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「展望レポート」の評価と当面の金融政策見通し(PDF:403KB)

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「展望レポート」の評価と当面の金融政策見通し(PDF:403KB)
JRI news release
マーケット・ウォッチ No.2006-02
日銀「展望レポート」の評価と当面の金融政策見通し
~夏場の「ゼロ金利解除」後、2007年度末で1%に~
2006年5月11日
株式会社 日本総合研究所
調査部 マクロ経済研究センター
http://www.jri.co.jp/thinktank/research/
※本資料は金融記者クラブにて配布しております。
(会社概要)
株式会社 日本総合研究所は、三井住友フィナンシャルグループのグループIT会社であり、情報シ
ステム・コンサルティング・シンクタンクの3機能により顧客価値創造を目指す「知識エンジニア
リング企業」です。システムの企画・構築、アウトソーシングサービスの提供に加え、内外経済の
調査分析・政策提言等の発信、経営戦略・行政改革等のコンサルティング活動、新たな事業の創出
を行うインキュベーション活動など、多岐にわたる企業活動を展開しております。
名 称:株式会社 日本総合研究所(http//www.jri.co.jp)
創 立:1969年2月20日
資本金:100億円
従業員:2,962名(平成17年3月末現在)
社 長:木本 泰行
理事長:門脇 英晴
東京本社:〒102-0082 東京都千代田区一番町16番
大阪本社:〒550-0013 大阪市西区新町1丁目5番8号 TEL
TEL
03-3288-4700(代)
06-6534-5111(代)
【レポートの要旨】
1.日銀は、4月28日公表の「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」において、本年度の景
気・物価見通しを前回(2005年10月)対比上方修正。今回から予測対象となった2007年度
は、景気が「成熟段階に入っていく」ことで潜在成長率近傍に向けて徐々に減速、消費者
物価(除く生鮮食品)は+0.8%に向けてジリ高推移を辿る、と予想した。
一方、見通しの詳細に関する記述部分をみると、景気・物価の上振れリスクへの警戒感
をにじませた内容となっており、金利引き上げに向けて一段歩を進めた格好。
2.具体的には、金融政策運営にあたって重視すべきリスクについて触れた箇所で、「金融
政策面からの刺激効果は一段と強まる可能性」や、「企業の投資行動がより積極化する
場合には、・・・資本ストックの過剰な積み上がりの反動が生じ・・・」など、総じて景気・物
価の上振れリスクに警戒感を匂わせている。こうした日銀のスタンスから見て、「利上げ
開始は時間の問題」になったと言え、その後の追加利上げも既定路線になった、とみる
必要がある。
当社では、「7~9月期にゼロ金利解除」、さらに「年度内に追加利上げ+0.25%」が有力
とみる。
3.今回の展望レポートの経済・物価見通しの内容を評価すると、景気のコースについては
大きな違和感は無い一方、物価上昇テンポがやや速い印象。需給バランス改善がイン
フレ率上昇に結びつきにくい状況下、日銀見通しと同程度の景気回復ペースを前提とし
た場合のCPIの騰勢は、原油はじめ資源価格の上昇ペースが大幅に強まらない限りは
せいぜい0.5%近辺とみられる。
4.中期的な金融政策の経路をイメージするにあたり、今回の展望レポートで示された日銀
の年度経済見通し数値を基に、一定の前提をおいたうえでテイラールールによる適正政
策金利水準の算出を試みた。その結果によると、足元の「理論金利」は0.5%弱の水準
にあり、ゼロ金利解除後も理論値の上昇は続く格好。これに追いつくため、「現実金利」
を機械的に引き上げていくと、2007年度末の「現実金利」は1.75%に。
しかしながら、「インフレ率のアップテンポな加速」の実現可能性は小さいとみられる。加
