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正標数のQ-分解的な曲面に対する極小モデルプログラム

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正標数のQ-分解的な曲面に対する極小モデルプログラム
正標数の Q-分解的な曲面に対する極小モデルプログラム
田中 公∗
京都大学 数学教室 M2
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はじめに
この報告集では実際に講演した内容をそのまま書いています。その為、証明などはきちんとはしません。
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イントロ
タイトルの通り、正標数の Q-分解的な曲面に対して、極小モデルプログラムが成立する事を説明します。ま
ず、極小モデルプログラムがどういうものであったかを説明する為に、知られている結果を1つ紹介します。
事実 1.1 (非特異曲面に対する極小モデルプログラム). k を代数閉体とし、X を k 上の非特異射影曲面とす
ると、
X =: X0 → X1 → · · · → XN
という射の列があって、以下を満たす。
1. 全ての Xi は非特異射影曲面。
2. 全ての射は (−1)-カーブの収縮。
3. XN は以下の内のどれかを満たす。
(a) KXN はネフ。
(b) XN は非特異射影曲線上の P1 -束。
(c) XN ' P2
これが非特異曲面に対する極小モデルプログラムです。つまり、極小モデルプログラムというのは、与え
られた多様体に有限回のよく分かる操作を行って、綺麗な多様体を得ようというものです。このような事が
正標数の Q-分解的な曲面でもできる!というのが主結果です。
主結果 1.2. 正標数の Q-分解的な曲面に対して、極小モデルプログラムが成立する。
注意 1.3. この結果は標数ゼロの時は既に知られていた。
注意 1.4 (Q-分解的).
1. X が正規な代数多様体なら、{ カルティエ因子 } ⊂ { ヴェイユ因子 } となる。
2. X を正規な代数多様体とする。X が Q-分解的であるとは、任意のヴェイユ因子 D に対して、自然数
で何倍かするとカルティエ因子になるときをいう。
∗ [email protected]
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田中 公
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Q-分解的という性質が幾何学的にどういったものかというのは説明しづらいですが、ヴェイユ因子をカル
ティエ因子のように思える為、交叉理論や引き戻しなどの操作が上手くいく所にメリットがあります。主結
果をもう少し正確に述べておきます。
主定理 1.5. k を正標数の代数閉体とし、X を k 上の正規で Q-分解的な射影曲面とすると、
X =: X0 → X1 → · · · → XN
という射の列があって、以下を満たす。
1. 全ての Xi は正規で Q-分解的な射影曲面。
2. 全ての射は KXi -負な曲線の収縮。
3. XN は以下の内のどれかを満たす。
(a) KXN はネフ。
(b) π : XN → B という非特異射影曲線への全射があり、任意のファイバーの被約構造は P1 であり、
XN のピカール数は2。
(c) −KXN は豊富で、XN のピカール数は1。
このステートメントを全て説明すると長くなってしまうので、次のセクションでは、
X =: X0 → X1 → · · · → XN
という射の列を作る所だけ説明します。
2
収縮定理
このセクションでは次の定理について説明します。(きちんとは証明しません。)
定理 2.1. k を正標数の代数閉体とし、X を正規で Q-分解的な k 上の射影曲面とする。C を X 内の曲線で、
KX · C < 0 かつ C 2 < 0
を満たすとする。すると、C を収縮する事ができる。つまり、ある双有理射 f : X → Y であって、Exf = C
かつ Y は正規で Q-分解的な射影曲面となる。
証明の流れ 2.2. 1. ネフかつ巨大な因子 B であって、B · C = 0 かつ B · C 0 > 0 (C 0 6= C) となるものをとる。
2. Keel の定理によって、B|C が半豊富なら B も半豊富となる。
3. C ' P1 が示せて、証明が完了する。
1、2、3の内、正標数が光るのは2の所です。なので、1は(簡単なので)証明して、3は事実だけ述
べる事にします。
1の証明. A を X 上の豊富因子とする。B := A + qC と (A + qC) · C = 0 によって、Q-因子 B と有理数
q ∈ Q>0 を定める。Q-因子になってしまっている事はあまり気にしなくてよくて、最後に何倍かしてやれば
よい。なので、この B が条件を満たす事をチェックする。B · C = 0 は明らか。B · C 0 > 0 は、
B · C 0 = (A + qC) · C 0 ≥ A · C 0 > 0
極小モデルプログラム
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により、成立。これにより、B はネフである。あとは、B の巨大性のみである。B 2 > 0 を示せばよい。
B 2 = (A + qC) · B = A · B = A · (A + qC) > 0.
次に、3は次の事実から従います。
事実 2.3. X を正規で Q-分解的な射影曲面とする。C を X 内の曲線で、(KX + C) · C < 0 を満たすとする
と、C ' P1 となる。
3の説明はこれ以上はしません。2について説明します。
定理 2.4 (キールの定理). k を正標数の代数閉体とし、X を k 上の正規な射影曲面とする。B をネフかつ巨
大なカルティエ因子とし、
E(B) :=
∪
C = E1 ∪ · · · ∪ Er
C:曲線、B·C=0
という被約スキームを考える。B|E(B) が半豊富なら、B も半豊富である。
キールさんのオリジナルの定理はもっと一般的な仮定で定理を主張していますが、ややこしくなるので2
次元で特別かつ必要な場合のみを書きました。ここで、証明の流れ 2.2 における2についてはキールの定理
を認めれば従う事が分かります。なので、めでたしめでたし・
・
・としてしまうと何も説明した事にならない
ので、上記の特別な場合のキールの定理に証明を与えたいと思います。ただ、この証明はキールさんのオリ
ジナルの証明とは異なります。
証明の流れ 2.5.
