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インド進出企業の法的リスク

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インド進出企業の法的リスク
インド進出企業の法的リスク
平成24年8月
中央大学法科大学院
教授
棚
瀬
孝
雄
目次
第一章 調査の目的・方法 ........................................................................................... 3
1 問題意識............................................................................................................. 3
2 調査対象............................................................................................................. 3
3 被調査企業の選定............................................................................................... 4
第二章 調査結果 ......................................................................................................... 5
Ⅰ インド進出企業の動機・進出態様 ...................................................................... 5
1
販売体制の強化 .............................................................................................. 5
2
現地生産の選択 .............................................................................................. 7
1)インドの労働賃金は安くない。 .................................................................. 7
2)労務管理が難しい。 .................................................................................... 8
3)外資への優遇策がない。 ............................................................................. 9
4)部品の現地調達が困難である。 .................................................................. 9
5)駐在員の生活面の困難もある。 ................................................................ 10
合弁及び企業買収 ......................................................................................... 10
3
1)共同出資による設立 .................................................................................. 11
2)地元企業の買収 ......................................................................................... 11
現地法人のメリット ..................................................................................... 13
4
Ⅱ インド進出企業のリスク .................................................................................. 15
設立に伴うリスク ......................................................................................... 15
1
1)設立は,コンサル会社に頼んで行う ......................................................... 15
2)合弁企業設立の場合は,本社法務部が関係する ....................................... 16
1
3)契約だけではリスクが取り除けない ......................................................... 16
事業に伴うリスク ......................................................................................... 17
2
1)巨大長期投資のリスク .............................................................................. 17
2)行政のリスク ............................................................................................ 18
3)代金回収のリスク ..................................................................................... 20
4)労務管理のリスク ..................................................................................... 21
Ⅲ まとめ .............................................................................................................. 22
1
「インドの企業となる」=インドとともに成長する .................................... 22
2
「リスクには理屈がある」=原則に帰って回避する .................................... 23
3
「紛争はローカルに解決する」=インドの法はインドの法律家に任せる .... 24
4
「進出の骨格は本社が作る」=企業進出は全社的な経営判断で行う ........... 25
5
「利益になれば弁護士に外注する」=残余リスクの減少を図る .................. 25
付録 ............................................................................................................................ 27
1 資料 .................................................................................................................. 27
2 インド滞在時の写真 ......................................................................................... 55
2
一 調査の目的・方法
1 問題意識
日本企業の海外進出が加速している。国際的な市場競争が強まり,成長のめざましい市
場を取り込み,また,豊富で安価な労働力を用いて企業が競争力を高めるためであるが,
同時に,国内市場の頭打ちや,労働力不足,円高などの国内的な要因も,大企業だけでな
く,中小の企業も含めて海外に目を向けざるを得ない理由となっている。
しかし,企業にとって,海外進出は,投資の環境が必ずしも整っていない,また,言葉
や文化,商慣習も異なる社会に出てビジネスを行う,リスクを伴う決断である。実際,進
出しても,撤退せざるを得ないケースは少なくない。とくに,未だ発展途上にあり,イン
フラ整備が遅れている国に進出する場合には困難も倍加する。
本調査は,この企業の海外進出に伴うリスクが実際どのようなものか,また,企業はそ
れをどのように克服しているのか,検証しようと企画したものである。とくに,著者は,
法科大学院の教授であり,司法制度改革が目標に掲げた,企業取引に明るい,競争市場で
リスクを取って行動する企業の力強い味方になるような法曹の養成をどのように行ったら
よいかという問題関心もある。
また,最近,弁護士会では,商工会議所等と連携して,海外進出を考えている中小企業
に対し,必要な法支援を提供できる態勢を作ろうと取り組みを始めている(1)。海外進出の場
合,契約一つかわすにも隠れたリスクがあって,不測の損害を被る恐れが強いが,中小企
業の場合,この法的リスクを調べ,対策を取るということをしないか,できないことが多
く,そのために,国の方で,リスクの啓発と,弁護士への相談態勢を整備して,海外進出
を側面から支えようというのである(2)。
こうした法曹教育と法支援の関心からも,まず実態を知る必要があると考え,調査を企
画した。
2 調査対象
(1)日弁連ニューズ 2012 年 4 月 4 日。東京商工会議所や中小企業基盤整備機構等からヒアリングを
行った結果,「国際事業展開の際には,事前の法的分析や契約(審査)が極めて重要であるにも関わ
らず,中小企業ではその認識が不足しているため,海外進出後にトラブルを抱えてしまうことが多く」,
国際法律業務に精通している弁護士へのアクセスの確保が必要としている。
(2)「海外進出に対する企業の意識調査」(帝国データバンク,2012 年 5 月)によれば,今後2~3
年の間に海外進出を見込む企業がサンプル中 14%であり,その際,海外事業の障害や課題となるこ
ととして,もっとも多くあげられたのが,「法規制・制度の違い」(38%)であり,次いで,「文化商
慣習の違い」
(32%)である。また,対応して,行政に期待するサービスとして,
「法規制・制度調査
支援」がダントツに多い(46%)
。
3
調査地には,インドを選んだ。インドは,とくに,近年その潜在的な市場の大きさから
注目を浴びている国であり,日本からの進出企業も急増している。2006 年 1 月には,247
社にすぎなかった日本からの進出企業が,2011 年 1 月には 2.7 倍の,672 社にもなってい
る(3)。しかし,中国と比較すると,事業所も含めた総数で,中国の 2 万 9959 社に対し,イ
ンド 1278 社と,23 倍もの違いがある(4)。また,中国には中小企業も多く進出しているのに
対し,インドではその比率は低い(5)。その意味では,まだ伸びしろを持った,企業進出の余
地の大きい国であるといえるが,同時に,中小企業には進出が困難な国でもある。
実際,今回の調査で訪問したジェトロの担当者は,インド・ビジネスの難しさに加え,
駐在員の生活の困難さが,中小企業には未だ重い負担になっているのではないか,と説明
していた。しかし,困難があっても,インドに進出する企業がさらに増えていくのは間違
いなく,新聞や経済誌には大型の開発プロジェクトや企業進出のニュースが溢れている。
上場の中堅企業や,中小企業もさらにインド市場に拠点を確立し,早晩,中国並みの進出
が果たされることと思われるが,この企業進出のインフラ作りのために,インドに固有の
リスクを洗い出すことは,マクロ経済的にも大切な作業といえる(6)。
3 被調査企業の選定
調査は2回に分けて行われ,1回目は,平成 24 年 2 月 20 日から 5 日間,プネーとムン
バイで,もう1回は,1ヶ月後の,平成 24 年 3 月 19 日から 4 日間,デリーで行われた。
いずれも,インドで現地法人を設立している日本企業を対象に,面接して話を聞く形で行
った。
被調査企業の選定は,ジェトロが調べ,ホームページで公開している「インド進出日系
企業リスト」から,一部上場の中堅企業を中心に,業種や法人形態にも配慮しながら行っ
た。中堅企業を選んだのは,大企業であれば,法務部や海外事業部などが経験を積んでお
り,また,必要に応じて外部の法律事務所に依頼して十分にリスクへの対応が既に行われ
ているであろうと思われたからである。逆に,非上場の中小企業では,まだインドの場合,
本格的な進出が少なく,リスク,とくに法的リスクについては調査するほどの実態がない
のではないかと思われて,今回は調査から見送った。
(3)帝国データバンク「インド進出企業の実態調査」
(2011/2/28)
。ジェトロの調べでは,
「拠点数」
(支
店・駐在事務所を含む)は,2008 年 1 月の 438 箇所が,2011 年 10 月には,1422 箇所と,4年弱で
3.2 倍になっている。
(4)2010 年 10 月外務省調べ。
(5)サンプルなので正確ではないが,中国では中小企業が 36%に達するのに対し,インドは 18%に
すぎない。JETRO「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査」
(2011 年 10 月)
。
(6)政府も,とくに中小企業の進出を後押しするために,インド政府にインフラ整備等の要請を行っ
ている。また,国内的にも,相談・情報提供での支援が考えられている。
「インド南部進出を後押し:
経産省訪印・中小企業の展開を促す」日本経済新聞 2012 年 1 月 11 日。
4
この選定の後,日本の本社に,調査の趣旨を書いて,現地法人を訪問することの許可を
求めた。日程的に差し迫った中での依頼であったが,幸い,多くの企業に好意的に対応し
ていただき,日程を調整して訪問予定をたてた。
許可を頂きながら,日程が調整できなかった企業もあったが,最終的に,14 社を訪問す
ることができた。巻末に,各訪問先での面接の要旨を,匿名性に配慮しながら,掲げてお
いた。この「面接の要旨」は,企業の生の声が聞ける貴重な記録である。実際,調査者も,
直接話を聞くことで,文献等で知る情報と違って,企業進出ということの意味を実感でき
勉強になった。
調査にご協力頂いた企業には,あらためてお礼を申し述べたい。なお,最終報告書を作
成する前の段階で,各企業には見ていただき,ご意見を頂き,報告書に反映させて頂いた。
二 調査結果
Ⅰ インド進出企業の動機・進出態様
最初に,インド進出を決断した経緯についてであるが,いくつかのパターンがある。
1 販売体制の強化
1つは,日本で製造した商品をインドで販売するものであり,当初,現地の代理店を通
して販売していたものを,販売体制を強化するために現地法人を設立した,というケース
である。
【D社】検査機器の製造メーカー。40年前から,当時は初歩的な実験機器を少量,大学
の研究所や製薬などの民間企業の工場・研究所に販売していた。その後,シンガポールに
拠点を置き,そこから運んで販売し,インド国内では代理店4社と20年以上に渡って良
好な関係を築いていた。
現在は,最先端の検査機器も含め,先進国並みに売れるようになってきたため,現地法
人を設立した。自前の販売拠点を持つことで,ショールームやラボを設置できるし,利用
のための技術指導や,故障や苦情への対応が可能になった。インドではまだ高額な商品で
あり,購入には慎重であるが,性能では妥協したくなく,購入前にセミナーに熱心に参加
し研究をしている。また,指導に当たるインド技術者の雇用定着にもなっている。
【A社】携帯電話会社に中継機設備を販売する大手電機メーカー。既に50年前に駐在事
務所を設置し,メーカーとしては古い。03年頃から携帯電話が普及し(2012年現在,
5
普及率75%),通信機がよく売れた。設置や修理等現地サービス対応する必要から,0
8年に現地法人対応開始。ただ,現在,携帯会社はインドでは乱立気味で,各社携帯料金
もぎりぎりまで下げて売るので,儲からないビジネスモデルになっており,その為,設備
投資抑制,購入の際も非常に価格にシビアな要求が出てくる事が多い。
【E社】銀行向けに正券と損券の識別,偽札の発見のための機械を販売。シンガポールに
