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都市公共交通事業が地域にもたらす経済的・ 社会的効果の

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都市公共交通事業が地域にもたらす経済的・ 社会的効果の
SURF 研究報告
№200000400104
都市公共交通事業が地域にもたらす経済的・
社会的効果の予測・評価に関する事例研究
仙台都市総合研究機構
Sendai Urban Research Forum
刊行にあたって
仙台都市総合研究機構は、仙台市の長期ビジョンや政策目標を提示していく
と同時に市民による自主的なまちづくりの支援を行うことなどを目的に、平成
7年3月に設立されました。
都市政策や都市問題に関して、地域の中にあって地域のために考える立場か
ら調査研究データの蓄積を行う一方、社会経済システムの大きな転換期にあた
り、新しい施策の方向性の提示とその実現のためのさまざまな提言を行ってま
いりました。さらに、市民と行政の橋渡し役となることが、当機構に課せられ
た重要な役割であるという認識のもと、協働のための土台づくりや新しい参加
の手法を探りながら、市民、大学、企業などと力を合わせて調査研究活動を続
けております。
この報告書は、平成12年度に「都市公共交通事業が地域にもたらす経済的・
社会的効果の予測・評価に関する事例研究」を研究テーマに、重要な都市政策
の一つである公共交通事業を実施するに当たり、その社会経済的効果性を評価
する手法についての検討を試みたものであります。特に公共交通事業の波及効
果をその効果の主な受け手である市民の側からみた測定の可能性や、公共事業
の測定手法としての他の事業への汎用性に着目して3つの評価手法に取組んで
おります。
行政が進める事業については、その効果を、科学的にかつ分かりやすく市民
に対して説明することが様々な場面で求められております。当機構といたしま
しても、有用性の高い評価手法については、その利用分析精度を高めつつ、事
業主体、評価者の両者からより活用しやすい評価手法の研究を重ね、まちづく
りの方向性についての議論を深める素材を提供できればと考えております。
最後に、本調査研究の実施にあたり、ご協力いただきました多くの皆様に、
深く感謝申し上げます。
平成13年3月
仙台都市総合研究機構
理事長
久水
輝夫
目
要
旨
次
ⅰ
第1章 .研究の目的と方法 ....................................................................................1
1. 調査研究の目的 ............................................................................................1
2. 研究の対象 ...................................................................................................1
3. 評価手法とその選択理由..............................................................................1
第2章 仮想市場評価法(CVM)及び
階層化意思決定分析法(AHP)による評価への取り組み .........3
1.取り組みの背景 ...........................................................................................3
2.評価の考え方と調査プロセス......................................................................6
3.調査シナリオの作成....................................................................................9
4.調査対象者の抽出 .......................................................................................17
第3章 仮想市場評価法(CVM)及び
階層化意思決定分析法(AHP)による調査結果の解析 ............18
1.調査方法......................................................................................................18
2.調査結果−調査 1 ........................................................................................23
3.調査結果−調査2 .......................................................................................28
4.支払意志額(WTP)の再解析 ..................................................................33
参考文献
第4章 地域産業連関分析による経済波及効果の測定 .........................................36
1.地域産業連関分析への取り組みの背景 .......................................................36
2.地域産業連関分析による経済波及効果分析の考え方 ..................................36
3.経済波及効果の試算結果.............................................................................40
資料
第5章 地理情報システムを活用した
ヘドニック・アプローチによる土地利用評価 ..............................52
1..調査法概論 ...................................................................................................52
2.具体的な推計手法 .......................................................................................53
2. パラメータ推計結果.....................................................................................58
3.便益の集計試算例 .......................................................................................59
第6章 各手法の適用の意義と今後の取り組みへの課題......................................61
1.各手法の適用・利用上の課題と留意点 .......................................................61
2.今後の事業評価への取り組みの課題...........................................................62
【調査研究体制】
要
旨
1.調査研究の目的
本調査研究は、市民の生活利便性の向上を図り経済・社会活動を支えるために都市政策
として重要な公共交通事業の必要性や意義、効果を、多様な視点から可能な限り定量的に
把握し、プロジェクト(事業)立案・評価並びに政策形成や地域合意形成に資することを
目的とする。
また、この研究をとおして、都市公共交通事業のみならず、他の都市政策や地域プロジ
ェクトの評価にも役立つ可能性の高い評価手法の習得を目指すとともに、新しい評価手法
の現実問題分析への適応をも試みるものである。
2.研究対象、評価手法とその選択理由
都市公共交通事業計画を進めるにあたって国への事務手続では、その事業の事業採算性
に加えて社会経済的な効率性について費用対効果分析による事業評価・検討が条件づけら
れ、そのための評価マニュアルも示されており、事業主体及び地域企業・住民にとって事
業を評価するために必要な費用及び効果項目を貨幣換算する手法についての制度が確立し
ている。
そこで本研究では、仙台市が現在建設を予定している地下鉄東西線をモデルとして取り
上げ、交通事業評価マニュアルで今後の課題として紹介された分析手法である、仮想市場
評価法および階層化意思決定分析法の確立に向けた研究を先駆的に行うこととした。
また、
都市公共交通事業整備に伴う変化や影響が、市民からどの程度支持・期待されかつどの程
度地域づくりへの支援・参画意識を誘発する効果となりうるか、その主体である市民・住
民の意向等を把握し分析・評価することも調査の重要な視点として据えた。
【仮想市場評価法(CVM: Contingent Valuation Method)及び
階層化意思決定分析法(AHP:Analytic Hierarchy Process)
】
仮想市場評価法(CVM )は、環境問題をはじめ都市景観、地域コミュニティの存在意
義、地域住民協力、ボランティア活動などの個別取引のための直接の市場がまだ形成され
ていないか、形成されにくい分野のありかたについての貨幣価値評価分析手法としての有
用性に着目されている。また、階層化意思決定分析法(AHP)は個々の評価要因に対し
て、定量的にウェイトづけができるということから要因分析を行いやすいという点が着目
されている評価分析法。
また、プロジェクトの経済波及効果および地域経済効果の定量的把握分析手法として利
用されることの多い下記の2つの手法による評価分析についても取組んだ。
i
〇地域産業連関分析
これは、基本的・社会的経済波及効果の評価ツールとして開発され評価の歴史も長く、
生産誘発のみならず、税収、雇用機会などについて、モデルを構築することにより、地域
経済構造に従ったきめ細かな分析評価をすることができる手法。
〇ヘドニック・アプローチによる土地利用評価
地域の利便性向上が地価評価(土地利用資産価値)に表れるとする分析手法で、地理情
報システム(GIS)データの充実による評価分析システムとしての実践的利活用の可能
性が注目される分析評価手法。
3.調査の概要
① 階層化意思決定分析法(AHP)及び仮想市場評価法(CVM)
■調査の視点と目的
地下鉄東西線整備を市民意向等の把握により評価するもので、仮想市場評価法(CVM)
により地下鉄東西線に対する市民の都市整備効果への期待度を貨幣価値により測定、階層
化意思決定分析法(AHP)により市民が期待(重視)するまちづくりの整備要素を分析。
■調査内容と結果(Ⅰ)<階層化意思決定分析法(AHP)>
パソコン画面で回答する「PCナビゲート型アンケートシステム」を制作し、無作為抽出した市民を対象に
個別訪問面接調査により、地下鉄東西線の開業により想定される4項目の生活環境改善効果への期待度を調査。
1 暮らしに便利な施設(沿線へのショッピングセンターや公共施設の立地と利用)
2 新しい居住環境とにぎわい(沿線へのマンション・戸建て住宅の建設、にぎわいの創出)
3 より都市的な交通網(周辺道路整備、バス路線整備、南北線との連携)
4 排気ガス抑制効果(自動車走行の削減)
【結果】
・東西線整備がもたらす4項目の生活環境改善効果を期待する市民は、有効回答数の約 80%。
・4項目から2つを選ぶ組み合わせ6通り各々について、2項目間比較により重要度・
期待度について尋ねて分析。その結果、交通・環境系の「3 より都市的な交通網」と
「4 排気ガス抑制効果」への重要度・期待度が残り2項目を大きく上回った。
■調査内容・結果(Ⅱ)<仮想市場評価法(CVM)>
地下鉄東西線整備に関連したまちづくり活動を自主的に行う『会(NPO)』の基金不足という
仮想市場を設定し、地下鉄を直接利用する・しないに関わらず、市民の支援金支払いの意志・金
額について調査。
【結果】
東西線整備に関連したまちづくり活動基金として、年間 1,751 円/世帯を 10 年間支
払ってもよいという結果を得た。波及効果への市民の期待を全世帯の支払い意志合計額
ii
として試算表現すると、年間 7 億 3,800 万円、10 年間で 73 億 8,000 万円を基金として支
払うだけの価値を認める結果となった。
② 地域産業連関分析
■調査の視点・目的―経済波及効果を分析・評価する
■調査内容・結果
地下鉄東西線建設への投資がもたらす仙台市及び国内の経済の活性化による生産額、所
得額などの経済波及効果について産業連関表を用いて生産誘発額として試算。なおここで
は、仙台都市総合研究機構の先行研究によって作成されている簡易暫定モデルを参考に平
成7年度宮城県産業連関表をもとに仙台市の簡易地域産業連関分析モデルを作成。そこで
東西線事業のうち、東西線の建設や東西線の建設に伴う都市計画道路の整備、さらに東西
線開通後の東西線運営によってもたらされる地域内の需要創出(生産誘発)
、雇用や所得の
増大、税収入の増加等を計測し、仙台市域や宮城県・全国への経済波及効果を中心に地域
の経済構造を踏まえた社会経済効果を測定する。
【結果】
全体的な事業投資・運営の経済波及効果としての生産誘発額は約 7,300 億円、建設投
資額の約 2.7 倍と試算された。
ただし、今回作成した簡易地域産業連関表モデルは仙台市域や同地域外との取引分析
を取り込んだ精密な産業連関表ではないことから、仙台市分のみの生産誘発額について
の切り分けが困難であった。
③
ヘドニック・アプローチによる土地利用評価
■調査の視点・目的―資産価値向上の効果を分析・評価する
■調査内容・結果
社会基盤整備の便益はすべて地価に帰着するという投資(キャピタリゼーション)仮説をベース
とするヘドニック・アプローチにより、地下鉄東西線によって都市機能が充実し、その結
果としての土地利用の変化による資産価値(地価)の変化を地下鉄東西線の地域経済効果
評価指標の1つととらえて推計するものである。
ここでは仙台市の立地環境データを用いて、地理情報システム(GIS)の精度を高め、
仙台都市総合研究機構で開発研究中のGIS交通土地利用評価モデルを活用して、事業を
実施する場合(with)
、事業を実施しない場合(without)の地価上昇の推計を試みた。
【結果】
地価評価式に係る説明変数が 20 程度特定されたが、地価の上昇に係る評価の有意
性と信頼性、精度については今後さらなる検討を加える必要があることから、現時点
では有効な試算結果を得ることが困難であった。
iii
4.各手法の適用・利用上の意義と課題
① 仮想評価法(CVM)及び階層化意思決定分析法(AHP)
今回の研究では公共交通事業の影響を最も受ける市民側の意向を定量的に把握できたこ
と、また、まちづくりの方向性についても数値で比較検討できたことの意義は大きい。し
かしこの手法を他の事業評価に幅広く適用する場合には、アンケートのシナリオの設定に
際しできるだけ外部の影響を受けないような配慮が必要であり、また調査にかかる時間
的・経費的負担が大きいなど実務的運用上の課題がある。
② 地域産業連関分析
今回の研究では仙台市域や同地域外との取引分析を取り込んだ産業連関表を作成で
きなかったために一定の限界があったが、公共交通事業に関する政策決定のツールと
して活用できる可能性が確認された。今後、この分析手法を活用していくためには、
個々の地域の特徴的な経済構造を反映した地域産業連関表の作成が必要であり、それ
を継続的に管理・運営するための組織的な取組みも不可欠になる。
③ ヘドニック・アプローチによる土地利用評価
今回の研究では、地価上昇に影響を与える説明変数を特定することができた。今後、
実際的な活用を図るためには、各変数に係る仙台市域の詳細データの収集・蓄積と管
理を行っていくとともに、分析結果の確度について実地に検証する必要がある。
なお、都市公共交通事業が地域にもたらす経済的・社会的効果を総合的に評価するため
には、事業主体側からの評価のみならず、事業効果を受ける側(市民)からの評価にも充
分留意し、評価目的に応じた手法を採用するよう配慮する必要がある。
また、関係者が手法についての理解を深め、広く市民に関わりやすい形で示しにいくこ
とが必要であり、そのためには、ソフト、ハード両面で組織的かつ継続的に取り組み、経
験を積むことが必要であろう。
iv
第1章
1.
