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「素敵な私をありがとう」(T.Y.) 私がセールスを始 めたのは 今か ら二

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「素敵な私をありがとう」(T.Y.) 私がセールスを始 めたのは 今か ら二
「素敵な私をありがとう」
(T.Y.
)
私 が セ ー ル ス を 始 め た の は 今 か ら 二 十 一年 前 の 事 。 二 十 才 で 結 婚 し 、 三 年 の 月 日
が流れていた。一才の娘の育児が思うようにいかず、毎日がイライラの連続だった。
自 分 の 嫌 な 性 格 を 棚 に 上 げ 、 あ の 人 の こ う い う 所 が 嫌 い 、 こ の 人 のこ う い う 性 格 が
許 せ な い な ど と 人 を 毛 嫌 い し 、 誰と も 上 手 く 付 き 合 う 事 が 出 来 な か った 。 そ し て い
つも子供と二人ポツンとしていた。私がそんなふうだから主人の浮気が続き、相談
す る 人 も な く 、 た だ 死 に た い と そ れ ば か り を 思 って い た 。 そ ん な 時 「 一 緒 に 仕 事 を
して みません か?」と 誘われ た のが、 化 粧品の セ ー ルス 。こ んな 性 格の私 が 見 ず 知
らずの方のお宅に行って話をするなんて、絶対出来っこないと一度はお断りしたも
のの、このままでは私はおかしくなってしまう。何でもいいから今の生活から脱け
出したいという思いで、思いきってセールスをやってみる事にした。
それからの毎日は、自分でも褒めてあげたいくらい働いた。夫が外で何をしてい
ようと気にするな。子供と仕事の事だけ考えていればいいんだと自分にいいきかせ、
今 ま で 溜 ま って い た も の が 爆 発 した か の よ う に 働 い た 。 夢 の 中 ま で 仕 事 が 出 て く る
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毎 日 。疲労と 神経の使い過ぎで 体重は落ち 、胃 は 常に痛む ようにな ったが 、 今まで
の一人っきりで悶々としていた日々とは全く違う充実した心地好い疲れだった。お
客 様 の所から の帰り 道 、ひど い 暴風雨 に 見舞わ れ 、ずぶ 濡 れで 帰 っ た私を 、 すで に
仕事を終えて帰っていた仲間が心配し、タオルを持ってお店の前で待っていてくれ
たあの日。所長さんの家に仲間全員子連れでおじゃまし、バーベキューをして大騒
ぎをしたあの日。辛いのはみんな一緒。仕事でどんなに嫌な事があっても同じ苦労
をしている仲間がいたから頑張れた。
そして、二年、三年と月日が経ち、良いお客様に沢山出会う事が出来た。
「おいしいカレーライス作ったからお昼食べて行ってね」
「旅行に行ってきたの。これお土産ね」
「主人が浮気していてどうしていいかわからないの」
楽 しい 会 話 の中 に も 、ご 主 人 と の 辛 く 苦 し い 胸 の 内 を 打 ち 明 け て 下 さ る お 客 様 も
いた。私なんかにこんな大事な話をしてしまっていいのかしらと、戸惑いながらも
お客様の辛い気持ちが良くわかり、一緒になって涙を流す事もあった。いろいろな
お 客 様 と 取 り 留 め の な い 話 を し 、 泣 い た り 笑 っ た り しな が ら 私 は ど ん ど ん 、 ど ん ど
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ん“人”が好きになっていった。この仕事をずっと続けよう。このお客様達と一生
お 友 達 で い よ う と 思 って い た の に 、 人 生 は ま ま に な ら な い も の で 、 急 に 田 舎 に 家 を
建て引っ越す事になってしまった。
「辞めないで、行かないで」と何人ものお客様が、いいえ、お友達が言って下さっ
た 時 は 、 あ り が た さ と 淋 し さ で 涙 が と ま ら な か っ た 。 本 当 にあ の 時 は お客 様 に 申 し
訳ない事をしたと今でも思っている。
そして頭に白いものがポツリポツリと見え始めてきた今、社訓の「出来ないのは
や ら な い か ら で あ り 、 努 力と 信 念 が 足 ら な い か ら で あ る 」 は 、 今 で も 私 の 人 生 の 教
訓となっている。心の奥底まで何でも話せる友達にも恵まれ、三人の子供たちも素
直にのびのびと成長してくれた。すっかり親離れをしてしまった子供達を遠くから
眺め、今、夫と幸せに暮らしている。もしあの時、セールスの仕事の誘いを断って、
あの暗い性格のまま子育てをしていたら・・・・・と思っただけでゾッとする。生
きてきて良かった。こんなに楽しい事が沢山あるんだもの。テレビ等で“自殺”の
言葉を耳にした時、
「死んじゃ駄目!死ぬ気があるなら思いきって今の生活を変えてしまいなさい!生
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きていれば必ずいい事があるから!」
と私は心の中で叫んでいる。そう、死んではいけないんだ。
「ねぇ、お母さん、今の自分をどう思う?」
娘が突拍子もない事を聞いてきた。
「今の私?もちろん大好きよ!」
あの辛く、苦しく、楽しかった四年間のセールス時代よ、
私を救ってくれてありがとう!
素敵な私を作ってくれてありがとう!
【平成八年度・優秀賞】
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