拠点があり,代理店を通して販売している。シンガポールから年10回ほど来ていたが,
販売梃入れのため現地法人を設立,常駐するようになった。低価格汎用品ではインド企業
にコスト面で対抗できず,高機能品のみを販売している。まだ普及が遅れ,市場開拓の余
地がある。しかし,英独の企業と競合,英独は政治力を使って後押ししている。日本もし
てほしい。
<小括>
・この3社の場合,いずれも販売の実績があり,またD社やE社の場合,インドに拠点が
ないときも代理店と長期に良好な関係があり,そこから,販売力強化のために現地法人を
設立するのは,ある意味自然な展開である。あらためてF/S(フィージビリティ・スタ
ディ)は行わなかった,と答えている。
・また,A社の場合,携帯電話の普及があって販売が急に増えている。こうした長く販売
をしていても,停滞していたものが,何かのきっかけで急に売れるようになり,ブレイク
するという話は,次の,(2)で取り上げるB社の場合にも出てくる。
・E社の場合,銀行への機会の普及の遅れの話の中で,需要のない商品を売っても仕方が
ない。電気の通っていない村に電化製品を売ると言っても売れない」と,聞き方によって
は,インドの現状にあきらめとも取れる発言もあったが,その趣旨は,「売れるものを売
っていく」ということであり,(後のB社の発言にも),実際,シンガポールの拠点から
の販売を含めて長くインド市場を見てきた者の,インドで商売をするという覚悟を示すも
のなのであろう。
・A社の場合,モニターも販売しており,「韓国製品が安くて泣いていますよ」と言って
いた。また,E社のように,欧米,とくにヨーロッパの企業がインドでは手強い相手とな
っていることは,他にも,G社,J社,N社などからも聞き,あらためて,インド市場の
グローバル性とともに,歴史的なヨーロッパとのつながりを感じる。
「インドはアジアでない」という話を調査の過程でよく聞いた(後のI社など)。それ
は,「インドはインドだ」ということであり,インドはヨーロッパだという意味ではない。
海外進出し,市場の中で揉まれることが,異質な人間のぶつかり合いであり,それゆえに
6
また,最後は個人に還元されることを,インドに進出し,その進出企業の最前線で働く者
は身をもって実感しているのであろう。それこそが,グローバルな社会の本来の姿でもあ
る。
2 現地生産の選択
インド進出に当たって,現地に工場を作って生産し販売する,さらには,輸出するとい
う選択肢もあるが,日本からの輸入販売のみに特化する企業もある。その最大の理由は,
一見意外だが,現地生産しても安くならないという判断である。
【B社】時計や卓上計算機,電子楽器などの製造販売。
95年頃,家電メーカーの第1次海外進出ブームがあり,96年4月に合弁でポケベル
の販売を始めた。しかし,「インドビジネスはきつい。一緒に仕事をするのが大変。一つ
の田んぼを2人で耕すと,どちらが肥料のお金を出すかとか色々揉める」。結局,ポケベ
ルも時代に合わず合弁解消。株を引き取った。ちなみに,合弁相手は当時まだ小さかった
が,兄弟でやっていて,その後,通信関係で大企業に成長した。
その後,完成品の輸入が認められたので,電卓や時計の輸入販売を行った。しかし,8
0%もの高関税であり,時計は地元メーカーが市場を独占していた。また,シンガポール
(関税なし)から密輸入するグレーな商法もあり,販売は低迷した。しかし,05年頃か
ら関数電卓が売れ始め,また,インドリズムを取り入れた電子楽器がブレイクし,爆発的
に売れた。
現地生産はしない。「インドで作ってもコストが下がらない」から。労務管理の問題に
加え,部品を日本から持ってくればやはり関税がかかるし,自動車など,もっと大きいも
のであれば別だが,多品種少量生産ではメリットが少ない。
むしろ,「売れるものを売る」,販売拠点をもっと持ちたい。
<小括>
・現地生産をしないという経営判断には,多くの要因が関係するが,今回の調査で,B社
を含め,よく聞いた理由には,次の5つがある。
1) インドの労働賃金は安くない。
平均賃金は低いが,活発な外国からの投資があり,必要な技能を持った人材は引き抜か
れるため,高給化する。また,経済成長率の高さ,インフレからも,賃金は毎年のように
上昇する。「工場操業後3年目に,昇給が少ないといって10名以上辞めた。少し給与を
上げたが,止められなかった」(M社)。
7
インド日本商工会では会内企業にアンケート調査を行い,その結果を報告しているが(7),
2010 年の賃金上昇率が,ワーカーで 12.4%,スタッフで 13%である。また,離職率は,ワ
ーカーで 10.6%スタッフで 12.4%となっている。
また,ジェトロのデータで,2009 年のデータであるが,中国との比較で,製造業の作業
員では,インドは,中国より平均賃金が低いが($3213 対$4107),管理職になると,イン
ドの方が逆に給与が高くなっている($18978 対$14694)(8)。教育(識字率),カースト制,
(極度の)貧困などの要因から,インドの労働者が全体として底上げされて均一な労働市
場を形成するまでには至っていないことと,インド人が,意識の面で個人主義が強く,エ
リート層は英語教育を受け,早くから海外にも進出し成功を収めるなど,視野が世界に向
けられ,グローバルな基準での評価を求めやすいことなどが背景にあると思われる(9)。
2) 労務管理が難しい。
インドでの労務管理の難しさは語りぐさになっているが,インドは,国内事情もあり,
労働者保護の政策を取り,経営者の解雇権を制約している。100人以上の労働者がいる
会社では,閉鎖にともなう解雇も,州政府の事前の許可がなければできない,といった規
定がその象徴であるが(10),日常的にも,解雇する場合,慎重にしないと訴訟を起こされる
か,悪くすれば,労働争議の火種にもなりかねない。
また,ストライキは,最近では,マルチ・スズキで起きたように,避けがたい経営上の
リスクである。後に,K社の事例で見るように,外部からの組合のオルグや政党の関与も
あり,日頃から労働者に不満をため込ませないなど,労務管理にはみな気を使っている。
他にも,労務管理の問題として,1)で触れた,離職率の高さや,日本人には飲み込めな
い,複雑なカースト制の縛りなどがある。これらは,インドの労働市場,そして社会その
ものの特性と関係し,企業としてはただ前提としなければならない企業環境であるが,も
ちろん,ただ,手を拱いているだけではなく,管理職を現地人にし,雇用や職場の改善に
その助言を受けるとか,逆に,日本の企業文化である社内の宥和をはかるとか,あるいは,
労働者にやりがいのある仕事を与え,責任を持たせて,帰属意識を高めるなどの地道な工
夫を行っている企業も,今回の調査にも多くあった。
(7)インド日本商工会『第5回賃金実態調査結果概要』(2011 年 7 月)
。
(8)ジェトロ『インド経済の最新事情と投資・ビジネス環境』
(2009 年 12 月)37 頁。
(9)(財団法人)海外職業訓練協会が聞き取り調査をまとめた,
『インドの日系企業が直面した問題と
対処事例』
(2008 年 3 月)116 頁には,ある自動車部品メーカーが,私見だがとし,
「インド人は主
張が好きな国民であると思う。
・・
(また)インド人幹部は大変優秀である。理論ずくめで説明すれば,
きちんと納得してくれることも多く,ある意味紳士ともいえる」とコメントしている。正鵠を得た評
価であると思う。
(10)ジェトロ『インド労働法に関する調査報告書』
(2009 年)5 頁。
8
3) 外資への優遇策がない。
国や州が,外国からの投資を促すために,税法上の特典を与えたり,土地取得や,工場
立地のための便宜を図ったりすることは,進出企業からは初期投資の負担や,投資リスク
を軽減するものとして,その損益分岐点を下げるうえで大きな働きをするが,インドの場
合には,こうした優遇策がないか,少ないと見られている。
調査でも,そのようなコメントをしばしば聞いたが,その理由として,G社は,ODA
の借款に関係して,「インドは,貸してもらわなくてもよい,借りてやるぐらいの意識で
はないか」と言っていた。人口が若く,大きな伸びしろを持った国であるとの自覚が,外
資に関しても借り手市場の如く振る舞わせている,ということである。
本来,外国からの積極的な投資は経済成長を押し上げる上で不可欠なものであり,イン
ドにも,もちろん,その自覚はあるが,2)の労務管理とも共通する,国内に貧困やカース
ト制などの問題を抱えた「世界最大の民主国家」であるインドにとって,開発独裁のよう
な,国家主導で産業発展を強力に進めていく発展モデルが取れない,という判断があるの
であろう(11)。
同じG社の発言で,「悪くいえば人気取りだけど,民主主義だから,これだけの国がま
とまっていける」というのが,フェアーな見方と思われる。
4) 部品の現地調達が困難である。
生産に必要な部品が高度な技術を含み,日本でしか作れない場合,現地生産するにも,
日本から輸入するか,自動車メーカーのように,関連部品メーカーとともにインド進出を
行わざるを得ない。B社が言うように,「大きなもの」を作る場合,後者のモデルが取れ
るが,少量多品種の場合,将来,産業の裾野が広がり,日本からも多くの企業が進出する
か,あるいは,インドの技術レベルが上がり,地場産業でも必要な部品が作れるようにな
れば変わるが,それまでは,現地生産のコストが高止まりするのである。
逆に,現地生産の有利な点として,地産地消という,消費地のできるだけ近くで生産す
ることがあり,とくに,インドが広大な国であり,輸送のためのコストもかかることから,
将来的には,現地生産のメリットが高まってくると思われる。
とくに,乳飲料を生産販売するM社の場合,インドのインフラ未整備が直接に関係し,
発電装置や水の汲み上げ,下水道の処理まで自前で行わなければならず,また賃金も決し
(11)現在,インドの経済成長が減速気味であり,その打開のための外国投資の受け入れに積極的な首
相と,国内の政治情勢に敏感で消極的な立場の前蔵相との対立がある,と報じられている。日本経済
新聞 2012 年 7 月 12 日。また,
「インド予算案「人気取り」
」日本経済新聞 12 年 3 月 17 日には,与
党国民会議派が州選挙で敗北したことから,地方の貧困層へ配慮し,農業部門や保健衛生に重点配分
する人気取りの色が強まったとされている。
9
て安くなく,タンクも日本から持ってこなければならないなど,コストを下げられないが,
しかし,商品の性質上,現地生産せざるを得ず,販売価格もほとんど日本と変わらないと
いうことであった。その分,販売のためには,「健康食品」としての認知を高めるために,
消化器科の先生とシンポジウムをやったり,病院で臨床試験をやり,栄養士が患者に指導
したりするようにするなど,「マーケットを育てる」努力をしている(12)。
また,企業進出の理由を,販売体制の強化にあげたA社の場合も,これから,通信機の
開発,及び生産をインドで行うと語っていた(13)。中長期的にコストの2~3割削減を目指
すとしている。インド技術者は「優秀,育てていきたい」と言っていたことが印象的であ
った。
5) 駐在員の生活面の困難もある。
インドは未だ発展途上であり,水道や電気,ゴミの収集,公共交通機関,外食やショッ
ピングなどの,都市生活を快適に送るための設備やソフト面は,日本から見て著しく遅れ
ている。その上,猛暑や乾期のほこりっぽさ,自動車の騒音などが加わり,お世辞にもイ
ンドに住みたいと思えるような環境ではない。
しかも,人口の多さから,ムンバイなど大都市では,家賃も東京並み,あるいはそれ以
上だと言われている。結局,駐在員の多くは単身赴任で,家族を日本に残してくることか
ら,長期の勤務は無理である。
元々,企業進出しても日本人社員は少数で,従業員のほとんどは,経営管理も含めて現
地採用である。そのことは,実際,進出企業がインドの会社として,インド社会の中でビ
ジネスをしていくために歓迎すべき点であるともいえるが,現地生産をする場合,とくに,
技術移転が済んでいない場合など,日本からの技術者の派遣など,より大きなコミットメ
ントが必要であり,日本側の労務管理の観点から躊躇することもあるのである。
3 合弁及び企業買収
企業が海外進出する場合,現地法人を設立する他,支店や駐在員事務所の設置,さらに
特定の事業に絞ってプロジェクトオフィスを立ち上げるなど,法人形態の選択に加えて,
現地法人に資本参加したり,買収したりして既に存在している生産や営業基盤を引き継ぐ
(12)同じように,
「市場を育てる」ものとして,農業労働者の賃金が安く,カースト制の壁もあって,
機械の導入が進まないインドで,しかし,農家に通い,デモを繰り返して,農機のメリットを感じて
もらう努力を地道に続けるクボタの話が出ている。
「最大市場インド攻略へ
週刊東洋経済 2012 年 3 月 17 日 102 頁。
(13)新聞でも報じられていた。日本経済新聞 2012 年 3 月 25 日。
10
苦闘する農機のクボタ」
ことも重要な選択肢になる。また,最初から,合弁で事業を始めることもある。
それぞれ,メリット,デメリットを比較しながら高度な経営判断が行われるのであるが,
調査の中でも,買収,及び合弁事業の事例が存在するので,主としてリスクの観点から,
聴き取った問題点について触れてみたい。
1) 共同出資による設立
【K社】自動車部品(ラジエーター)のメーカー。きっかけは,インドの財閥企業が自
動車生産を始めようとして,海外のすぐれた部品メーカーとの提携を求めたことにあり,
Kの親会社(本社)も当時インド市場に進出を考えていて,合弁の話がまとまった。出資
はインド側が51%,日本側(及び日本の商社)が49%であり,取締役はインド側3,
日本側3である。CEOは,設立後12年間の内,1回を除きインド側である。社員31
0名(+短期雇用900)で,日本人社員(本社から派遣)は2012年5月現在で4名
である。
元々,K本社としては,得意先の獲得,雇用・労務管理は地元企業に頼らなければ難し
いだろうという判断から合弁を選び,技術は日本,経営はインドという役割分担があった
が,実際,生産を始めてみて,ただ日本の技術を持ってくれば作れるというわけではなく,
インドの市場に合わせて製品を作る必要があり,R&D(研究開発)が重要なものとなっ
た。
一度,日本人が社長になったのも,「市場への商品投入の遅れ」が原因で,技術面の梃
入れを図り,インド市場向けに商品開発を加速するためであった。この点,今回の調査で
も,最初,日本の社員に説明を聞いた時,「コストを下げろと言われるが,下がらない」
とぼやきにも聞こえる話を聞いたので,インド人社長との面談で,そのことをぶつけてみ
たら,コスト低下は可能だとして,地元化や,輸送梱包などの経費節減と並び,第一に,
「価値を分析し,デザインを考え,技術をもっと効率化する」ことをあげていた。要する
に,使う側からみて,何が本当に必要か(=価値)吟味し,技術の無駄を省くということ
である。
この効率化も,また技術者の力量が問われることであり,日本側の技術と,インド側の
経営(市場戦略)がシナジーを発揮できた例である。実際,K社は設立以来,業績は順調
で,05年には税引き後利益が20%にもなった。
2) 地元企業の買収
【L社】産業用シールドの製造。本社はドイツの同業会社と事業提携し,世界で2位の
シェア-をとり,地域を分けてグローバル展開をしている。インド法人のきっかけは,1
997年,プネーの地元財閥企業に出資していた米国の会社が撤収にあたり,L社に買わ
11
ないかと話を持ちかけてきたことにある。また,提携しているドイツの会社も,ムンバイ
で別の地元財閥と合弁会社を持っていた。この2つを母体に現地法人を作ることになり,
それぞれ地元財閥との合弁を解消した。その交渉は当初難航したが,喧嘩別れでなく,今
の経営陣をそのまま残して会社運営を任せた。これが,従業員のモチベーションを高め,
また,地元財閥としての信用を活かすことで,円滑な工場生産を行ううえで大きな力とな
った。設立当初は日本側の技術移転が行われたが,それも現在は終わっている。年20%
の成長,利益率も3割と経営は順調で,利益で日本と肩を並べる程になってきている。
<小括>
日本企業が海外に進出する場合,地元企業に資本参加したり,買収したりして,その経
営基盤を引き継ぐことは,いち早く,また確実に事業を始める上で好都合である。ただ,
買収価格の問題で高い買い物にならないかどうかや,日本側が持ち込む技術なり,ビジネ
スモデルなりがさらに企業価値を高められるかなど,当然ながら,難しい経営判断が必要
である。
結局は,1)の,K社の合弁企業設立の場合と同様に,ただ,インド側の経営資源,つま
り,外の市場開拓と内の労務管理を企業経営に取り込むというだけでなく,日本側の技術
を,インド側の経営とプラスの相乗作用をもつような形で導入することができる場合に,
事業として成功するのであろう。L社の場合も,調査では確認しなかったが,技術の他に,
