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トピック 最近のファーマーズマーケットの 動向について
最近のファーマーズマーケットの 動向について トピ ック (社)JA総合研究所 経営相談部 主任研究員 佐竹 義男 (さたけ よしお) はじめに 「50 ~ 60 代の主婦が、ご主人と車で 20 ~ 30 分かけ、1週間に1~2回程度、開 店早々から来店し、朝採り野菜を中心に買っていく」 これが、JA総合研究所が主催する、「ファーマーズマーケット戦略研究会」加盟 店舗(2010 年7月末現在 35 店舗)で毎年実施している利用者アンケートから浮かび 上がる、ファーマーズマーケットの平均的な利用者像である。 今、ファーマーズマーケットを中心とした農産物直売所における「地産地消」の 動きが活発になってきており、スーパーマーケットを中心とした小売業の低迷のな かで、成長を遂げている数少ない成功例として注目を浴びている。 農産物直売所のメリットは、生産者にとっては、少量・規格外の農産物でも出荷 できること、生産物を直接直売所に出荷するため、流通コストが省け、生産者の手 取り額が増えること、そして、生産者自らが価格を決められることが挙げられる。 一方、消費者にとっては、毎日採れたての農産物が出荷されるので、新鮮な農産 物が購入できると同時に、流通コストがかからない分、スーパーマーケットなどに 比べて価格が安く、作った人の名前や顔が分かるので、安心感があることである。 1.農産物直売所市場 (1)農産物直売所市場規模 農産物直売所の全国的な設置数などを含めた市場規模については、その展開が新 しく、 かつ多 様な形 態であるため、 明 確なデ ー タが無いのが実 情だが、 直 近の 「2005 年農林業センサス」(農林水産省)によると、有人、常設・季節的な営業を含 め、全国に1万 3538 カ所設置され、年間利用者は延べ2億 3000 万人、市場規模で 4000 億~ 5000 億円と推計されている(表1)。 また、JA全中の「全JA調査」によると、JAが関与する農産物直売店舗は、 2005 年には 1557 カ 所だったのが、2008 年には 2137 カ 所と毎 年 増 加してきたが、 【表1】全国の農産物 直 売 所 数 、 利 用 者 数 地 区 北海道 施設数 東北 関東 甲信越 757 1,418 4,314 1,433 利用者数 9 34 54 14 北陸 ( 単 位 : 施 設 数 ・ カ 所 、 利 用 者 数 ・ 百 万 人 ) 東海 311 1,297 3 31 近畿 中国 951 1,094 13 19 四国 九州 436 1,426 14 38 沖縄 合計 101 13,538 1 230 資料 : 農林水産省『2005 年農林 業 セ ン サ ス 』 【表2】JAが関与す る 農 産 物 直 売 所 店 舗 数 の 推 移 JA運営 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 1,043 1,298 1,413 1,550 1,433 514 691 722 587 527 1,557 1,989 2,135 2,137 1,960 組合員組織運営 計 資料:JA全中「全JA調査」 JA 総研レポート/ 2010 /秋/第15 号 《トピック》最近のファーマーズマーケットの動向について 29 2009 年には 1960 カ所に減少した(表2)。 これは、小規模店舗の統廃合や行政などの受託運営件数の減と考えられる。 また、組合員組織(女性部、生産者同士のグループなど)による運営が減ってい るのが特徴である。 (2)ファーマーズマーケットとは 農 産 物 直 売 所は、 運 営 主 体、 運 営 方 法など多 様な形 態があるが、 このうち、 ファーマーズマーケットは、「『生産者が作ったものを売るところ』にとどまらず、 営農指導との連携を重視し、『生産者に売れるものを作ってもらい、販売するとこ ろ』であり、そのための一定程度の店舗規模、運営体制を備えた農産物直売所」と JA総合研究所では位置付けている。 ここで記述するのは、JA総合研究所が定義するファーマーズマーケットに関す る最近の動向である。 2.ファーマーズマーケットをめぐる動向 (1)店舗売り上げ動向 近年多発した食品偽装表示や異物混入などの食の安全性を脅かす事件は、「安全」 「安心」「新鮮」を前面に押し出したファーマーズマーケットにとって、追い風と なった(表3)。 