えて、利上げ開始以降は、財政健全化に向けた歳出削減とのポリシーミックスのうえで、
政府との協調性に配慮する局面も想定される。こうした点を踏まえると、2006、07年度内
の政策金利引き上げはいずれも0.25%×2回(2年間で4回)、2007年度末の「現実金
利」は1.00%に。
本件に関する照会等は、調査部・岡田(Tel:03-3288-4237)、石川(03-3288-4263)宛に
お願いいたします。
「展望レポート」の概要・政策インプリケーション
:着実な景気拡大・物価ジリ高見通しで夏場の利上げ開始へ臨戦態勢
4月28日、日銀は「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」を公表。3月の量的緩和解除に際して
示された「新たな金融政策の枠組み」の主軸として位置づけられた「経済・物価情勢の点検」について
日銀の見方を示した。
注目の経済見通し(大勢見通しの中心値)は、2006年度が景気(実質GDP成長率:2.4%)・物価(コア
CPI:0.6%)ともに前回2005年10月対比上方修正。今回から予測対象となった2007年度は、景気が
「成熟段階に入っていく」ことで潜在成長率(1%台後半)近傍の水準に向けて徐々に減速、消費者物
価(除く生鮮食品)は+0.8%に向けてジリ高推移を辿る、と予想している。総じて、事前の先行報
道に近い予測数値であり、この面については意外感は乏しい。
もっとも、見通しの詳細に関する記述部分をみると、総じて景気・物価の上振れリスクへの警戒を
にじませた内容となっており、金利引き上げに向けたステップをさらに一段進めた格好。
日銀「展望レポート」:政策委員の大勢見通し(4/28公表)
(前年度比%、【 】内は中央値)
実質GDP
今回(06/4)
前回(05/10)
国内企業物価 今回
前回
消費者物価 今回
(除く生鮮)
前回
最小
+2.1
+1.3
+1.3
+0.4
+0.5
+0.4
2006年度
全員見通し
大勢見通し
+2.1~【+2.4】~+3.0
+1.6~【+1.8】~+2.2
+1.4~【+1.5】~+1.8
+0.5~【+0.6】~+0.8
+0.6~【+0.6】~+0.6
+0.4~【+0.5】~+0.6
最大
+3.0
+2.4
+1.8
+1.0
+0.7
+0.6
最小
+1.6
+0.7
+0.7
2007年度
全員見通し
大勢見通し
+1.8~【+2.0】~+2.4
-+0.8~【+1.0】~+1.1
-+0.7~【+0.8】~+0.9
--
最大
+2.5
+1.3
+1.0
(注) 「大勢見通し」とは、各委員の見通しから最大値と最小値を1個ずつ除き、幅で示したもの。
日銀「展望レポート」の概要(4/28公表)
現
状
経
済
物
先
価
行
情
き
勢
1
上
振
れ
○
・
下
振
れ
×
要
因
2
3
物
価
面
2006 年4月(今回)
着実に回復を続けている
・05FY 経済は 05/10 の見通しを上振れて推移
CGPI(右に同じ→)
CPI (右に同じ→)
内・外需、企業・家計のバランスがとれた形で、息の
長い回復を続ける。06FY は 2%台半ば、07FY は
2%程度と、潜在成長率近傍に向け徐々に減速。
(前提・メカニズムは右①~④に同じ→)
・②の設備投資について、先行き 2 年間のうちに
ストック循環の観点から、いずれかの時点で伸び
率低下
CGPI:07FY にかけても上昇を続ける
CPI:(不確実性あるが)前年比のプラス幅は拡大
①需給ギャップは足元ゼロから需要超過方向へ
②単位労働コストは下げ止まりから若干上昇へ
③企業・家計の物価見通しは徐々に上方修正
06FY は 0%台半ば、07FY は 1%弱の伸び率に
海外経済の動向
○×「物価抑制」「金融環境安定」の構図の変化、
国際商品(含む原油)市況の動向
×米国・住宅 ○×中国・固定資産投資や消費
在庫調整の可能性
×IT 関連財の供給増加ペース速く、需要動向次第
で在庫調整が生じる可能性
企業の投資行動の一段の積極化
○×成長率が一時的に大きく上振れた後、過剰
ストック積み上がりの反動で調整の可能性
○ ①需給ギャップのプラス転化
○×②原油をはじめとする商品市況の動向
