsory Competitive Tendering)と
同様に,従前の地方自治体直営や関連団体への委託運営から,民間企業やNPOを含めた公
募制へと移行してきており,VFM を基準に最適な事業者を選定しはじめている.
学校体育施設についても必ずしも例外ではなく,調布市立調和小学校のようにPFI
(Private Finance Initiative)を導入し,VFM の向上を設計・建設段階から目的としている
ケースもある.また,半田市立成岩中学校の体育館のように,当初から VFM の向上を目指し
て,学校敷地内にありながらもNPO(Non Profit Organization)によるマネジメントを導
入しているケースもある.
公共スポーツ施設の民営化先進国ともいえるイギリスでは
Building School to the
Future (BSF) プロジェクトを 2006 年より始め,毎年 25 億ポンドを中学校の再生に投入
し,なかには従来の民営化を超えて,民間フィットネス施設を学校敷地内に建設した事例も
ある.
また,改正地方自治法に規定された「指定管理者制度」は,「する」「みる」の区別なく,
地方自治体が設置するスポーツ施設について適用されることから,大規模な観戦スポーツ施
設についても,VFM の向上が求められてきているのは同様である.
「千葉マリンスタジアム」(千葉市立)や「鹿島スタジアム」(茨城県立)は,フランチ
ャイズとするスポーツチームが指定管理者となり,これまでの場所貸しから,興行も含めた
一体的なマネジメントによる VFM の向上を目指している.大規模な競技施設では,これまで
78
は教育行事や公的イベントを優先してきたが,それらは使用料の減免措置を伴うことから,
公的イベントの利用割合を増やすと収入が減少し,施設の赤字はそのまま財政支出となって
しまう.厳しい財政事業のなか損失補填は可能な限り小さくしたいと考える自治体は少なく
ない.また,観客席数についても空席が多い場合には,座席数の必要性が問われる.つまり,
観戦施設であれば,満席にできるスポーツイベントの開催が,収入増大ならびに観客席数の
正当性の証明のために必要とされるようになってきている.
このように,「する」「みる」「ささえる」あるいは公・民に限らず,スポーツファシリ
ティマネジメントでは,VFM の向上が共通の課題であり,それを担える人材が求められている
といえよう.
1.3 スポーツファシリティマネジメントの従事者
それでは,VFM を向上できるような人材は,スポーツ施設にどの程度配置されているのであ
ろうか.わが国のスポーツ施設の従業者数は非常勤職員も含め 32 万人を超える(文部科学
省,2006).このうちマネジメントに携わる者は,各施設に最低1人配置されているとすれば
約 23 万人となるが,公共施設では表 27 のとおり兼任が多く,1 人で複数施設の管理責任者と
なる場合がある.また,従業者数が多い民間施設や大規模施設では1つの施設を複数人でマ
ネジメントする場合もある.このため,正確な数字は把握できないが,施設(Facility)で
はなく,場所(Venue)で計算した場合,社会体育施設は 27,493 場所があることから(間野,
2007),この数字に民間体育施設数 16,814 箇所を加えた約 4.5 万人というのがひとつの目安
となろう.
一方,スポーツファシリティの管理運営に関する人材育成は,これまでは財団法人日本体
育施設協会による「体育施設管理士」と「体育施設経営士」であり,それぞれ有資格者は
1,465 人(2006 年 3 月末),152 名であり,上記の 4.5 万人とは大きく乖離している.
スポーツ施設への社会的な要請の変化にともない,従来の管理運営(administration)か
ら,経営(management)への転換が求められており,このことからも,スポーツファシリテ
ィについての専門的なマネジメント人材の育成は,質・量の両面から急務といえる.
79
表 27.スポーツ施設での従業者数
社会体育施設
専任
兼任
非常勤
計
民間体育施設
計
19,060
129,300
5.9%
40.3%
40,639
12,674
12.7%
4.0%
40,598
78,394
12.7%
24.4%
118,992
37.1%
100,297
220,368
320,665
31.3%
68.7%
148,360
46.3%
53,313
16.6%
100.0
注1 )社会体育施設とは、一般の利用に供する目的で,地方公共団体が設置した体育館,水
泳プール及び運動場等のスポーツ施設
注2 )民間体育施設とは、民間の非営利・営利体育施設(企業の職員の福利・厚生用の施設
を除く。)
出所)文部科学省(2006)より作成
2.スポーツファシリティマネジメントに携わる人材のわが国の育成状況
わが国では,1966 年設立の(財)日本体育施設協会が,翌年より始めた「屋内体育施設整
備士」「屋外体育施設整備士」がスポーツファシリティマネジメント人材育成の嚆矢である.
その後,整備よりも管理に重要性が移ってきたこともあり,1998 年より「体育施設管理士」
を新設し,さらには 2006 年から「体育施設運営士」を創設し,整備から管理,そして運営へ
と人材育成を進めてきている.
また,2004 年より(財)日本サッカー協会が「FIFA サッカーワールドカップ 2002」
の剰余金を用いて,全国各地へのグラウンド整備を開始しているが,それと並行し,それら
の施設経営管理を行う人材養成を始めた.
しかし,スポーツ施設数あるいは場所数を考慮すると,例えばイギリスの 25,000 名を越え
る有資格者と比較しても,まだまだ不十分といわざるを得ない.
2.1 体育施設管理士
(財)日本体育施設協会ならびに独立行政法人日本スポーツ振興センターは,体育施設の
維持管理ならびに管理運営に必要な知識・技能を習得させ,わが国の体育・スポーツ振興に
寄与することを目的として,「体育施設管理士」を 1998 年度より養成している.受講資格は,
現に体育施設に従事している者および将来体育施設管理に当たろうとする満 20 歳以上の者と
80
し,従前の体育施設管理士(整備士)からの移行措置も行っている.カリキュラムは共通科
目,屋内施設科目,屋外施設科目の計 12 科目について 17 時間であり,受講後に検定試験が
あり合格者に資格が付与される.2006 年度修了時点で 1,465 人が資格を取得している.
