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NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE Title 小学生の学校および家庭生活ストレスに関する縦断的研究 Author(s) 谷口, 弘一 Citation 教育実践総合センター紀要, 12, pp.81-85; 2013 Issue Date 2013-03-20 URL http://hdl.handle.net/10069/31372 Right This document is downloaded at: 2017-03-28T11:58:12Z http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp 「研究論文」 小学生の学校および家族生活ストレスに関する縦断的研究 谷口弘一(教育学部人開発達講座) Abstract h emiddle,andt h eendofas c h o o ly e a r,124s i x t h y e a re l e m e n t a r y Att h eb e g i n n i n g,t s c h o o ls t u d e n t scompletedq u e s t i o n n a i r e sr e g a r d i n gs c h o o landhomes t r e s s o r s( s c h o o l work,f r i e n d s,t e a c h e r s,and p a r e n t s ) and s t r e s sr e s p o n s e s( i r r i t a t e d a n g r y emotion, d e p r e s s i v e a n x i o u semotion, c o g n i t i o n t h o u g h tofh e l p l e s s n e s s, andp h y s i c a lr e s p o n s e ) . Fors c h o o landhomes t r e s s o r s, t e a c h e rs t r e s s o rwash i g h e ra tt h eendofthey e a rt h a na t t h eb e g i n n i n g, p a r e n ts t r e s s o rwash i g h e ra tt h emiddleoft h ey e a rt h a na tt h eend, and s c h o o lworks t r e s s o ramongg i r l s was h i g h e ra tt h e middle oft h ey e a rt h a na tt h e b e g i n n i n g .Fors t r e s sr e s p o n s e s,i r r i t a t e d a n g r yemotionamongboyswash i g h e ra tt h e middleandt h eendoft h ey e a rt h a na tt h eb e g i n n i n g . Keyw o r d s :s c h o o landhomes t r e s s o r s, s t r e s sr e s p o n s e s, e l e m e n t a r ys c h o o ls t u d e n t s . 問題と目的 本研究の目的は,小学生を対象にして,学校および家族生活のストレッサーと ストレス反応の 1年 間 に わ た る 時 系 列 的 な 変 化 を 検 討 す る こ と で あ る o Brown& Armstrong ( 19 82) は , 中 学 校 の 女 子 新 入 生 を 対 象 に し た 縦 断 的 研 究 に より, 1学期から 2学 期 に か け て , 友 人 関 係 の ス ト レ ッ サ ー を 経 験 す る 生 徒 の 割 合が減少する一方で,学業のストレッサーを経験する生徒の割合が増加すること を明らかにした。また, C o t t e r e l l( 19 82) は,中学入学後 3 週 間 の あ い だ で , 授 業に対する不安が増加すること,また,環境全般や対人関係に対する不安には時 間的変化がほとんど見られないことを見いだした。 心身の健康状態や学校適応過程の時系列的変化について, Hi r s h& Rapkin( 1 9 8 7 ) は,中学校入学後半年から一年の聞に,自尊心が上昇する一方で,学校満足感, 授業への関与,教師への肯定的態度が低下することを示した。我が固では,耳塚・ 苅谷・演名・庄 ( 1 9 8 3 ) が , 教 師 関 係 を 主 と し た 学 校 生 活 状 況 が 中 学 1年の 6月 まで上昇し, 6月から 1 1月にかけて悪化したあと,再度, 2年から 3年 に か け て 上昇すること,授業の理解度が 1年から 2年にかけて低下することを見いだした。 