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伊豆半島沿岸部の風位語にみる地域差

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伊豆半島沿岸部の風位語にみる地域差
伊豆半島沿岸部の風位語にみる地域差
太 田 有 多 一子
1 、 はじ め に
本稿 で は、伊 豆半 島沿岸 部 の漁業 に 関す る語彙 の蒐 集 のた めに行 っ た
1986 年7 月 、9 月 の 臨 地 調 査 、1987 年3 月 の 確 認 調 査 よ り 得 ら れ た 資 料 か
ら、 伊豆半島 沿岸部の風位 語について まとめた。
こ の 調 査 は、 山 口 幸 洋 氏 を 始 め ど す る 久 木 田 恵 氏(1)
、河 野敏宏氏 、山 口
薫 氏 、山 田 健 三 氏 、吉 村 理 利 氏 そ し て 太 田 の7 名 に よ る 共 同 調 査 で あ る
(2)
。
調 査 地 点 は30 地 点 (被 調 査 者33 名 ) で 、 漁 業 に従 事 し て い た か √ 現 在 も
従 事 し て い る 方 を対 象 に調 査 を 行 っ た。 地 点 名 は図1 に 示 す 通 り で あ る 。
そ のうち、 確認調 査
(3)
が で き た の は25 地点 (被 調 査 者28 名 ) で あ っ た 。 本
稿 は、 全 地 点 で の資 料 を も と に し て い る が 、 各 風 位 語 の 出 現 と 使 用 に 関 し
て だ け は 、確 認 調 査 の 可 能 で あ っ た25 地 点 の 資 料 に よ っ た 。
伊豆 半島沿岸 部は、
ご地 形 条 件 か ら 南 東 岸 の 爪 木 崎 、 南 西 岸 の波 勝 崎 に境
を 置 き 、 東 海 岸 部、 南 海 岸 部 、 西 海 岸 部 に 三 区 分 さ れ る 。( 図1 )
東 海 岸 部 は相 模 湾 に 面 し 、 そ の 地 理 的 条 件 か ら 東 京 と 結 び 付 き の 強 い 観
光 地 、 レ ジ ャ ー 地帯 で あ り、 太 平 洋 につ き で た 形 の南 海 岸 部 ぱ黒 潮 の 影 響
で 南 国 的 気 候 を持 つ 。 そ し て 、 西 海 岸 部 は 駿 河 湾 に面 し 、 三 海岸 部 の 中 で
最 も平 地 が 少 な く、 交 通 の 発 達 の 遅 れて い た 所 で あ る。 風 位 語 と 地 形 は密
接 な 関 係 に あ る も の だ が 、 本 稿 で は、 伊 豆 半 島 沿 岸 部 に お い て 風 位 語 に ど
の よ う な 特 徴 が み ら れる の か を 、系 統 別 に 分 け た風 位 語 か ら 探 り 、 さ ら に
風 位 語 彙 の 地 域 差 、 風 位 語 の風 位 の 地 域 差 と 三 区 分 さ れ る 地 形 と の 関 わ り
−
図1 調 査地点 名
伊 豆 山 浜 (い ずさ ん は ま)
鴉
a 重 寺 ( しげ でら )
網代 (あ じ ろ
初 島 (はつ し ま)
久連 (くづ ら)
新 井 (あ ら い)
富 戸 (ふ と )R
(Ξ〉八 木 沢(
や ぎ さ わ)
八幡 野 (や わ たの )
東海岸部
'(Ξ)1
宇久 須( う ぐ す)
北 川 ( ほっ か わ)
(Ξ〉安 良里( あら り)
゛田子( た ご)
稲 取( い な と り)
sc! 沢田( さ わだ)
〈Ξ〉岩 地(
(・》1
雲 見(
c
い わ ち)
く も み)
凡 例
−-
西海岸 部
−
-
2
伊浜(いはま)
゜調 査 地点 30 地点
惣
・,落居(おちい)
鸞
俘 浦 にうら)
R 妻良(めら)
@ 確 認 調査 地 点 25 地点
〈
Ξ
〉
須 崎 (す ざ き)
<Ξ 〉
田牛 (とう じ)
。j
下流 (し たる )
大瀬 (おお せ )
南海岸 部
宇久 須 稲 取 網 代で は 被
調 査 者 は各2 名
-
3
−
か ら もと ら え て い く 。
2 、伊豆半島沿岸部における風位語の系統
本稿 で は 、 漁 業 に 関 す る 語 彙 の う ち風 の 語 彙 、 そ れ も 丁風 位 を 持 つ 語 」
の み を 取 り 上 げ た が 、 今 回 の 調 査 で 得 ら れた 風 位 語 は241 語 で あ っ た 。
ま ず 、 こ れ ら を系 統 別 に ま と め る 。 キ タ 系 統 に は 、 キ タ を始 め 、 語 の 中
に 「 キ タ 」 を含 む もの 、 例 え ば キ タ カ ゼ 、 キ タ ッ ポ ー、 キ タ ナ ラ イ 、 キ タ
ニ シ 等 が 属 す る。 従 っ て 、 キ タナ ライ 、 キ タニ シ の よ う な 複 合 形 は そ れ ぞ
れ、キ タ ナ ラ イ は ナ ラ イ 系 統 、キ タ ニ シ はニ シ系 統 に も 属 す る こ と に な る 。
こ の よ う に 整 理 し て い く と 、34 系 統
(4)
に 分 け ら れ 、 こ の 中 で ま と まっ た 語
彙 量 を も つ 風 位 語系 統 と し て は 、方 位 の 意 味 も含 む キ タ 系 統 、ミ ナ ミ 系 統 、
ニ シ 系 統 に 加 え て 、 ダ シ 系 統 、 オ キ系 統 、 サ ガ 系 統 、 ナ ラ イ系 統 、 コ チ 系