グローバル企業としての市場支配力やサプライチェーンなどの日本側企業のもつ強みが当
然に付加されていると思われる。
実際,合弁企業を始めても,利益が上がらず撤退した例は,B社の場合にもあるし,K
社の場合も,途中で,一度,「市場への商品投入の遅れ」があり,合弁の真価が問われる
ことがあった。現在,K社もL社も10数年の実績があり,経営も安定しているが,今回
訪問した中に,設立したばかりのI社があり,そこでは,まだ本来の合弁の効果が発揮で
きていない。
【I社】は,水処理や廃棄物処理の設計施工及び管理を行う企業であるが(工場はない),
国内市場が縮小傾向にあり,3,4年前から海外進出を検討し始めた。インドでは,共通
の知り合いを通して財閥企業の系列会社を紹介され,お互いのタイミングが合って合弁企
業を設立した。
技術はI社が提供し,マーケティングはインド側がやることになっているが,まだ,受
注は,日系企業からの1件だけであり,インド側のマーケティングに対する不満もある。
とくに,インドが受注に関し実績主義で,参入の壁が高いことや,価格競争が激しいこと
も背景にあり,本来,I社としてはインドのパートナー企業に期待したいものが実現でき
ていない,ということである。
合弁割合はインド51対I社49であり,取締役は各3で,議長はインド側である。3
12
ヶ月に1回取締役会を開いているが,まだ議論すべきことが多く,毎回,仕切り直しとい
う感じである。
「仕切り直し」を重ねて,シナジーを発揮できるような合弁にたどり着くのか,あるい
は,合弁を解消して,独資に向かうのかは分からないけれども,多くの進出企業がこうし
た模索を重ねつつ,インド市場の中で最適な経営形態を見いだしていくのであろう。
また,企業買収の場合,既に開拓された市場を引き継ぐというメリットがある。その市
場を元に進出すれば,一から市場を開拓する場合に比べ,はるかにリスクが小さいし,そ
の市場を基盤に日本企業の強みを活かした商品投入も可能となるであろう。
今回調査した企業14社のうち,1社はまだ駐在員事務所で,市場調査の段階であった。
しかし,別の外国企業が先に工場を立ち上げたため,残された市場のニッチがあるか,進
出をためらっている。
【N社】飲料の容器メーカー。ペットボトルは,機械だけあれば簡単にでき,飲料メー
カーが自分で作る。インド市場では,コカ・ペプシが圧倒的なシェアー,出る幕がない。
また,非炭酸飲料では,詰めてから中身の殺菌が必要なため,耐熱ボトルを製造できる専
業メーカーに強みがあるが,しかし,インドでは,まだ非炭酸飲料の需要が少ない。
結局,ビールやコーヒー向けのアルミ缶の市場が対象になり,とくに,ビールの需要は
インドで年率15%の割で伸びている。N社の場合,タイに工場があり,そこから運んで
いたが,缶を運ぶのは輸送効率が悪く,工場の立ち上げを検討していたところ,ポーラン
ドと,イギリス(合弁)が最近,相次いで工場を立ち上げた。
飲料缶の場合,汎用品であり,価格のみが問題になる。原料(アルミ)の価格+物流,
そして投資金額などが割り出しやすく,原価計算をして,何年で回収できるかという見通
しになるが,検討中である。
4 現地法人のメリット
企業の現地法人設立という意味の海外進出が,既に,何年もPO(プロジェクト・オフ
ィス)の形で業務を展開してきて,その上で,税法上や,信用などの理由で,法人設立を
行うという場合もある。とくに,建設業で工事を受注すれば,完成まで一定の期間集中的
に人を集めて仕事をするが,その後,次の受注まで空白があり,そのような場合,POは
固定費を抑える合理的な組織でもある。
実際,今回調査した中にも,相当期間,こうしたPOとしてインドで業務を行ってきた
企業がある。
【G社】ODAの円借款や世銀の融資などを得てインド政府が公共事業を行う場合,コ
13
ンサルタントを競争入札させ,事業の計画や調査,設計,施工管理を行わせるが,そうし
たコンサルを業務とした企業である。同様のコンサル業を全世界で行ってきており,イン
ドでも,POの形で長年仕事をしてきた。
しかし,現地法人がないと何かと不便だし,地場企業と組んでやっていると,お金の問
題でぶつかることもある。前から現地法人化の話もあったが,社内で海外駐在社員をどう
位置づけるかなどの問題もあり,先延ばししてきた。しかし,3年半前に法人設立。税制
面で有利という面もあった。
現在,円借款による大きなインフラ整備事業のコンサルを受注し,50人ほどのインド
人技術者を雇って事務所を構えている。
【H社】建設業。05年にインド進出,6つのPOを持っていた。工事が終わってもす
ぐに解消しない。税金の還付などに時間がかかるし,また2期工事が始まることもある。
POの方が雇用契約を切りやすいというメリットもあるが,逆に,優秀な人に残ってもら
うために現地法人の方がよいということもある。
結局,半年前に法人を設立。売却後にクレームがきそうなものは避け,また,支払が確
実なので,日系企業の仕事を中心にしている。
G社がコンサルしているインフラ事業からも誘いがあるが,規模が大きすぎて,リスク
が取れない心配がある。日本では,鉄道工事でも1駅毎に請け負って,各社で分けること
が多い。インドで現地企業に勝つためには,規模を大きくして圧倒する必要があるとG社
に言われるが,10%の赤字が出れば会社が潰れるほどのプロジェクトで,皆リスクが取
れなくて尻込みしている。土地の収用一つでも,できなければ工事が遅延するし,工事が
終わった後にどんなクレームがくるかも怖い(14)。
インドの広大な市場で,活発な公共投資が行われ,そこに,ビジネス機会を見つつも,
未知のリスクを感じて難しい決断を迫られている日本企業の姿が,短い面談の中でも語ら
れていて,興味深い。実際,インドの町を歩いていると,埃っぽい道路を,車やリキシャ
がひっきりなしに,けたたましく走り回り,そこを,大勢の人が行き交い,傍らには野良
犬が寝そべり,ゴミの山も置かれている,まさに,混沌とした町並みがある。同時に,そ
こには,たえず人が何かを求めて動き回り,喧噪の中で,みんなが,それぞれの成功を目
指して創意工夫している,そんな姿が,深く目に焼き付いてくる。
(14)ジェトロ(デリー事務所)も訪問し,話を聞いたが,その際,インドではいくつかインフラ整備
のプロジェクトが立ち上がっているが,日本企業はリスクが取れないため,ほとんど関与できていな
いと言っていた。デリー・ムンバイ間の輸送道路も,まだ動いていないように聞いた。
ただ,「インド輸出
官民で第1弾:日立など淡水化プラント」の記事があり,日本でも,リスク
を政府及び企業連合で分担し,インフラ事業に参入しようという動きが出てきているようである。日
本経済新聞 2012 年 3 月 22 日。
14
この混沌と,そこに潜むエネルギーは,まさに,インド進出企業が肌で感じるものであ
ろう。リスクが管理されることは,インドの人にとっても好ましいことには違いないが,
それをただ待つのでなく,個人が動いて何かする,それがインド社会の,そしてインド市
場の特徴なのである。
G社が,インドビジネスについて,「他で駄目だったからインドに来た,では駄目。リ
ラックスして,よく勉強して,インドでやる,という覚悟が必要」と言っていた。「リラ
ックスして」というのは,インドのこの混沌の中に自分も身を置いて,同じように,自分
の創意で動けという意味なのだろう。調査の中で印象に残った言葉である。
Ⅱ インド進出企業のリスク
1 設立に伴うリスク
1) 設立は,コンサル会社に頼んで行う
最初に,会社設立に際し,困ったことがなかったか,また,弁護士等に相談したか尋ね
たが,いずれも,設立手続きは現地のコンサル会社に頼んだ,それで問題はなかった,と
いう答が圧倒的であった。
【F社】は,インドから,とくにジェネリックの医薬品を輸入する商社であり,従業員
も14名(うち日本人が3名)と小規模であるが,最初,ムンバイに3年半ほど前に進出
してきた。道路や倉庫など物流面で問題があるものの,圧倒的に安く,日本での需要も伸
びている。
設立は,現地の会計士を主体としたコンサル会社に頼み,従業員規則を作る時だけ現地
の弁護士に頼んだが,問題なくやってくれた。
【E社】も同様である。設立当時,担当者は日本にいたが,インド国内のコンサル会社
に頼み,日本で必要な書類を集め送った。法務部にも相談していないし,日本の弁護士に
も相談していない。
【H社】は,最初,世界の4大会計事務所の一つ(現地事務所)に頼んだが,時間がか
かったので,ローカルな会計事務所に頼んだ。本社では不安がったが,2週間でできた。
親子でやっている事務所でレスポンスが早いが,ただ,後から部数の追加や,公証人の認
証が必要などと言われ,慌てて出したりした。設立には,地場の弁護士は関係しなかった。
コンサル会社は,いずれも会計士主体であり,中に法律家もいるかと聞いたが,皆,よ
15
く分からないという答であった。また,グローバル展開する大会計事務所のインド事務所
を使う場合もあるが(H社の最初),むしろ設立の事務には,中堅企業の場合,費用や迅
速さの点で地場の小規模の事務所を使うようである。
今回の調査ではとくに聞かなかったが,実際に,企業進出の経営判断を行うために,F
/Sの一環として,現地の会計事務所に,インドの税制や金融,投資規制などの情報を得
るために接触することも多く,その文字通りのコンサルの過程で,設立となった場合に事
務を委託するということもなされていると思われる。
弁護士の必要が感じられるのは,このコンサルを超えて,法的リスクがより強く感じら
れる場合に限られる。
2) 合弁企業設立の場合は,本社法務部が関係する
その典型的な場合が,合弁企業の設立である。
【I社】は,財閥の系列会社と合弁で設立されたが,その設立の際は,本社の総務部や
法務部の知見を借りた。インドにも来てくれた。合弁契約には撤退条項ももちろん作った。
また,ベトナムに2年前に100%資本の現地法人を作った経験もある。
【J社】は,オフィス・オートメの設計・工事受注を請け負う会社である。現在は独資
であるが,2000年に合弁企業を作ったことがあり,それは,結局うまく行かず07年
に解消したが,この合弁設立の際には,法務と知財部でチームを作ってあたった。
また,本社でプロジェクトチームを作ったという話は,合弁ではないが,M社の場合に
もある(法務部がチームに入っていたかは聞き漏らした)。工場の建設であり,投資額も
大きく,調査検討すべき事項が多かったのであろう。
このチームの一員が,その後1人でインドに来て,土地の購入や申請手続きを進めてい
る。最初,インド南にある工業団地に行こうとしたが,食品は駄目だと言われたり,日系
企業も多い工業団地で適地が見つかったと思ったら,地下水を汲み上げる所にお墓が近く
にあったなど,土地の購入にも,色々と苦労話がある。
3) 契約だけではリスクが取り除けない
【M社】の話であるが,州政府の開発した工業団地で土地を購入し,契約に署名して代
金を支払ったのに,その後,農民から訴訟を起こされ,払わないといけないからといって,
7百万ルピーの差額(その35%の手付け)を払えと言われた,という例がある。
本社に相談したところ,各国・地域により,法律の規定・解釈等に違いもあるため,先
16
ずは現地弁護士等に相談するようアドバイスがあり,現地の弁護士を雇って訴訟を行った。
4,5回期日を開いたが,結局和解をし,10%払うことで終わった。
契約には,後から見て,農民(元所有者)からクレームがあり,支払いが求められた時
は負担するとあり,かりに,そのことに気付いて,その条項を取り除いてほしいと言って
も,それだったら売らないとなるだけだろう,と言っていた。
この土地購入の際の追加支払に関しては,H社からも,同じ話を聞いた。ただ,契約条
項は変えられなくても,それはリスクとして考慮され,最終的な,土地購入の判断には加
えられるので,契約審査の意義は失われないが,インド全体がそうであれば,インド進出
そのもののリスクとして考慮される他ない(15)。
もっとも,このように全インドの問題ということになれば,今度は,日本企業全体の要
望としてインド政府に伝えられることになる。「日本商工会」がデリーにあり,進出企業
が会員になり,情報交換や講演会,そして会員の親睦を行っているが,そこでは,会員か
らの要望を聞き,日本大使館を通して,要望書をインド政府に提出している。
インド政府も,もちろん,外国からの投資が経済発展に必要なことから,可能な対応は
行おうとしていて(16),長い目で見れば,リスクのより少ない投資環境の整備が進められて
いる。
2 事業に伴うリスク
1) 巨大長期投資のリスク
Ⅰ-4「現地法人のメリット」で見たように,建設業の場合,時に,工事完成までの投
入コストが大きく,しかも回収までに時間がかかることから,また,その間に,農民の土
地要求や,公共工事への政治介入など,不確定要素が大きいことから,しばしば,リスク
(15)農民からの土地取得がしばしば困難であることは,タタ自動車や韓国のポスコがそのために工場
建設の断念に追い込まれた話などで広く知られているが,しかし,背景には,土地取得後に得られる
開発利益に比して,農民が土地を手放す時の補償金額が低いという,農民の不満がある,とされる。
「インド進出
土地が難関」朝日新聞 2011 年 10 月 24 日。難しい問題であるが,外資導入と国内政
治,グローバル市場とローカルな富の分配など,大きな背景が存在していて,その舵取りの中で,経
済発展の筋道が描かれていくことを物語っている。
( 16 ) ジ ェ ト ロ の ホ ー ム ペ ー ジ に , イ ン ド の 投 資 制 度 の 現 状 に つ い て 記 事 が あ る 。
www.jetro.go.jp/world/asia/in/
リスクそのものの問題ではないが,現在の,外資導入最大の政治課
題は,小売業の自由化である。2012 年 1 月 16 日(日本経済新聞)には,
「小売りへの参入解禁へ」
の見出しで,外資規制撤廃の必要と,しかし,それが,全国の1500万店ともいわれる零細小売店
の死活問題にもなることから,反対も強い現状を紹介している。
17
も大きく,統制困難になる場合がある。
それが,「10%の損失が出れば,会社の存続まで危うくなる」ようになれば,リスク
は取れず,尻込みすることになるが,本来,そのようなリスクを取ってでも,日本の企業
には出ていって,海外の大きな仕事をしてもらいたい場合には,政府が,その持っている
公的金融や保証,外交チャネルを使い,また,企業コンソーシアムの仲介役となって,巨
大,長期投資を後押ししていくことになる。
2) 行政のリスク
インドに限らず,発展途上国においては,しばしば行政の腐敗や非効率がそれ自体,進
出企業にとってリスクとなることがある。ひどい場合は,賄賂を要求され,応じないと許
認可を止められたり,わざと決裁書類を目の前で,一番下に入れられたりする,というこ
とが行われ,円滑な業務に支障が生じたりする(17)。もちろん,賄賂を出せば,それも不正
競争防止法18条の禁止に触れ,国外犯でも日本で刑事訴追を受けることになる。
基本的には,そうした恐れがある場合,現地のコンサルに行政との折衝を任せ,直接関
わらないのが一番であるが,リスクであることに変わりはない。
また,インドの行政に対する,必ずしも非効率さとばかりは言えないが,繰り返し語ら
れるリスクに,移転価格税制の問題がある。
日本の工場で製造した製品を輸入し販売する場合,輸入価格の設定をめぐって,インド
の課税当局としばしば対立する。輸入価格を高めに設定すれば,インド法人の販売利益は
抑えられ,その分,日本に利益が移転することになる。これがインド政府から見れば,イ
ンドの法人税逃れと見られることになる(18)。
この移転価格税制自体に関しては,日本の課税当局も,輸出価格が不当に低く抑えられ
て,とくにタックスヘイブンと言われる法人税の低い国に輸出されると,利益が移転され
て日本の法人税を免れることになるため目を光らせていて,日本でも同じように企業との
間で見解が対立することがある。
【B社】の場合,現在,5~6件訴訟になっていて,中には,97年から継続している
ものがある。企業から見て争わなければいけない事例が多く,それだけインドの課税当局
の見解に合理性,一貫性が欠けると見られているのであるが,同時に,その解決までの時
間が異常に長いことも問題とされている。
(17)「賄賂,嫌がらせ,宗教トラブル・・
年 1 月 29 日。また,
「極まる腐敗
インド進出日系企業の光と影」MSN産経ニュース 12
高まる不満」日本経済新聞 2011 年 12 月 31 日。
(18)久野康成監修『インドの投資・会社法・会計税務・労務』
(TCG出版,2010 年)425 頁以下に
詳しい解説がある。
18
ただ,早ければよいというわけでもなく,インドで,DRP (Dispute Resolution Panel) と
いう裁判外の紛争解決機関ができて利用したが,9ヶ月で決定が出たものの,仲裁者が税
当局のOBであり負けた。訴訟で争う場合も,行政の税務審判では勝てず,高裁になって
