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第 97 回 - 加藤内科クリニック
高砂報第 173 号 第 97 平成 18 年 6 月 27 日 “葛飾高砂会” 回“葛飾高砂会”報告 加藤内科クリニック 糖尿病勉強会 真砂慶一郎・大越松司 担当 加藤院長・加藤管理栄養士 校正 平成 18 年 6 月 27 日(火)午後 1 時から同 2 時 30 分まで、クリニックB1集会 室にて32名が参加して開かれました。 はじめに(研究会の予定・報告など) 加藤則子管理栄養士・糖尿病療養指導士 院長は7月に北海道で開催される国際心臓血管アカデミーに出席します。今 回は、その学会で座長をつとめ、日本人3名とカナダ人2名の計5名でシンポ ジウムの1つを行います。 さて私は、今月、金沢市で開催された肥満研究会でシンポジストとして参加 しました。現在肥満になっている人が増えていますが、そのような人たちは家 に閉じこもっている時が多いので、私達が目にする機会が少なくなっているの が現状です。つまり、自分が太っていることで引きこもりがちになるのです。 肥満の人は往々にして糖尿病、高血圧、高脂血症などの病気を持っていること があります。このような人達をどのように指導(治療)していくのかが大きな問 題です。一つの治療として、胃の一部を切除する方法があります。この治療法 は 25 年前から千葉大学医学部で行われてきました。 15 年前に胃を小さくする手術を受けた方がいました。その方は胃を切るので はなく、胃をすぼめて、そこをとめる手術を受けました。しかし3年前にとめ てあったところが外れてしまいました。その結果、胃がもとの大きさに戻り手 術前と同じように食事が多くなった結果、少食に慣れていたはずなのに再び肥 満になってしまいました。何をするにも自分の努力が必要という事例です。 1. 温泉療法の意義と糖尿病(その 2) 加藤光敏 院長 ※前回の復習を兼ねてお話します。 (1)安全な温泉の利用法 〇しかし全国では一般の入浴中の溺死や、入浴直後の死亡を合わせると年間 約1万人にもなるそうです。65 歳以上の突然死の 1/4 は入浴中とされます。 群馬大学の教授によると、栃木県のお年寄りでは、交通事故で亡くなる人よ りも、温泉で入浴中に亡くなる人の方が多いとのことです。 〇死亡例の多くが、正しい入浴法を実行することで防げたと考えられます。 〇温泉は安全に注意して楽しみましょう。 (2)温泉の効能3つの因子 〇静水圧 : プールでも同じことですが、周りから水圧がかかります。まず足 に圧力がかかり、心臓に戻る血液が増えます。その結果、血液の循環が良 くなります。逆に心臓の悪い人は急に深いところへ入ったりすると、水圧 で血液が多く心臓に戻ってきますので心臓に一時的に負担をかけ、心臓の 弱い方では心不全を起こす危険性も否定出来ません。 〇浮力 : 水中では体が軽くなり、リハビリテーションに応用したり、筋力ア ップに用います。 - 1 - 〇温熱 : 温泉の熱により、血行改善、新陳代謝促進作用、そして筋肉の末梢 循環もよくなり、疲労物質を除くことができます。これにより、筋肉・関 節の痛みを軽くします。 (3)サウナ風呂等に関して サウナ風呂はリフレッシュには良いと思います。 日本のサウナ風呂は 920C から 950C位のように高温です。そのため入浴前には体をぬらしてから入浴 しましょう。それでないと皮膚を傷めることがあります。温泉では、 「かけ 湯」をしてから入浴するのが良いでしょう。それには、先ず足に3回、そ れから腰、上半身へと「かけ湯」をします。同じようにサウナ風呂でも「か け湯」が必要になります。 北欧のサウナ風呂は 800C位でゆっくりと発汗します。日本のサウナ風呂 は交感神経の緊張を高め、心臓に対しての負担は甚大です。したがって 5 分くらいの入浴が丁度良いと思います。その後の水風呂は冷たすぎで、十 分注意しましょう。 (4)温泉療法の臨床的特徴 即効性はありませんが、この療法は安全です。薬を飲むわけでもなく、 手術をするわけでもありません。容易に繰り返すことができ、副作用もあ りません。 (5)安全な入浴法 : 高齢者の事故防止----本日のメインテーマです。 ①歳をとった人、介護を受けている人、そして病気を持っている人は一人で 入浴をしないこと。 ②高齢者はバランスを崩しやすいので、温泉では真ん中に入らず、周辺の誰 かと一緒に入ること。 ③家庭では、浴槽の蓋を利用して事故防止をする。浅い風呂に入ることが大 事です。ゆっくりと低めの温度で入浴し、最後に追い炊き等で温度を上げ ます。 ④更衣室と浴室の温度管理が大事です。データによると、温度差で心臓発作 を起こす人が少なくありません。冬季に温度差が大きいと、血圧・脈拍数 は大きく変化します。 入浴 5 分から 10 分くらい前に蓋を開けて浴室を温め、 それから入浴をした方が良いでしょう。