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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University

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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
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医事に関する基本的法理論の研究
小野, 恵
東京女子医科大学雑誌, 40(9):644-649, 1970
http://hdl.handle.net/10470/15575
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
42
(瞥騨49第醒薙45鞭).
医事に.関する基本的法理論の研究
東京女子医科大学衛生学教室
講師 小
オ
第1講座
野
恵
メグミ
ノ
(受付 昭和45年7月3日)
A Study on the Fundamental Legal Theory of Medicag Affairs
Megumi ONO, M.D., B.L., D.P.H.
Department of Hygiene (Director: Pro£ Taeko MOROOKA, M.D.)
Tokyo Women’s Medical Col]ege
Recently. the. outbreak of;many medlcal complications has been well known as important affairs.
Al・h・ti・h・h6y h・v・been. i#噸・a・gd b卿・ny・ch・1・・…h・fu・d・m・n・・l p・i・・ipl・9・・m・di・i・・i・.…
Cl・a・.ly・・t・bli・h・d.・t p・e・ent lit・g・・
Therβfore I discussed the legal duty on the trouble of preventive inoculation as a repres6niative affainy
among those。
も
As the principle was耳〇七yet esta})lished and we havel.耳。.co卑pens昂tio耳prescription, the persons
collcerロed.. is worried about the complication caused fro血. pteV6ntiVe inochlation.
Apd・1・di・cu・・ed l・g・11y h・w w・・ught t・・r・p…et・・h・・eq…t・f吻ρ・、NI・i・与・b…蜘・n・・nd・q
accommodate procedure rightly of the丑rst aid required when a fatal q・c.ci・dent・..・Was.prQVQ向歯d,
It is more important亡hat the relation on legal duty presented between physician and para血edical}
?・・・・・…ather lh・n whrth…h・m・dical t・ゆ…by丘rs・・id・仔i・e・・.i・illg9・llty⑩gt・:
From the view poi準t of physigian,s si4¢, it is very important matter of concetn what the responsibility
of undesirable result accompanied by the treatment、vithout professional knowledge.
Here, I consolidated my idea genera11y c.oncern1ng with the duty of phys三cian to meet the ob】.igation
to㌻he demand of cHents and且rst aid to emergeitcy which is one of the competing point at issue ill the
prov量sions of the Medical Practitioロers Law.
か,等々,医事に関する法の.基本的な原理は十分
はじめに
近年わが医療界において医事紛争が焦眉の重要
に検討されていない現状である.
問題として認識されるようになった.診療過誤の
医学と法学はともに人類の叡智の所産として学
裁判提起の件数が増加しつつある理由に,法意識
問的にもそれぞれ古い歴史を有するが,社会の進
の向上あるいは医学の進歩,ひいては国民衛生思
歩に伴なう秩序の維持には,医学の要望が高めら
想の普及などがあげられるが,かなりの学者によ
れるほど法に規制される面が多くなるのは当然で
って研究されながらも,医療行為とは何か,医師
あって,今日の医学は効果をあげるために相当の
以外の医療従事者と医師はどうちがうのか,また
侵襲を肉体に加え,成功した場合はともかく,医
個人診療と公衆衛生はどのような関係にあるの
療行為を条件とする死亡が招来されたときの社
一 644,’,一
43
意で学問的裏付けある医療と信ずる行為でも,法
和32年,省令27号)など一連の法規にしたがって
行なわれているが,実施される場合の実際上の諸
律的に正しい行為として:是認されなけれぽ思わぬ
方式は,市町村または都道府県知事が定期予防接
会的波紋は次第に大きくなりっつある.医師が善
刑責に問われる.このことは国民の医療にたずさ
種または臨時の予防接種を行なうにあたって,保
わる責任者である医師にとって由々しい問題であ
健所の職員か公立病院の医師などその所属する行
ると同時に,国家としての衛生行政上も放置でき
政機関の職員に直接行なわせる直接方式と,民
ない問題であると言える.
間の医師に一定額の報酬を支払って雇上げる雇用
方式,さらに協定または契約に基づき地区医師会
本研究への接近の方法は,法学側からは行政
法・刑法・民法に三大別出来るけれども,そのい
等に一括して委託する方式の三つの方法がある.
ずれもがそれぞれに独自の法理論を持っているこ
このように行政運営上の実施のされ方が複雑であ
とから,それらに捉われず,主として現行法規の
るため,責任の所在が不明瞭な点が第一に問題で
中で,とくに現実の医業に照らした場合問題とな
ある.
予防接種事故としてよく知られているものに種
っている事柄について研究を進めたいと考えた.
