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アジアの水田農業と総合的生物多様性管理の課題

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アジアの水田農業と総合的生物多様性管理の課題
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アジアの水田農業と総合的生物多様性管理の課題
桐谷圭治 (農業環境技術研究所・名誉研究員)
アジア環境創造型稲作会議 2013、20130810 小山市
1. アジアの稲作を取り巻く環境と自然保護
現在、世界の栄養不足人口は8億7千万。そのうち5億 6300 万(65%)がアジアに住む
(FAO 2010)。Pearl ら(1936)は世界人口の予測を 1650~1932 年間の動きから、2100 年
には平衡値の 26 億 5000 万に達すると予測した。この予想は見事に覆され、2000 年の世界
人口は 60 億、2050 年に 96 億、2100 年には 109 億に達する (国連世界人口白書 2013)。4
日ごとに 100 万人(1万年前の地球人口 600 万)増加する人口を養うためには、食糧生産
を 2050 年には 2000 年の 1.55 倍に増やす必要がある(農水省 2012)。イネは世界で 1 億 5 千
万 ha に栽培され、生産量は 4 億 8 千万t(2013 年度)、その 90%はアジアがしめている。
需要に対して生産量は大きな余裕がなく、5%の不足で価格は 2 倍になると言う。
2000 年代の最初の 10 年間に、全世界で過度の放牧や森林の過剰伐採で 40 万 km2(日本の
全面積 37 万 km2)以上減少した (FAO 2010)。さらに、窒素肥料や化学農薬の使用量の増加、
淡水資源の枯渇、気候変動(1℃の上昇は 7%のコメの減収をもたらす)などから、農業生産
を抑制する要因は増加している。農地の増加が期待できない中で、激増する人口を養うた
めには、農業の「Save and Grow (節約して増収する)」(FAO 2011)を実現しなくてはならな
い。これがアジアモンスーン地帯の水田農業に課せられた責務である。
これまでの自然保護は、人手が加わっていない自然を守るため、その一部を切り離して
囲い込むことであった。そのため農業は自然破壊の最たるものと位置づけられていた。事
実、地球温暖化、酸性雨, 有機塩素系物質の極地への転流など人間活動がもたらす環境変
化が地球の隅々にまで及んでいる。したがって自然保護と農業の関係を敵対的に捉えるの
ではなく、両者の協調・共存を図りながら持続可能な農業を築いていく必要がある。農地
での有害生物の管理(IPM:Integrated Pest Management)と自然保護(保全)の両立を図る
ものとして総合的生物多様性管理(IBM: Integrated Biodiversity Management)が提案され
た(桐谷 1998;Kiritani 2000)。これが生産と環境の保全の両立を目指すアジア型持続的農
業の姿である。
2. 緑の革命を脅かすイネウンカの大発生とその教訓
アジアの熱帯圏では、1960 年代初めに国際イネ研究所(IRRI)が育成した高収量品種 IR8
が放出され、無機肥料の多投入、殺虫剤の使用がパッケージとして普及した。この品種の
多収性は N 肥料なしには実現されないこと、また害虫による減収は 40%(この数値は過大推
定だと最近批判されている)に達するからである。このいわゆる 「緑の革命」は飛躍的な
食料の増産(1965~2010 間に 2.9 倍で人口増加率を上回る)をもたらしたが、殺虫剤によ
って天敵相が破壊され、それまで温帯圏の日本と韓国以外では害虫として知られていなか
ったトビイロウンカの大発生に見舞われた。その後いくつかのトビイロウンカ抵抗性品種
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が開発されたが、栽培開始後、数年でそれらの抵抗性品種を加害できるウンカ系統が出現
し無効化した。
本種の大発生は 1970 年代、1990 年代にインドから韓国を含むアジア諸国で起こり「緑の
革命」を脅かしている。さらに 2005 年になってハイブリッド米の普及により、セジロウン
カ、ヒメトビウンカがこれに加わり、中国をはじめ熱帯アジア全域を脅かすに至った。ネ
オニコチノイド系の殺虫剤イミダクロプリドに対し、1990 年代初めに比べ 1000~2000 倍の
