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リチウムイオン電池の生みの親 - 中国経済産業局

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リチウムイオン電池の生みの親 - 中国経済産業局
テクノえっせい 349
リチウムイオン電池の生みの親
広島工業大学名誉教授
表1
主な電池開発の年表
年号
事
項
中山勝矢
いまでは、およそ電気に関係あるシステムにとって無視で
きないのがバッテリー、つまり電気を溜めておける二次電池
(蓄電池)です。その代表がリチウムイオン電池なのです。
1791 ガルバーニがカエルの実験で電池の
原理を発見
1800 ボルタ(伊) の電池
1859 ブランテ(仏)の鉛蓄電池の発明
1967 ルクランシェ(仏)の乾電池の発明
1885 屋井先蔵(日)の乾電池の発明
1888 ガスナー(独)、ヘレンセン(デ)の乾電池
エジソン以来、電力システムのほとんどは交流で、だから
溜められないと教わりました。需要と供給をバランスさせる
のが基本で、主役は発電と送電というわけです。
発電を抑制しても電気が余るとき、従来はいったん高所の
ダムに汲み上げ、不足したら再びこの水を落として発電して
きました。これを揚水発電方式といいます。
の発明
1895 島津源蔵(日)の鉛蓄電池の発明
1900 エジソン(米)のニッケル・鉄電池
1964 ニカド電池の国内生産開始
1976 リチウム一次電池の生産開始
●本命はリチウムイオン電池
ところが太陽光、風力、温度差、潮汐のような変動するエ
ネルギも利用し、さらに自動車や鉄道も電力システムに組
み込まれる時代になると蓄電池なしでは話が進みません。
1990 ニッケル水素電池の生産開始
1991 リチウムイオン電池の生産開始
(電池工業会提供)
電池は1800年にイタリア人のボルタが発明したとあります
が、この種のものは1次電池と呼ばれ、充電できずに使い捨
てです。乾電池はその一つです。(表1)
19世紀後半に、わが国では屋井先蔵(やいさきぞう)が灯
心に食塩水を浸み込ませて乾電池に成功しました。乾電池
はいま世界で年間450億本も生産されている商品です。
電池には、充電して再使用する2次電池(蓄電池)もあり
ます。お馴染みの自動車用鉛蓄電池やニッケルカドミウム
電池(ニカド電池)、他にもニッケル水素電池があります。
身の回りの携帯電話やパソコンは蓄電池を内蔵していて、
いつでもどこでも使えます。モータを組み込んだ自動車は減
速時に発生するエネルギを電池に溜め、再利用しています。
(写真1)2次電池のエネルギ密度*
(縦軸は大きさ当たりのエネルギ密度、横軸
は重量当たりのエネルギ密度、図中のNi-Cd
は ニカド電池、Ni-MHはニッケル水素電池で、
リチウムイオン電池が際立って優れている)
*H.-M.Tarascon他:Nature 414 (2001) 359
蓄電池が社会を変えるとしたら軽くて大容量、しかも長寿
命でなければなりません。世界中が知恵を絞り、激しく競い
合う最先端技術なのです。(写真1)
人工衛星や宇宙ステーションでは太陽電池パネルで作っ
た電気を蓄電池に溜めてから使いますし、航空機でも必需
品になってきましたから、安全でなければなりません。
1
ほかにも原子力電池、水素を燃やして発電する燃料電池
などあって、この分野は賑やかです。でも現在の本命はリチ
ウムイオン電池だといって差支えありません。(写真2)
電池工業会の統計では、2014年の電池生産総数35.6億
個のうちリチウムイオン電池が26%の9.2億個、電池生産総
額7462億円のうち3491億円、51%を占めるとあり驚きます。
●基本構造の発明は日本人
こうした電池開発ラッシュの中で、1991年、世界に先駆け
てリチウムイオン電池の基本構造について特許を取得した
人がいます。それは、旭化成(株)の吉野彰氏でした。
(写真2)円筒型リチウムイオン電池の構造
(イメージ図、角形も基本的には同じ。正極と負
極の間にセパレータを入れ、重ねて巻き込んで
ある。電池工業会の資料から)
これは画期的なことで、産業上も社会的意義も小さくあり
ません。長く手掛けてきた汎用プラスチックから飛び出し、
より高機能のプラスチックに挑みたかったのだと語ります。
この電池の原理は、正極と負極との間をリチウムイオンが
移動して充放電を行うもので、正極にはコバルト酸リチウム、
負極には炭素を用いるのが主流です。
正極と負極はセパレータを挟む形で何層も積み重ねられ、
全体は有機溶媒の電解質で満たされていますが、電解質
に高分子を使うリチウムポリマー電池も開発が進んでいま
す。他の電池と比べて起電力が高く、約4Vに達します。
放電しきらずに充電を重ねると充電容量が減ってしまう「メ
モリー効果」がほとんどなく、広い温度範囲で安定なうえ、
使わないでも自己放電することが少ない優れものです。
電池革命を先導するリチウムイオン電池は、技術面では
まだ発展の途上なのです。鉛蓄電池もニカド電池も、原理
の発見から安定した商品になるまで100年かかりました。
リチウムイオン電池は誕生してまだ20年です。課題は、正
極と負極に用いる金属・炭素材料の種類や反応条件、さら
に電解液の特性など、その組み合わせは無数にあります。
<資料>
・金村聖志「自動車用リチウムイオン電池」(日刊工
業新聞社2010.12)
・岸宣仁著「「電池」で負ければ日本は終わる」(早
川書房 2012.6刊)
・金村聖志著「ハイブリッド自動車用リチウムイオン
電池」(日刊工業新聞社 2015.3 刊)
国も、次世代蓄電池の開発プロジェクトに支援をしていま
す。このプロジェクトは、リチウムイオン電池だけでなく、そ
の先までも視野に入れていますから、夢があります。
とにかく日本が生み出した技術です。産も学も、中央も地
方も力を合わせ、脱落することなく、世界のトップランナーの
地位を続けていきたいものであります。
(一般社団法人)電池工業会のHP http://www.baj.or.jp/
経済産業省 中国経済産業局 広報誌
旬レポ中国地域 2015年11月号
Copyright 2015 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry.
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