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自由市場経済体制の存立と変容における社会的要因

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自由市場経済体制の存立と変容における社会的要因
Kobe University Repository : Kernel
Title
自由市場経済体制の存立と変容における社会的要
因(Social Factors for Persistence and Transformation of
the Free Market Economic System)
Author(s)
向井, 利昌
Citation
国民経済雑誌,147(5):1-31
Issue date
1983-05
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00172804
Create Date: 2017-03-29
自由市場経済体 制の存立 と変容 にお け る
社会的要因
向
井
利
昌
Ⅰ 自由市場経済体制をめぐっての諸問題点
自由市場経済体制を基盤 として成立 した資本主義経済が体制的変動の傾向に
ある現状において, 自由市場経済体制 の存立性 と変容傾向に関 して,諸種の議
論が提示 されてい るが, これ らは概括的にみて以下のように区別 され うる。伽
自由市場経済体制永続論
自由市場経済体制を もっとも適正で効率的な経済体
制 とみな し, その永続性を主張す る見解 であ り,それは, (i)自由市場経済体
制 と資本主義経済体制 との必然的対応性をみ とめる立場 と, (
i
i
)その ような必
然的対応性をみ とめず, 自由市場経済体制は, 自由競争塾の計画経済体制にお
いて こそ充分な発展が実現す ることを主張す る立場 とに分れ る。
経済体制崩壊論
(
2)
自由市場
この見解 として, (i)中央集権的な計画経済体制を支持す る
立場があるが, (
i
i
)よ り注 目に値す るもの として, (Ⅰ)資本主義経済体制の変
動傾 向さらには新 しい経済体制への移行過程における, 自由市場経済体制の減
退化を指摘す る見解 と, (Ⅱ)社会生活全体の体制の,経済体制が優越的位置に
ある体制か ら,経済体制が 自律性を喪失 して社会生活全体のなかに統合 された
体制-の移行傾向において, 自由市場経済体制の崩壊を主張す る立場 とが顧み
られ る。
筆者は, この論稿で,(
1)
(i)の見解お よび と くに(
2)
の見解に批判的検討を加
A,(
1)
(
i
i
)の立場か らの論述を らころみ るが, 固有の 「対人的」 i
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社会」 とくに階級的勢力関係の理論的分析
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956,SS・8-9・ 高田保馬 『
社
第 147巻
2
第
5 号
に 基 づ い た 自由市 場 経 済 体 制 の存 立 と変 容 に お け る 「社 会 的 要 田」 の考 察 に つ
2
い て, 従 来 の私 見 に 再 検 討 と補 充 を 加 えな が ら, 論 述 を 展 開 してみ た い。
筆 者 が新 しい 構 想 と して と くに論 述 を こ ころみ てい るのは
,「自由経 済 組 織 」
。「自由経 済 組 織 」 は, 可 能
と 「自由市 場 組 織 」 との 区 別 お よび 関連 性 で あ る
的 多数 の ひ とび とが 自主 的 ・主 体 的 な経 済 的 行為 を 遂 行 し うるた め の組 織 で あ
り, 発 展型 の資 本 主 義 経 済 体 制 に み られ る よ うな, 多 数 の専 門 的職 能 者 の物 化
3
され が た い 主 体 的 諸 職 能 に よる所 得 の取 得 を 可 能 に して い る経 済 組 織 紘, そ の
よ うな諸職 能 に よる所 得 の成 立 が 物 化 され た 生 産 財 と して の労 働 用 役 と賃 金 と
の交 換 に よる とほ み られ が た い が ゆ えに, 物 化 され た 労 働 用 役 を 含 め た 商 品 と
して の財 の交 換 が 自由競 争 に よって行 わ れ る組 織 で あ る 「自由市 場 組 織 」 と し
て ほ と らえが た い
。 「自由市 場 組 織 」 は, そ の純 粋 型 に おい て は,
「自由経 済
組 織 」 との本 質 的 関連 性 に お い て, 原 則 と して物 化 され た 労 働 用 役 を 除 い た ほ
ん らい の財 の交 換 組 織 と して成 立 す る とい い うる。 自由市 場 経 済 体 制 の成 立 と
変 容 の論 究 に あた って, この二 つ の組 織 の複 合 態 の あ り方 が 問題 とな る。
Ⅱ 資本主義的自由市場経済体制の永続論 についての検討
1 論述の主旨
この立 場 の代 表 的 な もの は, ミーゼ ス (
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-
- イ ェ ク(
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-
フ リー ドマ ン (
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dman) の諸 学 説 で あ り, つ ぎの よ うな議 論 か ら構 成
4
され てい る。
全学概論』
,新版,岩波書店,昭和46年,第一編第-革質一節。
2 拙稿,「
経済体制論の-課題」
,国民経済雑誌第85巻第 4号,神戸大学経済経営学会,昭和27年 4
月,「
現代資本主義と経済的デモクラシー」(
居安正 ・向井利昌・南院泰芙 ・野r
j寛 共著 『
現代社
, 「
交換の社会的基礎」
,同上誌第1
2
9
巻第 2号,
会とデモクラシー』
,ミネルヴァ書房,昭和48年)
昭和49年 2月 (
拙著 『
現代資本主義と階級』経済社会学叢書 2,新評論,昭和52年)
,「
計画経済体
制と勢力構造」
, 同上誌第138巻第 1号,昭和53年 7月, 「
資本主義経済体制における自由と政治権
力一一勢力論的一考察- 」
,同上誌第1
44
巻第 5号,昭和56年1
1
月。
3 拙稿,「
資本主義体制の変質と非経済的勢力」
,神戸大学経済学研究年報20,昭和48年,67-69ベ
- ジ。
4 拙稿,「
資本主義経済体制における自由と政治権力」,1
2-1
6ペ-汐。
自由市場経済体制の存立と変容における社会的要因
3
5
(
1)
自由市 場 経済 体制 は もっ とも適 正 で効 率的 な経 済 体制 で あ る。(
2)
この経 済
6
体 制 は 必然 的 に資 本 主義経済 体制 に はか な らない 。(
3に の経 済 体制 の実現 のた
め に は, 国家 の経 済 生 活- の政 治的統 制 は, 以下 の諸 点 よ りして, 極 小 でなけ
れ ば な らな い。
(i)自由市場経済 体制 の存立 と維 持 の前提 条 件 として の政 治
7
的 統 帥 ま当然 必要 で あ る。 (
i
i
)一定 の経 済 体制 に基 づ い て生 じてい る 「経済過
程 」 に対 す る国家 の政 治的統 制 は, つ ぎの諸根拠 よ りして, 極 力排 除 されね ば
● ●● ●●●●I ●
な らな い。 (Ⅰ)資 本 主 義体 制 の発 展 段 階 に おい て, 一 定 の限度 を こえた 国家 の
8
統 制 の強 化 は経 済 生 活 の正 常 な発 展 を阻 止 す る。 (Ⅱ)社 会主 義 的計 画経 済 体制
は, 中央 集 権的 な強制型 の計 画経 済 体制 に はか な らない ので あ り, 経 済 生活 の
9
合 理 的運 営 お よび諸 個 人 の 自由の実 現が 抑圧 され るので あ り, 諸 個人 の 自由競
1
0
争 の最 大 限 の活用 を企 図 した計 画経 済 体制 の実現性 はみ とめ られ が た い。
2 諸批判点の提起
以上 の資 本主 義 的 自由市場経 済 体 制 の永続 的存立論 に対 して, 筆 者 は, 後 述
の議 論 との関連 に おい て, 中心的 な批 判 点 を提 起 してお く。
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,村田稔雄訳
『自由-の決断』
,広文社,昭和55年,第一講. F・A・Hayc
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従への道- 社会主義と自由- 』
,創文社,昭和25年,25ペ-ジ。 M・Fri
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96
2,p.1
3,p.1
4,p・201
,熊谷尚
夫 ・西山千明 ・白井孝昌訳 『
資本主義と自由』
,
マグロヒル好学社,昭和50年,14ペ-ジ,16ぺ-ジ,
226-227ペ-ジ, M.良 R.Fr
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980,
pp・64-69
,西山千明訳 『
選択の自由』
,日本経済新聞社,昭和58年,105-11
4ページ。
6 L.V.Mi
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・
,pp・5-1
4
,釈, 18-300 F・A・Hay
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,pp.69-7
0,pp.1
01
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2,釈,95
ページ,138ペ-ジoM・Fri
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,p・1
3
,釈,14べ-ジ,M・良 R・Fri
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,pp・22-2
4,
訳,36-380
7 F.A・Haye
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・
,p・36
,釈,54ページ。M・Fri
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,p.1
5
,釈, 16ペ-ジ,M・& R.
b
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,pp・27
-31訳,45-49ページ0
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8 L・V・Mi
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,釈,貸三着。F・A・Haye
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,p.201
,釈,226-227ペ-ジ.
M・& RIFr
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,p164,釈,1
05ペ-ジ.
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,2ndLe
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,釈,第二着oF・A・Hayek,i
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,pp・25-27
,釈,39-41ページo
M.Fr
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.
,p.46,p.201
,釈, 90ページ, 226-227ページ, M.& R.Fri
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.
,pp.
