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+イオン照射されたチタン表面の生体適合性の評価
C60+イオン照射されたチタン表面の生体適合性の評価 Evaluation of biocompatibility of Ti surfaces irradiated by C60+ ions 東洋大学 理工学部 生体医工学科 平成 22 年 4 月入学 平成 26 年 3 月卒業 学籍番号 16B0100097 氏名 本多 祐太郎 指導教員名 本橋 健次 F-1 目次 頁 第 1 章 序論 1.1 F-3 背景 1.2 フラーレン分子の医療応用 F-3 第 2 章 目的 F-4 第 3 章 原理 3.1 ECR イオン源 F-5 3.2 磁場による質量電荷比選別 F-6 3.3 走査型電子顕微鏡(SEM) F-8 第 4 章 方法と装置 4.1 Bio-Nano ECRIS ビームライン F-9 4.2 標的真空槽及び標的台の設計と作成 F-10 4.3 予備実験の方法 F-11 4.4 開発した標的台による実験の方法 F-12 4.5 SEM による観察 F-18 第 5 章 結果と考察 5.1 C60+イオン照射結果 5.1.1 F-19 F-19 予備実験 5.1.2 開発した標的台による実験 F-19 5.2 SEM による試料観察結果 F-20 5.3 考察 F-24 第 6 章 まとめ F-25 参考文献 F-26 謝辞 F-27 付録 1. 卒業論文発表会要旨 F-28 2. 「理工学部・生命科学部研究者交流会」の発表ポスター F-30 3. 設計図 F-31 F-2 第 1 章 序論 1.1 背景 近年、医療技術の進歩とともに、人工臓器が幅広く使用されている。 その中で、チタンは人工心臓、ペースメーカー、人工関節のインプラントなど数多くの人 工臓器に使用されている。 なぜならばチタンは軽い、強度が高い、耐食性や耐熱性が高いなど、他の材料にくらべ優 れている特徴のある金属だからである。 その反面欠点もある。それは細胞との接着性が悪いということである。 本研究では細胞との接着性に着目した。 1.2 フラーレン分子の医療応用 図 1.1 のように C60 フラーレンは炭素原子 60 個で構成され、中空のサッカーボール状の 構造をもっている。炭素原子が 60 個より多いフラーレン、少ないフラーレンも存在し、そ れぞれ高次フラーレン、低次フラーレンと呼ばれる。 フラーレン生成時にある種の元素を加えておくと、中空の骨格内にある元素を包み込ん だフラーレンが得られる。これを内包フラーレンと呼ぶ。 とくに薬物としての放射性元素を内包したフラーレンは薬物内包フラーレンと呼ばれ、 それを用いたドラッグデリバリーシステム(DDS: Drug Delivery System)の開発が盛んに 行われている。DDS とは、体内の薬物分布を量的・空間的・時間的に制御し、コントロー ルする薬物輸送システムであり、最新の医療技術として注目されている。 一方、C60 フラーレン分子は直径 0.71nm の球状のクラスター分子であり、これを金属表 面に照射すればおよそ 1.58nm2 の微小な領域に、1 度に 60 個の炭素原子を衝突させること が出来る。このようなクラスター分子による高密度のイオン照射は、標的物質の表面に特 異な現象(クラスター照射効果)を引き起こすことが期待される。 本研究ではこのクラスター照射効果を利用して、チタン材料の表面改質を試みた。 図 1.1 C60 フラーレン分子の構造 F-3 第 2 章 目的 60 個の炭素骨格をもつ低エネルギーのフラーレン分子をチタン表面に入射することによ り、表面から数原子層の深さに高密度の炭素原子を注入することができると期待される。 すなわちチタン最表面原子に対し、炭素原子との化学反応を引き起こすことが期待され る。それにより有機物質である細胞とチタン材料との親和性を上げることができると考え られる。このように本研究では、10keV 以下の低エネルギーフラーレンイオンを用いて、 化学反応を促進することによりチタン材料の生体適合性を上げることを目標とする。 