表 28.わが国のスポーツファシリティマネジメントに関する現行資格の一覧
資格名
体育施設管理士
体育施設経営士
JFAスポーツマネジャー
科目数
16
7
28科目以上
科目名
【共通科目】
スポーツ施設の診断
スポーツ事故と対策、
スポーツ施設経営論、
スポーツマーケティング、
スポーツ施設と衛生・消防法規、
スポーツ施設の救急対応
救急法(講義)、救急法(実習)
【屋内施設科目】
体育館・武道館の維持管理、
各種スポーツフロアの維持管理、
スポーツ施設の用器具と維持管理、
水泳プールの維持管理
【屋外施設科目】
屋外スポーツ施設の維持管理(人工
芝を含む)
芝生の造成と維持管理、
スポーツ施設の照明と維持管理
スポーツ施設の音響と維持管理
時間数
①スポーツ振興の社会的背景
②スポーツ施設のマネジメント
③公共スポーツ施設のマネジメント
④接遇管理
⑤顧客管理・顧客満足度の創造
⑥危機管理の仕組みづくり
⑦収益改善のための 工夫
17
13.75
施設運営の基礎Ⅰ
施設運営の基礎Ⅱ
公共施設の指定管理者制度
マーケット分析の手法Ⅰ(定量調査の
手法)
マーケット分析の手法Ⅱ(フレーム
ワークと分析の手法)
マーケット分析の手法Ⅲ(定性調査の
手法)
ニーズ分析とプロダクト開発
プロダクト開発
事業戦略の基本的な考え方
事業戦略とパッケージング
事業戦略としての施設計画
フィットネス業界の概要
フィットネス体験
ロジカルシンキングとプレゼンテーショ
ン
事業収支計画Ⅰ(損益会計と資金会
計)
事業収支計画Ⅱ(予算編成と業績管
理会計)
事業収支計画Ⅲ(資金計画)
施設計画と業務フロー計画(課金計
画含む)
コミュニケーション計画
ヒューマンリソースマネジメント
モチベーションマネジメント
ボランティアマネジメント
日本サッカーの取り組み
ミッション・ビジョン
リスクマネジメント
コンプライアンス
緊急医療
177
出所)日本体育施設協会資料ならびに日本サッカー協会資料より作成
2.2 体育施設運営士
地方自治法改正にともなう 2006 年 9 月からの指定管理者制度の完全実施に際して,管理の
みならず運営を行える人材を養成するために,(財)日本体育施設協会は,既に体育施設管
理士の資格を登録している者または体育施設に従事しておりそれと同等の能力を有する者を
対象に「体育施設運営士」の養成を 2006 年度より開始した.カリキュラムは,接遇,顧客満
81
足度,収益改善など9科目で 13.75 時間であり,受講後に検定試験があり合格者に資格が付
与される.152 名が合格した.
2.3 JFA スポーツマネジャーズカレッジ(以下,JFASMC)
この人材育成事業は,「2002 FIFA ワールドカップ記念事業」の開催による JAWOC の剰余
金をもって,日本サッカー協会が主催している.剰余金の一部が,「サッカーを中心とした
モデル的スポーツ環境整備助成」として人工芝グラウンド,夜間照明などの整備に充てられ
たが,それらの施設マネジメントを行う人材養成を主目的として,2004 年度に開講された.
カリキュラムは,マーケティング,アカウンティング,ヒューマンリソースマネジメントな
ど 28 科目で,177 時間(2006 年度実績)である.延べ 32 日間の集合講習の前後に予習課
題・復習課題が出され,その結果とともに,最終課題である事業計画書の内容によって修了
認定が行われる.2006 年 3 月までに 88 人が受講・修了している.
2.4 諸外国の状況
イギリスでは,1921年に,当時の屋外水泳プールと冬季利用の体育館の管理者資格付与機
関としてThe Institute of Sport and Recreation Management(以下,ISRM)を設立し,人
材育成を行ってきている.現在は Operations Certificate , Supervisory Management
Certificate , ISRM/City & Guilds Higher Professional Diploma (formerly the ISRM
Sport and Recreation Management Certificate) (以下CHPD)の3つの独自資格があり,
このうちCHPDの有資格者が最も多く25,000人を超える.表29のとおり,CHPDのカリキュラム
は必修9科目と選択3科目の計12科目であり,各科目の成績で修了が認定される.
また,香港では 2005 年 11 月に英国の ISRM と同様の資格制度がたちあがり,シンガポール
でも ISRM の資格制度の創設の予定がある.
82
表 29.City & Guilds Higher Professional Diploma のカリキュラム
ALL NINE of:
ONE from:
TWO from:
Sport and recreation
environment
Design and technical
operations
Customer care
Sport and society
Sports development
Service development
Marketing
Retail operations
Management of health, safety
and security
Crowd safety and event
control
Environmental and ethical
issues of management
Facility management
Financial management
Human resource management
Quality management
Sports logistics and event
management
出所)ISRMのホームページより作成
3.今後のスポーツファシリティマネジャーに求められる能力
(財)日本体育施設協会の資格制度が,「整備士」から「管理士」そして「運営士」に展
開してきたように,スポーツファシリティマネジャーには,ハード面のみならずソフト面を
含めた能力が求められてきている.
1921 年設立の ISRM が当初の屋外水泳プールや体育館の安全衛生面などの管理から始まり,
現在ではマーケティング,ファイナンス,ヒューマンリソースマネジメントなどのカリキュ
ラムへと拡大してきていることからも,時代とともに求められるファシリティマネジメント
能力はソフトに比重が移ってきていることがわかる.
八代ら(1991)は,「施設自体が主体的な経営体として,スポーツ事業を展開してゆく活
動」が公共スポーツ施設の経営であるとしており,単なる施設管理ではなく,事業経営であ
ることを指摘している.
2003 年の指定管理者制度の導入以降,ソフト重視の傾向は強まっているが,齋藤(2007)
は,公共スポーツ施設の指定管理者には「施設メンテナンス能力」と「組織マネジメント能
力」の双方が必要であることを,有識者へのデルファイ法によって明らかにしている.
また,日本サッカー協会の SMC では,2004 年からの 3 年間のモデル事業で,受講者や関係
83
者からの意見を参考にしつつ改善を加えた結果,最終的にはファシリティマネジメントのみ
ならず,マーケティング,会計を重視するカリキュラムとなったことからも,現場で求めら
れるファシリティマネジメント能力がハード面のみではないことがわかる.
Ko(2007)は,128 の先行研究を対象に,スポーツマネジャーにとっての重要なコンピテン
シーを系統的に整理し,地域や時代を超えて,「ファシリティマネジメント」が重要なコン
ピテンシーの上位であることを示したうえで,さらに「コミュニケーション」「スポーツの
基礎理論」「財務」「救急処置」「人的資源管理」「法律」「マーケティング」などをあげ
ている.ここでいう「ファシリティマネジメント」とは,施設設計,計画,建築,維持管理
などと定義しているが,「ファシリティマネジメント」はスポーツマネジャーの重要なコア
コンピテンシーであり,反対にいうならば,スポーツファシリティマネジャーは施設整備・
管理だけではないというのが,すでに共通の認識であろう.
つまり,スポーツマネジャーとスポーツファシリティマネジャーは完全に区別するもので
はなく,スポーツ事業そのものに施設が不可欠であることからも,一体的にコンピテンシー
を考える必要があることを示唆しているともいえる.そのうえで,スポーツファシリティの
マネジメントのコアコンピテンシーを考えてみたい.
