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経済性工学の比較の原則2 - Keio University
正しい損得計算を行うための基本原則 経済性工学の比較の原則: 経済性工学 第3回 「経済性工学の比較の原則(2)」 1. 比較の対象(何と何と比較しているのか)を明確にする 。 2. 比較の対象の間で相違する収入と支出の違い(差)を キャッシュ・フローでつかむ。 クイズ ー正しい損得計算を行うためにー 例1:Kさんは,先月,たまたま買った1,000円の馬券が当たって 7,000円の 配当を手にした。彼はいくら得をしたか? 例2:L商店は,お客の入りが芳しくないために,来月,閉店をすることを決 めた。3,000円/個で仕入れた商品(定価は3500円/個)の売値を2,500 円/個にして売り切ってしまいたいと考えている。この判断は正しいのだ ろうか(得をしているのか,損をしているのか)? 慶應大学 稲田周平 2016年度H 2 補足概念1:手余り状態と手不足状態 設備や人員といった要素で決まる供給能力は,需要量の変動に対応して すぐに増減することは困難である。そのために,次の3つの状態のいずれ かが生じている。 同じ出来事が起こっても(同じ意思決定を行っても),供給能力と需要量 の大きさの関係により,発生するキャッシュ・フローは異なってくる。 状態(手余り・手不足・バランス)を考慮して,損得勘定を行うことが必要。 1)手不足状態 :フル生産でも需要に応じきれない状態 (供給能力<需要量) ただし,基本は“比較の原則”に立ち戻って考えればOK。 2)手余り状態 :生産能力に余裕がある状態 (供給能力>需要量) 3)バランス状態: フル生産でちょうど需要に応じている状態 (供給能力=需要量) 手余り状態 手不足状態 3 演習問題1:手余りと手不足 (問1)この工場の生産能力には余裕があるとする。そこへ,1個当たり600 ある工場で自動車向け部品を生産している。1個当たりの売値と費用は, 次表のようになっている。ここで、変動加工費とは電力代など1個当たりに 比例してかかるエネルギー代,人件費は作業者の月給20万円を1ヶ月の 平均生産量1,000個で割った値,間接費とは1ヶ月当たりの家賃などの 費用15万円を平均生産量で割った値である。 円で100個だけ作ってほしいというスポットの注文があった。経理課として 表4-1 部品1個当たりの売値と費用 やせないとする。そこへスポット注文を引き受けるとしたら,1個いくら以上 価格 900円 材料費 200円 変動加工費 100円 人件費(20万円÷1,000) 200円 間接費(15万円÷1,000) 150円 1個当たり利益 250円 は1個当たり50円の赤字になるので受注に反対である。この判断は正しい か? 1個当たりがいくら以上のスポット注文ならば引き受けるべきか? (問2)好況のため、この工場は表4-1の値でフル稼動していて生産量を増 でなければならないか? 5 2016, Inada Laboratory, Keio University 1 補足概念2:埋没費用(Sunk Cost) 埋没費用とは: 例題 宴会も終わりになる頃、ビールが半分位残っているビンがあった。 過去に支払ってしまった金額,あるいは支払いが決まってしまっていて, 今から変更できない支出のこと。 ビール1本600円である。ある部長が、「飲まないで帰ると300円損するか ら誰か飲めよ」と言った。部長の考えは正しいだろうか? 比較の対象の中でいずれの方策を採用しても,相違する支出に ならない。 比較の対象の間の違い(第2原則)として現れてこない費用。 経済計算の際に考慮しなくてもよい金額になる。 例.支払済みで返済されない頭金・手付金 過去に導入された設備投資額 10 演習問題3:埋没費用の続き 演習問題2:中古自動車の購入 甲さんは手持ちの余裕資金50万円の範囲内で,小型の中古自動車を購 入しようと思っていた所,乙商会にちょうど希望通りの車が50万円で売り に出ているのを見つけた。車の程度も良く気に入ったので,10万円の手 付金を支払い,譲り受けることを約束をした。 あるメーカーの機械部門では、取得価格4000万円で耐用年数6年の機械 を 2年使ったところであるが、最近、省力化の進んだ新鋭設備が現れた。 新設備は3500万円である。 