本実験の目的は炭素イオンの特性である細胞との接着を利用し、高密度な炭素であるフ ラレーンを照射しチタン表面上の細胞接着性を向上させることができるか検討することで ある。 F-4 第 3 章 原理 3.1 ECR イオン源 (Electron Cyclotron Resonance Ion Source:電子サイクロトロン共鳴型イオン源) ECR イオン源は、プラズマを発生させるプラズマチェンバー、プラズマを閉じ込めるた めの磁場を発生させる多極磁石(永久磁石を使用することが多い) 、ソレノイドコイル、プ ラズマ中の電子にエネルギーを与えるマイクロ波の導入部、イオン引き出し部から構成さ れている。プラズマチェンバーにマイクロ波を導入し、電子サイクロトロン共鳴現象によ り電子にエネルギーを与え、電子と原子の衝突による原子のイオン化を繰り返すことでプ ラズマを発生させる。発生したプラズマは複数のソレノイドコイルによって形成されるミ ラー磁場と、プラズマチェンバーを囲むように置かれた多極磁石により形成された磁場に より閉じ込められる。引き出し電極とプラズマチェンバーの間には、正イオンを引き出す ための電圧が印加される。1 価から多価イオンの生成が可能である。効率よくプラズマが生 成されるためのマイクロ波周波数の条件は ECR 条件といわれ、次式のようになる。 …(3.1) (fc:共鳴周波数,e:素電荷 B:磁束密度,m:電子の質量 , ) (3.1)式は以下のように導かれる。 磁束密度 B の磁場中を運動する電子に作用するローレンツ力 F1 は、(3.2)式で表すこと が出来る。 …(3.2) (e:素電荷,v:速度,B:磁束密度) ローレンツ力(F1)と遠心力(F2)はつり合うので、次式のように表わされる。 図 3.1 円運動における力の相互作用 F-5 …(3.3) …(3.4) …(3.5) (B:磁束密度, m:質量,R:半径) したがって(3.5)式を用いて電子の回転数、 となる。このように、磁場中を円運動する電子はその速度や軌道半径によらず一定の周 波数で回転している。そのためこの周波数(サイクロトロン周波数)に角振動数の電磁 波を共鳴的に吸収し、原子を効率よくイオン化することが出来る。この現象を電子サイ クロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance)と呼ぶ。 ミラー磁場(Mirror magnetic field) 高温プラズマを閉じ込めるための磁場配位の 1 つ。磁力線が漏斗状に収束している領 域をミラーと呼び、磁場はここで強くなる。荷電粒子がミラーに近づくと、らせん運動 のピッチ角が増し、90°に達するとミラーから遠ざかる。このように荷電粒子がミラー で斥力をうける現象をミラー効果といい、プラズマは磁力線で囲まれた内部に閉じ込め られる。 中心の磁束密度 B とミラーの磁束密度 Bm との比 R = Bm / B をミラー比という。 3.2 磁場による質量電荷比選別 磁束密度 B の磁場中を運動する荷電粒子に作用するローレンツ力 F1 を用いて、イオン ビームの質量 m と価数 q の比、質量/電荷比 ( m / q )を選別することができる。 ここではその原理を示す。 分析磁石内の磁束密度を B、透磁率 μ、コイルの巻き数 n、電流値 I で表わすと、 …(3.6) また、運動エネルギーの式から速度 v は以下のようになる。 F-6 …(3.7) (V:加速電圧) …(3.8) 電子の代わりに荷電粒子の電荷 qe を代入した(3.5)式に(3.6)と(3.7)式を代入すると、 …(3.9) 式を整理すると、以下のようになる。 …(3.10) よって、質量/電荷比 ( m / q )は次式で表される。 …(3.11) F-7 3.3 走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope) 走査型電子顕微鏡とは、集束電子線を試料表面上に走査して、各走査点から放出される 電子を検出器に受け増幅し、走査と同期させてブラウン管上に像として写し出す装置であ る。