Perdue(2002)は,成功しているスポーツを含む各種クラブマネジャーへの調査から,ク
ラブマネジャーに今後求められるコンピテンシーとして,100 項目を超える項目を従前の調査
と比較しながら,「予算編成管理」,「財務諸表」,「コミュニケーションの原則」などを
抽出し,他方,「プライベートクラブ史」,「宿泊施設運営」,「マネジメントの基礎」な
どは重要性の低い項目としている.このことは,スポーツ固有というよりも,企業経営とし
ての能力が重視され始めていることを意味している.
Horch(2003)が因子分析によって示したように,スポーツクラブとスポーツ協会組織のマネ
ジャーのコアコンピテンシーは,「組織人事」,「インフォメーション・テクノロジー」,
「プロスポーツのマーケティング」,「財務会計・法律」,「サービス提供」,「施設維持
管理」,「スポーツ科学」の7つとしている.ハードとソフトとが一体的に経営されている
場合が多いドイツのスポーツクラブにおいても,スポーツ施設固有以外の企業経営に関する
84
能力の重要性が示されている.
また,ギリシアの民間フィットネスクラブのマネジャー対する調査結果によると「マーケ
ティングとコミュニケーション」「人材」「財務」「アドミニストレーション」の順に,コ
アコンピテンシーに対する寄与率が高かった(Koustelios,2003).
すでに,「体育施設経営士」「JFASMC」でも,「マーケティング」や「ホスピタリティ」
「財務会計」などのカリキュラムが導入されているが,今後のわが国のスポーツファシリテ
ィマネジャーには,VFM 向上の観点からも企業経営と同種の能力が求められるであろう.
4.今後のスポーツファシリティマネジャーの養成・研修方法
前述のことを踏まえ,今後のスポーツファシリティマネジャーの養成・研修方法について
以下のとおり検討してみた.これはスポーツファシリティマネジャーに限ったことではなく,
広く人材養成全般に共通する項目も含まれる.
4.1 カリキュラム・テキスト
ハード・ソフトを考慮したカリキュラムを作成する必要がある.先の Ko の文献レビューに
よれば,58 のコンピテンシーがある.スポーツファシリティマネジャーの段階的な育成を考
慮しつつ,これらのコンピテンシーの各段階での適時性を考慮しつつ,カリキュラムを構成
する必要があろう.教育方法の一部ではあるが,SMC ではグループ学習やペアワークなどを取
り入れるカリキュラムも導入されており,通常の講義形式のみならず,学習効果を考慮した,
多様な方法論が検討されるべきであろう.
標準テキストの作成の必要性は,これまでのスポーツ人材の育成の流れを見ても必要であ
ることは多くが認めることであろう.一方で,カリキュラムが時代とともに併せて改訂して
いくことを考慮すると,迅速性・簡易性などの観点から電子媒体の利用も検討すべきであろ
う.
4.2 実習
スポーツファシリティでの実習は,教育内容の必要性を実感させるためにも,今後はさら
に重要となろう.これらの実習を受け入れ体制についても同時に整備していく必要がある.
単にマネジメント現場に一定期間を実習するだけでなく,そこで何を気づき学ぶのかを受入
85
れ先に依存せずに,育成機関みずからが検討用意すべきといえる.なお,受け入れ施設には
実際の会員や利用者がいるため研修生の失態は許されないこと,さらに教育効果を考慮し,
カリキュラムの中では後半に配置するのが望ましい.
4.3 講師
わが国のスポーツ指導者の養成の歴史のなかで,その時代や地域の実情に併せた教育内容
を提供し,数多くの講師が貢献してきた.その一方で,テキスト内容を十分に伝達せず,逸
脱した講義があったことも知られている.
カリキュラム・テキストを適切に用意したとしても,講師がそれを理解し実行しなければ,
目的とする人材を養成することはできない.そのためにも,講師がカリキュラムとテキスト
に則って教育内容を伝達できるよう,必要に応じて補助教材なども用意すべきであろう.
4.4 E-Learning
集合研修の効率を高めるためにも,予習・復習等が可能なようにインターネットを利用す
る必要があろう.すでに,SMC では導入が行われており,教材の配信はもとより,予習課題・
復習課題の提出に利用されている.ファシリティマネジャーも,全国各地に受講生が存在す
るであろうし,現場で業務に携わっている人には,E-Learning は移動時間・経費等の節約の
観点からも有効であると考える.
4.5 評価・検定
スポーツファシリティマネジャーのクオリティを担保するためには,受講後の評価・検定
は必要不可欠である.評価に際しては,カリキュラムにしたがって,カリキュラム別に評価
することと,最終的な総合評価の両者が必要となる.総合評価では,スポーツファシリティ
マネジャーが実際に作成しなければならない事業計画書を作成させ,それを検定員の前でプ
レゼンテーションをし,評価する方法が望ましいと考える.SMC では,予習課題・復習課題な
らびに出欠を評価し,事業計画書を外部の有識者数名に評価を依頼し,それらの合計値で評
価を行っている.また,数値化した評価値をランキングし,上位者の公表・表彰を行うこと
で,モチベーションの向上にも寄与している.
5.スポーツ施設の評価と公表
86
スポーツファシリティマネジャーの役割は,Value としての利用者満足度の向上と Money と
しての事業収支の改善であり,そのために,経営資源を適切かつ有効に機能させることであ
る.その意味では,スポーツファシリティマネジャーの評価は,施設により多くの人が訪れ,
それらの人々を満足させたかどうかに加えて,事業収支が改善されたかどうかが評価となる.
つまり,スポーツファシリティマネジャーの評価は,人物の能力評価ではなく,スポーツ施
設の経営評価そのものである.企業経営者の評価が,その人物ではなく企業の業績評価で行
われるのと同様の理由である.
そのためには,公共スポーツ施設の経営を客観的に評価するとともに,その結果を公表す
ることで,スポーツ施設市場における情報の対称性を担保し,施設間の切磋琢磨・競争原理
が働く仕組みを整備していくことが課題といえよう.
5.1 スポーツ施設の経営評価
スポーツ施設の経営評価については,絶対評価,相対評価,経年評価の3種類が考えられ
る.絶対評価は事業収支の採算分岐点をもとに黒字か赤字かを判断するものであり,また利
用者満足度についても,間隔尺度を用いた場合,「ふつう」以上とすることで可能となる.
しかし,実際には多くの施設が赤字であり,赤字である事業だから公共事業として実施され
てきたわけで,事業収支の絶対評価だけでは十分に評価はできない.また,満足度について
も,一般的には回答者の多くが好印象を持っている場合が多いことから平均値は「ふつう」
を上回る場合が多い.
