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GE today -In Technology
CINE Phase-Contrast MRIを用いた
ヒト脳動脈瘤インビボ血流解析
浜松医科大学 放射線科
礒田治夫 先生 竹田浩康 先生 山下修平 先生 竹原康雄 先生 稲川正一 先生 阪原晴海 先生
株式会社アールテック
GE 横河メディカルシステム株式会社 画像応用技術センター
大倉靖栄 様 小杉隆司 様 平野勝也
なぜ脳動脈瘤の血流解析なのか?
なぜ脳動脈瘤の血管壁剪断応力なのか?
近年の磁気共鳴血管撮影(MRA)の進歩で径 3mm 以上の脳動脈
血管壁剪断応力
dv
=(粘度)・
dx
瘤は低侵襲的に容易にかつ正確に診断される。一方、将来破裂し
ない未破裂脳動脈瘤が多数あり、破裂を防ぐための予防的治療に
dv
=剪断速度
dx
dv
dx
dx
dx
dv
dv
伴うリスクが脳動脈瘤破裂のリスクを上回る場合もある。しかし、
将来破裂する脳動脈瘤の患者が治療を受けずクモ膜下出血をきた
すと約 50%は死亡する。年間のクモ膜下出血の患者は 3 万人程度
であるので、約 1 万 5 千人は死亡し、そのクモ膜下出血の原因の約
80%は脳動脈瘤破裂である。従って、将来破裂する可能性が高い
dv =血管壁に沿った流速
dx =血管壁から上記流速
測定部位までの距離
図 1 :血管壁剪断応力
脳動脈瘤を選んで治療すべきであるが、どの脳動脈瘤が将来破裂
するかは十分に分かっていない。このため、どの脳動脈瘤が将来
cine phase contrast MRI (3D cine PC MRI)のことである。x、y、
破裂するかを推定できる方法の確立が臨床的に求められている。
z 方向に各々位相エンコードを行う retrospective ECG gating の 2D
著者らはこの問題を解決するために研究を続けてきた。
cine PC MRI を三次元化したもので、2D cine PC MRI にスライス方
粥状動脈硬化症は内頸動脈起始部背側部などの血管壁剪断応力
向のエンコードが付加されている。リファレンスのエンコードと 3
が低い部位、脳動脈瘤は内頸動脈後交通動脈分岐部・前交通動
軸方向の速度エンコードを合わせた時間の 4TR が、撮影の最小単
脈・中大脳動脈分岐部などの強い血流が衝突する部位、解離性大
位である。撮影時間を短縮するために TR を 6ms 程度と短くすると
動脈瘤は頚部大血管起始部などの強い血流が衝突する部位に発生
共に、スライス方向のデータを一度に 4 つずつ取得する。この場
する。このように血管病変に好発部位があることから血管病変の
合の時間分解能は 4x4TR となる 5)。最近は parallel imaging を併用
発生や進行に血流動態、特に血管壁剪断応力が大きな役割を果た
することで、更に撮影時間が短くなり、原法の 1 / 2 程度の撮影時
すと考えられてきた。最近では、血管内皮の機能を保つには適切
間が可能となった。心拍数にも依存するが、頭部では FOV =
な血管壁剪断応力(> 1.5 Pa)が必要であり、低い剪断応力(<
160 × 160 × 32(mm)、Matrix = 160 × 160 × 16(スライス ZIP
0.4 Pa)で動脈硬化が生じると言われる 。脳動脈瘤発生には回転
で 160 × 160 × 32)、Voxel size = 1 × 1 × 1.6 mm(ZIP 後は 1 ×
する低い剪断応力の関与 2)、高い剪断応力の関与 3)を示唆する報告
1 × 0.8 mm)で撮影時間は 10 ー 15 分程度である。現在、1 心拍で
がある。脳動脈瘤のブレブの将来の発生、動脈瘤の増大や破裂に
20 フェーズのデータを得ている。この撮像法により経時的三次元
は高い剪断応力の関与 と弱い剪断応力の関与 の報告があるが、
画像としてマグニチュード画像と x、y、z 方向に各々 velocity
後者を示唆する論文が最近は多い。弱い剪断応力による内皮の変
encoding(VENC)を行った 3 つの流速画像が得られる。このため、