54-55訳,90ページ。
10 F・A・Faye
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,p.31
,釈,60-61ペ-ジ。
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944,pp・1
2-1
3
,
-谷藤一郎訳
第 147巻
5 号
第
(
1)
物質的手段 としての物財 または財を利用 しうる状態に用意 し準備す る 「物
財調達行為」のなん らかの主体を通 じての相互関連憩を,経済の本質 として と
l
l
らえ,経済の活動態である 「経済過程」が複数人間の接触 と交渉において持読
1
2
的,常親的に成立するための一定の様式 または仕組を, 「
経済組織」 と呼び,
諸経済組織の一定の社会における全体 としての複合的関連態を, 「
経済体制」
1
3
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m とみな し,財 の交換 のための経済組織であ
1
4
る 「市場組織」における自由競争を中心的特色 とす る経済体制を 「自由市場経
済体制」 として把捉す るとき, この ような経済体制におけ る自由の実現性につ
いて,以下の事柄が検討 されねばな らない。
(i) 経済生活における自由は, ひ とび との 自主的な選択に よる物財調達行
為の実現 とみなされ, この ような 自由の社会的次元での発展は,可能的多数の
諸個人の機会均等的で公正な 自由競争に よる物財調達の実現を意味 してお り,
「自由経済組織」の 自由市場経済体制 との結びつ きにおけ る実現性については,
つ ぎの諸事象が考慮 されねばな らない。
(Ⅰ)経済的 自由競争 と本質的に結び
ついている市場組織の存立 自体が一定の歴史的発展段階を前提 としているが,
資本主義経済体制を 自由市場経済体制 として とらえることについては,以下の
検討が必要 となる。
‖社会経済 の形態を,超歴史的に普遍的に存在す る 「
基
本的形態」 と,特定の歴史の段階においてのみ存在す る 「派生的形態」 とに区
別す るとき,基本的形態 としての生産 と分配は,その発展過程において 「
派生
的形態」に よって決定的作用を与え られ るが,資本主義経済の中心的主体であ
る企業は,無限の利潤活動を,生産物お よび生産財の諸市場での 自由競争に よ
1
5
1
6
る 「交換」を通 じての価格横棒を決定的根拠 として遂行 している。 日資本主
11 北野熊菩男 『
増訂 経済社会の基本問題-
経済社会学原理- 」
, 昭和31
年,三和書房,2
0
-
ぺ-ジ。
21
1
2 拙稿,「
経済体制 と階級構造」
,国民経済雑誌第1
22巻第 5号,昭和4
5
年1
1
月,56ページ (
前掲拙著,
6
0ページ)。
1
3 北野熊喜男,同上著 ,84-85ペ-ジ,同上拙稿,56-57ペ-㌔ (
前掲拙著,6
0-6
1ペ-ジ)0
1
4 同上拙稿,57
ページ (
前掲拙蕎 6
0ページ)O
自由市場経済体制の存立 と変容における社会的要因
5
義経済体制の市場組織における 「自由競争」について,つぎの諸問題が考慮 さ
れねばな らない。
1
)
交換を,供給者 と需要者 との競争力に関 して,両者が対
等 の立場におかれ ている 「
競争的交換」 と,両者が非対等の立場におかれてい
る 「非競争的交換」 とに区別す るとき, 「非競争的交換」の市場においては,
1
7
自由競争 は充分に実現 されてはいない。 2)いわゆ る 「自由競争市場」におい
てほ,非生産物である土地 と労働 も商品 として売買の対象 となるが,労働 の売
買を市場 の 自由競争に含めてとらえることは,以下の諸点で困難 といい うる。
L
A)
資本主義経済において,労働者が,人格的主体の活動である労働をかれの人
格か ら分離 されて物化 され客体化 された商品 として雇用者に売却す ることは,
労働者 の 自由選択 に よるとはいいがたい。(
B
)
現実の多 くの事態における賃金の
高 さは,労働者 と雇用者 とのほん らいの 自由競争に よって決定 され るとはみな
1
8
1
9
bl
)基本型 の資本主義経済体制の小規模企業における単純 ・
低級
されがたい。 (
労働者は,その提供す る労働用役の代替性お よび雇用者に対す る従属性が大で
あ り,企業への対抗組織 も未発達であるので, きわめて不利な立場で労働を売
0
2
1
2
b2)発展型 の資本主義経済体制の大規模企業にお
らざるをえない状態にある。 (
ける高級 ・熟練労働者は,その労働用役の代替性お よび雇用者への従属性 も減
少 していて,高賃金に よって生活が安定 してお り, さらに,労働組合に よる企
業への対抗力の強化に よって,その労働用役の生産性 とは独立に高賃金を能動
2
2
的に取得 しうる状態にあ り, この場合においても,賃金は労働の供給者 と需要
15 拙稿,「
交換 の社会的基礎」,40ページ (
前掲拙著,44ページ),「
所得分配におけ る交換的要因 と
非交換的要因-
階政論的一考察-
」,神戸大学経済学研究年報24,昭和5
2年,33-36ペ ージ0
1
6 拙稿 「
交換の社会的基礎」,38-40ページ (
前掲拙著,A
=
2-44ペ-ジ)0
1
7 同上拙稿,40ページ,52-55ページ (
前掲拙著,44ペ-ジ,54-57ページ)0
1
8 拙稿 「
賃金決定におけ る経済的勢力 と非経済的勢力」,国民経済雑誌第133
巻第 3号,昭和51
年3
月,1
2-1
8ページ0
1
9 拙稿 「
企業組織 と階政的勢力」, 神戸大経済学学研究年報1
8,昭和46
年,59-61ページ (
前掲拙
著,99-1
01
ページ)0
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拙稿 「
労働者階奴 の勢力について」,国民経済雑誌第1
20巻第 2号,昭和44
年 8月, 8-1
0ペ ージ,
1
3-1
4ペ-㌔ (
前掲拙著,1
76-1
77ページ,1
80-1
81
ページ)0
21 拙稿 「
企業組織 と階級的勢力」,7
2-7
4(
前掲拙著,11
0-11
2ページ)0
6
第 147巻
第
5 号
者 との 自由競争に よって成立す るとはみ られがたい。
3
)基本型の資本主義経
済体制の小規模企業においては,企業生産の決意 ・執行 とい う企業組織の中枢
2
3
的職能であって人間ほん らいの主体的職能である 「
企業者職能」は,資本の提
供を本質的職能 とす る資本家に よって占有 されていて,かれの職能のなかに未
分化的に含 まれていて,その 自律性は実現 していないが,発展型の資本主義経
済体制の進行に伴い,資本家に代って,比較的多数の非資本家の専門的職能者
2
4
に よって担 当または分担 され るようにな り,一方,高級 ・熟練労働者は,労働
用役の提供 とは独立に,労働組合の政治的対抗力や経営参加な どを通 じての主
2
5
体的 ・能動的行為に よって,賃金を獲得 してきている。 これ らの諸事象にみ ら
れ るように,資本主義経済体制の発展に基づいて,交換が経済過程の中心的現
象 とな って くるとともに,経済体制の よ り一層の変質的発展に伴 って,財の提
供なかんず く物化 された労働用役の提供以外 の諸要因 と くに主体的 ・能動的諸
2
6
行為に よる物財調達が優越化 して くる傾向にあることを看過で きない。上述の
議論 よ りして, 「自由市場組織」を 自由競争に よる財の売買の組織 とみなす こ
とに関 しては,つ ぎの考慮が必要 となる。L
A)
人間の主体的活動が物化 されて売
買 され ることは労働者の 自由意志に基づいてい るとはいいがたいので,その よ
うな財を含んでい る市場組織を 「自由」競争に よる市場組織 とみなす ことは問
題 となる。(
B)
労働が主体的で能動的な行為 として現われ るとき,市場組織にお
いて,売買され る財のなかで,物化 された労働の 占める分野は しだいに減小 し
てゆ き,ほん らいの財のみが売買の対象 となる傾向が生 じ, この状態において
こそ,充分な意味での 「自由経済組織」 と結びついた 「自由市場組織」の実現
22 拙稿 「
資本主義の発展 と労働者階級の勢力」,国民経済雑誌第1
2
0巻第 3号,昭和44
年 9月,2334ページ (
前掲拙著,1
9
0-1
9
8ページ)。
23 拙稿 「
企業者勢力についての一考察」(
酒井正三郎先生還暦記念論文集 『経済構造 と経済政策』,
企業組織 と階級的
東洋経済新報社,昭和38
年),31
8-33
2ページ (
前掲拙著,1
31
-1
3
4ページ), 「
勢力」,6
2-63ページ (
前掲拙著,1
31
-1
34ペ-ジ)。
24 拙稿 「
企業組織 と階級的勢力」,75
-88ページ (
前掲拙著,1
1
2-11
9ページ)
。
25 拙稿 「
資本主義の発展 と労働者階級の勢力」,26-29ページ (
前掲拙著,1
9
2-1
95ページ)0
26 拙稿 「
交換の社会的基礎」,56ペ-ジ (
前掲拙著,58ページ)O
自由市場経済体制の存立 と変容における社会的要因
7
が考え られ うるが, この状態は,資本主義経済体制 と本質的には対応 しえない。
(Ⅱ)資本主義経済体制における諸個人の 自由競争を制約す る基本的条件である
財産の私的所有を可能にす る要因 として,‖経済的 自由競争における個人の手
腕,努力の ような 「人為形成的要因」 と,日特定の家族員 としての出生に基づ
2
7
いて一定の財産を相続す る場合の 「自然生成的要因」 とが考え られ うる。資本
主義経済 の発展 さらには社会の合理化の進展 と結びついて,日の 「自然生成的
要因」に対す るH の 「人為形成的要因」 の優越化がみ とられ るが,つねに,財
2
8
産の所有お よび相続は日の 「自然生成的要因」を基礎 として成立 してお り,財
産の所有 と相続に制約 された経済的競争を 自由競争 とみ ることは困難である。
なお,問題 とす る資本主義的 自由競争擁護論においては,財産の所有 と相続を
関 して,Hの 「人為形成的要因」が 自由競争 との結びつ きにおいて強調 されて
2
9
い るとともに,巨ゆ 「自然生成的要因」についても,先天的な偶然的チ ャンス
に よる横会均等的平等を指摘 して, 自由と対立的でない とい う解釈がなされて
3
0
3
1
い るが,筆者は, この よ うな見解に対 して,根本的に批判的である。
(i
i
) 経済生活におけ る 「自由競争」について,つ ぎの二?の面か らの区別
al) 私的利益の排
と関連が考え られ うる。 仏)
諸個人の決定的な主体的動磯が (
他的追求を 目指 しての 「自利的」 動機である場合 と (
a2
)社会全体の共同の利
3
2
B)
主体的動機に基づいた
益を 自覚 した 「
共益的」動機である場合 とが, また,(
行為を実現 し うるひ とび との人数が,相対的にみて, (
bl) 少数である場合 と
(
b2)多数である場合 とが,区別 され,以上の困,(
B)
のそれぞれの組合わせに よ
って, 自由競争をめ ぐって,いちお う,つ ぎの四つの形態が 考 え られ うる。
27 拙著 『階級構造の基礎理論』, 日本評論社,昭和3
8
年,71
-7
4ページ0
28 同上拙著,229
-231ページ,拙稿 「
資本主義経済体制における自由と政治権力」,24-27ペ-ジ。
,O
PIC
i
t
・
,pp.1
01
-1
0
2
,釈,1
3
8-1
39ペ-ジ。M.良 R.Fr
i
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,p・6
7
,釈,
29 F.A.Hayek・
1
09ペ-ジ0
i
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,pp,1
65-1
6
6
,釈,1
86-1
87ページ,M.良 R,Fr
i
e
dma
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PIC
i
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・
,pp.1
3
630 M・Fr
1
37
,釈,21
8-21
9ペ ージ。
31 拙稿 「
資本主義経済体制における自由と政治権力」,29ページ。
32 北野熊喜男 『増訂 経済社会の基本問題-
経済社会学原理- 』,三和書房,昭和36
年,89
-9
2
ペ-ジ,9
4-1
01
ペ -ジo拙著 『新訂 社会科学概論』,三和書房,昭和5
6年,1
83-1
84ペ ージ。
第 147巻
第
5 号
(Ⅰ)この形態 に対応 して
い るのは, 少数者 の資本
(
bl) 少 数
(
Ⅰ )
(
Ⅱ)
(
b2) 多 数
(Ⅱ)
(
Ⅳ)
家 お よび企業者が 自利的
動機 に よって競争 的行為
を遂行 してい る資本主義
経済体制 と くにそ の基本型 であ る。 (Ⅱ)問題 とす る 自由競争擁護論 は, この形
態を 自由市場経済体制 の永続的形態 とみな してい る。 なお,資本主義経済体制
3
3
の発展型 におい ては, この形態 の実現 の傾 向がみ とめ られ うる。 (
Ⅲ)少数 の指
導者に よる計画経済体制が この形態 に対応 してい るが,少数 の支配者 の独裁的
計画に よって成立す る ときには, 自由競争 体制か ら除外 され ね ば な ら な い。
(
Ⅳ)この形態 は, 自由競争 の高度 の発展形 態 とみな され,発展型 の資本主義経
3
4
済体制 において も, 基本的傾 向 として,緒初的特色が現われ てい るが, この形
態 の 自由競争 は, 国家 の中央計画を不可欠的要件 とす る計画経済体制 において
3
5
こそ充 分に実現 し うるのである。
(
2
)
自由市場経済体制 の存立 と変動を制約 し促進 してい る基礎的要 因, と くに
●●●●●●●
固有 の対人的現 象 としての 「社会的要 因」 につ いての論述が要請 され,経防体
制におけ るひ とび との 自由の問題 につ いての, かれ らの物財調達行為 の基礎 を
36
な してい る社会的勢 力 の集中性 と分散性 の点 よ りの考察が必要 とな る。
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ 自由市場経済体制崩壊論の検討
つ ぎに, 自由市場経済体制を近代 の歴 史的発展段階 におい てのみ成立す るも
の とみな し,社会生活 の将来- の変動 に伴 う崩壊 を主張す る見解 を,批 判的に
検討す ることにす る。
33 拙稿 「
企業組織と階級的勢力」
,75-83ページ (
拙著 『
現代資本主義と階級』
,1
1
2-11
9ペ-ジ)
a
3
4 拙稿 「
共益経済の社会的基礎」(
北野熊喜男博士古稀記念論文集 『
経済と社会の基礎分析』
,古稀
, 1
0-1
1
ぺ-ジ.