結像系に電子レンズ用いないため、分解能は入射電子線束で決まる。像の焦点深度が 大きいため表面の地形的観察に多く用いるほか、各走査点から放出されるオージェ電子や 特性 X 線をとらえて微小領域の元素分析装置としても用いられる。 元素分析は、物体に電子線を照射した際に発生する特性 X 線もしくは蛍光 X 線をエネル ギー分散型検出器にて検出し、そのエネルギーの違いから対象の元素と濃度を調べる分析 方法である。 電子銃 集束レンズ 対物レンズ 走査コイル 検出器 試料 図 3.2 走査型電子顕微鏡の原理図 F-8 第 4 章 方法と装置 4.1 Bio-Nano ECRIS ビームライン ECRIS o 90 sector Faraday cup magnet Extraction & Einzel Beam deceleration & Substrate Holder 図 4.1 東洋大学 Bio-Nano ECRIS イオンビームライン ECR イオン源から 5.0kV の加速電圧で引出された C60+イオンは、90°扇型磁石(sector magnet)で価数質量比を選別され、5.0keV の C60+イオンビームとして標的真空槽に入射 する。 F-9 4.2 標的真空槽及び標的台の設計と作成 本実験では 5kV の加速の他にさらに 5kV の再加速を行うため、標的に-5kV の電圧を印 加することが出来る新たな標的真空槽及び標的台を作成した。よって C60+イオンと標的試 料との最大 10keV の衝突が可能である。その概要を図 4.2 と 4.3 に示す。 標的台の設計図は付録を参照のこと。 図 4.2 標的真空槽及び標的台の概要 図 4.3 標的真空槽及び標的台の写真 F-10 4.3 予備実験の方法 予備実験として、Bio-Nano ECRIS ビームラインにあらかじめ設置してある標的台で照 射実験を行った。 チタンに C60+イオンを照射する前にキセノンでクリーニングをした。 クリーニング終了後 3 種類の照射時間で実験を行った。 実験条件は以下のとおりである。 使用したチタン基板の寸法は 40 mm×10 mm×0.15 mm である。 Z は直線導入器の距離をあらわしている。 表 4.1 に Xe+イオン(5keV)クリーニング条件、表 4.2 に C60+イオンビーム実験条件を示す。 表 4.1 Xe+イオンクリーニング条件 照射条件 値 照射時間 各 20 分 照射位置 Z = 23 mm, Z = 28 mm, Z = 33 mm, Z =38 mm, Z = 43 mm, Z = 48 mm Z = 23 mm のとき、1.5 μA Z = 28 mm のとき、1.19 μA 検出電流値 Z = 33 mm のとき、1.20 μA Z = 38 mm のとき、1.20 μA Z = 43 mm のとき、1.20 μA Z = 48 mm のとき、1.15 μA Z = 23 mm のとき、7.16×1015(ions/cm2) Z = 28 mm のとき、5.68×1015(ions/cm2) Z = 33mm のとき、5.72×1015(ions/cm2) ドーズ量 Z = 38 mm のとき、5.72×1015(ions/cm2) Z = 43 mm のとき、5.72×1015(ions/cm2) Z = 48 mm のとき、5.48×1016(ions/cm2) F-11 表 4.2 C60+イオンビーム実験条件 照射条件 値 照射時間 30, 60, 120 分 オーブン電流 1.85A オーブン電圧 8.56V 加速電圧 5.0kV 分析磁場コイルの電流値(設定値) 112.700A (検出値) 113.285A 集束レンズ電圧 4.8kV マイクロ波周波数 9.8GHz ファラデーカップ電流値(開始時) 1.48nA ファラデーカップ電流値(終了時) 1.48nA 4.4 開発した標的台による実験の方法 この実験では再加速を行うため 図 4.2 で示した標的台を Bio-Nano ECRIS に取り付け た。 