ス ト レ ッ サ ー と 心 身 の 健 康 状 態 を 同 時 に 扱 っ た 三 浦 ・ 坂 野 ( 19 96) は,中学 l 年生から 3年生を対象にして, 4月から 7月の 1学 期 間 に お け る 学 校 ス ト レ ッ サ ーとストレス反応の変化を検討した。その結果,学校ストレッサーに関しては, -81ー 学 業 ス ト レ ッ サ ー の 経 験 頻 度 が 5,6月に高くなること,また,友人関係ストレッ サ ー の 経 験 頻 度 が 6月 以 降 低 く な る こ と を そ れ ぞ れ 見 い だ し た 。 ス ト レ ス 反 応 に 関しては,学年によって時系列的変化の特徴が異なっていた。 1年生は, 4月から 5月にかけてストレス反応が低下していた。 2年生は, 4月 に 不 機 嫌 ・ 怒 り 感 情 や 無気力反応が高く, 6月に身体的反応が高くなっていた。 3年生は, 4月から 7月 までの 4か月間を通して,ストレス反応がほぼ変化することなく一定であった。 三浦・坂野(1996) の研究は, 4月から 7月の 4 ヶ 月 間 と い う 比 較 的 短 期 の 時 系 列 的 変 化 を 示 し た も の で あ る 。 そ れ に 対 し て , 谷 口 (2008) は , 中 学 ・ 高 校 新 入生を対象にして 1学期から 3学期の 1年 聞 に わ た る 学 校 お よ び 家 族 生 活 ス ト レッサーとストレス反応の時系列的な変化を検討した。ストレッサーに関しては, 中・高校生ともに,学業ストレッサーが入学後半年ほど経過した時点で多くなる こと,また,教師ストレッサーが学年の後半になって増加することが示された。 ストレス反応に関しては,中学生では抑うつ・不安が,高校生では不機嫌・怒り, 抑うつ・不安,無気力,身体的反応が,年聞を通して時間の経過とともに上昇し ていた。 本 研 究 で は , 小 学 生 を 対 象 に し て , 谷 口 (2008) と同様に 1学期から 3学期 の 1年 間 に わ た る 学 校 お よ び 家 族 生 活 ス ト レ ッ サ ー と ス ト レ ス 反 応 の 時 系 列 的 変 化を検討した。 方法 間査参加者と聞査手続き 公 立 小 学 校 の 6年 生 124 (男子 57名 , 女 子 67名 ) が 調 査 に 参 加 し た 。 各 学 級 担任の先生が,ホームルームや放課後の時間を利用して調査を実施した。調査は, 1 学期 (6 月中旬 ~7 月中旬) , 2学期(12月初旬 中旬) , 3学期 ( 3月中旬) の計 3回 に わ た っ て 行 わ れ た o 調査内容 調査用紙には,フェイスシートに記載された回答者の個人的属性を質問する項 目の他に,以下に挙げる尺度が含まれていた。 3 回 の 調 査 と も , 同 一 の 尺 度 が 使 用された。 学校および家族生活のストレッサ一 三浦・福田・坂野(1995) が 作 成 し た 中 学生用学校ストレッサー測定尺度を用いた。この尺度は,学業,教師との関係, 友 人 と の 関 係 , 部 活 動 の 4つ の 下 位 尺 度 か ら 構 成 さ れ て い る 。 本 研 究 で は , 部 活 -82ー 動を除く 3つ の 下 位 尺 度 に つ い て , 因 子 負 荷 量 を 考 慮 の 上 , 各 5項 目 ず つ 合 計 1 5 項目を採用した。この他に,小・中・高校生を対象にした自由記述による事前調 査 を も と に , 親 と の 関 係 の ス ト レ ッ サ ー を 測 定 す る 項 目 を 作 成 し , 新 た に 5項目 を 追 加 し た 。 全 20項 目 に 対 し て , 最 近 数 ヶ 月 間 の 経 験 頻 度 を 4件法(1=全然な かった 4 =よくあった)で評定させた。下位尺度ごとに各項目の得点を合計して ストレッサー得点を算出した。得点が高いほどストレッサーの経験頻度が高いこ とを示す。 α係 数 は 1回目から 3 回 目 の 順 に , 学 業 が . 7 7, . 7 5, . 7 9,教師との 関係が . 8 4, . 8 1, . 8 8, 友 人 と の 関 係 が . 7 0, . 7 8, . 8 3, 親 と の 関 係 が . 8 4, . 8 2, . 7 9 であった。 ストレス反応尺度 三浦・福岡・坂野(19 95) によって作成された中学生用ス トレス反応尺度の中から,因子負荷量を考慮して, 4 つ の 下 位 尺 度 ( 不 機 嫌 ・ 怒 り,抑うつ・不安,無気力,身体的反応)から各 5項 目 ず つ 計 20項 目 を 選 択 し て 用いた。調査参加者は,各項目によって示されている気持ちゃ体の調子が,最近 の自分にどの程度当てはまるかに基づいて, 4 件法(1=全く違う ~4= その通り だ)で評定を行った。下位尺度ごとに各項目の得点を合計してストレス反応得点 を算出した。得点が高いほどストレス反応の程度が高いことを示す。 α係数は, 1 回目から 3回目の順に,不機嫌・怒りが . 8 7,. 9 0,. 9 1,抑うつ・不安が . 8 5,. 8 9,. 8 7, 無気力が . 8 4, . 8 4, . 8 5,身体的反応が . 8 1, . 8 3, . 8 1であった。 結果と考察 学校および家族生活ストレッサーの時系列的変化 各下位尺度に対して,測定時期(1, 2,3学期) x性別(男,女)の 2要 因 分 散 分析を行った ( F i g u r e1)。