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映像作品から読み解く喫茶店の社会学
中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート 映像作品から読み解く喫茶店の社会学 塚本 ※※※ ※※※ TSUKAMOTO 中京大学現代社会学部現代社会学科 学籍番号 C11***** 1 . は じ め に : 研 究 主 題 ( 私 の 関 心 ) 名 古 屋 で は 喫 茶 店 文 化 が 盛 ん だ と い わ れ て い る 。 特 に 愛 知 県 の 一 宮 市 が モ ー ニ ン グ と い う文化で有名である。そんな一宮市の隣の稲沢市に住んでいる私としては喫茶店とは日常 に一部であり、珍しいという感覚は全くなかった。だからこそ、映像作品に映る喫茶店の 姿にたびたび疑問に思うことがある。運命の出会い、事件の推理、そんなこと私の周りの 喫茶店で、あったらあったで驚きであるが、起こったことは一度もない。私の経験する喫 茶店から考えるとデフォルトされたもののように感じてならないのだ。そこで映像作品の 描く喫茶店とは人々の理想に近いものなのではないかと私は推論した。そんな些細な違和 感 か ら 映 像 作 品 の 喫 茶 店 に 興 味 を 持 ち 研 究 を 行 う 次 第 に 至 っ た 。 2 . 喫 茶 店 の 歴 史 そ も そ も 喫 茶 店 と は 1 6 5 0 年 の コーヒー・ハウス が起源といわれている。これはヨ ーロッパ初であり、新聞や雑誌を読んだり、政治を論じたりと男社会の交流場であった。 コーヒーとタバコ片手に討論している絵は歴史の教科書に載るほど、イギリス民主主義に 大きな影響を与えるものとなった。『名古屋の喫茶店』(大竹敏之,2010)に、とある喫 茶 店 の マ ス タ ー の イ ン タ ビ ュ ー に こ の よ う な 言 葉 が 残 さ れ て い た 。 「コーヒーには他者を結び付ける力がある。コーヒーを介して対話することで自然と心が 通 い 合 え る ん で す 。 」 会議室や図書館ではなく 喫茶店という場所でコーヒーを飲みながら話し合う 1 とい 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート う点に社会を変えてしまうほどの新たなアイディアを導くポイントが 1600 年代から親し ま れ て い た の で あ る 。 世界の歴史を学んだところで、次に日本の喫茶店の歴史をたどってみよう。日本では 戦前に鄭永慶によってつくられた可否茶館(かひさかん)がはじめとされている。これは コーヒーを飲みながら知識を吸収し、文化交流をする場 としてつくられ、トランプや ビリヤード、いろいろな国の書籍、シャワールームまでもが設備されていた。これは現在 の喫茶店の基盤となっているのではないか。現在、喫茶店と呼ばれる店には、大量の本、 しかも様々な種類の本‐新聞、週刊誌、女性誌、旅雑誌、週刊漫画雑誌‐がおかれている。 また、戦後に流行った インベーダーゲーム という、喫茶店のテーブルにゲームが内蔵 されているものも文化交流の点であてはまる。つまり、人々は喫茶店でコーヒーを飲みに くるのではなく、ゲームをするついでにコーヒーを飲んでいたのではないか。あくまでコ ーヒーとはおまけ的な存在であったのではないか。私の友人には「コーヒーを飲むならマ クドナルドに行くよ。喫茶店は高いからね。」と述べている人もいた。たしかに最近では 100 円で飲めるリーズナブルなモノから、フレーバーコーヒーといった様々な種類のコー ヒーがマクドナルドには販売されている。さらにはコーヒーを飲むだけなら、缶コーヒー という手もあるし、他のファストフードにも安くておいしいものがある。ここからうかが えるのは、人々はコーヒーを飲むといった目的よりは、何か別の目的を持って喫茶店を利 用しているように感じる。喫茶店にはさまざまな利用価値がある。飲食はもちろん、次の 章で詳しく紹介する一宮市のように会社の応接間の代わりになったり、会議室になったり、 はたまた図書館や寝室にもなったりする。つまり個人の空間、パーソナルな空間にもフォ ーマルな空間にも、使い方次第で変化させることができる。その自分のテーブルという限 ら れ た か つ 自 由 な 空 間 を 人 々 は 求 め 喫 茶 店 に や っ て く る の だ 。 3 . 名 古 屋 の 喫 茶 店 次 に 、 名 古 屋 の 喫 茶 店 で 有 名 な モーニング の歴史に焦点を当ててみたいと思う。そ もそもモーニングとはコーヒー1 杯の値段にサービスとして豆やあられ、またドリンク料 金に 300 円くらいを追加してパンやゆで卵、サラダといったものが出てくるサービスの ことである。愛知県の中で特に有名なのが、織物産業が盛んな一宮市である。なぜ一宮市 が喫茶店文化で栄えたかというと、織物産業が盛んであったという点にヒントが隠されて いる。繊維産業において商談とは大切なものであるが、当時の機織り工場は機織機のひど 2 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート い騒音で商談できるような状況ではなかった。そこで、近くの喫茶店に場所を移し商談を 進めるようになった。一宮市の喫茶店ではそのような利用客が多かったために、コーヒー に豆をサービスとしてつけたのがモーニングの原点である。こうして、商談目的のビジネ スマンの利用が大半を占めるようになり、仕事での情報収集を目的とした新聞や雑誌の充 実を図ったり、忙しい朝の為に朝ご飯の代わりとして、コーヒーと一緒に軽い食事を出し たりするようになった。これが発展して、のちの名古屋を代表するモーニングが誕生した。 また当時、一宮市の土地代が安かったという点も、たくさんの喫茶店が存在する一つの理 由 で あ る 。 最近では、愛知県にとどまらず全国にこのモーニング文化が広まってきている。しか し、現在都市部や大規模な駅を除けば朝のモーニングサービスを利用しているのはビジネ スマンというよりは、むしろファミリー層なのである。しかもそのファミリーの内訳には、 祖父母世代が多く含まれていることが目につく。 モーニング 朝食は親子 3 世代そろって喫茶店で という家族が多いように感じた。つまり、モーニングは一種のファミリーレ ストラン的機能をもちだしたのではないか。ドリンク 1 杯の価格で個人のニーズに合わ せたバリエーションの豊富さ、そして様々な雑誌や家族間交流、果てには他の家族や親戚 との交流も可能だ。このような実例がある。近所のコメダ珈琲店に、買い物帰りの父・ 母・私(娘)で寄った。そこで私が小学生の時に仲のよかった 1 つ上の近所のお姉さん に久々に再開した。そのお姉さんも父・母・祖母・お姉さんの 3 世代で喫茶店を利用し ていたのである。