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意欲的に国際コミュニケーションに取り組む児童の育成
個人研究部門 総合的な学習の時間領域 研究主題 「意欲的に国際コミュニケーションに取り組む児童の育成」 ∼文化の同質性に視点を置いた高学年英語活動の教材開発を通して∼ 佐賀市立本庄小学校 教諭 本村 一浩 1 主題設定の理由 平成18年度の文部科学省の調査では,全国の小学校において,何らかの形で英語活動を行っているとこ ろは,95.8%にも及ぶ。ここ数年で,驚くべき広まりを見せている。多くの学校は,総合的な学習の時間 の「国際理解」の中で行っている現状だが,正式な教育課程に組まれていないものが,ここまで急速に浸 透したのは,異例のことではないか。それだけ社会的な要請が強いことの表れであろう。 英語科学習の適時性,国際化,教育の機会均等などを考えると,小学校での必修化は避けて通れない状 況となっている。中央教育審議会の報告からも,2011年度からは高学年に週1時間,英語活動必修の運び となりそうである。しかも,総合的な学習の時間の目標や内容と趣旨・性格が異なるということで,別の 領域として新設されることが話し合われている。必修化となれば,学習指導要領等において,目標・内容・ 方法・評価についてある程度の指針が出されることと思われる。しかし,今,目の前の児童に英語活動の 授業をしている我々は,そんな悠長な構えではいられない。中学校,高等学校,大学と続く英語科教育の 礎になる領域として,どのような目標を定め,どんな授業を展開していくのか,児童の関心に沿った教材 研究や教材開発が喫緊の課題である。 現在各小学校での実践は,内容的に歌やごっこ遊び,ゲームなどが広く行われている状況にある。こう いった内容は,大がかりな準備をしなくても気軽に授業に臨め,ALT(Assistant Language Teacher)と もコミュニケーションをとれることが,大きな魅力であろう。しかし,この内容と指導法では,低・中学 年ではうまくいっても,高学年では,児童の意欲がわかないことがある。知的好奇心旺盛な高学年の児童 は,単なる遊びでは満足しないことが多い。高学年の児童は,総合的な学習の時間において,自分で計画 を立てて体験活動し,課題解決をするだいご味を味わってきている。英語活動にも,学習しがいのある内 容を求めている。ましてや,現在,英語活動の必修化が考えられているのが,高学年なのである。 そこで,高学年の授業の中では,母語とは違う言語(英語)や異文化を題材とした内容を仕組み,児童の 知的好奇心を喚起しながら,国際コミュニケーションの力を付けていく展開にしたい。私は,ここ数年, 児童が異文化理解に目を輝かせる授業を目指して取り組んできた。外国の言葉や文化の違い,つまり文化 の異質性に目を向ける授業実践をしてきた。例えば,時差時計を利用した世界の時刻や,各国の単位の違 い,世界各地の地図などを教材化した。児童は,授業の中で目新しい文化や考え方に触れ,意欲的に活動 に臨んでいた。各校で公開される授業や実践発表も,文化の異質性に目を向けた内容を多く目にする。し かし,異文化理解には,両面があって,異質性と同時に同質性も存在する。基盤となる言語や生活様式は 違っても,分かり合える表現や,共有できる考え方がある。例えば,ハンドサインや標識,色のイメージ, 数学的表現,音楽的表現などがあると思われる。この同質性に目を向けた授業実践をしていけば,より深 まりのある内容となり,ALTとも実のあるコミュニケーションをとることができると考える。異文化に 目を向けながら,自国文化を見直すような高学年の英語活動指導における教材開発に取り組みたい。 以上のように考え,本題材を設定した。 2 研究の目標 小学校高学年の英語活動指導において, 異文化理解に目を向けた単元開発をして授業実践を行うことで, 意欲的に国際コミュニケーションに取り組む児童を育成する。 3 研究の仮説 小学校高学年の英語活動指導において,文化の同質性に視点を置いた教材開発をしていけば,異文化に 目を向けながらも自国文化を見直し,意欲的に国際コミュニケーションに取り組む児童が育つであろう。 -1- 4 研究の内容と方法 (1) 児童の実態の把握 ア アンケート等による調査 イ 調査結果の分析及び問題点の把握と整理 (2) 研究目標・仮説の立案 (3) 文献等による調査・理論研究 ア 英語活動必修化に関する情報収集及び国際理解教育と英語活動の関連についての理論研究 イ 英語活動の指導法や単元開発についての先行実践例調査及び理論研究 (4) 研究の仮説の検証 ア 高学年における英語活動の年間指導計画作成 イ 5年生での教材開発及び検証授業の実践 資料1 英語活動は楽しいですか ウ 検証授業の分析及び考察 (5) 研究のまとめ・成果及び課題の明確化 20 5 7 1 5 研究の実際 (1) 実態調査から (人) 0% 20% はい 本校5年2組の児童33名に,英語活動の 意識調査を行った(平成18年4月実施) 。資 料1を見ると,多くの児童が,英語活動を 楽しんでいることが分かる。児童は,これ までの授業の中で,英語を聞いて分かる喜 びを味わってきているのが見て取れる。理 40% どちらかといえばはい 60% 80% どちらかといえばはいいいえ 100% いいえ その主な理由(どちらも,自由記述を類型化したもの。複数回答) はい,どちらかといえばはい(人) いいえ,どちらかといえばいいえ(人) 英語が何となく分かるから 18 英語を話すのがいやだから 4 英語で言えるようになるから 15 英語が苦手だから 3 外国のことが分かるから 14 うまく言えないから 3 ALTとの学習が楽しいから 10 資料2 ALTやJVTとの学習は楽しいですか 由の文章を読むと,毎回,初めて出会う異 文化に心を躍らせ,自分の高まりを感じて 29 いる様子がうかがえた。しかし,この時点 3 10 で苦手意識をもっている児童も少なからず いる。その理由から,話すことに対する抵 (人) 0% 20% はい 抗感が強いようである。また,楽しい理由 として, 「外国のことが分かるから」と答え ている児童が,14人いた。資料2の楽しさ の理由にも,10人見て取れる。ALTの向 こう側に,その母国を感じていたようだ。 異文化理解について,児童の興味は,文化 40% どちらかといえばはい 60% 80% どちらかといえばはいいいえ 100% いいえ その主な理由(どちらも,自由記述を類型化したもの。複数回答) はい,どちらかといえばはい(人) いいえ,どちらかといえばいいえ(人) ほめてくださるから 19 話すときにどきどきするから 1 優しく教えてくださるから 10 外国のことが分かるから 10 分かりやすいから 9 の異質性にのみ目が向いている。今回の研究で,文化の同質性を感じさせていきたいものである。 資料2を見ると,ALTやJVT(日本人ボランティア:Japanese Volunteer Teacher)との学習には, 児童が大きな達成感や安心感を抱いているのが分かる。児童が感じていた抵抗感を減じる手立てがここ から見えてきそうである。おそらく,児童は,全体の場で発話することに苦手意識を持っているのでは ないか。個別に支援し,ほめ励ましたり,小集団での活動を仕組んだりしていくことで,コミュニケー ションに対する垣根が低くなり,意欲は高まると思われる。教室に英語が飛び交わない英語活動でもい いのでは,と考える。 (2) 実践を進めるに当たっての留意点 −理論研究から− ア 目指す児童像の設定 −意欲的に国際コミュニケーションに取り組む児童とは− 授業として,研究として取り組むからには,どういう児童に育てたいか,という目標設定が不可欠 -2- である。そこから,内容,方法,評価が自ずと定まってくる。現在は,学習指導要領に準ずる指針として, 文部科学省から「小学校英語活動実践の手引」が出されている。ここでは, 「ねらい」として「外国の人や 文化にかかわろうとするときの手段として,英語を活用しようとする態度を育成すること,すなわち,言 語習得を主な目的とするのではなく,興味・関心や意欲の育成をねらうことが重要」とされている。 また,全国的に英語活動をリードされている先生方(鹿児島純心女子大学教授 影浦 攻先生,松山大学 教授 金森 強先生,麗澤大学講師 トム・マーナー先生,京都市教育委員会指導主事 直山 木綿子先生,佐 賀県教育センター係長 宗 誠先生)のご講演を拝聴する機会を得た。どの先生方も,細かな言葉の違いは あれ,大きな柱として,児童のコミュニケーション力の育成と,言葉や異文化に対する国際感覚を養って いくことを挙げておられる。平成19年9月10日には,中央教育審議会教育課程部会が,外国語活動の目標 として「小学校段階にふさわしい国際理解やコミュニケーションなどの活動を通して,コミュニケーショ ンへの積極的な態度を育成するとともに,言葉への自覚を促し,幅広い言語に関する能力,国際感覚の基 盤を養うこと」と提案している。 それらを受け,児童の実態を鑑み,本研究では,目指す児童像を「聞いて反応する児童」 「文化の異質 性や同質性に気付く児童」と設定する。