それだけでも随分違うものです。 家庭では、浴室とトイレ内で倒れる事故が一番多く見受けられます。一 番危険なのは、雪が降っているときの露天風呂です。特にお酒を飲んだ後 の入浴は危険です。アルコールで血圧が下がり、更に風呂で血管が開いて 血圧が下がるため眠くなり、その結果、事故になることがあります。また、 糖尿病の人は入浴中の低血糖に注意が肝要です。 冬の露天風呂に急に入ってはいけません。外気が低い場合、血圧が急上 昇し、熱い風呂で更に血圧が急上昇します。 ⑤入浴の前後に水分を補給します。水を飲まないで温泉に入るのは危険です。 温泉浴では発汗量が多くなり、39~400Cの熱くない温度でも入浴時間が長く なれば多量の汗をかきます。 ⑥420C以上の高温浴をしないことです。高齢者は皮膚感覚が低下していて、高 温を認識できません。また、糖尿病患者は末梢神経が麻痺しているので、 高い温度をあまり感じず火傷をすることがあります。したがって入浴する ときは、手で温度を確認してください。 高温浴をすると、高温の程度に応じて血圧が上昇しますが、1~2 分で元 に戻ります。入浴中の血圧の変動は少ないですが、出浴後に血圧は急激に - 2 - 低下します。 ⑦水位は胸までにしましょう。心疾患、高血圧症の人は、肩まで浸かると不 整脈が多発します。例えば、水中心電計で泳いでいる人の心電図をとるこ とができますが、水中を 20~25mくらい継続してもぐった人の場合、その 間に心臓の停止が何秒間かあることが分かりました。急に水圧をかけても ぐることは危険なことです。 ⑧朝の入浴は避けましょう。やむを得ずするときは十分注意しましょう。 ⑨飲酒後の入浴はしないことです。飲みすぎたら温泉はやめましょう。心拍 数は大差がありませんが、血圧は下がります。 (6)糖尿病と温泉療法 〇温泉場の開放感で、自律神経の緊張から開放されます。これは非常に大事 なことですが、ただし、食事の量には注意しましょう。 〇温泉療法の適応となるのは、軽症か中等度の糖尿病です。 〇高温浴の場合、交感神経緊張により血糖が上がることが多く見られます。 慈恵医大の坂本要一先生の症例では、血糖コントロールの悪い人が温泉に 入った後の、食前の血糖が上昇するというデータがあります。つまり、血 糖が高めの人は、高温の温泉に入ると血糖が上昇する傾向があるのです。 〇温泉入浴によって血液循環が活発になり、ホルモンの分泌が高まり、免疫 機序が改善されます。 (7)入浴温度と消費カロリー 入浴はエネルギーを使います。温泉療法医学会の研究データによると、42oC のお湯に 10 分間入ると体温が 20Cくらい上昇し、入浴直後から脈拍数は上昇 してきます。そして基礎代謝も増加します。したがって、入浴することによ って、エネルギーの消費量が増加することは間違いありません。10 分間で 30 ~70kcalのエネルギーを消費します。 2 型糖尿病の患者さんの場合、温泉療法をしている人の方が、血糖が下がる 人が多くみられます。その原因は基礎代謝が増えるからです。つまり、風呂 に入り、体温が高くなり、脈拍数が増加すると代謝も増加するのです。 基礎代謝の亢進ということもありますが、骨格筋の血流が良くなると、イ ンスリンも作用し、老廃物を無くし、新陳代謝が活発になるのは、血流浄化 作用が糖の取り込みを促進します。 Q1 低い温度で 30 分~1 時間くらい長湯をしたらどうなりますか。 A1 人の体温とあまり差の少ない温度の場合の代謝は変わりません。体温との 差がある程度大きくなると代謝は変わってきます。例えばプールに入った場 合、仮に水温が 250Cとすると、体温を保つために代謝が上がりエネルギーを 使います。 温泉療法では、深部体温と表面体温とを分けて考えます。深部体温を上げ ることが大事です。深部体温とは、食道や直腸の中の温度のことです。熱い お湯に我慢して入っても、深部体温がたいして上がらないうちに出なければ ならないので、それよりも、40~410Cくらいのお湯にゆったりと胸まで浸かり 入浴することです。そうすればα(アルファー)波が出てくるし、深部体温も だんだんと上がってきます。そして最後に、お湯の温度を少し上げ、肩まで 入り、温まってから出浴するのが良いでしょう。 Q2 「心臓の高さまでしかお湯に入らない」という人がいますが。 A2 それは正しいと思います。基本的にはそうですが、最後は肩まで入って温 - 3 - まって出るのが良いでしょう。ただし安全のために、風呂の水は少し少なめ にして、多少寝そべりぎみで肩まで入るのも一つの工夫です。 Q3 足湯については。 A3 足湯でも効果があります。足で暖まった血液が全身に熱(エネルギー)を運 んでくれます。 2. 豆腐のお話 加藤則子 管理栄養士・糖尿病療養指導士 今日は、カルシウム、DHA・EPA、金ごま風味が入った3種類の絹ごし豆腐の サンプルを送っていただきました。 