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Just-In-Time
自動車メーカーと部品サプライヤー 間関係のオープン化・国際化が もたらす物流・生産面での変革 法政大学経営学部 李ゼミナール 1班 佐久間浩慈、千葉佳奈 研究の動機 • 自動車メーカーと部品サプライヤーの長期的 で緊密な企業間関係 ⇒日本自動車メーカーの競争優位の源泉 • 物流・生産面でもJust-In-Timeや擦りあわせ 型の製品アーキテクチャなど、高度なプラク ティスが形成されて来た • しかし、競争優位の源泉となった特殊な企業 間関係は近年大きく変化している – 系列解体・系列外取引 – グローバル化 etc • こういった企業間関係に付随し、物流や生産 の仕組みはどう変化しているかを探索する – Just-In-Timeはどう維持されているのか? – 新たなサプライチェーンマネジメント効率化の要 素は? 日本の自動車産業の概要 • 自動車は様々な部品を加工し完成車へと組 み立てていく産業 – 完成車メーカーを筆頭に、1次部品メーカー、2次 部品メーカー、3次、4次と多層的な構造=系列 – 1台の自動車:約2万点~3万点が使用 • 鋼板、機械部品、半導体、通信機器etc部品 の納入メーカーは多種多様 • 背景には優秀な中小企業が存在 完成車メーカー 一次サプライヤー 二次サプライヤー 三次、四次…… 相互にやり取り 変化前(系列)の企業間関係の特徴 ①長期的継続取引 ②少数サプライヤー間の能力構築競争 ③一括外注 長期的継続取引 ある車のモデルの生産期間中(約4~5年)は、原則と してそのサプライヤーとの取引が安定的に継続する ・協調的関係の形成(裏切りの防止) ・取引企業間の情報共有の促進 ⇒「企業間問題解決メカニズム」を通じて、システム全 体の改善、動態的な国際競争力の向上をもたらす 少数サプライヤー間の能力構築競争 複数(比較的少数)のサプライヤーが、価格競 争を超えて、より継続的な能力構築競争をおこ なう (部品価格つりあげなどの弊害は生じにくく、む しろ)能力構築をめぐる切磋琢磨を通じて、部 品のコストや品質が改善される 一括外注 ・自動車メーカーが相互に関連した仕事群を、1 つのサプライヤーに一括して委託 ※相互に関連した仕事群=部品加工とサブ組立、製造と検査、 生産と開発など ・一方で、部品メーカーが長期的に「まとめ能 力」を蓄積していく ⇒コストダウンや品質向上の達成 系列期の物流・生産 ①Just-In-Time ②擦りあわせ型アーキテクチャ ジャスト・イン・タイム(JIT) • 必要な時に必要な量だけ部品が納入される、 在庫を持たない物流・生産の方式 ⇒企業間での同期化生産が実現される • 日本の自動車メーカーでひろく実施 – トヨタ生産方式、日産生産方式etc – トヨタではJITを実現するために、300を超える系列 部品メーカーとの間にカンバン方式を構築 同期化生産とは? 部品の流れとメインレーンの 車輛の流れのタイミングが ぴったり 擦り合わせ型アーキテキチャ • 部品が相互に微妙に調整しあってトータル・ システムとして力を発揮 – 1つの機能をたくさんの部品が支えている複雑な 設計 機能完結型 モジュール化 • 多くの人間・企業がチームを組んで、専用部 品を開発・設計し、それらを擦り合わせること で最適な自動車ができあがる ⇒チームワーク重視の組織的な取引 まとめ • 自動車メーカーと長年の取引を通じてのサプ ライヤーの能力開発や信頼・コミットメント • 協力会を通じてのサプライヤー間の情報交 換やノウハウの共有 ⇒企業間の同期化生産や柔軟な生産活動が 可能になり、JIT(Just-In-Time)が実現した • 協力企業と安定的・繰り返し取引を続けるこ とで、「濃密なコミュニケーション」、「幅広い情 報共有」がもたらされた ⇒企業間(自動車企業対部品サプライヤー、 部品サプライヤー対部品サプライヤー間)に チームワーク重視の組織能力が共有された ⇒チームワーク重視の組織構造が、開発・生産 現場での相互調整が必須となる擦り合わせ 型アーキテクチャーを実現 系列の限界 • 系列は日本の自動車産業が欧米に追いつき 追い越す過程では有効に機能した しかし、1990年半ば以降、 • 自動車メーカーを取り巻く環境条件の変化 • 系列のデメリットが露呈 ⇒「ポスト系列」と呼ぶべき、新たな企業間関係 の構造が生まれ始めている 環境条件の変化 • グローバル競争の進展 • 新興国サプライヤーの成長 • 日本経済の長期低迷 • 円高傾向 • 自動車の電子化・ソフトウェア化 • 構造が単純なハイブリット車・EV車の普及 等… 系列のデメリット • 部品メーカー間の競争関係が十分に働かず、 ウェットな関係が生じがち – より低コストで部品メーカーを発注できる企業へ の切り替えを妨げていた • 部品メーカーの積極性の欠如 – 要望に忠実に応えるだけで、提案を行っていくた めの努力を怠る – 経営そのものも自動車メーカーに任せてしまう サプライヤーもいた 系列解体後の企業間関係 • 環境条件の変化 • 系列のデメリット 系列解体 自動車メーカーと部品サプライヤー間の 企業間関係は、 • オープン化(系列外取引) • 国際化 している 取引のオープン化 • 従来からの取引先に限定せず、新しい企業と の取引を積極的に開始する傾向 – 自動車メーカー側(調達先)と有力サプライヤー 側(納入先)双方に同様の動きがみられる – 近能(2004)によると、自動車メーカーの平均調達 先(自動車メーカー9社が,86部品に関してそれぞれ何社から調達 しているか)は、93年の2.32社から、96年の2.41社、 99年の2.50社と着実に増加する傾向がみられた 