はじめて公正さが確保できる,という。
もちろん,当事者の言い分なので,実際にも行政が恣意的であり,また,審判が不公正
かどうかは分からないが,税制が複雑で,行政解釈も曖昧など,進出企業の間には税をめ
ぐる不満は強い(19)。
【C社】自社の健康機器を販売する会社。輸送や関税があり安くはならない。設立にあ
たり,F/Sを自分(インド人社長)が直接やった。コンサルの調査に任せるだけでは実
情が分からない。インドは広大な市場,地域によっても違う。実際に回って,価格帯や利
益率,既存の競合品などを目で確かめる必要がある。
法人設立は3年前。最初の1年は準備(事務所や倉庫探し,申請など)。10年1月か
ら実際に取引を始めたが,問題は次々と出てきた。輸送や出荷などロジスティックな問題
や,消費者からの苦情など(落として故障したとか,米国で買った製品の修理など)。
また,州際の取引税が課され,何度も州政府と折衝した。
どこにでもある,ビジネスそのものの姿なのだろうが,税の問題が,とくにインドの場
合,製品を日本から輸入販売する会社にとって,日常的に課税当局と折衝しなければなら
ない,業務の一部となっている。
この折衝では,現地のコンサル会社が使われるが,税制が複雑なため,コンサル会社で
も解釈が分かれ,日本企業では,一体どうなっているのか,と言いたくなるようなことも
ある。M社から聞いた話であるが,(行政当局から,食品安全法で科学の専門家を置けと
「無理難題を」言われ,相談した時,コンサル会社の間で話が違って困ったという話をし
ながら),日本のある大手銀行では,最初からコンサル会社3社と契約し,話を聞いてい
るという。
前に,インドの町の風景をメタファーにして,エネルギーに満ちているが,混沌とした,
リスクがまだ十分に管理されない市場の実態を述べたが,リスクそのものの大きさは違っ
ても,日常的な業務において,市場取引の前提となる法規制の透明性,あるいは,ウェー
バー的に言えば,予測可能性が欠如しているということである。
(19)この税制の不満は,インド日本商工会を通じて,対インド政府建議書の形で何度も提出されてい
る。ジェトロ・ニューデリー事務所『インドの経済状況とビジネス環境』
(2011 年 9 月)に,11 年 2
月提出の建議書が出ているが,税務が大きく取り上げられ,その最初に,「移転価格税制の適用範囲
の明確化」があげられている。その他,行政手続きの迅速化,簡素化と並んで,Ⅱ-1(3)で取り上
げた,
「土地取得後の追徴金請求を早期に改善」が掲げられている。
19
3) 代金回収のリスク
調査の中で,「お金を払わない」という話もよく聞いた。
【B社】代理店から「売れない」と訴えてきた。民事訴訟ならよいが,詐欺罪で訴えら
れ,田舎の裁判所まで呼びだされた。代理店の方も,裁判が時間がかかるのを知っている
から,訴状だけ送りつけてくる。在庫を引き取るとか,示談をする。
高金利なので,支払いを延ばす方が得だ,という計算もあると思われる。半年掛けて,
やっと回収できたケースもあり,後払いは受けないようにしている。「お金が一番正直」。
どこの社会でも,裁判に訴えてお金を回収するというのは,手間や費用を考えれば決し
て得策ではない。在庫など回収できるものを回収して,後は,その相手方と関係を打ち切
るというのが,実際,多くの企業が取っている現実的な対策であると思われる。その上で,
後払いは避けるなど,自衛策を取ることになる。
ただ,他の代理店との関係で示しを付けるために「ガン」とやるということで,訴訟に
踏み切る例もある。
【A社】ある時期からばったりと入金が止まった。催促してもいつまでも払わない。約
800万ルピー(現在約ルピー1200万円)で,係争の手間,時間,コストを考え,放
っておこうかとも思ったが,他の代理店の手前,会計事務所に相談し,その法的部門の弁
護士を使い仲裁を申し立てた。しかし,仲裁条項の効力をめぐって裁判で争われ,1年半
経って,やっと仲裁にすることが認められた。こちらにも日本から来ている弁護士がいる
が,「皆,高くてなかなか使えない。」との話であった。
他にも,代金回収でトラブルにならないように,自衛策をとっているものもある。E社
は,長く取引している代理店から,オープンアカウントにしてほしいと言われるが,頑と
して拒否し,L/C(信用状取引)を続けているという。
ただ,このE社も,インドの商慣習として金払いが悪いというのはたしかにあるが,イ
ンドだけではないだろう,と言っていた。
【G社】も,「お金を払ってくれない」という話を聞くが,と水を向けたところ,「全
世界どこでも,それは同じ」,むしろ,訴訟沙汰になるのは,サービスに満足していない
からだろうと答えていた。技術の人間は,お金の問題は会社がやってくれると思っていて,
ちょくちょく挨拶に行かなかったりするが,それが問題だという。
20
このG社の意見を,顧客満足さえ心がければ,代金回収の問題は生じないと断定的に取
ってはいけないが,一面の真理は突いている。次の,労務管理のリスクにも同様の話が出
てくるが,リスクは1か0ではなく,少しでも減らす,それが企業経営の目標となるので
ある。
4) 労務管理のリスク
インドの企業経営のリスクに誰もがあげるのが,労務管理の問題である。従業員の定着
率の悪さは,Ⅰ-2(4) でも説明したが,経済が右肩上がりで成長し,企業進出が続けば,
当然,優秀な人材は売り手市場となり,より条件のよい職場に移るのは必至である。
しかし,仕事を覚えた社員が簡単に転職してしまうとか,賃金が毎年のように高騰し,
労務コストが嵩むといった問題は,企業経営にとって頭の痛い問題であるが,インドでビ
ジネスをするかぎり,避けられないリスクである。むしろ,狭義のリスクが,通常は起き
ないことが前提で経営が行われているのが,起きることで,損失を被る場合であるとすれ
ば,労使間のトラブルが問題になる。
そのようなものとして,一つには,従業員との間で,服務規程や,解雇をめぐって紛争
が起きる場合がある。インドは,伝統的に,労働者保護政策をとってきて,労働者の解雇
に対しても,厳しい制限が設けられている。とくに,日本と比較して特異なのは,解雇が
州政府の許可にかかる場合があることであり,工場を閉鎖して,インド市場から撤退しよ
うとしても,簡単に許可が下りず,結局は,撤退に際し,余分の負担を強いられることに
なる。
今回の調査で,このような事例を直接には聞かなかったが,調査した企業の中にも,工
場を作ることに二の足を踏んだり,直接雇用でなく派遣社員に切り替えたり,あるいは,
雇用する前に,試用期間を使って慎重に適性を見極めたりするなど,リスクを意識して対
応した事例がある。
もう一つの労務管理上の大きなリスクが,ストライキである。
【K社】は,設立後,インド市場への商品開発に遅れを感じ,梃入れを図ったりした時
期もあったが,比較的,順調に経営は推移し,高い利益率も確保できていた。
しかし,06年にストライキがあり,その後,業績を確保するのに長い時間がかかった。
それまでK社と取引していた企業が,K社からの入荷が止まり,操業に影響を受けたこと
から,他社に切り替えたり,納入先の多元化を図ったからである。
ストのきっかけは,政府が排気ガスの基準を変えたため,もう一つの主要製品であるイ
ンタークーラーの製造に力を入れたことにある。その製造には手作業の部分が多く,人手
を要したため,多くの短期労働者を雇用し,全労働者の80%にもなった。しかし,労務
21
管理の計画も十分でなく,トイレもないなど,労働環境への配慮が足りず,不満が蓄積し,
そこに政党の働きかけもあって組合ができ,ストライキが起きた。
ストそのものは,政党の重要な地位にある人が聞きつけ,解決を働きかけてくれること
で終わったが,反省として,経営者が,商品の市場投入にばかり気を取られていたことが
ある。
どんな場合でも原因は一つではないし,インド進出企業の模範的な成功例であるマルチ
スズキでも,最近,大きな労働争議があり,社長が日本から来て,安易な妥協をするなと
檄を飛ばしたという話を,「他の日系企業の示しもあってだろう」として,今回調査の時
に聞いた。やはり,背景には,インドの場合,労働組合が政党と結びつきやすく,いった
ん組合ができると,大きな争議になりやすいということがある(20)。
同時に,K社が言うように,労働者の不満があるところで,そうした組合の組織化や,
争議に火が付きやすいということも実際にあり,リスクを低減するという意味でのリスク
管理の教訓ではある。
Ⅲ まとめ
以上,今回訪問した14社から聞いた話を,大きく,インド進出の経緯及び形態と,進
出に関わるリスクとに分けて,整理してみた。皆,それぞれ,インドという,可能性に満
ちた,しかし危険性も高い,そして,日本からは,地理的にも,また文化的にも遠い社会
に出かけて,様々に工夫し,努力している様子をうかがえて,本当に勉強になるとともに,
興味深い話を聞けて楽しかった。
最後に,調査で明らかになった点を,5つの命題にまとめたい。
1 「インドの企業となる」
=インドとともに成長する
インドの地場財閥を買収したL社が,そのまま経営を任せ,従業員や市場の信頼を得た
話や,合弁で始めたK社が,ただ日本の技術を持ってくるだけでなく,インド市場を知り,
インド市場向けにその技術力を使って商品開発に取り組むことで,シナジー効果を発揮し
た話など,日本の進出企業にとって,インド企業とパートナーを組むことで,インド社会
に根を下ろしていくことの大切さを物語っている。
(20)最近でも,マルチスズキでは,昨年の労働争議の火種が残っていて,暴動が起きたと報じられて
いる。
「新興国開拓
労働問題の壁」日本経済新聞 2012 年 7 月 20 日。経済成長とともに,国民の「左
派離れ」が進み,それに危機感を抱く勢力が,戦闘的な活動家を自動車最大手のスズキの労組に送り
こんでいるという。
22
そうした合弁形態を取らない場合でも,いくつかの企業から,インドで,インドの企業
としてやっていくという姿勢を強く感じることがあった。
乳飲料を製造販売するM社の場合,来る前には全く販売の実績もなく,認知度も低かっ
たが,どうやって飲んでもらうか,看板となっている女性販売員の配置や,病院や栄養士
とのセミナー,家庭的な雰囲気のテレビ広告など,地道にやって,「マーケットを育てる」
ことをしている。うちは,元々じっくり育てる農耕民族型の事業ですからと言っていたが,
毎日,常飲する乳飲料という特徴からも,インドの一般庶民に受け入れられる上でそれは
必須の努力なのであろう。
また,D社では,現地法人を作ってから,ショールームやラボを作り,セミナーを頻繁
に開いて,大学や製薬会社の従業員・研究者などに直接製品に触れ,使い方を学ぶ機会を
増やした他,社員のインド人技術者にも責任ある仕事を与え,現地に出張指導などに出か
けてもらうようになった。「定着率を高めるのが自分の仕事と意識している」と言い,イ
ンド人技術者が優秀で,2~3年もすれば皆指導できるようになると言っていた。
同じ言葉は,A社からも,「インド技術者は優秀,育てていきたい」として言われてい
た。そうしたインド人の社員を信頼し,一緒にやっていくことが,とりもなおさず,イン
ドの企業となることである。
もう一つ,この命題に関わる言葉が,前にも書いた,「リラックスして,よく勉強し,
インドでやる(覚悟が大切)」というG社の言葉である。このG社は,インドが,税の軽
減やインフラ整備など積極的な外資優遇策をとらず,また,外資導入の障害となる,労働
者保護や,農民,地元小売業の保護政策を止めないことについて,「民主国家だから,弱
者を考え,露骨な外資優遇はできない」ことが原因ではあるが,同時に,「インドはキャ
ッシュフローには問題があっても,若い世代が多い,理想的な人口構成。借金しても返せ
るという自信があるから,貸してほしいではなく,借りてやろうという態度」がある,と
興味あるコメントをしていた。
この大きな伸びしろを持った若い国,その国で,リラックスして勉強し,一緒に成長し
ていく,それが「インドでやる」ということの意味だ,というのである。
2 「リスクには理屈がある」
=原則に帰って回避する
リスクは,企業経営にとって有害な事象が生じるその蓋然性であるが,いつ,どのよう
に起きるかは分からず,完全に回避することはできない。
昔,大学の同僚で商法を専攻していた教授が,非公開会社の問題を研究していて,企業
調査に行くと,みな,社長さんの部屋に神棚が飾ってあって,合理的な経済人のはずなの
におかしかったと話していたのを思い出すが,市場取引には,合理的な計算の反面,非常
に多くの不確定要因があり,リスクに満ちているからであろう。
23
そのことは,昔も今も同じであり,日本もインドも同じであるが,リスクの性質や程度,
また,リスクヘッジの入手可能性には違いもある。実際,今回の調査でも,リスクそのも
のをなくすことはできなくても,リスクを減らすことは可能であることが示されている。
その一つが,K社の労働争議である。商品の市場投入に気を取られていて,従業員の不
満に気が付かなかったと反省しているが,やはり,普段から労務管理に気を使い,外部か
らの組合結成が起きないようにするというのは,経営的な視点からは,リスク管理の王道
であろう。
また,D社では,働きやすい職場との評判で,問題はこれまで起きていないとのことで
あるが,設立の際には,どういう場合にどうなるか,ケーススタディをして備えていたと
いう。
もう一つ,このD社の話で,労務管理だけでなく,見慣れない問題が起きた時,インド
人の経理部長に相談しているという。この部長は,2~3社渡り歩いていて,人事経理関
係の業界をよく知っており,調べて意見を述べてくれるので助かるとのことである。もち
ろん,訪問したどこの企業でも,現地のコンサル会社を普段から使っていて,とくに目新
しいことではないが,インドという,文化も,商慣習も違う社会の中で,企業活動を行っ
ていく場合,情報のアンテナをしっかり張って,少しでも疑問に思ったことを早めに解決
しておくことが,大事に至らない秘訣である。
前に,お金を払わないという話で,G社の,訴訟沙汰になるのは不満があるからだろう
という発言を紹介したが,それもこの命題と関連している。結局,問題が起きるのはそれ
なりの理由があるからであり,その芽を原点に立ち返って取り除くことがリスク管理であ
る。
3 「紛争はローカルに解決する」
=インドの法はインドの法律家に任せる
今回の調査では,進出企業が直面するリスクの内,とくに法的リスクに関し,日本の弁
護士がどのように関与し,必要な支援を行うことができるか考えるということが,一つの
大きな目的となっていた。
しかし,設立,及び事業に関わる法的リスクの大部分は,現地のコンサル会社に相談す
るか,訴訟など法的対応が必要な局面では,やはり現地の弁護士を使って解決が図られて
いる。A社の代理店の代金未払いの事件でも,会計事務所を通して弁護士を紹介され,そ
の弁護士が訴訟代理を行っている。
B社も,訴訟では現地の弁護士を使っているが,「インドの事情を日本の弁護士は知ら
ない」から,訴訟で日本の弁護士に相談することはないと言っていた。また,「現地の弁
護士は数が多いのか,費用が安い」とも言っていた。
また,L社は,M&Aの話が出た際,日本の弁護士は関与するか尋ねたが,使わないと
24
言い,「インドは法律や税務が複雑。日本の弁護士にこれが上がっています,どうでしょ
うかと言っても,分からない。結局,インドの弁護士に回すだけ」と言っていた。さらに,
前から頼んでいるインドの弁護士がいるが,よくやって頂いていると評価していた。
M社が土地購入に際し追加支払いを求められた時の訴訟でも,現地の弁護士が使われて
いる。実際,日本の弁護士もインドでは法曹資格を持たないのであり,法的問題が起きれ
ば,現地の弁護士に相談し,必要ならその弁護士を代理人として示談解決なり,訴訟追行
なりを行うことは当然のことともいえる。問題は,後方支援の形で,進出企業と,現地の
弁護士との交渉,訴訟代理に助言していくことが必要かどうかであるが,問題となってい
る法的リスクがよほど高度のものでない限り,現地の弁護士さんで十分,よくやってくれ
ているということになるのであろう。
4 「進出の骨格は本社が作る」
=企業進出は全社的な経営判断で行う
販売拠点であれ,生産拠点であれ,企業が海外に進出する場合,グローバルな企業展開
を考え,またリスクを考えて,最終的な決断を行う。
今回の調査は,この経営判断を対象としていないので,他の話の中で断片的に出てくる
だけであるが,それでも,インドという市場にどのように出ていくかについて,本社の方
で色々検討が行われ,議論されたであろうことをうかがわせるような発言は多くあった。
工場を作るかどうかに関しては,例えば,銀行向けに偽札や損券を見分ける機械を販売
するE社は,中国では,安い労働力を使って国内の大きな市場で販売するというビジネス
モデルを実現しており,インドでもある程度大きなマーケットであり,工場建設も考えた
と述べている。健康器具を販売するC社も,現在のインド人社長自身は,工場建設を提言