活動の中で,ALTやJVTから英語で話し掛けられたときに, 決まった話形を用いて大きな声で流暢に返す姿を目指すわけではない。内容のおもしろさを感じながら, とつとつとでもいいし,日本語でもいいから,意味のあるやり取りを行おうとする姿を「意欲的に国際コ ミュニケーションに取り組む」姿ととらえる。 イ 教材開発の4つの視点 (ア) 「聞く」 「話す」などの音声中心の活動を行う 言語活動の初期段階では,音声だけで十分コミュニケーションをとることができると言われている。 そこで,英語活動でも音声でのやり取りを中心に学習を展開し,ゲームや体験的な活動を進めていく。 特に,前述の児童の実態を考え, 「聞く」活動を中心に行う。ローマ字表記やアルファベットを言語材料 として利用することはあるが,原則として文字指導は行わない。 (イ) 「タスク・ベース」を活動に取り入れた授業を展開する 「タスク・ベース」とは,児童に受信型コミュニケーションを通して課題解決に臨ませる学習形態の ことを指す。活動の中で英語を聞き取らせることを重視している。繰り返し聞き取らせることで,発信 型コミュニケーションに転化させることができると考える。 まず,ALTなどの指示でゲームをさせたり,物を作らせたりすることで,英語を聞き取る必然性の ある場面を意図的に仕組む。そこでは,話し手の身振り手振りに着目して聞き取ろうとすれば何となく 内容が分かり,課題が解決できるという楽しさを味わわせる。そして,別のゲームや体験活動を組み合 わせ,同じ表現の英語を多く聞かせる。最後には,自然と英語が口から出るような活動を仕組む。この ような段階を経て,最終的には,場に応じた表現を選んで使えるように導いていく。 (ウ) 異文化に触れさせたり他の国や地域とのかかわりに目を向けさせたりする 英語という言語を通して,様々な国や地域の文化に目を向けさせる。中でも,ALTの母国の文化と 関連させた授業を意図的に仕組むのが効果的である。本研究では,特に,異文化と深くかかわる自国文 化への関心を高めさせる教材を開発し,実践していく。 (エ) 指導体制を工夫する −学級担任を中心としたTTで− 児童の実態から,活動中の不安を軽減するため,基本的に佐賀市のALTを活用してTTを仕組んで いく。また,佐賀大学の英語科の学生によるJVTも積極的に活用する。本校には,様々な方がTT指 導に来てくださるが,本研究では,なるべくT2を固定する形をとり,アイルランド出身のALTに来 ていただいた。ただ,英語に関する表現は外部講師に任せても,カリキュラムの立案や授業の進行は学 級担任(HRT:Homeroom Teacher)が行う。 -3- (3) 高学年における英語活動の年間指導計画作成 以上のようなことを踏まえ,高学年の英語活動年間指導計画を作成した。本校の英語活動は,総合的 な学習の時間の「国際理解」で年間 20 時間行っている。実践は,第5学年で行った。本研究の副主題で ある,文化の同質性に重きを置いた単元については,網掛けで表している。 (○内の数字は,時数を表す。 ) 5年 月 4 ○ 文化の同質性 の要素 英語に触れよう① ○ 自己紹介をしよう① ・ ローマ字で書こう ・ 名刺交換をしよう 5 ○ 自己紹介をしよう① ・ 朝食ゲーム ・ トイレットペーパーゲーム ○ 学校を案内しよう② ハンドサイン 矢印,作図 ・ ALTに学校を案内しよう 6 ・ 校内地図を作ろう 6年 ○ 英語に触れよう① ○ 何時ですか?①. ○ 世界は今何時?① ・ 時差時計を作ろう 家族構成 ○ 家族を紹介しよう② ・ お話の中の家族(サザエさん等) ・ HRT, ALTの家族 ・ 私の家族 ○ いろいろな仕事を英語で言ってみよう② ○ 将来の夢を英語で言ってみよう① ○ 外国の子どもたちの夢と比べよう① ○ 作って食べちゃおう!① ○ 数を数えよう!① ・ 1∼100 ・ 英語の説明を聞いてポップコーンを作ろう ○ 大きな大きな数① ○ 形で作ろう① ・ 立方体を作ろう ・ この数字は何? ・ 世界の国々調べ 曜日,天体 道路標識,絵文 ○ 何の記号かな② ○ 曜日と星② 字,ピクトグラム ・ いろいろな国の道路標識 ・ 曜日の名前と星の名前を比べよう ・ 何を表すのかな? ピクトグラムを作ろう ・ 星の大きさ,地球からの距離を英語で言おう 身体の長さから生 ○ 数を数えよう!① ・ 1∼50 ○ 測ってみよう!② 数学的表現 まれた単位 ○ 計算しよう!