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オートメーションシステムの最適化 - Rockwell Automation
Photo (optional) オートメーションシステムの最適化 DCSを移行した後に優れたシステム性能を実現するには Mike Vernak/Tim Shope共著 2 | オートメーションシステムの最適化 今日、分散制御システム(DCS)は多くの製造プラントに導入されています。DOCが 耐用寿命に達したら、新しいオートメーションシステムにアップグレードするこ とが必要となります。アップグレードのタイミングを決める主な要因の1つに、 古いDCSと比較した場合に、新しいオートメーションシステムからどれだけ優れ た性能を期待できるかということがあります。優れた性能が実現すると、プラン ト全体の運用コストの削減、ダウンタイムの短縮、メンテナンスコストの削減に つながり、アップグレードを正当化するのに十分な投資対効果を挙げることが できます。 この白書では、新しいオートメーションシステムが具体的にどのような点で一般 的な旧式のDCSに勝る性能をもたらすのかという点を重点的に説明します。トピッ クとしては、先進的プロセス制御、製造関連のその他のソフトウェアおよびハー ドウェアシステムとの統合、リモートアクセス、データ分析、PIDループ制御、ア ラームおよびイベント処理について取り上げます。この白書では、新しいオート メーションシステムが古いDCSよりも優れている理由を、これらのトピックごと に検証していきます。 エンドユーザは、古いDCSを大きく上回る価値を新しいオートメーションシステ ムから引き出せるものと期待すべきです。本書は、これらの期待をどのようにす ればかなえることができるかを示すことにより、古いDCSから新しいオートメー ションシステムへのアップグレードを正当化するものです。 優れた性能 新しいオートメーションシステムの性能は、表1に示すように、さまざまな面で古いDCSよりも優 れています。これらについては、以下で詳しく説明します。主たる利点の1つは、プロセス制御 が優れていることであり、このことは多数のメリットをもたらします。 表1:新しいオートメーションが古いDCSよりも優れている点 優れたPIDループ制御とオートチューニング 高度なプロセス制御の改善 アラームおよびイベント処理の向上 レポート作成オプションが拡充され、導入しやすい サードパーティ製ソフトウェアシステムとの統合が簡単 スマート計器、アナライザ、およびバルブとの統合が簡単 リモートアクセスの向上 サポートコストの削減 新機能へのアクセスの向上 システムに精通した人員を見つけるのが簡単 プロセスをセットポイントのできる限り近くで制御し、理論上の限界ぎりぎりでプロセスを実 行すると、スループットが向上し、ばらつきが抑えられて、品質が向上します。最新式オートメー ションシステムを使用すると、さまざまな方法で優れたプロセス制御を実行できます。 まず、基本的なPID制御アルゴリズムが緻密で即応性に優れたものとなるため、標準的なPIDルー プの制御が改善されます。PIDループのオートチューニング機能がこれらのシステムの多くに組 み込まれるため、チューニングパラメータの初期値が適切になり、これらのパラメータに継続 的な調整および改善を加えられるようになります。 オートメーションシステムの最適化 | 3 最新式のオートメーションシステムには、基本的なPIDアルゴリズムに加え、PID拡張命令やアド オン命令などの調整制御オプションも含まれています。PID拡張命令では、PID方程式の速度形 制御アルゴリズムが使用されます。つまり、ループは誤差の変化に応じて出力を変えます。 アドオン命令は、ユーザによって作成されるカスタム命令です。一般的には、よく使われるロジッ クセット向けに新しい命令を作成したり、このロジックに対する共通のインターフェイスを提供 したり、命令に関する文書化を提供するために使用されます。アドオン命令は、よく使われる機 能やデバイス制御をカプセル化する目的で使用するよう設計されています。 調整制御で要求される通りに制御できないループやプロセスのために、新しいオートメーショ ンシステムでは、高度なプロセス制御(APC)技術を実装するためのオプションが多数提供され ます。これらのオプションについては、後続のセクションで詳しく説明します。 新しいオートメーションシステムには、古いDCSよりも優れたアラームおよびイベント処理機能 が用意されています。これにより、オペレータのパフォーマンスが向上すると共に、プラントの 稼働状況の分析と性能の改善を担当しているプラントエンジニアに、より効果的なデータが提 供されるようになります。 