この豆腐は1パック 80kcal です。80kcal は食品交換表の1単位で、タンパ ク質のグループでは、1食につきこれ1つの量で十分です。例えば冷やっこを 食べる際には、絹ごしで 1 丁の半分。木綿では 1 丁の 1/3 が適量です。 Q1 豆腐は「にがり」の使い方によって、同じ材料から何丁の豆腐ができます か。つまり、タンパク質の濃さによって質の違いがでてきますか? A1 水切りの時にどう変わるか、材料の大豆の方でどのように作るかによって 絹ごしと木綿豆腐が変わるので、 「にがり」で豆腐の質が変わることはない と思います。 絹ごしは 1 丁の半分で 80kcal、 木綿は 1 丁の 1/3 で 80kcal と言いましたが、 内容量は共に 150g です。それに比べ、このサンプルの豆腐は 120g で 80Kcal あります。したがって、普通の絹ごし豆腐よりグラム当たりのカロリーは高め です。 パンやお弁当にカロリー表示がありますが、その表示の誤差範囲は、お弁当 の場合 100Kcal としますと、±20%あります。なお、皆さんが使っている簡易 血糖測定器の血糖値の誤差範囲は±15%です。 仮に、ご飯・豆腐・焼き魚・野菜類・味噌汁の組み合わせで献立を考えた場 合、これではタンパク質のとり過ぎになります。豆腐は立派なタンパク質であ るため、これと一緒につけるものは、ホウレン草のおひたしとかトマトのサラ ダをつけ、タンパク質を重複させないようにしましょう。尿蛋白が出ている人 は、タンパク質のとりすぎに特に注意しましょう。 旅先の旅館での食事は、野菜が少なくタンパク質の量が非常に多いのが普通 です。したがって、せめて家庭では、タンパク質の適正な献立を工夫する必要 があります。 当院の血液中マグネシウム値測定によりますと、豆類を週3回以上食べてい る人のほうがそうでない人よりも、マグネシウム値が高いという結果が出まし - 4 - た。マグネシウム値が低い人は豆製品を工夫しながら食事に取り入れると良い ようです。 糖尿病患者さんの場合、血液中亜鉛値が少ない傾向があるといいますが、マ グネシウムや亜鉛のようなミネラル(無機物)も健康を保つために必要な栄養 素なので、バランスのよい食事が大切です。 Q2 DHA・EPA、カルシウムについて説明してください。 A2 最近の日本人は、魚の中でも特に青魚類を食べる機会が少なくなっていま す。そのため、DHA・EPAの摂取量が少なくなっているのです。魚に含まれる DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)は、中性脂肪を低下 させるはたらきがあり、血小板のはたらきを下げ、血液をサラサラにするは たらきがあります。このサンプルの豆腐にはDHAやEPAを含む魚の油を添加し てあります。 3.「さかえ」7 月号から 加藤則子 管理栄養士・糖尿病療養指導士 (1)高橋久仁子先生(群馬大学教育学部教授)が健康食品の効果について連載さ れています。今回はギムネマ(ギムネマという植物の葉からの抽出成分で、 血糖値を下げるといわれるもの)について書かれています。先ず、この成分 を糖尿病ラット(ネズミ)にどのくらいの量を与えると血糖値を下げる効果 があるかを調べました。次にこの量を体重 50kg の人の必要量に換算します と、その量は大変なものになりました。したがって、ギムネマの葉をお茶の ようにして飲んだ程度では、血糖値を下げる効果は期待できないということ です。決して「健康食品」のうたい文句に惑わされてはいけません。 (2)特集---糖尿病性腎症は糖尿病三大合併症の一つです。ある人から「決して 糖尿病も悪くなく、インスリン療法もしていないのに人工透析をすることに なりました。 」と言われました。現在の日本で一番透析導入者の多いのが糖 尿病性腎症です。しかし、なぜ糖尿病になると腎臓が悪くなるのかについて は不明なところもあり、多くの原因が複雑に絡み合っていて、それを簡単に 説明することはできませんが、少なくとも腎臓の血管障害がかかわっており ます。多分この方の長い病気の経過の中で、血管障害などが進行していった ものと考えられます。糖尿病性腎症は、発症する前に、あるいは発症しても 早い時期に治療すれば進行を防いだり、腎臓のはたらきを元に戻すことがで きます。正常な腎臓の糸球体は、そこを流れる血液から水分を濾過して、尿 細管に運びます。しかし、尿細管ではその大部分の水分と、水分に溶けてい るナトリウム・マグネシウムなどのミネラルや、ブドウ糖・アミノ酸などが 再吸収されます。同時に不必要な老廃物は再吸収されずに、尿の中に排泄さ れます。腎症になると腎臓全体の機能が低下しますので、老廃物の排泄も、 体の中のミネラルのバランスを保つこともできなくなり、やがて透析が必要 になります。タンパク質を少なくする食事制限も厳しくなるのです。以上 - 5 -