このため,種別・立地などが類似したスポーツ施設間で,利用者数,満足度,事業収支な
どを比較することで,相対的に経営評価を行う必要がある.駅前立地で新設の温水プールと,
郊外に立地し老朽化した体育館とを比較することは有益ではない.企業でも業種別にシェア
や売り上げを評価するように,同じ施設種別で評価すべきである.また,スポーツ施設の市
場は地域性が存在するため,種別だけで全国一律に比較することは不適切であり,地域の人
口や気候なども考慮したうえで比較評価を行うのが適切である.
イギリスでは, National Benchmarking Services (以下NBS)が 1997 年より始まり,
評価を希望する施設は,Sport England に申し込み,委託を受けた Sheffield Hallam
87
University が利用者満足度や事業収支などを同種同規模施設で相対的に評価する仕組みがあ
る.
さらには施設間の評価のみならず,経年的に改善がなされているかについての評価も重要
となる.相対的に評価が低くても,継続的に改善が行われていることは評価すべき事項であ
る.
わが国でも指定管理者制度でモニタリングが義務付けられていることから,モニタリング
方法を標準化し,その結果を例えば学術団体などが一元的に整理・分析することで,上記の
ような評価は可能となると考える.
5.2 経営評価結果の公開
スポーツをする際に利用者が複数の施設を比較検討することは,各施設の経営改善を促す
要因となる.施設設備・料金・利用時間・空き情報・利用者の満足度などを比較できること
により,複数の施設から自らの状況にあった施設を選択することができる.これは,スポー
ツファシリティという市場での情報の対称性を可能な限り担保し,公正な競争ができるよう
にすることである.
スポーツファシリティマネジメントの先進国であるイギリスでは,Sport England が
Active Places というサイトを構築し,所在地,施設種別などから全国の施設を,インタ
ーネットを通じて誰もが検索できる仕組みを提供している.NBSの結果については,施設
数が少ないことなどもあり,まだ公表されていない.
わが国でも,地方自治体が施設情報をインターネットを通じて提供し始めているが,項目
が不十分であり,自治体単位でしか検索できないなどの問題がある.住民にとっては日常的
には自治体単位での情報提供に不足はないかも知れないが,行政区域周辺の住民や週末に混
雑する施設種別などについては,広域の情報を必要とする場合もある.何よりもスポーツフ
ァシリティマネジャーが他の施設状況を知ることは,自らの経営改善にとっても重要である.
今後のスポーツファシリティマネジャーの育成を考えるに際して,カリキュラムの充実や
育成体制の整備と並行して, Active Place にNBSを組み込む仕組みを構築すべきであ
り,育成と評価の両方があってはじめて,最適なスポーツファシリティマネジャー制度が完
88
成すると考える.
【文献】
Horch H. and Schutte N.(2003)Competencies of sport managers in German sport clubs
and sport federations. Managing Leisure, Vol. 8-2, pp70-84.
Ko L. (2007) Perceptions of sports managers and academics of the importance of
competencies and the relationship with sports management curriculum in Taiwan.
Doctorial thesis, Loughborough University.
Koustelios A. (2003) Identifying important management competencies in fitness
centers in Greece. Management Leisure, Vol.8-3, pp145-153.
間野義之(2007) 公共スポーツ施設のマネジメント,体育施設出版,p14.
三菱総合研究所(2007)自治体 PPP の導入に関するアンケート調査.
文部科学省(2006) 社会教育調査報告書.
文部科学省(2004) 我が国の体育・スポーツ施設,体育・スポーツ施設現況調査報告.
日本サッカー協会(2007)JFA スポーツマネジャーズカレッジ報告書.
Perdue J., Ninemeire J. and Woods R. (2002) Comparison of present and future
competencies required for club managers. International Journal of contemporary
Hospitality Management,Vol. 14-3, pp142-146.
齋藤れい・原田宗彦(2007) 指定管理運営者の能力と資格に関する調査報告.月刊体育施設,
Vol.451, pp40−44.
SSF 笹川スポーツ財団(2006)スポーツライフデータ 2006.
八代勉・柳沢和雄(1991)公共スポーツ施設の経営と課題. 体育の科学,Vol.41, pp362-365.
89
補論3.指定管理者制度公募2巡目の現状
1.背景ならびに目的
1.背景ならびに目的
2003 年 9 月に地方自治法が改正され,公共スポーツ施設の管理運営に,民間企業を含
めて原則公募とする指定管理者制度が導入された.法改正以前は,地方自治法で定める公
(おおやけ)の施設は,自治体が直営するか,公益団体または自治体が出資した第3セク
ターへの管理委託制度のいずれかに限定されていた.直営ならびに管理委託制度では,あ
らかじめ施設管理運営者が定まっていることから,利用料収入の増加や利用者満足度の向
上など,特段の経営努力が求められる環境になかった.このため,八代ら(1991)が指摘
するように,公共スポーツ施設は「安かろう,悪かろう」「管理あって運営なし」と評価
されていた.このような状況のなか,指定管理者制度によって,民間企業をも対象とした
公募方式が導入されたことにより,競争原理が働き,サービス・クオリティの向上や利用
者満足度の向上が報告されている(間野,2009,2010).
しかし,公募はあくまでも原則であり,従前の管理運営者の雇用維持等の観点から,
指定管理者制度の導入直後は,移行措置として非公募が認められた.このため,1巡目は
必ずしもすべての施設に競争原理が導入されたわけではない(間野,2007).
指定管理者制度では,公募・非公募に限らず協定期間が定められることから,所定の期間
が終了した後の 2 巡目以降は,公募・非公募あるいは直営のいずれかを自治体が再び選
択することになる(図7).競争原理導入の観点からは,2 巡目は公募であることが望ま
しいと考えられるが,その現状は明らかではない.このため,本稿では,公共スポーツ施
設を対象としたアンケート調査結果をもとに,2 巡目における公募の現状と課題を明らか
にすることを目的とした.
90
図7.2 巡目以降の指定管理者の方向性
2.調査方法
調査対象は(財)日本体育施設協会維持会員 14,218 施設のうち,職員5名以上が常駐
している 1,099 施設を対象とした.調査主体は(株)体育施設出版であり,調査方法は
郵送法で,調査期間は 2008 年 12 月∼2009 年 2 月であった.調査項目は,募集方式,
管理運営主体,契約期間など5項目であった.有効回答数は 350 施設であり,有効回答
率は 31.8%であった.
3.調査結果および考察
指定管理者制度では,公募・非公募に限らず協定期間が定められているため,期間終
了後は再度募集方式が検討されることになる.調査時点で,まだ 1 巡目であった施設は全
体の 43.1%であり,すでに 2 巡目に突入した施設は 23.1%であった.直営のままであっ
た施設は 33.7%であった(表 30).2 割を超える施設が 2 巡目の指定管理者に突入して
いた.
