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生体触媒を活用したカルサイト析出による液状化対策技術の開発

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生体触媒を活用したカルサイト析出による液状化対策技術の開発
別記第 10 号様式
研究成果報告書の要旨
研究代表者
和歌山工業高等専門学校環境都市工学科 助教
林
共同研究者
愛媛大学大学院理工学研究科
和歌山大学システム工学部
安原
中西
准教授
教授
和幸
英明
和朗
生体触媒を活用したカルサイト析出による液状化対策技術の開発
要旨
和歌山県はこれまで、概ね 100~150 年周期で発生する東南海・南海地震の被害を受け、
その都度多くの被害者が生じてきた。この大地震が今後 30 年以内に 50%以上の確率で発
生すると言われる中、和歌山県が平成 18 年 3 月に策定した「和歌山県地震被害想定調査」
では、この地震で液状化被害を受ける建物が最大で 4000 棟に及ぶ甚大な被害が予測されて
いる。液状化対策の推進は、本県にとって急務であると言える。
本研究では、既存の液状化対策技術と比べコスト、環境影響の面で大幅な改善が期待さ
れるカルサイト析出による液状化対策技術に着目し、(a)カルサイト析出を広範囲に一様に
分布させる方法、(b)地盤中の溶液の浸透特性やカルサイト析出分布特性、および(c)様々な
粒径を有する地盤に対する本技術の適用性に着目し検討を行った。
ウレアーゼ試薬の種類と濃度を種々に変え、カルサイト析出速度および反応が収束する
時間について試験を行った。一連の反応試験の結果、反応がほぼ終息するのに3.0u/mgと性
能の低いウレアーゼを混合した溶液では約2時間、130u/mgのウレアーゼ溶液では約1時間で
反応が収束した。これら反応収束時間に対し、十分に短い時間でウレアーゼ溶液を目標到
達地点まで浸透させることで、広範囲に一様にカルサイトを析出させることができると判
断される。
ウレアーゼ溶液の浸透範囲のマーカーとなるカルサイト析出分布に着目し、異なる粒径
試料に対するウレアーゼ溶液の浸透・カルサイト析出試験を実施した。その結果、粒径が
小さい試料を利用した試験では、注入口から遠いほど析出量が減少し、粒径が大きいほど
均一に析出することが明らかとなった。
粒径が異なる砂にカルサイトを析出させ、それぞれの液状化抵抗の改善効果および液
状化後の地盤沈下特性の改善効果について、液状化試験と再圧密試験を行い検討した。
その結果、粒径が小さいほどその液状化抵抗の改善効果が大きいこと、試料質量の 1%
のカルサイト析出で、液状化後の体積圧縮ひずみが半減することが明らかとなった。
1
別記第 11 号様式
研究成果報告書
研究代表者
和歌山工業高等専門学校環境都市工学科 助教
林
共同研究者
愛媛大学大学院理工学研究科
和歌山大学システム工学部
安原
中西
准教授
教授
和幸
英明
和朗
生体触媒を活用したカルサイト析出による液状化対策技術の開発
1. 目的
大地震時の地盤の液状化は、土木構造物や建物の不等沈下、マンホールの浮き上がり
(図 1.1)等によるライフラインの破壊、岸壁や道路の破壊等、甚大な被害を引き起こす。
これらは、地震被害からの街の復興を著しく妨げ健全な市民生活を長期間に亘って脅か
し、多くの地震被害者が長い避難所生活を余儀なくされる。先般発生した東北地方太平
洋沖地震では、これら液状化被害が極めて甚大であり、地震発生後の日々の報道により、
津波とともに大地震で引き起こされる顕著な被害要因として兵庫県南部地震以降、再び
広く認識されつつある。
和歌山県はこれまで、概ね 100~150 年周期で発生する東南海・南海地震の被害を受
け、その都度多くの被害者が生じてきた。この大地震が今後 30 年以内に 50%以上の確
率で発生すると言われる中、和歌山県が平成 18 年 3 月に策定した「和歌山県地震被害
想定調査」では、この地震で液状化被害を受ける建物が最大で 4000 棟に及ぶ甚大な被
害が予測されている。液状化対策の推進は、本県にとって急務であると言える。
液状化は、砂を主体とする飽和したゆるい地盤が地震のゆれによりせん断破壊が進行
し、それに伴う過剰間隙水圧の上昇および有効応力の低下により引き起こされる。大地