記念論文集刊行会,昭和54年)
35 拙稿 「
計画経済体制と勢力構造」,38-39ページ。
3
6 拙稿 「
資本主義経済体制における自由と政治権力」,17-29ペ-ジ。
自由市場経済体制の存立 と変容における社会的要因
9
1 強制型計画経済体制の成立による崩壊論
この塾の経済体制は,中央集権的計画に よる経済生活の全面的統制を意図 し
てお り,個別的な諸経済主体の 自主的行動の余地は極小であ り,価格擁構を通
3
7
じての市場 の 自由競争に よる合理的運営は実現 しがたい。 この ような経済体制
3
8
は, 「社会構造」の合理化に基づいていない反動的体制であ り,今世紀後半頃
か らしだいに 自由競争 の要素を導入 し初め,その基本的特色は衰退の傾 向にあ
る。
2 資本主義経済体制の発展との関連性における崩壊論
- ガルブレイス説を対象として資本主義経済体制の発展的変質傾 向に伴 う自由市場経済体制の衰退傾 向を主
張す る見解について,一つの代表的立場にあるガルブ レイス (
J・K・ Ga
lbr
ai
t
h)
の学説 の検討を行な うことにす る。
(
1) ガルブ レイス説 の論述の要 旨
当面 の議論 とと くに関連 してい るが ガルブ レイスの論述は,以下の ように要
約 され うる。
(i) 2
0世紀以後 とくに後半以後の先進諸国において,大多数の小規模企業
間の競争に基づいた 「自由競争市場」の存立 の余地は減小 し,資本主義経済体
制の中心的主体は 「企業者的法人企業」か ら 「成熟法人企業」- と変移 してき
3
9
てお り,大企業体制の進展は,つ ぎの諸過程を通 じて 自由市場体制 と結びつい
た資本主義体制に変容を もた らしてゆ く。 (Ⅰ)経済体制において,中小企業に
よって成立 している 「市場体制」に対 して,大企業か ら構成 されている 「
計画
化体制 」
t
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ys
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4
0
が優越的地位を 占めていて,両体制問の不均等
的発展が生 じて くる。 (
Ⅱ)「
成熟法人企業」においては,多 くの重要なデ シジ
37 L・
V・Mi
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ptc
i
t
リpp.3
2-3
6
,釈,55-62ペ-ジ。
38 拙稿 「
計画経済体制 と勢力構造」,36-37ページ,「
合理的経済体制における国家 と階級」, 国民
経済雑誌第 138巻第 6号,昭和53年1
2月,38ページ0
39
J
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n,1
96
7
,pp・60
-71
,都留重入
監訳 『新 しい産業国家』,河出書房,昭和43年,70-90ページ。
40 J
.K.Ga
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,Bo
s
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o
n,1
97
3,pp.4
2
-51
,久我豊雄訳 『
経済学 と公共 目的』,河出書房新書,昭和5
0年,7
0-8
0ペ-ジO
1
0
第 147巻
第
5 号
ヨン ・メイキ ングが多数人 の専 門的諸知識 と諸情報に依存 してい るため, 「専
門化 した知識,才能 または経験を グル ープ ・デ シジ ョン ・メイキ ングに提供す
る」多数人か らな る "Tec
hnos
t
r
uc
t
ur
e
" が企業におけ る新 しい支配 力をえて
4
1
お り, この状態は,経済体制をつ ぎの ように変容 させ てゆ く。 H地主か ら資本
衣-移行 した企業におけ る支配 力が , 「資本か ら組織 化 された知性-」移行す
4
2
誘 因」 のなかで,「
強制」
る。 日「テ クノス トラクチ ャ」 を組織に結びつけ る 「
や 「金銭的誘 因」 に代 って,個人が 自分 の 目標 よ りも組織 の 目標 の方をす ぐれ
てい ると判断 して集 団に加入す る 「
共鳴」i
de
nt
i
丘c
at
i
on と,個人が組織 の 目標
at
i
on とが重
を 自分 の 目標に合致 させ よ うとして組織に奉仕す る 「適合」adapt
4
3
要性を増 してい るが,一方において,かれ らは,企業 の安全性を図 ることに よ
ってみずか らの地位 または権威 を守 ろ うとす る 「
保身 の 目的」 とそれを強化 し
4
4
ようとす る 「
本来 の 目的」に よって行動 してい る。 (
Ⅲ)大企業体制 内において,
上級労働者は 「テ クノス トラクチ ャ」に包含 されてゆ くため大企業体制 内の階
4
5
級的緊張関係は緩和 され,一般大衆の生活圧迫へ と転化 され る。 (
Ⅳ)大規模企
業の優越性を抑制す るつ ぎの諸事象が 出現 してい る。 H大企業の私的勢力に対
して,労働組合 の力を中心 とす る 「
対抗力」 の台頭に よる抑制が, イ ンフ レー
4
6
4
7
シ ョン下では作用 しないが,競争に代 って出現す る。日大規模企業 自体が,質
本主義的企業 の行動原理に従 うことが抑止 され る。 1
)「テ クノス トラクチ ャ」
の組織 目標に関与す る誘 因のなか で優越化 してい る 「共鳴」 と 「
適合」 とは,
利潤極大化 とい う企業 目標 の 「金銭的誘因」 と矛盾 してお り,大規模企業 の行
4
8
動原理 は,利潤極大化 よ り最低利潤 の保障- と転換 させ られ る。 2) 「計画化
41 T7
i
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lSl
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e
,pp・60-71訳,79-9
0ページ.
42 i
b
7
d
・p・56
,釈,92ページ。
43 i
b
i
d
・
,pp・60-71
,ⅩⅠ
,ⅩⅠ
Ⅰ
,ⅩI
I
I
,釈,80-86ページ,第1
1
革,第1
2章,第1
3
章。
4
4 Ec
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,Ⅹ,XI
,釈 ,第1
0
章,第11章0
45 TheNe
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,ⅩⅩⅠ
Ⅰ
Ⅰ
,ⅩⅩⅠ
Ⅴ,釈,第23葦,第24茸。
46 J
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Bo
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o
n,1
952,pp11
42-1
4
8
,藤源五郎訳 『
アメl
)カの資本主義』
,時事通信社,昭和30年,165-172
ペ - ジ。
47 i
b
l
'
d
・
,pp・1
22-1
4
2,
釈,142-165ペ-ジO
自由市場経済体制の存立と変容における社会的要因
11
体制」は 「
市場体制」に比 して,済経的数量の変動に対 して不 安 定 で あ り,
「テ クノス トラクチ ャ」は 「保身の 目的」 と 「本来の 目的」を確実にす るため,
4
9
国家の済経政策への接近を企図す るようにな る。
(i
i) 現代の経済体制の改革におけ る諸要件が,以下の ように問題に されて
計画化体制」 と 「市場体制」 との不均等的発展か ら生ず る経済生
い る。 (Ⅰ)「
活の不安定性への対策 として,公共の利益 の実現を 目指す 「公共国家」を政策
5
0
主体 とし, 「
公共性の認識」が支配的である 「
新 しい社会主義」の確立が洞察
5
1
されてい る。 (Ⅱ)個人の 自由と大企業体制の将来の動向に関 して,産業体制が
生活のなかの相対的に比重を減小 した一部であるな らば,われわれは,産業体
制の諸 目標に従わない ようにな り, 「産業体制 自身が生活の審美的諸次元の諸
5
2
要請に従 うようにな る」のであ り,産業体制は,知性的で科学的な諸要語に奉
仕す るために,産業体制に よる社会的 目的の独 占を拒否す るようになることが
5
3
期待 され うるコ ミュニティを出現 させ ると考え られ る。
(
2) 諸批判点の提起
以上のガルブ レイスの議論に関 して, とくに問題 とな る批判点を検討 してみ
よう。
(i) 「自由経済組織」 と 「自由市場組織」 との変容過程につも、
て,以下の
諸点が問題視 され る。 (Ⅰ)「自由市場組織」の縮小過程については,つ ぎの事
柄が検討 され うる。
‖ 「
計画化体制」の優越化の懐向は,必然的に 「自由市
場組織」の減退を もた らす とはいいがたいのであ り, と くに,そ の 傾 向 が,
5
4
「市場圏」の血縁的,地縁的な 自然生成的要因に よる制約か ら脱却 した拡大化
に基づいて進行す るとき,問題 の組織の発展が顧み られ うる。
7
7
1
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,pp・1
5
9-1
61
,釈,189-191ページ。
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,pp・1
2
2-1
25
,釈,175-179ペ-ジ。
i
b
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・
,ⅩⅩⅠ
Ⅰ
,釈,第22章.
