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〔酋文〕
弘前大学経済研究第 2
0号
November1
9
9
7
柔軟な労働,ジェンダー,空闘の再編:
在宅労働の理論的課題
北 島 誓 子
A
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.
の変化がしばしば指摘されている。恒常的,フ
在宅労働(Homeworkingあるいは HomeBased Work,日本で在宅勤務とよばれるもの
も含む)の再発見も,これらの柔軟な労働の増
加傾向の一環として理解しうる。在宅労働は,
ルタイム労働者が減少傾向にあるなかで,臨時
ひろくは,自宅のみで行われる労働,あるいは
雇い労働者やパートタイム労働者,そして小事
自宅をペースにして自宅外で行われる労働(た
序
今日の先進資本主義諸国において,就業構造
業を中心とする自己雇用者といった,いわゆる
1)こよで柔軟という言葉は,労働市場の局面に限って使
用している。しかし,のちに述べるように柔軟性という概念
は,多様な側面において把握されている。先進諸国における
柔軟な労働力の 8
0年代以降の増加傾向は,さまざまな統計
や文献が指摘している。たとえば' 1
9
8
1年から 1
9
8
5年にか
LabourF
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y
) によれば,
けて行われた労働力調査 (
英国ではパート労働の増加もみられたが,自己雇用がかなり
増え,さらに一時的労働が急激に増加したと報告されている。
他方,恒常的労働者は,わずかではあるが着実に減少してき
r
e
i
g
he
ta
l
.
1
9
8
6
; Hakim,1987a)。そして英国で
ている(G
は
' 1
9
8
0年代の半ばまでに,総労働力の 3分の 2が恒常的,
3分の lが柔軟的となった (Hakim,1
9
8
7
a
,
9
3)。さらにガー
9
9
5)は.パート労働者でありながらフ
ドナー( Gardner,1
0年代はじめの米国において無視し
ルタイムの労働者が' 9
えない存在となっていると指摘する。また,これらの労働者
のほとんどが,単身男性または既婚女性であるとされる。日
9
8
0年代はじめから 1
9
9
0年代はじめにかけて,ア
本でも, 1
ルバイトならびにパート労働の全雇用人口に占める割合は,
1
1パーセントから 1
6パーセントに増加した(総理府統計局,
1
9
8
3
,
3
6・7
;1
9
9
3
,
3
8
・
9)。同じく臨時雇用も減少傾向を示さず,
1
1パーセント台の安定を保っている(総理府統計局, i
b
i
d
.
;
総務庁統計局, i
b
i
d
.。
)
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t)とよ
“柔軟な”あるいは“付随的”( c
ばれる労働力の増加である( OECD,1
9
8
6
;1
9
8
9
;
Hakim,1
9
8
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9
;
Wood,1
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8
9
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,1
9
9
6
。
)1) 先進諸国におけ
る柔軟な労働力の増加現象は,これまで途上国
に典型的とみられてきた失業者や潜在失業者の
過剰人口(インフォーマル・セクターともよば
れる)が先進諸国でも増加しつつあるという傾
向( M
ingione,1
9
8
5
,1
5)とあいまって,“労働
市場の周辺化”( D
a
l
eand B
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d
,
1
9
8
8
,
1
9
1
)
が指摘される背景をなしでもいる。主として 8
0
年代以降にみられる“非標準的”な労働形態
(Wood,1
9
8
9
,6)の顕在化は,現代資本主義経
済の構造的変化を示すともみなしうるのである。
4
f
o
,
,
だし,この二者の区別はつねに明確なわけでは
ない),と定義することができ,被雇用あるい
(
T
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,あるいは Home-BasedA
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eWorkともよばれる)とよばれて
は自己雇用(この両者の区別も必ずしも明確で
おり,オフィス労働の分散(脱中心)化現象に
ない)の双方の場合がある。 2) しかし在宅労働
a
s
t
e
l
l
s
,
かかわる中心的な議論となっている(C
1
9
8
9
,
6
5
。
)6)
は,商品生産のー形態であり,在宅労働者と仕
事の供給者との賃金関係,あるいはその生産物
在宅労働はいまだマイナーな現象ではある
の市場的関係によって,自宅で行われる他の労
が
, 7)労働政策や社会政策にかんする重要な問
働形態(たとえば家事労働)とは区別される。 3)
題を提起しており,この労働形態に対してさま
在宅労働の職種は,製造業から近年成長がみ
ざまな主張や評価がなされている。一方で,在
られる情報・サービス関連業種いたるまで多岐
宅労働は,労働生産性を上昇させると同時に,
にわたっている J 情報通信機器を手段として
仕事における自律性や柔軟性(たとえば仕事と
なされる在宅労働は,データー処理などこれま
家庭とのバランスをとるうえでの)を増す,と
での製造業と同じたぐいのものから,勤務形態
の延長上に位置づけられる(普段は自宅で仕事を
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みなされる( G
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9
9
5
a
;Kugelmass,1
9
9
5)。他方で,在宅労
行い,定期的に職場に出向く)ホワイトカラー
働は,搾取されやすい目にみえない柔軟な労働
のさまざまな職種があり,熟練・非熟練の双方
者層を形成する,女性を家庭によぴ戻す力とな
にわたっている♂情報通信機器を手だてとす
る,老人や子供に対する国家政策を退行させる,
る勤務形態は,欧米ではテレコミューティング
5)英国では,ホワイトカラーの在宅労働はいまや,かつ
て在宅労働の典型であった製造業のそれを凌ぐともいわれる
(Hakim,1987a,96
。
)
6)米国では電子機械装置を使った在宅労働者は, 8
0年
代半ばには l万人から 3万人と見積もられていた (U.S.
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2)。し
かし' 9
0年代のはじめには, 7
0
0万から 8
0
0万の労働者(全
労働力の 6パーセント)が毎日テレコミューティングしてい
るとされ' 2000年までに,その数は 2,500万人(全労働力
0パーセント)になると予測されている (
B
a
r
n
s
,1
9
9
4
。
)
の2
7)たとえば, 80年代半ばの英国における在宅労働者は,
柔軟な労働者力の 4分の lをわずかにうわまわる程度であ
9
8
7a
.
り,このセクターの大きな部分ではなかった (Hakim,1
0年
9
4)。米国人口統計によると,在宅労働者は 60年から 8
にかけて減少した( S
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l
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,1
9
8
9
,1
0
9・1
0)。しかしこの減少は.
農業部門における在宅労働者の減少によるのであり,都市に
0年から 80年にか砂て増加している。
おける在宅労働者は 7
さらに政府統計は,不法居住者を含めていない。しかし,米
国大都市において注目されている在宅労働者は,まさにこれ
らの不法居住者なのである。実際その後の 1
9
9
0年の米国人
口統計によれば,在宅労働者は 340万人であり,これは 1
9
8
0
年のセンサスの 2
2
0万人からかなり増加している( S
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,1
9
9
6
,
Gdold
2
6)。ただしこの統計は,仕事の一部を自宅で行うものも在
宅労働に含めているので,全労働を自宅で行う在宅労働者は
より少なくなるはずである。 1985年には,米国にでは,全
労働時聞を自宅で行う非農業労働者は 190万人であった
CHorvath.1986,34)。しかし, 80年代後半以降の,米国に
おける在宅労働者の増加傾向は否定しえないようである。た
とえば.米国の人材会社の調査によれば,自宅で主だった仕
事を行う(ただし,全仕事を自宅で行うわけではない)労働
人口は' 1
9
8
9年から 1
9
9
3年までのあいだに毎年 8
.
9パーセ
ント噌加し, 1
9
9
3年には 3
0パーセントの成人労働者が何ら
かの仕事を自宅で行ったとされる(印wardandF
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・
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0)の電子小屋( e
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e)のアイデアは,このような動向と対応している。
2)英国の在宅労働にかんする調査 (
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,1981) も,在宅労働を,自宅のみで仕事を行うもの
と,自宅をベースにして仕事を行うものの,二通りを対象と
9
8
7
a)。在宅労働は必ずしも自宅に
して行われた( Hakim,1
限られるのではなし借家においても行われうる。しかし概
して在宅労働は,持家で行われる渇合が多い。英国の在宅労
働者に関して行われた調査も,在宅労働者は持家居住者が多
く,借家人(c
o
u
n
c
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lt
e
n
a
n
t
s)が少ないことを指摘している
(Hakim.i
b
i
d
.
,94)。国際労働機構 (ILO)は,在宅労働を,
“労働者自身の選択した場所での,しばしば労働者自身の自
宅で行われるという取り決めのもとでの,雇用者あるいは情
負業者に対する財の生産あるいはサービスの供給”と定義し
ている( I
n
t
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,1
9
9
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,5)。この ILOの定義は自己雇用者を含んでいな
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d
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d
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t
い。しかし,被雇用と自己雇用あるいは独立契約( i
9
9
5
b
,
c
o
n
t
r
a
c
t)とはしばしば区別が困雛であり( 0wenetal.,1
1
8),原材料や中間材の調達そして製品の販路を業者に依存
する自己雇用者も多い( P
r
i
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g
landB
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.i
b
i
d
.)。(この例と
して,プリューグルとポリスは,インドの b
id
i製造に携わ
る自己雇用労働者の例,および保険会社と独立契約をむすぷ
米国の在宅タイピストの例をあげる)。逆に,アレンとウオ
ルコヴィツは,在宅労働を,断片的仕事に対する報酬をえる
ために,家内的財(domesticpromis
田)を手だてとして行わ
れるものと限定し,フリーランサーなどの自己雇用的労働と
は区別する(A
l
l
e
nandWolkowitz,1
9
8
7
,l
)。以上のような
定義にかかわる問題点をふまえたうえで,本論文は,在宅労
働一般の提起する理論的問題を考察するという鐘旨から,広
い定義を採用する。
3)アレンとウォルコヴィツは,賃金関係のみで在宅労働
を規定するが( A
l
l
e
nandWolkowitz,1
9
8
7
,
2
4),前注にのぺ
た意味から,市場的関係においても捉えたほうがよいと思わ
れる。
4)たとえば,フィンランドでは, 2
9
0種の在宅労働が分
別されている( P而glandB
o
r
i
s
,1
9
9
6
,1
0
。
)
- 62-
柔軟な労働.ジェンダー,空間の再編:在宅労働の理論的課題
などと指摘される( Brown,1
9
7
4
; Hopee
ta
l
.
1
9
7
6
; Hakim,1
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0
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s and
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l
s
,1
9
8
9
。
) 1
9
9
0年代には在宅労働にかん
対して提起する問題を考察する。結論では,第
する国際論争を含む議論がなされており,在宅
れる理論的課題を仮説として提示し,この課題
労働の問題は今日ますます重要となっている。8)
に対する対応のあり方を検討する。
一部と第二部の議論を総括し,労働,ジェンダ一
関係,空間にかんする在宅労働の考察から導か
在宅労働の問題は,実践的,政策的問題にと
どまるのみでなく,労働,ジェンダ一関係,空
第一部
間にかかわる分野の理論的再検討を要請する問
在宅労働の歴史的・今日的背景
題でもある。これまでの労働過程や生産関係の
在宅労働は,近世の農村家内工業とともに登
理論は,原則的に生産の現場としての工場ある
場し,その後の産業資本の発達,すなわち賃金
いは職場を基底としており,また生産と空間と
労働の形成と展開とともに発展してきた。少な
の関係を扱う経済地理学も,この単位にそくし
6世紀後半以降,織物を主とした家族
くとも 1
て問題がたてられてきた面が大きい。さらにこ
生産の生産物が市場で取引されたが,これは小
の論文においても示されるように,ジェンダー
農民にとって副収入をなした。 9
l 1
7世紀に輸
の視軸は,労働,階級,空間の視軸と交差する
出製造業が農村部に拡がり,農村における家族生
ものとして,既存の理論的枠組みの再検討の必
産が競合的な製造事業(m
a
n
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n
t
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r
p
r
i
s
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s
)
要性を示している。
となると,在宅労働はギルドとの緊張関係に入
以上の背景をふまえて,本論文は,在宅労働
る( Q
u
a
t
a
e
r
t
,1
9
8
5
,1
1
2
4
。
) 10) ギルド職人たち
形態が提示するこれらの理論的諸問題を整理な
からみれば,家内工業は訓練をうけていない女
らびに検討することを目的としている。本論文
性が担う劣った仕事であり,彼らの職人生産か
の構成はつぎのとおりである。第一部では,在
u
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b
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d
.
