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土佐山田町で採取した木材腐朽菌の培養至適温度の
平成16年度 卒業論文 土佐山田町で採取した木材腐朽菌の培養至適温度の決定 及び種の同定 Estimation of optimal growth temperature and species identification of wood rotting fungi collected in Tosayamada town ݗ知工科大学 工学 物ࡐ・環境システム工学科 1050001 明隅 充剛 指導教員 堀澤 栄 1 目次 1、 緒ۗ 2、 実験方法 2-1 土佐山田町産の担子菌の採取、及び菌分離 2-2 クランプ結合の観察 2-3 バーベンダム反応 2-4 クランプ結合の観察 2-5 DNA 塩基配列に基づく種の同定 3、 結果と考察 3-1 土佐山田町産の担子菌の採取、及び菌分離 3-2 クランプ結合の観察 3-3 バーベンダム反応 3-4 クランプ結合の観察 3-5 DNA 塩基配列に基づく種の同定 4、今後のӀ題 5、まとめ 6、ࡤ辞 7、参考文献 2 1、 緒ۗ 木材腐朽菌が持つリグニン分ӕݏ素は、PCB やダイオキシン等の難分ӕ性の芳香族化合物 を分ӕすることが確認されている。そして、このݏ素を生産する白色腐朽菌を環境浄化に役 立てようとしている。リグニン分ӕݏ素とは、樹木の構成成分の一つである芳香族化合物が 複ߙに結合したリグニンを分ӕするݏ素である。現在、リグニンペルオキシターゼ、マンガ ンペルオキシターゼ、ラッカーゼが確認されている。しかし、木材腐朽菌は成ସ速度がૺい ため環境浄化への実用化には不利である。その対策として、成ସの速い種や株の選択が有効 であるが、培養至適温度がݗい木材腐朽菌であれば、ݏ素反応の温度をݗく০定し、ݏ素反 応速度をݗめられる可能性がある。本研究では比Ԕ的気温のݗいݗ知県(土佐山田町)で 4 種་の木材腐朽菌(KUT0401 KUT0404)を採取し、培養至適温度の決定と種の同定を行っ た。 3 2、 実験方法 2-1 土佐山田町産の担子菌の採取、及び菌分離 ݗ知県(土佐山田町)で木材腐朽菌が生息する腐朽した木片を4種་(KUT0401 KUT0404)採取し、PDA(ポテト・デキストロース・寒天)培地に接種し培養した。伸ସ した菌糸の中で木材腐朽菌のみを PDA 培地ごと切り取り、これを新しい PDA 培地に接種 した。この作業を何度か繰りඉし、木材腐朽菌の単離を行った。 2-2 クランプ結合の観察 顕微؛により担子菌་特有のクランプ結合を観察した。 クランプ結合とは一の担子菌の二次菌糸で見られる特殊な核分裂とそれに伴う細胞分 裂のことをいう。胞子から発芽した核を一つしか持たない一次菌糸が他の胞子から発芽し た一次菌糸と接合し、核を2つ持つ二次菌糸となったとき、細胞壁に小突֬ができる。 この小突֬が見つかれば、担子菌་であると断定できる。ただし、クランプ結合を持た ない場合その菌が担子菌でないとはいえない。 (参考文献1) 2-3 バーベンダム反応 白色腐朽菌かԭ色腐朽菌かを調べるために行った。オートクレーブにかけた PDA 培地 に、pH5.7 5.8 に調整し、ろ過滅菌した 7mM のタンニン酸を 20%加え、撹拌したものを 90 ㎜のシャーレ1枚につき約 15mℓ 分注した。その培地に菌糸(KUT0401 KUT0404) を接種し、24℃暗所でৌ置培養した(図1)。リグニン分ӕݏ素を持つ白色腐朽菌であれ ば培地内のタンニン酸が酸化され培地がԭ色に変化し、リグニン分ӕを持たないԭ色腐朽 菌はタンニン酸が酸化されず、培地の色は変化しない。 比Ԕとして、白色腐朽菌のカワラタケ、ԭ色腐朽菌のオオウズラタケを用いた。 PDA 15.6g 水 360mℓ タンニン酸 1.808g 水 80 mℓ 合 ڐ440ml オートクレーブ 分注 (15mℓ/90mm plate) ろ 過 滅 菌 pH5.7 5.8に調整 24℃暗所でৌ置培養 図 1 PDA 培地とタンニン酸の調合分量(400ml 調整の場合) 4 2-4、培養至適温度の決定 直径 90 ㎜の PDA(ポテト・デキストロース・寒天)平板培地に、単離した菌糸(KUT0401 KUT0404)を接種し、前培養を行った。