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PDF-388kb - 多文化多世代交差世界の政治社会秩序形成

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PDF-388kb - 多文化多世代交差世界の政治社会秩序形成
Center for
Civil Society with
Comparative Perspective
多文化市民意識研究センター 多文化市民意識データ・アーカイヴ
慶應義塾大学21世紀COEプログラム
No.4
多文化多世代交差世界の政治社会秩序形成
−
−多文化世界における市民意識の動態−
−
Contents
第2回国際シンポジウム・基調講演
薬師寺泰蔵
2
ご挨拶 黒田昌裕 小林良彰 森征一 三井宏隆 関根政美 3
各セッションの報告
5
日本政治社会学会第2回大会・
平成16年度院生研究報告会・各セッションの報告
12
各ユニットの活動報告・研究者一覧・編集後記
15
第2回国際シンポジウム
基調講演
「21世紀の日本の科学技術の中で
政治学に求められているもの」
内閣府総合科学技術会議議員・慶應義塾大学客員教授
薬師寺泰蔵
本日は、21世紀の日本の科学技術の中で政治学に求め
た。そこでの経験等を踏まえますと、自然科学者と人文
られているものは一体何かということでお話しいたします
社会学者が手を携えなければ、日本の科学技術は前進し
が、まずは、総合科学技術会議を簡単に紹介します。総
ないというのが私の見方です。科学というのは自然あるい
合科学技術会議は内閣府に設置されています。総合科学
は宇宙にあって、それを自然科学者に任せて、我々人文
技術会議の前身は旧科学技術庁に設置されていました科
社会科学者はその便益を享受するという時代は終わりつ
学技術会議です。その科学技術会議が、橋本総理による
つあります。科学技術は、政治プロセスの側面があるので
行政改革によって、現在の姿となりました。会議は8名の
す。また、科学技術に対して国民の期待が低いことも問
有識者により構成され、月1回の本会議には総理大臣、財
題です。内閣府の調査によれば、国民のわずか15%ほど
務大臣、文部科学大臣、経済産業大臣、官房長官が出席
しか科学技術に興味を示していません。科学技術が社会
します。会議では、科学技術基本計画を策定しています。
に根付かなければ、我々がいかにそれを推進しようにも限
科学技術基本計画は5ヵ年計画で、既に第1期(1996年∼
界があります。第3期の科学技術基本計画では、その点に
2000年)を経て、第2期が2001年から始まっており、2005
も取り組んでいきます。
年に終了予定です。現在は、2006年から開始する第3期科
学技術基本計画を作成中です。
最後に、科学技術発展への課題を申し上げます。まず、
研究費をいかに適正に増やしていくかです。特に、現在は
この総合科学技術会議のメンバーの中で、私が唯一の
若手の研究者が研究費を獲得するのが厳しい状況にあり
人文社会科学分野の出身者です。科学技術というと、ど
ます。ただし、その際には単に研究予算を増やすというの
うも日本では自然科学のイメージが強く、人文社会科学
ではなく、研究システムに競争的な環境をつくっていかな
は考慮されていません。これまでの科学技術基本計画に
ければなりません。年配の研究者でも若手の研究者でも優
も人文社会科学は明示的に含まれてきませんでした。し
秀な研究であれば研究費が獲得できるシステムをつくって
かし、総合科学技術会議のメンバーは、科学技術のなか
いく必要があります。もう一点は国立大学の改革に関係
に人文社会科学をきちんと含めるべきとの認識を有してお
します。国立大学が独立行政法人になったといっても、そ
ります。第3期の科学技術基本計画では人文社会科学分
の経営手腕はまだまだ発展途上です。しかし、いずれはそ
野の研究が日本および世界にとり重要であることを強調
の旧国立大学も経営手法を学び、私立大学と肩を並べる
すべきとの議論がなされています。
ようになるでしょう。そうなると、私は、「知の競争」と
例えば、この慶應義塾大学21COE-CCC「多文化世界
いう状況が生じてくると考えています。この「知の競争」
における市民意識の動態」プログラムは、データを重視す
の状況下では、大学単位での競争ではなく、研究単位で
ることに特色をもつ研究プログラムであり、人文社会科学
の競争となる。つまり、所属大学ではなく研究分野をベー
者はあまりデータを重視しないことから科学的でないと誤
スにして、海外を含むさまざまな大学出身の研究者が集
解する人がいます。そこで、データをベースにした人文社
い、研究をおこなうという状況になると思います。このよ
会科学分野の研究が発展し、それが広く認知されれば、
うな状況は「知」の高度化に大変役に立つことでしょう。
人文社会科学者と自然科学者とが一緒に議論することも
その意味で、慶應義塾大学21COE-CCC「多文化世界にお
できるのようになるのではないかと期待しています。
ける市民意識の動態」プログラムにおいて、今後ますます
さらに、「科学技術は、社会的な受容がなければ存在し
研究者同士が協力し競争し、しかもそれが世界的な規模
ない」というのが、我々総合科学技術会議のメンバーの
でおこなわれるよう、私よりエールを送らせていただきた
立場です。私は、総合科学技術会議生命倫理専門調査会
いと思います。ご清聴ありがとうございました。
の会長として、ヒト胚およびクローン胚の問題を扱いまし
2
慶應義塾常任理事 黒田昌裕
21COE-CCCおよび国際シン
してフィリピンと中国に視察に行きました。そこでは、環境
ポジウムについて慶應義塾が何
を犠牲にしてでも貧困者の人権を守り、そのことを草の根デ
を考えているかということを申
モクラシーとして誇らしげに語るフィリピン政府の役人と、
し上げます。私は本COEプログ
貧困者を移住させてまでも、環境保全に努力していることを
ラムを立 ち上 げるにあたって、
誇らしげに語る中国政府の役人の姿が対照的だったのを記憶
大きな期待を持って申請いたし
しています。それはまさに市民の意識と政治体制の違いを認
ました。本プログラムの最大の
識 させられた機 会 でした。 その意 味 で、 慶 應 義 塾 大 学
目的は、20世紀後半から急速に進んだグローバリゼーション
21COE-CCC「多文化世界における市民意識の動態」プログ
の中で、市民意識に一体いかなる変化があって、それにふさ
ラムは、世界全体をカバーできるほどのさまざまな研究者が
わしい政治体制がいかにあるべきかを、21世紀の政治学の体
参加する大きなアーキテクトです。
系として確立することにあると考えています。私は、グロー
本プログラムが5年間続いた最後の年に、慶應義塾は創立
バリゼーションやITによって現代がどう変化するかに関して
150年を迎えます。慶應義塾にとっての課題は、創立150年と
興味を持ってみています。ITが導入され始めた20世紀後半
COE研究拠点形成の成果をいかに結びつけることができる
は、ITにより、お互いの情報が共有され、瞬時に地球の裏側
か、その結果として慶應義塾が世界に発信する学術の拠点と
の情勢を知ることができ、人々の意識がhomogeneous(等
なりうるかにあると考えております。また慶應義塾がそのよ
質的)となり、地球が一体化すると考えられていました。と
うな拠点となることが、文部科学省によるCOEプログラム全
ころが実際には、グローバル化によって、地域、民族、宗教
体の構想の実現となり、また社会の発展にとって大きな貢献
ごとに人々が異なった意識を持ち、むしろ交差し対立するよ
となる道ではないかと考えております。
うな関係が生まれています。私は、7,8年前に環境問題に関
慶應義塾大学大学院法学研究科教授・21COE-CCCプログラムリーダー
小林良彰
慶應義塾大学21COE-CCC
業を進めております。さらに本プログラムでは、若手研究者
「多文化世界における市民意識
の育成に大変力を入れていることを大きな特徴としておりま
の動態」プログラムリーダーと
いたしまして、まず本プログラム
