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1 研究の背景と目的 2 先行研究 3 現在の理容業・美容業について
10/11/20 理容所・美容所はなぜつぶれないのか 都市情報研究室 4 年 工藤はるな 指導教員 渡辺俊 1 研究の背景と目的 3 現在の理容業・美容業について 現在郊外における大規模ショッピングモール等により、地 域商店街の存続が危ぶまれている。しかし、なぜかそんな 地域にも、床屋だけはぽつんと営業を行っている。 例えば、土浦駅のモール 505 には 4 ヶ所もの店舗が存在 する。実家の東村山市を歩いていると、半シャッター街化し た商店街でまたもや多数の店を見かける。「シャッター街の 中でもなぜか床屋は残っている」という状況はなぜ生じるの か。これは、従来の空間的・経済的な最適化に基づく施設 立地モデルとは異質であるように思える。そこで、理容所・ 美容所の経営に、客とのなじみや地域との人間的なつなが りが関係しているためでないかと考えた。 周辺地域が衰退しても、外見がどんなに廃れていても、 理容所・美容所所のシャッターは降りない。決して都心の店 のようにカリスマスタイリストがいる訳でもなく、行列ができる 訳でもない郊外の美容所・理容所。これらの店が潰れない 理由を明らかにすることをこの研究の目的とする。 3.1 歴史 日本における理美容所の発祥は、「髪結」として、男性に 関しては室町後期、女性に関しては1760年代である。 開国後明治 4 年の「断髪令」より西洋の文化として輸入さ れた「近代理容業」に変化し、髪結とは一線を画すようにな った。 1957年に、主に女性のために理容師法から美容師法が 独立し、ここで業種として明確に区別された。 その後平成のカラーリングブーム等を経て現在のようにフ ァッションの一部となっている。 3.2 理容と美容の定義 理容:頭髪の刈込み、顔そり等の方法により、容姿を整 えることをいう。 (理容師法第1条の 2) 美容:パーマネント・ウェーブ、結髪、化粧等の方法によ り、容姿を美しくすることをいう。 (美容師法第 2 条) 研究手順は、第一に東京都かの一般的な傾向を把握す るために、国立市の分布を調査する。 第二に「一体誰が利用しているのか」、「どこを利用してい るのか」、「なぜ利用しているのか」を明らかにするために消 費者へアンケートを行う。ここで消費者の傾向、特徴を把握 する。 さらに、経営の観点から理由を把握するため、経営者へ のヒアリングを行い、店の質を把握する。 上記のように、主たる業務により法律上は別の業種として定 義されているものの、内容への制約はなく、ニーズへの対 応のため、現在はお互いの領域を浸食している。 3.3 規制について 理容師法・美容師法 1つの店舗を共用して理容・美容の両方の業務を行うこと は出来ない。 以上の三つの調査を通して、理容所・美容所が営業を祖 継続できる理由、継続している店の特徴を把握し、店の質 と立地の関係性を見出す。 理容師法施行条例・美容師法施行条例 理容・美容師施行条例は都道府県毎に存在し、東京都で は、以下のようになっている。 2 先行研究 現在までに理容所・美容所に限定して立地を研究したも のはない。特定の地域における複数の業種の分布、商業 集積形態などをテーマとした論文は多く存在する。理美容 業に関する研究としては、理美容師の健康状態に関する研 究が存在する。 表1 類似する生活に関連した施設の立地研究では、山本清 龍ら(2000)の「東京都練馬区を事例とする銭湯の立地特 性と空間構成に関する研究」で、銭湯の都市形成における 役割と、地域における銭湯の位置づけについて考察を行 い、銭湯は滞留時間の長い商業施設の中心に位置し、街 並み形成にも重要な役割を果たしていた事を明らかにし た。 なじみや日常生活における行動に関するものとして、北 本勝史ら(2006)は「郊外住宅地における生活施設のなじ みについて」で奈良県生駒市を対象地とし、生活施設の盛 衰を利用者・生活施設・地域の間に育まれる相互関係を 「なじみ」によって記述し、地域生活の良好性をはかる指標 として提案した。 市区町村別居住人数 (人) 用途地域による建築物の用途制限 床面積や階数にもよるが、第一種低層住居専用地域での み開設不可。その他の地域では可能である。 3.4 動向 現在日本全国で、理容所は昭和 61 年の約 14.5 万店を 境に緩やかに減尐中である。美容所は現在に至るまで増 加を続けており、平成20年現在で22万店以上存在する。 両業とも単独店舗の割合が7割を上回り、約 5 割が住宅 地に立地している。 問題として、客の減尐により近年経営が悪化している他、 理容業においては経営者の高齢化や、後継者の不足が懸 念されている。