i
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・
,ⅩⅩⅤⅠ
Ⅰ
,釈,第27章。
Ti
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e
,pp・3
3
8-3
3
9,
釈,446-447ページo
i
b
i
d・
,p・3
98
,釈,447ページ。
拙稿 「
経済体制と階級構造」,57-58ペ-ジ (
前掲拙著,60-61ページ)
O
E)
審美的欲望
1
2
第 147巻
第
5 号
をみたす財の供給をめ ぐっての 「市場体制」の強化に 「自由市場組織」の再発
展の可能性が構想 されているが,現代の高度産業社会において,中小企業を主
体 とす る 「市場体制」の発展に よって充分な意味での 「自由市場組織」の実現
を考えることは困難であるoE伯 由競争型の計画経済体制における価格横棒の
活用に よる 「自由市場組織」の成立の可能性について,論述が判然 としない。
(
Ⅱ)「自由経済組織」に関す る議論に対 しても,つ ぎの批判点が指摘 され うる。
‖私見に よれば,経済生活における自由競争の実現の考察をめ く
中
って,物財調
達を可能にす る個人の一定の能力 としての 「
対物的勢力」の形を とって現われ
5
5
る 「
勢力」のあ り方の分析が不可欠的意義を もっているが, この点に関 しても,
とくにつぎの事柄についての論述が きわめて不充分である。 「テクノス トラク
5
6
チ ャ」の上層部 と下層部 との問には,勢力の相違がみ とめ られ,上層部の勢力
は,合理的社会に特有の,相手を 自由選択に よって服従 させ る 「間接的 ・誘導
的勢力」のなかでの,財の提供に基づいている 「
経済的勢力」か ら区別 され る,
5
7
財の提供を本質的要因 としない 「非経済的勢力」 として とらえ られ,多数人へ
5
8
の分散性を特色 としている。日対物的勢力の分散性 の促進 と拘束を基礎づけ制
5
9
約 している国家の政治的統制力の動向 と 「自由経済組織」 との関連性を,計画
経済体制におけ る事態を も考慮に入れて追究す ることが必要である。E‖ 計画
化体制」は知性的で科学的な要請に対応 してお り,大規模企業の主導者である
「テクノス トラクチ ャ」が大企業体制に よる社会的 目的の独 占を阻止す ること
に, 「自由経経組織」の存立が洞察 されてい るが,その客観的妥当性について
立入った検討が要請 され る。
(i
i
) 現代の資本主義経済体制の変容憶 向におけ る, さらには,計画経済体
制の成立において構想 され うる 「自由市場経済体制」におけ る 「自由経済組織」
5
5 拙稿, 「
資本主義体制の変質 と非経済的勢力」
,39-45ページ,「
資本主義経済体制における白由
,1
9-21
ページ。
と政治権力」
5
6 拙稿 「
企業組織 と階級的勢力」
,64-6
5ページ (
前掲拙著,1
03
-1
0
4ページ)
0
5
7 同上拙稿,97
-98ペ-ジ (
前掲拙著 ,1
06
-1
07ページ)0
5
8 拙稿 「
現代社会における支配層」(
拙著 『
新訂 社会科学概論』),1
3
7
-1
44ページ。
5
9 拙稿 「
資本主義経済体制における自由と政治権力」,2
4-31
ページ。
自由市場経済体制の存立と変容における社会的要因
1
3
と 「自由市場組織」 との複合態のあ り方についての考察が,本格的には行われ
ていない。
(
i
i
i
) 資本主義経済体制 さらには 「自由市場経済体制」の変質的発展傾 向に
おけ る国家のあ り方についての, 「公共性の認識」に基づいた 「公共国家」の
実現性の主張 も,それの客観的実現性の論述が問題 となる。
3 統合的社会体制の成立による崩壊論
社会生活の諸現象におけ るおのおのについての諸 「
社会組織」の全体 として
の複合態を 「社会体制」 と呼ぶ とき,一派の見解に よれば,前近代社会におい
ては,諸社会組織が相互に密接に融合 し合 っている 「統合的社会体制」のなか
の一部分 として経済組織は埋没 していて,近代の経済生活の発展に伴 って,級
済組織が 自律化 し諸社会組織のなかで優越的位置を 占めて くるところに 「自由
市場経済体制」 と結びついた 「経済体制」が一時的な歴史的現象 として成立す
るが,それは,将来の 「統合的社会体制」-の動向 とともに崩壊の傾向を示す
ことが,主張 されてお り, この見解のなかで, ボラソニー (
K・Pol
anyi
) と-イ
mann) の学説に検討を加えることにす る。
マ ン (E・Hei
(
1) ボランニイ -説 の検討
(i) 論述の要 旨
(Ⅰ)まず, ボ ランニイ -の人塀学的論述における基本的諸概念を明らかにさ
せてお きたい。
H 自由の問題は, 「
制度」の面では,規制 との関連において,
「
失われた 自由と獲得 した 自由とのバ ランス」が問題 とな り, 「道徳的 または
6
0
宗教的な面」では, 「それの維持が最高の重要性を もつ 自由」が問題であるが,
「(
市場)経済 の意図は利潤 と繁栄をつ くり出す ことにあって・
--自由も平和 も
6
1
制度化 されえなか った」のである。ヒ‖ 経済的 自由主義」は, 「
産業が 自己調
6
2
整 の市場 とい う制度に基づいている社会の組織原理」である。E)
市場経済にお
6
0 K.Po
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1
9
4
4,pp・2
5
4′
-25
5
,吉沢英成・野口武彦・
長尾史郎・
杉村芳美共訳 『
大転換- 市場社会の形成と
崩壊- 』
,東洋経済新報社,昭和50年,339-340ページ。
61 i
b
i
d・
,p・2
5
5,
釈,341ペ-ジ。
62 i
b
l
'
d・
,p・1
35
,釈,184ページ.
1
4
第 147巻
第
5 号
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●■●●
いては, 「
財の生産 と分配における秩序は この 自己調整機構に委託せ られてい
●●●●●●●●●●●●●●●●■●●●●●●●●●●
る」 とともに, 「
人間は最大の貨幣利得を達成 しようとして行動す るとい う期
。.。.。。.●●。。
6
3
待に よって導かれている」 とみ られ うるが (
傍点筆者)
, この市場経済の特色に
ついて, とくに以下 の事柄が注 目され うる。1
)自己調整市場は, 「社会の人間
6
4
的 ・自然的実体を絶滅 させ ることな しには存立 しえない」のであ り, 「産業の
すべての要因について,すなわち,財-・
-のみな らず,労働,土地,貨幣に対
5
6
す る諸市場が存在 している」のである。2)国家 とその政策に関 して, 「
販売を
通ず ること以外には, どの ような所得が形成 され るの も許 されてほな らない」
のであ り, 「
変化す る市場の諸状態に対応す る価格の調整-のいかなる干渉 も
6
6
存在 してほな らない」のである。3) 「以前には 日常生活における行為や行動の
正当性の次元に まで高 め られた ことは全 くなか った-・
-利得動機にみずか らの
6
7
基礎をお くことをえ らんでいる」 ことが, また, 「市場社会への真の批判は,
e
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s
tに基づいていた」 ことであ り, 「
経済生活
・
・
・
-その社会の経済が s
●●●
6
8
のその ような組織は全 く不 自然な ものであ り,例外的な ものである」 ことが,
指摘 され るO(
p
g
)
自己調整的 自由市場体制 と資本主義的経済体制 との必然的対応
6
9
性がみ とめ られ うる。
(
Ⅱ)自己調整的 自由市場体制の成立 とそれが社会生活にお よぼす影響 とその
将来の動向について,以下の事柄がみ とめ られる。‖市場経済は, 「われわれ
7
0
の時代以外には一度 も現われなか った制度的構造」であ り, 「
最近の歴史学お
●●●●●● ●●●●●
よび人類学の顕著な発見は,人間の経済は,原則 として,人間の社会的諸関係
7
1
ubme
r
ge
d とい うことである」
。 目 自己調整的 自由市
のなかに埋没 してい る s
63 ibi
dr
,p・6
8
,釈,91-92ページ。
64 i
b
i
d・
,p・
3
,釈, 4ペ-ジ。
65 i
b
i
d・
,pl6
9
,釈,92ページ。
66 l
'
b
i
d
・
,p・6
9
,釈,92-93ページ。
67 2
'
b
i
d・
,pl3
0,
釈,39ぺ-ジ。
68 i
b
i
d・
,pl2
4
9,
釈,333-334ページ。
69 i
b
i
d・
,pp・5
6-57
,釈,75-76ページ。
7
0 i
b
i
d・
,p・3
7
,釈,50ページ。
71 i
b
i
d・
,p・4
6
,釈,61ページ.
