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待望の LNG 生産を開始する パプアニューギニア 今後の期待と展望

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待望の LNG 生産を開始する パプアニューギニア 今後の期待と展望
JOGMEC シドニー事務所
北村 龍太
JOGMEC シドニー事務所
Lainie Kelly
アナリシス
待望の LNG 生産を開始する
パプアニューギニア
今後の期待と展望
はじめに
1 9 9 0 年代より長年にわたって検討が続けられてきたパプアニューギニア(PNG)におけるガス開発で
あるが、いよいよ本年後半から PNG-LNG プロジェクトで LNG 生産が開始される運びとなり、大きな節
目を迎える。
同国では石油生産は 1 9 9 2 年から開始されているが、近年は減退傾向が続いている。LNG 輸出はそれに
代わって同国の経済を支えるものとして大いに期待されるほか、第二、第三のプロジェクトも控えている。
アジアにおける最近 2 0 年での最大の発見と言われている Elk/Antelope フィールドを保有する
InterOil が 2 0 1 3 年 1 2 月、LNG プロジェクトのパートナーとして大方の予想を覆して Total を指名した
ことも記憶に新しい。さらに同フィールドに対して本年 2 月には、PNG において長い操業の歴史を持ち、
PNG-LNG プロジェクトにおいても ExxonMobil とともにプロジェクトを主導する Oil Search が新たに
参画することが決定、同フィールドの開発の行方にも注目が集まっている。本稿では、LNG プロジェ
クトとして進展する同国でのガス開発を中心に、ジャングルに代表される厳しい自然環境下での同国の
石油・ガス探鉱開発 / の歴史および現状、さらには今後の展望を紹介する。
1. PNG における石油・ガス上流事業
(1)
探鉱経緯
の発見を受けて、Highland エリアでの探鉱が加速し、
PNG における探鉱作業は Anglo-Persian Oil(現在の
Hides、Gobe、Moran の各フィールドの発見へと続くこ
BP)
、Vacuum Oil(現在の ExxonMobil)
、Oil Search 等
ととなる。
に よ り 共 同 で 設 立 さ れ た 操 業 会 社 Australasian
上記 4 フィールドのうち、Hides フィールドは他の 3
Petroleum Company(APC)
、Island Exploration
フィールドと異なって、ガスリッチなフィールドであっ
Company(IEC)などを中心に、1 9 1 0 年代から行われて
た が、 生 産 ガ ス を 発 電 に 使 用 し そ の 電 力 を 近 隣 の
きた。当初は低地帯の Foreland エリアでの探鉱が中心で
Pangera 金鉱山に供給することにより、1 9 9 1 年にいち
あったが、商業規模の目立った成功は報告されていない。
早く商業化に成功している。
1 9 7 0 年代に入り大重量物資の運搬が可能なヘビーリ
他 の 3 フ ィ ー ル ド に つ い て は Kutubu が 1 9 9 2 年、
フトヘリコプターの登場で、道路などの整備されていな
Gobe が 1 9 9 8 年、Moran が 2 0 0 2 年から、それぞれ液体
い山岳地帯での探鉱作業が可能となり、Highland エリ
分(原油とコンデンセート、以下原油とする)の商業生産
アでの探鉱も開始された。
を開始している。いずれのフィールドに関してもガス分
同国で初となる商業規模の発見は、Highland エリア
を相当量含んでいるが、ガス輸送のインフラが整備され
における 1 9 8 6 年の Kutubu フィールドで、1 9 7 8 年から
ていなかったため、随伴ガスは地中に再圧入されている。
同国に参入していた Chevron によるものであった。そ
1 9 9 0 年代半ば以降は油価の低迷に加え、それまで探
19 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
鉱作業を牽引していた BP、Chevron などのメジャー企
業が鉱区権益を保有しているとされる。保有面積の点で
業が相次いで同国から撤退したこともあり、探鉱活動は
は、同国国営企業の Petromin が同国北部海域の New
停滞した。なおその期間中も、Stanley、Ketu、Elevala
Ireland Basin に広大な探鉱鉱区を 1 0 0 %権益で保有し
などの比較的小規模な発見は報告されている。
ているのを主因に、唯一 1 0 万㎢を超え頭一つ抜けてトッ
この状況を打ち破ったのが InterOil が 2 0 0 6 年に発見し
プとなっている。
たElk、
さらに2009年に発見したAntelopeである。
両フィー
ルド合わせてガス 8Tcf、コンデンセート1 億 3,0 0 0 万 bbl
(2)開発および生産現況、埋蔵量
を超える埋蔵量が期待され、前述のように最近 2 0 年での
このように、原油に関しては、1 9 9 0 年代よりHighland
アジアにおける最大の発見とされている。
エリアの Kutubu、Gobe、Moran を中心に生産が行われ
Elk フィールドの発見を受けて 2 0 0 7、2 0 0 8 年には多
ている。2013年現在、
生産量は日量約2万7,000bblとなっ
くの探鉱作業が実施されている。この流れは 2 0 0 9 年に
て い る。 企 業 別 で 見 る と、 そ の う ち の 半 分 強 は Oil
いったん落ち着くものの、2 0 1 0 年以降現在までコンス
Search によるもので、ExxonMobil、日本パプアニューギ
タントに探鉱作業が継続されている。その大部分は従来
ニア石油(Merlin Petroleum)
がそれに続く。
同様 Highland エリアにおけるものだが、2 0 1 3 年には海
2 0 1 3 年現在、最も多くの原油を生産しているフィー
域でも 3 坑の探鉱井が掘削されるなど、探鉱対象エリア
ルドは、可採埋蔵量 3 億 bbl を上回る Kutubu フィールド
は徐々に広がりを見せている。
である。同フィールドは、1 9 9 2 年に PNG で最も早く原
2 0 1 3 年 現 在、 探 鉱 ラ イ セ ン ス PPL(Petroleum
油の商業生産を開始していることは既述した。生産開始
Prospecting License)
、もしくはリテンション
(開発準備
翌年の 1 9 9 3 年には日量 1 4 万 7,0 0 0bbl の生産を記録し
期間)ライセンス PRL(Petroleum Retention License)と
ているが、以降同フィールドからの生産は減退を続けて
しては約 1 2 0 鉱区(申請中を含む)あり、4 0 を超える企
い る。Kutubu に 加 え Moran、Gobe、Hides、South-
出所:PNG Chamber of Mines and Petroleum
図1 各フィールド位置イメージ
2014.5 Vol.48 No.3 20
待望のLNG生産を開始するパプアニューギニア 今後の期待と展望
East Mananda 各フィールドでの原油生産が開始された
デンセートの生産も増加、2 0 1 7 年頃には原油生産量合
が、2 0 1 3 年現在の同国全体の原油生産量は日量約 2 万