アラーム処理機能の改善点としては、アラームに優先順位を付けることによって、アラームが氾 濫するのを防ぎ、根本原因を簡単に特定できるようになることが挙げられます。アラームの氾 濫状態が抑制されると、オペレータが素早く対応できるようになり、安全の向上と事故の削減 につながります。その他の優れたアラーム機能には、アラーム合理化、アラーム棚上げ、運転状 態に応じたアラーム発行などがあります。 プラントスタッフは、タイムスタンプの付いたアラームおよびイベントの詳細なリストを使用し て、プロセスの停止をはじめとした異常状態を分析できます。このタイプの分析を行なうと、根 本原因を迅速に特定できるようになるため、保守スタッフが問題を根底から解決できるように なります。 旧式のDCSの場合、レポートの作成が困難を極めることは少なくありません。新しいオートメー ションシステムを使用すると、プログラマでなくてもさまざまなレポートを作成し、質の高いデー タをわかりやすく提示できます。効果的なレポートが作成されると、プラントのパフォーマンス に関する情報の可視性が高まり、稼動状況を改善する機会が広がります。 新しいオートメーションシステムは古いDCSと比べて故障の発生率が低く、また、実際に故障が 発生した場合にも、システムを再稼動するためにその場所を簡単に見つけることができます。 サプライヤは、自社が提供する最新のオートメーションシステムに対する新機能の追加を継続 的に行なっており、特にソフトウェア関連のアップグレードに際しては、これらの機能の追加を 低コストまたは無償で行なっています。それとは対照的に、古いDCSのベンダーによるサポート は、あったとしても決してきめ細かいものではありません。 旧式のDCSは、サプライヤからのサポートが新式のオートメーションシステムよりも劣るだけで なく、内部リソースでサポートするのも困難です。旧式のDCSは、廃止になったハードウェアやソ フトウェアを使用して構築されている場合が多いため、サポートスタッフを見つけるのが難しく なります。新しいオートメーションシステムは、最新のテクノロジを採用して設計されるため、 内外両方のリソースを使ったサポートが簡単です。 最 新 式 の オ ー ト メ ー シ ョ ン シ ス テ ム を 導 入 す る と 、ス ル ー プ ット の 向 上 と ダウンタイムの短縮、品質の向上を通じて、製造プラントの価値を最大限に発揮できるようになります。 4 | オートメーションシステムの最適化 高度なプロセス制御 プロセス制御は、オートメーションシステムの主要な機能であり、標準的な調整制御として提 供される場合とAPCとして提供される場合の両方があります。最新式のオートメーションシス テムからは、旧式のDCSを多くの点で勝る優れたAPC機能が提供されます。 まず、多くの新しいオートメーションシステムには、モデルベースのファンクションブロックやファ ジーロジックといったAPC機能が組み込まれています。 第二に、新式のオートメーションシステムには、ユーザが独自のAPCアプリケーションを作成す るのに使用できるツールが備わっています。これらのツールの主要コンポーネントは、標準お よびカスタム・ファンクション・ブロックであり、これをさまざまな方法で相互に接続してAPCア プリケーションを作成できるようになっています。 内部モデル制御(IMC)などの最新式のモデルベースアルゴリズムに基づくファンクションブロッ クは、基本的な調整制御や高度なプロセス制御に使用できます。IMCアルゴリズムは、プロセ ス変数(PV)と制御変数(CV)を1つずつ持ち、さまざまな状況でPIDブロックを直接置換えるもの として使用できます。IMCアルゴリズムによって使用されるモデルには、プロセスゲインや時定 数のほか、最も重要なものとしてプロセス・デッド・タイムに関する使用/入力値が含まれます。 これは、デッドタイムを過剰に設定すると、PID制御を使用するのが困難になるか、ほぼ不可能 になるためです。 これと同じIMCアルゴリズムをさまざまな方法で組み合わせることにより、より高度なプロセ ス制御機能を提供できるようになります。1つのブロックに複数のIMCコントローラを組み込む と、スプリット・レンジ・バルブ構成のフローコントローラのような複数のCVや、さらにはフィー ドフォワード相互作用に伴う制御関連の問題を簡単に処理できるようになります。また、互い に作用し合うPVとCVを2つずつ使用して、シンプルなマルチ変数制御を行なう1つのファンクショ ンブロックを作成することもできます。この際、複数のPIDループを相互接続するために複雑な ロジックを作成する必要は一切ありません。 