自由市場経済体制の存立 と変容におけ る社会的要因
1
5
場体制成立の要因 として, とくに,1
)
産業革命お よび機械生産の発展が画期的
7
2
な影響を与えたこ とと,2)市場バク-ソの進化について, 「
新 しい諸国民市場
が,--・
普及 的 に なった のは ,競争 とい う新 しい要素ではな くて,規制 とい う
7
3
伝 統的特徴 で あ った」 こ とが ,み とめ られ るよ(
3自己調整的 自由市場経済体制
が社会生活 さらには人間生活に対 して与えてきた影響について,以下の諸事象
が指摘 され うる。1
)
市場パターンにおいては, 「
社会が市場の付属物 として動
●●●●●●●●●●■●●●●●●●●●●
いてい ることを意味 している。経済が諸社会関係のなかに埋没 されてい るので
。-。。。●。。●。..。.。.。。..。.。
7
4
はな くて,諸社会関係が経済 システムのなかに埋没 されてい る (
傍点筆者)」 と,
いい うる。2)ひ とび との利己的動機に よる経済競争が国家の政治的統制,社会
的慣習な どか らの拘束を うけずに 自由に放任 されている自己調整市場の成立は
「自然的」である とい う観念に支配 されてい るが,実際は,その ような市場の
7
5
成立は国家の政策的統制 と結びついていた。3)自己調整市場は,ほん らいの商
品以外の ものを も, 「擬制商品」t
he丘c
t
i
t
i
o
usc
o
mmodi
t
i
e
s として市場におけ
る売買の対象に させるが, この ことが社会生活に破壊的作用を もた らす ことが,
すなわち,労働,土地お よび貨幣を含めた産業のすべての諸要素が, 「市場機
●●●●●●●●■●●●●●●●●●●●●
構 のなかに包含 され ることは,社会の実体その ものが市場の諸法則に従属 させ
られ ることを意味 している。--労働,土地そ して貨幣は, 明らかに商品では
●●●●●●●●●◆●●●●●●●●●●●●●
な く,--市場機構に人間的存在 とその 自然的環境についての,それ どころか
●●●●●●●●●●●●●●●●●
購買力の量 と用途についてさえ も,唯一の支配者 となることを許す ことは,社
7
6
会の破壊を もた らす ことになる (
傍点筆者)」 のである。囲 自己調整市場の発展
が社会生活お よび 自然環境を破局化 してきた債 向と平行 して,社会 自身の 自己
防衛のための諸現象 と階級対立が出現 し,1
) 「社会的お よび国民的な保護主義
への変動が 自己調整的な市場 システムに内在 している弱点 と危機の現われ以外
2 i
b
i
d・
,pp・4
0-42
,釈,53-55ペ-ジ。
3 i
bd・
,p・6
6,
釈,88ペ-ジ.
47
'
b
i
dリ p,5
7
,釈,76ペ-ジ。
5 i
b
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d・
,pp・1
40-1
42,
釈,190-193ペ-ジ。
6 i
b
i
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,ppl7
1
-7
3
,釈,96-98ページ。
i
1
6
第 147巻
第
5 号
7
7
の他の原 因に よる ものであるとい うことは誤 ってい る」 のであ り,2)階級利害
の対立 の増大 とそれに伴 う社会変動に関 して, 「階級の諸利害は, もっ とも直
7
8
接的には地位 と秩序,身分 と安全に関連 してい る」 とみなされ る。圃 自己調整
的 自由市場 の発展が社会の存続についてのい くつかの決定的な側面が潜在的脅
威を含んでいた ことは,労働,土地,貨幣の擬制商品化についての防衛運動を,
工場法,失業保険,労働組合,農業関税,土地立法,貨幣供給 の組織化な どの
7
9
形 で発達 させた。
(
Ⅱ)市場経済 の 「自己調整的機能」の損傷 と主要 な諸制度の 「崩壊的緊張」
について,‖市場経済 の損われた 自己調整は,土地 と労働 と貨幣についての保
護主義の結果 であ り,日国内的には,経済面 での失業 の増大 と政治面 での階級
間の緊張 の激化が, 国際的には,経済面 での為替- の圧力 と政治面 での帝国主
8
0
義的対立が増大 してきた。
(
Ⅳ)
社会生活 の
「
転換」 の進行傾 向お よび将来社会 のあ り方について,つ ぎ
9
20年代の国際 システムの崩壊 に よって,大衆政治が労
の主張がみ られ る。 ‖1
働組合運動を中心 として台頭 し, ファシズムが普及化 し, ロシャ革命が 出現 し
8
1
た。 日 「
複合社会 c
ompl
e
xs
oc
i
e
t
y におけ る 自由」に関 して,規制が複合社会
における自由の拡大 と強 化のための唯一 の手段 であ り, しか もこの手段 の利用
が 自由それ 自身 と矛盾す るな らば,複合社会は 自由ではあ りえないが, 「よ り
ゆたかな 自由をつ り出すみずか らの仕事に誠実である限 り,ひ とは,権力 また
は計画化がかれに対 向 してかれがそれ らを手段 として建設 しつつある 自由を破
8
2
壊す ることを,供れ る必要はない」 と考え られ うる。
(i
i) 諸批判点の検討
ボ ランニイ ーの学説 には, 自由市場経済体制 の成立お よび崩壊について,人
77 i
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リp・1
45
,釈,197ページ0
7
8 i
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dリ p・1
5
3
,釈,209ページ.
79 i
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・
,Cha
p・1
4,1
5
,1
6
,釈,第14章,第15章,第16章0
8
0
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d
・
,Cha
p・1
7
,1
8
,釈,第17章,第18章。
81 i
b
i
d
・
,Cha
p・1
9,20
,釈,第19章,第20章。
8
2 8
b
t
d
^
・
,pp・257
-2
5
8,釈,34
4-34
8ページ。
自由市場経済体制の存立 と変容における社会的要因
17
類学的立場か らのオ リジナルな議論が展開されてお り,その主要部分について,
筆者の立場か ら,検討 と批判を こころみ ることにす る。
(Ⅰ)「自己調整市場」の考察を, 「社会的要因」 との関連性において基礎づ
け ることが,つ ぎの諸点に関 して必要 とな る。‖「自己調 整 市 場」の 成 立 を
8
3
「社会関係」 としての 「自利的 ・合理的関係」に結びつけて考察す ることが要
請 され る。 この ことは, ボ ランニイ -が, 「自己調整市場」を資本主義経済体
制に特有の もの として とらえ,ひ とび との利己的な経済的動機に よって成立 し
ているとみな していることよりして,不可欠的意義を もっている。日 「自己調
整市場」成立の中心的な前提条件である国家的統制についても, とくに,私有
財産の所有権お よび相続権 と直結 している政治権力の問題が論究 されねばな ら
8
4
ない。(
Ⅱ)「自己調整市場」における労働,土地,貨幣の商品化 とくに労働の
Ⅲ) 「自己調
商品化に関 して,労働者の階級的勢力 との関連性が問題 となる。 (
整市場」の崩壊傾 向お よび社会生活の 「転換」の議論に関 して も,以下の諸問
題点が提起 され うる。‖ 自己調整的な 「自由市場組織」の減退化の傾 向は, 自
由競争一般の衰退 と必然的関連性を もつ ものではな く,非市場的諸要因の新 し
い段階におけ る制約のもとでの 「自由競争組織」の成立 と結びつ き うるのであ
り, このことは, 自由競争型の計画経済体制の実現性に関 して看過 しえない事
柄である。 この点については, ボ ランニイ -ち, 「市場社会の終末を
羊決 して諸
市場の欠如を意味す るものではない。諸市場は, さまざまの様態において,-継続 されてゆ くが,--・
経済的 自己調整の器官であることをやめて しま う」
8
5
と述べてい るが, この ような市場形態の 「複合社会」におけるあ り方について
の立入った考察が必要である。 日 「
複合社会における自由」に関す る議論をめ
ぐってつ ぎの事柄が問題 となる。 1) ボランニイーのい う 「複合社会」の意味
内容をマ ヅキ ィヴァ (
R・
M・Ma
c
l
v
e
r
)の解釈に よる 「社会の優位性」における
8
6
「人間的相互依存の包括的で緊密な統一体」 として理解す るとき,社会諸現象
83
北野熊善男,前掲著,89-92ページ。
84 拙稿 「
資本主義経済体制における自由 と政治権力」,22-31ページ0
85 K・Po
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p・C
2
'
l
り p・2
5
2,
釈,377ページ。
第 14 7巻
18
第
5 号
全体を統合 した社会体制の成立 と個人の 自由 と合理性を基本原則 とす る近代社
会の動向との結びつ きが, と くに, この ような統合的社会体制の成立 と国家の
権力に基づいた統制力 との関連性が,重要な課題 となる。 2) 「複合社会」に
おける自由の成立については, とくに,将来の統合的社会体制 と 「
合理的社会
8
7
構造」 との関連性の論述が,看過 しえない意義を もっている。
(
2
) -イマ ン説の検討
(i) 論述の要 旨
-イマンの学説の検討にあた って,初めに明らかに させてお くことは,かれ
は, 「自由市場経済体制」の崩壊を直接問題に しているのではな く, 「
経済優
位時代」の経済体制一般の衰退の論述のなかで,問題 とす る経済体制の一形態
としての資本主義経済体制の衰退過程を考察 しているとい うことである。ただ,
かれの学説 とボランニイ ーの学説 との間には, 自由市場経済体制を一時的な歴
8
8
史的現象 とみなす点で少なか らぬ類似性がみ られ る。 まず,かれの学説のなか
で,当面の問題に関連 してい る主要な議論を検討 してみ よう。
(Ⅰ)
「
経済体制」 W irtschaftssystem とい う概念が,以下の ように用い られて
い る。‖ 「経済体制」は, 「経済的な諸勢力 と諸 目的が--・
社会的指導か ら解
放 されていてそれ ら自身が 自律 しているとともにそれ ら独 自の諸制度がつ くり
8
9
あげ られている構造」であ り, この ような意味での 「
経済体制」は,社会生活
の近代の歴史的発展段階においてのみ,一時的に存立す るにす ぎない ものであ
90
る。 目資本主義体制 と- ミュニズム体制 との両体制が,つ ぎの諸点V
L
-おいて,
諸対立点を示 しなが らも, ともに, ここでい う経済的に 自律的である 「
経済体
86 R・MIMac
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,釈,序文, Ⅸべ-ジ0
拙稿, 「
合理的経済体制における国家と階級」, 21-2
8
ページ, 「
福祉国家の社会的基礎一 社会
,季刊,社会保障研究, Vol・17・No・4,社会保障研究所,昭和57年 3月,400学的一考察- 」
′
403ページ。
87
88 E.He
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,S.2.