統 、 イ ナ サ系 統 が あ げ ら れ る 。(表1 ) そ し て 、 こ れ ら は ほ ぼ 全 地 点 に み
ら れ る系 統 で もあ り 、 伊 豆 半 島 沿 岸 部 の 風 位 語 の 特 徴 を 成 す も の で あ る。
上 記9 系 統 の 共 通 項 と し で は 、 各 系 統 と も代 表 風 位 語 に ∼ ケ (弱 風 )、 オ
-
(強風)、 ∼ジヶ (時化 風) を付け た風位 語を基 本的 に持 ち、 各系 統
∼
の主 な風 位から他 の系 統 の風 位へ寄 ると二系統が 結び付 き、 例えば キタナ
ライ、 キタニシ とい うよ うに複合形風位 語を作 る。 また、 ダシ系統、 ナラ
イ系統、 ニシ系統 は地名等 の固有名詞 の付い た風 位語を有 している。
2 −1 、主な系統の 風位
次 に、伊豆半 島沿岸部全域 におけ る主 な系統 の風位 をみていく。
キ タ系 統は北西 ∼北∼北東 からの風 だが、西 寄りの キタニシ、東寄 りの
キ タナライ を除けば、主 に北 からの風位 語系統 である。
︱`
ナ ミ 系 統 は 南 東 ∼ 南 ∼ 南 西 か ら の 風 で 、こ れ も東 に 寄 っ た コ チ ミ ナ ミ、
イ ナ サ ミ ナ ミ や、 強 風 や 時 化 で 東 西 に ゅ れる こ と の あ る オ ー ミ ナ ミ、 ミ ナ
-
4
−
表1 系 統別 風位 語表
系 統
語彙数
キ タ
10
風 位 語
キタ ・キ タカゼ (キタ ノカゼ) ・ キ タッポ (−) ・ マキ タ
・ ス ギ タ ・ キ タ ッケ ・ キ タ ジ ケ ・ ア マ ギ タ ・ キ タ ナ ラ イ ・
キ タニ シ
ヒ ガシ
5
ヒ ガ シ ・ ヒ ガ シ カ ゼ (ヒ ガ シ ノ カ ゼ ) ・ ヒ ガ シ モ ン ・
マ ヒガ シ ・ヒ ガシヨ リ
ミナ ミ
18
ミナ ミ・ ミナ ミカゼ (ミナ ミノカ ゼ) ・ ミナ ミッ ポ・
ミナ ミモ ン・マ ミ ナミ・ ミ ナミ ッケ・ ミ ナミ ノソ ヨソヨ ・
オ ーミナ ミ・ ミナ ミジ ケ・ アメ ミナ ミ・ ミナ ミヨリ ・
ヨリ ミナ ミ・ ミナ ミ オキ・ ミナ ミオカ ・ ミナ ミヨ ー・
ヨ (− ) ミ ナ ミ ・ イ ナ サ ミ ナ ミ ・ コ チ ミ ナ ミ
− こ
- ン
32
ニ シ ・ ニ シ カ ゼ (ニ シ ノ カ ゼ ) ・ マ ニ シ ・ ホ ン ニ シ ・
ニ シ ッ ケ ・ ニ シ ッコ ・ ニ シ ノ ソ ヨ ソ ヨ ・ ニ シ ヨ ー ・
オ ーニ シ ・ ニ シ バ ヤ テ ・ ア メ ニ シ ・ カ ラ ニ シ ・ ヨ ニ シ ・
タ カ ニ シ ・ ナ カ ニ シ モ ン ・ ニ シ ジ オテ ・ ナ ツ ニ シ ・
ジ ット リ ニ シ ・ ハ マ ニ シ ・ ワ カ ニ シ ・ ワ カ レ ニ シ ・
アカニ シ ・ボロ ニシ ・ ホ ーライニ シ ・タ イコ (−) ニシ ・
ド ン ド ( ン ) ニ シ ・ シ モ (− ) フ サ ニ シ*1 ・
ボ ン デ ン ニ シ 。2 ・ ニ シ オ キ ・ サ ガ ニ シ ・ ダ シ ニ シ ・
キ タニ シ
*1 下 総 ( 地 名 ) *2 梵 天 祭10/28
ダ シ
].5
ダシ ・ ダシカ ゼ (ダシ ノカゼ ) ・ダ シ ッケ (ダシ ノケ) ・
ダ シ ジ ケ ・ ダ シ バ ヤ テ ・ アマ ダ シ ・ ジ ダ シ ・ ト コ ロ ダ シ ・
シ ゲ ダ シ ・ カ ワ ズ ダ シ 。3 ・ シ ラ ダ ダ シ 。4 ・ オ キ ダ シ ・
ナラ イ ダシ・ ダシ ナラ イ・ ダシ ニシ
*3
オ キ
14
河 津 (地 名 ) *4 白 田 ( 地 名 )
オキ カ ゼ ( オ キ ノ カ ゼ ) ・ オ キ モ ノ ( オ キ モ ン ) ・
オキ モ ン ノ カ ゼ ・ マ オ キ・ オ キ ッ ケ ・ オ キ ブ キ ・ オ キ カ ゲ
・ ナガシ オキ・ オキ ダシ・ オキ ナ ライ・ オキイ ナサ・
ミ ナミ オキ ・ニシ オキ ・ オキペ ット ー
-
系 統
語彙 数
サ ガ
9
風 位 5
−
語
サガ ・サ ガカ ゼ (サ ガノ カゼ) ・ サガ ッポ (−) ・
サ ガ ッ ケ ・ サ ガ ジ ケ ・ カ ラ ッサ ガ ・ サ ガ オロ シ ・ サ ガ ニ シ
・ サ ガナ ラ イ
ナ ライ
41
ナラ イ・ ナ ライカ ゼ (ナ ライ ノカゼ) ・ マ ナラ イ・
ホン ナラ イ・ ナラ イ ッケ (ナ ライ ノケ) ・ ナラ イヨ ー・
ナラ イノ ソヨ ソヨ ・ オ ーナラ イ・ ナラ イジケ ・
ナラ イバ ヤテ (ナ ラ イハヤ テ・ ナ ライ ノハヤ テ) ・
ハ ヤテ ナ ラ イ・ア メ (アマ) ナ ラ イ・ユ キ ナラ イ・
シ ブ キ タナラ イ・ シブ ク タナ ライ・ シブ クサ ナ ライ ・
タ ナ バ タ ナ ラ イ ・ ジ ュ ーガ ツ ノ セ ー テ ン ナ ラ イ ・
アサ ナラ イ・ ヨツ ナ ライ・ ヨ ーナ ライ・ ヨ イゴシ ナ ライ・
ド ン ド ナ ラ イ*5 ・ タ イ コ ( − ) ナ ラ イ*6 ・ト イ ナ ラ イ*7
・ ウ グ ス ナ ラ イ 。8 ・ オ ー ハ マ ナ ラ イ。9・
シ モ ダ ナ ラ イ 。10 ・ シ モ ( − ) フ サ ナ ラ イ ( シ モ ーサ ナ ラ
イ)*n ・ コ ー ズ サ ナ ラ イ。12・ ア オ ゲ タ ナ ラ イ ・
ナラ イジ オテ ・ オキ ナラ イ・ジ ナ ライ・ ダシ ナ ライ・