久々の再開であったにもかかわらず、誰しもが顔なじみでしばらくおし ゃべりにふけったものである。このように家族ぐるみの交流が、喫茶店で意図も簡単に行 われてしまうのである。安くて、早くて、おいしくて、たのしい。これら 4 大要素がモ ーニングには含まれている。特に週末の喫茶店は朝の 7:00、早いところでは 5:00 ぐら いから営業しており、家族の朝ご飯の時間に浸透している。また昼近くまでモーニングが 出 る 店 も 少 な く な い の で 、 休 日 の ブ ラ ン チ と し て も 、 も っ て こ い な の で あ る 。 現在では、モーニングは喫茶店だけのものではなくなってきている。うどん屋ではう どんを、カレー屋ではカレーを用いたバリエーション豊かなモーニングが存在する。コー ヒーを楽しむためではなく朝食としてモーニングは親しまれてきている。さらにモーニン グというと朝にしか出ないイメージであるが、開店から閉店までずっとモーニングをやっ ている店や、アフタヌーンサービスとして午後にはパンケーキやアイスクリームを提供す る店もある。ちなみにお気に入りの 池田屋珈琲店 3 という喫茶店では、このアフタヌー 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート ンサービスでドラ焼き・みたらし団子・あんみつ・フレンチトースト・アイスクリームと いった 5 種類もある。このようにモーニングも含めて様々なサービスは、その店を特徴 づ け る 一 つ の 媒 体 と し て 生 き 生 き と 存 在 し て い る 。 名古屋の喫茶店とは我々に深く根付いている存在である。朝の喫茶店はモーニングを 求 め て 満 員 で あ り 、 オ リ ジ ナ ル 商 品 な ど で 各 店 舗 に こ だ わ り が あ り 、 日 々 進 化 し て い る 。 4 . 映 像 作 品 か ら 見 る 喫 茶 店 こ こ で 最 近 の 映 画 か ら 読 み 取 れ る 喫 茶 店 像 を 検 証 し て み よ う と 思 う 。 2 0 1 2 年 1 月 3 1 日に全国ロードショーをした しあわせのパン という映画がある。あらすじは北海道・ 月浦に、おいしいコーヒーと焼き立てパンをだす宿泊施設を備えたパンカフェ マーニ を 営 む 夫 婦 の 話 。 マ ー ニ に は 、 春 夏 秋 冬 で 様 々 な 人 々 が 訪 れ る 。 最初のお客様は失恋した女性。沖縄に新婚旅行の予定であったが直前で彼と別れてし まい、意識的に沖縄とは真逆の北海道へとやってきた。友達に電話で「沖縄最高だよ」と いった強がりを最初はみせていたものの、そんな自分に嫌気がさしていた。そんなとき 「素朴なパンもいいですよ」と女主人の一言とさしだされた焼き立てのパンと淹れたての コーヒー。そして彼女は本当の気持ちをさらけ出すことができるようになる。最後に失恋 し た 彼 女 は こ の 店 で 癒 さ れ 、 こ の お 店 で 最 高 の 出 会 い を す る 。 次のお客様は、この喫茶店で真実を見つける。男女関係のもつれにより夫婦喧嘩の末、 お母さんが出て行ってしまったが、父は子供にそのことをはっきりと告げることができな い。しかし子供は、お母さんは別の男と出て行った事実に気付いているにもかかわらず、 父に聞くことができない。そんなすれ違う親子が喫茶店を通して事実を打ち明け合い、絆 を 深 め て い っ た 。 最後のお客様はマーニに来たことによって明日を見つけることができた。余命いくば くもない妻とともに訪れた老人。この老夫婦は若いころに子供を亡くし、その子の名の由 来でもある月浦で共に心中しようとやってきた。しかしそこで、パンを食べないはずの妻 が、「明日もこのパンを食べたい」と、明日をみつめだすきっかけとなる。この老夫婦は 1 週間ほど滞在し、一緒にパン作りを体験したり、近所の住人とともにパーティーをして 過ごしたりなど楽しい時間を過ごす。冬が終わり春になるころ、妻が死んだことを手紙で 知 る が 、 最 後 に 楽 し い 時 を 過 ご す こ と が で き た と 感 謝 さ れ る 。 4 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート この映画では、喫茶店は様々な描かれ方をしている。出会い、絆、未来といった明る いワードを連想させるようなアットホームな感じである。この物語の主人公はもともと喫 茶店を開いていたわけではなく、東京で生活していたが、その生活に疲れを感じ北海道へ 行くことになる。これは現代のストレスや不況の状況に当てはまっており、そのように疲 れた人々に向けての 癒しの場=喫茶店 と い う 図 式 が 浮 か び 上 が っ て く る の で は な い か 。 確かに、この映画のように壮大な出来事は、起こることはまずない。喫茶店に入る、 注文する、受け取って、自分の時間を過ごす、お会計、店を出る。この淡々とした流れの 繰り返しだ。しかし、よく考えてみると喫茶店の原点であるコーヒー・ハウスは、もとも と政治を論じたりする男性の社交の場であった。娯楽として使われたコーヒー・ハウス、 つまり、そこの空間には他人を排除する概念が極端に薄くなるのである。出会いがあると いった点は原点のころから現在でも変わっていないように感じる。豊田市駅の近くの GAZA という複合型スーパーに、カウンター席が 7 席ぐらいの小さな喫茶店が含まれてい る。いつもコーヒーを入れているのは決まった男女。推測ではあるが、夫婦と思われる。 その店は小さいながらもにぎわいをみせていることが多く、満席になっていることもある ぐらいである。ある日、不思議な光景にであう。カウンターには一人の初老男性と、隣同 士で座る買い物終わりのマダム 2 人組。客 3 人とマスターらしき男性が楽しそうに談笑 しているが、客の男性とマダム 2 人組の間には一席の空席があった。もし 3 人がもとも と知り合いならば 3 人並んで座るのが普通であろうに。つまり、客の男性とマダム 2 人 組はもともと知り合いではなかったのではないか。何らかがきっかけとなり、見知らぬ人 同士がつながれた。これぞ喫茶店マジックなのかもしれない。しかし、どこの喫茶店でも このようなことが起こるとは考えにくい。これは 7 席しかない小さな店であったこと、 カウンター席という比較的個人の空間になりづらい環境であったこと、などが関係してく ると思われる。ここで映画の話に戻ると、マーニにもカウンター席があった。カウンター 席は一人のお客様用の席に思われがちだが、もしかしたら最も他人との距離感が近い、も しくは縮まる席なのかもしれない。自然とコーヒーを入れてもらう側と入れる側が対面し、 会話がなくとも表情、動作、視線などは相手にまるわかりである。このように喫茶店には 出 会 い を 生 み 出 し や す い 要 素 が た く さ ん 含 ま れ て い る の だ 。 