;
らは区別すべきものであった( Q
宅労働の歴史的そして今日的背景をのぺる。欧
B
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i
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,1
9
9
6
,2
0・1
。
)11)
米諸国において在宅労働が賃金労働の形成とと
1
9世紀前半,在宅労働は,女性が賃金を得
もに発展してきた過程をたどり,両者の発展に,
る手だてとして,家族労働形態から賃金労働形
階級関係,ジェンダ一関係,都市空間構成(と
態への移行とともに成長していく。農村部から
くに職住分離),イデオロギーがいかに影響を
移住してきた女性にとって,自宅における裁縫
及ぼしてきたか,を検討する。さらに,在宅労
は家内奉公よりも自由な職とみられ,この女性
働が今日再登場した背景を,ポスト・フォード
たちが在宅労働に従事していく。これは同時に,
主義あるいはネオ・フォード主義への移行また
ギルドの職業領域を侵すことでもあり,在宅労
は回帰とみなされる,資本主義の構造的転換の
働とギルドとの摩擦が中央ヨーロッパの諸都市
u
a
t
a
e
r
t
,1
9
8
5
,1
1
3
6)。同時期の
でおこった( Q
諸側面から論じる。
第二部では,在宅労働が提起する理論的問題
米国においても,ニューイングランドを中心に
一労働の統制と自律,分業(ジェンダー的分
8
2
0年代のニュー
在宅労働が発達していた。 1
業ならびに空間的分業を含む),空間と階級関
ヨークでは,在宅労働システム(当時は o
u
t
s
i
d
e
係の問題ーーをあつかう。これらの理論的問題
の設定から,在宅労働がどう捉えられるのかを
systemとよばれた)は,雇用者たちに作業場
検討し,逆に在宅労働が,これらの問題範暗に
8)たとえば, ECにおける在宅労働についても議論がな
Homeworking仇 t
h
eEC.
されており,これにかんする著書 (
1
9
9
4)も出版されている( P
r
i
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g
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o
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i
s
,1
9
9
6
,l
)。また日
本においても,最近,在宅労働に対する関心がみられる(た
9
9
7年 1
0月 1
2日
)
。
とえば,『日経済新聞J1
9)ドイツやスウヱーデンでは,このような農村家内工業
が,冬期間の農民の副業として 2
0世紀まで続いたといわれ
る <
B
o
r
i
s
,1
9
9
6
,2
0
。
)
1
0)ただしギルドは, 1
2世紀の設立時から.在宅労働の
原形である家族生産(~ hまだ商品経済には組み込まれていな
">)とある種の緊張関係にあった( Q
u
a
t
a
e
r
t
,1
9
8
5
,1
1
2
5
。
)
1
1)しかしこの時期には,島村家内工業は女性のみによっ
てになわれていたのではなかったと思われる。
- 63-
をこえる生産拡大を可能ならしめ,衣料製造な
までになされたミシンの発明 (
1
8
4
0・1
8
6
0年
)
どの労働集約的産業にとって不可欠な存在であ
による生産の技術的問題の解決,そして安価な
った( S
t
a
n
s
e
l
l
,1
9
8
3
,8
0)。同じく港街のポス
商品に対する労働者階級による大量需要の見込
トンにおいても,衣料製造を中心に在宅労働シ
u
b
みは,女性と移民からなる(補助生活賃金(s
ステムが発達し,生産の拡張を可能にした
)で働くことのできる)安価
s
u
b
s
i
s
t
e
n
c
ewages
白.
で不繋練な労働予備軍の利用を可能としたりon
1
9
7
6
,
2
2)。在宅労働は,これらの安価な労働予
C
B
o
r
i
s
,1
9
8
8
,1
5)。在宅労働は,労賃と固定費
用を最低限におさえ,季節的で臨時的な雇用と
して,米国の都市産業発展において重要な役割
t
a
n
s
e
l
l,
めi
d
.
,
8
2
。
)
をになったのである( S
しかし同時に,在宅労働は家族製造業として
も存続した。たとえば,英国の束中部地方
(Midland)においては, 1
8
6
0年代に至るまで
メリヤス製造が家族生産のかたちで自宅で行わ
れた。材料,機械,市場の資本家的企業家によ
る支配のもとで,家族構成員が,家族問の分業
(
f
a
m
i
l
ya
r
r
a
n
g
e
m
e
n
t
)一一主人が型枠をっくり,
母親と娘が縫物をし,息子が糸を紡ぐという
ーーにもとづいて,生産に携わったのである
(
B
r
a
n
d
l
e
y
,1
9
8
6
,9
9
。
) 1
9世紀半ばの英国にお
いて,未婚女性に恒常的賃金を保証する職は,
地域によって可能であった鉱山の仕事を除くと
一般に家内奉公であった。したがって,英国東
中部地方のような織物地方の在宅労働は,女性
の職種という点からは当時むしろ特異であった
といわれる。しかし,メリヤス製造の家内的仕事
は,これらの仕事に携わる女性が織工の妻や娘
であったという点で,他の伝統的職種とかわり
e
n
n
i
n
g
t
o
nandW
e
s
t
o
v
e
r
,
はなかったのである( P
1
9
8
9
,
1
0
。
)12)
1
9世紀後半,消費財市場の拡大,技術変化
(ミシンの発明),海外からの競争圧力の増大な
どを通じて,在宅労働は急速に拡大した
(
J
o
n
白, 1
9
7
6
,
2
2
・
3
;A
l
l
e
na
n
dW
o
l
k
o
w
i
t
z
,
1
9
8
7
,
1
9
。
)
ロンドンでは, 1
8
6
0年代以降に地方工場から
の競争圧力が強まるなかで,工場主たちは作業
場( workshop)の賃金を最低限にするか,ある
いは在宅労働の活用によって,その圧力を切り
J
o
n
e
s
,
1
9
7
6
,
2
3)。またその頃
抜けようとした (
12)さらにいえば,女性は家内奉公よりも,仕事はきつく
ても自由がえられる鉱山での仕事を好んだと指摘されている
(
P
e
n
n
i
n
g
t
o
nandW
e
s
t
o
v
e
r
,1
9
8
9
.8
・
9
。
)
備軍を背景として,工場,製造所,倉庫の外部
における“みえない脅威”となり( Marx,1
9
7
6
,
5
9
1
)
,1
9世紀メトロポリタン産業化において
重要な地位をしめる消費産業(織物,衣類,煙
草など)の発展を基礎づけた。在宅労働システ
ムは,ある点では前工場生産システム的存在で
9世紀から 2
0世紀はじめま
あったけれども, 1
で,ニューヨーク,ロンドン,パリ,そしてヨー
ロッパの他の製造中心地において,産業発展の
t
a
n
s
e
l
l
,
1
9
8
3
,
7
9
。
)
一翼を担ったのである( S
労働者保護を意図した工場法その他の労働諸
法の施行は,在宅労働をさらに増加させた。たと
8
6
7
えば,英国のレースやメリヤス製造業者は, 1
年の工場法による規制を在宅労働によって切り
e
n
n
i
n
g
t
o
nandW回 t
o
v
e
r
,1
9
8
9
,3
7
,3
9
。
)
抜けた(P
雇用者は,被雇用者の就労時間終了後,仕事を
自宅へと持ち返らせたり,いったん工場を閉鎖
したのち在宅労働の分配人として再度開いて,
o
r
i
s
,
拘束的法律を巧みに操ったのである( B
1
9
9
6
,
2
3)。女性労働者の保護を意図して施行さ
れたフランスの法も,家庭を規制対象外におく
ことで在宅労働を増加させた。ニューヨークの
少年法も在宅労働に対する規制を行わなかっ
8
9
1年のドイツの工場における少
た。同じく 1
年労働を禁止した法も,逆に少年を自宅労働に
o
r
i
s
,i
b
i
d
.)。女性と
おいやる結果となった( B
子供を保護すぺく意図された工場法は,産業労
働における性的分業の促進に一役かったのであ
る( P
e
n
n
i
n
g
t
o
nandW
e
s
t
o
v
e
r
,i
b
i
d
.
,1
0
。
)13)
在宅労働が労働法の規制の枠外におかれたの
は,主として二つの理由による。第一に,自宅
1
3)英国の掲合.在宅労働の法的規制が鰻初に行われたの
9
0
1年の工場ならびに作業場法( F
a
c
t
o
r
yandWorkshop
は
, 1
e
n
n
i
n
g
t
o
nand W
e
s
t
o
v
e
r
,1
9
8
9
,1
0
6
)。こ
A
c
t)であった( P
- 64-
柔軟な労働,ジェンダー,空間の再編:在宅労働の理論的課題
における労働は,産業労働というよりも家事仕
辺性”が都市産業資本においても制度化されて
事や女性の家内的手工芸とみなされた(たとえ
t
a
n
s
e
l
l
,1
9
8
3
,8
0),この過程は他の都
おり( S
ばドイツ),第二に,プライパシーの観念が,
市においても追随されてゆく。在宅労働職種の
家族と自宅に対する政府介入を妨げた,からで
分化がすすむにつれて,ある労働過程は仕事場
o
r
i
s
,1
9
9
6
,2
3)戸たとえば,英国の 1
8
7
8
ある( B
に残り,そのうちの一部はより機械化され合理
年の工場法は,民間の家屋や部屋を検査の対象
化された工場で行われてゆくが,他の労働集約
から除外した。この背後には,家庭は政府介入
的部分は家庭にとどまるか,あるいは家庭へと
の対象外におかれるべきであるという了解があ
送られてゆく。これは,男性が機械化された工
り,この見解は,社会改良主義者はもとより在
場に働きに出る一方で,女性は衣類とその関連
B
o
r
i
s
,
宅労働者組織によっても支持されていた <
i
b
i
d
.
,
2
4)
。その結果,政府介入はせいぜい衛生
商品の下請仕事を自宅で行うという,性的分業
0世紀はじ
の形成過程でもあった。 16) そして 2
面など,家族構成員が賃金労働をなすことを妨
めまでに,米国,英国, ドイツ,フランスなど
げない程度にとどめられた。さらに,法の施行
の都市における在宅労働者の大半が女性となっ
上の困難もあった。第一に,分散的でかつ孤立
o
r
i
s
,1
9
9
6
,2
1)。このように,家族労働シ
た( B
しているセクターをどう監視するか,という問
ステムから,親族でない男性のために女性が商
題があり,第二に,法の基準に合致しない在宅
品を生産する賃金労働システムへの在宅労働の
労働が見い出された場合,“誰が責任を負うのか”,
移行は,性的分業の形成過程でもあった。また
e
n
n
i
n
g
t
o
nandW白 t
o
v
e
r
,
という問題があった(P
1
9
8
9
,1
0
6
。
)15)
でもあった。それゆえ,女性の職業領域への参
在宅労働の発展は性的分業を伴うものであっ
ennington
加は“産業革命とともに終った”( P
た。在宅労働は当初は,男性の職人労働者(た
andW
e
s
t
o
v
e
r
,1
9
8
9
,1
0),とも主張されるので
ある。
在宅労働の発展が性的分業を伴った過程は,
当時のイデオロギー的脈絡において理解される
必要がある。女性が経済的に従属する存在であ
り,母親と教育者としての役割をにないつつ理
想的家庭を維持すべきであるという,“女性の
r
o
p
e
rp
l
a
c
e)
”
(C
oons,
あるべき場所( womensp
9世紀を通じて
1
9
9
3)の認識は,少なくとも 1
ヨーロッパ諸国に共通して存在しており,この認
識は,保守派のみならず労働団体および女性解
oons,
放主義者たちによっても抱かれていた( C
ばこ製造や仕立屋など)が,妻や子供たちのサー
ピス(仕事)を要請するというかたちの家族製
造業であり,米国の一部都市では,このような
0世紀初頭まで存続していたと
家族製造業が 2
B
o
r
i
s
,1
9
8
8
,1
8)。しかし,産業資本が
される <
比較的はやくから発達したニューヨークにおい
9世紀前半に,在宅労働システ
ては,すでに 1
ムの発達を通じて,女性労働力の“不動性と周
れは,雇用者に彼の仕事を担うすべての在宅労働者のリスト
を提出する義務を負わせるものであったが,この法も実施面
においては効果がなかった。その第一の理由は.監視者が,
法の基準に合致しない在宅労働条件を発見しでも,それを改
善させる権限をもたなかった点,第二に,リストは.仕事を
受注する者(一家の家長)に限定されていた(そのもとで働
く女性や子供は除外されていた)点,にある。
1
4)しかし 1
9世紀のはじめ,プロシア政府は,裁縫技術
を賃金獲得に結びつける在宅労働は,主婦にとって適切な手
だてとして許容していた。産業発達の悪(子供の労働,人口
移動,伝統的価値の破捜などの)が明るみになるにつれて.
