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2002 年度・2003 年度 内外経済見通し
2002 年 9 月 6 日 みずほ総合研究所 調査本部 富士総合研究所 調査研究部 (TEL.03-5252-6010) (TEL.03-3201-0521) 2002 年度・2003 年度 内外経済見通し ○海 外 経 済 • • 米国経済は、会計不信や株価低迷といった下押し要因はあるものの、設備投資の 緩慢な回復と個人消費の下支えから景気の腰折れはきわどく回避。潜在成長率を 下回るいわゆるグロース・リセッションではあるが、2002 年の+2.3%に続いて 2003 年は+2.4%の実質成長率を予想。 欧州経済は足取りの重い展開となるが、アジア経済は米国の緩やかな立ち直りに よって回復傾向を持続。 〔 実質成長率 〕 2001年 (実績) 2002年 (予測) (単位:%) 2003年 (予測) 0.3 1.4 3.7 2.3 0.9 5.5 2.4 2.0 5.8 米国 ユーロ圏 アジア ○日 本 経 済 • • • 日本経済は 2002 年 1∼3 月期を底として回復局面に入ったと見られるが、外需や 財政支出といった外生需要の増加が国内民間需要を喚起してゆくメカニズムは 依然として円滑に機能していない。 回復メカニズムに「断層」を抱えた現状においては、その回復経路もまさに薄氷を 踏むが如き展開となろう。外需の成長寄与度が次第に低下する中で、設備投資は 2003 年度には 3 年振りに増勢に転じ、個人消費も低位安定での推移を予想するが、 回復テンポは極めて緩慢とならざるを得まい。 実質成長率は 2002 年度+0.3%、2003 年度+0.9%を予想。高水準の需給ギャップを 背景に名目成長率は 2000 年度以降 4 年連続のマイナスとなろう(2002 年度▲1.3%、 2003 年度▲0.3%)。米国経済の変調や株価の下落といった外的ショックに脆弱な 状況にはいささかの変化もない。 〔 成長率と寄与度 〕 実質GDP 寄与度:内需 寄与度:外需 名目GDP 2001年度 (実績) 2 0 0 2 年度 (予測) (単位:%) 2 0 0 3 年度 (予測) ▲1.9 ▲1.4 ▲0.5 ▲2.8 0.3 ▲0.2 0.5 ▲1.3 0.9 1.0 ▲0.0 ▲0.3 *当レポートは情報提供のみを目的として作成されたもので、商品の勧誘を目的としたものではありません。 Ⅰ.海 外 経 済 1.腰折れこそ回避するものの、グロース・リセッションが続く米国経済 2002 年 4∼6 月期の米国経済は、輸入の急増及び在庫投資の成長率に対する寄与度が大きく縮 小したことなどから、前期比年率+1.1%と急鈍化した(1∼3 月期は同+5.0%)。7∼9 月期に関 しては、会計不信や企業収益の悪化懸念に起因する株価低迷を背景に、企業や消費者の景況感は 悪化しているが、一方で所得の増加、物価の安定や低金利に支えられ、個人消費が底堅さを維持 していることもあって、景気全体としては緩やかな回復が続いている。 (1)設備投資は緩慢ながらも回復局面入り 02 年 4∼6 月期の設備投資は前期比年率▲2.6%と7期連続でマイナスとなった。ストック調整 圧力が残存している構築物投資や自動車リース業の不振の影響が大きい輸送用機械投資等が落ち 込んでいるが、一方で通信機器関連を除いて過剰設備が概ね払拭されていると見られる情報関連 投資に関しては緩やかな回復トレンドが続いている。在庫調整の終了を背景に生産の緩やかな増 加傾向が続いていることもあり、設備投資は回復局面へと移行して行くことが予想される。もち ろん、①競争激化を背景に企業が価格支配力を喪失していることから企業収益は不冴えな状況が 続くと予想されること、②企業金融も厳しい環境にあることから、設備投資の回復テンポは緩慢 なものに留まらざるを得ないと見込まれる。 (図表 1) 生産と稼働率の推移 (3か月移動平均前月比) 1.0% 実質個人消費の要因分解 20 (%) (3か月移動平均) 予測 設備稼働率 (右目盛) 0.8% (図表 2) 15 80% 0.6% 消費性向要因 10 所得要因 0.4% 75% 5 0.2% 0.0% 0 70% ▲0.2% ▲0.4% ▲0.6% ▲0.8% ▲5 その他 自動車 ハイテク関連 (注) 生産 65% ▲ 10 (季調後) 価格要因 ▲ 15 00 (注)半導体、コンピュータ関連、通信機器 60% ▲1.0% 00/01 00/07 01/01 01/07 02/01 02/07 01 02 03 (注)前期比年率。 (資料)米国商務省 (資料)FRB (2)個人消費は一時の勢いこそ失うものの、引き続き景気の下支え役を果たす見込み 労働分配率は過去のリセッション局面と比較するとかなり低下しているが、厳しい収益環境を 背景に、企業の人件費削減意欲は根強いものがある。こうした中で、雇用・所得環境の改善は一 進一退を余儀なくされ、総じて見れば軽微なジョブレス・リカバリーが続くとみられる。加えて、 株価の低迷が消費マインドの悪化や逆資産効果を通じて家計の支出行動を抑制することも考えら 1 れる。もっとも、住宅価格は上昇率こそ鈍化するものの、良好な需給環境に支えられて大崩れす ることは見込み難く、低金利に支えられた住宅ローンのリファイナンスに伴うキャッシュアウト 効果 1が、個人消費を側面支援することが予想される。こうした中で、個人消費は緩やかながらも 増勢が続くとみられる。 (3)米国経済の実質成長率は 02 年が+2.3%、03 年が+2.4% 昨年以降のリセッションを比較的軽微なものとする上で、家計部門の需要の果たした役割が大 きいことは言うまでもない。今後は家計部門の需要にこれまでのような牽引力は期待できなくな るが、一方で在庫調整を終えた企業部門の需要が緩やかに立ち上がって来るとみられる。こうし た中で企業部門と家計部門の相互連関的な景気回復メカニズムは維持され、景気が二番底(再び マイナス成長)に陥る事態は回避され得る見込みである。もちろん、米国経済に内在する様々な 不均衡、例えば家計部門の低貯蓄率、企業部門の過剰債務、ひいては双子の赤字が各部門に調整 圧力を付加するため、景気の回復テンポは緩慢に留まらざるを得ない。米国経済の実質成長率は 02 年が前年比+2.3%、03 年が同+2.4%と3%弱とみられる潜在成長率をやや下回る状況が続く とみられる。 (図表 3) 2001年 (実質、前期比年率) 個人消費 住宅投資 設備投資 在庫投資 (億ドル) 政府支出 財・サービスの純輸出 (億ドル) 財・サービスの輸出 財・サービスの輸入 国内最終需要 GDP <前年第Ⅳ四半期比> 消費者物価<前年比> 経常収支 (億ドル) <対名目GDP比> 2.5 0.3 ▲5.2 ▲ 614 3.7 ▲ 4,159 ▲5.4 ▲2.9 1.6 0.3 0.1 2.8 ▲ 3,934 ▲3.9 2002年 予測 2.9 3.4 ▲5.3 83 4.2 ▲ 4,902 ▲2.5 3.2 2.2 2.3 2.7 1.8 ▲ 4,800 ▲4.6 02∼03 年の米国経済の予測 2003年 予測 2.2 ▲1.8 4.1 406 2.9 ▲ 5,301 4.5 5.7 2.4 2.4 2.0 2.6 ▲ 5,170 ▲4.7 2001年 上期 下期 2.1 2.6 3.9 ▲0.8 ▲7.2 ▲9.4 ▲ 426 ▲ 801 5.0 3.4 ▲ 4,096 ▲ 4,222 ▲7.2 ▲14.2 ▲6.1 ▲8.9 1.5 1.1 ▲0.4 0.1 0.7 ▲0.1 3.4 2.3 ▲ 2,070 ▲ 1,864 ▲4.1 ▲3.7 2002年(予測) 上期 下期 3.5 2.0 6.5 1.6 ▲6.4 1.2 ▲ 108 274 5.7 2.3 ▲ 4,703 ▲ 5,101 2.1 1.3 8.3 6.2 2.9 1.9 3.5 2.0 1.8 2.8 1.3 2.3 ▲ 2,320 ▲ 2,480 ▲4.5 ▲4.7 (単位:%) 2003年(予測) 上期 下期 2.0 2.7 ▲3.8 ▲1.1 4.8 5.5 360 451 3.1 3.1 ▲ 5,181 ▲ 5,421 5.1 6.8 4.5 7.6 2.3 3.0 2.4 2.8 2.2 2.6 2.6 2.6 ▲ 2,520 ▲ 2,650 ▲4.7 ▲4.8 (注)1.年は前年比変化率、半期は前期比年率変化率(GDP下段の半期は前年比)。 2.2002年は予測値。 (資料)米国商務省”Survey of Current Business”、米国労働省”Monthly Labor Review” 2.回復の足取りの重い欧州経済 ユーロ圏経済は、輸出の鈍化を背景とする企業部門の回復の遅れが、雇用環境の悪化を通じて 家計部門へも波及し、個人消費も低迷が続くことが予想される。