したと言い,飲料缶メーカーのN社は,何年で投資が回収できるかの見通しが厳しく,先
に外国の同業他社がインドに工場を作ったことから,工場建設をまだ決断できていないと
いう。
また,M社は,本社に4人のインドチームを作って準備し,I社も,当時の社長が海外
進出に熱心だったこともあり,3,4年前から検討を始めて,合弁相手を見つけている。
また,合弁契約の締結には,本社の法務部の知恵を借り,インドにも来てくれた。
こうした全社的な取り組みがあることは,当然のことではあるが,調査した一部上場の
中堅企業の場合,インド以前に,既に多くの海外の現地法人や工場を持っており,経験が
蓄積されていることから,本社が関与するということは,その経験を活かし,どこにリス
クがあるか,どう対応するかのノウハウを持っているということでもある。
それもまた,外部の弁護士に依拠すべき残余リスクが少ない理由となっている。
5 「利益になれば弁護士に外注する」
=残余リスクの減少を図る
25
今回,調査を通じて,日本の弁護士がインド進出企業の法的リスクに対応して,その専
門的知見に基づく助言乃至代理等の行為を行う例は見られなかった。「紛争はローカルに
解決する」ことが,実際,便宜的であり,通常はそれで足りている。また,リスクも「理
屈がある」で,労働争議や代金不払いであれば,相手方に不満を溜め込ませないような注
意を普段から行うことで,ある程度回避できるし,「本社が作る」で,海外進出の経験を
活かして,リスクへの対応を事前に,「ケーススタディして」勉強しておく(D社)など
の対応を行うことも有用である。
もちろん,大企業の場合,投資額に比例してリスクも大きくなり,そのリスクを低減す
るために,本社の法務部だけでなく,日本の弁護士も,直接,間接に企業進出にあたって,
助言や,契約審査,さらには,交渉にまで関与することもある。今回,直接の調査対象で
はなかったが,少し全体的な見通しを得るために,インドで5指に入る大手法律事務所を
訪ね,話を聞いたが,実際,そうした関与についていろいろな事例を紹介された。
弁護士を使うかどうかは,企業にとって,基本的に「ペイする」かどうかの問題であっ
て,問題が起きる前の関与であれば,弁護士の助言や審査が,法的なリスクを軽減してく
れるかどうか,そのリスクの大きさと,弁護士費用との釣り合いが利用を決めることにな
るし,リスクが現実化し問題が起きた後であれば,その解決に,同じように弁護士の利用
がネットで利益をもたらすか否かが判断されることになる。
その際,現地のコンサル会社や,弁護士事務所による助言や解決が,競合的なサービス
として存在しており,それだけでは残るリスクがあるかどうかが,日本の弁護士が必要と
されるかどうかの鍵となる。調査の中で,A社が,日本の弁護士がデリーにいるが,「み
んな,高くてなかなか使えない」と発言していたが,それは絶対額としての高さでなく,
この現地弁護士との競争の中での高さである。片方で,「現地の弁護士は安いですよ」(B
社),また,「良くやって頂いています」(L社)という状況の中で,相対的な割高感が
あるのであろう。
しかし,M社が,「KY(空気を読む)」というが,「OKY(お前こちらに来てやっ
てみろ)だ」と,商工会で冗談を言っていると言っていたが,やはり,生活も習慣も違う
インドで苦労していて,そんな企業の前線部隊に適切な後方支援があることを期待もして
いる。このM社に,日本の弁護士が何か関わることがあるかと水を向けたところ,こちら
に来て相談に乗ってくれたりすればありがたいと思うが,インドのことを知っている弁護
士がいないし,本社も詳しくない,という答であった。
このインドのことも分かる弁護士が「こちらに来て相談に乗る」ことが,日本の弁護士
として引き合う形でできるかというのは難しいが,ネット電話も可能な時代であり,今後,
インドでの日本企業の進出も数を増せば,うまくビジネスモデルが見つかる可能性もなく
はないであろう。将来の課題である。
26
*A社
1.50 年代からインドで通信機の販売
=電波信号を,基地局より本局送る装置,携帯事業者が運用の為購入
~市場が大きい
60年に駐在事務所:メーカーとしては,日立に次いで2番目
03年頃から,携帯事業者向けにかなり売れた
~設置や修理
・インド:通信料金が安い
15社ある
駐在事務所では対応できない
1分1ルピー
→客獲得の競争
→08年現地法人
~さらに秒単位で請求
値下げ
→A社への間接的影響
必要最低しか買わない/徹底的に安くしろと値切る
cf. ARPU(average revenue per unit):携帯1台あたりの収益
日本:50 ドル/Singapore $30/インド 勝ち組で 3 ドル
・工場を夏頃造る
独資で
チェンナイに
インド:閉鎖→91自由化→極端に進んだ?=国産を優先
日本のものは高い
cf. 80~90 年代
~2 ドル
という動きも
海外で作って/海外の設計思想で
世界中に工場を造った
→その後,閉鎖・撤退
~今回久しぶりの海外工場
主要メンバーは日本から来るが
インド技術者
優秀・育てていきたい
Q ~の人集め:A社ブランドが役立つか?
モニター
A 一般にはブランド名はない
韓国製品が安くて困っている~やがて中国も来る
2.08 年法人設立
比較的簡単にできた
Q問題は?
税金がややこしい/通関がスムーズに行かない/道路事情が悪い
工場ができればストライキが心配
・代理店との紛争
1件訴訟になっているのがある
ある時期からばったりと入金が止まった
催促しても長く払わない
8 mil Rp =1200 万円
~他の代理店の手前もあり,がつんと行こう=仲裁申立
←仲裁条項がある/裁判は時間がかかる
・相談したのは,会計事務所
と言われ
最初はその法的部門~そこから必要なら弁護士を紹介
日本人弁護士もいる会社がある。しかし「高い。皆なかなか使えない」
・ムンバイ事務所に,インド人の弁護士がいる
こちらは法学部を出れば弁護士になれる
比較的安い
地域制を取っていて,アジア大洋州はシンガポール
・Q:本社の法務部は?
~本社の法務部からも人が来ている
シンガポールの統括会社を相談
cf.昨年,円高ルピー安の為,50Mil ルピーの為替差損を被った。
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A社エンジニアという商標があり,本社法務部と連絡して対応中。
・商工会:現在,3百数十社
月1回勉強会
懇親会(ゴルフ)も
建議書(インド政府に要請)を出す
幹事は持ち回り/女性事務員
大使館からもサポート
/専属(事務局長)を置こうという話
東京の商工会議所から=高すぎるので,現地採用
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*B社
1.立ち上げは96年4月
ポケベルが中国で大きな市場
2~3年前に,山東,上海で現地会社との合弁
無線はインフラに膨大な装置
・合弁会社
だから「大陸はポケベル」と考えた
社長&役員の過半数(株式も?)を取ればよいと考えた
←当時は外資規制があって単独はできなかった?
選んだのは3人兄弟の会社
小さいがやる気があった (→ その後大企業に育った)
しかしXは11ヶ月で返された
インドビジネスはきつい
Yから嫌われた?=ポケベルの訓練で意見が合わない
一緒に仕事をするのが大変
役員で半数を取っても
「1つの田んぼを2人で耕すと,どちらが肥料のお金を出すとか色々揉める」
98年に解消
ポケベルは時代に合わない
合弁相手の株を引き取った
価格では交渉
・cf. 94年ソニーが100%子会社
←当時は51%現地
95~6年
合弁解消後
しかし法的な問題はない
政府との交渉力が必要
盛田・大賀の力
が要件
家電メーカー
第一次日系進出ブーム
電卓や時計を輸入して販売
完成品の輸入が98~9年に認められた
代理店を通して
ただ80%の高関税
cf. シティズンはその前に,作って売っていた
・グレーマーケット
シンガポール(関税なし)から密輸入して販売
タイタン(地元)が市場を独占していた
印パ紛争の際は,日本人全員に退去勧告が出た
・~05・06年から戻った
=経済も停滞
関数電卓の需要が増えた
理工系学生の爆発的増大(150万人?)
電子楽器(ミニ鍵盤)
米国帰りのインド人が土産に持ち帰った
インドリズムを取り込んだ(本社の技術部)
・家電量販店
07年まではなかった
中産階級(都市/若者)
爆発的に売れた
今は大型の高層マンション・デパート
グローバル化がやってきた
B社ブランドも,日本と同じ仕様(ただ電波付きではない
・駐在員4名
現地採用日本人3名
売れるものを売る
←まだ電波・・がない)
ローカルスタッフ100名(内派遣4割)
販売プロモータ200名
輸入販売
外国ではやっている=すぐに
代理店各エリアごとに
生産よりも販売拠点をもっと持ちたい
インドで作ってもコストが下がらない
労務管理の問題,部品を持ってきても関税がかかる
cf. もっと大きいもの(自動車等)であれば別/ソニーでも多品種・少量=販売のみ
2.問題と言えば,日々問題がある
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eg. MRP (maximum retail price): 全ての輸入品1個1個に貼れと要求
100 万個という単位
「○インチ」という表示
・税金(移転価格税制)が大変
~大変な手間
→ コンサルを立てて関税当局と交渉
→ メートル法で表記せよと要求
5~6 件訴訟になっている
中には 97 年からのものも
しかし「早い」のも考え物
DRP (dispute resolution panel) 9 ヶ月で出たが,仲裁者が全部税当局のOB
訴訟も,前段階の不服審査
派遣社員の打ち切り
全部負ける
負けた
→ 高裁ではじめて「公正」が確保
=訴訟になる→ 労働裁判所では必ず負ける
→ 控訴して次からまともな裁判
~現地弁護士の訴訟費用は安い
法曹資格が取りやすい=数が多いから?
・代理店が「売れない」・・?と訴えてきた
民事訴訟ならよいが,詐欺罪で訴えてきて,田舎の裁判所まで呼びだされた
・移転価格税制での訴訟
社内的に訴訟は「社長決裁」
~本社に上げる
/弁護士に相談ではない インドの事情を日本の弁護士は知らない
社内でも法務部でなく,経理部が担当
代理店との紛争も法務部に上げない
=時間がかかるのを知っているので訴状だけを送りつけてくる
在庫を引き取るとか,示談をする
・インド人は,"letter" が好きだ
社長宛に送る/手紙はただという意識
商慣習:「お金を取れない」
商品を入れて売った,お金を払わない
→ 次の仕入れを止め,半年位やってやっと取った
高金利(年 9.5%も):延ばす方が得
→ 後払いは受けない
小切手でもお金がない
お金が一番正直
2回やっても「不渡り」にならない
与信保険がない/担保・保証を取らない
cf. 取立で自殺という話も
~取り立てる力がない
インド人同士では取り立てる力がものすごい?
30
*C社
1.2005~
FSを実施
・具体的に distributors: visit different cities
~ price position/ margin of profit /existing competitors
~実際に選んでモニター
・legal requirement: e.g.インドの小売業の規制
=直接販売ができない
病院など組織に売ることはできる
※インド法人を作る前は,香港販売会社(インドの親会社)がインドの顧客に販売。
その間に,市場調査や設立準備を進めていた。本社の考え方,商品知識の習得も。
2.日本から輸入して販売
輸送+関税
~で高くなる
←安いはず(所得水準から)と言っていたが
実際に日本の価格を知らない
見て,「むしろ高い」。
↑
*インド法人の前は,香港から持ってきて,FOBで顧客に価格呈示していた。
それとの比較で,関税,倉庫代がかさむ。
Q:インドで直接製造は?
A:自分(インド人)は勧めた
~が本社ではしないと決定
(※正確には保留。まず,販売の目途をつけてから考える。)
理由の一つ:living conditions が日本人には悪い
←中国との比較(中国に工場がある)
しかし,ムンバイでも少し郊外に行けば安い
↓
=会社にとって駐在員への生活確保が高く付く
他の地域でも:インドの擁護?「生活困難≒高い」の固定観念の否定
また,supply of raw materials ?が困難(意味が不明確):
むしろベトナム:日本に近い
3.会社設立(=3年前)
最初の1年は準備
2010年1月から実際の取引
←部品調達?/駐在員の生活?
事務所・倉庫を探す/申請
→問題が次々と出てくる
輸送・タイミングなどロジスティック,州際:取引税(州政府と議論)
消費者からの製品の苦情
~落として故障/USで買った製品=保証→できない(仕様が違う)。。
4.日本企業への助言は?
・コンサルに依存しすぎない
~は積極的な展望を言い過ぎる
自分で確かめる;インドは多様
地域によって態度(pschy)も違う
・最初に投資を惜しまない,後からコスト削減を考える
=優秀な人材の確保
31
・インド人の psychi (メンタリティ)を尊重する
日本人はグループを作り他を排除する。
ただ,優れた人もいる
e.g. 商社を退職後 JETRO に努めた人など
32
*D社
1.40年前から代理店を通して販売
当時は,レベルの低い,中学校の実験機器のようなものの販売
大学の研究所や製薬などの民間企業の工場・研究所に年間数台
現在は,1000~2000万円が毎週売れる
2~30万円の販売
≒売り上げでは先進国並み
・D社シンガポールが南アジアの販売拠点
日本で作ってシンガポールの倉庫に
→そこから運んだ方が安い
運び込んで持ち出せば関税もかからない(後から還付される)
cf. 米国・中国には工場:現地生産・販売に税制面で有利な扱い
・全世界で500~1000台しか作らない
カストマイズ(インドに合わせる)が難しい
・代理店は現在4社
標準でやる/対応:attachment でやる
いずれも20年以上
D社の製品の重複はない
cf. 時に顧客から2つの製品を購入
↑
~セット販売で割り引け
cf. 大量販売であれば競争して販売させる
発注書を1社にしろ
という要求
→内部で調整
のメリットもあるが,
地域別の対応は,代理店が支店や現地社員で対応
D社の方で地域毎に代理店を置かない
=方言の違い/地域への溶け込み
代理店を飛ばしてネットで本社に直接問い合わせ
→即日代理店に連絡
→代理店から
インドの場合他の国の代理店で買うことはないが,
ヨーロッパの顧客がインドから買う(安いから)はあり得るが,断る
・インド会社の意義:ショールームやラボ ←代理店にはない
セミナーを開く(毎日のようにやっている)/ラボ:解体して修理組立の実演
インドからすれば1台500万円
非常に高額
=購入に慎重になる
←下手をすれば担当者の首が飛ぶくらい
異常が起きた時,現地に行かなくても再現実験
・定着率の問題はあるが,インド人技術者15名
=操作ミスか故障か検討を付ける
~優秀/2~3年もすれば指導できる
←今の社員も他を辞めてきているから同じだが
=辞めるのは最初の1~2年,後は比較的定着
6年前20名(+2名日本人)(=現在55名)
インド人社員=顧客の所に行って技術指導
~内15名が残っている
出張を喜んでいる
(前には飛行機に乗ったことがない)
定着率を高めるのが自分の仕事と意識
=技術の継続性
~少々の失敗でも目をつむる/業績に貢献
~もてなす
2.製品は汎用品(D社以外でも作れる)
=価格競争は大変厳しい
欧米企業と/インド企業はまだ追いついていない
ローカルなものは極端に安い
=40年前の低価格品→D社は勝てない・放棄
しかしD社では売り上げの1割程度
・日本でも競合他社がある
20年前:シンガポールからインドに売っていた
33
D社だけが頑張る
当時2~3社が同レベルで戦っていたが撤退
→現在再進出
話を聞きに来る
日本では,D社が(扱う製品50種の内)20種ぐらいでトップメーカー
・しかし世界では米国の競合メーカーが強く,D社が2~3位に甘んじるのが多い
→インドでも強い:だから苦戦
とくに円高:リーマンの前
120円
→今80円
3~5割価格が上がる計算
≒もうけを全部はき出せに等し
い
・現地生産難しい
cf. 米国・中国
インド:ハイテクが多い
現地向けに作っていた
≒日本から部品を持ってくる
~生産ラインを変えれば済んだ
中国米国でも7~8割は
→いくら頑張っても1~2割のコストダウンにしかならない
工場を造って~と考えれば,可能な限り割引でしのいでいく方がよい
・インド人
賢い/プライドが高い
特に会社の経費を使う場合
良いものを欲しがる
良いものを安く買おうとする
既に高品質なものがある場合,品質を落とすと,会社がバッシングを受ける位
他の企業も同じ
D社だけが品質を落とすわけにはいかない
→コミッションを安くすることで対応
・コミッションを下げる≒仕入れ原価を下げる
=移転価格税制の問題?
