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3章 計数の統計と誤差の評価

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3章 計数の統計と誤差の評価
3 章 計数の統計と誤差の評価
• 放射線崩壊はランダム過程であるのでその観測による測定は統計的変動を受ける。これが誤差の主因と
なる。
• 計数の統計の意義
放射線の装置が正常に動作しているかの確認
1 回の測定のさいの精度を評価することが可能
1 データの特性の表し方
• まず同じ物理量にたいして N 回測定を行い、N 個の観測結果の集合があるとする。
x1 , x2 , x3 , . . . , xi , . . . .xn
このデータの基本的な特性は次の 2 式で与えられる
∑
≡
n
∑
xi
(1)
/N
(2)
i=1
xe ≡
∑
またデータの組を表すのに度数分布関数 F (x) を用いると便利なことが多い
F (x) ≡
x という値が起こる回数
・・・(3.3) 式
測定の回数 (= N )
∞
∑
F (x) = 1
(3)
(4)
x=0
この F (x) を使って平均値を計算すると
x¯e =
∞
∑
x · F (x) となる・・・(3.5) 式
(5)
x=0
• 次にデータの組でのパラメーターを表すもう 1 つのパラメーターとして標本分散を導く
1. データの点の実験的平均値からのずれを残差 (di ) と定義する
di ≡ xi − x¯e
x¯e : 実験的平均値
(6)
2. データの点の真の平均値からのずれを偏差 (²i ) と定義する
²i = xi − x̄
x̄ : 真の平均値
(7)
3.2 からこれらの2乗偏差として標本分散 (s) を定義する
N
1 ∑
s2 ≡ ²¯2 =
(xi − x̄)2・・・(3.8) 式
N i=1
1
(8)
4. 残差 di を使って表すと
1 ∑
(xi − x¯e )2・・・(3.9) 式
N − 1 i=1
N
s2 ≡
さらに式 (3.8) を変形して
s2 =
∞
∑
(x − x̄)2 · F (x)
(9)
(10)
x=0
これを展開して
s2 = x¯2 − (x̄)2
(11)
2 統計モデル
• バイナリー過程 ・・・ 個々の試行が 2 つの結果 (当たりと当たりでない) のみ可能な過程
2.1 2 項分布
P (x) =
n!
px (1 − p)x−n
(n − x)!x!
(12)
P (x):2 項分布の確率分布関数 p:当たりの確率 n:試行の回数 x:当たりの回数
*ただし P (x) は n, x の整数値にたいしてのみ定義される
• 2 項分布の性質
1. 規格化されている
n
∑
P (x) = 1
(13)
x=0
2. 平均値は次式で与えられる
x̄ =
n
∑
x · P (x) → x̄ = p · n
(14)
x=0
• 予想分散 (σ 2 ) : ある特定のモデルによって予想される平均値のまわりの散らばり方の尺度
σ2 ≡
n
∑
(x − x̄)2 · P (x)
(15)
x=0
また σ は次式のようになり、この σ を標準偏差という
σ=
√
x̄(1 − p)
2
(16)
2.2 ポアソン分布
• 当たりの確率が一定でかつ小さい場合 2 項分布は次のように書ける
P (x) =
(pn)x e− pn
x̄x e−x
=
x!
x!
(17)
*ただし以下の近似を使った
n!
' nx
(n − x)!