欧州中部に深刻な打撃を与えた 洪水に関しては、その直接的な影響よりも、むしろドイツにおいて予定されていた減税が復興財 源捻出のため先送りされたことの消費マインドへの影響が懸念される。こうした状況下、ユーロ 圏経済の回復の足取りは重く、実質成長率は 02 年が前年比+0.9%、03 年が同+2.0%と予想さ 1 既存の住宅ローンの借り換えに際して、住宅価格上昇のメリットを享受すべく、ローンを借り増す こと。その結果、家計部門の利用可能な資金は増大することになる。 2 れる。不冴えな景気動向を反映して、物価は総じて安定推移するとみられる。03 年の消費者物価 上昇率は4年振りに2%を割り込む可能性も視野に入れる必要がある。 なお、英国経済の実質成長率は 02 年が前年比+1.5%、03 年が同+2.3%と予想される。 (図表 4) 2001年 1.4 0.6 1.8 1.8 2.7 1.9 2.5 ユーロ圏 ドイツ フランス D イタリア スペイン P 英 国 消費者物価(ユーロ圏) G 02∼03 年の欧州経済の予測 2002年 (予測) 0.9 0.4 1.1 0.5 2.0 1.5 2.2 2003年 (予測) 2.0 1.6 2.1 2.1 2.6 2.3 1.8 (単位:%) 2003年(予測) 上期 下期 1.0 1.1 0.8 1.0 1.0 1.2 1.1 1.1 1.3 1.5 1.1 1.1 1.6 2.0 2002年 上期 下期(予測) 0.4 0.9 0.3 0.6 0.5 1.0 0.1 0.9 0.8 1.2 0.5 1.3 2.3 2.0 (注) 1.実質経済成長率。年は前年比変化率、半期は前期比変化率(消費者物価はいずれも前年比変化率)。 2.2002年、2003年は予測値。 (資料)EUROSTAT、ECB、ONS 3.アジア経済は回復傾向が続く見込み アジア経済は、様々な政策対応(歳出拡大、減税、金融緩和)による景気下支え効果が次第に 剥落するものの、米国経済の緩やかな回復が続く中で、輸出、生産、雇用の増加傾向は維持され、 緩やかな拡大基調が持続する見込みである。アジア域内の平均成長率は、中国の成長にも支えら れ、02 年が前年比+5.5%、03 年が同+5.8%と予想される。 一方、中南米は、政治・経済危機が続くアルゼンチン、ベネズエラを除けば、02∼03 年にかけ て緩やかな回復が続く見込みである。とはいえ、10 月に予定されているブラジルの大統領選挙の 結果如何では、同国の生命線である海外からの資本流入に変調を来たす可能性も否定できず、引 き続き留意を要する。 (図表 5) 2001年 アジア域内平均 NIEs平均 韓 国 02∼03 年のアジア・中南米経済の予測 2002年 (予測) (単位:%) 2003年 (予測) 2001年 2002年 (予測) (単位:%) 2003年 (予測) 3.7 0.5 3.0 5.5 4.1 5.8 5.8 4.7 5.7 中南米域内平均 メキシコ ブラジル 0.2 ▲ 0.3 1.5 ▲ 1.6 1.8 0.7 1.7 4.2 2.2 台 湾 香 港 シンガポール ASEAN平均 ▲ 1.9 0.2 ▲ 2.0 2.3 3.0 1.6 4.0 3.6 3.7 3.0 5.5 4.1 アルゼンチン チリ コロンビア ベネズエラ ▲ 4.5 2.8 1.4 2.7 ▲ 15.0 2.2 1.2 ▲4.5 ▲ 3.0 3.8 1.8 ▲2.0 タ イ マレーシア インドネシア フィリピン 1.8 0.4 3.3 3.2 3.8 3.8 3.4 3.7 4.0 5.1 3.6 3.9 ペルー 0.1 3.2 3.2 7.3 7.5 7.4 中 国 (注)1.実質GDP成長率(前年比)。 2.平均値は各国の2000年名目GDP額を基準に加重平均した値。 (資料)各国政府資料により作成 3 Ⅱ.日 本 経 済 1.薄氷の回復パスを辿る日本経済 (1)景気の底入れを示唆する GDP 統計 8月 30 日に発表された 02 年 4∼6 月期「四半期別 GDP 速報」(QE)によれば、同期の実質 GDP 成長率は前期比+0.5%(同年率+1.9%)と5四半期振りにプラスとなった。成長の牽引役が外 需であることに変わりはないが、個人消費が低迷を続けながらも3期連続でプラス成長を続け、 また設備投資も落ち込み幅が縮小している。このように日本経済は循環的には 02 年 1∼3 月を底 に回復過程に入ったとの見方もできなくはない。 (2)回復メカニズムに残存する「断層」の克服が今後のカギ もっとも、このまま日本経済が順調に回復して行くと判断するのは早計といえる。というのは、 日本経済には景気回復メカニズムが円滑に働くことを阻害する幾つかの「断層」が存在している と考えられるからである。 一般に景気が自律的な回復を辿る際のメカニズムは次のように整理できる。外需や財政支出と いった外生需要の増加が国内生産増を促し、生産増は企業収益の改善、稼働率の上昇に繋がり、 設備投資需要を喚起して行く。一方、生産増は雇用・所得環境を通じて、個人消費の増加へと繋 がって行く。そして、個人消費・設備投資等の増加は、企業部門の在庫変動を通じて、再び生産 増を誘発する。バブル崩壊後、景気回復局面が短命に終わった背景には、幾つかの「断層」によ って上記メカニズムが円滑に働かなかったことが考えられる。例えば、わが国は労働分配率の水 準が高く、景気動向に拘わらず人件費の抑制が企業の重要課題となっているほか、公的負担の増 大(年金不安や将来の増税)に対する漠然とした不安によって、雇用・所得環境の改善が個人消 費の喚起に繋がり難いことを指摘できる。また、生産増や収益改善が設備投資需要に直結し得な い背景には、デフレに伴う実質債務負担の増大、資産価格下落によるバランスシート調整圧力や 様々な不確実性の存在によって企業の「企業家精神」が萎縮してしまっている可能性もある。02 ∼03 年度の日本経済を展望する際には、循環的な回復モメンタムがこうした「断層」によってど の程度減殺されるのかの見極めが重要となる。 (図表 6) 2.5 実質成長率(前期比)の需要項目別寄与度 (前期比:%) 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 ▲0.5 ▲1.0 個人消費 住宅投資 設備投資 公需 在庫投資 純輸出 ▲1.5 ▲2.0 ▲2.5 99 00 (注) 2001年1∼3月期迄は参考系列。 (資料)内閣府「四半期別GDP速報」 01 4 02 (年・四半期) 2.外需:外需の成長率に対するプラス寄与度は次第に縮小 輸出の増加テンポが鈍化する中、外需の成長率に対するプラス寄与度は縮小する見込みである (02 年度:+0.5%ポイント、03 年度:▲0.0%ポイント) (1)輸出は年末にかけて減速。その後の回復テンポも緩慢 輸出は、①東アジアにおける情報関連財を中心とする在庫復元、②春先までの円安の効果がタ イムラグを伴って顕現化していること等を背景に、増勢を維持している。 もっとも、7∼9 月期以降来年初にかけては、米国経済の鈍化及びアジアにおける在庫復元需要 の一巡から、輸出は減速して行く可能性が高い。その後は、①米国経済の成長率は鈍化こそする ものの腰折れは回避されること、②IT 投資需要が緩やかに持ち直すこと、③アジアにおいて緩や かな在庫積み増しが始まること等から、電気機械、一般機械、化学を中心に緩やかな増加基調を 辿るほか、輸送用機械の輸出も 2002 年度並みの高水準を維持する見込みである(02 年度:+8.8%、 03 年度:+3.0%)。 (2)輸入は緩やかな増勢を維持 輸入は内需の弱さを背景に低迷が続いていたが、02 年 4∼6 月期は情報関連分野での生産・輸 出の持ち直しを受けて6四半期ぶりに増加した。今後については、生産が総じて見れば緩やかな がらも回復傾向を続けることを背景に、輸入も増加して行くものとみられる。但し、個人消費は 急落こそないものの基本的には低迷が続くことから、輸入の増加テンポは緩慢なものに留まる公 算が高い(02 年度:+5.3%、03 年度:+4.0%)。 (3)02 年度の経常収支黒字は急拡大、03 年度も高水準で推移 輸出の伸びが輸入のそれを上回ることに加え、そもそも実額ベースでは輸出が輸入の約 1.2 倍 あることから、02 年度の貿易黒字は 10.4 兆円に達する見込みである。旅行・輸送の回復からサ ービス収支の赤字は拡大するものの、対外資産の増加等を背景に所得収支の黒字幅拡大も予想さ れ、経常黒字は 12.9 兆円、対名目 GDP 比でみて 2.6%まで上昇するとみられる。03 年度について は、輸出の伸びが鈍化することから、経常黒字は 12.3 兆円、対名目 GDP 比は 2.5%と予想される。 (図表 7) 輸出数量の推移 (2000年1月=100) 115 (図表 8) 経常収支の推移 予測 (兆円) 25 対アジア輸出 110 20 105 輸出数量 15 100 95 10 対米輸出 90 5 85 0 80 75 対EU輸出 70 00 01 (注)季節調整値。 (資料)財務省「貿易統計」 02 所得収支 貿易収支 ▲5 サービス 収支 ▲ 10 経常移転収支 ▲ 15 (年/月) 96 97 98 99 00 (資料)日本銀行「国際収支統計」 5 01 02 03 (年度) 3.企業部門:03 年度の設備投資は3年振りに増加 (1)製造業の企業活動は、回復傾向が持続 昨年秋以降、ならして見れば生産は回復傾向を続けてきたが、これまで牽引役となってきた輸 出向けと見られる電気機械関連の生産財生産が鈍化する中、足元、やや息切れ感が窺える。一方、 第3次生産活動指数の停滞が示すように、非製造業は下げ止まるも回復モメンタムに乏しい状況 が続いている。 (図表 9)生産財に偏った生産回復 15 (前期比寄与度%) (図表 10) (1995年=100) 110 鉱工業生産 (右目盛) 105 10 企業活動の推移 (1998年=100、季節調整済) 110 第三次産業 105 全産業 100 100 5 鉱工業生産 95 生産財 95 90 0 85 最終需要財 建設業 ▲5 98 99 00 90 01 80 (年) 02 (注) 2002年7∼9月期は7月の数値。 (資料)経済産業省「経済産業統計」 85 98 99 00 01 02 (年) (資料)経済産業省「経済産業統計」 (2)生産活動は年末にかけてやや足踏みし、その後の回復テンポも緩慢となる見込み 内需の回復に多くを期待できないため、基本的には輸出が生産活動を規定しているといっても 過言ではない。今後しばらくの間は、内需向け最終需要財の生産の低迷が続く中、輸出の増勢が 鈍化するため、生産も足踏み感を強める展開が予想される。もっとも、03 年を展望すれば、輸出 が再び拡大に転じることから、緩やかな生産増が続くものと予想される。 (図表 11) 輸出主導の生産回復 140 (1995年=100) (1995年=100) (図表 12) 120 15 予測 135 在庫循環図(1997 年度∼) (前年比%) 前回の景気の谷 115 実質輸出 (左目盛) 10 130 110 125 105 120 100 ▲5 95 ▲10 90 2002年4∼6月期 ▲15 ▲15 ▲10 ▲5 0 在庫の伸び 鉱工業生産 (右目盛) 115 110 98 99 00 01 02 03 (注) 実質輸出の2001年1∼3月期迄は参考系列。 (資料)内閣府「四半期別GDP速報」 経済産業省「経済産業統計」 出 荷 の 伸 び 04 (年) 5 0 (注) 点線部分は予測。 (資料)経済産業省「経済産業統計」 6 5 10 (前年比%) (3)輸出回復とリストラによって 02 年は増益に。03 年も小幅増益を予想 輸出の増加や人件費を中心とする固定費削減によって企業収益には薄日が差し始めている。と りわけ輸出増加の恩恵を受けやすい大企業製造業では、昨年度の反動もあって所謂「V字型」の 収益回復が予想される。もっともデフレの下ではそもそも売上高を伸ばすことが困難であるほか、 固定費の削減や生産性の上昇に頼った収益の捻出にも自ずと限界がある。とりわけ、中小企業は 大企業と比べ固定費比率が高く、売上が伸びない環境下では厳しい収益環境が続くと予想される。 (図表 13) 全産業 2001年度 ▲3.3 ▲19.6 ▲3.9 ▲23.6 ▲5.6 ▲41.2 ▲2.6 ▲0.6 ▲2.8 ▲15.7 ▲7.5 ▲44.8 ▲1.6 ▲1.8 売上高 経常利益 売上高 経常利益 売上高 経常利益 売上高 経常利益 売上高 経常利益 売上高 経常利益 売上高 経常利益 大企業 製造業 非製造業 中堅中小 製造業 非製造業 企業収益の予測 2002年度(予測) ▲1.7 8.4 ▲1.0 18.4 ▲1.0 31.8 ▲0.9 8.1 ▲2.2 ▲0.3 ▲2.1 11.9 ▲2.3 ▲3.6 (単位:前年比%) 2003年度(予測) 0.6 4.4 1.5 7.6 2.2 8.8 1.0 6.5 0.0 1.0 0.6 5.5 ▲0.1 ▲0.4 (資料)財務省「法人企業統計」 (4)03 年度の設備投資は+1.6%と3年振りに増加(02 年度は▲3.3%)する見込み 長らく低迷を続けてきた設備投資は、先行指標の機械受注を見る限り、02 年 7∼9 月期には7 四半期振りにプラスに転じる見込みである。