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日本語教室 - 横浜市国際交流協会
横浜市委託事業日本語学習コーディネート業務 平成 25 年度教室実習型研修(日本語教室)実施報告 平成 26 年 3 月 公益財団法人 横浜市国際交流協会(YOKE) 平成 25 年度教室実習型研修(日本語教室)概要 1 目的 ・横浜市における「多文化共生のまちづくり」のための日本語学習支援活動の充実を図る。 ・横浜市における公的日本語教室のあり方を検討する。 2 内容 教室実習型研修の実施 *教室実習型研修とは ・学習者にとっては日本語教室(学習機会の提供) ・支援者にとっては教室活動の観察・体験 *教室の名前を「横浜で暮らす人のための初期日本語教室」とした。 *研修の名前を「『横浜で暮らす人のための初期日本語教室』体験研修 」とした。 3 基本方針 4 運営体制 「教室実習型研修推進プロジェクト」 ・メンバー 矢部まゆみ(横浜国立大学非常勤講師・横浜市日本語学習コーディネート業務アドバイザー) 中山利恵(日本語教師・中国出身) 朴美眞(NPO 法人ハーティ港南台交流部会部会長・韓国出身) ・実生活の場面や生活課題と結びつけた学習活動→学習者の自立・自己実現・社会参加 ・日本人と外国人双方の「多文化コミュニケ―ション能力」の育成 ・外国人当事者の企画運営への参画 (敬称略) ・「教室実習型研修」推進プロジェクト会議の実施(全 4 回) 平成 25 年 5 月、10 月、12 月、平成 26 年 3 月 5 会場 公益財団法人横浜市交際交流協会(YOKE) 6 講師 矢部まゆみ 7 学習者 「YOKE ニューカマーのための日本語教室」から希望者を募集したほか、 「なか国際交流ラウンジ」 「NPO 法人ハーティ港南台日本語教室」等の学習者に声かけをおこなった。全 24 名 8 受講者 9 日程及び内容 講師アシスタント:中山利恵 朴美眞(敬称略) 平成 25 年度日本語ボランティア研修会「多文化共生・社会参加の視点から地域日本語教室を考え る」の受講者から希望者を募った。全 9 名 実施日 内容 平成 26 年 1 月 27 日 事前研修 平成 26 年 2 月 3 日 平成 26 年 2 月 10 日 平成 26 年 2 月 17 日 平成 26 年 2 月 24 日 参加人数 講師 1 名・講師アシスタント 1 名 体験研修受講者 9 名 日本語教室での活動体験及び振り返り 講師 1 名・講師アシスタント 1 名 第 1 回「おりがみ交流会」 学習者 11 名 体験研修受講者 8 名 日本語教室での活動体験及び振り返り 講師 1 名・講師アシスタント 1 名 第 2 回「病気・けが」 学習者 3 名 体験研修受講者 7 名 日本語教室での活動体験及び振り返り 講師 1 名・講師アシスタント 1 名 第 3 回「好きなところ・行きたいところ」 学習者 10 名 体験研修受講者 6 名 総括 講師 1 名・講師アシスタント 1 名 体験研修受講者 8 名 *第 1 回から第 3 回の日本語教室において体験研修受講者は「協力者」として教室活動に参加した。 第 1 回「おりがみ交流会」 平成 26 年 2 月 3 日 <活動のめあて> ●折り紙で作品を作る実際の作業の中で、身近な物の名称、色・形の名称、簡単な動作の指示の表現などに親 しみ、活用できるようになる。 ●折り紙を使って、ゲームやグループワークを行い、参加者同士の交流・つながりを深める。コミュニケーシ ョンの実践を通して自分のことを表現したり、相手のことを尋ねたり、共通点を見つけたりできるようになる。 ●日本のおりがみ文化を楽しみながら、それぞれの参加者が自分の文化(子どもの遊び等)について発信する きっかけをつかむ。 <活動の様子> 色々な折り紙の作品をディスプレイ。 グループで自己紹介。路線図を使って 「これは何ですか。 」学習者は興味津々。「家はどこですか。」折り紙を使って 「すきな色は?」 韓国出身の講師アシスタントの 自己紹介。「6 年前に日本に来ま した。“ハーティ港南台”の日 本語教室で勉強して、今は交流 部会の部会長をしています。」 (写真左)紙風船を作っています。 (写真右)作った紙風船をグループ ごとに打ち合って、数を数えました。 いち、に、さん、し・・・。 支援者も学習者もうちとけて 自然に笑いも。 最後にグループの名前をつけて、模造紙にみんなが折った折り紙 の作品を貼り、発表しました。 <学習者の声> *アンケートより抜粋 ・おりがみと日本の文化を学んだ。 ・新しい友達と出会い、話すチャンスがあった。 ・日本語があまりできなくても、はずかしく思わないで楽しく習 いました。 ・おりがみも楽しかったし、先生以外の人とも会って話すことが できて楽しい時間でした。 ・普通の会話を学びました。友達ができました。 第 2 回「病気・けが」 平成 26 年 2 月 3 日 (*注) <活動のめあて> ●「多言語医療問診票」、神奈川の医療通訳派遣システムの存在を知り、活用できるようになる。 (日本語の力が限られていても「いざという時は、自分の力で病院に行くことができる」という意識を持て るようになる) ●からだの部位、病気の症状の表現に親しみ、活用できるようになる。 ●病院での受診の基本的な流れを知り、実際の受診に安心して備えられるようになる ●それぞれの文化における「かぜの対処法」について話し合い、多様性と共通点を認識する。 (*注) 「多言語医療問診票」 :NPO 法人国際交流ハーティ港南台、公益財団法人かながわ国際交流財団が作成 <活動の様子> 中国出身の講師アシスタントに目のマッサージ の方法を習い参加者全員でやってみました。 日本語エアロビクス、踊りながら楽しく 体の部位の言い方を覚えました。 ~~~~~~~~~~~病院でのスキット~~~~~~~~~~~ 講師、講師アシスタント、支援者が患者、医者、受付役になり病院でのスキットを行いました。 「あのう、これ、もってきました。」 (医師のことばが分からないとき) (自分で書いた問診票を持って受付へ) 「すみません、メモしてください。 かぞくに見せます。 」 「しょほうせん?何ですか。 」 (診察が終わって会計で) <学習者の声>学んだことは? *アンケートより抜粋 いs ・病院のスタッフ、医者のメモは フリー(注)、初診、問診票、 メモしてください。 (*注)医者の書いてくれるメモには費 用がかからない。 病気の症状の絵カードでかるた取り。 学習者の病院体験のヒアリングをして スキットを作りました。 第3回「好きなところ・行きたいところ」 平成 26 年 2 月 10 日 <活動のめあて> ●自己表現/他者理解: ・自分の出身地について述べたり、相手の出身地について聴いて理解できるようになる。 ・自分の出身地の魅力を伝えられるようになる ●地域の情報交換・行動の広がり: ・ 「横浜(+α)で好きな場所」について話し合うことにより、地域の情報を交換し、地域への理解とつなが りを深めるきっかけとする。 ・「行きたい場所」に行くための交通手段を尋ね、自分も人に説明できるようになる。 ワークシートを使って自分の国を紹介。 有名なもの、おいしいもの、おすすめの場所を 話します。 韓国出身の講師アシスタントも旅行会社の係員 を演じながら自分の国のおすすめの場所を紹介 しました。 グループの中で 1 人の学習者の国を紹介 (写真右)グループのみんなで力を合わせて 旅行案内をポスターにしました。 <学習者の声> *アンケートより抜粋 ・他の国について知ることは楽しかった。 ・たくさん日本語を話しました。とても楽しいです。日本語を練習しました。 ・色々なことが分かった。色々な人と出会った。 ◆体験研修 受講者(支援者)の振り返り◆ 第 1 回「おりがみ交流会」 ・作る作業は言葉を越えたコミケーションを生み出して、それが自信につながるのかなと思いました。 ・参加者の日本語歴の前知識がなかったのが 却って言語制限を気にせず話しかけられた。話すことより行動に 移す彼女。折り紙を色々手に取り「なに?」犬の折り紙を取って「簡単」など。文型に縛られず気持ちが自由 になることで、積極的になれると実感できました。 ・今日の目標文型(ハンドアウト上の)が、私にとって会話を引き出すヒントになって役立った。また、参加者 にとって折り紙の形、色・・・等は大きなお助け資料となりました。 ・どんな風に展開するのか、学習者も興味津々。私たちのグループはまだまだ初級の日本語が分かるだけの学習 者だったが、皆さん目を輝かせて最後には*さんのお上手な誘導のお蔭で立派なのが出来上がり、大喜び。言 葉はこうして学ぶ、という実践を見たよう。 ・なにかのイベントとして取りいれたいです。 特に、チームでの発表まで進めたところが良かったです。 ・チームの仲間意識が高まるので、茶話会の交流イベント・学習グループを超えた友達作りにも有効です。 学習者の居場所作りとしてもいいです。 ・「折り紙」は学習者とボランティアのグループワークがよかったと思います。 