研究の目的と方法
調査研究の目的
近年公共事業については、国からの出資、補助等が行われる道路・交通分野の新規事業
の採択段階において費用対効果分析を活用した事前評価を実施することが義務付けられて
いるように、効果的な予算執行や透明性の確保を図る観点から、事業評価の導入がすすめ
られてきている。そして、事業評価に対する信頼性を高め、評価の質や精度の向上を図る
ため、評価手法の開発や研究が求められている。
本研究は、公共事業の必要性や意義を検証するためには、事業効果を定量的に測定する
ことを目的に、現実に予定されている事業への評価手法の適応を通してその手法の持つ課
題や問題点、他の事業への汎用性を探りながら、多様な視点からの政策判断に資するツー
ルとしての可能性を探ることを目的とするものである。
2.
研究の対象
本調査研究では、公共事業の中でも、市民の生活利便性の向上を図り経済・社会活動を
支えるために都市政策として重要な公共交通事業を取り上げ、その事業が地域にもたらす
経済的・社会的効果を主な測定対象にする。
また、本研究をとおして、都市公共交通事業のみならず、他の都市政策や地域プロジェ
クトの評価にも役立つ可能性の高い評価手法の習得を目指すとともに、新しい評価手法の
現実問題分析への適応をも試みるため、仙台市が現在建設を予定している地下鉄東西線を
モデルとして取り上げることとした。
3.
評価手法とその選択理由
3.1
仮想市場評価法(CVM: Contingent
Valuation Method)及び階層化意思決
定分析法(AHP:Analytic Hierarchy Process)
都市公共交通事業計画を進めるにあたって国への事務手続では、その事業の事業採算性
に加えて社会経済的な効率性について費用対効果分析による事業評価・検討が条件づけら
れ、そのための評価マニュアルも示されており、事業主体及び地域住民や企業にとって事
業を評価するために必要な費用及び効果項目を貨幣換算する手法についての制度が確立し
ている。
そこで、本研究では、交通事業評価マニュアルで今後の取り組むべき課題として紹介さ
1
れた分析手法である、仮想市場評価法および階層化意思決定分析法の実用化に向けた研究
を先駆的に行うこととした。
また、公共交通事業で事業実施者側から視点による評価のみならず、市民の側からの意
向等を把握して分析・評価することを調査の重要な視点に据えている。そこで、「都市公共
交通事業整備に伴う変化や影響が、市民からどの程度支持・期待されかつどの程度地域づ
くりへの支援・参画意識を誘発する効果となりうるか」を定量的に測定するために、仮想
市場評価法(CVM: Contingent Valuation
HP:Analytic
Hierarchy
Method)及び階層化意思決定分析法(A
Process)による評価・分析に取り組むことにした。
仮想市場評価法(CVM )は、環境問題や都市景観などの個別取引のための市場がまだ
形成されていないか、形成されにくい分野のありかたについて貨幣価値で評価する分析手
法としてその有用性が注目されている。
また、階層化意思決定分析法(AHP)は、個々の評価要因に対して定量的にウェイト
づけができるということから、要因分析を行いやすいという点が着目されている評価分析
法である。
3.2
地域産業連関分析
産業連関分析は基本的・社会的経済波及効果の評価ツールとして開発され、その評価利
用の歴史も長い。地域特性を考慮したモデルを構築することにより、生産誘発のみならず、
税収、雇用機会などについて、地域経済構造に従ったきめ細かな分析評価をすることがで
きる。このことから、地域産業連関分析による都市公共交通事業の地域への経済的波及効
果の測定に取り組むこととした。
3.3
ヘドニック・アプローチによる土地利用評価
ヘドニック・アプローチによる分析手法は、地域の利便性向上が地価評価(土地利用資
産価値)に表れるというもので、地理情報システム(GIS)データの利活用が可能な評
価分析手法として、その実践的利活用の可能性に注目して取り組むこととした。
2
第2章
1.
仮想市場評価法(CVM)及び階層化意思決定分析法(AHP)に
よる評価への取り組み
取り組みの背景
第1章で述べたように、公共交通事業実施のために義務付けられている費用対効果分析
以外の事業評価手法として、国土交通省から「道路投資の評価に関する指針(案)第2編
総合評価」において、将来取り組みを検討すべき評価手法として示されたものの中から
仮想市場評価法(CVM)と階層化意思決定分析法(AHP)を取り上げて、先駆的
試みとして事例研究に取り組むこととした。
具体的には、地下鉄東西線整備による間接的効果としての主観価値(非市場的価値)を
測定するため、計測しようとする主観価値(非市場的価値)に対する人々の選好を直接的
に質問して、その価値を評価する方法である表明選考法(擬制市場法)として、直接的に
限界的支払い意志額を質問する「仮想市場評価法(CVM)」、多目的・多規準で評価
対象の優劣を判断する多規準分析の手法で意志決定のツールとして用いられる「階層化意
思決定分析法(AHP)」について市民の視点を活かした評価を試みることとした。そ
こで、これに取り組むにあたり、まずその特徴について簡単に検証した。
1.1
1)
仮想市場評価法(CVM)
CVMとは
仮想市場評価法は、環境の質を評価するなど、通常の貨幣評価による市場が形成されて
いない分野について個人に対するサーベイ結果をもとに評価を行う手法であり、「仮想市
場評価法」あるいは評価の対象が主として主観価値であることから「価値意識法」と呼ば
れている。
具体的には、環境問題(分野)であれば環境の質の内容を被験者に説明した上で、その
質を向上させるために費用を支払う必要がある場合に支払っても良いと考える金額(支払
意志額)、あるいは環境の質が悪化してしまった場合にもとの効用水準を補償してもらう
ときに必要な補償金額を直接的に質問する方法である。
仮想的な環境の質および状態に対する市場価値換算、すなわち経済的評価が可能である
という反面、個人に対して直接に質問を行うという手順を踏む事から、仮想市場の設定や
質問方法等に起因するさまざまなバイアスも生ずる。
2)CVMの研究事例
環境の経済評価にはバルディーズ号事件をはじめとする数多くの研究事例がある。
3
今回我々が入手し検討した事例として主なものは以下のとおりである。
・バルディーズ号事件(1991年カリフォルニア大学カーソン準教授)
→
1989年3月にタンカー「バルディーズ号」が原油流出事故をおこし海
洋生態系を破壊した。これにより生態系の価値を評価し、損害額として算定。
・マルチ・メディアを活用した農村景観の評価に関する共同研究
(1999年 研究代表者
→
長谷部 正〔東北大学農学部〕)
農村景観を評価し、その存在価値、利用価値、遺産価値を算定。
併せてAHP手法について農村風景イメージ(構成要素)も調査。
・農村が持つ多面的機能の評価(2001年1月宮城県産業経済部むらづくり推進課)
→
国土保全機能、アメニティ機能、教育・文化機能という農村が持つ多面的
機能を評価し評価額を算定。
3)CVMの評価対象
当該研究におけるCVM手法の評価対象は、後段で詳述するが、地下鉄東西線の整備に
よる間接的効果、つまり、東西線整備による『都市環境の整備に関する市民の期待感』
に対する『支払意志額』ということになる。
CVM手法は、前述の研究事例のように現実に直面している環境破壊に対する補償金の
算定とか、現在の景観の保全という観点でその価値を算定するというもので、自然環境、
生態系、景観といった純粋公共財の価値評価に有効と言われている。
しかしながら、今回の研究対象の地下鉄東西線は現状では計画段階であり、そもそも存
在していないものが整備されたらというあくまでも仮定のもとで行っていくこととなるの
で、仮想市場のシナリオによっては大きなバイアスがかかってくることが想定される。ま
た、地下鉄東西線の整備による間接的効果(都市環境の整備に関する市民の期待感)が、
CVM手法で価値評価に有効とされている「純粋公共財」と明確にいえるのかどうかも疑
問がないわけではない。
4)CVMでの仮想市場(シナリオ)
CVM手法は、非市場価値を評価するものであり、仮想市場つまりシナリオをどのよう
に設定していくかがポイントになる。また、被験者の選定や、具体的な調査手法について
どのようにするのか、ということによっても当然バイアスはかかってくることになる。
シナリオにおいては、支払い意志額の具体的な額の設定と、さらに、地下鉄東西線の整
備による波及効果に対する市民の期待感、という測定効果と支払意志額との関連付けが大
きな問題になるものと考えられる。
4
1.2
階層化意思決定分析法(AHP)
1)
AHPとは
階層化意思決定分析法は、多種多様な評価項目に対する多元的な評価基準を社会的価値
規範に基づいて一元的な指標に集約するという多基準分析で、意思決定手法の一つである。
また、外的基準を設けずにウエイト付けすることが可能であり、評価サンプルが少数で
よいといった扱いやすさでも優れており、意思決定問題において数多くの実績を有する手
法である。
2)AHPの評価対象に係る属性分析
地下鉄東西線整備による「都市環境整備に関する市民の期待感」について、具体的に市
民はどのような点について変化や改善を望んでいるかを、この手法によってその要因分析
を行っていくものである。
具体的には、考えられる何項目かの属性を組み合わせて提示し、それぞれに比較及びウ
エイト付けを行わせることで、網羅的に整理し、個々の属性ごとに評価するものである。
5
2. 評価の考え方と調査プロセス
2.1
地下鉄東西線がもたらす効果の分類
地下鉄東西線が整備されることにより発生する効果は、下記のとおり市民が地下鉄
東西線を利用することによりその利便性などを直接享受することができる「直接的効
果」と、地下鉄東西線沿線の都市環境の変化を価値観として捉えることができる「間
接的効果」に大きく分類できる。
1)直接的効果
地下鉄が持つ高速性による時間短縮効果、専用軌道であることから他の事象に左右
されないため定時性や安全性を確保しやすく、その結果総合的に見て移動手段として
快適な交通手段と評価することができよう。その他に、営業(サービス)時間を長く
し高頻度運行を確保することにより、利用者が直接享受できる交通サービス(利用効
果)が創出されると考えられる。
・時間短縮⇒地下鉄が持つ高速性によって、通勤・通学等に要する時間が短縮
・安全性⇒専用軌道のため他の事象に左右されず、路面交通機関と比較して安全
・定時性⇒専用軌道のため他の事象に左右されず、交通渋滞もなく定時制が確保
・ 快適性⇒時間短縮・安全性・定時性これら総合的な観点での快適性が得られる。
2)間接的効果
地下鉄東西線を直接利用しなくとも、地下鉄東西線が整備されることにより創出さ
れると考えられる沿線地域の都市機能の充実(施設の立地、道路・交通網の整備、商
店街の活性化など)や、これに付帯した心理的な満足感、更には地下鉄東西線が存在
することによる仙台市の都市イメージ向上などの、地下鉄利用以外の間接的な整備効
果が考えられる。
・施設整備⇒沿線地域に公共施設やショッピングセンター等各種施設の整備
・資産価値⇒沿線地域の資産(土地)価値の上昇、アパート等住環境の整備