その後、生産活動の足踏みを受けて、設備投資も一 旦失速するものの、03 年半ば以降、生産が回復モメンタムを取り戻す中で、設備投資は製造業主 導で再び増加に転じると予想される。なお、非製造業では小売業等の新規出店、移動体通信やブ ロードバンド関連の IT 投資等で設備投資増加が見込まれるが、全体としては力強い回復は期待困 難である。更に、期待成長率の低下、海外生産拠点の拡大、デフレに伴う実質債務残高の増大、 資産価格下落による B/S 調整圧力が、設備投資の回復を抑制する構図に変化はなく、回復テンポ はあくまでも緩やかなものに留まらざるを得ない。 (図表 14)機械受注の推移 130 (図表 15) (1998年=100) 10 設備投資の予測 (前期比%) 予測 120 110 非製造業 5 民需 0 100 90 80 製造業 ▲5 70 98 99 00 (注) 除く船舶・電力。 (資料)内閣府「機械受注統計」 01 02 98 (年) 99 00 01 02 03 (注) 2001年1∼3月期迄は参考系列の前期比を表示。 (資料)内閣府「四半期別GDP速報」 7 04 (年) 4.家計部門:個人消費は低位で安定推移 (1)非常用雇用者を中心に雇用者数の増加が見込まれるも、所得環境は厳しい情勢が持続 生産の持ち直しを受けて、足元、新規求人数の増勢が続いているほか、雇用者数も増加基調に ある。但し、企業部門の人件費削減意欲は強いため、雇用者数の増加は単位賃金のより安価な非 常用雇用者が中心であり、常用雇用者はむしろ減少が続いている。こうした流れを受けて、雇用 に占める非常用雇用の割合が上昇しており、所定内給与のマイナス幅は拡大傾向にある。また、 企業収益動向が遅れて反映される特別給与(ボーナス等)の改善も暫く期待できる状況にない。 個々の企業の合理的な経営判断が、マクロ的には負の効果を醸成してしまうという「合成の誤謬」 が生じており、生産に始まった景気回復モメンタムが労働市場において減衰してしまっている。 雇用者数の増加を受けて、03 年度の雇用者報酬はプラスに転じるが、回復テンポは極めて緩慢な ものに留まると予想される。 (図表 16) 2.0 雇用者数の推移 (図表 17) (前年比、%) 2.0 1.5 1.5 臨時雇 日雇 1.0 1.0 0.5 0.5 0.0 0.0 ▲ 0.5 ▲ 0.5 ▲ 1.0 ▲ 1.5 (前年比、%) 雇用者 ▲ 1.5 ▲ 2.0 ▲ 2.0 ▲ 3.0 02/07 02/05 02/03 02/01 01/11 01/09 01/07 01/05 一人当たり 報酬 名目雇用者報酬 ▲ 2.5 常用雇用 ▲ 2.5 01/03 予測 ▲ 1.0 非農林雇用者数 (除く役員) 01/01 雇用者報酬の推移 (年・四半期) 99 00 01 02 03 04 (注)01/Q1以前の雇用者報酬は参考系列 (資料)内閣府、総務省、厚生労働省 (資料)総務省「労働力調査」 (2)個人消費は低位で安定推移する見込み 厳しい雇用・所得環境にも拘らず、02 年 4∼6 月期まで個人消費は3期連続でプラスとなり、 緩やかな回復が確認された格好となっている。この背景としては景気回復期待を受けて循環的に は消費マインドが改善していることが大きい。もっとも、老後不安など家計の抱く中長期的な将 来不安が一定レベルを超えての消費マインドの改善を抑制するとみられるほか、可処分所得の低 迷が続くことは疑うべくもない。98 年度にみられた金融危機のような予期せぬショックがなけれ ば、個人消費が大きく落ち込む可能性は少ないが、一方で個人消費が一本調子で改善して行くシ ナリオも描き難い。 8 (図表 18) 実質家計消費の推移 個人消費の予測 (単位:%) 実質可処分所得要因 2.5% 2.0% (図表 19) 2001年度 実質家計消費(除く帰属家賃) 2002年度 (予測) 2003年度 (予測) 1.5% 雇用者報酬 ▲ 1.5 ▲ 1.5 0.2 1.0% 1人当たり 雇用者数 可処分所得 ▲ 1.2 ▲ 0.3 ▲ 1.4 ▲ 1.7 0.2 ▲ 1.2 ▲ 0.3 0.5 ▲ 0.1 家計消費支出デフレータ 実質可処分所得 ▲ 2.0 0.6 ▲ 1.7 0.5 ▲ 1.4 1.3 名目消費支出 民間消費支出デフレータ 実質消費支出 ▲ 0.5 ▲ 1.5 1.1 ▲ 0.7 ▲ 1.4 0.7 ▲ 0.5 ▲ 1.1 0.7 89.7 0.9 90.2 0.4 89.8 ▲ 0.4 0.5% 0.0% ▲0.5% ▲1.0% ▲1.5% 消費性向要因 ▲2.0% 消費性向 前年差(%ポイント) (年・四半期) ▲2.5% 98 99 00 01 02 (注) 1.