抵抗性が発達したからである。これらのイネウンカ類は気流に乗って移動する。日本に飛
来したヒメトビウンカは日本土着のフィプロニル抵抗性個体群と交雑し、両薬剤に抵抗性
の個体群が九州では見られる。同時に西日本や韓国でのイネ縞葉枯病の発生を 2008~9 年
にもたらした。またセジロウンカが媒介するイネのウイルス病(南方イネ黒条萎縮病)もも
たらされている(寒川 2010、Bottrell & Schoenly 2012、NARO 2012、Islam et al. 2013)。
イネ害虫の研究は、アジアでは 1950~1970 年代は殺虫剤が中心であったが、1970~1980
年代は抵抗性品種の研究、1980 年代以降は土着天敵利用を中心とした IPM の研究が主流に
なった。その結論は、非選択的な殺虫剤の使用は、水田生態系の複雑な食物網を攪乱し、
害虫の誘導異常発生をもたらすこと。農薬に依存しない伝統的な水稲生産システムこそが、
自然のバランスを維持し、害虫の大発生を避けることが出来るということであった。FAO と
アジア各国では、「Save and Grow」(FAO 2011)を合言葉に、抵抗性品種の利用、殺虫剤の
削減(移植 40 日以内はクモなどのエサ動物を保護するため使用しない)、播種密度の減少、
広域の同期移植の回避、化学肥料の削減、天敵保護のための畦畔植生の管理、農薬購入補
助金の廃止、農民学校を通じての IPM の普及を指導している。そして 1 作期に 3 回以上の
殺虫剤散布、100kg/ha 以上の N 肥料の使用は、ウンカの大発生を招く事になると各国に警
告している(Islam ら 2013)。
3. 水田生態系と生物多様性
水田節足動物相は 3 つのグループから構成されている。イネの連続栽培を反映した定住
性昆虫(ニカメイガ、クロカメムシ、コモリグモ類など)と1年生作物としての非連続性を
反映した移動性昆虫(トビイロウンカ、コブノメイガ、カタグロミドリカスミカメなど),
さらに後背湿地の生物相を反映した止水性水生昆虫(ゲンゴロウ類、タガメ、ミズカマキ
リ、赤トンボなど)から成り立っている。
トビイロウンカはセジロウンカとともに日本では越冬出来ない。周年発生地の北ベトナ
ムの紅河デルタで発生したウンカが、最初の移動先の中国南部で繁殖し、梅雨前線ととも
に日本に運び込まれる。モンスーンに依存した移動は数百から 2000km の大規模なものであ
る。ウンカの発生量と最寒月(1 月)の気温は相関する。暖冬年の 1987、1991 年には紅河デ
ルタのみならず中国でも大発生した(寒川 2010)。中国大陸からは、これ以外にもコブノメ
イガ、アワヨトウ、ハスモンヨトウ、ウンカの天敵であるカスミカメムシ類も飛来する。
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水田は氾濫原や自然湿地を農地に転用したものである。今では水田がこれら氾濫原や自
然湿地の代替生息地としての役割を果たしている。タガメなどの水生カメムシ類、ゲンゴ
ロウなどの水生甲虫類は、ため池と水田を使い分け、田植えのために水田に水が入ると,
成虫はため池から水田に産卵のため飛来する。幼虫は食物の豊富な浅水域の水田で成育し
たのち、新成虫が再びため池にもどる(日比ら 1998;西条 2001)。水田には6種のアカネ
属とノシメトンボの 7 種が産卵する。翌春、水が入ると一斉に孵化し水田で成育する。ま
た隣接林地は、ミヤマアカネを除くすべての種の前繁殖期の生息地となっている(田口・
渡辺, 1985)。
水田で生育する昆虫も、全生活環を水田で完結する種はサンカメイガ(現在日本からは絶
滅)以外ほとんどない。水田生態系は水田だけに限られた閉鎖的なものではなく、水田生物
の行動を通して畦畔、水路、ため池、休閑田、周辺農地、雑木林、遠隔地の越冬場所まで
及ぶ(図 1)。水田生態系の生物多様性を保持するためには、これらを含めた里地里山の管理
方式、すなわち IBM が求められる。
「田んぼの生きもの全種リスト」(桐谷編 2010) によると、総数 5668 種のうち、水田生
態系における昆虫・クモ類は、1,867 種に上る。そのうち害虫は 177 種、益虫は 155 種で、
差し引くと 1,535 種、82.2%が「ただの虫」に入り圧倒的シェアをしめている。「ただの
虫」はたんに害虫でも益虫でもない昆虫というだけで、無意味な存在ではない。生態系に
おいて彼らが果たしている役割を我々がよく知らないだけなのだ。
水田に沢山いるコモリグモはツマグロヨコバイの有力な天敵である。事実、田んぼでそ