痘による事故がある.昭和31年以後わが国には痘
したがって「医事」の範囲が,治療医学はもちろ
んのこと,予防あるいは健康増進まで,綜合的な
そうは1名も発生していないのに,種痘による汎
保健に関する大方の行為と解するために,医師,
発性牛痘疹や種痘後脳炎による死亡1)が100名を
医師以外の医療従事者,あるいは補助・無資格者
はるかに越えている.予防接種の効果としては昭
に及ぶ場合も考えられる.
和35年の爆発的なポリオの流行を劇的に鎮圧させ
そこで代表的な問題として,まず予防接種事故
た事実もあるが,その接種行為の性格は,医師法
の法的責任に関する考察を行なう.予防接種事故
(昭和23年,法201号)第1条の「医師は医療及
は,その法理論が未だ確立していないために,現
び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及
行法規には事故発生した場合の補償規定がなく,
び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保
関係者のひとしく苦慮するところの制度である.
するものとする」という規定の中にある医療行為
次いで,救急医療が突発的な生命と対決させられ
および保健指導のいずれにも属さないと考えられ
る事態の発生に際して,その処置および収容手順
る.それは一般の医療行為と比べると,対象が病
が正しく国民の需要にこたえ得るにはいかにある
人ではなく健康人でなければならないことと,病
べきかについて考察した.この問題は救急隊員の
人は治療の意思をもっているのが普通であるが,
行為が医師法違反であるか否かよりも,今後細分
予防接種は防疫上国民の意思にかかわらず行なわ
するであろうパラメデaカルの業種と医師との法
れるという2点において異なるからである.法文
的責任のちがいに,より関連し,また医師に限っ
構成上も,総則に規定された条項の細則が第2条
て考えれば,専門外の医療を行なった場合の責任
以下の天則に触れられていないことから,第1条
はどうなるかという,医師法に規定された諸種の
はあくまで概括的な倫理条項2)と解され,当然に
義務の中での論点の一つである応需義務と関係す
違反した場合の罰則も存在しないことから,医師
る.以下順を追って,予防接種事故の法的責任,
の予防接種に協力する義務の法的根拠は薄弱であ
救急医療,医師法第19条第1項の問題点について
るといい得る.ところが国家は,疾病の予防とい
述べる.
う必要に基づいて,個々の免疫は個人の法益に止
本 論
1.予防接種に関して
まらず集団の中の免疫保有者の割合を高めること
によって,ある疾病を流行せしめないという社会
現在予防接種は予防接種法(昭和23年掛法68号),
法益を得る目的のもとに,国民の身体に強制を加.
予防接種施行令(同年,政令197号),予防接種施
行規則(同年,省令36号),予防接種実施規則(昭
える直接的な公権力3)を行使するのであり,接種
行為が疹痛を伴なう傷害行為であると否とに関係
一 645 一
44
:なく,傷害事実行為に他ならない.このような人
「実体的に不法の要素を否定し得ない意味におい
体への傷害ともいえる干渉を機会としなければ生
て不法行為に入る」としている5).これを予防接
じない人工的な免疫が許されるのは,国家がこの
種事故について考えてみると,原因行為つまり接
侵害行為に優る利益を認め,法律にもとづいて果
種の時点での適法が結果の時点での違法なのであ
そうとしているからである.そこで国家が命ずる
るから,行為を強調すれぽ危険責任となり,結果
予防接種行為を行なう医師は,命ぜられた行為を
を重視すれぽ違法無過失の侵害行為になる,いず
忠実に履行する行刑官の職務に相当するものと考
れも行為の時点において全く意図されない,法の
えられ,予防接種の目的である個人と集団の法益
目的に完全に相反する事態の発生である.しかし
を,医師の自由な裁量によって左右する余地はな
国家が国民の利益であると認めて,事故の発生を
い.換言すれば,接種によって被接種者が受ける
危惧しながら危険状態を形成していることから,
恩恵は,医師からの行為による恩恵ではなく,国
賠償されることがこの行為を正当化はしないけれ
家が行なった行為に因るものであって,裏返せ
ば,事故発生の追求は医師を対象とすべきでない
ども,危険防止への努力と同等,あるいはそれ以
上に償いが励行されて初めて公益的意義を有する
ことになる.接種者は違法な状態を起こしても過
ことになる.
つづいて予防i接種事故と国家賠償法との関係で
失はなく,責任を負わなくてよいことになる.
