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Title ドイツにおける移民政策「統合コース」
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ドイツにおける移民政策「統合コース」の検証 : フランス・オランダの例との比較を交えて
廣松, 淳平(Hiromatsu, Junpei)
古石, 篤子(Koishi, Atsuko)
慶應義塾大学湘南藤沢学会
研究会優秀論文
Technical Report
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=KO90003002-2013-0030001
SFC-SWP 2013 - 0 0 ^
イツにおける移民政策
「統 合 コ ー ス 」の 検 証
一フランス•オランダの例との比較を交えて一
2 0 1 2 年
度
秋 学 期
廣松淳平総合政策学部4年
古石篤子研究会
慶應義塾大学湘南藤沢学会
推薦のことば
日本においては1990年代初めの入国管理法改訂直後から、い わ ゆ る 「
ニューカマー」
とよばれる「
外国人労働者」が急激に増え、またその子弟も学校教育現場に多く見られる
ようになった。そのような^:会状況の変化につれて、 「
移民」 という用語も最近では見受
けられるようになってきている。 しかし、総 務 省 の 「
多文化共生」 というかけ声にもかか
わらず、彼らの日本社会への統合はどれほどうまくいっているか疑問である。廣松君の論
考は移民先進国であるドイツの外国人受入政策を、フランスやオランダのそれと比較しな
がら丹念に検証しており、今後少子高齢化が進む日本での外国人の受け入れに多いに参考
になると考える。一番の長所は、得意なドイツ語を生かして様々な公文書等に直にあたり
分析している点であろう。
慶應義塾大学
総合政策学部教授
古石篤子
慶應義塾 大 学 SFC
2012年 度 古 石 篤 子 研 究 会 卒 業 プ ロ ジ ュ タ ト
ドイツにおける移民政策「
統 合 コース」 の検証
一フランス・オランダの例との比較を交えて一
慶應義塾大学総合政策学部4 年 廣 松 淳 平
(70806940/ s0 8 6 9 4 jh @ sfc.k eio .a c .jp )
キー ワード
ドイツ、移 民 政 策 、統 合 コ ー ス 、 統 合
1
目次
1•は じ め に
____________________________________ 4
1丄 研 究 の 背 景 •目 的
L 2 . 研究の概要
1.3.本論文の構成
____________ __________
2 •統 合 コ ー ス 成 立 ま で の 背 景
6
2.1.現在のドイツにおける外国人*移民の状況
2.2•統合コース導入に至るまで
2.3•本章のまとめ
3 •統 合 コ ー ス の 概 要 〜 フ ラ ン ス ,オ ラ ン ダ と の 比 較 を 交 え て 〜 _____________ 11
3.L
ドイツにおける統合コース
3.1.1. 統合コースとは
3.1L2 . 統合コース受講資格者
3.1.3,受講費用
3丄 4統 合 コ ー ス 実 施 主 体
3丄 5 . 語学コース
3丄 6,オリエンテーションコース
3.L 7•修了試験
3.2•フランスにおける統合コース
3.2.1. 受 入 れ * 統合契約
3.2.2. 集 団 説 明 会 *個 人 面 談
3.2.3. 市民教育
3.2.4. フランス語研修
3.2.5. フランス生活情報
3.2.6. ソーシャノレワーカーとの面談
3 . 3 . オランダにおける統^^コース
a a i . 市民化講習
3.3.2.語学I冓習
2
3.3.3. 社会化講習
3.3.4. 就職支援
H 5.市民統合テスト
3 . 4 . 本章 の ま と め 一 ド イ ツ •フ ラ ン ス *オ ラ ン ダ 比 較
4 •統 合 コ ー ス の 成 果 な ら び に 問 題 点
_______________
28
4.1. 統合コース参加者
4.2. 問■点
4.2丄 低 ぃ コ ー ス 修 了 率 *修 了 試 験 合 格 率
42.1.1•高ぃドロップアウト率
4 2 . L 2 . 高い非識字者率
4.2丄 3 . 不適切なコース編成
4.2. L 4•講師の問題
4•么2 . 統合コース実施主体による不正の発覚
4.2.3.待機リストの問題
4.3. 本章のまとめ
5 . まとめ______________________ ___ _________________________________________ 36
5丄 結 論
5.2. 今後の課題
5.3. 謝辞
3
1 . はじめに
1丄 研 究 の 背 景 • 目 的
グローバル化がますます進む今日、 ヒトは国境間を自由に行き来し、国境の意味は
年々薄れてきている。今や世界中どこへ行ってもそこには移民という、その土着でない
人々がそこを永住する地として選択し生活を営んでいる。ヨーロッパはその代表格であ
ると言えよう。E U という超国家的な共同体の中で人々は自由に国境を越えており、貿
い物や通勤のためだけに隣国へ行くといったことも日常茶飯事となっている。そんなヨ
一口ッパの中でも地理的に中心に位置しているドイツには、E U のみならず世界各国か
ら多くの外国人が集まってきており、現 在 総 人 口 の 約 1 割が外国人という状況にある。
本研究では、そんなドイツでどのような移民政策が行われているかを明らかにする。
日本では、今のところ国による法的強制力を持った移民政策は無いに等しい。しかし、
我が国も国内の外国人、移民たちと如何に付き合っていくかを考える必要性に迫られる
時期はもう來ている。そうした意味で、移民先進国であるドイツの移民政策を検証する
ことは、今後の日本にとっておおいに参考になり、十分^®値があると考える。
L 2 . 研究の概要
本稿では、総 人 口 の 約 1 割が外国人であるドイツにおいて行われている『
統合コース」
の検証をする。 「
統合コースJ とは、 ドイツに長期にわたって居住する移民を対象とし
た語学*社会知識のコースであり、このコースへの参加を通して移民がドイツ社会に統
合されることが期待されている。検証にあたって、まずドイツでどのようにして外国人
数が増加していき、その中でどのような現象や問題が起こり、統合コースが導入される
に至ったかを明らかにする。 その上で、統合コースの内容を、移民法、統合コース令、
連邦移民難民庁発行の報告書ならびに先行研究を用いて調査する。そして、 ドイツと同
様 、移民のために語学*社会知識のコースを提供しているフランスとオランダのそれと
比較をする。最後に、統合コースがどのような成果を出しているか、ないしはどのよう
な問題が生じているかを、連邦移民難民庁による統計とドイツメディアの記事を用いて
分析する。
尚、移民法や統合コース令、連邦移民難民庁による報告書、そして新聞等のメディア
はドイツ語の原文に当たっており、本稿では筆者がそれらを日本語に翻訳して紹介する。
1.3.
本論文の構成
本論文ではまず、 ドイツでどのようにして外国人*移民の数が増加していったかを第
二次世界大戦後から現在まで確認し、その中でどのような現象や問題が起こり、統合コ
4
ース導入に至ったかを見ていく(
第 2 章)。
次に統合コースの内容を概観する(第3 章)。 その際、同じヨーロッパで統合コースと
似た移民の為のコースを実施しているフランスとオランダのそれと比較を交える。
そして、統合コースが実際にどのような結果*効果を出しているか、ないしはどのよ
う な 問 M が 生 じ て い る か を 、 連 邦 移 民 難 民 庁 (Bundesamt fiir M igranten imd
FM cM lige、以 下 BAM F)による統計やドイツメディアの記事を用いて紹介する(第4 章)。
最後に、結果と今後の課■を5 章にまとめる。
5
2•統^^コース成立までの背景
本章では、現在のドイツにおける外国人**移民の状況について主に人口の観点より確
認した上で、 ドイツでどのように外国人が増え、どのような現象や問題が起こり、統合
コースが導入されるに至ったかを、第二次世界大戦後の時期まで遡り見ていく。
2 丄 現 在 の ド イ ツ に お け る 外 国 人 •移 民 の 状 況
2010年 末 におけるドイツの総人口は約8,200万人で、そのうち外国人は約7 2 0 万人
であり、人 口 の 9 % 弱が外国人によって占められている1。 総人口に占める外国人の割
合が欧州連合全体で4.5% (マーセン•ハンス•ゲオルグ,]P.107)、イギリス、オランダ、
フランスでそれぞれ3.4%、4 2 % 、6 . 1 % ということを考えると、 ドイツがいかに多くの
外国人を抱えているかが分かる(
西嶋義憲、P.108)。 もちろん二重国籍制度や不法滞在
外国人などもあるため、安易な比較は危険だが、単純に総人口に占める外国人の割合の
みを見ると、 ドイツのその数は突出している。 ドイツに滞在している7 2 0 万人の外国
人のうち、お よ そ 160万 A •はト^^コ人で、全 体 の 2 2 % を占めている2。 こ ^4 こ、イタリ
ア人( 5 2 万人)、ポーランド人( 4 7 万人)、ギリシャ人( 2 8 万人)、 クロアチア人( 2 2 万人)
と続く。
また、国籍上はドイツ人でも、帰化した者、後期帰還者3やその子供など、社会的に
は依然として外国人として見なされる「
移民の背景を有するj 者 が 、 ド イ ツ に は 800
万人以上も存在する。 こ の 数 に 720万 人 の 外 国 人 を 合 わ せ る と 約 1,500万人にもおよ
び、 これは総人口の5 人 に 1 人 に 値 す る (
近藤潤三、p.20)。
こうして見ると、外国人ならびに移民はドイツの立派な構成員となっていることが分
かる。移民と聞くと排除の対象といったイメージが先行してしまいがちだが、 ドイツは
移民を必要としている。 日本と同様、深刻な少子高齢化が進むドイツでは、6 4 歳以上
人口の労働生産人口に対する比率の現状を_ 持するためには、毎 年 約 3 4 0 万人の移民
1連邦統計局(Statistisehes Bimdesamt) 「
人口状況(Bevdlkerimgsstand)j
littD8:
//www.de8tati8,de/DE/ZahIeiiFakten/G eseilschaftStaat/Be¥〇e!kenmg/'Bevoeik
gmngsstand/Tabelkm /OesdileditStaatoaiigehoerigkeithtm l
2連邦統計局 (Statistisehes Bimdesamt) 「
岀 身国別外国人数(Anzahl der Ausliinder in
Deutschlana nach.Herkimftsland)]
http ://de,sta tis ta,com/statist-iK/daten/studie/1221 /umirage/anzahl-der^ aus laeader ~m
*de utsc.ii.1and.- nacii ~herK:
miftsia nd/
3ロシアや東欧などに何世紀も前に移住したドイツ人移民の子孫で、第二次世界大戦の結果、
ドイツ民族であることにより、居住地で長きに渡って迫害や差別を受けたために父祖の地
であるドイツに受け入れられた者。1 9 9 9 年より彼らはドイツ国籍を取得できるようになり、
約 1 8 0 万人が帰化したと言われている3。
6
を受入れていかなければならないという(
田中伸世、p.18)。 つまり、移民はドイツが
人口の バランスを保つためにも、今の経済力を維持するためにも必要不可欠な存在とな
つている。
2L2 . 統合コース導入に至るまで
それでは、 ドイッにおいてどのようにして外国人並びに移民の数が増えていき、その
中でどのような現象》問題が起こり統合コース導入に至ったかを、第二次世界大戦後の
時期まで遡って見ていきたい。 1 9 5 0 年代旧西ドイツは、大戦により大量の若年労働者
を失っていたことに加え、戦後の劇的な経済復興に伴い深刻な労働者不足に陥っていた
(小林薰、P.119)。 これを補うために西ドイツは、イタリア(1955年)、スペイン、ギリ
シヤ(
1 9 6 0 年)、 トルコ(
1 9 6 1 年)、 モロッコ(
1 9 6 3 年)、ポルトガル(1964年)、チュニジ
ア ( 1 % 5 年 ) 、ユーゴスラヴィア(19■年)などと次々に二国間協定を締結し、いわゆる
「ガストアルバイター」と呼ばれる外国人労働者を国内に受け入れていく(
丸尾眞、p.9)。
ドイツ語で「
ガスト(Gast)J と は 『
客j という意味であることからも見て取れるように、
ガストアルバイターたちは当初は出稼ぎ労働者として受け入れられ、一定の斯間後には
本国に帰るものだと思われていた。 ところが6 0 年代後半にもなると、国内経済界から
の要請や労働者たちの本国の芳しくない経済状況、ドイッでの高収入などの理由により、
ガストアルバイターたちの滞在は長期化していく(
丸尾、p .9)。
そうした中、オイルショックによる不況や失業率悪化を契機に、7 3 年に新たな外国
人労働者の募集が打ち切られ、続 け て 8 3 年には本国帰国者に対して支援金を支給する
ことを取り決めた帰国促進法4が 打 ち 出 さ れ る (
丸尾、P.9)。 政 府 は :
:うした一連の政
策によって国内の外国人数が減るだろうと予測していたが、外国人労働者たちは、一度
帰国したら二度とドイツで働けないという理由でそのままドイツに滞在、更には彼らの
家族をドイツへと呼び寄せるようになる(
丸尾、P.9)。そして追い打ちをかけるように、
1 9 8 9 年以降には旧共産圏の崩壊に伴い大量の難民ならびに後期帰還者がドイッへと流
入 し 、統 - •■直後で受け入れ態勢も整っていなかったドイッはパニックに陥る(
小林 、
p.l 2)〇
ここまで旧西ドイツにおける外国人増加の様子を概観したが、外国人は旧東ドイツに
も数は少ないが存在した。そこで、旧東ドイッにおける外国人数の変遷を終戦後からド
イツ統一まで確認したい。 契約労働者(Vertragsarbeiter) として外国人労働力が旧東ド
イツに初めて投入されたのは旧西ドイツよりも少し遅い1960年代である(竹沢尚一郞、
p.79)。ハンガリー、ブルガリア、アルジェリアといった社会主義国からの労働者であ
つた。そ し て 1980年 か ら は 、やはり社会主義国であるベトナムからも労働力を獲得す
4 非 E U 圏出身者が本国に帰国する場合に支払済社会保険料を返還するとした法律。1 人当
た り 平 均 22000マ ル ク (
約 1 5 0 万 )が支払われた。
7
るようになる。7 0 年代後半、ベトナム戦争終結と南北統一直後にあったベトナムは、
3000 万人を超える失業者、大纛の難民発生、中国やソ連からの経済的支援の制限、力
ンボジアとの長期にわたる戦争などにより貧困•食糧難に陥っていたため、状況を改善
ずるために労働市場を旧東ドイツに求め、これに旧東ドイツが応じたという形であった
(竹沢、!