また再加速をした場合と、再加速しない場合の条件で実験を行った。 予備実験の Xe+イオンに代わり、この実験では Ar+イオンでクリーニングをし、その後 C60+ イオンの照射実験をした。 直線導入器で距離を調節し、1 つの基板に 2 種類のイオン照射量を設定し、3 つの基板で 合計 6 種類の照射を行った。 実験条件を次に記す。 使用したチタン基板の寸法 3 つは全て 34 mm×7 mm×0.15 mm である。 Bio-Nano ECRIS ビームラインの中心軸に直径 10mm の円形状のビームが生成される。 ファラデーカップで電流値を計測するときには、ビームが試料に当たらないようビーム軸 から 5 mm 遠ざけた位置を Z=0mm になるようにして実験を行った。 表 4.3、4.7、4.10 に Ar+イオン(5keV)クリーニング条件、表 4.4、4.5、4.6、4.8、4.9、4.11、 4.12 に C60+イオンビーム実験条件を示す。 F-12 1 日目 スリット 上流:縦 15×横 15mm 下流:縦 26×横 15mm 各条件を以下に記す。 表 4.3 Ar+イオンクリーニング条件 照射条件 値 照射時間 各 20 分 照射場所 Z = 9 mm, Z = 18 mm, Z = 25 mm Z = 9 mm のとき、0.61 μA Z = 18 mm のとき、0.56 μA 検出電流値 Z = 25 mm のとき、0.53 μA Z = 9 mm のとき、3.72×1015(ions/cm2) ドーズ量 Z = 18 mm のとき、3.53×1015(ions/cm2) Z = 25 mm のとき、3.43×1015(ions/cm2) ① 12:32 開始(10mm,45 分)-5kV をかける 1 回目 表 4.4 C60+イオンビーム実験条件① 照射条件 値 照射時間 45 分 オーブン電流 1.88A オーブン電圧 8.23V 加速電圧 5.0kV 分析磁場コイルの電流値(設定値) 112.611A (検出値) 113.063A 集束レンズ電圧 4.8kV マイクロ波周波数 9.8GHz ファラデーカップ電流値(ECR) 10.23nA ファラデーカップ電流値(標的槽、 1.95nA 開始時) ファラデーカップ電流値(標的槽、 終了時) 45 分後終了 F-13 1.25nA ② 12:58 開始(25mm,1 回目の 2 倍のドーズ量)-5kV をかける 2 回目 表 4.5 C60+イオンビーム実験条件②-1 照射条件 値 照射時間 45 分 オーブン電流 1.90A オーブン電圧 8.85V 加速電圧 5.0kV 分析磁場コイルの電流値(設定値) 112.611A (検出値) 113.063A 集束レンズ電圧 4.5kV マイクロ波周波数 9.8GHz ファラデーカップ電流値(ECR) 10.20nA ファラデーカップ電流値(標的槽) 0.95nA 電流値が低かったため 45 分後一時中断 電流値を上げて 15:21 再開 表 4.6 C60+イオンビーム実験条件②-2 照射条件 値 照射時間 30 分 オーブン電流 1.90A オーブン電圧 8.85V 加速電圧 5.0kV 分析磁場コイルの電流値(設定値) 112.611A (検出値) 113.063A 集束レンズ電圧 4.5kV マイクロ波周波数 9.8GHz ファラデーカップ電流値(ECR) 5.67nA ファラデーカップ電流値(標的槽、開始時) 4.3nA ファラデーカップ電流値(標的槽、終了時) 4.3nA 30 分後終了 F-14 2 日目 スリット 上流:縦 15×横 15mm 下流:縦 26×横 15mm 各条件を以下に記す。 