(1 − p)n·x ' e−pn
(18)
*この近似によって x̄ という1つのパラメータだけになった
• ポアソン分布の性質
1. 規格化されている n
∑
P (x) = 1 (19)
x=0
2. 平均値は次式で表される x̄ =
n
∑
x · P (x) = pn・・・(3.26) 式
(20)
(x − x̄)2 · P (x) = pn・・・(3.27) 式
(21)
x=0
• 予想分散
σ2 ≡
n
∑
x=0
(3.26),(3.27) 式より
σ=
√
x̄
(22)
2.3 ガウス分布
• ポアソン分布の平均値が大きい場合さらに簡略化できる
P (x) = √
1
(x − x̄)2
exp(−
)
2x̄
2πx̄
(23)
• ガウス分布の性質
1. 規格化されている
n
∑
P (x) = 1
(24)
x=0
2. 分布は単一のパラメータ x̄ によって特徴づけられる。* x̄ = np
3. 予想分散はやはり x̄ に等しい
• ガウス分布の重要事項
1. 分布は x̄ のまわりで対称であるので P (x) は x の平均値からの偏差の絶対値で x − x̄ にのみ依存
2.x̄ は大きいので x の近傍の値に対する P(x) の値は互いにあまり大きく異ならない
3
これらの性質からガウス分布は次式のような連続関数によって書き直せる
√
G(²) =
ここで x̄ = σ 2 を上の式に代入し t ≡
2 (−²2 /2x̄)
e
πx̄
(25)
²
σ とおくと
√
G(t) = G(²)σ =
2 −t2 /2
e
π
(26)
*ただし t は標準偏差 σ で規格化した偏差の観測値 ² = |x − x̄|
• 誤差関数 : ガウス分布で予測される規格化された偏差 t がある値 t0 より小さくなる確率を表す関数
∫ t0
G(t)dt ≡ f (t0 )
(27)
0
3 統計モデルの応用
3.1 変動量の観測値が統計変動量の予想値と一致するか否かを調べるための計数系の検定
• まず (3.3),(3.5),(3.9) 式を用い x¯e , s2 を計算する
⇓
x̄ = x¯e として平均値の大小によりポアソン分布かガウス分布にあてはめる
⇓
F (x) と P (x) を比較
*定性的でしかない
⇓
2
そこで σ と s2 を比べる ⇓
この比較を定量的に行うのがカイ2乗検定法
• カイ2乗検定法
χ2 ≡
N
1 ∑
(xi − x¯e )2
x¯e i=1
(28)
(N − 1)s2
x¯e
(29)
標本分散との関係は
χ2 =
ここで s2 = σ 2 , σ 2 = x̄ , x̄ = x¯e としたので、χ2 は統計的自由度 ν = N − 1 を使って
χ2
s2
s2
=
= 2
ν
x¯e
σ
上の式がどれだけ1よりずれているかが観測された標本分散と予想分散とのずれを示すものとなる
4
(30)
3.2 1 回の測定における精度の評価
• 1 回の測定値 x を x = x̄ と仮定する
⇓
ポアソン分布かガウス分布を選択すると P(x) が定義でき σ 2 の値も得られる
⇓
s = σ 2 を仮定すると s2 = σ 2 = x̄ ' x
2
よって
√
⇓
s2
'σ=
√
x と結論づけることができる
• さらにガウス分布であると仮定すると
√
x̄ が x ± x の範囲にある確率は 68% となる
• 1回の測定での相対標準偏差 ・・・
σ
x
4 誤差の伝播
• 誤差伝播式
(
2
σ =
∂u
∂x
)2
(
σx2
+
∂u
∂y
)2
(
σy2
+
∂u
∂z
)2
σz2 + . . .・・・(3.37) 式
(31)
u:計数値から導かれた任意の量
* x, y, z は独立変数でそれらに対する σx , σy , σz , . . . は既知であるとする
4.1 計数値の和または差の場合
u=x+y
∂u
=1
∂x
• (3.37) 式より
u=x−y
(32)
∂u
= ±1
∂y
(33)
σu2 = (1)2 σx2 + (±1)2 σy2
(34)
√
σu =
σx2 + σy2
(35)
4.2 定数との積または定数による割り算