).79)。受 入 れ 当 初 は 1,
500人 程 度 で あ っ た が 、 旧東ドイツが労働力不足を宣
言 し た 1 9 8 7 年には9,300 人に、そ の 2 年 後 の 8 9 年 に は 52,000 人に膨れ上がり、外国
人 労 働 者 の 6 割をベトナム人が占めるまでとなった(
竹沢、!
),80)。 しかし、同年の壁
崩壊とそれに伴う市場経済の導入により雇用状況は悪化し、外国人契約労働者の6 割が
解雇される(
竹沢、P.84)。これにより大半の外国人労働者は帰国を余儀なくされたが、
それでも約28,000 人は統一後もドイツに留まり、家族を呼び寄せ、生活を続けていっ
た (
竹沢、
このようにして、旧西ドイツと旧東ドイツでそれぞれ違う形で外国人は増えていった
訳だが、1990年のドイツ統一は外国人労働者にとっても大きな転機となる。東ドイツ
を吸収するという形でのドイツ統一は、経済悪化や失業率増大等の社会不安を招き、外
国人労働者たちは真っ先に雇用調整の対象となった。加えて、外国人排斥の動きも活発
化していく。 「
諸悪の根源は外国人にあるJ と社会不安の矛先を外国人に向けるネオナ
チ等の極右団体が台頭、統 一 か ら 2001 年 ま で の 約 1 0 年 間 で 100人 以 上 の 外 国 人 が 襲
撃され命を落としている(
小林、P.121)。このような反外国人的な社会情勢とは裏腹に、
ドイツはなお外国人労働力を必要としていた。 そ れ は 1 9 9 9 年には、看護 、介 護 、清掃
業などといったいわゆる3K 労 働 従 事 ^1の25%が外国人によって占められていたことか
らも見て取れる(
小林、!
).122)。又、2 0 0 0 年 に は I T 技能労働者呼び込みのために新た
にグリーン•カード制5を導入 し 2 0 0 4 年 ま で に 14000 人 の I T 技能労働者を受け入れて
い る 他 2001 年に東欧諸国からの介護労働者受け入れ制度を新たに発足させている。 こ
うしてドイツの外国人数は増え続け、2 0 0 0 年 に 7 0 0 万人の大台を突破すると共に、総
人 口 の 1 割が外国人という状況となった6。
このような無視できないほどの外国人人口の増加とそれに伴うネオナチ等の極右勢
力の活発化、更には、同時多発テロ発生によるイスラム系移民に対しての世論の不信感
の拡大など様々な要素が絡み合い、政府は移民問題に真摯に向き合わざるを得なくなつ
た。その結果が、2000年に発効された一定の範囲内の二重国籍と出生地主義を導入し
た新国籍法7や 、本研究で扱う2005年 施 行 の 統 合 コ ー ス を 盛 り 込 ん だ 「
移民法」である。
5 国内のI T 関連技術者の不足を補うために、煩雑な労働許可の取得手続きを簡略化して外
国人技術者に対してドイツの門戸を解放した制度。
6 連邦統計局(Statistisches Bundesamt) 「
人口状況(Bev6l.k erungsstand)J
7 それまでの国籍法は血統主義に基づいていたが、新国籍法には出生地主義が加味された他、
二重国籍も一定の条件で容認されるようになった。それにより、 ドイツ国民に帰化する移
民が急増した。
「
移民法j をもって、 ドイツは初めてドイツが「
移民国家」であることを認めた8上で、
移 民 の ド イ ツ 社 会 へ の r統合」の必要性を謳い、初めて連邦全体で統一的に規定された
統合プログラムを誕生させた(
丸尾、P.6)。尚、連 邦 内 務 省 に よ る 「
移民法の評価報告」
の中で、 「
統合」 と は 「ドイツの文化的、社会的、経済的生活に平等に参加すること」
と定義づけられている。 ドイツが移民の統合を重要視するようになった背景としては、
ドイツ人と外国人間に存在する様々な格差や「
平行社会9」の形成による社会不安への
恐れが挙げられる。様々な格差は、教育水準や失業率に色濃く反映されている。 ドイツ
語を母語としない移民の第2 、第 3 世代の若者は言語的な壁により学校での勉強につい
ていけなくなり登校拒否ないしは退学してしまうケースが多々ある。外国人とドイツ人
それぞれの最終学歴を比較した統計によると、義務教育を修了しないまま学校を去って
しまうドイツ人は7.4%であるのに対して、外 国 人 は 18,1%と 2 倍 以 上 の 差 が あ る (
西
嶋、
P.102)。また、ドイツ人の約4 人 に 1 人が大学入学資格を取得しているのに対して、
外国人は10人 中 1 人に留まっている(
西嶋、P.102)。 このように、外国人はドイツ人
と比較して平均的に教育水携が低いため、職業選択がかなり狭まっており、結果的に高
い失業率に結びついている。実際、2003年 に お け る ド イ ツ 人 の 失 業 率 は 1 0 % であるの
に対して、外 国 人 失 業 率 は 20.4%と 2 倍 以 上 の 開 き が あ る (
西鳴、:
p.112)。 こうして
学校も行けず就職もできずドイツ社会に上手く馴染めない者は、非行に走り反社会的行
動を起こしてしまう恐れがあるという(
丸尾、P.15)。
又、現在ベルリンやケルンといった大都市には、主にトルコ人による移民集住地域が
存在し、そこでは朝起きてから夜寝るまで、更に大げさに言えば、ゆりかごから墓場ま
でトルコ語で生活の用を足せるという。そしてこのような地域に住む多くの人が、 ドイ
ツ社会やドイツ人と一切関わりを持たずにそこで一生を過ごす。 こ う し た 「
平行社会J
は、社会不安の要因となり、有事の際には武力衝突にもつながる可能性があるという不
安や恐怖感がドイツ人の中に惹起した(
丸尾、P.9)。
このような状況下、連邦政府は、生活の基本となるドイツ語の習得支援により、移民
の就学率ならびに就職率を高めると同時に、彼らのドイツ社-会への統合を促すために、
ドイツ語教育による統合に最大の重点を置いたのである(
丸尾、P.16)。
8 政府はそれまでドイツは移民国ではないという立場を公式に打ち出していた。
9 移民などマイノリティにより形!^される、受入国のマジヨリティの社会とは交わらず存在
する社会、 コミュニティのこと
9
2.3•本 章 の ま と め
ドイツは、終戦後より劇的な経済発展に伴う労働力不足をI t うために、様々な国とニ
国間協定を締結し、外国人労働者を受け入れた。受入れ当初は、契約期間後に帰国する
ものと思われていたものの、外国人労働者たちはドイツを生活の地とすることを決意、
やがて本国から家族も呼び寄せた。加えて、8 0 年代後半より旧共産圏の崩壊や内戦等
に伴い東欧諸国から多くの難民がドイツに流入した。こうしてドイツにおける外国人数
は右肩上がりに増え続けるが、それと比例するように国内の外国人排斥感情も高まり、
ネオナチ等の極右勢力による外国人襲撃事件が多発する。更にはアメリカの同時多発テ
ロ発生に伴い、イスラム系移民に対しての世論の不信感が拡大するなど、ドイツ連邦政
府は移民•外国人問題と真摯に向き合わなければならなくなった。 その産物の一つが、
2005年 に 施 行 さ れ た 「
移民法j の 中 で 規 定 さ れ た 「
統合コース」 である。統合コース
で移民にドイツ語やドイツ社会に関する知識を教示することで、彼らがドイツ社会に積
極的に参加することが期待されている。
10
3•統合コースの概要〜フランス•オランダとの比較を交えて〜
本章では、統合コースの概要について細かく見ていく。その際、 ドイツの統合コース
に相当する、移民向けの言語*社会教育を実施しているフランスとオランダのそれと比
較する。フランスは、人口減少などに伴い1 9 世紀後半から移民受入れを開始するなど、
欧州において最も移民受入れに関して古い歴史を持ち、オランダは、世界の移民受入れ
国の中で最も早く移民に対して統合講習の義務化を行い(1998年)、ドイツの統合コース
もオランダの例をモデルにしているという意味で、比較をするのに適していると言える。
3 . 1 . ドイツにおける統合コース
3.1.1.
統合コースとは
上述したとおり、統 合 コ ー ス は 2005年 の 「
移民法j の施行をもって導入されたドイ
ツに居住する移民のためのコースであるが、実際の条文でどのように定義をされている
か確認しておきたい。統合コースは、全 1 5 孽から成る移民法の第1 章 4 3 条において
以下のように定められている。 尚、 日本語訳は筆者によるものである。
I 43 111tegrationslm rs (統合コース)
(l)Die Integration von recntmaBig auf Dauer im Bundesgebiet iebenden
Auslandem m das wirtschafklicne, kulturelie und gesellschafthche Leben in der
Bundesrepubius: Deutschlana wird geMert una getordert10.
(1>合法的かつ長期的にドイツ領域に居住している外国人の、 ドイツ連邦共和国の経済、
文化、社会的生活への統合は促進され、かつ要求される。
この法律、2 0 0 5 年 施 行 時 に は r合法的かつ長期的にドイツ領域に居住している外国
人の* • * 統合は促進される。」のみであったが、「
外国人自身にも統合への努力を要求
するJ ことを明確化するために、 「
促進され、かつ、要求される。」 と 2007年 に 改 め ら
れている(
戸田典子、p,20)。
10 速 邦 内 務 省 (
StatiistisehesBimdesamt) f移 民 法 (
Zuwanderumgsgesetz)」第 1 章第 43
条第1 項
Iittp»//www.biii'i.bimd,de/SharedDocs/Geset-ze>
stexte/DE/,Zowaiiderimg:
sgesetz.pdf?
blob^ pliblicationFiie
11
(2)Eingliederungsbemiihiungeii von Auslandem werden durch ein Grundangebot
zur Integrationdntegrationskurs) unterstiitzt. Ziel des Integrationskurses ist, den
Auslandem die Sprache, die RecMsordmmg, die Kultm* 1111d die GescMchte in
Deutschland erfolgreich zu vermitteln. Auslander sollen dadurch mit den
Lebensvemaitnissen im Bundesgebiet so weit vertraut werden, dass sie oime die
Hilfe oder Vermittlung Dritter in alien Angelegenheiten des taglichen Lebens
selbstandig handeln kdimeu11.
(2)外国人による社会の一員になるための努力は、統合コースの基本的な課程によって
支援される。統合コースの目標は、外国人にドイツの言語、法秩序、文化、歴史を伝え
ることである。これにより外国人が、日常生活の全事象において第三者の支援や仲介な
しに自立して対妈 できるまで、 ドイツ領域の生活状況に精通させるものとする。
(3)Der mtegrationskurs umfasst emen Basis und emen Aufbausprachkurs von
jeweils gleicher Dauer zur Erlangung ausreichender Sprachkenntnisse sowie einen
Onentierungskiirs zur vermittlung von Kenntmssen aer Eechtsordnung, aer
Kultur und der Gescmchte in DeutscMand. Der Integrationskurs wird vom
Bundesamt fur Migration und Fliichtlinge koordiniert und durchgefuhrt, das sich
hierzu privater oder olSentlicher Imager bedienen kaim. Fiir die Teilnahme am
Integrationskurs sollen Kosten in angemessnem Umfang unter Beriicnsitigung der
Leistungsfahigkeit erhoben werden. Zur Zahlung 1st auch deijenige verpflichtet,
der dem Auslander zur Gewahrimg des Lebensunterhalts veipflicmet 1st12.