インドでは儲かっていないから問題はない/インドは法人税が高い
e.g. シンガポールの件で,本社が17億円追徴
05~7年アジアでよく売れた
設備投資せず,そのまま留保した
~が利益の移転と見られた
シンガポールは法人税10%で安い
=利益移転に国税庁が警戒
・5年ぐらいでモデルチェンジ
新製品が出る毎に本社から販売しろ
~見本を送ってくる
しかし仕入れ価格と販売価格とあまり差があると,税務当局からクレームが来る
=関税が取れない
ことを恐れる
インド:基本関税≒30%(民間の場合)
ただ,誰が輸入するかによって関税が違う
輸出=外貨獲得に貢献
~5%に
D社インドが輸入し販売が一番高い
大学・政府関係では関税がゼロ
→顧客が直接輸入する形にする
≒輸入補助をしているという位置づけ
~最短でも3週間位かかる
・インドでは減価償却は7%
=5年で償却
65%が損金となる
←法律が古すぎて時代に合っていない
ハイテク機器では,いつまでも使うという昔のやり方とは違う
国際会計基準に合っていない
のに
二重に計算
3.インド人:よく「社長を呼べ」という怒り方をする
一筆書かないと収まらない
簡単な間違いでも「詫び状」を書かされる
営業マネジャーでは駄目
general manager や社長のサインを要求する
←インドD社ができるまでは,1ヶ月後にシンガポールから飛んで対応していた
・訴訟になったケースはない
ただ雇用関係では,どういう場合にどうなるか,ケーススタディをして備えていた
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幸い雇用でも「働きやすい職場」との評判
・見慣れない問題が起きた時
問題は起きていない
経理部長(インド人)に相談
=2~3社渡り歩いて,人事経理関係の業界を知っている
~調べてくれて意見を述べてくれる
→従っている
=有償か,無償かは知らない
代理店の方でもコンサルを持っている
~とも相談す
・経理はD社では,全世界的にデロイトに依頼
最初はインドでも丸投げしていたが,あまり高いので税務はムンバイの経理会社に変えた
=3分の1位に下がった
・日本の弁護士に相談したり,~から指示が来たことはない
ただ,全世界的に製造物責任に保険をかける
子会社
・他に,年金
5000万~1億
昨年の10月に
本社はその10倍
外国人:全世界所得に
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=東京海上に(インドでも)
*E社
1.インドでは,お金をチェックする機械を販売している。正券と損券を分ける機械。
正券と損券を分けるという通達が,政府から出ている。「Clean Note Policy」
そのため需要がある。
・販売先は圧倒的に銀行向け。95%が銀行で,残りは宝石商や現金輸送の会社向け。
・25年くらい前から,代理店経由で販売していた。
インド進出については,2010 年に会社の機関決定があり,11 年2月に設立準備をし,同年6
月に登記。
・F/Sはしていない。代理店販売をしていたので,様子はわかっていた。また,シンガポー
ルを拠点としてインド市場を見ていた。シンガポールから年に10回はインドに出張に来ていた。
・単純にお札の枚数を数える機械では,インドの企業にコスト面で対抗できない。現在販売し
ている機械は,正券と損券を分けるという機能があるのでやっていける。
2.ある程度大きなマーケットであり,インドに工場を作ることも考えてはいる。
・中国には工場がある(2002 年から?)
中国は,安い労働力を使って,中国国内の大きな市場で販売するというビジネスモデル。
フィリピンに工場を作った(1993 年)のは,安い労働力という観点。フィリピンでは,国内で
部品調達が可能。
・インドでは,中国のビジネスモデルと違う。インドは労働力が安くない。また,優遇策がな
い(他国では,法人税5年なしとか,関税なしなどの優遇策がある)。
Q:なぜ外国企業に対する優遇策がないのか。
→ A:弱者に優しい政治のせいではないか。
・設立段階では,外資規制はなかった。
設立時には,日本にいて,インド国内のコンサルに頼んで,日本から必要な書類を集めた。
法務部に相談はしていない。日本の弁護士にも相談していない。
頼んだインドのコンサルには,法的部門があった。
会計は基本的に世界共通なのでインドに進出しやすいが,法律は難しいと思う。
3.シンガポールでアジアを統括。物流と商流には入らないという方針でやっている。
シンガポールにまず輸出し,そこからインドに輸出する。シンガポールは関税がない。
インド・シンガポール間もインドが FTA を結んでいて,関税が多少安くなる。
・日印の FTA については,今月も,在インド商工会議所でセミナーがある。
・日系企業が集まった時に話す不満は,税制の不満が多い。あとは,生活全般の不満。
シンガポールに7年赴任していたが全く不自由はなかった。むしろ日本より便利。
36
4.25年間,基本的には,代理店とはいい関係。契約トラブルはない。
・機械については,ハードウェアは世界共通。ソフトウェアを変えるだけ。
マーケットに密着した活動をするために,インドに法人を設立した。
・代理店契約は,お互いが非独占の契約。正規代理店(authorized distributor)。
代理店は,義務としてアフターサービスも担当する。
商品に欠陥があった場合には,本店が対処する。法的な紛争になったことはない。
・生活面での驚きはあるが,25年前からインドと取引をしていたので,商売上の驚きはあま
りない。
インドの商慣習として,金払いが悪いというのは確かにある,ただ,インドだけではないと思
う。
・代理店とは,L/Cで取引をしているので不払いの問題はない。代理店からは,open account
でやってほしいと言ってくるが,断っている。
・代理店と顧客(銀行)との間では,支払いについてトラブルになることはある。
たとえば,ある銀行から2年間支払いを拒絶されたことがあった。
その理由は,入札時と違うデザインのお札が発行されたので,それに対応できるようにモデル
を変えたことにある。機能を改善し,売値も一緒なのに問題が生じた。
320台納品し,納品先から問題がないことについて,確認書を取って来いと言われた。
このケースは,金払いが悪いというよりも,「官僚的」な対応のせい。後でいちゃもんを付けら
れ,足を引っ張られるのを恐れている。ルールを重視する。
・他に金払いが悪い理由としては,年利が8%程度あるので金利稼ぎという理由もある。
銀行だからといって,金払いがいいとは限らない。
・リース販売をしたいけれども,インドにはリース会社がない。
「レンタル」という言い方はしている。
5.インド国内には,8万7千の店舗数がある。機械は,少なくとも5年は使う。
・海外部門の売上は22%。目標は30%。
ドイツ,イギリスに競合会社がある。
他国は政治力を使っている。日本も政治力を使う必要がある。
・銀行の機械化が遅れている。当面は,現在販売している商品を販売していきたい。
需要のない商品を売っても仕方がない。電気の通っていない村に,電化製品を売るようなもの。
・インドにも偽札問題はある。パキスタンが作成しているという説もある。
年間40万枚の偽札が発見されている。しかし,届けられた枚数であり,面倒くさくて届けて
いないものがたくさんあり,実際はその10倍は出回っていると思う。
37
*F社
1.ムンバイ 08.11 ~ /デリー11. 9
ジェネリックの製薬
インド
→日本へ
/日本からインドへも
"indent business" :commission based /F社(日本)とインドとの直接取引
=F社インドは介在しない コミッションを日本からもらう
回収の問題から
インドで販売:銀行保証(LC)がない
連結決算だから子会社か,親会社かは関係ない
ただ移転税制:コミッションが適正か
2.インド:生活が厳しい
ムンバイ<デリー
↑
←risk, function から
の方がまだよい(家族連れもある)
=日本人学校
220名
cf.ムンバイ25名
任期は決まっていないが,3年ほど
F社:本社400人/海外30名(日本人)
~では製造工場もある
カメラレンズ,コーティング
インド(商社だけ):14名(内日本人3名)
・現地化:トップにインド人を持ってこないとしんどい
=人脈がない
日本人はコネクションがゼロに近い
・定着率が低い:給与が高い所に移っていく
10%上げると言ってもだめ
20~25%上げてくれと言う
3.インド固有の問題
・tax を invoice にすべて書く
・物流
=倉庫がひどい
→手数料が丸見えになる(~が困る)
冷凍保管ができない
~製品が傷まないか心配
道路
ただ物流コストを入れてもなお安い
・時間を守らない
4.コンサル
納期の遅れ
ジェネリック製薬
出荷時期が明示してあるのに守れない
現地(会計士がむしろ中心
手続もやってくれる)
現地の弁護士:従業員規則を作る時利用
問題なくやってくれた
←日本の弁護士に相談することはない
・「貸し倒れはない」(と言われる)=払えるのに払わない
買った商品が売れて回収できるまで支払いを拒む
金利が8~9%
支払いを延ばせば得,と思うのか
cf. 他社:「利益の半分は金融」(という噂)
下請けの支払いを遅らせる
≒金利を稼ぐ
5.インド:利益が出ない体質
安い=付加価値を求めない
(とにかく安い)
薄利多売しかない
↓
最初は仕様に従って作っても,スペックを変えて作る
寿命が短くても,今さえ安ければ
~インドの「体質」だろう
・資源?は別だが,消費財は厳しい
インドに800社
ただ,撤退はしない
・他社
利益を上げているところは少ないのでないか
将来的に発展すると思うから
インドの企業を買い,他社の現地幹部をトップに(~成功だろう=新聞)
38
*G社
1.ODA→各国政府:「コンサルタント」の競争入札 → 通常コンサルは計画,設計・施工管
理を行い,建設そのものはゼネコンなど建設会社が請け負う。
G 社がインドに進出したのは周辺国に比べれば遅れた。 cf. ネパールには50年前から進
出している。
その当時は世銀の借款でビジネスをしていた。
インド政府は基本的にコンサルは要らないと言っていた経緯があったが,20年前,世
銀融資の水力発電事業がきっかけでインドに進出することが出来た。
コンサルの重要な役割として,政府ではできない事業の品質管理,工程管理,そして資金管
理などがある。
コンサルタント入札の8割は技術提案力,2 割が価格である。
技術提案力中で,約2割がその会社が持つ過去の類似業務実績
約3割が技術方針,残り約5割が主要チームメンバーの履歴書である。
よって会社実績よりもチームメンバーの経歴がものを言う
また正社員か,借り上げ要員かでも評価が異なる。
お客さんは正社員のほうが責任を持って業務を遂行する傾向があり,困難があっても逃
げないことを知っている。
円借款などインド政府にとっては借金を負うわけで,その使い方に責任(次の世代がその
返済)を持つことになる。当然コンサルも含めて入札は円借款ガイドラインに基づいて慎重に
行われる。
cf. 無償事業の場合規模は10億円程度であり,大きな事業には適さない。
・インドは,理想的なピラミッド型人口構成を保ち,若い世代が多い
よって借金返済能力が高いと外国援助側は評価する。インド側でもその優位性を知ってお
り,外国援助側の足元をみて交渉に望む場合もある。
cf. Jetro(でも聞いた): 外資優遇策をとらない
来て下さい,5年間は税を免除します/インフラ整備をします・・等はない
インドは民主国家,弱者を考える
→露骨な外資優遇を取れない
2.Q:円借款だと,日系企業が優遇されるか?
A:それはない。
ただ STEP ローンという日本企業態度の特別な円借款の制度はある。
入札に際し,最後はインド政府が決める。STEP ローン以外の入札は一般的に国際競争。
・STEP の例:デリー~ムンバイ間専用貨物鉄道
G社が受注(コンサル)
G 社では顧客の事務所内で約50人の日本人・インド人・他外国人鉄道技術者が働い
ている。
3.業務遂行上インドに特有な困難性はない
困難は世界どの国にもある。
39
むしろ他の途上国に比べ,インドは法治国家
←他のアジア諸国と違って,執行者の裁量権は非常に少ない
インド人は契約に至るまではがんがん交渉するが,決めて書いたものは守る。
インドは契約書を遵守する。
・Q:「お金を払ってくれない」?