一方で美容業は、ブームによる競合店の出 現で競争が激化し、経営を悩ませている 1 10/11/20 4 理容所・美容所の分布 4.1 東京都の現状 東京都内の理容所・美容所の住民あたりの施設数等を市 区町村毎に調査、比較したところ、理容所に関しては大き な差はないが、美容所に関しては区部の施設数が多く、市 区町村による差が見られた。 そこで、東京都内の典型的な郊外住宅地である国立市を ケーススタディの対象地として取り上げる。 計画された都市として、商業地、住宅地、道路規模の区 分が比較的はっきりしている為場所による分類やりようの傾 向を把握しやすいと考えられる。 「人口1万人あたり」、「面積1k㎡あたり」の施設数に関し て国立市は、東京都平均よりやや尐なく、市部平均の約 1.5 倍であることから、住宅地としては若干競争率の高い地 域と考えられる。 図 1 理容所 4.2 国立市の分布 理容所:42 カ所(図 1) 国立駅からのびる、旭通り・富士見通り沿いの商店街にお ける立地が多いが、比較的分散して立地している.北西部 にまとまって店舗が存在することが、国立市においては美 容所との違いである。 図 2 美容所 美容所:83 カ所(図 2) 3 駅周辺と、そこからのびる道路沿いの商店街に集中して いる。国立駅周辺は、同じビル内に 2 店舗が存在する等競 争の激しい地域である。一方、北部や西部のしの境界線終 焉に立地している店もあるため、店の質が 2 極化している可 能性も考えられる。 男 女 不明 表 2 回収の内訳()内はパーセント 年齢(歳代) 10 20 30 40 50 63 (28) 9 (4) 3 (1) 7 (4) 24 (11) 70 (31) 17 (7) 3 (1) 20 (9) 6 (3) 7 (3) 60~ 2 (1) 0 5 アンケート調査 5.1 対象者の基本属性 対象者 ①東京都立国立高校の生徒、職員 ②東京都立府中西高校の生徒、職員、PTA ③東村山市在住の大学生、社会人 合計 224 人 図 3 市区町村別居住人数 (人) 基本属性の内訳(表 2) 5.2 行きつけ 理容所の利用者(図 4) 主に社会人男性が利用している。利用者数の幅が 1〜4 人と小さいこと、居住地(図 3)の分布と傾向が似ていること が分かる。よって、客の集中や他店舗との競合は尐なく、自 宅周辺の理容が多いと推測できる。 図 4 理容所の利用者数 美容所の利用者(図 5) 主に女性が利用している。居住場所(図 3)の分布と比較 すると、利用者の幅が 0〜16 人と大きく、市部の商業地であ る八王子・立川・武蔵野に理容が集中している。更に 23 区 への進出も見られ、周辺地域の中心となる商業地における 店の利用が多い。 商業地には多くの店舗が競合し様々なサービスを行って いるため、その中から嗜好にあったものを見つけようと行動 する傾向があるのではないか。 図 5 美容所の利用者数 2 10/11/20 表 3 行きつけに関する傾向 〜表記に関して〜 以下文中で下記の表記を用いる。 学生男子:学(男) 社会人男性:社(男) 学生女子:学(女) 社会人女性:社(女) 行きつけの利用傾向(表 3) 大部分があると回答し、社会人は長期的な利用の傾向が ある。学生は進学による変化が予想される。社(女)が最も 特定の店・店員へのこだわりがある。年齢が上がるにつれ て利用場所が定まっていくと考えられる。 5.3 選好理由(複数選択可) 〜選好理由の項目詳細〜 雰囲気:店・店員の雰囲気が良い なじみ:以前からのなじみである 技術:カットやカラーリングの技術が良い 値段:値段が安い 場所:場所が近い なし:特に理由はない —— 理容 —— 美容 図 6 理容・美容 理容・美容の比較(図 6) 理容における「なじみ」の多さが際立つ。これが長期経営 を支えている一因だと考えられる。 男性・女性の比較 全体的にアクセスの良さが重視される。 女性は男性より雰囲気・技術を重視する分、値段・場所の 値が低い。嗜好に合う店の見つけるために値段の許容範 囲・行動範囲の幅が大きくなると考えられる。 —— 学(男) —— 社(男) 図 7 男性 男性(図 7) 学男は比較的こだわりが尐なく場所に特化している。とに かく近い場所にという考えが推測できる。中には「親が行っ ているから」回答も見られたため、利用場所の継承の様なも のが存在するのかもしれない。値段があまり重視されていな いのは、理容の値段が元々低い事も考えられる。 社(男)のなじみの割合が比較的大きく、値段も重視され ているため、最初に安い場所を選択し、その後は惰性で同 じ場所に通い続ける傾向があるのではないか。 —— 学(女) —— 社(女) 女性(図 8)―行きつけの有無― 雰囲気を重視する。