ナラ イダシ ・サ ガ ナラ イ・ キ タナ ライ・ コチ ナ ライ・
ナラ イゴチ ・ ナラ イ ナギ
*5
ど ん ど ん 焼 き 祭1 /14. 15 *6 太 閤 *7 土 肥( 地 名 )
*8 宇 久 須 (地 名 ) *9
大 浜 ( 地 名 ) *10 下 田 (地 名 )
*11 下 総 ( 地 名 ) *12 上 総 ( 地 名 )
コ チ
14
コ チ・ コチ カゼ ・ コチ ッケ ・ オーゴチ ・ コチ ジケ ・
コ チバ ヤテ ・ アマゴ チ ・ヒ ルゴ チ・ ヨゴチ ・
コ チ ノヨ ーイレ ・ コチ ナラ イ・ ナラ イゴチ ・ イ ナサコ チ・
コ チ ミナ ミ
イナ サ
12
イ ナサ ・ イナサ モ ノ (イナ サモ ン) ・ イナサ ッケ ・
オー イナサ ・ イナ サジ ケ・ イナ サバ ヤテ ・ジ イ ナサ・
オ キ イ ナ サ ・ イ ナ サコ チ ・ イ ナ サ ミ ナ ミ ・ イ ナ サ ガェ シ ・
イナサ ノ カワセ
※複合語等で二系統 に渡る場合は重複
-
6
−
ミ ジ ケ の 他 は 、 主 に 南 か ら 風 位 語系 統 で あ る。
ニ シ系 統 は 南 西 ∼ 西 ∼ 北 西 か ら の 風 で 、 風 位 語 とし て は 南 に 寄 る 風 は 少
な く、 また 北 に 寄 る 風 と し て は サ ガ ニ シ が 多 い が 、 他 の 風 位 語 は ほ と ん ど
西風で ある。
次 に 、 方 位 に 限 定 さ れ な い 風 位 語 の 系 統 で あ る ダシ 系 統 、 オ キ系 統 、 サ
ガ 系 統 、 ナ ラ イ系 統 、 コ チ 系 統 、 イ ナ サ 系 統 を みる 。
ダ シ は 日 本 海 側 、 及 び 東 海 地 方 沿 岸 部 に 多 く み ら れ 、「 山 か ら 吹 き 出 す
風 の 意 味 を 持 つ 」(5)
とい わ れて お り 、 当 地 域 で も 、「 ダ シ は、 陸 か ち 沖 へ 吹
き出 す 風( 出 し 風) の ご と で あ る」 と 、 各 被 調 査 者 の ダ シ の 意 味 づ け は は
っ き り 成 さ れ てい た 。 従 っ て 、 ダシ は 各 地 点 の 漁 港 の向 き に よ っ て そ の 風
位 が 決 ま る 。 そ う い っ た 意 味 で は、 ダ シ 系 統 に は 特 定 の 風 位 は ない と い っ
て よい が 、 当 地 域 で は、 そ の 総 風 位 は 南 西 ∼ 西 ∼ 北 西 ∼ 北 東 か ら の 風 と 、
範 囲 が 広 く な っ て は い る も の の 、 一 部 を 除 い て 、 ほ ぼ 西 か ら 北 に、 ま た は
東 か ら 北 に 寄 っ た 方 位 か ら の 風 と な っ て い る。 漁 港 が 、 東 海 岸 部 で は 東 ∼
南 、 南 海 岸 部 で は 南 、 西 海 岸 部 で は 西こ 南 の 方 向 を 向 い て い る 所 が多 い た
めであ る。
同 じ よ う に 、 地形 に 関 係 す る 風 位 語 とし て は 、 沖 か ら の 風 で あ る オキ系
統があ る。
オ キ系 統 も ダ シ系 統 の対 を 成 す 形 で 広 範 囲 の 風 位 を持 ち 、 そ の 風 位 は 東
海 岸 部 で は 北 東 ∼ 東 ∼ 南 東 か ら の風 、 南 海 岸 部 で は東 ∼ 南 東 ∼ 南 ∼ 南 西 ∼
西か らの風、西 海岸部で は南∼南西 ∼西か らの風 となっている。
サ ガ系 統 は西 ∼ 北 西 ∼ 北 ∼ 北 東 か ら の 風 、特 に 北 西 ∼ 北 か ら の 風 が 多 い 。
サ ガ系 統 の サ ガ の 語 源 につ い て は 、 伊 豆 地 方 で 傾 斜 地 の こ と を サ ガ 、 険
し い こ と を サ ガ シ ー とい い(6)
、 こ れ と 関 係 つ け て い る 説 があ る(7)
。 確 か に、
当 地 域 で も、 サ ガ系 統 の 中 で サ ガ ッ ケ 以 外 の ほ と ん ど は 強 風 の 意 味 を 持 っ
て い る七 、
「 サ ガ は 逆 さ の 意 味 だ 」(8)
と の 報 告 もあ っ た。 し か し 、
「サガ は相
模 湾 と 関 係 あ る」(9)
と の 報 告 もあ り、 今 ひ とつ は っ き り し な い 。 た だ 、 サ
-
7
−
が系 統 の 風 位 語 は27 地 点 で 使 わ れて お り 、各 地 点 と もサ ガ の 他 、サ ガ ニ シ、
サ ガ ナ ラ イ の 使 用 が み ら れ る が 、 そ の 使 い 分 け と な る と、15 地 点 で は サ ガ
と サ ガ ニ シ が 同 風 位 、2 地 点 で はサ ガ と サ ガ ナ ラ イ が 同 風 位 、 残 り の2 地
点 で は3 語 彙 と も同 風 位 で 、 サ ガ が サ ガ ニ シ も し く は サ ガ ナ ラ イ と 、 また
は そ の 両 方 と 同 風 位 で あ る 地 点 が19 地 点 もあ っ た 。 こ の う ち 、 同 風 位 で あ
っ て も サ ガ ニ シ が 冬 の 風 、 突 風 で あ る と か 、 サ ガ ナ ラ イが 冬 の 風 で あ る と
か の よ う に 風 の 性 質 で 、 サ ガ と 使 い 分 け て い る の が わず か3 地 点 で 、 残 り
