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ヘッジファンドのリスク管理、資産評価、情報開示、規制の
資料2 経済産業省ヘッジファンド研究会:第2回 ヘッジファンドのリスク管理、資産評価、情報開示、規制の現状と課題 ー ヘッジファンドの特徴とヘッジファンドワーキンググループ(HFWG)の提案内容をベースに ー 2007年11月9日 金融ITイノベーション研究部 上席研究員 堀江 貞之([email protected]) ヘッジファンドの概要 投資家と同じ所在地 ケイマン諸島 バミューダ諸島 1兆6千億ドル? 器:ヘッジファンド 販売者 運用マネージャー ③脆弱なガバナンス構造 株式 運用指図 ジェネラルパートナー 投資家 (販売者、運用者を 兼任する場合が多い) (リミティッドパートナー) 債券 ②高い運用の自由度 運用内容の開 示が不十分 取締役会 市場リスク管理だ けでは不十分、ス トレス時の流動性 管理の方がむしろ 重要 商品 投資対象 米国 ヨーロッパ 日本(12兆円) 与信 アジア ①レバレッジ運用 等 通貨 PE デリバティブズ 監査役 不動産 CDO アドミニストレーター (時価評価など) カストディー銀行 成功報酬制 ・ ・ ・ プライムブローカー 1兆ドル? (投資銀行) ニューヨークやロンドンに9割 時価評価が 困難な対象 にも投資 (出所)各種資料を基に野村総合研究所が作成 ヘッジファンドはその構造に根ざした様々な特徴を有する 金融ITイノベーション研究部 P.1 ヘッジファンドの特徴理解がリスク管理/評価/情報開示/規制の鍵 1. レバレッジ運用 9 資本政策、投資政策、リスク管理政策は三位一体 9 市場リスクの管理以上にストレス時の流動性管理が重要に 9 高い資本金の役割:「資本金はリスクに対応する全能のクッション」(マイロン・ ショールズ) 2. 高い運用の自由度 9 空売りの活用 9 高い回転率 9 複雑化する投資戦略と投資対象 3. 脆弱なガバナンス構造 9 大きな権限を持つジェネラルパートナー(無限責任) 9 実質的に権限の弱い取締役会(理事会)→監督/執行機能の分離が不十分 9 様々な機能を一箇所で実行/機能の多くを外部委託することから発生する、 利益相反の可能性 3つの特徴理解がヘッジファンドの正しい理解への早道 金融ITイノベーション研究部 P.2 資本政策、投資政策、リスク管理政策は三位一体 資産 (投資政策) リスク管理政策 資産運用 (レバレッジを利用 した運用額の大き さ、投資対象の内 容等) 負債 資本金 (資本政策) 負債借入先 (担保要求等) 資金調達先 (投資期間、要求 リターン等) リスク管理 (最大損失額の管 理、追い証管理等) (出所)野村総合研究所 1. 資本政策(長期の資金性格を如何に保つかが鍵) 9 資本金を誰からどのような条件でどの程度調達すべきか 9 投資家の要求リターン 9 投資家がコミットメント出来る期間 2. 投資政策 9 資産をどのように運用すべきか 9 運用スキルと投資家の要求リターンに基づき、レバレッジ比率を含めた投資戦略を決定 3. リスク管理政策 9 資産の価格変動リスク、ストレス時の流動性などをどのように管理すべきか 9 資本政策と表裏一体の関係にある 金融ITイノベーション研究部 P.3 ヘッジファンドへの企業財務アプローチ:HBSのPerold教授 ■ 企業財務の観点から見たアクティブ運用 ◆ ヘッジファンドへの投資は「資産運用を主事業」とする企業への資本投入である ◆ アクティブマネージャーは、プロプライアトリーな技術と情報を維持している ◆ 資本調達(変数:調達金額及び調達コスト)は、顧客と他の金融市場参加者の自由裁 量によって行われる ■ 古典的な問題 ◆ アルファを獲得する機会は時間の経過と共に変化していく ◆ 「good deals」が時間の経過と共に「better deal」になる(ことが普通) ◆ このような変化が生じた時、以下の項目についての対応の違いにより、同じ取引を 行ったとしても結果に大きな差が生じる ①どの程度のリスクを取るのか? ②ポジションの大きさはどのくらいか? ③どのくらいの量の資本調達をすべきか? ④いつ取引を始めるのか? ⑤いつその取引を閉じるのか? ◆ そもそもリスクを取ることをどのように考えるのか ■ LTCMの例 ◆ 設立当初の資本構成: 3年間引出不能無担保資本(2億3千万ドル)、無担保回転資 本(7億ドル)、6∼12ヶ月のタームレポ(7千万ドル)等 ◆ 資本金は値洗いで発生する損失&回転資本として利用する、という流動性管理実施 金融ITイノベーション研究部 P.4 企業財務から見たヘッジファンドの運営上の課題 ■ LTCMのリスク管理 ◆ 75億ドルの資本を実現可能収益に合わせて減少させる必要性を感じ、27億ドルを返還 ◆ 1998年8月末の資産額は1,250億ドル、バランスシート上の想定元本1兆3千億ドル ◆ 5/6月のー15%により、資本金が41億ドルとなり、日次VOLを3500万ドルに減少:同時期にサロ モンのプロプライアトリーデスク閉鎖:この時点でレバレッジ比率25倍 ◆ 8月の損失額18億ドル、それに伴い15億ドルの資金要請を投資家に行った ● 現在のポジション等をある程度投資家にディスクローズ ◆ 9月に入り、資本金は10億ドルを割り込み、レバレッジ比率は100倍に ◆ プライムブローカーのベアースターンズがLTCMに担保要求 ● 9月23日に14企業が総額36億ドルの資金拠出を行い、LTCMの9割の株式と経営権取得 ■ ヘッジファンド運営上の課題 ①ファンドの適性規模 ②同じようなポジションを他の運用機関が取っているかどうか ③LTCMのビジネスモデルとは一体何であったのか ④流動性ショック ⑤時間と共に変化するリスクとリターン ⑥ポジションの透明性と不透明性の間のトレードオフ ⑦資本調達先 ⑧ポジションの透明性、リスク特性の透明性、NAV計算の頻度等の透明性に係わる事項 ⑨フランチャイズバリューの重要性(重要な運用企業のフランチャイズバリューがその運用会 社の提供商品の構成にどのような影響を与えるのか、「顧客」としてのクライアントと「投資 家」としてのクライアントの区分) 金融ITイノベーション研究部 P.5 深層のリスク管理の重要性:投資家から見た場合 ヘッジファンドの特徴 ヘッジファンドの特徴から派生するリスク 流動性リスク 急速なダウンサイドリスク レバレッジ運用 信用リスク 評価リスク 高い運用の自由度 法的・規制リスク オペレーショナルリスク 詐欺リスク ・ ・ ・ 脆弱なガバナンス構造 投資家が実行すべきリスク管理上のポイント ヘッジファンドの特徴を捉えた深層のリスク管理の実行 リスク・バジェッティングの発想の徹底 運用管理プロセスの明文化 リスク内容の徹底把握 ■ 表面的なリスクに囚われるのではなく、3つの特徴に基づくリスク管理が重要 金融ITイノベーション研究部 P.6 ヘッジファンドに関する規制環境の変化:2006年以降 発表した機関 公表時期 米国SEC 2006年2月 運用資産3千万ドル以上・顧客数15以上のヘッジファンドに対して登録制度を開始。 英国FSA 2006年3月 ヘッジファンドの専門チームを作り、大規模なヘッジファンド・マネージャーを中心にモニタリングを開 始。ヘッジファンド・マネージャーの、低流動性資産の価格評価の方法、サイドレター等の利益相反の 問題、プライムブローカーのマネージャー監視のレベル、信用リスクに関係するオペレーショナルリス クの大きさなどを懸念点として指摘。 米国連邦高等裁判所 2006年6月 SECのヘッジファンド登録基準を恣意性が強く無効と判決。 欧州委員会 2006年7月 欧州各国の多くでヘッジファンド・マネージャーの監督が既にかなり進んでいることに鑑み、規制当局 によるさらなる規制の弊害を指摘。各国の投資家が、自由に海外のヘッジファンドに投資できるよう に、サービス提供者が環境及び自主ルールを整え、不必要な規制を取り除く努力が必要と提言。 証券監督者国際機構 (IOSCO) 欧州中央銀行 (ECB) 金融安定化フォーラム (FSF) 2006年11月 (最終報告書) 2006年12月 2007年5月 内容 世界の20の規制機関(日本の金融庁を含む)に対して、ヘッジファンド規制の現状を質問し、その概 要を取りまとめたもの。ヘッジファンド自体の器ではなく運用マネージャーに規制を掛ける国が多いこ と、ヘッジファンド販売、ヘッジファンドの情報開示は、一般的な規制方法が無く、今後規制の方法を 精査していく必要があるとの見方を示す。 