1
8
4
0年代以降にプロシア政府は在宅労働を非生産的なもの
とみなすようになった( Q
u
a
t
a
e
r
t
,1
9
8
5
,1
1
3
5
・
6
。
)
1
5)違法在宅労働に対する責任の所在の問題に対して.ロ
ンドンのイーストエンドの調査に携わったチャールズ・プー
ス( C
h
a
r
l
e
sBooth)は.“家主が負うべきである九と提起
したといわれる( P
e
n
n
i
n
g
t
o
nandWestover,1
9
8
9
,1
0
6・7
。
)
これは,女性の賃金労働を自宅に限定する過程
i
b
i
d
.
,5
1
;P
e
n
n
i
n
g
t
o
n and Westover,1
9
8
9
,2
。
)
このイデオロギー的状況のもとで,在宅労働の
選択は,伝統的家族形態の維持と経済的状況と
の妥協の産物となった。一方で,女性が外に出
ることなく行われる在宅労働は,彼女たちの家
1
6)スタンセルは,家族製造における階層的システムは,
個々人が賃金労働にくみこまれるにつれてより重要となった
と指摘する。階層的システムに支えられた家族製造の伝統は,
労働する人々が協同によって自らを支える方法であるととも
に,搾取の手段ともなったのである( S
t
a
n
田 l
l
,1
9
8
3
,9
3
。
)
- 65一
内仕事と抵触せず,“パンの稼ぎ手”( bread
winner)たる男性に対する威厳を保った。他
方,在宅労働は,女性の仕事とみなされたので,
通念をもたらした。またそれは,女性たちの得
i
b
i
d)。同様に,共和派政治家であるシモン O
u
l
e
s
Simon)は,産業発展は,基本単位である家庭
を破壊する悪であると主張し,男性の賃金が家
族を養うのに十分でない場合,女性は自宅で働
くべきである(女性のあるべき位置にとどまる
b
i
d
.
,1
9・2
4。
)
べきである)と論じた( Coons,i
このような見解は,フランスの社会改良主義者
や保守層のみならず,労働者団体によっても共
有されており,家族の仕事場としての在宅労働
に対する期待へとつながった。 17)伝統的家族
i
nmoney)であるというイ
る金はわずかの金(p
擁護派は,在宅労働に,機械生産がもたらした
メージを,雇用者,マスコミ,政府機関などに
自宅と仕事場との分離を終わらせうる手段とし
在宅労働者は男性労働者の脅威とはなり難かっ
た( P
e
n
n
i
n
g
t
o
nandW
e
s
t
o
v
e
r
,1
9
8
9
,1
7・
8
)。そ
a
m
i
l
ywage)の概念が,夫
して,家族賃金( f
が彼の妻や子供たちを養うことができる(養う
意向をもっ)というイデオロギーとして,既婚
女性が夫の稼いだ家族賃金で養われうるという
描かせた。家族賃金の概念は,既婚女性という
B
o
x
e
r
,1
9
8
2
,4
1
4)。また衣
ての期待をかけた <
かたちでの,“安価で,不熟練で,非闘争的な労
料生産都市においては,労働争議に刺激された
働予備軍”がたえず存在することを意味したの
慈善団体が,自治体の援助を得つつ,労働者が
e
n
n
i
n
g
t
o
nandW
e
s
t
o
v
e
r
,1
9
8
9
,3
・
5
。
)
である( P
家庭用小機械を購入するのを援助する計画をた
u
t
s
i
d
eworkers)は,
それゆえ在宅労働者( o
B
o
x
e
r
,i
b
i
d
.
,4
1
5)。このような社会的潮
てた <
彼女らが女性であるからではなく,妻や母親,
流に乗じて,織物機械会社は,機械の購入やリー
あるいは娘として家族の責任を担うがゆえに,
スが,社会の安定をもたらすと喧伝したのである
都市労働力の底辺に位置した(S
t
a
n
s
e
l
l
,1
9
8
3
,
(
B
o
r
i
s
,1
9
9
6
,
2
5
。
)
1
9世紀末,英国その他における,社会主義
や新自由主義の運動(女性運動,労働運動,居
住運動など)は,在宅労働を転換させえなかった
ものの,在宅労働に対して一定の影響を与えた。
貧困にかんする最初の科学的アプローチとされ
る,チャールズ・ブースのイーストエンドの調
8
8
0年代には,貧困論争( Poverty
査を契機に, 1
Debate)が行われ,労働条件にかんする在宅
労働の問題が明るみにだされる( Pennington
o
v
e
r
,1
9
8
9
,1
0
2)。このなかで在宅労働
andW白 t
は,家庭における工場奴隷制度であり,家庭を
商業化し,母性,児童,家族生活を“おとしめ
B
o
r
i
s
,
1
9
8
8
,
2
1)ものとして,在宅労働に
る
” <
対する反対・規制の運動が現われた。しかしこ
の運動は,在宅労働の禁止,すなわち女性は外
で働くべきであると主張するものではなかっ
た。女性は家庭にあるべきであるという信念は,
中産階級はもとより社会主義フェミニズムによ
9
1),と主張されるのである。
米国では,在宅労働は女性にとって,工場労
働よりもよい選択とはみられていなかった。し
かし雇用者は,女性労働者がみつけられないと
いう理由から在宅労働制度の利用を正当化し
た。他方,労働者組織は,“生計をまかなう男
性労働者を脅かす”ものとして,在宅労働に反
B
o
r
i
s
,
1
9
9
6
,
2
6)。このような反対にも
対した <
かかわらず,現実には男性だけでは生活賃金を
獲得できなかったため,女性は在宅労働に携わ
o
r
i
s
,i
b
i
d
.。
)
ることになった( B
さらに,在宅労働が,産業資本主義の進展に
よる家庭崩壊に対する対応策として,むしろ積
極的に推奨された国もある。たとえば,空想的
社会主義者のプルードンは,産業資本主義の発
展が,父親を賃金労働へとおいやりまた母親を
家内的領域から遠ざけることで,労働者階級の
oons,1
9
8
7
,1
6・8
。
)
家族が崩壊すると憂えた( C
プルードンにとっては,女性に可能な役割は主
ousekeeper)か娼婦であり,女性労働者
婦( h
は男性から仕事を奪う“盗人”であった( C
o
o
n
s
,
1
7)たとえば.フランスの第四次国家労働者会議の代表者
I
i,“女性が働かなければならないとしたら,彼女を家から
去らしめない職業につかせるべきである\とのべている
(
C
o
o
n
s
,1
9
9
3
,
5
3
。
)
一部一
柔軟な労働,ジェンダー,空間の再編:在宅労働の理論的課題
っても共有されていたからである。 18)それゆえ,
しかし,労働運動一般の高まりのなかで, 2
0世
在宅労働に対する規制は,許可制によって行わ
紀初頭には在宅労働の最低賃金にかんする議論
B
o
r
i
s
,1
9
9
6
,
2
8
9)。そしてこの許可制は,
れた C
r
o
g
land B
o
r
i
s
,1
9
9
6
,
がなされるようになり( P
在宅労働者を,“彼女自身の仕事場を向上させ
o
r
i
s
,i
b
i
d
.
,3
0)と定義する
ようとする母親”( B
2
0
)
'1
9
1
0年代前後には,欧米各国において在
宅労働に対して最低賃金制度が課されるように
ことで,既存の性的分業をうけいれたのである。
なった。最低賃金制度の導入によって,在宅労
他方,在宅労働者の組合化には困難があった。
働者は,働く母親としてでなく労働者として認
o
r
i
s
,1
9
9
6
,
3
0
。
)
められるようになる( B
その理由としては,在宅労働者が半熟練あるい
は不繋練であった点,彼女/彼らが低賃金であっ
だが,最低賃金の設定には困難があった。た
た点,不熟練在宅労働者の組合加入は自分たち
とえば,ある女性の最低賃金提唱者は,最低賃
の地位を損なうとみる男性組合員の態度,などが指
金を生活賃金と等価と捉え,他のある女性労働
e
n
n
i
n
g
t
o
nandW
e
s
t
o
v
e
r
,1
9
8
9
,
摘されている( P
者は,最低賃金が在宅労働と両立しうるものと
)。しかしより在宅労働に固有の理由とし
1
1
3・4
て,在宅労働の労働過程ならびに生産条件にも
o
r
i
s
,1
9
9
6
,3
0)。他方,労働組合員
みなした( B
は,在宅労働の最低賃金は女性の必要にもとづ
とづく要因を指摘しうる。ペニントンとウエス
くものであるから,男性のそれより低くあるべ
ト
ノ Tーか論じるように,在宅労働が断続的になさ
きである,とみなした。さらに在宅労働の場合,
れるものであり,また労働者自身も一時的で周
賃金設定そのものに対する抜け道がありえた
辺的なものと意識するので,賃金向上や労働条件
(たとえば,鎖づくりの場合には,雇用者が,
向上のために団結しようとする関心が在宅労働
材料を労働者に売りそして彼らから製品を購入
者のあいだに育たない,とみられる( P
e
r
u
吋n
g
t
o
n
する,という方法を採用することにより,賃金
)。同じくスタンセル
and W
e
s
t
o
v
e
r
,1
9
8
91
1
3・4
はつぎのように分析する。実際の労働関係はも
とより家族に対する心理的つながりゆえに,他
規定を暖昧にすることができた)。また,最終
の(向性の)労働者と連携関係にあり,労働市
宅労働者のあいだには育ちがたい。家族労働と
。
)
andW
e
s
t
o
v
e
r
,1
9
8
9
,1
0
4・5
このような状況のなかで,社会主義者たちは,
在宅労働に対する最低賃金は他の労働者の賃金
賃金労働との境界が暖昧であるのと同じく,家
を引き下げるという理由から,在宅労働に反対
的に“誰が”最低賃金の支払いに対して責任を
おうのか,という問題も生じた( Pennington
場において共通の利害をもっという感覚が,在
族のための労働者という感覚と,自ら賃金労働
1
9
0
4年のベルリン会議)。また
するにいたる (
者であるという感覚との境界も暖昧である。ス
社会主義フェミニズムも別の理由から在宅労働
タンセルからみれば,長期的にはこの暖昧さが,
に反対した。たとえば,フランスのフェミニズ
労働者としての意識を制約するのである
ムは, 1)女性の自宅における労働は女性の解
(
S
t
a
n
s
e
l
l
,1
9
8
3
,9
5
6)。彼女の論じる暖昧性の
放をさまたげる, 2
)“家庭における天使”はも
問題は,のちにみるように,空間的要素(空間
はや存在せず,女性は“社会の真の位置”すな
的に分離した在宅労働者は,体験を共有しがた
わち男性とあらゆる点において対等であるべき
い)にもかかわっている。
である,という見解にいたり( C
oons,1
9
9
3
,6
5
)
,
在宅労働はこの目標にとって障害とみなされた
1
8)当時,社会主義フェミニズムは,働く女性が生計賃金
をえる権利を擁護しつつも,母親が家庭にとどまることを好
んだ。英国労働組合会議において,ある中産階級の女性(解
放)改良主義者の,“女性の雇用と彼女らの産業組織の問題
は,彼女らの夫,子供,家庭の幸福(案寧)に関係する( b
a
r
e
upon)”という意見に対して,労働組合は,“女性は,彼女
らの家庭にあるのが最善である”と返答している( Moπis,
1
9
8
6
.i
nB
o
r
i
s
,1
9
9
6
,
2
9
。
)
のである。
第一次大戦直前には,失業は女性にとっても
深刻な問題であったが(被扶養者として生計が
保証される女性ばかりではなかった),大戦は
女性を従来の位置から引き離した。戦時下の労
ヲ’
FO
働力不足のなかで,女性が家を離れ産業部門に
以上のような背景から, 1970年代までは,
参加することが推奨されたのである。しかし大
在宅労働はかくれた存在となっていた。しかし,
戦が終ると,彼女らは再度産業から去り,“もと
1
9
7
0年代半ば頃から,英国において在宅労働
の場所”に戻る(男性に職をゆずる)ことを要請
者の労働条件に対する待遇改善の動きなどもあ
e
n
n
i
噌t
o
nand W
e
s
t
o
v
e
r
,1
9
8
9
,1
2
ι
7
。
)
された(P
9
8
0
り,在宅労働は再び注目される 021)さらに 1
両大戦間の経済不況時,主要産業が衰退する
年代の初期までに,在宅労働は別の側面から他
なかで,新しい産業(たとえば自動車)や関連
の先進諸国でも着目される。すなわち,在宅労
軽工業,そして小売業が発展した。機械化にも
)賃金労働と家事仕事とを両立させうる
働は, 1
とづく分業の発展,それに伴う手仕事の衰退の
)固定費用と
ので女性にとって有利である, 2
なかで,より不熟練でルーチン化された仕事が
労賃とを引き下げるので,企業にとって有利であ
増加し,女性に雇用の機会がもたらされる
)労働生産性を上昇させる, 4
)従業員の
る
, 3
(
P
e
n
n
i
n
g
t
o
nandWestover,1
9
8
9
,1
3
8
9)。他方,
モラルの低下に対応する手だてとなる,などとして
職業(労働)状況の変化と機械化による経済の
e
l
l
y
,1
9
8
6
;A
r
d
e
n
,
注目されていく(GordonandK
効率化は,さまざまな職業で在宅労働を終らせ
1
9
9
0
;Owene
ta
l
.