また淡々とした日々に求めるものがこの映画には詰まっている。新しい出会いが欲し い、家族や会社といった枠を捨てた自分を持てる空間。喫茶店を訪れた自分は何者でもな いのだ。最初にやってきた失恋した女性も、ちぐはぐだった親子も、老夫婦も喫茶店にや 5 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート ってきて である 本当の自分 本当に大切なこと に気付いた。また、この映画のうたい文句 わけあうたびに、わかりあえる気がする というものがあるが、それを象徴する ように何度もパンを分け合うシーンが描かれている。パンを裂く音。「はいっ」と渡すと きの小さな声。それに答えるような「ありがとう」。そのたびに、つながる。それはコー ヒーにも言えることだと思う。心をこめて入れたコーヒーを提供する、またはされるたび に 、 知 ら ず 知 ら ず の う ち に つ な が り 合 っ て い る の か も し れ な い 。 また、この映画では郵便配達の青年が日課としてコーヒーとパンを食べていく。そし て夫婦に見送られながら、本来の仕事へと戻っていく。つまり、仕事のはざまの空間とも い え る 。 仕 事 中 に コ ー ヒ ー を 飲 む 人 は た く さ ん い る で あ ろ う 。 下 記 の 表 を 見 て も ら い た い 。 家庭・職場でのコーヒーの需要は年々増加傾向 をみせ、1983 年から 2006 年の 23 年間で 2.5 ポイントも増加した。これは他の項目のレスト ラン、喫茶店・カフェ、その他の中で最も大き い伸び率である。仕事の疲れを癒す効果、気分 転換に用いられるのであろう。これはコーヒー に含まれるカフェインが大きく関係してくる。 カフェインは人の中枢神経を興奮させ、覚せい 効果がある。仕事中にコーヒーを飲むことは理 にかなった行為なのである。またコーヒーの香 りには脳を刺激する効果があり、インスタント コーヒーよりもドリップ式のコーヒーのほうが より効果がある。映画内の郵便配達員も、毎朝 コーヒーの需要動向(全日本コーヒー協会) 家庭・職 レストラ 喫茶店・ 年 場 ン等 カフェ 1983年 (昭和58 6.8 0.1 1.1 年) 1985年 (昭和60 7.22 0.1 1.05 年) 1990年 (平成2 7.99 0.11 0.88 年) 1996年 (平成8 8.96 0.18 0.69 年) 2000年 (平成12 9.47 0.17 0.52 年) 2002年 (平成14 8.77 0.14 0.34 年) 2004年 (平成16 9.11 0.12 0.38 年) 2006年 (平成18 9.16 0.11 0.33 年) その他 0.5 0.65 0.92 0.96 0.88 0.76 0.76 0.93 マ ー ニでいれたてのコーヒーの香りをかいで、コーヒーを飲むことには 1 日の仕事をはかど らせていたのではないか。また雑誌 珈琲時間 2012 年 2 月号に載っている東京・南青 山 の 蔦 珈 琲 店 の マ ス タ ー は こ う 語 っ て い る 。 「僕が思う喫茶店のイメージは職場と家の中間点。ここから自宅や職場へ出かけて、ここ へ 戻 る 」 つまり、人の人生喫茶店にあり。魂のような考え方だと思う。家庭に戻れば、家庭内 6 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート の役職があり、職場では自分を殺してせっせと働く。自分の役割を演じ疲れた時に喫茶店 に入れば、自分は違う自分になる。本当の自分に出会える、見つける、気付く、喫茶店は そ ん な 場 で あ る の か も し れ な い 。 次に紹介するのは 2012 年 1 月に放送されていたドラマ 早海さんと呼ばれる日 から 喫茶店を読み解いてみたいと思う。このドラマの主人公は早海家に嫁入りするユリコ。し かし、嫁入りと同時に早海家の母であるヨウコが家を出てしまう。これまで母に頼りきり だった父や息子たちはどんどん不仲になっていく。そんな家族を見て、ユリコはヨウコの 代わりになる!と宣言。この早海家の夫婦が喫茶店 ガテマラ を営んでいる。ドラマは 喫 茶 店 と と も に 家 族 の 成 長 を 描 い て い る 。 1話では母が出て行ったと同時に父が無気力となり、喫茶店を休業しだす。この夫婦 の営む喫茶店とは昭和の雰囲気のでた内装である。4組ぐらいのソファー席。木目調であ るが、清潔さというよりも時間の流れを感じさせる家具たち。カウンター席ももちろんあ る。またガテマラという店名は、グアテマラ産コーヒーのことであり、上品な酸味とバラ ンスのとれた苦みと香りがあり、ブレンド用の高級品として用いられる。このことからコ ー ヒ ー に も こ だ わ り を 持 っ て 提 供 し て い た の で は な い か と 思 わ れ る 。 特に 2 話に父との感情とリンクした喫茶店が描かれている。休業の張り紙を見た商店 街の常連さん2人がやってくる。ヨウコが出て行ったことを知らないので、なぜ店を再開 させないのか、ヨウコのランチが食べたいなど好き放題いわれ、父は余計ふてくされてし まう。ここでの話はカウンターで3人並んで会話が行われる。コーヒー自体は出てこない が、大の大人が3人身を寄せ合って話す姿は距離感が近いことを感じさせた。ソファー席 だってあるのにも関わらず、カウンター席というポイントが しあわせのパン の時同様 に あ る の か も し れ な い 。 ここで大事件が起きてしまう。喫茶店で使われていた鉄のフライパンをユリコがよか れと思って洗ってしまう。しかしこのフライパンは開業当時から油をなじませて大事に使 ってきたものであった。それを知った父はユリコに対して激怒する。商店街の常連さんが 帰った後、喫茶店のキッチンでランチをつくるヨウコの姿を幻覚で見てしまうほど父にと っては 鉄のフライパン=母の分身 という意識が強かったのだと思う。先の話になるが、 父一人で喫茶店を再開させた際にランチは再開されなかった。これより、ランチを担当し ていたのは母・ヨウコであり、父はあまり関与していなかったのでよりヨウコのイメージ 7 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート が強かったのではないか。このように早海夫妻にとっては、喫茶店はその夫妻の歴史であ る 。 そ れ を 象 徴 す る よ う な セ リ フ と し て こ ん な も の が あ る 。 ( 慣 れ な い 家 事 で 失 敗 し て し ま い 、 家 族 か ら 責 め ら れ ユ リ コ が 家 を 飛 び 出 し た 後 ) 長 男 「 ユ リ コ に き か れ た ん だ よ 。 お 母 さ ん の 席 は ど こ な の ? お 母 さ ん い つ ご 飯 食 べ て い た の?