の16 地 点 で は、 サ ガ は サ ガ ニ シ 、 も し く は サ ガ ナ ラ イ と 同 じ 風 と し て 使 わ
れて い る こ と に な る 。こ の こ と か ら 、サ ガ ニ シ 、サ ガ ナ ラ イ と は い っ て も、
例 え ば 、 キ タ系 統 の ギ タ に対 す る 西 寄 り の キ タ ニ シ 、 束 寄 り の キ タ ナ ラ イ
と 違 っ て 、北 西 や 北 の方 位 か ら 吹 い て く る 強 風 を サ ガ と か サ ガ ニ シ と い い 、
特 別 、 サ ガ の 語 に 北 や 北 西 の 方 位 の 意 味 を持 つ もの で な い こ と が わ か る 。
し か し 、 サ ガ と は 単 に 強 風 とい う 風 の性 質 だけ な の か 、
「 サ ガ と は アマ ギ オ
台 シ( 天 城 下 ろ し) の こ と 」(1O)
、「 サ ガ と は フ ジ オロ シ( 富 士 下 ろ し) の
こ と」(11)
、 と かい う 地 点 もあ り 、 そ れ は サ ガ の よ う な 強 風 や下 ろ し 風 を 作
り 出 す 地 形 と 結 び 付 い て い る の か もし れ ない が 、 当 地 域 の 各 使 用 者 の 意 識
の 中 に は 、 サ ガ の 中 に 一 基 準 と な る 方 位 を 持 っ て い る よ う だ。
ナ ラ 千 も「 山 筑 と 同 じ 方 向 に 、吹 い て 来 る 風 」(12)
とい う 語 源 説 が あ る が 、
実 際 は ど の 山 に 沿 っ て か 判 じ 難 い こ と の 方 が 多 い 。当 地 域 で は 、サ ガ 同 様 、
ナ ラ イ を 地 形 と 結 び 付 い た風 と し て 、 また は風 の 性 質 か ら と ら え る よ り は
方 位 と し て の 意 識 の 方 が 強 い が √ 語 彙 量 が 多 い 分 、 総 風 位 も北 西 ∼ 北 ∼ 北
東 一東 ∼ 南 東 と 広 いざ コ チ 系 統 の コ チ は、語 源不 詳 な が ら も、
「 こ ち( 東 風)
吹 か ば 」 と 歌 で 古 く か ら 知 ら れ て い る こ と もあ っ て か 、 当 地 域 で も 、 風 位
は1 地 点 で 北 風(呻 で あ る こ とづ
を 除 い て は、 東 寄 り の 風 と 意 識 し て い る 地
点 が 多 か っ た が 、 実 際 は 、 南 風 と回 答 し た地 点 もあ り 、 そ の 総 風 位 は 北 東
∼ 東 ∼ 南 東 ∼南 ∼ 南 西 で あ っ た 。
イ ナ サ も語 源 不 詳 語 で 、 こ の 系 統 は、2 地 点 で 北 風 、 北 東 風(14)で あ る
-
8
−
図2 伊 豆 半 島 沿 岸 部 に お け る 主 な 風 位 語 系 統 の 風 位
こと を除いては、束 ∼南東 ∼南∼南西 からの風であ る。 ただ、 イナサがサ
ガ、 ナライと違う のは、当地域 のイ ナサ には方位 よりも、時化風 または強
風とい う特徴を持っ た東 (または南東、 南、南西)風 、つ まり風 の性質が
より強 く意識さ れてい るこ とであ る。
図2 は、以 上の系 統の風位 を総合し たものであ る。
2 −2 、 主 な 系 統 の 風 位 語 彙 量 及び そ の 出 現 と 使 用
さ ら に 、 主 な 系 統 の 風 位 語 彙 量 や 確 認 調 査 に よ る25 地 点 にお け る 各 風 位
語 の 出 現 と 使 用 を見 る 。
キ タ系 統 の 語 彙 は10 語 と少 ない が 、 前 述 の 通 り、 主 に 北 風 で あ り 、 北 風
と し て キ タ ( カ ゼ戸20 地 点 )
(15)、 キ タ ッ ポ ー (15地 点 ) な ど は か な り の 地
点 で 出 現 し て い る 。 た だ 、 北 風 と し て は他 に 、 ダ シ系 統 、 サ ガ系 統 、 地 域
に よう てTは ナ ラ イ系 統 の 語 彙 があ る 。
9
−
ダ シ系 統 の 語 彙 は15 語 で 、 ダ シ (カ ゼ)
(2
。 地 点 )、 ダ シ ッ ケ (21 地 点 )
を 始 め 、 ダ シ 系 統 の 語 彙 の 出 現 地 点 は多 い 。 ま た 、系 統 と し て み た時 、 そ
の 総 風 位 範 囲 は 広 い が 、 地 形 的 に、
ダ シ系 統 の 語 彙 が 北 風 も し く は 北 寄 り の
風 に な る 地 点 が 多 い 。 そ の た め 、 当 地 域 で は 北 風 や 北 寄 り の 風 に キ タ系 統
よ り も ダ シ 系 統 を用 い る 地 点 が 多 く 、 そ の 使 用 度 ぱ 高 い 。
ナ ラ イ は 、 東 京 湾 を 中 心 に し て 東 日 本 太 平 洋 側 に み ら れ る 風 位 語 とい わ
れて い る(16)だ け あ って 、 当 地 域 で も、 ナ ラ イ系 統 は 各 系 統 の 中 で も語 彙
量 が41 語 と もっ と も多 く、 風 位 、 吹 き 方 、 風 位 時 期 等 に よ っ て 細 か く言 い
分 け ら れ て い る 。 中 に は 、 ア オゲ タ ナ ラ イ 、 タ ナ バ タ ナ ラ イ 、 コ ー ズサ ナ
