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Title 英語「ライティング」の授業改善 : 岐阜県立長良高等学校 の実践

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Title 英語「ライティング」の授業改善 : 岐阜県立長良高等学校 の実践
Title
英語「ライティング」の授業改善 : 岐阜県立長良高等学校
の実践から( 本文(Fulltext) )
Author(s)
石神, 政幸
Citation
[岐阜大学カリキュラム開発研究] vol.[25] no.[2] p.[38]-[45]
Issue Date
2008-03
Rights
Version
岐阜県立長良高等学校 / 岐阜大学教育学部生涯教育講座
URL
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/23401
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
岐阜大学カリキュラム開発研究
2008.3,Vol.25,No.2,38-45
英語「ライティング」の授業改善
-岐阜県立長良高等学校の実践から-
石神政幸*1・伊東 英*2
コミュニケーション重視の英語教育が叫ばれてから久しいが,高等学校では,特に進学校と呼ばれるところでは,
今でも旧態依然とした文法・訳読中心の授業が行われている.「ライティング」の授業においても,文法中心の指
導,和文英訳や一文単位の英作文指導から脱却できてはいない.その中で,岐阜県立長良高等学校では,平成 16
年度から英語教育の授業改善に取り組み,大きな成果を上げている.本稿では,長良高校での「ライティング」授
業改善の取り組みとその意義について報告する.
〈キーワード〉 英語教育,授業改善,ライティング,スピーチ,第二言語習得
わず,教科書の中で文法説明を行い,ALT との授業に
1. はじめに-授業改善の概略-
おいてアウトプットを意識した文法項目の練習を行っ
岐阜県立長良高等学校では平成 16 年度から『音読指
ている.単語においても市販の単語帳を買うことなく,
導およびリスニング指導を通して英語の基礎力を身に
教科書に出てきた単語をまとめた“Words & Phrases”
つける』を目標にして,授業改革に取り組んでいる.
という冊子を作成し,本文の中で単語力を養うことに
1 年生の授業では音読・リスニング指導に重点をお
務めている.
いた指導を行っている.「英語Ⅰ」(週 3 時間)の授業
本稿では,2 年生の「ライティング」の授業改善を
では,スラッシュ(フレーズ)リーディングを利用し
中心に,従来の「ライティング」の授業との比較,ス
て,教科書の本文の意味を前から順番に理解した後,
ピーチコンテストの実施,現行の「ライティング」の
シャドーイングやサイト・トランスレーション等様々
授業の効果について述べることにする.
な方法で音読を行っている.
「オーラルコミュニケーシ
ョンⅠ」
(週 3 時間)の授業では,中学校レベルの独自
2. 「ライティング」の授業
教材テキスト『基礎英語』を利用し,「夏休みまでに
1000 回音読」を目標に家庭での音読に取り組んでいる.
2.1. 従来の「ライティング」の授業 - 平成 17 年度授
11 月にはレシテーションコンテストを行い,有名なス
業改善以前
ピーチや詩,物語などを,感情を込めて暗誦する活動
平成 17 年度以前の 2 年生の「ライティング」の授業
(週 4 時間)は,いわゆる文法・訳読式の授業であり,
を行っている.
2 年生では,平成 17 年度から,音読指導を継承しな
教科書と市販の文法問題集を用いて行われていた.週
がら,リーディング指導(読解力指導)に重点を置い
4 時間中 2 時間は教科書を中心として,家庭での予習
た指導を行っている.「英語Ⅱ」(週 4 時間)では,1
では,生徒は教科書の並べかえや和文英訳の問題をノ
年生で培ったリスニング力を基に多読や速読などリー
ートに解き,授業では,生徒が黒板に答えを書き,教
ディング力の向上に力を注いでいる.「ライティング」
師がそれを訂正するという作業が行われていた.
(週 2 時間)の授業では,毎時間エッセイを書きなが
残りの 2 時間では,市販の文法問題集を中心とした
ら,最終的には 11 月に行われるスピーチコンテストの
授業を行っていた.家庭での予習では,生徒は問題の
原稿作成へとつながる作業を行っている.