す。
次に、今年度の事業結果に関して簡単にご報告いたしま
の趣意を簡潔に説明いたします。
す。日本と韓国では、全国規模の大規模な面接調査を行いま
まず、慶應義塾はグローバリ
した。その結果得られたデータは、欧米の調査機関によるデ
ゼーションが進展して多様な文
ータと同水準であり、欧米の調査機関と本研究拠点との間で
化が交錯する21世紀においてつくりあげるべき市民政治学と
データの相互交換を考えております。なお、日本と韓国の市
して、21COE-CCC「多文化世界における市民意識の動態」
民意識に関して現時点で明らかになっていることは、日本で
プログラムを位置づけております。また、慶應義塾は同プロ
は市民の政治への関心が非常に高いが信頼していない、韓国
グラムを慶應義塾国際戦略5年計画のコアプログラムと捉え
では市民はさらに政治への信頼が低く、国への誇りを感じる
ております。本プログラムの重要性は、政策エリート間だけ
ことも少ないといった発見がありました。また、日本市民の
では解決できない紛争等の問題について、市民レベルの意識
有効性感覚が低いことも大きな問題です。さらに日韓関係に
がいかに形成されているかを調査研究することにより和解を
関しては、両国の市民においてかなり改善してきているとい
考えることにあります。そこで、市民の意識も対象にした共
えます。これは、かつて対立した国同士がどうやっていくの
通のフレームワークで比較分析を行うという比較政治研究の
か、「赦しにしてしまうと記憶の忘却になる」、しかし「復讐
研究教育拠点をつくるとともに、調査の結果得られたデータ
にするとそれはいつまでも繰り返される」、そこで赦しと復讐
を随時蓄積してオープンなデータアーカイブをつくることを
の間でどのような解決方法にすれば国と国とがうまくやって
目的としております。
いけるのかという本プログラムの課題に結びつくことになり
なお、本プログラムでは、市民意識に関して日本と韓国で
ます。こうしたテーマについて、本日から始まる国際シンポ
はすでに調査を行い、ロシアでの調査を準備するとともに、
ジウムで各国の研究者と共に議論していきたいと思っており
オーストラリアや中東、アフリカでの調査を計画しています。
ます。ご清聴どうもありがとうございました。
また、データアーカイブについては、データをXML化する作
3
慶應義塾大学大学院法学研究科委員長
森征一
慶應義塾大学大学院法学研
例えば、ヨーロッパには、多文化の共存を認める共同体であ
究科では政治学と法学の研究者
る欧州連合(EU)が形成されつつあります。その中では、
が一体となって、社会における
1815年のウィーン会議で異なる国に分断された、ドイツのヘ
正義の実現と世界平和の構築に
ルツォゲンラート市とオランダのケルクラーデ市が、現在、合
貢献出来る人材の育成を願い、
併しようとしています。2つの町の市民は、欧州統合によっ
今日まで慶應義塾の創立者であ
て長い封印を解かれ、同一の市民であるとの意識を芽生えさ
る福澤先生に由来する市民に関
せています。このようにヨーロッパだけを見ても興味深い事
する研究を行ってまいりました。
実がありますから、本日より始まる国際シンポジウムのテー
つまり、本研究教育拠点のテーマである「多文化世界におけ
マは大きな広がりを持つと考えております。かつて福澤先生
る市民意識の動態」は、法学研究科がこれまで進めて来た研
が国の内外に向けて情報を発信する場として三田演説館を建
究の延長線上に位置づけられるものであります。
設しましたが、この国際シンポジウムの会場である東館はそ
また、本研究教育プログラムの重要な内容となる「多文化
の福澤先生の精神を現代に生かすべく建設されたものです。
共生のグローバル社会」というのは、並立・拡張する様々に
本シンポジウムの開催を機会に、活発に議論を戦わせ、ぜひ
異なる世界観を容認した上で、理解と対話の回路を作り上げ
この三田キャンパスを21世紀における世界に向けた情報の発
ていく地道な努力なくしては生まれないものだと思います。
信地としてふさわしいものにしていただきたいと思います。
慶應義塾大学大学院社会学研究科委員長
三井宏隆
慶應義塾大学大学院社会学
そもそも広い意味での社会学とは、「社会とは何か」を問
研究科は社会学、心理学、教育
い、その答えを見つけることを目指して研究を重ねてきまし
学の3専攻から構成されており、
たが、近年はより個別的、より実践的なテーマへとシフトし
そのうち社会学専攻が21COE-
ているような気がしております。しかし、本来の社会学的な
CCC「多文化世界における市民
見地からみて、それのみではどうしても社会学のエネルギー
意識の動態」プログラムに参加
が枯渇してしまうような気がしております。そうした中で、本
いたしております。本COEプロ
COEプログラムのように、文化と市民というキーワードを用
グラムには大学院法学研究科、
いて新たに社会的なるものを探求しようとすることは、社会
大学院社会学研究科、およびメディア・コミュニケーション
学の活性化と同時に社会学の再編成をうながすものと考えて
研究所の先生方ならびに他大学の先生方、さらには若手研究
おります。ぜひともこの2日間にわたる国際シンポジウムが実
者が参加しておりますが、これらの先生方の研究が第2回国
りあるものになるよう、また、社会学と政治学との連携をす
際シンポジウムに結実しましたことは誠に喜ばしいことと考
る大変よい機会としていただくよう願っております。
えております。
慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所長
関根政美
21COE-CCC第2回国際シンポ
今後の研究所の向かうべき方向や、あるいは改善方向など、
ジウム開催に際しまして、所長
朧気ながらにもみえてきたようです。本プロジェクトへの参
として、ご挨拶させて頂けると
加をご許可下さった小林良彰教授に深く感謝いたします。
いう栄誉を再び賜り、有難うご
さて、私は、企画委員として本国際シンポジウムの実行に
ざいます。本シンポジウムでは、
も関わってきましたので、まず、本プロジェクトに対する安
研究所から菅谷実教授と伊藤陽
西塾長、黒田常任理事他の皆様の大きなご支援、また研究
一教授のプロジェクトを中心と
支援センターなどをはじめとする関係事務部門の方々に感謝
するセッションが2つ設けられ、
の意を表したいと思います。さらに、本シンポジウムにご協
所長としては、多少なりともこの巨大な国際シンポジウムに
力頂いた登壇者の先生方、なかでも報告原稿をご提出頂いた
貢献できて嬉しく思っております。しかし正直申し上げます
報告者の皆様に深く感謝申し上げたいと思います。本年度中
と、21COE-CCCプロジェクトの巨大さと、その中での研究
の成果刊行を目指していることもあり、本国際シンポジウム
所の果たすべき責任の大きさを思うと、メディア・コミュニ
がそのための中間報告会ですので、ご無理申し上げましたこ
ケーション研究所の微力さを今更ながらに思い知った気がし
とを許し頂きたいと思います。では本シンポジウムの成功と、
ます。しかし、プロジェクトに参加したことにより、研究所
年度末成果刊行を目指して今日から頑張って頂きたいと思い
の「強み」と「弱み」の双方が理解できたようにも思います。
ます。ご清聴有難うございました。
4
各セッションの報告
市民意識比較分析セッション(I)
慶應義塾大学法学部教授
山本信人(司会者)
「途上国における市民社会像」
本セッションは、2人のゲストスピーカーを海外から招待
した。
まず、司会の山本信人・慶應義塾大学教授がセッション
Elites in Indonesia)のテーマのもと、1998年以降のポス
ト・スハルト期における民主化過程のなかでのNGO活動の
進展と後退が紹介された。NGO活動家と政党政治との乖離、
の趣旨説明をおこなった。市民社会像を論じるにあたり、中
NGOが民主化推進主体ではなくなった点、市民社会なる言
東と東南アジアの2つの地域・個別国家を選択した理由を述
葉自体が公共の言説から消滅しつつある点が指摘された。
べた。
報告に対しては、富田広士・慶應義塾大学教授と粕谷祐