ラ イ の よ う に 数 地 点 に し か み ら れな い 語 彙 や 一 地 域 に ま と ま っ て みら れる
語 彙 もあ る が 、 ナ ラ イ (25 地 点 )、 オ ー ナ ラ イ (24地 点 )、 ナ ラ イ ジ ケ (22
地 点 )、 ナ ラ イ ッケ (22 地 点ト な ど は ほ ぼ 全 地 点 に、 ダ シ ナ ラ イ (18地 点 )、
キ タ ナ ライ (12 地 点 )、 サ ガ ナ ラ イ (10 地 点 ) な ど も か な り の地 点 に 出 現
し て い る 。 さ ら に、サ ラ イ系 統 は 、 特 に 北 東 ∼東 か ら の 風 と し て の 使 用 度
が 高 い た め 、 そ の他 の 東 を 中 心 と し た 風 位 語 と し て は ヒ ガ シ系 統 、 コ チ 系
統があ る力^;ヒ ガシ系 統 は語 彙 量 も5 語 と 少 な く、 そ の 使 用 度 も 低 い し 、 コ
チ 系 統 は14 語 あ り 、 コ チ (24 地 点 ) を 始 め 、 コ チ ッ ケ (17 地 点 )、 コ チ ナ
ラ イ (14 地 点 ) な ど は 出 現 地 点 は 多 い が 、 主 に春 先 の 風 位 語 と し て 使 い 分
けら れている。
ま た 、 当 地 域 の 南 東 風 は 強 風 と い う こ と もあ っ て 、 前 述 し た よう に イ ナ
サ とい え ば 、 南 東 風 と い う よ り は南 東 を 中 心 と し た 方 位 か ら の 時 化 風 、 台
風 に 伴 う 強 風 で あ る 。 イサ サ も ナ ラ イ 同 様 、 関東 を 中 心 と し て 太 平 洋 側一
帯 に 使 わ れて い る 風 位 語 だ と の 報 告 が あ 、
り(17)
、 当 地 域 で も、 イ ナ サ 系 統
の 語 彙 は12 語 と 少 な い が 、 イ ナ サ(25 地 点 ) を 始 め 、 イ ナ サ ジ ケ (2 地点 )、
オ ー イ ナ サ (13 地 点 )、 イ ナ サ ッ ケ (15 地 点 ) な ど は 出 現 地 点 も多 く、 使
用 度 も高 い 。
南 を 中 心 と し た 方 位 か ら の 風 に は 、 先 に挙 げ た コ チ 系 統 や イ ナ サ系 統 が
-
10
−
あ る が 、こ れ は吹 く 時 期 の 限定 さ れた 風 で あ り 、一 般 的 に は ミ ナ ミ系 統 や、
そ の方 角 が 沖 に な る 地 点 が多 い こ と もあ っ て オ キ系 統 が 使 用 さ れ てい る 。
ミ ナ ミ系 統 に は15 語 あ り 、 ミ ナ ミ (23 地点 )、 ミ ナ ミ ッ ケ (24 地 点 )、ミ ナ
ミ ジ ケ (24 地 点 )、 オ ー ミ ナ ミ (18 地 点 ) な ど は 出 現 地 点 も多 く 、 使 用 度
も高 い 。 犬
オ キ系 統 は 総 風 位 範 囲 が広 い こ と もあ っ て 、 語 彙 も14 語 あ る が4 使 用 度 の
高 い 語 彙 は オ キ カ ゼ (13地 点 )、 オキ モ ノバ オ キ モ ンバlO 地 点 ) ぐ ら い で
ある。
ニ シ系 統 の 語 彙 は32語 と 、 ナ ラ イ 系 統 に 次 い で 多 く 、 西 風 を中 心 と し た
風 位 で は 独 占 的 な 系 統 で あ る 。 そ し て 、 二 シ系 統 の 語 彙 の 使 用 度 は全 体 的
に 高 い 。 た だ 、 ニ シ 系 統 も、寸 ラ 子系 統 同 様 、 ニ シ (カ ゼ バ25 地 点 )、 ニ
シ ッ ケ (23 地 点 )、 オ ーニ シ (23地 点 ) の よ う に、 ほ ぼ 全 地 点 に 出 現 し て
い る 語 彙 もあ れ ば 、 ナ ツ ニ シ 、 ジ ット リ ニ シ 、 ア カ ニ シ な ど の よ う に数 地
点 で し か 見 ら れ な い 語 彙 もあ る 。 また 、 西 海 岸 部 も し く は 南 海 岸 部 にし か
み ら れ ず 、東 海 岸 部 と 地 域 差 を 成 す よう な 語 彙 を 有 七 て い る系 統で もあ る 。
サ ガ系 統 は語 彙 量 と して は9 語 と 少 ない が 、 サ ガ は 「 静 岡 ・ 神 奈 川 ・東
京 ・ 千 葉 の 沿 岸 地 方 」 で 使 わ れ て い る と 、 関 口 氏 の 報 告(18)に もあ る が 、
当 地 域 で もサ ガ (1。7
地 点 )、 サ ガ ニ シ (19 地 点 ) な ど を 始 め サ ガ系 統 の 語
彙 の 使 用 度 は高 い 。 た だ、 南 海 岸 部 で はサ ガ系 統 の 出現 が 少 な い た め 、 全
・ I ・ −
体 の 出 現 地 点 数 は 若 干 少 な く な っ て い る ○ 丿 3 。風位語と地域差
今 まで は、風 位語を系統で 分け、系続か らみた当地 域の風位語 の特徴 を
みて きたが、こ こで個々 の風位 語を取 り上げ て、風位 語の地域差 はどんな
形で表 わ れてい るか を見、 風位語の地域差 とい う欄 題 を考える。
-
伊豆半島沿岸部言語地図
図4 ニ ヤ系 統・ ウラ系 統
J
●
Q
N
N
O
N N
凋 舞々
ふ φ^
ン
φ^ ・
N
今 令心 無
N
命。 中≪
。
? [2 今
NN
凋`
?