募集方式は1巡目と 2 巡目をあわせて公募方式が多く 44.9%であり,非公募方式は
21.4%であった.しかし,直営方式(33.7%)と非公募方式(21.4%)を合わせた割合は
55.1%であり,改正地方自治法の完全施行から 2 年半が経過した調査時点でも,過半数
は競争原理を導入していなかった.このことは,自治体やスポーツ振興事業団など従前か
らの管理運営組織の雇用維持が依然として図られていることが推察される.また同時に,
人口の少ない地域では施設利用者が少なく,利用料金収入の確保も難しく,そのため応募
者が存在しないことから,やむなく直営を維持している可能性もある.とはいえ,競争原
91
理の導入に否定的といえる非公募方式が 2 巡目に突入しても存在していることは問題とい
えよう.
2 巡目を迎えた施設のうち,公募方式は全体の 16.0%で,非公募方式は 7.1%であっ
た.1巡目の公募方式 28.9%,非公募方式 14.3%と比較すると,それぞれの公募方式の
割合は 1 巡目 66.9%(101 施設/151 施設)に対して,2 巡目に突入した施設は 69.1%
(56 施設/81 施設)となり,わずかに 2.2 ポイントほど高い.1 巡目で公募方式を採用
した場合,2 巡目以降も公募方式となるのが一般的である.したがって,1 巡目に非公募
方式の施設が,今後 2 巡目において公募方式へと変更されれば,現状の 69.1%をさらに
上回ることが予想される.
表 30.募集回数と募集方式(n=350)
公募方式
n
157
1巡目
151
2巡目
81
直営
118
28.9
16.0
−
44.9
75
14.3
7.1
21.4
118
−
−
−
33.7
非公募方式
直営方式
350
計
350
計
350
33.7
350
43.1
23.1
33.7
100.0
出所:「公共スポーツ施設における指定管理者制度公募2巡目の実態アンケート調査結果」(体育
施設出版)より作成
次に,公募方式と非公募方式の受託事業者についてみた.表 31 のとおり,公募によっ
て選定された指定管理者は,公益法人(35.0%)がもっと多く,次いで民間企業
(29.4%),体育協会(25.2%)であった.民間企業と公益法人によるコンソーシアムは
3.1%であった.このうち,公益法人(35.0%)と体育協会(25.2%)とをあわせると
60.2%となり,公募であっても過半数の施設がスポーツ振興事業団や体育協会などの非営
利法人を選定していることがわかる.
非公募方式の場合は,さらに非営利法人の割合が高まる.公益法人が 72.0%,体育協
会が 20.7%で,あわせて 92.7%が非営利法人であった.営利法人である民間企業はわず
か 1.2%に過ぎなかった.
指定管理者制度は,
Value for Money
(以下,VFM)を高める仕組であって,単に
92
民営化を促進する制度ではない.財政支出を縮減しつつ,より良いサービスを提供するこ
とが制度の目的である.したがって,VFM が高まるのであれば事業主体は営利・非営利を
問わない.そのために法改正をし,公募による民間企業の参入を認め,既存の公益法人
等を含めて競争させ,サービス向上・経費節減のための創意工夫を生みだすことをねらい
としている.つまり,競争の結果として,民間企業の受託割合が低いのであれば,そのこ
とは問題ではない.重要なことは,公募方式によって,複数の事業者が VFM を高めるため
の企画提案を競い合っているかどうかである.
しかし,非公募方式では,競争原理が働かないため,事業者の創意工夫がもたらされ
ず,結果として VFM を高めることができない可能性が高い.また,非公募方式では従前か
らの非営利法人が,そのまま選定されているであろうことから,指定管理者制度を導入し
たにもかかわらず,経営刷新が図られないことは想像に難くない.
一方,公募といっても応募者が非営利法人1団体のみであった可能性も否定できない.
本調査では,公募方式に際しての応募者数が調査項目に含まれていないため,正確に記述
することはできないが,公募方式で非営利法人が選定された施設には,1 団体しか応募し
なかったケースも含まれている可能性がある.つまり,公募方式といっても,ケースによ
っては十分な競争環境が形成されないままに,既存の公益法人が,あたかも非公募方式と
同様に,指定管理者に選定されたケースもあることが推察される.反対に,公募方式で民
間企業が指定管理者となった場合は,従前の管理者である非営利法人との競争の結果だと
考えられる.なぜなら,従前の管理者は雇用維持などの観点から,公募の場合でも辞退す
ることはできず,応募する必要に迫られていたと考えられるからである.
これらのことから,公共スポーツ施設の 2 巡目以降の指定管理者制度では,管理運営
の VFM を高めるために,公募方式を増やすとともに,民間企業者による応募を促進し,
適切な競争環境を整えることが課題といえよう.
93
表 31.募集方式と受託事業者(n=245)
公募
非公募
公益法人
n
57
%
35.0
n
59
%
72.0
民間企業
48
29.4
1
1.2
41
25.2
17
20.7
5
3.1
0
0.0
12
7.4
5
6.1
163
100
82
100
*1
体育協会
コンソーシアム
*2
その他
*1:公益法人には体育協会は含まず
*2:コンソーシアムは公益法人と民間企業との共同事業体
出所:「公共スポーツ施設における指定管理者制度公募2巡目の実態アンケート調査
結果」(体育施設出版)より作成
4.まとめ
本稿では,公共スポーツ施設を対象としたアンケート調査結果をもとに,2 巡目にお
ける公募の現状として,1 巡目に比べて公募割合が増加している可能性があることが示唆
された.しかし,その一方で公募であっても非営利法人が指定管理者となる割合が高く,
営利法人の参入による競争原理の強化が図られているかどうかについては,必ずしも明白
でないことが示唆された.
引用参考文献
間野義之,庄子博人,本目えみ(2009)公共スポーツ施設の指定管理者制度導入前後の利
用者満足度の変化―A 体育館を対象とした事例研究―,スポーツ産業学研究, Vol.19,
pp223-229.
間野義之,庄子博人(2010)指定管理者制度導入によるスタジアムのサービス・クオリテ
ィの変化」―A スタジアムの観戦者を対象とした事例研究―,スポーツ産業学研究,
Vol.20,pp73-79.
間野義之(2007)公共スポーツ施設のマネジメント,体育施設出版, 東京,48-56.
体育施設出版(2009)公共スポーツ施設における指定管理者制度導入の状況, 月刊体育施
設, 6 月号, pp37−40.
94
八代勉,柳沢和雄 (1991)公共スポ-ツ施設の経営と課題,体育の科学 41(5), pp362365.