解答をノートに書き,授業では,生徒の答えに対し教
また文法に関しては,文法書を主体とした授業は行
*1 岐阜県立長良高等学校
*2
教育学部生涯教育講座
師が解説するという授業形態であった.問題の日本語
38
訳は,そのつど生徒を指名し確認していった.授業は
討を行っている部分である.
教師主導で行われ,生徒は受動的に授業に参加すると
① 明示的な文法指導よりもコミュニケーションに重
いった形態がとられていた.
点を置く.
これは長良高校に限らず,多くの高校(特に進学校)
文法的な誤謬も含めて,添削指導や書き直しはさ
ではよく用いられた形態であったし,現在でも多くの
せるが,従来の「ライティング」の授業のように文
高校がこの方法を行っている.
2.2.
法の問題集を用いたり,文法自体の解説を行ったり
はしない.それよりも,GTやクラスメイトとのbrain
「ライティング」の授業改善
stormingやdiscussion,interview,スピーチ練習な
2 年生の「ライティング」(週 2 時間)は,平成 17
どコミュニケーション活動に重点を置く.
年度から教科書を用いた授業と外国人教師とのティー
② トピックを興味深いものにするなど,生徒のモティ
ム・ティーチングの授業が行われている.教科書を用
ベーションの向上に努める.
いた授業(週 1 時間)では,1 年生でバラバラに学ん
「私の思い出」や「夢」,「大好きな人」など生徒
できた文法事項を一通りまとめることを中心とし,従
にとって身近で,相手に伝えたい,読んでほしいと
来と同様の授業形態で行われている.ティーム・ティ
思うようなトピックを選び,英文を書くことへの動
ーチングの授業(週 1 時間)では,オーストラリアか
機づけになるようにする.また,スピーチのテーマ
らゲスト・ティーチャー(以下 GT)として本校に赴任し
も,生徒自身で考え,生徒自身のスピーチとなるよ
ている外国人教師が中心となり,11 月末に本校内で行
う心がける.
われる「スピーチコンテスト」を目標に,その原稿作
③ 「書く,話す,読む,聞く」の 4 技能を総合的に扱
成に取り組んでいる.年度当初からスピーチコンテス
う工夫をする.
トの原稿を作り始めるのは難しいので,まず身近な話
平成 11 年の高等学校学習指導要領には,内容の取
題をテーマとし,スピーチ原稿の作り方を学びながら
り扱いについて「聞くこと,話すこと及び読むこと
6 月ごろから本格的にスピーチの作成に取りかかる.
とも有機的に関連付けた活動を行うことにより,書
そして,9 月までに原稿を書き上げ,10 月にスピーチ
くことの指導の効果を高めるよう工夫するものとす
の練習をし,2 度の校内選考を経て,勝ち残った生徒
る」とあり,4技能を総合的に扱うことを求めてい
が 11 月に 2 年生生徒全員の前でスピーチを披露する.
る.書くことだけに特化することなく,1つの授業
この授業では,授業の全体の流れは教師が決定するが,
の中で総合的な力を養う指導方法を考える.
どういうテーマで,何をどう書くのかは生徒の判断に
④ スピーチを意識しながら,書くプロセスを重視する.
任されている.生徒は,自分の生活や興味・関心を考
ペ ア で の 練 習 や brain storming , discussion ,
えながら,積極的に授業に参加し,英作文を書くこと
interviewなどを取り入れながら,短い文から長い文
を求められている.教師は,生徒にどのようにスピー
へ,そして 3 分のスピーチを意識した,まとまった
チを仕上げさせるかという役割と,いかに生徒のモテ
文章(パラグラフ・ライティング)へと発展させて
ィベーションを引き出し,維持させるかという役割が
いく.常に聞き手を意識させ,構想・作成・校正(書
要求されている.
