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新しいタイプのうつ ―対応に困る最近の傾向ー 大正大学人間学部准教授(臨床心理学科) 臨床心理士・シニア産業カウンセラー・文学博士・衛生管理者 廣川 進 1 最近のメンタルへルスの増加傾向 軽 比較的軽い症状のケース 軽症うつ、社内うつ、自律神経失調症、適応障害 ローパフォーマー、問題社員化 ⇒健康管理上の問題と人事労務管理、指導育成の問題 複 複数の症状があるケース、職場対応が難しいケース 躁うつ、不安障害、パニック障害、人格障害、統合失調症、 PTSD(トラウマストレス後障害) ⇒勤怠不良、上司周囲の疲弊、家族を巻き込んだ対応 延 休職の長期化、再発・欠勤休職の繰り返し うつの慢性化、休職期間満了直前の復職願い ⇒復職基準の明確化、家族、主治医、産業医との連携 2 背景にある若者の変化―― 「ゆとり教育世代」 「新しい学力観」に基づく学習指導要領が 施行されたのは1992年。ゆとり教育世代 の始まり。 このとき小学校6年生だった世代は、 すでに27歳。今の22歳は、小学校1年生か らこの新学力観にどっぷり浸った世代。今 後は、こうした“ゆとり世代”が続々と社会 に出てくる。 ・自分中心的で、“他者との関係の中での自分”となると途端に想像力を欠く。 ・対人関係にデリケートで傷つきやすく、深く関わろうとしない。 ・反面プライドは高く、打たれ弱い。 ・ストレス耐性が低い。 ・キャリア教育のはき違えで、理想の「青い鳥」を探し続ける。 「天職」「自分の好きなことを生かす仕事」がどこかに転がっているはず。この 仕事ではなく。 H20年新入社員「カーリング社員」: ・ほめてやる気にさせる 3 新しいタイプのうつ 0.メランコリー親和型、執着気質、循環気質のうつ 1.ディスチミア親和型うつ 2.未熟型うつ病 3.現代型うつ病 4.職場結合性うつ病、Beard 型うつ病 5.逃避型抑うつ 6.退却神経症 7.双極スペクトラム論 8.非定型うつ病 9.反応性抑うつ 10.心因反応 11.適応障害 12.PTSD 4 うつ病(気分障害)の種類 他のうつ 季節性・産後性 ( メランコリー型 ) 気双 躁 分 循極 環性 性障 病 障 害害 非定型 気 分大 変 調 性病 障 害 貝谷久宣(2007) パニック障害 5 いわゆる古典的なうつ(メランコリー)の場合 • • • • • • • • • 責任感強い・完璧主義・几帳面・まじめ 人に仕事を振りにくい、いやと言えない 発病してからかなり時間が経ってから受診 仕事もそれ以外も何もかもできなくなる 多少の変動はあるも基本はうつ状態が続く 周囲への自責感・罪責感が強い 休職することへの抵抗感が強い 早い職場復帰、休職期間の短縮を望む 治療者・医療機関への信頼感はある 6 「うつ」の多様化 (軽症うつ、社内うつ、回避型、未熟型、否定型・・・) 【従来型】 名称 メランコリー親和型 【新型】 逃避型抑うつ(広瀬) ディスミチア親和型(樽味 年齢 中高年 30歳前後 病前 性格 仕事熱心・配慮的で几帳 高学歴、自己愛的 面 規範・秩序・役割への 弱いヒステリー傾向 同一化 症状 の特 徴 焦燥感・抑制、疲弊と罪 悪感、自責感(自責の果 ての自殺企図) 選択的抑制 倦怠と不全感、回避傾向 出社に際し不安・恐怖 他者への非難 発症多い上司との関係 衝動的な自傷、自殺企図 行動 疾病による行動変化が 明らか、一貫して調子が 悪い 連休後欠勤 母性への依存 受容を求める 予後 休養と服薬で回復しやす 理解ある上司の下では い、職場の受容的配慮 復調しやすい が効奏 (2007)広瀬徹也をもとに 青年 役割なき自己への愛着 規範をストレスと抵抗 仕事熱心でない。