95
D 体育館の利用者アンケートのお願い
E グループは、平成 18 年 4 月より指定管理者として当館の運営を行っております。利用者の
皆様の満足度等を把握し、今後、より良いサービスを提供するために役立てたいと思いますので、
アンケートにご協力いただきますよう、よろしくお願いいたします。
回答方法:答えは、当てはまる番号に○印をつけるか、(
)内に数字などを記入してくだ
さい。回収したアンケートは統計的に処理いたしますので、回答から個人が特定さ
れることは一切ございません。
まず初めに、本日のご利用時刻とご利用施設をお答えください。
ご利用時刻(午前・午後に○をつけて時刻を記入してください)
[ 午前・午後
時
分 ] ∼ [ 午前・午後
時
分 ]
ご利用施設(○はいくつでも)
1.プール
2.トレーニングルームA
3.トレーニングルームB
4.スタジオ(レッスン名:
)
5.陸上競技場
6.多目的コート
【あなたの D 体育館のご利用についておたずねします】
問1 プール、トレーニングルーム、スタジオをご利用になった方におたずねします。本日は、ど
の利用券でのご利用ですか。(番号に○)
1.プール利用券(600円)
2.トレーニングルーム利用券(450円)
3.共通利用A券
4.共通利用B券
5.月額固定利用券A(6800円) 6.月額固定利用券B(5800円)
7.月額固定利用券C(3950円) 8.マン3スクール券
問2 ふだん、D 体育館をどのくらいご利用になりますか。
[ 1.年 2.月 3.週 ] に (
)回くらい
問3 D体育館を初めて利用したのはどのくらい前ですか。
およそ (
)年 (
)ヶ月 前
問4 ご自宅からD体育館までの交通手段と所要時間、交通費をお答えください。
交通手段(○はいくつでも)
1.徒歩のみ
2.自転車
6.オートバイ・原付
3.自家用車
4.電車
5.一般路線バス
7.その他(
所要時間(片道) およそ(
)分
)
交通費(片道)およそ(
)円
問5 ふだん、D体育館を利用するときに、どこから来ることが多いですか。(○はひとつ)
1.自宅
2.仕事場
3.学校・大学
96
4.その他(
)
【D体育館の設備・サービスについておたずねします】
やや不満である
どちらともいえない
やや満足である
満足である
重要でない
あまり重要でない
どちらともいえない
やや重要である
重要である
1
2
3
4
5
例) 入口ホールの清潔さ
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
A)支払いやすい料金であること
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
B)開館日・休館日の設定の適切さ
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
C)開館時間の適切さ
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
D)利用手続きの簡単さ
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
E)入口ホールの清潔さ
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
F)更衣室の清潔さ
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
G)ロッカーの数
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
H)運動のためのスペースの清潔さ
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
I)運動のための用具・器具の数
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
J)売店コーナーの品ぞろえ
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
K)自動販売機の品ぞろえ
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
L)駐車場スペース
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
M)受付スタッフの接客態度
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
N)受付スタッフの応対の適切さ
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
O料金に見合ったサービス内容であること
1
2
3
4
5
質 問 ↓
不満である
問 6 あなたは、D体育館の設備・サービスなどについてどのくらい満足していますか(① 満足
度)。また、本日と同じような目的で、D体育館や同様の施設を利用するにあたって、それらのこ
とはどのくらい重要ですか(② 重要度)。項目ごとにお答えください。(「満足度」「重要度」
それぞれ○はひとつ)
①満足度
②重要度
以下は、利用した施設についてのみ回答してください。
1
2
3
4
5
P)プール内の快適さ(混雑していないか)
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
Q)プールの水質
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
R)トレーニングルームの快適さ(混雑していないか)
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
S)トレーニングルームの器具の質
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
T)トレーニングルームのトレーナーの応対や指導力
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
U)スタジオプログラムの内容の適切さ
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
V)スタジオプログラムの時間帯の適切さ
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
W)スタジオのインストラクターの応対や指導力
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
X)陸上競技場の快適さ(混雑していないか)
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
Y)陸上競技場のトラックの質
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
Z)多目的コートの快適さ(混雑していないか)
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
AA)更衣室(陸上・多目的コート用)の快適さ
1
2
3
4
5
97
問7 D体育館や同様の施設を利用する上で、特に重要だと思う項目を、「A∼AA」の中から3
つお答えください。(アルファベットを記入)
1番目に重要(
) 2番目に重要(
) 3番目に重要(
)
問8 D体育館の設備・サービスに対する総合的な満足度を、「1:非常に不満」から
「7:非常に満足」でお答えください。(番号に○)
非常に不満・・・・・・・・・・・・・・・どちらともいえない・・・・・・・・・・・・・・・非常に満足
1
2
3
4
5
6
7
問9 以下の項目について、満足度をお聞かせください。
かなり不
満である
やや不満
である
まあ満足
している
十分満足
している
①当施設の安全管理について
d
c
b
a
②当施設の清掃状態(清潔さ)について
d
c
b
a
③当施設の職員の対応について
d
c
b
a
④当施設について、総合的な満足度
d
c
b
a
問11へ
「やや不満」「かなり不
満」の具体的理由
問10へ
問10 上記の設問9の④で、aまたはbと回答した場合、評価(満足)している事項を