性やアポトーシスが疑われる。このため、正確な血管壁剪断応力
各ボクセルに速度 3 成分の血流情報を持つ経時的三次元画像(空
分布が分かれば、将来の脳動脈瘤発生の推定・予防、脳動脈瘤の
間三次元と時間の四次元)のデータが得られ、4D-Flow と呼ばれ
予後推定や治療方針決定に役立つと推定される。
ている。
1)
4)
3)
血管壁剪断応力とは血管壁面に沿って流れる粘稠な血液によっ
スタンフォード大学の原法では Cine PC MRI の流速データを流体
て引き起こされる摩擦力である。これは血管壁からの微小距離 dx
解析の汎用ソフトである EnSight ○ で処理し、2 次元ベクトル図、3
における血管壁に沿う速度成分 dv の比(剪断速度: dv/dx)と粘
次元流線図、3 次元流跡線などの描画が可能である 5)6)7)。
度の積で求められる(図 1)1)。このため高時間分解能、高空間分
解能の血流解析を行い、血管壁近傍の血流動態を正確に求める必
4D-Flowによる脳動脈瘤の血流動態解析
要がある。そこで著者らが注目したのがスタンフォード大学で開
上記の EnSight ○ を用いた 4D-Flow の後処理では残念ながら血管
発された Time-Resolved Three-Dimensional Phase-Contrast MRI
壁剪断応力を容易に求めることができない。そこで浜松医科大学
(4D-Flow)である 。
5)
4D-Flowとは
4D-Flow とはスタンフォード大学で開発された MR 撮像法であ
り、Time-Resolved Three-Dimensional Phase-Contrast MRI、3D
29
R
GE today May 2007
R
放射線科と(株)
アールテックは 4D-Flow のデータを処理し、血流
を可視化すると共に血管壁剪断応力を求める解析ソフトウェア
Flow visualization and analysis(Flova)を共同開発してきた。
データ処理の概要は次の通りである。4D-Flow の信号強度画像、
流速画像を DICOM データとして外部パーソナルコンピュータに読
図 2 :左中大脳動脈分岐部動脈瘤を持つ 60 歳代男性の頭部 3D TOF MRA
径約 6mm の動脈瘤が認められる(矢印)
図 4 : ECG の R 波から 241 ミリ秒後より生成した 3 次元流跡線図
241 ミリ秒後から 241.012 秒までの血流の動きがレジェンドの色の違いで
表されている。橙色の楕円は流跡線を発生させるクリップの辺縁を示す。
図 3 : ECG の R 波から 294 ミリ秒後の 3 次元流線図
矢印を頂点とする螺旋流が認められる
図 5 : ECG の R 波から 187 ミリ秒後の血管壁剪断速度図
み込む。このデータに関心領域を設定し、データを抽出するとと
を描け、色が速度を示す。任意方向から経時的に血流動態を観察
もに任意の空間分解能で速度情報を補間する。これにより、任意
可能である。この流線図でこの動脈瘤内には一つの螺旋流ないし
の関心領域内の任意の空間分解能を持つ各ボクセルは経時的な速
渦流が存在し、この頂点付近(矢印)の血流速度が低いことが分
度 3 成分の血流情報を持つ。血管壁は 3D TOF MRA の信号強度を
かる。
利用して Marching-Cube 法や Region growing 法などにより生成す
図 5 の矢印で示された螺旋流頂点付近では剪断速度が低いことが分かる。
任意フェーズにおける血管構造を横切る任意断面(クリップ)
る。3D TOF MRA は 4D-Flow と同様な FOV とマトリックスでデー
からルンゲクッタ法により 3 次元流跡線図(図 4)を生成する。こ
タ収集を行っておく必要がある。これらを基に脳動脈瘤の流線図、
れは経時的に変化する速度ベクトルの環境に質量のない粒子を置
血管壁剪断速度、血管壁剪断応力分布図などを作成できる。
いた場合、この粒子が描く経路である。粒子を発生させる場所と
脳動脈瘤における血管壁剪断応力、
血流動態解析の意義
左中大脳動脈瘤(図 2)の症例について 4D-Flow による血流解析