① ・ ストローロケットゲーム 立式,九九 ・ おはじきゲーム ・ 体の寸法,身の回りの物をcmやinchで測ろう アルファベット記号 英語と外来語の類似点 ○ アルファベット文字を見付けよう① ○ 外来語を探そう① ・ 身近な英語を集めよう ・ 日本語で言うと… ・ 集めよう身近な英語 ・ ALTに漢字を教えよう 季節の便り(6年も→) ○ グリーティング・カード① ・ 季節のあいさつなど ○ グリーティング・カード① 年の表し方 ○ 今年は何年?② ○ 好きな国のことを調べよう(社会科と関連)② 干支や星座 ・ 国旗,面積,人口 ・ いろいろな世界地図 ・ 干支を英語で言ってみよう。 ・ 干支と方角 ・ 年号って何? 西暦って何? ・ 地図の上を旅行しよう ○ 好きな動物を調べよう② ○ アルファベットで遊ぼう② ・ 動物のふるさとを調べてみよう ・ ローマ字と比べてみよう 象形文字 ・ 動物の英語と漢字 ・ 他の国の言葉と比べてみよう ・ アルファベットパズルをしよう ○ ALTと伝え合おう お互いの宿題,勉強など① ○ ALTと伝え合おう お互いの国の中学校など① 7 9 10 11 12 1 2 3 合計 20時間 20時間 (4) 検証授業1「数えてみよう!」 指導学級:5年2組(男子 17 名 女子 16 名 計 33 名) ア 指導者:担任とALTによるTT イ 単元とその指導について 数字は,世界の共通言語である。数量のことに関して言えば,数字の読み方は分からなくても,い ろいろな言語圏の人々とハンドサインや筆談で何とか意思の疎通を図ることができる。しかも,1桁 の数字の英語表現は,日常生活で頻繁に使用されていて,数字は子どもたちに大変なじみやすい言語 材料であるといえる。本題材では,英語の指示を聞きながら点数を競い合うゲームを仕組む。そのゲ ームで2桁の数字を扱い,ALTや友達とのやり取りの中で楽しんで発話させることをねらいとして いる。本題材では, 21∼60までの数字を扱う。 児童が無理なく数字の英語表現に親しむことができるように,段階を追って2時間の学習過程を組 む。第1時目では,日常生活に根ざした時計を使用する。時計を読んだり時刻を合わせたりする(10 分刻み)活動を通して,時針の11や12,分針の20,30,50を聞いたり発話したりする。続く第2時目(本 -4- 時)では,点数を取り合う「おはじきゲーム」を行う。ALTの英語による指示でおはじきを飛ばし,お はじきが止まった場所の点数を獲得できるというゲームである。 3回連続して行い, 合計得点を競い合う。 合計得点を言い合わせることで,自然に英語で表現したい気持ちを喚起したい。第2時目に関しては,ま ず,ALTとのやり取りを繰り返し行い,児童にたくさん聞かせることで,2桁の数字や足し算について 聞き話す力を培っていきたい。次に児童同士の活動に移行する。自信をもって発話できるように,HRT とALTで机間指導を行い, 個別に発問したり答え方を共に考えたりして繰り返し英語表現を聞かせたい。 最後に,他の四則計算や,小数,分数の英語表現を紹介して児童の知的好奇心をくすぐり,言葉や異文化 に関する興味・関心も高めていきたい。 ウ 進 程 2/2 第1時…11∼20,30,40,50の英語での言い方を知り,時計の読み方を通して2桁の数字に親しむ。 第2時…21∼60までの英語での言い方を知り,ゲームを通して2桁の数字を発話する。 (本時) エ 本時の目標 尋ねられた英語の問いに対して,適切な反応をすることができる。<英語を聞き話す力> A ,○ B ,●達成不十分) オ 展開( …評価 判定基準…A十分達成,Bおおむね達成 評価後の指導…○ 学習活動 HRTの働き掛け ALTの働き掛け 1 英語でALTとあいさつする。 ・ 自分の体や心の状態によって ・ 英語で子どもたちとあい さつする。 返し方を変えることを伝える。 ・ 全体で ・ 数字表や時計を使って, ・ 個別で 前時に学習した内容を押さ 2 前時の学習を想起し,本時のめ ・ 本時は,新たな数字を使うこ える。 とを知らせる。 あてを知る。 ・ 1∼20,30,40,50 ゲームを通して,英語で数を言ってみよう! ・ 言い方のリズムを大切に させ,順に,逆に,ランダ ムに復唱させる。 ・ ゲームシートに数字を記 入させ,ゲームの説明をす る。 ・ 英語でゲームを進め,獲 得した点数を表に記録させ る。 ・ 足し算の式を英語で言わ せ,合計得点を確かめる。 ・ 全体の場で数人を指名し, 尋ねる人: How many points (did you get)? 尋ね方と答え方に慣れさせ 答える人: 8 plus 10 plus 5 is 23. 23 points. る。 ・ グループ内で2∼3回戦を行 ・ 得点を発話しながらゲームを ・ 各グループに入り,子ど もと共に点数を尋ねる。 