エジプトのカイロ大学教授であるムスタファ・カメル・ア
子・慶應義塾大学専任講師が、それぞれ批判的・建設的な
ル・サイード氏の報告は、「中東における市民社会」(Civil
コメントを提示した。また、フロアーからも活発な質問・コ
Society in the Middle East)と題したものであった。氏の議
メントが出された。本セッションでの議論で、中東やインド
論は、中東におけるイスラーム的な市民社会論と西洋のそれ
ネシアでは、市民社会論が理論的・概念的に精緻化される
との比較と、中東的特殊性を紹介し、その後広範な中東諸
方向性ではなく、むしろ現実の政治社会状況において市民
国における市民社会の現状を手際よく類型化した。興味深
社会的な状況が着実に展開している事実が明確になった。な
いことに、中東における市民社会状況はイスラーム的要素に
お、本セッションの参加者はのべ40名ほどであった。
よって規定されるというよりも、各国ごとに異なる政治社会
状況が規定要因になっている事実が提示された。
つぎに、インドネシアのNGOである政策・コミュニティ開
発研究所(IPCOS)所長のヨハン・ムナヤン氏が報告した。
「弱体化する市民社会?─インドネシアにおけるNGOと政治
エリート」(Withering Civil Society?: NGOs and Political
メディア内容分析セッション(I)
慶應義塾大学メディア・
コミュニケーション研究所教授
菅谷 実(司会者)
「東アジアのメディア・コンテンツ─市場と制度の比較研究」
東アジアのメディア・コンテンツ市場の情報流通には新た
性を明らかにしたものである。第2の上原伸元・国際通信経
な動きが見られる。日本におけるいわゆる「韓流」ブームも
済研究所副主任研究員による報告のテーマは、「東アジア地
その源流は、韓国から中国に向けた放送番組の流れのなかに
域の多チャンネル化と有料放送市場」である。報告では、広
みられる。その流れは、東アジアの主要都市間において生じ
範かつ膨大な東アジアの有料放送市場におけるデータの収集
ている新たな現象である。すなわち、東京、ソウル、台北、
と整理をし、概要と現状を軸に横断的に各種の有料サービス
北京、上海、香港は共通した文化基盤、情報基盤をもちそ
が紹介された。
の間で多くのコンテンツ交流が生じつつある。
第3の飯塚留美・国際通信経済研究所上席研究員による報
「モジュール化」理論においては、モジュール間の開かれ
告は、報告者の韓国放送・通信事情についての永年の蓄積
た情報(デザイン・ルール)が確立されているならば、それ
と研究交流をベースに「韓国メディア市場における通信と放
ぞれのモジュール内の情報は「閉じられた情報」として取り
送の融合」というタイトルで、融合をキーワードとした内容
扱いが可能であると論じられている。東アジア圏をひとつの
である。特に、そこで強調されたのは「制度が技術やニーズ
情報発信拠点とみるならば、上記の6都市は圏域内に点在す
の進歩に積極的に追いつこうとしている」
、
「知的財産権輸出
るコンテンツ生産のモジュールであり、そのモジュールをつな
国となる国での転換点」である。最後の劉雪雁・国際通信経
ぐデザイン・ルールが構築されれば、圏域内ではそれぞれが
済研究所研究員による報告「中国放送業界の構造変化─上
閉じられた空間のなかでコンテンツ生産をおこなっていても、
海メディアグループの形成を中心に」では、上海メディアグ
圏域内の情報交流の障害にはならない。そのような観点から
ループの事例研究を核として、中国独自のメディア産業の発
みるならば、本研究は、東アジアのメディア・コンテンツ市
展経路が紹介された。今後、中国が「国際競争力を持つた
場における「デザイン・ルール」を探求しているといえる。
め」輸入阻止の方向に進むのか、または輸出促進に進むのか
さて、本セッションでは、以下の3つの報告とそれに対す
る1名の討論者からのコメントがあった。以下にその概要を
紹介する。
は注目に値する。
以上、3つの報告を踏まえて、討論者の
山下東子・明海大学教授は、そのような
第1の金山勉・上智大学助教授による報告は「アジアが発
各圏域でのコンテンツ生産活動の高まり
信する映像コンテンツの概観と比較検討」というテーマのも
はあるにしても、グローバルなレベル取引
とに、比較放送システム論の手法により、韓国、台湾、中国
からみるならば、対米取引と比較すると
のメディア・コンテンツから共通点や相違点を見出し、各地
圏域内の取引の割合はまだまだ少ないこ
域でのシビルガバナンスと異文化理解を探求するという方向
とを指摘された。
5
国際関係市民意識セッション
慶應義塾大学法学部専任講師
細谷雄一(司会者)
「EUにおける市民意識の動態」
国際関係市民意識セッションでは、EUの中で市民意識が
題は、いずれも市民社会に多大な影響を及ぼす重要な問題
現実の政治にどのような影響を与えているかを検討する3つ
である。それらへのEU(ECSC)の取り組みを視ることで、
の報告を行った。
従来の手法ではほとんど看過されてきた政治学における新し
まず最初に、和達容子・長崎大学助教授は「EU環境政策
い可能性を垣間見ることができた。この3つの報告に対して、
と市民参加」と題する報告の中で、1990年代以降のEUの環
討論者の鈴木一人・筑波大学専任講師が、斬新な質問をそ
境政策を概観し、市民生活に直接的な影響を及ぼす環境問
れぞれ提示して、活発が議論が展開された。本セッションで
題がどのように市民意識に浸透し、それが政策へと結びつい
は、約80名ほどの参加を得て、盛況な中で議論をすること
ているかを考察した。続いて、明田ゆかり・成蹊大学講師
ができた。
は、「EU通商政策ダイアログとEU市民社会の形成」と題す
る報告の中で、グローバルな貿易ガバナンスと市民社会がど
のような関連性を有しているかを、EUにおける市民との対
話プロセスである「市民社会ダイアログ(通商政策ダイアロ
グ)」に注目して検討した。最後に、鈴木均氏(欧州大学大
学院)の報告、「初の『欧州アクター』だったのか?─ドイ
ツ労働総同盟(DGB)の欧州統合理念および欧州石炭鉄鋼
共同体への参画過程」では、欧州統合史研究として、労働
組合という圧力集団がどのように統合の過程に影響を与え
たのかを検討した。
EUは、単なる主権国家間の国際機構ではなくて、市民の
声を吸収して、市民社会と緊密な関係を築こうと試みる1つ
のガバナンスである。以上の研究は、まだ十分に開拓されて
いないこの分野について多様なアプローチから光を当てる先
端的な試みであった。環境問題、貿易問題、そして労働問
戦前日本市民意識セッション
慶應義塾大学法学部教授
玉井 清(討論者)
「戦前日本における市民意識の動態」
当該戦前日本市民意識セッションにおいては、小島和
3名の発表の後、討論者である、伊藤隆・政策研究大学院
貴・中部学院大学専任講師と小川原正道・武蔵野短期大学
大学教授、玉井清・慶應義塾大学教授より、各発表者に対
助教授が明治期について、奥健太郎・平成国際大学講師が、
し質問やコメントが提示された。紙幅の関係上、その質疑応
昭和戦中期について各々研究発表を行った。小島、小川原
答の詳細については省略するが、各発表と市民意識との関
両氏の扱ったテーマは、明治期日本が近代化を進め、西欧
係を問う根本的な質問から、事例の位置づけについてコメン
列強から文明国家としての認知を受けるために行った施策で
トが出され、その各々について発表者が答え、当該セッショ
ある。
ンは終了した。
小島氏は、コレラに代表されるような伝染病の予防と対策
を担った内務省の衛生行政、とりわけ明治26年の地方官制
改革以降の衛生行政をめぐる行政過程を、内務省衛生局の
動向、地方衛生行政の動向、地方私立衛生会の活動などか
ら明らかにした。
小川原氏は、明治27年に締結された日英通商航海条約、
その実施を背景に現実化した「内地雑居」の問題と、それ
に伴うキリスト教対策に焦点を絞り、政府、とりわけ内務省
がこの問題をどのように捉え、対応策をどう練り、それをい
かに実施していったかを考察した。
奥氏は、昭和17年に実施された第21回衆議院議員総選挙、
いわゆる翼賛選挙に焦点を当て、その推薦候補選定過程を