IOSCOはヘッジファンドを含む集団投資スキームのガバナンスの係わる調査結果も2006年6月に 発表。その中で利益相反の防止を含む、ファンド運営者の独立した活動検証・監視を行う原則の策 定が重要であると指摘。 「Financial Stability Review」の中で、ヘッジファンドのポジションデータを資産タイプ、格付、為替 別など種々のカテゴリーで集約した、一元的なデータベースを第三者のサービス提供者が構築する 方法を提案。個別データではなく、集約したデータベースを公開することで、ポジションの集中度など、 システミックリスクの大きさを推し量ることが出来るのではないかと期待。 1)監督機関は、主要な金融機関が継続的にカウンターパーティーリスク管理慣行を強化出来るように監督を行うべき 2)監督機関は、市場の流動性が枯渇することがないよう、主要な金融機関の頑健性を改善すべく協力すべき(例:ストレステスト機能の強 化、信用リスク管理における決済遅延の解消等) 3)監督機関は、HFに対する主要金融機関のエクスポージャーをシステマティックかつ一貫性を持ってデータ収集することが、現在の規制活 動に対してどの程度効果的な補完財になるかを評価すべき 4)HFのカウンターパーティーと投資家は、市場規律の有効性を高める行動を取るべき(例:正確でタイムリーなポートフォリオ評価やリス ク情報の取得) 5)グローバルHF業界は、監督機関及び民間セクターで提言される見込みの、実務慣行の改善案を見越して、HFマネージャーへの適正な実 務慣行ベンチマークをレビュー及び改善するべき 金融ITイノベーション研究部 (出所)各種資料を基に野村総合研究所が作成 P.7 金融安定化フォーラムのアップデートレポート:2007年10月15日 ■ 直近の進展 ◆ ヘッジファンドのバランスシート、リスク管理、流動性管理の頑健性が2007年夏のサブプライム 問題でテストされた ◆ ヘッジファンドが、この市場混乱期間中、市場不安定化の主な原因になったという観測はなされ ておらず、ほとんどのヘッジファンドは投げ売りをすることなく、追い証の要求にも対応すること が出来た ◆ 投資家からの解約も7月は320億ドル(全体資産額の2%程度)と軽微な水準に留まる ◆ しかし、ヘッジファンドが、モーゲッジに関連したストラクチャード信用商品の損失額をどの程度 認識しているかは、現時点では定かでない ◆ システミックリスクへの対応強化、透明性の拡張という金融安定化フォーラムの推奨基準は現 時点でも重要 ■ 推奨事項の進捗状況 ◆ 推奨基準1&2:カウンターパーティーリスク管理と流動性管理の強化 ● ヘッジファンドに貸付を行っている金融機関のカウンターパーティーリスク管理とストレステストの実行が ヘッジファンドに関連するシステミックリスクに対応する最も効果的なアプローチである ● リスク管理手順に関するシニアマネジメントの監視、複雑なエクスポージャーを把握するモデルと方法論、 ストレステストの型、テイルリスクエクスポージャーの測定、特定のリスクファクターやカウンターパー ティーに対する金融機関の全エクスポージャーを集計する能力、ストレスシナリオ時の頑健性を含む追 い証と損失上限値、見切り売りの取り扱い、に関して大手金融機関にインタビューし実態把握を実施 ● 流動性リスク、ストレステスト、評価実務を含むリスク管理手順で改善のあった領域に関して金融機関と 今後議論する予定 ◆ 推奨基準3:エクスポージャーの一元的データ管理の有効性 ● ワーキンググループレベルでデータの入手可能性等について議論しているが、まだ開発の初期段階 ◆ 推奨基準4&5:市場規律の有効性とヘッジファンドマネージャー自らの改善努力 ● Hedge Fund Working Group(HFWG)の内容について提言に沿った内容とコメント G7の会議声明(2007年10月19日):我々は高レバレッジ機関に関する金融安定化フォーラム勧告の実施状況について議論 。この関連で、強化された最良慣行の策定に向けて米国及び英国の民間部門の代表者により行われている作業を歓迎。 金融ITイノベーション研究部 P.8 HFWG(Hedge Fund Working Group)の提言内容 ■ 金融安定化フォーラムの提言に対応する形で、ヘッジファンド運用会社14社 (12社が英国)のシニアマネジメントが集まり、提言をとりまとめたもの(現在意 見をフィードバック中)で、2008年1月に最終報告書をまとめる予定 ◆ 15の提案は以下の5つのカテゴリーに分かれ、「ガバナンス」と「透明性」が提案内 容に密接に関係 1. 