○×③潜在成長率上昇の影響 →供給面から
は押し下げ要因、需要面からは押し上げ要因
2005 年 10 月(前回)
景気は踊り場を脱し、回復を続けている
・全体としては 05/4 の見通しを上振れて推移
国内企業物価(CGPI)は見通し対比上振れ、
消費者物価(CPI)は概ね見通しに沿った動き
潜在成長率を幾分上回るペースで、息の長い回復
を続ける
①海外経済は引き続き拡大
②企業部門の好調が続く
③企業の好調が家計部門に波及
④極めて緩和的な金融環境
・企業の慎重姿勢が過剰ストックの積上がりを回避
CGPI:05FY はやや大幅な上昇、06FY は鈍化する
も上昇続く
CPI:05FY は 前年比ゼ ロ近傍、06FY はプラスに
(需給ギャップ改善、下押しの特殊要因剥落)
原油価格の動向
×非産油国の実質購買力が減少
×世界的なインフレ懸念の台頭・金利上昇
米国をはじめとする海外経済の動向
×住宅価格上昇をテコとする米家計支出堅調の
構図が崩れ、成長鈍化、国際マネーフローの変調等
国内民間需要の動向
○企業の投資行動・家計の支出行動が積極化
○×国際商品(含む原油)市況の不確実性
○ インフレ心理が予想以上に高まる
× 規制緩和などによる企業間競争の強まり
- 1 -
日銀の「大勢見通し」:成長率からみたCPI上昇率の加速ピッチに疑問符
今回展望レポートで示された政策委員の「大勢見通し」を民間予測平均(4月ESPフォーキャスト調査など)
と比較すると、実質成長率はやや慎重な一方、物価見通しは強気のポジション。
成長率・物価いずれも、やや慎重に見通している当社としては、とりわけCPI上昇率の加速ピッ
チに違和感(成長率の推移はほぼ同様の見方)。すなわち、需給バランス改善がインフレ率上昇に結
びつきにくい状況下、日銀見通しと同程度の景気回復ペースを前提とした場合のCPIの騰勢は、原
油はじめ資源価格の上昇ペースが大幅に強まらない限りは穏やかに(せいぜい0.5%近辺の騰勢に)。
①輸入増などに伴う市場競争の激化 … 輸入浸透度の上昇は、市場競争の激化を通じ価格を抑制。
需給バランスの改善がインフレ率上昇に結びつきにくい一因に。
②緩やかな賃金の回復力 … 労働分配率引き上げへの慎重さが残る状況下、とりわけ賃金との連動
性が強いサービス分野を中心に、価格引き上げのインセンティブが限定的に。
③資源価格の上昇は続くものの、そのペースは2005年度の急激さに比べれば幾分緩やかに。
④日米景況格差の変化、米国経常赤字のファイナンスに対する懸念、などを背景に円高が進んでい
く場合は、国内のインフレ率を抑制する方向に作用。
わが国の潜在成長率とGDPギャップ<当社推計>
GDPギャップ(当社推計)とCPI前年比との相関性の変化
(前年同期比、%)
7
10
(予測)
6
9
5
8
4
7
3
6
2
5
1
4
0
3
(%)
▲1
2
▲2
1
▲3
0
▲4
▲1
▲5
▲2
▲6
▲3
▲7
▲4
▲8
▲5
▲9
▲6
▲10
▲7
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07
GDPギャップ(左)
潜在成長率(右)
実際の実質成長率(右)
(年/期)
(注) 06/1Q~のGDPギャップは潜在成長率は1.50%(横這い)として算出。
(%)
4.0
3.6
3.2
2.8
2.4
2.0
1.6
1.2
0.8
0.4
0.0
▲0.4
▲0.8
消費財の輸入浸透度とCPI騰落率
CPI騰落率(除く生鮮・特殊品目、左)
消費財輸入浸透度(右逆目盛)
β
(t値)
0.3364
(4.649)
①83/2Q~91/1Q
0.3013
(3.395)
②91/2Q~97/2Q
0.4497
(4.499)
③97/3Q~06/1Q
0.1993
(3.013)
83/2Q~06/1Q
(資料) 総務省資料、内閣府資料などをもとに日本総合研究所作成。
(注) (コアCPI前年比)=α+β×(GDPギャップ・1期前)
のα、βを最小二乗法により算定し、βのみを整理。
名目賃金増減率とサービス価格騰落率の関係
(%)