,1
9
9
5
a
;Kugelmass,1
9
9
5
。
)22)
た。戦前に在宅労働が支配的であった衣料産業
そして 8
0年代の半ばまでに在宅労働は,すた
においても,工場労働が主流となり,在宅労働
れつつある労働(就業)形態としてではなく,
はもはや生産の伝統的形態となった。 19)
新たな代替的労働形態としてもみる者もあり,
第二次大戦開始時,英国政府は当初,既婚女
性を賃金労働に駆り立てるのに薦踏を示してい
この労働形態にかんして相対立する主張や評価
がなされている。
た。しかし,戦争が進行するにつれて,労働予備
軍はこれら既婚女性のみとなり,第一次大戦時
今日,在宅労働が再登場し,注目されている
と同様に,女性は産業部門の労働力として用い
背景的要因として,資本主義の構造的変化をあ
e
n
n
i
n
g
t
o
nandW白 t
o
v
e
r
,
られるようになる( P
。
)20)終戦直後,女性の雇用に対して,
1
9
8
9
,
1
4
9
低下傾向のなかで,企業はコスト削減をせまら
第一次大戦終了時と同じ結果がもたらされた。
れ,“柔軟な生産方式”による生産性上昇が企
しかしその後 1
9
5
0年代になると,特定部門に労
てられるようになる。柔軟な生産方式は,労働
働力不足が現われ,家庭外で働く既婚女性の数
市場においては,異なるタイプの労働者に対す
を増大させた。パート労働などの戦後に出現した
る分割的需要をうみだしている。商品市場にお
げうる。国際間競争の激化,あるいは利潤率の
柔軟な労働へのシフトが,これらの女性に雇用
いては,小企業や企業家によって供給される,
e
r
u
甘昭t
o
na
n
dW白 t
o
v
e
r
,
機会を与えたのである(P
専門的商品やサービスへの需要の増大をもたら
i
b
i
d
.
,1
5
2
。
)
している。さらに大企業は下請ヒエラルキーを
1
9)ただし,これらの在宅労働は完全に消えうせたわけで
はない。ロンドンのイーストエンドとウエストエンドの双方
に対して行われた新調査( NewS
e
r
v
e
y)は,在宅労働者の
存在を確認している。ウエストエンドでは,男性を主とする
熟練在宅労働者(彼らは家族を雇っていない)が,イースト
エンドでは,既婚女性,老人,身障者たちからなる不熟練在
宅労働者が,伝統的な低賃金の在宅労働にたずさわっていた
(
S
m
i
t
h
,
1
9
3
1
,
i
nP
e
n
n
i
n
g
t
o
nandW
e
s
t
o
v
e
r
.
1
9
8
9
,
1
4
3)。他方
米国では, 1
9
3
8年に,在宅労働が主流であった織物業などの
産業部門で,在宅労働が禁止された( O
f
f
i
c
eo
fTechnology
A
s
s
e
s
m
e
n
t
,1
9
8
5
,1
9
1
)。
2
0)たとえば,英国で賃金労働にたずさわる既婚女性は,
1
9
3
9年には 7人に 1人であったが, 1
9
4
3年には 5人に 2人
となった( P
e
n
n
i
n
g
t
o
nandW
e
s
t
o
v
e
r
,1
9
8
9
,1
4
9
。
)
通じて,小企業や低賃金地域へと生産を分散す
2
1
) ペニントンとウヱストヴアーは, 1
9世紀末とはことな
り.今日の在宅労働に対する関心は,労働組合でなく圧力団体
によってもたらされたと指摘する( P
e
n
n
i
n
g
t
o
nandW白 t
o
v
e
r
,
。
)
1
9
8
9
,1
5
7
2
2)たとえば, 8
0年半ばから, MountatinB
e
l
l
,P
a
c
i
f
i
cB
e
l
l
,
JC Penny などの電話会社や小売産業が,管理者層を中心に
在宅労働プログラムをとりいれている。これらの会社が在宅
労働プログラムを採用した理由は, 1
)価値ある雇用者を引
きつけるため, 2
)長期欠勤を減らすため, 3
)オフィス空間
のコストを引き下げるためであるとされる( C
h
r
i
s
t
e
n
s
e
n
,
1
9
8
8
,
6・7
)。また 1
9
8
4年にレーガン政権は, 1
9
3
8年になされ
た産業部門における在宅労働の規制を廃止した( O
f
f
i
c
eo
f
TechnologyA
s
s
e
s
m
e
n
t
,1
9
8
5
,1
9
1
)。
一倍一
柔軟な労働,ジェンダー,空間の再編:在宅労働の理論的課題
ることで,コスト削減をはかる(S
i
l
v
e
r
,1
9
8
9
,1
1
2
。
)
る関心をもたらす( H
i
r
s
c
h
,i
b
i
d
.)。また,国
生産方式の変化は,階級構成の変化や社会的
境をこえた生産の分散を可能にする生産自動化
規範の部分的変化をもたらす。戦後成長を支え
の発展を主張するネオ・フォード主義の立場か
た生産労働者からなる中産階級が衰退し,柔軟
g
l
i
e
t
t
a
,1
9
7
9
,1
2
7),フォード主義の危
らは( A
な労働力を構成する臨時労働者や,下請契約に携
機は,オートメーションの水準,企業(工場)
r
U
g
l
わる自己雇用者層への代替がなされる( P
and B
o
r
i
s
,
1
9
9
6
,
5
6)。また柔軟な生産方式へ
の移行に伴い,女性の雇用機会の増加やそれに
の課業構造,労働の空間的分業,の一つあるい
伴う家族形態の変化などの,社会的変化がもた
宅労働は,柔軟な労働力を供給することによっ
は二つを根底的に変化させることによってのり
9
8
9
,2
・3
)。在
こえられる,とされる( Wood,1
らされる。 23)しかし同時に,家事や育児などの
てこの転換の緩衝的役割をはたし,資本主義の
伝統的家事労働は女性にまかされるのが一般的
構造的変化を媒介する役割をはたしている,と
である。在宅労働は,このような女性の社会進
みなしうる。
出に伴う困難を克服し,賃金労働と家事労働と
を調整させうる手段となりうる,と主張される。
第二部
以上の資本主義の構造的変化は,戦後に主流
在宅労働の理輪的課題
的であったフォード主義蓄積体制からポスト・
第一部で示されたように,在宅労働は,ジェ
フォード主義蓄積体制あるいはネオ・フォード
ンダー的ならびに空間的分業を伴いつつ,また
主義蓄積体制への転換としても捉えうる。戦後
家父長・家族イデオロギーに支えられつつ,産
の経済成長を維持した,規模の経済,大量生産
業革命後,賃金労働とともに発展してきた。こ
方式,団体交渉制度,ケインズ型介入形態など
の第二部では,在宅労働が提起する理論的問題
を特徴とするフォード主義蓄積体制/調整様式
である,労働の統制と自律性,分業(ジェンダー
カ報界となるなかで,視野の経済,柔軟な生産,個
的分業ならびに空間的分業を含む),階級と空
別的労使交渉,勤労福祉型国家介入,を特徴とす
間との関係,の諸問題を考察する。
る新たな蓄積体制/調整様式が模索されている
1.労働の統制と自律性
g
l
i
e
t
t
a
,1
9
8
7
;B
o
y
e
r
,1
9
9
0
;L
i
p
i
e
t
z
,
のである( A
1
9
8
5
;1
9
8
7
;J
e
s
s
o
p
,1
9
9
1
;1
9
9
2
。
)24)
資本主義的生産は,労働者を労働に参加させ
ポスト・フォード主義蓄積体制のもとでの情
報技術革新の進行は,工業部門の生産性上昇に
て労働を統制する必要と,その参加を縮小する必
伴う生産労働人口の減少のみでなく,オフィス
t
o
r
p
e
randWalker,
要との“根底的緊張関係”( S
1
9
8
9
,
1
5
6)を含んでいる。 25)ところで,在宅労
労働の自動化,それに伴う事務職の絶対的減少
働の本来の利点は,労働者自身が労働条件と労
h
r
i
s
t
e
n
s
e
n
,1
9
8
8
,3
),ポスト・
をもたらし( C
働量とを自律的に調整しうる自由にある,と論
フォード主義の周辺労働者層(予備軍)を形成
l
l
e
nandWolkowitz,1
9
8
7)。では,
じられる( A
9
8
3
;H
i
r
s
c
h
,1
9
8
5a
,b
;E
s
s
e
rand
する( Muπay,1
H
i
r
s
c
h
,1
9
9
4)。これら周辺労働力者層を再生
産する必要は,インフォーマル・セクターにお
ける生存生産の新たな形態や,在宅労働に対す
2
3)たとえば, 8
0年代なかばの米国では,父親が外で働
き母親が家庭にとどまるという家族形態は 7%にすぎず,逆
に,女性を戸主とする家族は,全家族の 1
7%にのぼった
(
C
h
r
i
s
t
e
n
詑 n
,
1
9
槌, 5
。
)
2
4)フォード主義/ポスト・フォード主義論争の総括と評
1
9
9
6)を参照。
価にかんしては,北島 (
在宅労働は,資本(あるいは管理者)による統
制という問題を解消しうる労働形態であると理
解しうるのか。
2
5)ウオーカー( Walker,1
9
8
5
.
1
8
1)は,雇用関係に対す
る基本的見解を次のように整理する。 1
)新古典派経済学は.
労働の交換を成果に対する直接的報酬の関係とみる, 2)ラ
デイカル派の労働過程論は,労働の交換と成果を主として労
働統制の状況から導かれるとみる, 3)労働市場分断化論は,
労働の交換は基本的に経済的搾取のために構成されるとみ
)産業社会論は,抵抗と統制(支配)を技術と分業に
る
' 4
依存するとみる,と。
一的一
労働過程における統制と自律の問題にかんし
労働者の長期欠勤などを回避させることができ
ては,対極的な二つの見解がある。一つは,柔
それゆえ生産性を高める,とも論じられている。
軟な専門化仮説であり,他方はプレーパーマン
すなわち,在宅労働は,より広範囲で多元的な
の不熟練化仮説である。柔軟な専門化仮説によ
(オフィス空間をこえた)統制のもとにおかれ
れば,今日,消費噌好の変化や新たな技術革新
る,ともみなしうるのである。
を背景にして,大量生産方式は行き詰まりの状
在宅労働における労働統制の貫徹は,他の研
況にあり,職人生産方式の復活が可能となって
究も指摘する。たとえば,アレンとウオルコヴ
a
b
e
l
,1
9
8
2
;1
9
9
4
;P
i
o
r
eand
いる,とみられる( S
S
a
b
e
l
,1
9
8
4)。大量市場向けの標準商品の生産が,
事と家庭の時間を調整するうえでの),自律性
ィツは,在宅労働が労働者の自由,柔軟性(仕
(特殊目的機械を用いて)不熟練あるいは半熟
を高めるというのは神話である,と主張する。
練労働者によって行われる大量生産とは異なり,
在宅労働においても,雇用者は,労働者の作業
柔軟な生産方式は,資本家と労働者との聞の信
ペースを監視する手段と技術をもっており,労
n
d
u
s
t
r
i
a
ld
i
s
t
r
i
c
t
s
)
頼関係(これは産業地区( i
働のペースと強度,そして生産物(製品)の質の
において形成される)を一つの基礎にしている
l
l
e
nandWolkowitz,
統制は実施されている(A
(
S
a
b
e
l
,i
b
i
d
.