菌糸が伸ସした前培養のシャーレから直径6㎜ のコルクボーラーで菌糸片を打ち抜き、十字線を引いた PDA 培地の中心に打ち抜いた菌 糸を接種した。15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃でそれぞれシャーレ 6 枚ずつ を暗所でৌ置培養した。24 時間毎に縦と横の菌叢直径をڐ測し、伸ସ値の全培養日数の 平均値を菌糸伸ସ速度とした。 菌糸伸ସ速度の比Ԕとして、木材腐朽力ࠟ験に用いられるカワラタケとオオウズラタケ を用いた。 2-5、DNA 塩基配列に基づく種の同定 担子菌の菌糸からゲノム DNA を抽出した。 15mℓの遠心管に菌体組織、TE を 2.5mℓ、メルカプトエタノールを 50μℓ、フェノー ルを 1.5mℓ、塩化ベンジルを 1.5mℓ、10%SDS を 500μℓ加え、50℃で 5 分おきに混和 しながら 30 分抽出した。4℃、8000rpm、RG(回転半径)55mm で 30 分間遠心分離し、 上清の水層を新しい遠心管に回収した。その回収した水層と等量の CIA を混和した。そし て 4℃、8000rpm、RG55mm で 20 分間遠心分離し、上清の水層を新しい遠心管に回収した。 その水層の 1/10 量の 3M NaOAc を混和し 1 時間氷上に放置した。4℃、8000rpm、RG55mm で 30 分間遠心分離し、上清の水層を新しい遠心管に回収した。そして、その回収した水 層にエタチンメイト 4μℓと水層の容量と等量のイソプロパノールを混和し、再び一時間 氷上に放置した。4℃、8000rpm、RG55mm で 30 分間遠心分離し、沈殿物を回収した。そ の沈殿物に 70%エタノールを 1mℓ混和し、4℃、8000rpm、RG55mm で 20 分間遠心分離 し、沈殿物を回収した。その後デシケーターで 5 分間吸引乾燥し、TE を 500μℓ加え、乾 燥させた沈殿物を溶ӕした。 抽出したゲノムを Template として、1 サンプル当たり 10 倍希釈のバッファ−を 2μℓ、 dNTP2μℓ、Blend Taq を 0.08μℓ、プライマー(ITS1、ITS4:参考文献 2)をそれぞれ 1 μℓ、Template 1μℓ、水 13μℓを混和し、PCR によりリボソームの ITS 領域を増幅させ た。 次に pGEM(PCR 産物 2μℓ当たり 2 Ligation Buffer 5μℓ、T4 DNA Ligase 1μℓ、Vector 2μℓ,水 2μℓ)を使用し Ligation を行った。 27℃で一時間放置した後、コンピテントセルを用いて Transformation を行った。Ligation 産物 2μℓにコンピテントセル 50μℓを加え 42℃で 1 分間置く。 そして LB 液体培地を 400 μℓ加え、37℃で一時間放置した。アンピシリン、X-gal、IPTG をそれぞれ 50μℓずつ塗 布した LB 培地に、形ࡐ転換細胞懸濁液を 50μℓずつ塗布し、37℃で 16 時間放置した。 その後、培地上に現れるコロニーの色により、外来 DNA がコンピテントセルに挿入され Transformation されたのかを判定した(カラーセレクション)。判定基準は、コロニーの色 が白であれば、すべてに外来 DNA が挿入され、形ࡐ転換もされている、োであれば、外 来 DNA は挿入されなかったが形ࡐ転換はされている、コロニーが生じなければ、外来 DNA 5 の挿入以前に、プラスミドが取り込まれていないということになる。 その後、白いコロニーだけを LB 液体培地 5mℓに接種し、37℃で約 24 時間、液体培地 が懸濁するまで振とう培養した。 転換細胞よりアルカリ-SDS 法によるプラスミド抽出を行った。 振るいにかけた液体培地を 4℃、15000rpm、RG55mm で 2 分間遠心分離し、沈殿物を回 収した。その回収した沈殿物に Solution.1* を 100μℓ加えた。次に Slution.2* を 200μℓ加 え、5 分間氷上に放置した。そして Solution.3*を 150μℓ加え、再び 5 分間氷上に放置した。 その後 CIA を 10μℓ加え、4℃、15000rpm、 RG55mm で 10 分間遠心分離し、上清の水 層を新しい遠心管に回収した。回収した上清と等量のイソプロパノールを混和し、室温で 2 時間放置した後、再び 4℃、15000rpm、RG55mm で 10 分間遠心分離した。