めぐり生じた本部と地方支部と協調、対立の事例とその原
因に考察を加え、同選定過程の内実を明らかにした。
6
現代日本市民意識セッション(I)
増山幹高(司会者)
成蹊大学法学部教授
「現代日本における政治参加・社会参加の動態」
このセッションでは、「現代日本における政治参加・社会
最後に、金本亜弓氏からは、「韓国の自治体における政治
参加の動態」というテーマの下、河村和徳・東北大学助教
文化」と題するご報告を頂き、社会構造の変動が著しい韓
授、三船毅・愛知学泉大学助教授、ラ・イルキョン・明治
国において、「ニュー・ポリティカル・カルチャー」と呼ば
学院大学講師、金本亜弓氏(慶應義塾大学大学院)の4名
れる財政的にコンサバティブで社会的にリベラルな志向が自
にご報告を頂いた。
治体の首長にみられるのかということが検証された。
まず河村和徳氏からは、「地方政治への参加過程」と題す
以上の4報告をふまえて、中谷美穂・立教大学講師、チョ
るご報告を頂き、政治参加を理解するにあたって、地方政
ン・クーチョン・東亜日報ドットコム社長にコメントを頂戴
治を規定する財政制度や都市化に目を向ける必要があり、
し、フロアからの質問も含めて、活発な議論が交わされた。
都市部への人口移動によって形成されるネットワークに応じ
て参加形態が異なるという分析枠組が示された。
2つ目のご報告は、三船毅氏の「ボランティア・NPOへの
参加─新たな政治文化の創造か?」であり、ボランティア・
NPO活動を政治参加として捉え直すというものであった。世
論調査データの因子分析からは、ボランタリー・セクターへ
の参加が市民意識における政治的信頼に関連し、従来の政
治参加とは異なることが明らかにされた。
ラ・イルキョン氏は、「ソーシャルキャピタルと社会参加」
と題して、ワーカーズ・コレクティブといったNPOの内部的
な平等が構成員における信頼感の醸成にどのように役立って
いるのかということを検証している。ワーカーズ・コレクテ
ィブを対象としたアンケート調査によれば、組織の決定作成
に参加する制度を通じて信頼感のレベルは高まる傾向にあ
る。
市民意識比較分析セッション(II)
慶應義塾大学法学部教授
小此木政夫(司会者)
「韓国の市民意識」
本セッションでは、「韓国の市民意識」と題して、ジン・
ヨンジェ(陳英宰)・延世大学教授による「韓国人の理念
され、その主たる原因は「苦難の行軍」期における極度の
食糧難にあることが指摘された。
的性向分析(2002-2004)」、イ・ソクヨン(李石淵)・慶應
報告の後、討論者の清水敏行・札幌学院大学教授による
義塾大学訪問研究員による「韓国市民運動の現況、課題及
コメント、報告者によるリプライが行なわれた。セッション
び方向性に関する経験論的考察─憲法合致的市民運動を提
では2名の通訳を交えたため、時間の制約上フロアまで議論
唱しながら」、礒 敦仁・慶應義塾大学研究助手による「北
をオープンできなかったことが惜しまれるものの、いずれの
朝鮮住民の意識動態」の3報告が行われた。
報告も最新のデータを踏まえた発表であったほか、討論者に
ジン・ヨンジェ報告では、2002年と2004年に実施された
韓国社会科学データセンターによる世論調査の結果分析を
よる詳細な指摘がなされたこともあり、結果として非常に質
の高い議論が交わされたものと自負している。
中心に、韓国社会における保守・進歩の性向が西欧の左右
対立よりも複雑で多様な様相を見せており、韓国人の自由・
平等概念は混在したものとなっていることが明らかにされた。
イ・ソクヨン報告では、経済実践市民連合事務局長を歴
任し、弁護士として首都移転問題で憲法訴訟を行う等、市
民運動に自ら携わってきた貴重な経験を総括する形で、韓
国における市民運動と権力のかかわりについて問題提起がな
され、市民運動が憲法の精神に立脚する必要性につき主張
された。
礒 報告では、北朝鮮住民の意識動態を解明する意義と
限界について触れられた後、金日成生前期と比較すれば民
心の忠誠心が希薄なものに変容したことが様々な視点から示
7
現代日本市民意識セッション(II)
成蹊大学法学部教授
増山幹高(司会者)
「現代日本における地方自治の動態」
このセッションでは、「現代日本における地方自治の動態」
政担当者の政策執行や組織運営、参加に関する規範を抽出
というテーマの下、名取良太・関西大学助教授、佐々木寿
し、自治体の透明化、効率化、参加といった政策パフォー
美・平成国際大学専任講師、キム・ジョンウク・慶應義塾
マンスが、社会経済的要因や首長の政策選好とともに、そ
大学研究員の3名にご報告を頂いた。
うした自治体の組織規範に規定されていることが検証され
まず名取良太氏からは、「地方分権と政策形成─デモクラ
た。
シーに関する住民意識との関連で」と題するご報告を頂い
以上の3報告をふまえて、和田淳一郎・横浜市立大学教授
た。具体的には、2003年に実施された全国サーベイ(慶應
にコメントを頂戴し、フロアからの質問も含めて、活発な議
義塾大学21COE-CCC市民意識データアーカイブ)の分析か
論が交わされた。
ら、住民の民主主義に関する意識と行動が地方政府の環境
に規定され、とくに地方政府による財政再建への取り組み
といったことが住民の意識を左右し、また住民の参加意欲に
影響することが明らかにされた。
また佐々木寿美氏による「地方自治体における政策効果」
では、地方自治体における高齢者福祉政策に関する中間ア
クター(公的アクターと私的アクターの中間的な立場でサー
ビス提供を担う組織・団体)の役割が検証された。特に高
齢者介護などの福祉サービスに関して、中間アクターを活用
する公私のミックスモデルを考案し、富山県下の市町村デー
タに基づいてコスト削減効果などを明らかにしている。
最後に、キム・ジョンウク氏からは「地方自治体における
政策パフォーマンスと組織規範」と題するご報告を頂いた。
2001年に実施されたFAUI調査から、地方自治体の総務・財
現代日本社会意識セッション
慶應義塾大学文学部教授
渡辺秀樹(司会者)
「現代日本の社会意識─家族、ジェンダー、教育をめぐる意識を中心に」
本セッションでは、竹ノ下弘久・慶應義塾大学研究助手
の「家族・ジェンダー意識をめぐる日韓比較」、オイ・ショ
ンゴウ氏(慶應義塾大学大学院)の「高学歴中国人女性の
識を位置づけて見ることの豊穣さが提示されたと言ってよい
だろう。
参加者からは、家族・ジェンダー・教育をテーマとする時
ジェンダー観の変化」、キム・ヒョンチョル・近世大学教育
には、少子化などの現代的な課題に留意すること、さらに同
研究所研究員の「日本の学歴社会の歴史─韓国との比較か
居などの家族変数の取り方や、意識と歴史との関わりにつ
ら」という3報告があった。
いて注意して研究をすすめることなど、重要なコメントがあ
竹ノ下報告は、21COE-CCCが実施した日本および韓国で
った。21COE-CCCとして実施した調査は、現時点では日本
の調査データを用いた計量的分析であり、オイ報告は中国か
と韓国であるが、さらに調査対象国は拡大することになって
ら日本に来た中国人女性へのインタビューに基づく分析であ
いる。複合的な比較のなかで現代日本の社会意識の特徴と
る。またキム報告は、歴史的文献・資料に基づくものであ
変化の分析をさらに推し進める貴重なステップとなるセッシ
る。3つの報告は、現代日本の社会意識に迫る多様な方法の
ョンであった。
提示であった。計量的・質的・歴史的な諸方法が出会うこ
とで、それぞれの方法の個性が鮮やかに示されたセッション
となった。社会意識への複合的な接近の豊かな可能性を確
認できたものと思われる。
討論者の松田茂樹・第一生命経済研究所研究員、大貫挙
学・東洋大学講師からは、意識・規範、社会経済的背景、
そして社会構造という三者間関係から、それぞれの報告にコ
メントがあった。また全体として、「近代化の経験それ自体
に各社会でいかなる差異があるのかという問題提起につなが
るもの」(大貫氏)というコメントがあった。歴史比較・文
化比較・構造比較という視座のなかに、現代日本の社会意
8
市民意識比較分析セッション(III)
慶應義塾大学法学部教授
山本信人(司会者)