(3)統合コースは、十分な語学知識を会得するための、それぞれ同じ期間の長さの基礎
コースと上級コースならびにドイツの法秩序、文化、歴史の知識を伝えるためのオリエ
ンテーションコースから成る。統合コースは、私的ないしは公的実施主体に委託できる
ように連邦移民難民庁によりコーディネート、実施される。統合コース受講のための費
用は、支払い能力を考慮された上、適当な範囲で徴収される。外国人の扶養義務を負う
者にも支払い義務がある。
1.1連 邦 内 務 省 (
StatistischesBimdesamt) [移 民 法 (
Zuwaaderangsgesetz)」第 1 章 第 43
条第2 項
12連 邦 内 務 省 (
StatistischesBundesamt) 丨移民法,
(Zuwanderaogsgesetz)」第 1 章 第 43
条第3 項
12
つまり、統合コースとは、外国人ないしは移民が自立し、か つ ド イ ツ 社 会 に 「
統合J
できるように彼らにドイツ語やドイツの社会生活について教示するコースである。
統合コースは、原 則 的 に 600時 間 の ド イ ツ 語 コ ー ス と ド イ ツ の 法 秩 序 、歴史 、文化
などについて学ぶ6 0 時間のオリエンテーションコースの二部構成となっており、両コ
ースを修了すると、ドイツ語能力試験とオリエンテーションコースに関する修了試験を
受ける。
図 1
り
連邦移民難民庁(
B u n d esam tfiirM igration u n d F H kM liu ge) ホームページよ
「
統合コースの図解(G m & c lie Ubersidht 2:um Integm tionskurs)」13
13連邦移 民 難 民 庁 ( Bimdesamt fiir Migration imd FMchtlinge) 「
統合コースの図解
{Gransche l)bersicnt zum Integrationskurs)J
htt0 >//www.bamCae/SliareciDocs/Aalagen./DE/Powiiloads/liifothek/liiteEratioii8kiirse/I.^e
lirkraefte/gratlk-zum-iategrationskiirs-pdlDdf? blob=|)iibI:icationFile
13
3丄 2 . 統合コース受講資格者
2005年の移民法によると、以 下 の 3 グルーブが統合コース受講対象者となっている。
①
2005年 以 降 初 め て 1 年以上の滞在許可を取得した新規外国人(以下ニューカマー)
② 2005年以前より長期的にドイツに滞在している外国人(以下オールドカマー)
③ 後期帰還移住者
3 グループの中でも、簡単なドイツ語での意思疎通ができない ニューカマーに関して
は参加が義務付けられる(
戸田、P.20)。 ドイツ語力は、外国人局で在留許可を申請す
る際の係官との会話を通じて判断される(
丸尾、P.22)。 又、オールド カマーに固して
は、原則として受講義務はないものの、当該人のドイツ語が不十分だと判断され、かつ
生活保護などの社会給付を受けている場合には、コースの定員に余裕がある場合に限り
受講が義 務 付 けられることがある(
丸尾、!
).22)。 なお、①移動の自由が認められてい
る EEA 敏州経済領域)諸国民、②ニ国間協定に基づく季節労働者、③企業内転勤による
駐在員で長期在留する意思のない外国人、④その他ドイツで職業教育等を受けている者
などは受講 義 務 が 免 除 さ れ る (
丸尾、P.23)。 ここから、連邦政府が統合コースへの参
加を促したいのは、E U 域外からやって来た単純労働者といった特定の グループに限ら
れていることが伺える。
受講義務があるのにも関わらず義務を履行しない場合や、統合コース後に行われる修
了試験に不合格の場合には、滞在許可延長を決定する際にその旨が考慮される上(
丸尾、
p.69)、当該者が失業保険などを受給している場合には受給額が最高10 % まで減額され
る可能性がある。
3 . 1 . 3 . 受講費用
コースは受 講 者 1 名 、1 授 業 時 間 に つ き 2.35 ユーロかかると算定されており、その
内 受 講 者 は 1.ユーロを自己負担し、残りを連邦が支払うこととなっている(
戸田、
P*21.)。
ただし、低所得者や失業者などについては、一定の手続きを踏めば受■料の支払いが免
除されるほか(
丸尾、P.34)、 自己負担の場合でも統合 コース参加開始 か ら 2 年以内に
コース修了証を取得すると、費用の半分が払い戻しされる14。実際支払免除を受けてい
る者は、2005〜 2009年 の 平 均 で 約 7 6 % と、かなり高い。
受講費用に関連して、統合コースにどの程度の予算が投じられているかを確認してお
くと、毎 年 2 億ユーロ超にものぼる。
14 連 邦 司 法 省 (Budesministerium des Justiz) 『
統 合 コ ー ス 令 (Verordmmgiiber die
Durchfliknmg von Integrationskursen fiir AusMmier imd SpSt胆 ssiedler)」第 9 条第 6
項
1itt.p»//www.gesetze~im~iii ternetvcic^/iiitv/BJ'NE38?000004.11tml
14
3丄 4統 合 コ ー ス 実 施 主 体
統合コースを実施するのは、自治体、語学学校、市 民 大 学 (
Volkshochscluile) など、
B A M F により認可された民間ないしは公の事業者である(
戸田、p.20)。2006年 末 ま
で に 1,
8 5 1 の事業所が認可されており、そのうち8 0 % が :
1.0年以上のドイツ語講習の実
績を持っている(
戸田、P.20)。 なお、1351の 亊 業 者 が 全 国 で 計 5,800ヶ 所 に お い て
コースを開設しているため、ほとんどの受講者が自分の居住している区域内でコースを
受けることができると予想される。
コースを教える講師に固しては、① r外国人及び後期帰還移住者のための統合 コース
実施に関する規則j 第 1 5 条 第 1 項 及 び 第 2 項によれば、 「
外国語としてのドイツ語コ
ース(
D a F )J な い し は 「
第 2外 国 語 と し て の ド イ ツ 語 コ ー ス (
DaZ)J を修了している
か、②B A M F 指定の資格取得 コースに参加しなければならない15。講師は必ずしもドイ
ツ語を母語としなくてもよい。 2 009年 末 ま で は 、①も②の資格も持たない者でも、
B A M F が指定した場所であれば コースを受け持つことが可能となっており、そうした
講師が 全講 師 の 実 に 6 割 を 占 め て い た が (
小林、p.128)、現在は無資格では コースを教
えることは岀 来なくなっている。
3. L 5 . 語学コース
既述した通り、統 合 コースは語 学 コースとオリエンテーションコースの2 部構成とな
っている。 ここではまず、語 学 コースについて詳しく見ていきたい。
語学コースは、そ れ ぞ れ 300時 間 ず つ の 基 礎 コ ー ス と 上 級 コ ー ス の 2 コースから成
り、基礎コース、上級コース共に、そ の 中 で 更 に 100時 間 ず つ の 3 モジュールに分か
れている(
西嶋、p .114)。基礎コースでは、買い物や公共交通機関の利用、メールの書
き方など日常生活に密着したテーマが扱われ、上級コースにおいては基礎コースの内容
を更に発展させたものに加え、新聞やテレビといったメディアの情報を収集するための
より高度 な ド イ ツ 語 を 学 ぶ (
西嶋、P.114)。
新規受講者は初めに面接と筆記試験から成るクラス分けテストを受け、それぞれの教
育水準や語学力に適したコースに配属される(
ハンス、P.113)。又、実施機関によって
は、例えば①速い学習速度コース、②平均的学習速度コース、③遅い学習速度コースの
ように学 習 速度別のコースや(
丸尾、P.35)、働いている者のための半日コースや夜間
コース、宗教的な配慮による女性のためのコース、アルファベットの読み書きから始め
る識字教育コースなど提供している所もある。識字教育コースは、アルファベットの読
み書きから始めるため通常の6 0 0 時 間 よ り も 3 0 0 時 間 多 い 9 0 0 時間のプログラムが組
まれており、必 要 に 応 じ て 更 に 300時 間 追 ^!
することも可能となっている。 尚、基本
15 連 邦 司 法 省 (
BudesministeriumdesJustiz)「
統 合 コ ー ス 令 (Verordnungilberdie
Durchfuhmng von Integrationskursen mi* Auslander imd Suataussiedier)」第 15 条
15
となる全日コースに最初から通った場合、規 定 の 660時 間 を 修 了 す る の に 半 年 は か か
る計算となる。
受講者は、語 学 コ ー ス 修 了 時 に 「
欧州言語共通参照枠16! の B 1 レベルに達すること
が期待されている。B 1 レベルとは、「
わかりやすい標準語による表現ならその主要な内
容が理解でき、よく知っているテーマなら自分の考えを伝えることができる程度の能力
(西嶋、P.93)」である。
表 1
欧州言語共通参照枠(
金田智子、P.28)
熟
練
し
た
S
mar
使
用
者
_
立
し
た
語
使
用
者
基
礎
段
階
の
言
語
使
用
者
C2
聞いたり、読んだy したほぼ全てのものを容易に理解することができる。いろい
ろな話し言葉や書き言葉から得た情報をまとめ、根拠も諭点も一莨した方法で
再構築できる。自然に、流暢かつ正確に_ 己表現ができ、非常に複雑な状況で
も細かい意味の違い、区別を表現できる„
01
いろいろな種類の高度な内容のかなリ長いテクストを理解することができ、含意
を把握できる。言葉を探しているという印象を与えずに、流暢に、また自然に自
己表現ができる。その際テクストを構成する字句や接_ 表現、結東表現の用法
をマスターしていることがうかがえる。
B2
B1
A2
At
自分の専門分野の技術的な議論も含めて、抽象的かつ具体的な話題の複雑な
テクストの主要な内容を理解できる。お互いに緊張しないで母語話者とやy 取y
ができるくらい流暢かつ自然である。かなリ広汎な範囲の話題について、明確
で詳細なテクストを作ることができ、さまざまな選択肢について長所や短所を示
しながら自己の視点を説明できる。
仕事、学校、娯楽で瞀段出会うような身近な話題について、標準的な話し方で
あれば主要点を理解できる。その言葉が話されている地域を旅行しt いるとき
に起こy そうな、たいていの事態に対処することができる。身近で個人的にも_
心のある話題について、単純な方法で結び付けられた、脈略のある亍クストを
作ることができる。経験、岀 来事、夢、希望、野心を説明し、意見や計画の理
由.銳 明を短く逑ベることができる。
ごく基本的な個人的情報や家族情報、買い物、近所、仕事など、直接的闋係が
ある領域に関する、よく使われる文や表現が理解できる。簡単で日常的な範囲
なら、身近で日常の亊柄についての情報交換に応ずることができる。自分の背
景や身の回y の状況や、直接的な必要性のある領域の事柄を簡単な言葉で説
明できる。
.....................
具体的な欲求を満足させるための、よく使われる日常的表現と基本的な言い回
しは理解し、用いることもできる。自分や他人を紹介することができ、どこに住ん
でいるか、誰と知り合いか、持ち物などの個人的情報について、質問をしたし九
答えたy することができる、もし、相手がゆっくり、はっきりと話して、助け船を出し
てくれるなら、籣單なやy 取りをすることができる。
访 外国語教育のシラバス、カリキュラム、教科書、試験の作成、および学習者の能力評価
時に共通の基準となるものc E U 域内の学術的*経済的人的交流を促すため、言語能力比較
を容易にするために始まった。
16
3.1.6. オリエンテーションコース
語学コースに続き、オリエンテーションコースが行われる。オリエンテーションコー
スにおいては、 ドイツの法秩序(国家構成、選挙権、州と地域、法治国家、社会国家原
則 、基本法、住民の義務)、文化(人間像、宗教の多様性)、歴史(ドイツ連邦共和国の成
立と発展)などについて 6 0 時 間 か け て 学 ぶ (
西嶋、p.115)。オリエンテーションコース
の目的は、移民がドイツ社会で生きてゆく勝手を分かり、 ドイツ社会との一体感を創り
だす可能性を創出することとされている(
丸尾、P.36)。
なお、既に十分なドイツ語 力を有する外国人に関しては、語 学 コースを受講する必要
はなく、 このオリエンテーションコースからはじめることと なっている。
3 . 1 . 7 . 修了試験
受言冓者は、語学•オリエンテーションの両コースを修了すると、 ドイツ語能力試験及
びオリエンテーション コースに関する修了試験を受ける。尚、受験料は無料となってい
る。 ドイツ語能力試験(DeutscIrTestfiirZuwanderer)は筆言己試験と会話試験から成り、
そ れ ぞ れ 6 割以上得点すると合格となる。筆記試験は、リスニング、読解問題に;?
10え簡
単なライティングが課されるA
会話試験では、簡単な自己紹介をした後、試験官とも
うひとりの受験者と与えられたテーマにっいて1 5 分程度会話をする17181920。 筆記と会話試
験が終了すると、受験者は試験結果に応じてB 1 か A 2 レベルの証明書を受け取るI
A 2 レベルにも満たない場合には証明書は発行されず、
試験結果のみが言い渡される2
この試験、 当 初 は B 1 レベルに到達しているか否かだけを測定していたが、B 1 合格率
があまりにも低すぎるために、2 0 0 8 年 よ り B 1 レベルに達しなかった場合にはA 2 レべ
ルの証明ができるようになっている21*。
— 方 オリエンテーションコースに関する修了試験は、原則的に オリエンテーションコ
ースの最後の授業内で行われる气授業内で扱われたドイツの法秩序、歴史、文化等の
テーマに沿った問題が2 5 問出題され、1 3 問以上正解した場合に合格となる。合格率は
17連邦移民難民庁(BAMF) 「
修了試験(Abschlusspriifimg)」
ht-to»//www.ba.mCiie/l)EM?iHji〇
mm.eo/Peu.tsciiLe.meii/Int-eETati.oo.s.lairse/AbsclilMBSi)roef
img/abschiussp roefnii^-oode.iitml
連邦移民難民庁(BAMF) 「
修了試験(Abschluss{>i*iifimg)j
19速邦移民難民庁(BAMF) 「
修了試験(AbscMusspmfimg)」
2 0 連邦移民難民庁(BAMF) 「
修了試験(AbscMusspmftmg)」
2 1 連邦移民難民庁 (Bimdesamt fiir Migration und FMchtlinge)
「
統合コース年間統
I f 2009{Integrationskur8geschafts8tatistik fiir das Jahr 2009)J p.10
httD»//www.bam£de/SharedI)ocs/Aiilagei:i/DE/Dow:
nIoads/Iiifothek/l.iitegration8kyrB
e/Kurstmeeer/Statistikeii/2009-Qua.rta.1.4 iiiteg:ratioiiskiirsgeseh.a.efteeitatistik bund
,pdf? bi〇
b=pnbiicatiQn.lj'iie
奴連邦移民難民庁 (BAMF) 「
修了試験(AbscMusspmfong)j
17
毎 年 9 割超える。修了テスト受検者に対するアンケートによれば、法秩序、歴史、文化
のカテゴリーにおいてそれぞれ「
民主主義について」、 「 1945 年 以 降 の ドイツ」
、「文化
的•地域的多様性 j について出題される頻度が高いことがわかっている(
丸尾、P.38)。
ここで、B A M F がホームページにおいてテスト対策用に配布している問題集の中から
いくつか問題例を挙げる。 尚、 日本語訳は筆者によるものである。
図 2 オリエンテーションコース修了試験問餳集より問題2 1 【民主主義について】23
1 Wanna gibt m m m tm Bemcitorat» »adbar ak mm Fartei?
| < な ぜ 民 主 ^ で 酸 » 存在f る0 か?》
I 0 weil dadurch die unta*schi«llich8 n l&imingen der Burger wnd Burgarinmn :
I < それiCよ,て 圓 民 様 々 な 意 凰 #反 賊 さ 軏 る た _ >
i Driamit Besteclmmg in der PoMtik te辟enzt wiird
| < それによ咬政治上の贿 鏽が食いillめちれる>
i Oiim wirtechafllichen Wetttewerb anzuregen
| < 戀湯覼争を減幾化させるため>
—
—
2 3 連邦移民難民庁(BAM F) 「オ リ エ ン テ ー ションコーステスト対策のための問題集
(Orientierungskurstest Fragenkataiog zur TbstvorDereitimg)」
littp-//oet.bamf,de/pls/oetat/f?p=524° 1.-4026508797918849
18
図 3 オリエンテーションコース修了試験問題集より問題1 5 2 【1 9 4 5 年以降のドイツ
について】 24
1961 Ms IS89 war Barllis...
< 1 _ 1 年 如 ち 1889年 ま で ベ ル y > 紡、>
|< 审
艤 で あ ,た^ >
i O e m e i^ n e r Staat
| < 魏立圓家だった办 >
j 0 durch ©in® M ai«r geteilt .
