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手関節骨折治療における デジタルC-アームとエコーの

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手関節骨折治療における デジタルC-アームとエコーの
手関節骨折治療における
デジタル C-アームとエコーの有用性
監修 駿河台日本大学病院 整形外科 教授 長岡 正宏
福井県済生会病院 整形外科
医長 山内 大輔
東京都済生会中央病院 整形外科
部長 亀山 真
手関節骨折治療における
デジタル C-アームとエコーの有用性
現在の橈骨遠位端骨折治療の方向性
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
駿河台日本大学病院 整形外科 教授 長岡 正宏
高精細100万画素イメージを用いた
Central Depression 型橈骨遠位端粉砕骨折への挑戦 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
福井県済生会病院 整形外科 医長 山内 大輔
橈骨遠位端骨折の手術治療における超音波検査
(掌側ロッキングプレート固定術後の評価)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
東京都済生会中央病院 整形外科
部長 亀山 真
現在の橈骨遠位端骨折治療の方向性
駿河台日本大学病院 整形外科 教授 長岡 正宏
監修にあたり
橈骨遠位端骨折は高齢化に伴い骨粗鬆症関連骨折のひとつと
これは、このプレートによる特有な合併症ですが、腱を動態観
して増加傾向にあります。治療がうまくいかなかった場合には
察できる超音波検査はその病態を知る有力な武器となります。
高齢者のQOL低下に大いに関与します。患者さんの考え方も変
また、正確な骨折部の解剖学的整復を目指すためにはX線透視
わりつつあり、以前はギプス固定を選択する方が多かったので
装置は必須です。術者の被爆を軽減し、細部まで観察できる装
すが、最近では可及的早期に手の使える観血的治療を希望され
置を使用することによりさらに手術が容易となります。すなわ
る患者さんが増えています。一方、医師サイドからみると、掌
ち、上記に述べたようなインプラント以外の器機の性能向上に
側ロッキングプレートの開発により、手術成績が安定してきた
より橈骨遠位端骨折の治療成績はさらに良好となり、患者さん
ことも手術を選択しやすくなった理由のひとつです。しかし、
への福音となることは間違いないでしょう。今後は、より低侵
掌側ロッキングプレート固定にも数々の解決すべき問題があ
襲手術を行うことのできる手術器械や診断装置の開発が望ま
ります。その一つは術後の合併症としての屈筋腱損傷です。
れます。
1
2
高精細100万画素イメージを用いた
Central Depression型橈骨遠位端粉砕骨折への挑戦
福井県済生会病院 整形外科
医長 山内 大輔
はじめに
近年、橈骨遠位端骨折に対してAngular Stabilityを持った掌側
術中は充分と思われても術後のXPでは不充分な整復しか得られ
ロッキングプレートが用いられ、良好な成績が報告されている。し
ていないことを多く経験し、より鮮明な画像が得られるイメージ
かし、関節内骨折、中でもCentral Depression型骨折の治療成績
を熱望していた。
は不良である。その理由は粉砕した関節面骨片の整復の良否の
我々は平成22年10月から高精細100万画素の描写が可能なGEヘ
判断と、骨片の強固な内固定が難しいからである。患者の受傷機
ルスケア社のイメージ、OEC9900 Elite(以降、OEC9900と記す)
転の多くは高所からの転落による労災事故で、いわゆる働き盛り
が使用できるようになり、Central Depression型橈骨遠位端粉
の男性に多く、早期の社会復帰が求められる。従来の外科用Cア
砕骨折に対してDual Plate固定を行っているので、その手技につ
ーム(以降、イメージと記す)では骨片の鮮明な画像が得られず、
いて報告する。
3
治療を開始するにあたって
手術は、単純な関節外橈骨遠位端骨折であれば腕神経叢ブロ
を出力することである。したがって、通常は視 野の拡大は行わ
ックで行っているが、Central Depression 型は 3-4 時間程度の
ずに9インチ視野下で手術を行うが、関節面の整復を行ったり、
手術時間が見込まれるため全身麻酔で行っている。通常、腕神