投資政策、リスク、販売条件に関するディスクロージャー 9 投資方針とリスク、販売条件、パフォーマンス測定、プライムブローカー等 2. 評価(Valuation) 9 資産運用部門との独立性の担保、評価が困難な資産の評価基準の確立 3. リスク 9 リスクフレームワーク、ポートフォリオリスク、オペレーショナルリスク、アウトソースリスクの対応 4. ファンドガバナンス 9 ガバナンスとディスクロージャーのベストプラクティスの実行 5. アクティビズム 9 市場での不正、持株の委任投票、派生証券のポジション、借り株時の委任投票に対する指針 ■ 米国のMFA(Managed Funds Association)も同時期にsound practiceを取 りまとめており、以下の7つの視点から提案を行っている ◆ ①マネジメント・取引・情報技術コントロール、②投資家に対する責任、③純資産価 格の決定、④リスク管理、⑤規制コントロール、⑥トレーディング関係管理・モニタリ ング・ディスクロージャー、⑦ビジネス継続性・ディザスターリカバリー・危機管理 ◆ HFWGの提言内容に比べ、テクニカルな指摘が多い(ガバナンス等の指摘なし) 金融ITイノベーション研究部 P.9 (参考)優れた運営を行っている年金プランの共通基本構造 ①政府・企業 ②従業員・退職者 ①受益権者に対する 確実な年金給付の提 供 ②受益権の拡大 ①年金スキーム ②掛金・給付政策 ③統治機関/委員会メ ンバーの選任 ①政府・企業の選任したメ ンバー ②従業員・退職者の選任 したメンバー ③両方が選任する ①利害関係者全ての利益 を考えて行動 ②選任元のスポンサーの 利益を代表しない ①運用の基本方針 (リスク政策決定) ②各種役割の委譲 ③運営機関経営陣の選任 第3 各種委員会 (投資、監査、ガバナ ンス、報酬等の委員 会) 統治機関が選任した メンバー ①受益権者の利益のみを 考えて行動 ①ALM等の分析 (リスク政策決定サポート: 投資委員会のケース) ②各委員会の役割 第4 執行機関 (年金ファンド、運 用子会社等) 統治機関/各種委員 会が選任したメンバー や機関 第2 第1 企業経営陣 統治機関 (理事会等) 決められたリスク政策 (運用の基本方針)の 元でリターンを最大化 すること 執行 各種委員会 スポンサー 役割/責任 監督 取締役会 構成メンバー 行動原理 コーポレート ガバナンスでは? 株主 利害関係者 /関係機関 ①委員会のサポート ②マネージャー構造 決定 ③運用機関の管理 (出所)野村総合研究所 (1)利害関係者の利害調整のための各種機関の設置(権限/責任/役割の委譲スキームの構築) (2)各種機関の行動原理・原則の明確化(選任元の利害団体の利益のみを代表しないことが重要) (3)各種機関の権限/責任/役割の明確化(文書化することが不可欠)→監督と執行の分離 (4)委譲された役割を果たすための専門性及び独立性の確保(実質的に任務遂行できる資質の確保) (5)執行機関へのインセンティブスキームの導入:但し優れたリスクモニタリングシステムの存在が前提 金融ITイノベーション研究部 P.10 ディスクロージャー(Disclosure)に関する提言(HFWG) 1. 適切なレベルのディスクロージャー及び投資政策/投資戦略・リスクの説明を行 うべきであり、投資家のレベルを考慮した説明をすべき 9 投資戦略の詳細な記述、投資対象に関する一般的記述、投資制約・ガイドライン等 の詳細、違反があった場合の解消方法、ファンドのリスク・プロファイルに関するマ ネージャーの見方(他のファンドとの相対比較)、レバレッジを利用する場合の環境 説明、レバレッジに伴うリスク、投資政策を変更する場合の手順 2. 投資家の決定をサポートするに足るディスクローズをすべき 9 9 9 9 手数料、マネージャーを解約可能な条件、ファンドの解約条項等 サイドレター発行時は他の投資家にもそのレターを開示すること 手数料が明確に分かるレベルで財務諸表を記述 ファンド・アドミニストレーターと協力して、手数料計算方法について同意すると共に、 マーケティング資料などに明示すること 3. 