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幼稚園における評価(PDF:793KB)
第1章 幼稚園における評価 第1節 幼稚園における評価の基本的な考え方 「評価」という語は、優劣を決めたり、ランクを付けたりする成績表のようなイメージで受け 止められることがある。しかし、幼稚園においても評価は欠くことのできないものであり、適切 な教育は適切な評価によってはじめて実現できるものである。幼児期にふさわしい教育を進める ためには、幼稚園における評価とは何かを明確にとらえることが必要となる。 幼稚園教育要領解説では、「反省や評価は、幼児の発達の理解と教師の指導の改善という両面 から行うことが大切である」として、幼児の発達する姿をとらえることと、それに照らして教師 の指導が適切であったかどうかを反省・評価することの両面について行う必要があることを示し ている。 幼稚園における評価とは幼児を他の幼児と比較して優劣をつけて評定することではなく、保育 の中で幼児の姿がどのように変容しているかをとらえながら、そのような姿が生み出されてきた 様々な状況について適切かどうかを検討して、保育をよりよいものに改善するための手掛かりを 求めるものである。 幼稚園教育指導資料第3集「幼児理解と評価」(平成 22 年7月改訂・文部科学省)では、幼 稚園の保育は一般に下の①~④のようなプロセスで進められるとしており、「具体的な保育は、 この①~④の循環について、幼児の活動と経験を予想した指導計画を立てて行われますが、この 計画は一つの仮説ですので、実際の幼児の生活する姿に応じて、これらの全ての点について適切 かどうかを検討しながら改善していかなければなりません。」としている。 ① 幼児の実態と教師の思いをもとに、具体的なねらいと内容を設定する。 ② ねらいと内容に基づいて環境を構成する。 ③ 幼児が環境にかかわって活動を展開する。 ④ 活動を通して幼児が発達に必要な経験を得ていくような適切な援助を行う。 幼稚園における評価は、実際に幼児が生活する姿から、発達の全体的な状況、よさや可能性な どをとらえ、「幼児の理解は適切であったか」、「あらかじめ教師が設定した指導の具体的なねら いや内容は妥当なものであったか」、「環境の構成はふさわしいものであったか」、「教師のかかわ り方は適切であったか」などについて、反省・評価をすることである。 このような評価は常にそのための時間を取って行わなければならないというわけではなく、日 常的な反省も保育の改善に必要なものである。一日の保育の後に、教師が今日の生活の流れや、 個々の幼児の姿を振り返り、教師の援助について反省したり、環境の構成について考えたりする ことも評価である。 つまり、日々の保育と評価は常に一体になっているものであり、ごく日常的なことであるとい うことができる。 -1- 第2節 幼稚園における評価の進め方 幼稚園における教育活動は、教育課程によって全体の見通しをもちながら、指導計画によって それぞれの発達の時期にふさわしい生活を展開し、教育目標に向けた子どもの育ちを支えていく ことになる。 幼稚園における教育課程と指導計画については、下の図のように示すことができる。 教育課程と指導計画 年間指導計画 4歳児 年間指導計画 5歳児 期の指導計画 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅶ Ⅷ Ⅸ Ⅹ 教育課程の具現化 年間指導計画 3歳児 長期の指導計画 幼児の実態 月の計画=月案 ※具体化に当たっては、常に 幼児の実態と照らして修 正しながら立案する 週の計画=週案 (週日案) 1日の計画=日案 指導計画 短期の 指導の評価・反省による教育課程の改善 教育課程 図で示されているように、教育課程を具現化するためには、教育課程をもとに長期の指導計画 を作成し、それをもとに短期の指導計画を作成して1日の保育を行う。 これに対して、教育課程の改善を行うためには、日々の指導の評価・反省を積み重ね、短期の 指導計画の改善を行い、それをもとに長期の指導計画の改善を行う。さらに、教育課程も併せて 見直しをするというような、教育課程の具現化とは逆の道筋によるものであり、以下の1~4の ような手順による。 