軟骨下骨直下にロッキングスクリュー(ピン)を入れたりすると
経叢ブロックも併用し、術後の徐痛にも努めている。体位は仰
きには、第2 段階の 6 インチまで視野を拡大している。
( 9インチ
臥位で、肩関節は 90 度外転する。上 肢は木製(檜)の机に乗せ
I.I.搭載の OEC9900では 9 - 6 - 4.5インチの3段階の視 野拡大が
る。ターニケットを装着して消毒を行う。手術は背側ロッキング
選択できる。)ここで言う視野の拡大とは、いわゆる拡大すれば
プレートと掌側ロッキングプレートの両方を用いて落ち込んだ
するほど画質が劣化するデジタルズームではないので、骨片の
関節面骨片と掌側・背側の骨片を支える方針としている。
視認が容易になる。
この手 術で、イメージに求められる機能は陥没した関節 面骨
掌側を処置する時は尾側に座り、背側を処置するときは頭側に
片、橈骨茎状突起と尺背側のいわゆるDie Punch 骨片などの整
座る。助手は常に術 者と向かい合わせに座ることになる。イメ
復が良好かどうか判断することと、全体的なアライメントが良
ージは上肢と平行に位置させ、術者や助手に邪魔にならないよ
好かどうかを判断するために、ゆがみやハレーションがない像
うにする。
9インチ視野
6インチ視野
4.5インチ視野
OEC9900は9-6-4.5インチの3段階視野を選択できる。通常は拡大は行わずに9インチ視野下で手術を行うが、関節面の整復を行っ
たり、軟骨下骨直下にロッキングスクリュー(ピン)を入れたりするときには、第2段階の6インチ視野まで画像を拡大している。
4
実際の治療
手 術 はまず、掌 側 から行う。Trans-FCR Approachで 進 入し、
あまり含んでおらず、整復が良好な場合は、掌側プレート固定を
方形回内筋を橈側縁で切離して骨折部を展開する。掌側ロッキ
してしまった後に背側プレートで Dorsal Cortical の骨片を押
ングプレートの目的は背側から骨片を押さえ込んだ時に掌側
さえ込んでも良い。
に亜 脱臼しないためのAnatomical Contourを維 持すること
背側のDorsal Cortical の骨片が軟骨を多く含み、背側からも
と、骨片を押さえ込んだ後にロッキングスクリュー(ピン)で軟
圧迫しないと整 復が 保持できない場合は、Dorsal Cortical の
骨下骨を支えることである。プレートを設置して楕円穴に皮質
骨片を戻して、SYNTHES MatrixMANDIBLEのプレートで圧 迫
骨スクリューを挿入し、プレートを仮固定しておく。次に頭側へ
固 定とする。通 常 はBendingした後 に、AO Modular Hand の
移り、背側の展開を行う。第 3コンパートメントの直上に縦切開
2.4mm のスクリューで圧迫固定し、以後、ロッキングスクリュー
を加える。第 3コンパートメントはリスター結節の尺側であるか
を用いている。ロッキングスクリューを使用する理由は掌側プ
ら、ここを指標にする。皮切後、長母指伸筋腱(以下、EPL )を同
レートに干渉してしまい、Bi-Cortical な固定ができないためで
定し、末梢・中枢共にリリースして、後に橈側皮下に移動できる
ある。背側にプレートを当てる場合の肢位は回内位気味になる
ようにしておく。EPLの直下の骨膜にメスで切り込みを入れて尺
ことから、骨片は回内位固定となりやすい。上肢の回旋はなる
側を中心に剥がす。橈骨舟状関節 面は掌背側にSplitしておら
べく、肩関節で行うように留意する。次に、掌側へ戻り、プレー
ず、掌側からだけで固定できることが多いが、粉砕が強い場合
トの位置を再度、調整して末梢のロッキングスクリュー(ピン)
はその限りではない。橈骨月状関節面は Splitしていることが多
固定を行う。最後に、掌側プレートの中枢のスクリュー固定を行
く、リスター結節から尺側に背側プレート固定が必要になる。リ
う。術中は特に関節面の整復とスクリューの位置に気を配る。
スター結節とその尺側の骨片(いわゆる、Dorsal Cortical)を
肘関節を20-30 度 屈曲させた手関節側面像、いわゆる橈骨関
関節包を温存してそっと末梢へめくると、陥没した関節軟骨を
節面撮影像をイメージで確認する。橈骨関節面がきれいに見え
含んだ骨片がある。月状骨に合わせるように整 復して、出来た
る肘屈曲角度はある程度の幅があるので、机と手との距離をデ
間隙を鋭匙でならす。そこにβTCP などのブロックの人工骨を挿
ッキを何枚か重ねることで調節して決めておくと良い。最後に