表 4.7 Ar+イオンクリーニング条件 照射条件 値 照射時間 各 20 分 照射場所 Z = 9 mm, Z = 18 mm, Z = 25 mm Z = 9 mm のとき、0.39 μA Z = 18 mm のとき、0.37 μA 検出電流値 Z = 25mm のとき、0.36 μA Z = 9 mm のとき、5.82×1015(ions/cm2) ドーズ量 Z = 18 mm のとき、5.34×1015(ions/cm2) Z = 25mm のとき、5.05×1015(ions/cm2) ③ 12:20 開始(10mm,1 日目 1 回目の 3 倍のドーズ量)-5kV をかける 3 回目 表 4.8 C60+イオンビーム実験条件③ 照射条件 値 照射時間 99 分 オーブン電流 1.90A オーブン電圧 8.95V 加速電圧 5.0kV 分析磁場コイルの電流値(設定値) 112.690A (検出値) 113.158A 集束レンズ電圧 4.49kV マイクロ波周波数 9.8GHz ファラデーカップ電流値(ECR) 9.7~9.9nA ファラデーカップ電流値(標的槽、開始時) 2.3nA ファラデーカップ電流値(標的槽、終了時) 2.5nA 99 分後終了 F-15 ④ 12:20 開始(25mm,加速なし 90 分)再加速なし 1 回目 表 4.9 C60+イオンビーム実験条件④ 照射条件 値 照射時間 90 分 オーブン電流 1.90A オーブン電圧 8.95V 加速電圧 5.0kV 分析磁場コイルの電流値(設定値) 112.690A (検出値) 113.190A 集束レンズ電圧 4.49kV マイクロ波周波数 9.8GHz ファラデーカップ電流値(ECR) 10.5~10.7nA ファラデーカップ電流値(標的槽、開始時) 2.5nA ファラデーカップ電流値(標的槽、終了時) 2.5nA 90 分後終了 F-16 3 日目 スリット 上流:縦 15×横 15mm 下流:縦 26×横 15mm 各条件を以下に記す。 表 4.10 Ar+イオンクリーニング条件 照射条件 値 照射時間 各 20 分 照射場所 Z = 9 mm, Z = 18 mm, Z = 25 mm Z = 9 mm のとき、1.2 μA Z = 18 mm のとき、1.1 μA 検出電流値 Z = 25mm のとき、1.2 μA Z = 9 mm のとき、1.14×1016(ions/cm2) ドーズ量 Z = 18 mm のとき、1.04×1016(ions/cm2) Z = 25mm のとき、1.14×1016(ions/cm2) ⑤ 12:46 開始(10mm,2 日目 2 回目の 0.5 倍のドーズ量)再加速なし 2 回目 表 4.11 C60+イオンビーム実験条件⑤ 照射条件 値 照射時間 91 分 オーブン電流 1.7A オーブン電圧 7.7V 加速電圧 5.0kV 分析磁場コイルの電流値(設定値) 112.780A (検出値) 113.285A 集束レンズ電圧 4.42kV マイクロ波周波数 9.8GHz ファラデーカップ電流値(ECR) 10.6nA ファラデーカップ電流値(標的槽、開始時) 3.5nA ファラデーカップ電流値(標的槽、終了時) 3.7nA 31 分後終了 F-17 ⑥ 12:20 開始(25mm, 3 日目 1 回目の 3 倍のドーズ量)再加速なし 3 回目 表 4.12 C60+イオンビーム実験条件⑥ 照射条件 値 照射時間 91 分 オーブン電流 1.7A オーブン電圧 7.7V 加速電圧 5.0kV 分析磁場コイルの電流値(設定値) 112.690A (検出値) 113.190A 集束レンズ電圧 4.42kV マイクロ波周波数 9.8GHz ファラデーカップ電流値(ECR) 10.6nA ファラデーカップ電流値(標的槽、開始時) 3.7nA ファラデーカップ電流値(標的槽、終了時) 3.9nA 91 分後終了 4.5 SEM による観察 使用した SEM は Bio-Nano Center の HITACHI SU6600。 東洋大学バイオ・ナノエレクトロニクス研究員の黒須俊治氏に SEM の操作をご指導いただ き、観察を行った。 加速電圧は 5kV で 1 つの条件ごとにいくつかのデータを取った。 また、今回の観察では EDX 観察も行った。 F-18 第 5 章 結果と考察 5.1 C60+イオン照射結果 ここでは、4 章で記した各条件の下、ドーズ量を計算した。 