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腸の働きと免疫

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腸の働きと免疫
サイエンス・インフォメーション
腸 の 働きと 免 疫
腸の働きといえば「消化・吸収」を思い浮かべることが多いですが、腸は食べ物と一緒
に入ってくる病原菌やウイルスなどの有害なものから体を守る「免疫」の働きも、併せ持って
います。
東 京大 学 名誉 教 授
農学博士
上 野川 修 一
今回は、東京大学名誉教授の上野川修一先生に「腸の働きと免疫」をテーマにお話を
うかがいました。
腸には消化吸収以外にも働きがあると
聞きましたが。
成人の腸は全長7メートルにもおよび、
大きく小腸と大腸に
分かれています。小腸は多くの絨毛でおおわれ、
それらを
広げた面積はテニスコートぐらいの大きさになるといわれて
います。その広い面積を使って、小腸は消化吸収を効率
ざん さ
よく行っているのです。
また、大腸は食物残渣から水分を
吸収し、便を形成します。
表 面 積の広い小 腸では、食 べ 物だけでなく、一 緒に
入ってくる病原菌やウイルスなど、体にとって有害なものに
常にさらされています。
しかし、
すぐに病気になったりしない
のは、
腸には腸管免疫系と呼ばれる防衛システムが備わって
いるからなのです。
「腸管免疫系」とは
どのようなものでしょうか。
腸管免疫系の中心となっているのは、小腸に点在する
パイエル板というリンパ組織です。
その内側には、
リンパ球
などの免疫細胞が待ち受けていて、侵入してきた細菌や
ウイルスを撃退します。
図:腸管免疫系のしくみ
腸内細菌
受容
危険
病原細菌
ウイルス
排除
腸管免疫系
安全
食品栄養成分
プロバイオティクス
共生して腸管免疫系
と相互作用
免疫グロブリンA
(IgA)
全身免疫系の
働きに影響
腸管免疫系には大きく3つの特徴があります。
1つは、
全身のリンパ球の半数以上が腸に存在する、人体最大の
免疫系と言うことです。
ここでは、腸管に入ってくるさまざまな
病原微生物を排除する役割を果たしている、IgAという
抗体が最も多く作られています(図)。
2つめは、体にとって安全で有用なものと危険で有害な
ものとを振り分けるという働きです。体の維持に必要な成分
には、過敏に免疫反応を起こさないという現象で、言い換え
ると食品によるアレルギーを抑えるしくみとも言えるでしょう。
3つめは、腸管粘膜だけでなく、涙腺、唾液腺、乳腺などへ
のIgAをつくる細胞の供給元としての役割です。
「免疫」を良い状態にするには、
どのようなことを心がければ良いでしょうか。
一般に、
栄養状態が悪くなると免疫の働きが低下します。
したがって、何よりも規則正しい食生活が大事であるという
ことです。具体的な栄養素について述べると、
たんぱく質、
そしてビタミンではC やE やA、
ミネラルでは亜 鉛やセレン
が免疫系を高める食品成分として知られています。例えば
ビタミンC、
E には、免疫細胞のT 細胞の働きを高めることが
確かめられていますし、
ビタミンAには抗体産生量を増やす
働きがあると言われています。
一方、
腸内には500∼1,000 種類、
重さにして1∼1.5kgの
細菌が住みついていますが、実はこの腸内細菌との共生
そして腸管免疫系との相互作用がその恒常性維持に深く
関わっています(図)。加えて全身の免疫系の働きにも影響
を与えるといわれています。有用菌が多く有害菌が少ない
腸内細菌のバランスであれば、腸管免疫系はより良好な
状態に導かれるのです。
そして、
プロバイオティクスと呼ば
れる生体への有用性が科学的に証明された乳酸菌や、
ビフィズス菌のような微生物の摂取も、腸内細菌のバランス
を整え、感染症に罹るリスクを下げるなど、腸管免疫系の
調節作用を示すことも明らかになりつつあります。
また、
プロ
バイオティクスによる炎症性腸疾患などの臨床試験も進め
られ、健康維持に役立てようとしています。
これらの食品成分を意識しながら、
バランスの良い食事を
心がけてはいかがでしょうか。
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