;P
io
r
eandS
a
b
e
l
,i
b
i
d
.)
。
2
6
)
他方,資本主義が存続するかぎり,テイラー
1
9
8
7
,1
1
2
,1
1
4・
5)。その手だてとしては,請負業
者による製品のチェック,コンビューターによ
主義には終りがないというプレーパーマンの主
る技術的手段,あるいは労働者間の監視などが
9
7
4)。テイラー主義
張がある (Braverman,1
あるとされる。
(科学的管理)は,単純作業に適応する,一般
請負業者が製品を管理する主なメカニズム
的で均質な労働力の水準に労働者を低質化させ
は,出来高払制度である。請負業者による製品
i
n
kt
o)ことを意図しており( Braverman
る( s
のチェックは,製品の質を管理する。また期目
i
b
i
d
.
,l
2
l),管理者の主たる目的は労働者(労働
指定(期日に遅れた場合には,もはや仕事は与
過程)の支配(統制)である。労働者を直接的
えないという脅し)は,労働の強度をコントロー
に統制しようという管理者のこの衝動のもとで
l
l
e
nandWolkowitz,1
9
8
7
,1
0
5
,1
1
5
。
)
ルする( A
は,必然的に不熟練化した労働力が形成される。
さらに,段階的作業順序にもとづく労働者によ
u
m
e
r
i
c
a
lc
o
n
t
r
o
l
)
さらに機械は,数値制御( n
る監視システムもある。ある段階の生産部品を
を可能とし,組織的,訓練的手法にかわる労働
受け持つ在宅労働者の製品の質は,次の段階の
B
r
a
v
e
r
m
a
n
,i
b
i
d
.
,1
9
5
・
統制の新たな用具となる (
7
。
)27)
生産を担う在宅労働者によって検査される。そ
在宅労働にかんするこれまでの研究のなかに
l
l
e
nandWolkowitz,i
b
i
d
.
,1
0
5
6
。
)
のである( A
して最後に,請負業者が最終製品の検査を行う
情報・通信技術にもとづく技術的手段も,テ
は,在宅労働は被雇用者の自己管理を可能にし
うる,という指摘もある(e
.
g
.
K
u
g
e
l
m
a
s
s
,1
9
9
5
,
レコミューティングなどにみられる情報機器を
5
8・9)。しかし同時にこれらの分析においては,
在宅労働が,通勤やオフィス空間の節約などに
よってコスト低下を可能にするばかりでなく,
用いた在宅労働の主たる統制手段となっている。
たとえば,事務仕事の在宅労働者の生産性は,単
位時間あたりのキュ一打ち数で計ることができ
る(A
l
l
e
nandWolkowitz,1
9
8
7
,1
1
3
;Appelbaum
and A
l
b
i
n
,1
9
8
9
,2
5
3)。米国の保険会社におけ
るテレコミュニケーションの導入を分析したア
ッペルパウムとアルピンが指摘するように,技
2
6)北島 (
1
9
9
6)は,ポスト・フォード主義論争と関連し
て論じられる柔軟な専門化仮説の整浬と総括,そしてその地
理学的側面の問題を論じている。
2
7)プレーパーマンの仮説にかんしては, Buraway0979),
Edwards (
1
9
7
8
)
,L
i
t
t
l
e
r0
9
8
2
)
, Thomson (
1
9
8
3)など,
さまざまな批判や評価がなされている。また鈴木 (
1
9
9
5
;1
9
9
6
)
は,官僚的統制形態を焦点にして,プレーパーマン以降の欧
米における労働過程論の論評を行っている。
術は“かなりの測量”を可能にするのである
(Appelbaum and A
l
b
i
n
,i
b
i
d
.
,2
5
3)。さらに技
一
- 70
柔軟な労働,ジェンダー,空間の再編:在宅労働の理論的課題
術的手段は,労働統制における空間の制約もの
の在宅労働者は,本社のコンビューターの稼働時
f
f
s
h
o
r
e
)
りこえうる。たとえば,海外生産( o
間にも対応をせまられる。すなわち,在宅労働者
の在宅労働の場合にも(データ処理などの仕事
の時間は“二重の制約(d
o
u
b
l
ec
o
n
s
t
r
a
i
n
t
s
)”を
を海外の在宅労働者に行わせている情報関連企
,
吋m
ol句 yA
話 回n
e
n
t
.
うけるのである(αficeofT
業も少なからず存在する),情報通信手段を用
1
9
8
5
,
2
0
1
。
)
アレンとウオルコヴィツにとっては,在宅労
いて作業ペースが監視されているのである
(
A
l
l
e
nandW
o
l
k
o
w
i
t
z
,1
9
8
7
,1
1
3
。
)
働は,雇用者が必要なときに随意に労働力を獲
在宅労働が,労働者による労働時間の調整を
得することを可能ならしめる労働形態であり,
可能にするという見解に対しても異論が提起さ
それゆえ在宅労働者は,市場のゆらぎを担う
れている。アレンとウオルコヴィツは,在宅労
(
A
l
l
e
nandWolkowitz,1
9
8
7
,9
7
8)。期目指定
働者の自由時間は断片的に実現される時間であ
に間に合わせること,質的検査,監督機能など
り,実際にはこの自由時間の間も労働者は(物
にかかるコストは,在宅労働の場合,工場内労
理的,精神的に)拘束されており,在宅労働の
働のそれよりも低く,在宅労働の拡大は平均的
l
l
e
n
自由時間は完全な幻想である,と論じる( A
労働コストを引き下げ,これらのコストは在宅
andW
o
l
k
o
w
i
t
z
,
1
9
8
7
,
1
0
9)。その例として,彼
労働者によって担われる。このように,在宅労
女らは,英国鉄道の鉄道踏切の見張り番の例を
働による労働の柔軟な使用は,収益性の重要な
あげる。踏切番が踏切の監視を行うと想定され
l
l
e
na
n
dW
o
l
k
o
w
i
t
z
,i
b
i
d
.
,
要素をなすのである(A
る時間は限られたものであっても,監視の合間
1
0
5
)。また在宅労働者は,通常,臨時雇用の状態
の時間は監視準備体制にかかわることとなり,
にあり,大半は組織化されていないので,集団的
実際にはより多くの時間拘束される結果となる。
行動をおこす可能性がほとんどない。それゆえ
ぺニントンとウエストヴァーもつぎのように論
雇用者は,在宅労働者の集団的行動に対処する
じる。在宅労働者は,いつ働くか,またどのく
l
l
e
nandWolkowitz,i
b
i
d
.
,1
1
5
)~9>
必要もない( A
らい働くかにかんする選択をすることができな
したがって在宅労働は,生産の周辺化(F
r
i
e
d
m
a
n
,
い。したがって在宅労働は,労働者による労働
1
9
7
7)のもっとも顕著な形態とみなしうるので
条件と労働量の調整の自由というよりは,労働
者たちを加重に働かせることを可能とし,彼女
ある( A
l
l
e
nandWolkowitz,i
b
i
d
.。
)
カステルも,テレコミューティングが,その
ennington
/彼らの労働日を増加させうる( P
時間と空間の自律性のゆえに労働に対する満足
a
n
dW
e
s
t
o
v
e
r
,
1
9
8
9
,
1
6
3・
4
)。彼女らの観点から
度を高める傾向を指摘しつつも,他方で,労働
すれば,在宅労働の柔軟性とは,労働量と労働
者の高い生産性の背後に自己搾取があることを
強度において統制を強める雇用者側の自由度の
認める( C
a
s
t
e
l
l
s
,1
9
8
9
,1
6
5)。そして,不熟練
増加なのである。さらに在宅労働者は,家族の
の在宅労働者は,財( p
remises)と時間とを
期待( f
a
m
i
l
ye
x
p
e
c
t
a
t
i
o
n
s)にも適応せざるを
調整しうる自由労働者というよりは,搾取的な
えず,彼女/彼らか鳴聞を調整する自由(柔軟性)
地下のサービス経済の成長と結びつくようであ
は家内的考慮によっても削減される(P
e
r
u
廿昭t
o
n
l
l
e
nand W
o
l
k
o
w
i
t
z
,
and W
e
s
t
o
v
e
r
,i
b
i
d
.・A
i
b
i
d
,・ 1
2
7
。
)28) またテレコミューティングなど
空間的にみれば,給与労働者が行う分散した在
a
s
t
e
l
l
s
,i
b
i
d
.
,1
6
6)。マクロ
る,と推察する( C
宅労働の増加というよりは,下請と支配(統制)
のネットワーク化が起こっていると判断される
2
8)これを,アレンとウオルコヴィツは,夫による妻の労
l
l
e
nandWolkowitz,1
9
8
7
,
働条件の(私的な)統制とよぶ(A
1
2
7)。しかし家事労働については,パート労働やシフト労働
(交替勤務)などでは,女性の家事労働時聞は(常勤の定時
の職場労働に比べて}増加するが.在宅労働の場合変化はみ
i
l
v
e
randG
o
l
d
s
c
h
e
i
d
e
r
,1
9
9
4
。
)
られない.という指摘もある( S
のである(C
a
s
t
e
l
l
s
,i
b
i
d.
)
。
2
9)ハキム <Hakim,1
9
8
4)も,在宅労働が多く用いられ
るのは,高利潤であるが組合組織化がもっとも遅れている製
s
t
a
b
l
i
s
h
m
e
n
t
s)である,と指
造とサービス双方の事業所( e
摘する。
一刀一
過去と同様に,労働組合は,労働側の権利を
上達した技能というよりもむしろ,臨時的な外
獲得していくという彼らの闘争に対して,在宅
部下請労働者や移民労働者などの使用のよう
労働がもたらす脅威を認識しはじめた。しかし
に,“労働搾取の柔軟な方法”である,と主張
労働組合がこの脅威に対処すべく在宅労働の組
する( W
alker,1
9
8
9
,8
2
。
)
織化に向かうとしても,アレンとウオルコヴイ
ピオリやセープルのモデルにおいては,柔軟
ツが言及するように,これまで労働組合の闘争
性は熟練と結びつけられている。しかし,柔軟
l
l
e
nand
は家庭外で行われてきたのである( A
Wolkowitz,1
9
8
7
,1
0
6)。先の歴史的背景にみ
たように,またのちに階級と空間との関係で論
性の概念は,労働過程(労働の統制),熟練,
じられるように,私的領域としての家庭内にお
(
A
t
k
i
n
s
o
n
,1
9
8
8
,1
3
6)によれば,柔軟性は, 1
)
数量的柔軟性(あるいは外的柔軟性) '2
)機能
)引き離し( d
i
s
t
a
n
c
i
n
g)戦略と
的柔軟性, 3
しての柔軟性, 4)賃金の柔軟性,の四つのカ
テゴリーに分けられる。 30)数量的柔軟性は,
ける労働の組織化は困難を伴うのである。
2.分喋
在宅労働が提起する第二の問題として,分業
分業,労働市場(市場の分断)などの多様な側
面から把握される概念である。アトキンソン
の問題がある。柔軟な専門化仮説は,熟練職人
労働の投入を製品の産出高の変動に適応させる
技術の復活や労使間の協調関係を主張する。ま
企業(工場)の能力を示す。機能的柔軟性は,
た,中心産業部門に限ってではあるが,工場内
労働者が何をするかにかかわっており,企業(工
分業の終駕を主張する議論もある( Kernand
場)が労働者の熟練に適応しそれをうまく使う
Schumann,1
9
8
7)。他方,プレーパーマンは,
資本主義的生産様式のもとでは分業は産業組織
の基本的原則である,と論じる C
Bravennann,
1
9
7
4
,
7
0)。在宅労働は,柔軟な生産の一方式と
能力からなる。引き離し戦略とは,下請などを
して,分業の終駕の方向にあるものとして捉え
よりえられる。これらのなかで,労働過程,熟
ることができるのか否か,が問題となる。
練,分業に直接的にかかわる,より一般的な柔
労働統合( worki
n
t
e
g
r
a
t
i
o
n)は分業の一形
通じて,雇用組織を商業的関係によって置き換
えることを意味する。賃金の柔軟性は,機能的
柔軟性と数量的柔軟性とを組み合わせることに
軟性の概念は,数量的柔軟性と機能的柔軟性で
態とみなしうるが,これをウオーカー( W
a
l
k
e
r
,
あろう。事実,柔軟性にかんする議論も,これ
1
9
8
9)はつぎのように分析する。テイラー主義
においては,労働統合は全く欠知していた。フ
ォード主義においては,ある種の労働の統合は
みられるが,“労働者”の統合はない。日本主
義(ジャパニズム)は,この忘れられた次元を
ら二者を中心にしてなされているものが多い。
アトキンソンのモデルは,中心対周辺という
労働の二極分化(デュアリズム)仮説に結びつ
o
r
e
)
きうる。すなわち,機能的柔軟性は中核( c
労働者の高熟練労働によって可能となり,数量
利用することで,高い生産性を獲得した
的柔軟性は周辺労働者である低熟練のテイラ一
(
W
a
l
k
e
r
.i
b
i
d
.