震時に液状化を生じさせないためには、
(a)
(b)
(c)
(d)
地下水位を下げ不飽和化する
密な地盤にする
せん断抵抗を改善する
排水距離を短縮し過剰間隙水圧を生じさせない、あるいは早期に逸散させる
などの対策が講じられる。具体的には、それぞれ地下水位低下工法、振動締固め工法、
セメント改良や地盤注入などの固化工法、各種ドレーン工法などの手法が利用されるが、
それぞれ既存の構造物や建物直下への適用が困難、高コスト、改良体からの有害物質の
溶出など、それぞれに課題が残されている。これらの課題が解決されない限り液状化対
策は進まず、このままでは多くの構造物や建物が無対策のまま大地震を迎えることにな
る。これらの課題解決に向けた取り組みが急がれる。
本研究で着目する液状化対策としてのカルサイト析出技術は、カルサイトを土粒子間
2
の固結物質として地盤中に析出させ、土のせん断抵抗を改善させる地盤注入工法の一つ
である。地盤に注入される溶液は、従来の地盤注入と比べ粘性が小さく注入 1 回当たり
の改良径を大きくできるため施工コストの縮減が期待される。カルサイトは炭酸カルシ
ウムの結晶形態の一つであり、自然界に広く存在する無害な物質である。また、わずか
なカルサイト析出で地盤の液状化抵抗が改善されることが、これまでの研究代表者らの
研究で明らかにされており、本技術は先にあげた課題を解決できる有望な技術であると
言える。
既存建物直下を対象とした実際の現場でのカルサイト析出では、溶液を地盤に注入す
る方法が講じられる。しかし、これまでの研究における砂供試体中のカルサイト析出は、
粉末試薬をあらかじめ混ぜた砂を使い行われていること、新規な技術であることから、
(a)カルサイト析出を広範囲に一様に分布させる方法、(b)地盤中の溶液の浸透特性やカ
ルサイト析出分布特性、および(c)様々な粒径を有する地盤に対する本技術の適用性な
ど、基礎的かつ実用化に直結する知見がほとんど得られていない。そこで本研究では、
本技術の実用化とそれによる地域の活性化を目指し、これらの 3 つの課題を明らかにす
ることを目的に検討を行った。
図 1.1
東北地方太平洋沖地震による液状化で生じたマンホールの浮き上がり
(千葉県浦安市)
2. 実施方法
(1) カルサイト析出を広範囲に一様に分布させる方法の検討
ウレアーゼは、マメ科植物や枯草菌など微生物の体内に存在し、尿素を加水分解する
3
生体触媒である。着目する一連の化学反応を式(1)~(6)に示す。カルサイト CaCO3 の析
出には、カルシウムイオン Ca2+と炭酸イオン CO32-が必要である。ウレアーゼは尿素を
加水分解し、溶液中に二酸化炭素を供給する(式 1)。二酸化炭素 CO2 は、溶液中で炭酸
H2CO3、炭酸水素イオン HCO3-を経て、炭酸イオン CO32-となる(式(2)~(4))。同時に存在
する塩化カルシウム CaCl2 は、カルシウムイオンと塩化物イオン Cl-に分離し(式(5))、
そのカルシウムイオンと式(4)で生じた炭酸イオンが結合し、カルサイトが析出する。
CO(NH 2 )2 + 3H 2 O → CO 2 + 2 NH 3
(1)
CO 2 + H 2O ↔ H 2CO3
(2)
−
H 2CO3 ↔ HCO3 + H +
−
2−
(3)
HCO3 ↔ CO3 + H +
(4)
CaCl 2 ↔ Ca 2+ + 2Cl −
(5)
Ca 2+ + CO3
2−
↔ CaCO3 ↓
(6)
ウレアーゼは、それ自身が時間とともに失活するものの式(1)で示す化学反応が進ん
でも量的には変化せず、その量の大小は化学反応速度に強く影響を及ぼす。すなわち、
その純度が高いほど、量が多いほど、尿素の加水分解は早く進行する。
地盤中におけるカルサイトの析出は、ウレアーゼ溶液と尿素・カルシウム混合溶液の
二液を地盤に注入し行われる。二液は、注入口付近で混合されると同時に式(1)~(6)の反
応が開始し、注入口からの距離とともに混合溶液に含まれるカルシウムイオンや炭酸イ
オンの濃度は減少し、これによりカルサイト析出量も減少する。一様に、広範囲にカル
サイトを析出させるためには、カルサイト析出反応の速度を把握し、反応収束時間に対
し余裕を見込んだ時間で溶液を目標到達地点まで浸透させる必要がある。そこで、ウレ