5.1.1 予備実験結果 ・30 分 {(2.25+2.80)×10-9/2}×60×30/(1.602×10-19×0.8×0.75)=4.72×1013 ions/cm2 ・60 分 {(2.44+2.15)×10-9/2}×60×60/(1.602×10-19×0.8×0.75)=8.59×1013 ions/cm2 ・120 分 {(2.15+2.49)×10-9/2}×60×120/(1.602×10-19×0.8×0.75)=17.4×1013 ions/cm2 5.1.2 開発した標的台による実験結果 各照射実験におけるドーズ量計算 ① {(1.95+1.25)×10-9/2}×60×45/(1.602 ×10-19×0.785)=3.43×1013 ions/cm2 ② {(1.25+0.95)×10-9/2 }×60×45/(1.602×10-19×0.785) +4.3×10-9×60×45/(1.602 ×10-19×0.785)=8.13×1013 ions/cm2 ③ {(2.3+2.5)×10-9/2}×60×99/(1.602 ×10-19×0.785)=11.3×1013 ions/cm2 ④ 2.5×10-9×60×90/(1.602×10-19×0.785)=10.7×1013 ions/cm2 ⑤ {(3.5+3.7)×10-9/2}×60×31/(1.602×10-19×0.785)=5.1×1013 ions/cm2 ⑥ {(3.7+3.9)×10-9/2}×60×91/(1.602×10-19×0.785)=16×1013 ions/cm2 表 5.1 照射結果のまとめ Z(mm) 照射結果 まとめ 新標的真空槽 照射時間 ドーズ量 再加速電圧 ファラデーカ (min) (ions/cm2) (kV) ップ電流値 (nA) 1 日目 ① 10 1.95→1.25 45 3.43×1013 ② 25 1.25→ 45/30 8.13×1013 -5 0.95/4.3 2 日目 3 日目 ③ 10 2.5→2.3 99 11.3×1013 ④ 25 2.5 90 10.7×1013 ⑤ 10 3.5→3.7 31 5.1×1013 ⑥ 25 3.7→3.9 91 16×1013 F-19 なし 5.2 SEM による試料観察結果 ここでは SEM で観察した画像と元素分析による定量結果を示す。 予備実験では SEM 観察は行っていないため、ここでは開発した標的台による実験の結果を 記載する。 まず未照射のチタン表面画像を図 5.1 に示す。 定量結果 質量濃度[%] C 2.6% Ti 97.4% 図 5.1 未照射チタン基板の SEM 観察結果 F-20 開発した標的台による実験結果 ① 定量結果 質量濃度[%] C 9.7% Ti 90.3% 図 5.2 ①の SEM 観察結果 ② 定量結果 質量濃度[%] C 6.6% Ti 93.4% 図 5.3 ②の SEM 観察結果 F-21 ③ 定量結果 質量濃度[%] C 7.2% Ti 92.8% 図 5.4 ③の SEM 観察結果 ④ 定量結果 質量濃度[%] C 4.8% Ti 95.2% 図 5.5 ④の SEM 観察結果 F-22 ⑤ 定量結果 質量濃度[%] C 6.7% Ti 93.3% 図 5.6 ⑤の SEM 観察結果 ⑥ 定量結果 質量濃度[%] C 3.3% Ti 96.7% 図 5.7 ⑥の SEM 観察結果 F-23 EDX観察の炭素比率の照射量変化の依存性 12 炭素比率(%) 10 8 6 4 y = -4E-14x + 10.085 2 0 0 5E+13 1E+14 1.5E+14 2E+14 ドーズ量(ions/cm2) 図 5.8 EDX 観察の炭素比率の照射量変化の依存性 5.3 考察 予備実験ではスリットの形に合わせた照射跡が肉眼では見られたが、後の実験では肉 眼による観察では変化は見られなかった。 開発した標的台による実験のドーズ量変化と SEM 観察の結果で、照射量が多く照射時間 が長いほどほとんどの条件で炭素の比率が低くなっていることから、炭素の比率は照射時 間に比例して減少しているものと考えられる。 