の捕食活動を徹夜で観察すると、その食物メニューの 7、8 割をヨコバイが占めていた。そ
こでコモリグモ孵化幼生にツマグロヨコバイを与えて飼育したが、成虫にまで発育しない。
ところが水田にいるユスリカなどの「ただの虫」を餌に加えてやると成虫になる。また雌
成虫も、ツマグロヨコバイを与えるだけでは、産卵数は少ないが、幼生と同様に混合餌を
与えると産卵数は飛躍的に増える。天敵が有効に働くためには害虫のみならず「ただの虫」
をふくめた多様な昆虫相が餌として必要なのである。
アジアにおける水田を中心とした節足動物相(昆虫、クモ類を含む)の報告を第 1 表に示
した。調査方法や目的が異なるため相互の比較は困難であるが、全体を通じての結論は、
ある地域を対象とした場合、約 600 種の存在が期待され、そのうち植食性は 30%、捕食性
と寄生性をあわせた天敵は 50~60%、腐食性は 10~20%とみなせる。植食性で害虫とみな
されている種は 1/3 の 10%である。実害をもたらす害虫はさらに少なく生息種のわずか1%
に過ぎない。
4. IPM から IBM(総合的生物多様性管理)へ
日本における20世紀の水稲害虫防除を振り返ってみると、1945 年までは植物保護の時
代でどの防除手段も決定的な効果はなかった。このためタガメも赤トンボも普通にみられ
多様性は消極的ながら保全されていた。合成農薬が登場した戦後は、「一匹でも害虫がい
4
れば消毒する」すなわち作物以外の生物は天敵もふくめすべてを否定する化学的消毒防除
の時代であった。その結末は、害虫の薬剤抵抗性の発達、食品や環境への残留、天敵相の
破壊による新害虫の異常発生、各種の「ただの虫」を含む生物相の破壊であった。戦後の
稲作農業は乾田化と生産性向上が両輪となって進められた。すなわち構造改善事業により
水田の 1/3 を占めていた湿田を乾田化するとともに、転作も可能なように、コンクリート U
字溝、パイプ化、水の取り入れと排水の分離を進めた。また栽培技術では農薬、化学肥料、
機械化、特定の品種により高位収量、省力化をめざした。これらは水田に直接・間接的に
依存する各種の生物の生息場所を奪ったばかりか、食物連鎖の攪乱から、時として特定の
病害虫の異常発生をもたらした。
その反省として提示されたのが IPM(総合的有害生物管理)である。「あらゆる適切な技術
を相互に矛盾しない形で使用し、経済的被害が生じるレベル以下に害虫個体群を減少させ、
かつその低いレベルを維持する為の害虫個体群の管理システムである」。これは日本では
1960 年代後半から提唱されているが、広く受け入れられるようになったのは 1980 年代後半
からである。IPM では,害虫も天敵が生存するための必要条件であり、害虫を撲滅するので
はなく「ただの虫」にすることによって「害虫との共存」をめざす(桐谷 1973)。
IPM は 1950 年代末にカリフォルニア大学の人達が提案したのがその始まりである。後述の
ように、米国農業の経営規模は日本の 100 倍も大きく、その発想基盤が異なる点に留意す
る必要がある。したがって IPM では,経済的被害許容水準(EIL)、要防除密度、重要害虫、
費用 / 便益 比などの経済的概念がキーワードになっている。サンカメイガのように,害
虫が IPM の過程で絶滅しても、害虫であるがために問題にしない。また害虫の少ない時期
に害虫に代わって天敵の餌になるユスリカなどの「ただの虫」や水生昆虫の保護管理につ
いては必要な保全努力は払われてこなかった。IPM も生産を最終目的とする農生態系ではし
ばしば自然保護、保全と対立する。
1970 年頃から導入された減反政策で、イネの作付面積は半減(345 万 ha から 170 万 ha
へ)している。かつて全国には 30 万近くあったため池が、1989 年には約 21 万に減少して、
水生昆虫の生息場所の減少に追い打ちをかけている。減反と乾田化(1945 年頃は 1/3 が湿
田)、灌漑システムの近代化がいかに水生生物の生存を脅かしているかは、この数値の推
移からも想像できる。またコメ余りによる減反がもたらした休耕田は、カメムシ類の繁殖
場所となり、その加害による斑点米はコメの品質低下をもたらし、農薬散布を不可欠にし
ている。
世間では食品の安心・安全の声が高い。しかし安心・安全は消費者と生産者だけのもの
であってはならない。農地にいる多くの生物たちにとっても安心・安全な環境であること
が望ましい。絶滅の危険を伴う極端な低密度と同様に害虫の大発生は,昆虫にとっても異
常なのである。もしわれわれが、害虫を含むすべての生物の密度を異常でない普通の範囲、