自由市場経済体制の存立と変容における社会的要因
19
9
1
割」のなかに包括 され る。 1) 両体制は生産指針お よび生産技術について 「
経
済的合理主義」を主要内容 としなが らも,両体制の間には 「
効率が分立 してい
る競争的な経済的経営体において個別的に計算されて,それに従 って生産指針
と生産方法が選択 されているか, または, これ らのことが統一体 として組織化
されている体制において集中的に生ず るか」に よる歴史的で社 会 学 的 な 基 本
9
2
的区別がみ とめ られる。 2)両体制は ともに,経済的拡大 の た め の 「余 剰」
Ube
r
s
c
huB を追求する生産を本質 としてお り,「
一定の余剰を拡大に とっての
使用のために,そ してより大なる余剰を より急速な拡大のために,獲得す る体
9
3
制」 として定義 され うる。 (Ⅱ)「経済体制」 と対置され る体制は, 「経済的
諸活動が直接に社会の諸制度のなかに埋没 されていて後者に よって支配 されて
いる」「全体的 ・統合的社会体制」vol
1
gr
unde
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m であ り,
この体制は, 「
歴史的にも経済的諸活動の組織において経済体制に先行 してい
9
4
る」のであ り,そ こにおける経済は,余剰が dasgut
el
J
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n のための よりゆ
たかな消費 と余暇のために使用 されることよ りして, 「
文化経済」 kul
t
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9
5
Wi
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t
s
c
ha
f
tと呼ばれ うる。
(
Ⅱ)資本主義経済体制に関 しては, とくに,以下の論述が注 目され うる。H
資本主義体制 と国家 との関連性について,現代の経済生活を 自由放任的 で個人
主義的な形態 とみなす ことは問題であ り,資本主義経済は, 「私的企業 と有能
で公正な統治に よってい となまれている」のであって,H・Ri
t
s
c
hlのい う 「
二
9
6
重経済」dua
l
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heWi
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s
c
ha
f
tとして定義 されねばならない。目 したが って,
現実の資本主義は,私的企業部門の発展のための市場的要素 と公共部門の計画
的要素 との複合態か ら成立 してお り,前者の要素 と後者の要素 との 「極大一極
小一状態」 として とらえ られ うる抽象化された理念型 として の 「
純粋資本主
91 "Wi
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4.
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4.
20
第 147巻
第
5 号
義」は 「
極大資本主義」"Ma
xi
mal
ka
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i
s
mus
" と, また,二 重 経 済 の な か
で多 くの蓄積を成就するための公共部門の方-の重点の新 しい 移 行 過 程 は,
9
7
「最高限的資本主義」 "Ma
xi
mal
Kapi
t
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l
i
s
mus
" と,呼び うる。白資本主義の
「動機 と衝動」に関 して, ウェーバーのい う禁欲的 プロテスタソティズの 「
倫
理」の基本的意義が評価され うるが,資本主義経済の無限の利潤追求性を解明
す るためには, プロテスタンティズムの背後に潜在化 して い た 「
勢 力 動 機」
9
8
Mac
ht
mot
i
veの台頭的作用が考え られねばな らない。囲資本主 義 経 済 体 制 の
「制度」に関 して,第-に, 「
私有財産制」 とその発展形態 としての株式会社
が考察の対象 とな り,後者は生産の意志決定に関する勢力の集中化の問題 とし
9
9
て検討され うるが,当面の課題 としてとくに とりあげ られ るのは, 「市場」に
1
0
0
ついての以下の議論である。 1)市場の社会的中立性 刷市場は 「なんらかの
程度の私有財産を通 じて定義 され うる」資本主義の構造の 「
論理的完成物」で
あ り,私有財産制は,そこにおいて 「
所有者 またはその代理者が生産に必要な
もののすべてを結合す る決意を行ない,投資を上廻る収益を取得する諸生産単
nne
r
e Ve
r
f
as
s
ung を特色づけている」が,市場は, 「
無数の諸
位の内的態制 i
産業からなる独立的に行動す る諸生産単位を一つの閑達 し合った全体に編入す
る課題をもっている」 (
B
)「市場 と資本主義 とは同一視 しえない」のであって,
そのことは, 「
市場社会主義」においてもみ とめ られ うるのであ り,市場の前
提 となっているのは, 「有効な個別的諸利害をつ くり出すために充分に有効な
分権化」である。(
C)
自由と秩序の均衡 と融合のために,実際において, 「
生活
の静態的側面が均衡 させ られる」「市場」 と,「
生活の動態的側面」をもとめる
「意識的規制」である 「計画化」 との間の機能的分化が,必然的 とな り, 「
個
別的経営の態制 と全体的過程のなかで甲その整序の方法 との間のさまざまの可
9
7 a.a.
0.
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02.
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,SS.94-1
00・野間
俊威著 『
増補 経済体制諭序説』
,有斐閣,昭和41
年,63-68ページ。
99 So
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,SS.1
02- 1
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1
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2′
-1
1
7.
自由市場経済体制の存立と変容における社会的要因
2
1
能的な組合わせ」は,つ ぎの ように表示 され うる。
1)
と(Ⅱ)(
2)
の形態は,理論的極限型であ り,現実には存在
このなかで, (Ⅰ)(
しえない。そ して, この ような考察の成果は 「
市場の社会的に中立で純粋に枝
術的な機能」である。
旺)
)
市場は 「変更 され る政治的諸決定に対 してのみな ら
ず,社会における自主的運動に対 しても従属 してい る」のであ り, 「計画化は
人間を通 じての規制である」が, 「市場は無定形で非人格的で純粋に機械的な
1
0
1
規制」 であるにす ぎない。 2
)
市場 の技術的職務 と限界 市場は 自由競争に よ
る価格機構 と結びつ く場合に もっとも有効な作用を示す といい うるが, この場
合の市場 のはた らきについて も, と くに 自由放任競争の資本主義体制において
は,つ ぎの ような限界がみ とめ られ うる。 まず,市場データーは 「
短期間に対
す る信頼すべ き指針」 であるとみ られてお り,将来についての重要な決定の作
用が大になるほど市場 データーに解 ることは少な くな り, この ことが長期的投
資におけ る投機の問題 と関係 してい る。そ して,一般に,投資 と収益お よび供
給量 と需要量 との間のバ ランスについての 「
不確実性」の問題が市場機構の限
界を示 してお り, 「自由市場のみが もた らしうるもの より以上の倍額すべ き長
1
0
2
1
0
3
期的な指導」が要請 され る。 3)競争 と独 占 資本主義的市場におけ る 「
競争
と独 占との間の弁証法的関係」について,つ ぎの事柄が指摘 され うる。経済体
1
01a.a.0.
,S.11
6.
1
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2α.α
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,SS.11
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-1
25.
1
0
3a.a.
0.
,SS.1
25-1
38.
2
2
第 147巻
第
5 号
A
制の歴史的な動態に対 して,L)「完全競争の市場概念がつ くり出す的確な印象
純粋で完全な市
は経済体制の理解に対す るその概念の無意義 隆」であるが, 「
場の理論は,静態的であって,無時間的である」
。 (
B)
この ような静態的競争に
ついての理論は,小規模経営の所有者たちの自己責任の心理的な力に よって支
配 されていて技術が未発展の初期の資本主義を叙述す るものではあるが,やが
て支配的となった大規模技術は 「競争の性格を静態か ら動態- と変化させ」
,
多数の小単位における自己責任の心理的な力は大会社における資本の枝術的な
カに よって打ち負され るにいた り,「動態的競争は独 占-の途」 とな り,「
独占
に対する代替物は,競争ではな くて,無投資である」 といい うる,
(
Ⅳ)「資本主義に対す る反抗 Revol
t
e
」について, とくに資本主義体制にお
ける問題に関 して以下の論述が展開されている。
H 「
経済体制」一般に対す る反抗についてつぎの基本的な原則が考慮 されて
1
0
4
いる。 1
)
「全体的 ・統合的社会体制」は 「
文化経済のために重圧的な代価を支
払ったのであ り,その暗い側面は根本的な窮乏であった」が, 「
経済体制」は,
「
財貨稀少性の除去 とい う目的 と結果に近づいた」が,「
社会の生活に対す る明
白な関係の欠如」が暗い側面 といえる。すなわち, 「
人間は大小の諸集団のな
かで生 きて働いてお り,その 自発的な諸行動 と相互作用を社会 と呼ぶ」ならば,
「
経済体制」においては, 「
社会が経済的支配のもとにある」 ことが 「その暗
い面を通 じての経済体制の完成化である」 と, さらには 「社会の生活に対す る
経済的統制を通 じて自発的な諸行為は経済的試鎌 と評価に従属 させ られ る」 と,
とくに労働に関 して, 「
全体的 ・統合的社会体制」では,文化的,社会的生活
である人間的労働が主軸であったのに対 して,いまや,「労働市場が労働者各
人の人格的 または社会的な責任の外部にある純統計的な供給 と需要の大 きさを
「労働は,他
支配することに よって無定形市場の主軸 となった」 と, あるいは,
の諸事物のなかの事物 として物化されていて "ve
r
di
ngl
i
c
ht
"人間的ではな くな
っている」 といい うるのである。 2) 「経済体制」においては,「賃金が ます ま
1
0
4a.a.0.
,SS.1
40-1
46.
自由市場経済体制の存立 と変容における社会的要因
23
す悲惨な状態になっているときに,余剰はます ます大 とな り,拡大はますます
速度をすすめ,--・
ひ とが社会 と文化を ます ます飢えさせてゆ くときに,ます
ます将来は富裕 とな る」。 日社会改革 と社会主義の理論 として,つぎの ように
1
0
5
主張 され る。 1)窮乏に対する闘いである不断の拡張運動が窮乏を減退 させ る
に至った時点においては, 「人間における人間的なもの-の要求」の 目標-向
っての行進は譲歩に よってお くれてはいるが断絶されていないのであ り, 「代
替的なものをあとに残す ことな く,資本主義は改革 され るか没落させ られるか
のいづれかである」が, これが 「
社会改革の理論」 となる。 2)「社会改革は
資本主義を萎縮 と爆発 との奴生子的危枚か ら救った」のである。 3
)「社会の
保持に対す る責任を もっている諸事象は--ます ます熱意を もって資本主義の
救済のために国家投資の原則を正当化 してゆ く」のである。
4)以上のことは
弁証法であ り, 「資本主義はつねに くり返 してその基本的主義 に 反 して い た
(
国家の)方策を賞著 しまたは導入せねばな らなかった」のであ り,改革は現
実に資本主義を改革 した ことに よって救ったのであるが, 「
社会改革は,圧迫
が危険な程度に到達す るとき,譲歩に譲歩をつづけ改革を重ねてゆ く」のであ
り, この ような改革の くり返 しの続行に したがって, 「
資本主義は全 く崩壊 し
てゆ くためではな くて,改革 されてゆ くために,みずからを改 革 す る の で あ
。
る」
5
)
「この弁証法の衝動力は,資本主義の禁欲的な非人間性に対す る激動
としての社会主義である」が, 「資本主義は改革が成長す る程度に応 じて減退
)
「
社会主義は資本主義に
してゆ き,暴動の狂乱は減退 してゆ く」のである。 6
とっての対照物であ り,その場合に前者は後者に,枝術的生産性 とい う殿堂の
外部に人間的尊厳性に領域を譲渡す るように強行させ,人間的尊厳性を代償 と
した生産性はか くして排除される」のである。改革 された体制 と資本主義 との
問題の総括的結論 としての重要な点 として 「資本主義を,経済的観点か ら,理
論的意味における市場経済 として,定義ずけるな らば」
, われわれに とってこ
の ような研究は役に立たないのであ り, 「
資本主義においてほなんら社会的閑
1
05a.a.0.