非市場(低流動性)銘柄の割合、低流動性・非市場銘柄の評価方法、サイドポ ケットの利用、といったパフォーマンス計算方法の頑健性に影響を与える事項 について言及すること 4. クレジットユーザーと店頭市場参加者は、投資プロセス・投資哲学・リスクなどを カウンターパーティーに理解させうるレベルのディスクロージャーの実施と独自 情報の維持、という2つの間のバランスを取るべき(コリガンレポート:2005年) 金融ITイノベーション研究部 P.11 評価(Valuation)に関する提言(HFWG) 1. 評価機能と資産運用機能の分離と適切なディスクローズ基準 9 ガバナンス:独立したサードパーティー評価会社の採用及び(又は)統治機関の同 意の上で運用とは分離・独立した内部の評価機能を設けることで、資産評価に関わ る利益相反を避けるよう努めるべき 9 ディスクロージャー:評価プロセス・手順・コントロールに関する全ての事項を含んだ 「評価政策規定(Valuation Policy Document)」を準備すべき。評価政策規定は、 評価プロセスに関与する機関の責任、利益相反を効果的に生じさせないプロセス・ 手順、SLA条項、評価業務を外部委託している先のパフォーマンスを確認・モニタリ ングする手順等を最低限含むべき。評価政策規定の内容は、統治機関と協議の上、 定期的にレビューし、投資家にもリクエストに応じて機密扱いで開示すべき。 2. 評価困難な資産の評価手順の確立 9 ガバナンス:評価政策規定の中に、低流動性及び評価困難な資産の評価プロセス 及び、正当価値(fair value)を決定する、一貫した信頼に足るアプローチを組み込 むべき。ブローカーの評価値を用いる場合は、複数の価格ソースの利用、価格ソー スに乖離が発生した場合には乖離幅の許容水準や異常値を除去する手順を評価 政策規定の中に盛り込むべき。独自の価格モデルを用いる場合は、バックテストを 含む価格モデルの承認プロセス、文書規定化、統治機関・評価委員会(valuation committee)の承認手順などを持つべき。サイドポケットを利用する場合、サイドポ ケットのプロセスを評価政策規定に盛り込むべき。サイドポケットに投資する割合の 上限値はマーケティング資料の中に書き込むべき。損益が発生するまで、サイドポ ケットへの投資に対して、成功報酬は発生しないようにすべき。 9 ディスクロージャー:内部価格モデルや価格推定の前提条件をディスクローズすべ き。価格評価が困難な資産のポートフォリオに占める割合をディスクローズすべき。 金融ITイノベーション研究部 P.12 リスクに関する提言(HFWG) 1. リスク・フレームワーク 9 9 2. ガバナンス:ファンドが守るべきリスクの範囲内で運用が行われていることを担保するため、リ スク管理活動のためのガバナンス構造、レポーティングライン、責任、コントロールのメカニズ ムを規定すべき。このフレームワークは、ポートフォリオリスク・オペレーショナルリスク・アウト ソーシングリスクを含むべき。 ディスクロージャー:リスク管理のアプローチをマーケティング資料の中で、投資家に示すべき。 ポートフォリオリスク 9 9 ガバナンス:マネージャーと統治機関は、適切なリスク管理システム及び資源配賦を確実にし、 マネージャー、トレーダー、リスクマネージャーなど運営に関わるスタッフ全員がリスク管理シス テムを理解するように配慮すべき。リスク管理で発生しうる利益相反を避けるため、リスクモニ タリング機能と資産運用は区分すべき。リスク政策規定を作成すべき。 測定 9 9 9 3. オペレーショナルリスク 9 4. ファンディング流動性リスク:流動性管理フレームワークを設定すべき。流動性のポジションに関して頻 繁にストレステストとシナリオ分析を行うべき。ストレステストは、証拠金請求、特定の市場セグメントで の流動性の減少、突然の担保要求額の増加、投資家の解約、信用ラインのキャンセルなどを含む。ス トレステスト/シナリオ分析は市場リスクと同様のアプローチで行うべき。 市場リスク:ボラティリティー市場、VaRアプローチ、モンテカルロ・シミュレーション、ストレステスト/シナ リオ分析、レバレッジ、ポートフォリオ集中度などを測定。 