カスタム・ファンクション・ブロックは、C++やVisual Basicなどのコンパイルされた高レベルコード から作成できます。これらのカスタム・ファンクション・ブロックにはさまざまなAPC機能を組み 込むことができ、その範囲はプログラマの専門知識によってしか制限されません。カスタム・ファ ンクション・ブロックは、曲線近似のような高度な演算機能を実行するためによく使用されま す。 標準的なAPCファンクションブロックとカスタムのAPCファンクションブロックを組み合わせる と、シンプルなPIDのほか、PID拡張命令やアドオン命令などのその他の調整制御手法では許容 可能なレベルに調整できないループを制御できるようになります。 これらの高度な制御機能を実行するもう1つの方法として、外部プログラムを使用してモデル 予測制御(MPC)などのAPCアルゴリズムを実行し、必要なデータをオートメーションシステムに 返すことによって、データを交換する方法があります。 一般的にMPCは、オートメーションシステムからプロセス値を読み取ってから、監視対象のさま ざまな制御ループのオートメーションシステムにセットポイントを返すという点で、監視制御ア プリケーションです。最新式のオートメーションシステムでは、MPCなどの外部アプリケーショ ンとの統合が極めて簡単です。カスタムのデータ交換/統合コードを作成するかわりに、OPCな どの標準的なデータ交換プロトコルを使用できます。 これらのプロトコルは統合作業を飛躍的に簡略化し、データ交換性能を向上させることも少な くありません。一部のオートメーションシステムのサプライヤはサードパーティのソフトウェア プロバイダと間に極めて密接な提携関係を結んでいるため、真にシームレスな統合が可能にな ります。 外部APCアプリケーションへのアクセスが向上することは、オートメーションシステムをサード パーティ製ソフトウェアと統合すべき主な理由のうちの1つであり、これ以外にも理由は多数あ ります。 オートメーションシステムの最適化 | 5 統合のメリット 新しいオートメーションシステムでは、EtherNet/IPやOPCといった業界標準のデータ交換プロ トコルおよびインターフェイスが使用されるため、APCなどのサードパーティ製アプリケーショ ンとの統合が極めて簡単です。この点で、カスタムコードを作成するだけでなく、高価なハード ウェア通信ゲートウェイを購入および導入することも必要とする旧式のDCSとは大きく異なり ます。 サードパーティ製アプリケーションと統合すると、表2に示すような多数のメリットがもたらさ れます。これについては、以下に詳しく説明します。 表2:統合のメリット サードパーティ製アプリケーションの操作性が向上する 全関係者がデータをただちに利用できる リモートアクセスが簡略化される リアルタイム分析用のデータが提供される 先を見越したメンテナンスが可能になる 手作業によるデータ入力をなくすことができる 外部とのインターフェイスを少なくすることによって セキュリティを強化できる 統合すると、さまざまな方法でデータをただちに企業全体で利用できるようになります。よ く使われる方法として、ブラウザベースのアクセスがあります。この方法では、オートメーショ ンシステムがウェブサーバとしての役割を果たします。 ユーザは、パーソナルコンピュータやモバイルデバイスにソフトウェアをインストールしなく ても、任意のブラウザを使用してオートメーションシステムのデータにアクセスできます。オー トメーションシステムはこのアクセスを厳密に制御して、権限のある人員にのみデータの表 示と変更を許可します。 アクセスレベルはユーザグループによって異なる場合があります。例えば、上層経営陣はプ ラントの稼動状態に関する概略的なパラメータを確認するだけでよいのに対し、プラントエ ンジニアはオートメーションシステムの設定を変更することを含め、フルアクセス権を必要と している場合があります。 ブラウザベースのアクセスに必要となるのは、インターネット接続と正しいログイン認証情 報だけなため、このアクセスは、プラントに対してローカルにすることもリモートにすること もできます。もう1つのよく使われるリモートアクセスは、シンクライアント経由のアクセスで す。この方法では、ブラウザベースのアクセスならではの利便性が、強度なセキュリティと優 れた性能と共に提供されます。 オートメーションシステムのデータを全関係者にその相手が好む形式ですばやく提供する と、優れたデータ分析を実行できるようになり、プラントの稼動実績の向上に直接結び付き ます。例えば、データを資産管理パッケージで分析して、故障がいつ起こる可能性があるか を予測することにより、先を見越してメンテナンスを実施することができます。 