入する。ブロックは軟らかいため、扱いに注意して割れないよう
側面像で手関節掌屈・背屈を行い、動きを確認する。代表症例
に気をつける。ここで、背側のDorsal Cortical の骨片が軟骨を
を供覧する。
まず、掌側プレート固定を行った後に、押さえ込みたい背側骨片にKWを刺入して、それをガイドにして圧迫固定を行ったCase。
5
代表症例の閲覧
(症例
症例1)
44歳 男 性。高 所 か ら 転 落して 受 傷した。粉 砕 の 強 いCentral
Depression型骨折である。掌側プレートは、Dupuy社製DVRプ
レートを、背側はSYNTHES 社製 MatrixMANDIBLEのプレートを
用いた。本例のみ背側に2 枚のプレート固定を行っている。尺側
の骨片の整復がやや甘いが、関節面の整復は良好である(図1)。
図1a,b. 症例1. 44歳男性、高所から転落して受
傷した、
粉砕の強いCentral Depression
型橈骨遠位端骨折である。
図1c,d,e,CT Scan. 関節面は高度に粉砕している。
図1c
図1a
図1d
図1e
図1b
CT Scan
図1f,g. 術中イメージ像、
関節面の整復は良好である。
図1f
6
図1g
(症例
症例1
2)
57歳男性。高所から転落して受傷した。Central Depression型
骨折である。掌側プレートは、SYNTHES 社製 TCPプレートを、背
側はSYNTHES 社製 MatrixMANDIBLEのプレートを用いた。や
やGapはあるが、関節面の整復は良好である。掌背屈も問題なく
できている(図2)。
図2a.b,c,d,CT Scan. 症例2. 57歳男性、高所から転落して受傷した、粉砕の強いCentral Depression 型橈骨遠位端骨折である。
CT Scanでは関節面は高度に粉砕していることがわかる。
図2c
図2a
図2d
図2b
CT Scan
図2e,f. 術中イメージ像、正面像と側面像、関節面の整復は良好である。
図2i,j. 術直後のXR像、術中イメー
ジとの差はほとんどない。
図2i. 術後一般レントゲン正面像
図2e. 術中正面像
図2f. 術中側面像
図2g,h. 術中イメージ像、
手関節背屈位と掌屈位、
手根骨の動きはなめらかである。
図2j. 術後一般レントゲン側面像
図2g
図2h
7
考察
関節内粉砕骨折、特に橈骨遠位端粉砕骨折に対する手術は難し
流水が必要なことによる問題とイメージの併用が必要なこと
い。スキントラブルの観点から、できるだけ小侵襲な手術が求
から、一般化していない。
OEC9900は従来のイメージ(25万画
められる一方で、正確な整復と早期可動域訓練が行えるだけの
素)に比べて約4倍の画像情報を得ることができ、画像の歪みも
強固な固定性が求められる。近年、様々なサイズや形態のプレ
少ないので、整復位の確認が容易で手術時間の短縮にもつなが
ートが開発され強固な固定性を得るための武器はそろってき
っている。今後もより良い機能改善が得られるように、Central
ている。後は、関節内骨片の正確な整復位が得られるかどうか
Depression型橈骨遠位端粉砕骨折へ挑戦していきたいと考え
である。整復位の確認には、関節鏡を用いた報告も多いが、潅
ている。
OEC9900 Elite
製造販売 GEヘルスケア・ジャパン株式会社
販売名称 OEC9900シリーズ
医療機器認証番号 221ACBZX00018000 号
8
橈骨遠位端骨折の手術治療における超音波検査
(掌側ロッキングプレート固定術後の評価)
東京都済生会中央病院 整形外科
部長 亀山 真
はじめに
一般に骨折の診断は、ほとんどが単純 X 線画像によって下さ
骨遠位端骨折治療で最もトピックとなっている掌側ロッキン
れ、CTやMRIは補助的診断として追加施行されている。しかし
グプレート固定術を取り上げ、本法に対する超音波検査の実
近年、骨折の微細な転位や周囲の軟部組織をリアルタイムに
際を紹介し、その有用性を述べる。今回使用した超音波装置は
高解像度で評価できるツールとして超音波検査が注目され、
GEヘルスケア・ジャパン社製 LOGIQ e Expertである。
骨折の診療に用いる報告が散見されている
1)、2)
。本稿では、橈
9
1. 掌側ロッキングプレート固定術後の長母指屈筋腱損傷
2. 橈骨遠位端掌側の解剖
掌側ロッキングプレート固定術は良好な治療成績が数多く報告
本合併症の理解の一助として、正常の橈骨遠位端掌側の超音波