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
(前年比、%)
5.0
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
▲0.5
▲1.0
▲1.5
▲2.0
▲2.5
定期給与(全産業、名目)
サービスCPI(除.通信・診療)
1991 92 93 94 95 96 97 98 992000 01 02 03 04 05 06
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06
(年/月)
(年/期)
(資料) 経済産業省資料、総務省資料をもとに日本総合研究所作成。
(資料) 総務省、厚生労働省 (注1) 消費税率引き上げ(97年4月)の影響を調整。
(注) 輸入浸透度=(輸入指数×輸入品ウエイト)÷(総供給指数×総供給ウエイト) (注2) シャドー部分は景気後退期(内閣府)。
わが国消費者物価騰落率(生鮮除く、前年比)の推移と2006年度当社予測
(%)
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
▲ 0.1
▲ 0.2
▲ 0.3
▲ 0.4
▲ 0.5
▲ 0.6
▲ 0.7
▲ 0.8
▲ 0.9
▲ 1.0
▲ 1.1
(当社予測)
06年度
平均:
+0.4%
2000
01
02
03
財(①~④を除く)
①コメ
③石油製品(ガソリン・灯油)
⑤通信サービス
CPI(生鮮を除く、前年比)
04
05
06
07
(年/期)
サービス(⑤⑥を除く)
②たばこ・その他農水畜産物(鶏卵など)
④電気・ガス料金
⑥診療代・通所介護料
CPI(生鮮・①~⑥を除く、前年比)
(資料) 総務省資料をもとに日本総合研究所作成
(注) 原油輸入価格(入着CIFベース)の前提は、2005年度55ドル/バレル(前年比+43.2%)、06年度62ドル/バレル(+13.6%)。
- 2 -
金融政策見通し:ゼロ金利解除は7~9月中の公算。年度内さらに
追加0.25%利上げも。
一方、「経済・物価情勢の点検の第2の柱」として、金融政策運営に当たって重視すべき様々な
リスクについて触れた箇所では、「物価下落と景気悪化の悪循環が発生するリスクは小さくなって
いる」としながらも、「金融政策面からの刺激効果は一段と強まる可能性がある」として、利上げ
への前傾姿勢が感じられる。
また、「上振れ要因」のなかで、「企業の投資行動がより積極化する場合には、・・・資本ストック
の過剰な積み上がりの反動が生じ・・・」として、バブル再来への警戒感を匂わせた格好。
さらに物価上昇率の先行きについても、上振れ・下振れ両方向の要因に注意する必要があるとし
つつも、「需給ギャップがゼロ近傍から徐々に需要超過に転化すると予想されるなかでは、いずれ
かの時点で予想インフレ率の上昇を伴いつつ・・・」、「潜在成長率の上昇は、需要面から将来所得の
上振れを通じて物価の押し上げ要因となり得る」として、どちらかと言えば、物価上振れへの懸念
を強調した形。
以上のように、利上げへの前傾姿勢をにじませる内容ではあったが、「ゼロ金利解除の時期」や
「その後の利上げペース」を特定し得る情報は盛り込まれず、その後の福井総裁の記者会見におい
ても明確な言及はなかった。ただし、現在および将来の経済・物価情勢について上振れ含みで肯定
的な評価を与えていることから、情勢の急変がない限り、「利上げ開始は時間の問題」になったと言
え、その後の追加利上げも既定路線になった、とみる必要がある。
現在の当座預金残高縮小ペースが続けば、5月下旬には当面の目標とされる10兆円水準に到達す
る。当社では、「7~9月期にゼロ金利解除」、さらに「年度内に追加利上げ+0.25%」が有力なシナリオ
とみる。
福井日銀総裁・記者会見(4/28)の概要
【展望レポート「極めて低い金利水準による緩和的な金融環境がしばらく続く」について】
・流動性の回収が終わったら、すぐゼロ金利が終わるわけではない。経済・物価情勢次第で、しばらくゼロ
金利が続く可能性があり、その後も極めて低い金利水準を続け得る可能性が高い、ということ。