N
球
N N
凡 例
凋心
ニ ヤカ ゼ・lii? ツケ
・
N
争
冽 凋
南 西風
季
南 風
西 風
令
瘍
N
北西風
命 N fi
ウラ カゼ ウラ ッケ
啓 啓
北 風
じ丿2
北 東風
几 φ
々
々 東 風
巻 急 な 逆風 の 意 のウ ラカ ゼ
N 無回答
1986
11
−
-
12 -
3 −1 、 ―地 域 に み ら れる 風 位 語
当 地 域 は 、 言 葉 の 伝 播 に 海上 交 通 が 大 き な働 きを し て い る土 地 の た め 、
全 域 に み ら れ る 風 位 語 や 各 地 点 に 散 在 し て い る 風 位 語 はあ って も、 一 地 域
にみら れる風位語 は少ない。伊 豆半島という 規模が、風位語 の地域差を見
る に は 狭 い と い え る か もし れ ない が 、 少 な い な が ら も、 一 地 域 に み ら れる
`風 位 語 と し て は 以 下 の もの が 上 げ ら れ る 。 図3 に は 、 そ れぞ れ の 地 域 に み
ら れる 風 位 語 の 代 表 例 を あ げ た。
(1) 東 海 岸 部 を 中心 と し た風 位 語 : タ イコ ( − ) ナ ラ イ ・ド ン ド ナ ラ イ
・ シ モ (− ) フサ ナ ラ イ ( シ モ サ ナ ラ
イ)
(2) 西 海 岸 部 を 中心 と し た風 位 語 : タ イ コ ( − ) ニ シ ・ ヨニ シ ・ ワ カ ニ
シ ・ ボ ン デ ン ニ シ ・ ワ テ系 統( ワ テ 、
ワ デ ) ・ クロ ップ キ ・ ヨ ー イ レ ・ ダ
シニシ ・ダシバヤテ ・キタジケ・サ
ガ ッケ ・ オ ーカ ー ラ ・ニ ヤ系 統 (ニ
ヤ カ ゼ 、 ニ ヤ ッケ ) ・ ウ ラ系 統 (ウ
ラ カ ゼ 、 ウ ラ ッケ ) ・ コ チ ナ ラ イ ・
オー
・ヤ マ ゼ ・ ヤ マ ゼ ッ ケ ・ ジ ア ラ シ
(3) 南 海岸 部 に み ら れ る 風 位 語 : ヨ イ ゴ シ ナ ラ イ ・ コ チ ノ ヨ ー イ レ
た だ 、 西 海 岸 部 を 中 心 と し た風 位 語 で も、 ヨニ シ 、 ヨ ー イレ 、 キ タ ナ ラ
イ 、 ジ ア ラ シ は 東 海岸 部 北 部 に位 置 す る 新 井 、 網代 、 初 島 、 伊 豆 山 浜 辺 り
で もみ ら れ る 。 こ の よ う に 海 岸 部 ご と に み る と 、 西 海 岸 部 の方 に独 自 の 語
彙 が多 い 。 ま た 、 西 海 岸 部 で はニ シ系 統 を 始 め 、 ワテ 系 統 、 クロ ッ プ キ ・
ヨ ーイ レ な ど 西 の方 位 か ら の 風 位 語 に 、 東 海 岸 部 で は 北 東 ∼東 の方 位 か ら
の 風 位 語 で あ る ナ ラ イ系 統 の 中 に 独 自 の 語 彙 を 持 っ て い る こ と が わ か っ
た 。 こ れ は、 西 、 東 海 岸 部 そ れぞ れ で 、 沖 か ら の 風 に 注 意 を払 っ て 、 特 徴
ご と に 呼 び 分 け て い る た め と い え る。 補 足 な が ら 、 各 地 点 の総 語彙 量 で は
-
13 −
東西差 はない が、表2 の ように、西風 と東風 または東 北風の語彙 量のみを
比較 すると、西 側は妻良 を境にして13地点中8 地点 で西風 の方 が語彙量が
多 く、東側 では南 海岸部の大瀬 を境 にして12地点中8 地点で東風 または東
北風 の方 が多 くなってい る。 これ も、西 海岸部及 び南海岸部で も駿 河湾に
表2 各地点の北東風・プ
東風・西風の語彙数
地 点 名
重 寺
戸 田
土 肥
八 木 沢
宇 久 須 1
宇 久 須 2
安 良 里
沢 田
岩 地
雲 見
伊 浜
落 居
子 浦
妻 良
大 瀬
田 牛
須 崎
白 浜
稲 取 1
稲 取 2
北 川
八 幡 野
富 戸
新 井
網 代 1
網 代 2
初 島
伊 豆 山 浜
北 東 風 東 風 西 風 そ の 他 総 数
9
2
2
7
14
1
1
6
4
11
3
3
13
6
1
14
6
17
14
6
13
6
3
8
15
11
3
2
4
12
15
4
5
6
13
5
2
6
9
4
6
2
12
4
16 丿
7
5
10
11
1
3
3
10
2
2
5
9
10
10
8
10
9
9
13
7
13
11
5
11
11
7
6
6
5
13
4
3
6
3
10
13
9
9
3
19
41
39
28
39
31
44
41
33
35
43
31
41
42
29
18
36
26
52
15
15
27
19
35
41
25
27
20
41
65
66
47
68
47
67
65
46
65
66
43
71
61
49
42
64
55
84
35
42
40
28
56
79
47
41
30
14 -
伊豆半島沿岸部言語地図
図5
ナラ イ
J
命
十i )
瞳曖
丿II
・十 希
嘘
4・
命
命嘘
瞳蚤
峻
瞳今 季 嘘
− −
4・
・ 怖
凡 例
十
峻
々
北 風
北東風
東風
。 ゛づ
If 中
1986
15
伊豆 半島沿 岸部言語 地図
イナ サ
j
@
令 溝
jl
1
11
11
罵令
油
’I
・
罵o
罵 声
I巾,
,
図6
罵
今季
^罵
會
七!f
罵坏
●疼
4・夢
i
”
●│
,卜 │ , ヅ │
凡 例
今 坏
令
東南 東 風
’
″
令 凋
南 東 風
剛
南 南東 風
罵
南 風
罵
尚
,丿ト
南 西 風
◇阿 ・
‘│
へ ー
1986
-
16
伊 豆半島沿 岸部言 語地図
J
@
t
1^ ● 胃Mi
W
令
●・・・
・
レ
フ│
jl
川II
I‖ │
N
洞
洞 凛 冽洞 洞
N
丿
叩I
㎜S ・
N N
:加
凡 例
令 /
命令 調
− ヽ一
令
−
+ 1 1 け,
tφSi 令 凋4心
命
北 東 風
東 風
南 東 風
南 南東 風
南 風
南 西 風
西 風
北 西 風
無 回 答
1986
17
伊豆半島沿岸部言語地図
タイコ(−)ナラ イ
図8(1)
(2) タイコ(−)ニ シ
(3) ヨ イゴ シナ ラ イ
2 ゛
J
十り
嶮峻
N
φ 今
N
坤I
‥
∧
・. 11
∧│
卜 |
’
〃●
●
・・
・,
’│
φ
今 φ
<> べ〉
命
≒
」
.‥
.1
﹄
凡 例
N N
︰S N
十 嶮Eや
(1) タ イコ (− ) ナラ イ
?