万能感 生き方、性格と症状の境 が不明瞭。「うつの私」が 固着し遷延化しやすい 休養と服薬のみでは慢性 化しやすい。環境変化で 改善することも。 7 「現代型の混合性うつ病の考え方と位置づけ」夏目誠(2009) 8 適応障害 ■診断基準: • はっきりと確認できるストレス因子に反応し、3ヶ月 以内に症状が出現(情緒・行動) • 社会的、職業的、学業上の機能の著しい障害 • ストレス因子が終結すれば6ヶ月以上症状が持続し ない ○軽い抑うつ症状、不安症状(緊張焦燥恐怖心配) 行為障害(無断欠勤、もの破損、けんか、無謀運転 ○生育歴、本人の性格、能力の要因も ○職場環境改善の効果。異動、業務分担見直し 9 非定型うつ病 • 気分の変動が大きい • 他人の言動に過敏になり激しく反応する 非難、自己否定、軽蔑されたと感じやすく 感情的になり怒りが抑えられない、泣く 「拒絶過敏性」全人格を否定された気がする • 夕方抑うつ、夜、わけもなく悲しく泣けてくる • 不安感・孤独感 • 疲れやすく体が重くだるい、無気力 • 好きなことはできるがいやなことには体が動かない • 何時間でも寝られて(過眠)、甘いものが大量に食 べたい(過食)、急激な体重増加 10 30代うつ 「仕事中だけ<うつ病>になる人たち」香山リカ(講談社)2007より • • • • • • • • • • • 自分に甘く、他人に厳しい 30代、比較的若い世代に多い 高学歴、就職・結婚と順調に進んだ 職場での自分の扱いに納得いかなさを感じる 性格はまじめ、繊細だが負けず嫌いで趣味やライフスタイル へのこだわりも強い うつのきっかけは上司の叱責、不本意な異動、失恋など 落ち込み、不安感、恐怖感、焦燥感等感情の動揺がある すぐに涙ぐむ、泣く 「私の責任」「申し訳なし」などの自責感乏しい。会社や上司 などの他者に攻撃的。使命感、義務感も乏しい。 家族との葛藤がある。「親のためにずっと良い子にしていた」 出勤前や職場で症状が強く、出社しても医務室で休んでいた りする。 11 • 職場以外では、それまでと同じ生活、趣味、活動を続けられ る場合がある。気分の上げ下げが激しい • 身体症状が強い。過呼吸、動悸、震え、頭痛、歩行困難、失 神等。パニック発作も。 • 自殺願望、衝動。「もう消えてしまいたい」 • その他の衝動。買い物・ギャンブル・過食・性 • 親しい人に依存的、退行的になる。配偶者・恋人・友人 • 自分を受容してくれない相手に攻撃的になる • 「自分はうつ」の自覚あり、進んで受診する。精神疾患の診 断書提出も厭わない。休職日数、給与、就業規則など権利 はしっかり把握。 • うつ病、薬の知識もあり、ときに治療者に「よくならない、ちゃ んと診てくれない」と非難を向ける • 一定レベルまで回復するが、「あと一歩」が踏み出せず、復 職が遅れる • 復職後順調に回復する例もある一方、再発を繰り返す遷延 12 化の例も。 30代うつへの対応 1. 2. 3. 4. 腫れ物にさわる遠慮がちでなく普通に接する 発症の原因、犯人探しをしすぎない とりあえずゆっくり休むよう伝える 話したいことがあれば傾聴するが安易に同 意しない。「君はそう思うんだね」 受容はするが許容できないこともある 5.医療機関受診、服薬をサポート 13 6.診断書の休職期間が来たら、復職を進める。 