・周辺交通網整備⇒道路の整備を含む各駅への乗り継ぎ交通網の整備
・企業立地⇒沿線地域に企業の移転・進出が促進
・商店街活性化⇒各駅周辺の商店街の活性化
・渋滞緩和⇒マイカーから地下鉄への乗り換えによる周辺道路の渋滞の緩和
・ 大気環境保全⇒マイカーの減少ということでの二酸化炭素削減による大気環
境の保全
6
2.2
評価対象の検討
今回の地下鉄東西線の整備による効果の測定の対象として、直接的効果については概
ね行政事務手続きの一環としての費用対効果分析の対象としているため、間接的効果
としての「都市環境整備に関する市民の期待感」に関して、その期待する内容、期待
度などへの市民意識を把握することとした。
評価対象 =
『都市環境整備に関する市民の期待感』
なお、間接的効果としての市民の価値観・期待感等の測定は、地下鉄等の交通網の
整備事業については事例がないため、本研究では、あくまでも手法の研究ということ
を主眼において試行的に実施することとし、先行事例として実績のある「マルチ・メ
ディアを活用した農村景観の評価に関する共同研究」をふまえたCVMとAHPを組み合
わせた手法をとることとした。
2.3
評価対象項目の検討
CVMとAHPの組み合わせ手法で『都市環境整備に関する市民の期待感』という
東西線整備の間接的効果の評価を行うに当っては、被験者が一般的にイメージし易い
という観点及び評価手法自体との兼ね合いから、前述した間接効果項目から次の4つ
に絞込むこととした。
① 暮らしに便利な施設の整備
→地下鉄東西線沿線にショッピングセンター等の商
業施設が整備され、生活が便利になる。
② 街の賑わいが生まれる
→マンションや戸建住宅が新築されることにより人々が
集まり街に賑わいが生まれる。
③ 駅周辺の公共交通網の整備
→駅周辺の道路が整備されるとともに、バス路線の再
編が行われるなど、交通が便利になる。
④ 大気汚染の防止
2.4
→自家用車の利用が減少し、大気汚染の防止につながる。
調査フロー
以上のように、調査で最も重要な課題である、これらの手法により何を評価するか
という点と、評価する視点と評価項目について検討を行い、前節で示したCVM及び
AHPの調査手法の特徴をふまえて、地下鉄東西線建設の建設に関する適用にあたり、
次の図2.1に示したフローにしたがって調査研究を進めた。
7
評価対象の検討
直接的効果
間接的効果
●評価対象→間接的効果
「都市環境整備に関する市民の期待感」
CVM
AHP
評価手法の検討
評価項目の検討
●評価手法
「CVM 及び AHP の組み合わせ手法」
●評価項目の分野
①暮らしに便利な施設の整備
②街の賑わいが生まれる
③駅周辺の公共交通網の整備
④大気汚染の防止
仮想市場(シナリオ)の検討
調査方法の検討
調査委託内容の検討
●調査方法
「パソコンによる個別訪問調査」
●実査は調査会社に委託
プ レ 調 査
仮想市場(シナリオ)再検討
本 調 査 1
被験者⇒調査会社モニター
本 調 査 2
被験者⇒住民 基本台帳 より無作為抽出
調査結果分析・評価
調査手法の問題点・反省点整理
図2.1
CVM・AHP調査フロ−
8
3.調査シナリオの作成
前節の検討により、CVM評価の対象とAHP分析の対象となるその評価要因(項目)
が絞り込まれた。そこで、本調査では下記の図 3.1 に示すようにCVMの手法を用いて、
地下鉄東西線の非利用価値のうち都市環境整備に対する市民の期待感を貨幣価値として評
価するとともに、併せてAHPの手法を用いて、市民が価値を見出した期待感の所在を明
らかにし、価値評価の判断基準の分析を試みることとした。
(評価結果)
(評価対象)
(評価手法)
「期待感」の貨幣価値
CVM
都市環境整備
価値評価の判断基準
への
分析
「期待感」
AHP
図 3.1
「期待感」の内容把握
調査の基本イメージ
そこでこのCVMとAHPの2つの調査
手法を基礎とした市民アンケートを実施す
るため、その「シナリオ」作成を次の図 3.2
1.基本構成の作成
のとおり行った。
まず、シナリオ全体の流れを組み立てる
原案修正
ため、「1.基本構成の作成」を行い、それ
2.原案の作成
を簡単な文章イメージに起こす作業を「2.
原案の作成」で行った。次に「3.調査方
法の決定」において採用が決まった調査方
3.調査方法決定
法(結果的にはパーソナルコンピュータ(以
下「PC」
を用いた訪問面接調査となった。
)
4.予備調査
に適合するよう、2.で作成した原案の修正
を行った。
上記の修正を行ったシナリオをもって
5.最終シナリオ
「4.予備調査」を実施し、その参加者よ
り得られた意見を参考に再度原案に修正を
加えて「5.最終シナリオ」とした。
図 3.2 シナリオの作成過程
なお、本調査の評価対象とした「地下鉄
9
東西線」の事情をふまえて、上記の過程において次の2点に特に注意した。
①
仮想環境の信頼性確保
CVM調査は一般的に、ある具体的な政策がもたらす既存の環境から仮想環境への変
化を被験者に提示し、その政策に対する金銭的負担を通じて既存の環境の価値を測定し
ようとするものであるが、本調査ではこの既存の環境の基礎となるべき「地下鉄東西線」
自体が未だ存在していないという点において、特殊な調査事例といえるものである。
したがって、本調査においては、できるかぎり仮想環境に対する被験者の信頼が得ら
れるようなシナリオとなるように努めた。
②
評価対象に対する正確な情報提供
また、「地下鉄東西線」事業は仙台市の最重要施策の一つであり、シナリオの作成にあ
たっては情報の正確性はもとより、仙台市民である被験者にいたずらに誤解を生じさせ
ぬよう、文章上の表現にも留意した。
以下では、上記のシナリオの作成過程を図 3.2 の各プロセスごとに順を追って説明する。
3.1
基本構成の作成
まず、シナリオの基本構成は下図 3.3 のとおりとした。
1)調査目的の説明
これは、シナリオの導入部分において、以下の調査をスムーズに進めるために重要かつ
最低限必要な情報を被験者に提供することを目的としたものである。
本調査においては次の2点を盛り込むこととした。
① 現在「地下鉄東西線」事業が仙台市の重要施策として進められていること。
② 本調査では、
「地下鉄東西線」がもたらす直接利用価値以外の「市民の期待感」を評価
対象としていること。
2)地下鉄東西線の概要説明
「地下鉄東西線」の事業概要については、調査時点で既に仙台市の広報紙や新聞報道等
を通じて被験者である市民に一応の情報提供は行なわれていたが、被験者の認知度の差に
よる調査結果への影響を極力排除するため、ここで事業の概略について改めて説明するこ
ととした。
説明する項目としては、事業の概要を理解するうえで最低限必要な下記の5項目とした。
① 事業スケジュール
② 予定ルートと開設予定駅
③ 車両の概要
④ 建設費
⑤ 予想乗車人員
10
(1)地下鉄東西線の実施主体
1.調査目的の説明
(2)評価対象の明示
(1)事業スケジュール
(2)予定ルートと開設予定駅
2.地下鉄東西線の概要説明
(3)車両の概要
(4)建設費
(5)予想乗車人員
(1)暮らしに便利な施設
(2)新しい住環境と賑わい
3.地下鉄東西線の期待効果提示
(3)より都市らしい公共交通網
(4)排気ガス抑制
AHPの実施
4.地下鉄東西線の期待効果の比較
CVMの実施
5.支払意志額の確認
年齢,性別,職業等
6.被験者の個人属性調査
図 3.3 シナリオの基本構成
3)地下鉄東西線の期待効果提示
これは、次のAHPにおいて比較される期待効果項目を被験者に対し提示し、その内容
を説明するものである。
まず、地下鉄東西線がもたらす効果には直接利用することにより期待できる効果(直接
利用効果)と直接利用しなくとも得られる効果(非利用効果)に分類できるとしたうえで、
この調査においては、あくまでも後者を対象としている旨を提示し、
「1.調査目的の説明」
にかさねて評価対象の明確化を図ることとした。
ここで提示する効果は、すでにAHPの属性として採用することとしていた次の4つの
効果とし、あわせて被験者がそのイメージを想起しやすいよう、適宜説明を加えることと
11
した。
①暮らしに便利な施設 ⇒ショッピングセンター、公共施設等の立地が期待できる。
②新しい住環境とにぎわい
⇒マンション、戸建住宅の立地等により人々が集まり街の
賑わいが生まれることが期待できる。
③より都市らしい公共交通網⇒周辺道路の整備、バス路線の再編等による交通の利便性
向上が期待できる。
④排気ガス抑制
⇒自動車交通の減少により、有害な排気ガスの抑制が期待できる。
4)地下鉄東西線の期待効果比較
これはAHPを用いて上記で被験者に提示した期待効果間の一対比較を行い、その結果
から次のCVMで得られる価値評価における被験者の判断基準を明らかにしようとするも
のである。
CVMとAHPの2つの調査手法は、アンケートシナリオ上、あたかも一連の調査の如
く進行されるが、本来は目的を異にする調査であり、そのいずれを先に行うかについては
検討が必要になる。
本調査においては、評価対象が未だ現存していない「地下鉄東西線」を対象にしたとい
うこともあり、まず被験者に「地下鉄東西線」完成後の具体的都市イメージを提供するこ
とが必要と考えて、その役割をAHP部分に分担させることとし、AHPをCVMに先行
して構成することが適当と判断した。
5)支払意志額の確認
これはCVMとして被験者に対し、既に提示している各効果に対して支払意志額の確認
を行い、評価対象の貨幣価値を測定することものである。
ここでは、本調査の評価対象である「都市環境整備への期待感」に対する金銭の支払い
を、シナリオ上どのように表現するかが課題となった。
地下鉄東西線沿線の都市環境整備を目的とする「税金」とする案や、地下鉄東西線事業
そのものの建設費に対する「寄付金」とする案もあったが、それぞれ被験者の心理的抵抗
が高くなることが予想されたり、地下鉄の建設財源が確定している現状との整合性を確保
する必要があるなどの理由から、結果的には次のとおりとした。
まず、地下鉄東西線沿線の環境整備(まちづくり)を行うにあたり、それを市民にとっ
て理想的なものとするには、従来型の行政主導方式では難しく、市民の意向を環境整備に
反映させることを目的として「東西線沿線のまちづくりを進める会」という非営利民間団
体が設立されているという設定を行った。
そこで、この団体の運営資金に対する支払意志額を通じて、間接的に地下鉄東西線沿線
の環境整備に対する期待感を測定することとした。
12
地下鉄東西線沿線の都市環境整備
(測定対象)
行
まちづくりへの提言
政
民
図 3.4
東西線沿線のまちづくりを進める会
市
団体の運営経費寄付
支払意志額のシナリオ
6)被験者の個人属性調査
これは、被験者の年齢や性別等の基礎的な属性を質問し、CVM調査における支払意志
額やAHP調査における属性との相関等を調査するものである。
13
3.2
シナリオ原案の作成
以上の基本構成に基づき、シナリオの原案を次のとおり作成した。
(なお、この原案においては被験者の個人属性に関する質問は省略している。
)
表 3.1
調査シナリオ原案
○ 地下鉄東西線建設に伴う「都市環境整備への期
待感」に対する市民意識調査(原案)
1. 調査目的
現在、仙台市においては、21 世紀の新しいまちづくり