アーゼ試薬の種類と濃度を種々に変え、カルサイト析出速度および反応が収束する時間
について試験を行った。
試験に用いる試薬として、3.0u/mg (E.C 3.5.15 和光純薬工業)および 130u/mg (020-8
3242 キシダ化学工業)のウレアーゼ、塩化カルシウム(039-00475 和光純薬工業)および
尿素(219-00175 和光純薬工業)の 4 種類を準備した。まず、ビーカーに用意した水に対
し、等しいモル数の尿素と塩化カルシウムを混合し、1.0mol/L の尿素・塩化カルシウム
水溶液を作製する。次に、所定量のウレアーゼを尿素・塩化カルシウム水溶液に混合し、
混合時を反応開始時として、ポータブルイオン pH 計(IM-32P, 東亜ディーケーケー)を
利用し、塩化カルシウムに由来する溶液中カルシウムイオン濃度の経時変化を計測した。
特に、溶液中のイオン濃度が高い開始直後は、反応速度が速いため計測の時間間隔を短
くした。試験中、ビーカー内に炭酸カルシウムの沈殿物とそれによる物質濃度の偏りを
避けるため、イオン濃度を計測する一連の試験においてはビーカー内を常に攪拌し溶液
が均質になることに努めた。試験ケースの一覧を表 2.1 に、試験の様子を図 2.1.1 に示
す。
4
表 2.1
試験ケース
試験ケース一覧
尿素・塩化カルシウム
水溶液初期濃度
ウレアーゼの性能
ウレアーゼ混合量
Case1
1.0mol/L
3.0u/mg
10g/L
Case2
1.0mol/L
130u/mg
1g/L
Case3
1.0mol/L
130u/mg
3g/L
図 2.1
試験状況
(2) 試験試料の粒径によるカルサイト析出分布の違いに関する溶液通水・析出実験
地盤への二液注入による地盤中カルサイト析出において、溶液注入口から目標とす
る溶液到達地点までのウレアーゼ溶液の浸透特性は、溶液が浸透する試料の粒径の違
いに強く影響を受けると考えられる。その影響を明らかにするには、通過試料中に留
まったウレアーゼ量を直接計測することが望ましいが、試料質量に対し溶液中に含ま
れるウレアーゼ量は極めて小さく、実験精度の低下を引き起こす恐れがある。そこで、
ウレアーゼの作用により生じるカルサイトをウレアーゼ溶液浸透のマーカーとして、
着目し、異なる粒径の試料に対するカルサイト析出分布の違いについて検討した。
1) 試験装置
試験には、カルサイト析出後の試料を通水距離ごとに分割でき、また二液注入が可
5
能な内径 30mm、合計長さ 1m の通水試験機を利用した。試験装置を図 2.2 に示す。
試験機は長さ 100mm のアクリルモールドを 10 段に重ね、各モールドに詰めるカルサ
イト析出前の試料密度を管理することで、二液注入・養生後のカルサイト析出量をモ
ールドごとに求めることができる。装置下端のベースプレートは、二液注入用の直径
1mm の注入口が設けられ、二液注入口の間隔を 1mm と極力短縮することで二液が混
合されやすいように配慮した。試料と接するベースプレート注入口および最上段モー
ルド上端部には、注入口および排水口の目詰まりを避けるためステンレスメッシュを
配置した。二液の注入には、二連式の送液ポンプを利用し、二液の注入速度を等しく
するとともに、一連の試験における送液速度の安定を保った。
図 2.2
試験状況
2) 試験方法
モールドに詰める試料には、試験結果に対する粒子形状の影響を排除するため、真
球に近いガラスビーズを利用した。ガラスビーズは直径がφ0.1mm、0.3mm および 1mm
6
の 3 種類とし、各試験ケースでは単一粒径のガラスビーズを用いた。
一連の試験の流れを図 2.3 に、試験条件を表 2.2 に示す。ステンレス製のベースプレ
ートに一段目のモールドを設置し、直径 30mm に整形したステンレスメッシュをモー
ルド下端に設置した。その後、所定量のガラスビーズをモールド内に撒き出し、モール
ド下端のフランジ部を 100 回打撃することで密なガラスビーズ供試体を作製した。モー
ルド内供試体の上端面をストレートエッジで平滑にした後、二段目のモールドをその上
部に設置した。この操作を 10 回繰返すことで、高さ 1m の密なガラスビーズ供試体を
作製した。
注入するウレアーゼ溶液は、失活を防ぐためこれについては注入直前に配合した。ウ