| <鹫 によ穸分断されていた^ >
| *D nur mit dem flugzeug erreiclibar.
| < M 抒纖によ〇て0 みアクセスでS た,>
図 4 オリエンテーションコース修了試験問題集より問題2 4 5 【
文 化 的 •地 域 的 多 様
性について】 25
itecM aM InuneEi IQfcem las a im 1 % U » n^ fa li£ m e s E in te eiAsci» ie fi«
〇flar gjhtniiPi amツT 鼠 麵 》乎 r も # 1 4 繼|Cなるま!?織、 瞻身0 子 ど も #学 接 1C彩い!:〜
|か孩淤を決めることができる• >
! □Geschiditsuntarricht teilnimmt,
| < 遞史⑦授業に参_寸る〉
I 0 E@iigiomuiit8 m cht teilnimmt.
| < 寮 _ の 授 纖 C参篇する》
OPoiitikuntBrriclit teilmmmt,
<軟治め授業に参加する>
丨□ S p rh im to m e ht toil ni mmt
i < 嘗鼯の揆纖に参加する》
2 4 連邦移民難民庁(BAMF) 「
オリエンテーションコーステスト対策のための問題集
(Onentierungskurstest Fragenkataiog zur Tbstvorbereitung)」
2 5 連邦移民難民庁(BAM F) 「
オリエンテーションコーステスト対策のための問題集
(Onentierim gskurstest Fragenkataiog zur Testvorbereitimg)]
19
語学試験ならびにオリエンテーションコース試験の両方を合格すると、コース修了証
が発行される。 コース修了証の保持は、定住権取得のための必要条件を満たすほか、 ド
イツ国籍を取得するために、本 来 最 低 8 年間ドイツに滞在しなくてはならないところが、
7 年に短縮されるといった特典がある(
マーセン、p.113)。 また、統合コースに参加し
始 めてか ら 2 年以内にコース修了証を取得した場合、コース参加費の半分が払い戻し等
経済的なインセンティブもある。逆に、コース受講義務の怠慢や修了試験不合格の場合
は、滞在許可延長の決定の際にその旨が考慮される(
丸尾、P.69)。
3 . 2 . フランスにおける統合コース
3 . 2 . 1 . 受 入 れ •統 合 契 約
「
受 入 れ *統 合 契 約 」 (
C ontratsd*a cc u e ile td *iiit6gration,以 下 CAI) とは、外国か
ら入国する者がフランスで長期にわたり生活をしていくために最低限必要な知識とフ
ランス語能力を身につけることを目的とする、国と移民との間で締結される契約である
(自治体国際化協会パリ事務所、P.85)。締結に伴い、国は当該外国人に対して、①説
明会、②個人面談、③市民教育、④フランス語研修、⑤フランス生活情報、⑥ソーシャ
ルワーカーとの面談の提供を保証する— 方、外国人は国に対して①市民教育への参加、
②命じられた語学研修の参加、③ 定 め ら れ た 面 談 の 参 加 義 務 を 負 う (
今野浩一郞他、
P.99)。これら一連の教育や説明会等はすべて無料で行われ、期限は:I 年間である。 CAI
は、2 0 0 3 年 よ り 1 2 の県で試験的に実施され、2 0 0 4 年 に 2 6 の県、2 0 0 5 年 に は 6 1 の
県と徐々にその範囲を広げ、2007年 よ り 全 て の 県 に お い て 義 務 化 さ れ た (
西山教行、
p.5)〇
C A I の締結が義務となっているのは、①正規労働者、②家族呼び寄せにより入国した
1 6 歳以上の者、③フランス人家族の一員、のいずれかのカテゴリーに属し、かつフラ
ンスへの継続的な滞在を希望し、はじめて臨時滞在許可証の交付を受けた者である。但
し、①欧州連合ならびに欧州経済空間とスイス出身者、②一時的滞在の外国人(在外勤
務にある給与生活者およびその家族)、③ 「
能力と技能J と記載されている滞在許可証
の所持者およびその家族26、④学生、⑤季節労働者、⑥在外のフランス中等教育学校で
3 年以上修学した外国人は、義 務 対 象 者 か ら 外 れ て い る (
西山、P.8)。つまり、C A I の
対象となっているのは、フランス語能力や高い技能を持たずに、フランスに永続的居住
を希望する者である(
西山、P.8)。 出 身 国 別 C A I 締結者の統計を見てみると、アルジ
エリア、モロッコ、チュニジアといったマグレブ出身者と、コンゴやコートジボワール
といったサハラ以南アフリカの旧植民地からの移民で全体の約6 割を占めていること
が分かる(
西山、p i 〇。
部フランス経済の発展やフランスの地位向上に寄与すると考えられる者に与えられるビザ
で、学術、科学、文化、スポーツなどの分野が想定されている。
20
語学研修に参加しないなど外国人がC A I を守らない場合、滞在許可証の更新が拒否
される可能性がある(
西山、:
P.10)。
3 . 2 . 2 . 集 団 説 明 会 •個 人 面 談
C A I に署名した者は、 まず集団説明会に参加し、 「ともにフランスに暮らす(Vivre
ensemWe en France)」 というG M ならびにフランスについてのビデオを視聰するa
このビデオは、参加者の特に多い出身国で話されている1 0 言 語 (
フランス語、英語、
中国語、 トルコ語、スペイン語、アラビア語、カビリア語、 ロシア語、ポルトガル語、
ボ ス ニ ア •ク ロ ア チ ア 》セルビア語)で の 視 聴 が 可 能 で あ る (
西山、p.7)。
続いて個人面談において、C A I の詳細説明とフランス語の語学試験が行われる。そし
て語学試験の結果に基づき、フランス語研修の必要な時間数が算定されるか、もしくは
語学研修免除証明書が発行される。
そして、ソーシャルワーカーとの就労に関する面談ならびに市民教育やフランス語研
修 、フランス生活情報説明会の日程が定められる。
3 . 2 . 3 . 市民教育
ここでは、フランス共和国の原理や価値観について6 時 間 (
1 日で行われる)で学ぶ
(西山、P.7)。 中でも男女同権や、義務で無償の教育、 ラ イ シ テ (
政教分離性の原理)
は重要な学習項目に挙げられており、C A I の署名者の多くがこうした政治文化とは異な
るバックグラウンドを持つ人々であることを暗示している(
西山、p.7)。 市民教育も、
集団説明 会 と 同 様 1 0 言語により提供されており、 自分の得意な言語での受講が可能と
なっている。受 講 す る と 受 講 修 了 証 が 公 布 さ れ る (_ 治体国際化協会、P.88)。 尚、市
民教育に関する修了試験はない。
3 . 2 . 4 . フランス語研修
個人面談の際に行われるフランス語の筆記、 口頭試験の結果に基づき、移 民 は 1 0 0
時 間 か ら 最 長 400時 間 の フ ラ ン ス 語 研 修 を 受 け る (
西山、p.7)。 ここでは、 「フランス
語入門免状」 (DipMme In itia ld e Langue Fran§
aise,以 下 DILF)の取得が最終的な目
標となっている。D I L F は、欧州共通言語参照枠における最も簡単なA 1 のレベルに値
する。滞在許可証の更新や1 0 年間の居住許可証ならびにフランス国籍取得のためには、
こ の D I L F を保持しているかが一つの基準となっている。つ ま り 1 年以上フランスでの
滞在を希望する者は、フランス語研修を必要としないレベルのフランス語能力を持つか、
研修を受けD I L F を 取 得 し な け れば な ら な い (
西山、p.10)。
21
3 . 2 . 5 . フランス生活情報
医療制度、社会保障、学校制度、庇護制度、職業研修、雇用、住居などといったフラ
ンス社会の仕組みについての説明を、やはり移民自身が得意な言語で受けることができ
る (
西山、!
).7)。受講 す る と 修 了 証 が 交 付 さ れ る (自治体国際化協会、P.88)。
3 . 2 . 6 . ソーシャルワーカーとの面談
ここでは、就労による社会統合の可能性が検討される(
西山、:
P.7)。面談の中で、そ
れぞれの移民が持つ資格や経験、教育レベル等が確認され、国内でどういった就労が可
能 か 検 討 さ れ る (自治体国際化協会、P.89)。そしてその結果が職業安定所に通知され、
当該者が就職活動をする際に活用される(自治体国際化協会、P.89)。
3 . 3 . オランダにおける統合コース
3 . 3 . 1 . 市民化講習
「
市民化講習(InlmrgeringPrograma)j は、移民がオランダ社会、とりわけ労働市場
や教育といった公的分野においてマジヨリティの市民たちと差がない状態で参加でき
るようにすることを目的とし、①オランダ語講習、②社会化講習、③ 就 労 支 援 の3 本柱
で成り立つ移民のための講習である(
新海英史、p.237-p.238)。受講者は規定の課程を
終えると、オランダ語の語学試験ならびにオランダ社会に関する知識試験から成る「
市
民統合テストJ を受けることとなっている。一連の講習は無料で提供されるが、その代
わり受講者は定期的に通学し、授業をまじめに受け、仕事を見つける努力をすることが
求められる(
新海、P.244)。 この市民化講習は1998年に世界に先駆け始まり、当初は
一部のグループを除いた27、9 8 年以降に入国した新外国人全員(以下ニューカマー)に受
講が義務付けられ、9 8 年以前からオランダに居住していた移民(以下オールドカマー)
に閨しては受講奨励という形が採られていた。 し か し 2007年 の 法 改 正 に よ り 「
市民統
合テストJ の受験が市民化講習受講者*非受講者、ニューカマー*オールドカマー関係
なく移民全員に課されるようになったことに伴い、現在は市民化講習の參加義務づけは
なくなっている。 しかし、オランダ語やオランダ社会の知識を有さない者は、市民化講
習かそれに似たコースに参加しなければ市民統合テスト合格は難しい上、私営のコース
は費用が高いため、今でも多くの人が市民化講習に参加している。市民化講習の參加者
於受講義務免除者①1 6 歳以上6 5 歳以下、②学齢期にオランダに8 年以上住んでいた者、
③オランダの教育機関の就学証明書を持つもの、 ④ EU * スイス国民*一部の先進国出身者
22
統計を見てみると、 トルコ人やモロッコ人移民の親族、中東•アフリカからの難民が中
心となっている。
3 . 3 . 2 . 語学講習
語学講習は、570時 間 に わ た る 。 レベルが1 か ら 6 まで設定されており、受講者は自
分が現在いるレベルより上のレベルを目指しながら コースを受講していき、最終的には
欧州共通言語参照枠におけるA 2 レベル達成を目標としている。
受講者の学習進度を確認するために、毎週小テストが行われる他、6 週間毎にまた違
うテストを受ける。また、授業時間にパソコンを使用した自習時間も組み込まれており、
受講者はそこで自分のペースに合わせて文法やリーディング等を練習していく。
3 . 3 . 3 . 社会化講習
社会化講習では、郵便や医療制度、政 治 •社 会 的 常 識 、その他オランダの基本的な法
律についての講義を3 0 時 間 受 け る (
新海、p.242)。 オランダ語での理解が難しい場合
には、母語での受講も可能である(
新海、P.242)。授業の一環として、オランダの名所、
博物館や美術館に遠足に行くこともある(
新海、P.242)。
3 . 3 . 4 就職支援
就職支援は、就職斡旋事務所から派遣されてくるカウンセラーによる講義と2 回以上
の就職相談とのセットとなっている(
新海、P.242)。講義でオランダの労働市場につい
ての説明を受け、その後カウンセラーからそれぞれに合った就職活動の仕方などについ
て直接カウンセリングを受けることが出来る(
新海、p.242)。カウンセリングでは、オ
ランダの労働市場の状況を鑑みつつ、できるだけ教育訓練期間や失業状態が続かないよ
うに、すぐ就職ができるための最も現実的な方法が中心的に提案されるという(
新海、
込242)。例えば、母国で医学校に通った者で、オランダで医者を目指している移民に対
しては、まずは医療福祉法人で一般スタッフとして働けるようにアドバイスをする(
新
海 、p.243)„
3 . 3 . 5 . 市民統合テスト
上述したとおり、市 民 統 合 テ ス ト は 2007年 に 導 入 さ れ 、市民化講習の規定課程を修
了した者はもちろんのこと、市民化講習を受講していないオールド カマーにも受験義務
が課されている(
金田、P. 1 9)„試験合格が永住権申請の条件となっており、試験に合
23
格しなかった移民は何度でも再受験することが求められ、その勧告を拒否した場合には
居住許可証の無期限停止等の罰則が課されることがある(
下平好博、p.62)。 従って、
オランダでの継続的な滞在を希望する者は、 この試験に合格しなければならない。
試験は、欧州言語共通参照枠のA 2 レべノレに相当するオランダ語試験と、オランダ社
会に関する知識試験の二部構成となっており、いずれも移民が日常生活の中で頻繁に出
会うだろう場面が想定され、それに基づい た 問 題 が 出 題 さ れ る (
金田、p.20)。
表:2
市民統合テストの種類
実施機_
經備手段.•方法
具 体 的 方 法 ........