1. X が非特異な場合に帰着する。
2. ある豊富因子 A と有効因子 E で B = A + E かつ Supp E = E(B) となるものがある。
3. B|E(B) が半豊富ならば、B|mE が任意の自然数 m に対して半豊富。
4. 完全列 0 → OX (mB − mE) → OX (mB) → OmE (mB) → 0 を考える。
5. OX (mB − mE) = OX (mA) はセールの消滅定理で m 0 なら H 1 が消えて、B|mE は半豊富だった
ので、多分OK。(実際は少し修正する必要がある。)
上の順に議論を進めていく。
1のスケッチ. 特異点解消 f : Y → X をとって、E(f ∗ B) = f −1 (E(B)) ∪ Exf をチェックする。あとは、正
規曲面の特異点が孤立している事を使えば示せる。(あまり面白くないので省略します。)
2の証明. 小平の補題によって、豊富因子 A0 と有効因子 E 0 を用いて、B = A0 + E 0 と書ける。
B
= A0 + E 0
= A0 + e1 E1 + · · · + er Er + f1 F1 + · · · + fs Fs (E 0 の既約分解)
ここで、Bj · Fj > 0 だから、大きな自然数 lj に対して、lj B + fj Fj はネフになる。よって、
l1 B1 + · · · + ls Bs + B = A0 + e1 E1 + · · · + er Er + (ネフ)
となり、A := A0 + (ネフ) とおき、E := e1 E1 + · · · + er Er とおけばよい。ここで、B を (l1 + · · · + ls + 1)B
で置き換える必要があるが、半豊富性について考えているので何倍かしたものに置き換えてもよい。
田中 公
4
3の証明. フロベニウス射で E(B) を引き戻すと、pE(B) となるから、B|E(B) が半豊富ならば B|pE(B) は半豊
富となる。よって、同じ議論を繰り返すと、任意の自然数 e に対して、B|pe E(B) も半豊富となる。SuppE = E(B)
だから、任意の自然数 m に対して大きな e 0 をとると、閉移入 E → pe E(B) が存在する。よって、B|mE
も半豊富。
4、5の議論. 4の完全列でなく、次の完全列を考える。
0 → OX (nB − mE) → OX (nB) → OmE (nB) → 0
ただし、n と m は自然数とする。ここで、3によって、B|mE は半豊富だから、n 倍した、nB|mE は基底
点自由となる。
(つまり、大域切断により生成される)よって、上記の2つの自然数 n と m は m を決めた後、
n を決めるという事にする必要がある。更にこの状況下で左の項 OX (nB − mE) の H 1 を消滅させたい。少
し変形してみる。
nB − mE = nB − mB + mB − mE = (n − m)B + mA
ここで m を決めた後、n を決めるという話だったので、セールの消滅定理では上手くいかない。しかし、次
の藤田の消滅定理を使うと上手くいく。
定理 2.6 (藤田の消滅定理). X を非特異代数多様体とし、A を豊富因子、F を連接層とする。すると、ある
自然数 m(A, F ) が存在して、次を満たす。m ≥ m(A, F ) かつ i > 0 かつ N がネフ因子 ならば、
H i (X, F ⊗ OX (mA + N )) = 0.
この藤田の消滅定理は上記の状況に上手くマッチしている。実際、m := m(A, OX ) として、n は nB|mE
が半豊富で更に n − m ≥ 0 となるようにとっておく。すると、欲しい条件が全て満たされてキールの定理の
証明が完結する。
3
参考文献について
今回の話に関係する参考文献について説明しておきます。先ず極小モデル理論の基本的な定義等は [Kollár-Mori]
を見てください。今回、いくつか飛ばした証明については、論文 [T] を見てください。キールの定理の一般
的な主張については、[Keel] を見てください。
4
キールの定理について
今回の証明はキールの定理が非常に強力で、証明が上手く進みました。そして、今回のキールの定理の証
明はキールさん本人の証明とは異なった方法を用いてます。キールさん自身の証明は代数空間という難しい
道具を使っていて、現時点では私は理解しきれていません。代数空間というのは大雑把に言えば、ある意味で
スキームを一般化したスキームより広い図形たちの事らしいです。(私はきちんと分かっていません。)キー
ルさんの証明では、例えば今回のように曲線を潰したい!と思ったとき、まず代数空間という広いクラスで
潰してしまって、その後、それがスキーム(というより射影多様体)になる事を証明しているようです。1
年前に私が読んだ時は感動した覚えがありますが、未だに完全には証明が理解できていません。情けない締
め方ですが、こんな風にして正標数の Q-分解的な曲面の極小モデルプログラムではキールさんの定理が非常
に重要だったわけです。
極小モデルプログラム
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参考文献
[Keel]
S. Keel, Basepoint freeness for nef and big linebundles in positive characteristic, Ann. Math,
149 (1999), 253–286.
[Kollár-Mori] J. Kollár, 森重文, 双有理幾何学, 岩波書店, 1998.
[T]
H. Tanaka, Minimal models and abundance for positive characteristic log surfaces, preprint
(2012).
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