サードパーティ製アプリケーションを新しいオートメーションシステムと統合すべき重要な理 由としては、手作業によるデータ入力を排除できることも挙げられます。旧式のDCSでは、ア プリケーション間の統合が難しく、またコストがかかりすぎるため、サードパーティ製アプリ ケーションからDCSにデータを転送するかわりに、手作業でデータが入力されることが少な くありません。 手作業から電子的なデータ入力に移行すると、人件費が節約され、精度が向上するほか、デー タ交換を大幅に高速化することも可能となります。データ交換が高速化すると、リアルタイ ム制御アプリケーションを外部APCアプリケーションなどのオートメーションシステムに統合 できるようになります。 6 | オートメーションシステムの最適化 統合の向上によってもたらされるもう1つの主なメリットに、セキュリティの強化があります。サー ドパーティ製アプリケーションがすべて電子的に新しいオートメーションシステムと統合して いる場合、ほとんどのユーザはオートメーションシステムにしかアクセスする必要がなくなり、 多数のサードパーティ製アプリケーションへの追加的なアクセスが不要になります。オートメーショ ンシステムへのアクセスのみ許可することにより、セキュリティが大幅に簡略化され、セキュアな アクセスの実装および維持にかかるコストを削減できます。 サードパーティ製ソフトウェアアプリケーションとの統合は、旧式のDCSよりも最新式のオート メーションシステムを使った場合の方が極めて簡単です。このことは、スマート計器、アナライ ザ、およびバルブなどのフィールドデバイスとの統合にも当てはまります。 スマートデバイスから最大の価値を引き出す スマート計器、アナライザ、およびバルブの普及は、過去10年間にオートメーション分野で起こっ た重要な技術進歩の1つです。これらのスマートデバイスは、1つの4~20mA出力を使用してプ ロセス変数の値を示す旧式のデバイスにとってかわろうとしています。製造プラントで広く使 用されているその他のスマートデバイスには、モータスタータやモータドライブが含まれます。 スマートデバイスには、EtherNet/IPなどの高速双方向デジタ ル・データ・リンクが含まれており、スマートデバイスはこのリ ンクを使用して、複数のデータポイントをオートメーションシ ステムと交換できます。スマートデバイスは、プロセス変数だ けでなく、デバイスの稼動状態、診断、キャリブレーションに 関する情報も転送できます。それを受け、オートメーションシ ステムは、キャリブレーションのほか、スマートバルブの開閉 といったその他の操作に役立つコマンドをデバイスに送信で きます。 大半の新しい製造プラントは、スマートデバイスの設計と仕様 作成を可能な限り推進しており、非インテリジェントデバイス は、スマートデバイスの選択肢が他にない場合にしか使用さ れません。既存の製造プラントの多くは、非インテリジェント デバイスをスマートデバイスで置換えており、こうしたアップ グレードの取り組みは継続しています。 この差圧伝送器のようなスマートデバイスは、EtherNet/IPなどの 高速双方向デジタル・データ・リンク経由で豊富な情報を最新式オー トメーションシステムに提供できます。 スマート・モータ・スタータとモータドライブは、同様の方法 で高速双方向デジタル・データ・リンク経由でオートメーショ ンシステムと接続しており、ステータスに関する情報、運転変 数、診断をオートメーションシステムに伝達します。オートメー ションシステムは、停止/始動のためのコマンドや、可変周波数 モータドライブの場合は速度制御のためのコマンドをこれら のデバイスに送信することもできます。 いずれの場合も、追加的な利用可能データの価値を最大限 に引き出すには、スマートデバイスがオートメーションシステ ムとインターフェイスしていることが必要となります。旧式の DCSには、さまざまなスマートデバイスとインターフェイスするための機能が備わっていない場 合があります。このことは、スマートデバイスが多様な通信プロトコルに対応している場合に特 に当てはまります。通信ゲートウェイが必要となる場合が多く、これによって多額のコストが加 わるほか、パフォーマンスも相対的に低くなります。 オートメーションシステムの最適化 | 7 それとは対照的に、最新式オートメーションシステムには、さまざまな最新の通信プロトコル が組み込まれ、緊密に統合された状態で提供されます。また、最新式オートメーションシステム はハードウェア通信機能が組み込まれているだけでなく、FDTにも対応しています。 