「ただの虫」として管理できれば、使用する農薬も必要最小限になり、消費者、生産者、
農地の生物にとっても安心・安全な環境が出現する。
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自然保護の立場では、危急種や希少種の密度を絶滅閾値以上に高め維持することが要求
される。しかしタガメの例でも分かるように、増えすぎると逆に害虫(養魚場の)になる。
したがってその密度が被害許容水準を越えないように管理する必要もある。害虫について
も同様である。このような管理法を IBM という(図2)。ここでは生態系内のすべての生物
との積極的な共存がそのキーワードである。
5. IBM の実行と今後の課題
1)IBM の時間・空間的基準
日本国土の 4 割を占める里地・里山は、水田、林地、草地、畑作地、果樹園、ため池な
どの複数の生態系から構成され、適度な人為的攪乱によって形成・維持されている異質性に
富んだモザイク状のランドスケープである。農地を含む里地・里山には絶滅危惧種の 5 割
が生息する。
農地の所有面積の比較を日本、欧州、米国間ですると、それぞれ 2ha, 40ha, 200ha とな
り、オーストラリアやブラジルは日本の 1000 倍といわれている。日本は所有面積ではアジ
ア諸国の上位にある。したがって日本をアジアと言い換えてもよい。いま仮に 200ha(一辺
1400m の正方形)を日本の農業地域にあてはめると、里地・里山のすべての要素、すなわち、
農家、水田、ため池、畑、果樹園、林地がモザイク状にその区画内に見られる場合が少な
くない。したがって生物多様性を国際間で比較議論する場合には、例えば面積の基準を 1
㎢(100ha)を単位として論じることで、米国などの1,2品目の単一大規模栽培と異なり、
アジアの水田を中心とする里地・里山が異質性に富んだモザイク状のランドスケープとし
て説得力を持つばかりか、IBM を実行する空間的国際基盤となる。
2)IBM の基盤としての多様性・異質性の維持・管理
生物多様性の基礎となるものは、遺伝子、種、生態系の各レベルの多様性である。すな
わち遺伝子レベルでは、品種、耐虫性・耐病性、作物の補償能力などが、種レベルでは、
捕食者、捕食寄生者、花粉媒介虫、ただの虫の種数と個体数が、生態系レベルでは生物間
の相互作用、土地利用の在り方、人為的攪乱の程度などが多様性を左右する。
水田は食料生産の場であるとともに、自然湿地の代替地である。系の持続性を重視し、
収量第一主義をとらない。そのためには水田の内外に、種の生存に必要な生息場所のセッ
トと補給源を移動可能範囲内に確保することも必要である。IBM の実行にはハードとソフト
の両面がある。有害生物管理手段の適切な選択と適用が不可欠で,耕種的手法を中心に土
着天敵,抵抗性品種を利用する IPM を確立し,天敵やただの虫に影響の少ない選択的農薬
を必要最小限に使用を制限する。また水生生物の生息・産卵場所としての水田雑草の役割
を評価する必要がある。水田への外来生物の侵入は最大限阻止するとともに外来種が定着
しにくい条件とは何か、さらに全ての構成種がただの虫であるための生物群集の構造(例、
天敵と餌生物の密度比)はどんなものであるべきかを明らかにする必要がある。
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防除費用と増収効果の比較で設置されてきた経済的被害許容水準も,作物の補償能力ば
かりか、「害虫なしには天敵なし」の認識に立って、ただの虫の密度も考慮して、より高
い被害許容水準の設定努力が必要である。IBM の実行によって,すべての生物との共存が実
現すれば,本当の意味での安心・安全かつ持続的な農業が成立する。
水田の用排水路はパイプライン化、コンクリの3面張り、排水路のコンクリ化がすすめ
られてきた。生物多様性を保持するためには、水路は土または類似構造として、直線化を
さけ、屈曲や水深、幅の異なる部分を作って変化をつける工夫が必要となる。また魚類保
護には遡上して水田への侵入を容易にするため、水路と田面の水位の大きな落差は避けな
ければならない。このようなハードの面の見直しと、耕起、中干し、湛水管理、施肥など
のソフト面も見直し、改善する必要がある。個々の技術の評価はそれぞれの地域の条件に
よって異なってくる。これらを生態工学的に総合化するのも IBM の任務でもある。
3)田んぼの生きもの調査と生物指標
水田生態系の IBM をすすめるためには、前述したように管理手法の改善が必要なばかり