レアーゼは、130u/mg (020-83242 キシダ化学工業)を利用した。ウレアーゼ溶液、およ
び尿素・塩化カルシウム水溶液は、いずれの試験ケースでもそれぞれ 3.0g/L、1.0g/L と
した。
供試体への二液注入では、二液の反応がほとんど進まない 1 分間で通水が完了するよ
うに、送液ポンプにより注入速度を調節し注入した。供試体間隙と等しい量の二液を注
入後、カルサイト析出時間として 1 時間の養生期間を設け、養生完了後 2 回目の注入を
行った。この操作を 6 回繰り返した後、ガラスビーズ表面におけるカルサイトの定着期
間を設けるため、24 時間養生した。養生完了後、間隙に残留する反応副産物である塩
化アンモニウムを供試体から取り除くため、間隙体積の 2 倍の蒸留水をゆっくり通水し
た。間隙の水分を通気により排水した後試験機を解体し、試料を自然乾燥後、慎重に取
り出したモールドごとのガラスビーズ質量を電子天秤により計測した。その後、このよ
うにして求めたカルサイト析出後の質量と、各モールドに詰めたガラスビーズ質量、す
なわちカルサイト析出前の質量の差をカルサイト析出量として、注入口からの距離とカ
ルサイト析出量の関係を試験ケースごとに求めた。カルサイトが付着したガラスビーズ
は、顕微鏡により観察した。
供試体作製
注入溶液の調合
供試体への二液注入
カルサイト析出
6回繰返し
養生
蒸留水通水による
反応副産物の排除
モールドごとの試料質量計測
モールドごとのカルサイト析出質量計測
顕微鏡によるガラスビーズ表面に
付着したカルサイトの観察
7
図 2.3
二液注入・カルサイト析出試験の流れ
表 2.2
試験ケース一覧
ウレアーゼ
尿素・塩化カルシウム
溶液濃度
水溶液初期濃度
Case1
3.0g/L
Case2
Case3
試験ケース
注入回数
試料粒径
1.0mol/L
6回
0.1mm
3.0g/L
1.0mol/L
6回
0.6mm
3.0g/L
1.0mol/L
6回
1.0mm
(3) カルサイトを析出させた砂の液状化強度改良効果
砂質量に対し、わずか 1%のカルサイトを析出させることで、砂の液状化強度が 2.5
倍に増加することが林らの研究で明らかとなっている。一方、その結果はある単一種
類の砂に対してのみを対象とした研究であり、様々な粒度を示す全ての現地盤に対し
同様の改良効果が発現するとは必ずしも言えない。そこで、粒度が様々に異なる砂を
対象としたカルサイト析出およびそれによる改良砂の非排水繰返し三軸試験を実施し、
粒度による液状化強度改良効果の違いについて検討した。
1) 試験装置
非排水繰返し三軸試験に使用した試験装置を図 2.4 に示す。非排水繰返し三軸試験
とは、供試体を圧密非排水条件で軸方向に一定振幅の繰返し軸差応力を作用させる試
験である。本試験における計測項目は、供試体軸方向に作用する軸力、繰返し載荷に
伴う供試体のせん断破壊により変化する供試体の軸方向の変形と過剰間隙水圧、およ
び供試体に作用する側圧の 4 項目であり、それぞれ供試体直上部のロードセル、直下
の間隙水圧計および変位計にて計測する。
2) カルサイトを析出させた砂供試体の非排水繰返し三軸試験の試験方法
カルサイト析出および非排水繰返し三軸試験における一連の流れを図 2.5 に示す。
バットに必要分より多めの試料を準備し、電子天秤を使い試料質量を計測する。次に、
下部ペデスタル上に、ゴムスリーブおよび二つ割の真鍮製モールド(内径 50mm、内側
高さ 100mm)を設置した後、大型の漏斗を使い落下高さを一定に保ちながら空中落下
法にてろ紙を底部に置いたモールド内に乾燥供試体(φ 5cm、H10cm)を作製した。供
試体上端面はストレートエッジにて平滑に整形し、直径 50mm のろ紙を載せた後、上
部ペデスタルを慎重に供試体上端面に接する様に設置した。ゴムスリーブを上部ペデ
スタルに固定した後供試体内に 20kPa の負圧を与えた状態で二つ割モールドを外し、
三軸セルのセットおよびセル内の通水を開始した。セル内への通水終了後、供試体内
の負圧をセル圧に置き換え、さらに三軸試験時と等しい有効拘束圧であるσc’=100kPa
となるように供試体に側圧を与えた。カルサイト析出のため供試体間隙とほぼ同体積
8
の溶液を通水し、カルサイトを析出させた。通水完了後、排水状態で 24 時間養生を