俺さ、答えられなかったよ。35 年もこの家にいてさ、知らなかったんだよ。 母さんがいつ飯食ってたのか。人の気持ちがわからないってさ、俺たちだって母さ ん の 気 持 ち 分 か ら な か っ た ろ 。 」 このセリフの後、父が逃げるように喫茶店へ向かいタバコを一吹かしする。その時に 回想で朝、忙しく家族のために働きまわる母は、そのまま仕事場である喫茶店へ向かいお 客の相手を一人でしながら、遅めの朝食をキッチンの隅っこで急いで頬張るシーンが入る。 先ほど夫婦の歴史といったが必ずしもいいものだけではない。喫茶店では明るくお客にふ るまっていたヨウコも実際のところ、家庭と仕事のはざまで疲れ切っていた。こうした家 族関係を喫茶店を利用してうまく表現していた。このあとユリコを嫁として認める際に、 父はフライパンに再び油を塗る。母がいなくなってしまった喪失感をフライパンの油を引 き直すことで少し吹っ切れる、というか新たな一歩を踏み出すきっかけとして描かれてい た の で は な い か と 思 う 。 こ の よ う に しあわせのパン と違うのは出会い・希望といったポジティブな印象とい うよりは、庶民的でリアルな描かれ方をしていた。近所の人が常連さんというのは一緒だ が登場する年齢層も二つで違う。 しあわせのパン では基本的に若い年齢層が来店する。 老人でもスーツやおしゃれな服を着ている。白を基調として、窓も広く太陽の光がたくさ ん入る、そんな明るい店内。だが 早海さんが呼ばれる日 の喫茶店ガテマラの来店客層 は基本商店街の 50∼60 歳近い白髪交じりのおじさん。服装もスウェットやジャージのよ うな動きやすく、ディスカウントショップなどで売られていそうな物である。店内も薄暗 い感じで、色合いもくすんだ感じであった。このような印象の違いは、普段私たちが 茶店 と カフェ くと コーヒーや紅茶などの飲み物、または軽食を出す店。カフェ。 喫 との使い分けに大きく影響しているのではないか。喫茶店を辞書で引 とされている。こ こで一つ疑問に思うのが喫茶店=カフェという図式である。確かに形式的にどちらも飲み 8 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート 物・食べ物を提供する店であるが、私たちは知らず知らずのうちに ェ 喫茶店 と カフ という単語を使い分けているのだ。確かに最近、同大学の学生に対してコーヒーを飲 むといったらどこ?という簡単な質問に対して「スタバ(スターバックスコーヒー)「ド トール」「タリーズ」といったセルフサービスのカフェの名前が多々あがった。おしゃれ な雰囲気を出しており、比較的利用年齢層が若いのがカフェ。近所の人々が集まったりす るなど、カフェより他人への排除感が薄まるノスタルジックな空間を喫茶店というのでは な い か 。 喫 茶 店 を メ イ ン と し た 映 像 作 品 で は ど ち ら か と い う と 、 いつまでも変わらないもの として描かれていることが多く、人々もそれを理想としているのではないか。変わってい く自分と、変わらない喫茶店。人生を重ね合わせて、まるで小さいころ柱につけた傷のよ うに、少しずつ成長を見守ってくれる存在であってほしい。喫茶店という空間において行 われる行為には人間の深みが現れていると思う。個々で求める空間は違うけれど、求める 空間があるという事実は同じである。人々が求め続ける限り、喫茶店は今日も変わらず、 あ な た に 最 高 の 空 間 と コ ー ヒ ー を 提 供 し 続 け る の で は な い か 。 5 . 喫 茶 店 の T V ド ラ マ 的 効 果 今 日 の T V ド ラ マ に は 様 々 な シ ー ン で 喫 茶 店 が 登 場 す る 。 こ れ ま で は 、 喫 茶 店 を 題 材 に した、つまり喫茶店が主人公といっても過言ではない作品を紹介してきた。しかしながら、 当然ではあるが必ずしも喫茶店がメインなわけではない。ここで、話の流れの中のほんの 脇 役 と し て 登 場 す る 喫 茶 店 の 効 果 を 考 察 し て み た い と 思 う 。 ▼ 調 査 方 法 以下の作品の喫茶店のシーンをトランスクリプトし、TV ドラマの中でどのように喫茶店 が 描 か れ て い る か を 研 究 す る 。 「 妄 想 捜 査 桑 潟 幸 一 教 授 の ス タ イ リ ッ シ ュ な 生 活 # 2 」 「 ラ ッ キ ー セ ブ ン # 6 」 「 リ ー ガ ル ハ イ # 2 」 「 ク レ オ パ ト ラ な 女 た ち # 3 」 1 : 人 物 キ ャ ラ 付 け 効 果 9 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート まず一つ目にあげられる特徴として 人物キャラ付け効果 があげられる。これは喫 茶店での行動が、よりそのキャラクターを引き立てる、またはそのキャラクターの心情を 表 現 し て い る と い う こ と で あ る 。 こ こ で は 二 つ 例 を あ げ よ う 。 弁護士:カサイサトシのゴーストライターのお一人ですよね。バンド活動をやめ、昼はピ アノの先生、夜は飲食店でアルバイト。そこで偶然サカイサトシさんに出会った。 捨てていたはずの音楽への思いが再燃し、自作の曲を売り込んだ。何曲かは一部採 用になり、いくらかのギャランティを手に入れた。あるいは、見向きもされなかっ た自分の歌が、カサイマサトの名がついたとたん、日本中で聞かれるようになり、 ひそかな快感を覚えたか。しかし、君は採用されたいあまり、荒川ボニータに作っ た曲にまで手を出した。それが あれは恋でした だ っ た 。 違 い ま す か ? < 終 始 ケ ー キ を 食 べ な が ら > 助手:ボニータさんはあなたの親友でしょ?歌をつくる苦労はご存じのはずなのに。法廷 で 証 言 し て も ら え ま す ね 。 容 疑 : は い 。 証 言 し ま す 。 助 手 : あ り が と う ご ざ い ま す 。 弁 護 士 : < 女 性 の 顔 を ま じ ま じ と 見 な が ら イ チ ゴ を 頬 張 る > 容 疑 : < 思 い つ め た 顔 で カ ッ プ を 一 口 > ( リ ー ガ ル ハ イ # 2 よ り ) ここで弁護士と表記されている人物は、自由奔放なおぼっちゃまで金が何よりも大好 き、裁判に勝つためならば手段を選ばない性格である。しかし、頭のキレはピカイチで自 分のしたいように人生を謳歌してきたような人物だ。注目していただきたいのは終始ケー キを食べながら話すという場面である。この場面の話の内容は盗作の疑惑のかかった女と の会話であり、真剣な話なのである。そんな中でケーキをパクパクと食べながら、坦々と 追い詰めていく姿は、このワンシーンからでも彼の性格が十分に読み取れるのではないか。 