N ’
寺
寺
(2)
タイ コ
φ
(3)
ヨイ
北 風
眩寺
S N 今 嘘 き
u
几II
| |
W
西 風
ゴシ ナ ライ
北東 風
東
シ
風
N 無 回答
1986
−
-
18
−
面 した地点 では西風 に、南海岸部 から東海岸 部にかけてでは東風 または北
東風 に関心 が強い ためである。
尚、当 地域で は各 地点、各 海岸部の地理的 条件が まち まちであ るし、調
査地域が 風位語 を扱 うに は狭い こと もあっ て、地点ごとで一風位 語の風位
が違っ たり、吹 き方 が違っ たりするこ とはともかく、語の地域差 という点
で、上記 のよう な一 風位語 の地域による使用 の有無はあって も、一風位語
の意味が全 く違 うとい うこ とはあ まりない。 わずかにウ ラカゼ のみが、西
海岸部で は駿河湾内 の南か らの風で あるニ ヤ系 統に対 する「駿河 湾の北 か
らの風」 である のに対 して、 南海岸部で は「急 な逆風」のこ とで あった。
(図4 )
3 −2 、風位 に地域差 のみら れる風 位語
風位語 は、 ダシ系 統や オキ系統 のように地形 に関係する語以外 は、一地
域 におい て主 な風位 を示 すこ とができる。そ して 、各風位語 とも、地点ご
とに見 れば、その風位 に多 少 の違い が見ら れるものだが、地域全 体から み
た時、一風 位語 の主 な風位に地域 ごとの まとまり、地域差の みられる もの
がある。こ こで、風位 に地域差 のみら れる風位 語を取り上げ、当 地域の特
徴 をみて みる。図5 はナラ イの風 位を示し たものである。 ナライ は、西 海
岸 部から南 海岸部 にかけて、主 に東 風とな ってい るが、東 海岸 部では北風
となってい る地点 が多 い。 ナライの他、 ナライッケ、 オーナライ、ナ ライ
ジケに も同 様の風位差 が みら れた。 西、南 海岸 部では、地形 からキ タの他
にダシが主 に北風 になるの に対 して、東海岸 部の新井、網代、初 島、伊豆
山浜の辺 りで は主 に西風のこ とであ り、北 からの 主な風位 語はという とナ
ライであ る。そ七 て、北風 をキタ、キ タッケ、キ タジ タという よりは ナラ
イ 、ナ ライ ッケ、 ナライジ ケとい う地域であ る。さらに 、西 、南海岸部で
はナラ イは主に東風 となってお り、東海岸 部では東風一般 を オキカゼ、 オ
キモ ンとい う。図6 に示し たイナサ も西、 南海岸部で は主 に南東から の風
-
19
−
だ が 、 東 海 岸 部 の5 地 点 で は 東 南 東 ∼東 か ら の 風 で もあ る。 ま た 、 図7 の
ヤマゼ も西海岸 部では南西 風、南海岸 部で は南西∼南ヴ南東風 、東海岸 部
で は 北 西 風 と な っ て い る 。 当 地 域 で の ヤ マ ゼ につ い て は 、 地 点 に よ っ て 強
風 と も弱 風 と も い い 、 語 源 が は っ き り七 で い ないこ と も留 意し な け れば な
ら な い(19)が 、 少 な く と も 、 西 海 岸 部 宇 久 須 ∼ 南 海 岸 部 で は 沖 か ら の 風 で
あ 右 の に対 し て 、 東 海 岸 部 で は 陸 か ら の 風 と な っ て い る 。 こ の よ う に 、 当
地 域 の風 位 語 の 風 位 差 に つ い て は 、 西 、 南 海 岸 部 と 東 海 岸 部 ど の 間 に 差 が
見 ら れ る 。伊 豆 半 島東 側 で は、ナ ヴィ 系 統 の 他 に 、そ の 風 位 よ り も時 化 風 、
台 風 に伴 う 強 風 と し て の 意 識 の 方 が 強い イ ナ サ も 、 西 側 よ り北 寄 り の 風 位
になる のは地形 条件の差、 相模湾の影 響とい えないか。そして 、東海岸部
で も半 島 の 根 元 に 位 置 す る 網代 、 伊 豆 山 浜 、 新 井 で は 西 側 と同 じ 風 位 で あ
る の も、 相 模 湾 の 影 響 を東 側 の 他 の 地 点 ほ ど に は受 け な い た め と い え な い
か 。 犬 卜 し
4 、ま と め
べこ こ で 、 伊 豆 半 島 沿 岸 部 に お け る 風 位 語 の特 徴 を ま とめ る 。 ま ず 、 総 風
位 語 を系 統 別 に み る と、語 彙 量 の多 い 系 統 と し て 、 キ ダ系 統、ミ ナ ミ系 統 、
ニ シ 系 統 、 ダ シ系 統 、 オ キ系 統 、 ナ ライ 系 統 、 コ チ 系 統 、 イ ナ サ系 統 、、サ
ガ 系 統 が あ げ ら れ る 。 そ し て 、 こ れ ら は 全 地 点 で み ら れ る系 統 で もあ る 。
そ の総 合 風 位 を 図2 に 示 し た が 、 当 地 域 で の 主 な 風 位 は、 地 形 に よ っ て 風
位 の 決 まる ダ シ 系 統 、 オ キ系 統 以 外 は 、 ほ ぼ キ タ 系 統 が 北 風 、 ナ ラ イ 系 統
が 北 ∼ 北 東 ∼東 風 、 コ チ 系 統 が 東 ∼ 南 東 風 、 イ ナ サ 系 統 が 南 東 ∼ 南 風 、 ミ
ナ ミ系 統 が 南 風 、 ニ シ 系 統 が 西 風 、 サ ガ 系 統 が 北 西 ∼ 北 風 で あ っ た 。 各 風
位 語 の 使 用 の 有 無 か ら み た 地 域 差 は 、 南 、 東 海 岸 部 よ り西 海岸 部 の 方 に独
自 の 風 位 語 を多 く みい だ し た 。 ま た 、 各 地 点 の 語 彙 量 に 地 域差 は み ら れ な
か っ た もの の 、 西 風 と東 風 ま た は東 北 風 と の 語 彙 量 を比 較 し た 時 、 西 海 岸
20
部 ∼南海岸 部妻良で は西 風の方が多 く、東 海岸 部∼南 海岸部 大瀬で は東 風
が多 かっ た。 さらに、地形 と関係 する風位語以 外で、同風位 語が地域 によ
って 風位差が みら れる ものとして は、チラ イ系 統(ナラ イ、ナ ラ イッケ、
ナラ イジケ)、 イナサ、 ヤマ ゼがあ るが、 こ れら は西、南 海岸 部 と東海 岸
部 とで風位差 がみら れた。 ただ、東 海岸部で も北 部の地点で は西海岸部 と
伺 じ 風位 となっている。先 にみた使用 の有無 に地域差があ る語彙 の中で も、
西 海岸 部 を中心 に分布し てい なが ら、東海岸部 の北部に もみられる語彙 が
