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実り多いポスターセッションのために

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実り多いポスターセッションのために
実り多いポスターセッションのために
目
次
□はじめに
□ポスター・セッション――真剣かつカジュアルに―― 竹越美奈子(愛知東邦大学)
□ポスターセッションの体験
張志凌
□ポスターセッションの特徴
□参考資料 ポスター(横置き)例
日本中国語学会大会運営委員会
2011 年 4 月
1
(東京外国語大学)
はじめに
本学会の全国大会において、ポスターセッションが設けられたのは 2 年前で、今年度は
導入後 3 年目にあたります。
徐々に定着しつつある段階ではあるのですが、
会員の中には、
まだまだ、なじみのない方がおられるかもしれません。そこで、
「そもそも、ポスターセッ
ションとは、どういうものであるのか」を、より多くの方々に理解していただきたく、こ
のたび、
『実り多いポスターセッションのために』
というパンフレットを作成いたしました。
このセッションの更なる発展と充実を期して、お二人の会員に寄稿を依頼しました。
竹越美奈子会員は、海外学会での経験をふまえて、これまでにも学会活動の活性化のた
めに貴重な提言をしておられますが、今回はさらに具体的なアドバイスも含んだ一文を寄
せていただきました。
張志凌会員は、昨年の全国大会の準備段階から、分科会での口頭発表との違いを意識し
た工夫をされたことや、当日の議論から有益なヒントを得たとの報告をいただきました。
竹越会員も参考文献としてあげておられる『ポスター発表はチャンスの宝庫!』
(今泉美
佳著 羊土社 2003 年)に基づき、ポスターセッションの特徴を簡単に整理しておきまし
た。分科会での口頭発表と比較しながら、参考にしていただければ幸いです。全国大会の
発表申込の時点で、ポスターセッションと分科会の二者を、第一希望、第二希望という順
位をつけて応募することができます。
ここにあげたポスターセッションの特徴をふまえて、
奮ってご応募ください。
最後に、横置き型のポスター例を、掲載いたします(サンプルは英語ですが,実際には日
本語または中国語を使用することになります)。ポスター自体の完成度の高さが、大変参考
になり、
レイアウト上の工夫が重要であることにもお気づきいただけると思います。今回、
転載を快諾された儀利古幹雄、竹安大の両氏に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
大会運営委員会
2
ポスター・セッション
――真剣かつカジュアルに――
竹越美奈子
(愛知東邦大学)
日本中国語学会がポスター・セッションを初めて採用したのは、2009 年の第 59 回全国
大会(北海道大学)のことである。ポスター・セッション導入の理由のひとつが、増加す
る発表希望者に対応するためであることは否めない。これ以上分科会を増やすことは日程
や運営の都合上難しいし、発表数を制限するのも学問の発展という会議の趣旨から好まし
くない。ポスター発表なら、一度に多くの人に発表の機会を提供できるし、全体の発表件
数も増えて学会として充実したものになるというわけだ。しかしながら、ポスター発表に
はこのような主催者側の事情によるいわばネガティヴな理由だけではなく、以下のように、
発表をする人と発表を見る人の双方にとって有益な、ポジティヴな存在意義がある。
1.関心のある発表を見ることができる
これは当然だと思うかもしれないが、従来の分科会形式だと、他の発表や、司会その他
の用事と重なって聞きたい発表が聞けないということが意外に多い。ポスター発表は、時
間に比較的余裕があるため、関心のある発表だけを重点的に見て回ることも可能だ。発表
者にとっても、この人に見てもらいたい、という人がいたら、
「○○のテーマでポスターを
やっていますので、よろしければ見にいらして下さい」というように、さりげなく宣伝を
しておくとよい。そう言われていやな気持ちになる人はいないので、たとえ面識がなくて
も遠慮しないで宣伝したほうがよい。また、分科会には来てくれないような異分野の研究
者から思いがけず貴重な情報や示唆をもらえることもある。そうやって人脈や視野を広げ
る場にもなる。
2.じっくりと議論ができる
分科会形式だと時間の制約があるし、聴衆も多いので、質問の数が限られる。発表者に
してみれば、もっと多くの人の意見が聞きたいと思っても、おとなしい人や謙虚な人はそ
ういう場では黙っていることも多く、個人的に話したくても終わるとすぐに次の分科会に
移動してしまうので時間がない。学会が終わってからメールで感想を寄せてくれる親切な
人もいるにはいるが、やはりその場で話すに越したことはない。その点、ポスターならば、
大勢の前では聞きにくいような個人的な質問、素朴な感想なども遠慮なく伝えることがで
きるし、納得がいくまで議論ができる。ごまかしやはったりは効かない。発表者から見に
来てくれた人に意見や感想を求めることも可能だ。ポスターの前で、3~4人で議論が展
開されることもあり、これも分科会では得られない貴重な機会となる。
3
3.準備の過程で研究が深まる
実際に経験すればわかることだが、ポスターの作成には相当な時間がかかる。これは、