,
8
2)。
しかし,ウオーカーは,柔軟な生産方式を分
業の終駕とは捉えない。柔軟な生産論に対する
他の批判者と同様に,彼は,ピオリやセープル
m
i
l
i
aRomagna)
のいうエミリアロマグナ( E
地方(職人生産の復興がみられると指摘される
イタリアの一地方)における熟練労働者は,選
ばれたほんの一握りの労働者でしかないと論じ
る。そして,生産の柔軟性とは,新たな機械や
式生産労働者によって可能となる。たとえば,
米国においては,付随的労働が増加していくな
かで,中核労働者が企業との帰属関係を強化し
企業の一部となってゆくが,付随的労働者は帰
3
0)アトキンソンのそデルにそいつつ,ハキムは柔軟性の
類型として,労働の流動にかんする柔軟性,機能的柔軟性,
労働の型と組織の変化の柔軟性,賃金の柔軟性をあげている
(Hakim,1
9
8
7
b
,
5
5
0)。また,プランへスは,数量的柔軟性を
外的と内的とに分け,引き離し戦略を外部化(e
x
t
e
m
a
l
i坦 t
io
n
)
油田, 1
9
8
9
,
1
3
。
)
とよんでいる( Bru
-'
1
2-
柔軟な労働,ジェンダー,空間の再編:在宅労働の理論的課題
属関係をもたず,低賃金であり,ジョプ・エン
トなどの利点が与えられるが,大量労働者は,
リッチメントもない,というこ極分化が指摘さ
個別化され,柔軟的であり,非組合員の短期労
B
e
l
o
u
s
,1
9
8
9
,8
。
)31) また二極分化とセ
れる C
働者である。これら周辺労働者たちは,在宅労
クタ一間分業の関連も指摘される。たとえば,
働や,インフォーマル・セクターにおける生存
英国の場合,製造業においては機能的柔軟性が
的生産にたずさわる。さらに情報技術の発展は,
重視されるが,サービス業においては機能的柔
伝統的労働の範囲をはるかにこえた労働の柔軟
軟性よりも数量的柔軟性の方が重視されている
性をもたらすだけでなく,生産ラインや生産地
(
A
t
k
i
n
s
o
n
,1
9
8
8
,1
3
9・1
4
2)。日本においても,
点(場所)における,機械と生きた労働との分
失業比重ならびに労働移動(自発的失業と短期
離も伴う。労働過程におけるこの変化は,課業
就業を主な指標とし,数量的柔軟性に対応する
の柔軟性と,データ処理などの自宅における孤
とみられる)が, 9
0年代以降高まっているのは
立的労働過程の可能性をもたらしている
9
9
5
,
1
0
4)。さらに,
サービス業である(労働省, 1
サービス・セクターにおける臨時的契約雇用が,
(
H
i
r
s
c
h
,1
9
8
5
a
,1
7
6・7
;1
9
8
5
b
,
3
3
1・2
;E
s
s
e
r and
b
i
d
.
,8
0)。ヒルシュによれば,これら
H
i
r
s
c
h
,i
数量的柔軟性のみならず労働力の統制の強化を可
の変化は,生産の脱社会化の可能性と,それゆ
能にするという主張もある( C
o
l
l
i
n
s
o
n
,1
9
8
7
,
え生きた労働のさらなる孤立化(個別化)を意
3
8
5)。他方では,プレーパーマンの主張するよ
味する( H
i
r
s
c
h
,i
b
i
d
.)。
うに,オフィス労働においても技術的な意味で
の不熟練化が進行しているが,オフィス労働者
ヒルシュの指摘する機械と生きた労働との分
の一様な階層(homogeneouss
t
r
a
t
u
m
)が形成
離は,空間的分業の問題でもある。労働過程/
されているわけではない,という議論もある
生産方式の変化は,空間的変化と対応するから
(CromptonandJ
o
n
e
s
,1
9
8
4
,
3
5
,
4
2f
f
.。
)
であり,それゆえ柔軟な生産方式が産業地域の
中心と周辺とのこ極分化は,情報産業の発展
に伴い近年発達した在宅労働においても指摘さ
存在にもとづくという議論もなされるのであ
る
。 32)
れる。カステルによれば,米国においてテレコ
電子情報技術システムの使用は,直接的労働
ミューティングにたずさわる労働者は,専門家
力の分業と不熟練化を進行させ,生産の外部化
職と事務仕事というこつのグループに分けられ
を特徴とする(ネオ・フォード主義の)生産再
る。前者はその仕事が柔軟的であるので,自宅
9
9
5
。
)33)企業は,新
編が行われる( Massey,1
での仕事が可能となるが,後者の場合,データ
たな子会社をつくり,生産をこれら子会社の小
入力作業などの単純作業にたずさわり,より少
ない報酬でより多くの生産高を要求される
(
C
a
s
t
e
l
l
s
,1
9
8
9
,1
6
5
。
)
二極分化傾向は,ヒルシュその他の論じるポ
スト・フォード主義への移行に伴う中心労働者
と大量生産の周辺労働者との分離の観点、からも
捉えうる(M
urray,1
9
8
3
;H
i
r
s
c
h
,1
9
8
5
a
,b
;1
9
9
0
;
E
s
s
e
randH
i
r
s
c
h1
9
9
4)。中心労働者には,安
定した職場,高所得,ジョプ・エンリッチメン
3
1
) しかし,付随的労働を,一次的市場と二次的市場との
分断市場理論から分析するのは適切ではない,という議論も
ある。分断市場理論における第二次市場の労働者とはことなり,
付随的労働者は,熟練労働者でもありうるし,また自ら選ん
。
)
だ場合もあるからである(PolivkaandNardone,1
9
8
9
,1
1・2
3
2)ウオーカー( Walker,1
9
8
5
,1
8
2
・
3)は,労働(ウオー
カーは雇用という言葉を用いる)が空間的問題となる,すな
わち空間的分業が生じる理由として,生産/再生産にかかわ
)生産のために,
る以下の歴史的事実をあげる。すなわち, 1
資本家は固定資本と不動資本に投資し,また流動資本の流通
を確保する必要があること, 2
)労働者が彼/彼女らの再生
)
産のために,ある種の固定性(f
i
x
i
t
y)を必要とすること, 3
作業場が社会的秩序をもつためには,雇用関係が時間と安定
とを必要とすること,である。
3
3)マシイは,資本主義の発展における労働過程/生産方
式の変化とそれに対応する空間的変化をつぎのように整理す
る。第ーに,それ以前には独立的であった労働者がー箇所に
集められた手工業段階があり,この段階においては工場は農
村地域に広範に拡がる。その理由は,都市におけるギルドの
制限と高賃金労働力を避け,かつ水力を確保するためであっ
たとされる。第二に,機械化と分業化の進んだ機械工業段階
があり,生産は都市に集中する。第三に,科学的管理とフォー
ド主義的な課業の分断が行われた段階があり,支配と生産の
空間的分断,および市場活動の成長が始まり,オフィス活動
- 7
3一
工場へと分散( h
a
v
i
n
g
o
f
f
)させて生産の脱中
して,政治的(政策的)規範となる。たとえば
心化をはかったり,財,部品,サービスを下請
ゴルツは,資本の支配の外におかれる,家庭あ
や外部会社から調達し,生産の分解ならびに再
るいは地理的に分散した単位にもとづく小規模
編を企てるのである。この生産再編を背景に,
生産の拡大は,自律的領域の登場を可能にする,
生産過程の異なった部門への分解にもとづく空
分散が行われ,生産の国際的分断とそれに伴う
o
l
z
,1
9
8
2
,8
0
,1
0
7・1
1
2)。トアラー
と主張する( G
(
T
o
f
f
l
e
r
,1
9
8
0
,2
1
0・2
2
3)は,情報技術装置を装
備した電子小屋で在宅労働が行われ,家族が新
一部機能の周辺地域への分散という,ネオ・フ
たな労働集合体( newworkc
o
l
l
e
c
t
i
v
e)になり
ォード主義の産業地理(フォード主義の地理的パ
うると想定している。かつてマンフォード
(
M
a
n
f
o
r
d
,1
9
6
1
,2
7
0・1
)は,中世の都市は,ギ
ルドと教会を中心とした仕事と信何にもとづく
共同体的構成体であり,ギルド制度のもとであ
たかも作業場と家族とが一体であるかのように
生産単位としての家族の集積がなされていた,
間的分離の拡大,また小パッチ過程への生産の
a
g
u
i
r
e
.1
9
8
6
,
ターンの強化)がもたらされる( M
6
1
;Massey,1
9
9
5
.2
3・4)。これは同時に,柔軟
な労働が中心地域に存在し,フォード主義が周
辺部で強化されるという,国際的分業の形成で
eborgneand L
i
p
i
e
t
z
,1
9
9
2)。国際化
もある( L
ならびに情報通信技術の進展のなかで,労働に
と論じている。そして今日,自己雇用,小ビジ
おける構想機能が現場や工場の水準からさらに
ネス,在宅労働は,自律的資本蓄積を可能なら
遠のき,分業の二極的分化が強化されていく。
l
l
e
nandWolkowitz,
しめる,と主張される(A
1
9
8
7
,
1
7
0
。
)35)
技術の進歩は会社本部における構想機能の集中
を促進させ,実行機能には,いつでも放棄でき
しかし,アレンとウオルコヴィツらが論じる
る低コスト装置が配備され,この機能はしばし
ように,実際には生産の分散化は,生産の一部
ば地球全域に拡散されるのである (Hyman,
1
9
8
8
,5
7
。
)34)
の部門は分散されるが統制(支配)は維持ある
小規模生産を基礎とした分散化を特徴とする
もとづいて行われている。たとえば,イタリアの
いは強化されるという,きわめて巧妙な戦略に
空間の再編は,コミュニティにもとづく自律的
l
i
v
e
t
t
i
)やフィアット( F
i
a
t
)
オリヴェッティ( O
生産のアイデアを復活させる。コミュニティあ
などの製造業者,あるいはファッション産業の
るいは地区レヴェルにおける小規模セクターの
e
n
e
t
t
o
n
)が,コンビューター導入,
ペントン( B
成長は,生産の自律性と柔軟性を増加させると
utworker)へ
職人作業場や家内在宅労働者( o
の成長,ならびに都市中心部における産業の再配置がもたら
される。そして第四に,フォード主義の地理的パターンが強
1
9
9
5
,
2
2
4
。
)
化されるネオ・フォード主義がある( Massey,
3
4)カステルによれば(C
a
s
t
e
l
l
s1
9
8
9
,7
4),情報技術産業
の発展に伴う空間過程の特徴は, 1
)産業内における顕著な
空間的分業, 2
)情報世代による産業の技術的,社会的,空
間的支配, 3
)異なった生産の分散化過程, 4
)実際の立地に
おけるかなりの柔軟性,にあるとされる。この過程は,つぎ
のような情報技術産業の基本的特徴から導かれる。第ーに,
労働の質(とくに科学・技術労働者の)が生産の基本的要素
となること。第二に,プロセス指向の情報技術装置は,互い
に措抗しあう空間的結果をもたらすこと。一方で情報産業は,
技術刷新を維持しうる限り,どこにでも立地できる。しかし
他方で,その空間的論理は使用者(消費者)の立地条件にも
とづく。第三に,生産過程の顕著な内的分断である。これは,
二つの側面をもっ。一つは,情報の生産はその物的補助装置
から分離しうるので,産業内において著しい分業,それゆえ
さまざまな生産機能の空間的分化がもたらされる点である。
他方は,情報産業は,その製品をそれ自身の生産過程におい
て用いることができるパイオニアである点である(C
a
s
t
e
l
l
s
.
i
b
i
d
.