き直し)のプロセスを有機的に組み合わせながら,
論理的で説得力のある文章を構成させる.また,
「書
3. スピーチコンテストを目指して
3.1.
く」だけでなく,ジェスチャーやアイ・コンタクト,
イントネーションなど「伝える」ための技法も身に
指導方法の視点
つけさせる.
授業における指導方法において,指導者の側として
⑤ GT と JTE(Japanese Teacher of English)の連携
意識していることは次の点である.文中の下線部は,
後述の「4.2.
を図る.
第二言語習得からの視点」において検
授業のプラン作りから GT と JTE が協力していく.
39
授業は GT が中心となり,オール・イングリッシュ
Lesson 7: Revision 2
6月
で進められていくのだが,生徒の反応や状況に応じ
Writing exam(中間考査)
Lesson 8: Dreams1 : Dreams2
て,JTE が手助けをする.
Lesson 9: The Writing Process 1
3.2.
7月
スピーチコンテストまでのスケジュール
Lesson10: The Writing Process 2
Lesson11: The Writing Process 3
「ライティング」の授業では,11 月のスピーチコン
Lesson12: Improving Your Speech1
テストを目指し,生徒が論理的な文章を書く,説得力
Lesson13: Improving Your Speech2
のある文章を書く,独自性のある文章を書く,を目標
9月
Lesson14: Improving Your Speech3
にして英文の作成に取り組んでいる.その目標にいた
Lesson15: Speech Practice 1
る道筋として,4 月,5 月では生徒自身の生活に関係す
Writing exam(期末考査)
10 月
る様々なトピックについて自分の意見を書きながら,
構想,作成,校正のプロセスを身につけていく.そし
Speech contest 1 Speech contest 2
てその文章を GT が添削し,生徒が書き直すことによ
11 月
って,その完成度を高めるとともに,英語の表現能力
も養っていく.発表者としてのスキルも,授業の中で
ここでは,1 時間の授業の流れを,平成 19 年 6 月初め
よって育成していく.
5月
Speech contest(final)
3.3. 1 時間の授業展開
ペアあるいはグループで自分の作品を発表することに
4月
Lesson16: Speech Practice 2
Lesson17: Speech Practice 3
に行った Lesson8 “DREAMS”をテーマにした授業を例に
Lesson 1: Introductory Lesson
して振り返ってみる.また,
「書く,話す,読む,聞く」
Lesson 2: My Spring Vacation
の4技能がどうように総合的に扱われているのかをも考
Lesson 3: My Fond Memory
えてみる.ティーム・ティーチングの授業では,GT が指
Lesson 4: My Favourite Entertainment
導者となり,基本的にオール・イングリッシュで進められ
Lesson 5: My Favourite People
る.
Lesson 6: Revision 1
【1 時間目】 [図 1]
1.
トピックの紹介: “DREAMS”
2.
Warm Up
生徒同士のインタビュー。「20 年後にはどこに住んで
いるか」「どういう仕事をしているか」「子どもは何人
ほしいか」などの質問をペアで行う。
(話す活動、聞く
活動)
3.
GT が将来の夢について書かれた文章読み、生徒はそれ
を聞いてメモをとる。(聞く活動)
(話
4. GT が 3 の内容についての質問をし、生徒が答える。
す活動、聞く活動)
プリントに書かれている文章のスクリプトを読んで確
認する。(読む活動)[図 2 上段]
5.
2 で行った質問事項に対する回答を書いてくる。
(書く
活動)
図1 “DREAMS”の指導案
40
【2 時間目】
1.
Warm Up
「もし 1 億円がもらえたらどうしますか」をテーマに
文を書く。(書く活動)
GT がそれを読み上げる。
2.
Student discussion
前回行ったインタビューの worksheet を利用して、ペ
アで話し合う。(話す活動、聞く活動)
3.
“DREAMS”についての構成(導入・本論・結論)を考
える。[図 2 中段]
できるだけキーフレーズを使うように促す。[図 2 下
段]
4.
