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高齢者の生きがいと人間関係
生活知識情報 高齢者の生きがいと人間関係 ~高齢者の生活実態に関する調査から~ 12 回 第 金子 勇 少 子 高 齢 化 が 進 む 日 本。 その現状と私たちや社会 ができる対策を考えます。 Kaneko Isamu 北海道大学大学院文学研究科特任教授。「都市の少子高齢化」を中心に、少子化 と高齢化の現状分析と対策について研究している。著書に『「時代診断」の社会学』 (ミネルヴァ書房)『少子化する高齢社会』(日本放送出版協会)などがある。 との交流に生きがいを強く感じるために、男女 生きがい調査 間の生きがい感に差異が生じるようです。 「生きがい」を「生きる喜び」と定義した高齢 次に、家族類型ではかなりの違いが得られま 者の調査が、各方面で行われています。例えば した (図1) 。生きがいを感じるのは 「夫婦二人」 内閣府による「高齢者の住宅と生活環境に関す 90.1%と「三世代同居」88.9%であり、 「核家族」 る意識調査」(2010年11月実施)では、全国の でも85.5%でしたが、相対的に「単身世帯」は 60歳以上の男女3,000人を対象に「生きがい」 77.1%と低く出ました。すなわち「生きがい」 に関する調査が行われ、有効回収率68.7%が得 を感じない「単身世帯」が22.9%もいたのです。 られました。公表された調査結果の二次分析*1 日本の人口分布をみてみると、高齢者の男女 を行うと、統計学的にも幾つかの特徴が読み取 比率では、高齢期になるほど女性比率が高まり れます。その特徴をここで紹介します。 ます。女性は家族との交流に強い生きがいを感 まず性別では、女性が男性よりも生きがいを じやすいため、親や夫が亡くなったり子どもが 強く感じているようです(女性89.4%、男性 独立して「単身」になると、単身の男性も含め 84.2%)。一般に男性の大半は仕事が生きがい て家族との交流が乏しいだけ、生きがいを喪失 であり、女性の多くは家族との交流を生きがい しがちなのでしょう。 とする傾向があるようです。男性は65 ~ 69歳 近所づき合いにも差異 でもその49%が再雇用などで仕事を持っていま すが*2、同時に責任ある地位からは遠ざかるこ この傾向は「近所づき合い」にも現われてい ともあるため、生きがいが薄れがちです。反対 るようです(図2) 。高齢者全般としては同じ地 に女性では、同居別居を問わず、もともと家族 域に長く住むので、個々の「近所づき合い」は その他 86.5 13.5 その他 56.5 40.1 3.3 三世代同居 88.9 11.1 三世代同居 57.4 38.8 3.8 核家族 夫婦二人 単身世帯 85.5 90.1 77.1 感じる 14.5 核家族 9.1 夫婦二人 50.3 単身世帯 51.9 22.9 感じない 45.6 親しい 図1 家族類型別「生きがい」 50.2 あいさつ程度 図2 家族形態別「近所づき合い」 χ2=31.58 df=4 p<0.001 χ2=36.2 df=8 p<0.001 ※「感じる」は「十分に感じる」 「多少感じる」の合計。 「感じ ない」は「あまり感じない」 「まったく感じていない」の合計。 2013.12 国民 生 活 18 44.5 37.6 4.2 5.1 10.5 ほとんどつき合いなし 生活知識情報 深くなります。同調査結果から、 「夫婦二人」と 高齢者の「親しい友人・仲間」 「核家族」と「三世代同居」 の高齢者は、 「親しい」 と「あいさつ程度」を合わせれば90%に達する 最後に高齢者の「親しい友人・仲間」の現状 ことが分かります。ただ、例外はここでも「単 をみておきましょう。 「親しい友人・仲間」を「た 身世帯」の高齢者です。10%の「単身世帯」が くさん」持っているとの回答は小都市と大都市 「つき合いなし」とあるように、 「単身だから」 が多く、 「少ない」は中都市、町村では「普通」 消極的になる高齢者がいる一方、 「単身だから」 が多いことが分かります(図4) 。その他では、 近所づき合いに熱心になる高齢者( 「親しい」が 男女間に差異がありませんが、世代間の相違は 51.9%)に二分されることが考えられます。 顕著に認められました。 「親しい友人・仲間を では、どのような規模の都市で「近所づき合 たくさん持っている」は70歳代が一番多くて、 い」が親しくなされているのでしょうか。図3か 少ないのは80歳代以上でした。60歳代は、前 ら、小都市と町村で「親しい」の比率が高いこと 半よりも後半が多くなるようです。家族形態別 が分かります*3。 「あいさつ程度」は大都市と中 では親しい友人・仲間の有無についての有意差 都市に多く、「なし」は中都市に多いようです。 は出ませんでした。 またその他では、女性が男性よりも「近所づき この調査では、中都市で暮らす単身の80歳代 合い」は豊かでした。一方、年齢別では、80歳 以上の男性が、生きがいや人間関係で一番厳しい 代以上、70歳代、60歳代後半、60歳代前半の順 現状にあるという結果が出ました。総人口に占 で親しさが乏しくなる傾向にありました。ただ める高齢者の人口推計の高齢化率が25%超*4 し、 「ほとんどつき合いなし」も80歳代以上と となった日本社会では、今後の高齢者支援策で 70歳代に多く、 「生きがい」同様の二極化が認 も心がけておきたい結果です。 められます。 確実に予想される「おひとりさまの老後」を さらに、同調査による大都市、中都市、小都 考える際には、子育てを終えて、現在は子と別 市、町村という都市規模別および、60歳代前半、 居している「おひとりさま」と、シングルを通 60歳代後半、70歳代、80歳代以上の世代間比較 してきた「おひとりさま」 、さらには大都市や においては、生きがい感の違いはなく、平均し 過疎地域の「おひとりさま」などに類別した細 て85%くらいの生きがい感が示されました。都 やかな対応が求められます。 市規模ごとの近所づき合いの差異はあるのです *1 「わからない」「答えない」を除き、再集計した。 *2 総務省統計局『平成24年就業構造基本調査結果の概要』 が、それが生きがいの相違には反映されなかっ *3 大都市は東京都区部と指定都市、中都市は人口10万人以上の市 (大都市を除く)、小都市は人口10万人未満の市。 たようです。 *4 総務省『人口推計』(2013年9月) 町 村 57.7 小都市 中都市 大都市 4.0 町 村 4.8 小都市 47.9 5.9 中都市 52.1 4.4 大都市 38.3 63.2 46.1 43.4 親しい あいさつ程度 32.0 ほとんどつき合いなし 29.0 48.8 39.5 44.0 31.1 16.5 43.9 33.9 25.1 43.4 たくさん 図3 都市規模別「近所づき合い」 21.4 普通 22.7 少ない 図4 都市規模別「親しい友人・仲間」 χ2=57.47 d=6 p<0.001 χ2=19.91 df=6 p<0.01 ※「少ない」は「少し持っている」と「持っていない」の合計。 2013.12 国民 生 活 19