それでは国家の責任はどのように考えられるの
あるが,国家賠償法とは昭和22年(法12号)に憲
であろうか.国家の行なう予防接種事業は,予期
法第17条の,公務員の不法行為によって生じた損
した効果が十分得られたときに初めて国の行為は
害の賠償責任の規定をうけて成立した法律であ
適法であったといい得るが,不幸にして事故が発
る。さきに述べたように,医師会委託方式による
生した場合は違法な状態を惹起したことになる.
医師の行為が,公務員の行為に相当するか否かに
外国におけるこの場合の国家の責任は,法的根拠
も論があるが,接種行為が公権力の行使であると
および性格に関する研究をみても,国家補償制度
ころがら公務員であると考えられ,これは今日通
の最先進国とされるフランス,ドイツにおいてす
説になりつつある.ところが国家賠償法は公務員
ら画期的な前進を示すに至ったのは第2次大戦以
による損失を要件にして国民の救済をはかるため
後であって,フランスでは1955年にボルドーの行
の制度的なものであることから,予防接種事業が
政裁判所で予防接種に起因する合併症に対しては
医師の行為を通じて為される以上,接種するか否
国家の責任があるとし,1964年以後は法律により
かを判断する医師の問診などが不十分であったと
閧フ場所で行なわれた強制接種に伴って生じた
されやすいこと,また事故は医師が法規を守って
一一
事故について,すべて国が責任を負うことになっ
た.西ドイツでも1961年法律(「人間の伝染病の
行なっても発生するのであるから,医師に過失が
ないということは,同時に被害者の救済はないと
防止と撲滅のための法律」第51条)を定め,国が
いうことになる.この場合は職務上の義務違反に
補償責任を負うことになったのである.ただ,こ
もとつくものといえないから救済の途はないとい
の種痘による身体障害に関する事件を,違法無過
う考え方で,要するに国家賠償法は予防接種事故
失の侵害行為とみるか,適法行為に基づく危険責
に関する国民への償いには程遠い法律であるとい
任とみるか,異論がある.これは丁度,適法な手
うことができる.したがって接種する医師も,接
続裁判によって行なわれた判決が有罪から無罪に
種される人も共に予防接種に対し相当の疑惑を抱
なった場合の刑事補償が,適法行為に基づく損失
補償であるか,不法行為に基づく損害賠償である
:が実体的に不当に行なわれる危険にあるという意
いているのが実状である.医師会では防衛上,事
故処理について実施側の市町村と契約書を交して
いるが,厚生省の公式見解によるとそのような契
約は無効であるとしている(昭和42年,下冷264
味で一つの危険責任である」4)とし,他の学者は
号).それでは予防接種は国民の自由意思に任せ,
かと同じで,配れに対しある学者は「刑事司法
一 646 一
45
個人の責任として処理させるとの考え方もある
が,一般医療行為と同様100%の安全が確約出来
対個人の意思,つまり搬送される本人の意識の有
ないのに,防疫の基本対策であると確信されてい
である.そして搬送の承諾は治療の承諾,治療契
る臥そう,ジフテリヤ,破傷風,百日咳,ポリ
オ,麻しんの予防接種において,疫学上必要な接
約の申込みと同時点と考えるか否かも問題であ
種率を収めなければ集団の予防にならないのであ
性を阻却するとまでいわれることから,刑法の立
場からは承諾の得られない搬送は監禁罪に相当す
無とも関連して「承諾」が占める法的意義は重要
るから,予防接種に関する自由放任は,事故責任
る.それは,個人の真意にもとづいた承諾は違法
の個人への転嫁ぽかりでなく,二重に国家の怠慢
るのではないかということである.けれども,傷
として指摘されることになる.
病を放置するのは忍びな:いという国民の一般感情
いま一つ重要な地位を占めるものに予防接種液
から,意思表示できない状態の場合はいわゆる緊
の国家検定の問題がある。この生物学的製剤は保
急診療として事務管理が成立し(民法第702条第
存方法が厳密に規定されているが,合格品である
3項),たとえば自殺未遂などの本人が搬送を拒
にもかかわらず薬液の異常に原因する事故が発生
否する場合は,承諾しない意思そのものが公序良
した場合,言いかえれば検定に明白な手落ちが認
俗に反するとされる.今日健康が個人の責任で守
められないのに不良品が合格品とされた場合等も
りきれない様相を呈しつつあるという現i実に伴な:
責任の所在が不明であり,国家は「所定の基準に
い,健康への自己決定権,承諾の意義が希薄にな
合致するものであるかどうかを単に確認する意味
りつつあるといえる.そして「行為者が実際に許
をもつにすぎないと解するならば……すべての責
諾を予想したこと又は承諾ありと信じたこととは
任を国が負うべきであるとすることには問題があ
全く関係がなく」8), 「正確にはむしろ「(裁判官
ろう」6)とされている.