,SS.1
4
6-2
26.
24
第 147巻
第
5 号
係はな くて,単に市場的関係があるのみであるが, デモ クラシ-においては社
会的諸関係が, まさに社会における諸集団問の関係であ り,すなわち,それ ら
の諸関係は公開的な ものであ り私的なものではない」 と, さらには, この よう
な体制は,社会主義 と呼ぶ ことは提案 されないで,社会改革 と呼ばれてきて,
それを 「
社会主義の真の弁証法的成果 としてみ とめてきた」のであ り, 「デモ
クラシーはその力を産業を こえて洞察 と正当性を もって利用す るのに充分に警
1
0
6
戒的で明敏的であるだ ろ うか」 と,主張 され うる。
(
Ⅴ) 「
経済体制」の崩壊 と 「
全体的 ・統合的社会体制」-の動向について,
とくに,つ ぎの よ うな独 自の議論が展開 されてい る。H経済的余剰の無限の追
求を 目指 した余剰の物的生産のための再投資の続行に よ り,文化的,道徳的な
人間生活を犠牲にす る 「
経済体制」の矛盾は,資本主義体制のみな らず コ ミュ
1
0
7
ニズム体制においても指摘 され うる。目 「
思考転換 と再建」の題題について,
8
1
0
以下の ように主張 され るo1
)「全体的 ・統合的社会体制-の,すなわち,新 し
い文化経済-の途上にある」 とい う結論的叙述を, 「
生産の改造」におけ る計
画的指導の予知についてみ るとき, 「
経済体制」の終末期にみ られ る諸弊害の
検討をふまえた うえで, 「商業的生産か ら文化的生産への,すなわち,多大の
物質的財-の需要か ら多大の文化的財-の需要への転向が,それが論理的であ
るがゆえに主張 され る」のであ り, 「
文化経済-の再帰はむ しろもっぱ ら,文
化的お よび社会的に信頼 され る社会が欠乏を深刻に 自覚 して,与え られた技術
的必然性の内部で改良 され うるものをその成員に責任を もって引 き うけ させ て
改善 してゆ くように心を配 って努力させ るようにす ることを,意味 している」
とともに,_「人間労働 の墓碑 の うえに新 しい希望を植えつけ ることは重大な業
績 となる」のであ り, 「それは dasgut
eLe
be
n に基づいた希望 となる」 と,
また 「この ことは, それが合理的であるがゆえに,論理的である」 といい うる
1
06a.a.0.
,S.211
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自由市場経済体制の存立 と変容における社会的要因
2
5
が, この人間精神ゐ改革の可能性の歴史的事実 として, 「
西欧世界は1
5
0
0
年代
よりキ リス ト教的伝統が成長 してきてい る」 ことが顧みられ, 「人類のあらゆ
る偉大な伝統のなかでキ リス ト教的伝統においてのみ,人間の生活は木裏 と歴
史において宗教的威厳 としたがって宗教的責任か らなる事柄 となるのであ り,
人間の最高の天分は人間を正当化す るように要請 されている」のである。
(i
i
) 諸批判点の検討
以上の-イマンの学説をめ ぐって,筆者の問題 としている 「自由経済組織」
と 「自由市場組織」 との関連性における 「自由市場経済体制」の変動傾向の議
論に中心点をおいて, とくに問題 とな りうる以下の諸点について,検討をここ
ろみることにす る。
(Ⅰ)まず, 「
経済体制」の概念内容について,注 目される事柄 として指摘 さ
れ うるのは,-イマンのい う 「
経済体制」の概念内容が,われわれの見解 と,
とくにつ ぎの二点で相違 しているとい うことである。Hわれわれのい う 「
経済
体制」には,㈱前近代社会に特徴的な非合理的社会構造を前提 としている 「
非
合理的経済体制」 と,(
B)
近代社会に特有の合理的社会構造に基づいている 「
合
1
0
9
B)
の 「
合
理的経済体制」 とが含まれ うるが,-イマンのい う 「
経済体制」は,(
理的経済経済体制」に限定 されている。目われわれは,経済生活におけ る諸個
人の自由の促進 と抑圧 とい うことを中心的基準 とし, さらには,経済体制にお
ける 「余剰追求的生産」
,「自律性」
,「合理性」な どの実質内容に関 して,資本
1
1
0
主義経済体制 とコ ミュニズム経済体制 とを峻別す るが,-イマンにおいては,
コ ミュニズム経済体制 も,資本主義経済体制 とともに, 「経済体制」に含ませ
られている。
(Ⅱ)資本主義経済体制の特色についての-イマンの議論を, 自由市場経済体
制の問題に焦点をおいて, とくに問題 となる諸点を,吟味 してみ よう。‖資本
1
0
9拙稿 「
経済体制 と階級構造」
,7
0-7
3(
拙著 『現代資本主義 と階顔』
,7
2-7
4ページ),「
合理的経
済体制における国家 と階級」
,29
-3
2ページo
ll
O拙稿 「
社会主義 と階級」(
拙著 『新訂 社会科学概論』
),1
1
7
-1
3
0ページ,「
計画経済体制 と勢力
0-3
2ページ,「
合理的経済体制における国家 と階級」,3
8ページ。
構造」,3
26
第 147巻
第
5 号
主義経済体制における市場的要素 と計画的要素 との関連性については,1)基本
型 の資本主義経済体制において,計画的要素は単なる前提的要素であって,経
済過程におけ る間接的 ・潜在的要因 として作用 している段階か ら,2)発展型の
資本主義経済体制において,計画的要素が, さらに,経済過程に直接的 ・顧在
1
1
1
的要因 として介入 してい る段階-の変動が,資本主義経済体制の根本的な変質
1
1
2
傾 向 と本質的に結びついてい ることが考慮 されねばな らない。目資本主義経済
勢力動機」が着 目されていることは適正な見方で
の利潤追求の動因 として,「
あるが, この 「
勢力動梯」に よる無限の利潤追求性を プロテスタンティズムの
禁欲的倫理に結びつけて説 明す ることには問題があ り,資本主義経済体制の前
提 となる 「
社会構造」において残存 している非合理的な無限の拡大性を本質 と
す る対人的優越意欲 としての 「力の欲望」の経済的利益の無限の追求 とい う形
1
1
3
での作用 として理解す ることが顧み られねばな らない。E)
資本主義経済体制の
「制度」に関 して,私有財産制をその基本的事象 として,株式会社をその発展
として と りあげ,後者が生産の意志決定に関す る勢力の集中化の問題 として議
論 されているが,筆者は,企業の生産の成果を決定す る職能である,私有財産
の提供か らなってい る資本を運用 して生産の意志決定 と執行を担当す る 「
企業
者職能」の所有者お よび行使者が,株式会社の発展に伴 う 「
所 有 と経 営 の 分
離」の進行に よって,少数の資本家 よ り比較的多数の非資本家的経営層に移行
す るところに,資本主義経済体制 と結びついた階級的勢力の本質的要素の変化
1
1
4
と分散化の傾 向の一大要因をみ とめ るのである。囲 もっ とも問 題 とな る 「市
場」の議論をめ ぐって,つ ぎの諸問題点が指摘 され うる。1)市場を, 「社会的
1
1
1拙稿 「
経済体制における国家の位置」
, 国民経済雑誌第 1
26巻第 1号,昭和4
7
年 7月,1
0-1
1ペ
ージ,1
5-1
7
ページ (
拙著 『現代資本主義 と階級』,8
2-83ペ-ジ,8
5
-8
8
ペ ージ)0
1
1
2拙稿 「
企業組織 と階級的勢力」,5
9-71
ペ ージ (同上拙著,9
9-1
1
0ページ)0
1
1
3高田保馬 「
資本主義の社会学的考察」(
『国家 と階級』,岩波書店,昭和 9年),2
0
2-2
0
4ページ。
拙稿 「
営利原則 と経済体制」
,同上誌第1
35巻第 6号,昭和5
2年 6月,21
-2
9ページ0
1
1
4拙著 『階級構造の基蕗理論』, 255-256ペ-㌔,拙稿 「
企業組織 と階級的勢力」, 7
5-8
3ページ
1
2-11
9ページ).「
資本主義体制の変質 と非経済的勢力」,6
0-7
3
(
拙著 『現代資本主義 と階級』,1
ページ,「
資本主義経済体制における自由と政治権力」
,1
7-29ページ。
自由市場経済体制の存立 と変容における社会的要因
27
に中立的」であ り, そ こにおいて生ず る 「自生的運動に従属」 していて,
「無定
形 で非人格的で純粋に機械的な規制」 として とらえている点は納得 され うるが,
この よ うな意味での市場が資本主義経済体制 と結びつ くときに, この経済体制
に特有の傾 向の発展に対 して,積極的作用をい となんでいることを否定 しえな
い。す なわち,資本主義経済体制 とくにその基本型に特有の 「自由競争市場」
は,結果的にみて,企業の無限の利潤追求を放任 し,資本家を中心 とす る階級
的上位者 の私的所得お よび私有財産の累積的増大を もた らし,万人に対 して機
会均等的な充分な意味での 自由競争に対す る阻止的作用をい となむ ことにな る。
2)競争 と独 占の問題に関 して,競争を静態的無投資状感 として,独 占を動態的
投資状態 として とらえることに対 してほ,㈱動態的投資は,発生的には, 自由
競争市場を基盤 として発展す るものであることと, (
B働 態的 投 資 の 主 体 が,
(
bl) 革新的生産方法を遂行す る個人的企業者の場合 と, (
b2) 官僚制化 してゆ
く大規模企業の場 合 とに区別 され, (
b2)の場合において,競争 と対立す る独 占
の事態が生ず るこ とが,指摘 され うる。匡)
資本主義経済体制の 「
基本型」か ら
1
1
5
「発展型」 または 「変質型」-の変動傾向が実現 してお り, この懐向に対応 し
て, 「自由経済組織」の拡大 と 「自由市場組織」の国家の統制を中心 とす る制
約性の増大 と結びついた変容が考えられ るが, -イマ ン学説においては, この
点の考察が体系的 ではない。
(
Ⅲ)社会改革の基本的動因が,「経済体制」の物質的余剰の拡大的生産に よ
って犠牲に されてい る社会の人間的 ・文化的生活の快復に もとめ られてい るが,
この議論に対 して も,以下の批判点をみ とめざるをえない。H社会改革 の推進
的主体お よびその基本的動機についての追求が充分でな く,つ ぎの諸点が問題