の基礎となる交通機間として、便利で環境にもやさしい
軌道系交通機間の整備が重要な課題となっております。
なかでも現在着工に向けて準備が進められている「地
下鉄東西線」は、南北線に続く2番目の地下鉄として、
仙台市の均衡ある発展のために必要不可欠な最重要プロ
ジェクトと位置付けられております。
この調査は、この「地下鉄東西線」に対し、市民の皆
様が抱いている「期待や評価」の内容を明らかにするこ
とを目的とするものですので、是非ともご協力下さい。
2. 地下鉄東西線の概要
地下鉄東西線は、平成 16 年度から工事を開始すること
を目標とし、数年間の工事期間を経て開業する予定とな
っております。
そのルートは、図のように八木山動物動物公園から仙
台駅を経て卸町、荒井方面を結ぶ約 14kmの路線で、青
葉山周辺の自然環境や青葉通のケヤキ並木などの景観に
対する配慮及び道路交通への影響を避けるという理由か
ら、ほとんどの区間を地下方式とします。
駅は、西側から動物公園、青葉台、西公園、一番町、
仙台、新寺、卸町、荒井など、合計 13 駅を設置し、車両
は、東京や大阪の地下鉄でも走っている近代的なリニア
モーター式車両を採用します。
その建設費は、約 2、700 億円を見込んでおり、1日
あたり約 13 万人が利用すると予想しております。
質問1 あなたは、上で述べたような東西線建設に伴って生
じる沿線周辺の環境変化に期待できますか。次のいずれか1
つに○をつけて下さい。
(1) 期待できる。
(2) 期待できない。
質問2 これから東西線が整備されることによって期待で
きる効果の例を2つづつ示します。この2つのうちあなたに
とってより期待が大きいと思う効果をどちらか選ん
で下さい。
※
次の効果例を一対比較法。
効果例1 沿線に公共施設や商業施設ができ、便利になり
ます。
効果例2 マンションや戸建住宅の新築により人々が集ま
り街に賑わいが生まれます。
効果例3 周辺の道路が整備されるとともに、バス路線の
再編が行なわれるなど、交通が便利になります。
効果例4 自家用車の利用が減少し、大気汚染の防止につ
ながります。
質問3 東西線の建設に合わせて、市民参加型の沿線のまち
づくりを進めていくため、「東西線沿線のまちづくりを進め
る会」
(民間非営利団体)が設立されています。
この団体は、あなた以外の市民から寄せられた寄付金を積
み立てた「東西線まちづくり基金」を運用し、東西線沿線の
施設建設や環境整備に取り組んでいるものです。
しかし、これまで集められた基金では、今後運営を継続し
ていくことが不可能なことがわかり、この団体の解散と沿線
のまちづくり事業の中断が検討されていま
す。
そこで、今、この基金の不足分を補うため、あなたの世帯
が今後 10 年間にわたり、この基金に寄付金を支払っていた
3. 地下鉄東西線の期待効果提示
それでは、これから東西線に関する幾つかの質問をし だければ、今後も活動が可能となり沿線のまちづくりも可能
になります。
ます。それぞれの質問の指示に従い、お答え下さい。
あなたは、この寄付金を支払っていただけますか。
東西線が走り出せば、さまざまな効果が期待できます。
(1)
支払う
東西線を利用すれば正確に早く移動できたり、早朝か
(2)
支払えない
ら深夜まで運転するので時間を有効に使えるなど、市民
生活が便利になるということについては、誰もが認める
質問4 質問3で「
(1)支払う」を選択した方のみお答え
ことと思います。
ください。
しかし、ここでは、こういった東西線を直接利用する
あなたの世帯は今後 10 年間にわたり年間いくらの寄付金
ことにより期待できる効果ではなく、これ以外に今まで
地下鉄が走っていなかった地域に新たに東西線が走るこ なら負担することができますか。次の(1)から(5)のう
とによって生じる波及効果について評価していただくも ち1つだけ○をつけて下さい。
この寄付金によりあなたの世帯の生活費が減ることを充
のです。
分念頭にいれて答えてください。
例えば、沿線にはショッピングセンター、公共施設な
(1)
100 円 (2)500 円 (3)1000 円
どの暮らしに便利な施設が建ち並んできたり、マンショ
(4) 3000 円
(5)5000 円
ンが建ったり、戸建住宅が広がりここに住まいを求める
人が集まってくるなど、街のにぎわいが生まれることが
考えられますまた、駅周辺の道路が広く整備され、歩行
者空間や広場なども造られ住みよい環境が整ってきた
り、オフィスビルや新しい多種多様な店舗がたくさん増
えて街が活気に溢れてくるほか、幅広い年齢層に働く機
会も多くなると思われます。
さらに、これまで自動車を利用していた人が東西線に
移れば、自動車交通が減り、有害な排気ガスを抑制する
効果も期待できます。
質問5 質問3で「
(2)支払えない」を選択した方のみお
答えください。支払えない理由を教えて下さい。
(1)
基金という形では払いたくない。
(2)
自分には関係がない。
(3)
施設建設費や環境整備の具体的なイメ
ージがわかない。
支払う価値はあるが、それほど高くは支払いたくない。
14
3.3
調査方法の決定
今回の調査手法の検討にあたって、東北大学工学部野村希晶助教授の指導のもとプログ
ラム作成協力をえてパーソナルコンピュータ(PC)を使った自動アンケート調査・集計
を試みた。なお、PC調査と従来のアンケート用紙郵送法によるアンケート調査の特性を
比較し、その長所・短所を整理したものが下表である。
表 3.2
P
C 調
査
パソコンによる調査と郵送による調査の比較
法
郵
送
法
◎長所
◎長所
・ マルチメディアが利用できる。(静止、 ・ 簡便である。(訓練された面接調査員等
動画画像や音声を利用できる。難しい事
が不要)
象への理解を深めやすくするとともに、 ・ 低コストである。(日本全国、全世界で
被験者にほぼ同一レベルのアンケート
も比較的安くできる。
)
対象に関する情報を提供できる。)
・ 時間の制約が少ない。(面接に応じる時
・ 被験者の回答に応じた動的な質問項目
間的余裕のないケースでも答えられ
の設定等がしやすい。(今回の調査のよ
る。
)
うにCVM調査の支払い提示額やAH ・ 規模を追求できる。(多くの意見を同一
P調査の一対比較に適用できる)
の条件の下で集約可能)
・ 回答結果が即座にファイルに記録され
るため、調査回答用紙から転記入力等の ◆短所
手間が全く不要である。このため、誤入 ・ 返答率が一般に低い。(民間企業で行う
場合、回収率が10%下回る程度が一般
力も回避できる。
的)
・ 完全回答が得やすい。(質問用紙などで
は未回答や無効回答が生じることがあ ・ 調査対象者本人が実際に回答したかど
うか確認できない。
るが、本調査では回答者はPCからの質
・
調査テーマによっては、無回答や部分的
問や進行を止めることはないので、途中
回答が出てくる可能性がある。(調査内
棄権しない限り完全回答を得ることが
容に関心や興味のある人が多く回答す
できる。
)
るという偏りが出る可能性がある。
)
・ PCの台数に応じた数の回答者をほぼ
・
調査内容に対する調査回答者の理解程
一定時間に調査可能である。(集合調査
度を一定に保ちがたい(人によって異な
と同じ条件であり、その上、ヘッドフォ
り、かつ訂正できない。)
ン装着により集合調査の欠点とされて
いる回答者同士の相互作用による回答 ・ 実施期間が長期化しやすい。
への影響がほとんどない。
)
・ 調査者の訓練度があまり関係せず、回答
者に対してほぼ条件が一定になる。
・ Web上での同等システムに発展させ
ることができる。
◆短所
・ マルチメディア素材提示という方法固
有のバイアスの可能性がある。
・ PCを使用することそのものへの心理
的抵抗感の影響の可能性がある。
・ PCそのものの機材が必要である。
・ 調査員費用などコストが高くなる。
・ 面接に応じる時間の制約が必要である。
15
3.4
予備調査の実施と最終シナリオの完成
予備調査は、仙台都市総合研究機構職員及び同機構職員関係者等65人を対象として実
施した。
その結果、被験者より得られた意見を参考に、主に次の点についてナレーション原稿の
校正を行い、本調査に使用する最終シナリオとした。
① アンケートに要する時間短縮のため、省略しても調査結果等に大きな影響をあた
えないと判断した東西線に関する説明部分や質問を一部削除した。
② 「東西線沿線のまちづくりを進める会」の設立趣旨や活動内容に関する説明を
拡充するとともに、可能なかぎり平易な表現を用いることとした。
③ 重要な調査手法に関する説明や質問部分ではナレーションのスピードを緩めた。
※最終調査ナレーションの原稿は、第3章表 1.1 のとおり。
16
4.
4.1
調査対象者の抽出
調査対象者の抽出の考え方
本調査の目的が、今後整備予定の地下鉄東西線と期待される都市イメージについての
把握であることから、地下鉄東西線の沿線住民に限らず、今回の調査対象者は、仙台市
の全住民を対象とした。但し、本調査手法が、PCを使用した面接調査(各回答者宅等
への個別訪問調査)という従来のアンケート調査等と異なった調査を試みることを踏ま
えて、段階的に各々対象者を抽出した。
なお、アンケート調査をスムーズかつ効果的に実施するため、仙台市民から電話帳をも
とに無作為抽出した民間の調査会社モニターを母集団としたもの(107名)。これは、
最初に、アンケート調査に比較的協力的なモニターを対象に実施することにより、調査
員(今回は、大学生)の回答者宅でのマナーの習得や回答者によるパソコンの操作性な
どの確認を目的に実施した。次に、仙台市の住民基本台帳から研究員が無作為に抽出し
たものを対象として本調査を実施した。
4.2
調査対象者数と属性
住民基本台帳からの無作為抽出にあたっては、仙台市における男女構成・区別構成・
年代別構成に配慮し、4,058名を抽出した。
(各属性に係る本調査の抽出構成と仙台
市全体の構成は図 4.1 に示すとおり)
また、事前に抽出した上記の対象者宛てに調査依頼状を発送し、調査協力承諾を受け
た250 名(約6.2%)へ調査を実施することにより、調査の円滑化と回答率の向上を図
った。なお、実際の調査実施数は、158名(3.9%)となっている。
年代別構成
1 0 0 .0
本調査
仙台市
8 0 .0
6 0 .0
%
4 0 .0
2 2 .9 2 3 .3
1 9 .0 1 8 .6
2 0 .0
0 .0
20代
30代
1 7 .5 1 7 .3
40代
1 7 .2 1 7 .3
1 2 .3 1 2 .2
50代
8 .0 7 .9
60代
70代
2 .7 2 .9
80代
0 .2 0 .4
90代 以 上
区 別 構 成
男女別構成
1 0 0 .0
9 0 .0
本 調 査
仙 台 市
8 0 .0
100.0
7 0 .0
50.7 49.3
50.8 49.2
% 50.0
本調査
仙台市
6 0 .0
%
5 0 .0
4 0 .0
2 6 .7
2 7 .6
3 0 .0
1 8 .1 1 7 .7
2 1 .7 2 2 .0
1 3 .7
2 0 .0
0.0
1 9 .8
1 2 .9
1 0 .0
女性
男性
図 4.1
0 .0
青 葉 区
宮 城 野 区
調査対象者の属性別構
成
17
若 林 区
太 白 区
泉 区
1 9 .9
第4章
1.