進めるよう促す。 い,英語表現で点数を確かめ合 う。 <英語を聞き話す力> 3 新たな数字を学習する。 ・ 21∼60について,ALTの発 音を復唱する。 4 「おはじきゲーム」をする。 ・ グループを作る。 ・ 英語を聞き取って準備する。 ・ 1回戦を行う。シート上でお はじきを3回飛ばし,獲得した 点数を競う。 ・ グループ全員が終わったら, 点数を確かめる。 ゲームシート ・ 数字表を用い,数の言い方に は規則性があることを押さえ る。 ・ ALTの説明を板書や図でサ ポートする。 ・ ALTと共に実演を行う。 ・ 1回戦は,グループでの対抗 戦にし,他のグループの点数を 聞いてみたいという場を設定す る。 ・ 文例を示す。 尋ねられた英語の問いに対して,適切な反応をすることができる。(発話) A 合計得点を英語で発話することができる。 A ○ 賞賛し,尋ねる方も積極的に発話するように勧める。 B 問いに反応し,合計得点を言葉で伝えることができる。 B 文例や数字表を示したり,ALTに聞きに行くよう促したりする。 ○ ● 得点と数字表を対応させながら発話を促す。 5 他の数学的事項に関する英語表 ・ 数学的表記は,言葉が違って ・ ALTの母国,アイルラ 現を知る。 いても,同じことを表すことを ンドでの四則表現や数の言 押さえる。 い表し方を紹介する。 -5- 6 本時の学習を振り返る。 ・ 振り返りカードに書く。 ・ 振り返ったことを発表する。 振り返りのポイント ・できるようになったこと ・おはじきゲームをして感じたこと ・ 振り返りのポイントを基に子 ・ 子どもたちの書く姿に寄 どもの学びを価値付ける。 り添い,英語や身体表現で ほめ,励ます。 カ 活動の様子と考察 本時は,ALTの英語を聞き取らせて課題解決に向かわせる「タスク・ベース」の考えを基に授業を進 めていった。ALT が Please write No.20 here. Next, please write No.10 here and here. などと 「おはじきゲーム」の準備やルールを説明し, First, you put it on start line. Second, you flick it. F-L-I-C-K! などと言ってゲームを進行していった。授業の中で,子どもたちは,ALTの言葉を聞いた り身振りを見たりして,聞いていれば何となく分かる楽しさを感じていたようだ。 1回戦はグループ対抗で行った。教室内の8グループで1人1回ずつおはじきを飛ばした後,1グルー プずつその結果を聞いていった。 ALT Now, 1st group, how many points did you get? Everybody answer. 児 童 Twenty two. (グループで言う。 ) ALT Yes, 10 plus 10 plus 1 plus 1 is 22. You got 22 points. 以上のようなALTとのやり取りを何度も聞かせていった。児童 は,問われている意味の大体をとらえ,英語で反応していた。ここ では,数学的表現(足し算の数式)に目を向けてほしいというねら いがあったので,単に点数を聞くだけでなく,ALTは足し算の数 式に言い直して繰り返し発話していった。 すると, 8グループを順々 に尋ねていったところ,児童は次第にリズムに慣れ,ALTの発話 写真1 机間指導するALT に合わせて唱和し始めた。やり取りを重ねていくにつれ,ALTよ り先に言い出す児童がいて,たっぷり聞かせることで発話が促され ていったことがうかがえる。また,児童は,競争心から真剣に他の グループのやり取りを聞いていた。 「他のチームは,何点だろう」と 知りたい欲求が自然にわき,資料3のように,点数を気にしている うちに少しずつ英語でのやり取りが分かり, 発話につながっていた。 2回戦では,グループ内の対抗戦にした。児童の各々がおはじきゲ ームを楽しみ,点数を競った。点数を確かめる場面では,ALTや 写真2 数学的表現について話す ALT HRTが個別指導に回り(写真1) ,聞き取った言い回しを使って発話することができたと考える。 終末で,児童は,まずアイルランド出身のALTが数式( 「7−2=○」 )を読めることに驚いた。日本 独自のものと考えていたのである。次に,ALTが四則計算を理解し,九九に似たもの( Times table ) を学習していたことを知ると,更に驚いていた。資料4からは,文化の同質性や異質性について感心して いる様子がうかがえる。英語という窓から異文化や自文化をかいま見せることができたと考える。 