1 個々の幼児の理解と評価 幼稚園において行われている日々の保育には、ねらいがあり、目指す幼児像がある。指導の 具体的なねらいや内容は妥当なものであったか、教師の援助は適切であったかなどを振り返る には、現在の幼児の姿をより的確に把握し、その姿を保育のねらいに照らしてみて、一人一人 の姿が目指す幼児像に向かっているかどうかを確認する作業が必要である。 教師は、一人一人の幼児の評価を手がかりにして、次の援助の手立てを探っていくことにな る。さらに、適切な個の評価の積み重ねによって、よりよい保育が作り出されるのである。 具体的な幼児理解の方法として、幼稚園教育指導資料第3集「幼児理解と評価」(平成 22 年7月改訂文部科学省)では、次の4つを取り上げている。 ア 幼児とのふれあいを通して幼児との相互理解を深める イ 幼児が生活する姿の記録を工夫する ウ 多くの目で幼児を見る エ 家庭からの情報を活用する -2- 以上の点を踏まえ、第2章第1節「幼児理解のための記録」において、幼児を理解し、保育 の改善につなげるための資料となるような記録のとり方について紹介する。 2 短期の指導計画の評価・改善 幼稚園では、毎日の指導計画(日案)を作成して、その計画案に基づいて保育を展開してい る。また、一日の保育の終了後には、保育を振り返り、幼児の姿や教師の指導の反省・評価を 行っている。その際、観点を明確にして、反省・評価することにより、幼児の姿や指導の在り 方をより具体的にとらえ、見直すことができる。 短期の指導計画を見直す観点としては、先に挙げた「幼児理解」、「指導のねらいや内容の妥 当性」、「環境の構成」、「教師のかかわり方」等について評価することが必要である。 3 長期の指導計画の評価・改善 長期の指導計画は、それぞれの幼稚園の教育課程に沿って幼児の生活全体を長期的に見通し た、年・学期・月などの指導計画である。 長期の指導計画の改善については、日々の保育の実践における反省や評価、累積された記録 などを生かして、各園における幼児の発達の過程を見極めて行うものである。さらに、保護者 からのアンケートや学校評価も参考にして行いたい。 また、長期の指導計画を見直す観点としては、短期の指導計画を見直す観点として示したも のに加えて、入園・進級時など幼児の生活の変化に配慮を要する時期や行事等との関係に対す る配慮が考えられる。 第2章第2節「指導計画とその評価」において、短期の指導計画及び長期の指導計画とその 評価・改善について具体的な事例を紹介するので、参考にしていただきたい。 4 教育課程の評価・改善 教育課程編成と実施の評価は、各園の教育目標達成のために編成される教育課程及びそれに 基づく実施状況が、適切であったか否かを確認するためのものである。言い換えれば、教育課 程に基づいて作成された長期・短期の指導計画とそれに従って実践された日々の保育の結果と を相互にフィードバックさせつつ、教育課程の妥当性を吟味し、必要に応じてその修正・再構 成を図るために取り組むものである。その際、学校評価を活用して教育課程の改善を図りたい。 教育課程の編成と実施の評価の観点として、次のア~オ等が挙げられる。これらについて収 集した評価の資料を整理し、全教職員が協力して定期的に教育課程の改善を行うことが必要で ある。評価の観点については、第3章第1節「「教育課程の編成と実施」における評価と改善」 を参照されたい。 ア 教育課程の編成と基本に関する評価の観点 イ 教育内容の取扱いに関する観点 ウ 園の経営の側面的評価の観点 エ 家庭や地域社会及び小学校との連携に関する評価の観点 オ 特に留意する事項に関する評価の観点 また、教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動、いわゆる「預かり保育」等を行 う場合には、学校教育法や幼稚園教育の基本を踏まえているか、幼稚園で行われる教育活動全 体が一貫性をもったものとなっているかを評価することが必要である。 さらに、子育ての支援のための活動を行うに当たっては、園内体制を整備し、関係機関との連 携及び協力を行っているか、広く地域の人々を対象として行っているか、教育課程に基づく活動 の支障となることのない活動となっているか等について評価する。これらのことに配慮しながら、 「保護者の保育参加」や県で取組んでいる「親の学習」等の子育ての支援を行うことが必要である。 -3-