地域産業連関分析による経済波及効果の測定
地域産業連関分析への取り組みの背景
産業連関表は、一年間の全産業間相互の取引額を表にしたマクロ経済統計表であり、都
道府県などが作成した地域産業連関表を利用することで、次のような分析が可能であり、
地域経済の分析には欠かせない分析手法の一つとなっている。
①地域内の経済構造分析
②地域内や地域間・域際取り引きの構造分析
③事業や投資に関する支出の経済波及効果分析
④値上り等の価格変動が地域経済に及ぼす影響の分析
⑤ストックも含めた地域マクロモデル分析への応用
モデルを構築することにより、生産誘発のみならず、税収や雇用機会などについても、
地域の経済構造を踏まえたきめ細かな分析評価が行える手法としても評価されている。
このような産業連関分析の特徴を踏まえて、これまで国や多くの自治体で、公共事業投
資に伴う社会的経済波及効果の基本的な評価分析ツールとして、産業連関分析が広く活用
されている。
そこで、今回の都市公共交通事業の経済的・社会的効果分析手法の一つとして、地域産
業連関分析について、地下鉄東西線建設事業をモデルに現実問題への適用を試みるととも
に、同手法の習得と利用上の課題等についても把握することにした。
2.
地域産業連関分析による経済波及効果分析の考え方
仙台市では産業連関表を作成していないため、今回のケース・スタディにおいては分析
作業の簡便性を勘案して、宮城県産業連関表を用いて地下鉄東西線整備による経済波及効
果を試算し、各種統計データにより算出された仙台市の宮城県におけるシェアをもとに仙
台市における経済波及効果を推計することにした。地下鉄建設に伴う地域経済波及をもた
らす投資としては、地下鉄建設事業の他、これに関連して進められる道路整備や各種公共
施設整備等の公共投資に加えて、民間の開発事業や沿線人口増加による住宅投資・消費需
要増加などが想定される。しかし、今回の分析対象は、地下鉄東西線の「建設投資に伴う
効果」と「地下鉄運営に伴う効果」に限定した。
経済波及効果の試算については通常の手法をとり、地域に対する投資額を全額直接効果
とし、第1次・第2次波及効果まで把握することとした。また、雇用効果や税収効果につ
いての推計も試みることとした。
36
具体的な分析作業方法を簡単に整理すると次のとおりである。
①今回の分析対象となる事業の情報や分析の精度等を勘案して、平成7年宮城県産業
連関表生産者価格表について統合小分類 95 部門から 35 部門に統合し、35 部門表
により投入係数を求め、[I−( I−M ) A]―1型(開放型)逆行列を算出した。
②投入額(投資額等)から雇用者所得を分離した中間投入額を、直接効果とした。
③各部門の中間投資と県内自給率および[I−( I−M ) A]―1型逆列行により算出された
生産誘発額を、第1次波及効果とした。
④直接効果及び第1次波及効果から雇用者所得を分離し、この所得により誘発された
民間消費支出のうち県内産業への需要誘発額を推計して、[I−( I−M ) A]―1型逆行
列により算出された生産誘発額を、第2次波及効果とした。
⑤直接効果と第1次及び第2次波及効果の総和(総合波及効果)と、県産業連関表の
附帯表の雇用表をもとに算出した部門別就業係数により県内誘発就業者数を算出
した。
次に、仙台市への経済波及効果を分離分析するため、以下のような方法で試算を行った。
①統合 35 部門生産者価格表に合わせて、宮城県、仙台市の平成7年度工業統計や域
内総生産等の統計データにより算出した仙台市の宮城県におけるシェアをもとに、
仙台市の生産額を推定した。
②上記①の推定生産額と雇用者所得率および平成7年度個人市民税所得税割調定額
により個人市民税収係数と総合波及効果による雇用者所得を算出し、個人市民税収
増加額を推計した。
③上記①の推定生産額と営業余剰率および平成7年度法人市民税法人税割調定額に
より、法人市民税税収係数と総合波及効果による営業余剰を算出し、法人市民税収
増加額を推計した。
④県の雇用表等により算出された県内誘発就業者数をもとに、上記①で算出した仙台
市の宮城県におけるシェアをもとに、仙台市分の誘発就業者数を推定した。
以上の推計作業過程を次頁に簡略化して図示する。
37
●投入する産業連関表の調整
投入する産業連関表の調整
統合35部門生産者価格表
95
35
与件データに合わせ
部門を統合
平成7年宮城県産業連関表
生産者価格表(95部門)
95
35
35
投入係数表
A
35
移輸入率の計算
県内需要額
移輸入額
1
÷
35
I−M域内自給率データの作成
35
35
35
移輸入率
M
− 35
35
移輸入率
M
35
(I−M)Aデータの作成
35
単位行列
I
正方行列化
35
1
=
35
I−M
35
35
投入係数
A
× 35
I−M
35
35
=
(I−M)A
35
I−(I−M)Aデータの作成
35
35
35
× 35
I
逆行列表の作成
35
(I−M)A
=
35
I−(I−M)A
35
-1
[I-(I-M)A]
35
●経済波及効果の算定
経済波及効果の算定
第1次波及効果の算定
投入額=直接効果
投入
原材料
投入額
自給率
県内
需要額
1
35
1
1
1
35
投入係数表
A
35
35
×
35
県内
需要額
第1次波及効果
1
1
35
= 35
-1
[I-(I-M)A]
35
×
35
35
=
7
1
粗付加価値部門
1
35
第1次波及効果
消費転換係数
1
1
投入
1
35
雇用者所得
×
1
民間消費支出構成比
(生産者価格表より作成)
自給率
1
1
第2次波及効果への投入額
1
1
=
1
消費額
1
35
×
35
=
35
35
投入係数表
A
35
粗付加価値部門
7
第2次波及効果の算定
1
1
35
総合波及効果の算定
第2次波及効果
35
35
1
-1
[I-(I-M)A]
× 35
1
= 35
雇用効果の算定
投入額=直接効果 第1次波及効果 第2次波及効果
1
35
1
+
35
38
総合波及効果
総合波及効果
1
1
1
+ 35
=
35
35
従業者誘発係数 従業者誘発数
1
1
× 35
= 35
●税収効果の算定(市民税)
税収効果の算定(市民税)
税収係数の算定
統合35部門生産者価格表
による生産額
1
×
35
対宮城県の仙台市のシェア率
仙台市の推定生産額
投入
1
1
=
35
35
35
投入係数表
A
35
仙台市の推定雇用者所得
7
仙台市の推定営業余剰
1
1
35
個人市民税 所得税割調定額
仙台市の推定雇用者所得
=
法人市民税 法人税割
仙台市の推定営業余剰
個人市民税税収係数
個人市民税の税収試算
総合波及効果
雇用者所得率
35
× 35
法人市民税の税収試算
雇用者所得
1
1
総合波及効果
個人市民税税収
1
35
1
×
法人市民税税収係数
=
個人市民税
税収係数
=
営業余剰率
35
35
39
営業余剰
1
1
× 35
法人市民税税収
1
35
1
×
法人市民税
税収係数
=
35
3.
経済波及効果の試算結果
地下鉄東西線建設による地域経済波及効果を「建設投資に伴う効果」と「地下鉄運営に
伴う効果」の二つの地域効果について試算し、この両者を合わせたものを地下鉄東西線建
設による地域経済波及効果の総和として捉えることとした。
また、地下鉄東西線の建設投資額は 2,713 億円*とした。運営効果については、損益収
支計画の累計黒字化が開業 27 年目であることを勘案して、国土交通省の費用対効果分析
マニュアルによる費用便益分析の計算期間に準じて開業 30 年間について試算することと
した。
なお、産業連関表による波及効果試算の簡便化のため、建設投資額および地下鉄運営費
用**の何れについても、まとめて一気に支出されたものと見倣し、かつ、運営費用の総量
については「鉄道輸送」部門の中間投入パターンをもとに、直接投入額を処理して試算を
行った。
* 平成 8 年度価格に建設時期に応じた物価上昇分を加えたもの
**「平成 12 年 10 月東西線計画の概要」(仙台市)の収支シミュレーションによる
その結果下記の通り、地下鉄東西線の建設・運営により投資額の2.7倍に相当する約
7,300 億円の生産が誘発され、建設部門に止まらず商業部門、金融・保険・不動産部門や
対事業所サービス部門など幅広い分野に効果がもたらされることが確認された。
また、これに伴い延べ 51 千人強の従業者が誘発され、雇用者所得や法人所得(営業余
剰)の増加による市民税収入の増加も見込まれる。
○生 産 誘 発 額
7,314 億円
建設効果
4,235 億円
運 営 効 果***
3,079 億円
○従業者誘発数
延 51.6 千人
***地下鉄運営により地域に支出される費用による生産誘発効果で、費用対効果分析マニュアル
の供給者便益とは異なる
しかしながら、今回の作業は前節で示したとおり、分析に使用した産業連関表のまとめ
方や誘発効果の推計方法等をかなり簡略化しており、かつ、部門別投入額設定の取扱い方
や精度についても粗かったことから、上記の効果試算値の精度も粗くならざるを得なかっ
た。また、仙台市分の効果試算値の精度も粗くなるため、研究段階の試算の域に止まって
しまったが、今後の研究の手掛かりとして、宮城県表を基本とすることの限界を指摘した
40
うえで、仙台市分の試算値を次のとおり、参考値として示すこととした。
【宮城県表を基本とすることの限界】
①今回の試算では、平成7年宮城県産業連関表を使用したため、仙台市における投資(投入)
に係る波及効果が県全体に及ぶものとして試算され、そこから仙台市分をシェア割して
算出する方法を取らざるを得ず、基本的には仙台市域での投入・波及効果を特定して分
析する仕組みとなっていない。
②具体的には、仙台市の産業構造を宮城県と同一であると仮定して仙台市の生産誘発額を
試算してみた結果、生産誘発額は 3,451 億円(建設効果 1,901 億円;運営効果 1,550 億
円)、従業者誘発数 21.3 千人、仙台市民税収増加額 69 億円となったが、1 次産業分野そ
の他を中心に市と県レベルでは産業構造が異なるため、波及効果の試算にも相当の違い
が生じてくる。しかし、今回は市と県の産業構造の差異の分析とそれに係る補正作業は
行わなかったため、参考値扱いとせざるを得なかった。
③また上記②の試算にあたっては、投資及び波及効果とも仙台市のみに発生すると仮定し
て計算したもので、データ加工上の問題と精度の問題から建設投資、運営効果に係る支
出額の雇用者所得やそれに伴う消費支出などについて、仙台市分として十分絞り込んだ
ものを使用することができなかった。
④仙台市に投入されたものの波及が、仙台都市圏、その他の宮城県内、東北各県等へとい
う形で、地域間相互の取引を反映する仕組みになっていない。
⑤今回は平成7年表を使用したが、平成7年以降の IT 化の進展により情報サービス産業
への投入額がかなり変化していることは想像に固くなく、それにより産業構造もかなり
変化しているものと思われるが、今回の作業には反映されていない。
このような限界や留意点に係る課題を少しでも解消し、分析の精度を高めるには、まず
仙台市産業連関表を作成することが望まれる。
また、産業連関分析の一般的な留意点として、下記のような点があげられる。
【産業連関分析利用上の一般的留意点】
①投入係数は安定的(不変)であると仮定しているが、実際には生産量が増えた場合に、
効率化などにより投入率に変化が生じる場合がある。
②各分野に対する需要がどんなに増加しても、各部門が必ず現在の自給率・投入構造で対
応すると仮定しているが、実際には地元産業の供給力が低く、他地域の同業者に対する
発注が増加することが予想される。
③ある部門の生産増は原材料の増加以外に他部門の生産の増減に影響しないと仮定してい
るが、実際には景気が低迷している昨今、産業間でトレードオフ関係にあるものもある。
41
また、一定量以上の生産増加により部門によっては原材料に加えて設備投資需要が新た
