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[第3回]日本の職人と 中国の女の子
[第3回] 日本の職人と 中国の女の子 音響機器メーカーのナカミチで1997 年 まで設計を担当。 その後、 オーディオ製品 を設計製造する香港企業に移り、 2000 年からは深 市の事業所で 80 人の中 国人技術者に対して技術指導を行う。 現在は独立して、 TESTADURA. LTDを 設立。中国進出支援や技術コンサルタ ント業務を行っている。 ! TEL:+86−13923760993 Mail:tsuruta@testadura.asia http : //www. testadura.asia 筆者の友人で昔からの仲間に、部下の設計担当者に 相手に怪我がなかっただけ良かった。 ノギスを投げつけて、中国の会社を辞めた技術者がい こういう話をすると、 「マニュアルをつくって教育 る。あるスピーカーの設計で問題が起きたときに、 「こ すればよいのだよ」と物知り気に言う日本人がいるが、 のスピーカーの特性は調べたの?」とその部下に聞く マニュアルをつくった後の管理が問題なのである。そ と「調べました」とのこと。そこで友人が「結果はど う簡単にいくものではない。 うでしたか? データを見せてもらえませんか」と尋 経験豊富な年配の日本人の技術屋や職人が中国に来 ねると「大丈夫です」と憮然とした返事があったとい ると、中国の若者は一見従順で何でも吸収してやろう う。 という、学習意欲に燃えた人間に思えてくる。モノづ ここでわれわれ日本人が予想する回答は「これがデ くりに意欲がない日本の若者に教えるより、この中国 ータです。この特性なら問題ないと思われますが、い 人の若者に自分の今までの経験や技術を徹底的に教え かがでしょうか」である。それを「大丈夫です」とは て仕込んでやろうと思ってしまう。これが大きな間違 どういう根拠で言っているのか。私の友人は怒りをぐ いである。中国の 13 億人の中には、昔の日本人と同 っとこらえて、もう一度「データを見せてください」 じように職人の後ろ姿を見て、また手の動きを盗み見 と繰り返した。すると部下も「私が見た限りでは問題 て自分の技術を向上させ、師匠の影を踏まず、師匠か ないのですが」と繰り返す。 「私が判断したいのでデ ら免許皆伝をもらうまでじっと耐える若者がいるかも ータをとったのか?」 、 「とりました」 、 「じゃあ見せろ」 。 しれないが、そういう人間に巡り合うのは皆無に近く、 「大丈夫です」 。友人はこの時点でぷっつんと堪忍袋の 緒が切れて、ノギスを投げつけたそうだ。結局データ もし見つかったとしても、給与面など待遇をよくして やらないとほかの会社に移ってしまう。 はなかったようで、その友人がもう一度自分でデータ そのように日本の技術屋や職人は勘違いをして、一 をとる羽目になってしまった。技術屋がノギスを投げ から十までを中国の若者に教え込む。その後、早くて るというのも問題だが、そこまで追い詰められるほど 1 カ月、長くて 3 年したら、その中国の若者はほかの 精神状態に余裕がなくなっているということである。 会社の空気を吸いたいと言って辞めてしまう。退職の 大きな原因は、日本人にいつまでもついていても、そ の人より給与が多くなることは期待できないからであ る。最初から日本人の上にいきたいと思って従順にし ているだけなのである。それがわかった日本の技術屋 や職人は居場所がなくなり、自分はこれまで一体何を やってきたのだろう、自分を理解してくれる、評価し てくれる人間はここにはいないのかと自暴自棄になっ てしまう。 それが原因で酒びたりになり、夜の街を徘徊、カラ オケ三昧としているうちに、良くできたもので、夜の 仕事をしている女の子から「親が病気で働けない」 「 、弟 が大学に行かなければならない」 、 「妹の足が悪い。そ 街中で座り込む中国人女性 086 のためにやりたくないこんな仕事をしている」などと