行った。養生後、間隙の反応副産物を取り除くこと、および供試体の飽和度を高める
ことを目的として、σc’=100kPa を保ちながら供試体に 95kPa 程度の負圧を与え、供試
体下部より蒸留水を通水した。有効拘束圧を保ちながら負圧をゼロまで下げ、100kP
a の背圧を与えた後、非排水状態で側圧を 50~100kPa で上下させ、間隙圧係数 B 値を
計測した。B 値が 0.96 以上あれば非排水繰返し三軸試験に移行し、0.96 未満の場合、
二重負圧法および蒸留水通水の手順に戻り再度同様の操作を行った。
繰返し載荷は、所定の繰返し応力振幅で 0.1Hz の正弦波形で与え、軸ひずみがεa=1
0%となった時に載荷を終了した。
図 2.4
非排水繰返し三軸試験に用いる装置
9
図 2.5
カルサイトを析出させた砂の非排水繰返し三軸試験の流れ
3) 液状化後供試体の再圧密試験
地震の揺れにより液状化し液体状を呈した地盤は、一定時間後に噴砂などの現象を
伴いつつ比重が大きい土粒子は沈降し、広い範囲で地盤沈下が生じる。これは、過剰
間隙水圧の消散に伴う有効圧密圧力の回復と、それにより排水を伴い地盤が体積圧縮
することで生じるものであり、圧密と同様な現象である。カルサイト析出による液状
化特性の改善効果の評価は、非排水繰返し三軸試験で評価される地震中に地盤に生じ
る繰返しせん断に対する抵抗と同様に、地震後の圧密による地盤の体積圧縮量に対し
ても行われるべきである。そこで本試験では、非排水繰返し三軸試験で液状化したカ
ルサイト析出後の供試体について圧密試験を行い、有効応力の回復に伴う液状化後供
試体の体積圧縮ひずみについて検討した。
供試体が液状化後、過剰間隙水圧が 10kPa 下がるまで慎重に排水コックを開け、そ
れにより上昇する二重管ビュレット内水位を水位が安定した段階で目測した。この時、
等方圧密状態となるようにロードセルで計測される軸力を調節した。この操作を過剰
間隙水圧がゼロになるまで繰返し行い、有効圧密圧力の増加に伴う体積圧縮ひずみの
変化を求めた。
10
4) 試験試料の物理的特性
試験試料には、豊浦砂と 4 号硅砂の 2 種類を用いた。それぞれの主な物理的特性を
表 2.3 に示す。
表 2.3
試験試料の物理的特性
豊浦砂
4 号硅砂
土粒子密度 ρs (g/cm3)
2.64
2.63
最大密度 ρmax (g/cm3)
1.62
1.48
最小密度 ρmin (g/cm3)
1.34
1.07
平均粒径 D50 (mm)
0.20
0.75
5) 試験条件
試験条件を表 2.4 に示す。供試体の目標相対密度はいずれも Dr=50%とし、繰返し
応力比を種々に変えて実験を行った。
表 2.4
試験ケース
試験条件
目標相対密度
Dr
繰返しせん断応力比
カルサイト析出なし
50
0.11~0.15
カルサイト析出あり
50
0.11~0.20
3. 結果
(1) カルサイト析出を広範囲に一様に分布させる方法の検討結果
図 3.1 に、ウレアーゼの種類と混合量を種々に変えた溶液中カルシウムイオン濃度の
経時変化を示す。横軸は溶液とウレアーゼ混合時をゼロとし混合時からの経過時間を、
縦軸は、溶液中のカルシウムイオン濃度を示している。いずれのケースも反応初期に
おいてカルシウムイオン濃度が急激に減少し、時間とともに反応速度がゆるやかに変
化していくことが分かる。
低性能のウレアーゼ(Case1)においては、反応開始から 2 時間程度で反応が収束する
一方、高性能のウレアーゼ(Case2, 3)においては 1 時間程度と収束までの時間が高性能
ウレアーゼの方が早い。広範囲に一様にカルサイトを析出させるには、これら反応収
束時間に対し、十分に短い時間でウレアーゼ溶液を目標到達地点まで浸透させること
が重要である。換言すると、そのようにすれば、ウレアーゼの時間経過に伴う失活は
なくなると言える。
11
低性能ウレアーゼ 10g/L
低性能ウレアーゼ 10g/L
高性能ウレアーゼ 1g/L
高性能ウレアーゼ 3g/L
濃度 m (mol/L)
1
0.8
0.6
0.4
0.2
2+
90%Ca 消費
0
0
20
図 3.1
40
60
80 100 120 140 160 180 200
時間 t (min)
尿素・塩化カルシウム溶液とウレアーゼ混合後の