取引の国際化 • 日本の系列外企業とだけではなく、海外の完成車・部 品企業ともオープンな取引を行っている – 最近のニュースの事例:ホンダは今年9月から生産を開 始する新型フィットの海外部品調達率を現行の1割弱から 2割に引き上げると発表した ⇒世界最適地から高品質かつ低価格の部品を一括 発注・集中生産することで抜本的なコスト削減を実現 ⇒特に、「品質」よりも「コスト」が重要なテーマになる 世界戦略車はその傾向が強い 系列解体後の物流・生産 ①モジュール化 ②部品の共通化・生産方式の標準化 ③サブアッセンブリー化 モジュール化 • 部品・モジュール(構成要素)間の相互依存 性(interdependence)をできるだけ小さくする 部品が相互に調整しあう擦り合わせ型 ⇒部品と部品を連結する「インターフェース」 部分を簡素化できる ⇒インターフェース部分の設計をルール化すれ ば、異なる部品の寄せ集めによって、多くの 製品バリエーションを生み出すことができる 部品の共通化・生産方式の標準化 • 特定車種向けの専用部品を製造するのでは なく、同系統の車種間で共通の部品を使用 – 例:同価格帯のセダンで車体を共通化 • 汎用部品を製造し、販路を拡大 • 世界のどこの工場でも設計に基づいた正確 な新車を作れるよう生産システムを標準化 – 生産ラインの仕様や素材・要員・生産方法 等 サブアッセンブリー • 組立工程の一部をサブラインに移すことによ り、メインラインの作業能率の向上させる – サプライヤーがある程度部品を組み立てた状態 (モジュール規模)で自動車メーカーに納入 – 自動車メーカーのメインライン脇でサプライヤー がモジュールにする場合もある トヨタのケース • 2009年から2010年にかけて1200万台のリコール ⇒アクセルペダルなどの欠陥部品を複数の 車種で共通化し、他社へのOEM供給も行って いたがゆえの数字 • 2012年4月 新しい自動車開発手法として、 「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ (TNGA)」を導入すると発表 (産経ニュースHP) トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ (TNGA) • 開発段階から部品やユニットを共通化したり、基 本部品を複数の車種で活用 – 4000~5000点に上る主要部品の半分を世界共通 構造に – 小型、中型、大型で、3種類の車台を開発中で、これ を対応させて、部品の共通化も実施して行く ⇒1つの車台で、6~8車種の新車を投入する計画 数年後にはこの3種の車台ベースの新車がトヨタ ブランドの総生産台数の半数をカバーする予定 日産のケース <モジュール化の進展> 1980年代 1993~95年 「擦り合わせ型」のアーキテクチャー (系列関係) 円高が進み、製品設計を簡素化 (モジュール化の第一段階) 1999年~現在 ルノーとの提携後、急激なモジュール 化を進展させる(2010年までに、24 の車台を6つの車台に集約し、そのうち 半分はルノーとの共有化) 日産自動車のモジュール化の特徴 • 共通化 例)日産の「ノート」「キューブ」とルノーの「クリオ」 「メガーヌ」の部品が共通化 ⇒エンジンやトランスミッション、サスペンションなど パワートレーン系の部品の共通化も進んでいる エンジン部品の共通化によるコストダウンを実現 • • ←ルノーのクリオ 出所:ttp://blog.e9964960.html • • • ←日産のノート 出所:日産HP http://www.nissan.co.jp 日産宇都宮工場での事例 工場のスタッフへの質疑応答から以下のことが 分かった • 日産生産方式(just-In-timeを含む)は健在で あり、今後も継続していく • ここ10年間で、工場のメインラインに納入され る部品のモジュール化が進んだ 結論 • モジュール化や共通化・標準化により、自動 車のモノづくりそのものが簡素化している – 自動車メーカーのメインラインは、細かい部品を いくつも擦りあわせて自動車を完成させる場から、 ある程度の集合体の部品をプラモデルのように 設計図通り組み立てて行く場へと変化している • Just-In-Timeは今後も継続されていく • だが、その源泉となる要素が企業間関係から 簡素されたものづくりへと変革している 参考文献 木村弘 [2005] 『自動車生産にみる地域の産業集積の論理』 宇部工業高等専門学 校研究報告 野尻亘 [2005] 『ジャスト・イン・タイムと自動車部品取引に関する既存研究動向の整 理と展望 : 経済学・経済地理学研究などを中心にして』 桃山学院大学総合研究所 紀要 佐伯靖雄 [2008] 『下請制及びサプライヤー・システム研究の系譜と課題』 立命館 経営学 立石佳代 [2006] 『自動車生産でのモジュール化の検討』 日本国際情報学会紀要 近能善範 [2004] 『日本型産業構造の転換--日本の自動車部品サプライヤーシステ ムの変化について』 クォータリー生活福祉研究 下川浩一 [2002] 『グローバル自動車サプライヤー・システム・部品産業の再編と系 列取引システムの変貌』 法政大学 経営志林 長谷川洋三 [2012] 『自動車業界におけるモジュール化の進展と企業間関係の変 化 : 日産自動車の事例を中心に』 CUC policy studies review 青木昌彦・安藤晴彦 [2002] 『モジュール化 新しい産業アーキテクチャの本質』 東 洋経済新報社 アナン・V・アイアー、スリダー・シシャドリ、ロイ・ヴァッシャー [2010] トヨタ・サプライ チェーン・マネジメント(上) 日本経済新聞出版社