に発生することもある。
④産業連関分析では、投資行為や波及の連鎖が 1 年以内で完了するものと想定しているが、
一般的に投資事業は複数年次に亘るものが多い。
⑤従業者誘発については宮城県産業連関表の附帯表である雇用表を用い、生産額の変化に
合わせて従業者数も変化すると考えているが、残業等で対応して必ずしも生産額の増加
に比例するとはいえない。
⑥産業連関表はフロー表であるため、経済波及効果の試算にはストックの変化やその変化
によるストックの変化による効果は含まれない。
しかしながら、産業連関分析は、一旦産業連関表を作成すると、大きな経済構造の変化
がない限り、記述のとおり地域内の投資効果分析等を簡便、かつ、スピーディーに試算検
討できるため、上記のような限界や留意点があるにもかかわらず広く各地で使われている。
今回の試行的研究においても、手法としての有用性は一応確認された。
個々の地域の特徴的な経済構造を反映させることにより、より緻密な政策決定ツールと
して有用性を増すものと思われる。
とはいえ、システム構築には多くの工程が必要であり、
また、一定水準以上の有用性を確保するには、その精度の向上に加えて、継続的に管理・
運営するための組織的な取り組みが不可欠になるものと思われる。
42
部門統合(95部門→35部門)及び仙台市の対宮城県シェア総括表
生 産 者 価 格 評 価 表 ( 9 5 部 門 ) 生産者価格評価表(統合35部門) 仙 台 市 の 対 宮 城 県 シ ェ ア 算 出 統 計
生産額・出荷額等
単位:百万円
仙台市
001
002
003
004
005
006
米
耕 種 農 業 ( 除 米
畜
農 業 サ ー ビ
林
漁
007 金
008 非
009 石
属
鉱
金
属
鉱
炭
・
原
01 農
林
水
産
)
産
ス
業
業
物 02 鉱
物
油
業 平成7年度市内総生産(平成12年3月公表)及び平成
7年度県内総生産(平成12年10月公表)
業 総生産(農林水産業に同じ。以下同じ)
010
011
012
013
014
015
016
と 畜 ・ 畜 産 食 料 品 03 食
水
産
食
料
品
精
穀
・
製
粉
そ の 他 の 食 料 品
飲
料
飼料・有機質肥料(除別掲)
た
ば
こ
017
018
019
020
021
022
繊 維 工 業 製 品 04 繊 維 ・ パ ル プ ・ 紙 加 工 平成7年工業統計製造品出荷額等
衣服・その他の繊維製品
14繊維工業(衣服・その他の繊維製品を除く)、15衣
製 材 ・ 木 製 品
服・その他の繊維製品製造業、16木材・木製品製造業
家 具 ・ 装 備 品
(家具は除く)、17株・装備品製造業、18パルプ・紙・
パルプ・紙・加工紙
紙加工品製造業の合計
紙
加
工
品
023 出
版
・
印
刷 05 出
料
版
・
品 平成7年工業統計製造品出荷額等
12食料品製造業、13飲料・たばこ・飼料製造業の合計
印
刷 平成7年工業統計製造品出荷額等
19出版・印刷・同関連産業
024
025
026
027
028
029
030
031
032
033
化
学
肥
料 06 化学製品、石油・石炭商品 平成7年工業統計製造品出荷額等
無機化学・基礎製品
20化学工業、21石油製品・石炭製品製造業、22プラス
有機化学基礎・中間製品
チック製品製造業(別掲を除く)の合計。23ゴム製品
合成樹脂・化学繊維
製造業、24なめし革・同製品・毛皮製造業については、
化 学 最 終 製 品
仙台市の数値が秘匿されているため、除外した。
石
油
製
品
石
炭
製
品
プ ラ ス チ ッ ク 製 品
ゴ
ム
製
品
なめし革・毛皮・同製品
034
035
036
037
ガ ラ ス ・ ガ ラ ス 製 品 07 窯 業 ・ 土 石 製 品 平成7年工業統計製造品出荷額等
セメント・セメント製品
25窯業・土石製品製造業
陶
磁
器
その他の窯業・土石製品
49
宮城県
仙台市の
対宮城県
シェア
9,285
236,951
3.9%
818
7,706
10.6%
245,642
971,618
25.3%
31,921
426,512
7.5%
131,258
156,246
84.0%
171,333
310,330
55.2%
17,484
136,740
12.8%
038
039
040
041
042
銑
鉄
・
粗
鋼 08 鋼
材 平成7年工業統計製造品出荷額等
鋼
材
小分類については仙台市分、宮城県分ともに秘匿され
鋳鍛造品・その他の鉄鋼製品
ているため、中分類26鉄鋼業を使用した。
非 鉄 金 属 精 錬 ・ 精 製 09 そ の 他 の 金 属 地 金 平成7年工業統計製造品出荷額等
非 鉄 金 属 加 工 製 品
仙台市:26鉄鋼業、284件建設用・建築用金属製品及び
289その他の金属製品を除く28金属製品製造業の合計。
27非鉄金属製造業は秘匿されているため除外した。宮
城県:26鉄鋼業、2841件建設用金属製品製造業及び建
築用金属製品製造業及び2892金属製スプリング製造業
及び2899他に分類されない金属製品製造業の合計。27
非鉄金属製造業は仙台市分が秘匿されているため除外
した。
043 建 設 ・ 建 築 用 金 属 製 品 10 建 設 ・ 建 築 用 金 属 製 品 平成7年工業統計製造品出荷額等
仙台市:284建設用・建築用金属製品。宮城県:2841
建設用金属製品、2842建築用金属製品の合計
044 そ の 他 の 金 属 製 品 11 そ の 他 の 金 属 製 品 平成7年工業統計製造品出荷額等
仙台市:289その他の金属製品。宮城県:2892金属製ス
プリング製造業、2899ほかに分類されない金属製品製
造業の合計
045 一 般 産 業 機 械 12 一 般 産 業 機 械 平成7年工業統計製造品出荷額等
一般産業機械に該当する宮城県の4桁分類項目の数値
に秘匿があるため、29一般機械器具製造業を使用する。
046 特 殊 産 業 機 械
そ の 他 の 機 械 平成7年工業統計製造品出荷額等
047 そ の 他 の 一 般 機 器
除外すべき一般産業機械に該当する宮城県の4桁分類
048 事務用・サービス用機器
項目の数値に秘匿があるため、29一般機械器具製造業
を使用する。
049
050
051
052
民 生 用 電 気 機
電 子 ・ 通 信 機
重
電
機
そ の 他 の 電 気 機
053 自
054 船
動
舶
・
同
修
械 14 重
器
器
器
器 平成7年工業統計製造品出荷額等
重電機器に該当する仙台市301発電用・送電用・配電
用・産業用電気機械器具に対応する宮城県の4桁分類
に秘匿された数値があるので、30電気機械器具製造業
を使用する。
15 そ の 他 の 電 気 機 械 平成7年工業統計製造品出荷額等
除外すべき重電機器に該当する仙台市301発電用・送電
用・配電用・産業用電気機械器具に対応する宮城県の
4桁分類に秘匿された数値があるので、30電気機械器
具製造業を使用する。
車 16 自
理
電
動
車
機
・
船
舶 平成7年工業統計製造品出荷額等
仙台市:311自動車・同附属品、314船舶製造・修理業,
船用機関の合計。宮城県:3112自動車車体・附随車製
造業、3113自動車部分品・附属品製造業、3141鋼船製
造・修理業、3144舟艇製造・修理業、3145舶用機関製
造業の合計
055 その他の輸送機械・同修理 17 その他の輸送機械・同修理 平成7年工業統計製造品出荷額等
31輸送用機械器具製造業からそれぞれ上記の自動車・
船舶の数値を控除したもの。
056 精
密
機
械 18 そ の 他 の 製 造 工 業 製 品 平成7年工業統計製造品出荷額等
057 そ の 他 の 製 造 工 業 製 品
32精密機械器具製造業、32その他の製造業の合計
058 建
築 19 建
67,901
135,263
50.2%
108,803
230,560
47.2%
19,878
101,085
19.7%
2,208
10,083
21.9%
14,714
155,979
9.4%
14,714
155,979
9.4%
175,132
868,552
20.2%
175,132
868,552
20.2%
3,611
4.1%
757
6,311
12.0%
9,969
117,135
8.5%
420,561
927,532
45.3%
059 建
設
補
修 20 建
設
補
築 総生産(農林水産業に同じ) 仙台市は大分類のみの
公表なので、建設業をもって当該分類に適用する。
修
同 上
420,561
927,532
45.3%
060 公
共
事
業 21 公
共
事
業
同 上
420,561
927,532
45.3%
061 そ の 他 の 土 木 建 設 22 そ の 他 の 土 木 建 設
同 上
420,561
927,532
45.3%
93,953
221,938
42.3%
062 電
力 23 電
力 総生産(農林水産業に同じ) 仙台市は大分類のみの
公表なので、電気・ガス・水道業、政府サービス生産
者電気・ガス・水道業の合計をもって当該分類に適用
する。
50
063 ガ
064 水
065 廃
221,939
42.3%
1,077,895 1,472,630
73.2%
068 金
融
・
保
険 26 金 融 ・ 保 険 ・ 不 動 産 総生産(農林水産業に同じ) 金融・保険業、
069 不 動 産 仲 介 及 び 賃 貸
不動産業の合計
070 住
宅
賃
貸
料
752,700 1,333,953
56.4%
071 鉄
354,172
639,401
55.4%
354,172
639,401
55.4%
228,795
415,591
55.1%
155,879
342,453
45.5%
086 広告・調査・情報サービス 31 対 事 業 所 サ ー ビ ス 業 総生産(農林水産業に同じ) 仙台市は大分類のみの
087 物 品 賃 貸 サ ー ビ ス
公表なので、産業部門のサービス業をもって当該分類
088 自 動 車 ・ 機 械 修 理
に適用する。
843,532 1,336,424
63.1%
089 その他の対事業所サービス 32 その他の対事業所サービス
同 上
843,532 1,336,424
63.1%
090
091
092
093
同 上
843,532 1,336,424
63.1%
3,998,294 7,648,828
52.3%
3,998,294 7,648,828
52.3%
ス
・
棄
熱
物
供
処
066 卸
067 小
072
073
074
075
076
077
078
079
道
水
航
貨
倉
運
通
放
ス
・
水
売 25 商
売
道
輸
送 27 鉄
道
同 上
業 総生産(農林水産業に同じ) 卸売・小売業
送 総生産(農林水産業に同じ) 仙台市は大分類のみの
公表なので、運輸・通信業をもって当該分類に適用す
る。
路
輸
送 28 そ の 他 の 運 輸 ・ 通 信
同 上
運
空
輸
送
物 運 送 取 扱
庫
輸 付 帯 サ ー ビ ス
信
送
080 公
081
082
083
084
085
給 24 ガ
道
理
道
輸
務 29 公
務 総生産(農林水産業に同じ) 公務
教
育 30 教育・医療・保健・社会保 総生産(農林水産業に同じ) 政府サービス生産者部
研
究
障・その他の公共サービス 門のサービス業
医
療
・
保
健
社
会
保
障
その他の公共サービス
娯 楽 サ ー ビ ス 33 対 個 人 サ ー ビ ス 業
飲
食
店
旅館・その他宿泊所
その他の対個人サービス
094 事
務
用
品 34 事
務
用
095 分
類
不
明 35 分
類
不
品 総生産(農林水産業に同じ) 項目がないことから、
市内総生産のうち産業の合計を適用した。
明
同 上
51
93,953
第5章 地理情報システムを活用した
ヘドニック・アプローチによる土地利用評価
1.