消費性向以外は前年比。 (注1)4期移動平均。01/Q1以前は参考系列 (注2) 郵貯大量満期の影響を除くベース (資料)内閣府「国民経済計算」 2.郵貯大量満期の影響を除いたベース。 3.家計消費支出デフレータは除く帰属家賃。 (資料) 内閣府「国民経済計算」等 (3)住宅投資は 02 年度▲3.0%の後、03 年度は+1.6%と4年振りに増加 03 年度上期にかけては住宅ローン控除制度の期限切れを睨んだ駆け込み需要が顕現するため、 03 年度の住宅投資は4年振りに増加する見込みである。とはいえ、①地価の趨勢的な下落、②物 価下落による実質金利の高止まりといった構造的な問題が引き続き残存することから、住宅投資 は総じて低調に推移しよう。 (図表 20) 住宅投資の予測 2001年度 新設住宅着工戸数 持家 貸家 分譲 2002年度 (予測) 2003年度 (予測) (万戸) 117.3 118.7 118.2 (前年比%) ▲ 3.3 1.2 ▲ 0.4 (万戸) (前年比%) (万戸) (前年比%) (万戸) 37.7 36.6 36.8 ▲ 13.9 ▲ 2.8 0.5 44.2 46.9 46.6 5.8 6.1 ▲ 0.6 34.4 34.1 33.8 ▲ 0.9 (前年比%) ▲ 0.7 ▲ 0.9 名目民間住宅投資 (前年比%) ▲ 9.1 ▲ 4.8 0.0 (前年比%) ▲ 1.1 ▲ 1.9 ▲ 1.6 実質民間住宅投資 (前年比%) ▲ 8.0 ▲ 3.0 1.6 デフレーター (資料)内閣府「国民経済計算」、国土交通省「住宅着工統計」 9 5.政府部門:公的需要の成長率に対するプラス寄与度は縮小 公共投資の削減姿勢に変化がみられない中、公務員数削減・給与水準引き下げ等の影響から政 府消費の伸びが鈍化するとみられ、03 年度は公的需要の成長率に対する大きな寄与は期待困難で ある。 (1)公共投資は 02 年度、03 年度と5年連続で減少する見込み 02 年 4∼6 月期の公共投資は2期連続でのマイナスとなった。国・地方を問わず公共事業関連 の当初予算が大きく削減されていることが影響している。今後を展望すると、01 年度第2次補正 予算の効果の顕現から、7∼9 月期にかけて公共投資はプラスに転じる。但し、2002、03 年度とも 当初予算の段階で前年比マイナスであること、公共投資の追加を中心とする補正予算の編成は見 送られる公算が高いことから、実質公共投資は通年では5年連続でマイナスとなる見込みである。 (2)公務員定数削減・給与水準引き下げ等の影響により、政府消費の伸びは鈍化 公務員数削減・給与水準引き下げの流れを映じて、雇用者報酬は前年比マイナスに転化してい る。また、高齢化に伴う医療費給付の増加を背景に増勢を維持してきた現物社会給付も、①02 年 度の診療報酬マイナス改定、②03 年度の健康保険法改正による国民自己負担分増等により、伸び は鈍化する見込みである。その結果、政府消費は 02 年度が前年比+2.6%、03 年度が同+1.7% と伸びが鈍化する見込みである。 (図表 21)公的固定資本形成の推移 予測 44 (図表 22)公務員年収の推移 (%) (%) 10 伸び率 1000 5 42 (兆円) 2 ▲ 5 38 実額 34 1 800 ▲ 10 36 4 3 900 0 40 0 (万円) ▲ 15 700 -1 ▲ 20 32 30 予測 (前年比) -2 ▲ 25 600 ▲ 30 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ (四半期) 00 01 02 03 500 (年度) (注) 1.実質値。季節調整値(年率)。 2.伸び率は前期比。 3.2002年度第Ⅱ四半期以降は予測。 (資料) 内閣府「国民経済計算」 -3 -4 公務員年収 (国、地方平均) -5 400 91 92 93 94 95 96 (資料) 公務員白書 他 10 97 98 99 00 01 02 -6 03 (年度) 6.日本経済の実質成長率は 02 年度が+0.3%、03 年度が+0.9% 01 年度の成長率が前年比▲1.9%と比較可能な 81 年度以降で最悪の成長を記録した日本経済は、 02 年 1∼3 月期を底に循環的な回復局面入りしているとみられるが、実感される景気は浮揚感の ないものに留まっている。 