FDTとは、フィールドデバイスとホスト・オートメーション・システム間の通信および構成インター フェイスを標準化するソフトウェアモデルです。FDTのデバイス・タイプ・マネージャ(DTM)には、 デバイスのパラメータにアクセスし、デバイスを構成および操作して、問題を診断するための統 一構造が備わっています。 よく使われるプロセス・オートメーション・フィールドバスの多くは、EtherNet/IP、Foundation Fieldbus、HART、Modbus TCP/IP、Profibus PAをはじめとしたFDTによってサポートされています。 スマートデバイスを最新式オートメーションシステムと統合すると、さまざまな機能を利用でき るようになります。例えば、多様なキャリブレーション作業を電子的にリモートから実施して、 適切なキャリブレーションデータおよびレコードを自動的にメモリに保存することが可能です。 スマートデバイスの稼動状態データを資産管理システムによって分析すると、予知保全を実施 でき、いつデバイスが故障するかを予測できるようになります。予知保全を実施すると、プラン トスタッフはスマートデバイスの修理点検を必要なときにのみ実施でき、融通の利かないスケ ジュールに縛られることがありません。これによって、メンテナンスと修理にかかる費用を削減 できるだけでなく、コストのかかるデバイスの故障やそれに伴うダウンタイムを回避することも 可能になります。 スマートデバイスの診断データは、リモートトラブルシューティング、修理の迅速化、メンテナン スコストの削減に役立てることができます。スマートバルブに対して部分的なストロークテス トを離れた場所から電子的に実行した場合、現地で手作業によってテストを行なった場合と比 べてコストを大幅に削減できます。 スマートデバイスは豊富なデータを最新式オートメーションシステムにシームレスに提供でき、 資産管理システムはこれらのデータを前述の目的に役立てることができます。最新式オートメー ションシステムは、スマートデバイスだけでなく、製造プラントで利用されるその他の一般的なソ フトウェアアプリケーションとも簡単に接続できます。 MES性能を最大限に高める 最新式の製造プラントでは、多数の製造実行システム(MES)ソフトウェアアプリケーションが使 用されます。これには、HMI、データベースとヒストリアン、資産管理、アラームおよびイベント 処理、データ分析、シミュレーション、非線形ループチューニング、プラント稼動実績監視のほ か、蒸留塔制御などの特定市場向けプロセス制御パッケージが含まれますが、これらに限定さ 最新式の製造プラントでは、多数の製造実行システム(MES)ソフトウェアアプリケーションが使用されます。 これには、HMI、 データベースとヒストリアン、資産管理が含まれますが、 これらに限定されません。 れません。これらのアプリケーションとの間にシームレスな高速双方向デジタル通信を確立さ せることは、新しいオートメーションの投資対効果を最大限に高めるうえで不可欠です。最新 式オートメーションシステムでは、最新の通信ハードウェア/ソフトウェア規格のサポートが設計 に組み込まれています。例えば、一般的なオートメーションシステムには複数のイーサネットポート が搭載され、EtherNet/IPやModbus TCP/IPなどのプロトコルに対応できるようになっています。 また、これらのポートは、最新の高速ギガビットイーサネット通信にも対応している場合がほと んどです。 8 | オートメーションシステムの最適化 それとは対照的に、旧式のDCSはイーサネット通信ポートさえ備えておらず、旧式の低速シリア ルインターフェイスに依存している場合も少なくありません。また、イーサネットがサポートさ れている場合でも、通信速度は一般的に低く、複数の最新式プロトコルに対応したDCSは皆無 と言っても過言ではありません。通信ゲートウェイなどのソリューションはコストがかかり、導 入が困難なばかりか、パフォーマンスも決して高くありません。 前出のセクションでは、資産管理システムとの統合の重要性について触れましたが、資産管 理以外のソフトウェアアプリケーションとの統合も同様に重要です。また、リアルタイム制御 に不可欠なHMIなどのアプリケーションの場合、統合はさらに重要になります。 旧式のDCSの場合、基盤となるハードウェアおよびオペレーティング・システム・プラットフォー ムの段階的廃止に伴って、どのコンポーネントよりも先にHMIの使用が廃止されます。新しい HMIにアップグレードすると、グラフィカル機能とプラントの稼動実績を飛躍的に向上させる ことができます。高性能グラフィックスはオペレータの作業効率を高め、大画面モニタはオペ レータがプロセスの全体像を把握するうえで役立ちます。