「ファーマーズマーケット戦略研究会」加盟店舗のうち、前年度比較が可能な既存 店舗の実績は、消費不況を受け、小売業が低迷しているなかにおいても、2008 年度、 2009 年度(共に4〜3月年度)とも、販売額、利用者数(レジ通過者)、客単価そ れぞれ、前年度を上回った(表4)。 しかし、リーマン・ショックなどによる個人消費の低迷、デフレ現象の深刻化に よる一層の節約志向や長雨などの天候不良による影響を受け、昨年(2009 年)10 月 以降、売上高・利用者数が単月ベースで前年度割れの現象が現れてきている。 全体では、設立後1~3年未満の店舗が順調に推移している半面、設立後3年以 上の店舗が苦戦しており、店舗間でも順調店と苦戦店が混在するという、2極化傾 【表3】食の安全性を 脅 か す 事 件 ( 主 な も の ) 2000年 ・雪印乳業による集団食中毒事故 2002年 ・中国製冷凍ホウレンソウ、枝豆から基準値を超える残留農薬検出 2006年 ・不二家の賞味期限切れシュークリーム問題 2007年 ・「白い恋人」「赤福」の賞味期限、消費期限改ざん ・ミートホープ卸肉偽装 ・船場吉兆偽装 2008年 ・中国製冷凍ギョーザ事件 ・事故米不正転売 【表4】ファーマーズ マ ー ケ ッ ト 戦 略 研 究 会 会 員 店 舗 実 績 販売額 年度 既存店舗数 実績 (百万円) 利用者数 客単価 前年度比 (%) 実績 (千人) 前年度比 (%) 実績 (円) 前年度比 (%) 2008 22 22,101 112 11,334 109 1,835 104 2009 23 23,524 106 11,945 105 1,871 102 30 《トピック》最近のファーマーズマーケットの動向について JA 総研レポート/ 2010 /秋/第15 号 【図1】ファーマーズ マ ー ケ ッ ト ( F M ) 単 月 ・ 前 年 比 実 績 推 移 (%) 120 115 110 客単価 (FM) 利用者 (FM) 売り上げ (FM) 売り上げ (SM) 105 100 95 90 2009年 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 2010年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 注) 売り上げ(SM)は、チェーン ス ト ア 協 会 加 盟 店 の 食 品 部 門 の 売 り 上 げ 実 績 【図2】ファーマーズ マ ー ケ ッ ト 経 過 年 別 店 舗 売 り 上 げ 前 年 比 実 績 (%) 140 130 120 1∼3年未満 (7) 平均 (22) 110 5年以上 (10) 3∼5年未満 (5) 100 スーパーマーケット 90 2009年 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 2010年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 注 1)設立経過年は、2009 年 3 月 3 1 日 を 基 準 と し て 分 類 し た 。 凡 例 ( ) 内 数 字 は 店 舗 数 注 2)スーパーマーケットは、チ ェ ー ン ス ト ア 協 会 加 盟 店 の 食 品 部 門 の 実 績 向がこの半年以上続いている(図1、図2)。 苦戦している要因としては、消費者の節約志向や、地域のほかの直売所やスー パーマーケットとの競合の激化などが考えられる。 (2)消費者動向 消費者の購買心理も、中国製冷凍ギョーザ事件に代表される食の「安全」「安心」 に関心が高まった時期(2008 年9月まで)とデフレ化の節約志向時期(2008 年 10 月 注)2008年「野菜の消費 行 動に関する調 査 」、20 09年「野菜・果物の消費 行動に関する調査」 (JA総合研究所のWebサ イト〈http://www.ja-soken.or.jp〉を参照) 以降)では、大きく変わってきている。 JA総合研究所が実施しているインターネット調査注)によると、一般の消費者が 野菜を購入するときに重視する点は、2008 年、2009 年のどちらも「鮮度が良い」こ とが第1位であるが、「価格が安い」ことが 2008 年は第3位であったものが、2009 年は第2位となっており、節約志向が高まっているのが分かる。