チタン基板表面が粗く均一でないため、フラーレンイオンの層が一様に形成できておら ず、SEM の観察場所によって炭素比率の違いがでているとも考えられる。 SEM 観察したのが照射実験から 1 ヶ月後であったため、表面の炭素含有量が時間と共に 減少した可能性も考えられる。 SEM の画像から、未照射の基板(図 5.1)に比べて、照射した 6 つの基板(図 5.2~5.7)には 明らかな凸凹の構造が見られることから、炭素の膜ができているものと考えられる。 図 5.8 から、表面炭素原子の比率が C60+イオン照射量に対して負の相関を示すことがわ かった。 この実験による照射が元々あった不純物炭素原子のクリーニングになってしまい炭素の 比率が低くなってしまった可能性も考えられる。 SEM 画像では明らかに堆積していることが分かるが、今回の実験の照射エネルギーが高 すぎていたため、堆積した C60+イオンを破壊してしまっている可能性も考えられる。 SEM の電子ビーム照射によって堆積物が飛散している可能性も考えられる。 F-24 第 6 章 まとめ 1. 10keV までの照射が可能なイオン照射用標的支持台を開発し、チタン表面への C60+ イオン照射実験を行った。 2. 5keV と 10keV のエネルギーにおいて、 さまざまな照射(ドーズ)量のイオン照射を行い、 その後の表面状態を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。 3. SEM による表面モホロジー観察の結果、C60+イオン照射部分に機械研磨跡とは異なる 形状変化(数μm 程度)が観察された。 4. SEM の電子線励起特性 X 線を観測し、表面炭素原子含有量を評価したところ、C60+イ オン照射量に伴って炭素原子含有量がわずかに減少する傾向を示した。 以上の結果から、10keV 以下の低エネルギーC60+イオン照射により、チタン表面の有意な 表面形状変化は観察されたものの、照射量に対して正の相関を持つ炭素原子の蓄積(吸着、 注入、置換)は見られないことが分かった。したがって、低エネルギーC60+イオン照射では、 表面形状変化による生体適合性は期待できるが、炭素修飾によるそれは現段階では期待で きないと考えられる。 今後の課題 ・1 度に多数の照射が可能な標的台を開発し、データをさらに蓄積する必要がある。 ・酸素やフッ素などの化学的に活性なガスを導入し、イオン照射反応と同時に表面励起反 応を誘起することで表面改質を促進できるかどうかを検証する必要がある。 F-25 参考文献 1) 石川順三, アイオニクス叢書 イオン源工学, アイオニクス株式会社 (1986). 2) 石川順三, 荷電粒子ビーム工学, コロナ社 (2008). 3) 山田聰, 加速器によるがん治療の最前線, 日本物理学会誌 61 (6) (2006) 401-407. 4) 多田順一郎, わかりやすい放射線物理学 改訂 2 版, オーム社 (2011). 5) 5) M. Tanomura, D. Takeuchi, J. Matsuo, G.H. Takaoka, I .Yamada, Fullerene ion irradiation to silicon, Nucl. Instrum. Meth. Phys. Res. B 121 (1997) 480-483. F-26 謝辞 本論文の作成にあたり、終始適切な助言を賜り、また丁寧にご指導をして下さった本橋 健次准教授に感謝の意を表します。 東洋大学の内田貴司特任准教授、吉田善一教授、峰崎英和氏、大島康輔氏、石原聖也氏 には、研究の実施にご協力頂きました。本当にありがとうございました。 そして、原子物理工学研究室の鈴木優紀氏、秋山亮一氏、吉田拓美氏、倉持喜香氏、高 見絵里香氏、清木悠介氏 1 年間ありがとうございました。 F-27 付録 1.【卒業論文要旨】 F-28 F-29 2. 【 「理工学部・生命科学部研究者交流会」の発表ポスター】 F-30 3. 【設計図】 F-31 F-32 F-33