沈殿物を回 収し、その沈殿物に 70%エタノールを 1mℓ混和し、4℃、15000rpm、RG55mm で 5 分間 遠心分離した。沈殿物を回収し、その後デシケーターで 4 分間吸引乾燥し、乾燥させた沈 殿物に TE を 100μℓ加え溶ӕした。その後 Rnase を 1μℓ加え、37℃で 30 分間処理した。 Solution.1* 50mM グルコース 0.91g up 25mM Tris-HCl(pH8.0) 2.5ml 10mM → 100ml →A.C EDTA(pH8.0) 2 ml Solution.2* 0.2N NaOH 200μℓ 1% SDS H2O 100μℓ 700μℓ * Solution.3 5M K-O-Ac CH3COOH H2O 60ml 11.5ml 28.5ml 6 up → 100ml →A.C 3、 結果と考察 3-1 土佐山田町産の担子菌の採取、及び菌分離 採取した 4 種་の木材腐朽菌(KUT0401 KUT0404)はすべて単離することができた。 各木材腐朽菌の詳細については表 1 に示した。 表1 単離した木材腐朽菌の詳細 場所 KUT0401 ݗ知工科大学 体育պの裏 KUT0402 ݗ知工科大学 体育պの裏 KUT0403 KUT0404 採取源 木材腐朽菌が生息する腐朽し た木片 木材腐朽菌が生息する腐朽し た木片 ݗ知工科大学 グランドの 木材腐朽菌が生息する腐朽し 脇 た木片 ݗ知工科大学、؛野公園間 木材腐朽菌が生息する腐朽し の並木道 た木片 7 色 白 白 白 薄茶 3-2、クランプ結合の観察 KUT0401 KUT0402 KUT0403 KUT0404 写真 1 各木材腐朽菌のクランプ結合 0.01mm 顕微؛観察から、各菌株において担子菌་特有のクランプ結合が確認された。 (写真 1) このため単離した菌株(KUT0401 KUT0404)は担子菌་であると判定した。 8 3-3、バーベンダム反応 KUT0401 KUT0402 KUT0403 KUT0404 カワラタケ オオウズラタケ 写真 2 各木材腐朽菌のバーベンダム反応 KUT0401 KUT0404 のすべてについて培地がԭ色に変化した。また比Ԕに用いた白色腐 朽菌のカワラタケ、ԭ色腐朽菌のオオウズラタケはそれぞれԭ色、白色を示した。したがっ てバーベンダム反応より KUT0401 KUT0404 のすべてが白色腐朽菌であることが判明した。 また木材腐朽菌によって培地の色が変化する時期にずれがあった。このことから、培養時 9 間も影していると考えられる。 10 3-4、培養至適温度の決定 32 菌糸伸速度(mm/day) 30 28 26 KUT0401 KUT0402 KUT0403 KUT0404 24 22 20 カワラタケ オオズラタケ 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 10 15 20 25 30 35 40 45 50 温度(℃) 図 2 菌糸伸ସ速度の温度特性 表 2 菌糸伸ସ速度と標準偏差 KUT0401 温度(℃) 菌糸伸ସ速度 (mm/day) 標準偏差 15 ℃ 20℃ 25℃ 30℃ 32.5 ℃ 35℃ 37.5 ℃ 40℃ 45℃ 4.98 11.92 15.55 16.02 17.63 18.13 2.77 0 0 1.38 1.69 0 0 35℃ 40℃ 45℃ 0 0 0 0 3.26 1.92 20℃ 25℃ 2.76 5.4 3.74 KUT0402 温度(℃) 菌糸伸ସ速度 (mm/day) 標準偏差 15 ℃ 27.5 ℃ 30℃ 32.5 ℃ 6.62 12.06 15.88 16.72 19.77 3.69 5.57 3.33 4.97 1.65 18 14.06 4.59 3.87 KUT0403 温度(℃) 菌糸伸ସ速度 (mm/day) 15 ℃ 1.79 20℃ 25℃ 27.5 ℃ 30℃ 32.5 ℃ 35℃ 40℃ 42.5 45 ℃ ℃ 6.13 14.95 16.35 23.44 20.31 19.69 14.26 10.53 11 0 標準偏差 2.43 3.34 5.65 20℃ 25℃ 3.62 5.75 5.33 5.6 8.07 4.73 35℃ 40℃ 45℃ 0 KUT0404 温度(℃) 菌糸伸ସ速度 (mm/day) 標準偏差 15 ℃ 27.5 ℃ 30℃ 32.5 ℃ 0 3.08 16.32 18.81 18.86 10.1 2.83 0 0 0 3.11 11.03 8.09 3.27 0 0 9.69 10.53 図 2、表 2 に培養至適温度の結果を示した。 