,7
2・4
。
)
u
仕i
n
g
o
u
t
),小工場への分割(s
l
i
凶n
g
の外部化(p
up)などを通じて,意思決定機構を集中しつ
つ,生産の大部分を通常は独立した小ユニット
へと分散している。これは,固定資本の節約,
プロダクト・サイクルの柔軟性と労働搾取の最
大化,さらに主要工場における労働争議の回避
9
8
3
,
を意図している,と指摘される( Murray,1
5
・M
i
t
t
e
r
,1
9
8
6
,4
7
9)。またこれらの分散し
8
1・
た小ユニットは,ジェンダー的分業を含む階層
3
5)このような小規模コミュニティにもとづく自律的発展
の概念は,小規模発展論,領域的計画論,(ネオ)オーエニ
ズムなどの, 7
0年代以降論じられてきた代替的発展戦略の
脈絡において理解しえよう。北島( K
i
t
a
j
i
m
a
,1
9
9
4)は,一
連の代替的発展論の検討ならびに批判を行っている。マンフ
ォードの見解に対しては,カッツネルソン( Katznelson.
1
9
7
9
,2
0
5
6)の批判を参照。
- 7
4-
柔軟な労働,ジェンダー,空間の再編:在宅労働の理論的課題
秩序を基礎としてもいる。たとえばエミリアの
マデナ( Madena)地方の織物産業においては,
3.階級関係と空間
工場の生産ラインで働く不熟練労働者と同じく
生産の再編における統制貫徹の議論に示され
在宅労働者の多くは女性であり,これらの女性
るように,空間的分業の問題は,階級と空間と
在宅労働者のネットワークが,職人労働者たち
9世紀初頭以降の資本主義
の関係に連なる。 1
o
l
i
n
a
s
,
の小作業場を支えているとされる( S
の発展に伴うきわだった空間的傾向として,職
1
9
8
2
,
3
3
7・3
4
3)。構想機能の集中は実行機能の
分散を伴うが,実行機能は柔軟であり,いつで
も代替可能である。在宅労働が可能にする生産
の小規模単位化は,労働の二極的分化を伴う生
産再編過程によってもたらされるとともに,こ
の過程を形成していくのである。
在宅労働の歴史的背景において示されたよう
に,在宅労働の発展に伴う分業の進展はジェン
場と住居との空間的分離の拡大があげられる ~7)
この傾向と,賃金労働者階級の発達,ならびに
階級意識形成の過程との関連が問題にされてい
いても,性的分業の存在が指摘される。英国に
atznelson
る。たとえば,カッツネ lレソン( K
1
9
7
5
,i
nFeldman,1
9
7
7)は, 1
8世紀末の米国
において階級聞の顕著な居住ノマターンの相違が
みられたのは,賃金労働システムが導入された
都市であった(しかもこれは主たる交通技術の
発達以前であった),と指摘する。これをうけ
9
7
7)は, 1
9世紀
てフェルドマン( Feldman,1
おける在宅労働の調査によれば,自宅で製造業
前半に交通技術が飛躍的に発展したのは,社会
にたずさわる労働者は主として女性であり,労
的ならびに空間的分離の拡大の結果であるとみ
働時聞が比較的短く,また賃金も低い。他方,
ることができる,と論じる。またルリア( L
u
r
i
a
ダー的分業を含んでいた。今日の在宅労働にお
家をベースにして働きに出る‘在宅’労働者は
0
1
9
7
9)は,米国において郊外化が進展した 2
男性が多く高所得であり,また雇用も恒常的で
世紀初頭の約 2
0年間の選挙動向から,社会主
H
a
k
i
m
,1
9
8
7
a
;W
a
l
b
y
,
ある,との結果がみられる <
)。米国の 1
9
8
5年の人口統計におい
1
9
8
9
,
1
3
2・3
ても,在宅労働者(部分的在宅労働も含む)は,
男性が数においてはわずかにうわまわるが,女
性は,高齢者とならんで在宅労働により強く傾
t
r
o
n
g
e
rcommitement)している(より多
倒(s
くの時間,在宅労働者として自宅で働く),と
H
o
r
v
a
t
h
,1
9
8
6
,3
2
。
)
いう指摘がなされる <
ハキムは,在宅労働におけるジェンダー聞の
相違はその共通点ほど顕著ではないと論じるが
<Hakim,1
9
8
7
a
,9
4),性的分業と労働(市場)
の二極分化とのより直接的な対応を指摘する見
解もある。たとえばウオルビーは,数量的柔軟
性をもっ労働力の重要な部分をなしているの
は,パート労働者と在宅労働者であり,これら
の労働者の大半は女性である,と指摘する
(Walby,1
9
8
9
,1
3
1)。週にわずかの時間,低賃
金で,被雇用者の規則外で働く女性在宅労働者
は,周辺労働者層の典型なのである( Walby,
i
b
i
d
.
,1
3
2・3
。
)36)
義政党に対する支持は大量の郊外化がなされた
都市で最低であったと指摘し,都市の人口密度
に加えて,住居と職場の統合の政治的重要性を
主張する。さらに,米国において労働者階級の
3
6)在宅労働ではないが,この顕著な例として日本のパー
ト労働がある。日本のパート労働者のほとんどは女性であり,
とりわけ 3
0代と 4
0代に集中している。たとえば, 9
0年代
はじめには,女性は全パート労働者の 95%近く(9
4
.
5%)を
占め,とくに 3
0代と 4
0代の女性は 6
0%近く(5
7
.
4%)を占
めている(総務庁統計局, 1
9
9
3
,
3
8
・
4
1
,
5
6
・
7)。これに対して,
同じ“柔軟な”労働形態であるアルバイトは,男女の差が比
較的少なく若年層に集中している。 1
9
9
0年代のはじめには,
1
5歳から 2
9歳までの男性は全アルバイト労働者の 3
5
.
4%
であり,他方女性は 2
9
.
4%であった(総務庁統計局, i
b
i
d
.
,
3
8
・
4
1)。パート労働者の性的ならびに年齢的なこのような極度
の集中は,政府の政策(配遇者優遇の税,年金,保険制度)に
よって支えられている(c
.f
.HousemanandOsawa,l
的5
,
1
3
・
4
。
)
3
7)アレンとウオルコヴィツは, 1
) 産業化よりずっと以
前から多くの仕事が自宅外でなされており,多くの労働者が
鉱業,造船,農業などの分野で日雇い賃金労働者として働い
ていた点,そして, 2)農業や家内奉公などの仕事は 2
0世紀
にいたっても家庭内でなされ存続した点を根拠に,職場と住
居との分離が産業資本主義に特有であるという見解に対して
異議をとなえる(A
l
l
e
nandWolkowitz,1
9
8
7
,1
5)。しかし,
産業革命の牽引的役割を担った製造業の労働者ならびに雇用
者に焦点をあてた場合, 1
9世紀以降の職住分離の一般的傾
向は否定しえないであろう。
- 75-
組織化が一般的に困難である事実の背後には,
職場における労働者の団結志向と,居住地にお
の関連には言及されていないが,両者の関連は,
1
9世紀後半のロンドンの労働者の階級意識に
ける民族あるいは宗教を基礎にした近親関係的
かんするジョーンズの分析において明らかにさ
結合志向とのあいだの空間的分断がある,とも
9世紀の最後の四
れている。ジョーンズは, 1
r
e
d
,1
9
8
1
,3
5
・ Ka
包e
n
e
l
町
指摘される(P
1
1
,1
9
8
1
,1
8・
4
5百
.
;1
9
9
2
,2
3
2・
3
。
)
分の一世紀のロンドンにおいて組合主義が長期
的表退傾向を示した背後には,在宅労働と郊外
9世紀
都市産業区画から郊外への移住は, 1
(農村)工場からの競争にみまわれた職人労働
初頭にまず上層階級によってはじめられた。工
,
者の衰退があったと指摘する (Jones,1973・4
場生産システムの導入によって,雇用者はもは
5)。しかしそれ以前に,あるいは少なくと
4
8
4・
や労働過程全体を監視する必要がなくなり,彼ら
もそれと並行して,労働者の余暇時間の増大と,
i
n
g
l
e
t
o
n
,
の長距離通勤が可能となったのである(S
郊外移住が進んでいた。 1
9世紀前半には,労
1
9
7
3
; Feldman,1
9
7
7)。加えて,都市の外部不
2時間,週 6日(週 7
2時間)働い
働者は,毎日 1
経済,階級争議の増加,都市周辺部における投
8
7
0年までに,彼らの労働
ていた。しかし, 1
機的土地転換,上層階級の牧歌主義志向,など
4時間から 5
6
.
5時間となり,また土
時間は週 5
alker,1
9
7
8
,1
7
6
8
。
)
の要因も指摘されている( W
曜の午後も休むようになった。そしてその後の
そして 1
9世紀末までに,自宅と職場の空間的
1
8
7
0年代以降に,職人労働者の郊外移住は大
分離は熟練労働者も含む大衆的現象となり,労
衆的現象となったのである (
J
o
n
e
s
,i
b
i
d
.。
)
)は私的なものとなった
働者階級の自宅(homes
(
J
o
n
e
s
,1
9
7
3・4
;P
r
a
t
t
,1
9
8
9
,9
5・6
。
)
労働者階級の経済的・空間的変化は,その文
9世紀半ばまでは,
化の変容を伴っていた。 1
9
7
7),自
フェルドマンによれば( Feldman,1
労働者階級の文化は職場を中心としたものであ
宅と職場との分離は,資本主義的生産様式の社
った。労働者階級は概して職場の近隣地区に住
会的・空間的原則から説明される。資本主義社
み,政治的議論が職場やパプでなされ,貧しい
会は,商品としての労働力が市場で売られるこ
自宅は食事と就寝の場でしかなかった。しかし
とによって生産が行われる社会である。そこで
1
8
7
0年代の半ばまでに,労働者文化はより家
は,労働市場が一般化され,個々の資本家と労
庭中心的となった。通常のパプはもはや職業
働者は広範囲の市場競争を強いられる。労働市
(
t
r
a
d
e)パプではなく地元 O
o
c
a
l
)パプとなり,
場の一般化にはもちろん,賃金労働者階級の存
ここで話される話題も,政治よりはむしろス
在が予定されているが,逆にこの階級の存在は,
J
o
n
e
s
,1
9
7
3・4
,
ポーツや娯楽が中心となった (
。
) 38)すなわち,職人労働が在宅労働や
4
8
5・7
直接的生産者の生産手段からの社会的かつ空間
b
i
d
.
,
3
3
4)
。
的な分離を前提とする( Feldman,i
農村工場との競争に負かされた背後には,労働
カンパニータウンにおける労働争議の頻発は,
貴族化した職人労働者と,苦汗労働者ならびに
職場と住居の分離の必要という,資本主義的生
農村労働者とのあいだの,階級内的かつ空間的
産様式の社会的ならびに空間的原則に反してい
に分断された関係が存在したのである。
たことによる。たとえばカンパニータウンにお
第一部の歴史的背景でのべたように,職人労働
ける賃金カットは,職場に直結した土地と住宅
者に対して競争者となった在宅労働者の組織化
において実現される利潤を必然的に浸食するの
が困難であったのは,空間的側面にもよってい
で,職場特殊的な住居は資本主義にはふさわし
た
。 1
9世紀末から 2
0世紀初頭にかけて,在宅労
くない。資本主義は,労働者が“どこへでも行
ける( f
o
o
t
l
o
o
s
e)”ことを必要とするのである
(
F
e
l
d
m
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,i
b
i
d
.