計は日量 7 万 bbl レベルまで回復すると見込まれる。
7,0 0 0bbl と、最盛期の 5 分の 1 までに落ち込んでいるの
同国全体の埋蔵量としては、既生産フィールドの残存
が実情である。
埋蔵量と未開発フィールドの可採埋蔵量を合計して、石
ガス生産に関しては上述のように、Hides フィールド
油換算で約 5 0 億 bbl と評価されている。なお埋蔵量のう
から生産されるガスが 1 9 9 1 年より発電所に供給されて
ち約 6 0 %はガス分である。
おり、2 0 1 3 年現在、これが唯一同国におけるガス生産プ
企業別に見ると、既存原油生産フィールドおよび
ロジェクトとなっている。生産量は日量約 1,5 0 0 万 cf。
PNG-LNG プロジェクトにおける主力ガスフィールドの
2 0 1 4 年には PNG-LNG プロジェクトにおいて念願の
権益を多く保有する Oil Search と ExxonMobil、さらに
LNG 生産が開始され、ガス生産量は飛躍的に増加する
Elk-Antelope フィールドの権益を保有する InterOil がい
見込みである。2 0 1 7 年以降のピーク生産時には、同プ
ずれも 5 億 bbl(石油換算)を上回る埋蔵量を有している。
ロジェクトのみで日量約 9 億 2,0 0 0 万 cf のガスが生産さ
それに PNG 国営 NPCP(National Petroleum Company
れる見込みである。また LNG 生産開始に伴って、コン
PNG)、Santos などが続く。
2. PNG-LNG プロジェクトについて
PNG におけるガス開発検討の歴史は古い。
ンに加え、PNG 国内のジャングルを抜けるパイプライ
同国最大級のガスフィールド、Hides は 1 9 9 1 年より
ンも必要となり、さらに難度が上がることになる。こう
発電所へのガス供給を通じて小規模な商業生産を現在ま
で継続してきた。これが 2 0 1 3 年まで同国で唯一のガス
開発事例となっている。生産開始以降 2 2 年間で発電所
向けに生産されたガス量は約 1,0 0 0 億 cf である。しかし、
これは同フィールドの初期埋蔵量の 2 %にも満たない量
である。同フィールド周辺にはJuha、
Angoreの両フィー
ルドがあるが、いずれも 1 9 8 0 年代に発見されるも手つ
かずの状態であった。
時を同じくして 1988 年にパプア湾で発見された
Pandora ガスフィールドでは、その立地条件からオース
トラリア・クイーンズランド州まで海底パイプラインを
ふせつ
敷設し、同国へのガス供給プロジェクトとしての商業化
について検討を行っていた。Juha フィールドなどでオ
ペレータを務めていた Chevron は、同様のコンセプト
を Highland エリアのガスフィールドに適用できないか
と 1 9 9 0 年代後半以降、長年にわたって検討を続けてい
たとされる。
国境を越えてつながる国際パイプラインはヨーロッ
パ、北米などでは決して珍しくはないが、アジアではシ
ンガポールなどを除きほとんど例がない。さらに海底国
際パイプラインとなると、環境への影響も含めて技術的
にも政治的にもハードルが格段に高くなる。さらに
Highland エリアからオーストラリアまでガスを輸送す
るとなると、PNG- オーストラリア間の海底パイプライ
21 石油・天然ガスレビュー
出所:Oil Search
図2 パイプラインプロジェクトイメージ
アナリシス
したことなどから、非常に長い年月をかけての検討は
て、LNG プロジェクトとしての検討も続けられてきてい
紆余曲折を経ることになった。
た。パイプライン構想を主導する ExxonMobil はその立
1 9 9 8 年に Chevron は、オーストラリア・エネルギー
場上、同構想を正式に断念する 2 0 0 7 年 2 月以前には、表
小売り大手 AGL とマレーシア国営 Petronas で構成され
だって LNG 開発に関して言及したことはない。一方で、
たコンソーシアムによって、オーストラリア国内部分の
パイプライン構想のパートナーであり、原油生産フィー
パイプライン敷設に関するスタディを行うことを決定し
ルド Kutubu、Gobe、Moran では上流開発のオペレータ
た。翌年には同プロジェクトに必要なガス埋蔵量が確保
を 務 め る Oil Search は、2 0 0 6 年 9 月 に BG グ ル ー プ と
されたとして、材料パイプの発注、詳細ルート選定など
LNG 事業化検討に関する協定を締結している。この検討
の作業が開始できるところまできている、との発表を
では、同社がオペレータを務める上記フィールドからの
行っている。
随伴ガスのみを用いる計画となっており、規模も年産
う よ きょくせつ
しんちょく
し か し、 そ の 後 顕 著 な 進 捗 が な い 期 間 が 続 い た。
3 5 0 万トンの小規模なプラントを想定していた。また当
2001 年には本プロジェクトの検討を主導していた
時は LNG 事業に加えて、アンモニア、メタノール製造な
Chevron が PNG より撤退、ExxonMobil が代わって主導
どの石油化学事業についても併せて検討されていた。
することになり、プロジェクト進展に改めて期待が持た
その後 2 0 0 7 年 2 月、ExxonMobil をはじめとするコン
れた。それ以降、オーストラリアの大口需要家との間に
ソーシアムは、パイプライン構想検討の中止を正式に発
ガス売買に係る基本協定がいくつか締結されることとな
表する。その 2 カ月後の 2 0 0 7 年 4 月に ExxonMobil は、
り、それを受けて 2 0 0 4 年頃から PNG、オーストラリア
Oil Search、Santos、日本パプアニューギニア石油とと
それぞれの部分に分けた FEED(Front End Engineering
もに、LNG プロジェクトのためのプレ FEED(概念設計)
and Design:基本設計)
が開始されている。
を正式に開始している。なお別途小規模 LNG プロジェ
その後も売り手側、買い手側の各社の思惑が入り乱れ
クトの検討に着手していた Oil Search は、2 0 0 7 年 1 0 月
るなか、2 0 0 5 年に BHP Billiton が同プロジェクトから
に BG グループとの連携を解消し、ExxonMobil 主導の
南オーストラリア州の Olympic Dam 向けのガス購入計
プロジェクトに注力することを表明している。
画を破棄したことにより、それまでのプロジェクト実現
この検討作業では、各社の保有鉱区におけるガス埋蔵
に向けた流れが変わることとな
る。折しもオーストラリア国内
ではクイーンズランド州の石炭
層 メ タ ン ガ ス(CSG:Coal
Seam Gas、他国では CBM〈Coal
Bed Methane〉
と呼ばれる)
の開
発が拡大していたほか、技術進
歩によって CSG の価格面での
競争力が向上しているという事
情も背景にあった。
さらに追い打ちをかけるよう
に、総延長距離 3,0 0 0 ㎞を超え
るとされる超大型プロジェクト
のコスト自体も、検討を重ねる
に連れ増加していった。1 9 9 0 年
代の検討開始当初は 2 0 億ドル程
度と見込まれていたプロジェク
ト費用は、2 0 0 7 年にはその見積
もりが 8 0 億ドルにまで膨張する
こととなり、万事休すとなった。
一方で、オーストラリアへの
ガスパイプライン構想と並行し
出所:Oil Search
図3 2007 年当時の LNG プロジェクトイメージ