表 2 の下線を引いた値は培養至適温度である。 KUT0401 については 35℃でピークが見られたので、32.5℃、37.5℃のୈ加測定を行っ た。KUT0402、KUT0403、KUT0404 については 30℃でピークが見られたため 27.5℃、32.5℃ のୈ加測定を行った。その内、KUT0403 については 40℃で速い成ସが見られ、45℃で成 ସが見られなかったので、42.5℃での測定も行った。 表 1 から、各木材腐朽菌の培養至適温度は KUT0401 が 35℃、KUT0402 、KUT0403、 KUT0404 が 30℃となった。当初の目的である培養至適温度のݗい木材腐朽菌は KUT0401 であった。しかし、KUT0403 の培養至適温度は 30℃であるが、全体的な菌糸伸ସ速度は 速く、42.5℃でも成ସが見られたため、ݏ素反応の温度をݗく০定できる可能性が一番ݗ いと判定した。 KUT0401、KUT0403 の菌叢の形態は、菌糸が伸ସするにつれ菌叢の厚みが著しく増加 した。しかし KUT0402、KUT0404 については、菌叢の厚みは目立たなかった。 光による菌糸の伸ସへの影はほとんどなかった。 (24℃でৌ置培養) 3-4 DNA 塩基配列に基づく種の同定 コンピテントセルを用いた Transformation の研究段階で Ligation 産物 2μℓ、コンピテ ントセル 50μℓ、LB 液体培地 400μℓを加えたところ、KUT0401 KUT0404 のすべてに おいて形ࡐ転換されなかった。そこで Ligation 産物 10μℓ、コンピテントセル 100μℓ、 LB 液体培地 200μℓを加えたところ、KUT0401 については形ࡐ転換され培地に白いコロ ニーができた。これは、Ligation 産物とコンピテントセルの分量を多くすることで、外来 DNA の挿入の確率が上がったためと考えられる。その後アルカリ-SDS 法によりプラスミ ド抽出を行ったところ、KUT0401 のプラスミドは抽出できなかった。 アルカリ SDS 法については同じ方法でプラスミド抽出ができるという前例があるため、 プラスミドが抽出できなかった原因は不明である。 12 4、 今後のӀ題 バーベンダム反応について、培地の色が変化するときの条件を決定する。 培養温度を変えてもリグニン分ӕݏ素が合成されるのかを判定する。 KUT0401 KUT0404 のリグニン分ӕݏ素の抽出方法の検討と、抽出したリグニン分ӕ ݏ素の活性測定。 5、 まとめ クランプ結合の観察により、採取した 4 種་の菌株(KUT0401 ་であると判定した。また、バーベンダム反応により、KUT0401 KUT0404)は担子菌 KUT0404 のすべてが 白色腐朽菌であることが判明した。 採取した 4 種་の木材腐朽菌の培養至適温度は KUT0401 が 35℃、KUT0402、KUT0403、 KUT0404 については 30℃となった。 KUT0403 の培養至適温度は 30℃であるが、全体的 な菌糸伸ସ速度は速く、42.5℃でも成ସが見られたため、ݏ素反応の温度をݗく০定でき る可能性があると判定した。 DNA 塩基配列に基づく種の同定については、コンピテントセルを用いて KUT0401 のみ 形ࡐ転換ができた。しかし、アルカリ SDS 法によるプラスミドの抽出ができず、塩基配 列決定までには至らなかった。 6、 ࡤ辞 本研究を行うにあたり、色々とご指導、ごඏ撻頂きました堀澤栄先生に深く感ࡤし、御 礼を申し上げます。また、共に実験を行った研究室の皆様に深く感ࡤし、お礼申し上げ ます。 7、 参考文献 1, 日本微生物協会、微生物学辞典、技報堂出版(株) 、第3版、p.289. 2, White T.J. et al., PCR protocols:aguide to methods and applications, Academic, San Diego(1990),pp.315 332. 13