か、水田での生物多様性を農家のみならず、一般市民にも認識してもらう必要がある。さ
らに多様性を高める各種の管理行為に対して、直接支払いのような経済的支援も必要にな
る。そのための第1歩として、農家個人のみならず NPO などの団体グループの参加による
「たんぼの生きもの調査」を虫見板やたも(網)を使って実行することである。同時に「生物
指標マニュアル」(農水省 2012)(表2)などを利用して、水田の多面的機能の一部である田
んぼの生物多様性を数値化し、環境支払いによる IBM の支援を図る。また教育課程にも取
り入れることによって、自然を見るまなざしを養う努力も必要である。
6.結論
1950 年代に時の要請で日本国土の 28%を針葉樹の植林による拡大人工造林が実施された。
外材の輸入や燃料革命、管理者の高齢化により放置された植林地では、20 年後には花粉生
産を開始した。50 年後では、造林地で増殖したシカ被害、温暖化が後押しする花粉生産と
花粉症の流行、ここで育ったカメムシによる果樹の全国的な被害の拡大はわれわれの予想
を越えたものであった。
「風が吹けば桶屋が儲かる」の小話のように生態系の動向予測には不確定性がともなう。
また表面化するまでにかなりの時間遅れを伴うこともある。しばしば個別に扱われる現象
は,相互に連関を持っている。これらのことを念頭に置いて,IBM の実行の指針としなけれ
ばならない。その前提として里地・里山の中心的生態系である水田は何としても守らなけ
ればならない。
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主な参考文献
IPM マニュアル編集委員会(2004)IPM マニュアル. (独法)中央農業総合研究センター
Islam Z., Heong K.L., Catling D., Kiritani K. (2012) Invertebrates in rice production systems: Status and trends.
Commission on genetic resources for food and agriculture. FAO. Background study paper no.62, 91pp.
石井実監修・日本自然保護協会編(2005)生態学から見た里やまの自然と保護. 講談社サイエンティフィク
桐谷圭治(2004)[ただの虫]を無視しない農業. 築地書館
桐谷圭治編(2010)田んぼの生きもの全種リスト)田んぼの生きもの全種リスト.農と自然の研究所
小山重郎(2013)昆虫と害虫. 築地書館
水谷正一(2007)水田生態工学入門. 農山漁村文化協会
農林水産技術会議事務局ほか(2012)農業に有用な生物多様性の指標生物調査・評価マニュアル
寒川一成(2010)緑の革命を脅かしたイネウンカ. 星雲社
宇根豊(2010)農という生き方、それを支えている自然. 環境教育センター
矢野宏二(2002)水田の昆虫誌. 東海大出版
表1
アジアの水田生態系の節足動物相
捕食寄
国名
報告者
総種数
植食性
捕食性
腐食性
注
生性
バングラディシュ
インドネシア
日本
Islam et al. 2003
355
35%
33%
32%
-
Islam & Catling 2012
612
43.5
26.6
29.9
-
Catling 1980
369
20.3
12.3
24.6
42.6
浮きイネ
寒川 2010
835
21
37
23
19
FAO,IPM project
Settle et al. 1996
765
16.6
40
24.4
19
Java 中部
47.4
18
26.6
7.9
水生昆虫は除く
小林ら
1973
567
桐谷編
2010
1867
害虫 9.5%、天敵 8.3%
ただの虫 82.2%
韓国
Bang et al. 2009
388
ラオス
Rapusas et al. 2006
748
フィリピン
Heong et al. 1991
212
Barrion et al. 1994
142
31.1
35.6
25.5
7.8
1995 年に 57 圃場
IRRI 圃場無処理区
45.6(寄生性
46.2
8.1
IRRI 圃場農薬散布区
も含む)
スリランカ
平均
Bembaradeniya et al. 2004
494
612
49.3(寄生性
イネ害虫 55 種、ただの
も含む)
虫 150 種
26.3
31%
28%
26%
16%
8
表2
図1
図2
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