“DREAMS”について 22 文以上で書く。(書く活動)
図2 “DREAMS”のハンドアウト
3.4. スピーチコンテスト原稿作り
生徒が書いた作品と,それを添削し,書き直しをし
スピーチコンテストに向けての原稿作りは 6 月中旬
たものが次の図 3 である.
から次のような要領で行われた.
Lesson 9: The Writing Process 1
1 昨年度のコンテストの様子をビデオで見る.昨年
度の作品を読む.
2 タイトルを決める
3 intro,
body,
conclusion の speech plan
を brainstorming する.
4 introduction を 5 文以上で書いて提出.
Lesson10: The Writing Process 2
1 GT が添削した introduction の書き直し.
2 body(main points)を 2 つ書いて提出.(それぞれ
5 文以上)
Lesson11: The Writing Process 3
1 GT が添削した body の書き直し.
2 さらに body(main points)を 2~3 つ書いて提出.
(それぞれ 5 文以上)
Lesson12: Improving Your Speech 1
1 GT が添削した body の書き直し.
2 conclusion を書いて提出.
図 3“DREAMS”についての生徒の作品
3 intro から body までを校正する.
41
Lesson13: Improving Your Speech 2
1 GT が添削した body の書き直し.
2 conclusion を書いて提出.
3 intro から body までを校正して提出.
Lesson14: Improving Your Speech 3
1 GT が添削した speech の書き直し.
2 speech を校正して提出.
3 speech の暗記.
Lesson15~17: Speech Practice 1, 2, 3
1 一通り読む練習.ジェスチャーなどの表現練習.
個人やペアでの読みの練習.
図 5 スピーチコンテストの様子
次の図 4 は,生徒の作成途中のスピーチ原稿である.
たちの前で発表した.原稿をただ棒読みしている生徒も
いたが,3分から5分のスピーチをしっかりと暗記してき
た生徒もいた.GTとJTEの審査の結果,各クラス1~3名
の生徒を選び,10月末に第二次予選を行った.GTを含む
4名の教員で審査を行い,7名の生徒をファイナリストと
して選出した.平成19年11月19日の総合的学習の時間に
体育館で第3回スピーチコンテストを行った.7名の生徒
はさらに練習を重ね,質の高いコンテストになった.GT,
ALTと2名のJTEの計4名の教員が審査をし,1位から3位ま
での優秀者を決定した.
コンテスト終了後,生徒はみな自分の作品をコンピュ
ータに打ち込み,コンテストの集大成として
“ Collection of Speeches”と題するスピーチ集を作
成した.
4. 検証および理論づけ
4.1.
GTEC の結果から
GTEC (Global Test of English Communication)とは
図 4 生徒のスピーチコンテスト用の草稿
ベネッセコーポレーションが行っている英語コミュニ
ケーション能力を測るテストである.Advanced, Basic,
3.5.
Core の 3 タイプがあり,長良高校では Basic(高1~
スピーチコンテスト
10月の2週間にわたる計4時間の授業を使って,クラス
高2向け)を実施している.
「読む」
「聞く」
「書く」の
単位でのスピーチコンテストを行った.審査はGTとそれ
3 技能を絶対評価スコアで測定し,技能別英語能力の
ぞれのクラスのJTEが受け持った.生徒たちはその中で
伸長度を測る.ライティングは専門の採点者2名によ
「ペットについて」「部活について」といった家族や学
り海外で採点・添削されている.
平成 19 年 10 月に行ったライティングの試験問題(解
校生活などの話題から,「環境破壊」といった社会問題
答時間 20 分)は次のようである.
などいろいろな思いや意見を英語で書き,クラスの友人
42
このようなライティング問題に対する結果が,次の図
あなたは海外で語学研修に参加しています。授業で次の
6 のグラフである.X 軸が点数,Y 軸がそれぞれのスコ
課題が出されました。
アの人数の割合である.2004 年度は授業改善前すなわ
課題:
ち文法を中心とした授業が行われていたときの結果で
あなたが日常生活でできる手伝いとはどのようなこと
あり,2006,2007 年度は授業改善を行い,上記のよう
ですか。そうする理由は何ですか。
なスピーチコンテストを目指して英作文を書いていく
身近な事例や経験などを取り上げて、あなた自身の考え
授業を行ったときの結果である.2005 年度は GTEC を
を書きなさい。
実施していない.