彼はただ裁判に勝つために、女を追い詰める。女に向けられる感情はない。最後に彼女を 見たのは証言をすることを認めた時であるが、この時の彼の表情はみじんも彼女を信じて は い な か っ た 。 こ れ も あ く ま で 、 イ チ ゴ を 食 べ な が ら で は あ る が 。 10 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート < 妹 店 員 : ぐ る ぐ る と カ ッ プ の 中 身 を か き 回 し て 、 一 気 に コ ー ヒ ー を あ お る > 先 生 : 元 気 そ う で よ か っ た で す 。 妹店員:元気じゃないわよ。私、何も変わらないの。顔も変わったし、ヘアースタイルも 洋服もみんな変えたけど何も変わらない。手術にお金がかかったから家も出られ ないし、今でも姉のほうが威張ってるし、私は姉の言いなりだし、親は姉の言う こ と し か 信 用 し な い し 。 ど う し た ら い い ? 先 生 : そ ん な こ と 僕 に 言 わ れ て も 。 ( ク レ オ パ ト ラ な 女 た ち # 3 よ り ) このシーンでは妹店員の心情が行動を見るだけで読み取ることができる。コーヒーを ぐるぐるかき回して、味を楽しむどころか、一気に飲み干してしまう。妹にはコーヒーを 楽しむ心の余裕は全くない状況なのである。そのあとに続く会話を見れば妹は心にゆとり のあることは明白だ。このようにコーヒーは味を楽しむものであるように見えて、そのキ ャ ラ ク タ ー の 性 格 が に じ み 出 す 効 果 の あ る 一 杯 な の か も し れ な い 。 2 : 場 所 特 定 効 果 次にあげられる効果として 場所特定効果 がある。これは登場する喫茶店の雰囲気 がその街、その場所を実によく表すという効果である。考察した映像作品の喫茶店の雰囲 気 と 、 そ の 喫 茶 店 の あ る 場 所 を 以 下 の 表 に ま と め て み た 。 妄想捜査 ラッキーセブン リーガルハイ クレオパトラ 場所 商店街 ビル内接 ビル内接 ビル1階 雰囲気 ノスタルジック アンティーク カジュアル カジュアル 映像研究に使った資料の中で喫茶店がある場所もさまざまである。上の表はそれぞれ の作品の喫茶店のある場所とその雰囲気をまとめたものである。妄想捜査では昔ながらの 商店街にあるノスタルジックな雰囲気をまとった学生街の喫茶店をイメージしたような喫 茶店が描かれている。妄想捜査は大学をメインに事件が起こる話なので、ドラマの雰囲気 にもぴったりの場所である。ラッキーセブン、リーガルハイはどちらも場所としてはビル に内接された喫茶店であるが描かれ方の違いによって雰囲気は大きく異なるものになって 11 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート いる。ラッキーセブンでは自分だけの隠れ家的喫茶店というコンセプトが登場人物の言動 か ら 見 て と る こ と が で き る 。 女 1 : あ れ ? ジ ュ ン ペ イ さ ん ? ど う し て い る ん で す か ? 男 1 : な ん で い ち ゃ だ め な ん だ よ ? 女 1 : あ た し 一 人 の 憩 い の 場 所 が ・ ・ ・ ( ラ ッ キ ー セ ブ ン よ り ) すなわち、喫茶店中もアンティーク調でマスターのこだわりが強い喫茶店が描かれて いる。マスターの趣味であろう、航空士の専門学校のポスターや飛行機のプラモデルを置 くなほんの数秒の間にもさりげなくマスターのこだわりが表現されている。一方のリーガ ルハイでは同じビル内ではあるがカジュアルな喫茶店であり、あくまで話の内容にかかわ りがないことから特徴は感じられない。喫茶店には『琥珀色の記憶-時代を彩った喫茶店 -』(奥原哲志,2002)にも述べられているように、画一的な設備とサービスを提供する、 すなわちチェーン店的な存在と店主の喫茶店への思いを反映させた特色のある店とに分か れる。特に後者は近年、カフェ本といった、さまざまな地域に点在する個性あふれるより す ぐ り の カ フ ェ を 集 め た 本 が 出 る ほ ど 、 注 目 を 集 め て い る 。 一方クレオパトラな女たちでは近代の街中にある美容整形外科が舞台であるので、描 かれる喫茶店もセルフ式チェーン店が描かれていた。また喫茶店を利用する客層もサラリ ー マ ン 、 学 生 と い っ た 都 市 的 な イ メ ー ジ を ま と っ た エ キ ス ト ラ が そ の 街 を 作 り 上 げ て い る 。 このように個人の中に、ある特定の場所にあるべき、ないしはあってほしい喫茶店の イメージは少しずつ違うものである。それを巧みに利用することで、そのドラマの世界観 を よ り リ ア ル に 深 み の あ る も の に し て い る 。 3 : 話 の 転 換 効 果 そして最後にあげるのが 話の転換効果 である。これは、ドラマを全体的に見通し て喫茶店のシーンがどこに使われているかということを調べることで、話の転換に使われ て い る こ と が 分 か っ た 。 助 手 : あ な た 昔 パ ン ク バ ン ド や っ て た で し ょ 12 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート と も : 何 言 っ て る の よ 助 手 : だ っ て あ の 写 真 、 と も こ だ っ た も の 桑 潟 : え っ う そ 、 あ の 写 真 が と も こ ち ゃ ん ? と も : ・ ・ ・ 何 言 っ て る の か さ っ ぱ り 助 手 : ど ん な メ イ ク し て て も 、 輪 郭 と 鼻 だ け は ご ま か せ な い 。 そ れ と 声 の 張 り 上 げ 方 。 ( 回 想 シ ー ン と も : お り ゃ ー お 前 ら い く ぞ ー ) と も : お 願 い 、 恥 ず か し い か ら 誰 に も 言 わ な い で 助 手 : じ ゃ あ 、 何 が あ っ た の か 恥 ず か し が ら ず に 話 し て < お 湯 が 沸 い て い る サ イ フ ォ ン が 写 る > と も : ・ ・ ・ ・ ・ ・ ク ワ ガ タ 先 生 の 手 帳 を と っ た の は あ た し で す 。 桑 潟 : え ! ? ( 妄 想 捜 査 よ り ) 弁護:カサイサトシのゴーストライターのお一人ですよね。バンド活動をやめ、昼はピア ノの先生、夜は飲食店でアルバイト。そこで偶然サカイサトシさんに出会った。捨 てていたはずの音楽への思いが再燃し、自作の曲を売り込んだ。何曲かは一部採用 になり、いくらかのギャランティを手に入れた。