2014.5 Vol.48 No.3 22
待望のLNG生産を開始するパプアニューギニア 今後の期待と展望
量を基にして、スタディに係る費用負担比率を下記のよ
至った。プレ FEED の開始から 2 年 8 カ月での FID と順
うに定めている。現在の PNG-LNG におけるプロジェク
調に進んだのは、紆余曲折の上に頓挫したパイプライン
ト権益においても、同様の考え方が受け継がれている。
構想とは対照的であった。なお FID 時のメンバー構成
としては上述のプレ FEED に参画していた 4 社に加え、
ExxonMobil(オペレータ)
:
49%
いずれもPNG政府により指名されたNational Petroleum
Oil Search:
32%
Corporation of PNG、Mineral Resources Development
Santos:
17%
Company、Petromin の計 7 社であった。パイプライン
日本パプアニューギニア石油:
22%
プロジェクトのために一時上流権益を保有していた
AGL は、FEED 実施中の 2 0 0 8 年に日本パプアニューギ
プレ FEED の結果、年産 6 3 0 万トンの LNG プラント
ニア石油に権益を譲渡して、正式に脱退している。
を想定して、
費用総額は95億ドル(上流+パイプライン:
FID においては、LNG プラント規模が年産 6 6 0 万ト
5 0 億ドル、LNG プラント:4 5 億ドル)との見込みが示
ン(その後 2 0 1 2 年 1 1 月に 6 9 0 万トンに変更)、プロジェ
され、2 0 0 8 年に FEED 作業へと移行している。
クト費用総額 1 5 0 億ドル、生産開始は 2 0 1 3 年後半もし
FEEDは生産ガスの処理から輸送パイプラインまでをカ
くは2014年と発表されている。またFID発表の翌日には、
バーする上流部分と、液化プラントを中心とした下流部分
下流部分の EPC コントラクターとして千代田化工 / 日揮
に分けて行われている。上流部分は KBR/WorleyParsons
連合などを選定したことが発表されている。
連合が単独で実施。一方で下流部分は米 Bechtelと千代田
FID 後もプロジェクトはおおむね順調に進捗した。
化工建設がそれぞれ並行して行い、最終的に EPC 契約受
LNG 売買契約については上記 2 社に続き、大阪ガス、台
注を競うデュアル FEED として実施された。
湾国営 CPC との間で契約を締結し、4 社合計で年間 6 5 0
その後、中国国営 Sinopec、東京電力と次々と LNG 売
万トンについて 2 0 年間の長期契約を確保している。公
買契約を締結することに成功し、2 0 0 9 年 1 2 月、PNG-
称年産 6 9 0 万トンのプラントであるが、定期メンテナン
LNG プロジェクトとして念願の FID(最終投資決定)に
スなどを考慮して実際の稼働率を 9 7 %程度と仮定する
出所:Oil Search
図4 現在の PNG-LNG プロジェクトイメージ
23 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
と、生産されるほぼ全ての数量について引取先が長期に
ショニング用ガスが 4 0 0 ㎞を超えるパイプラインを通じ
わたり確保できていると言える。
てプラントに到着し、現在コミッショニング作業を実施中。
コストについては、同時期のオーストラリアにおける
コストの増加要因のなかに作業遅延が挙げられていた
LNG プロジェクト同様、為替の影響、悪天候などによる
にもかかわらず、最終的にほぼ予定どおりでの完工は、
作業遅延などの影響により、2 0 1 2 年 1 1 月に約 2 7 %増加
オペレータである ExxonMobil のプロジェクト管理、お
となる190億ドルに上方修正している。為替については、
よび千代田化工 / 日揮をはじめとする各 EPC コントラク
同プロジェクトではオーストラリアからの調達物資も相
ターの努力によるものであると言える。
当数含まれているため、もっとも影響が大きかったのは
今後の見通しとしては、生産現況のところでも触れた
同時期のオーストラリア・ドル高であるとされている。
が、2 0 1 4 年の生産開始以降段階的に生産量を増やして
一方、スケジュールは、ほぼ当初予定どおりと言える
いき、2 0 1 7 年頃からフル生産を開始する見込みとなっ
2 0 1 4 年央からの生産開始が確実な状況となっている。
ている。同プロジェクトにおいてガス生産を行うフィー
2 0 1 3 年 9 月には Kutubuフィールドから供給されたコミッ
ルドは複数にわたっている。生産初期の段階では、同国
出所:Oil Search
PNG-LNG プラントの現状
図5 (上:LNG プラント、下:Hides Gas Conditioning プラント)
2014.5 Vol.48 No.3 24
待望のLNG生産を開始するパプアニューギニア 今後の期待と展望
最大級のガスフィールドで
ある Hides フィールドの他、
既に原油生産を長年続けて
いる Kutubu、Gobe 両フィー
ルドからのガス生産が中心
となる。加えて 2 0 1 9 年頃か
ら は Angore フ ィ ー ル ド、
2 0 2 3 年頃からは Juha フィー
ルドからの生産も開始され
る予定である。
また他の LNG プロジェク
ト同様、同プロジェクトで
も今後の事業拡張に向けて
検討が進められている模様
で あ る。 具 体 的 に は、 こ の
LNG プロジェクトの参画企
業 で あ る ExxonMobil、Oil
Search、 日 本 パ プ ア ニ ュ ー
ギニア石油が権益を保有す
出所:Oil Search
る既発見ガスフィールド
P'nyang からのガスを用いる
図6 プラント拡張に関係する可能性のあるフィールド
計画を中心として、検討を
進める予定とのこと。加え
て ExxonMobil、Oil Search などが独自に保有する既発
これらは、今後の評価作業を通じて将来的な拡張計画
見フィールドからのガス供給も選択肢の一つである。
に盛り込まれる可能性がある。
3. InterOil プロジェクトについて
2 0 1 3 年 1 2 月、InterOil は PNG 陸 上 に 保 有 す る Elk/
InterOil は、PNG 政府との間で LNG プラント建設に関
Antelope フィールド開発について、Total をパートナー
し合意に至ったと発表した。合意内容には、規定どおり
として選定し同社と協同で行うと発表した。これまで同
PNG 政府が同フィールドでの LNG プロジェクトに対し
フィールド開発に関しては、ExxonMobil、Shell がパー
て最大 2 2.5 %の権益を取得する予定であること、およ
トナーとして有力視されていたなかでの大番狂わせと
び 7 0 億ドル程度を投資して年産 8 0 0 万トンクラスの
言っても過言でない発表に、業界内外に驚きの声が上
LNG プラントを建設することなどが含まれていた。
がった。
2 0 1 0 年には LNG プロジェクト検討と並行して、三井
同フィールドは繰り返し述べてきたように、アジアに
物産と共同でコンデンセートストリッピングにより、
おける最近 2 0 年間での最大級の発見と言われ、PNG で
2 0 1 1 年後半から日量 9,0 0 0bbl の液体分の生産を先行し
は Hides フィールドを上回る国内最大のガスフィールド