しかし,それから数日たったとき,友人の丙さんが,海外勤務を命じられた 現有設備は定額法で年600万円ずつ償却してきたので、簿価は2800万円 ので,まったく同じ程度の車を35万円で譲ってもよいと言ってきた。 であるが、処分収入は500万円にしかならないので、新設備に取りかえて 甲さんにとっては上手い話だが,今ここで丙さんの車に変更すれば,乙商 現有設備を売却すると会計上2300万円の処分損が生じる。 会に支払った手付金10万円は戻ってこない。 新設備に取り替えると、現有設備に比べて毎年の人件費が1200万円節 減される。新設備の使用期間は4年間の予定である。この取替投資は経 (問) 甲さんは,丙さんと乙商会のどちらから車を購入すべきだろうか? 済的に有利だろうか。ただし利息は無視してよい。 12 補足概念3:機会損失(Opportunity Loss) 14 機会損失(機会費用)自体は,決して間違った概念ではない。 ある方策を採用することによって生じる利益のあげ損ない(の額)を,機会 損失(Opportunity Loss)とか機会費用(Opportunity Cost)と呼ぶ。 しかし,比較の対象(方策)が明確になっていなかったり,間違っている 中で,機会費用という言葉だけが,独り歩きすることが多い。 例) 忙しい弁当屋の問題 (手不足状態のときに,弁当を1個落としてしまった) 比較の対象を明確にしておくことが大切。 a)→b) 売値(1個) 300円 -300円 材料費・比例加工費 100円 - 紙ナプキン代 15円 -15円 人件費 50円 - 固定経費 60円 損または得の額 比較の原則に則って考えることで,間違った意思決定を避ける ことができる。 機会損失 - 285円の損 17 2016, Inada Laboratory, Keio University 2 演習問題4:比較の原則の確認 (問1) 好況のため,フル生産を行っている(月間200時間)場合に,次のよう な改善ができたときの経済的効果は月間いくらになるか。 ある工場が1台の成型機を使って約50種類の製品(いずれも大同小異 ①不良率が1割減少したとき(10%が9%になったとき) である)を作っている。作業者の1ヶ月の勤務時間200時間(うち40時間 ②保全・修理・段取りなどの時間(合計40時間)が1割減ったとき は残業)であるが,定期保全と故障修理に毎月約17時間,作業の準備・ ③設計変更などで材料費が1割減ったとき 段取り・後始末などに23時間掛かっており,正味の運転時間は約160時 ④品質を向上させることによって売値を1割上げられたとき 間である。 ⑤方法改善によって1時間当たりの生産量を1割増加することができたとき 月間生産量は80,000個(このうちの不良品の率は約10%)である。なお, 平均的な値として,1個あたりの材料購入価格は90円,人件費は3円, (問2) 不況のため需要が月間54,000個程度に落ちたので残業の必要がなく 変動加工費は22円,固定経費は30円,販売単価は180円である。 なった。作業員は解雇しない。この条件のもとで前問の①~⑤の金額を求め よ。 19 本日のまとめ ◆各要因を1割改善したときの効果 改善した要因 手不足状態 ◆正しく経済計算(損得計算)を行うための考え方 手余り状態 不良率 144,000円 73,808円 保全・修理・段取り時間 100,000円 0円 材料費 販売価格(品質) 生産量 720,000円 540,000円 1,296,000円 972,000円 400,000円 0円 手余り状態,手不足状態 埋没費用(Sunk Cost) 機会損失(Opportunity Loss)/機会費用(Opportunity Cost) いずれにしても,「経済性の比較の原則」に立ち戻って考えることで,正し い結果が導き出せる。 →手不足状態・手余り状態のいずれ状態のときにも,販売価格の影響が 最も強い(販売価格は利益に関する感度が高い)。 →上記のことは,利益が次の構造で計算されるときは,一般論として成り 立つ。 第1原則:比較の対象を明らかにする。 第2原則:比較の対象間の違い(差)をつかむ。 利益=(販売価格ー変動費)×販売量ー固定費 32 お知らせ ◆配布資料と提出課題の解答 下記のHPアドレスに配布資料と提出課題の解答をアップしました。 必要な人はダウンロードして,利用してください。 http://www.ae.keio.ac.jp/lab/ie/inada/Class.htm 33 2016, Inada Laboratory, Keio University 3