その結果,教師との関係および親との関係の 2つのス トレッサーにおいて, ìIl~定時期の有意な主効果が認められた(教師: F(2,1 9 0 )= 9 . 1 4, p <. 0 1 ; 親 :F(2,1 8 6 )= 3. 44, p <. 0 5 ) 。多重比較の結果,教師との関係では 1学期 (m= 8 . 7 8 ) よりも 3学期 (m=10.15) の得点が高かった o 親 と の 関 係 で は 3学期 (m=9 . 1 6 ) よりも 2学期 (m=9 . 91)の得点が高かった。学業のストレッ サ ー で は , 測 定 時 期 と 性 別 の 交 互 作 用 効 果 が 有 意 で あ っ た (F(2,1 8 2 )= 3 . 7 9,p <. 0 5 ) 。下位検定の結果,女子において, 1学期 (m= 1 0 . 3 5 ) よりも 2学期 (m= 11 . 38 )の得点が高かった。教師との関係ならびに学業のストレッサーにおけるこ うした時系列的変化は,中学・高校進学時の児童・生徒の学校適応過程を検討し た先行研究 (Brown& Armstrong,1 9 8 2 ;Hi r s c h& Rapkin,1 9 8 7 ; 耳塚・苅谷・漬名・ 庄 , 1 983,谷口, 2008) の結呆とほぼ一致している。小学 6年生においても,中学・ 高校新入生と同様に,学業に関する不安や心配事は進級後半年ほど経過した時点 で多くなること,また,教師との関係に関する不安や心配事は学年の後半になっ て増加することが示された。 -83ー 1 2 1 0 平 均 得 点 8 6 4 2 。 学業 教師 友人 親 F i g u r e1ス卜レツサーの時系列的変化 ストレス反応の時系列的変化 各下位尺度に対して,測定時期(1, 2,3学期) x性別(男,女)の 2要 因 分 散 分析を行った ( F i g u r e2 )。その結果,不機嫌・怒りにおいて,測定時期の主効果 ( F ( 2,196)= 4 . 2 3, P<. 0 5 ) ならびに測定時期と性別の交互作用効果 ( F ( 2,196)= 6 . 8 3, p <. 01)が有意であった。下位検定の結果,男子において, 1学期 (m= 9 . 2 5 ) よりも 2, 3学期 ( m=11 .9 4a n d11 .7 9 ) の不機嫌・怒り得点が高かった。時間の 経 過 に と も な う 不 機 嫌 ・ 怒 り の 増 加 は , 高 校 新 入 生 を 対 象 に し た 谷 口 (2008) に おいても同様に確認されている。先に示したストレッサーの時系列的変化に関す る分析結果を踏まえると,小学生では,教師との関係におけるストレッサーの増 加が,男子の不機嫌・怒り感情の表出を増大させている可能性が考えられる。 1 2 1 0 64 平均得点 8 2 o 不機嫌・怒り抑うつ・不安 無気力 身体的反応 F i g u r e2ストレス反応の時系列的変化 84 引用文献 Brown,J . M.,& Armstrong,R .( 1 9 8 2 ) . The s t r u c t u r e of pupi 1s 'w o r r i e sd u r i n g r i t i s hEducationalResearchJournal ,8, t r a n s i t i o nfromj u n i o rt os e c o n d a r yschool .B 1 2 3 1 3 1 C o t t e r e , 1 l J .L .( 1 9 8 2 ) .S t u d e n te x p e r i e n c e sf ol 1owing e n t r yi n t os e c o n d a r y school . EducationalResearch, 24, 296-302 H i r s c h,B .J .,& Rapkin,B . D. ( 19 8 7 ) . The t r a n s i t i o nt oj u n i o rh i g hs c h o o l :A s y c h o l o g i c a l symptomatology,s c h o o ll i f e,and l o n g i t u d i n a ls t u d yofs e l f e s t e e m,p s o c i a ls u p p o r t .ChildDevelopment,58,1235-1243. 耳塚寛明・苅谷剛彦・演名陽子・庄健二 ( 1 9 8 3 ) .小・中学校における学校生活の 変 容 過 程 に 関 す る 継 時 的 研 究 ( I ) 東京大学教育学部紀要, 23,77-100 三浦正江・福田美奈子・坂野雄二 ( 1 9 9 5 ) . 中学生の学校ストレッサーとストレス 反応の継時的変化 5 5 . 日 本 教 育 心 理 学 会 第 36回総会発表論文集, 5 三浦正江・坂野雄三 ( 1 9 9 6 ) . 中学生における心理的ストレスの継時的変化 教育 心理学研究, 44,368・ 3 7 8 . 谷口弘一 ( 2 0 0 8 ) . 中・高校生の学校および家族生活ストレスに関する縦断的研究 2 4 5 . 同志社心理, 55,241・ -85ー