て開始する計画を発表している。コンデンセートスト
である。同フィールドをめぐっては発見以後これまで、
リッピングとは一般的にプラント建設、マーケティング
開発に向けて迷走を繰り返してきた。まずはその経緯を
などに長期間を要するガス開発が本格化するまでの間、
振り返る。
コンデンセートなどの液体分を先行して生産することに
Antelope フィールドが発見された 2 0 0 9 年の年末に
より収益を上げる手法で、生産されるガス分が地中に再
25 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
段目立った進展はない状態が続いて
いる。
InterOil は 2 0 1 1 年 2 月、年産 3 0 0
万トンの陸上 LNG プラントの設計・
建 設 に つ き Energ y World
Corporation と契約を締結したこと
を発表している。この計画は、1 5 年
間 に わ た り 合 計 約 2Tcf の ガ ス を
LNG として生産するとしており、生
産能力を最大年産 8 0 0 万トンまで拡
張する可能性についても言及してい
る。 続 く 同 年 4 月 に は、 三 星
(Samsung)重工業、FLEX LNGと
の 間 で 年 産 2 0 0 万 ト ン の FLNG
(Floating LNG)の設計・建造および
操業に関する契約締結を発表。同発
表によると、FLEX LNG は 2 0 0 9 年
出所:Total
に generic タイプの詳細設計を既に
図7 Elk/Antelope 位置図
終えており、プロジェクトに特化し
た詳細設計を経て 2 0 1 1 年中の FID
を目指すとされていた。
しかしその後 PNG 政府の意向に
より、同フィールドの開発に関して
は、大規模 LNG プロジェクトの経
験を持つ国際的メジャー企業との協
業を模索することとなり、上記の
LNG 計画についてはほぼ全てが白
紙に戻されることになった。
政 府 の 意 向 を 受 け て LNG プ ロ
ジェクトのパートナー選定を進めて
いた 2 0 1 2 年 5 月には、政府から上
記 2 0 0 9 年の合意事項を破棄すると
の意向が伝えられたとの発表が
InterOil からなされている。その発
出所:InterOil
図8 2011 年当時の Elk/Antelope 開発コンセプト
表はその後政府側が撤回し、一転、
2 0 1 2 年 1 1 月には年産 3 8 0 万トンの
LNG プラント建設を政府が承認し
たと発表された。
パートナー企業の選定について
圧入されることからこの呼び名がつけられている。この
は、複数の大手企業からの申し出があったとされている。
手法は、JPDA(オーストラリアと東ティモールの共同開発
2 0 1 3 年 5 月にはそのなかから、PNG-LNG プロジェクト
エリア)区域で ConocoPhillips が主導するBayu-Undanプ
のオペレータである ExxonMobil との間で独占交渉を開
ロジェクトでも、LNG 生産を開始するまでの間適用された。
始すると発表された。PNG-LNG プロジェクトの将来的
なおその後、本プロジェクトにおけるコンデンセートスト
な 拡 張 を 視 野 に 入 れ る ExxonMobil と し て は、Elk/
リッピングによる液体分生産プロジェクトに関しては、特
Antelope からガスが供給されることは大きなメリット
2014.5 Vol.48 No.3 26
待望のLNG生産を開始するパプアニューギニア 今後の期待と展望
である。片や早期の商業化を目指す InterOil にとっても
る PRL1 5 鉱区権益の 6 1.3 %を取得するとされた。なお
プラントを新設する場合と比較し、PNG-LNG へのつな
将 来 的 に FID 時、 ま た、 生 産 開 始 時 な ど に そ れ ぞ れ
ぎ込みオプションのほうが格段にメリットが大きいこと
InterOil に対して別途ボーナスが支払われ、埋蔵量規模
から、この交渉は早期に決着すると見られていた。
に応じて Total から InterOil への支払いは最大で 3 6 億ド
しかし大方の予想に反して交渉は難航し、2 0 1 3 年 8 月
ルに達することもあるとされている。なおこの発表がな
の独占交渉期間終了までに合意を得ることができなかっ
された時点で、同鉱区の権益のうち約 7 5.6 %を InterOil
た。InterOil は同社のホームページで、独占交渉期間終
が 保 有、 残 り の う ち 約 2 2.8 % は ス イ ス の 証 券 会 社
了後も ExxonMobil との交渉を継続していることを表明
Clarion Finanz AG の 子 会 社 Pac LNG Group(Pacific
していたが、並行して Shell、Total とも交渉をしており、
LNG より社名変更)が保有、残りの約 1.6 %はその他小
同年末までにはパートナーを選定すると発表していた。
口所有者の保有となっていた。InterOil の発表では、同
パートナー選定に関し、InterOil が ExxonMobil との
社保有以外の約 2 4.4 %を同社がいったん全量買い取っ
独占交渉を開始する以前には、Shell が PNG 国営企業で
た上で、6 1.3 %を Total に売却するとされていた。
ある Petromin との関係強化を図っている点から、Shell
一方、同日の Total の発表によると、同社は取得した
が有望視されているとの報道もあった。そういう意味で
権益 6 1.3 %のうち最大 1 9.3 %をファームアウトする権
大穴とも言える Total がパートナーに選定されたという
利を有していることが公表され、さらなる参画企業につ
結果は、
非常に大きな驚きをもって受け止められている。
いて新たに臆測が流れることとなった。
Total との協業という選択は、早期事業化という観点か
それまで本命として名前の挙がっていた ExxonMobil、
らはマイナス評価と受け止められたようで、InterOil が
Shell がマイナーシェアを取得することは考えづらいこ
上場しているニューヨーク市場で同社の株価は 1 日で
とから、その他の企業として PNG において長い操業経
3 7 %も下落する結果となった。
験を持ち、以前より同鉱区権益への興味を公表していた
2 0 1 3 年 1 2 月 の InterOil に よ る 発 表 で は、Total は
Oil Search、 さ ら に は InterOil が 近 年、 現 CEO の
InterOil から 6 億 1,3 0 0 万ドルで同フィールドが位置す
Michael Hession 氏をはじめ Woodside 出身の経営陣を受
出所:PNG Chamber of Mines and Petroleum
図9 Elk/Antelope と PNG-LNG プロジェクトの位置関係
27 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
け入れている背景からWoodsideとの報道もされていた。
に向けて
(developing PNG's second LNG project)
協力す
その後 2 0 1 4 年 2 月に Oil Search が同鉱区への参入を
る」と明記される一方、
「PNG 政府とともにできる限り
発表することになる。しかしこれは Total からの権益譲