・(「極めて低い金利水準」とは)名目金利の水準で一定レベルまでは「極めて低い」というような想定の仕方
はしない。経済・物価の動きとの相対関係で、企業や家計が感じる金融緩和の度合いが実態的に維持されて
いるような金利や金融環境、ということ。実質金利の水準は一つの参考資料になると思うが、それで機械
的に高過ぎるか、低過ぎるかの答えを出し得るほど簡単ではない。
【ゼロ金利解除のタイミングについて】
・経済・物価情勢次第。きょう以降、(展望レポートで示した)標準的な見通しに沿ってきちんと(経済が)動く
かどうかが非常に大事。そういう方向で動いていくならば、自然と金利を調整した方がより望ましい経済の運行
パスを確保できる、という判断にいつの日にか至るだろう。
【金融政策運営について】
・金融政策の「のりしろ」を保つために無理して金利を上げて懐を深くする、というものの考え方はしない。経済・
物価情勢と政策判断がきちんと整合性が取れない限り、セーフティマージンを持つために一歩先に政策
が出ておこうという考え方は今後もとらない。
・(「中立金利水準」について)定義そのものに非常に幅があるほか、一定の定義をとっても、その測定にはか
なりの不確実性を伴う。何よりも、(中立金利は)技術革新や経済構造の変化に伴って変動するもので、予め
水準を特定し、それを固定的なゴールとして金融政策が前進していくことは必ずしも適さない。ゼロ(金利)から
スタートする段階で、固定的な中立水準を意識するという段階では到底ない。
【展望レポートで前提となる金融政策運営を「市場参加者の予想を参考に」作成したことついて】
・政策金利だけ全く切り離して固定的な前提を置くという従来のやり方よりも、前提となる金融変数に含
まれている情報、つまり市場の情報を参考にする方が、全体として整合性がとれる、と判断した。
・市場で観察される金利は、金融政策予想を反映しているが、具体的にどの程度反映しているかの判断は
難しい。先行きの金利のボラティリティや、リスクプレミアムの想定如何で変わり得る。具体的な政策
金利の経路の想定は、他の様々な変数と同様、それぞれの委員に委ねられ、「どの時期に何回の利上げを織
り込んでいるか」といった細部について、前提を統一しているわけではない。
(資料)各種報道資料を参考に日本総研が作成。
- 3 -
テイラールールに基づく政策金利シミュレーション:日銀は「07年度末に1%台後半」
をイメージか。しかし、CPI伸び悩み・政府との協調から「1%」に落着へ。
それでは、日銀は今回公表した見通し数値の背後で、どのような利上げの経路を想定しているの
か。われわれは、その大まかな姿をみるべく「本年7~9月期にゼロ金利解除」「中長期的に望ま
しいとされる物価上昇率は1%」など一定の前提を置いたうえで、テイラールールに依拠した政策
金利のシミュレーションを試みた(ケース①)。
これによると、足元の「理論金利」は0.5%弱の水準にあり、ゼロ金利解除後も理論値の上昇は
続く格好。これに追いつくため、「現実金利」を機械的に(財政健全化を進める政府への配慮なし
に)引き上げていくと(各期+0.25%を限度)、2007年度末の「現実金利」は1.75%との結果が得
られた。換言すれば、「景気成熟化」「インフレ率のアップテンポな加速」が同時実現していく場
合、政策金利が各期0.25%ずつ断続的に引き上げられていく可能性は排除できない。
しかしながら、2ページで指摘した通り、「インフレ率のアップテンポな加速」の実現可能性は
小さいとみられる。加えて、利上げ開始以降は、財政健全化に向けた歳出削減とのポリシーミック
スのうえで、政府との協調性に配慮する局面も想定される。こうした点を踏まえたシミュレーショ
ンがケース②である(穏やかなインフレ率/「現実金利」が「理論金利」を下回る状況を一定程度
許容)。
これによると、2006年度内、2007年度内の政策金利引き上げはいずれも0.25%×2回(2年間で
4回)、2007年度末の「現実金利」は1.00%に。当社としては、現時点で最も蓋然性の高い政策金
利のコースはこの近辺にあるとみている。
テイラールールに基づいた政策金利のシミュレーション