,
3
4)
。
フェルドマンの説明では,空間と階級意識と
3
8)問題視角は異なるが,米国における同様の変化を,プ
レッドも指摘する。プレッドによれば,大規模工場生産様式
の進展につれて, 1
8
5
0年頃をさかいにして仕事と遊び.あ
るいは仕事時間と自由時間との分離がはじまった( P
r
e
d
.
1
9
8
1
,2
4・5
。
)
- 76一
柔軟な労働,ジェンダー,空間の再編:在宅労働の理論的課題
働者の組合組織化が問題となった際の最も大き
階級の空間的次元は,今日の企業立地戦略に
な問題は,在宅労働者の(したがって女性の体験
も示される。たとえば,北アイルランドにおけ
の)孤立化であり( P
e
n
n
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g
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na
n
dW
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s
t
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v
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r
,1
9
8
9
,
る多国籍企業の立地戦略においては,地域にお
1
1
7),在宅労働は,女性の労働組合への加入に
ける企業側に有利な雇用の独占を確保すること
対する障害とみなされた。たとえば, 1
8
9
0年
が重要な要素であったと指摘される( M
aguire,
に苦汗労働システムにかんする調査委員会は,
1
9
8
6
,
6
2)。北アイルランドにおいて多国籍企業
在宅労働者たちを労働者の団結にとって“大き
が立地した地域は,ほとんどの場合小都市であ
な障害”であるとみなし,在宅労働は禁止され
った。これらの小都市には労働者組織もなく,
るべきである,と論じている( S
e
l
e
c
tCommittee
また被雇用者の大部分はパート・タイム農民で
ont
h
eSweatedSyst
em,1
8
9
0
,i
nP
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n
i
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g
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n
。
)39) また 2
0世紀のは
andW
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v
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r
,1
9
8
9
,1
1
7
あった。このような背景から,労働争議がおこ
あり,自らが労働者であるという意識が希薄で
じめ,女性労働組織の委員長も次のようにのべ
る可能性はきわめて限られていたのである
ている。“彼女の(委員長としての)経験から,
(
M
a
g
u
i
r
e
,i
b
i
d
.)。マリー( Murray,1
9
8
3)も,
自宅労働者たちを団結させるのは明らかに不可
工場立地戦略における階級的側面を論じる。ポ
能である,ということが分かった。…真実のと
ローニャの製造工場が,車で 3
0分ほど離れた
ころをいえば,自宅労働者は,彼女たち自身を
u
t
t
i
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g
停滞的農村地域に支部工場をつくった( p
救済することができないのである”( T
h
eM
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g
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t)が,親工場の労働組合は支部工場の労働
P
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回
世n
g
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nandW
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r
,
者との連携をとるのが困難であった。その理由
。
)
1
9
8
9
,
1
2
0
は,工場の空間的分業(親工場の労働者は熟練
しかし在宅労働者がストライキを行って成功
工であるが,新規移転工場の労働者は半熟練で
した,という例もある。英国のクラッドレイ
ある)に加えて,支部工場の労働者がパート・タ
ヒース( C
r
a
d
l
e
yHeath)地域は,鎖製造の在
イム農民であり,柔軟な雇用を歓迎するからで
宅労働者が集積した地域であった。 1
9
1
0年に
ある,とマリーは分析する( M
urray,i
b
i
d
.
,8
5
。
)
この地域で,最低賃金の導入をめぐって女性在
企業による労働の空間配置戦略が労働管理を
宅労働者たちがストライキをおこし,(全国組
意図している事実は,テレコミューティングを
織の援助もえて)労働者側の主張を通した。し
含む今日のオフィス在宅労働にも示される。た
かしこの事例の背後にも,空間的要因があった。
eroxなどの企業が,専門職員
とえば, RankZ
この地域で在宅労働者が“特殊な行為”を行った
に対して在宅労働を推奨した理由は固定費用の
理由として,鎖づくりにある種の熟練と経験を
節約ばかりではなかった。オフィス労働につき
要したことがあげられている。同時に,これらの
ものの“社交性”が,管理者層の標準仕事量を
鎖づくり労働者が特定な地域に集中していた点
増加させる際の妨げになるとみなされたのであ
e
n
n
i
n
g
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o
nandW
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s
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r
,
も指摘されている( P
る( A
l
l
e
nandW
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k
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w
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z
,1
9
8
7
,1
6
7)。同じく,
1
9
8
9
,
1
2
2・5)。さらにいえば,これらの労働者
金融サービスや情報機器産業などの企業がテレ
たちがある地域に集中していたがゆえに,熟練
コミューティングにのりだす主たる動機は,事
や経験の習得が可能であったともみなしうるの
務労働者が将来組合化されるのを防ぐことにあ
である。
るという分析もある(G
r
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g
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r
y
,1
9
7
3
,i
nO
f
f
i
c
e
3
9)しかしこの見解は,職人労働者たちの,新興的かつ周
辺的労働者の脅威に対する警戒の現われであったかもしれな
9世紀の後半に,ロンドンの職人労働
い。ジョーンズも' 1
者階級が防御的となり,上からに対してのみでなく下からに
対しでも彼ら自身を守ろうとするようになった,と指摘して
J
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1
9
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3
4
.4
8
4
。
)
いる (
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5
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8
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,i
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l
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s
,1
9
8
9
,1
6
5)。労働組合がテレコ
ミューティングに反対する一つの理由はここに
ある( O
f
f
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c
eo
fTechnologyA
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1
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dj。
- 71-
ポリスが指摘するように <
B
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,1
9
9
6
,
2
4
)
,
職場と住居との空間的分離は,性的分業と,そ
れにかかわるイデオロギーの形成を伴いつつ,
実現されてきた。第一部の歴史的背景でのべた
9世紀フランスのプルードン主義者
ように, 1
や社会改良主義者たちは,家庭仕事場の理想を
もっていた。しかしそれはジェンダー的分業に
もとづくものであり,フランスの中産階級はも
とより労働者組織によっても抱かれていた家族
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,1
9
9
1
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,
1
9
9
6)。さらにハンソンとプラットは,既婚女
性の求職戦略は家内的考慮に支配され,仕事空
間の固定性が中心的であること,そして女性に典
型的である仕事がわりあてられるにさいして彼
女ら自らむしろ積極的役割をはたしており,そ
れゆえ伝統的に女性の職業であった労働を再生
HansonandP
r
a
t
t
,1
9
9
0
,
産している,と論じる <
。
)
3
9
6
イデオロギーと呼応しあって,女性が自宅外で
の賃金労働よりも在宅労働にたずさわることを
結 輪
勧める結果となったのは,すでにみたとおりで
ある。
本論文は,労働,ジェンダ一関係,空間の諸
ジェンダー的分業と空間的分業との関連は,
問題に対して,在宅労働が提起する課題の検討
女性の労働に対して規制を行った工場法施行以
を行った。在宅労働は,空間的かつジェンダー
前の英国にもみられる。しかしそれは,通常の
的分業を伴いつつ,またイデオロギーに支えら
職場と住居との空間的分離とは反対の傾向とし
れつつ,賃金労働とともに発展してきたことが
てである。英国のノーサンプトンの靴製造業で
9世紀以前には,在宅労働は世帯
示された。 1
9世紀までに,男性が(資本によって)
は
, 1
生産のー形態であったが,その後賃金労働シス
工場単位で直接雇用されるシステムが形成され
テムにくみこまれてゆく。それは同時に性的分
ていた。同時に,製靴作業はしばしば女性に託
業がもたらされる過程でもあったが,そこには
され,女性は下請労働者として自宅で作業した。
家父長・家族イデオロギーの作用があった。ま
その後,輸入品の圧力が加わるにつれ,資本は
たその過程は,職場と住居との空間的分離(郊
利益を維持するためにコスト削減の必要にせま
外化)を,ならびにそれに伴う階級意識の変容
られた。そこで,女性と子供が街の工場で雇わ
をも伴っていた。
9世紀半ばまでには,その地方の
れはじめ, 1
2
0世紀後半,フォード主義の転換に伴う生
靴製造工場の労働者の半分までが女性と子供と
産方式の変化とともに,在宅労働は再度着目さ
なった。しかし女性には家事が任されるために,
れるにいたる。在宅労働は,柔軟で自律的な労
長い通勤距離を通うことができない。そこで,
働過程を可能にする方策として,柔軟な労働市
それ以前には街から遠くはなれた村で困難なく
場への女性労働力参加の手だてとして,さらに
働くことができた製靴家族が,街に移り住んで
女性の経済機会獲得と家庭生活維持とを調整し
o
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,1
9
74
,8
4・7
。
)
働くこととなった( F
うる手段として,喧伝されている。また,自立
したコミュニティにおける職場と居住,あるい
職場と住居の分離とジェンダーとの関係は,
今日においても指摘されている。女性の方が概し
は生産と消費との統合というイデオロギーにも
て通勤距離が短いという歴史的・一般的事実は,
照応している。しかし,この背後には,フォー
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dr
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女性にかされる家庭責任(h
ド主義の転換に伴う生産の再編,それに規定さ
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y)によって説明しうる,という分析がある
(
e
.
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ohnston-Anumonwo,1
9
9
2)。また,女
性に対する空間的制限が女性に対する経済的機
会を制限し,それゆえ女性を低賃金にとどまら
せている,という分析もなされる( Semyonov
れた多国籍企業を含む企業の戦略があり,この
戦略における中心労働者と周辺労働者との水平
的・垂直的分断が指摘されている。在宅労働に
おける柔軟な労働者の大半は,この再編のコス
一沼一
トを担う周辺労働者となる。そして在宅労働は,
柔軟な労働,ジェンダー,空間の再編:在宅労働の理論的課題
空間のパリヤーを超える統制のもとで行われて
序化・統制化に対する対抗手だてとなりえよう。
いる。過去,労働組合は在宅労働に反対しつつ
参考文献
も,在宅労働がはらむ空間的・概念的困難のゆ
えに,この領域を自分たちの闘争に包括しえな
かった。この点では今日もにた状況にある。空
間的にも理念的にも孤立化した周辺的大量労働
者の組織化は困難であるようにみうげられる。
在宅労働は,生産,再生産,空間の関係につ
いて,重要な問題を提起する。賃金労働の発展
に伴う,職場と住居との分離の拡大という事実
は,消費(再生産)領域の生産領域からの“相
a
s
t
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l
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s1
9
7
5)の議論の根拠とな
対的独立”( C
り,また,生産点における対立と消費点におけ
る対立がどう調停( mediate)されるかが問題と
9
7
7)根拠でもあった。今回
なる( Feldman,1
復活している在宅労働は,職場と住居との空間
的接近を意味する。再生産領域の相対的独立,
そして生産点における対立と消費点における対
立との調停という観点から,今日の在宅労働の
増加傾向をどう理解しうるのかが問題となる。
在宅労働の歴史的背景ならびに現代的状況に
対する本論文の検討は,この間いに対して一つ
の仮説を提示する。それは,在宅労働の再登場
は,職場と住居との分離の拡大傾向の終駕,す
なわち生産の場と再生産の場との統合としてで
はなしむしろ,資本による消費/再生産の場
の包摂過程として理解しうるということ,であ
る。そしてこの包摂過程は,ジェンダー的分業
関係の進展を内包している。しかし同時に,過
去と現代との状況の違いもある。今日在宅労働
を最初に問題としたのは労働団体でなく圧力団
体であったことに示されるように,労働組織の
衰退が指摘される現代において,闘争主体と闘
争領域の移動の可能性もありうる。闘争主体
が,既存の労働組合を中心とした伝統的労働者
階級から新たな運動の担い手へと移動し,闘争
の領域が,生産の場としての工場から生産およ
び再生産をとりこんだ場へと移動する可能性で
ある。地元(近隣)主義の空間的閉塞に陥るこ
とのない,孤立化した大量周辺部分の組織化の
みが,労働,ジェンダー,空間の資本による秩
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