早期の商業化を目指す(Joint venturers share objectives
渡という形ではなく、2 2.8 %権益を保有する Pac LNG
with PNG government to monetize gas as quickly as
Group を買収するという形であった。このため、状況を
possible)」ことも謳われている。今後のプロジェクトの
複雑化させてしまう。InterOil から Total への 6 1.3 %の
動向が注目される。
うた
権益譲渡については、他の権益保有者からの権益取得が
条件とされていた。しかし、今回の Oil Search による
次に、InterOil が LNG プロジェクトのパートナーとし
Pac LNG の買収によって、その条件を満たすことは現
て指名した Total の PNG での活動、および世界における
実的に不可能となり、InterOil から Total への権益譲渡
LNG プロジェクトの実績を簡単に紹介しておく。
についても白紙に戻ることになった。一度は新たな
同社は 2 0 1 2 年 1 0 月、Oil Search の保有する五つの鉱
LNG プラント建設に向けて協業を発表した InterOil と
区(PPL2 3 4、PPL2 4 4、PRL1 0(以上海域)
、PPL3 3 8、
Total に 対 し て、PNG-LNG プ ロ ジ ェ ク ト に お い て
PPL3 3 9(以上陸上)
)への参入を発表した(ただし 2 0 1 4
ExxonMobil に次ぐ 2 9 %権益を保有する Oil Search の参
年3月現在、
正式に譲渡が完了しているのはPPL244のみ)
。
入は、再度 PNG-LNG プロジェクト拡張のためのガス供
同時に Oil Search とは戦略的パートナーとして、PNG に
給という選択肢を与えることとなり、今後の 3 社の協議
おける他のビジネスチャンスを共同で模索するとしてお
に 注 目 が 集 ま っ て い る。 な お Oil Search は Pac LNG
り、今回の Oil Search の参入に対しても「戦略的パート
Group の買収で約 9 億ドルを支払うとしているが、その
ナー」
という言葉を用いて歓迎の意を示している。
購入資金は PNG 政府からの増資で賄われることが発表
Total の LNG に係る実績については主に中東、アフリ
されており、同社の Elk/Antelope プロジェクト参入に
カにおける案件があるが、最も古いのは 1 9 7 7 年に生産
対しては政府の後押しもあったと考えられている。
を開始したインドネシア Bontang LNG 向けのガス供給
Oil Search の同プロジェクトへの参画に対しては、そ
と、 ア ブ ダ ビ ADGAS プ ロ ジ ェ ク ト で あ る。 そ の 後
の発表直後に InterOil、Total ともに歓迎する旨を表明
1 9 9 6 年に生産開始の Qatargas 1、2 0 0 9 年に生産開始の
していた。その後 3 月下旬に改めて、2 0 1 3 年 1 2 月に発
Yemen LNG においてはプロジェクトを主導しており、
表された InterOil から Total への権益譲渡の変更につい
2 0 1 2 年には生産中の 1 0 プロジェクト(表)から年間計
て発表がされている。Total は InterOil が保有する PRL-
1,1 4 0 万トンの LNG を出荷している。
1 5 の鉱区権益約 7 5.6 %のうち、4 0.1 %を取得すると変
また現在オーストラリアで開発作業中の Gladstone
更され、権益譲渡に際して支払う金額も 4 億 1 0 0 万ドル
LNG、Ichthys にも権益参加している他、長年検討が続
に変更されている。またその発表時に、
両社は
「PNG-LNG
けられているロシアの Yamal、Shtokman といった大型
プロジェクトに続く二つめの LNG プロジェクトの実現
案件も主導している。
表
Total が参画する生産中 LNG プロジェクト一覧
プロジェクト名(国名) 生産開始年
Bontang(Indonesia) 1 9 7 7
主な参画企業
液化能力
Government of Indonesia 1 0 0 %(LNG plant)
2 2.2Mtpa(8trains)
(Total はガスの供給のみ)
ADGAS(UAE) 1 9 7 7
Total, ADNOC, Mitsui & Co, BP
5.6Mtpa(3trains)
Qatargas 1(Qatar) 1 9 9 6
Total, Qatar Petroleum, ExxonMobil
9.9Mtpa(3trains)
Nigeria LNG(Nigeria) 1 9 9 9
Total, Shell, Eni
Oman LNG(Oman) 2 0 0 0
Total, Government of Oman, Shell
7.2Mtpa(2trains)
Qalhat LNG(Oman) 2 0 0 5
Total, Government of Oman, Shell
3.7Mtpa(1train)
Snøhvit(Norway) 2 0 0 7
Total, Statoil, Norway State DFI
4.2Mtpa(1train)
Yemen LNG(Yemen) 2 0 0 9
Total, Hunt Oil, SK Energy
Qatargas 2 T5(Qatar) 2 0 0 9
Total, Qatar Petroleum, ExxonMobil
7.8Mtpa(1train)
Angola LNG(Angola) 2 0 1 3
Total, Chevron, Sonangol, BP, Eni
5.2Mtpa(1train)
2 1.9Mtpa(6trains)
6.7Mtpa(2trains)
出所:JOGMEC シドニー事務所
2014.5 Vol.48 No.3 28
待望のLNG生産を開始するパプアニューギニア 今後の期待と展望
4. 今後開発が見込まれるプロジェクトについて
PNG 国内には、既発見フィールドの開発準備期間に
トナーシップの下、1 0 %権益が三菱商事に譲渡されて
当たるリテンションライセンス(PRL)として認定され
いる。2 0 1 3 年 5 月には Horizon Oil から大阪ガスに対し
ている鉱区が 2 0 1 4 年 3 月現在 1 4 鉱区ある。
て 2 0 %権益譲渡が発表されている。なお大阪ガスへの
そのうち PNG-LNG プロジェクトへのガス供給が決定
譲渡契約は同鉱区の開発ライセンスへの移行が条件と
している Juha(PRL-2)
、Angore(PRL-1 1)
、上述の同
なっており、2 0 1 4 年 3 月現在、開発ライセンス移行が
プロジェクト拡張のためのガス供給の可能性が高い P’
承認されていないため、権益譲渡は正式には完了してい
nyang(PRL-3)
、さらに Elk/Antelope(PRL-1 5)以外の
ない状況である。
フィールドのうち、主なものを簡単に紹介する。
なお同フィールドはその一部が、隣接する探鉱鉱区
またが
同鉱区保有者
(Eaglewood
PPL-259に跨っていることから、
(PRL-4、Stanley)
Energy 他)との間にユニタイゼーション協定を締結する
1 9 9 9 年に Santos によって発見され、2 0 0 0 年にリテ
必要があり、そのことが開発ライセンス承認に時間を要
ンションライセンスに移行している。その後、InterOil、