(株式会社ベネッセコーポレーション GTEC より)
%
40.0
WRITING
35.0
30.0
25.0
20.0
2007
2006
2004
15.0
10.0
5.0
0.0
~10
10
20
30
グレード 1
図6
表1
40
50
60
70
グレード 2
80
90
100
グレード 3
110
120
130
グレード 4
140
150
グレード 5
160
スコア
グレード 6
3 年間の GTEC Writing のスコアの推移
GTEC の技能別スコアと習熟度ガイドラインおよび年度ごとの人数 (ガイドラインはベネッセコーポレーションより)
Writing
グレード
2004
2006
2007
1
0
0
2
45
17
52
281
211
109
26
78
190
1
6
0
0
6
◆スコア:160
6
・興味深い事例を取り入れながら,課題に沿った話の展開が完全にできている。
・文章の構成がしっかりしていて,文や段落が論理的につながっている。
・課題にふさわしい具体的な語句が,よく考えて選ばれている。
◆スコア:130~159
5
・事例を取り入れながら,課題に沿った話の展開ができている。
・接続語句を正しく使って,文章はまとまりよく構成されている。
・使われている語句は正確で多様性に富んでいる。
◆スコア:100~129
・課題に沿った話の展開が十分にできている。
4
・接続語句をうまく使いながら,論理的に整理された文章が書けている。
・難しい語句を使おうとする努力が認められる。
・ごくまれにミスによって考えが伝わりにくいことがある。
◆スコア:80~99
3
・話の展開はやや不十分だが,具体的な事例を含めて,ほぼ課題に沿った内容が書けている。
・文の多くは論理的に整理され,構文や語いにもいくらか多様性が認められる。
・時にミスによって考えが伝わりにくいことがある。
◆スコア:40~79
2
・語いが少なく,文型・構文は単純なものであるが,英語で表現しようとする意思が認められる。
・最後まで書けていない文や語順が不確かな文があり,考えが伝わりにくい所がある。
◆スコア:~39
1
・文章が短く,ごく簡単な単語と文型で表現ができる。
・文の一つ一つが最後まで書けていないことがある。
・日本語を使って表現している部分がある。
43
(noticing)が起こり,学習内容の内在化がより促進
2007 年度は 2006 年度より上位者が減少したものの,
されるのではないかと考えられる」
2004 年度の結果に比べると,2006 年度,2007 年度とも
に Writing の力の差は歴然である.
→
すべてのトピックにおいて書き直しをさせてい
る.特にスピーチ原稿については再三にわたる
4.2. 第二言語習得からの視点
添削指導(フィードバック)と書き直しを行っ
この長良高校でのスピーチコンテストを目標とする
「ライティング」の授業形態は,何らかの理論や研究を
拠り所として考え出されたわけではない.むしろ私たち
ている.
④「書き手は「構想」によってもたらされた案を「文章
化」するが,必要によってはまた「構想」に戻り,
教師の経験を拠り所として,GT と JTE が協力し合い,手
さらに「推敲」の後にまた「構想」し直すというよ
探りの中で修正を加えながら作り出されたものである.
そこでこの節では,前章の「3.1.
うに複線的に行動する」
指導方法の視点」の
→
考え方を中心として,この授業形態の妥当性を,現在の
構想・作成・校正(書き直し)のプロセスを有
機的に組み合わせた指導を行っている.
第二言語習得研究の観点から捉えなおし,理論的な裏づ
けを図ってみたい.以下①~⑥の「
」内の引用文は大
⑤「Hayes はこのモデルにおいて,ライティング以外の
井(2004)からの引用であり,矢印以降は,本校の授業形
領域との統合を示唆している」
態と比較検討したものである.