資料3 児童の振り返り① 資料4 児童の振り返り② -6- (5) 検証授業2「英語と漢字」 指導学級:5年2組(男子 17 名 女子 15 名 計 32 名) ア 指導者:担任とALTによるTT イ 単元とその指導について 本題材では,アルファベットや漢字などの文字を学習材として用いる。動物に関する英語に親しま せながら,我が国の文化である漢字に目を向けさせる。ALTや友達とコミュニケーションをとりな がらアルファベット表記と漢字表記を比べさせることで,表音文字と表意文字の違いに気付かせるこ とをねらいとしている。英語圏と漢字圏のお互いの文字文化の異質性に触れさせたり,異なる言語を 越えて理解される漢字の記号的な意味にも目を向けさせたりしたい。 第1時目で,様々な動物の食べ物やすみかなどの3ヒントクイズやカードゲームをして,動物の英 語表現に親しませる。続く第2時目(本時)では,漢字クイズ「この動物は何? クイズ」を3段階で 行う。この活動では,すべてALTが英語で指示し,聞き取ろうとすれば何となく意味がわかる喜び を味わわせたい。最初は,既知の英語表現を組み合わせた熟語を提示し,何の動物を表すかを問うク イズを出題する。例えば, sea and pig と提示し,この動物は何か問う(答え…海豚〔dolphinイ ルカ〕 ) 。子どもたちは,英語から感じるイメージを基に動物の形状やすみかに思いをめぐらせ,答え を考えていくであろう。次に,動物等を表す部首を組み合わせてできる漢字について問うクイズを出 題する。例えば fish and tiger と提示し,この動物は何か問う(答え…鯱〔killer whaleシャチ〕 ) 。 クイズに慣れてきた児童は,部首として原型を変えた漢字にも意味を当てて考えていくと思われる。 最後に, 漢字の基となる絵文字を提示し, ALTと共に絵文字が意味する動物を考えさせていきたい。 子どもたちの知的好奇心をくすぐり, 文字文化の異質性と同質性にも興味・関心をもたせていきたい。 ウ 進 程 2/2 第1時…いろいろな動物やその食べ物, 住みかなどを知り, その英語表現を聞いたり言ったりする。 第2時…クイズを通して自分が知っている動物の名前を英語と漢字で考え,両方の文字文化に触れ る。 (本時) エ 本時の目標 自分が知っている動物の名前をアルファベット表記と漢字表記で見比べ,その文字のもつ特性につ いて気付く。 オ 展開( <言葉や異文化に対する関心・意欲・態度> …評価 判定基準…A十分達成,Bおおむね達成 評価後の指導…○ A ,○ B ,●達成不十分) 主な活動 HRTの働き掛け ALTの働き掛け 1 英語でALTとあいさつする。 ・ 自分の体や心の状態によって ・ 英語で子どもたちとあいさつ ・ 全体で あいさつの返し方を変え るこ する。 ・ 個別で とを伝える。 2 前時の活動を想起し,本時の ・ 本時は,様々な動物の名前を ・ これまでに触れた動物の名前 めあてを知る。 使い,漢字にアプローチするこ を絵カードと共に振り返る。 とを知らせる。 英語を聞いて漢字クイズに答えて,英語と漢字の違いを考えよう! 3 「この動物は何?クイズ」を ・ 最初に,ALTの指示を聞き ・ 英語の指示でクイズを始める。 絵カードを用いて,動物等の言 する。 取り,クイズ①・②ではグルー 葉を組み合わせ,出題する。 ① 漢字熟語で表される動物 プで解くことを説明する。 を考える。 話し手 聞き手 例)sea and pig …海豚(イルカ) ・ Are you ready? Yes! bear and cat …熊猫(パンダ) ・ This animal means sea and pig in Kanji. ・ What animal is this? -7- It s ○○. ② 動物等を表す部首を組み ・ 動物の形が変わってできた部 ・ クイズ①・②は,ALTの出 首については,説明を加える。 合わせてできる答えを考え 題による一斉授業で行う。 る。 例)fish and tiger …鯱(シャチ) dog and village …狸(タヌキ) ③ 絵文字のカードを見て動 ・ ③では,グループを作らせ, ・ 各グループに入り,子どもと 子どもたちに進行させる。一人 物を考え,英語で答える。 共に考えてゲームを進める。 ずつ順番にカードを引いた子 ・ 子どもが動物の名前を日本語 例) が尋ね,残りの子が答える形態 で言うときは,そばに行って発 で進める。ALTと共に実演し 話して聞かせる。 てみせる。 