*話す、読む、書く
a.
パ フ ォ ー マ ン ス 評 価 * 日常生活で遭遇するような場面の
教育機闋
ロ ー ル プレイ
b,
ポー卜フォリオ評価
•自分のポートフォリオを作成•提出
•オランダ語美践テス卜
•オランダ語口頭能力亍ス卜(電話)
中央機闋 インターネット試験
*オランダ社会に関する知識
なお、市民統合テストは、移民が市民化講習を受ける教育機関で実施されるものと、
インターネットを用いて実施されるものと2 種 類 あ る (
金田、!
).24)。教育機関で実施
される場合、a)ロールプレイを含むパフォーマンス評価と、b)ポートフォリオ評価とが
あり、試験の形としてa と b を組み合わせるか、どちらかひとつを選択する。特筆すベ
きはポートフォリオ評価であり、移民が実生活の中でオランダ語を使ったことを示す証
拠を集め、提 出 す る と い う 形 で 行 わ れ る (
金田、:
P.25)。例えば、車に保健をかけるた
めに保険会社の社員とやり取りをした場合、その社員に、 「この人はオランダ語でこれ
だけの会話をしましたJ という証明書を書いてもらうのである(
金田、P.25)。 また、
子どもの学校からの配布書類に必要事項を記入して提出したら、そのコピーをとってお
く。 そういった証拠資料を集め、提出することにより、 「
私はこれだけの力を持ってい
ますj ということを証明する形となっている(
金田、P.25)。試験関係者によると、 こ
ういう方法をとることによって、移民が積極的にオランダ社会に参加し、交流すること
が期待され、結果としてオランダ語を用いてのコミュニケーションが促されるという
(金田、P.25)。
一方、インターネットで行われる試験では、例えば以下のような問題が出される。
24
図 5 市民統合テストオランダ語試験岀 題例
モーさんは出生届についての情報を読みます。次の文を読みなさい。
< 出生届>
子供の誕生は、市役所に屆けなくてはならない。親が届け出る。つまり、父親か母親である。
もし■による届け出が難しいときは、第三者でもよい。ただし、出産時に立ち会っている必要
がある。
Q.どこに出生届を出しますか。
A1•警 察 A2.病 院 A3JU役所
く出題例2 しオランダ社会に関する知識>
新しく車を買ったモーさんが、運転中に携帯電話が鳴った。その際にどの行動をとるベ
きかを選択肢の中から選ぶ問題。状況も選択肢も映像と音声で示される。選択肢は、「
道
路わきに車を止めて、そこから電話する」f運転しながら電話するj 「
駐車場まで行って
電話す*る」 というもの。
以上の出題例からも見て取れるように、市民統合テストでは移民がオランダ社会で生
きていく中で頻繁に出くわす場面を適切に対逃できるだけの「
知識j と 「
言語」がある
かどうかが試されている(
金田、p,26)。
8.4.
本 章 の ま と め 一 独 *仏 *蘭 比 較
さてここまでドイツ、フランス、オランダそれぞれの統合コースを個別に概観してき
たが、ここで、各国の比較を行い共通点や相違点等を明らかにすることで、 ドイツの統
合コースとその特徴について更に深い理解を得たい。
まず各国共通しているのは、語学コースのみならず社会についての知識を教示するコ
ースを移民に対して提供していることである。これはどの国においても、統合コース受
講者の多くがホスト社会の原理や価値観とは異なるバックグラウンドを持っているこ
とに起因していると考えられる。実際、どの国の受講者統計を見ても、 トルコ人やモロ
ッコ人などのイスラム教信仰者や、中東*アフリカ諸国から来た難民など基本的人権な
どとは無縁の世界で暮らしてきた者が過半数を占めている。そういった人々が男女平等
や基本的人権などについて知ることは、彼らが本当の意味で社会に統合され得るために
必要不可欠であると言える。又 、これに関連して、統合コースの受講対象者、言い換え
れば、ホスト社会に統合させたい対象者も各国に共通している。そ れ は 、E U 圏外から
來た語学力のない単純労働者たちであり、その多くはトルコ人、モロッコ人といったイ
スラム教徒や中東*アフリカ諸国からの難民である。どの国のコースも、表 面 上 で は 「
す
25
ベての移民」 を対象としておきながら、実 際 は E U な ら び に E E A 市民、一部の先進国
出身者や企業内転勤者などは対象から外れている。以上の人々は一般的に教育水準が高
く、ホスト社会の価値観や原理などにも精通している場合が多いため、問題を起こさな
いからだと考えられる。逆に、イスラム教徒や難民はトラブルメーカーのレッテルを貼
られており、統合される必要があると認識されている。特に、アメリカの同時多発テロ
や 、それ以降世界各地で起きたイスラム教徒によるテロ事件によって、社会はイスラム
教に対して不信感を抱くようになっているという。
コースをしっかり履修•修了することで特典が用意されていることも、各国に共通し
ている。 ドイツでは統合コース修了証の取得が、定住権取得の条件の1 つとなっている
ほか、帰化を希望する場合、本 来 は 最 低 8 年間のドイツ滞在が必要とされているところ
が、7 年間に短縮される。又 、コースを自費で受講した場合、コース参加開始から2 年
以内に統合コース修了証を取得すれば、費用の半分が払い戻しされるなど、経済的イン
センテイブもある。フランスにおいては、フランス語の語学試験D I L F を保持している
かが、滞在許可証の更新や1 0 年間の居住許可証ならびにフランス国籍取得のための1
つの基準となっている。そしてオランダでも、市民統合テストの合格が永住権申請の1
つの条件となっている。各国はこうした特典を用意することで、コースの参加率や修了
率の向上、ひいては移民のホスト社会への統合を促進しようとしていると考えられる。
逆に、コースをしっかり履行しない者への制裁も各国共に用意されている。ドイツでは、
統合コース受講義務の怠慢や、修了試験不合格の場合、滞在許可延長を決定する際にそ
の旨が考慮される上、当該者が失業保険等を受給している場合には受給額減額という制
裁が課される。 同じようにフランスでも、 フランス語研修に参加しないなどC A I を守
らないと、滞在許可証の更新が拒否される可能性がある。オランダも同様、市民統合テ
ストに合格しないと何度でも再受験することが求められ、その勧告を拒否すると居住許
可証の無期限停止等の罰則が課される場合がある。 しかし実際のところ、こうした罰則
は人道的な見地よりほとんど行われていないという。
さて、次に各国の相違点に着目したい。まず注目すべきは、各国がそれぞれの語学コ
ース後に移民に求める言語のレベルが違うということである。欧州言語共通参照枠を指
標としたとき、フランスはA 1 レベルでよしとしているのに対して、オランダはその1
つ 上 の A 2 レベル、 ド イ ツ に 至 っ て は レ ベ ル と 設 定 し て い る 。 もちろん、それぞれ
の語学講習の異なる規定の長さに起因するところもあるが、オランダとドイツでは原則
570時 間 と 6 0 0 時間とほとんど違いはないにも閨わらず、それぞれ違うレベルを要求し
ている。又、 ドイツ、フランス、オランダ以外の欧州の国ではどうかというと、オース
トリアでA 2 、デ ン マ ー ク で はB 1 と設定されていることから、欧州ではドイツとデン
マークが一番厳しく、フランスが— 番易しいことが分かる。どの国にも語学コース後に
は語学試験が課され、試験合格がその国での滞在権を得ることができるか否かに関わつ
てくることを考えると、フランスは外国人に対して門戸を広く解放しており、逆にドイ
26
ツは狭き門であると言える。
又、 ドイツの統合コースは語学コースと社会科コースの2 部構成であるのに対*して、
オランダとフランスでは語学と社会科コースに加え、カウンセラーによる就職相談を受
けることができる。これにより、移民はそれぞれの滞在国における就労の勝手や自身の
就労チャンスを理解することができ、よりスムーズに就職口を見つけることができると
考えられる。一方でドイツでは、一連のコースが終了すると移民による自助努力が求め
られている。こうして移民の自立を促すのは、移 民 法 第 1 章 第 4 3 条 第 2 項にある、「
統
合コースの目標は、外国人にドイツの言語、法秩序、文化、歴史を伝えることである。
これにより外国人が、日常生活の全事象において第三者の支援や仲介なしに自立して対
処できるまで、 ドイツ領域の生活状況に精通する…J という文面によって裏付けするこ
とができるが、統合コースが移民の就学率や就職率を高め、並行社会の形成を防ぐこと
を 目 的 の 1 つとしているのであれば、就職支援の手も差し伸べるべきではないだろうか。
又、社会科講習に関して、フランスとオランダの社会科講習では多言語で提供されてい
る— 方で、 ドイツではドイツ語でしか受講できない。基本的人権や法制度等、説明する
のに高度な言語が使用されるだろうテーマを、移民がドイツ語で正確に理解することが
できるのかはなはだ疑問である。
各国の講習受講費用も注目に値する。フランスおよびオランダでは受講者の経済状況
に_ 係なく、全ての移民は一連の講習を無料で受けることができる。その一方でドイツ
では、受■者が何かしらの社会給付を受けていない限りは、受講料は自己負担しなけれ
ばならない。 そ れ も 1 授 業 あ た り 1 ユーロかかるため、最 も 原 則 的 な 6 6 0 時間のコー
スを受講した場合には、
6 6 0 ユーロ(日本円にしておよそ65,00 0 円)と決して安くない金
額になる。コースへの参加開始から2 年以内にコース修了証を取得すれば、費用の半分
が払い戻しされるとは言え、移民にコース參加を義務付けておきながら、受講費用がか
かるのは理にかなってないのではないかと考える。
さて、 ドイツ、フランス、オランダの統合コースの比較をしてきたが、3 国とも共通
している点もあるものの、中でも①移民に求める言語レベル、②提供されるコースの充
実度、③受講費用の観点より、 ドイツの統合コースが移民に対して一番厳しいと言うこ
とができる。
27
4• 統 合 コ ー ス の 成果ならびに問題点
本章では、 ドイツにおける統合コースが実際に機能しているのか、どのような問題が生
じているのかを、様々な統計ならびにドイツにおけるメディアの記事等を用いながら明
らかにしていく。
4 . 1 . 統合コース参加者
まず、B A M F が毎年発行している統合コースに関する統計を用いて、統合 コースの
参加者状況について詳しく見ていく。統合コースに関する統計によれば、統合コース参
加者はドイツ全土で毎年1 0 万人を超えており、初 年 度 の 2 0 0 5 年 か ら 2009 年 ま で の 5
年 間 で 計 6 0 万人以上がコースに参加している。 フ ラ ンスのC A I締結者は、2003 年か
ら 2 0 0 7 年 ま で の 5 年 間 で お よ そ 3 1 万人、オランダの市民化講習参加者は年間約1 万
人と見積もられていることから、ドイツの統合コース参加者の多さは抜きんでているこ
とが分かる。この参加者の差は、コース実施主体の数の差にも大きく表れている。 ドイ
ツにおいては、2006年 末 時 点 で 1800以 上 の 実 施 主 体 、5800の施設で統合コースが実
施されていたのに対して(
戸田、p,20)、 フランスのC A Iは 2005年 時 点 で 、市民教育
は 3 0 か所、言 語 教 育 は 6 0 か 所 に 限 ら れ て い た (
今野他、p.108)。但 し C A I は 2 0 0 7
年より全国で義務化されていることから、現在はその数は増えていることが予想される。
オランダのデータは入手できていない。
表 3 統合コース年別参加者数
< 連邦移民難民庁「
統合コース年間報告2006〜2008、統
合コース年間統計2008〜2010」を基に筆者作成〉
:鍊愈3 =
謹 隨
2005
130.728
,
2006
117,954
2007
114365
2008
121,275
2000 — .一 1 へ
116,052 600,374人
又、2 0 0 5 年 〜 2 0 0 9 年 の 5 年間の平均で参加者全体の3 0 . 7 % が ニ ュ ー カ マ ー (
その
内およそ7 7 % が参加義務者)、
47.5%%が オ ー ル ド カ マ ー と E U 市民(その内およそ1 1 %
が参加義務者)、6.9%が後期帰還者といった割合となっている28。 この統計から、ニュ
一力マーのほとんどは統合 コースに義務で参加しており、オールドカマーのほとんどは
自由意志により参加していることが確認できる。下 の 図 6 は、全受講者を義務参加か自
由意志参加のどちらかで二分したグラフである。
28連邦移民難民庁(Bundesamt Mr Migrationimd Fliiditlinge) 「
統合コース年_ 統計
2009(IntegmtionskursgescMftsstatistik Mr das Jahir 2009)」p.3
htt:
p:
//www.bam£de/SharedDo.cs/Anlageii/PE/Down.load8/IofotheM!ntegratioiiskii.r8e/E
Mrstraesfer/Statistikeo/2009-qnartaI4 iEtegratioiiskursgeschaeftsstatistik ...bund
.....