また、オペレータステーションごと に複数のモニタを設置することで、プロセスの機能エリアを一度に複数個表示することが可 能になります。オートメーションシステムとの接続に最新の通信技術を採用しなければ、新し いHMIの価値を最大限に引き出すことはできません。 例えば、高速イーサネット回線を使用すると、オペレータがHMI画面を操作する際の応答時間 が大幅に短縮されます。これによって、プロセス停止やアラームが発生した状況に迅速に対応 できるといった、さまざまなメリットがもたらされます。 旧式のDCSでは、オンボードメモリをはじめとしたハードウェアリソースがHMIレベルで欠落し ているために、アラームおよびイベント処理機能が限定的であることが少なくありません。こ れらの機能は、データの格納と操作を大量に必要とするため、旧式のDCSでは正しく実行する のが困難です。 一方、最新式オートメーションシステムの場合は、パーソナル・ コンピュータ・ベースのほぼあらゆるコンピューティングリソー スにHMI経由でアクセスできるため、極めて高度なアラーム/イ ベント処理機能でも実装できます。 例えば、最新式HMIでは、重大なアラームが発生した直後に、 アラームとイベントに関するすべてのデータを極めて高い頻 度で保存できるようになります。保存したデータを分析する と、アラームの根本原因を明らかにすることができます。 最新式のオートメーションシステムは、プロセス業界の多く の企業で採用されているデータベースおよびヒストリアンと 緊密に統合します。これらのアプリケーションは、関連性の あるデータを全社的に格納および表示する目的で多くの 企業が使っています。 パーソナル・コンピュータ・ベースの最新式HMIは、アラームと イベントを処理するだけでなく、データベースやヒストリアン などの他のMESソフトウェアアプリケーションでこれらのデー タを利用できるようにする機能も優れています。 データベースとヒストリアンは、プロセスに関連したあらゆる データを格納および表示する目的で、多くの製造プラントで採 用されています。これらのソフトウェアアプリケーションは、データを全社規模で配布するた めの主要ツールとして、多くの企業で使われています。 多くの最新式オートメーションシステムには、データベースおよびヒストリアンとの緊密な統 合が組み込まれています。データベースとヒストリアンはオートメーションシステムと大量の データを高頻度かつ継続的に交換するため、この統合は非常に重要な意味を持ちます。 データベースとヒストリアンにデータが供給されると、そのデータを分析に使用できるように なり、プラントの運転実績の向上につながります。例えば、ヒストリアンを使用して現在のデ ータと過去のデータを比較し、プラントの運転状況を最適化することができます。 最新式の製造プラントでは、これ以外にも多くの専門的なデータ分析アプリケーションやプ ラント運転実績MESアプリケーションが利用されており、はシミュレーションソフトウェア、非 線形ループ・チューニング・ソフトウェア、プラント稼動実績監視ソフトウェアなどはその例で す。また、蒸留塔制御などの特定市場向けプロセス制御パッケージも広く使用されています。 オートメーションシステムの最適化 | 9 これらの専門的なソフトウェアパッケージはいずれも、オートメーションシステムとのデータ 通信を高速で行なう必要があります。これらのパッケージは、最新式オートメーションシステ ムのHMIと同様に、必然的にパーソナル・コンピュータ・ベースになります。新しいオートメー ションシステムのコントローラは、パーソナル・コンピュータ・ベースでない場合がありますが、 パーソナル・コンピュータ・ベースのアプリケーションと通信できるよう最適化されています。 HMIとコントローラはいずれも、複数の高速イーサネットポートを搭載しているのが一般的で す。EtherNet/IPやOPCなどのよく使われる通信プロトコルがサポートされるため、外部アプリ ケーションとのプラグ・アンド・プレイによる通信が可能です。 例えば、プラント稼動実績監視ソフトウェアアプリケーションは、オートメーションシステム からの大量のデータを分析し、推奨されるアクションをオートメーションシステムに返す必要 があります。通信が高速なほど、このアクションを迅速に実行し、プラントの稼動実績をすみ やかに改善することが可能になります。 ERPアクセスの向上 今日、プロセス産業の多くの企業で、OracleやSAPに代表されるエンタープライズ・リソース・ プランニング(ERP)システムが採用されています。最新式オートメーションシステムのほとんど が、主要ERPシステムとのインターフェイスを組み込むことによって、導入コストとメンテナン スコストの大幅な削減を実現しています。 