特に学(女)は複数の項目の選択が 多く、最もこだわりの多い人種だと言える。 年齢が上がると、場所や値段から技術へのシフトが見ら れ、より自分好みの場所を見つけるために行動範囲が広く なるのではないか。 図 8 女性 学(男) 社(男) 学(女) 5.4 利用場所 社(女) 店舗の最寄施設(図 9) 女の理容範囲が広く、買い物等の駅周辺の割合も比較的 高い。特に社(女)がダイナミックな動きしていると考えられ る。社会人になると女は広く、男は狭くなる傾向がある。 0% 自宅周辺 その他 20% 40% 60% 勤務・通学地周辺 どこにも近くない 80% 100% 娯楽地周辺 図 9 店舗の最寄施設 最寄施設から店舗への移動(図 10) 移動は徒歩と自転車が全体で約 80%を占める。高は自 転車の割合が多く、社会人になると徒歩 o もしくは車へ変更 する傾向がある。自宅周辺とその他を比較すると、自宅を 中心とした行動範囲の方がより狭い。 住宅周辺 その他 0% 〜10分 20% 40% 60% 80% 11〜20分 21〜30分 31分〜 100% 不明 図 10 最寄施設から店舗間での所要時間 3 10/11/20 5.5 コミュニケーション 頻度(図 11) 男の頻度が高く、年齢が上がると更に差が開く。男女間の 差が大きいのは、ヘアスタイルの影響だと考えられる。 学(男) 滞在時間(図 12) 1 時間を境にして性別で大きく差が出る。これは女性がカ ラーリングやトリートメントのサービスを受けるためだと考えら れる。年齢が上がると女性は長く、男性は短くなる。 社(女) 社(男) 学(女) 0% 店員との会話 性別毎にみると社会人の方が話す機会は多い。男性より 女性の方が話すのは滞在時間が長いためだと考えられる。 20% 1ヶ月に1回以上 2ヶ月に1回 4〜5ヶ月に1回 半年以上に1回 80% 100% 3ヶ月に1回 学(男) 社(男) 単価を比較すると美容所が高いが、理容所のセット価格 が 4000 円前後と、美容所のカット料金と同等であることも経 営継続の理由の一つと考えられる。 学(女) 社(女) 0% 20% 〜1時間 6 消費者の利用傾向のまとめ 40% 60% 1〜1.5時間 80% 1.5〜2時間 100% 2時間~ 図 12 滞在時間 学生男子 主な利用範囲は住宅周辺(図 14) 行きつけがある人の割合が比較的尐ない 進学による行動範囲の変化が影響している 場所と値段を優先 特定店舗への影響は小さいのではないか 理容所 美容所 0% 1000円未満 4000円台 社会人男性 60% 図 11 頻度 5.6 支払額(図 13) 40% 主な範囲が狭い(図 15) 近場で値段を基準に選定し惰性で通い続ける? 行きつけの理容所をかなりの長期間利用する 技術は気にせず、なじみ・場所・値段を重視 短時間だが、頻度が高い 支払額は高くて 4000 円 住宅地の理容所の主客層 20% 40% 1000円台 5000円以上 60% 2000円台 セット 80% 100% 3000円台 図 13 支払額 30 分 尐ない 娯楽施設 遊び場 10 分 多い 20 分 15 分 自宅 自宅 娯楽施設 勤務地 学生女子 住宅周辺お利用がやや多く、比較的広範囲(図 16) 美容所の行きつけを持つ人が多い 進学による利用範囲の変化が推測される 近場の商業地の店舗を利用する傾向 値段・場所・雰囲気重視 頻度は低いが、稀に縮毛矯正等の高額支払い 各地域の駅前の店舗に影響を及ぼしている? 図 14 学生男子 図 18 社会人男性 30 分 20 分 15 分 自宅 娯楽施設 遊び場 自宅 20 分 娯楽施設 勤務地 社会人女性 自分の嗜好のために移動を惜しまない(図 17) 美容所の行きつけを持つ人がほとんど 長期間・長時間利用 店員とのコミュニケーションが深くなる 5000 円以上の高額支払が半数 比較的大きな商業集積地の店舗の影響? 図 16 学生女子 図 17 社会人女性 参考文献 厚生労働省健康局生活衛生課 平成 17 年生活衛生関係営業経営実態調査理容業・美容業 厚生労働省健康局生活衛生課 H21 年生活衛生関係営業経営実態調査 総務省統計局 H18 年事業所・企業統計調査 東京都 東村山市公式 HP 衛生関係施設数 http://www.city.higashimurayama.tokyo.jp/index.htm 7 今後の予定 アンケートによる利用傾向をふまえ、経営者側にヒアリン グを行う。 理容所・美容所各々に対し立地場所を住宅地・商業地に 分け、4 種類の分類で各々の特徴をつかむ。 全国理容生活衛生同業組合連合会 http://www.riyo.or.jp/ 4 10/11/20 5