「北米における市民意識の諸相」
本セッションは、北米を舞台とした市民意識の歴史と現
状を扱った。
家の樹立と移民社会での黒人尊厳の獲得が、パン・アフリ
カ主義であった。
まず大岡栄美・日本学術振興会特別研究員は、
「カナダ市
討論者は、山下孝子氏(慶應義塾大学大学院)と矢澤達
民とはだれか─ナショナルな市民、コスモポリタン的戦略を
宏・敬愛大学専任講師であった。山下氏からは政治思想的
超えて」(Making Canadian Citizens through Citizenship
観点からのコメント、矢澤氏からはブラジルのディアスポラ
Week: Beyond the National Citizen and Strategic
状況との比較が提示された。司会の山本なりにまとめると、
Cosmopolitanism)と題する報告を行なった。カナダは1987
市民の要求に対応して政府(国家)が市民教育政策を変更
年以降、市民性週間(Citizenship Week)を開始した。当初
したカナダ、黒人を基盤とした国家の樹立と黒人の市民性
は多文化主義政策のもと、海外からの移民のカナダ市民化
の確立をめざしたガーヴィー。2つの事例は実は国家との距
政策の色彩が強かった。それに対し、1993年からは、市民
離・接点の持ち方という意味では共通点がある。市民意識
化教育の対象が全カナダ住民へと拡大された。そこでは、カ
の考察には国家の存在を軽視できない点が確認できた。
ナダの市民性には戦略的なコスモポリタン市民の意味合いが
含まれることが強調されてきている。ここにカナダ市民のグ
ローバル化を見ることができる。
続いて、荒木圭子氏(慶應義塾大学大学院)の報告があ
った。テーマは「マーカス・ガーヴィーとそのパン・アフリ
カン的ヴィジョン─黒人という『民族』の形成へ向けて」
(Marcus Garvey and His Pan-African Vision: Making a
‘Nation’ for Blacks)であった。ガーヴィーは1910年代から20
年代前半にかけて、米国を拠点にした黒人ナショナリズム運
動の指導者の一人であった。政治的独立と経済的自立を鍵
概念として、UNIA(普遍的ニグロ推進協会)とACL(アフリカ
人共同体連盟)を中心に活動した。ドイツ領アフリカの独立
問題に関しては、積極的に国際連盟へ働きかけた。黒人国
現代日本市民意識セッション(III)
慶應義塾大学法学部教授
小林良彰(司会者)
「現代日本における社会意識の動態」
本セッションでは、各国における市民意識の根底にどのよ
では、日本と韓国で同時期に行った市民意識調査を欧米や
うな価値観や文化が関わっているのかを実証的に明らかにす
他のアジア諸国における調査と比較することで、政治制度へ
ることを目的として、3つの報告が行われた。まず池田謙
の信頼が「民主主義の質」を決定していることが明らかにさ
一・東京大学教授、小林哲郎氏(同大学院)による第1報
れた。特に、日本と韓国では政治や行政に対する市民の関
告では、環太平洋諸国(米国、カナダ、日本、韓国、中国、
心が他国に比して低くない反面、有効性感覚が顕著に低い
フィリピン、ベトナム、シンガポール)における調査データ
という問題点が指摘された。
を用いて、脱物質主義と政治的会話および社会参加との関
これらの3報告を受けて、鈴木基史・京都大学教授より詳
連性、ならびにリスク回避がその関連性にどのような影響を
細なコメントと質問が開示され、他のセッション参加者と共
もたらすのかが明らかにされた。その結果、リスク回避と脱
に活発な議論が行われた。
物質主義の交互作用がみられ、とりわけ、社会参加や一般
的信頼を説明できることが指摘された。
またジャン・ウォンホ・ソウル市立大学副教授による第2
報告では、FAUI調査データと韓国における市民意識調査デ
ータを組み合わせることで、従来の社会階層による政治意識
の説明度が低下し、争点態度などによるニュー・ポリティカ
ル・カルチャーが政治意識を規定していることを明らかにし
た。そして、市民による政治意識の変化が政治的エリート
の意識の変化に繋がり、その結果、政策形成にも影響が及
ぶことが実証的に示された。
さらに、大和田宗典・慶應義塾大学研究員による第3報告
9
戦後日本市民意識セッション
有末賢(司会者)
慶應義塾大学法学部教授
「多文化社会日本の市民意識」
第1報告者のテッサ・モーリス・スズキ・オーストラリア
政策分析のための方法的インプリケーション」として、今ま
国立大学教授は「戦後日本の入国管理思想と外国人政策」
での多文化主義政策研究の二項対立図式(ライフチャンス
(Border Control and Policies towards Foreign Nationals
多文化主義対ライフスタイル多文化主義)を融合、結合さ
in Post-War Japan) というタイトルで、戦後日本の入国管
せながら「マルチプル・マルチカルチュラリズム」が提唱さ
理政策について、日本の敗戦と米国占領軍による東西冷戦
れた。塩原氏は、シドニーにおけるフィールドワークを踏ま
下の状態が解説された。そして、Wild Zone と呼ばれる国
えながら、柔軟なエスニック・ネットワークを提示した。
家による外国人の入国管理をコントロールする自由裁量権が
討論者のガッサン・ハージ・シドニー大学教授は、現代の
あたえられ、それによって在日韓国・朝鮮の人達が外国人登
デモクラシーが抱えている「寛容と抑圧」という難問につい
録されることになった。このように、多文化主義政策とは全
て、多文化主義もその例外ではあり得ない、と述べられた。
く異なる戦後日本の入国管理の政策は、実際には移民国家
最後に田嶋淳子・法政大学教授からは、日本の外国人政策
であるアメリカ合衆国やオーストラリアが一定の移民を受け
が、特に在日韓国・朝鮮人の扱いも含めて、人権抑圧的で
入れた後に、国家による自由裁量権を行使することと全く
あった事 が指 摘 され
変わらない政策がとられていた。
た。 コロニアリズム
第2報告の関根政美・慶應義塾大学教授は、「多文化社会
(植民地主義)に対し
化する欧州の極右台頭と多文化社会」と題して報告された。
ての反 省 が不 十 分 で
関根氏は、ポーリン・ハンソンによる「ワン・ネイション党」
あると言 う認 識 も示
の台頭やヨーロッパ諸国に見られる極右政党による外国人排
された。全体として、
斥が起きている現状について報告された。この点について、
戦後日本社会におけ
もちろん多文化主義やデモクラシーに対する「危機」である
る多文化主義と市民
ことは間違いないのであるが、市民意識の観点から多文化主
意識の課題は、入国
義がホスト社会の文化を損なわない限りにおいて外国人の文
管 理 政 策 という具 体
化に対しても尊重されてきた訳である。そこで、課題として
的 で微 妙 な課 題 を通
日本社会の多文化社会化において、ナショナリズムの反動を
してより鮮明に浮かび
どのように受け止めていくべきか、再考が必要であると述べ
上がってきたわけであ
られた。
る
さらに第3報告者の塩原良和氏(シドニー大学大学院)
は、「多文化的市民のための多様な多文化主義─多文化主義
現代日本市民意識セッション(IV)
政策研究大学院大学助教授
竹中治堅(司会者)
「現代日本における政治意識の動態」
「現代日本における政治意識の動態」では、現代日本の
政治過程における競争のあり方について多角的な検討がなさ
れた。平野浩・学習院大学教授は、1970年代以降の有権者
の争点態度の変遷および政策イデオロギーの変容を取り上
げ、有権者の主観的観点からは、保革対立という戦後日本
を特徴づける対立構造は希薄化していることや、90年代以
降、安全保障、参加、平等、新保守主義というイデオロギ
ー的な軸が現れているという見解を示した。また、森正・愛
知学院大学助教授は、2001年参院選以後の国政選挙におけ
る、小泉首相の自民党候補者に対するコートテール効果に
ついて報告し、特に2001年参院選においてコートテール・イ
フェクトが発揮されたことを示した。さらに、堤英敬・香川
大学助教授は、1990年以降の衆院選での政策的争点につい