後に紹介する参考書では、ポスター発表の短所として挙げられているが、筆者はむしろ長
所ととらえたい。時間がかかる、ということは逆にいえば、展示されたポスターには、発
表者の努力や研究がそのまま現われるということである。そして準備に時間をかけること
で、自らの研究は深まっていく。本番で緊張するタイプの人でも、ポスターさえ丁寧に作
ってあれば、伝えたいことを伝えることができるので安心である。
短所というか、難しいと思うのは、コミュニケーションのとりかたである。ポスターを
見に来る人の中には、
「説明してください。」という人もいれば、まず一通りポスターを見
てから疑問点を質問したいという人もいるので、臨機応変に対応しなければならない。ま
た見る方も、人が少ないポスターの前で発表者と目が合うと、客のいない店に入ってしま
った時のような気まずさを感じる。そういう意味で、会場は少し雑然としていて、コーヒ
ー片手に気軽に立ち寄れるような雰囲気でよいかと思う。
ポスター発表の詳細については、今泉美佳著『ポスター発表はチャンスの宝庫!』
(羊土
社、2003 年)が大変参考になる。何度読んでも準備や計画の立て方から実際の製作、当日
の持ち物リスト、ポスターの良い例と悪い例までのっていて、敬服する。ポスターに限ら
ず、すべての口頭発表と学会参加の基本をカバーする良書である。
(それとともに、理系の
研究室ではここまで入念に準備しているのかと、自らの甘さを認識する。)もし補足すると
すれば、まず、ポスターの形状について、同書では A4~A3 判を用いたポスターと大判(A0、
B0)ポスターのそれぞれの長所と短所を比較したうえで、A3~A4 判を用いたポスター製
作を実例として取り上げているが、本書が書かれた 2003 年と現在を比べると大判ポスタ
ーの印刷コストは低下傾向にあるので、この点も考慮してどちらを選ぶかを決めるのがよ
いだろう。また、本書ではふれていないが、当日のポスターの前でのプレゼンテーション
は、誰が聞いてもわかる一般的な説明と専門分野の近い人向けの説明の最低二種類は用意
しておくのが無難である。実際にはいろいろな人がポスター・セッションを訪れる。なん
となく通りがかったという人もいれば、専門分野や関心が近く、結論から話し始めてよい
場合もある。ポスター・セッションにおけるプレゼンテーションのしかたについては、
C.S.Langham 著『国際学会 English 挨拶・口演・発表・質問・座長進行~English for oral
and poster presentations~』
(医歯薬出版株式会社、2007 年)の Part8: English for poster
presentations で 24 項目に渡って取り上げられている。英語の表現が中心だが、他の言語
でも話すべき内容は同じはずである。
以上をまとめると、ポスター・セッションとは、発表者が自らの研究をすべて出し切っ
たポスターの前で、納得のいくまで本質的な議論ができる真剣勝負の場、ということにな
る。と書くとなんかすごく緊張するが、それとコーヒー片手にというカジュアルな雰囲気
とはもちろん両立可能だ。
4
ポスターセッションの体験
張志凌
(東京外国語大学)
2010 年 11 月、神奈川大学で行われた日本中国語学会第 60 回全国大会にて、ポスター
発表をさせて頂きました。発表のテーマは「内部移動表現の中日対照研究―<~进>と「~
こむ」を中心に」です。当日の発表では、皆様から様々なご意見及びコメント等を頂き、
大変有り難く感じております。
まず、ポスターの作成について、できる限り分かりやすく伝えられるように心掛けまし
た。簡潔に発表内容を纏めるのは勿論のこと、一目で内容が分かるよう、表の形で提示し
ました。文章ですと、読むのに時間がかかってしまうため、表の形にすることによって、
口頭で様々な情報をお伝えする時間を得ることができました。特に対照研究の場合は、表
のように整理すると、両言語の差異が更に明確になります。また、最も強調したい箇所は
色を変える、太字にする等、見てくださっている方々の視覚に訴えられるよう工夫しまし
た。
また、ポスター発表は口頭発表より、あまり時間にとらわれることなく、発表者と参会
者がゆっくりと交流できるというメリットがあります。このメリットを最大限利用するた
めに、来場者との対話の時間を有効に利用し、皆様と交流する時間をできる限り多く持つ
ことが重要です。参会者が少ない場合は、研究内容を網羅的に紹介しましたが、一度に多
くの方が見に来て下さった場合、論点を簡潔に、或いは最も伝えたい箇所を紹介して、皆
様からの質問に答えるとともに、自らの意見を伝えられるよう心掛けました。
発表のテーマは、内部移動表現の中日対照研究であり、主にデータ収集により、<~进
>と「~こむ」の相異を観察しました。
「内部移動」の定義、<~进>の意味分類、「~こ
む」の意味分析などについて、貴重なご意見を頂きました。当日、基調講演とポスターセ
ッションの時間帯が多少重なっていたため、はじめはご来場してくださる方が少なく、心
配しておりましたが、時間が経つにつれて徐々に人も増えていきました。ポスター発表は
初めてだったため、ポスターの作成など、不十分なところもありましたが、自分の考えを
伝え、また皆様と交流することができ、大変有意義な経験をさせて頂きました。
5
ポスターセッションの特徴
★分科会方式の口頭発表とは、どう違うのでしょうか?