溶液中のカルシウムイオン濃度の経時変化
(2) 試験試料の粒径によるカルサイト析出分布の違いに関する溶液通水・析出実験
図 3.2~3.4 に、Case1~3 に対する二液注入口からの距離とカルサイト析出量の関係を
示す。横軸は各モールド内試料におけるカルサイト析出量について、注入口に最も近
いモールド内試料におけるカルサイト析出量で除して正規化した値を、縦軸は注入口
からの距離を示す。試料粒径が比較的小さい Case1 と Case2 では、注入口から遠いほ
どカルサイト析出量が減少する傾向が見られる。一方、試料粒径が大きい Case3 のカ
ルサイト析出量は、注入口からの距離によらず概ね一定値を示している。このことよ
り、粒径が大きいほど均質で広範囲にカルサイトが析出し、二液注入によるカルサイ
トの析出分布特性は、試料粒径に強く影響を受けることが明らかとなった。
図 3.5 に、カルサイトが析出、付着したガラスビーズ表面の顕微鏡写真を示す。カル
サイトは、ガラスビーズ表面に凹凸を形成するとともに、ガラスビーズ接点間におい
て架橋を形成していることが分かる。
12
注入口からの高さH (cm)
100
Case1
80
60
40
20
0
0
図 3.2
1
正規化カルサイト析出量 Mn/M0
2
Case1 における注入口からの高さと正規化したカルサイト析出量の関係
注入口からの高さH (cm)
100
Case2
80
60
40
20
0
0
図 3.3
1
正規化カルサイト析出量 Mn/M0
2
Case2 における注入口からの高さと正規化したカルサイト析出量の関係
注入口からの高さH (cm)
100
Case3
80
60
40
20
0
0
図 3.4
1
正規化カルサイト析出量 Mn/M0
2
Case3 における注入口からの高さと正規化したカルサイト析出量の関係
13
図 3.5
ガラスビーズ表面に析出・付着したカルサイト
(3) カルサイトを析出させた砂の液状化強度改良効果
1) カルサイト析出の有無による液状化特性の違い
図 3.6、3.7、3.8 に、繰返しせん断応力比 0.11 で繰返し載荷したカルサイトを析出
させていない 4 号硅砂について、繰返し軸差応力、軸ひずみと過剰間隙水圧比の時刻
歴図を示す。試験では、図 3.6 に示す一定振幅の軸差応力を供試体に与えた。軸ひず
みの増加は、繰返し初期から 18 回程度の繰返しまでほぼゼロであるが、19 波で急激
に軸ひずみが生じて以降、著しく軸ひずみが成長している。過剰間隙水圧比は、繰返
しせん断により供試体に生じる過剰間隙水圧を初期有効拘束圧で除して求めている。
過剰間隙水圧比は、繰返しせん断に伴い少しずつ増加し、軸ひずみとは異なる挙動を
示す。一方、19 回目の繰返しせん断により過剰間隙水圧比が著しく増加し、20 波目
には完全に過剰間隙水圧比が 1.0、すなわち有効応力がゼロの状態となっていること
が分かる。
図 3.9、3.10 に、同様に繰返しせん断応力比 0.11 で繰返し載荷したカルサイトを析
出させた 4 号硅砂について、軸ひずみと過剰間隙水圧比の時刻歴図を示す。軸ひずみ
両振幅が DA=5%に達した時を液状化時と定義した時、カルサイト析出なしのケース
では、19 回で液状化したのに対し、1%のカルサイトを析出させたケースでは、供試
体が液状化するまで 389 回と極めて多い繰返し載荷を与える必要がある。過剰間隙水
圧比は、析出なしと同様繰返しせん断に伴い少しずつ増加し、軸ひずみの著しい増加
と同時に過剰間隙水圧比も増加していることが分かる。
14
繰返し軸差応力 σa (kPa)
40
20
0
-20
0
図 3.6
50
時間t (s)
100
カルサイトを析出させていない 4 号硅砂の軸差応力時刻歴図
軸ひずみ εa (%)
10
0
-10
0
図 3.7
50
時間t (s)
100
カルサイトを析出させていない 4 号硅砂の軸ひずみ時刻歴図
過剰間隙水圧比 u/σc'
1
0.5
0
0
図 3.8
50
時間t (s)
100
カルサイトを析出させていない 4 号硅砂の過剰間隙水圧比時刻歴図
15
軸ひずみ εa (%)
10
0
-10
0
図 3.9
1000
時間t (s)
2000
カルサイトを 1%析出させた 4 号硅砂の軸ひずみ時刻歴図
過剰間隙水圧比 u/σc'