による)承諾の推定』とよぶべき」9)推定的同意
の法理が働くことになる.
国の行なう予防接種事業に関しては,医学的に
は,とくにウイルスの7),しかも胎内免疫が自然
次に,搬送を行なう救急隊員の行為は,現場に
感染をどのように防圧するかなどまだまだ不明の
おげる応急処理から搬送中の監視看護,のみなら
分野が多いが,法学的にも以上のような多くの問
ず症状による移送先の適切な選定や,場合によっ
題点を持っている.
ては医師の同乗協力を求める敏速的確な処置であ
2、救急医療について
り,これらの行為が医師法にいう医療行為に抵触
人間生活にとって欠くことのできない医療の,
するのではないかと指摘される点である.筆者は
その必要性のとくに強調せられる場面が救急であ
このような行為は現状のままでは医師法違反に該
る.救急事態の医療はある意味で緊急という許容
当すると考えるものであるが,現に医師が救急車
があるが,反面ではその処理や収容手順が患者の
に搭乗できない以上は,できるだけ医師に近い技
予後に大切な決め手となる.現行法は,消防法
(昭和23年,法186号)第2条の改正 (昭和38
術と判断で対処し得るように教育によって実力を
年,法88号)で,救急隊によって厚生省令(昭和
式をとるほかはないのではないだろうかと主張す
38年,省令8号)で定める医療機関に搬送される
るものである10).
つけ,国家でこのような特殊な業務を許可する形
ことになった.今日国民の生命・身体を保護する
搬送先の医療機関は,開設者から都道府県知事
任務は次第に国家の負担となりっっあるが,依頼
に対して救急業務に協力する旨申し出のあったも
者,救急隊,医療機関の三者により成立つ一連の
救急業務のそれぞれのおかれる法的立場はさまざ
まの問題を包蔵している.
のが告示医療機関となるが,その整備に関しては
厚生省の施策に二つべき点が多多ある.たとえば
専門医と空床の確保も,救急センターの設置ある
まず第一に,救急業務が消防法改正によって市
町村の行政事務として把握されている以上,国家
数少ない市町村においてのみ,点滅ランプで掌握
しているに過ぎない現状である.このことは安易
一 647 一
46
な要請が利用者の真の公平な活用を妨げているか
現行医師法には第19条第1項についての罰則が
もしれないことの是正と同時に,一般国民の真の
ないため,設定すべしとの論もあるが,医師が罰
需要に応えられる救急医療の態勢が早急に図られ
則規定の有無により診療を左右する筈もないこと
なけれぽならない.
は申すまでもない.医師が過労を理由に,自己の
能力の一時的な減退を知りながら失策を拒む権利
3. 医師法第19条第1項の問題点
を主張し得るか否かも問題であるけれども,それ
医師法には「診療に従事する医師は,診察治療
の求めがあった場合には,正当な理由がなけれ
はともかくとして,医師法第19条の応需規定は,
ぽ,これを拒んではならない」と規定している.
貧困者にも円滑に診療の機会を得させるというこ
これはいわゆる「医師の応需義務」についての規
とと,伝染病などの蔓延を防ぐという国家目的か
定であって,患者自身または患者の代理人などが
ら規定されたものであった.したがって,生活保
患者のために診察治療を求めた場合に,これに応
護法(昭和25年,法144号)の医療扶助(第15条)
じなけれぽならないという義務を意味し,医師が
や,保険制度の整った今日では,無産者でも受診
診療に応じなかったことによって人を死亡せしめ
の意思は尊重されているし,医療費の未払いもと
た場合の刑事および民事の責任が対応してくる.