【ケース①:日銀のCPIコース、急進的な政策金利変更ルール】
(%)
テイラールールに基づく理論値(目
標インフレ率1%)
8
7
【ケース②:緩やかなCPIコース、財政配慮型の政策金利変更ルー
ル】
(%)
7
無担コールO/N・実績値
6
5
無担コールO/N・実績値
6
5
無担コールO/N・シミュレーション
(06/2Q~08/1Q)
4
テイラールールに基づく理論値(目標
インフレ率1%)
8
無担コールO/N・シミュレーション
(06/2Q~08/1Q)
4
3
3
2
2
1
1
0
0
-1
-1
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08
(年/期)
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08
(年/期)
ー
コアCPI
06/2Q
06/3Q
06/4Q
07/1Q
07/2Q
07/3Q
07/4Q
08/1Q
前年比
0.55%
0.60%
0.65%
0.70%
0.75%
0.80%
0.85%
0.90%
前
ケ ⇒2006年度:+0.6%、2007年度:+0.8%(日銀「展望レポート」大勢見通し中央値に一致)
提
政策金利
財政健全化の動向にかかわりなく、テイラールールに則って金融政策変更を進める。
ス
変更ルール ⇒06/3Qに0.25%利上げ、06/4Q以降は「(当期の理論値)>(前期末時点の実績値)」なら0.25%ずつ利上げ。
①
シミュレーション結果 06/2Q末
06/3Q末
06/4Q末
07/1Q末
07/2Q末
07/3Q末
07/4Q末
08/1Q末
無担コールO/N
0.00%
コアCPI
前年比
06/2Q
0.40%
無担コールO/N
0.00%
0.25%
0.50%
0.75%
1.00%
1.25%
1.50%
1.75%
06/3Q
06/4Q
07/1Q
07/2Q
07/3Q
07/4Q
08/1Q
0.35%
0.37%
0.40%
0.44%
0.47%
0.50%
0.54%
⇒2006年度:+0.4%(当社予測)、2007年度:+0.5%(GDPギャップ縮小による押し上げ効果を加味)
ー
前
ケ 提
政策金利
政府の財政健全化への取り組みに配慮し、テイラールールの理論値よりもやや緩和気味に。
ス
⇒06/4Q以降、「(当期の理論値)-(前期末時点の実績値)≧0.25」となった場合に0.25%利上げ。
変更ルール
②
シミュレーション結果 06/2Q末
06/3Q末
06/4Q末
07/1Q末
07/2Q末
07/3Q末
07/4Q末
08/1Q末
0.25%
0.50%
0.50%
0.75%
0.75%
1.00%
1.00%
(注1) テイラールールは、政策金利の水準を、①需給ギャップ、②インフレ率
(注3) GDPギャップは当社推定系列を使用(2ページご参照)。
ギャップに応じて 設定する、との考え方。具体的には以下の式に基づく。
(注4) シミュレーションの前提のうち、以下の3点については共通。
R*=λ×R(-1)+(1-λ)×{r*+p*+α×(p-p*)+β×GAP}
(1)r*=1.5、(2)p*=1、(3)GAP:06/1Q以降の潜在GDPを
*
年率1.5%・実際のGDPを年率2.2%(日銀展望レポートおよ
R :名目政策金利の「中立水準」
び当社見通しの平均成長ペース)で延長して得られる値。
R:名目政策金利、r*:均衡実質金利、p:インフレ率、p*:目標インフレ率、
他の前提については、上表の通り。
GAP:需給ギャップ、 λ,α,β:パラメーター(金利スムージングを勘案)
(注2) 上記太線は、R:無担保コール・オーバーナイト金利、r*:潜在GDP成長率、
p:CPI(除く生鮮食品、前年比)、p*:1(固定)、GAP:GDPギャップ、として推計
した結果(最小二乗法)。推計期間は86/1Q~98/4Q(ゼロ金利政策導入
前)。推計結果は{λ,α,β}={0.71, 1.40, 0.15}。
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