• u を次のように定義する (積の場合)
u = Ax
∂u
=A
∂x
A : 定数
(36)
(3.37) 式より
σu = Aσx
5
(37)
• 計数率
計数率 ≡ γ =
x
t
t : 時間
x : 計数
(38)
4.3 計数値の積または割り算
• u = xy の時
∂u
=y
∂x
∂u
=x
∂x
両辺を u2 = x2 y 2 で割ると
• u=
x
y
(
(40)
σu2 =
( )2
(
)
1
x
σx2 + − 2 σy2
y
y
(41)
(
)2
の時
両辺を u2 = x2 /y 2 で割ると
よって u = xy
σu
u
(
(39)
)2 ( )2
σy
+
y
σu
u
)2
σu2 = y 2 σx2 + x2 σy2
=
(
=
σx
x
σx
x
)2 ( )2
σy
+
y
(42)
u = x/y の場合、u の相対誤差の 2 乗は x.y の相対誤差の 2 乗の和となる
4.4 多数系の独立した計算の平均値
• 同じ線源について同一の測定時間の計数値を N 回記録した時
Σ = x1 + x2 + . . . + xN
(3.37) 式を用いて
∑
(43)
の誤差を求めると
2
σΣ
= σx21 + σx22 + . . . + σx2N
また σxi =
√
(44)
xi より
2
σΣ
= x1 + x2 + . . . + xN = Σ
σΣ =
√
Σ
(45)
平均値を計算すると
x̄ = Σ/N
σx̄ = σΣ/ N =
√
Σ/N =
√
(46)
√
N x/N
σx =
x̄
N
(47)
4.5 誤差が等しくない独立した測定の組み合わせ
• N 回の独立した測定を行いそれらの精度が等しくない場合それぞれの測定値 xi に重率 ai があるとして
最適値 hxi を次式で算出する
hxi =
N
∑
i=1
6
ai xi
/∑
N
i=1
ai
(48)
• ai を選ぶ時の判定条件
∑N
α ≡ i=1 ai とすると
1∑
ai xi
α i=1
N
hxi =
ここで (3.37) 式を適用し、β ≡
2
σhxi
=
∑N
i=1
a2i σx2i とおくと
)2
N (
∑
∂hxi
i=1
(49)
∂xi
1∑
N a2i σx2i = β/α2・・・(3.46) 式
α i=1
σx2i =
(50)
2
• σhxi
を最小にする方法
2
(3.46) 式で σhxi
を aj で偏微分しこれを 0 とおく
0=
ここで
∂α
∂aj
=1
∂β
∂aj
2
∂σhxi
∂aj
=
∂β
∂α
α2 ∂a
− 2αβ ∂a
j
j
α4
(51)
= 2aj σx2j に注目すると
1
β
1
(2α2 aj σx2j − 2αβ) = 0 よって aj = · 2 となる
4
α
α σ xj
(52)
重率計数を規格化するため α = 1 とすると
[N
]−1
1 ∑ 1
となる
aj =
σxj i=1 σxj
よって hxi の最小の誤差は
2
σhxi
= β となり
1
2
σhxi
=
N
∑
1
σ2
i=1 xi
(53)
(54)
5 計数実験の最適値
• 誤差伝播の原理は計数実験における統計誤差を最小にする目的に応用できる
例)定常的なバックグラウンドが存在する場合に長寿命の放射線源の正味の計数率を測定する場合
線源のみによる計数率
S=
N2
N1
−
TS+B
TB
(55)

S : バックグラウンドなしの線源



B : バックグラウンドによる計数率
TS+B , TB : それぞれの測定における測定時間



N1 , N2 : それぞれの測定における全計数値
誤差伝播の結果を応用すると
[
B
S+B
+
σS =
TS+B
TB
7
(56)
] 12
(57)
これを 2 乗し微分すると
2σS dσS = −
S+B
B 2
dT
−
dTB
S+B
2
TS+B
TB
(58)
dσS = 0, TS+B + TB = 一定 と仮定すると
√
¯
TS+B ¯¯
S+B
=
¯
TB 最適
B
• 性能指数
1
T
(59)
(計数実験を特徴づけるのに用いられる)
(3.54) 式で与えられる最適分割された計数時間を選び、² ≡ σ/S とすると次式が得られる