blob=p ublication Flie
28
図 6
< 統合コース年園報告2006〜2008、統合コース年間統計2008〜2 0 1 0 を基に筆者作
成>
140000 T
120000 r
100000 f
80000 f
自由意志参加者
* 義務参加者
60000
40000
20000
2005
2006
2007
2008
2009
又、図 7 は2009年度における出身国別の統合コース参加者統計である。 ドイツで最
も大きなマイノリテイ集団であるトノレコ人を始め、イラクやコソボ、アフガニスタンか
らの難民、ロシアやベトナムといった旧共産圏の国々が並んでいる中で、 ドイツ人が全
体 で 第 2 番目、約 1 2 % を占めているが、 ここでのドイツ人は主に帰化したオールド力
マー達である。 ここから、 ドイツ社会にいかに多 く の ド イ ツ 語 が 出 来 な い 「ドイツ人」
が存在しているかを伺うことが出来る。統合コース成立時には、帰 化 者 も 含 め て 「ドイ
ツ人」は参加資格を有さなかったが、2007年の法改正よりドイツ語が満足に出来ない
帰化したドイツ人に関しては参加資格を得ることができることとなった29。
29連邦移民難民庁(Bimdesamt fiir Migration und.Fliichtiinge)
丨統合コース年間報告
2008{Integrationskursbilanz 2008)J p.9
http>//wwwAam£de/SharedDocs/Anlageo/DE/Dowiiioacts/liifothek/Iiiie^mtioiiskiirBe/K
iirstrae^er/Statlstikeii/2008dnteCTatioiiskursbilaB^-de.pdf? blobm blicatkm File
29
図 7
統 合 コ ー ス 年 間 統 計 2 0 1 0 (IntegrationsfcursgescM ftsstatistik jRir das Jahr
2010)より
「出身国別参加者 30J
2 0 0 9 年 統 合 コ ー ス 参 加 者 く 出 身 国 別 >
_ トルコ
成ドイツ
漏.イラク
麵ポーランド
» ロシア
コノノ.】
、
ウクライナ
ベトナム
モロッコ
» アフガニスタン
その他
30速邦移民難民庁(Bimdesamt fiir Migration und FHichtlinge) 「
統合コース年間統計
20100ntegrationskursgeschaftsstatistik fur das Jahr 2010)j
lifip:
//www.bam£de/BharedDocs/Aola£eii/I)E/Down.Ioad8/lnfotlieMategrationskiirse/K
m虛
:
腿
企
血
biob^p iibiicationF ile
30
醜
虚
CL™
4,2.
問題点
4 , 2 . 1 低 い コ ー ス 修 了 率 *修 了 テ ス ト 合 格 率
図8
< 統合コース年間報告2006〜2 0 0 8 、統合コース年間統計2008〜2 0 1 0 を基に筆者作
140000
|
! 120000
| 100000
I
I
80000
I
60000
;
"I
丨
藤試験合格者丨
|
I
t!
40000
i
!
I
S
20000
〇
2005
2006
2007
2008
2009
上 の グ ラ フ は 、2 0 0 5 年 〜 2 0 0 9 年 に お け る そ れ ぞ れ の 統 合 コ ー ス 参 加 者 数 、コース修
了 者 、そして修了テスト合格者 を 示 し た も の で あ る 。 グラフから 読 み 取 れ る よ う に 、コ
ー ス に 参 加 は し て も 、規 定 課 程 を 修 了 し 、修 了 テ ス ト 合 格 ま で た ど り 着 く 人 は 少 な い 。
初 年 度 で あ る 2 0 0 5 年 に お け る 統 合 コ ー ス 参 加 者 は 130,728名 で あ っ た が 、同年にコー
ス を 修 了 し 修 了 テ ス ト に 合 格 し た 者 は 12,151名 と 1 割 に も 満 た な い D そ の 後 、 コース
修 了 率 、修 了 テ ス ト 合 格 率 共 に 改 善 は 見 ら れ る も の の 、 •一番最近である2 0 0 9 年におい
て も 、 116,052名 の 参 加 者 中 、修 了 テ ス ト 合 格 し た 者 は 4 5 , 4 4 0 人 と 4 割弱に甘んじて
いる。そ れ も 2 0 0 8 と 2 0 0 9 年 の 試 験 合 格 者 に 関 し て は 、A 2 レベルの合格者も含まれて
いるた め 、実 際 の 試 験 合 格 者 率 は そ れ ほ ど 改 善 さ ;^て お ら ず 、3 割程度に留まるのでは
ないかと予想される。 こうした思わしくない成果には、様々 な 理 由 が 考 え ら れ る 。
31
4.2.L 1
高いドロップアウト率
まず、規定の課程を修了することなく多くの移民が途中でドロップアウトしてしまう
という問題がある。 B A M F に よ れ ば 参 加 義 務 者 の 1 0 % が途中でコースを去ってしまう
という31。 ドロップアウトした者に対するアンケートによると、辞 め た 理 由 と し て 、妊
娠や就業 といっ た や む を 得 な い 事 情 が 一 番 多 い 答 え だ っ た が 、「
6 0 歳過ぎの今からドイ
ツ語を学んでも仕方ない1 、『
時 間 の 無 駄 」等モチベーション不足によるものという回答
も目立った(
丸 尾 、:
P.22)。 特 に ド イ ツ の 大 都 市 に あ る 移 民 集 住 地 区 に 居 住 す る 者 は 、
ドイツ語なしで日常の用を足せることから、今 さ ら ド イ ツ 語 を学習することに意味を見
出せないと感じている。
4.2. L 2
高い非識字者率
そ し て 、難 民 を 中 心 と し た 非 識 字 者 の 多 さ も 低 い 修 了 率 の 一 因 と な っ て い る 。 2006
年 の ラ ン ボ ー ル •マ ネ ー ジ メ ン ト 社 に よ る 調 査 に よ れ ば 、渡独前に学校教育を全く受け
たことがない人が参加者の4 % を占めることが分かった(
丸 尾 、P .20)。 教育を受けた
期 間 が 6 年以下の者と併せると、16,4%に も の ぼ る (
丸尾、 p ,20)。彼らの多くは非識
字 者 で あ る た め 、特 朔 な 識 字 教 育 コ ー ス (Aiphabetisierungskurs )に入る。識字教育コ
ー ス は 、通 常 の 語 学 コ ー ス 6 0 0 時 間 に 3 0 0 時 間 が 上 乗 せ さ れ た 計 900時 間 の ブ ロ グ ラ
ムであり、受 講 者 は ア ル ファベットの読み書きから教わる。 しかし、アルファベットの
読み書きに.3 0 0 時 間 を 費 や し 、かつ通常のコ ー ス よ り 進 度 速 度 も 遅 い た め 、900時 間 か
け て も 目 標 レ ベ ル で あ る B 1 に到達するのはほぼ不可能だという。
この識字教育コースの需要は毎年増え続けており、実施された全コースのうち識字教
育コースが占める割合は、2 0 0 5 年 に は 2 . 2 % だった が 、2 0 0 9 年 に は 1 4 . 1 % と 6 倍以上
に増えている。
31 „ Jeder Fiinfite kommt nicht zum Integrationskurs (5 人 に 1 人が統合 コースをサボつ
ている) “ (2010 年 10 月 19 P) Frankfurter Rundschau
littfi-//www..6-oiiiine.de/home/iederfaenfte-kom;mt-iMcht-zii:m~:〇 itegratMlMfars,1112,778
.4757126.html
82
図9
それぞれの コースの割合
< 統 合 コース年 間 報 告 2006〜 2008、統 合 コース年間統計
2008〜 2 0 1 0 を基に筆者作成〉
100%
90%
80%
70%
60%
_ その他
50%
'《識字教育コース
40%
_ 親*女性のためのコース
.普通コース
30%
20 %
10%
0%
2005
2006
2007
2008
2009
4 2 . L 3 . 不適切なコース編成
連 邦 内 務 省 が 2007年 に 発 表 し た 移 民 法 の 評 価 報 告 書 に よ れ ば 、統 合 コース実施主体
は、 コース内 の 参 加 者 の 教 育 レベル、学 習 速 度 、 ドイツ語能力が均一的であることが望
ましいと考えているものの、実際には半分以上の実施主体が参加者それぞれに適したコ
ースを提 供 す る こ と が で き て い な い と い う 32。 そ の 理 由 と し て は 、政 府 が 統 合 コースに
充てる予算を削 っ て い る た め、統 合 コース実 施 主 体 は 様 々 な タ イ プ の コースを提供でき
ずにおり33*、 その結 果 、 同じコースに全 く 違った教 育 レベルや ドイツ語 レベルを持つ受
講 者が無理矢理押し込まれている。例 え ば 、アフリカ諸国から来た読み書きの出来ない
難民が、アフガニスタン人の学者と席を並べて座るということが起きているという虼
32連邦内務省 (Bimdesministerium des Innem )
「
移民法評価報告書 (Bericht zur
Evaimerung des Gesetzes zur Steuenmg und Begrenzimg der Zuwandemng.imd zur
Regelung desAufenthalts und der integration von Umonsbiirgem imdAusl•致
ndern)」
p.127
http»//www.bmi.&MBd.de/SiiaredPocs/PownloadB./DEAferoeftentIichmiEea/eYalid€roiigBb
ericht ziim ziiwanderan^se'esetz.pdf? blob^iibli.catio.ii.File
33 JDie Unwill%en sind bei ims im Promille *Bereich (ここでは統合を拒絶する者はほとん
どいない〉
”SMdeutsche Zeitimg 2010.10.10
http-//www.soeddeiitscjb.ejlefeol.itik/migranteii-:m-diiisbiir£,-die-imwiIli^©ii-siiici-bei-uo.sim-promille-bereich.-1.1010098
Jntegration ist eine Sdmecke (なかなか進まない統合)”Die Zeit Online 2009.01.28
http ://www,2eii;.de/oii.iine/2009/C)5/ 111.tegration-programme-stiidie
33
これでは、それぞれの受_ 者 に 効 果 的 な 指 導 が で き る は ず も な く 、高いドロップアウト
率 や低い修了試験合格率に繫がっていると考えられる。
4 2 , 1 . 4 講師の問題
統 合 コースの講 師 は 、①外 国 語 と し て の ド イ ツ 語 教 育 (D aF )、または 第二言語として
のドイツ語教育(DaZ )を学んだ者、② B A M F で の 所 定 の 認 定 を 得 た 者 で あ る か 、もしく
は ③ ① に も ② に も 該 当 し な い 場 合 は B A M F が 許 可 し た 機 関 で 授 業 を 行 う こ と が 2009
年末まで許されていた。そ の 結 果 、全 講 師 の う ち 約 6 割 が ③ に 属 し 、専門的な訓練を受
けずに授業を行っていた(
小 林 、P .128)。① や ② の 資 格 を有する者全員が質の良い授業
が出来るとは限らないが、一 般 的 に 、無 資 格 の 講 師 よ り も 有 資格者の方が良い授業を提
供できることに疑いの余地はない。統 合 コースの実 施 主 体 や 講 師 に よ っ て コースの質に
バ ラ っ き が あるのは問題であり、すべての受講者が公平に同じ教育を受けることができ
るよう、資 格 保 持 者 の み を 講 師 と し て 許 可 す る べ き で あ る 。 (
な お 現 在 は 、①もしくは
②の資格を有する者 の み が 授 業 を で き る こ と に な っ て い る 35。)
36
又 、講師の低い賃金も問題になっている。現 在 、資 格 を 持 っ た 統 合 コース講 師 は 1 時
間 に っ き 平 均 1 8 ユーロが支払われている%。 ここから更に各種保険等が差し引かれる
上 、授業 前 後 の準備時間は無給であるため3738
、実際手取りでもらえる賃金はかなり少な
い。 持 っ て い る 資 格 は ほ と ん ど 変 わ ら な い 学 校 の 教 師 た ち が こ れ よ り も 7 1 % も多く受
け取っていることを考えると、統 合 コースの講師たちがいかに低賃金で働いているかが
良 く 分 か る ' そう し た 魅 力 的 で な い 労 働 条 件 で は 、有能な講師が皆他所に流出してし
まう危険性と、講 師 の 授 業 に 対 す る モ チ ベ ー シ ョ ン に も 影 響 す る た め 、一刻も早い改善
が求められる。 教育経済 組 合 は 、 1 授 業 時 間 に つ き 少 な く と も 3 0 ユ ー ロ の 報 酬 と 、妥
当な労働契約を要求している39。 統 合 コース講 師 の 労 働 条 件 が 良 く な る こ と で 、授業の
35連邦司法省(Bimdesministeriium der Justiz)
「
統合コース令(Verordmmg tiber die
Durchfuhrung von Integrationskursen fur Auslander und Spataussiedler)j p .7
36 “Kontrolle fiir Integrationskurse(統合コ一スのコント ロー.-ル),
’
Fmnkftirter
Rundschau 2011.08.02
http >//www,fronIiiie.de/wi8seiischaft/kontrolle-ftierietei£rat;ioiis.k'〇
.:r8eJ472788,8735510
iitiiil
37 “Gut integrierte Jugendlidie rdcht abschieben(統合コースに従順な若者たちをたらい
回しにしてはならない)”Siiddeutsehe Ze:itimg 2010.11.03
Mfci>-//www.sneddentsche.de/poIitik/leiitheiiBger^BchiiarrenberEerziir-integration-CTt-m
tegri.ert€riii.genci.1i.che-:
mcht-a.bBehiebeii-1.1018847
38 “Kontrolle fiii* Integmtkmskurse(統合コースのコント ローノレ)” Frankfurter
Rimdschau 2011.08.02
39 “Regierang kilrzt Integrationskurse(政府、統合コースをカット)”TAZ 2011•雜 ,07
http >//www,taz,de/!77878/
34
質 も 上 が り 、それにより移民たちのコース修了 率 な ら び に 修 了 試 験 合 格 率 の 向 上 も 期 待
できる。
4 . 2 . 2 統 合 コ ー ス 実 施 主 体による不正の発覚
最 近 、統 合 コ ー ス 実 施 主 体 が 国 に 虚 偽 の 申告をして金を不正に受け取っていたことが
明らかになった。 統 合 コ ー ス 実 施 主 体 は 、參 加 者 1 人 1 授 業 時 間 に っ き 2 . 3 5 ユーロを
国から 受 け 取 り 、統 合 コ ー ス を 運 営 し て い る *。 每 授 業 参 加 者 の 出 欠 を と り 、出欠リス
トを BAM F に 提 岀 する仕組みである。今 回 明 ら か と な っ た の は 、複数の私営語学学校
がその仕 組 み を 悪 用 し 、参 加 者 が 欠 席 の 時 に も 出 席 と し て BA M F に申告する こ と で 、
金 を 不 正 に 受 け 取 っ て い た と い う こ と で あ る 。被害額は百 万 ユ ー ロ 単 位 に な る と い う 气
この問_ に対して、参加者は毎回直筆で出欠リストにサインをするという対策が講じら
れたもののぬ、移民にドイツ社会の法 秩 序 な ど を 教 え る 実 施 主 体 が こ う し た モ ラ ル に 欠
い た 行 為 を す る こ と は 、移 民 に 対 し て 示 し が つ か な い 。
4 . 2 . 3 . 待機リストの問題
ドイツ語を勉強するために統合 コースに参 加 し た く て も、すぐに参加できないという
問 題 もある。資 金 不 足 に よ り 需 要 に 見 合 っ た 数 の 統 合 コースを提 供 で き な い た め 、2010
年 の 夏 よ り 、自 由 意 志 で 統 合 コースに参 加 す る こ と を 決 め た 者 は 、実 際 コースを開始で
き る ま で 最 低 3 か 月 待 た な け れ ば な ら な い ' そ し て 2 0 1 0 年 9 月 時 点 で 約 2 万人の移
民 が 数 か 月 間 統 合 コースの席 が 空 く のを待 っ て い る 状 態 に あ っ た % B A M F によると、
これは一時的な対策にすぎず、予 算 状 況 が 回 復 次 第 す ぐに解 決 さ れ る と し て い た ものの、
結 果 的 に は 、多 く の 移 民 が コースの参 加 申請を してから 実 際 に コースを開始できるまで 34012
40 “Betriigereien in privaten Spraehschulen (私営語学学校で不正)”Siiddeutsche Zeitimg
2011.07.27
http -//ww w.BueddentBdie .d e/karnere/mteCTationskiirse -betruegereien- iii-priva.te n- s»ra.