逆に「国産」志向 が、2008 年の第2位から、2009 年には第3位となっているものの、依然として重視 JA 総研レポート/ 2010 /秋/第15 号 《トピック》最近のファーマーズマーケットの動向について 31 【図3】野菜の購入時 に 重 視 す る 点 【図4】果実の購入時に重視する点 鮮度が良い 鮮度が良い 価格が 安いもの 販売単価が 安いもの 国産品 国産品 旬のもの 旬のもの 特売で安い 特売で安い 味・食味が良い 2009年 2008年 ちょうど良い量 0 20 40 60 80 味・食味が良い 2009年 ちょうど良い量 100 (%) 0 20 40 60 80 100 (%) している点のベスト3に入っている(図3)。※参考:果実の購入時に重視する点(図4) 「ファーマーズマーケット戦略研究会」加盟店舗の実績を見ても、2009 年 10 月以 降、利用者数が前年を下回る月が増えており(図1)、客単価(1回当たりの購入金 額)が前年とそれほど変わらないことから見ると、節約志向からファーマーズマー ケットへの来店頻度を減らしていると考えられる。 (3)生産者動向 農産物直売所は、生産者・地域農業にとっても大きなメリットがあることが、こ の間よく言われている。実際、「ファーマーズマーケット戦略研究会」加盟店舗での 聞き取りでも、出荷者から、①農産物所得が増えた、②農産物栽培品目が増えた、 ③農産物生産意欲が向上した、などの声が上げられている。 一方で、高齢のため出荷を取りやめる生産者も出てきており、ファーマーズマー ケットにおいても、出荷者確保が大きな課題となっている。 3.今、ファーマーズマーケットに求められるもの 昨今「地産地消」の動きが活発になってきており、農産物直売所における店舗の 大型化・複合化(直売所+他施設)が今後も進むと想定される。 売り上げ 20 カ月連続前年割れ(2010 年7月末現在)のスーパーマーケットを中心 とした小売業の低迷のなかで、ファーマーズマーケットは成長を遂げている数少な い成功例として注目を浴びている一方、設置年数が古い店舗を中心に売り上げ・利 用者数で苦戦を強いられている現状もあり、これを打開するため、日常的な売り上 げ・収益増対策(イベント開催、午後の品ぞろえ強化などによる利用者増対策、店 舗経費の削減など)は無論のこと、「ファーマーズマーケット」の存亡にかかわる以 下の課題への取り組みを強化することがますます求められている。 (1)安全対策の強化 農産物購入における消費者の「安全」に対する意識は、中国製冷凍ギョーザ事件 時と比較すると相対的に低下してきているものの、ファーマーズマーケットに求め る要素としては極めて根強いものがある。 利用者の信頼に応えるためにも、ファーマーズマーケットでは、安全対策の日常 的な取り組み、とりわけ、栽培履歴(特に防除日誌)の記帳・点検、出荷物の抜き 取りによる残留農薬検査は必須事項である。 また、安全対策に対する店の姿勢や取り組み内容を店内に明示することは、スー 32 《トピック》最近のファーマーズマーケットの動向について JA 総研レポート/ 2010 /秋/第15 号 パーマーケットなど他店舗と差別化する意味でも重要な取り組みである。 (2)地域のこだわり商品の品ぞろえと「食」の提案 農産物直売所の建設が進むにつれ、「どこの直売所に行っても同じものが並べられ ており、スーパーと変わらず、つまらない」という声を最近よく聞くようになった。 ファーマーズマーケットの魅力の1つとして、「地域の珍しいものがある、発見で きる」という楽しみが挙げられ、売り上げ・利用者数低迷を打破する意味でも、営 農指導と連携した、付加価値のある「地域のこだわり商品」(伝統農産物の復活、新 品種の開発、加工品など)の開発・品ぞろえの充実と、「食」の提案ができる食育ソ ムリエなどの人材育成強化が急務である。 (3)出荷者の確保 また、ファーマーズマーケットの魅力は、何よりも「新鮮でかつボリューム感の ある地域農産物の品ぞろえ」であり、そのためにも出荷者の確保が重要となってく る。現在の出荷者の高齢化がますます進むなかで、農家後継者育成とあわせ、新規 農業従事者・出荷者の開拓が必須である。このためにも、ファーマーズマーケット が主体となった農業体験イベントなどの開催を随時行い、利用者を生産者に育成し ていく取り組みも重要である。 JA 総研レポート/ 2010 /秋/第15 号 《トピック》最近のファーマーズマーケットの動向について 33