て、候補者の公約を分析しながら報告し、例えば、1996年
の衆院選の場合、行政・政治改革が争点になったことが特
徴として挙げられるという考えを示した。その後、村瀬洋
10
一・立教大学助教授より、政策の対立軸をそもそもどう捉
えるべきかなどの質問がなされ、活発な議論が行われた。
メディア内容分析セッション(II)
慶應義塾大学総合政策学部教授
伊藤陽一(司会者)
「日本における国際コミュニケーション」
本セッションでは、伊藤陽一・慶應義塾大学教授、飯塚
ーバル・ニュース・メディア」による寡占状態にある。この
浩一・東海大学教授、内藤耕・東海大学助教授、井上泰
ような「英米支配」にさらに市場メカニズムのバイアスが加
浩・広島市立大学助教授の4名が以下のような研究報告を行
わることによって、多文化世界の相互理解は難しいものとな
った。
っている。
伊藤報告(「ニュースの国際流通のパターンと規定要因」)
最後に、長広美・文京学院大学専任講師が上記4つの報
では、1995年に行われた大規模な国際共同研究のデータを
告の共通点を指摘して問題を整理した。その結果鮮明にな
使って、ニュースの国際流通のパターンが、世界全体(46
った点の1つは、ニュースの国際流通の不均衡が盛んに議論
か国)および7つの地域別にグラフで図示された。さらに流
された20∼30年前に比べると、東南アジア、アフリカ、中南
れの量と方向を規定していると言われてきた諸要因の影響力
米等では事態は改善されたように思われる一方、東欧は憂慮
の強さが、重回帰分析の手法によって比較された。
すべき状態にあり、また英米メディアのヘゲモニー(覇権)
飯塚報告(「メディアが<集団的アイデンティティ>の形
は依然として続いているということであった。
成に果たす役割に関する一考察」)は、①ヨーロッパ統合の
過程においてメディアが集団的アイデンティティの形成に果
たす役割、②ヨーロッパにおけるニュースのグローバライゼ
ーション、③EUのメディア政策の変容、を整理し、「情報
政治学」が今後取り組むべき課題を提示した。
内藤報告(「東南アジアにおけるニュースの流れ:構造論
的アプローチの検証」)は、東南アジアの3カ国をケースとし
て、上記の1995年の国際共同研究のデータを使った実証分
析を行い、ニュースの流れ研究における構造論的アプローチ
の有効性と限界を論じた。
井上報告(「グローバル・メディアとニュース映像の国際
流通:米英通信社による寡占構造の問題点」)によれば、ニ
ュース映像の国際流通市場は、米英に集中している「グロ
11
日本政治社会学会第2回大会・
平成16年度院生研究報告会を終えて
日本政治社会学会 会長 小此木 政夫
日本政治社会学会は、去
第1に、大学院生や若手研究者が日頃の研究を発表
る2004年11月21日(日)、
し、意見交換のできる場、つまり、自己鍛錬や自己
慶應義塾大学三田キャンパ
のアイディアの検証といったことができる場になって
ス東館において、第2回大会
ほしいということです。特に、大学院生の皆さんには
を開催いたしました。今回
積極的に参加して頂きたいと思っております。
の大会におきましては、7セ
第2に、慶應義塾大学大学院法学研究科では、既に
ッションで合計18の研究報
『法学政治学論究』を刊行し、それを学内の大学院生
告 が行 われました。 また、
や研究者にとどまらず、他の大学院の学生や研究者に
100名以上の研究者が参加
まで開放し、実際に多くの投稿が寄せられておりま
され、フロアから熱心に各
す。そういったことも念頭に置きまして、この学会も
セッションの報告に耳を傾けて頂きました。多くの
慶應義塾大学が拠点にしてはおりますが、内部の関係
方々に活発な議論に参加して頂いたことで、盛大な大
者に限らず、できるだけ外部の研究者にも開かれたフ
会になりました。司会者、報告者、討論者としてご
ォーラムであってほしいと願っております。
協力頂きました皆様方、また、ご多忙中にもかかわら
第3に、世代間の交流もまた必要であろうと思いま
ず、会場に足をお運び頂きました皆様方のご協力に、
す。昔、中国の人達は「老・壮・青の三結合」と表
この場を借りて厚く御礼申し上げます。
現しましたが、この学会も3つの世代の共同作業が行
日本政治社会学会は、21COE多文化市民意識研究
センター(21COE-CCC)と緊密な連携を図りつつ、
えるような場であってほしいと考えております。
以上申し上げましたように、この学会を自己鍛錬の
市民意識や市民社会の分析を目的として、日本政治
場、開かれた交流の場、そして世代間の意見交換の
論、国際政治学、比較政治学、政治思想・政治哲学、
場にしていきたいと考えておりますので、今後とも、
政治社会学、マスコミュニケーション論などの各分野
日本政治社会学会に対する皆様方の一層のご理解と
から内外の研究者を集めて、2004年3月11日に設立さ
ご協力をお願いするとともに、ご指導ならびにご鞭撻
れたばかりの学会です。ここで、あらためて本学会の
を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
趣旨を述べさせて頂きたいと思います。
第1セッション 慶應義塾大学法学部教授 田村次朗(司会者)
2004年11月21日(日)に開催された日本政治社会学会第2回
重要性を増すなかで、国家間の司法制度の違いがもたらす
大会・21COE-CCC院生研究報告会第1セッションは、川嶋
問題に関し、証拠収集手続であるディスカヴァリを巡るアメ
隆憲氏(慶應義塾大学大学院)、隅田浩司氏(慶應義塾大
リカと大陸法諸国との対立関係を検証している。
学大学院/東京大学先端科学技術研究センター交流研究
次に隅田氏は、「競争法の国際的調和に内在する各国の法
員)による研究報告が行われた。本セッション最大の特徴
文化との相克」という視点から、競争法の国際的調和に向
は、川嶋氏は民事訴訟法、そして隅田氏は経済法といった
けた各国の協調と対立の問題を、各国の法文化の相克との
共に法律学の視点から、「多文化世界における市民意識の動
関連で検証している。特に、マイクロソフト社を巡る日米欧
態」というテーマに取り組んでいることであろう。両氏の報
の競争法当局の判断の相違の中から、具体的にその背後に
告は法律学研究の新しい可能性を期待させるものであり、非
ある法文化との関連を照射している。
常に興味深いものであった。
まず、川嶋氏は、「渉外民事手続のための証拠収集制度の
国際的調和─市民意識を反映した理論構築に向けて」と題
する研究報告の中で、渉外要素を含む民事紛争解決手続が
12
このように今回の両氏の研究報告は、新しいテーマに果敢
に取り組むものであった。両氏の今後の研究の発展に期待し
たい。
第2セッション 東京大学先端科学技術研究センター特任助手 清水唯一朗(討論者)
本セッションでは近代日本政治史を専攻する本学大学院生
神崎勝一郎氏(慶應義塾大学大学院)の報告「三新法運
の報告が行われた(司会:笠原英彦・慶應義塾大学教授)
。
用に関する一考察」は、近代日本における初の包括的な地
後藤新氏(慶應義塾大学大学院)の報告「台湾出兵の一
方制度である三新法(郡区町村編成法、府県会規則、地方
考察─士族による従軍願及軍資献納を中心として」は、近
税規則)の運用の実態を神奈川県・野村靖知事の事例から
代日本における初の海外派兵である台湾出兵における士族
検討するものであった。本報告では県会、知事、政府の政
の反応から、明治初期における政治意識の考察を試みる意
治意識、すなわち県会における運用と、そこから得られた知
欲的なものであった。報告では軍資献納を願い出る士族が
事の知見が意見書としてフィードバックされる過程が明快に
あったことに着眼し、これを近世以来の士族の自己犠牲的
論じられた。討論者からは、既存研究との関係、事例とし
な政治意識の発揚と捉え、従軍願のみを分析対象とした通
ての神奈川県の位置づけについて質問がなされ、野村らの意
説を再考する必要性が指摘され、そうした観点から、台湾
見が実際にはその後の地方制度に反映されなかったという、
出兵が日清日露戦争に先立つ、国民統合の一契機として捉
地方官の限界に分析の重点を置くことで三者の政治意識が