結果を紹介する。
血管構造を横切る任意断面(クリップ)からルンゲクッタ法に
時刻により得られる流跡線図が変わる。図 4 では心電図 R 波から
241 ミリ秒より 241.012 ミリ秒の間の血流経路をレジェンドの色
で示している。渦流のあることが分かる。これは任意の方向から
観察できる。
血管壁剪断速度図(図 5)は図 1 の dv / dx に相当する量を示し
ている。血管壁剪断速度を経時的に観察することにより壁面近傍
より三次元流線図(図 3)を生成する。これはある時刻における速
速度ベクトルの様子が分かり、周期的に回転するか否かも分かる。
度ベクトルを連続した曲線である。白質線維束を描出する Trac-
提示例でも経時的に観察すると渦流頂点で小さな回転するベクト
tography を生成するのと同様の手法である。フェーズ毎に流線図
ルが観察される。
30
図 1 で示すように上記の血管壁剪断速度を接平面に投影した成
分に粘度を乗じたものが血管壁剪断応力で、血管壁面に沿って流
れる粘稠な血液によって引き起こされる摩擦力である。これを図
示したのが、血管壁剪断応力図(図 6)である。全体や局所の時間
平均の解析により、本症例では血管壁・動脈瘤全体・動脈瘤螺旋
流頂点の剪断応力は各々、4.38Pa、2.01Pa、1.63Pa となり、螺旋
流頂点で低い。他の脳動脈瘤でも同様な所見が認められている。
また、グラフで示したように螺旋流頂点では経時的な変化がある。
このように脳動脈瘤には少なくとも 1 つの螺旋流が認められ(図
3)、螺旋流の頂点付近の血流が遅く、壁剪断応力は低く、経時的
な変動が疑われる(図 6)。上記の血管壁剪断速度で示したように
周期的な弱い回転力が働いている可能性がある。これらに応じて
内皮細胞に様々な生物学的反応を生じ、ブレブが生じることなど
が推定される。今後、さらに検討したいと考えている。
4D-Flowから得られるその他の情報
血管構造を横切る断面(クリップ)を任意に設定でき、この断
面の各点のベクトルを経時的に表示する 2 次元ベクトル図も有用
である(図 7)。矢線の長さや色が速度を示す。この情報を基にし
て、断面平均の 1 心拍の経時的な流速変化や流量変化を計算でき
る。撮影範囲内の脳血管の任意断面を計測可能である。
2D cine PC MRI のデータを連続的に撮影し、ボクセル毎に速度 3
成分の血流情報を持つ経時的三次元画像(空間三次元と時間の四
次元)のデータと共に、血管形態の情報も合わせて得れば、同様
に処理できる。頸動脈分岐部の例を示す(図 8)。ただし 4D-Flow
と比べて撮影時間は長く、空間分解能も 4D-Flow には及ばない。
4D-Flowと後処理の問題点と今後の展望
我々の現在の試みは MRI によるインビボ血流解析、血管壁剪断
応力計測という領域のほんの入り口に位置していると考えられる。
今後さらに研究が発展していくものと思われる。現在直面してい
る問題点を下記に記す。
補間を行う前の本法における現在の空間分解能は 1 × 1 × 1mm
∼ 1 × 1 × 1.6mm である。この分解能においても層流のような単
純な流れの剪断応力は理論値に一致することを確認している。し
かし、複雑なモデルを用いた計算流体力学(CFD)を基にして考
えると 0.2mm 以下の空間分解能のデータを用いなければ、真の血
管壁剪断応力は求められないと推定される。これを臨床に応用で
きる撮影時間内に達成するにはさらなる高磁場化、コイル改良、
撮影シークエンス改良が必要と思われる。正確な血管壁剪断応力
を直接求めるためのハードルはかなり高いが、過去の MR 技術の
進歩を顧みると明確な目標やゴールがあれば必ず達成されている
ことから、この高分解能化も近い将来達成されると思われる。
血管壁剪断応力を求める場合のもう一つの重要な因子は血管壁
の位置である。正確な血管壁の位置を知るには高空間分解能であ
ることと血管と周囲組織とのコントラストが高い必要があり、こ
図 6 : ECG の R 波から 187 ミリ秒後の血管壁剪断応力図
上:螺旋流頂点の剪断応力は低い(矢印)