1
0.5
0
0
図 3.10
1000
時間t (s)
2000
カルサイトを 1%析出させた 4 号硅砂の過剰間隙水圧比時刻歴図
2) 繰返しせん断応力比と繰返し回数の関係
図 3.11 に、1%のカルサイト析出の有無を変えた豊浦砂と硅砂 4 号それぞれについて、
繰返しせん断応力比と繰返し回数の関係を示す。図は、液状化時、すなわち軸ひずみ
両振幅が DA=5%に達するのに必要なせん断応力比と繰返し回数の関係を表している。
図より、豊浦砂、4 号硅砂とも、カルサイト析出により曲線が上方に位置し、すなわ
ち液状化抵抗特性が改善されたことが分かる。析出なしの砂で比較すると、豊浦砂、
硅砂 4 号ともにせん断応力比の増加とともにゆるやかに繰返し回数が減少している。
16
一方、析出なしで比較すると、粒径が小さい豊浦砂ではせん断応力比の増加とともに
急激に繰返し回数が増加し、密な砂と同様液状化に対し粘り強い性質が与えられてい
ることが分かるが、粒径が大きい 4 号硅砂では析出なしと同様その変化は緩やかであ
る。これらのことより、粒径の違いにより繰返しせん断に対する液状化特性は、砂粒
径により大きく異なることが分かる。
0.5
豊浦砂 析出なし
豊浦砂 1%析出
硅砂4号 析出なし
硅砂4号 1%析出
DA=5%
せん断応力比 σd/2σ0'
0.4
0.3
0.2
0.1
0
1
5
10
50
100
繰返し回数 N (回)
図 3.11
カルサイト析出の有無および砂の種類が異なる砂の
せん断応力比と繰返し回数の関係(DA=5%)
3) 砂の粒径と液状化強度の関係
図 3.12 に、砂の平均粒径と液状化強度増加率の関係を示す。本研究では、繰返し回
数が N=20 回で軸ひずみ両振幅が DA=5%となる繰返しせん断応力を液状化強度とし、
カルサイトを析出させた砂の液状化強度を析出なしの液状化強度で除して正規化した
値を液状化強度増加率として縦軸で示した。図には、砂質量の 3%のセメントを混ぜた
砂の液状化強度増加率を合わせて示した。
17
図より、砂の平均粒径が大きいほど液状化強度増加率は小さい、すなわち効果が小
さくなる傾向にあることが分かる。また、カルサイト析出による液状化強度増加は、
セメント混合の上方に位置しており、セメント混合と比べ効果的に液状化抵抗特性を
改善することが分かる。
2.5
液状化強度増加率
1%カルサイト析出
3%セメント%混合
2.0
1%カルサイト析出
1.5
3%セメント混合砂
1.0
0
図 3.12
0.2
0.4
砂の平均粒径 D50 (mm)
0.6
砂の平均粒径と液状化強度増加率の関係
4) 液状化後の再圧密による体積圧縮ひずみ
図 3.13、3.14 に、非排水繰返し三軸試験で液状化した砂供試体の再圧密試験結果を
示す。図は、有効圧密圧力が 10kPa 増加するごとに体積圧縮ひずみを計測した結果で
あり、図 3.13 はカルサイト析出なし、図 3.14 は析出ありの砂の結果を示す。
カルサイト析出なしの試験では、圧密初期であるほど体積圧縮ひずみが著しく低下
し、有効圧密圧力の回復とともに曲線が緩やかな傾向を示す。カルサイトを析出させ
た砂では、圧密初期から完全に有効圧密圧力が回復するまで、有効圧密圧力と体積圧
縮ひずみは概ね比例関係にあることが分かる。最終的な体積圧縮ひずみは、カルサイ
ト析出ありでεv=1.3%を示し、カルサイト析出なしの砂のεv=2.6%と比べ半減している
ことが分かる。このことより、カルサイトの析出は液状化後の体積圧縮ひずみを著し
く抑制する効果を有することが明らかとなった。
18
体積圧縮ひずみ εv (%)
0.0
-1.0
-2.0
εv =2.6%
-3.0
0
図 3.13
20
40
60
有効圧密圧力(kPa)
80
100
液状化後の再圧密試験による体積圧縮ひずみ(カルサイト析出なし)
体積圧縮ひずみ εv (%)
0.0
-1.0
εv =1.3%
-2.0
-3.0
0
図 3.14
20
40
60
有効圧密圧力(kPa)
80
100
液状化後の再圧密試験による体積圧縮ひずみ(カルサイト析出あり)
19
4. その他
(1) 研究のま と め
1) ウレアーゼ溶液を広範囲に浸透させる技術の開発
ウレアーゼ試薬の種類と濃度を種々に変え、カルサイト析出速度および反応が収