1
S2
√
= ²2 √
T
( S + B + B)2
(60)
6 検出可能の限界
• 検出限界の設定 ・・・ ある計数系に対し信頼して検出しうる最小の信号を設定すること
未知の試料の正味の計数
NS = NT − NB
NT : 未知の試料での計数値、NB : 試料なしでのバックグラウンド計数 (61)
この NS が限界値 LS より大きいと NT と NB , NS はガウス分布に従いその標準偏差は
2
2
2
σN
= σN
+ σN
S
T
B
(62)
(1) 真の放射能は存在しない場合
N¯T = N¯B となるので N¯S = 0
標準偏差は
σNS =
√
2
√
2
2σN
= 2σNB
B
(63)
また表 3.4 のガウス分布のところに注目し限界値を選定すると
LC = 1.645σNS = 2.326σNB・・・(3.61) 式
(64)
(2) 真の放射能が存在する場合
・ 偽りの否定の割合が受容できるレベルまで減じられる十分大きな NS の平均値を与えるのに必要な
線源強度を放射能の MDA であると定義する
・ 偽りの確率 5% は認められるとする
ここで NS の分布で LC 以上の面積が 95% であることを確かめる方法は正味の NS の最小値を ND と
すると
ND = LC + 1.645σND
(65)
第 1 近似として ND ¿ NB とおき (3.61) 式を用いると
ND = 4.653σNB
8
(66)
より厳密な導出をすると
√
2NB + ND となり ND ¿ NB と (して展開し 3.64) 式を用いると
(
)
√
4.653σNB
σND = 2NB 1 +
4NB
√
最後にすべての変動は計数の統計であると仮定すると σNB = NB となるのでこれを用いると
σND =
ND = 4.653σNB + 2.706・・・(Currie の式)
(67)
(68)
この ND をつかって最小検出可能放射能 α は次式で求められる
α=
ND
f ²T
(69)
²:絶対検出率、T :試料あたりの計数時間、f :崩壊当たりの放射線の収率
7 時間間隔の分布
• ポアソンランダム過程 ・・・ 単位時間内に発生する確率が一定なであるという特性を持つランダム過程
7.1 隣接事象間の間隔
I1 (t)dt = P (0) × rdt・・・(3.69) 式

 I1 tdt : 遅れ時間 t の後 dt の間に次の現象が起こる確率
P (0) : 0 から t までに事象がまったく起こらない確率

rdt : 1 つの事象が dt の間におこる確率
(70)
(71)
P (0) の項はポアソン分布に直接従うので (3.24) 式より
よって (3.69) 式は
平均時間の間隔の長さ
P (0) = e−rt
(72)
I1 (t)dt = re−rt dt・・・(3.71) 式
(73)
∫∞
tI1 (t)dt
1
=
t̄ = ∫0∞
r
I1 (t)dt
0
(74)
7.2 次の事象までの時間測定
• ランダムな時刻を時間の起点としても (3.71) 式と同じ式になり同じ平均値をもつ
• ランダムに選ばれた時刻は長い時間間隔を選ぶ傾向にある
9
7.3 時間間隔の分布
• デジタルスケーラ ・・・ N 個の入力パルスが蓄積されてはじめて出力パルス 1 個を発生する
• 時刻 t の間に (N − 1) 個の事象がスケーラで観測され、この時間後の微小時間 dt の間に次の事象が起
こるとすると
IN (t)dt = P (N − 1)rdt
ポアソン分布の式を用いると
IN (t)dt =
(75)
(rt)N −1 e−rt
rdt
(N − 1)!
(76)
IN (t) のグラフは N が大きくなると曲線は平坦な間隔となる
その平均の間隔は
∫∞
tIN (t)dt
N
t̄ = ∫0∞
=
r
I
(t)dt
N
0
(77)
確率が最も大きくなる時間間隔 t は
dIN (t)
=0
dt
よって
10
t|最大 =
N −1
r
(78)
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