あるいは、見向きもされなかった 自分の歌が、カサイマサトの名がついたとたん、日本中で聞かれるようになり、ひ そかな快感を覚えたか。しかし、君は採用されたいあまり、荒川ボニータに作った 曲にまで手を出した。それが あれは恋でした だ っ た 。 違 い ま す か ? < 終 始 ケ ー キ を 食 べ な が ら > 助手:ボニータさんはあなたの親友でしょ?歌をつくる苦労はご存じのはずなのに。法廷 で 証 言 し て も ら え ま す ね 。 容 疑 : は い 。 証 言 し ま す 。 助 手 : あ り が と う ご ざ い ま す 。 ( リ ー ガ ル ハ イ よ り ) 店 員 : 私 を 救 っ て く れ た の は 先 生 だ け な の 。 だ か ら 、 今 度 も 救 っ て 。 責 任 と っ て 。 先 生 : 責 任 ! ? 店 員 : だ っ て 、 あ た し の 顔 変 え た の 先 生 だ も ん 。 13 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート 先 生 : い や ! テ ラ サ キ さ ん の 希 望 で 手 術 し た ん で す よ ! 店 員 : で も 、 先 生 の 好 み で し ょ ! こ の 顔 ! あ た し と 付 き 合 っ て 。 あ た し の 彼 氏 に な っ て 。 先 生 : ち ょ ち ょ ち ょ 、 ち ょ っ と 待 っ て く だ さ い ! 店員:先生が付き合ってくれたら、今度こそあたしは変われる。幸せになれる!お姉ちゃ ん を 越 え ら れ る ! お 願 い ! ( ク レ オ パ ト ラ な 女 た ち よ り ) このようにたかが喫茶店のシーンではあるが、話されている内容はドラマ自体のキー ポイントになることが多い。喫茶店内では「えっ!まさか!」という事実を登場人物たち は淡々と述べていく。回りに他のお客さんがいようがいまいが主人公たちには関係ないの だ。テレビ画面というフレームに切り抜かれた喫茶店はあたかも、主人公たちだけの世界 のように何気なく衝撃の事実を受け止めている。起承転結でいうと、承→転、転→結とい った場面転換の→の部分に喫茶店が用いられているのだ。喫茶店自体では劇的なことが起 こるわけではないが、嵐の前の静けさとでも言おうか。喫茶店は優雅な雰囲気を漂わせな が ら 、 ド ラ マ を よ り ド ラ マ テ ィ ッ ク に 仕 立 て 上 げ る 前 舞 台 な の だ 。 6 . む す び : 研 究 成 果 ( 私 の 主 張 ) 人 の 生 活 す る 空 間 は 、 ス ペ ー ス と プ レ イ ス と い う 二 つ の 分 類 を 行 う こ と が で き る 。 ス ペ ースとは物理的な場所を意味し、プレイスは居場所といった社会的空間概念、つながりた い場所という意味を持つ。喫茶店をメインとした話では、喫茶店はなくてはならない場所、 心のあり場所というような思いを生み出しやすい。つまりプレイスなのである。では一方 で話の中で随所的に使われる喫茶店はサービスや内装などにこだわりを持つというよりは、 空間の提供を前提と置いたものであるから、スペース的といえる。喫茶店とはもともと、 コーヒーハウスを皮切りに、社交の場、プレイス的存在であった。しかし、コーヒーチェ ーン店の発達により社会的あり方は、個々の憩いの場から一時的な止まり木のような物理 的な場所という概念が人々の中に根付いたのではないか。そんなときに喫茶店=プレイス を押し出す映像作品や先ほど述べたカフェ本の流行は現代人の居場所探しの手助けのよう で な ら な い 。 14 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート ▼ デ ー タ ベ ー ス 集 ▼ 妄 想 捜 査 ― 桑 潟 幸 一 准 教 授 の ス タ イ リ ッ シ ュ な 生 活 # 2 場 所 : 商 店 街 の 一 角 雰 囲 気 : ア ン テ ィ ー ク 調 の 店 、 マ ス タ ー は 眼 鏡 で 黒 ベ ス ト 、 ふ か ふ か の ソ フ ァ ー 特 徴 : ? 釜 コ ー ヒ ー 、 こ だ わ り の コ ー ヒ ー な ど と 書 か れ た の れ ん が 店 の 外 に あ る 店 名 大江館 時 間 : 2 分 3 7 秒 机 の 上 : 男 、 ホ ッ ト コ ー ヒ ー 女 2 、 ア イ ス コ ー ヒ ー 関 係 性 : 桑 潟 ( 男 ) 、 助 手 ( 女 ) 、 と も ( 女 ) 女 2 人 は 同 じ 大 学 に 通 っ て い る 学 生 、 男 は 大 学 教 授 そ の 他 の 客 : な し 助 手 : あ な た 昔 パ ン ク バ ン ド や っ て た で し ょ と も : 何 言 っ て る の よ 助 手 : だ っ て あ の 写 真 、 と も こ だ っ た も の 桑 潟 : え っ う そ 、 あ の 写 真 が と も こ ち ゃ ん ? と も : ・ ・ ・ 何 言 っ て る の か さ っ ぱ り 助 手 : ど ん な メ イ ク し て て も 、 輪 郭 と 鼻 だ け は ご ま か せ な い 。 そ れ と 声 の 張 り 上 げ 方 。 ( 回 想 シ ー ン と も : お り ゃ ー お 前 ら い く ぞ ー ) と も : お 願 い 、 恥 ず か し い か ら 誰 に も 言 わ な い で 助 手 : じ ゃ あ 、 何 が あ っ た の か 恥 ず か し が ら ず に 話 し て < お 湯 が 沸 い て い る サ イ フ ォ ン が 写 る > と も : ・ ・ ・ ・ ・ ・ ク ワ ガ タ 先 生 の 手 帳 を と っ た の は あ た し で す 。 桑 潟 : え ! ? とも:でもあたしも被害者なんです。ちょっと前、私のバックが荒らされてて、写真がな くなっていたの。次の日の夜、写真がひっかっているのを見つけて、早くとらなきゃって 思って。長い棒でつつけば何とかなるかもって思って。でも鉄の棒だったから、すごく重 くて、ふらついて。写真のことみんなに知られたくなかったから。何も言えなかった。で、 鉄の棒を元の場所に戻そうとしたんだけど掃除の人がいたから。オブジェのところにおい て 行 き ま し た 。 15 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート 助 手 : そ の あ と 、 風 に よ っ て 写 真 は 近 く の 草 む ら に 落 ち た 。 とも:それをクワガタ先生が拾って行った。みんなにばれる前にあの写真をを取り返さな いとって思って、手帳ごと持って行きました。手帳は捨てようかと思ったけど、ほとんど 新品だったから返さなきゃって思って。