鳥 魚 4 ゲームで感じた英語と漢字 ・ ALTに簡単な漢字(象形文 ・ HRTとのやり取りを通し の特徴について考える。 て,自分自身の漢字についての 字)を提示して意味を答えさせ, 思いや,自国の文字文化とアル 漢字は,どの言語圏の人でも理 ファベットとの異質性や同質 解しやすい文字であることに気 性について話す。 付かせる。以前学習したピクトグ ラムや数字の例から関連付ける。 <言葉や異文化に対する関心・意欲・態度> 5 本時の学習を振り返る。 ・ 振り返りカードに書く。 ・ 振り返ったことを発表する。 振り返りのポイント ・ 初めて知ったこと ・ 漢字とアルファベットを 比べて考えたこと 自分が知っている動物の名前をアルファベット表記と漢字表記で見比べ,そ の文字のもつ特性について気付く。 (ふり返りカード,発言) A 本時で学んだことを基に,今後の調べ活動へ発展できることを書いたり発表 したりしている。 A 賞賛し,今後も調べ活動を続けるよう促す。 ○ B 漢字とアルファベットの違いについて気付いたことを書いたり発表したりしている。 B 動物以外の言葉へも関心が向くような言葉掛けをする。 ○ ● 本時で使った絵カードや板書などを示しながら共に振り返る。 ・ 振り返りのポイントを基に子 どもの学びを価値付ける。 資料5 クイズ①例 カ 活動の様子と考察 指導案の例以外にも,HRTとALTは資料5のような クイズをたくさん用意し,出題していった。写真やイラス トと英語による漢字クイズは,児童の心をとらえた。例え 海(sea)+月(moon)=海月(クラゲ jellyfish) + = ばクラゲで言うと,黒板には, 「海月」という漢字と海と月 の絵が見えている。そこに, sea and moon…What animal is this? というALTの英語が聞こえてくる。児童は,視覚 袋(bag)+熊(bear)=袋熊(コアラ koala) 的には,絵と漢字,聴覚的には英語という状態で,2つの 文化の違いを感じながら,知的好奇心を喚起させるクイズ + = を楽しんでいった。耳でしっかり聞いて,連想される動物 を答える。これらの動物名は,先月や前時に学習している のだが, 日本語で答えても構わないことにしていた。 要は, 河(river)+馬(horse)=河馬(カバ hippo) 英語を聞いて反応することである。 クイズに熱中し出すと, 児童は英語だとか日本語だとかにはほとんどこだわらずに, 正解を目指して一心に考え,答えていた。 -8- + = 資料−6 クイズ③絵文字カード例 鼠 牛 虎 兎 龍 巳 写真3 ゲームに入るALT 漢字熟語のクイズ①,部首を組み合わ 馬 羊 猿 鶏 犬 魚 せたクイズ②を経て,児童は,絵文字カ ードを見て動物の名前を当てるクイズ③ に入った。資料6の絵文字は,漢字になる前の,中国のいにしえの象形文字である。ゲームの説明は, 「タ スク・ベース」で行い,ALTとHRTが範示しながら,英語で説明していった。児童は,カードを繰り, この授業で何度も聞いて覚えていた What animal is this? をお互いに言い合い,じっと見ていれば何 となく動物の姿が,あるいは漢字が見えてくるカードに夢中になっていた。ALTが,机間指導をして回 ってくると,クイズに参加して正解していくことに児童は驚いていた。ALTには,クイズ③の問題や答 えを教えていない。そこで児童は,私たちが使っている漢字は,物の形からできたものが多く,異文化を もつ人が見ても分かる可能性があることに気付いていた。 授業の最後には,図1のような漢字の成り立ちの図をALTに見せた。日本人ならば,漢字入門期に必 ず目にしたことのある図である。HRTが何を意味するか尋ねると,すべて答えることができた。驚く子 どもたちに,実は,以前から知っていたことを知らせた上で, 「山」だけは分からなかったと言った。 「自 分(ALT)の母国・アイルランドには高い山がなく,字の形を見たときは王冠かと思った。 」と言ってい た。この言葉には,児童よりも,この授業を参観していた大人が大きくうなずいていた。 資料7の振り返りからは,漢字が外国の人にも分かることに驚いている様子がうかがえる。また,資料 8からは,漢字は意味を表す表意文字であり,アルフ ァベットは記号としての表音文字であることにうすう す気付いていることがうかがえる。その上で,意味を もたないアルファベットの方が難しいという感想をも つことができていた。英語を学習しながら,我が国の 文化である漢字に目を向け,その特性に気付き,他の 図−1 漢字の成り立ちの図 言語との比較ができたと考える。 