している理由の一つとなっている。
AWE などが権益を保有していた時期もあったが、2 0 0 8
埋蔵量は会社の発表では、2,6 0 0 億 cf のガスと、8 0 0
年には探鉱当初から参画していた Horizon Oil(当初の
万 bbl のコンデンセートとされている。同フィールドの開
社名は Bligh Oil and Minerals)の 1 0 0 %権益所有となっ
発に関しては、Elk/Antelope フィールドの章において既
た。2 0 0 9 年には Talisman に 5 0 %権益を譲渡、さらに
述したコンデンセートストリッピング手法を用いるとさ
2 0 1 2 年に発表された Talisman と三菱商事の戦略的パー
れている。ピーク時には日量 4,0 0 0bbl のコンデンセート
出所:Horizon Oil
図10 PRL-4、PRL-21 位置図
29 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
を生産する予定で、生産されたコンデンセート
はパイプラインで Fly 川の Kiunga 港まで送り、
バージ船で Fly 川を下り出荷する計画である。
開発移行承認に先立って、一部施設の敷地工
事、バージ船の建造などは先行して開始されて
いるとのこと。仮に 2 0 1 4 年前半に開発ライセ
ンスが取得できた場合、生産開始は 2 0 1 6 年頃
と見られる。
随伴ガスは将来の生産に備えて、大部分が地
下に再圧入される予定だが、一部ガスについて
は先行して生産される可能性がある。2 0 1 1 年
には、フィールド周辺にガス発電所を建設する
ための政府承認を取得済みで、近隣の銅鉱山に
電力を供給する計画について、現在詳細検討中
とされている。
(PRL-8、Kimu)
Stanley と同じ 1 9 9 9 年に Oil Search によって
発見され、2 0 0 1 年にリテンションライセンス
に 移 行。 現 在 の オ ペ レ ー タ も Oil Search で、
Talisman と三菱商事がパートナーとして参画。
低地帯の Foreland エリアでは初の商業規模の
ガスフィールドの発見とされている。埋蔵量規
出所:Horizon Oil
図11 Stanley 開発コンセプトイメージ
模は約 8,0 0 0 億 cf と推定されている。
今のところ具体的な開発計画は明らかにされ
て い な い。Oil Search が オ ペ レ ー タ の た め
PNG-LNG プロジェクトの拡張に向けてガスを
供給する可能性もある。また、PNG-LNG プロ
ジェクトとは参画企業の顔ぶれが若干異なるた
め、Talisman/ 三菱が中心となる新たな LNG
プロジェクトへのガス供給の可能性についても
並行して検討されていると考えられる。
ここで Talisman/ 三菱が検討を続けていると
される Daru-LNG コンセプトの概要を紹介す
る。PNG-LNG として開発が進む Highland エリ
アのガスフィールドとは一線を画し、Foreland
エリアを含む西部州に点在する小規模ガス
フィールドを集約して、西部州都 Daru 島近郊
に新たな LNG プラントを建設する計画である。
後 述 す る Ketu/Elevala フ ィ ー ル ド を 中 心 に、
Ubuntu、
Pandoraなどもその候補とされている。
(PRL-9、Barikewa)
発見は 1 9 5 8 年と古い。当時のオペレータは
IPC(Island Exploration Company)
。現在の権
出所:Talisman Energy
図12 Talisman 関連フィールドイメージ
2014.5 Vol.48 No.3 30
待望のLNG生産を開始するパプアニューギニア 今後の期待と展望
益保有者はオペレータの Oil Search の他、Santos、Cue
2 0 1 2 年に Total が Oil Search 保有鉱区に参入を表明した
Energy である。PRL-8 と同時の 2 0 0 1 年にリテンション
際、本鉱区もその対象となっており、Total は本鉱区の最
ライセンスが取得され、埋蔵量規模は約 7,0 0 0 億 cf と推
大 5 0 %権益を取得する権利を有しているとされる。
定されている。
埋蔵量規模は約 4,0 0 0 億 cf のガスと 2 0 0 万 bbl のコン
PNG-LNG プロジェクトのガスパイプラインから 5 ㎞
デンセートと推定され、PRL-9 同様 PNG-LNG プロジェ
ほどの至近距離に位置すること、また同プロジェクトの
クト JV との間でガス供給について協議を開始している
権益保有者でもある Oil Search、Santos の 2 社で合わせ
と Oil Search が紹介している。
て 8 5 %以上の権益を保有していることから、将来的に
PNG-LNG プロジェクトへのガス供給の可能性が高いと
(PRL-2 1、Ketu/Elevala)
考えられる。実際に Oil Search によると、同社と PNG-
Elevala フィールドは 1 9 9 0 年、Ketu フィールドはそ
LNG プロジェクト JV との間でガス供給について協議を
の 翌 年 に、 い ず れ も 当 時 の オ ペ レ ー タ BP に よ り
開始していると紹介している。
Forelandエリアで発見されている。その後の検討の結果、
経済性が見込めないと判断され、BP とパートナーであっ
(PRL-1 0、Uramu)
た Santos は 1 9 9 6 年に同鉱区を放棄している。
1 9 6 8 年に Phillips(現 ConocoPhillips)によって発見さ
そ の 後 2 0 0 0 年 に、Santos を オ ペ レ ー タ と し て
れ、その後オペレータとなった Oil Search によって PRL-
InterOil、Bligh Oil and Minerals(現在の Horizon Oil)
8、9 と同時の 2 0 0 1 年にリテンションライセンスが取得
など 6 社の JV により、リテンションライセンス PRL-5
されている。同国において数少ない海域フィールドの一
が取得された。開発検討を続けるなかで各社が続々と同
つ。現在、オペレータの Oil Search が 1 0 0 %権益を保有。
鉱区から離脱していき、2 0 0 9 年には一時 Horizon Oil が
出所:Horizon Oil
図13 Ketu/Elevala、Tingu、Ubuntu 開発コンセプトイメージ
31 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
1 0 0 %権益を保有することになる。同年中に Horizon
2 1 との一体開発の可能性も模索しているとされる。ま
OilはTalismanに対して50%権益を譲渡することを発表。
た同じく隣接する探鉱ライセンス PPL-2 5 9(オペレータ
しかし、2 0 1 0 年には PNG 政府が作業義務を十分に満た
Eaglewood Energy)にもプロスペクトが複数摘出されて
していないことを理由に PRL-5 ライセンスの更新を認め
おり、今後の探鉱作業の結果によってはそれらも含めた
ない旨を表明した。このため、権益譲渡についても無効
一体開発の可能性もあり得る。
とされた。Horizon Oil はライセンス取り消しに対して
即刻異議申し立てを行ったところ、その主張が認められ