され、手術治療の第1選択になりつつあるが、近年、術後の長母指
検査所見について述べる。橈骨遠位端掌側面を前額断(短軸スキ
屈筋腱(以下、FPL)損傷の発生が懸念されている。本合併症は、
ャン)で検討すると、方形回内筋で覆われている部分は比較的平
インプラント(プレート、スクリュー)のFPLとの接触、摩擦に起因
坦な形状を呈す
(図1)。一方この位置より遠位は2重の起伏を持っ
すると考えられ、従来は症例報告で散見される程度であった。し
た構造になる。このうち尺測の起伏は月状骨が対向するLunate
かし、
Drobetzらは50例中6例 、多田らは88例中4例 に腱断裂を
Facet、橈側の起伏は舟状骨が対向するScaphoid Facetに相当
する(図2)。
一方、矢状断(長軸スキャン)で検討すると、FPLは、母指の屈伸に
同期するFibrillar Patternを有する構造物として描出され、この
3)
4)
発生したと報告しており、決して看過できない合併症と言える。
レベルでの橈骨遠位掌側縁は、台形形状を呈している。この台形
の上底の近位端が、方形回内筋付着部の遠位端、いわゆるOrbay
の 提唱するWatershed Line( あるいはTransverse Ridge)5)に
相当する(図3)。
橈側
尺側
橈側
尺側
図1. 橈骨遠位端掌側の短軸像
(方形回内筋で覆われている部分)
*:橈骨遠位端掌側の輪郭
(比較的平坦)
PQ:方形回内筋
図2. 橈骨遠位端掌側の短軸像
(方形回内筋より遠位のレベル)
*:Lunate Facet掌側の輪郭 **:Scaphoid Facet掌側の輪郭
10
PQ
3. FPL 損傷の原因
4. プレートの設置状態を単純 X 線画像で評価することの問題点
Orbayは、掌側ロッキングプレート固定術後のFPL 損傷の原因
として、1 プレートを Watershed Line の遠位まで設置、および
2 プレートの橈骨遠位掌側面からのLiftoff、
を挙げている5)。従
ってFPL 損傷防止の観点からは、プレートを Watershed Line の
臨 床の現場では、術 後にインプラントの設置状 態を手関節単
近位に留め、橈骨遠位掌側面の形状に適合させて設置し、矯正
純 X 線画像で判断しているが、これは正確とは言い難い。たとえ
ば、単純 X 線側面像でプレート遠位端( A 点)が橈骨遠位端掌側
縁、すなわちLunate Facet の掌側隆起(B点)に近接して見える
場合、プレートは Watershed Line を超えて遠位へ設置されて
損失を生じることなく骨癒合を得ることが理想である。しかし、
いる可能性が懸念される。しかし遠位アームの橈側が遠位に張
骨折の位置が関節面に近接している場合(遠位骨片の掌側骨皮
り出した構造のプレートでは、側面像でプレート遠位端が橈骨
質の長さが1cm 未満)、スクリューを遠位骨片に刺入するために
遠位 端掌側縁に近接しているように見えても、実際のこれら2
プレートを Watershed Line の遠位まで設置せざるを得ない。
点の位置は離れている。さらに清水らは、FPLの走行する位置が
仮にプレートを Watershed Lineの近位に設置できても、骨折の
Lunate Facet の掌側骨隆起の頂点より10.5±1.2mm 橈側であ
ると述べている6)。すなわち、単純 X 線側面像で描出されるプレー
ト遠位 端やLunate Facet の掌側骨隆起はいずれもFPLの位置
を反映していない(図 4)。
粉砕が強い場合は、術後の骨折部での経時的短縮によりプレー
トの遠位端が Watershed Line の遠位へ突出、あるいは遠位骨
片の背屈転位の再発によるプレートのLiftoffにより、プレートと
FPLは接触を生じ得る。方形回内筋でプレートを被覆できても、
縫合した箇所が手関節の早期運動に伴い離開することもある。
すなわち現実にこれらの不具合事象を骨接合術の施行時点で
予測することは困難である。
図3. 橈骨遠位端掌側の長
軸像
*:Watershed Line
(Transverse Ridge)
FPL
PQ
橈骨
図 4. 単純X線像でプレー
トの設置状 態を評
価することの問題点
1 A 点(プレート遠位端)
とB 点(橈骨遠位掌側
縁)は、側面像では近
接しているが、正面像
では離れている。
2
A点、B点はFPLの位置
を反映していない。
11
5. プレートを設置した状態での超音波検査所見
著者は、FPL 損傷の可能性は、超音波検査の長軸画像で、FPL、