両者の違いを表にしてみました。
ポスターセッション
分科会での口頭発表
発表者
・研究内容をゆっくり、あるいは繰り返し説明す
にとっ
ることができる。
て
・ざっくばらんな雰囲気の中で、意見交換や討論 ・司会者の進行を妨げてはな
ができる。
・時間の制限が厳しい。
らない。
・掲示時間が長いので、より多くの人に見てもら ・他の研究者との意見交換は
える。
分科会会場内にほぼ限られ
・少しでも関心をもってくれた人と知り合い、共
る。
同研究のきっかけをつかむことができる。
参会者
・要点が把握しやすい。
にとっ
・セッションの時間中に、複数の発表を効率よく ・興味のある発表があっても
て
回ることができる。
同時に二つ以上を聞きには
・セッションに間に合わなくても、掲示時間内に
いけない。
興味のあるポスターを閲覧できる。メッセージを
残して、発表者とコンタクトを取ることが可能で
ある。
・発表者との距離感がなく、遠慮なく質問ができ ・質問者は、数人に限られる。
る。
★発表の準備には、どんな注意が必要でしょうか?
見やすさ、わかりやすさを、第一に考え、要点を絞り込んだポスターの作成が何より重
要です。文字情報が多すぎると、読み手には大きな負担となります。発表内容がいかに優
れたものであったとしても、
「口頭発表用のレジュメを拡大コピーして貼り付けただけ」で
は、アピールする力に欠けていることを、肝に銘じておいてください。費用はかかります
が、一枚刷りのポスターは、何より人を引きつける力があります。そうでないとしても、
準備段階からレイアウトの方法を吟味して、読み手にとって、わかりやすい提示を常に心
がけてください。
『ポスター発表はチャンスの宝庫!』にあがっている良いポスター。悪い
ポスターの例を参考にして、工夫を重ねてください。
6
★事前の準備が大事だとわかりましたが、発表当日は、どんな感じですか?
完成したポスターを掲示した段階で、自分の任務を終えたとは思わないでください。こ
こから、本当のセッションが始まります。ポスターの前で立ち止まり、興味をもって見入
っている人が現れたら、
「簡単に説明させていただいてよろしいでしょうか。
」と声をかけ、
数分間の口頭の説明をし、質問を受けます。司会者はおらず、自由に意見を言えるので、
思わぬ方から、これまで見過ごしていた点を指摘されたり、今後の研究のヒントが、次々
と投げ返されてきます。これこそポスターセッションの醍醐味です。また、これまで、名
前だけは知っていても直接、話をする機会に恵まれてはいなかった方とも、意見を交換す
る場となりえます。さらに、当該分野についてはあまり知識がなく、初心者に近い人から
の質問もありえますので、
「そもそも、この研究発表の意義はどこにあるのか」という自ら
への問いかけも必要で、発表者自身のよって立つところを確立する契機にもなると考えら
れます。
★参会者が気をつけないといけないことはありますか?
同時進行で、いくつもの発表があり、会場は、かなりざわつきますが、真剣な討論の場
の参加者であることを、自覚しておかねばなりません。セッションの成否は、参加者全体
の態度にかかっているといっても過言ではありません。知人との雑談の場にならないよう、
くれぐれも注意してください。
なお、もし発表者が席をはずしている時に、意見を述べたい場合は、メッセージをメモ
としてのこしておくと良いでしょう。
次回は、自分が、ポスターセッションの発表者の立場になっているかもしれません。切
磋琢磨の場として、有効に活用しましょう。
【参考文献】
今泉美佳著『ポスター発表はチャンスの宝庫!』
(羊土社、2003 年)
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