現実的合理的希望のもてる言い方。 7.際限のない、繰り返しの休職や要求に対し ては、ルールに照らして「私には、組織として はそれはできない」など毅然と対応。 8.励ました方がいい場合もある 9.「共倒れ」るまで深入りしなくてもいい。 周囲の負担、疲弊を見極める 自分の健康を守る 14 パーソナリティ障害 〇病気⇔性格のズレ、ちょっと変わっている 周囲を困らせる人たち 〇境界性∼、自己愛性∼、回避性∼、依存性∼ ■境界性人格障害の特徴: ・不安定さ (対人関係、感情、自己像) ・見捨てられ不安 ・理想化とこき下ろし ・自傷、衝動性(消費・性行動・無謀な行動、)攻撃性 ・周囲を巻き込む ・両親との関係に問題 15 病気×性格のクロス 病態水準 精神的健康度 健康度高い 困った人 変わった人 傾聴 共感 一次的ストレス反応 性格傾向 普通の人 ゆがみ 対人トラブル 抑うつ (passive aggressive) 受動攻撃性人格障害 躁うつ病 キャリアカウンセリング カウンセリング 医療 境界性人格障害 (ボーダーライン) 統合失調症 ←対応を分ける必要がある→ 医療+福祉 16 その他のパーソナリティ障害 • 自己愛性人格障害 自己の重要性への誇大な感覚、尊大さ、共感 の欠如、他者を道具として利用 • 回避性人格障害 失敗・恥を恐れ、引っ込み思案で臆病、自己 評価が極度に低い、 • 依存性人格障害 自分の責任で決断行動できず、他人から世話 されたい、反対意見を言えない 17 会社の対応 • 個別対応が基本。 一般論、世代論で片付けない 一人ひとりをよく見る。見守る。 その人に合った接し方、叱り方、ほめ方 • 問題のレベルを見極める 性格のズレ、精神疾患、発達障害・・・ 深刻な事態では専門家に相談 • 健康管理と労務管理を混同しない 毅然とした対応、(ときには弁護士) • ときには親、保証人を巻き込んで 18 トラブルを起こす人への対応ポイント ・話し合いの場では穏やかにクールに。敵対・批判的× ・できないことは明確に伝える ・客観的事実(遅刻の頻度、無断欠勤、規則違反など) をその都度、確認し理由を聞き、注意をする。そのや り取りを文書で記録。 ・指導や注意をする際は根拠を明示。就業規則等 ・例外を作らない ・対応する人が変わっても同じ対応を貫く ・同僚、上司へのケア ・健康管理と労務管理の問題を分ける ・医師(主治医・産業医)、心理、人事、弁護士の視点 19 のバランス 自己信頼の欠如と 職場のコミュニケーション不全 母親との分離ができてないと他者への依存度が高くなる 他者との境界線が引けないまま学校、会社へ 母はすべてわかってくれる⇔ひどい目に遭っている 他者への想像力や共感力が低い 過剰な自己愛 誇大尊大、高いプライド、賞賛求める 自分は本当はすごいのに誰も価値をわかってくれない 職場でも余裕がないのでゆっくり関わってやれない 自己効力感も持てず未熟なまま大人になりきれない。 岩谷泰志『works97』 20 自己信頼ありの 成長サイクル がんばったら ほめられた 自分 ⇄ 家族 自分のい いとこって ここなんだ 自尊あり 自分+仕事⇄他者 自己信頼あり 自己効力感⇄役割意識・行動 自分の居場所あり 役に立った! 次はもっと 21 自己信頼なしの 停滞サイクル こんな組織や自分 でなければ・・・ 自分 ⇄ 家族 なんで思い通り にいかないん だろう 自尊欠如 自分+仕事⇄他者 自己信頼欠如 自己効力感欠如⇄役割意識なし どうせ自分な んてこの程度 でいいか 自分の居場所なし 22