通常、ERPシステムへのアクセスは全社規模で提供されるため、プラント稼動実績データを広 範囲のユーザに提供する手段としては、オートメーションシステムをERPシステムと接続する のが最も効果的です。稼動実績データに加え、在庫レベルやその他の財務指標に関連した情 報もERPシステムに提供できます。 通常、ERPにはお客様からの注文に関するデータが格納されており、これらの情報をオートメー ションシステムに転送して、生産段階で役立てることもできます。ERPシステムが企業の全製 造プラントで最新式のオートメーションシステムに接続されていると、各プラントでどの製品 をどのくらいの数量生産すべきかに関する決定を行なえるようになり、企業全体で生産プロ セスが最適化されます。 まとめ 旧式のDCSでは、最新式の製造プラントを最適なレベルで稼動することは不可能です。最適 なレベルの稼動実績を達成できないことは、さまざまな負担となってプラントにのしかかり ます。これには、過剰なダウンタイムといった明らかな負担のほか、それほど明白ではないコ スト要因も含まれます。 これらの隠れたコストの例としては、設計上の最大値に満たないスループット、品質の低さ、 過剰なエネルギー消費量、アラームおよび事故に対する対応時間の長さ、プラントの運転/保 守スタッフに対する要求過多などが挙げられます。 最新式のオートメーションシステムならば、これらのコストをすべて排除し、セキュリティの強 化、リモートアクセスの向上、予知保全といったその他のメリットを追加することによって、必 要な投資を十二分に正当化することができます。 10 | オートメーションシステムの最適化 参考資料: 1. 「Justification for Migration (移行の経済的妥当性)」(本シリーズの第一弾となる白書)、 http://literature.rockwellautomation.com/idc/groups/literature/documents/wp/proces-wp005_en-p.pdf 2. 「DCS Migration Strategy (DCS移行戦略の策定と実施)」(本シリーズの第二段となる白書)、 http://literature.rockwellautomation.com/idc/groups/literature/documents/wp/proces-wp006_en-p.pdf 3. 「Best Practices in Control System Migration」Dan Hebert (PE、シニア・テクニカル・ エディター)、http://www.controlglobal.com/articles/2007/006.html 4. 「The Great Migration: Before Deciding, Always Look for Risk Versus Return」John Bryant (Arkema)/Mike Vernak (ロックウェル・オートメーション)、 http://www.isa.org/InTechTemplate.cfm?Section=Features3&template=/TaggedPage/ DetailDisplay.cfm&ContentID=74170 5. 「Upgrading Your DCS: Why You May Need to Do It Sooner Than You Think」Chad Harper (Maverick Technologies)、http://www.mavtechglobal.com/dcsnext/pdf/Upgrading-Your-DCSWhite-Paper.pdf 6. 「Control System Migration: Reduce Costs and Risk by Following These Control System Migration Best Practices」Nigel James (Mangan Inc.)、http://www.controlglobal.com/articles/2009/ ControSystemMigration0901.html?page=full 詳細は、以下のWebサイトをご覧ください。www.rockwellautomation.com/go/process Publication PROCES-WP008B-JA-P – April 2014 Copyright ©2014 Rockwell Automation, Inc. All Rights Reserved. Printed in USA.