1.1
調査法概論
調査の背景と目的
地理情報システム(GIS:Geographical Information System)は、きわめて多種多様な空
間データを管理し、加工分析することを可能にする。さらに、都市計画においては、これ
まで多くの時間を費やしてきた事業の影響分析や複数プロジェクトの代替案比較などを、
コンピュータ画面を通じて短時間で行うことを可能にする。地理情報システムは、非常に
有効な行政施策形成や、都市計画の支援ツールとなる可能性を有している。
しかし、地方自治体などが組織全体新たにこれを整備するには高価であること、データ
ベース維持・管理が必ずしも容易でないこと、異なる仕様のデータを統一的に扱う方法論
が確立していないなど、さまざまな問題があることも事実であり、各地方自治体で導入が
進んでいるとは言い難い。また、業務の中でどのように活用できるかという利用イメージ
が行政にたずさわる職員に浸透していないことも、導入が進んでいない理由のひとつでは
なかろうか。
また、市民の税金の使途に対する意識の高まりや公共工事に対する批判的な見方の広ま
りなど、社会基盤整備を取り巻く環境が、これまでとは大きく異なってきている。このた
め、従来のような計画手法では、必要な社会基盤整備が立ち行かなくなるケースが予想さ
れる。社会基盤施設整備を行う上では、その整備によって、どのような効果が、誰に、ど
れぐらい及ぶかを評価し、それを公表して議論をすることによって、合意を形成していく
プロセスが不可欠となってくる。今後、自治体は、このようなことを可能にするプロジェ
クト評価の手法やシステムを持たざるを得なくなると思われる。近年、地理情報システム
技術の向上により、多くの地理的なデータを扱い、詳細な土地利用状況を表現しながら、
空間的に状況を把握できることが可能になってきた。地理情報システムは、このような合
意形成を支援するツールとしても重要な役割を果たすことができると考えられる。
本研究では、このような背景のもとに、地理情報システムの活用事例としての社会基盤
の便益評価を実践することを目的としている。例として、仙台市における市営地下鉄事業
を取り上げ、その便益がすべて周辺の地価に帰着するという“キャピタリゼーション仮説”
をベースとするヘドニック・アプローチを試みる。現段階では、同アプローチの地価式の
パラメータ推計を行っている段階である。その結果を踏まえて、今後の展開を述べる。
52
1.2
ヘドニック・アプローチによる便益計測手法
キャピタリゼーション仮説によれば、交通施設整備への投資は、時間短縮という直接的
な利用者効果を生み、それが波及して、最終的に地価上昇という形で土地所有者に帰着し
ている。この地価上昇額を計測することで、開発利益を知ることができる。しかし、社会
基盤施設の整備財源の異なる効果も地価を上昇させることになり、異なる事業に起源を持
つ効果と交通施設整備効果とを混在させる恐れがある。外部効果を発生させる複数機能が
集積した場合には、集積の経済が働くことによって明確に起源を特定できない効果が発生
すると考えられ、この相乗効果への配慮も必要である。
整備効果の起源に着目して計測する方法に、ヘドニック・アプローチがある。起源分離
を行うために、土地の詳細な状況変化を表現するのに充分な地価データのサンプル数が必
要である。そのためには、近年になって数値化された路線価データの利用が有効である。
今回は、GISシステムにより最新の仙塩都市圏都市計画基礎調査データや、路線化デ
ータを利用して、開業10余年になる仙台市営地下鉄南北線の効果についてヘドニック・
アプローチによる推計を試み、現在計画中の地下鉄東西線建設の効果についても検討を行
うこととした。
2.
具体的な推計手法
2.1
推計方法
ヘドニック・アプローチの推計手順は、図 2.1に示す通りである。この中で、地価関数
の推定が、最初の中心的な作業となる。ここで、安定した信頼性の高いパラメータを得る
ことが、推計精度を高くするひとつのポイントである。
ヘドニック・アプローチによる地価関数の推計の際に、関数型が線形である場合には
パラメーター推計が極めて単純になる。このことから、地価関数に線形の関数型を用いた
ならば、推計式は式(2.1.1.)となる。
P=α0+α1Х1+……+αiХi +……+αnХn+ε(2.1.1.)
ここでPは地価、Хi は当該地点の第i番目の属性値、εは誤差項、αi はパラメータ
ーを示している。通常このパラメーターは最小二乗法で推計される。
住宅地と商業地について、
公示地価、
路線価のデータを用いてパラメーター推計を行う。
今回の整備効果の計測方法は、
対象地域を平成 10 年度仙塩都市圏都市計画基礎調査を基
53
に仙台市域をゾーンに分割し、
地価関数を用いて with と without の場合との地価の差を算
出し、これにゾーンごとの用途別土地利用面積を乗じた。用途別土地利用面積には、住宅
用地と商業用地のみを用いた。
なお以下の推計作業は、東北大学大学院 宮本研究室の協力によって行った。
Withデータ
社会資本整備水準
政策変数となる
現況データ(Without)
・地価
・地点属性 等
・社会資本整備水準(Without)
地価関数の推定
地点別Without地価
地点別With地価
地点別の便益
ゾーン別用途別面積
社会資本がもたらす便益
図 2.1 推計手順
2.2
推計の実際
1)使用データ:仙台市固定資産税評価のための路線価(平成 12 年)
住宅に関しては、39,939 サンプル、商業に関しては、3,878 サンプル
仙台市営地下鉄南北線が供用されてから、その便益が帰着するまで十分な時間が経過し
た後であり、計測された便益は、全便益の大部分をカバーしていると考えられる。また、
実勢地価は、個別の要因や実態経済と乖離した要因などに左右される場合が多く、この場
合望ましくない。評価地価のうち、公示地価や標準地地価等は、各地区の詳細な土地条件
を反映するほどのサンプル数が確保できないことから、ここでは、路線価を採用した。仙
台市で住宅に関して約 40,000 件のサンプルを得ることができ、十分に詳細な土地条件を反
映したサンプルであると考える。
2)地価関数形
ここでは、最も地価への寄与を理解しやすい線形関数を基本とする。どのような関数形
が望ましいかは、学術的な検討においても確立されたものはなく、試行錯誤によってさま
54
ざまな関数形を試みて、統計的に最も望ましいものを関数形とするに留まっている。
3)使用説明変数とパラメータ推計方法
路線価の説明変数として、現段階で入手可能な以下の説明変数を最初の候補とした。
【説明変数候補】
最寄鉄道駅距離(m)/最寄バス停距離(m)/幹線道路距離(m)/大型店舗距離(m)/
仙台駅距離(km)/
幅員(m)/舗装ダミー/歩道ダミー/国道ダミー/県道ダミー/市道ダミー/建築基準法上道路/
通抜良ダミー/バス通ダミー/坂道ダミー/
下水道ダミー/都市ガスダミー/
変電所距離(m)/ガス施設距離(m)/下水施設距離(m)/火葬場距離(m)/
食肉施設距離(m)/清掃施設距離(m)/線路距離(m)/高速道路距離(m)/
市街化区域ダミー/都市計画区域ダミー/
低層住専ダミー/中高層住専ダミー/住居・準住居ダミー/商業地域ダミー/工業地域ダミー/
指定容積率(%)
これらの説明変数の候補を、以下の手順で取捨選択した。
① 全説明変数で、地価に対する線形重回帰分析を行う。
② 説明変数を採用すべきかどうかの分析は、偏回帰経緯数に対する t 検定で行う。
統計的に計算される t 値が、一般に 1.96 より大きい場合、その説明変数を導入
して有意であるとされる。
③ 符号条件の説明できないものについては、削除する。
偏回帰係数の符号は、正であれば、その説明変数が増加するに従って地価も上昇
し、社会基盤による便益が高いことを示す。負であれば、その説明変数が増加する
に従って地価が減少し、社会基盤による便益が低いことを示す。
説明変数の採用が十分でない場合、この符号条件が必ずしも合理的に説明でき
ないケースが発生する。この場合、この説明変数は十分に土地条件を反映しておら
ず、他の要因と何らかの意味で混在した説明変数であると判断して、説明変数から
削除する。削除した結果、この要因に関する説明は、定数項に吸収されるとともに、
真値と推計値の間の残差として残ることになる
④ できるだけ重相関係数の高い説明変数セットを採用する。
重相関係数は、その地価式の総合的な説明力を示すものである。一般に、習慣的
に 0.8 以上ある必要があるとされる。ここでは、説明変数の取捨選択、関数形の採
用を試行錯誤で行い、最も高い重相関係数となる説明変数セットを探した。
55
4)地理情報システムによるデータマッチング
地理情報システムを用いて空間情報を持つ複数のデータを組み合わせた。ここでは、図
2.2∼2.3 に示すように、路線番号によって路線を特定できる路線価データ(平成 12 年)
とゾーン番号を特定できる仙塩都市圏都市計画基礎調査(平成 10 年)の情報を組み合わせ
た。
GISによるデータマッチング
GISによるデータマッチング
(場所情報を元に)
(場所情報を元に)
路線価データ(H12年)
路線価データ(H12年)
仙塩都市圏年計画基礎調査(H10年)
仙塩都市圏年計画基礎調査(H10年)
路線価土地情報結合データ
路線価土地情報結合データ
パラメータ推計
パラメータ推計
GISによる
GISによる
データ作成
データ作成
Withoutでの鉄道駅距離データ
Withoutでの鉄道駅距離データ
GISによる
GISによる
集計ゾーンチェック
集計ゾーンチェック
市全域への便益集計
市全域への便益集計
図 2.2 地理情報システムを用いた情報整理
56
都市計画
基礎調査データ
ゾーン番号
101-001-01
101-001-02
101-001-03
101-002-01
101-002-02
101-003-01
101-003-02
101-003-03
101-003-04
101-004-01
101-004-02
101-004-03
101-004-04
101-004-05
101-004-06
101-004-07
101-004-08
101-005-01
101-005-02
101-005-03
101-005-04
101-005-05
101-005-06
101-006-01
101-006-02
101-007-01
101-007-02
101-007-03
101-007-04
市区町村
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
仙台市青葉区
074
074
074
082
082
081
081
081
081
081
081
081
081
081
081
081
081
091
091
091
091
091
091
074
074
082
082
082
082
代表字
みやぎ台五丁目
みやぎ台二丁目
みやぎ台一丁目
中山台一丁目
中山吉成三丁目
川平三丁目
中山九丁目
西勝山
川平二丁目
桜ヶ丘七丁目
桜ヶ丘八丁目
桜ヶ丘六丁目
桜ヶ丘四丁目
桜ヶ丘三丁目
桜ヶ丘五丁目
桜ヶ丘一丁目
桜ヶ丘二丁目
北根黒松
双葉ヶ丘一丁目
双葉ヶ丘二丁目
北根三丁目
藤松
北根二丁目
赤坂三丁目
高野原三丁目
吉成台二丁目
吉成二丁目
南吉成三丁目
吉成三丁目
大
07
07
07
08
08
08
08
08
08
08
08
08
08
08
08
08
08
09
09
09
09
09
09
07
07
08
08
08
08
中
001
001
001
002
002
003
003
003
003
004
004
004
004
004
004
004
004
005
005
005
005
005
005
006
006
007
007
007
007
路線価
データ
小
01
02
03
01
02
01
02
03
04
01
02
03
04
05
06
07
08
01
02
03
04
05
06
01
02
01
02
03
04
標準値番号
662015
662014
662002
661057
661057
133002
161008
161011
161017
133001
133001
161021
142051
142048
161022
161024
161029
132016
132015
161083
132014
161088
132013
662004
662004
661059
661059
633004
661061
図 2.3 路線価データと都市計画基礎調査の対応
5)地理情報システムによる空間データの作成
各ゾーンの鉄道駅からの距離といったような空間データは、地理情報システムを用いて
知ることができる。先述の路線単位の鉄道駅からの距離をゾーン単位に変換し直すことに
よって、ゾーン別の鉄道駅からの距離データを得ることができる。なお、逆にゾーン単位
のデータがある場合は、路線単位のデータ作成も可能である。
57
3.