2つ選んでください。
1.施設・設備の充実(スタジオ・トレーニング機器・ロッカールーム・多目的コートの新設等)
2.清潔さ・清掃状況
3.利用料金の多様化(1回毎の利用料金、プリペイドカード、A 券・B 券、月額固定料金の設定)
4.利用時間の設定
5.年末年始の営業(年末は 12 月 30 日まで、年始は1月3日から)
6.職員の対応
7.安全対応(ライフガード、トレーナー等による安全管理)
8.その他(具体的に:
)
問11 上記の設問9の④で、cまたはdと回答した場合、不満のある事項を2つ選んでください。
1.施設・設備の老朽化等
2.清潔さ・清掃状況
3.利用料金の設定
4.利用時間の設定
5.職員の対応
6.安全対応(ライフガード・トレーナー等による安全管理)
7.その他(具体的に:
)
98
問12 D体育館を平成○年3月以前(昨年度)から利用している方におたずねします。
平成○年4月以降(今年度)と比較した満足度についてお聞かせください。(○はひとつ)
1.昨年度より今年度の方が満足している
(具体的理由:
2.昨年度と満足度は変わらない
3.昨年度より今年度の方が不満である
(具体的理由:
)
)
問13 あなたは今後も、D体育館を利用したいと思いますか。「1:全く思わない」から
「7:非常に思う」でお答えください。(番号に○)
全く思わない・・・・・・・・・・・・・・どちらともいえない・・・・・・・・・・・・・・非常に思う
1
2
3
4
5
6
7
問14 以下の項目はどれくらい当てはまりますか。「1:全く当てはまらない」から [7:大い
に当てはまる]でお答えください。(それぞれ番号に○)
全く当てはまらない
る
大いに当てはま
a)
D体育館を人にすすめたい
1
2
3
4
5
6
7
b)
D体育館を優先的に利用する
1
2
3
4
5
6
7
c)
D体育館は近く感じる
1
2
3
4
5
6
7
d)
D体育館は交通の便がよい
1
2
3
4
5
6
7
問15 D体育館の利用に対して、最大いくらまで支払ってもよいと思いますか。
1ヶ月あたり (
)円まで
1回あたり
)円まで
(
99
【最後に、あなた自身のことについておたずねします。これらの項目は統計的な処理を行うための
ものですので、回答から個人が特定されることは一切ありません。】
問16 あなたの年齢と性別をご記入ください。
年齢 (
)歳
性別 [ 1.男性
2.女性 ]
問17 あなたの主な職業をお答えください。(○はひとつ)
1.自営業(お店や工場の経営者など)
2.販売・サービス・保安の仕事(店員、理・美容師、接客係、警察官、消防士など)
3.管理的な仕事(役所や会社で課長以上の役職についている人)
4.事務的な仕事(役所や会社の事務職員など)
5.専門的、技術的な仕事(医師、研究員、教員、弁護士など)
6.主婦・主夫
7.学生・生徒
8.その他(
)
問18 あなた自身の年収はおよそどれくらいですか。以下の中からお選びください。(○はひとつ)
1.0∼299 万円
4.700 万円∼999 万円
2.300 万円∼499 万円
5.1000 万円以上
3.500 万円∼699 万円
問19 あなたのお住まいの郵便番号(7ケタ)をご記入ください。
郵便番号
−
問20 当館について、ご意見などがございましたらお聞かせください。
アンケートにご協力いただき、ありがとうございました。今後とも当館をご利用いただ
きますよう、よろしくお願いいたします。
100
Hスタジアムのご利用に関するアンケート
お願い
1.この調査は、Hスタジアムでイベント・大会を観戦している方にお願いしています。
2.答えは、当てはまる番号に○印をつけるか、[
]内に数字や文字を記入してください。
3.記入は、質問の番号に沿ってお願いします。
4.回収した質問紙は統計的に処理するので、回答から個人が特定されることはありません。
Q1 あなたの座席は、次のうちどちらですか。(○はひとつ)
1.1階SS席
2.1階SB席
3.1階ホーム自由席
4.1階ビジター席
5.2階ホーム自由席(ホーム側)
6.2階ホーム自由席(アウェイ側)
7.その他 (
)
Q2 あなたは本日お持ちのチケットをどのように入手されましたか。(○はひとつ)
1.シーズンチケット
2.前売り券
SQ1.いつ頃ご購入されましたか?(○はひとつだけ)
3.当日券
1.発売と同時∼15 日前 2.14 日前∼4 日前 3.3 日前∼昨日
4.招待券
5.その他
チケットを購入された方へ質問します
チケット価格についてどう思いますか?
1.高い
2.適当
3.安い
Q3 本日の試合に関する情報はどこで入手しましたか。(○はいくつでも)
1.新聞[新聞名
2.雑誌[雑誌名
3.J リーグのホームページ
4.携帯サイト[サイト名
5.友人から聞いて
]
]
]
6.テレビ
7.Hスタジアムのホームページ
8.チームのホームページ
9.J リーグのミニスケジュール
10.その他[
]
Q4 あなたが応援しているチームはどちらですか。どちらでもない場合は「3」に○をつけてくだ
さい。(○はひとつ)
1.Aチーム
2.Bチーム
3.どちらでもない
Q5 自宅からHスタジアムまでの交通手段と片道の所要時間・交通費をお答えください。
自宅からの交通手段
1.徒歩のみ
自宅からの所要時間(片道)
2.乗り物を利用した
およそ [
利用した乗り物すべてに○をつけてください。
1.自転車
2.自家用車
3.電車
4.バス
5.タクシー
6.オートバイ・原付
7.その他[
]
101
]時間[
自宅からの交通費(片道)
およそ [
] 円
]分
Q6 今日はどなたと一緒にいらっしゃいましたか。(○はいくつでも) また何人でいらっしゃいましたか。
1.一人で来た
2.家族
3.友人
4.恋人
5.その他[
あなた自身を含めて
[
]人
]
a) 応援しているチームの成績が良いから
1
2
3
b) 友人や家族に誘われたから
1
2
3
c) レジャーとして楽しいから
1
2
3
d) スケジュールの都合がよかったから
1
2
3
e) 好きなチームを応援したいから
1
2
3
f)
サッカーの観戦が好きだから
1
2
3
g) 好きな選手を応援したいから
1
2
3
h) 周囲で盛んに話題になっているから
1
2
3
i)
チケットをもらったから
1
2
3
j)
今日の対戦相手との試合が魅力的だから
1
2
3
k) 応援しているチームが地域に貢献しているから
1
2
3
l)
施設の立地がよいから
1
2
3
Q8 あなたはスポーツ観戦の目的で、今後もAスタジアムを訪れたいと思いますか。
「1:全くそう思わない」から[7:非常にそう思う]でお答えください。(○はひとつ)
全くそう思わない
〔
1
2
3
どちらともいえない
4
5
6
あてはまる
ややあてはまる
ど ち ら と も いえ
ない
あてはまらない
あ ま り あ てはま
らない
Q7 この試合を観戦された理由について、以下の項目はどのくらいあてはまりますか。すべての項目に
ついて、最も当てはまる番号に○をつけてください。(○はひとつ)
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
非常にそう思う
7
〕
Q9 あなたはサッカー観戦を友人にすすめたことはありますか。
「a」「b」の項目ごとに、「1:全くあてはまらない」から[7:大いにあてはまる]でお答えください。
(それぞれ番号に○をつけてください・○はひとつずつ)
全くあてはまらない
a) Aスタジアムでのサッカー観戦を、知人・友人によく
すすめる
b) Aスタジアムでのサッカー観戦に、知人・友人を誘
い、一緒によく行く
大いにあてはまる
1
2
3
4
5
6
7
1
2
3
4
5
6
7
Q10 あなたは本日、Hスタジアム内および新横浜駅・小机駅周辺で飲食、グッズ・みやげ品購
入などに何円くらい使う予定ですか。
1)
Hスタジアム内:
およそ[
]円 (入場料は除く)
2)
A駅・B駅周辺:
およそ[
]円 (交通費は除く)
102
Q11 あなたはHスタジアムの設備・サービスなどについてどのくらい満足していますか(満足
度)。また、Hスタジアムや他の施設で試合観戦をする上でどのくらい重要と考えますか(重要