資料7 児童の振り返り③ 資料8 児童の振り返り④ (6) 児童の変容 本校5年2組の児童に, 再び英語活動についての意識調査を行った (平成 19 年4月, 進級して6年2組, -9- 資料9 英語活動は楽しいですか 30 名) 。次ページの資料9を見ると,児童の 意識が変わっていることがうかがえる。一番 22 6 20 の収穫は,苦手意識をもつ児童が減ったこと である。異文化理解に目を向けさせる教材開 (人) 0% 20% はい 発をしたことと, 「タスク・ベース」を用いて 聞くこと中心の活動にしたことが大きな理由 かと考えられる。 「どちらかといえばいいえ」 の「同じ英語ばかり話すから」というのも, たっぷり聞かせることが目的で,何度も同じ 40% どちらかといえばはい 60% 80% どちらかといえばはいいいえ 100% いいえ その主な理由(どちらも,自由記述を類型化したもの。複数回答) はい,どちらかといえばはい(人) いいえ,どちらかといえばいいえ(人) 英語が何となく分かるから 17 同じ英語ばかり話すから 1 英語で言えるようになるから 14 英語が苦手だから 1 ALTとの学習が楽しいから 13 新しいことを知ることができる 10 表現を繰り返して聞かせたためかと思われる。 意欲的に国際コミュニケーションに取り組む 表1 次の5年生に「オススメの英語活動」 (1人3つ選び合計したもの,網掛けは主な理由) 順 単 元 人数(人) 1 動物の英語と漢字 25 じる子が劇的に増えることはなかったものの, 漢字クイズが楽しかった,漢字を調べてみたいと思った,外国の人に 話すことに抵抗をもつ子が大きく減ったのは, 漢字が分かるのがびっくりした,昔の字に興味をもった 等 2 作って食べちゃおう!(ポップコーン作り) 23 「聞いて反応する児童」に育ってきているた 英語を聞いて作るのがおもしろかった,食べる活動だったから,初め めと考える。 て作ったから,意外と上手にできたから 等 3 ピクトグラムを作ってみよう 19 また,文化の同質性に目を向けた効果とし 世界共通の標識が作られてよかった,自分がかいたものがALTに通 て, 「外国のことが分かるから」という理由は じたから,色を工夫して作るのが楽しかった 等 6人となり, 「新しいことを知ることができる 4 計算しよう!おはじきゲーム 18 知らないうちに数が言えるようになっていた,足し算の言い方が言える から」という理由が多くなっている。自文化 ようになったから,グループで合計するのが楽しかった 等 を見つめたことにより,新たな活動の楽しさ 5 干支を英語で言ってみよう 15 家族やALTの干支を調べるのが楽しかった,干支ボンゴが楽しかっ が児童の中に芽生えたものと考える。 た,たくさんの動物を英語で言えるようになった 等 児童の育成を目指してきて,話す楽しみを感 7 研究の成果 上記のアンケートで, 「オススメの英語活動」題材について,各人3つずつ選んでもらい,集計した(表 1) 。 上位5つのうち, 4つまで文化の同質性に視点を置いた題材が選ばれている。 主な理由を見てみると, 児童が異文化や自文化に目を向けて,知的好奇心を満たされているのがうかがえる。今回の研究に当たっ て,本校の年間指導計画を大きく書き替えたが,その成果が表れたものと考える。 また,ALTを極力固定したことで,ALTと児童の間にとても良好な関係ができてきた。表1の理由 にもALTに関するもの(下線部)が見られる。異文化理解は,人を通して行われる。児童がALTを通じ て文化の異質性や同質性を感じることができたのは,国際理解教育の上で大きな成果であったと考える。 8 今後の課題 文化の同質性からの切り口は,音楽的表現,映像的表現,食文化など,まだ研究の余地があると思われ る。 日本文化を外国に紹介する活動も考えられる。 これらを異質性の視点と絡めて教材開発をしていけば, 魅力的な活動を児童と共有できるであろう。英語活動の高学年必修化に向けて,優れた実践に学びつつ, 目の前の児童を伸ばしながら,不断の努力を続けていきたい。 ≪参考文献≫ ・ 文部科学省 『小学校英語活動実践の手引』 2001年 開隆堂出版 ・ 金森 強 『小学校の英語教育―指導者に求められる理論と実践』 2003年 教育出版 ・ 小泉 清裕 『みんなあつまれ! 小学生のえいごタイム 小学校4−6年編』 2002年 アルク ・ 日本放送協会『スーパーえいごリアン 2006年度 2学期』 2006年 日本放送出版協会 ・ 京都市小学校英語活動研究会 『京都発!世界の人とつながるために』 2005年 ・ 白川 静 『常用字解』 2003年 平凡社 -10-