パラメーター推計結果
推計結果は、表 3.1 に示すようになった。
概ね、t値および符号条件は満足され、修正済決定係数についても、0.753 と高い値を
得た。
表 3.1 パラメータ推計結果
変数名
最寄鉄道駅距離(m)
幹線道路対数距離(m)
大型店舗距離(m)
仙台駅距離(km)
幅員(m)
歩道ダミー
国県道ダミー
市道ダミー
通抜良ダミー
バス通ダミー
坂道ダミー
下水道ダミー
都市ガスダミー
火葬場距離(m)
市街化区域ダミー
中高層住専ダミー
住居・準住居ダミー
商業地域ダミー
商業密度
exp(駅距離)×駅商業密度
定数項
係数
-1.32E+00
-2.04E+03
8.28E-01
-2.30E+03
8.05E+02
1.61E+03
1.85E+03
4.65E+03
3.57E+03
-2.46E+03
-7.79E+03
4.78E+03
8.18E+03
-4.10E-01
8.67E+03
5.29E+03
7.49E+03
1.78E+04
1.09E+05
5.28E+04
6.68E+04
修正済決定係数
t値
47.56
30.88
14.17
88.06
27.44
6.18
3.60
24.70
18.64
8.96
17.21
17.85
49.71
17.26
29.52
23.29
46.93
49.78
37.92
15.78
129.94
0.753
この中で、大型店舗距離という説明変数については偏回帰係数が正となり、大型店舗か
ら遠くなれば遠くなるほど地価が高いという結果を得た。これは、大型店舗の郊外化が進
む中で、十分に大型店舗の利便性だけの要因を抽出できなかったため、大型店舗に近いと
いう意味と郊外であるという意味が混在したためではないかと考えられる。今後、より詳
細な説明変数の工夫が必要となる。
バス通りダミーという説明変数については、負の偏回帰係数を得た。バス通りに近いと
いう要因は、双方に解釈できる。一方はバスの利便性が高いとする正の効果であり、他方
は生活道路がバス通りのような多くの交通量がある危険度の高い道路である、という負の
効果である。ここでは、後者の負の要因がより多く効いたものと推察される。
都市計画基礎調査から得られるデータによるパラメータ推定については、商業密度とそ
れを組み合わせた変数のみが、有意なものとして得られた。商業密度は、住宅地にとって
の買い物の便利さを表現する重要な指標であり、住宅地価に顕著に現れたものと見られる。
58
ただし、東北大学大学院宮本研究の既存の研究からは、より多くの説明変数が有意に効い
ているので、この点については、今後さらなる検討が必要である。
4.
便益の集計試算例
4.1
集計に関するデータ
便益の計算例として、今回の研究で得られてたパラメータのうち、最寄りJR駅距離と
最寄り鉄道駅距離というパラメータをもとに、便益集計を試算した。
路線価ポイント数からみた最寄りJR駅距離(m)
7000
6000
路 5000
線
価
4000
ポ
イ
3000
ン
ト
数 2000
1000
0
0
1,000
2,000
3,000
4,000 5,000 6,000
最寄りJR駅距離
7,000
8,000
9,000
路線価ポイント数からみた最寄り鉄道駅距離(m)
6000
5000
路
線 4000
価
ポ
3000
イ
ン
ト 2000
数
1000
0
0
1,000
2,000
3,000
4,000 5,000 6,000
最寄り鉄道駅距離(m)
7,000
8,000
9,000
図 4.1 地価の変遷(最寄り鉄道駅とは、JR 駅か地下鉄駅の近い方を指す)
仙塩都市圏都市計画基礎調査(平成 10 年)によれば、地下鉄の影響が及ぶ仙塩都市圏
の住宅地面積は 9,039ha(商業併用住宅の半分を含めて)である。
59
また、with-without の設定としては、地価式の説明変数として最寄り駅までの距離とい
う変数が有意に効いていることから、鉄道駅としてJR駅のみの場合とJR駅および地下
鉄駅の場合を比較した。この設定における地価の変遷は、図 4.1 に示す通りである。地下
鉄の開業により、
多くの地価ポイントで最寄り駅までの距離が減少したことがうかがえる。
そして、地理情報システムを用いて鉄道駅からの距離が減少したゾーンをチェックし、そ
のゾーンをもとに後述する方法で集計を行った。
4.2
便益の集計方法及び試算結果
都市計画基礎調査の小ゾーン単位で集計した。市内の概要は以下の通りである。
最寄り鉄道駅までの距離の対するパラメータ −1.32
住宅地面積
5,964ha
便益の集計は、以下のように計算する。
−1.32 × (鉄道駅までの距離(without)−鉄道駅までの距離(with))
× ゾーン住宅地面積
この値を各ゾーン別に求め、全てのゾーンにわたって足し合わせる。
これらを用いて地下鉄南北線の便益について計算したところ住宅地の地下鉄による便益
は、1,291 億円であった。同様に、商業地の地下鉄による便益は、623 億円であり、両者を
合計して 1,914 億円となった。
いわゆる総便益値は、地下鉄南北線の料金収入期待値を加えたものでなくてはならない
が、ここでは、地理情報システムの応用例としてのヘドニック・アプローチによる便益計
測であるので、料金収入分は加えないこととした。
また、このヘドニック・アプローチは、一般的な社会基盤施設の便益計測に活用できる。
今回、説明変数として得られた要因によって説明可能な社会基盤施設であれば、その便益
を計算することが可能である。
地下鉄東西線については、すでに路線および駅の計画が発表されており、この便益を計
算できる。
本来は、東西線完成後の都市の状況を土地利用交通モデルなどを用いて予測し、
それに基づく説明変数によって計算すべきであるが、土地利用交通モデルを推計するのに
十分な環境が整っていないことから、以下のように簡便に試算してみた。
その結果、地下鉄東西線による便益は、1,285 億円(住宅地に対する便益 867 億円、商
業地に対する便益 418 億円)という結果が得られたが、これらもまた、限定的な条件下で
の地価効果についての試算であり、参考値の扱いとせざるを得なかった。
60
第6章
各手法の適用の意義と今後の取り組みへの課題
1.
各手法の適用・利用上の課題と留意点
1.1
仮想評価法(CVM)及び階層化意思決定分析法(AHP)
公共事業の評価では、実施する側の視点に基づく評価が優先される傾向がある中で、公
共交通事業の最大受益者である市民側の意向を定量的に把握できたことや、市民が期待す
るまちづくりの方向性について、数値で比較検討できたことの意義は大きいと考える。
しかし、この手法を他の事業評価に幅広く適用する場合には、アンケートのシナリオの
設定に際し、できるだけ外部の影響を受けないような配慮を必要とするなど、様々なバイ
アスをいかに除去するかが、大きな問題としてある。そこで、今回、我々はその対応策と
して被験者に同一のイメージを正確に伝えるために、パソコンによる画像や音声を伝達す
るシステムによって試みた。しかし、個別訪問調査にかかる時間的・経費的負担が大きい
など実務的運用上の課題がある。
1.2
地域産業連関分析
今回の研究では仙台市自身の産業連関表がなく、宮城県表をベースとしたことや、仙
台市域や同地域外との取引分析を取り込んだ産業連関表を作成できなかったために一
定の限界があったが、公共交通事業に関する波及効果の社会的経済的側面からのきめ
細やかな計測が可能であることから、政策決定のツールとしての有効な活用可能性が
あたらめて確認できた。
今後、この分析手法を活用していくためには、個々の地域の特徴的な経済構造を反
映した地域産業連関表の作成が必要であり、それを継続的に管理・運営するための組
織的な取り組みも不可欠になる。
1.3
ヘドニック・アプローチによる土地利用評価
今回の研究では、地価上昇に影響を与える説明変数を特定することができた。今後、
実際的な活用を図るためには、各変数に係る地域の詳細データの収集・蓄積と地理情
報システムの管理を行っていくことが重要である。また、さらに有用性を高めるため
には分析結果についてのフォローも重要になると思われる。
61
2.今後の事業評価への取り組みの課題
都市公共交通事業が地域にもたらす経済的・社会的効果の予測・評価においては、評価
する視点とその際の対象となる事業の効果を明確にし、それに最適な手法によって調査・
分析することが重要であろう。
手法ごとにメリットを整理した上で、予想される効果をすべからく評価できるよう評価
対象に応じた手法の使い分けが望まれる。そのためにも公共事業を計画・実施する場合に
は、社会的・総合的評価の視点を十分踏まえつつ、事業主体が効果の受け手の側からの評
価にも留意し、評価手法についての理解を深めることが必要である。
また、事業を計画する際の評価態勢の仕組みを整えることも必要である。そして、評価
をバックアップする評価ツールとしての産業連関表や地理情報システム(GIS)など、ソ
フト、ハード両面からの取り組みを長期にわたって組織的に、継続的に取り組むことが必
要であろう。
また、そうすることによって得られた事業評価情報は初めて多面的な政策判断の素材に
なりうるであろうし、事業主体が事業推進のための説明責任を果たし、評価手法や用いた
データに関しても透明性が図られ、その結果について科学的に検証され広く検討する経験
を積み重ねることが、市民の合意を得る上でも意義あるものになり、その評価の信頼性を
確たるものにすることができるのではないかと思われる。
62
〔調査研究体制〕
研究指導
CVM&AHP分析
野村希晶(東北大学大学院工学研究科助教授・工学博士)
木谷
[共同研究]
忍(東北大学農学部助教授・工学博士)
産業連関分析
佐々木公明(東北大学大学院情報科学研究科教授・経済学博士)
ヘドニック・アプローチ分析
宮本和明(東北大学大学院工学研究科教授・工学博士)
北詰恵一(東北大学大学院工学研究科助手)
調査研究部長
佐
藤
善
建
主任研究員
竹
村
弘
子
職員研究員
齋
藤
阿
部
天
野
伊
藤
繁
男
新
妻
知
樹
勝
大
作
元
[共同研究]
都市公共交通事業が地域にもたらす経済的・
社会的効果の予測・評価に関する事例研究
№200000400104
仙台都市総合研究機構
平成13年3月発行
〒980-6107 仙台市青葉区中央1丁目3番1号
アエル7階
TEL
022‐214‐5990
FAX
022‐214‐5991
印刷製本
今野印刷株式会社
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