度)。それぞれ、以下の項目ごとに、満足度と重要度を 1 つずつ選んで○をつけてください。
*今日の利用だけでなく、これまでの利用経験から総合的に判断してお答えください。
重要度
満足度
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
重要である
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
やや重要である
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
どちらともいえない
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
あまり重要でない
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
重要でない
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
満足である
やや満足である
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
どちらともいえない
やや不満である
不満である
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
a) 会場までの交通の便
b) 入場口付近の清潔さ
c) 会場内の案内表示板(数や位置など)
d) 通路から座席への入りやすさ
e) 座席の座り心地
f) 座席やその周辺の清潔さ
g) 自分の座席からの試合の見やすさ
h) スタンドからピッチまでの距離
i) 大型映像の情報サービスの内容
j) 照明の明るさ
k) 会場の雨よけ設備
l) トイレの配置
m) トイレブース・便器の数
n) トイレの清潔さ
o) ゴミ箱の配置
p) ゴミ箱の数
q) 売店などのコンコース付近の清潔さ
r) 売店の配置
s) 売店の品揃え
t) 販売されている飲食物の品質
u) 自動販売機の品揃え
v) リユースカップの導入
w) スタッフの接客態度
x) スタッフの対応の適切さ
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
SQ1.Hスタジアムの設備・サービスに対する総合的な満足度を、「1:非常に不満」から「7:非常に満足」でお答
えください。(番号に○をつけてください・○は1つ)
非常に不満
非常に満足
〔
1
2
3
4
5
6
7
〕
SQ2.今日と同じような目的で、Hスタジアムや他の施設を利用する際、特に重要だと思う項目を3つまで順に、
上の項目(a∼x)からアルファベットでお答えください。
1 番目[
]
2 番目[
]
103
3 番目[
]
Q12 あなたがHスタジアム以外の施設で満足度が高いと感じる施設はどこですか。(○は3つまで)
1.カシマスタジアム
4.市原臨海競技場
7.国立競技場
10.その他[
2.駒場スタジアム
5.フクダ電子アリーナ
8.等々力陸上競技場
3.埼玉スタジアム 2002
6.味の素スタジアム
9.横浜市三ツ沢公園球技場
]
Q13 あなたは過去1年間に、スポーツの観戦の目的でHスタジアムにどれくらい来ましたか。
過去1年間で [
]回くらい
Q14 あなたは過去1年間にどのくらい直接スポーツの試合を観戦しましたか。(Hスタジアムでの観戦・
他の施設での観戦を合計して)
過去1年間で [
]回くらい
Q15 ふだん観戦するスポーツの種目は何ですか。複数ある場合は、よく観戦する順に3つまでお答えください。
1番目[
2番目[
3番目[
]
]
]
【最後に、あなた自身のことについておたずねします。これらの項目は統計的な処理をおこなうためのも
のであり、回答から個人が特定されることはありませんので安心してお答えください。】
Q16 あなたの生まれた年と性別をお答えください。
1)
西暦 1 9
年
2)
性別 [ 1.男性
2.女性 ]
Q17 あなたの職業をお答えください。(○はひとつ)
※以下の選択肢は国勢調査を基にした分類です。
1.農業、林業、漁業の仕事
2.自営業(お店や工場の経営者など)
3.販売・サービス・保安の仕事(店員、理・美容師、接客係、警察官、消防士など)
4.運輸・通信の仕事(鉄道・タクシー・トラックなどの運転手、郵便配達員など)
5.管理的な仕事(役所や会社で課長以上の役職についている人)
6.事務的な仕事(役所や会社の事務職員など)
7.技能、労務の仕事(工場で働く人、作業員、大工などの職人的仕事)
8.専門的、技術的な仕事(医師、研究員、教員、弁護士など)
9.主婦・主夫(専業)
10.主婦・主夫(パート・アルバイトなどをしている)
11.学生
12.その他[
]
13.無職
Q18 あなたのお住まいの郵便番号(7ケタ)をお答えください。
郵便番号
−
Q19 本日観戦された試合についての感想、ご意見がありましたら自由にご記入ください。
104
謝 辞
先ずは一連の調査にご回答くださった方々に御礼申し上げます.調査票にご回答くださった方々
は延 3,811 人となります.調査票への平均記入時間を 10 分間としても,合計で 635 時間を費やし
ていただいた計算となります.これらの方々にご協力いただけたおかげで,研究を進めることがで
きました.改めて感謝いたしますとともに,責任の重さを感じるところです.
調査のためのフィールドやデータを提供してくださった自治体と財団の方々にも御礼申し上げ
ます.私たち調査者と,調査対象者である利用者や事業者との間に立ち調整をしていただきました.
調査フィールドが得られなければ,これらの研究も成立しませんでした.
調査票の配布・回収に際しては,多くのゼミ生に手伝ってもらいました.長時間の立ち作業にも
かかわらず,学生諸君が明るく粘り強く配布・回収をしてくれたお陰で,多くの方々からご回答い
ただけたのだと思います.全国施設調査では,施設からの連日の質問に交代で電話番をし,様々な
やり取りや苦労がありました.これらの作業にもゼミ生全員で対応してくれました.すでにOB・
OGになられた方々にも心より感謝申し上げます.なかでも個々の論文の共同著作者でもある,博
士後期課程在学中の本目えみさん,庄子博人君ならびに修士課程の飯島沙織さんには,データの整
理を含めて多大な協力をいただきました.ここに厚く御礼申し上げます.
調査の企画・立案に際しては,早稲田大学スポーツビジネス研究所の先生方,客員研究員の皆
様から多くのアドバイスやご指摘をいただきました.また歴代の研究補佐員の方々の適切な実務が
あったからこそ,多くの調査を成し遂げられたと思っております.ここに心からの謝意を表します.
公共スポーツ施設の民営化先進国であるイギリスでの1年間の留学に際して,お世話になりまし
た Sheffield Hallam Univiersity の Simon Shibli 教授には,研究上の多くの示唆をいただきまし
た.同大学の Sport Indutry Research Centre の研究員の皆さんにも心より感謝申し上げます.
また,イギリスのスポーツ施設の専門家である The Lieisure Database Company の Divid Minton
氏には,公私ともに大変お世話になりました.氏との出会いがあって充実した留学生活が送れまし
た.ここに厚く御礼申し上げます.
特別研究期間が終わりイギリスから帰国し,これまでの調査結果をまとめて博士論文にしようと
一念発起した時に,コーチ役をお引き受けくださった主査の中村好男先生には,感謝の念に耐えま
せん.誠にありがとうござました.垣間見させていただきました研究指導の奥義を今後の学生指導
に少しでも活かすことで,ご恩返しができればと思っております.
副査を担当してくださった村岡功先生,彼末一之先生,原田宗彦先生,平田竹男先生には,大所
高所から厳しくも建設的なご指導をいただきありがとうございました.貴重なアドバイスを今後の
研究・教育活動にも,活かして参ります.
最後に,いつも温かく見守ってくれていた園子,桜子,百合子に感謝します.
2010 年 7 月 8 日
間野義之
105
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