カウンターパーティー信用リスク:省略 人とガバナンス、トレーディングと執行、不正・金融犯罪防止、災害復旧、ITシステム、モデル リスクに関して記述 アウトソーシングリスク 9 ガバナンス:サードパーティーのサービスプロバイダーを統治機関に推奨する場合、慎重な デューデリジェンスを行い、定期的なレビューを行うべき。SLAの締結を行うべき。 金融ITイノベーション研究部 P.13 ガバナンスに関する提言(HFWG) 1. ガバナンスのベストプラクティス基準 9 ファンド設定に当たって、ファンドガバナンス構造が、生じうる利益相反を避 ける適切な仕組みを持ち、頑健性を持っているかどうかを評価すべき。統 治機関に十分な資源配賦を行い、独立して与えられた権限を果たしうる経 験を持つ人をアサインすべき。 9 しかし、ヘッジファンドのサイズも考慮すると、全ての原則を全ヘッジファンド に適用することは避け、サイズに応じた対応を行うべき。 2. ディスクロージャーのベストプラクティス基準 9 ファンドガバナンスの要求に対して、自身のファンドガバナンス構造がどの 程度その要求を満たしているかをディスクロースすべき。 9 いくつかのクラスの株式が存在する場合は、その存在とファンドガバナンス に影響を与える、それぞれの投票権の範囲を明確にすべき。 金融ITイノベーション研究部 P.14 市場及びアクティビズムに関する提言(HFWG) 1. 市場不正防止 9 ガバナンス 9 市場不正防止を担保する、内部コンプライアンス体制の構築 9 資産運用とは独立した専任のコンプライアンスオフィサーの設置、コンプライアンス手順 の文書規定化、資産運用スタッフの教育、統治機関への定期的なコンプライアンス報告、 規制機関とのコンタクト等 9 ディスクロージャー 9 市場不正を防止する政策の、投資家へのディスクロージャー 2. 株主としての行為:所有株の委任投票 9 ガバナンス 9 一般的な委任投票の手順を投資家が評価できるよう、委任投票政策を策定すべき 9 ディスクロージャー 9 委任投票手順の投資家へのディスクロージャー 3. 株主としての行為:派生証券ポジションのディスクロージャー 9 企業は誰が株主で投票権を有しているかを知る権利を持つことに注意。しかし投資 家全てでなく、ヘッジファンドだけに企業への情報ディスクローズ義務を課すことは 市場の歪みを増長するリスク有り。従って規制当局に対し、派生証券を利用した投 票権を有する場合の情報提示を行う体制を整えることを推奨すべきである。 4. 株主としての行為:借り株の委任投票 9 投票権を行使しないことが適切と考えるが、今後の規制機関、貸し手等との議論を 期待。 金融ITイノベーション研究部 P.15 今後の展望に向けてのポイントは何か ■ HFWGの提言内容をヘッジファンドにどう浸透させていくか ◆ ファンドの規模の差による、提言に対する温度差の解消 ● 小規模マネージャーはどの程度手間を掛けずに提言内容を実行できるかがポイントになる ● 規模に応じた具体的なガバナンス構築の提案、ディスクロージャー基準の設定などが鍵 ◆ マネージャーの所在地による温度差の解消 ● 運用資産額の半数以上を占める米国のマネージャー動向 ■ ファンドガバナンスの整備をどのように進めていくか ◆ 利益相反を防ぐ手立てとして最も有効な手段 ● 大手年金ファンドのようなガバナンス構造の構築は無理としても、少ないコストで実効性の 上がる構造はどのようなものかを検討することが不可欠 ◆ ジェネラルパートナーの関与と統治機関の独立性の維持のバランスをどう取るか ● 無限責任を負うジェネラルパートナーの運営権限と利益相反防止の手立てしての統治機 関の権限の間で、どのような妥協策が考えられるか ● メンバー構成等での工夫 ■ 資本政策・リスク管理政策・投資政策の一元的な枠組みの必要性 ◆ ストレス時の流動性リスクと市場リスクの管理技術の進展への期待 ◆ 政策のスムースな実現における投資家の重要性の再認識 ■ 規制当局のシステミックリスク管理・投資家保護の枠組みの進展 ◆ 金融安定化フォーラムの推奨基準1∼3の進展への期待 ● 金融機関のカウンターパーティーリスク管理及び流動性リスク管理の進展への期待 ◆ 各国規制機関の国際協力関係構築による、投資家保護に関わる重複ディスクロー ジャーの回避 金融ITイノベーション研究部 P.16