(PRL-3 8、Pandora)
2 0 1 1 年に PRL-2 1 として、新たにリテンションライセ
1 9 8 8 年に International Petroleum Corporation(現在
ン ス が 付 与 さ れ る こ と に な っ た。 な お PRL-2 1 は
の Lundin Petroleum)によって、Pandora-A 構造が発見
Horizon Oil および Kina Petroleum、Elevala Energy の
されている。その後1992年に隣接するB構造も発見され、
3 社 JV に対して付与され、Horizon Oil は直ちに取得権
1 9 9 8 年に同国において初めてとなるリテンションライセ
益 7 0 %の半分 3 5 %を Talisman に譲渡している。
ンス PRL-1 が取得されている(リテンションライセンス制
そ の 後 Elevala Energy が 脱 退 し た 後、2 0 1 2 年 に は
度は 1 9 9 7 年の開始。それ以前は探鉱ライセンスから直
Talisman との戦略的パートナーとして三菱商事が鉱区
接開発ライセンスへ移行されていた)
。
参入している。また本鉱区も PRL-4 同様に、2 0 1 3 年 5
リテンションライセンスの最大更新期間である 1 5 年
月に Horizon Oil から大阪ガスに対して権益譲渡が発表
間を通して開発検討作業を行ってきたが、産出ガスが硫
されているが、こちらの譲渡も PRL-4 の開発ライセンス
黄分を多く含む性状であることなどがネックとなり開発
への移行が条件となっているため、2 0 1 4 年 3 月現在権
移行に至らず、2 0 1 3 年 2 月に PRL-1 は期限満了となっ
益譲渡は正式には完了していない状況である。
ている。なお期限満了時の権益保有者はオペレータの
埋蔵量は会社の発表では、両フィールド合わせて 4,8 0 0
Talisman の 他、Oil Search、ExxonMobil、Beach
億 cf のガスと、2,5 0 0 万 bbl のコンデンセートとされる。
Energy、Eni であった。
また同鉱区では Elevala に隣接する Tingu プロスペクトも
埋蔵量は約 8,0 0 0 億 cf を上回ると推定され、当該エリ
摘出されており、2 0 1 3 年後半に試掘が行われている。そ
アに興味を示す企業は多く、新たなリテンションライセ
の結果によってはさらに埋蔵量が増加する可能性がある。
ンスを付与するため入札にかけられることになった。一
現在 FEED 実施中とされているが、Stanley フィール
部報道によると期限満了時に権益を保有していた上記 5
ド同様まずはコンデンセートストリッピング手法が適用
社に加え、Shell、Total といったメジャー企業を含む
される見込みである。生産開始は 2 0 1 7 年頃で、ピーク
二 桁に迫る数の企業連合から応札があったとされてい
時には両フィールド合わせて日量約 1 万 4,0 0 0bbl のコン
る。入札の結果 2 0 1 3 年 1 2 月に、前オペレータである
デ ン セ ー ト を 生 産 す る と 見 込 ま れ て い る。 輸 送 は、
Talisman を オ ペ レ ー タ と し た 企 業 連 合(Talisman、
Stanley 同様パイプラインで Fly 川の Kiunga 港まで送り、
Santos、Cott Oil & Gas、Kina Petroleum)に対して新
バージ船で Fly 川を下り出荷する見込み。
たなリテンションライセンスPRL-38が付与されている。
ガス分生産については現時点では具体的な計画はない
今後新たなメンバーによって開発検討が行われていく
が、Daru-LNG コンセプトへのガス供給の候補と考えら
わけであるが、PNG政府関係者からはPNG-LNGプロジェ
れている。
クトが正式に成立する以前の 2 0 0 8 年に、同フィールド
ふたけた
から PNG-LNG プロジェクトへのガス供給について言及
(PRL-2 8、Ubuntu)
されたという経緯もある。また、権益保有者の顔ぶれか
2 0 1 1 年に Eaglewood Energy によって発見され、同年
らも PNG-LNG プロジェクト拡張へのガス供給オプショ
中にリテンションライセンスを取得している。位置的に
ンに加え、Daru-LNG コンセプトへのガス供給オプショ
は Ketu/Elevala フィールドがある PRL-2 1 の東側に隣接
ンの双方について検討が進むものと思われる。
し て い る。 権 益 保 有 者 は オ ペ レ ー タ の Eaglewood
EnergyとTalisman、
三菱商事の他、
タイの国際エネルギー
(PRL-3 9、Triceratops)
企業 PK グループ傘下の P3 Global Energy の 4 社である。
2 0 1 3 年 1 2 月に付与された最も新しいリテンションラ
埋蔵量は会社の発表では、約 1,0 0 0 億 cf のガスと、約
イセンスである。Triceratops フィールドは InterOil に
3 8 0 万 bbl のコンデンセートとされる。
よって 2 0 0 6 年に発見されている。埋蔵量規模は 1,0 0 0
開発方式については検討中であるが、隣接する PRL-
億 cf 程度のガスと見積もられている。
2014.5 Vol.48 No.3 32
待望のLNG生産を開始するパプアニューギニア 今後の期待と展望
出所:Kina Petroleum
図14 Pandora フィールド位置図
出所:InterOil
図15 Triceratops フィールド位置図
33 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
リテンションライセンス取得時の権益保有者は
ンライセンスの譲渡に関しても独占交渉を開始する旨発
InterOil と、南米を中心に活動するカナダ企業 Pacific
表されており、今後 Oil Search が参画する可能性が高い。
Rubiales の 2 社であったが、2 0 1 4 年 2 月に Oil Search が
開発方式など今後の方針決定については、その権益譲渡
Pac LNG Group の買収を発表した際に、本リテンショ
の行方に大きく左右される。
5. 国営企業再編について
PNG では開発プロジェクトに対して、最大 2 2.5 %ま
る関係で国による保有権益の形態も複雑になっている。
での権益を、国または国が指名した企業が取得すること
主力のガス産出フィールドになる予定の Hides、Angore
が認められている。なお厳密には 2 2.5 %のうち 2 %につ
の 鉱 区 権 益 に つ い て は、 公 益 企 業 を 管 理 す る
いては地権者に与えられるものであるが、地権者にはコ
Independent Public Business Corporation(IPBC)がそ
スト負担の義務はなく、国または国が指名した企業がそ
れぞれ 2 0.5 %の政府権益を保有し、MRDC が地権者権
の分も併せて負担することになっている。
益 2.0 %を保有している。既述したが、既生産フィール
1 9 9 0 年代に生産が開始されている Kutubu、Gobe な
ドである Kutubu、Gobe の政府権益は MRDC が、Moran
どの原油生産フィールドに関しては、国営企業である
は Petromin が保有者となっている。