それで、怪盗ジャックマンのせいにしようと思っ て 、 オ ブ ジ ェ の と こ ろ に 置 い て み ま し た 。 助 手 : こ の ミ ス 猫 か ぶ り の 言 う こ と が ほ ん と な ら ・ ・ ・ 桑 潟 : 問 題 は 誰 が ラ ク ロ ス 部 の 部 室 か ら 写 真 を 盗 ん だ っ て こ と ? 助 手 : そ い つ が 怪 盗 ジ ャ ッ ク マ ン ! 16 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート ラ ッ キ ー セ ブ ン # 6 場 所 : ビ ル 内 に 内 接 さ れ た 喫 茶 店 雰 囲 気 : ア ン テ ィ ー ク 調 、 テ ー ブ ル 1 席 、 主 が カ ウ ン タ ー 店 名 : 敷 島 珈 琲 店 長 : 眼 鏡 、 オ レ ン ジ の 胸 元 に 店 名 が 記 載 さ れ た エ プ ロ ン 関 係 性 : 男 1 、 女 1 、 店 長 男 1 と 女 1 は 職 場 の 同 僚 。 女 1 に と っ て は な じ み の 店 男 1 女 1 共 に ホ ッ ト コ ー ヒ ー そ の 他 の 客 : な し 特徴:暖炉がある、たくさんのコーヒー豆を置いている、飛行機の模型や ットになるには よし!パイロ といったうたい文句の航空学校のポスターがある、真壁りゅう(物語中 の 架 空 ド ラ マ ) の レ ト ロ ポ ス タ ー を 張 っ て い る 時 間 : 5 3 秒 、 5 秒 店 長 : い ら っ し ゃ い ま せ 男 1 : コ ー ヒ ー 一 つ 店 長 : は い 男 1 : 結 構 見 え る ん だ な ・ ・ ・ ま た 、 あ の お じ さ ん 来 て る の 店 長 : お 豆 は ど う し ま し ょ う か ? 男 1 : 何 が あ る の ? 店 長 : こ ち ら は で す ね 、 コ ス タ リ カ C O O O ・ ・ ・ 女 1 : あ れ ? ジ ュ ン ペ イ さ ん ? ど う し て い る ん で す か ? 男 1 : な ん で い ち ゃ だ め な ん だ よ ? 女 1 : あ た し 一 人 の 憩 い の 場 所 が ・ ・ ・ 男 1 : え ? 女 1 : い い え 、 は い マ ス タ ー 店 長 : あ り が と う 女 1 : 高 か っ た よ 17 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート 男 1 : 何 ? 店 長 : お で ん 缶 、 こ の こ ん に ゃ く が 激 う ま 男 1 : ど う い う 関 係 ? ( 窓 か ら 男 同 士 の 争 い が 見 え る ) < コ ー ヒ ー カ ッ プ を ガ チ ャ ン と ソ ー サ ー に 落 と す 、 近 く に は コ ー ヒ ー ミ ル > 男 1 : な ん だ あ り ゃ 18 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート リ ー ガ ル ハ イ # 2 場 所 : ビ ル 内 に 内 接 さ れ た 喫 茶 店 雰 囲 気 : カ ジ ュ ア ル 店 名 : ? 店 長 : ? 関 係 性 : 弁 護 士 ( 男 ) 1 、 助 手 ( 女 ) 1 、 容 疑 者 ( 女 ) 1 の 3 人 弁 護 士 と 助 手 は 職 場 の 同 僚 。 注文していたもの:ホット(中身は茶色) ケーキ) 3、ケーキ(ショートケーキ、チョコレート 2 ケ ー キ は シ ョ ー ト ケ ー キ を 弁 護 士 、 チ ョ コ レ ー ト ケ ー キ を 助 手 が 食 し て い た 。 そ の 他 の 客 : あ り 、 店 内 の 3 分 の 1 程 度 特徴:容疑者の職場まで出向いて、そのあとに喫茶店まで移動してからのシーン。その他 の客がいる中で話の内容は結構重要。その他の客は PC を開いて勉強するなど、静かな雰 囲 気 で あ っ た 。 時 間 : 1 分 9 秒 弁護:カサイサトシのゴーストライターのお一人ですよね。バンド活動をやめ、昼はピア ノの先生、夜は飲食店でアルバイト。そこで偶然サカイサトシさんに出会った。捨ててい たはずの音楽への思いが再燃し、自作の曲を売り込んだ。何曲かは一部採用になり、いく らかのギャランティを手に入れた。あるいは、見向きもされなかった自分の歌が、カサイ マサトの名がついたとたん、日本中で聞かれるようになり、ひそかな快感を覚えたか。し かし、君は採用されたいあまり、荒川ボニータに作った曲にまで手を出した。それが れは恋でした あ だ っ た 。 違 い ま す か ? < 終 始 ケ ー キ を 食 べ な が ら > 助手:ボニータさんはあなたの親友でしょ?歌をつくる苦労はご存じのはずなのに。法廷 で 証 言 し て も ら え ま す ね 。 容 疑 : は い 。 証 言 し ま す 。 助 手 : あ り が と う ご ざ い ま す 。 弁 護 : < 女 性 の 顔 を ま じ ま じ と 見 な が ら イ チ ゴ を 頬 張 る > 容 疑 : < 思 い つ め た 顔 で カ ッ プ を 一 口 > 19 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート ク レ オ パ ト ラ な 女 た ち # 3 場 所 : ビ ル の 1 階 雰 囲 気 : カ ジ ュ ア ル 店 名 : ? 店 長 : ? 関 係 性 : 先 生 ( 男 ) 、 男 客 、 店 員 ( 女 ) 先 生 と 男 客 は 赤 の 他 人 で 、 店 の 常 連 客 。 先 生 は 男 性 と 店 員 の や り と り を 見 て い た 。 注 文 し て い た も の : 先 生 ホ ッ ト コ ー ヒ ー 、 男 性 カ フ ェ オ レ 的 な マ グ カ ッ プ 系 の も の そ の 他 の 客 : あ り 、 店 内 の 3 分 の 1 程 度 特徴:半セルフ式の喫茶店。レジで注文して、席まで持ってきてもらうタイプ。席数も多 く 、 人 通 り の 多 い 通 り に 面 し て い る 。 時 間 : 2 分 2 0 秒 男客:あぁこれ、生クリーム入ってるよね?いらないって言っただろ。君、約束しなかっ た?毎朝来てくださってありがとうございます。クリーム抜きのことは覚えておきますね って言ったんだよ君。自分から覚えておくって、調子よく言っておいてけろっと忘れてる の っ て な ん か す ご く な い ? 店 員 : す い ま せ ん 。 お 取 り 換 え し ま す 。 男客:ちょっと待ってよ。取り替えるとかじゃなくて覚えてないのかって聞いてるんだよ。 言 い っ ぱ な し で 覚 え て な い と か 、 客 を 何 だ と 思 っ て る ん だ よ 。 