束する時間について試験を行った。一連の反応試験の結果、反応がほぼ終息するの
に3.0u/mgと性能の低いウレアーゼを混合した溶液では約2時間、130u/mgのウレアー
ゼ溶液では約1時間で反応が収束した。これら反応収束時間に対し、十分に短い時間
でウレアーゼ溶液を目標到達地点まで浸透させることで、広範囲に一様にカルサイ
トを析出させることができると判断される。
2) 試験試料の粒径によるカルサイト析出分布の違いに関する溶液通水・析出実験
ウレアーゼ溶液の浸透範囲のマーカーとなるカルサイト析出分布に着目し、異な
る粒径試料に対するウレアーゼ溶液の浸透・カルサイト析出試験を実施した。その
結果、粒径が小さい試料を利用した試験では、注入口から遠いほど析出量が減少し、
粒径が大きいほど均一に析出することが明らかとなった。
3) カルサイトを析出させた砂の液状化強度改良効果
粒径が異なる砂にカルサイトを析出させ、それぞれの液状化抵抗の改善効果お
よび液状化後の地盤沈下特性の改善効果について、液状化試験と再圧密試験を行
い検討した。その結果、粒径が小さいほどその液状化抵抗の改善効果が大きいこ
と、試料質量の 1%のカルサイト析出で、液状化後の体積圧縮ひずみが半減する
ことが明らかとなった。
(2) 研究の展開
二液注入によるカルサイト析出特性試験では、分布いずれも注入時間は統一している
こと、実験では短時間の注入を行っており酵素であるウレアーゼの失活の影響は極めて
小さいことから、粒子が小さい試料を利用した試験で注入口からの距離とともに析出量
が減少したことに対し、注入に伴うウレアーゼの性質の変化が原因とは考えにくい。こ
れは細かい砂粒子のろ過作用などの物理的作用により注入口から遠いほどウレアーゼ
が減少し、カルサイト析出量が少なくなったと考えられる。一方、ウレアーゼは酵素で
あり化学反応の触媒として作用するため、その量の大小は基本的に生成物質の量に影響
を及ぼさないはずであり、このことは本試験の結果と矛盾する。このような結果となっ
た原因としては、現時点では砂のろ過作用により注入口から遠いほどウレアーゼ濃度が
減少し、同時に式(1)~(6)の反応が極めて遅く進行したためであると考えられ、注入の時
間間隔を延長し、化学反応の時間をより多く確保すればいずれのケースでも均質にカル
サイトが析出した可能性があり、今後さらに検討を進める予定である。
非排水繰返し三軸試験および再圧密試験により、砂の粒径によりカルサイト析出によ
る液状化強度の改良効果に違いがあることが明らかとなった。砂の粒径が大きいほどそ
の効果が小さくなったのは、粒径が大きいため間隙1か所あたりの体積が大きく、繰返
20
しせん断への抵抗に寄与する砂粒子表面のカルサイトが相対的に少なかったことが要
因であると現時点では考えている。試料粒径の違いがカルサイト析出による液状化抵抗
の改善効果に及ぼす影響やそのメカニズムについて、今後は幅広い粒度の土に対しても
検討を進める予定である。また、今後は上で示したいくつかの研究とともに、模型実験
や現場実験を近い将来行っていく考えである。
(3) 技術の展開
二液注入でもカルサイト析出可能であることが実証でき、本研究により既存の地盤注
入技術の流用により実用化可能である道筋ができたと言える。先般の東北地方太平洋沖
地震では、液状化後の著しい地盤沈下とそれによる様々な被害が広範囲に生じており、
液状化後の地盤沈下への対策が極めて重要であることが再認識されている。今回の地震
では建物や構造物直下地盤の液状化による地盤沈下が建物などの沈下と比べ相対的に
大きく、建物の取付部などに大きな被害が生じている。わずか1%の析出で液状化後の
体積圧縮ひずみが半減するカルサイト析出技術は、これらの被害に対しても有効である
ことを本研究で示すことができ、技術展開の加速に繋がったと考えている。
本技術のさらなる進展には、化学反応を進めるためのウレアーゼを安価に調達する技
術が必要不可欠である。この検討を土木分野だけで実施するのは到底不可能であること
から、物質工学など他の学問領域の研究者や企業と連携し、開発を進める考えである。
図 3.15
東北地方太平洋沖地震による液状化で生じた地盤沈下(千葉県浦安市)
21
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