Mineral Resources Development Company(MRDC)が
LNG プロジェクト権益については、各鉱区のガス埋
中心となり政府権益および地権者権益を保有していた。
蔵量に応じて LNG 権益を定めているため、IPBC が傘下
その一部は MRDC の関連企業であった Orogen Minerals
企業 National Petroleum Company of PNG(NPCP)を通
Limited(OML)が保有していたが、2 0 0 2 年に OML が
して 1 6.6 %、MRDC が 2.8 %、Petromin が 0.2 %などと、
Oil Search と合併した際に政府保有権益も Oil Search に
複数の政府関連企業がそれぞれ LNG プロジェクト権益
譲渡され、現在では MRDC は地権者保有権益のみを保
を持ち合う状況になっている。
有している。
PNG 政府は現状に関して、手続きの重複などによる
2 0 0 7 年 に は 石 油・
ガスおよび鉱物資源を
取り扱う新たな国営企
業 Petromin が 設 立 さ
Petromin
れ、Moran フ ィ ー ル
ド に つ い て は MRDC
から譲渡を受け同社が
政府権益を保有してい
る。
加えて同社は開発・
生産のみならず探鉱に
石油ガス
も参加できることにな
り、 前 述 の よ う に
New Ireland Basin を
中心に広大な探鉱鉱区
を保有している。
2 0 0 9 年から開発作
金属鉱物
Kumul Mining
Kumul Petroleum
業に移行している
PNG-LNG プロジェク
トは、ガスを供給する
フィールドが複数に上
出所:JOGMEC シドニー事務所
図16 国営企業再編イメージ
2014.5 Vol.48 No.3 34
待望のLNG生産を開始するパプアニューギニア 今後の期待と展望
非効率性を認めており、国営企業の再編を行うことを発
を指す現地の言葉)。
表している。具体的には、石油・ガスと金属鉱物の両方
Petromin はほぼ手つかず状態の広大な探鉱鉱区を保
を管轄する Petromin(Petroleum+Mining)
を分割し、石
有しているが、NPCP が権益保有する PNG-LNG プロジェ
油・ガス部門を PNG-LNG プロジェクトにおいて政府権
クトから今後得られる売り上げ収入を使って、国内探鉱
益を多数保有する NPCP と併合し、Kumul Petroleum と
の活性化も期待できると考えられる。
するものである。なお Petromin の Mining 部門は Kumul
なお Petromin は 2 0 1 1 年に Shell と戦略的連携に関す
Mining となる予定で、それぞれの分野により精通した
る協定を締結しているが、これが Kumul Petroleum に
専業公社の設立を目指すとされている(注:
“Kumul”は
引き継がれるかどうかについては、今のところ正式には
PNG の国鳥であるアカカザリフウチョウ
〈通称:極楽鳥〉
発表されていない。
おわりに
以上、PNG における生産フィールドおよび既発見
Kina Petroleum が権益を保有する PPL-3 3 7 で 2 0 1 4 年に
フィールドの現況を中心に紹介した。最後に今後の探鉱
2 坑の掘削を行う計画が公表されている。
ポテンシャルについて。
さ ら に、Petromin が 1 0 0 % 権 益 を 保 有 す る New
生産フィールドは Highland エリアに集中しており、
Ireland Basin について、Shell との提携の今後は未定で
今後の探鉱も同エリア、およびいくつかの発見が報告さ
はあるが、その他パートナーの参入も考えられ、今後の
れている西部州の Foreland エリアの Papuan Basin を中
動向が注目されると言える。
心に進んでいくのは間違いない。一方で、その他の大部
分のエリアでも探鉱ライセンスが付与されているので、
最後に、本稿を執筆するに当たっては、PNG で事業
徐々に探鉱活動が進んでいくものと考えられる。
に参画されている企業の方々のご協力をいただいた。特
既に Pandora、Uramu の 2 フィールドが発見されてい
に大阪ガス・オーストラリア、丸紅オーストラリア会社、
るパプア湾では Oil Search が中心となって探鉱作業を進
三井物産本社、JX 日鉱日石開発ブリスベン・オフィス
めており、2 0 1 3 年には PPL-2 4 4 などで計 3 坑の掘削が
の方々には貴重な情報を提供いただいた。この場を借り
行われ、現在評価中とされている。
て御礼申し上げる。
また北部 North New Guinea Basin では Heritage Oil/
【参考文献】
1. 石油・天然ガスレビュー 2 0 0 7 年 7 月号
「パプアニューギニア:複数の LNG 事業案件が進展」
(坂本茂樹)
2. JOGMEC 石油天然ガス資源情報 2 0 0 6 年 1 0 月
「アジア太平洋:LNG 液化プロジェクト化の可能性ある注目ガス案件
(ミャンマー、パプアニューギニア、インドネシア)
」
(坂本茂樹)
3. JOGMEC 海外事務所レポート 2 0 1 1 年 7 月「パプアニューギニアの石油・ガス開発の現状について」
(丸山裕章、
Lainie Kelly)
4. JOGMEC 海外事務所レポート2 0 0 6 年 1 2 月
「パプアニューギニア:石油・天然ガス開発および PNG ガスプロジェク
ト
(豪州へのパイプライン・ガス輸出)
の現況と見通し」
(三宅裕隆、Lainie Kelly)
5. Wood Mackenzie Country Overview“Papua New Guinea upstream summary, September 2 0 1 3”
6. Wood Mackenzie Asset Report“Papua New Guinea LNG, April 2 0 1 3”
、
“Ketu-Elevala, September 2 0 1 3”
、
“Stanley, September 2 0 1 3”
、
“Papua New Guinea other discoveries, July 2 0 1 3”
7. 各社ホームページ、ニュースリリース
35 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
執筆者紹介
北村 龍太(きたむら りゅうた)
愛媛県松山市出身。東京大学工学部地球システム工学科卒業。
1995 年石油資源開発株式会社に入社。国内外の掘削現場で掘削エンジニアとして、石油・天然ガス坑井の掘削・
仕上げ作業に従事。
2007 年 JOGMEC 入構。技術部開発技術課を経て 2012 年 8 月よりシドニー事務所駐在。
妻および 2 人の男の子とともにオーストラリアでの生活が 1 年半を超える。現地校での影響を受け、公園を裸足
で走り回る子供たちを尻目に、オーストラリアワインの摂取量も徐々に増える今日この頃。
Lainie Kelly(レイニー ケリー)
オーストラリア・シドニー生まれ。
University of Sydney, Bachelor of Arts(シドニー大学、文学部)卒業。
JETRO シドニーの調査員を経て、2005 年 7 月より JOGMEC シドニー事務所調査員(石油 ・ 天然ガス部門)となり、現在に至る。
古代史に関心を寄せており、週末は、水泳とサイクリングに励んでいる。
2014.5 Vol.48 No.3 36
Fly UP