A:全世界どこでも同じ
←他の面接先から繰り返し聞いたが・・
/訴訟沙汰(外に持っていく)になるのはインドのお客さんがサ
ービスに満足してないから。
例えば,コンサルタントは机にかじりつくだけでなく,頻繁にお客さんのところへ挨拶
に行ってご意見番になる。
支払で,問題が深刻なのは施工業者の方で
インドでは巨額取りはぐれを恐れて日本のゼネ
コンなどが入札に参加しないケースがある。
コンサルの仕事で大事施主と施工業者の間に立ち仲裁したり,施工業者の請求書を入念にチ
ェックしたり,中立の立場で公平さが大切。
4.インド現地法人の有利性
G 社は3年半前に設立
G 社内では10前から現地法人設立を議論はしていた。
しかし,社内体制の問題:海外社員の処遇など調整が難しかった。
・コンサルタント業務の場合,現地法人を持たないインドのローカルコンサルタントと組ん
で仕事しなくてなならない。お金の問題でぶつかることが必ずある。ローカルコンサルタン
トは G 社が幹事会社だからと,経費リスクなどを全面的に求めたりする。
・税制面でも外国企業には大きな見なし課税がかかる。コンサルタントの場合売り上げの3
分の2が利益と見なされ,その利益の 4 割が法人税として課税される。
G 社の場合利益面で G 社グループに貢献している。
・インドは皆がものを言うから法律のもとでまとまっている
民主主義の良い点。
ただ,コモンローの国:判例が変われば法が変わる
今まで大丈夫だったのが,判例が変わったと言って・・
とくに,インドは税金が難しい。
会社設立を手助けするコンサルタントがいる。
・インドに進出する日本企業で,他国で撤退したからインドに来た,では駄目。
リラックスして,よく勉強して,多少のことはあってもインドでやる,という覚悟で。
40
*H社
1.2005年にインドに進出。プロジェクトオフィス(PO)として登録。
POは,プロジェクトごとの登録で,他の仕事はできない。
6つのプロジェクトオフィスを持っている。
・プロジェクトが終わっても,すぐには解消しない。税金の還付に何年かかかるし,第二期工
事が始まると,同じPOを使うので。
POごとに,銀行口座も別に作っている。
POは作りやすいけど,逃げやすいともいえ,お客は嫌がる。
・現地法人を設立した理由は,お客の問題(営業の問題)と税金の問題。
POでは42%。
だが,現地法人では33%に削減できる。
技術系の人間としては,税金はあまり気にしていないが,本社が気にする。
・現地法人にすると,7人で組合を作られてしまう。POであれば,雇用関係の問題が少ない。
雇用契約を切りやすい。現地法人が採用すると,切るのは大変。
・現地法人を設立したのは,半年前。POで,いい人間がいれば,現地法人で直接雇用するこ
ともある。
POの条件は,日本から資金を持ってきて,日本に還元する。
現地法人ではないと,現地で稼いだ資金を投入できない。
2.現時点では,日系企業からの受注だけ。理由は,支払いが確実だから。
・インドの現地企業が作れる,アパート,鉄道などの仕事はしないというのが,暗黙のルール。
工場,発電所,橋,トンネルなどをやる。
分譲住宅は,特に難しい。売却後にクレームがあるから。
・DMIC(デリー・ムンバイ産業道路建設)は規模が大きすぎる。東京-名古屋間を1社がす
べて受注というのは考えられない。日本では1駅ごとに受注する(各社でシェアする)。
事業の規模を大きくするのは,インドの会社を入れなくするため。
しかし,みんなリスクが取れなくて尻込みしている。10%の赤字が出れば,会社全体が潰れ
るほどのプロジェクト。
たとえば,土地の買収が遅れていると,工期が遅れるといったリスクがある。
・円借款なので,日本から直接支払われるわけではない。中間でマージンが取られる。
・工場団地を作るといっても,電気も水もないところから作る。
しかも,最近は,環境規制が厳しくなってきている。
3.役所はいい加減なところがあるが,法律自体はしっかりしている。
・袖の下を要求されるが,日系企業はコンプライアンス上応じられない。
41
・インドは土地の登記制度がいいかげん。
土地を買うと持ち主が3,4人登場することがある。裁判になると,それぞれに代金を支払え
などといった判決が出て,土地の値段が何倍にもなることがある。
・契約時には,土地の値段について,値上げを要求できる条項がある。外すように要求しても
外してくれない。弱者保護。
文言を外せば,契約してくれない。
4.法的問題については,現地の弁護士を頼む。
最初は顧問の会計事務所に聞き,セカンドオピニオンとして弁護士に聞くことがある。
しかし,聞く相手によって答えがバラバラ。
・法律が変わると,すぐに施行されるため,法律関係が複雑。
・訴訟はない。契約は,日本のひな形を英文に翻訳してそのまま翻訳して使っている。
管轄も日本。日系企業相手なので,問題はない。
・現地の下請と法的にもめることはない。
指示どおりに働かないなどの問題は当然。たとえば,1メーターいくら,といった配管工事を
依頼した場合,簡単な部分の9割をやり,9割だけ工賃を要求し,難しい残りの1割については
やらないといったことがある。
そのような場合も,仕方がないと考え,追及しない。日本ではありえない事態である。
・違いは,教育の問題だと思う。小さい頃から,「人に騙されるような人間にはなるな」など
と教えられているのだと思う。
・カーストの問題もある。
例えば,日本では1人で済む修理を,インドで修理を頼むと,15人くらい来る。Aという場
所を拭く人はBという場所を拭かず,別の人が拭く。分業しすぎ,非効率。
・他の国では,香港に50年前,タイに30年前,ベトナムに5年前,台湾に5年前に進出し
ている。アメリカ,インドネシアにも進出済み。
中国は撤退した。
5
・ローカルの弁護士は関係しなかった。
会計事務所に聞き,会計事務所が提携している弁護士に聞いても分からないことがあれば,別
の法律事務所(地場)に聞くことはある。
・本社の法務部に聞いてもインドの事情が分からないので,聞かない。
本社の人間が,インドに応援に来てくれたことはない。
6.日系の競合企業は3社程度。タイでは20社くらいある。
韓国企業との競争がある。
42
・日本の商慣行として,設計と施工をする(図面を描く)。たとえば,「ここは,4人入る部
屋を作ってくれと注文される」。欧米の会社は,客が図面を描き,何平方メートルの部屋と指定
する。
日本の場合には,気に入らないと(狭い等と言われたら),直す。欧米は施工しかしない。
図面を描く必要はないので,楽。一方で,利益は少なくなる。
・最初は,知名度がなかったので,下請けを見つけるのも大変だった。100%前払いなどで
契約していた。値引き要求もしない。今は,電話をかければ向こうから来る。
・下請けにも特徴がある。
ポンコツ車でも,ポンコツなりに運転の仕方がある。ブレーキの効きが悪い車に乗っていたの
に,他のポンコツに乗り換えると,かえって苦労する。
・技術レベルはまだ低い。生活レベルは上昇している。
ただ,インドは,核兵器まで持っている国。自前で何でもできる,外資はいらない,というス
タンスがある。
・ある商品に対して,親は興味なくても,子どもが興味を示すことがある。
親の世代は,小さな車を志向していたが,若者世代は大きな車を志向している。
日系自動車企業も,金持ちが1億人いるので,あえて,インド用に小さな車を作ろうとはしなく
なってきている。
・インドでの受注では,10数年間のオペレーションまで担う。元をとった段階で,インドに
渡す。10年以上先まで,携わらないといけないので,大変。
売った時が利益の底というのが特徴的。
・労働基準監督署によく行くことが大切。
環境規制があっても,測定する機械がないという問題がある。そのため,いちゃもんを付けら
れることもある。
お客に引き継ぐときは,労基署の人間とコミュニケーションをよく取るように伝える。しかし,
実際にはやらない。役所の人間と話をしないのが,トラブルが生じる原因。これをやるべき。
・役所の人間が,コンサルを紹介してくれることもある。この方が,顔が利くしよい。
また,コンサルタントフィーから,役人にお金が行っている可能性があるが,直接渡しているわ
けではないので,危なくない。
43
*I社
1.インドに来て半年くらい。合弁の設立は2月,許可が4月。
cf. 許可がなぜ必要かは,聞きそびれた。
・水処理・廃棄物処理施設の開発設計・施工管理。
800億円の売上。従業員は800人。さらに子会社に800人くらい。
・下水,工業用水,水リサイクル,都市ゴミの処理,ガス化溶融設備など。
この分野では30年の実績。ダイオキシンの規制にも対応できる。
日本では40,50件の実績。
大きい施設は100億円規模,小さいものであれば1億円未満もある。
・国内市場が縮小傾向にあり,3,4年前から海外進出を検討しだした。
ごみ処理はまだ考えていない。まずは,水処理施設。
・ベトナムには2年前に100%の現地法人を設立。他にはデュッセルドルフ等。
2.インドの財閥系企業と合弁を設立。
2年くらい前から知り合い,タイミングがお互いに合い,合弁。
共通の知り合い(投資関係)からマッチングした。コンサルを通したわけではない。
・社内にはもう1人日本人がいる(合計2人)。
インドに工場はない。日本でも工場はない。指示のもとで制作する。
部品等の調達はインドで可能。
・合弁の割合は,51対49(インド側51)。外資規制はない。
本社では,マジョリティを取るべきか議論はあった。
・技術の提供は日本側がやり,マーケティングはインド側がやることになっている。
ただ,まだ日系企業から1件受注があっただけ。
3.合弁の設立は,数ヶ月かかった。
本社の総務部,法務部の知見を借りた。インドにも来ていた。
合弁契約には,撤退条項をもちろん作った(イグジット・クローズ)。
・インドでの稟議が大変。日常業務でも問題が生じてきている。
設立形態が問題になったが,結局,パブリックカンパニーにした。
・3ヶ月に1回は,ボードミーティングをしている。
インド側との衝突はある。1回1回が仕切りなおしという感じ。
取締役の構成は,日本とインド3人ずつ。議長はインド側。
・現地の顧問弁護士はいない。インド側にはいると思う。ただ表立っては出てこない。
・本社の社員で,海外関係に長けた人間がいた。
44
親会社もコミットすることはあると思うが,今回はなかった。
法務部の人間は最初本社から出向し,今は転籍している。
4.インドは実績重視。応札企業に実績を求める。日本は納入実績表で大丈夫。
資格審査が厳しい。契約書や顧客からの書面が要求される。
・実際に,インドで仕事をしてみないと分からないことが多かった。合弁相手はインドの財閥
系企業だが,組織よりも個人の力量が大切だとわかった。
・日系企業から仕事を1件とった。バンガロール。競争入札。ただし,小規模案件。
日系企業からすれば,日系企業は安心できるので,落札できたのだと思う。ただ,インド人
の仕事が遅れると,納期も遅れてしまう。
・公的部門はまだ狙っていない。実績が必要。まずは民間で実績を作りたい。
メンテナンスについてもやっていきたい。ただ10年先のリスクを取るのは難しい。
・契約書の雛形はもっているが,個別事情に合わせて修正している。
・ベトナムでは,3件の納入実績がある。さらに2件受注している。
インドでは欧米系とインド企業が競合している。韓国企業も1社活発なところがある。
入札では,最初に20~30社あり,そこから10社くらいに絞られている。
・価格面での競争が激しい。
独自の商慣習といえるものとしては,納期,工期の感覚がルーズ。
インドでは,たとえばパイプの水平度等が曖昧。地震がないせいもある。日本では完成した
時のパイプの美しさまで問題になる。インドでは図面もなかったりする。段取りはゼロ。ただ,
その分コストを下げられる。壊れたら直せばいいという感覚が強い。
日本では,一つが壊れても大丈夫なように,バックアップ用に2系統作ったりする。インド
では1系統だけ。日本では,ろ過器が目詰りすれば,自動的に綺麗にする装置がある。インドで
は,警告音がなるだけで,自動化はしない。自動化すると雇用が減るから。
・F/Sは,もちろんした。
合弁相手企業が外部のコンサルを使った。内部にも調査部門はあるはず。
・合弁相手企業側が思ったようにマーケティングをしてくれないという問題が発生している。
最終的には,100%の法人を作りたいと思っている。ただ,別れるときには法的な問題になる
と思う。
・インドはアジアではない。インドはインド。
45
*J社
1.J社とアメリカ企業との合弁
1946 に→1998 合弁解消
喧嘩別れではなく,企業の方針が違ってきた
合弁の頃,タタとシステムの開発
日本の工場で組み立てインドに持ってきてシステムに組み込んだ
~合弁後も続いていた
J社独自でバルブの技術移転(インドの政府系企業に):インドで製造販売
発電設備の7割ぐらいの市場占有
=J社の名前が知られた
(「あのJ社ですか」という感じ)
・2000 チェンナイで合弁設立(50%)
法務知財部でチームを作って
~しかしうまくいかず解消(2007 に)
合弁解消に問題があった(法的な困難)とは聞かない
2009 グルガオンに駐在員事務所~
日系企業向けでなく,インド向けに市場開拓
・最初の合弁先相手とは競合
→ムンバイ(本社)/チェンナイ(支店)
→インドでは合弁先相手が圧倒的
アジアではJ社が
→合弁は補完関係だった
cf. 担当社員:(直前)ベルギーに5年滞在
ヨーロッパでは相手にされない
e.g.シーメンス:工場があり,注文=翌日に配達
J社は注文して届くのに1ヶ月かかる
ロシアに売りに行った/得意:省エネ
~のメリットがあるか
~を売りにする
2.日本で作ってインドで売る,というのでは駄目
日本の製品をどうローカルな製品に組み入れてシステムを作るか
→ 「ソリューション」を売る:困っている=解決を提供する
現地:優秀な技術者←平均年齢20代:若い人が多い
~で生産できる
必死に勉強して自分を売り込む
とくにシステム:ITが多い
工場の建設:方法はこれから帰って検討(来月帰国)
~担当社員は2年・単身赴任
(前は商社/移って13年・内12年は海外)
3.J社:法務担当者に契約は事前に見せて検討してもらう
現地のコンサル会社にセカンドオピニオンをもらうことも
↓
とくに税金が複雑
税理士でも意見が違ったりする
法務担当者がインドまで来ることもある
cf. 会計はデロイトに頼んでいる
・法務で気をつけているのは,コンプライアンス
現地の規則に従っているか,気をつける
4.インドに固有の難しさ
外国投資に対する法整備ができていない
税務:州境で越境税
←中央政府が弱い:連邦制
逆に,これだけの国でよく民主主義が維持できている
ただカースト制の問題
工場の中で業績主義
→ 人事はインド人に相談する
46
と感心
~抵抗されることがある
*K社
1.(日本人社員)コストを下げろと言われるが,下がらない。時に日本より高くなる。日本か
ら部品を持ってきて,検査して,運んでということをしていたら。
12 年前の設立以来,利益は上がっていた。当初は競争が少なかった。むしろ,現在,ドイツ系
企業等との競争が厳しい。
・最初は,そのまま日本の技術を持ってきて作るはずだったが,コストを下げろ,地元に合わ
せろということで,R&D(Research and Development)に力を入れる。
・日本人従業員は4人。内2人は生産部門で工場にいる。任期は2年ぐらい,長くて5年。部
長からは,そんなに長くいたら,帰る所がないといわれている。
社員:310 人
+短期労働者900人。
2.(インド人社長):
・会社設立のきっかけは 1996 or 97 年頃,タタが乗用車を作ろうとし,部品メーカーを探して
いた。しかし,当時インドの技術は低く,アルミ系のラジエーターも新しい概念だったので,海
外のいくつかのメーカーに打診した。
また,ホンダやトヨタの系列ではなく,独立系の部品メーカーを探した。
同じ考えで,当時タタは先進技術を持った企業と提携し,他の部品メーカーも作っていた。
・日本メーカーにとっても,タタは信頼できる提携先であり,また,インドの法や文化が分から
なかったので,当時の多くの日本企業と同じように,合弁を選択した(と思う)。
K本社はインドに進出しようと強く決意していた。
・なぜ社長に選ばれたか?