えうる可能性を示唆した。討論では、軍資献納を行ったも
明確になるのではないかとのコメントがあった。
のの属性をより精緻に分析し、従軍願を重ね合わせることで
両報告とも、わが国における近代の萌芽期における政治意
明治初期の士族の政治意識がより明確に浮かび上がるので
識の胎動に迫ろうとする意欲的な報告であり、今後の研究
はないかとの意見が交換された。
の進捗に強い期待を抱かせるものであった。
第3セッション 慶應義塾大学法学部教授 小此木政夫(司会者)
第3セッションは、韓国の政治社会を主たるテーマとして、
て若者の投票率は低下しているが、他の形態による政治参
小針進・静岡県立大学助教授をゲスト報告者として迎えた
加は増加している点が示され、その理由についていくつかの
ほか、慶済姫氏(慶應義塾大学大学院)、崔喜植氏(同)
指摘があった。
の計3報告が行われた。
崔報告「アジア太平洋地域協力における日韓関係─1980
小針報告「日中韓の相互意識と大衆文化受容」では、北
∼86」では、日韓協調は二国間関係においてのみならず多
東アジアの3ヶ国で行った独自調査の結果に基づき、相互の
国間関係の中において多元的に拡張していった姿が描かれる
政治認識と好感度の相関関係、因果関係について分析が加
とともに、80年代末においてASEANの懸念をいかに払拭す
えられたほか、「韓流」が1つのソフトパワーになりうる可能
るかという新しい課題が韓国外交に浮上したことが指摘され
性について論じられた。報告内容はもちろんのこと、パワー
た。
ポイントを用いたプレゼンテーションの技法についても学生
諸君にとって学ぶべき点が多かったように思われる。
慶報告「韓国における政治参加の変化」では、21COECCCが収集した最新のデータに基づき、韓国の選挙におい
これに対して、討論者の礒 敦仁・慶應義塾大学研究助
手によるコメント、報告者によるリプライが行われた。いず
れの報告も意欲的な研究テーマであったことから、フロアも
交え活発な議論が交わされた。
第4セッション 慶應義塾大学法学部教授 横手慎二(司会者)
当セッションでは、まず、セルゲイ・タルノフスキー・慶
は、両報告の研究手法の新しさを評価しながらも、タルノフ
應義塾大学研究助手がロシアの調査機関が行った世論調査
スキー報告について、従来一般に親中派と親日派について
に基づいて、ロシア人の日本、中国、韓国、北朝鮮につい
抱かれたイメージを、世論調査によって確認しただけではな
てのイメージについて報告した。氏の説明によれば、意識調
いかと批判し、また井手報告に対しては、ロシア側のエリツ
査のデータによれば、親日的と思われる層と親中国的と思わ
ィンとロシア外務省の間に認識ギャップがあったのではない
れる層が、かなり明瞭に異なる歴史認識や政策志向、生活
かと批判した。これに対して、タルノフスキー氏は新中派と
スタイルを有している。次に井手康仁氏(慶應義塾大学大
親日派について、ここで検討したようなポイントごとの相関
学院)が、1997年以降2001年までの日露交渉について、日
関係は常識では考えられていないと反論した。また井手氏
露の首脳、外務省の四者の誰と誰の間で、いつ、どのよう
は、ロシア側内部の認識ギャップと、日露外務省間の認識
な認識ギャップが生じたのかと問題を設定し、橋本同友会演
ギャップの両方があったと考えるべきだと反論した。
説時、クラスノヤルスク会談時、モスクワ会談時の3時点に
会場からは、タルノフスキー氏に対して先行研究との関連
絞って報告した。報告で注目されたのは、橋本演説とクラ
について、また井手氏に対しては日露の政治システムの違い
スノヤルスクのエリツィン発言について、日露の外務省の間
とその影響について等の質問が出た。ロシアについて市民意
に認識ギャップがあったとする点であった。
識調査が進めば、ここで示された研究手法の新しさがいっそ
その後、コメンテーターの松井弘明・大東文化大学教授
う浮かび上がるものと考えられる。
13
第5セッション 慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所教授 萩原滋(司会者)
第5セッションでは、従来の政治的社会化論を「新しい教
そして椋尾報告に対しては、オーストラリアにおける市民
育社会学」と「文化研究」の視座から捉えなおそうとする
教育の歴史的変遷を参照しつつ、関根政美慶應義塾大学教
椋尾麻子氏(慶應義塾大学大学院)の理論的考察と、イラ
授による論評があり、大坪報告と渋谷報告に対しては、伊
ク邦人人質事件を事例とした大坪寛子氏(慶應義塾大学大
藤高史慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所助
学院)、渋谷明子・同大学研究助手の2件の実証的研究の報
教授より研究目的と方法・内容の整合性に関する質問がな
告が行われた。大坪報告では、半構造化面接と新聞報道の
され、そこから今後の研究の進むべき方向に関する議論が行
内容分析の組み合わせによりマスメディアの議題設定機能の
われた。
検証が試みられたのに対して、テレビのニュース番組(ニュ
いずれの研究も、まだ完了したわけではなく、今後の新た
ース10、NEWS23、報道ステーション)におけるイラク関連
な展開が見込まれるものである。その意味で聴衆は、少なか
報道のサウンドバイト分析に基づく渋谷報告では、そこで提
ったものの、討論者、司会者、さらに報告者同士の討議も
示された「能動的」市民像について比較文化的視点も含め
展開されて、各報告者にとっては今後の研究の進路を考え
て多角的な検討がなされた。
るうえで有益な示唆が得られたものと思われる。
第6セッション 慶應義塾大学法学部助教授 田上雅徳(司会者)
本セッションでは、施光恒・九州大学大学院助教授を討
せた。最後に和田氏は、戦後啓蒙を代表する雑誌『思想の
論者に招き、鈴木正彦氏(慶應義塾大学大学院)、八木良
科学』にあらわれた諸言説を辿る中で、大衆社会化への対
広氏(同)、和田悠氏(同)から報告を受けた。鈴木報告の
応を自覚しながらも、同時にそれへの違和感も隠しきれない
タイトルは「立憲民主体制における市民的不服従の権利」、
知識人たちの揺らぎを描いて見せた。
八木報告のそれは「広島・長崎被爆者の語りにおける葛藤
これらの報告に対して討論者たる施氏は、鈴木報告に対
─『被爆体験の継承』に向けて」、そして和田報告のタイト
しては違憲立法審査権の活用と市民的不服従権の行使との
ルは「戦後啓蒙の1950年代─『思想の科学研究会』の軌跡
整合性を問い、八木報告に対しては平和観の変遷をより明
を事例にして」である。
確化するための巨視的な理論的補助線の必要性を訴えた。
鈴木氏は、立憲制が誤謬に開かれたシステムであることを
また施氏は和田報告に対し、15年戦争に対する戦後啓蒙知
確認した上で、市民的不服従が、このシステム内で施行さ
識人たちの言動を分析するために、彼らの悔恨ないし贖罪意
れる法のテストと発展に寄与するものだと指摘し、この実践
識に着目する必要を問うた。
の有する可能性を強調した。八木氏は、原水爆禁止運動の
取り上げられた論点は多岐にわたるが、戦後体制の確立
分裂を受けた被爆者運動の新展開と原爆ドームの保存運動
とそれが引き起こす記憶の風化とに抗っていく市民の営み
とに着目しつつ、1960年代半ばにおいて「平和」という言
に、参加者一同あらためて思いめぐらすセッションとなった。
葉の含意が多様化していくモメントを実証的に浮かび上がら
第7セッション 慶應義塾大学法学部専任講師 細谷雄一(司会者)
このセッションでは、政治学における先端的な領域につい
リティクスという政治理論の枠組みを活かして、「承認」と
て、3つのアプローチから報告を行った。いずれも、既存の
いう概念により多文化社会を理解するための1つの新しい視
複数の研究領域をまたがるような、問題意識に広がりを持つ
座を提供した。最後に、加茂省三・日本学術振興会特別研
テーマであった。
究員の「フランスのアフリカ外交の改革と市民社会」と題す
まず、井上淳氏(慶應義塾大学大学院)による報告、「遺
る報告では、フランスがいかにしてアフリカ諸国との関係を