chsclmleii-1,1124913
41 “Betriigereien in priaten Spmchschulen (私営語学学校で不正)”SMdeutsehe Zeitimg
2011.07.27
42 “Kontrolle fiir Integmtionskm*se(統合コースのコントロール)” Frankfurter
Rundschau 2011,08.02
43 “
SparwutderRegiemngbremst;Einwandereraus (政府のケチさが統合にブレーキをか
けている)”Spiegel Online 2010.09,22
http-//www,Bpi.e|yeLc!.e/8 .lit.ik/dent.scMaiMl./iiitegrat-ioii8kiirse-sparwiit-der-regienm^°bre
mstreinwandereraiisir71'8855:lit;oi.l
44 “SparwutderRegierangbremstEijawandereraus(政府のケチさが統合にブレーキをか
けている)”Spiegel Online 2010.09.22
〇
:
35
に 9 か 月 近 く 待 た さ れ た ' そ し て そ の 9 か 月間彼らは、十分なドイツ語ができないと
いう理由でまともな職に就くことも出来なかったという。こうした状態では、せっかく
移 民 に よ る ド イ ツ 語 を 勉 強 し た いという学習意欲もそがれてしまう。
4.3.
本章のまとめ
これまで見てきたとおり、統合コ ー ス は 様 々 な 問 題 を 抱 え て い る 。統合コースの導入
か ら 7 年 以 上 が 経 過 し て い る が 、参 加 者 の 多 さ に 対 してコース修了率ならびに修了試験
合 格 率 が 低 く 、望ましい効果を上げる こ と が で き て い な い 。そ の 原因は、参加者側と運
営側それぞれに見出すことができる。参 加 者 側 の 問 題 と し て は 、①モチベーション不足
などによるコースの中断、② 非 識 字 者 が 多 く 存 在 し 、彼 ら に と っ て は 修 了 試 合 格 が 難
題であるといったことである。一 方 で 、運 営 側 の 問 題 と し て は 、①移民それぞれの教育
水準やド イ ツ 語 能 力 に 見 合 っ た コ ー ス を 提 供 で き て い な い こ と 、② 2009年 ま で 無 資 格
の講師が教壇に立っていたこと、③講師への報酬が低 い た め 講 師 の 授 業 に 対 す る モ チ べ
一ション や授業の 質 に も 影 響 を 及 ぼ し か ね な い こ と 、の 3 点が挙げられる。② の 問 趣 は 、
既 に 2007年 に 資 格 保 持 者 の み が 講 師 と し て 認 め ら れ る よ う に な っ て い る が 、①と③に
関しては国の予算の問題でもあり、経 済 状 況 や 景気によって変動するためそう簡単に解
決できるものでもない。又 、低 迷 し て い る コ ー ス 修 了 率 *修 了 試 験 合 格 率 の 他 に も 、統
合コース 実施主体が 国 に 虚 偽 の 申 告 を し て 不 正 に お 金 を 受 け 取 っ て い た な ど 、コース実
施主 体 の モ ラ ル の 問 題 や 、資金不足 により需要に見合ったコースを提供できないために
多 く の 移 民 が 待 機 リ ス ト入りしている現状など、対 応 が 急 が れ る 問 題 が 山 積 み で あ る 。
そ し て 本研究を通して、 ド イ ツ に お い て 「
統 合 コ ー ス 』は ネガティブなイメージで認
識されていることが分かった。 ド イ ツ の ど の 新 聞 の イ ン タ ー ネ ッ ト *サ イ ト で 「
統合コ
ース」 というキーワード検索をしても、 出 て く る 記 事 の 見 出 し に は 「
失 敗 」や 「
問題」
といった文字が並ぶばかりで、統 合コースや移民に固する良い記事はほぼ報じられてい
ないに等しい。 そ れ は メ デ ィ ア の 性 質 上 、 「
視 聴 率 』 を得るためにそうした問題ばかり
を クローズアップしているだけであるのかもしれない。 しかし実際、本章でも見てきた
ように、BAMF が 発 行 し て いる統合コースに関する統計でさえも、思 わ し い 結 果 や 、「
成
功 j ととれるようなデータを見つけることはできなかった。そ う し た 意 味 で 、 ドイツに
おける「
統 合 コ ー ス j は現在のところ機能していないと結論付けることができる。
45
45 “Integration auf der Warteliste(待機リストにある統合)”Welt Online 2010.11.11
littp://www,weIt.de/priatMie weli/hambitr^/articIelO868385/Iiitegratioii-aiifderWart-el
isfceiitml
36
5>
まとめ
本 章 で は 、これまで検証してきたこ と を ま と め る と 共 に 、本 研 究 の 今 後の展望を述べる。
5 . 1 . 系ロ咖
本研究では、 ドイツにおける「
統 合 コ ー ス J に つ い て 、フランスとオランダの事例と
の 比較を交えながら検証をしてきた。ここで、今回明らかになったことを以下にまとめ
ていく。
ま ず 2 章 で は 、どのようにして統合コースが導入されるに至ったかを、 ドイツにおけ
る外国人の増加の経緯を含めて明らかにした。 ドイツは、終戦後様々な国から外国人労
働 者 を 受 け 入 れ た 。外 国 人 労 働 者 た ち は や が て ド イ ツ に 住 み つ き 、本国から家族も呼び
寄せはじめた。 加 え て 、8 0 年 代 後 半 よ り 主 に 東 欧 諸 国 か ら 多 く の 難 民 が ド イ ツ に 流 入
した。こうし て ド イ ツ に お け る 外 国 人 数 は 増 え 続 け た が 、それと比例するようにネオナ
チ 等 に よ る 外 国 人 襲 撃 事 件 も 続 発 、更 に は 米 同 時 多 発 テ ロに伴う社会のイスラム系移民
に対する不信感が拡大するなどした。そこで国は移民政策に本腰を入れざるを得なくな
り、そ の 結 果 2 0 0 5 年 「
統 合 コ ー ス J が誕生した。 これまで社会の周縁で暮らしてきた
移 民 に 、 ドイツ語やドイツ社会に関する知識を教示することで、彼らがドイツ社会に積
極的に参 加 す る こ と が 期 待 さ れ た 。
そ し て 3 章では、 ド イ ツ の 「
統 合 コ ー ス 」の 内 容 に つ い て 検 証 し た 上 で 、フランスと
オランダ の 事 例 に つ い て 触 れ 、比較した。統 合 コ ー ス と は 、移民のドイツ社会への統合
を 促 す た め に 、彼 ら に ド イ ツ 語 や ド イ ツ の 社 会 生 活 に つ い て 教 示 す る コ ー ス で あ り 、
600時 間 の ド イ ツ 語 コ ー ス と 6 0 時 間 の オ リ エ ン テ ー シ ョ ン コ ー ス の 2 部から成る。 受
講 資 格 者 は 、① 2005年 以 降 ド イ ツ に 来 た ニ ュ ー カ マ ー 、② 2005年 以 前 よ り ド イ ツ い た
オ ー ル ド カ マ ー 、③ 後 期 帰 還 移 住 者 で あ り 、中でも簡単なドイツ語ができないニュー力
マ ー に 固 し ては参加義務が課されるン両コースの規定課程を修了すると、 ドイツ語能力
試験とオリエンテーションコースに関する修了試験が待ち受ける。
このドイツの統合コースと、フランスと オ ラ ン ダ の そ れ を 比 較 す る と 、まず各国共通
しているのは、語学コースに加えて社会についての知 識 を 教 示 す る コ ー ス を 提 供 し て い
ることである。これはどの国においても、コ ース受講者の多くがイスラム教信仰者や難
民 な ど 、ホスト社会の原理や価値観とは異なるバックグラウンドを持っていることによ
ると考えられる。そ し て こ う し た 人 々 こ そ が 、社会に統合させ た い 対 象 ^*と な っ て い る 。
それは、ど の 国 に お い て も 表 面 上 は 「
す べ て の 移 民 j を対象としておきながら、実際は
E U 市民や先進 国 出 身 者 な ど は 対 象 か ら 外 さ れ て い る こ と か ら 見 て 取 れ る 。又 、 コース
を し っ か り 修 了 す ると特典があることも各国共通している。 どの国においても、コース
後 に 行 わ れ る 試 験 の 合 格 が 、定住権取得や帰化の 条 件 と 結 び つ け ら れ て い る 。逆 に 、コ
ー ス を し っ か り 履 行 し な い 者 に 対 し て も 各 国 、滞在許可更新が拒否されるなどの罰則が
37
ある。
— 方で相違 点 は と い う と 、まず注目すべきは各国がそれぞれの語学コース後に移民に
求 め る 言 語 レ ベ ル が フ ラ ン ス は A 1 レベル、 オ ラ ン ダ は A 2 レベル、 ドイツは B 1 レべ
ル と 3 ヶ国とも違うということである。どの国でも語学試験の合格がその国での滞在権
を得ることができるか否かに関わってくることを考えると、フランスは外国人に対して
最 も 門 戸 を 広 く 解 放 し て お り 、一 方 で ド イ ツ は 最 も 門 戸 を 閉 ざ し て い る と 言 え る 。 又、
オランダとフランスのコースの中には就職相談も組み込まれている— 方 で 、ドイツでは、
語 学 と 社 会 科 コ ースのみが提供されており、就労に関しては移民による自助努力が求め
られている。各 国の講習受講費用も注目に値する。フランスおよび才ランダではすべて
の受講者は無料で受講できる一方、 ドイツでは、受講者が何かしらの社会給付を受けて
いない限りは、受講料は自己負 担 し な け れ ば な ら な い 《そ れ も 1 授 業 あ た り 1 ユーロか
かるため、最 も 原 則 的 な 6 6 0 時 間 の コ ー ス を 受 講 し た 場 合 に は 、6 6 0 ユーロ(日本円に
しておよそ65,000 円)と決して安くない金額になる。以 上 、
①移民に求める言語レベル、
② 提 供 さ れ る コースの充 実 度 、③ 受 講 費 用 の 観 点 よ り 、 ドイツの統合コースが移民に対
して一番厳しいと言える。
そ し て 第 4 章 で は 、 ドイツの統合コースが実際に機能しているのかを、 B A M F 発行
の統計や、メディアの記事を用いて明らかにした。統合コースは様々な問題を抱えてい
る。 ま ず 一 番大きな問題は、 コ ース修了率ならびに修了試験合格率が低いことである。
その原因として、参 加 者 側 に よ る ① モ チ ベ ー シ ョ ン 不 足 な ど に よ る コ ー ス の 中 断 、②非
識字者が多く存在し、彼 ら に と っ て は 修 了 試 験 合 格 が 難 題 で あ る と い っ た こ と 、そして
運 営 側 に よ る ① 移 民 1 人 ひ と り の教育水準やドイツ語能力に見合ったコースを提供で
きていないこと、② 2009年 ま で 無 資 格 の 講 師 が 教 壇 に 立 っ て い た こ と 、③講師への報
酬が低いため講師の授業に対するモチベーションや授業の質にも影響を及ぼしかねな
いこと等が挙げられる。又 、この他にも統合コース実施主体が国に虚偽の申告をして不
正にお金 を受け取っていたなど、コース実施主体のモラルの問題や、資金不足により需
要に見合ったコースを提供できないために多くの移民が待機リスト入りしている現状
など様々な問題が見つかった。逆 に 、統 合 コ ー ス や 移 民 に 関 す る 思 わ し い 結 果 や 、成功
ととれるようなデータは見つからないため、統合コースは現在のところ機能していない
と言无る。
38
本 論 文 の 冒 頭 で も 指 摘 し た と お り 、今後日本における外国人数もますます増えていく
ことが予想される。 現 在 で こ そ 、外 国 人 が 総 人 口 に 占 め る 割 合 は 1.7%がとドイツやフ
ラ ン ス と い っ た移民国と比較して低い水準にあるが、これらの国々の水準に達するのも
時間の問題だろう。 日本もドイツや他の先進諸国と同様、少子高齢化に伴い国内労働力
だ け で は 現 在 の 経 済 力 を 維 持 す る こ と は 難 し く 、外国人労働者を受入れざるをなくなる
と言われている。そ し て も し 、 日 本 が 公 式 に 外 国 人 労働者を受け入れるのであれば、 日
本はドイツなどの移民 国 か ら 学 ぶ べ き こ と が あ る 。 本 論 文 の 第 2 章 で も あ っ た と お り 、
ドイツに来た外国人労働者たちは、労 働 契 約 期 間 が 切 れ た ら 本 国 に 帰 る も の だ と 思 わ れ
ていた も の の 、そのまま ド イ ツ に 残 り 、更に は 家 族 を 呼 び 寄 せ た 。 ドイツが不況となり
帰 国 奨 励 策 が 講 じ ら れ て も 、効果はほとんどなかった。 又 、第 3 章 で 確 認 し た と お り 、
ド イ ツの統合コースには毎年2 億 ユ ー ロ 以 上 も の 予 算 が 投 じ ら れ て い る 。こうしたこと
から、わ が 国 も ① 外 国 人 労 働 者 は 受 入 国 の 都 合 が 良 い よ う に は 動 か ず 、定住化する可能
性 が 高 い と い う こ と 、②全国で統一的にこうしたコ ー ス を 実 施 す る に は 膨 大 な コ ス ト が