ま ぁ い い や 。 先 生 : な ぜ 言 わ な い ん で す か ? 双 子 だ っ て 。 ( 回 想 ) 店員:お待たせいたしました!いつもありがとうございます!お客様この近くにお勤めで す か ? 先 生 : は ぁ 店 員 : ど こ ? 先 生 : そ こ 店 員 : ふ ふ ふ 、 い つ も 通 り ブ ラ ッ ク 濃 い め で す 。 ( 回 想 終 了 ) 20 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート 先 生 : す い ま せ ん 、 余 計 な こ と を 。 店 員 : い 、 い え 、 で も な ぜ 双 子 だ っ て こ と わ か っ た ん で す か ? 先 生 : な ぜ っ て 、 よ く 似 て る け ど 、 頬 骨 の 張 り 出 し 方 が ち ょ っ と だ け 違 う か な 。 ( 店 の 前 を 通 り か か る 先 生 、 以 下 店 の 前 で の 話 ) 時 間 : 1 分 3 0 秒 店 員 : 先 生 ? や っ ぱ り ! う ち の 妹 、 今 日 ク リ ニ ッ ク に 行 き ま し た ? 先 生 : は い 店員:あの子一人じゃ何にも出来ないんです。たぶん手術なんて勇気ないので、もう行か な い と 思 い ま す 。 ご 迷 惑 お か け し て す い ま せ ん 。 先生:まだわかりませんよ。でも、なんで僕があそこのクリニックで働いているってわか っ た ん で す か ? あ な た も 。 店員:妹、先生のことつけて行ったみたい。おかしいんですあの子。適当にあしらっとい て く だ さ い 。 そ れ じ ゃ あ 。 店 員 : お 姉 ち ゃ ん と 何 話 し て た の ? 先 生 : え ? 店 員 : 何 話 し て た の ? 先 生 : え 、 い や 、 妹 の こ と よ ろ し く と か 。 店 員 : わ か っ た で し ょ ? 姉 は い つ も 私 の 邪 魔 を す る の 。 ( 成 形 後 の 妹 に 出 会 う 、 妹 の 勤 め る 店 へ ) そ の 他 の 客 : 2 組 注文した物:ホットコーヒー 2 時 間 : 2 分 < 妹 店 員 : ぐ る ぐ る と カ ッ プ の 中 身 を か き 回 し て 、 一 気 に コ ー ヒ ー を あ お る > 先 生 : 元 気 そ う で よ か っ た で す 。 21 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート 店員:元気じゃないわよ。私、何も変わらないの。顔も変わったし、ヘアースタイルも洋 服もみんな変えたけど何も変わらない。手術にお金がかかったから家も出られないし、今 でも姉のほうが威張ってるし、私は姉の言いなりだし、親は姉の言うことしか信用しない し 。 ど う し た ら い い ? 先 生 : そ ん な こ と 僕 に 言 わ れ て も 。 店 員 : 私 を 救 っ て く れ た の は 先 生 だ け な の 。 だ か ら 、 今 度 も 救 っ て 。 責 任 と っ て 。 先 生 : 責 任 ! ? 店 員 : だ っ て 、 あ た し の 顔 変 え た の 先 生 だ も ん 。 先 生 : い や ! テ ラ サ キ さ ん の 希 望 で 手 術 し た ん で す よ ! 店 員 : で も 、 先 生 の 好 み で し ょ ! こ の 顔 ! あ た し と 付 き 合 っ て 。 あ た し の 彼 氏 に な っ て 。 先 生 : ち ょ ち ょ ち ょ 、 ち ょ っ と 待 っ て く だ さ い ! 店員:先生が付き合ってくれたら、今度こそあたしは変われる。幸せになれる!お姉ちゃ ん を 越 え ら れ る ! お 願 い ! 先 生 : そ ん な こ と で き ま せ ん よ 。 店 員 : ど う し て ? 先 生 : ど う し て ? っ て 、 店 員 : ど う し て ? 先 生 : だ っ て 、 男 の 人 と 暮 ら し て る ん で す 僕 。 店 員 : 友 達 で し ょ ? 先 生 : そ う い う の じ ゃ な く て 。 な ん て い う か 、 店 員 : う そ ! 先 生 は 私 を あ き ら め さ せ る た め に 言 っ て る 先 生 : 嘘 じ ゃ あ り ま せ ん ! 店 員 : じ ゃ あ 見 に 行 く ! 男 の 人 と 暮 ら し て る と こ 先 生 : え ぇ ! 店 員 : そ う じ ゃ な い と 、 先 生 の 話 信 用 で き な い 。 先 生 : ち ょ っ と 、 待 っ て く だ さ い ! < そ の 他 の 客 の 視 線 を 浴 び な が ら 店 を 飛 び 出 し て い く > 時 間 : 1 0 秒 22 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート ( 先 生 が 店 の 前 を 通 り か か る ) 店 員 : お 待 た せ し ま し た ! 生 ク リ ー ム 入 っ て ま せ ん 。 男 客 : お ぉ 、 あ り が と う 。 店 員 : で も 私 は 夏 じ ゃ な く て 、 冬 の ほ う で す か ら 。 失 礼 し ま す 。 23 中京大学現代社会学部加藤晴明ゼミナール 年度末個人研究レポート 参 考 文 献 渡 辺 涼 ( 1 9 9 5 ) 『 カ フ ェ ユ ニ ー ク な 文 化 の 場 所 』 奥 原 哲 志 ( 2 0 0 2 ) 『 琥 珀 色 の 記 憶 - 時 代 を 彩 っ た 喫 茶 店 - 』 川 口 葉 子 ( 2 0 0 6 ) 『 カ フ ェ の 扉 を あ け る 1 0 0 の 理 由 』 産 業 編 集 セ ン タ ー ( 2 0 0 8 ) 『 懐 か し い 町 の レ ト ロ な 喫 茶 店 』 里 木 陽 市 ( 2 0 0 7 ) 『 学 生 街 の 喫 茶 店 は ど こ に 』 大 竹 敏 之 ( 2 0 1 0 ) 『 名 古 屋 の 喫 茶 店 』 大 誠 社 ( 2 0 1 2 年 冬 号 ) 『 珈 琲 時 間 』 サ イ ト 映 画 「 し あ わ せ の パ ン 」 公 式 サ イ ト s h i a w a s e - p a n . a s m i k - a c e . c o . j p / 早 海 さ ん と 呼 ば れ る 日 ‐ フ ジ テ レ ビ w w w . f u j i t v . c o . j p / h a y a m i s a n / ウ ィ キ ペ デ ィ ア j a . w i k i p e d i a . o r g / 24