最初,1998 年エンジニアとして入社。その後,営業や品質管理を2年ほどやった。2008
年CEOになった。それまで,比較的短期でインド人の社長が続いた。途中,2003 年に日本人の
社長。
元々技術はK社,経営はタタという了解。
地元企業の強みは業務や管理の方が有利。採用も地元を知っている。
一度だけ日本人が社長になったのは,当時,市場への商品投入に遅れがあった。インドの市
場で高度な製品の受容が進んできたが,技術の導入,開発には専門性が必要であった。
東洋の技術が遅れていたのではなく,インド市場向けの商品開発の遅れであり,消費者に納
得させる必要もあった。例えば,農民はラジエーターの冷却水にクーラントを使わず,水を入れ
ていた。
・顧客はインド企業。最初は赤字だったが,その後,利益を上げた。一番良かったのは 2005
年で,税引き後利益は 20%にもなった。
しかし,2006 年にストライキがあり,ストの後,顧客は1社に供給を頼ることのリスクから,
他の部品メーカーに切り替えたため,回復するのに長い時間がかかった。
・ストの理由は,政府が 2004 年に排気ガスの基準を変えたため,もう一つの主要製品であるイ
ンタークーラーの新規製造が必要になった。この製品は手作業の部分が多く,多くの短期雇用労
47
働者を雇用し,全労働者の 80%にもなった。労務管理の計画も十分でなく,トイレもないなど,
これらの労働者の労働環境への配慮が足りなかった。不満を持ち,そこに政党の働きかけもあり,
組合ができ,ストライキが起きた。経営者は,商品の市場への投入の方にばかり気を取られてい
た。
ストは,政党の重要な地位にある人が聞きつけ,解決を働きかけてくれることで終わった。
・市場競争は非常に厳しい。現在,ラジエーターの部品供給ができるのは,8~10社ある。
タタ自動車も,タタの子会社からだけ買うわけでない。
・高い品質は,コストの面でインドでは必ずしも受け入れられない。インド向けの製品を開発
する必要がある。だから,地元の技術者を採用することが大切。
競争会社に会社の技術者が引き抜かれることも多い。転職は避けられないが,定着率を高める
ために,チャレンジングな仕事を与え,最新の技術に触れる機会を与えるなど,考えてはいる。
・インド労働者の一番大きな違いは,規律がない。お互いの時間を尊重する等,組織の論理が
足りない。文化的な問題。
職場での良好な人間関係は大切。ただ,日本のやり方をそのまま持ってはこれない。インド化
が必要。
・コスト低下は難しいというが可能。①価値を分析し,デザインを考え技術をもっと効率的に
適用する。②また,地元化する。③輸送や梱包などのロジスティックを改善するなどの工夫が必
要。
挑戦ではあるが,コスト低下が非常に難しいとは思わない。要は,顧客の立場で考える。「顧
客は,受け取るものに,お金を払う。」
むしろ日本人は顧客の立場で考えるよう訓練されてきている。インド人はまだ。
・企業統治:取締役会
タタが 51%所有。タタから 4 名,K本社から 2 名,日本の商社 1 名。
取締役会は,年 3 回インドで,日本 1 回
取締役会の雰囲気:自分がCEOとして経験したここ数年は,非常によい。
・法的問題はあるか?
過去数年で,外部の弁護士に相談など。
21 件(内 13 件は税関連)の訴訟がある。2 件はストから。後も,小さな問題。
製品は安全に関わるものでないので,PL訴訟はない。ただ,故障など。
48
*L社
1.取締役
全体で11名,内,日本人6名(以前1名がインドに常駐していたが,現在は解消,
出張ペース)
インド側5名は全て執行役員
取締役会:専務(日本の)がCEO
1~2ヶ月に1回インドに来る
~の時に取締役会
信頼関係が厚いので,緊急の際にはインド側だけでも開くが通常は専務が来る際にやる
・X(=日本企業)とY(=ドイツ企業)が共同で出資し,インド法人のL社を作った
通常は地域ごとに持ち株会社(EB 50/50 )を作り,それが100%株を所有
ただインドだけは,XとYが一部直接持ち株保有,理由は2社の合併に伴うインドの税制
・XとYは株式を持ち合う
世界を6つの地区に分け出資比率を変えている
XとYは同じ製品を作っている(一部)。
Y:産業用のシール
X:自動車関連・一部産業用シール
→ 産業用だけを絞り出したものが,L社
理由は,
最大手が英国系,次に米国系,XとYが3番4番
→ 一緒になり第2位のシェア
2.インド法人のきっかけは
プネーで地元財閥企業(産業用機械のシール製造)に資本参加していた米国が撤収
→X社に買わないか,という話があった
1998 年
またYはムンバイに,インドの別の財閥と会社を作っていた
→ そこに 8 年前からX=Yのアライアンスができ,
それぞれX及びYがまず 100%資本にし,この二つを母体にインド法人を作った
cf. X(が直)の海外企業も別にある:自動車が中心
汎用性のある部品を作り,7~8 割のシェア(系列ではない)。
日本企業が海外展開するのにつれ,海外へ出て行った。
プネーでもX直の工場(L社と同じ建物の 3 階)がある(2010 年設立)
・現在,プネ,ムンバイに工場
従業員は派遣含め 1000 人(規模は略2:1)
ハブをもうけ,その下に 16 の営業拠点
BtoB
ここ数年,年間 20%成長,利益率 3 割:財務基盤の安定・高い収益性
近いうちに利益で日本と肩を並べる
3.インド従業員の問題として,現在,経済成長,外資が入ってくるから引き抜きが多い
「給料を 2 倍出すから」という誘いもある
いかに優秀な従業員を適正なレベルの給与で維持できるか,が課題。
ただ元々地場財閥
合併した後も社長に留まり,従業員の忠誠心がある
~とは言っても,引き抜きは完全には防ぎきれない
・Q:熟練労働か?
カースト制なのか,自分のやる職務が決まっている
組み立て補助は補助,溶接専門は溶接,一般の人=雑事
49
~それぞれ決まっている
それぞれの中で昇進はあるが,一般工員で入って中で仕事を覚えて昇格していくというの
と違う
労働組合はない。
解雇は必要なステップを踏まないと難しい
契約上の違反行為があって,解雇事由となっても,すぱっと切れるかといえばできない
・工場にいる日本人の技術者は1人だけ。(4月以降引き揚げ,日本からの出張ベースに変更)
97 年設立の際,Xの技術を移転した
またその前は米国
~技術の移転が終わった後は,ある程度現地の自由で,厳しく指導ということはない
また,日本の技術や考え方が必ずしもインドの顧客に受け入れられるわけではない
日本:素材や,品質が緻密で,これでなければいけない
ということがあるが,
インドでは機能的に動いていれば問題ない,日本流ではコストが高くなる
その点では,現地の経営者の感覚でやったから良かったといえる
・日本人:6名の取締役
=株主の立場
cf. 業務執行はインド人だけで
通常経営に携わって議論するのはCEO,他に財務担当。技術屋1人:経営そのものには
あまり関与しない
問題は後継者,他の役員も高齢
現在はやる気満々
万一の場合~を慕っている従業員への影響を心配
又元気の内はやってほしいと思ってはいるが
・日本とドイツはアライアンスを組んでいるが,やはり二つの会社
経営責任:インドは日本,中国はドイツ
しかしインドが好調
←出資はともに50/50
ドイツの関心も強い
大きな方針は日本に任せているが,しかし技術面や製品で要求を出す
現在でも,ドイツの製品群を残している
ムンバイ工場はドイツの技術だった。
経営責任はムンバイも含め全部日本が持っているが一部技術はドイツなので注文が出る
今ドイツ・日本の製品ということでなく,共通の製品を作ろうという動きも始まっている
・工場は元々工場団地として売り出した土地
まだ拡充する余地もある
問題はなかった,ただ承認を取るのに時間がかかった
4.現在,ムンバイで別のM&Aを手がけている
買収して合弁でやる
政府の産業開発公社から土地を借りる。しかし公社に一々許可をとる必要,
許可が1ヶ月かかる,結構ややこしい
現地のアドバイザー(弁護士)を使っている
相手の性格にも関係するのか,L社のコンサルを10年来やっている相手だが,時間がかか
る
出し渋りながらやっている感じ
ただ合弁は相手にもメリット
一年以上かかったが,最終的にクローズ
~が基本にある
・同じ関係の会社は,広いようで狭い
から進められる
(←Q:他のM&Aの可能性?)
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ネットワークがありいろいろな話がくる,
メリットがあるかどうかで判断
他にも,アライアンス全体で他の似た商品も扱う
・交渉上の役割分担
~を取り込もうとか,事業の再編
ローカルのコンサルティング会社を活用
日本人が入れない部分もあるので,最後は「ここから先はヒンドゥでやらしてくれ」
インドでも人脈が大切,今回も全く知らない人ではないから話ができる
「腹を割って」,基本は,「仲良くやっていきましょう」 お互いのメリットを確認し
5.Q:日本の弁護士は?
入ってこない(クロージングの段階でも),
ローカルなアドバイザーを使う。会計事務所から独立した,~を契約している。
インドは法律,税務が複雑。
日本の弁護士にこれが上がっています,どうでしょうか,といっても分からない,
結局,インドに回すということで,ループになるだけ
インドの弁護士を信頼している。~10年近いつき合い,よくやって頂いている
・日常的な取引,債権回収や,契約のトラブル,
また,取引先は大企業,
~はあると思うが執行レベルの問題
長いつき合い,駄目だったら切ればよい,
元々相手方も,財閥とつながっている会社であることを知っている,変なことできない
日本人が来て,~というより,ローカライズした方がうまく行く
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*M社
1.フランスの食品会社との合弁
・日本と全く同じ機械
出資比率は,50%:50%
取締役人数は,4 人:4 人
同じ製品
インド 10 ルピー
日本 35 円
~当初は円安
1 ルピー≒3 円
同じ価格
安くできない:インフラがない
電力/水=汲み上げ/下水処理も自前で
タンクも見たが現地製使えない
人件費も安くない
→日本製
→日本の建築会社
「世界で一番高いM社製品を作っている」などといわれる
・「マーケットを育てる」
≒商品に付加価値を付ける
~どうやって飲んでもらうか
来る前は全く販売なし
FSをやっただけ
アジアでは実績・理解されている
来た時は認知度が低い
しかしインド:旧植民地
全くない
ヨーロッパの影響
2.分からないことはコンサル会社に聞く
コンサル社会
聞かないことは教えない
聞くとまたお金を取る
~どうして全体を見てくれないか(日本のように),と思う
平行して日本でインターネットで調べたり,
出張できたときに現地の日系企業と話をしたりした
・土地を買うとき
申請から 4~5 ヶ月経って面接を受けた
南の工業団地に行こうとした
地下水を汲み上げる
しかし食品は駄目
お墓が近くにあった
~(ニムラナ=日系が多い)も止めた
・契約に署名しても,農民のクレームがあると,また値上げを要求される
差額が7百万ルピーだと言われ,その 35%の手付金を要求
農民が訴訟をしている,払わないといけない
/契約書の末尾に小さく付記
本社からは,各国・地域により法律の規定・解釈等の違いもあるため,
先ずは現地弁護士等に相談するようアドバイスがあった。
現地の弁護士を雇って訴訟を起こし,和解(4,5回期日):10%だけ払った
・05年ベルギーから帰ってきて,インドチーム(本社で4人)
12 月に一人でインドに来た
3.日本人社員は 7 名
土地の購入,申請を進めてきた
工場 2 名(機械・品質管理関係),営業 3 名,管理 1 名
インド人は,営業では課長まで
代理店はない/配達販売員(インド人)
当初独立販売店を持ったが,雇用保険など会社持ち・ペナルティも
~今は派遣会社
最低賃金+コミッション
運転手も組合がある
派遣会社を挟んだ方が楽
・工場を操業してから3年目に,昇給が少ないと言って10名以上辞めた
少し給与を上げたが止められなかった
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組合はない
・政府
FSSAI(Food Safety &Standards Authority of India)
無理難題(e.g. Science の人間を置け)→ コンサルに相談
・営業センターに法的なことが分かる人間はいない
コンサル(監査会社)でも話が違う
cf. ある日系の大手銀行では最初から3社とコンサル契約を結んでいる
・8~9万本/日
トラック輸送
現在工場の1ライン
~最大100万本まで可能
ムンバイまで24時間運転で4日間
テレビをやって認知度が上がる
~バンガロールまで
スーパーでやるだけでは限りがある
インド女優(子2人)を使って 「テレビをやる会社はよい会社」というイメージも?
ただテレビは高い
常時はできない
・中間層が増えて,健康志向
サプリメントも売れてきている
消化器科の先生とシンポをやったり
臨床試験
コルカタで
M社とプラセボで
3800人を対象に長期飲用
下痢の頻度
栄養士が患者に飲むように勧めたりする
・Q:過去に日本で食品衛生上の問題があったことはないか?
A:60年代に「虫歯になりやすい」=糖分が入っているからがあった
夜飲んで歯を磨かずに寝る~
また,ダイエットから,甘すぎるのではないか,という声も
・現在,競合はない
←太っている/糖尿病
他の国ではネスレなどがあるが,インドではまだ飲む製品はない
ただ,インドは乳製品世界一,ラッシーと競合する。
4.KY(空気を読む)と言うが,OKYだ(「お前こちらに来てやってみろ」)
←日本人商工会での雑談
本社からは,現地主導の事業活動を求められるが,苦労が多いという文脈
・法務でも,実際には,苦労がある
現地の弁護士を雇って対応→「こちらに来て」支援してくれればありがたいが
インドのことを知っている弁護士がいない(本社は詳しくない)
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*N社
1.海外進出が遅れていた
タイがしばらく唯一の拠点
30年前
~今はそれ以外も
キャップを作る工場 → 20年前
7~8工場
飲料が量的には一番:缶がペットに代わっていった
+得意先が自分で作る
・インド
アルミ缶
製缶工場
ビールとコーヒー位
機械だけあれば簡単にできる
まだ量的には小さい
地場の缶メーカーは5~7年前までなかった
タイの会社から空き缶を輸出していた
しかし輸送効率が悪い
=既に商圏を持っていた
↓
→インドで工場を造ろう
=FS(feasibility Study) 2008 年 5 月
しかし,ヨーロッパの同業他社(ポーランド/イギリス)が工場を立ち上げた
↓
=独資
1ラインで6~7億缶ができる
=合弁
→今は様子を見ている状態
・cf 製缶:装置産業/投資額が大きい
アルミ缶
grade の高い材料
ビールのペットボトル化
→7~80%recycle :缶から缶へ
可能/酸素劣化する
酸素を通さないため多層
←環境団体が反対(ペット悪者視):
日本:競合はある
~インド:小さな会社がたくさんある
2.FS:本社がやった
汎用品=値段がすべて
生産コスト;材料(輸入):世界共通
投資金額も決まっている
・ただビール市場
清涼飲料
年率15%で伸びている
中身を詰める
LME+ロールマージン
5~10年先を見越してどうするか
←インド:コカ・ペプシが独占95%
~付加価値が高い
炭酸飲料(誰でもできる)→コーヒー・お茶
=中身の殺菌が必要(詰めてから)
~耐熱ボトル:付加価値
・インド:まだ非炭酸飲料の需要が少ない
人件費はあまり関係ない
販売代理店も必要ない
+物流
~何年で回収できるか計算したら厳しい
ペット6~7割/ガラス3割
cf. タイ:川下
cf. 詰めてから殺菌=キャップ厚く
専業メーカーの強み
←炭酸飲料では出る幕がない
機械があってオペレーターが監視するだけ
販売先に納めてしまえばよい
・米国の大きな製造機械の会社(圧倒的なシェアー)を購入
何百億
~インドの投資ができなくなった?
3.駐在事務所
日本人1人+タイから1人
来る前に日本サイドで作業を進めた
←銀行のつてでコンサル,現地の手続
申請して半年ぐらい
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日本で待っていた
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