伝子組み換え作物・食品をめぐるEU・加盟国の対応と市民
重視して、また市民社会との対話の場を設けようと試みたか
意識」では、遺伝子組み換え作物・植民という新しい問題
を、近年のアフリカ政策の改革を通じて検討した。
をめぐって、EUの中でどのような政策が展開し、NGOをは
他のセッションと比較すると、本セッションは既存の研究
じめとする非政府主体がどのように政策に影響を及ぼしたの
領域におさまらない新しい問題群の解明を試みる、斬新な報
かを検討した。そして、市民意識は、それを動員するアクタ
告が並んだ。多様な方法論を用いているが、いずれも古典的
ーの存在に基づき政策に反映されると論じた。続いて、山下
な政治学では解き明かすことのできない、新しい状況を理解
孝子氏(慶應義塾大学大学院)は、「規範理論としての承認
しようとする試みであり、今後の研究の進展が期待される。
概念の可能性」と題する報告の中で、アイデンティティ・ポ
各ユニットの活動報告(2004.7.1∼2004.12.31)
開催日
ユニット/サブユニット
7月2日
7月3日
戦前市民意識研究
市民意識比較分析
7月13日
7月20日
戦後市民意識研究
市民意識比較分析
9月22日
9月25日
メディア内容分析
市民意識日本サーベイ
10月18日 市民意識日本サーベイ
10月23日 国際関係市民意識研究
10月25日 市民意識日本サーベイ
10月30日 市民意識日本サーベイ
11月8日
市民意識日本サーベイ
11月11日 国際関係市民意識研究
11月11日 市民意識比較分析
11月15日 市民意識日本サーベイ
11月20日 国際関係市民意識研究
11月27日 市民意識日本サーベイ
11月29日 戦後市民意識研究
12月6日
市民意識日本サーベイ
12月8日
市民意識比較分析
12月13日 市民意識日本サーベイ
12月15日 市民意識比較分析
カンファレンス・ワークショップの内容
「第一回普選と選挙ポスター:その歴史的資料価値について」
「ポーランドのEU加盟と市民社会」
「フランスのアフリカ政策と市民社会─開発、市民社会、外交」
「市民性という理想」
「原爆被害者の『語りの実蹟』史」
「
『民族』としての黒人の連帯─
アメリカ合衆国におけるマイノリティの市民意識とガーヴィー運動」
「ポスト冷戦におけるロシアの東アジア諸国に対する意識の比較分析」
「9.11 同時多発テロは日本でどう報じられたか」
「権威主義的愛国心の研究」
「異なる意見の存在が政治知識に及ぼす影響─
ソーシャル・キャピタルとしてのネットワーク再考」
「ジャパンバロメーター&コリアバロメーター」
「欧州安全保障戦略文書(ESS)の視点・論点」
「イタリア憲法裁判所のGranital 判決について─イタリア憲法とEC法、国際法の関係」
「韓国におけるニュー・ポリティカル・カルチャー」
「アイコン分析における方法論的序説および研究ノート(2)」
「ブランドをつくるコンタクトポイント戦略」
「物質的価値vs脱物質的価値、認知動員、エリート対抗的な政治参加」
「地方自治体における政策パフォーマンスと組織規範」
「EU経済の新展開と市民」
「革命後イランにおける市民意識形成の諸要素」
「韓国における政治参加」
「韓国の自治体における政治文化」
「公益事業へのEC競争法86条の適用」
一般的利益のサービスに関するホワイトペーパーを題材に」
「欧州近隣諸国政策について」
「Electoral Reform and Candidate Selection ─
Japan's Liberal Democratic Party (1960−2003)」
「投票率向上のための横浜市民の投票行動の分析」
「戦後日本社会における多文化主義と入国管理政策」
「国政選挙における公約認知に関する実証分析」
「日本の地方政府に関しての研究:教育政策を中心に」
「中国の市民社会─中国『社団』調査をもとにして」
「第16代大統領選挙における候補選択」
「イラン人商人の政治社会意識などについて」
12月16日 国際関係市民意識研究
「The EU and Romania:from a Romanian Citizen's View Point」
12月17日 市民意識データ・アーカイヴ 「多言語検索型テータベースと利用」
12月18日 国際関係市民意識研究
「EUガバナンスについて」
「会社法の現代化(COM 2003/284)とEUにおける会社法立法と判例の動向─
開業の自由とLaw Shopping」
12月20日 市民意識日本サーベイ
「韓国における合理的投票に関する計量分析」
氏名
所属
玉井 清
山本啓太
加茂省三
山下孝子
八木良広
荒木圭子
慶應義塾大学
慶應義塾大学
日本学術振興会
慶應義塾大学
慶應義塾大学
慶應義塾大学
セルゲイ・タルノフスキー
リスベット・クラウセン
石生義人
安野智子
慶應義塾大学
コペンハーゲン・ビジネススクール
国際基督教大学
中央大学
大和田宗典
小林正英
慶應義塾大学
尚美学園大学
東 史彦
ジャン・ウォンホ
栗田宣義
岡田浩一
ラ・イルキョン
キム・ジョンウク
ハンス=エッカート・シャーラー
松永泰行
キョン・ゼヒ
金本亜弓
青柳由香
慶應義塾大学
ソウル市立大学
武蔵大学
電通
明治学院大学
慶應義塾大学
ハンブルク世界経済研究所
同志社大学
慶應義塾大学
慶應義塾大学
早稲田大学
蓮見 雄
立正大学
浅野正彦
和田淳一郎
蘭 信三
テッサ・モーリス・スズキ
松本 淳
キム・ナミ
小嶋華津子
キョン・ゼヒ
岩崎葉子
東京大学
横浜市立大学
京都大学
オーストラリア国立大学
慶應義塾大学
梨花女子大学
筑波大学
慶應義塾大学
シルヴュ・ジョラ
小林良彰
浅見政江
上田廣美
日本貿易振興機構アジア経済研究所
横浜国立大学
慶應義塾大学
東京国際大学
亜細亜大学
キョン・ゼヒ
慶應義塾大学
研究者一覧
学内・学外協力者一覧 2004.12.31現在
学外協力者
学内協力者
氏名
所属
氏名
所属
河野 武司
庄司 克宏
澤井 敦
フィリップ・オステン
細谷 雄一
粕谷 祐子
金 善美
北中 淳子
法学部・教授
法務研究科・教授
法学部・助教授
法学部・専任講師
法学部・専任講師
法学部・専任講師(有期)
法学部・訪問研究員
文学部・助手
池田 謙一
小川 恒夫
奥 健太郎
河村 和徳
小針 進
佐々木寿美
清水 敏行
清水唯一朗
鷲見 英司
谷口 尚子
堤 英敬
中谷 美穂
名取 良太
平野 浩
増山 幹高
三船 毅
森 正
矢澤 達宏
山田 真裕
羅 一慶
東京大学・教授
東海大学・教授
平成国際大学・講師
東北大学・助教授
静岡県立大学・助教授
平成国際大学・専任講師
札幌学院大学・教授
東京大学・特任助手
東北文化学園大学・専任講師
帝京大学・専任講師
香川大学・助教授
立教大学・講師
関西大学・助教授
学習院大学・教授
成蹊大学・教授
愛知学泉大学・助教授
愛知学院大学・助教授
敬愛大学・専任講師
関西学院大学・助教授
明治学院大学・講師
編集後記
シンポジウム特集号いかがでしたでしょうか。シンポジウム
の各セッションに参加してみて、報告者や討論者より、「多
文化世界における市民意識の動態」という一つのテーマから
実に様々な分析や見方が議論されていたことに感心させられ
ました。この多様性こそが、本21COE-CCC「多文化世界に
おける市民意識の動態」プログラムにおける精神の表れでは
ないかと思います。本号でそのようなシンポジウムの雰囲気
を感じ取っていただければ幸いです。
(S.K.)
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慶應義塾大学 21世紀COE多文化多世代交差世界の
政治社会秩序形成・多文化世界における市民意識の動態
21COE多文化市民意識研究センター Newsletter
2004. No.4
発行日 平成16年12月31日
代表者 小林良彰
〒108-0073 東京都港区三田3-1-7 三田東宝ビル6F
TEL:03-5427-1045
FAX:03-5427-1046
http://www.coe-ccc.keio.ac.jp/
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