土肥は、健常者30 例のFPLと橈骨遠位掌側縁の最小距離を超音
インプラント、橈骨の3つの構造を一画面でリアルタイムに描出
波検査で測定し、1.2 ∼2.6mm(平均1.94mm)であったと述べ
し評価することが最も合目的であると考えている。橈骨遠位掌
ている8)。この結果によれば、Type1では、プレートが橈骨遠位掌
側縁とプレート表面はいずれも高エコーを呈するが、橈骨遠位
側縁よりさらに深部に位置するためFPLとプレートの接触が生
端は深部が音響陰影による無エコー輝度、プレートは深部が多
じ得ない。従って、腱断裂に至る危険性は極めて少なく、基本的
重反射によるComet Tail Signを示すことで鑑別できる(図5)。
に抜釘の必要性は少ないといえる。一方、Type2はプレートの橈
プレートの設置状態は、プレート掌側縁のFPL に最も近い位置P
骨 遠 位 掌 側 面からのLiftoff、Type3は Watershed Lineより遠
点とWatershed Line の位置を定め、相互の位置関係により以
位への設置に相当し、いずれもFPLとプレートとの接触が生じ得
る。自験例30 例の検討によれば、Type1でのFPLとプレートとの
下の3つのTypeに分類した 。
7)
接触は1例もなく、Type2の 40%、Type3の62.5%にFPLとプレー
・Type1( 近位設置型 ):P点が Watershed Line の近位で、
トとの接触が認められた。さらにType3でFPLとプレートが接触
背側に位置
(超音波検査で Watershed Lineを確認できる)
していた例は、全例 FPLのプレートによる圧排を生じていた7)。従
(図 6)。
って、Type2、3については、FPLとプレートの間の距離を骨癒合
・Type2( 近位 突出型 ):P点が Watershed Line の近位で、
が得られた時期に評価し、FPLとプレートとの接触が疑われた
掌側に位置
(超音波検査で Watershed Lineを確認できる)
場合はプレートの抜去を考慮すべきと考えている。
(図7)。
なお、FPLとプレートとの接触の有無は、短軸画像によっても
・Type3( 遠位設置型 ):P点が Watershed Line を越えて、
評価可能である。しかし、長軸画像ではFPLのプレートからの突
遠 位 に位 置( Watershed Line はプレートの背側 に位 置
き上げ、ロッキングスクリューのBackoutの有無、および動画で
するため、超音波検査で確認できない)。Type3ではプレー
FPLの腱症( Tendinopathy)や滑走状態( 腱癒着の程度など)
トによる圧排を認めることが多い(図 8)。
を判断でき、短軸画像より情報量が多いと考えている。
*自験で使用したインプラント: APTUS(ME System)、
DVR(J&J)、Stellar(日本ユニテッ
Variax(Stryker)、Smartlock(Stryker)、AO/ASIF Distal Radius Plate(Synthes)、
ク)、
TCP(Synthes)、OSR(JMM)
図5. 橈骨遠位端掌側の長軸像
(プレート設置状態)
*:Watershed Line (Transverse Ridge)
FPL
音響陰影( 橈骨遠位端掌側の深部)
Comet Tail Sign(プレートの深部)
12
Type1/2/3 写真、図解
図6. Type1(近位設置型)
:P点が Watershed Lineの近位で、背側に位置(超音波検査でWatershed Lineを確認できる)
FPL
P
FPL
FPL
Watershed Line
P
Watershed Line
:P点が Watershed Lineの近位で、掌側に位置(超音波検査でWatershed Lineを確認できる)
図7. Type2(近位突出型)
FPL
P
FPLFPL
Watershed Line
P
Watershed Line
図8. Type3(遠位設置型)
:P点が Watershed Lineを越えて、遠位に位置(Watershed Lineはプレートの背側に位置するため超音波検査
でWatershed Lineを確認できない)。FPLはプレートによる圧排を認めることが多い。
FPL
P
FPLFPL
Watershed Line
( エコーでは見えない)
P
図 9. 橈骨 遠位 端 背側の Convex 形状(赤線 )
*:Lister結節
図10. 橈骨背側骨皮質を貫通していたスクリュー
(長軸像)