→
の中で「話す,読む,聞く」も含めた総合的な力
① 「「 特 定 の 目 的 の た め の 英 語 」 (ESP=English for
を養う指導を行っている.
Specific Purposes)という考えがより支持されて来
るにつれ,目的を絞ったジャンル別の英作文指導が
⑥「高校のライティング指導も和文英訳や一文単位の英
作文指導から脱却して,コミュニケーションを意識
盛んになっている」
→
ジャンル別ではないが,スピーチという目的に
したまとまった文章,すなわちパラグラフ・ライテ
絞った指導を行っている.
ィングの導入に向かうべきである」
「これまで日本の英語教育において伝統的に行われて
②「教室内での明示的学習,すなわち文法などの学習は
きた言語形式を重視するライティング指導は,伝達
それほどライティング力の向上にはつながらず,暗
内容を重視した指導への方向転換が求められてい
示的学習につながるような機能面での指導(読み手
る」
を意識すること,目的意識をもつことなどのストラ
→
テジーを教えること)の方が効果的であるという意
従来の和文英訳だけの授業ではなく,短い文か
ら長い文へ,そして3分のスピーチを意識した,
見もある」
→
書くことだけに特化することなく,1つの授業
まとまった文章(パラグラフ・ライティング)
明示的な文法指導よりもコミュニケーションに
へと発展させていく指導を行っている.また,
重点を置き,聞き手を意識させた指導,スピー
明示的な文法指導を重視するのではなく,生徒
チを目的とした論理的で説得力のある文章を書
自身で考え,生徒自身のスピーチとなる,内容
く指導を行っている.
を重視した指導を行っている.
③「現在のライティング指導においてはプロセス・アプ
ローチが主流であり,教師は学生に複数回の書き直
5. まとめ
しをさせることを通じて作文の質を高めていく指導
法をとることが多くなってきている.したがって,
今回の「ライティング」の授業改善の成果は,1 年生か
書き直しのための助言としてのフィードバック
ら行っている音読指導やリスニング・リーディング指導
(feedback)の役割が重要性を増している」
の全体の活動の中での成果であり,相互作用の結果であ
「 書 き 直 し を 必 ず さ せ る こ と に よ り ,「 気 づ き 」
る.
44
本校では「ライティング」の授業の実証研究をまだ行
引用・参考文献一覧
っていない.多くのデータが蓄積された今,スピーチを
目的とするプロセス・ライティングの妥当性や書き直し
1)大井恭子,2004,ライティング;小池生夫編,第二言
の有効性など,個々の観点からの実証研究に取り組む必
語習得研究の現在,大修館書店,第 11 章,pp. 201-218
2)株式会社ベネッセコーポレーション, G T E C
要がある.
(http://gtec.for- students.jp/) ,2007. 3. 6 取得.
今回の指導法は JTE と GT の二人がいて成り立つもので
ある.JTE 一人だけでは,毎週あるいは隔週ごとに何十
【使用教科書】(Genius は 2004 年度,World Trek は 2006,
枚,何百枚という英作文を添削することは不可能である.
2007 年度使用)
JTE だけでも今回のような活動が行えるのかどうか,生
3)大井恭子[ほか],2005,World Trek English Writing,
徒同士で添削し合うなどの授業がはたして有効なのかど
桐原書店(平成 16 年 2 月 29 日文部科学省検定済教科
うかを今後の課題として検証していく必要がある.
書 高等学校外国語科用)
GTEC での成果や第二外国語習得から得られた示唆は,
4)佐野正之[ほか],2002,Genius English Writing
私たちの授業改善への挑戦が行うに値するものであるこ
Course Revised Edition,大修館書店(平成 11 年 3
とを示しており,それはまた,私たちに更なる挑戦への
月 15 日文部科学省検定済教科書 高等学校外国語科
勇気と自信を与えてくれるものでもある.
用)
45
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