もに国家的に解決されて,当初の不応需規定の設
「診療に従事する医師」とは,一般に臨床に従
定の目的は消滅したのである.したがって法律上
事している医師であると解され,いわゆる臨床医
の論点となっていた医師の不応需は,不作為であ
と称される医師である.しかし実際には自己の得
って不法行為を成立させるとする考え方12)と,
意とする臨床のある科目分野を選択し,これに関
「単に公の秩序に対するもの」13)であり,国家が医
する研鑛を自・他ともに重要視するようになって
師に命ずる法規の反射的利益として保護されるに
来たため,いわゆる専門医が存在する.しかし厚
すぎないことから「患者は医師に対し強制履行を
生省に医籍を登録して医師免許証を与えられた者
訴求し,不履行による損害賠償の請求を為しえな
は一切の診療に従事することができるとみなされ
い」14)とする考え方等は,今日応急処置を希望す
ている.国家が一定の資格ある者のみに医業を免
る救急に限られなけれぽならない.その場合は標
許する以上は,同時に社会公衆の生命の危険を防
榜する科目のどの門を叩いてよいか簡単に決める
止または除去する義務を負担させ,よって公益に
資するという趣旨からすれば,臨床医と称されな
ことが困難なことが多いと考えられる.依頼され
た医師が専門外であっても,全身の状況の把握と
い衛生行政官や基礎医学者も該当することにな
生命保持を第一義とする判断にもとづいて,たと
る.ところが,医師が人命救護を使命とする倫理
えぽ転送を命ずることがあっても,これに従わな
的立場から,他方みだりに診療拒否を行なうこと
ければならない.この場合の医師は何も行なわな
は許すことが出来ないという社会通念にしたがっ
くても不応需でなく,注意義務癬怠があるとすれ
て,専門科目以外の診療を行なった場合,専門外
ぽ医事専門の処理機関に委ねられるべきで,全く
を理由に責任を間われたケース(大阪地裁,昭和
別個の問題である.
38年3月26日判決,昭和33年(7)第459号)が
また,さきにもあげた救急告示機関は,医師の
不在といういままでの「正当の理由」は不応需と
あるのである.
一般に医師が事実上診療の求めに応ずることの
なり,空虚の確保とともに施設の応需義務に包含
できない事情,たとえば重患の診療中であると
される.このように一つの規定でも時代とともに
か,設備の関係等の客観的な事由のある他は,医
師の一身に属する事情として,診療に自信のない
ことはもちろん,病気で臥床以外は過労などを理
内容が変遷しつつある.重ねて述べれば,専門医
制度に逆行するようであるが,器械器具を駆使し
ない不完全な診断治療であっても,患者の利益の
ために行なわれた判断処置であれぽ,たとえ結果
が思わしくなくても緊急性の要請のため許容され
由にして診療を拒むことは出来ないとされてい
た.
一 648 一
47
引用交麟
ることは当然といわなけれぽならない.唯一つ,
1>金子義徳:予防接種について.公衆衛生26(1)
医師の留意すべきは真の緊急度の判断であって,
4(昭37)
救急車の搬入が必ずしも緊急患者でない場合に,
2)小野恵:予防接種事故の責任に関する考察.
日本公衛誌16(14)922(昭44)
3)小野 恵:予防接種の法的考察.東女医大誌
とくに専門医へ転送しないことが後目責任を問わ
れることになることである.
39(3) 207(昭44)
おわりに
国家が国民の健康を保障しようとする傾向は21
世紀に向っての世界的な趨勢であるが,その代
表ともいうべき予防接種と救急業務,更に医師
の応需義務について考察した.詳細はすでに前
4)小野清一郎:刑事補償の法理.国家学会雑誌
46(5)61(昭7)
5)田中二郎:行政上の損害賠償及び損失補償.酒
井商店 東京(昭29) 213頁
6)成田頼明=予防接種事故の法的責任とその被
害者救済.ジュリストNo.406(1968.9.15)
98頁
稿2)3)7)10)11)において述べたところであるが,本稿
においては,それらにおいて論じ切れながつた相
互の関連などをも併せて,医事に関する基本的法
理論の体系の一部として,より大綱的な立場から
論じたものである.
稿を終るに当たって,本研究を昭和44年度吉岡研究奨
励賞の対象として,校祖吉岡弥生先生の第12回忌の御命
7)小野 恵:予防接種液・予防接種事故に関する
考察.東女医大誌39(4)248(昭44)
8)唄孝 一=治療行為における患者の意思と医師
の説明.契約法大系鴨補巻 有斐閣 東京(昭
41)107頁
9)中村次雄:被害者の承諾.綜合判例叢書 刑法
1 有斐閣 東京(昭31) 151頁
10>小野 恵:救急医療の法的考察、 臼本公衛誌
17(3) ユ86(昭45)
日に当たる昭和45年5月22日,東京女子医科大学学会第
162回例会において発表の機会をお与え下さった選考委
11)小野 恵:医師法第19条第1項の問題点。東女
医大誌38(10)707∼711 (昭43)
12)華道文芸:民法研究.弘文堂書房 京都(大10)
387頁
13)牧野英一:不作為の違法性について.法学協会
員会の諸点生方へ厚く御礼を申しあげますとともに,終
始暖い御理解と御励ましを頂戴した吉岡学長ならびに衛
雑誌34(1)ユ05(大5)
生学教室諸岡教授に心から感謝いたします.
14)美濃部達吉:法律新聞 1047号 6頁(大4)
一 649 一
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