*:スクリュー先端(骨皮質から4mm 突出)
4mm
橈骨背側骨皮質
13
6. 掌側ロッキングプレート固定術後の伸筋腱損傷
橈骨遠位端を走行する伸筋腱は屈筋腱と異なり、骨皮質に接し
骨皮質を貫いている状態、およびスクリュー先端と伸筋腱の接
ているため、掌側ロッキングプレート固定術に用いたスクリュー
触の有無の判断に有用である。Bianchiらは、スクリューの突出
が背側骨皮質を過度に貫いている場合、伸筋腱を損傷する危険
による伸筋腱の障害が、局所的充血、腱鞘炎、部分断裂、完全断
がある。橈骨遠位端背側はLister結節を頂点とする3次元的に
裂の順に重症化するとし、超音波検査はこれらの状態を評価で
複雑なConvex構造のため、単純X線側面像で一見スクリュー先
きるとしている9)。突出したスクリューは超音波画像で先端の位
端の突出がないようにみえても、実際には骨皮質を貫いている
置が高輝度に描出されるが、背側の転位した骨片との鑑別に窮
ことがある(図9)。これに対し超音波検査は、スクリューが背側
する場合があり、注意を要する(図10)。
おわりに
超音波検査で得られる骨の情報はあくまで骨の輪郭であり、
の設置状態を瞬時に評価できることは、骨折治療を安全に進
その内部は音響陰影により詳細を知ることができない。また、
める上で極めて意義が大きい。掌側ロッキングプレート固定術
探触子を的確に検査対象物に当てるには、正確な解剖の知識
は、橈骨遠位端骨折の手術成績を飛躍的に高めたが、現状は術
が必要である。骨折の全体像を知るには、やはり従来通りのX
後の腱損傷が懸念されながらも抜釘についての見解は様々で
線検査が欠かせない。しかし、骨折部周囲組織の評価、特に屈
ある。本骨折治療に対する超音波検査が一般化し、症例の積み
筋腱や伸筋腱の状態(骨、インプラントとの接触、滑走状態)、
重ねにより術後の抜釘に関する指針が確立されることを強く
および手 術で用いられた内固定材料(プレート、スクリュー)
望むものである。
参考文献
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2) 皆川 洋至 : 肋骨骨折診断における単純X線検査と超音波検査の比較. 日整超研誌. 2009;21 : 46-50.
3) Drobetz H, et al : Osteosynthesis of distal radial fractures with a volar locking screw plate system. Int Orthop 2003 ; 27 : 1-6.
4) 多田 薫、他 : Acu-Loc Distal Radius Plate systemを用いて長母指屈筋腱障害を生じた8例. 日手会誌. 2010 ; 26 : 43-46.
5) Orbay J : Volar plate fixation of distal radius fractures. Hand Clin 2005 ; 21 : 347-354.
6) 清水 弘毅、他 : 橈骨遠位端掌側における屈筋腱の走行位置. 日手会誌 2011;27:587-589.
7) 亀山 真、他 : 橈骨遠位端骨折に対する掌側ロッキングプレート固定術後の長母指屈筋腱の超音波検査による検討.骨折(投稿中)
8) 土肥大右 : 超音波検査による橈骨遠位端骨折に対する掌側ロッキングプレート固定術後の長母指屈筋腱損傷の検討. 日手会誌 2010;27 : 70-73.
9) Bianchi S, et al : Screw impingement on the extensor tendons in distal radius fractures treated by volar plating : sonographic appearance.
AJR Am J Roentgenol 2008 ; 191 : W199-W203.
屈筋腱評価を
超音波エ コーで
LOGIQ e Expert
製造販売 GEヘルスケア・ジャパン株式会社
販売名称 汎用超音波画像診断装置LOGIQ e
医療機器認証番号 218ABBZX00060000 号
※LOGIQ e Expertは汎用超音波画像診断装置LOGIQ eの類型です。
記載内容は、お断りなく変更することがありますのでご了承ください。
Rev.1.0 1AB・BK-E1 (KM) Printed in Japan CI A15A2
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