今回の見通しを俯瞰すれば、下振れリスクを抱えながらも米国経済が何とか2%台の成長率を 維持することから、日本経済も何とか腰折れを回避し得るとのシナリオである。即ち、02 年 7∼9 月期以降、輸出の伸びが鈍化する中、日本経済は 02 年末∼03 年初にかけて足踏み局面を迎える ことが予想される。もっとも、米国経済の回復傾向が明らかになるに連れ、今年前半に顕著であ った「輸出→生産」のパスが始動し、一度失速した設備投資も緩やかに回復するとみられる。但 し、個人消費は(帰属家賃によるトレンド的上昇を除けば)低迷状況が続くため、景気に浮揚力 は生じない。こうした背景には、既述のような景気回復メカニズムの様々な「断層」が影響して いることは言うまでもない。 02 年度の実質成長率は前年度からのマイナスの「成長率のゲタ」(▲0.5%)を打ち返して、何 とか+0.3%とプラス成長に復し、03 年度も+0.9%と2年連続のプラス成長が予想される。もっ とも、「成長率のゲタ」を除いた期中成長率でみると、02 年度+0.8%、03 年度+0.7%と決して 景気の回復テンポが拡大するわけではない点に留意を要する。また、高水準の需給ギャップを背 景に、名目成長率は 02 年度が前年比▲1.3%、03 年度が同▲0.3%とデフレからの脱却には至ら ないとみられる。財政・金融による政策支援に期待できない状況下、日本経済が米国経済の腰折 れや株価下落等のショックに極めて脆弱な状況に変化はない。 (図表 23) 02∼03 年度の日本経済の予測 2001年度 2002年度 2003年度 実質GDP 国内需要 国内民間需要 個人消費 住宅投資 設備投資 国内公的需要 政府消費 公共投資 純輸出 輸 出 輸 入 名目GDP 鉱工業生産 完全失業率 経常収支(兆円) 対名目GDP比 国内卸売物価 消費者物価 為替レートの前提 (実績) ▲1.9 ▲1.4 ▲1.8 1.1 ▲8.0 ▲4.8 ▲0.2 2.7 ▲6.7 ▲21.7 ▲8.3 ▲4.7 ▲2.8 ▲10.2 5.2 11.9 2.4 ▲1.1 ▲1.0 125.1 (予測) 0.3 ▲0.2 ▲0.7 0.7 ▲3.0 ▲3.3 1.3 2.6 ▲2.2 24.6 8.8 5.3 ▲1.3 3.3 5.4 12.9 2.6 ▲0.5 ▲0.7 122.9 (予測) 0.9 1.0 1.2 0.7 1.6 1.4 0.4 1.7 ▲3.2 ▲1.1 3.0 4.0 ▲0.3 2.2 5.6 12.3 2.5 ▲0.2 ▲0.5 122.0 2002年度 上期 下期 (予測) (予測) 0.6 0.3 0.1 0.6 ▲0.1 0.7 0.5 0.0 ▲2.3 ▲0.8 ▲1.1 1.5 0.7 0.2 1.3 1.3 ▲0.9 ▲2.7 23.6 ▲10.0 9.0 0.4 5.5 3.4 ▲0.4 ▲0.6 5.4 1.3 5.4 5.5 13.8 12.5 2.8 2.5 ▲1.0 0.0 ▲0.7 ▲0.7 122.9 123.0 (注) (単位:%) 2003年度 2002年度 2003年度 (寄与度) (寄与度) 上期 下期 (予測) (予測) (予測) (予測) 0.4 0.7 0.4 0.7 ▲0.2 1.0 0.5 0.7 ▲0.5 0.9 0.4 0.6 0.4 0.4 3.1 ▲2.2 ▲0.1 0.1 ▲0.1 1.4 ▲0.5 0.2 0.0 0.5 0.3 0.1 0.5 1.1 0.4 0.3 ▲1.2 ▲1.4 ▲0.1 ▲0.2 2.7 3.2 0.5 ▲0.0 1.5 2.5 0.9 0.3 1.2 2.3 ▲0.4 ▲0.4 0.0 0.0 0.8 1.5 5.5 5.6 11.6 13.4 2.4 2.7 0.0 ▲0.3 ▲0.6 ▲0.4 121.0 123.0 1.年度は前年比変化率、半期は前期比変化率(国内卸売物価、消費者物価、完全失業率、経常収支、経常収支対名目GDP比を除く)。 2.国内卸売物価、消費者物価の半期は前年同期比変化率。 3.完全失業率、経常収支の半期はいずれも季調値。 4.為替レートはドル円相場 (資料) 内閣府「国民経済計算」、経済産業省「生産・出荷・在庫指数」、総務省「労働力調査」、「消費者物価指数」 日本銀行「国際収支統計」、「卸売物価指数」 11