かかるということ47 (今野ほか、P. 2 4 ) を認識した上で、外 国 人 労 働 者 の 受 け 入 れ や 、
その先の統合政策につい て 決 定 す る べ き で あ る と 考 え る 。具 体 的 に は 、日本に移住目的
で や っ て 来 た 外国人に対して、や は り 一 定 期 間 の 日 本 語 研 修 と 日 本 社 会 に お け る 基 本 的
な ル ールなどについての研修を課すべきである。ドイツを始め他のヨーロッパ諸国では、
最 初 に 外 国 人 労 働 者 を 受 け 入 れ 始 め た 1950年 代 か ら 、統 合 コ ー ス を 導 入 し た 2005年
ま で 約 5 0 年もの間法的拘束力のある移民のための教育や施策がなかった。 その結果、
野 放 し に さ れ た 移 民 と ド イ ツ 人 と の 間 で 教 育 水 準 や 就 業 率 や 格 差 が 生 じ た と 共 に 、様々
な社会問題が起こった。そう し た こ と を 避 け る た め に も 、日本は移民を受け入れるので
あれば、受 入 前 か ら 日 本 語 の コ ー ス な ど に つ い て 法 的 な 整 備 を 進 め る べ き で あ る 。
5 . 2 . 今後の課題
本研究では、 ドイツの移民政策の柱である「
統合コースj の検証をすすめてきたが、
今 回 の 研 究 で 行 え な か っ た こ と や 今 後 の 課 題 点 が い く つ か 見 つ か っ た の で 、ここに記す。
第 一 に 、筆 者 が 統 合 コースに実際 に 参 加 で き な か っ た こ と で あ る 。本 当 な ら ば 、実際
に ド イ ツ に 行 き 統 合 コースを受 講 し た り 、統 合 コース参 加 者 、実 施 主 体 、 B A M F など
に 聞 き 取 り調査を実施したかったが、就 職 活 動 等 に よ り 時 間 的 な 制 約 が あ っ た た め に 実
現 できなかった。従 っ て 、検証をするにあたってすべて 書 籍 や イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の 情 報
に 頼 る しかなかったため、 どこか実感を欠きながらの研究となってしまった。
第 二 に 、 ドイツの統合 コースと他 国 の 事 例 と を 比 較 す る に あ た り 、今 回 フランスとオ
祕法務省ホームページ「
平 成 2 0 年末現在における外国人登録者統計について J
h.ttp-//www,m.oi .go,】 |3/rwu.u.K〇 kuk^rt/kouh.(m/pm8s090,/10109071(hLM
39
ラ ン ダ の 2 力国しか引き合いに出すことができなかったことである。筆者が知る限りで
は、現在他にもオ'一ストリアやノルウェー、デンマ'一クといった国々でも統合コースに
似 た 移 民 の た め の 言 語 *社 会 科 コ ー ス が 提 供 さ れ て い る 。これらの国々の事例も比較で
きたら、 ドイツの統合コースについての理解がより深まったと感じる。ただ、これらの
国々のコースに關する書 籍 や 論 文 が 非 常 に 限 ら れ て い た た め に 、今 回 は 2 力国のみを比
較対象として選んだ。
そして、日 本 の 外 国 人 •移 民 の 状 況 に ついての理解を深めきれなかったことも挙げら
れる。 当初は、移 民 国 で あ る ド イ ツ の 移 民 政 策 に つ い て 検 証 を す る こ と で 、今後の日本
にとって参考になると考えたものの、ドイツの移民政策について検証をすることに時間
をかけすぎてしまったことで、日 本 の 現 在 の 外 国 人 •移 民 の 状 況 を 納 得 い く ま で 把 握 を
することが出来なかった。
移 民 問 題 は 、今後もずっと 続 い て い く 。特 に 金 融 危 機 で E U が揺れてい る 現 在 、安定
した経済力で「
独 り 勝 ち j 状 態 で あ る ド イ ツ へ 、今 後更に多くの人が流れ込むと私は予
測している。 •〜方で日本も、大量の外国人労働力を受け入れなければならなくなる日は
そう遠くないだろう。そうした 意 味 で 、以 上 に 挙 げ た 課 題 点 を 忘 れ る こ と な く 、これか
らの各国の移民政策の動向に注目していきたい。
5 .3 . m m
本研 究 の 実 施 な ら び に 本 論 文 の 執 筆 に あ た っ て 、多くの方々の協力を得た。この場を
借 り て 、感 謝 の 意を表したい。
まず、本 研 究 の 実 施 に 際 し て 、研 究 会 の 担 当および卒業プロジェクトの担当を引き受
けてくださった、古石篤子総合政 策 学 部 教 授 に 深 く 感 謝 申 し 上 げ る 。学 部 3 年生より古
石 研 で熱心なご指導いただき、研 究 会 の テ ー マ で あ る 「
多 言 語 活 動 」についてはもちろ
んのこと、論文やアブストラクトの書 き 方 に つ い て も 知 識 を 深 め る こ と が 出 来 た 。そし
て、本論文の 執 筆 に あ た り 、参 考 文 献 と し て 西 山 教 行 氏 の 「
共和国統合をめざす受入れ
統合契約と移民へのフランス 語 教 育 の 制 度 化 に つ い て 」という論文を勧めてくださった
ほか、研 究 会 内 で は も ち ろ ん 、研 究 会 外 で も 、お忙しい中時間を割いて本論文に対する
ア ド バ イ ス を 下 さ っ た ^こ う し た 丁 寧 な ご 指 導 な し で は 、本論文は日の目を見ることは
なかったと考える。 この場を借りて心から感謝したい。
同時に、古石篤子 研 究 会 の 学 生 の 皆 さ ん か ら は 、研究発表に対する適切なフィードバ
ックや指摘を頂くことができたほか、皆さんの研究発表や毎週のディスカッションを通
じて、知見を深めることができた。
上 記 の 方 々以外にも、本研究の実施ならびに本論文の執筆にあたり協力してくださつ
たすベての皆様へ心から感謝したい。
40
a
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43
e/Kurstraeger/StatiBtiken/2007 -iii tegratioiiBkursMlaiiz~de.pdf ? blob - BubIi.ca.tionFl
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連邦移民難民庁 (Bundesamt fiir M igration und FKiclitlinge)
『
統合コース年間報告
200 B(Integrationskursbilanz 2008 )J
http -//www,baii§£de/Share<I.P ocs /AiiIageii/DE/DownlQadB/lBfbthek/lateCTationskiirs
e/Kurstraeger/Siatistiken/2008-iiitegratiQiiBkiirsbilanz^cie,pdf?
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連邦移民難民庁 (Bundesamt fiir Migration und Fliichtlinge )
「
統合コース年間統計
2008( Integrationskursge 8chaftsstatistik fur das Jahr 2008) j
http://www上am lde /SharedDocs/Anlagen /DE/DowBioads/Iiifotliek/IntegfatioiiskiifB
e/Knrstraeger/Statistikeii/2008'~qiiartai4 integrat.ioa.skur8sreschaefts6tatistik bund
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連邦移民難民庁 (Bundesamt fiir M igration und FMchtlinge )
「
統合コース年間統計
2009 (IntegrationskursgeschMtsstatistik fiir das Jahr 2009 )j
http-//www,bamf.de/SharedDocs/Anlaareii/DE/Powoload8/Infothe]k/Initegratloii.8kiirs
e/Knrstraeger/Stati8tiken/2009-quartal4 integrat1011skiirsgeschaeftsstatistik bund
.Bdf?
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連邦移民難民庁 (Bimdesamt fiir Migration und Fliichtlinge )
「
統合コース年間統計
201 Odntegrationskursgeschaftsstatistik fur das Jahr 2010)]
http >//www.bam £ de/ShareciDocB/Aiilageii/PE ./Dowiiloads/ImQtjiek/iiitegratlonskiirs
e/KnrBtraeger/Statistikeii/2010~ciiiagtal4 integratlonskiirsgeBchaeftsBtatistijSc bund
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連邦移民難民庁 (Bimdesamt fiir M igration mid FMchtlinge )
「
統合コースの図解
(Grafische Ubersicht zum Integrationskurs )j 【
幽 1】
http -//www»bam£ de/SliaredDQCB/AQiagea/DE/DowiilQacis/Irifofchek/Iiitegrati〇R.skii;rs
e/I^etirkraefte/grafik~ziim.~iiitegratioii8kurB~fidf.pdf ? blob=publicationF ile
連 邦 統 計 局 (Statistisches
Bimdesamt )
「人 口 状 況 (
BevSlkemngsstand ) j
httDs-7/www ,deBtatiB.cie/PE /ZahIeiiFakteii/Ge8eEschaft-Staat/Be ¥〇elkermig/Be¥〇elk
er 觀 gsst 簡 d/Ta.bellen/Ge8d i !.ech.tStaatsaiwehoeriek.e it ^
44
連 邦統計局(Statistisches Bxmdesamt)
「
出身 国 別 外 国 人 数 (Anzahl der AusMnder in
Deutschland nacn Herkunftsland )」
http://de,sta.ti.8ta,cx)m/statistil£/dateii/8tudie/122l/iimirage/aiizahrdermg.siaeio.d.er~m
~deutschlaiid~iiacli-lierkimftslaiici/
連邦内務省仿1«1<1©811|1]〇1816111〇11(1©8 111脱《]1)
「
移 民 法 (Zuwanderungsgesetz )J
h.ttD-//www,bmlbiiiMi,de/SharedDocs/Ge8etzeBtexte/DE/ZMwanderiiiigsgesetz,pdf?
blob-pMblicatioiiF ile
連 邦 内 務 省 (Bundesministerium des Innern )
「移 民 法 評 価 報 告 書 (BericM zur
Evaluierim g des Gesetzes zur Steuerung und Begrenzung der Zuwanderung und
zur Regelung des Aufenthalts und der Integration von Unionsburgern und
Auslandem )」
http~//www,bmi.bMnd»de/SharedDocB/Dowiiioads/DE/¥eroeffentl.i.chmigeii/evaltiiem
ngsberiehtzum zuwandem n& sgesetu,
df?bldb=piiM:i€ationFile
連 邦 司 法 省 (Bundesministerium der Justiz )
「
統 合 コ ー ス 令 (Verordmmg iiber die
Durchfiihrung von Integrationskursen fur Auslander und Spataussiedler)J
http-//www.gesetz6-im-mtemet;
de/mtv/BJNR887000004.html
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ド イ ツ に お け る 移 民 政 策 「統 合 コ ー ス 」 の検証
フ ラ ン ス •オ ラ ン ダ の 例 と の 比 較 を 交 え て 一
2014年1月15日
初版発行
著者 廣松淳平
監修 古石篤子
発行 慶應義塾大学湘南藤沢学会
〒252-0816神奈川県藤沢市遠藤5322
TEL:
0466-49-3437
P rinted in Japan
印刷•製本
ワキプリントピア
SFC-SWP 2013-003
■本 論 文 は 研 究 会 に お い て 優 秀 と 認 め ら れ 、出 版 さ れ た も の で す 。
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