第 2 回「病気・けが」 ・自分の教室でもグループ内では、テキストの問題のロールプレイとして医師と患者の会話はしたことがありました が、あくまでもグループ内でのことでした。それだと、やはりただの会話の練習の延長でしかなかったかなと反省 しています。ですが、今回研修で体験してみて、体を動かすことの大切さを感じました。病院の受付や、待合室等 のセットを作って、学習者が実際に問診票をもって、体験してみるのは大変意義のあることだと思います。 ・定期的(半年か1年)に1回 情報提供を含め取りいれたいです。現在自分の教室でも、ごみの出し方、通報体験 を実施しているが、それと同じくらい大事な項目だと思いました。 ・ 「問診票」は、今まで知ってはいたものの「クラス内でやってみる」という事は全く考えませんでした。 でも、よく考えてみたら、「問診票」を渡すだけでは意味を持たないことを実感しました。 第 3 回「好きなところ・行きたいところ」 ・当日は「教える」じゃなくて「遊ぶ?」という気持ちからか、私自身も大変自由に楽しめた。 発表→やっと 平がなが書ける程度、カタカナは無理。どうやって? そのような心配もなく見本を書くと、中国・韓国の方々 がきれいに書き写し、ドイツの方が発表と各々の役割が自然と決定。→なんら心配はなかった。(*注) ニューカマーだからできないと言う事は決してない。やるべき仕事はきちんと理解している。言葉のハンディ だけであることを思い知らされた。 (*注)やっとひらがなが書ける程度でカタカナは書けない学習者がどうやって発表するポスターが書けるのかと心配したが、 その心配もなく、見本を書いて見せると、中国・韓国の方々がきれいに書き写し、ドイツの方が発表するという役割が学習者の 中で自然に決まっていった。 ・「自己紹介」から始まって旅行プラン。当たり前のように自己紹介では名前・出身国・滞在期間などを聞いた り話したりしていました。日本を基準としてどの方角に位置しているか・お薦めの場所など、日本語が出来る 出来ないは別として 自身の出身国の事なので生き生きとしていました。 その他感想 ・テキストを少しずつすすめていくことに追われていますが、今回のような研修に参加することで、テキストからの 飛び出し方を学ばせていただけたかなと感じております。 ・講師アシスタントのミジンさんが仰った「X 曜日に文型や文法を教科書で学び、次の回ではテキストから離れ て、自由にその文型を使える企画を考える。その繰り返しがとても役立った」という言葉が実感として身に沁 みました。 ・いろんな団体の方の事情がわかり、それぞれの視点で学習者さんにかかわっていらっしゃること、大変参考に なりました。皆様の熱意が伝わりました。学習者さんはそれ以上に頑張ってくださいましたね。 ◆体験研修を振り返って◆ 中山利恵講師アシスタント 来日してまだ日本語が分からなかった時には、自分自身はなるべく病院へ行かないように我慢していまし た。しかし子供が怪我をして初めて日本の病院へ行きました。心細く、とても大変でした。その時には多言 語医療問診票や通訳のシステムがあることなど全く知りませんでした。もしそのようなものを活用できたら どんなに心強かったかと思います。いざという時に役立ててもらうために、このような情報を日本語教室で 伝えていく意義は大きいと思います。また日本語学習はまずは友達や環境に馴染み、生活の中から学習する ことが一番だと思います。学校からのお知らせなどが読めないなど、困ったことから学んでいく必要がある と思います。日本語教室への参加を通して、日本に対する理解を深め、日本に愛着を持つ外国人は多いはず で、そのことからも、日本語教室の活動の意義はとても大きいと思います。 また、今回体験研修に参加した支援者の方の熱意を感じ、そのあたたかい心に感銘を受けました。そのよう な皆さんの思いを外国人に伝えていくとともに、自分自身もそれをお手本としてさらに外国人の手助けをし ていけたらと思いました。 朴美眞講師アシスタント 学習者の立場から見ると、教科書だけの勉強では、なかなか言葉が使えるようになりません。身体を使 って体験を通して覚えた言葉はよく身につきます。日本語に自信がなくても、間違えてもいいから怖がら ずに話してみることが大事だと思います。そのような意味においてボランティアの励ましがどんなに大き い力になるかを知ってもらいたいです。また小さな子供を持った母親は今後の子供の教育のためにも日本 語学習支援の必要性が大変高いと思われます。しかし現実は子供を連れて通える教室や託児付の教室があ まりにも少ないです。小さい子供がいる母親が勉強できるようなシステムを作って欲しいと思います。 