中:グラフは動脈瘤全体の経時的剪断応力を示す
下:グラフは螺旋流頂点の経時的剪断応力を示す。経時的に変動していることが観察
される
れにより血管内外の判別が容易で良好なセグメンテーションが行
える。上記の高分解能化に造影剤を用いることなどが必要である。
また、血管壁を抽出する方法としては Marching-Cube 法、Region
growing 法、Level set 法などがあるが、設定条件や閾値による壁
の位置の移動がある。セグメンテーションに関する現在の潮流は
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Level set 法であり、我々もこの方法を検討している。
PC MRI の根本的な問題点としては VENC が一律にしか設定でき
ないことがある。VENC を大きく設定すると遅い流速はノイズレ
ベルになり、描出が不良となる。一方、VENC を小さく設定する
と遅い流速の描出は良好となるが、速い流速は折り返してしまう。
このため、遅い流速と早い流速が混在する場合は設定が難しい。
脳動脈瘤の血流解析のため、60cm / sec と設定しているが、親動
脈はデータが折り返っている。脳血流全体を良好に観察するには
頭部では VENC を 100cm / s 程度に設定する必要がある。低い
VENC を用いた場合、折り返ったデータを良好に修正できるアル
ゴリズムの開発などが必要であろう。
まとめ
4D-Flow とこれを解析するソフトを用いたインビボ脳動脈瘤血
流解析の研究を紹介した。今後この領域の研究が進み、これによ
図 7 : 2 次元ベクトル図
親動脈に設定したクリップから発生した速度ベクトル(ECG の R 波から 133 ミリ秒後)が観察さ
れる。経時的な断面平均流速グラフも重ねて示す。
り将来の脳動脈瘤発生の推定・予防、脳動脈瘤の予後推定や治療
方針決定に役立つことを期待したい。また、本法は他部位の血管
への応用も可能であり、そちらの研究も進められている。
謝辞:本研究に用いたソフト開発は独立行政法人情報処理推進機
構(IPA)の資金援助を得た。
GE today
参考文献
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4)Hassan T, Timofeev EV, Saito T, et al. Computational replicas: anatomic
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5)Markl M, Chan FP, Alley MT, et al. Time-resolved three-dimensional phase-contrast
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図 8 :頸動脈分岐部の 2D cine PC MRI のデータに基づいた解析
6)Isoda H, Hirano M, Takeda H, et al. Visualization of hemodynamics in a silicon
左:図 8a は ECG の R 波から144 ミリ秒後の 2 次元ベクトル図。
右:図 8b は ECG の R 波から144 ミリ秒後の 3 次元流線図。
内頸動脈起始部背側で流れの剥離が観察される。
aneurysm model using time-resolved, 3D, phase-contrast MRI. AJNR Am J Neuroradiol 2006;27:1119-1122
7)Yamashita S, Isoda H, Hirano M, et al. Visualization of hemodynamics in intracranial arteries using time-resolved three-dimensional phase-contrast MRI. J Magn Reson
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