七な る。1)-イマ ソも述べてい るように,社会改革の中心的主体 となるのは,
国家であるが, 国家の改革政策を背景で動か してい る階級あるいは諸利害団体
6
1
1
のあ り方の考察が必要 となる。2)改革の主体の動機が,人間的 ・文化的生活1
1
5拙稿 「
企業組織 と階級的勢力」
,59-71ページ (
同上拙著,9
9
-11
9ページ),「
資本主義体制の変
7
-73ページ。
質 と非経済的勢力」,6
1
1
6拙稿 「
経済体制における国家の位置」
,1
7-1
8ページ (
前掲拙著,8
6
-8
9ページ), 「
福祉国家の
2
8
第 147巻
第
5 号
の要求 とい う高次の理性的次元 で とらえ られていて,びついてい る とも解釈 しうるが-
実践当為 の問題 と結
この点について,資本主義経済体制の変動
あるいは更新を 「非意図的」お よび 「意図的」に, また漸進的 または急進的に,
実現 してい る階級 の上位者お よび下位者の対人的優越意欲 と して の 「力 の 欲
望」の充足に基づいた社会的勢力の獲得,維持, 拡大のた めの諸行為に よって
1
1
7
説 明 しようとす る私見 とは異なってお り, ひ とび との社会的交渉におけ る 「対
人的」動磯 の最根底をな してい る非合理的意識 と くに力の欲望についての追究
がな されていない。 この点は, -イマ ンが,資本主義経済 の無限の利潤追求の
「動機 と衝動」を, プ ロテス タンティズムの宗教的倫理 との結びつ きにおいて,
「
勢力動梯」 の面 よ り説 明 してい ることと関連づけて再検討 されねばな らない。
)
目 「
全体的 ・統合的社会体制」の形成についてい くつか の疑問点が生ず る。1
筆者の解釈に よると, 「文化経済」は,㈱社会保障や社会福祉のための公共的
経済へ向け られ るもの と,刷教育,芸術,宗教,道徳 な どの精神文化の向上に
向け られ るもの とを含んでい るとみ られ うるが, -イマ ンに お い て ほ, こ の
)
-イマ ンは,
「
社会」を,
「
統
「
文化経済」 の内容が 明確に示 されていない。2
治的お よび経済的な諸機能におけ るひ とび とを含めて, あ らゆ る成員に とって
自然的な ものにな る共 同の道徳的信念を伴 ってい る人間の 自発的連結 と恒常的
1
1
8
な結束」 と, また,既述 した よ うに,大小の諸集 団のなかで生 きて働 いてい る
1
1
9
人間の 「自発的な諸行動 と相互作用」 と,呼んでい るが, この よ うな意味での
「
社会」に よって統合 された社会体制については, 以下の根本的な問題点が提
示 され うる。仏に の よ うな社会体制 と現代の社会生活におけ る合理性 の高度の
発展段階 と結びついてい る筆者のい う固有 の対人的現象 としての 「
純粋型 の合
社会的基礎」,398-400ページ。
11
7拙著 『
階級構造の基礎理論』,273-285ペ-ジ,拙稿
「
体制的変動要因における社会的要因」
,秤
資本主義経済体制の変動における主体的要田
戸大学経済学研究年報5,昭和33年, 261ページ, 「
- 階級論的一考察- 」(
経済社会学会編 『
経済体制と自由』
,経済社会学会年報 ・I,新評論,
昭和51
年)
,1
8-86ページ。
11
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11
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,S.1
40.
自由市場経済体制の存立 と変容における社会的要因
29
1
2
0
B
)「
全体的 ・統合的社会体
理的社会構造」 との対比が考えられねばならない。 (
制」における諸種の非経済的現象か ら制約 された状態での新 しい形態の 「自由
市場体制」のあ り方の論究が要請 され る。3)根本的な問題 として,-イマ ンに
おいては 「
全体的 ・統合的社会体制」の成立が,客観的法則 としてよりも,辛
リス ト教への信仰を主軸 とした,実践的当為において主張 されていることを否
定 しえないであろ う。
Ⅰ
Ⅴ 計 画 経済 体 制 と自由市 場経 済体 制 との関連 性 につ いて の一 試 論
国家を中核的主体 とす る公共団体の中央計画に よってすべての経済組織お よ
び経済主体の活動に対 してなんらかの程度 と意味での統制 または干渉が加えら
1
2
1
れてい る経済体制を, 「計画経済体制」 として とらえるとき,それは,定型的
にみて,(
1
)
中央集権的な計画の命令体系に よる総合経済過程の全面的統制を企
図 していて,各経済組織お よび諸個人の主体的で自主体的な判断に基づいた経
済的行為の実現の余地は極小状態である 「強制計画経済体制」 と,(
2)
市場にお
ける価格機構を通 じての自由競争に よっては適正な解決が困難である経済生活
の基本的構造 (
各産業部分への資源の配分,労働時間の基準の制定,産業につ
いての公営部門 と民営部門 との決定,公共財の支給についての種類お よび量の
決定--な ど)については,中央計画に よる統制を不可欠的要件 としているが,
それ以外の分野においては,各経済主体の主体的で自主的な活動の実現の機会
をできるだけ大忙 し,価格放横を通 じての自由競争を最大限活用することを 目
1
2
2
標 とした 「自由 (
読争)計画経済体制」 とに区別され うる。
われわれが問題 とす るのは, 「自由計画経済体制」 と充分な意味での自由競
争の発展 と結びついた 「自由市場経済体制」のあ り方であ り,今後開拓され る
1
2
0拙稿 「
合理的経済体制における国家 と階級」,21
-28ページ,「
共益経済の社会的基礎」1
0-1
5ペ
ージ,「
福祉国家の社会的基礎」,4
01
-4
06ペ-ジ。
1
21拙稿 「
計画経済体制と勢力構造」,28-3
0ページ.
1
2
2北野熊蕃男 『社会主義 と近代経済理論』, ミネルヴァ書房,昭和3
6年,第 7章,1
8
2-1
8
8ページO
拙稿,「
社会主義 と階級」,1
2
2-1
24ページ,「
計画経済体制と勢力構造」,3
0
-3
1べ-ジO
3
0
第 147巻
第
5 号
べ きい くつかの問題点を,すでに と りあげた諸学説の批判的検討をふ まえて,
指摘 してお くことにす る。(
1
)
「自由計画経済体制」においては,社会生活にお
いて,経済生活がほん らいの手段的位置を 占めていて,広義の精神文化が優越
1
2
3
的位置にある。 (
2)
可能的多数のひ とび との主体的 ・自主的判断に よる諸物財調
達行為が行われ るための 「自由経済組織」の発達がみ られ, とくに,ひ とび と
の才能,学識,職能を活用 した物化 されがたい主体的 ・能動的職能に よる,換
言すれば,物化 された商品 としての労働 との交換以外の要因に よる所得形成の
過程が増大 して くる。(
3
)「自由市場組織」においては,物化 された労働 として
の商品の占め る割合は減退 し,ほん らいの財が交換の中心的分野を占め るよう
4)
ここでい う 「自由競争組織」お よび 「自由市場組織」は,国家その
になる。(
他の諸現象か らの拘束を うけずに 自律的に放任 され成立す るものではな く,そ
れ らの成立については,つ ぎの事柄 の考察が重要な意義 を も っ て く る。 (i)
「計画経済化の本質的問題は,同時に人間における自由の高 ま りを意味 してい
1
2
4
る」 ことよ りして, ここでい う自由は,計画化 された 自由であ り,計画の中心
的主体は,国家にはかな らないが, この点について,つ ぎの検討が必要である。
(I)この場合の国家は,高度に民主化 された ものであ り,その政治的統制力に
おいても, 「直接的 ・強制的」要素 よ りも, 「間接的 ・誘導的」要素が中心的
1
2
5
要素 となってい る。 (Ⅱ)経済生活における自 由 は,教 育,道 徳,芸 術,宗 教
--な どの諸文化現象 との密接な関連性にあることが必要であ り, これ らの諸
現象の育成お よび発展のための諸団体が, 国家の政治的統制力に対す る干渉力
1
2
6
を増大させてい る. (
i
i
)以上の ような意味での 「自由計画経済体制」は 「純粋
1
2
7
型の合理的社会構造」を前提 として成立 してお り,ひ とび との社会的勢力の相
1
2
3拙稿 「
経済優位時代を超えて」(
拙著 『新訂 社会科学概論』,第 3茸第 6節)0
1
2
4北野熊善男 「
経済における自由と計画」(
『経済体制 と自由』
),6
9
ページ。
1
2
5拙稿 「
経済体制における国家の位置」
,1
5
-1
8
ページ (
拙著 『現代資本主義 と階級』
,1
8
5
-1
8
6
ペ
-ジ)
,「合理的経済体制における国家 と階級」,35-37ページ0
1
2
6拙稿 「
福祉国家の社会的基礎」
,3
9
8
-4
0
0
ペ-ジ。
1
2
7拙稿 「
合理的経済体制における国家と階級 」
,3
7
-3
8
ページ,
「
福祉国家の社会的基礎」
,4
0
3
-4
0
6
ペ - ジO
自由市場経済体制の存立 と変容における社会的要因
3
1
達に よって区分 され る 「
勢力構造」においては, 「階級構造」的性格に代って,
1
2
8
しだいに, 「指導構造」的性格が増大 してい る。
ミ-ゼス-
ハイエ ク-
7.
)- ドマ ンの系譜の 自由競争市場体制擁護論者
が計画経済体制におけ る市場競争的要素の成立の不可能性を主張 してい るよう
に, 自由競争的要素 と計画的要素 との適切な関連づけほ, きわめて困難な課題
ではあるが,今後の新 しい経済体制を考える うえで, この二つの要素の接合性
は不可避的慣 向にあるのであ り, この小論では,その客観的実現性を論究す る
うえでの基本的な諸問題点の提起を こころみたのにす ぎないのである。
1
2
8拙著 『階級構造の基礎理論』, 63-6
4ページ,286-29
2べ-ジ,拙稿 「
合理的経済体制における
,27-28ペ-ジ,「
福祉国家の社会的基礎 」
,4
01
-40
3ページo
国家 と階叔」
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