あっ た。こ れは、東海岸 部とはい え北 部の方で は、西海岸部 と似 た風位 語
体系 を持ってい るとい える。 ト し
以上 のこ とから、伊豆半 島沿岸部 における風 位語の様々な特色 は、西 海
岸部 を中心 に南海岸部 の駿 河湾に面 した地区 や東 海岸部北部 を含 めた地域
と、 その他の東 海岸部、南 海岸部の三 地域に分け られるといえ ようか。
風 位語は、船を交 通手段 とす る海上生活 者と密接 な関係 にあ たる ためか、
各風位 語の使用 範囲はか なり広 い地域 に渡る場合 が多 く、その地 域差を見
るた めには、太平 洋側、 日本海側、 瀬戸 内海側 とい うレベ ル、時 には 日本
全体 から捉え なくてはなら ない 。し かし、今回 のように伊豆半 島とい う風
位語 を扱 う には狭い 地域であ るに もかか わらず、 地理的条件、使用 者の 意
識、風 位語自体 が持つ条件 が、あ まりに も様々であ るために、 本稿 で も、
伊豆半 島沿岸部 の風位語 の特 徴、体系 を まとめ きれない 点 もあ り、今調査
も含 め、風位 語をどの ように扱 うかが、 今後 の大 きな課題となっ た。
最後 に、今回の 調査にご協力 下さい ました方々 に、改 めてお礼申し 上げ ま
す。 犬
〈注 〉
(1) 久 木 田 恵氏 は、 す で に 「伊 豆 半 島 の 風 の 語彙 」
(『名古 屋 ・ 方 言研 究 会 会 報 』
第5 号 1988 年6 月 刊) を発 表 し てい る 。
(2) 「 静 岡県 史 」 に関 連 し て の調 査
(3) 確認 調 査 と は 、最 初 の 調査 か ら 得 ら れた 全 風 位語 を 再 度、 各 被調 査 者 に使 用
-
21
の 有無 ・風 位 ・ 特 徴等 を調 査 し た もの であ る 。 十 上
4
5
208 語 が34系 統 に 属 し、 ど の系 統 に も 属 さな い 語 彙が33 語あ っ た。
「 風 の 地 方 名 の研 究 (3 ) 一山 か ら 吹 出 す 風 の 名 称 特 に ダ シに 就 い て ー」
関 口 武
6
『静 岡 県の 方 言 』『 日 本国 語 大辞 典 』『静 岡県 方 言辞 典 』
◇に記 載
7
『分類 漁村 語 彙 』柳 田 國 男 ・ 倉田 一 郎 共著
「 関 東 で は 阪 を サ ガ と 濁っ て発 音 して ゐゐ が、 風 名 の サ ガ も同 じ で √ 高 く
か ら 吹 きお ろ す 有 難 から ぬ 風 の意 で あ る。」 二
(8)
八 幡 野 し
(9)
当 地域 で は、 相 模 湾 のこ と を「 さ が」 と
・呼 ん で い る地 点 もあ っ た。 卜
(10)
八 幡 野 犬
剛
新 井 ト
(12)
『風位 考資 料ト
』 柳 田國 男 丿
(13)
稲 取1 ㈲
落 居 : 北風 犬
ト こ
。
白浜 :北 東 風 (但 し 、 こ の風 は イ ナ サ ガエ シ 、 イナ サ ノカ ワ セ) ㈲
い
(16)
『増 補 風位 考 資 料』「 風 位 考」 柳 田 國男
こ
内 の数 字 は 出現 地 点 数 、つ まり 被調 査 者 が 使用 す る とし た 地点 数
「 風 の 地方 名 の研 究上 関 口 武
『風 の事 典 』 関 口 武
(1力 寸 風位 考) 柳 田 國男 (『増 補風 位 考資 料 』)
「 風 の 地 方 名 の研 究 (4 ) 一 暴 風 の 名 称 主 と し て 台 風 来 襲時 に お け る 暴 風
の 名称 に就 い て ー」 関 口 武
(18) 『風 の事 典 』 関 口 武
叫 従 来 、 ヤ マ ゼ と ヤマ セ は 同 風位 語 と 思 われ てい たが 、「 風 の地 方 名 の研 究 そ
の2 ヤマ ジ ( ヤマ ゼ ) と ヤ マ セ」
( 関 口 武) で、 そ れぞ れが 別 風 位 語 で あ
る こ と が 明 ら か にさ れて い る 。 し か し 、当 地 域 に おい て は両 風 位 語 が 混 同 さ
れ て い る よ う だ。 ほ と ん どの 地 点 で は ヤマ ゼ だが 、 田 子 、 北川 、 網 代1 、2
で は ヤ マセ を使 用 、稲 取2 で はヤ マ ゼ、 ヤマ セ を両 用 し てい る。
〈参考 文 献 〉
『風 の 辞 典』 関口 武 1985 年2 月 (原 書房 )
『増 補 風 位 考資 料 』 柳 田 國男 編 1942 年7 月 (明 世 堂)
『静 岡 県 の 方言 』 山 口 幸洋 1987 年11 月 ( 静 岡新 聞社 )
『図 説 静 岡 県 方 言辞 典』 静 岡 県 方 言 研 究 会 ・ 静 岡 大 学 方 言 研 究 会 共 編
1987 年3 月 (吉 見 書 店)
『分 類 漁 村 語彙 』 柳 田國 男 ・ 倉 田 一郎 共 著 <復 刻 版 > 1975 年10月 ( 国書 刊 行 会)
−
-
22
『生 活 語 彙 の基 礎 的研 究 』 室山 敏 昭 \1987年2 月 (和 泉書 院)
『静 岡県 史』 第1 巻 1930年3 月
『静 岡県 水 産誌 』 静 岡県 漁業 組 合 取 締所 18り4年2 月 し
「伊 豆 半 島 の風 の語 彙 」 久 木田 恵 1988 年6 月
(『名 古 屋 ・方 言研 究 会 会報 』 第5 号 ) ニ
「 ナ ラ イ 再考 」 田辺 久 之 1985 年.6月 (『常 葉国 文 』 第10号卜
「風 の 地方 名 の 二三 に就 い て
(1)」 関 口 武 1940 年
(『地 理 学評 論 』 第16巻 第6 号 ) ニ
「 風 の 地方 名 の二 三 に 就い て
(2)
」関 口 武 1940 年 (『地 理 学評 論 』 第16巻 第7 号 )
「 風 の 地 方 名 の 研 究 そ の2 − ヤ マ ジ ( ヤマ ゼ ) とヤ マ セ ー」 関 口 武
1941 年 (『地理 学 評 論』 第17 巻第10 号)
「風の地方名の研究
(3)-
山 か ら吹 出 す風 の 名称 特 に ダシ に 就い て ー」
関 口 武 1942 年 (『地 理 学評 論 』 第18 巻第3 号)
「 風 の地 方 名 の研 究 (第4 報 ) 暴 風 の 名称
一 主 とし て 台風 来 襲 時 にお け る 暴風 の 名称 につ い て ー 」 関口 武 1942 年
(『地 理学 評 論』 第18巻 第6 号 )
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