それに今回の体験研修の学習は自分自身にも良い勉強と経験になりました。今までとは違って学習者の 立場だけでなく、ボランティアの立場での学習を考えてみれるようになる意味がある時間でした。日本語 教室活動については支援者と学習者が一緒になって、どうやったら分かりやすい教室ができるかを今後深 く考えていきたいと思っています。 矢部まゆみ講師 「教室実習型研修」は、(1)学習者に対しては日本語教室(学習機会の提供)、(2)支援者に対しては研修(教室 活動の観察・体験・考察の機会の提供)、という2つの機能を併せ持つものとして、横浜市において、市の事業 として 2010 年度に開始されました。2012 年度より横浜市から YOKE に事業が委託され、今年度 2013 年度は 2 年目となりました。この「教室実習型研修(日本語教室) 」が目指してきたのは、 「多文化共生のまちづくり」の ための日本語学習支援活動とはどのようなものかについて理念を整理した上で、それを実現する具体的な日本語 教室の「カリキュラム」と「教室活動」を作成・検討し、それを日本語教室で実施して学習者に提供すると同時 に、地域の支援者に支援者研修の一環として公開し、教室活動を観察・体験しながら、それぞれの支援者が自分 の携わっている現場に合わせてどのように応用できるかを検討し、支援活動の充実に結び付けられるようにする ことです。とはいえ、研修に参加される支援者の方々は、地域で 20 年以上活動されているベテランの方々や、 日本語教育以外の分野でも幅広い経験を持つ方々もいらっしゃり、私自身の役割は、 「試行錯中の取組み」 (未熟 ながらも自分なりの最善を尽くして検討したもの)を包み隠さず「たたき台」としてさらして(まな板の上に乗 せ)、みなさんのディスカッションのきっかけ、材料にしていただくこと、みなさんに意見を出していただいて、 それをまた集約しながら、プログラムを改善・発展させていくことと認識して、取り組んできました。 昨年度(2012 年度)に引き続き、今年度(2013 年度)の「実習型研修(日本語教室)」プロジェクトでも、 次の3つの基本方針を主軸として、 「横浜で暮らす人のための初期日本語教室」のプログラムの開発と日本語教 室実施、および体験研修実施を行いました。 <基本方針> 【1】実生活の場面や生活課題と結びつけた学習活動→学習者の自立・自己実現・社会参加を目指す 【2】日本人と外国人双方の「多文化共生コミュニケーション能力」(日本語教育学会 2008)の育成 【3】外国人当事者の企画・運営への参加 昨年度には I 期・II 期・III 期のそれぞれの期で異なる形態でプログラムを設計し、試行してきた中で、今 年度はこれらのうち昨年度第 II 期におこなった「日本語コミュニケーション・ワークショップ」の形態を発展さ せる形をとり、テーマ別の参加型学習の活動を設計し、実施しました(「第 1 回 2回 健康・病気・けが」 「第 3 回 おりがみ・にほんご交流会」 「第 好きなところ・行きたいところ」) 。 プロジェクトの推進においては、中国出身の中山利恵氏と韓国出身の朴美眞氏にプロジェクト・メンバーとし てプログラムの企画に携わっていただき、授業活動にも講師アシスタントの立場で参加していただきました。外 国人として日本で生活し、日本語を外国語として学習した経験に立って、日本語教室で何を目指し、どのような 活動を取り入れるべきかについて両氏からアイディアを出してもらい、話し合いを重ねながら内容を練り、第1 回と第 3 回は朴氏と矢部、第 2 回は中山氏と矢部のティームティーチングで授業を進めてきました。今年度の「教 室実習型研修」において、私自身、特に多くの気づきや学びを得たのが、この中山氏・朴氏との対話と協働のプ ロセスでした。紙幅の制限から、このプロセスについての具体的な記述は別の機会に譲ることにしますが、基本 方針【3】を重視することにより、【1】と【2】の充実・深化につながる可能性を見出した気がします。 今回の「横浜で暮らす人のための初期日本語教室」で共有した「参加型学習」の手法や、考え方を、支援者の 方々が、すでに、ご自身の現場の状況に合わせて取り入れてどんどん発展させていってくださっている報告もお 聞きし、大変心強く有難く思います。このようなみなさんの実践をさらに共有していけたらとも願っています。 そして、多文化共生のまちづくりのために、外国人当時者の方々に、自分の母語や母文化も大切にしながら、日 本語教室を日本人と協働で動かし、リーダー的存在として活躍していってもらえるような環境づくりも進めてい きたいものです。